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特許7450727炭化水素吸着材、排ガス浄化触媒及び排ガス浄化システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-07
(45)【発行日】2024-03-15
(54)【発明の名称】炭化水素吸着材、排ガス浄化触媒及び排ガス浄化システム
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/18 20060101AFI20240308BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20240308BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
B01J20/18 D ZAB
B01J20/28 Z
B01D53/94 280
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2022539563
(86)(22)【出願日】2021-07-29
(86)【国際出願番号】 JP2021028102
(87)【国際公開番号】W WO2022025185
(87)【国際公開日】2022-02-03
【審査請求日】2023-02-03
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2020/029445
(32)【優先日】2020-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 秀和
(72)【発明者】
【氏名】林 克彦
(72)【発明者】
【氏名】諏訪 麻祐子
【審査官】阪▲崎▼ 裕美
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107262145(CN,A)
【文献】特開2014-043371(JP,A)
【文献】国際公開第2017/188341(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/172284(WO,A1)
【文献】特開2004-209323(JP,A)
【文献】特開平05-031359(JP,A)
【文献】国際公開第2019/168148(WO,A1)
【文献】特表2009-520583(JP,A)
【文献】特開平10-263364(JP,A)
【文献】国際公開第2005/092482(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/154701(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第103826739(CN,A)
【文献】特開2022-068871(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28,20/30-20/34
B01D 53/94
B01J 21/06
B01J 23/10
C01B 39/48
F01N 3/24
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Li、Na、K、Rb、Cs、Ca、Sr、Ba、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga,Rh、Pd、Ag、Sn、Sc及びPtからなる群から選択された少なくとも1種の金属をゼオライト骨格外に含むマルチポアゼオライトを含有し、
前記金属の含有割合が、前記金属を含むマルチポアゼオライトに対して9質量%以下であり、
前記マルチポアゼオライトが、マルチポアゼオライトのSiO /Al モル比が20以上600以下である、MSE型ゼオライト又はEON型ゼオライトであり、
前記マルチポアゼオライトにおいて、前記金属の少なくとも一部が小細孔のケージ中に存在し、
マルチポアゼオライトに含まれる前記金属とAlのモル比である金属/Al比が0.05以上2.5以下の範囲内である炭化水素吸着材。
【請求項2】
前記マルチポアゼオライトのSiO/Alモル比が58以上400以下である、請求項1に記載の炭化水素吸着材。
【請求項3】
前記金属が、Cs、n、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、Sn、Sc及びPtからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の炭化水素吸着材。
【請求項4】
マルチポアゼオライトに含まれる前記金属とAlのモル比である金属/Al比が0.07以上2.16以下の範囲内である、請求項1から3のいずれか1項に記載の炭化水素吸着材。
【請求項5】
前記マルチポアゼオライトが、大細孔のトンネル型細孔と、最大環が8員環以下である小細孔のケージとを含む、請求項1から4のいずれか1項に記載の炭化水素吸着材。
【請求項6】
前記マルチポアゼオライトがリンを含む、請求項1から5のいずれか1項に記載の炭化水素吸着材。
【請求項7】
前記リンを含有するマルチポアゼオライト中のP/Alモル比が0.4以上1.1以下である、請求項6に記載の炭化水素吸着材。
【請求項8】
前記マルチポアゼオライトのBET比表面積Aが400m/g以上1000m/g以下の範囲内である、請求項1から7のいずれか1項に記載の炭化水素吸着材。
【請求項9】
熱処理前の前記マルチポアゼオライトのBET比表面積Aと、下記(1)から(5)の熱処理条件を満たす熱処理後の前記マルチポアゼオライトのBET比表面積Bの比表面積比B/Aが、0.35以上1以下の範囲内である、請求項8に記載の炭化水素吸着材。
熱処理条件
(1)温度:850℃
(2)時間:25時間
(3)雰囲気:10体積%の水蒸気(HO)を含む雰囲気、水入りタンクから水蒸気を気化させて、温度により飽和水蒸気圧を調整し、10体積%の水蒸気を含む大気雰囲気とする。
(4)モデルガス流通モード:点火燃焼及び充填(FC)モードで、下記(5)のモデルガス3L/分で80秒、Air(空気)3L/分で20秒を交互に流通させる。
(5)モデルガス:C、O及びNの合計が3L/分であり、Cが70mL/分、Oが70mL/分、残部がNである。
【請求項10】
前記MSE型ゼオライトは、X線回折スペクトルの(420)面を表す回折角度(2θ)が21.7°±1.0°の回折角度(2θ)位置にピーク強度を有し、熱処理前の前記MSE型ゼオライトの(420)面のピーク強度Cと、下記(1)から(5)の熱処理条件を満たす熱処理後の前記MSE型ゼオライトの(420)面のピーク強度Dのピーク強度比D/Cが0.3以上1.5以下の範囲内である、請求項1から9のいずれか1項に記載の炭化水素吸着材。
(1)温度:850℃
(2)時間:25時間
(3)雰囲気:10体積%の水蒸気(HO)を含む雰囲気、水入りタンクから水蒸気を気化させて、温度により飽和水蒸気圧を調整し、10体積%の水蒸気を含む大気雰囲気とする。
(4)モデルガス流通モード:点火燃焼及び充填(FC)モードで、下記(5)のモデルガス3L/分で80秒、Air(空気)3L/分で20秒を交互に流通させる。
(5)モデルガス:C、O及びNの合計が3L/分であり、Cが70mL/分、Oが70mL/分、残部がNである。
【請求項11】
基材と、前記基材上に前記請求項1から10のいずれか1項に記載の炭化水素吸着材を含む炭化水素吸着部と、前記炭化水素吸着部上に浄化触媒部と、を備えた、排ガス浄化触媒。
【請求項12】
前記浄化触媒部が、Rh及びPtのうち少なくとも1種を含む第1浄化触媒部と、Pd及びPtのうち少なくとも1種を含む第2浄化触媒部とを備え、第1浄化触媒部が、前記炭化水素吸着部側に配置され、第1浄化触媒部上に第2浄化触媒部を備えた、請求項11に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項13】
前記第1浄化触媒部が、CeOの含有量が15質量%以上30質量%以下の範囲内である酸化セリウム-酸化ジルコニウム複合酸化物(CeO-ZrO)を含む、請求項12に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項14】
基材と、前記基材上に前記請求項1から10のいずれか1項に記載の炭化水素吸着材と、Rhとを含む炭化水素吸着部と、前記炭化水素吸着部上にPdを含む浄化触媒部と、を備えた、排ガス浄化触媒。
【請求項15】
内燃機関と、
前記内燃機関に接続された排ガス流路内の上流側に設けられた第1排ガス浄化触媒と、
前記排ガス流路内において、前記第1排ガス浄化触媒よりも排ガス流れ方向の下流側に設けられた第2排ガス浄化触媒と、を備える排ガス浄化システムであって、
前記第2排ガス浄化触媒が、前記請求項11から14のいずれか1項に記載された排ガス浄化触媒であり、
前記第2排ガス浄化触媒中の白金族金属の含有割合が、前記第2排ガス浄化触媒の体積に対して0.1g/L以上3.0g/L以下である排ガス浄化システム。
【請求項16】
内燃機関と、
前記内燃機関に接続された排ガス流路内に単一の排ガス浄化触媒と、を備える排ガス浄化システムであって、
前記排ガス浄化触媒が、前記請求項11から14のいずれか1項に記載された排ガス浄化触媒である排ガス浄化システム。
【請求項17】
内燃機関と、
前記内燃機関に接続された排ガス流路内に設けられた複数の排ガス浄化触媒と、を備える排ガス浄化システムであって、
前記複数の排ガス浄化触媒のうち、排ガス流れ方向の最も上流側に配置された第1排ガス浄化触媒が、前記請求項11から14のいずれか1項に記載された排ガス浄化触媒である排ガス浄化システム。
【請求項18】
炭化水素を含む燃焼排ガスと、前記請求項11から14のいずれか1項に記載の排ガス浄化用触媒とを接触させて、炭化水素を前記排ガス浄化用触媒に吸着させた後、170℃以上の温度で前記排気ガス浄化用触媒から炭化水素を脱離させることを含む、排ガスを処理するための方法。
【請求項19】
シリカ源、アルミニウム源、アルカリ金属源、有機構造規定剤及び水を含む原料混合物を準備する工程と、
前記原料混合物を加熱し結晶化させて、SiO /Al モル比が20以上600以下である、MSE型ゼオライト又はEON型ゼオライトであるマルチポアゼオライトを得る工程と、
Li、Na、K、Rb、Cs、Ca、Sr、Ba、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga,Rh、Pd、Ag、Sn、Sc及びPtからなる群から選択された少なくとも1種の金属を前記マルチポアゼオライトの前記小細孔のケージに導入する工程と、を含み、
前記金属の含有割合が、前記金属を含むマルチポアゼオライトに対して9質量%以下であり、
マルチポアゼオライトに含まれる前記金属とAlのモル比である金属/Al比が0.05以上2.5以下の範囲内である、マルチポアゼオライトを含む、炭化水素吸着材の製造方法。
【請求項20】
前記マルチポアゼオライトと、リンを含有する化合物又は硫黄を含有する化合物と接触させ、リン又は硫黄をマルチポアゼオライトに含有させる工程を、含む請求項19に記載の炭化水素吸着材の製造方法。
【請求項21】
前記マルチポアゼオライトのBET比表面積Aを測定することと、下記(1)から(5)の熱処理条件を満たす熱処理後の前記マルチポアゼオライトのBET比表面積Bを測定することを含み、
熱処理前の前記マルチポアゼオライトのBET比表面積Aが400m /g以上1000m /g以下の範囲内であり、
熱処理前の前記マルチポアゼオライトのBET比表面積Aと、熱処理後の前記マルチポアゼオライトのBET比表面積Bの比表面積比B/Aが、0.35以上1以下の範囲内である、前記19又は20に記載の炭化水素吸着材の製造方法
熱処理条件
(1)温度:850℃
(2)時間:25時間
(3)雰囲気:10体積%の水蒸気(H O)を含む雰囲気、水入りタンクから水蒸気を気化させて、温度により飽和水蒸気圧を調整し、10体積%の水蒸気を含む大気雰囲気とする。
(4)モデルガス流通モード:点火燃焼及び充填(FC)モードで、下記(5)のモデルガス3L/分で80秒、Air(空気)3L/分で20秒を交互に流通させる。
(5)モデルガス:C 、O 及びN の合計が3L/分であり、C が70mL/分、O が70mL/分、残部がN である。
【請求項22】
前記MSE型ゼオライトは、X線回折スペクトルの(420)面を表す回折角度(2θ)が21.7°±1.0°の回折角度(2θ)位置にピーク強度を有し、
前記MSE型ゼオライトのX線回折スペクトルの(420)面のピーク強度Cを測定することと、下記(1)から(5)の熱処理条件を満たす熱処理後の前記MSE型ゼオライトの(420)面のピーク強度Dを測定することを含み、
前記MSE型ゼオライトのピーク強度Cに対する熱処理後の前記MSE型ゼオライトのピーク強度Dのピーク強度比D/Cが0.3以上1.5以下の範囲内である、前記19又は20に記載の炭化水素吸着材の製造方法。
熱処理条件
(1)温度:850℃
(2)時間:25時間
(3)雰囲気:10体積%の水蒸気(H O)を含む雰囲気、水入りタンクから水蒸気を気化させて、温度により飽和水蒸気圧を調整し、10体積%の水蒸気を含む大気雰囲気とする。
