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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-07
(45)【発行日】2024-03-15
(54)【発明の名称】パイプ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 4/06 20160101AFI20240308BHJP
   C23C 4/16 20160101ALI20240308BHJP
   B23K 35/30 20060101ALI20240308BHJP
   C22C 27/06 20060101ALI20240308BHJP
   C22C 27/04 20060101ALI20240308BHJP
   C22C 19/07 20060101ALI20240308BHJP
   F16L 9/02 20060101ALI20240308BHJP
   C22C 45/04 20060101ALI20240308BHJP
   C22C 45/02 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
C23C4/06
C23C4/16
B23K35/30 340A
B23K35/30 340M
B23K35/30 340Z
C22C27/06
C22C27/04 102
C22C19/07 G
F16L9/02
C22C45/04 Z
C22C45/02 Z
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022543579
(86)(22)【出願日】2021-01-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-14
(86)【国際出願番号】 KR2021000570
(87)【国際公開番号】W WO2021145710
(87)【国際公開日】2021-07-22
【審査請求日】2022-07-15
(31)【優先権主張番号】10-2020-0006341
(32)【優先日】2020-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】518215493
【氏名又は名称】コーロン インダストリーズ インク
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】チョ,グン サン
(72)【発明者】
【氏名】キム,チュンニョン ポール
(72)【発明者】
【氏名】チェ,クワン ミン
【審査官】菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0279023(US,A1)
【文献】国際公開第2020/013632(WO,A1)
【文献】特開2013-011437(JP,A)
【文献】特開平07-278756(JP,A)
【文献】特開2007-131952(JP,A)
【文献】特開2018-178238(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/06
C23C 4/16
B23K 35/30
C22C 27/06
C22C 27/04
C22C 19/07
F16L 9/02
C22C 45/04
C22C 45/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側と外側とに、互いに異なる温度を有する流体が通る中空管体;及び
前記中空管体の外面に備えられ、非晶質相を含む合金を有するコーティング層;を含み、
前記合金はFeを含み、
Cr及びMoからなる第1成分、及びC、Si及びNbからなる群から選択される少なくともいずれか一つ以上の元素とBとを含む第2成分を含み、
前記Fe100重量部に対して、
前記第1成分を30~140重量部含み、前記Moを18.0重量部以下で含み、前記第2成分を4~20重量部含む、パイプ。
【請求項2】
Cr含有量がMo含有量よりも大きい、請求項1に記載のパイプ。
【請求項3】
Cr含有量は、Mo含有量の3倍以上である、請求項2に記載のパイプ。
【請求項4】
前記合金の熱膨張係数が、前記中空管体の熱膨張係数の1.0倍~1.4倍である、請求項1に記載のパイプ。
【請求項5】
前記中空管体は、鉄(Fe)を含む素材からなる、請求項に記載のパイプ。
【請求項6】
前記合金は、W、Y、Mn、Al、Zr、Ni、Sc及びPからなる群から選択される少なくともいずれか一つ以上である第3成分を含む、請求項1に記載のパイプ。
【請求項7】
前記第3成分は、前記Fe100重量部に対して、1.125重量部未満含まれる、請求項6に記載のパイプ。
【請求項8】
前記コーティング層の厚さが100μm~600μmである、請求項1から7のいずれか一項に記載のパイプ。
【請求項9】
前記コーティング層は、コーティング密度(coating density)が98~99.9%である、請求項1から7のいずれか一項に記載のパイプ。
【請求項10】
前記コーティング層のビッカース硬度は700~1,200Hvである、請求項1から7のいずれか一項に記載のパイプ。
【請求項11】
Cr及びMoからなる第1成分と、
C、Si及びNbからなる群から選択される少なくともいずれか一つ以上の元素とBとを含む第2成分と、Feとを含む組成の合金粉末を製造する、合金粉末の製造段階、及び
前記合金粉末を中空管体の外面に溶射して、非晶質相を有するコーティング層を形成するコーティング層の形成段階、を含み、
前記Fe100重量部に対して、
前記第1成分を30~140重量部含み、前記Moを18.0重量部以下で含み、前記第2成分を4~20重量部含む、パイプの製造方法。
【請求項12】
前記コーティング層の形成段階は、前記中空管体の表面に、直接、前記合金粉末を溶射して中空管体と前記コーティング層とを結合させる段階である、請求項11に記載のパイプの製造方法。
【請求項13】
前記コーティング層は、非晶質相の割合が90~100vol%である、請求項12に記載のパイプの製造方法。
【請求項14】
前記コーティング層の形成段階の後に前記コーティング層の表面を処理するコーティング層の表面処理段階をさらに含む、請求項13に記載のパイプの製造方法。
【請求項15】
前記コーティング層の熱膨張係数が前記中空管体の熱膨張係数の1.0倍~1.4倍である、請求項11に記載のパイプの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施例は、表面に合金コーティング層が形成されたパイプ及びその製造方法に関するものであって、より詳細には、高温の外部条件環境での耐腐食性に優れたコーティング層が外面に備えられたパイプ及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
