(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-07
(45)【発行日】2024-03-15
(54)【発明の名称】未融合欠陥の非破壊検査方法、検査標準品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 10/38 20210101AFI20240308BHJP
G01N 29/30 20060101ALI20240308BHJP
B22F 10/28 20210101ALI20240308BHJP
B22F 10/36 20210101ALI20240308BHJP
B22F 10/366 20210101ALI20240308BHJP
B22F 10/80 20210101ALI20240308BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20240308BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240308BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20240308BHJP
B33Y 50/00 20150101ALI20240308BHJP
C22C 1/04 20230101ALI20240308BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240308BHJP
【FI】
B22F10/38
G01N29/30
B22F10/28
B22F10/36
B22F10/366
B22F10/80
B33Y80/00
B33Y10/00
B33Y50/02
B33Y50/00
C22C1/04 B
B22F1/00 M
(21)【出願番号】P 2022564469
(86)(22)【出願日】2020-12-28
(86)【国際出願番号】 CN2020139983
(87)【国際公開番号】W WO2021212894
(87)【国際公開日】2021-10-28
【審査請求日】2022-10-21
(31)【優先権主張番号】202010319677.7
(32)【優先日】2020-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522345951
【氏名又は名称】中国航発上海商用航空発動機製造有限責任公司
【氏名又は名称原語表記】AECC SHANGHAI COMMERCIAL AIRCRAFT ENGINE MANUFACTURING CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】NO.77 Hongyin Road, Nicheng Town, Pudong District, Shanghai 201306, China
(73)【特許権者】
【識別番号】519383452
【氏名又は名称】中国航発商用航空発動機有限責任公司
【氏名又は名称原語表記】AECC COMMERCIAL AIRCRAFT ENGINE CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】No.3998, South Lianhua Road, Minhang District, Shanghai 200241, China
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【氏名又は名称】岡部 博史
(72)【発明者】
【氏名】李 雅莉
(72)【発明者】
【氏名】雷 力明
(72)【発明者】
【氏名】付 俊
(72)【発明者】
【氏名】何 艷麗
(72)【発明者】
【氏名】鄭 寅嵐
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108195856(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110414873(CN,A)