(4)モデルガス流通モード:点火燃焼及び充填(FC)モードで、下記(5)のモデルガス3L/分で80秒、Air(空気)3L/分で20秒を交互に流通させる。
(5)モデルガス:C 、O 及びN の合計が3L/分であり、C が70mL/分、O が70mL/分、残部がN である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の内燃機関から排出される排ガス中の炭化水素を、吸着し貯蔵することができる炭化水素吸着材、排ガス浄化触媒及び排ガス浄化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリンを燃料とする自動車等の内燃機関の排ガス中には、未燃燃料による炭化水素(HC)、不完全燃焼による一酸化炭素(CO)、過度の燃焼温度による窒素酸化物(NOx)等の有害成分が含まれている。このような内燃機関からの排ガスを処理するために、排ガス浄化触媒が用いられている。このような排ガス浄化触媒は、例えば炭化水素(HC)は酸化して水と二酸化炭素(CO)に転化させ、COは酸化してCOに転化させ、NOxは還元して窒素に転化させて浄化する。このような排ガス浄化触媒には、例えば白金族金属が用いられ、なかでも、特に白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)等の白金族金属が用いられている。また、排ガス浄化触媒は、構成成分として、排ガス中の炭化水素を吸着し貯蔵する性能を有する炭化水素吸着材が用いられている。
【0003】
このような排ガス浄化触媒は、例えば内燃機関のコールドスタート状態のような低温の環境においては、比較的排ガスの処理が非効率であることが知られている。特許文献1には、コールドスタート状態での排ガス浄化の効率を向上するために、卑金属と貴金属とゼオライトとを含むゼオライト触媒と、1種又は複数の白金族金属と、1種又は複数の無機酸化物担体と、を含む担持白金族金属触媒とを含む、コールドスタート触媒が開示されている。特許文献1には、コールドスタート触媒に含まれるゼオライトとして、例えばBEA型ゼオライト、MFI型ゼオライト、CHA型ゼオライト等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2014-519975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されているコールドスタート触媒は、コールドスタート状態において炭化水素を貯蔵した後、高温な排ガスが流入されて触媒が温まると、触媒が十分に活性化する前に、貯蔵した炭化水素が脱離してしまうため、炭化水素が浄化されずに排出されてしまう場合がある。炭化水素吸着材は、触媒が活性化するために十分な温度まで、炭化水素を吸着し貯蔵することができ、触媒が活性化する温度で、吸着し貯蔵した炭化水素の脱離を可能とする性能が求められている。また、排ガス浄化触媒は、高温の排ガスにさらされるため、耐熱性が高いゼオライトを用いた炭化水素吸着材も求められている。
【0006】
そこで本発明は、炭化水素を吸着し、比較的高い温度まで吸着した炭化水素を貯蔵することができ、比較的高い温度で炭化水素を脱離することができ、しかも耐熱性に優れる炭化水素吸着材、排ガス浄化触媒及び排ガス浄化システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、周期表で3~12族に属する遷移金属、周期表で13族及び14族に属する両性金属、アルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群から選択された少なくとも1種の金属をゼオライト骨格外に含むマルチポアゼオライトを含有し、前記金属の含有割合が、前記金属を含むマルチポアゼオライトに対して9質量%以下である炭化水素吸着材を提供する。
【0008】
本発明は、基材と、前記基材上に前記炭化水素吸着材を含む炭化水素吸着部と、前記炭化水素吸着部上に浄化触媒部と、を備えた、排ガス浄化触媒を提供する。
【0009】
本発明は、基材と、前記基材上に前記炭化水素吸着材と、Rhとを含む炭化水素吸着部と、前記炭化水素吸着部上にPdを含む浄化触媒部と、を備えた、排ガス浄化触媒を提供する。
【0010】
本発明は、内燃機関と、前記内燃機関に接続された排ガス流路内の上流側に設けられた第1排ガス浄化触媒と、前記排ガス流路内において、前記第1排ガス浄化触媒よりも排ガス流れ方向の下流側に設けられた第2排ガス浄化触媒と、を備える排ガス浄化システムであって、前記第2排ガス浄化触媒が、前記排ガス浄化触媒であり、前記第2排ガス浄化触媒中の白金族金属の含有割合が、前記第2排ガス浄化触媒の体積に対して0.1g/L以上3.0g/L以下である、排ガス浄化システムを提供する。
【0011】
本発明は、内燃機関と、前記内燃機関に接続された排ガス流路内に単一の排ガス浄化触媒と、を備える排ガス浄化システムであって、前記排ガス浄化触媒が、上述の排ガス浄化触媒である排ガス浄化システムを提供する。
【0012】
本発明は、内燃機関と、前記内燃機関に接続された排ガス流路内に設けられた複数の排ガス浄化触媒と、を備える排ガス浄化システムであって、前記複数の排ガス浄化触媒のうち、排ガス流れ方向の最も上流側に配置された第1排ガス浄化触媒が、前記排ガス浄化触媒である排ガス浄化システムを提供する。
【0013】
本発明は、炭化水素を含む燃焼排ガスと、前記排ガス浄化用触媒とを接触させて、炭化水素を前記排ガス浄化用触媒に吸着させた後、170℃以上の温度で前記排気ガス浄化用触媒から炭化水素を脱離させることを含む、排ガスを処理するための方法を提供する。燃焼排ガス中に水が含まれていると、炭化水素は、200℃以下の温度で排ガス浄化用触媒に吸着と、脱離と、再吸着と、を繰り返すため、炭化水素の吸着及び脱離の挙動が複雑となる傾向がある。燃焼排ガス中に水が含まれている場合であっても、170℃以下の温度であれば、炭化水素は排ガス浄化用触媒に再吸着することなく、排ガス浄化用触媒に炭化水素が吸着又は脱離する。170℃以下の温度を基準とすれば、燃焼排ガス中に水が含まれている場合であっても炭化水素の排ガス浄化触媒への再吸着を考慮せずに、炭化水素の排気ガス浄化触媒への吸着又は脱離の評価を行うことができる。本発明は、170℃の温度を基準にして、活性化するまで炭化水素を吸着し貯蔵しておくこと可能となり、活性化後は、吸着した炭化水素を脱離して浄化を行うことができる排ガスを処理するための方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明が提供する炭化水素吸着材は、特定の金属をゼオライト骨格外に含有するマルチポアゼオライトを含有し、比較的高い温度まで炭化水素を吸着し貯蔵することができ、例えば170℃以上の高い温度で貯蔵された炭化水素を脱離させることができる。また、この炭化水素吸着材は耐熱性にも優れ、この炭化水素吸着材を用いた排ガス浄化触媒及びその排ガス浄化触媒を含む排ガス浄化システムにおいて、炭化水素の除去性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、排ガス浄化触媒を示す概略斜視図である。
図2図2は、排ガス浄化触媒の第一例を示し、断面の一部の拡大図である。
図3図3は、排ガス浄化触媒の第二例を示し、断面の一部の拡大図である。
図4図4は、排ガス浄化システムの第一例を示す概略構成図である。
図5図5は、排ガス浄化システムの第二例を示す概略構成図である。
図6図6は、排ガス浄化システムの第三例を示す概略構成図である。
図7図7は、得られたMSE型ゼオライトのX線回折スペクトルを示す。
図8図8は、得られたEON型ゼオライトのX線回折スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、実施の形態例に基づいて本発明を説明する。但し、本発明が次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0017】
本発明の実施態様の一例は、周期表で3~12族に属する遷移金属、周期表で13族及び14族に属する両性金属、アルカリ金属、及びアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属をゼオライト骨格外に含むマルチポアゼオライトを含有し、前記金属の含有割合が、前記金属を含むマルチポアゼオライトに対して9質量%以下である。炭化水素吸着材が、周期表で3~12族に属する遷移金属、周期表で13族及び14族に属する両性金属、アルカリ金属、及びアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属をゼオライト骨格外に含むマルチポアゼオライトを含有することによって、例えば50℃程度の比較的低温で、炭化水素を吸着し、例えば200℃までの比較的高い温度まで炭化水素を貯蔵することができ、例えば200℃を超える比較的高い温度で貯蔵した炭化水素を脱離させることができる。また、排ガス中に水分が含まれる場合は、炭化水素吸着材の炭化水素の吸着と脱離と再吸着のうち、再吸着を考慮せずに炭化水素の吸着と脱離を評価できる170℃までの比較的高い温度まで炭化水素を貯蔵することができ、170℃を超える温度で貯蔵した炭化水素を脱離させることができる。
【0018】
ゼオライトは、SiO及びAlO四面体の繰り返し単位で構成された結晶性又は準結晶性のアルミノケイ酸塩の結晶構造を有する。ゼオライトの骨格構造を形成する単位をTO単位と記載する場合がある。ゼオライトの骨格構造は、国際ゼオライト学会で定義されたアルファベット大文字3文字の構造コードが付与されている。この構造は、国際ゼオライト学会の構造委員会によるデータベース(Databese of Zeolite Structures、Structure Commission of the Intenational Zeolite Association)により確認することができる。
【0019】
マルチポアゼオライトは、大きさが異なる複数種の細孔構造を有するゼオライトである。本発明の実施態様で用いるマルチポアゼオライトとしては、細孔構造として、大細孔のトンネル型細孔、小細孔のケージとを含有するゼオライトが挙げられる。トンネル型細孔は、直線型細孔ともいう場合があり、本明細書において、「トンネル型(直線型)細孔」と記載する場合がある。また、マルチポアゼオライトは、大細孔のケージをさらに含有してもよい。大細孔のトンネル型(直線型)細孔としては、最大12員環のトンネル型(直線型)細孔、及び最大10員環のトンネル型(直線型)細孔など、10員環以上の環を有するトンネル型(直線型)細孔が挙げられる。大細孔のケージとしては、最大10員環のケージなど、10員環以上の環を有するケージが挙げられる。小細孔のケージとしては、最大8員環であるケージ及び最大6員環であるケージなど、最大環が8員環以下であるケージが挙げられる。本発明の実施態様で用いるマルチポアゼオライトとしては、例えば、最大12員環であるトンネル型(直線型)細孔、最大10員環であるケージ及び最大6員環であるケージ(6員環及び4員環からなるケージ)を有するMSE型ゼオライト、最大12員環であるトンネル型(直線型)細孔及び最大8員環であるケージ(8員環、6員環及び4員環からなるケージ)を有するEON型ゼオライト、最大12員環であるトンネル型(直線型)細孔及び最大8員環であるケージを有するMOR型ゼオライトが挙げられる。なかでも、最大12員環であるトンネル型(直線型)細孔、最大10員環であるケージ及び最大6員環であるケージを有するMSE型ゼオライト及び最大12員環であるトンネル型(直線型)細孔及び最大8員環であるケージを有するEON型ゼオライトが好ましく、MSE型ゼオライトが特に好ましい。なお、最大12員環のトンネル型(直線型)細孔のみであるBEA型ゼオライトや、最大10員環のトンネル型(直線型)細孔のみであるMFI型ゼオライトなどは、細孔構造の種類が1つのみであるため、マルチポアゼオライトには該当しない。
【0020】
MSE型ゼオライトは、最大12員環のトンネル型(直線型)、最大10員環であるケージ細孔及び最大6員環であるケージ(6員環及び4員環からなるケージ)を有する。典型的なMSE型ゼオライトの結晶構造は、正方晶系(tetragonal)、P4/mnm空間群に属する。なお、空間群は、MSE型ゼオライトを金属イオンで修飾すると変化することがある。また、典型的なMSE型ゼオライトは、単位格子の軸の長さを示す格子定数aが18.2461オングストローム(a=18.2461Å)、格子定数bが18.2461オングストローム(b=18.2461Å)、格子定数cが20.5569オングストローム(c=20.5569Å)であり、単位格子の軸間の角度を示すα、β、γは、それぞれ90度(α=90.000°、β=90.000°、γ=90.000°)である。ゼオライトの結晶構造は、国際ゼオライト学会の構造委員会によるデータベース(Databese of Zeolite Structures、Structure Commission of the Intenational Zeolite Association)を参照することができる。
【0021】