火力発電所は、韓国だけでなく全世界でも80%ほどの電力を生産するほどに、電力生産量において大きな割合を占めている。韓国でも、火力発電所は、電力生産量の40%を占めている重要な発電設備である。
【0003】
石炭の燃焼過程で生成される温室ガスは、全体の発生量の25%を占めており、温室ガス排出による地球温暖化問題を解決するために、韓国を含むいくつかのOECD国家では、新再生エネルギー義務割当制(renewable energy portfolio)を施行している。
【0004】
また、火力発電所では、新再生エネルギー義務割当制の義務的履行の一環として、石炭燃料を、バイオマスに置き換えて燃焼するバイオマス混焼を適用している。バイオマスを活用した混焼は、温室ガスの排出の問題を解決できるだけでなく、廃棄物による環境汚染の問題、化石燃料の枯渇の問題を解決できるエネルギー源として脚光を浴びている。
【0005】
EUでは、1960年代に廃棄物による発電が普及し始めたが、ボイラー熱回収管の高温腐食問題が頻繁に発生した。このため、廃棄物の燃焼方法、ボイラー構造、ボイラー熱回収管の保護方法及び耐食材料などに対する多様な改善がなされてきた。
【0006】
バイオマス及び廃棄物焼却ボイラーは、石炭火力ボイラーに比べて非常に腐食性の強い環境にあるため、蒸発管及び過熱機関に損傷を引き起こすことが多い。EUでは水冷壁の管の腐食防止に対して耐火材によるライニングが早くから実用化され、米国では最近、高合金溶接(Overaying)が広く適用されている。また、過熱機関の腐食を防止するために、蒸気温度を500℃~450℃以下に下げたり、過熱器の入口のガス温度を650℃以下にするなど、過熱機関の表面温度を下げる方策が採択されており、ボイラー構造の改良も行われているが、代表的な例は、耐久性の大きいテールエンド(Tail-end)型ボイラーの採択である。
【0007】
しかし、石炭燃料をベースに設計された発電設備に、バイオマスなどの混焼を適用する際に、バイオマスに含まれた多量の塩素成分による高温腐食でもって、設備の耐久性が大きく低下するという問題が発生する。特に、熱交換器の外部で発生する火炎側の腐食では、バイオマス混焼時に、一般石炭の燃焼に比べて約4,000倍ほどの速い速度で腐食が進行する。このことは、熱交換器の厚さを減少させて、最終的に熱交換器の破断を引き起こす可能性がある。
【0008】
このように、焼却発電ボイラーの運営において最も大きな問題は、高温腐食の問題であり、施設稼働中断の原因の70%が高温腐食関連であることが知られており、さらに年間維持費の1/3が腐食関連であると推定された事例もある。
【0009】
また、発電所以外にも、航空機などに、高温で燃料を燃焼するガスタービン用部品が用いられており、高温腐食の現象によって母材表面が分解したり、亀裂が発生したりする問題が生じるおそれがある。
【0010】
このため、安定した運営に加え、運用費の節減など、稼働の経済性を確保するために、高温条件で用いられる配管やパイプは、その内部に流動する流体以外に、外面での優れた高温耐性、耐食性などが必要であり、熱遮蔽コーティング層(Thermal barrier coating、TBC)を金属母材の表面に形成することで、高温耐性及び寿命を向上させる方法が従来から用いられてきた。
【0011】
熱遮蔽コーティング層は、主に、セラミック素材またはアルミニウム酸化物、チタン酸化物、ジルコニウム酸化物またはシリカなどを含む素材からなるが、その成分によって、酸化、劣化、亀裂、剥離などの損傷が発生し、現実的に寿命水準は2~3年であり、寿命延長に限界があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の一実施例に係るパイプは、従来技術の問題点を解決するために案出されたものであり、高温及び酸性の過酷な腐食性環境における摩耗や腐食を防止して、寿命が向上したパイプを提供することを目的とする。
【0013】
また、腐食性の環境においても強度や機械的特性に優れ、高温条件や温度の急激な変化による表面での剥離や亀裂が少なく生じるコーティング層を含むパイプを提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一側面は、内部と外部に互いに異なる温度を有する流体が通る中空管体;及び、上記中空管体の外面に備えられ、非晶質相を含む合金を有するコーティング層;を含み、
上記合金はFeを含み、
Cr、Mo及びCoからなる群から選択される少なくともいずれか一つ以上である第1成分と、B、C、Si及びNbからなる群から選択される少なくともいずれか一つ以上である第2成分とを含むパイプであり、
ここで、上記合金の熱膨張係数が上記中空管体の熱膨張係数の1.0倍~1.4倍であることが好ましく、
上記中空管体は、鉄(Fe)を含む素材からなることが好ましい。
【0015】
また、上記Fe100重量部に対して、
上記第1成分を30~140重量部含み、上記第2成分を4~20重量部含むことが好ましく、
上記第2成分は、B、C、Si及びNbからなる群から選択される少なくとも2つ以上であることが好ましく、
上記合金は、W、Y、Mn、Al、Zr、Ni、Sc及びPからなる群から選択される少なくともいずれか一つ以上であることが好ましく、
上記第3成分は、上記Fe100重量部に対して、1.125重量部未満含まれることが好ましい。
【0016】
また、上記コーティング層の厚さが100μm~600μmであることが好ましく、コーティング密度(coating density)が98~99.9%であることが好ましく、ビッカース硬度は700~1,200Hvであることが好ましい。
【0017】
本発明の他の側面は、
Cr、Mo及びCoからなる群から選択される少なくともいずれか一つ以上である第1成分と、
B、C、Si及びNbからなる群から選択される少なくとも一つ以上である第2成分と、Feとを含む組成の合金粉末を製造する合金粉末製造段階、及び
上記合金粉末を中空管体の外面に溶射して非晶質相を有するコーティング層を形成するコーティング層の形成段階、を含むパイプの製造方法であって、
上記コーティング層の形成段階は、上記中空管体の表面に、直接、上記合金粉末を溶射して中空管体及び上記コーティング層を結合させる段階であることが好ましく、
上記コーティング層は、非晶質相の割合が90~100体積(vol)%であることが好ましい。
【0018】
また、上記コーティング層の形成段階の後に、上記コーティング層の表面を処理するコーティング層の表面処理段階をさらに含むことが好ましく、