【文献】特開2019-163941(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110496966(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0336331(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 10/00-12/90
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
付加製造ワーク未融合欠陥の非破壊検査に用いられる未融合欠陥標準品の製造方法であって、
前記標準品の未融合欠陥領域を設定し、前記未融合欠陥領域において、未融合欠陥が前記未融合欠陥領域に占める割合を第1の割合値に設定するステップAと、
前記未融合欠陥領域を製造するための付加製造成形プロセスを選択し、前記第1の割合値に対応する前記付加製造成形プロセスの第1のプロセスパラメータを取得するステップBと、
前記第1のプロセスパラメータに基づいて前記付加製造成形プロセスを実行して、前記未融合欠陥領域を形成するステップCと、
を含み、
前記付加製造成形プロセスは、選択的レーザ溶融成形プロセスであり、前記未融合欠陥領域の材料は、Hastelloy X合金であり、前記第1の割合値は0.4%-5.7%であり、前記第1のプロセスパラメータは、66J/m-113J/mの第1のレーザ線エネルギ密度、0.10mm-0.12mmの第1の走査間隔、7mm-10mmの第1のストライプ幅、0mm-0.05mmの第1のストライプラップ、及び0.02mm-0.03mmの第1の粉末敷き詰めの厚さを含み、前記第1のレーザ線エネルギ密度は、次の式で確定され、
【数1】
ここで、aは、第1の割合値であり、ηは、第1のレーザ線エネルギ密度である、ことを特徴とする未融合欠陥標準品の製造方法。
【請求項2】
前記ステップBにおいて、前記第1の割合値は5.7%であり、前記第1のレーザ線エネルギ密度は66J/mであり、前記第1の走査間隔は0.12mmであり、前記第1のストライプ幅は10mmであり、前記第1のストライプラップは0mmであり、前記第1の粉末敷き詰めの厚さは0.03mmであり、
又は、
前記ステップBにおいて、前記第1の割合値は0.4%であり、前記第1のレーザ線エネルギ密度は113J/mであり、前記第1の走査間隔は0.1mmであり、前記第1のストライプ幅は7mmであり、前記第1のストライプラップは0.05mmであり、前記第1の粉末敷き詰めの厚さは0.03mmであり、
又は、
前記ステップBにおいて、前記第1の割合値は1.7%であり、前記第1のレーザ線エネルギ密度は82J/mであり、前記第1の走査間隔は0.11mmであり、前記第1のストライプ幅は9mmであり、前記第1のストライプラップは0.03mmであり、前記第1の粉末敷き詰めの厚さは0.03mmである、ことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ステップAは、前記標準品の未融合欠陥がない本体領域を設定することをさらに含み、前記ステップBは、前記本体領域を製造するための別の付加製造成形プロセスを選択し、前記本体領域に対応する前記別の付加製造成形プロセスの第2のプロセスパラメータを取得することをさらに含み、前記ステップCは、前記第2のプロセスパラメータに基づいて前記別の付加製造成形プロセスを実行して、前記本体領域を形成することをさらに含む、ことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ステップBにおいて、前記別の付加製造成形プロセスは、選択的レーザ溶融成形プロセスであり、前記本体領域の材料は、Hastelloy X合金であり、前記別の付加製造成形プロセスの第2のプロセスパラメータは、170J/m-200J/mの第2のレーザ線エネルギ密度、0.08mm-0.10mmの第2の走査間隔、4mm-6mmの第2のストライプ幅、0.06mm-0.10mmの第2のストライプラップ、0.02mm-0.03mmの第2の粉末敷き詰めの厚さを含む、ことを特徴とする請求項3に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの加工品質検査分野に関し、特に付加製造ワーク未融合欠陥の検査方法、検査標準品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