EON型ゼオライトは、最大12員環であるトンネル型(直線型)細孔及び最大8員環であるケージ(8員環、6員環及び4員環からなるケージ)を有する。典型的なEON型ゼオライトの結晶構造は、直方晶系(orthorhombic)、Pmmn空間群に属する。なお、空間群は、EON型ゼオライトを金属イオンで修飾すると変化することがある。また、典型的なEON型ゼオライトは、単位格子の軸の長さを示す格子定数aが7.5709オングストローム(a=7.5709Å)、格子定数bが18.1480オングストローム(b=18.1480Å)、格子定数cが25.9324オングストローム(c=25.9324Å)であり、単位格子の軸間の角度を示すα、β、γは、それぞれ90度(α=90.000°、β=90.000°、γ=90.000°)である。
【0022】
マルチポアゼオライトのSiO/Alモル比は、10以上600以下であることが好ましい。マルチポアゼオライトのSiO/Alモル比は、12以上であってもよく、15以上であってもよく、18以上であってもよく、20以上であってもよく、500以下であってもよく、400以下であってもよく、300以下であってもよく、250以下であってもよい。マルチポアゼオライトのSiO/Alモル比は、12以上500以下であることがより好ましく、13以上400以下の範囲であることがよりさらに好ましく、15以上250以下の範囲であることが特に好ましい。マルチポアゼオライトのSiO/Alモル比が10以上であると、結晶構造が安定であり、優れた耐熱性を有する。また、マルチポアゼオライトのSiO/Alモル比が600以下であると、周期表で3~12に族に属する遷移金属、周期表で13族及び14族に属する両性金属、アルカリ金属、及びアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属イオンが、マルチポアゼオライトのAl原子に隣接するブレンステッド酸点となる酸素原子を含む基でイオン交換されやすくなり、ゼオライト骨格外に含有される。マルチポアゼオライト又は後述する炭化水素吸着材に含まれるSiO/Alモル比は、例えば走査型蛍光X線分析装置(ZSX Primus II、株式会社リガク製)を用いた元素分析によりSi量及びAl量を測定し、得られたSi量及びAl量から、SiO/Alモル比を測定することができる。
【0023】
本発明の実施態様の一例は、マルチポアゼオライトが、周期表で3~12族に属する遷移金属、周期表で13族及び14族に属する両性金属、アルカリ金属、及びアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属をゼオライト骨格外に含有する。当該金属は、マルチポアゼオライトに対してイオン交換により導入されることが好ましいが、マルチポアゼオライトに対して酸化物として修飾するものであってもよい。イオン交換により導入される金属と、酸化物として修飾する金属とが混在してもよい。マルチポアゼオライトが当該金属のイオンでイオン交換された場合には、マルチポアゼオライトの細孔に存在するカチオンが酸点として機能し、炭化水素を化学吸着できる。塩基性であるアンモニウムイオンで交換されたマルチポアゼオライトに対し金属イオン交換することで、プロトン(H)の生成を最小限に抑えることができ、またpH4以上の高いpHでマルチポアゼオライトのイオン交換することで、ゼオライト骨格の水酸基の生成を抑制することができるため、マルチポアゼオライトは、例えば50℃程度の比較的低い温度で優先的に炭化水素を吸着し、例えば200℃以上の比較的高い温度まで炭化水素を貯蔵することができ、例えば200℃を超える比較的高い温度で炭化水素を脱離させることができる。また、排ガス中に水分が含まれる場合は、マルチポアゼオライトが、周期表で3~12族に属する遷移金属、周期表で13族及び14族に属する両性金属、アルカリ金属、及びアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属をゼオライト骨格外に含有することによって、マルチポアゼオライトは、炭化水素の吸着と脱離と再吸着のうち、再吸着を考慮せずに炭化水素の吸着と脱離を評価できる170℃までの比較的高い温度まで炭化水素を貯蔵することができ、170℃を超える温度で貯蔵した炭化水素を脱離させることができる。
【0024】
マルチポアゼオライトは、ゼオライト細孔内のイオン交換サイトが、周期表で3~12族に属する遷移金属、周期表で13族及び14族に属する両性金属、アルカリ金属、及びアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属でイオン交換される場合がある。「ゼオライト細孔内のイオン交換サイト」は、具体的には、骨格を構成するTサイトの一部であるAl原子に隣接するブレンステッド酸点となる酸素原子を含む基を意味する。つまり、マルチポアゼオライトは、ゼオライトの骨格を構成するSiO及びAlO四面体の繰り返し単位のブレンステッド酸点でイオン交換され、ゼオライト骨格外に特定の金属を含有する。マルチポアゼオライトのイオン交換サイトに、金属がイオン交換され、ゼオライト骨格外に金属が存在することにより、炭化水素が優先的に吸着され、炭化水素の吸着能を向上することができる。
【0025】
マルチポアゼオライトのゼオライト骨格外に含まれる周期表で3~12族に属する遷移金属、周期表で13族及び14族に属する両性金属、アルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属の含有割合は、金属を含むマルチポアゼオライトに対して9質量%以下であり、8質量%以下が好ましく、7質量%以下がより好ましく、1質量%以上であってもよく、1.2質量%以上であることが好ましく、1.5質量%以上であることがより好ましい。マルチポアゼオライトに含まれる特定の金属の含有割合が9質量%以下であると、金属を含有するマルチポアゼオライトの耐熱性の低下を抑制できる。特に、特定の金属をマルチポアゼオライト骨格中のSiと置換させる態様で導入し、金属の含有量が増加してしまうと、マルチポアゼオライトの耐熱性が低下しやすくなるため好ましくない。マルチポアゼオライトに複数種の特定の金属が含まれる場合には、金属の含有割合は、複数種の特定の金属の合計を意味する。
【0026】
マルチポアゼオライトに含まれる周期表で3~12族に属する遷移金属は、鉄(Fe)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、白金(Pt)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、銀(Ag)、銅(Cu)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、テクネチウム(Tc)、及びルテニウム(Ru)からなる群から選択される少なくとも1種の元素が挙げられる。本明細書において、周期表で12族金属も遷移金属に含まれるものとする。マルチポアゼオライトに含まれる周期表で13族及び14族に属する両性金属はアルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、タリウム(Tl)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、及び鉛(Pb)からなる群から選択される少なくとも1種の元素が挙げられる。ゼオライト骨格外に含まれる周期表で13族及び14族に属する両性金属は、アルミニウム(Al)を含んでいなくてもよく、ゼオライト骨格外に含まれる周期表で13族及び14族に属する両性金属は、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、タリウム(Tl)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、及び鉛(Pb)からなる群から選択される少なくとも1種の元素であってもよい。マルチポアゼオライトに含まれるアルカリ金属は、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)及びセシウム(Cs)からなる群から選択される少なくとも1種のイオンであることが好ましい。マルチポアゼオライトに含まれるアルカリ土類金属は、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)及びバリウム(Ba)からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。マルチポアゼオライトに含まれる金属は、Fe、Pd、Rh、Pt、Mn、Ni、Zn、Ag、Cu、Ti、V、Cr、Co、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Al、Ga、In、Tl、Ge、Sn、Pb、Li、Na、K、Rb、Cs、Ca、Sr、及びBaからなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。また、マルチポアゼオライトには、マグネシウム(Mg)が含まれていてもよい。
【0027】
マルチポアゼオライトのゼオライト骨格外に含まれる金属は、Mn、Fe、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、Sn、Sc及びPtからなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。マルチポアゼオライトは、イオン交換サイトが、Mn、Fe、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、Sn、Sc及びPtからなる群から選択される少なくとも1種の金属でイオン交換されていることにより、細孔内に安定に吸着した炭化水素が金属に化学吸着することでさらに安定に細孔内に存在できるため、より高い温度まで炭化水素を貯蔵することができる。マルチポアゼオライトのイオン交換サイトは、金属イオンの他に水素イオンでイオン交換されていてもよい。
【0028】
マルチポアゼオライトは、周期表で3~12族に属する遷移金属、周期表で13族及び14族に属する両性金属、アルカリ金属、及びアルカリ土類金属からなる群から選択される1種の金属をゼオライト骨格外に含み、マルチポアゼオライトのゼオライト骨格外に含まれる金属とAlのモル比である金属/Al比が、0.01以上2.5以下の範囲となるように含まれることが好ましく、複数種の金属種(Mx1,Mx2,・・・)が含まれる場合、各金属(Mx1,x2,・・・)とAlのモル比の合計値(Mx1/Al+Mx2/Al+・・・)は0.01以上2.5以下の範囲となるように含まれることが好ましい。マルチポアゼオライトのゼオライト骨格外に含まれる金属とAlのモル比である金属/Al比が0.01以上2.5以下の範囲であると、ゼオライト構造が安定性を有するため好ましい。マルチポアゼオライトのゼオライト骨格外に含まれる金属とAlのモル比である金属/Al比が0.05以上2.5以下の範囲であると、炭化水素(HC)の吸着性能に優れるためより好ましい。マルチポアゼオライト又は後述する排ガス浄化用組成物中に含まれる元素M及びAlの量は、例えば走査型蛍光X線分析装置(ZSX Primus II、株式会社リガク製)の元素分析により測定することができる。
【0029】
マルチポアゼオライトは、リン又は硫黄を含んでいてもよく、リンを含むことが好ましい。マルチポアゼオライトにリン又は硫黄が含まれていると、骨格構造の欠損の起因となる部分にリン又は硫黄が修飾されやすく、骨格構造の欠損の起因となる部分にリン又は硫黄が修飾されていると、厳しい熱環境下におかれた場合であっても、マルチポアゼオライトの骨格構造を維持し、耐熱性を向上することができる。リン源又は硫黄源から発生したリン又は硫黄は、例えばリン酸イオン又は硫酸イオンの形態となって、ブレンステッド酸点よりも金属イオンであるルイス酸点に結合しやすい。マルチポアゼオライトは、吸着する炭化水素(HC)の酸化の活性点となるブレンステッド酸点が維持され、骨格構造の欠損の起因となる金属イオンにリン酸イオン又は硫酸イオン等が結合して骨格構造が維持されるため、炭化水素の浄化性能を維持しつつ、厳しい熱環境下におかれた場合であっても骨格構造を維持して耐熱性を向上することができる。
【0030】
マルチポアゼオライトにリンを含有する場合、リンを含有するマルチポアゼオライトのアルミニウムに対するリンのモル比であるP/Alモル比は、0.4以上1.1以下の範囲内であることが好ましい。P/Alモル比は、0.8以上1.0以下の範囲内であることがより好ましい。マルチポアゼオライトの骨格構造を形成するTO単位のT原子(中心原子)としてのAlに対するリン(P)のモル比であるP/Alモル比が0.4以上1.1以下の範囲内であれば、マルチポアゼオライトに含まれるリンは、Alによって形成されるルイス酸点に修飾され、吸着した炭化水素(HC)の酸化の活性点となるブレンステッド酸点が維持されるため、浄化性能を維持したまま、骨格構造の欠損を抑制し、厳しい熱環境下においても骨格構造を維持して、耐熱性をより向上することができる。リンを含有するマルチポアゼオライト中のP/Alモル比が0.4以上1.1以下の範囲内であれば、骨格構造の欠損を抑制して、炭化水素の吸着性能及び浄化性能を維持することができる。リンを含有するマルチポアゼオライト中のアルミニウム(Al)量及びリン(P)量は、後述する実施例の方法のように、走査型蛍光X線分析装置(例えば株式会社リガク製)を用いてリンを含有すマルチポアゼオライト中のアルミニウム(Al)量及びリン(P)量を測定し、得られた測定値から算出することができる。