上記コーティング層の熱膨張係数が、上記中空管体の熱膨張係数の1.0倍~1.4倍であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一側面であるパイプによると、中空管体の外面に形成されたコーティング層は、非晶質形成能の高い合金組成で構成されて形成されたコーティング層に含まれる非晶質相の割合が高く形成されるため、非晶質相が有する特性を良好に含むことができる。
【0020】
例えば、コーティング層は、母材として用いられる中空管体と熱膨張係数との差が1.0~1.4倍の範囲で備えられ、高温条件や大きな温度差においても、コーティング層が母材である中空管体から剥離するか、表面特性が低下するという問題が少なく発生することで寿命が長くなるという効果がある。
【0021】
また、本発明のコーティング層は、硬度に優れ、耐摩耗及び酸に対する耐食性に優れ、発電所などの熱交換器のような、高温の過酷な腐食性環境でも、パイプの稼働寿命が延長され、安定した設備の運転が可能となることから設備安定性及び経済性が向上するという効果を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明に係るコーティング層の試験片のXRDグラフであって、(a)~(e)は、それぞれ実施例1、3、4、5、6の鉄系非晶質合金粉末を適用したコーティング層の実施例の試験片のXRDグラフである。
図2】本発明に係るコーティング層の試験片のXRDグラフであって、(a)~(c)は、それぞれ比較例1、3、4の鉄系非晶質合金粉末を適用したコーティング層の実施例の試験片のXRDグラフである。
図3】本発明に係る実施例の鉄系非晶質合金粉末を用いた溶射コーティング層の試験片における非腐食/腐食された断面について光学顕微鏡を用いて観察したイメージ(倍率200倍)であって、(a)~(c)は、それぞれ実施例2、5、7の試験片の観察イメージである。
図4】比較例の合金粉末を用いた溶射コーティング層の試験片における非腐食/腐食された断面について光学顕微鏡を用いて観察したイメージ(倍率200倍)であって、(a)~(c)は、それぞれ比較例5、6、7の試験片の観察イメージである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明するが、本明細書で使用される用語は、特定の実施例を記述するためのものであり、本発明の範囲を添付の特許請求の範囲のみによって限定するためのものではないことに留意する必要がある。本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、特に断りのない限り、技術的に通常の技術を有する者に一般的に理解されるものと同一の意味を有する。
【0024】
ここで、1)添付された図面に示される形状、大きさ、割合、角度、個数などは、概略的なものとして多少変更されうる。2)図面は観察者の視線で示されるため、図面を説明する方向や位置は、観察者の位置によって多様に変更されうる。3)図面番号が異なっても、同一部分については同一符号が用いられる。
【0025】
4)「含む(comprise、comprises、comprising)、有する、成される」などが用いられる場合、「~のみ」が用いられない限り、他の部分が追加されうる。5)単数で説明されている場合でも、複数として解釈することができる。6)形状、大きさの比較、位置関係などにおいて、「約、実質的」などが用いて説明されなくても、通常の誤差範囲が含まれるように解釈される。
【0026】
7)「~後、~前、続いて、後に続き、この時(際)」などの用語が用いられても、時間的位置を限定する意味として用いられるものではない。8)「第1、第2、第3」などの用語は、単に区別の便宜のために選択的、交換的、または反復的に用いられ、限定的な意味として解釈されない。
【0027】
9)「~上に、~上部に、~下部に、~横に、~側面に、~間に」などで2つの部分の位置関係が説明される場合、「直、直ちに、すぐ」が用いられない限りは、2つの部分の間に1つ以上の他の部分が位置することもできる。10)複数の部分が「~または」で電気的に接続される場合は、これら部分単独だけでなく組み合わせも含まれるように解釈されるが、「~または、~のうちの1つ」で電気的に接続される場合には、これら部分単独として解釈される。
【0028】
本明細書において非晶質とは、通常の非結晶質、非晶質相としても用いられる、固体内結晶が行われていない、すなわち規則的な構造を有さない相をいう。
【0029】
また、本明細書において、鉄系非晶質合金粉末とは、鉄が最も多い重量比で含まれ、粉末内の非晶質が単に含まれたものではなく、実質的に大部分を占めることをいう。
【0030】
本発明の一側面は、コーティング層が形成されたパイプであって、内部に中空を有する中空管体の母材の外面に形成され、パイプの各種表面特性を向上させるか、または保護する役割を果たすことができる。ここでパイプとは、物体を輸送することが目的である配管を含むことはもちろんであり、管の内面と外面で熱交換が起こり得る中空管体のチューブを含む意味で用いられる。
【0031】
本発明の一実施例であるパイプは、発電所のボイラー熱交換器やエンジンタービンなどに用いられる部品である、パイプ、チューブなどの中空管体を母材として、その表面に形成されるコーティング層を含む。
【0032】
母材である中空管体は、内径及び外径を有するチューブの形態で内部と外部に互いに異なる流体が流れることができ、互いに異なる温度を有する流体が通るように用いられうる。本発明の一実施例のパイプは、ボイラーの本体を構成する煙管、水管などのパイプを含む概念であって、熱交換器を構成するパイプは、内部に熱交換のための冷却水が流れ、パイプの外部は、ボイラーの高温条件に長時間露出されて、スチーム、汚染物質などによる摩耗、浸食及び腐食の危険が非常に高い。
【0033】
例えば、ボイラーの場合に、燃焼室の内部温度は約400~500℃程度に達するのであり、発電所の場合は、500℃よりも高い温度条件でありうる。このとき、原料として用いられるガスの品質や燃料の種類に応じて、排ガスによる金属の侵食の現象が発生することがある。
【0034】
特に、燃焼過程にて、不純物として含まれた硫黄(S)成分が、空気中の酸素または水素と結合して、硫酸などに酸性化されうるのであり、耐酸性の低い金属材質の場合、配管の外壁が侵食される現象が発生しやすい。このような侵食は、配管の耐久性及び気密性を低下させ、熱交換効率を低下させる主要原因となる。
【0035】
母材であるパイプの大きさ、素材は制限されず、一般的にボイラーの熱交換器などで用いられるパイプであれば、その大きさ及び素材に関わらず、本発明のコーティング層が形成されうるが、好ましくは、鉄(Fe)を主要成分とする鉄系合金または鉄を含む鉄系素材からなる母材が用いられることがよい。