付加製造(Additive Manufacturing、AM)技術は、3Dプリント、三次元プリント(Three Dimension Printing)技術と通称され、現在、金属付加製造技術が徐々に成熟し、既に航空宇宙、医療、自動車、原子力発電などの分野に幅広く応用されている。例えば、選択的レーザ溶融(Selective Laser Melting、SLM)は、最も有望なAM技術の一つであると考えられ、微細な集光スポットのレーザビームを成形エネルギ源として採用し、高速高精度走査ガルバノスキャナを加工ビーム制御ユニットとして採用し、かつより薄い層厚制御技術を採用するため、他のAM技術と比べて、SLM技術は、高緻密かつ高精度な成形品を得る面でより優位性があり、複雑なキャビティ、プロファイル、薄壁、変断面部品の直接成形を完成することができ、航空宇宙などの分野、例えば航空エンジンのプレスワールノズル、燃料ノズル、タービンブレードなどの部品に広く応用される。
【0003】
SLMプロセスにおける金属粉末材料は、迅速な溶融及び凝固との複雑な相変化過程が発生するため、SLM部材には未融合欠陥が存在しやすく、その原理としては、選択的レーザ溶融成形プロセスにおいて、入力されるレーザエネルギの不足のため、溶融プールの幅が狭く、走査パス上の粉末は完全に重ね合わせることができない。また、SLMプロセスが一層ずつプリントすることであるために、一旦局所的な未融合が生じると、表面が粗くなり、粗い表面が溶融金属の流れを妨げ、さらに新たな層にも欠陥が生じる。
【0004】
未融合欠陥に対する検査方法は、プリントワークをサンプリングし、顕微鏡での観察を行い、未融合欠陥の位置及び占有率を分析する方法が一般的であるが、この方法は、ワークにダメージを与える。
【0005】
航空宇宙用SLM部材は、現在で非破壊検査方法(例えば工業CT検査、超音波検査、放射線検査等)を広範に採用して部品の未融合位置及び未融合欠陥占有率等の特徴を検査して部品が使用要件を満たすか否かを分析評価する。従来の非破壊検査方法の一般的なステップとしては、工業CT検査を例とすると、設計段階で、孔構造を有する三次元モデルを設計し、孔径は、例えば、0.1mmであり、又は0.1mm、0.2mm、0.5mmなどの複数の組み合わせであってもよく、この三次元モデルに基づいて孔を有する標準品を製造し、標準品に対してCT検査標定を行って、孔欠陥を得て、孔径が0.1mmであり、対応する標定検査信号を得て、孔欠陥を明瞭に観察できるCT検査パラメータを確定し、続いてこのパラメータに基づき、ワークに対して非破壊検査を行い、ワークの試験検査信号を得て、試験検査信号と標定検査信号とを比較し、未融合位置及び未融合欠陥占有率等の特徴を含むワークの未融合欠陥状況を得ることができる。
【0006】
しかしながら、発明者は、長期的な実施によって、上記方法で未融合欠陥の状況を正確に検査できなかったのが、主に、孔が明確に検査できる検査パラメータによっては、未融合欠陥の状況を正確に反映できないということに起因することを見出した。
【0007】
そのため、本分野は、付加製造ワーク未融合の検査方法、検査標準品及びその製造方法を必要として、それによって、付加製造ワークの未融合欠陥に対する正確な非破壊検査を実現し、さらにテストして付加製造ワークの未融合欠陥とその力学的特性との関係を得ることができる。
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的は、付加製造ワークの未融合欠陥に対する正確な非破壊検査を実現するための、付加製造ワーク未融合の検査方法、検査標準品及びその製造方法を提供することである。
【0009】
本発明の一態様による、付加製造ワーク未融合欠陥の非破壊検査に用いられる未融合欠陥標準品の製造方法は、前記標準品の未融合欠陥領域を設定し、前記未融合欠陥領域において、未融合欠陥が前記未融合欠陥領域に占める割合を第1の割合値に設定するステップAと、前記未融合欠陥領域を製造するための付加製造成形プロセスを選択し、前記第1の割合値に対応する前記付加製造成形プロセスの第1のプロセスパラメータを取得するステップBと、前記第1のプロセスパラメータに基づいて前記付加製造成形プロセスを実行して、前記未融合欠陥領域を形成するステップCと、を含む。