【0031】
マルチポアゼオライトのBET比表面積Aは、400m/g以上1000m/g以下の範囲内であることが好ましい。マルチポアゼオライトのBET比表面積が400m/g以上1000m/g以下の範囲内であると、マルチポアゼオライト単位重量当たりの炭化水素吸着量が多いため、炭化水素(HC)の吸着性能に優れる。マルチポアゼオライトのBET比表面積は、450m/g以上であることがより好ましい。厳しい熱環境下におかれた場合であっても、骨格構造を維持するために、マルチポアゼオライトのBET比表面積は800m/g以下であることが好ましく、700m/g以下であってもよく、600m/g以下であってもよい。
【0032】
熱処理前のマルチポアゼオライトのBET比表面積Aと、下記(1)から(5)の熱処理条件を満たす熱処理後のマルチポアゼオライトのBET比表面積Bの比B/Aが、0.35以上1以下の範囲内であることが好ましい。熱処理前のマルチポアゼオライトのBET比表面積Aと、熱処理後のマルチポアゼオライトのBET比表面積Bの比B/Aが1であると熱処理前と後でマルチポアゼオライトの構造が変化しておらず、構造が維持されていることを意味する。熱処理前後のマルチポアゼオライトのBET比表面積の比B/Aが0.35以上1以下の範囲内であると、厳しい熱環境下におかれた場合であっても、マイクロ細孔構造が比較的維持されるため、好ましい。熱処理前後のマルチポアゼオライト比表面積の比B/Aは、0.4以上1以下の範囲内であることがより好ましく、0.3以上1以下の範囲であることがさらに好ましく、0.5以上1以下の範囲内であることがよりさらに好ましく、0.5以上0.9以下の範囲内であることが特に好ましい。
熱処理条件
(1)温度:850℃
(2)時間:25時間
(3)雰囲気:10体積%の水蒸気(HO)を含む雰囲気、水入りタンクから水蒸気を気化させて、温度により飽和水蒸気圧を調整し、10体積%の水蒸気を含む大気雰囲気とする。
(4)モデルガス流通モード:下記(5)のモデルガス3L/分で80秒、Air(空気)3L/分で20秒を交互に流通させる。
(5)モデルガス:C、O及びNの合計が3L/分であり、Cが70mL/分、Oが70mL/分、残部がNである。
【0033】
マルチポアゼオライトのなかでも、MSE型ゼオライトは、MSE型ゼオライトのX線回折スペクトルの回折指数(420)を表す回折角度(2θ)位置が21.7°±1.0°の回折角度位置に回折ピークを有し、熱処理前の回折指数(420)のピーク強度Cと、前記(1)から(5)の熱処理条件を満たす熱処理後の回折指数(420)のピーク強度Dの比D/Cが0.3以上1.5以下の範囲内であることが好ましい。MSE型ゼオライトのX線回折スペクトルにおいて、回折指数(420)を表す回折角度(2θ)位置が21.7°±1.0°に現れる熱処理前のピーク強度Cと、熱処理後のピーク強度Dのピーク強度比D/Cが0.3以上1.5以下の範囲内であると、厳しい熱環境下におかれた場合であっても、骨格構造を維持するために、好ましい。前記ピーク強度比D/Cは、0.4以上1.4以下の範囲内であることがより好ましく、0.5以上1.3以下の範囲内であることがさらに好ましく、0.6以上1.2以下の範囲内であることがよりさらに好ましい。MSE型ゼオライトのX線回折スペクトルは、X線回折装置(例えば、型番:MiniFlex600、株式会社リガク製)を用いて測定することができる。
【0034】
MSE型ゼオライトの製造方法
MSE型ゼオライトは、シリカ源、アルミニウム源、アルカリ金属源、有機構造規定剤(テンプレート)及び水を含む原料混合物を準備する工程と、この原料混合物を加熱し結晶化させてのMSE型ゼオライトを得る工程とを含む。
【0035】
シリカ源は、例えばケイ素を含む化合物を用いることができる。具体的には、湿式法シリカ、乾式法シリカ、コロイダルシリカ、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、アルミノシリケートゲルなどが挙げられる。これらのシリカ源は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのシリカ源のなかでも、副生物が生成されにくく、目的とするMSE型ゼオライトを製造することができるため、シリカ(二酸化ケイ素)やアルミノシリケートゲル、コロイダルシリカを用いることが好ましい。
【0036】
アルミニウム源は、例えば水溶性アルミニウム含有化合物を用いることができる。具体的には、アルミン酸ナトリウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、アルミノシリケートゲルなどが挙げられる。これらのアルミニウム源は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのアルミニウム源のなかでも、副生物が生成されにくく、目的するMSE型ゼオライトを製造することができるため、アルミン酸ナトリウム又はアルミノシリケートゲルを用いることが好ましい。
【0037】
アルカリ金属源としては、例えば水酸化セシウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムを用いることができる。なお、シリカ源としてケイ酸ナトリウムを用いた場合やアルミニウム源としてアルミン酸ナトリウムを用いた場合、そこに含まれるアルカリ金属成分であるナトリウムは、アルカリ金属成分でもある。アルカリ金属源は、反応混合物中の全てのアルカリ金属成分の和として算出される。
【0038】
有機構造規定剤は、N,N,N’,N’-テトラアルキルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジニウムイオンを含むものが挙げられる。有機構造規定剤は、ヨウ化N,N,N’,N’-テトラアルキルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジニウムであってもよく、アルキル基は、同じであっても異なってもよい。
【0039】
原料混合物を準備する工程
原料混合物を準備する際の各原料の添加順序は、均一に混合された原料混合物が得られ易い方法を採用することができる。例えば、室温下、鉱化剤として作用するアルカリ金属源にアルミニウム源を添加して溶解させ、次いでシリカ源を添加して撹拌混合することにより、均一に混合した原料混合物を得ることができる。原料混合物を調製するときの温度は、一般的には室温(20℃から25℃)で原料混合物を準備することができる。
【0040】
結晶化させる工程
原料混合物は、70℃以上240℃以下の温度で加熱し結晶化させることができる。原料混合物に行う加熱を第1加熱とも称する。第1加熱は、原料混合物を静置させて行ってもよく、原料混合物を撹拌しながら行ってもよい。加熱温度は、80℃以上200℃以下の温度であってもよい。加熱時間は、5時間以上400時間以内であってもよく、48時間以上200時間以内であってもよく、72時間以上80時間以内であってもよい。加熱は、大気圧下で行っても良く、加圧下で行ってもよい。
【0041】
原料混合物は、加熱前に、加熱温度よりも低い温度で一定時間静置し、熟成を行ってもよい。熟成は、結晶化させる際の加熱温度よりも低い温度で、一定時間同じ温度で反応混合物を保持することをいう。熟成温度は、室温(20℃から25℃)以上160℃以下の温度でもよく、熟成時間は、2時間以上160時間以内であってもよい。
【0042】
加熱後、結晶化した粉末は、ろ過によって母液と分離し、水又は脱イオン水で洗浄し乾燥して、MSE型ゼオライトを得ることができる。得られたMSE型ゼオライトは、加熱して、結晶中に残存する有機物を除去する。結晶中に残存する有機物を除去するための加熱を第2加熱とも称する。第2加熱は、有機物が除去できる温度であればよく、500℃以上800℃以下の範囲で行うことが好ましい。また、得られたMSE型ゼオライトの骨格構造を維持するために、加熱温度まで、2時間以上かけて昇温することが好ましく、加熱温度まで昇温した後に加熱温度を維持する加熱時間は0.5時間以上3時間以内であることが好ましい。
【0043】
得られたMSE型ゼオライトは、粉末X線回折装置を用いて測定することによってMSE型ゼオライトであることを確認することができる。粉末X線回折装置を用いたX線回折スペクトルにおいて、6.56±0.15°、6.8±0.15°、8.04±0.15°、19.38±0.15°、19.42±0.15°、21.68±0.15°、22.28±0.15°、22.32±0.15°、22.84±0.15°、27.5°±0.15°の回折角度(2θ)位置に回折ピークがあれば、MSE型ゼオライトであることが確認できる。
【0044】
EON型ゼオライトの製造方法
EON型ゼオライトは、シリカ源、アルミニウム源、アルカリ金属源、水及び必要に応じて有機構造規定剤(テンプレート)を含む原料混合物を準備する工程と、この原料混合物を加熱し結晶化させてのEON型ゼオライトを得る工程とを含む。
【0045】
シリカ源、アルミニウム源及びアルカリ金属源としては、上述したMSE型ゼオライトの製造方法で用いたものと同じものを用いることができる。
【0046】
有機構造規定剤は、ビス(2-ヒドロキシエチル)ジメチルアンモニウムイオンを含むもの、及びトリス(2-ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムが挙げられる。有機構造規定剤は、塩化ビス(2-ヒドロキシエチル)ジメチルアンモニウムであってもよく、水酸化トリス(2-ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムであってもよい。
【0047】
原料混合物を準備する工程
原料混合物の準備は、上述したMSE型ゼオライトの製造方法と同様とすることができる。
【0048】
結晶化させる工程
原料混合物は、70℃以上240℃以下の温度で加熱し結晶化させることができる。原料混合物に行う加熱を第1加熱とも称する。第1加熱は、原料混合物を静置させて行ってもよく、原料混合物を撹拌しながら行ってもよい。加熱温度は、80℃以上200℃以下の温度であってもよい。加熱時間は、24時間以上400時間以内であってもよく、48時間以上200時間以内であってもよく、72時間以上170時間以内であってもよい。加熱は、大気圧下で行っても良く、加圧下で行ってもよい。
【0049】
原料混合物は、加熱前に、加熱温度よりも低い温度で一定時間静置し、熟成を行ってもよい。熟成は、結晶化させる際の加熱温度よりも低い温度で、一定時間同じ温度で反応混合物を保持することをいう。熟成温度は、室温(20℃から25℃)以上80℃以下の温度でもよく、熟成時間は、2時間以上80時間以内であってもよい。
【0050】
加熱後、結晶化した粉末は、ろ過によって母液と分離し、水又は脱イオン水で洗浄し乾燥して、EON型ゼオライトを得ることができる。有機構造規定剤を用いて合成した場合にEON型ゼオライトは、加熱して、結晶中に残存する有機物を除去する。結晶中に残存する有機物を除去するための加熱を第2加熱とも称する。第2加熱は、有機物が除去できる温度であればよく、500℃以上800℃以下の範囲で行うことが好ましい。また、得られたEON型ゼオライトの骨格構造を維持するために、加熱温度まで、2時間以上かけて昇温することが好ましく、加熱温度まで昇温した後に加熱温度を維持する加熱時間は0.5時間以上3時間以内であることが好ましい。
【0051】
得られたEON型ゼオライトは、粉末X線回折装置を用いて測定することによってEON型ゼオライトであることを確認することができる。粉末X線回折装置を用いたX線回折スペクトルにおいて、6.42±0.14°、9.66±0.15°、13.02±0.15°、13.38±0.15°、23.12±0.15°、25.44±0.15°、26.18±0.15°、27.56±0.15°、27.78±0.16°、28.06±0.17°の回折角度(2θ)位置に回折ピークがあれば、EON型ゼオライトであることが確認できる。
【0052】
マルチポアゼオライトに金属を含有させる方法