【0036】
母材であるパイプは、例えば、鉄(Fe)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)を含む合金が用いられうるのであり、より詳細には、クロムが9wt%、モリブデンが1wt%含まれた合金鋼がパイプ素材として用いられうる。
【0037】
コーティング層は、高温などの条件においても、酸化、腐食、摩耗、クラック発生などに対する耐性に優れた素材からなることが好ましい。コーティング層の素材としては、例えば、鉄系非晶質合金を含む素材が用いられうる。
【0038】
コーティング層は、非晶質相を含む合金からなる合金コーティング層であることが好ましい。合金コーティング層をなす非晶質合金は、Feを含む鉄系非晶質合金であることが好ましい。
【0039】
鉄系合金の組成としては、Feを主要成分として含み、Cr、Co及びMoからなる群から選択される少なくともいずれか一つ以上である第1成分と、B、C、Si及びNbからなる群から選択される少なくともいずれか一つ以上である第2成分を含むのであり、好ましくは、第2成分がB、C、Si及びNbの少なくとも2つ以上でありうる。
【0040】
より具体的には、合金に含まれるFe100重量部に対して、鉄系合金は、第1成分を30~140重量部、好ましくは35~100重量部、さらに好ましくは40~92重量部で含むことが好ましい。
【0041】
第1成分として含まれうるCr、Mo及びCoのうちの鉄系合金は、第1成分としてCrを必須に含むことが好ましく、Moを、Fe100重量部に対して18.0重量部以下、好ましくは10.0重量部以下で含まれることが好ましい。
【0042】
また、Fe系合金がCrを含む場合、Cr含有量は、Mo含有量の3倍以上、好ましくは4倍以上であることが良く、これはMoが第1成分として含まれずにCrが含まれる場合まで含む。
【0043】
鉄系合金におけるMo含有量が該当重量部の範囲を満たし、Cr及びMoの含有量が上述の割合を満たす場合、鉄系合金の非晶質形成能が向上し、非晶質相を主に含む合金コーティング層を形成することができ、コーティング層の耐摩耗特性が向上するという有利な効果がある。
【0044】
鉄系合金は、Fe100重量部に対して、第2成分を4~20重量部、好ましくは5~19重量部で含むことが良い。
【0045】
ここで、鉄系合金は、第2成分として、B、C、Si及びNbの少なくとも2つ以上を含むことができ、好ましくは第2成分として、Si、Nb、または、Si及びNbの両方を含むことができる。鉄系合金が第2成分としてSi、Nb、または、Si及びNbの両方を含む場合、すなわち、鉄系合金がSi及び/またはNbを含む場合、SiまたはNbはそれぞれ9重量部以下、好ましくは1.5~8.0重量部、より好ましくは2.0~6.0重量部で含まれることが良い。
【0046】
鉄系合金の第2成分としてSi、NbまたはSi及びNbの両方を含み、含まれるSiまたはNbがそれぞれ上述の重量部範囲で含まれる場合、鉄系合金の非晶質形成能が向上し、非晶質相を主に含む合金コーティング層を形成することができ、コーティング層の耐食性が向上する有利な効果がある。
【0047】
また、本発明は、W、Y、Mn、Al、Zr、Ni、Sc及びPからなる群から選択される少なくともいずれか一つ以上である第3成分をさらに含むことができる。
【0048】
ここで、Fe100重量部に対して、追加される第3成分の総合計は、1.125重量部未満、好ましくは1.0重量部以下、さらに好ましくは0.083重量部以下で含まれることが良い。
【0049】
また、第3成分は、Fe100重量部に対して、それぞれ0.9重量部以下、0.05重量部以下で含まれることが好ましく、該当範囲よりも高い含有量で含まれると非晶質形成能が著しく減少するという問題が発生しうる。
【0050】
鉄系合金が第1成分及び第2成分を該当範囲で含むか、第1成分~第3成分を該当範囲で含むのに伴い、非晶質形成能に優れた組成を有する場合、該当組成の鉄系合金が本発明の非晶質合金として用いられうるのであり、第1~第3成分の重量部の範囲が上述の範囲から外れる場合、非晶質形成能が低下し、表面での機械的特性が低下したり、摩擦係数が増加するという問題が発生しうる。
【0051】
合金組成に含まれる成分として含まれる鉄(Fe)は、コーティング層の剛性向上のために用いられる成分であり、目的とするコーティング層の強度に符合するように適宜可変させることができる。
【0052】
第1成分として含まれうるクロム(Cr)は、コーティング層の物理化学的特性、例えば、耐摩耗性及び耐食性などの物性向上のために用いられる成分であり、耐高温腐食性の向上に有効なクロム酸化物皮膜を形成することができるという利点を有する。
【0053】
第1成分として含まれうるモリブデン(Mo)は、コーティング層の物理化学的特性、例えば、耐摩耗性及び耐食性とともに耐摩擦性を付与するために用いられうる。
【0054】
第2成分のうち、ホウ素(B)、炭素(C)及びケイ素(Si)は、残りの構成成分との原子大きさの不整合(atomic size mismatch)またはパッキング効率(packing ratio efficiency)などによって非晶質形成能を向上させるために含まれうるのであり、Nbは、合金に含まれた他の第2成分であるCと反応して炭化物で析出されうるのであり、マトリックス中で分散性に優れ、コーティング層の耐熱性を向上させ、大きな温度変化に対する亀裂発生を抑制することができる。
【0055】
また、追加的に含有可能な第3成分の一例示であるニッケル(Ni)は、オーステナイト組織を形成して、合金及びコーティング層の耐熱性及び耐食性を向上させることができる。
【0056】
本発明の一側面によるパイプのコーティング層の厚さは、100μm~600μmであることが好ましい。具体的には、稼働環境の条件によってコーティング層の厚さが異なって適用されることも可能である。例えば、温度及び腐食の条件が過酷でない場合、300μm~400μmの厚さを有するコーティング層が備えられることが好ましく、環境条件が厳しい場合、400~500μmまたは500μm~600μmの厚さが好ましいのでありうる。
【0057】
コーティング層の厚さは、厚いほど寿命延長効果が長くなりうるが、該当範囲よりもさらに厚くなる場合、コーティング層の形成時間及びコーティング組成物の消耗量が大きくなって経済性に劣り、コーティング層が均一に形成されにくい。コーティング層の厚さが該当範囲よりも薄い場合、コーティング層に亀裂などの欠陥が発生するおそれがあり、耐摩耗、耐腐食の効果が十分でないのでありうる。