【0010】
前記製造方法の一つ又は複数の実施例では、前記ステップBにおいて、前記付加製造成形プロセスは、選択的レーザ溶融成形プロセスであり、前記第1のプロセスパラメータは、第1のレーザ線エネルギ密度を含み、設定される前記第1の割合値が高いほど、それに対応して前記第1のレーザ線エネルギ密度を小さく設定する。
【0011】
前記製造方法の一つ又は複数の実施例では、前記未融合欠陥領域の材料は、Hastelloy X合金であり、前記第1の割合値は0.4%-5.7%であり、前記第1のプロセスパラメータは、66J/m-113J/mの第1のレーザ線エネルギ密度、0.10mm-0.12mmの第1の走査間隔、7mm-10mmの第1のストライプ幅、0mm-0.05mmの第1のストライプラップ、及び0.02mm-0.03mmの第1の粉末敷き詰めの厚さを含み、前記第1のレーザ線エネルギ密度は、次の式で確定され、
【0012】
【0013】
ここで、aは、第1の割合値であり、ηは、第1のレーザ線エネルギ密度である。
【0014】
前記製造方法の一つ又は複数の実施例では、前記ステップBにおいて、前記第1の割合値は5.7%であり、第1のレーザ線エネルギ密度は66J/mであり、前記第1の走査間隔は0.12mmであり、前記第1のストライプ幅は10mmであり、前記第1のストライプラップは0mmであり、前記第1の粉末敷き詰めの厚さは0.03mmであり、又は、前記ステップBにおいて、前記第1の割合値は0.4%であり、第1のレーザ線エネルギ密度は113J/mであり、前記第1の走査間隔は0.1mmであり、前記第1のストライプ幅は7mmであり、前記第1のストライプラップは0.05mmであり、前記第1の粉末敷き詰めの厚さは0.03mmであり、又は、前記ステップBにおいて、前記第1の割合値は1.7%であり、第1のレーザ線エネルギ密度は82J/mであり、前記第1の走査間隔は0.11mmであり、前記第1のストライプ幅は9mmであり、前記第1のストライプラップは0.03mmであり、前記第1の粉末敷き詰めの厚さは0.03mmである。
【0015】
前記製造方法の一つ又は複数の実施例では、前記ステップAは、前記標準品の本体領域を設定することをさらに含み、前記本体領域は、未融合欠陥がない。前記ステップBは、前記本体領域を製造するための別の付加製造成形プロセスを選択し、前記本体領域に対応する前記別の付加製造成形プロセスの第2のプロセスパラメータを取得することをさらに含む。前記ステップCは、前記第2のプロセスパラメータに基づいて前記別の付加製造成形プロセスを実行して、前記本体領域を形成することをさらに含む。
【0016】
前記製造方法の一つ又は複数の実施例では、前記ステップBにおいて、前記別の付加製造成形プロセスは、選択的レーザ溶融成形プロセスであり、前記本体領域の材料は、Hastelloy X合金であり、前記別の付加製造成形プロセスの第2のプロセスパラメータは、170J/m-200J/mの第2のレーザ線エネルギ密度、0.08mm-0.10mmの第2の走査間隔、4mm-6mmの第2のストライプ幅、0.06mm-0.10mmの第2のストライプラップ、0.02mm-0.03mmの第2の粉末敷き詰めの厚さを含む。
【0017】
本発明の別の態様による未融合欠陥標準品は、以上のいずれか一項に記載の製造方法によって製造される。
【0018】
本発明のまた別の態様による、付加製造ワークの未融合欠陥を検査するための未融合欠陥の非破壊検査方法は、上記標準品に対して非破壊検査を行い、前記標準品未融合欠陥の前記非破壊検査の標定検査信号を得て、前記非破壊検査の検査パラメータを確定するステップ1と、前記ステップ1で得られる前記検査パラメータに基づき、前記付加製造ワークに対して前記非破壊検査を行い、前記付加製造ワークの試験検査信号を得て、前記試験検査信号に基づいて前記付加製造ワークの未融合欠陥占有率を得るステップ2とを含む。
【0019】
前記非破壊検査方法の一つ又は複数の実施例では、検査方法は、前記付加製造ワークに対して力学的テストを行い、前記付加製造ワークの力学的特性を得て、前記未融合欠陥占有率と前記力学的特性との関係を得るステップ3をさらに含む。