マルチポアゼオライトは、液相イオン交換法、固相イオン交換法、含浸法により金属を含有させることができる。金属を含有させる態様としては、マルチポアゼオライトにイオン交換により金属を導入する態様や、マルチポアゼオライトの表面に帰属が酸化物の状態で修飾する態様などが挙げられる。液相イオン交換法は、周期表で3~12族に属する遷移金属、周期表で13族及び14族に属する両性金属、アルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属イオンからなる金属塩の溶液にマルチポアゼオライトを分散又は浸漬することによってイオン交換する方法である。固相イオン交換法は、マルチポアゼオライトと、周期表で3~12族に属する遷移金属、周期表で13族及び14族に属する両性金属、アルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属イオンを含む金属塩又は金属酸化物を混合し、還元雰囲気又は不活性雰囲気で例えば300℃以上800℃以下の温度で熱処理することによって、イオン交換する方法である。金属塩の種類としては、例えば酢酸金属塩、塩化金属塩、硫酸金属塩、硝酸金属塩等を挙げることができる。イオン交換処理後、イオン交換されたマルチポアゼオライトを洗浄し、例えば100℃から300℃で乾燥させた後、例えば400℃から1000℃で焼成して、Al上のイオン交換サイトがイオン交換されたマルチポアゼオライトを得ることができる。含浸法は、周期表で3~12族に属する遷移金属、周期表で13族及び14族に属する両性金属、アルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属イオンを含む金属塩又は金属酸化物の溶液にマルチポアゼオライトを浸漬し、例えば30℃以上200℃以下の温度で熱処理することによって乾燥させ、金属を含有させる方法である。乾燥させた後、例えば400℃から1000℃で焼成して、Al上のイオン交換サイトがイオン交換されたマルチポアゼオライトを得ることができる。金属塩の種類としては、例えば酢酸金属塩、塩化金属塩、硫酸金属塩、硝酸金属塩等を挙げることができる。含浸法としては、インシピエントウェットネス(incipientwetness)法、蒸発乾固法、ポアフィリング(pore-filling)法、スプレー法、平衡吸着法等が挙げられる。沈殿法としては、混錬法、沈着法等が挙げられる。マルチポアゼオライトに導入される特定の金属は、少なくとも一部が、小細孔のケージ(最大環が8員環以下であるケージ)、特に最大8員環のケージ又は最大6員環のケージに導入されることが好ましい。小細孔のケージに特定の金属を導入するため、焼成温度は450℃以上であることが好ましく、空気雰囲気下での焼成であってもよく、不活性雰囲気下又は0.1MPa以下の減圧下で焼成するのが望ましい。小細孔のケージに金属を導入することで、炭化水素を吸着する大細孔(10員環以上の環を有する細孔)、特に最大12員環のトンネル型(直線型)細孔及び最大10員環のケージ型細孔の容積を維持することができる。また特定の金属が炭化水素と直接作用しないことでゼオライト骨格に対し特定の金属が作用するため、特定の金属を含有したマルチポアゼオライトは炭化水素を高温まで吸着することができる。
【0053】
マルチポアゼオライトの小細孔のケージに特定の金属が導入されていることは、X線回折の測定によりゼオライトの格子定数の変化などにより間接的に確認することができる。また、マルチポアゼオライトにおいて、最大12員環のトンネル型(直線型)細孔及び最大10員環のケージ型細孔に導入されている特定の金属の含有量に対して、小細孔のケージ中に導入されている特定の金属の含有量は、モル比で、0.5より大きいことが好ましく、1.0以上であることがより好ましく、2.0以上であることがさらに好ましく、3.0以上であることが特に好ましい。最大12員環のトンネル型(直線型)細孔、最大10員環のケージ型細孔又は小細孔のケージ中の特定の金属の含有量は、X線回折装置等を用いた解析により得られる、骨格構造を形成するTO単位のT-O結合距離の変化や、骨格元素からの距離から間接的に求めることができる。
【0054】
マルチポアゼオライトにリン又は硫黄を含有させる方法
マルチポアゼオライトと、リンを含有する化合物又は硫黄を含有する化合物とを接触させて、リン又は硫黄をマルチポアゼオライトに含有させることができる。マルチポアゼオライトにリン又は硫黄を含有させる方法としては、蒸着法、含浸法、沈殿法、イオン交換法等が挙げられる。蒸着法としては、マルチポアゼオライトと、リンを含有する化合物又は硫黄を含有する化合物を容器に入れて、常温又は加熱してリン又は硫黄を蒸発させて、マルチポアゼオライトにリン又は硫黄を含有させる方法が挙げられる。含浸法としては、リンを含有する化合物又は硫黄を含有する化合物と溶媒とを混合した液体にマルチポアゼオライトを浸漬し、常圧又は減圧下で混合液を加熱乾燥させて、リン又は硫黄をマルチポアゼオライトに含有させる方法が挙げられる。ここで、リンを含有する化合物は、リンであってもよく、リンを含むイオンであってもよい。また、硫黄を含有する化合物は、硫黄であってもよく、硫黄を含むイオンであってもよい。含浸法としては、インシピエントウェットネス(incipientwetness)法、蒸発乾固法、ポアフィリング(pore-filling)法、スプレー法、平衡吸着法等が挙げられる。沈殿法としては、混錬法、沈着法等が挙げられる。
【0055】
蒸着法によりリンをマルチポアゼオライトに含有させる場合には、リンを含有する化合物として、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル等が挙げられる。沸点が低い点から、リン酸トリメチルが好ましい。含浸法によりリンをマルチポアゼオライトに含有させる場合には、リンを含有する化合物は水溶性であることが好ましく、例えばリン酸トリメチル、リン酸トリエチル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、リン酸、リン酸二水素アンモニウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム等のリン酸二水素塩、リン酸水素二アンモニウム、リン酸水素二カリウム等のリン酸水素塩等が挙げられる。リン酸としては、オルトリン酸(HPO)、ピロリン酸(H)、トリリン酸(H10)、ポリリン酸、メタリン酸(HPO)、ウルトラリン酸等が挙げられる。乾燥が容易である点から、オルトリン酸等のリン酸、リン酸トリメチル、リン酸二水素アンモニウム又はリン酸水素二アンモニウムのリン酸アンモニウムが好ましい。リンを含有する化合物と混合する溶媒としては、例えば脱イオン水、エタノール、2-プロパノール、アセトン等の極性有機溶媒が挙げられる。取り扱い易く、乾燥しやすい点から脱イオン水、エタノールを用いることが好ましい。混合液の全体量100質量%に対して、リンを含有する化合物は、1質量%以上25質量%以下の範囲内であってもよく、2質量%以上20質量%以下の範囲内であってもよく、5質量%以上15質量%以下の範囲内であってもよい。含浸法によりマルチポアゼオライトにリンを含有する化合物を付着させる場合は、混合液中にマルチポアゼオライトを含浸する時間は、0.5時間以上2時間以内とすることができる。含浸後、リンを含有する化合物を含むマルチポアゼオライトを乾燥してもよく、乾燥温度は80℃以上200℃以下とすることができ、乾燥時間は0.5時間以上5時間以内とすることができる。また、乾燥時の圧力は、特に制限されず、大気圧(0.1MPa)であってもよく、0.1MPa以下の減圧下であってもよい。硫黄をマルチポアゼオライトに含有させる場合には、硫酸塩を用いることが好ましい。
【0056】
蒸着法又は含浸法によりマルチポアゼオライトにリン又は硫黄を含有する化合物を付着させた後、熱処理し、リン又は硫黄を含むマルチポアゼオライトを得る。熱処理温度は、マルチポアゼオライトの骨格構造を維持するため、200℃以上800℃以下の範囲内であることが好ましく、400℃以上700℃以下の範囲内であることがより好ましい。熱処理する雰囲気は、大気雰囲気、窒素等の不活性ガス雰囲気であってもよい。
【0057】
特定の金属を含有するマルチポアゼオライトは、炭化水素吸着材として用いることができる。後述する排ガス浄化触媒において、炭化水素吸着部を構成する炭化水素吸着材は、特定の金属を含有するマルチポアゼオライトの他に、さらにBEA型(12員環のみのゼオライト)及びMTW型(12員環のみのゼオライト)などの非マルチポアゼオライトを含んでいてもよい。例えば、マルチポアゼオライトであるMSE型ゼオライトは、マルチポアゼオライトであるMOR型ゼオライト、非マルチポアゼオライトであるBEA型ゼオライト、非マルチポアゼオライトであるMTW型ゼオライトを含む場合がある。炭化水素吸着材は、特定の金属を含有するマルチポアゼオライト100質量%からなるものであってもよく、特定の金属を含有するマルチポアゼオライトの他に、例えばBEA型及びMTW型などの非マルチポアゼオライトを含む場合には、炭化水素吸着材100質量%中、特定の金属を含有するマルチポアゼオライトの含有量が50質量%以上99質量%以下の範囲内であることが好ましく、80質量%以上99質量%以下の範囲内であることがより好ましく、90質量%以上99質量%以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0058】
特定の金属を含有するマルチポアゼオライトからなる炭化水素吸着材は、この炭化水素吸着材を含む炭化水素吸着部と、浄化触媒部とを組み合わせて排ガス浄化触媒に用いることができる。特定の金属元素を含有するマルチポアゼオライトからなる炭化水素吸着材は、この炭化水素吸着材を含む炭化水素吸着部用組成物を製造し、炭化水素吸着部を形成することができる。
【0059】
排ガス浄化触媒
本発明の実施態様の第一例は、基材と、前記基材上に前記炭化水素吸着材を含む炭化水素吸着部と、前記炭化水素吸着部上に浄化触媒部と、を備えた、排ガス浄化触媒である。
【0060】
図1及び図2は、排ガス浄化触媒10の一例を示す。図1は、セラミックス製の基材1を示し、基材1は、複数のセル1aと、セル1aを仕切る隔壁1bと有する。図2は、第一例の排ガス浄化触媒を切断した断面の一部を示し、排ガス浄化触媒10は、基材1と、基材1上に設けられ炭化水素吸着部2と、炭化水素吸着部2上に浄化触媒部3を備えている。図2中、符号30は、排ガス流路である。
【0061】
第一例の浄化触媒部3は、Rh及びPtのうち少なくとも1種を含み、Pdの含有量が0.1質量%以下である第1浄化触媒部3aと、Pd及びPtのうち少なくとも1種を含み、Rhの含有量が0.1質量%以下である第2浄化触媒部3bとを備え、第1浄化触媒部3aが、炭化水素吸着部2側に配置され、第1浄化触媒部3a上に第2浄化触媒部3bを備えていてもよい。
【0062】
第1浄化触媒部が、酸化セリウム-酸化ジルコニウム複合酸化物(CeO-ZrO)を含むことが好ましい。酸化セリウム-酸化ジルコニウム複合酸化物中のCeOの含有量は、好ましくは0質量%超30質量%以下、より好ましくは15質量%以上30質量%以下の範囲内である。第1浄化触媒部が、CeOの含有量が15質量%以上30質量%以下の範囲内である酸化セリウム-酸化ジルコニウムを含む場合、炭化水素吸着部から脱離した炭化水素を直接酸化できるため好ましい。
【0063】
本発明の実施態様の第二例は、基材と、基材上に炭化水素吸着材と、Rh及びPtのうち少なくとも1種とを含み、Pdの含有量が0.1質量%以下である炭化水素吸着部と、炭化水素吸着部上にPd及びPtのうち少なくとも1種を含み、Rhの含有量が0.1質量%以下である浄化触媒部と、を備えた、排ガス浄化触媒である。
【0064】
図3は、第二例の排ガス浄化触媒を切断した断面の一部を示し、排ガス浄化触媒10は、基材1と、基材1上に設けられ炭化水素吸着部2と、炭化水素吸着部2上に浄化触媒部3を備えている。図3中、符号30は、排ガス流路である。
【0065】
以下、排ガス浄化触媒を構成する各部について、説明する。
【0066】
基材
基材は、公知の排ガス触媒用基材を用いることができる。基材の材質としては、セラミックスや金属が挙げられる。セラミックス製基材としては、耐火性セラミックス材料が挙げられ、例えばコージェライト、炭化水素、ムライト、シリカ-アルミナ、アルミナ等が挙げられる。金属製基材としては、耐火性金属、例えばステンレス鋼等が挙げられる。また、基材の形状は、例えばハニカム形状の基材のように、基材内部に平行で微細な流通路となるセルを多数有する形状の基材を用いることができる。このような基材の形状としては、ウォールフロー型基材、フロースルー型基材等が挙げられる。
【0067】
炭化水素吸着部
炭化水素吸着部は、前述の金属を含むマルチポアゼオライトを含む炭化水素吸着材又は前述の金属を含むマルチポアゼオライトからなる炭化水素吸着材と、アルミナ粒子、酸素吸放出材料、アルミナゾル、シリカゾル、ジルコニアゾルなどの無機酸化物を含むスラリー状の炭化水素吸着部用組成物を調製し、このスラリー状の炭化水素吸着部用組成物を基材に塗工し、必要に応じて乾燥させ、これを焼成して、炭化水素吸着部を形成することができる。酸素吸放出材料としては、セリア-ジルコニア複合酸化物などの無機酸化物が挙げられる。無機酸化物には希土類が含まれていても良い。炭化水素吸着部を形成するための炭化水素吸着部用組成物には、Rh及び/又はPtを含んでいてもよい。炭化水素吸着部用組成物に含まれる炭化水素吸着材が、マルチポアゼオライトのなかでもMSE型ゼオライトからなる炭化水素吸着材である場合、炭化水素吸着材の含有量は、炭化水素吸着部用組成物の固形分に対して、10質量%以上85質量%以下であることが好ましく、50質量%以上75質量%以下であることがより好ましく、60質量%以上70質量%以下であることがさらに好ましい。炭化水素吸着部にRh及び/又はPtが含まれる場合には、炭化水素吸着部に含まれるRh及びPtの合計の含有量は、炭化水素吸着部用組成物の固形分に対して、0.05質量%以上0.8質量%以下であることが好ましく、0.14質量%以上0.7質量%以下であることがより好ましく、0.2質量%以上0.5質量%以下であることがさらに好ましい。炭化水素吸着部にRh及び/又はPtが含まれていることによって、炭化水素吸着部内で脱離した炭化水素を効果的に浄化できる。