【0058】
一方、中空管体の母材を構成する主要金属である鉄(Fe)を、コーティング層の合金が主要成分として含む場合、両素材の熱膨張係数の差が少ないことから、内部と外部の温度差が大きく形成されるパイプを構成した際に、接合が安定して行われうる。
【0059】
具体的には、コーティング層をなす非晶質合金において、鉄(Fe)を高い割合で含む鉄系非晶質合金が用いられる場合、鉄系素材の中空管体の母材及びコーティング層の熱膨張係数が互いに類似した値を有するため、熱膨張係数の差が小さいのでありうる。パイプの高温条件での活用時に、周辺の大きな温度変化にも、母材からのコーティング層の剥離や、界面でのクラック、浮き上がりの現象などが発生しないという利点を有しうる。
【0060】
ここで、コーティング層に含まれる非晶質合金の熱膨張係数(A)は、パイプ母材の熱膨張係数(B)との差が少ないのでありうるのであり、具体的には熱膨張係数の割合(A/B)が1.0倍~1.4倍でありうるのであり、好ましくは1.0~1.3倍、より好ましくは1.2~1.25倍でありうる。
【0061】
熱膨張係数の割合が該当範囲よりも小さいかまたは大きい場合、母材とコーティング層の熱膨張係数の差が大きくなって、外部の温度変化が大きいか、高い温度の環境条件で、母材とコーティング層との結合が弱くなったり、コーティング層の寿命が低下するという問題が発生する可能性がある。
【0062】
コーティング層の形成方法は限定されず、該当組成のコーティング層を形成することができるコーティング方法であれば、通常の技術者が考慮することができる範囲内で多様なコーティング方法が用いられうるが、好ましくは、現場で直接施工が可能な超高速火炎溶射(HVOF: 高速フレーム溶射, High Velocity Oxy-Fuel)方式で行われることが好ましい。
【0063】
溶射コーティング方式によるコーティング層の形成時に、中空管体の母材の外面にコーティング層が形成されうるのであり、例えば、熱交換器やタービンなどに用いられるパイプの外面にコーティング層が形成されうる。溶射コーティング時のコーティング原料としては、合金ワイヤーまたは合金粉末などが活用されうるのであり、好ましくは合金粉末を用いることが好ましい。
【0064】
合金コーティング時に合金原料(Feed stock)として合金粉末を用いる場合、所望の合金組成を有する合金粉末を製造することによって、所望の合金組成のコーティング層を形成することができる。
【0065】
アトマイジング方法で合金粉末を製造するとき、非晶質相の割合が90%以上、95%以上、97%以上、99%以上、99.9%以上、実質的に100%で含まれる、非晶質相の割合が高い合金粉末が用いられうるのであり、上述の合金組成を用いる場合、高い非晶質形成能によって、高い割合で非晶質相を有する合金粉末を製造することができる。
【0066】
一般的に、コーティング層は、耐摩耗性を向上させると耐腐食性が低下したり、逆に耐腐食性を向上させると耐摩耗性が低下するという関係にある場合が多い。しかし、本発明の一実施例のような、非晶質の割合が高い合金コーティング層は、非晶質の特性上、高い耐摩耗性を有しながらも耐腐食性に優れる特徴があるため、腐食及び摩耗の両方によって損傷を受けるパイプの表面に形成される場合、優れた効果が得られる。
【0067】
鉄系非晶質合金粉末は、再溶融されるか、または高温に晒されて、再び冷却されて固化しても、上述の非晶質割合を維持する。ここで、アトマイジング方法によって製造された鉄系非晶質合金粉末内の非晶質割合(a)と、鉄系非晶質合金粉末を用いて作られた合金コーティング層の非晶質割合(b)は、次の式を満たす。
(式1)
0.9≦b/a≦1
【0068】
ここで、上記(b)を導出するために、鉄系非晶質合金粉末を用いてコーティング層を形成する方式としては、溶射コーティング、コールドスプレーなどを含む熱溶射(Thermal spray)方式と、スパッタリング、蒸着などの通常のコーティング方式が含まれうる。
【0069】
また、上記(式1)のb/aの割合は、好ましくは0.95~1.0であり、より好ましくは0.98~1であり、さらに好ましくは0.99~1でありうる。
【0070】
本発明の一実施例によって溶射コーティングのフィードストック(Feedstock)として活用される鉄系非晶質合金粉末は、平均粒径が1μm~150μmの範囲内でありうるが、これに限定されるものではなく、用途に応じてシービング(sieving; ふるい分け)処理により粉末サイズを調節することができる。
【0071】
本発明の一実施例に係るパイプのコーティング層は、非晶質合金からなることから優れた耐食性を有することができ、特に、比較的薄い厚さで形成されても耐食性に優れて寿命が長く、厚さを薄くすることができるため、熱伝達効率に優れるという利点がある。
【0072】
本発明のパイプは、母材とコーティング層との間に中間層または接合層を含むことができるが、接合層が必須に含まれる必要はなく、接合層を含まずに、母材の表面上に、直接、非晶質合金コーティング層が備えられることも可能である。非晶質合金コーティング層の熱膨張係数は、パイプ母材の熱膨張係数と類似するように形成され得ることから、接合層が存在しない場合でも剥離や亀裂などの問題が発生しないのでありうるため、コーティング工程の簡素化及び経済性を向上させるために、中間層または接合層を形成しないことが好ましい。
【0073】
本発明の他の実施例は、中空管体の表面にコーティング層を形成する際に、中空管体の表面に直接形成される第1コーティング層と、第1コーティング層上に形成される第2コーティング層とを含むパイプを開示する。
【0074】
第1及び第2コーティング層は、非晶質合金からなりうるのであり、組成を互いに異ならせるコーティング層、または、組成が同一であってコーティング方法が互いに異なるコーティング層を含むように形成され得るのであり、非晶質の組成または割合を異ならせるか、または気孔率を異ならせて形成したコーティング層でありうる。
【0075】
コーティング方法が互いに異なる非晶質合金層が中空管体に形成される場合、例えば、溶射コーティング、低温溶射、電気めっきまたは無電解めっきが用いられうる。
【0076】
第1及び第2コーティング層の非晶質相の割合が互いに異なる場合、外部環境に露出する第2コーティング層の非晶質相の割合が、第1コーティング層の非晶質相の割合よりも高いことが良い。
【0077】
コーティング層の気孔率は、コーティング方式によって異なりうるが、気孔率が小さく形成されることが好ましく、第2コーティング層の気孔率が、第1コーティング層の気孔率よりも小さいかまたは同一であるものが好ましい。
【実施例
【0078】