【0020】
前記非破壊検査方法の一つ又は複数の実施例では、前記ステップ1は、以上に記載の標準品を製造することと、非破壊検査を行って前記標準品未融合欠陥の前記非破壊検査の標定検査信号を得て、前記非破壊検査の検査パラメータを確定することとを含む。
【0021】
以上をまとめると、本発明の進歩的な効果は、プロセスパラメータ調整の方式によって未融合欠陥を有する検査標準品を得て、付加製造ワークの未融合欠陥をよりリアルに反映し、より正確な標定結果を得ること、未融合欠陥の検査パラメータが明確に得られて、付加製造ワークの未融合欠陥非破壊検査結果の正確性及び信頼性を向上させること、及び、より正確に確実な付加製造ワークの未融合欠陥と付加製造ワークの力学的特性との間の関係を得ることを含む。
【0022】
本発明に係る上述した特徴、性質と利点、及び他の特徴、性質と利点は、以下の図面と実施例の説明から更に明らかになるであろう。また、図面は例示的なものに過ぎず、実物に比例して描画されるものではなく、さらにこれによって本発明の実際に請求する特許請求の範囲を限定すべきではないことに留意されたい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】一つ又は複数の実施例による付加製造ワーク未融合の検査標準品の製造方法のフローチャート
【
図2】一つ又は複数の実施例による標準品の構造概略図
【
図3】一実施例による第1の割合値の未融合欠陥の光学顕微鏡写真
【
図4】別の実施例による第1の割合値の未融合欠陥の光学顕微鏡写真
【
図5】また別の実施例による第1の割合値の未融合欠陥の光学顕微鏡写真
【
図6】レーザ線エネルギ密度と第1の割合値との対応グラフ
【
図7】一つ又は複数の実施例による標準品の本体領域の未融合欠陥がない光学顕微鏡写真
【
図8】一つ又は複数の実施例による付加製造ワーク未融合の検査方法のフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、記載された主題の技術的解決手段を実施するための様々な実施形態または実施例を開示する。本開示の内容を簡単にするために、各要素および配列の具体的な例を以下に説明するが、これらは単なる例であり、本発明の保護範囲を限定するものではないことを理解されたい。「一つの実施例」、「一実施例」、および/または「いくつかの実施例」は、本願の少なくとも1つの実施例に関連する特徴、構造、または特性を意味する。そのため、強調して注意すべきことは、本明細書において2つ以上の異なる箇所で記載された「一実施例」又は「一つの実施例」又は「1つの代替的実施例」は必ずしも同じ実施例を指すとは限らないことである。更に、本願の1つ又は複数の実施例の幾つかの特徴、構造又は特性を適切に組み合わせることができる。
【0025】
本出願は、フローチャートを用いて本出願の実施例のシステムに基づいて実行される操作を説明する。なお、前又は次の操作は、必ずしも順序に従って正確に実行されるとは限らない。また、他の操作をこれらのプロセスに追加するか、又はこれらのプロセスからあるステップ又は複数のステップの操作を除いてもよい。
【0026】
図1に示すように、一実施例では、付加製造ワーク未融合の検査標準品の製造方法は、以下のステップを含む。
ステップAでは、前記標準品の未融合欠陥領域を設定し、前記未融合欠陥領域において、未融合欠陥が前記未融合欠陥領域に占める割合を第1の割合値に設定する。
具体的には、未融合欠陥領域を設定するプロセスは、UG等のコンピュータ補助設計ソフトウェアによって実現されることができる。
図2を参照すると、標準品10の具体的な構造は、標準品10が未融合欠陥のない本体領域1及び未融合欠陥領域2を含んでもよい。しかしこれに限らない。未融合欠陥領域2は、
図2に示される1箇所の未融合欠陥領域2に限らず、複数の箇所であってもよい。1つの限界の例は、ワーク全体がいずれも未融合を有する可能性がある状況を標定するために、標準品10が未融合欠陥領域2のみを有するように設定される。未融合欠陥領域2の未融合欠陥が未融合欠陥領域に占める面積割合は、第1の割合値であり、第1の割合値は、標定する必要なデータポイントの必要に応じて設定される。複数の未融合欠陥領域2を有する標準品10の一つ又は複数の実施例では、複数の未融合欠陥領域2は、異なる第1の割合値を有してもよく、このようにすれば、標定のプロセスを加速し、異なる未融合欠陥占有率に対応する標定検査信号に対する同時標定を実現することができる。