【0068】
浄化触媒部は、スラリー状の浄化触媒部用組成物を調製し、このスラリー状の排ガス浄化触媒部用組成物を基材上に形成された炭化水素吸着部上に塗工し、必要に応じて乾燥させ、これを焼成して、浄化触媒部を形成することができる。スラリー状の浄化触媒部用組成物は、触媒活性成分となる元素、NOx吸蔵材、触媒担体、必要に応じて安定剤、バインダー、その他の成分、水を混合撹拌して製造することができる。バインダーとしては、無機系バインダー、例えばアルミナゾル等の水溶性溶液を使用することができる。排ガス浄化触媒が、酸化触媒層、NOx吸蔵層、還元触媒層の各層を含む場合には、各層を構成する排ガス浄化触媒部用組成物に、各層の触媒活性に必要な触媒活性元素を含む浄化触媒部用組成物を用いることができる。
【0069】
浄化触媒部が、Rhを含む第1浄化触媒部と、Pdを含む第2浄化触媒部とを備え、第1浄化触媒部が、前記炭化水素吸着部側に配置され、第1浄化触媒部上に第2浄化触媒部を備える場合には、Rhを含む第1浄化触媒部用組成物及びPdを含む第2浄化触媒部用組成物を準備する。また、炭化水素吸着部が、前述の炭化水素吸着材とRhとを含む場合には、Pdを含む浄化触媒部用組成物を準備する。
【0070】
第1浄化触媒部用組成物は、Rh及び/又はPtを含む。第1浄化触媒部用組成物中のRh及びPtの合計の含有量は、第1浄化触媒部用組成物の固形分に対して、0.1質量%以上1.8質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以上1.2質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上1.0質量%以下であることがさらに好ましい。
第1触媒部用組成物は、CeOの含有量が好ましくは0質量%超30質量%以下、より好ましくは15質量%以上30質量%以下の範囲内である酸化セリウム-酸化ジルコニウム複合酸化物(CeO-ZrO)を含むことが好ましい。本明細書において、CeOの含有量が15質量%以上30質量%の範囲内であり、CeOよりも多くのZrOを含有する酸化セリウム-酸化ジルコニウム複合酸化物を、「ZC複合酸化物」ともいう。第1触媒部用組成物中のZC複合酸化物の含有量は、第1浄化触媒部用組成物の固形分に対して、30質量%以上80質量%以下であることが好ましく、50質量%以上80質量%以下であることがより好ましく、55質量%以上75質量%以下であることがさらに好ましい。
第1浄化触媒部用組成物は、Rh及びPt以外の他の白金族金属を含んでいても良い。第1触媒部用組成物中の、Rh及びPt以外の他の白金族金属の含有量は、第1浄化触媒部用組成物に含まれる白金族金属の総量に対して、50質量%未満であることが好ましい。第1浄化触媒部用組成物には、実質的にPdを含まないことが好ましい。第1触媒部用組成物に実質的にPdを含まないとは、第1触媒部用組成物の固形分に対してPdが含まれる場合には、0.1質量未満であることをいい、第1触媒部用組成物の固形分に対してPdが0質量%であることが好ましい。白金族金属は、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru、及びOsをいう。
【0071】
第2浄化触媒部用組成物又は浄化触媒部用組成物は、Pd及び/又はPtを含む。第2浄化触媒部用組成物中のPd及びPtの合計の含有量は、第2浄化触媒部用組成物の固形分に対して、0.5質量%以上8.0質量%以下であることが好ましく、0.8質量%以上7.0質量%以下であることがより好ましく、1.5質量%以上3.5質量%以下であることがさらに好ましい。
第2浄化触媒部用組成物は、CeOの含有量が25質量%から55質量%の範囲内である酸化セリウム-酸化ジルコニウム複合酸化物(CeO-ZrO)を含むことが好ましい。本明細書において、CeOの含有量が25質量%から55質量%の範囲内であり、CeOよりも少ないZrOを含有する酸化セリウム-酸化ジルコニウム複合酸化物を、「CZ複合酸化物」ともいう。第2触媒部用組成物中のCZ複合酸化物の含有量は、第2浄化触媒部用組成物の固形分に対して、20質量%以上80質量%以下であることが好ましく、30質量%以上70質量%以下であることがより好ましく、40質量%以上60質量%以下であることがさらに好ましい。
第2浄化触媒部用組成物は、Pd及びPt以外の他の白金族金属を含んでいても良い。第2触媒部用組成物中の、Pd及びPt以外の他の白金族金属の含有量は、第2浄化触媒部用組成物に含まれる白金族金属の総量に対して、50質量%未満であることが好ましい。
第2浄化触媒部用組成物又は浄化触媒部用組成物は、実質的にRhを含まないことが好ましい。第2浄化触媒部用組成物に実質的にRhを含まないとは、第2浄化触媒部用組成物の固形分に対してRhが含まれる場合には、0.1質量%未満であることをいい、第2浄化触媒部用組成物の固形分に対してRhが0質量%であることが好ましい。
【0072】
浄化触媒部用組成物、第1浄化部用組成物、又は、第2浄化触媒部用組成物は、任意の既知の手段により製造することができる。例えば、Rh、Pt又はPdの特定元素を含む化合物と、無機酸化物担体(例えば酸化セリウム-酸化ジルコニウム複合酸化物)とを接触させて、特定元素が担持された無機酸化物担体を得て、この無機酸化物担体を含む浄化触媒部用組成物としてもよい。特定元素を無機酸化物担体に付着させる方法としては、例えば蒸着法、含浸法、沈殿法、イオン交換法等が挙げられる。蒸着法としては、無機酸化物、特定元素を含む化合物を容器に入れて、常温又は加熱して前記元素を含む化合物を蒸発させて、無機酸化物に付着させる方法が挙げられる。含浸法としては、前記元素を含有する化合物と溶媒とを混合した液体に無機酸化物を浸漬し、常圧又は減圧下で混合液を加熱乾燥させて、前記元素を含む化合物を無機酸化物に付着させる方法が挙げられる。含浸法としては、インシピエントウェットネス(incipient wetness)法、蒸発乾固法、ポアフィリング(pore-filling)法、スプレー法、平衡吸着法等が挙げられる。沈殿法としては、混錬法、沈着法等が挙げられる。前記元素を含有する化合物を付着させたゼオライトは、例えば80℃以上150℃以下の温度で乾燥させてもよく、乾燥時間は、0.5時間以上5時間以内であり、乾燥時の圧力は、特に制限されず、大気圧(0.1MPa)であってもよく、0.1MPa以下の減圧下であってもよい。前記元素を付着させたゼオライトは、必要に応じて乾燥させ、さらに熱処理を行ってもよい。熱処理温度は、ゼオライトが有する細孔の欠損を防ぐために、200℃以上800℃以下の範囲であってもよく、400℃以上700℃以下の範囲であってもよい。
【0073】
浄化触媒部が、Rh及びPtのうち少なくとも1種を含む第1浄化触媒部と、Pd及びPtのうち少なくとも1種を含む第2浄化触媒部とを備える第一例の排ガス浄化触媒の場合、基材上に形成された炭化水素吸着部上に、第1浄化触媒部用組成物を塗工し、必要に応じて乾燥させ、これを焼成して、第1浄化触媒部を形成することができる。次いで、第1浄化触媒部上に、第2浄化触媒部用組成物を塗工し、必要に応じて乾燥させ、これを焼成して、第2浄化触媒部を形成することができる。第1浄化触媒部及び第2浄化触媒部は、排ガス浄化触媒を切断した断面を、電子線マイクロアナライザー(EPMA:Electron Probe Micro Analyzer)によって定量分析を行い判別することができる。第1浄化触媒部は、含まれている白金族金属が主にRh及びPtであり、Pdは実質的に含まれていない。第1浄化触媒部は、排ガス浄化触媒を切断した断面をEPMAによって定量分析した場合に、第1触媒部用組成物の固形分100質量%に対して、Pdの含有量が0.1質量%以下である部位をいう。第2浄化触媒部は、含まれている白金族金属が主にPd及びPtであり、Rhは実質的に含まれていない。第2浄化触媒部は、排ガス浄化触媒を切断した断面をEPMAによって定量分析した場合に、第2触媒部用組成物の固形分100質量%に対して、Rhの含有量が0.1質量%以下である部位をいう。
【0074】
炭化水素吸着部が炭化水素吸着材とRhとを含む、第二例の排ガス浄化触媒の場合、基材上に形成された炭化水素吸着部上に、Pdを含む浄化触媒用組成物を塗工し、必要に応じて乾燥させ、これを焼成して、浄化触媒部を形成することができる。浄化触媒部は、排ガス浄化触媒を切断した断面を、電子線マイクロアナライザー(EPMA:Electron Probe Micro Analyzer)によって定量分析を行い判別することができる。浄化触媒部は、含まれている白金族金属が主にPd及びPtであり、Rhは実質的に含まれていない。浄化触媒部は、排ガス浄化触媒を切断した断面をEPMAによって定量分析した場合に、浄化触媒部用組成物の固形分100質量%に対して、Rhが0.1質量%以下である部位をいう。
【0075】
排ガス浄化触媒は、選択触媒還元(SCR)システムに用いることもできる。選択触媒還元(SCR)は、アンモニア又は尿素などの窒素化合物又は炭化水素と反応させることにより、NOxをNに還元することができる。
【0076】
排ガス浄化触媒は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の燃料を動力源とする内燃機関の排気ガスの浄化に用いることができ、比較的高い温度まで炭化水素を吸着し貯蔵することができ、炭化水素の除去性能、NOxの還元性能を向上することができる。
【0077】
排ガス浄化システム
前述の排ガス浄化触媒を用いた排ガス浄化システムについて説明する。
図4から6は、本発明の第一例から第三例の排ガス浄化システムを示す。
【0078】
第一例の排ガス浄化システム100は、図4に示すように、内燃機関20と、内燃機関に接続された排ガス流路30内の上流側に設けられた第1排ガス浄化触媒40と、排ガス流路30内において、第1排ガス浄化触媒40よりも排ガス流れ方向の下流側に設けられた第2排ガス浄化触媒10とを、備える。第2排ガス浄化触媒10は、前述の本発明の第一例又は第二例の排ガス浄化触媒10である。第2排ガス浄化触媒10が、第1排ガス浄化触媒よりも排ガス流路30内の下流側に設けられていると、内燃機関10から排出された1000℃程度の比較的高い温度の排ガスが、第1排ガス浄化触媒40を通過して、排ガスの温度が低下するため、第2排ガス浄化触媒の炭化水素吸着部に含まれるマルチポアゼオライトの熱による劣化を抑制でき、炭化水素吸着部の炭化水素の吸着能を維持することができる。前述の排ガス浄化触媒である第2排ガス浄化触媒10は、白金族の含有割合が、第2排ガス浄化触媒の体積に対して、0.1g/L以上3.0g/L以下の範囲内である。前述の排ガス浄化触媒である第2排ガス浄化触媒10中の白金族金属の含有割合が、第2排ガス浄化触媒の体積に対して、0.1g/L以上3.0g/L以下の範囲内であると脱離した炭化水素をより効率的に浄化できる。なお、図4では、排ガス浄化触媒が、第1排ガス浄化触媒40及び第2排ガス浄化触媒10の2つである例を示したが、排ガス浄化触媒は3つ以上であってもよい。例えば、第2排ガス浄化触媒10よりも排ガス流れ方向の下流側に、その他の排ガス浄化触媒が設けられていてもよい。第2排ガス浄化触媒10よりも下流側に設けられるその他の排ガス浄化触媒としては、前述の本発明の第一例又は第二例の排ガス浄化触媒10であってもよいし、それ以外の排ガス浄化触媒であってもよい。その他の排ガス浄化触媒に用いる基材の形状としては、ウォールフロー型基材、フロースルー型基材などを適宜用いることができる。
【0079】
第二例の排ガス浄化システム200は、図5に示すように、内燃機関20と、内燃機関に接続された排ガス流路30内に設けられた単一の排ガス浄化触媒10と、を備え、排ガス浄化触媒10が前述の本発明の排ガス浄化触媒である。本発明の第二例の排ガス浄化システム200は、炭化水素の除去性能が高い本発明の排ガス浄化触媒10を備えるため、排気量が比較的少ない内燃機関に適用する場合に、排ガスの浄化性能を十分なものとしながら、排ガス浄化触媒10の数を単一とすることができるため、高い浄化性能と低いコストとを両立させることができる。
【0080】
第三例の排ガス浄化システム300は、図6に示すように、内燃機関20と、内燃機関に接続された排ガス流路30内に複数の排ガス浄化触媒10、50、60と、を備え、複数の排ガス浄化触媒10、50、60のうち、排ガス流れ方向の最も上流側に配置された第1排ガス浄化触媒10が前述の本発明の排ガス浄化触媒である。図6に示す第三例の排ガス浄化システム300においては、最上流排ガス浄化触媒10、第2排ガス浄化触媒50、第3排ガス浄化触媒60の3つの排ガス浄化触媒を排ガス流路30内に備えた例を示している。排ガス浄化システム300は、排ガス流路30内に2つ以上の排ガス浄化触媒を備えていればよく、排ガス浄化触媒の数は限定されない。本発明の第三例の排ガス浄化システム300は、排ガス流路30内に複数の排ガス浄化触媒を備え、最も上流側に配置された第1排ガス浄化触媒10が、本発明の排ガス浄化触媒であり、脱離した炭化水素を下流の排ガス浄化触媒でより効率的に浄化することができる。