本発明の他の側面は、コーティング層の形成方法である。コーティング層の形成方法は、合金溶融液の準備段階、合金粉末の製造段階、コーティング層の形成段階を含んで行われる。
【0079】
合金溶融液の準備段階は、予め定められた重量比の組成に応じて合金を製造するために高温で溶融させて溶融液を製造する段階である。合金原料を溶融させる溶融方式は制限されず、誘導加熱など通常の技術者が合金溶融液を準備するために用いられる方式であれば、いずれも使用可能である。
【0080】
合金の組成で、含まれる元素が含有された原料を、予め計算された重量割合に応じて装入した後、溶融させて製造される合金溶融液の組成は、上述のコーティング層の組成と同一であるか、溶融過程で一部損失され得る元素の一部をより高い含有量で含むように調節された組成でありうる。
【0081】
合金溶融液の組成としては、Feを主要成分として含み、Cr、Co及びMoからなる群から選択される少なくともいずれか一つ以上である第1成分と、B、C、Si及びNbからなる群から選択される少なくともいずれか一つ以上である第2成分を含み、W、Y、Mn、Al、Zr、Ni、Sc及びPからなる群から選択される少なくともいずれか一つ以上である第3成分をさらに含むことができる。このとき、第2成分が、B、C、Si及びNbの少なくとも2つ以上であることが好ましい。
【0082】
合金溶融液は主要成分としてFeを含み、Fe100重量部に対して、第1成分を30~140重量部、好ましくは35~100重量部、さらに好ましくは40~92重量部含むことが良い。
【0083】
第1成分として含まれうるCr、Mo及びCoのうち、鉄系合金は第1成分としてCrを必須に含むことが好ましく、MoをFe100重量部に対して18.0重量部以下、好ましくは10.0重量部以下で含むことが好ましい。
【0084】
また、Fe系合金がCrを含む場合、Cr含有量はMo含有量の3倍以上、好ましくは4倍以上であり、これはMoが第1成分として含まれず、Crが含まれる場合まで含む。
【0085】
鉄系合金におけるMo含有量が該当重量部の範囲を満たし、Cr及びMoの含有量が上述の割合を満たす場合、鉄系合金の非晶質形成能が向上して非晶質相を主に含む合金コーティング層を形成することができ、コーティング層の耐摩耗特性が向上する有利な効果がある。
【0086】
合金溶融液は、Fe100重量部に対して、第2成分を4~20重量部、好ましくは5~19重量部含むことが良い。
【0087】
このとき、鉄系合金は、第2成分としてB、C、Si及びNbの少なくとも2つ以上を含むことができ、好ましくは第2成分としてSi、NbまたはSi及びNbの両方を含むことができる。鉄系合金が第2成分としてSi、NbまたはSi及びNbの両方を含む場合、すなわち、鉄系合金がSi及び/またはNbを含む場合、SiまたはNbはそれぞれ9重量部以下、好ましくは1.5~8.0重量部、より好ましくは2.0~6.0重量部含まれることが良い。
【0088】
鉄系合金の第2成分としてSi、NbまたはSi及びNbの両方を含み、含まれるSiまたはNbが、それぞれ上述の重量部範囲で含まれる場合、鉄系合金の非晶質形成能が向上して、非晶質相を主に含む合金コーティング層を形成することができ、コーティング層の耐食性が向上するという有利な効果がある。
【0089】
また、Fe100重量部に対して、第3成分がさらに含まれうるのであり、追加される第3成分の総合計は1.125重量部未満、好ましくは1.0重量部以下、さらに好ましくは0.083重量部以下で含まれることが良い。
【0090】
このとき、第3成分はそれぞれFe100重量部に対して、0.9重量部以下、0.05重量部以下含まれることが好ましく、該当範囲よりも高い含有量で含まれると非晶質形成能が著しく減少する問題が発生するおそれがある。
【0091】
合金溶融液が第1成分及び第2成分を該当範囲で含むか、第1成分~第3成分を該当範囲で含むことから非晶質形成能に優れた組成を有する場合、該当組成の合金溶融液が冷却されて得られる合金が、本発明のコーティング層素材として用いられうるのであり、第1~第3成分の重量部範囲が上述の範囲から外れる場合、合金組成の非晶質形成能が低下して、表面での機械的特性が低下するか、摩擦係数が増加するという問題が発生しうる。
【0092】
合金粉末製造段階は、合金溶融液を粉末の形態に製造する段階である。粉末の形態は制限されず、球状、フレーク(flake)状などの様々な形態が用いられうる。
【0093】
合金溶融液は、周知の方法、例えば、アトマイジング方法によって製造されうる。アトマイジング方法は、金属粉末を製造する公知の技術の1つであるため、本明細書においては、これに対する詳細な説明は省略した。
【0094】
アトマイジング方法は、溶融した合金溶液を落下させる際にガスまたは水を噴射して分裂させ、分裂した液滴状態の合金粉末を急速冷却して合金粉末に製造するものである。アトマイジング方法で非晶質粉末を製造するためには、分裂された液滴を急速に冷却する必要があるが、これは、合金溶液が結晶化する時間を与えずに固化させることで、非晶質化されるのに有利であるためである。
【0095】
したがって、アトマイジング方法で、より非晶質相の割合が高い合金粉末を製造するために、冷却速度を高めることができる特殊な冷却設備を備える必要がある。
【0096】
合金粉末は合金溶融液と同じ合金組成を有し、本発明の実施例は上述の合金組成を有するため、合金組成自体から非晶質相を高い割合で生成することができるという非晶質形成能に優れることから、通常のアトマイジング方法を用いても、高い割合の非晶質相を有する粉末が製造されうる。
【0097】
すなわち、特殊な冷却設備を備えない通常のアトマイジング方法の場合、10~10または10~10(℃/sec)の冷却速度下でも、本実施例の合金組成でもって非晶質相の粉末を製造することができる。ここで、101~2(℃/sec)は、実質的に空冷に近い冷却速度であって、合金溶液を空気中に噴出する場合の冷却速度である。
【0098】
コーティング層の形成段階は、母材の表面に非晶質合金粉末からコーティング層を形成する段階である。コーティング層の形成段階は、上記中空管体の表面に、直接、上記合金粉末を溶射して中空管体と上記コーティング層を結合させる段階でありうるのであり、コーティングの方法は制限されないが、溶射方式が用いられることが好ましく、好ましくは超高速火炎溶射方法が用いられることが良い。
【0099】
溶射(spray)は、金属や金属化合物を加熱して微細な容積の形状として、加工物の表面に噴霧して密着させる方法であって、超高速火炎溶射コーティング(HVOF)、プラズマコーティング、レーザークラッディングコーティング、一般火炎溶射コーティング、ディフュージョンコーティング及びコールドスプレーコーティング、真空プラズマコーティング(VPS、vacuum plasma spray)、低圧プラズマコーティング(LPPS、low-pressure plasma spray)などがこれに属する。