【0027】
ステップBでは、前記未融合欠陥領域を製造するための付加製造成形プロセスを選択し、前記第1の割合値に対応する前記付加製造成形プロセスの第1のプロセスパラメータを取得し、
ステップCでは、前記第1のプロセスパラメータに基づいて前記付加製造成形プロセスを実行して、前記未融合欠陥領域を形成する。
【0028】
具体的には、例えば一実施例では、第1の割合値を5.7%に設定し、付加製造プロセスは、選択的レーザ溶融成形プロセスであり、EOS M280という選択的レーザ溶融成形機器を採用し、成形材料は、Hastelloy X合金であり、第1のプロセスパラメータを以下のように設定し、すなわち、第1のレーザ線エネルギ密度が66J/mであり、第1の走査間隔が0.12mmであり、第1のストライプ幅が10mmであり、第1のストライプラップが0mmであり、第1の粉末敷き詰め層の厚さが0.02mm-0.03mmであるように設定し、この実施例は、0.03mmであり、得られる未融合欠陥領域の光学顕微鏡写真は、
図3に示す通りである。
【0029】
例えば別の実施例では、第1の割合値を0.4%に設定し、付加製造プロセスは、選択的レーザ溶融成形プロセスであり、EOS M280という選択的レーザ溶融成形機器を採用し、成形材料は、Hastelloy X合金であり、第1のプロセスパラメータを以下のように設定し、すなわち、第1のレーザ線エネルギ密度が113J/mであり、第1の走査間隔が0.1mmであり、第1のストライプ幅が7mmであり、第1のストライプラップが0.05mmであり、第1の粉末敷き詰め層の厚さが0.02mm-0.03mmであるように設定し、この実施例は、0.03mmであり、得られる未融合欠陥領域の光学顕微鏡写真は、
図4に示す通りである。
【0030】
例えばまた別の実施例では、第1の割合値を1.7%に設定し、付加製造プロセスは、選択的レーザ溶融成形プロセスであり、EOS M280という選択的レーザ溶融成形機器を採用し、成形材料は、Hastelloy X合金であり、第1のプロセスパラメータを以下のように設定し、すなわち、第1のレーザ線エネルギ密度が82J/mであり、第1の走査間隔が0.11mmであり、第1のストライプ幅が9mmであり、第1のストライプラップが0.03mmであり、第1の粉末敷き詰め層の厚さが0.02mm-0.03mmであるように設定し、この実施例は、0.03mmであり、得られる未融合欠陥領域の光学顕微鏡写真は、
図5に示す通りである。
【0031】
ストライププリントの具体的な方式は、当業者によく知られており、例えば、EOS M280という選択的レーザ溶融成形機器の使用マニュアルを参照してもよく、学術論文、例えばSun Z,Tan X,Tor S B,et al.Selective laser melting of stainless steel 316L with low porosity and high build rates[J].Materials&Design,2016,104:197-204を参照してもよく、ここでこれ以上説明しない。
【0032】
第1の割合値に対応する第1のプロセスパラメータは、試験の方法で得られて、文献資料を調べること、及びフィッティングシミュレーションを行う方式で計算することによっても得られる。一般的には、レーザ体積エネルギ密度に基づいて試験又は計算を行い、体積エネルギ密度は、レーザ線エネルギ密度、ストライプラップ幅及び走査間隔を含み、その原理は、未融合欠陥が主に成形プロセスにおけるエネルギ不足に起因することである。ストライプラップが小さいほど、ストライプ領域の連結部の材料が溶融した後に十分な冶金結合が形成できず、冶金結合が不十分な箇所に未融合欠陥が発生する。走査間隔が大きいほど、隣接する走査トラックの間の材料も冶金結合不足により未融合欠陥が発生する。
【0033】