【0081】
排ガスを処理するための方法
本発明の実施形態の一例の排ガスを処理するための方法は、炭化水素を含む燃焼排ガスと、本発明の実施形態の排ガス浄化用触媒とを接触させて、炭化水素を前記排ガス浄化用触媒に吸着させた後、200℃以上の温度で前記排気ガス浄化用触媒から炭化水素を脱離させることを含む。
【実施例
【0082】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいてさらに詳述する。本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0083】
MSE型ゼオライトの製造
脱イオン水(純水)、水酸化カリウム、水酸化アルミニウム、ヨウ化N,N,N’,N’-テトラアルキルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジニウム、及び、コロイド状シリカ(LUDOX(登録商標)HS-40、シグマアルドリッチ・ジャパン株式会社製)を準備し、これらを混合して、各原料のモル比が以下の組成となる原料組成物を得た。
SiO/Al=20
K/Si=0.38
ヨウ化N,N,N’,N’-テトラアルキルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジニウム/Si=0.1
O/Si=30
【0084】
得られた原料組成物を密閉容器に充填し、静置した状態で、160℃で16日間加熱し結晶化させた。結晶化後の原料組成物を固液分離し、脱イオン水で洗浄し、結晶を回収した。得られた結晶を100℃で8時間乾燥し、大気雰囲気中、600℃で1時間熱処理して、MSE型ゼオライトを得た。得られたゼオライトがMSE型であることは、粉末X線回折装置を用いて測定することによって確認した。粉末X線回折装置を用いたX線回折スペクトルにおいて、上述した回折角度(2θ)位置に回折ピークがあれば、MSE型ゼオライトであることが確認できる。X線回折スペクトルにおける回折ピークの回折角度(2θ)位置は、国際ゼオライト学会によって公開されているX線回折スペクトルの回折ピークの回折角度(2θ)位置と同じである。図7に、得られたMSE型ゼオライトのX線回折スペクトルを示す。
得られたMSE型ゼオライトは、各成分のモル比が以下のようになる組成を有していた。
SiO/Al=20
【0085】
EON型ゼオライトの製造
脱イオン水(純水)、水酸化ナトリウム、アルミン酸ナトリウム、及び、3号ケイ酸ソーダを準備し、これらを混合して、各原料のモル比が以下の組成となる原料組成物を得た。
SiO/Al=10
Na/Si=0.44
O/Si=20
【0086】
得られた原料組成物を密閉容器に充填し、静置した状態で、150℃で7日間加熱し結晶化させた。結晶化後の原料組成物を固液分離し、脱イオン水で洗浄し、結晶を回収した。得られた結晶を100℃で8時間乾燥し、大気雰囲気中、600℃で1時間熱処理して、EON型ゼオライトを得た。得られたゼオライトがEON型であることは、粉末X線回折装置を用いて測定することによって確認した。粉末X線回折装置を用いたX線回折スペクトルにおいて、上述した回折角度(2θ)位置に回折ピークがあれば、EON型ゼオライトであることが確認できる。X線回折スペクトルにおける回折ピークの回折角度(2θ)位置は、国際ゼオライト学会によって公開されているX線回折スペクトルの回折ピークの回折角度(2θ)位置と同じである。図8に、得られたEON型ゼオライトのX線回折スペクトルを示す。
得られたEON型ゼオライトは、各成分のモル比が以下のようになる組成を有していた。
SiO/Al=7.6
Na/Al=0.95
【0087】
実施例1
炭化水素吸着材の製造
得られたMSE型ゼオライト1gを80℃の1mol/Lの塩化アンモニウム水溶液10gに浸漬し、固液分離し、脱イオン水で洗浄し、NH型のMSE型ゼオライトを得た。得られたNH型のMSE型ゼオライト1gを60℃の0.25mol/Lの酢酸銅(II)水溶液100gに浸漬し、固液分離し、脱イオン水で洗浄し、湿潤粉末を回収した。得られた湿潤粉末を100℃で8時間乾燥し、大気雰囲気中、550℃で3時間熱処理した。これにより、下記のモル比の組成を有する、Cuイオン交換MSE型ゼオライトを得た。得られたCuイオン交換MSE型ゼオライトを炭化水素吸着材とした。
SiO/Al=20
Cu/Al=0.75
【0088】
実施例2
得られたMSE型ゼオライト1gを80℃の1mol/Lの塩化アンモニウム水溶液10gに浸漬し、固液分離し、脱イオン水で洗浄し、NH型のMSE型ゼオライトを得た。得られたNH型のMSE型ゼオライト1gを0.25mol/Lの塩化セシウム水溶液100gに浸漬し、固液分離し、脱イオン水で洗浄し、湿潤状態のCs型のMSE型ゼオライトを得た。得られたCsを含有するMSE型ゼオライト100℃で8時間乾燥し、大気雰囲気中、550℃で3時間熱処理した。これにより、下記のモル比の組成を有する、Csイオン交換MSE型ゼオライトを得た。MSE型ゼオライトは、Cs及びHでイオン交換されていた。得られたCsを含むMSE型ゼオライトを炭化水素吸着材とした。
SiO/Al=20
Cs/Al=0.22
【0089】
実施例3
得られたEON型ゼオライト1gを60℃の1mol/Lの塩化アンモニウム水溶液10gに浸漬し、固液分離し、脱イオン水で洗浄し、NH型のEON型ゼオライトを得た。得られたNH型のEON型ゼオライト1gを60℃の1mol/Lの硫酸2.5gに浸漬し、固液分離し、脱イオン水で洗浄し、H型のEON型ゼオライトを得た。得られたH型のEON型ゼオライト1gを0.50mol/Lの酢酸銅(II)水溶液10gに浸漬し、固液分離し、脱イオン水で洗浄し、湿潤粉末を回収した。得られた湿潤粉末を100℃で8時間乾燥し、大気雰囲気中、550℃で3時間熱処理した。これにより、下記のモル比の組成を有する、Cuイオン交換EON型ゼオライトを得た。得られたCuイオン交換EON型ゼオライトを炭化水素吸着材とした。
SiO/Al=20
Cu/Al=0.5
【0090】
実施例4
上述した実施例3で得られたH型のEON型ゼオライトの湿潤粉末1gを60℃の0.30mol/Lの炭酸セシウム水溶液5.0gに浸漬し、固液分離し、脱イオン水で洗浄し、湿潤粉末を回収した。得られた湿潤粉末を100℃で8時間乾燥し、大気雰囲気中、550℃で3時間熱処理した。これにより、下記のモル比の組成を有する、Csイオン交換EON型ゼオライトを得た。得られたCsイオン交換EON型ゼオライトを炭化水素吸着材とした。
SiO/Al=13
Cs/Al=0.25
【0091】
比較例1
市販のH型BEA型ゼオライト(SiO/Alモル比=37)1gを60℃の酢酸銅(II)水溶液5gに懸濁し、蒸発乾固により湿潤粉末を回収した。得られた湿潤粉末を100℃で8時間乾燥し、大気雰囲気中、550℃で3時間熱処理した。これにより、下記のモル比の組成を有する、Cuを含むBEA型ゼオライトを得た。得られたCuを含むBEA型ゼオライトを炭化水素吸着材とした。
SiO/Al=37
Cu/Al=0.88
【0092】
比較例2
BEA型ゼオライト(SiO/Alモル比=37)1gを60℃の0.1mol/Lの塩化アンモニウム水溶液10gに浸漬し、固液分離し、脱イオン水で洗浄し、NH型のBEA型ゼオライトを得た。得られたNH型のBEA型ゼオライト1gを60℃の0.05mol/Lの酢酸セシウム水溶液30gに浸漬し、固液分離し、脱イオン水で洗浄し、湿潤粉末を回収した。得られた湿潤粉末を100℃で8時間乾燥し、大気雰囲気中、550℃で3時間熱処理した。これにより、下記のモル比の組成を有する、Csを含むBEA型ゼオライトを得た。MSE型ゼオライトは、Cs及びHでイオン交換されていた。得られたCsを含むBEA型ゼオライトを炭化水素吸着材とした。
SiO/Al=37
Cs/Al=0.18
【0093】
比較例3
BEA型ゼオライトに代えて、MFI型ゼオライト(SiO/Alモル比=39)を用いた以外は、比較例3と同様にして、Csを含むMFI型ゼオライトを得た。MSE型ゼオライトは、Cs及びHでイオン交換されていた。Csを含むMFI型ゼオライトの組成は下記のモル比のとおりであった。得られたCsを含むMFI型ゼオライトを炭化水素吸着材とした。
SiO/Al=39
Cs/Al=0.17
【0094】
比較例4
上述した実施例1で得られたNH型のMSE型ゼオライトの湿潤粉末を100℃で8時間乾燥し、大気雰囲気中、550℃で3時間熱処理し、そのまま炭化水素吸着材とした。
【0095】
測定試料の調製
原料組成物又は各ゼオライトを、直径30mmの塩化ビニル管に充填し、圧縮成形して測定試料を調製した。
【0096】
SiO/Alモル比
走査型蛍光X線分析装置(ZSX PrimusII、リガク社製)を用いて、元素分析により測定試料中のSi量及びAl量を測定し、測定したSi量及びAl量からSiO/Al比を算出した。
【0097】
Cu/Al比
上述の走査型蛍光X線分析装置を用いて、元素分析により測定試料中のCu量及びAl量を測定し、Cu量及びCu/Alを算出した。表1において、Cu量は金属の含有割合として、Cu/Alは金属/Al比としてそれぞれ記載した。
【0098】
Cs/Al比
上述の走査型蛍光X線分析装置を用いて、元素分析により測定試料中のCs量及びAl量を測定し、Cs/Alを算出した。表1において、Cs量は金属の含有割合として、Cs/Alは金属/Al比としてそれぞれ記載した。
【0099】
トルエンの脱離量/吸着量
実施例及び比較例の各炭化水素吸着材について、昇温反応法により50℃から500℃までトルエンを流通しながら加熱し、トルエンの吸着温度、脱離温度、吸着量及び脱離量を測定した。
具体的には、各炭化水素吸着材の測定試料0.1gを流通反応装置の石英製反応管に充填し、流通反応装置として固定床流通式反応装置を用いて、トルエン71ppmを含む評価用ガスを1L/分で流通させながら、昇温反応法により50℃から500℃まで20℃/分の昇温速度で昇温させ、トルエンを吸着・脱離させた。ゼオライトに対するトルエンの吸着脱離の測定には、トルエンの流通量に対して、下流の検出器(VMS-1000F、株式会社島津製作所製)の検出量の減少を吸着量及び浄化量とした。炭化水素吸着材への流通量以上の値が検出される領域は吸着炭化水素が脱離している。50℃以上200℃未満で吸着したトルエンの合計モル量ZDに対する200℃以下で炭化水素吸着材から脱離した合計モル量ZDの割合(ZD/ZD×100)を、トルエンの脱離量/吸着量とした。結果を表1に示す。
測定条件
評価用ガス:トルエン71ppm、残部が窒素(N)である。
【0100】
熱処理
実施例1,2,4及び比較例1~4の各炭化水素吸着材に対して、下記条件で熱処理を施した。
(1)温度:850℃
(2)時間:25時間
(3)雰囲気:10体積%の水蒸気(HO)を含む雰囲気、水入りタンクから水蒸気を気化させて、温度により飽和水蒸気圧を調整し、10体積%の水蒸気を含む大気雰囲気とする。
(4)モデルガス流通モード:下記(5)のモデルガス3L/分で80秒、Air(空気)3L/分で20秒を交互に流通させる。
(5)モデルガス:C、O及びNの合計が3L/分であり、Cが70mL/分、Oが70mL/分、残部が窒素(N)である。
【0101】
X線回折スペクトルのピーク強度比
実施例1、2、4及び比較例1~4の熱処理前後の炭化水素吸着材について、X線回折装置(型番:MiniFlex600、リガク社製)を用いて測定し、熱処理前後のX線回折スペクトルのピーク強度比を下記式により求めた。ピーク強度比を求めるための回折ピークの回折角度(2θ)位置は、それぞれ、MSE型ゼオライトは2θ=21.7°付近の最強ピーク、BEA型ゼオライトは2θ=22.4°付近の最強ピーク、MFI型ゼオライトは2θ=22.9°付近の最強ピーク、EON型ゼオライトは2θ=25.6°付近の最強ピークとした。求めたピーク強度比が高いほど、ゼオライトが熱処理後も結晶構造を維持していることを示している。
ピーク強度比(%)=(熱処理後のピーク強度/熱処理前のピーク強度)×100
【0102】
【表1】
【0103】
表1に示すように、実施例1から4(特定の金属を含有するマルチポアゼオライト)の炭化水素吸着材は、比較例2から4のゼオライトと比較して、トルエンの脱離量/吸着量が低い値であり、すなわち吸着量に対して脱離量が少ないものであり、200℃程度の温度までトルエンを貯蔵することができ、200℃以上の比較的高い温度で炭化水素吸着材からトルエンを脱離させることができることが確認できた。また、実施例1,2,4の炭化水素吸着材は、比較例1のゼオライトと比較して、X線回折スペクトルのピーク強度比が高く、熱処理後でも結晶が維持されて耐熱性に優れることが確認された。なお、ゼオライトは、一般的に、骨格密度(単位体積当たりのSi及びAlの合計量)が低く、導入した金属量が多いほど、耐熱性が低下する。これに対して、マルチポアゼオライトであるMSE型ゼオライト又はEON型ゼオライトは、骨格密度がBEA型ゼオライト、MFI型ゼオライトと比較して高いため、より耐熱性に優れると考えられる。実施例3の炭化水素吸着材は、ピーク強度比を測定していないが、少なくとも比較例1のBEA型ゼオライトよりもピーク強度比の値が高いと考えられる。実施例3と比較例1とを比較すると、金属量が同じであるものの、骨格密度は高いためである。