【0100】
本発明に係る鉄系非晶質合金粉末は、急激な冷却速度を確保しなくても非晶質を形成する非晶質形成能に優れることから、上述したようなコーティング層を作る工程を経ても、非晶質の割合がコーティング層にて低くならない。
【0101】
すなわち、非晶質相の割合が、90%以上、95%以上、99%以上、99.9%以上、実質的に100%で含まれる、高い粉末である本発明の鉄系非晶質合金粉末が溶射の材料として用いられる場合、コーティング層は非晶質相を全体の構造に対して90%以上、95%以上、99%以上、99.9%以上、実質的に100体積%で含むため、物性が非常に優れる。
【0102】
特に、本発明の合金粉末でもって超高速火炎溶射コーティングを行う場合には、非晶質割合が実質的にそのまま維持されるため、物性向上の程度が極大化する。
【0103】
また、本発明による鉄系非晶質合金粉末は、コーティング密度(coating density)が98~99.9%と非常に高く、気孔を通じた腐食物の浸透が抑制される。
【0104】
溶射コーティング用に用いられる合金粉末の粒度は10μm~100μm、好ましくは15μm~55μmであり、上記合金粉末の粒度が10μm未満である場合、溶射コーティング工程上、小さい粒子が溶射コーティングガン(gun)に付着して作業効率性が低下するおそれがあり、100μmを超える場合には、完全に溶解されず、母材にぶつかって(すなわち、コーティング層が形成できず、底に落ちて)、コーティングの生産性及び効率が低下するという問題が発生しうる。
【0105】
一方、本発明に係る鉄系非晶質合金粉末を含むコーティング層のビッカース硬度は、700~1,200Hv(0.2)、好ましくは800~1,000Hv(0.2)であり、摩擦係数(耐摩擦性)は100Nの荷重で0.001μm~0.08μm、好ましくは0.05μm以下であり、1,000Nの荷重で0.06μm~0.12μm、好ましくは0.10μm以下である。
【0106】
特に超高速火炎溶射によるコーティング層の場合、従来とは異なって断面積(cross section)に気孔がほとんど存在せず、最大密度(full density)を示し、気孔が存在しても約0.1%~1.0%に過ぎない気孔率を示しうる。
【0107】
すなわち、超高速火炎溶射コーティングが行われると、複数回のパス(path)が積み重なる構造が形成され、具体的には各層に、主に黒色で観察される金属の酸化物が積み重なり、波のような形状で多数の層が積層される。通常の場合、これによってコーティング層の性質が低下して脆弱になるが、本発明の場合にはコーティング層に気孔/酸化膜がないことから超高密度を示すようになり、コーティングの性能向上が可能である。その他に、上記鉄系非晶質合金粉末を含むコーティング層の耐摩耗性、耐食性及び弾性度も、従来の合金粉末を用いる場合に対して非常に優れる。
【0108】
本発明の一実施例は、コーティング層の形成段階の前に母材の表面を処理して母材とコーティング層の接着力を向上させるための母材表面処理段階をさらに含むことができる。
【0109】
母材表面処理段階は、コーティング層の形成段階が母材の表面に、直接、コーティング層を形成して、コーティング層と母材との間に中間層や接着層を要求しない場合に、さらに優れた効果を得ることができる。母材の表面処理段階では、母材の表面に既に形成されているコーティング層、錆、異物などを除去したり、表面の凹凸、不均一な部分を除去し、表面粗さを向上させ、コーティング層の剥離を防止し、接着力を増加させるための多様な方式の表面処理方法が用いられうるのであり、例えばブラスティングが用いられることができる。
【0110】
母材の表面処理段階は、ブラスティング装備を用いて、母材の表面のスケール、錆、塗膜などを除去し、接着力増加のために適当な表面粗さを形成するように行われる。
【0111】
また、コーティング層の形成段階の後に、コーティング層の表面を処理するためのコーティング層の表面処理段階が、さらに含まれうる。コーティング層の表面処理段階は、鉄系非晶質合金粉末からコーティング層が形成された後、コーティング層の表面に存在しうる気孔を塞いだり、または充填させたりして、コーティング層の耐腐食効果を増進させるとともに、寿命を延長するために含まれうる。
【0112】
コーティング層の表面処理段階では、例えば、シーリング(Sealing)剤のように、表面に形成されてコーティング層の内部に貫通する気孔などに、浸透して気孔を塞ぎ、外部の腐食性物質からコーティング層の耐腐食性能を強化することができる物質が、コーティング層の表面に処理されうる。
【0113】
シーリング剤の素材は制限されないが、高温及び温度差が大きい条件でも適用できる素材が用いられることが好ましく、例えば、熱硬化または高温用エポキシ樹脂などが用いられることが好ましい。
【0114】
以下では、本発明の理解を助けるために好ましい実施例を提示するが、下記実施例は本発明を例示するだけであって、本発明の範疇及び技術思想の範囲内で多様な変更及び修正が可能であることは、当業者にとって明らかであり、このような変更及び修正は、添付された特許請求の範囲に属するということも、もちろんである。
【0115】
実施例
実施例1~実施例8:鉄系非晶質合金粉末を用いたコーティング体の製造
下記表1のような成分及び重量比(weight ratio)組成で、窒素ガス雰囲気下のアトマイザ内に供給した後、溶融状態でアトマイズさせ、下記表1に記載した冷却速度で冷却することで、実施例1~実施例8の鉄系非晶質合金粉末を製造した。
【0116】
この後、実施例1~8の鉄系非晶質合金粉末を用いて装備名Oerlikon Metco Diamond Jet series HVOF gas fuel spray systemにより、燃料は酸素及びプロパンガスを用い、スプレー距離は30cmとして超高速火炎溶射(HVOF、High Velocity Oxygen Fuel)でもって、約0.3mm程度の厚さになるように、コーティング層を鉄系素材の母材の表面に形成した。このときに用いられた装置及び具体的な条件は、以下のとおりである。
【0117】
DJ Gun HVOF
[条件]Gun type:Hybrid、エアキャップ:2701、LPG流量(LPG Flow)160SCFH、LPG圧(LPG Pressure)90PSI、酸素流量(Oxygen flow)550SCFH、酸素圧(Oxygen Pressure)150PSI、気流量(Air flow)900SCFH、気流圧(Air Pressure)100PSI、窒素流量(Nitrogen flow)28SCFH、窒素圧(Nitrogen Pressure)150PSI、Gun speed:100m/min、Gun pitch:3.0mm、フィーダー速度(Feeder rate)45g/min、Stand-off distance:250mm