しかし、発明者は、研究において、第1の割合値が0.4%-5.7%である場合、ストライプ第1の走査間隔が0.10mm-0.12mmであり、第1のストライプ幅が7mm-10mmであり、第1のストライプラップが0mm-0.05mmであり、かつ第1の粉末敷き詰めの厚さが0.02mm-0.03mmである範囲内に、未融合欠陥の形成がレーザ線エネルギ密度のみに関連付けられ、且つ式によって迅速に得ることができることを意外に見出した。
【0034】
【0035】
ここで、aは、第1の割合値であり、ηは、第1のレーザ線エネルギ密度である。
【0036】
図6に示すように、第1の割合値及び第1のレーザエネルギ密度の実際値は、式とほぼ一致している。具体的な実際値は、次の表に示す通りであり、
【0037】
【0038】
そのため、第1の割合値が0.4%-5.7%の範囲内に対して、式によって対応する第1のプロセスパラメータを迅速に正確に確定し、製造効率を向上させることができる。
【0039】
また、
図3から
図5から分かるように、第1の割合値が0.4%-5.7%の範囲内にも、個別の未融合欠陥のみが存在し、クラック欠陥等の他の欠陥形式が混在することはなく、これによって標準品を製造し、より正確な未融合欠陥を検査する検査パラメータを得ることができる。
【0040】
当業者であれば、理解できるように、以上の実施例では、付加製造プロセスは、選択的レーザ溶融成形プロセスであるが、これに限定されず、未融合欠陥が発生する可能性のある任意の付加製造プロセスのワークであれば、いずれも適用可能であり、材料もHastelloy X合金に限らず、他の材料であってもよい。ここで採用されるHastelloy X合金は、高緻密かつ高精度な成形部材という面で広く応用され、航空宇宙等の分野、例えば航空エンジンのプレスワールノズル、燃料ノズル、タービンブレード等の部品に広く応用される。第1の割合値の範囲を0.4%-5.7%に設定する原理は、発明者が長期的な実施で見出したものであり、すなわち、第1の割合値の0.4%-5.7%の未融合欠陥が、Hastelloy X合金の選択的レーザ溶融成形の高緻密かつ高精度な成形品に対する影響は最大となる一方第1の割合値が0.4%よりも小さい場合、未融合欠陥がない場合とほぼ等しく、ワークの性能に対する影響が限られる。第1の割合値が5.7%よりも大きい場合、成形プロセスにおいて走査層の品質不良(粗さの大きさ、粉末敷き詰めカッター異音など)ことを直接観察することができ、未融合非破壊検査を行う必要がなく、直ちに放棄して改めてプリントして製造すればよく、その後にも影響を与えない。理解できるように、以上の記述により、本件の方法を採用して製造される標準品は、第1の割合値0.4%-5.7%に対応する標定検査信号を正確に標定することができ、それにより、未融合欠陥占有率が0.4%-5.7%であるワークの未融合欠陥を正確に検査し、特にHastelloy X合金の選択的レーザ溶融成形の高緻密かつ高精度な成形品の非破壊検査に適用されることが明らかになる。理解できるように、本件は、他の材料にも適用可能であり、未融合欠陥が発生する可能性のある他の付加製造プロセスのワークについて、第1の割合値は、0.4%-5.7%に限らず、他の範囲であってもよい。
【0041】
いくつかの実施例では、本体領域1を有する標準品について、ステップBは、本体領域の付加製造をさらに含んでもよく、例えば、別の付加製造プロセスによる付加製造をさらに含んでもよく、そのプロセスパラメータは、第2のプロセスパラメータである。一実施例では、この別の付加製造成形プロセスは、選択的レーザ溶融成形プロセスであり、本体領域の材料は、Hastelloy X合金であり、第2のプロセスパラメータは、170J/m-200J/mの第2のレーザ線エネルギ密度、0.08mm-0.10mmの第2の走査間隔、4mm-6mmの第2のストライプ幅、0.06mm-0.10mmの第2のストライプラップ、0.02mm-0.03mmの第2の粉末敷き詰めの厚さを含み、この実施例では、第2のレーザ線エネルギ密度は185J/mであり、第2の走査間隔は0.09mmであり、第2のストライプ幅は5mmであり、第2のストライプラップは0.06mmであり、第2の粉末敷き詰めの厚さは0.03mmであり、得られる本体領域の光学顕微鏡写真は、
図7に示す通りである。
【0042】
図8を参照すると、一実施例では、付加製造ワーク未融合の非破壊検査方法は、