【0104】
実施例5
得られたMSE型ゼオライト1gを80℃の1mol/Lの塩化アンモニウム水溶液10gに浸漬し、固液分離し、脱イオン水で洗浄し、NH型のMSE型ゼオライトを得た。得られたNH型のMSE型ゼオライト1gを60℃の0.05mol/Lの酢酸銅(II)水溶液9.5gに浸漬し、固液分離し、脱イオン水で洗浄し、湿潤粉末を回収した。得られた湿潤粉末を100℃で8時間乾燥し、大気雰囲気中、550℃で3時間熱処理した。これにより、下記のモル比の組成を有する、Cuイオン交換MSE型ゼオライトを得た。得られたCuイオン交換MSE型ゼオライトを炭化水素吸着材とした。
SiO/Al=20
Cu/Al=0.19
【0105】
実施例6
実施例5と同様にしてNH型のMSE型ゼオライトを得た。得られたNH型のMSE型ゼオライト1gを60℃の0.05mol/Lの酢酸銅(II)水溶液6gに浸漬したこと以外は、実施例5と同様にして、Cuイオン交換MSE型ゼオライトを得た。得られたCuイオン交換MSE型の組成は下記の通りであった。得られたCuイオン交換MSE型ゼオライトを炭化水素吸着材とした。
SiO/Al=20
Cu/Al=0.15
【0106】
実施例7
実施例5と同様にしてNH型のMSE型ゼオライトを得た。得られたNH型のMSE型ゼオライト1gを0.05mol/Lの炭酸セシウム水溶液5.3gに浸漬し、固液分離し、脱イオン水で洗浄し、湿潤粉末を回収した。得られた湿潤粉末を100℃で8時間乾燥し、大気雰囲気中、550℃で3時間熱処理した。これにより、下記のモル比の組成を有する、Csイオン交換MSE型ゼオライトを得た。MSE型ゼオライトは、Cs及びHでイオン交換されていた。得られたCsを含むMSE型ゼオライトを炭化水素吸着材とした。
SiO/Al=20
Cs/Al=0.07
【0107】
実施例8
実施例5と同様にしてNH型のMSE型ゼオライトを得た。得られたNH型のMSE型ゼオライト1gを80℃の0.1mol/Lの硫酸10gに浸漬し、固液分離し、脱イオン水で洗浄し、H型のMSE型ゼオライトを得た。得られたH型のMSE型ゼオライト1gを0.2mol/Lの酢酸銅(II)水溶液1gに含侵し、湿潤粉末を回収した。得られた湿潤粉末を100℃で8時間乾燥し、大気雰囲気中、550℃で3時間熱処理した。これにより、下記のモル比の組成を有する、Cuイオン交換MSE型ゼオライトを得た。得られたCuイオン交換MSE型ゼオライトを炭化水素吸着材とした。
SiO/Al=22
Cu/Al=0.21
【0108】
実施例9
実施例5と同様にしてNH型のMSE型ゼオライトを得た。得られたNH型のMSE型ゼオライト1gを80℃の1mol/Lの硫酸10gに浸漬し、固液分離し、脱イオン水で洗浄し、H型のMSE型ゼオライトを得た。得られたH型のMSE型ゼオライト1gを0.2mol/Lの酢酸銅(II)水溶液1gに含侵し、湿潤粉末を回収した。得られた湿潤粉末を100℃で8時間乾燥し、大気雰囲気中、550℃で3時間熱処理した。これにより、下記のモル比の組成を有する、Cuイオン交換MSE型ゼオライトを得た。得られたCuイオン交換MSE型ゼオライトを炭化水素吸着材とした。
SiO/Al=58
Cu/Al=0.50
【0109】
実施例10
実施例5と同様にしてNH型のMSE型ゼオライトを得た。得られたNH型のMSE型ゼオライト1gを80℃の3mol/Lの硫酸10gに浸漬し、固液分離し、脱イオン水で洗浄し、H型のMSE型ゼオライトを得た。得られたH型のMSE型ゼオライト1gを0.2mol/Lの酢酸銅(II)水溶液1gに含侵し、湿潤粉末を回収した。得られた湿潤粉末を100℃で8時間乾燥し、大気雰囲気中、550℃で3時間熱処理した。これにより、下記のモル比の組成を有する、Cuイオン交換MSE型ゼオライトを得た。得られたCuイオン交換MSE型ゼオライトを炭化水素吸着材とした。
SiO/Al=76
Cu/Al=0.70
【0110】
実施例11
実施例5と同様にしてNH型のMSE型ゼオライトを得た。得られたNH型のMSE型ゼオライト1gを80℃の5mol/Lの硫酸10gに浸漬し、固液分離し、脱イオン水で洗浄し、H型のMSE型ゼオライトを得た。得られたH型のMSE型ゼオライト1gを0.2mol/Lの酢酸銅(II)水溶液1gに含侵し、湿潤粉末を回収した。得られた湿潤粉末を100℃で8時間乾燥し、大気雰囲気中、550℃で3時間熱処理した。これにより、下記のモル比の組成を有する、Cuイオン交換MSE型ゼオライトを得た。得られたCuイオン交換MSE型ゼオライトを炭化水素吸着材とした。
SiO/Al=181
Cu/Al=1.65
【0111】
実施例12
得られたMSE型ゼオライト1gを100℃の6mol/Lの硫酸6.7gに浸漬し、固液分離し、脱イオン水で洗浄し、H型のMSE型ゼオライトを得た。得られたH型のMSE型ゼオライト1gを0.05mol/Lの酢酸銅(II)水溶液5.8gに懸濁し、蒸発乾固により湿潤粉末を回収した。得られた湿潤粉末を100℃で8時間乾燥し、大気雰囲気中、550℃で3時間熱処理した。これにより、下記のモル比の組成を有する、Cuイオン交換MSE型ゼオライトを得た。得られたCuイオン交換MSE型ゼオライトを炭化水素吸着材とした。
SiO/Al=200
Cu/Al=2.09
【0112】
実施例13
得られたMSE型ゼオライト1gを100℃の6mol/Lの硫酸6.7gに浸漬し、固液分離し、脱イオン水で洗浄し、H型のMSE型ゼオライトを得た。得られたH型のMSE型ゼオライト1gを0.03mol/Lの硝酸ガリウム(III)かつ0.015mol/Lの硝酸白金の混合水溶液5.2gになるように懸濁し、蒸発乾固により湿潤粉末を回収した。得られた湿潤粉末を100℃で8時間乾燥し、大気雰囲気中、550℃で3時間熱処理した。これにより、下記のモル比の組成を有する、Ga及びPtを含むMSE型ゼオライトを得た。Ga及びPtを含むMSE型ゼオライトを炭化水素吸着材とした。
SiO/Al=200
Ga/Al=1.74
Pt/Al=0.42
【0113】
実施例14
得られたMSE型ゼオライト1gを100℃の6mol/Lの硫酸6.7gに浸漬し、固液分離し、脱イオン水で洗浄し、H型のMSE型ゼオライトを得た。得られたH型のMSE型ゼオライト1gを0.05mol/Lの酢酸スズ(II)水溶液11gに懸濁し、蒸発乾固により湿潤粉末を回収した。得られた湿潤粉末を100℃で8時間乾燥し、大気雰囲気中、550℃で3時間熱処理した。これにより、下記のモル比の組成を有する、Snを含むMSE型ゼオライトを得た。得られたSnを含むMSE型ゼオライトを炭化水素吸着材とした。
SiO/Al=200
Sn/Al=0.93
【0114】
比較例5
市販のH型BEA型ゼオライト(SiO/Alモル比=37)1gを0.05mol/Lの酢酸銅(II)水溶液5gに懸濁し、蒸発乾固により湿潤粉末を回収した。得られた湿潤粉末を100℃で8時間乾燥し、大気雰囲気中、550℃で3時間熱処理した。これにより、下記のモル比の組成を有する、Cuを含むBEA型ゼオライトを得た。得られたCuを含むBEA型ゼオライトを炭化水素吸着材とした。
SiO/Al=37
Cu/Al=0.37
【0115】
実施例5~14及び比較例5の各炭化水素吸着材について、実施例1~4及び比較例と同様にして、測定試料、SiO/Alモル比の測定、Cu/Al比の測定、及びCs/Al比の測定を行った。
【0116】
Ga/Al比及びPt/Al比
上述の走査型蛍光X線分析装置を用いて、元素分析により測定試料中のGa量、Pt量及びAl量を測定し、Ga/Al及びPt/Alを算出した。実施例13においては、それぞれ、Ga量は1.9質量%、Pt量は1.3質量%、Ga/Alは1.74、Pt/Alは0.42であった。表2において、Ga量及びPt量の合計を金属の含有割合として、Ga/Al及びPt/Alの合計を金属/Al比としてそれぞれ記載した。
【0117】
Sn/Al比
上述の走査型蛍光X線分析装置を用いて、元素分析により測定試料中のSn量及びAl量を測定し、Sn/Alを算出した。表2において、Sn量は金属の含有割合として、Sn/Alは金属/Al比としてそれぞれ記載した。
【0118】
トルエンの脱離量/吸着量
実施例5~14及び比較例5の各炭化水素吸着材について、昇温反応法により50℃から500℃までトルエン及び水を流通しながら加熱し、トルエンの吸着温度、脱離温度、吸着量及び脱離量を測定した。
具体的には、各炭化水素吸着材の測定試料0.1gを流通反応装置の石英製反応管に充填し、流通反応装置として固定床流通式反応装置)を用いて、トルエン71ppmを含み、10体積%の水蒸気を含む大気雰囲気とした評価用ガスを1L/分で流通させながら、昇温反応法により50℃から500℃まで20℃/分の昇温速度で昇温させ、トルエンを吸着・脱離させた。ゼオライトに対するトルエンの吸着脱離の測定には、トルエンの流通量に対して、下流の検出器(VMS-1000F、株式会社島津製作所製)の検出量の減少を吸着量及び浄化量とした。炭化水素吸着材への流通量以上の値が検出される領域は吸着炭化水素が脱離している。50℃以上170℃未満で吸着したトルエンの合計モル量ZDに対する170℃以下で炭化水素吸着材から脱離した合計モル量ZDの割合(ZD/ZD×100)を、トルエンの脱離量/吸着量とした。結果を表2に示す。
水の存在下でのトルエン吸脱着挙動は、吸着・脱離・再吸着が生じることで複雑になり、SiO/Al比、金属量及び金属種によって吸着・脱離・再吸着挙動が異なるものとなるため、吸着・脱離のみで比較できる温度である170℃を基準に評価を行った。
測定条件
評価用ガス:トルエン71ppm、残部が窒素(N)である。
雰囲気:10体積%の水蒸気(HO)を含む雰囲気、水入りタンクから水蒸気を気化させて、温度により飽和水蒸気圧を調整し、10体積%の水蒸気を含む大気雰囲気とする。
【0119】
BET比表面積
実施例5,11,13,14及び比較例5の各炭化水素吸着材について、ISO 9277(JIS Z8330:2013)に準拠して測定した窒素吸着等温線からBET法によりBET比表面積を算出した。
【0120】
熱処理、トルエンの脱離量/吸着量、ピーク強度比、BET比表面積
実施例12~14、比較例5の各炭化水素吸着材に対して、上述した条件で熱処理を行った後、上述した条件にて、前述の実施例1等の各炭化水素吸着材と同様にして、トルエンの脱離量/吸着量の測定、X線回折スペクトルのピーク強度比の測定、及びBET比表面積の測定を行った。
なお、比較例5は、熱処理後に粉末X線回折によって確認したところ、BEA型ゼオライトの骨格構造を維持していないことが確認されたため、吸着測定を行わなかった。
【0121】
【表2】
【0122】
表2に示すように、実施例5から12(特定の金属を含有するマルチポアゼオライト)の炭化水素吸着材は、比較例5のゼオライトと比較して、トルエンの脱離量/吸着量が低い値であり、すなわち吸着量に対して脱離量が少ないものであり、トルエンの炭化水素吸着材への吸着・脱離の挙動を評価しやすい170℃程度の温度までトルエンを貯蔵することができ、170℃以上の比較的高い温度で炭化水素吸着材からトルエンを脱離させることができることが確認できた。また、実施例12から14の炭化水素吸着材は、熱処理後も、トルエンの脱離量及び吸着が行われ、耐熱性を有していることが確認できた。比較例5のゼオライトは、熱処理後は、トルエンを吸着しなかった。
【0123】
表2に示すように、実施例12から14の炭化水素吸着材は、比較例5のゼオライトと比べて、X線回折スペクトルのピーク強度比が高く、熱処理後でも結晶が維持されて耐熱性に優れることが確認された。
【0124】
表2に示すように、実施例13及び14の炭化水素吸着材は、熱処理前後のBET比表面積比B/Aが0.5以上0.9以下の範囲内であり、熱処理の前と後で炭化水素吸着材に用いたマルチポアゼオライトの構造の変化が少なく、構造が維持されて耐熱性を有していた。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本開示に係る炭化水素吸着材は、炭化水素を吸着し、比較的高い温度まで吸着した炭化水素を貯蔵することができ、触媒が活性可能な比較的高い温度で吸着し貯蔵した炭化水素を脱離することができるため、排ガス浄化触媒の炭化水素吸着部として用いた場合に、排ガス浄化性能を向上することができる。また、炭化水素吸着材を用いた排ガス浄化触媒は、自動四輪車や自動二輪車などの内燃機関から排出される排気ガスを浄化するために好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0126】
1:基材、1a:セル、1b:隔壁、2:炭化水素吸着部、3:浄化触媒部、3a:第1浄化触媒部、3b:第2浄化触媒部、10:排ガス浄化触媒(第1排ガス浄化触媒又は第2排ガス浄化触媒)、20:内燃機関、30:排ガス流路、40、50:排ガス浄化触媒、100、200、300:排ガス浄化システム。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8