【0118】
【表1】
*D50(単位:μm)
【0119】
上記表1から分かるように、本発明による実施例は、鉄系合金組成を含んで、アトマイズ方式で冷却させて粉末平均粒径が20μm~40μmの範囲の合金粉末を製造した。
【0120】
比較例
比較例1~比較例7:鉄系合金粉末を用いたコーティング体の製造
下記表2のような成分及び重量比の組成で、窒素ガス雰囲気下のアトマイザ内に供給した後、溶融状態でアトマイズさせ、表2に示した冷却速度で冷却することで、比較例1~比較例7の鉄系合金粉末を製造した。
【0121】
この後、製造された合金粉末を用いて実施例と同様の方法で超高速火炎溶射してコーティング層を形成した。
【0122】
【表2】
*D50(単位:μm)
【0123】
上記表2に示したように、本発明による比較例は、組成成分を特定含有量の範囲で含み、アトマイズ方式で冷却させて粉末平均粒径が5μm~50μmの範囲の合金粉末を製造した。
【0124】
比較例8~比較例9:耐腐食性コーティング層の製造
耐腐食性に優れ、様々な用途で活用される常用の合金コーティング層として、比較例8(Inconel 625)、比較例9(Hastelloy C276)のコーティング層を製造した。用いられた合金の組成データは下記表3のとおりである。
【0125】
【表3】
【0126】
実験例
実験例1:合金粉末を用いた溶射コーティング層の硬度、気孔率評価
実施例3、4、6、7及び8と比較例1~4の溶射コーティング層についてHVS-10デジタル低負荷ビッカース硬度試験機(HVS-10 digital low load Vickers Hardness Tester Machine)を用いて、コーティング層の試験片の断面に対する微小硬度(Micro-hardness)試験を行い、試験片の断面について光学顕微鏡(Leica DM4 M)を用いて観察して気孔率を測定し、その結果を下記表4に示した。
【0127】
【表4】
【0128】
実験例2:合金粉末を用いたコーティング層の非晶質度の評価
実施例1、3、4、5、6で製造された鉄系非晶質合金粉末コーティング層の試験片についての、非晶質XRD(X線回折; X-Ray Diffraction)グラフを図1に示した。図1は、本発明に係るコーティング層の試験片についてのXRDグラフであって、(a)~(e)は、それぞれ、実施例1、3、4、5、6の鉄系非晶質合金粉末を適用したコーティング層の実施例についての試験片のXRDグラフである。
【0129】
図1によると、実施例の場合、広いXRDの第1ピークとともに追加ピークが確認されていないため、本発明による粉末は、非晶質構造からなることが分かった。
【0130】
また、比較例で製造された鉄系合金粉末コーティング層の試験片に対するXRDグラフを図2に示した。図2は、比較例のコーティング層の試験片のXRDグラフであって、(a)~(c)は、それぞれ比較例1、3、4の鉄系合金粉末を適用したコーティング層についての試験片のXRDグラフである。
【0131】
図2によると、比較例の場合、急激な第1ピークとともに追加ピークを示すことから、非晶質相のない構造の結晶性粉末であることが確認できた。
【0132】
実験例3:コーティング層の熱膨張係数の評価
実施例6~8及び比較例1~3の非晶質合金コーティング層についての試験片の熱膨張係数を測定し、母材の熱膨張係数との割合の値を計算して下記表5に示した。
【0133】
母材としては一般的に使用可能な鋳鉄素材を用い、鋳鉄の熱膨張係数は10.2ppm/℃を基準とした。
【0134】
【表5】
【0135】
実験例4:コーティング層の耐食性評価
図3は、本発明に係る実施例2、5、7の鉄系非晶質合金粉末を用いた溶射コーティング層についての試験片の非腐食/腐食された断面を、光学顕微鏡を用いて観察したイメージであり、(a)~(c)はそれぞれ実施例2、5、7の試験片の観察イメージであり、図4は、比較例5、6、7の合金粉末を用いた溶射コーティング層についての試験片の非腐食/腐食された断面を、光学顕微鏡を用いて観察したイメージであって、(a)~(c)は、それぞれ比較例5、6、7の試験片についての観察イメージである。
【0136】
具体的には、それぞれの溶射コーティング層の試験片を、室温下で濃度95~98%の硫酸(HSO)溶液に5分間浸漬した後、光学顕微鏡(Leica DM4 M)を用いて、腐食されていないコーティング層の試験片と、腐食されたコーティング層の試験片とについての断面(cross-section)及び表面(surface)を観察したのであり、図3及び図4において、左側は非腐食物を、そして右側は腐食物を示した。
【0137】
観察の結果、実施例2、5、7のコーティング層の試験片を用いた場合、図3に示したように、硫酸に浸漬した以前と以後の様子に特に違いがないため、耐食性に最も優れるということが確認できた。
【0138】
一方、比較例5、6、7のコーティング層の試験片を用いた場合、図4に示したように、腐食が強く進行し、非常に良くない耐食性を示した。
【0139】
これは、コーティング層の非晶質の有無に起因したものであって、実施例の場合にはコーティング層が強酸性の腐食物に全く反応しないのに対し、結晶質を含む比較例の場合にはコーティング層が腐食物に反応して腐食されることで、良くない耐食性を示すようになる。
【0140】
実験例5:コーティング層の高温耐腐食性の評価
実施例5、7及び8のコーティング層の試験片と、比較例8(Inconel 625)のコーティング層、比較例9(Hastelloy C276)のコーティング層を、バイオマス発電所の環境と類似した条件で腐食させ、腐食によって減るコーティング層の厚さである減肉厚さ(mm)を測定して、各コーティング層の高温耐腐食性を測定し、減肉厚さ(mm)を腐食時間(hr)で割って腐食速度(nm/hr)を計算し、下記表6に示した。
【0141】
実験に用いた腐食条件は温度が700℃であり、周囲環境は10%O、1000ppmのCl、残量のNであり、腐食時間は1,000時間とした。
【0142】
【表6】
【0143】
上述した各実施例で例示した特徴、構造、効果などは、実施例が属する分野の通常の知識を有する者によって他の実施例にも組み合わせまたは変形されて実施されることができる。したがって、このような組み合わせ及び変形に関係する内容は、本発明の範囲に含まれるものと解釈されるべきである。
図1
図2
図3
図4