以上の製造方法で製造して得られる標準品10に対して非破壊検査を行い、標準品10未融合欠陥の非破壊検査の標定検査信号を得て、未融合欠陥の非破壊検査を明確に反映できる検査パラメータを確定するステップ1と、
前記ステップ1で得られる前記検査パラメータに基づき、前記付加製造ワークに対して前記非破壊検査を行い、前記付加製造ワークの試験検査信号を得て、前記試験検査信号に基づいて前記付加製造ワークの未融合欠陥占有率を得るステップ2と、を含む。
【0043】
具体的には、例えば工業CTの非破壊検査を行い、まず、標準品10に対して非破壊検査を行い、未融合欠陥を明瞭に反映できるまで、検査パラメータを調整し、標準品の非破壊検査画像を得る。ステップ2において、ステップ1で得られる工業CTの検査パラメータに基づき、付加製造ワークに対して非破壊検査を行い、試験検査画像を得て、画像に基づいて付加製造ワークの未融合欠陥占有率を得る。理解できるように、非破壊検査は、超音波検査であってもよく、ステップは類似なものであり、検査信号は、波形画像であり、標定検査信号と試験検査信号を比較してフィッティングを行う必要がある。工業CTは、超音波と比べてより直感的であるが、コストもより高い。当業者であれば、理解できるように、以上のステップは、他の非破壊検査方法にも適用可能であり、工業CT、超音波検査に限定されない。
【0044】
いくつかの実施例では、ステップ1の具体的なステップは、標準品を製造し、続いて非破壊検査を行ってもよい。このようにすれば、計算結果は、より正確で確実となる。しかしながら、このように限定されず、例えば、標準品の一括加工購入を事前に依頼し、検査すべきときに非破壊検査を行ってもよい。
【0045】
以上をまとめると、実施例の標準品の製造方法、標準品及び未融合欠陥検査方法を採用する有益な効果は、プロセスパラメータ調整の方式によって未融合欠陥を有する検査標準品を得て、付加製造ワークの未融合欠陥をよりリアルに反映し、より正確な標定結果を得ること、及び、未融合欠陥の検査パラメータを明確に得て、付加製造ワークの未融合欠陥非破壊検査結果の正確性及び信頼性を向上させることである。その原理は、
図3~
図5に示すように、発明者は、未融合欠陥が、気孔欠陥3を引き起こす以外に、他の表現形式で存在し得て、例えば、気孔において未融合粉末が充填される充填欠陥4で存在し得る。充填欠陥4のタイプの欠陥も未融合欠陥において一定の割合を占めるため、プロセスパラメータの調整により真の未融合欠陥の標準品を製造する必要がある。これにより、構造設計孔の標準品を採用して非破壊検査パラメータを得て未融合欠陥の状況を正確に反映できないという問題を回避することができる。
【0046】
さらに、いくつかの実施例では、検査方法は、この付加製造ワークに対して力学的テストを行い、前記付加製造ワークの力学的特性を得て、且つさらにこの未融合欠陥占有率とこの力学的特性との関係を得るステップ3をさらに含む。力学的テストは、具体的には、引張、耐久性、疲労等の強度評価試験であってもよく、このようにして得られる性能評価結果は、未融合欠陥とワークの力学的特性との関係を実際に分析して研究することができ、付加製造成形ワーク、例えばSLM成形ワークの応用に有力な理論的サポートを提供することができる。
【0047】
以上をまとめると、上記実施例を採用して標準品の製造方法、標準品及び未融合欠陥検査方法を提供する有益な効果は、プロセスパラメータ調整の方式によって未融合欠陥を有する検査標準品を得て、付加製造ワークの未融合欠陥をよりリアルに反映し、より正確な標定結果を得ること、未融合欠陥の検査パラメータを明確に得て、付加製造ワークの未融合欠陥非破壊検査結果の正確性及び信頼性を向上させること、及び、より正確に確実な付加製造ワークの未融合欠陥と付加製造ワークの力学的特性との間の関係を得ることである。
【0048】
本発明は、上記の実施例によって前記の通り開示されるが、本発明を限定するものではなく、当業者であれば、本発明の趣旨と範囲から逸脱することなく、種々の変更や修正をすることができる。そのため、本発明の技術的解決手段の内容から逸脱しない限り、本発明の技術趣旨に基づいて以上の実施例に対して行われたいかなる修正、等価物による変更及び修飾は、全て本発明の特許請求の範囲に限定される範囲には含まれるべきである。