(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-07
(45)【発行日】2024-03-15
(54)【発明の名称】歯車装置
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20240308BHJP
F16H 55/06 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
F16H1/32 B
F16H55/06
(21)【出願番号】P 2023020844
(22)【出願日】2023-02-14
(62)【分割の表示】P 2019096548の分割
【原出願日】2019-05-23
【審査請求日】2023-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】田村 光拡
(72)【発明者】
【氏名】山本 章
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 真大
(72)【発明者】
【氏名】的場 年昭
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-155313(JP,A)
【文献】特開2015-224684(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
F16H 55/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外歯歯車と、
前記外歯歯車と噛み合う内歯歯車が設けられた内歯部材と、を備える歯車装置であって、
前記内歯部材は、樹脂系素材により構成され、
前記外歯歯車との噛み合いによる前記内歯歯車の径方向外側への変形を拘束する補強部材を備え、
前記補強部材は、前記内歯歯車の内歯と径方向に重なる位置に設けられ、
前記内歯部材には、前記補強部材とは別に設けられるボルトが、
前記補強部材の前記内歯と径方向に重なる箇所に対して、軸方向から見て重なる位置にねじ込まれる歯車装置。
【請求項2】
前記補強部材は、無端リング状をなす請求項1に記載の歯車装置。
【請求項3】
前記補強部材は、前記内歯部材の外周部に嵌合され、金属系素材により構成される請求項1に記載の歯車装置。
【請求項4】
前記外歯歯車と噛み合う他の内歯歯車が設けられ樹脂系素材により構成された他の内歯部材と、
前記外歯歯車との噛み合いによる前記他の内歯歯車の径方向外側への変形を拘束する他の補強部材と、を備え、
前記他の内歯部材には、前記他の補強部材とは別に設けられる他のボルトが、前記他の内歯歯車の内歯と径方向から見て重なる位置、又は、径方向において前記他の補強部材と前記他の内歯歯車の内歯と間の位置に設けられる請求項1に記載の歯車装置。
【請求項5】
前記補強部材は、径方向から見て、前記内歯歯車の内歯の軸方向中央部を含む範囲と重なる位置に設けられる請求項
1に記載の歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、歯車装置の用途が多様化しており、その軽量化を要請される場合がある。この要請に応える歯車装置として、特許文献1には、内歯歯車を有する内歯部材を樹脂系素材により構成した歯車装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、特許文献1の技術を検討したところ、次の新たな認識を得た。樹脂系素材は、通常、金属製素材と比べて剛性が低い。よって、樹脂系素材の内歯部材を用いる場合、金属製素材を用いる場合と比べ、外歯歯車との噛み合いにより内歯歯車が径方向外側に変形し易くなる。これに伴い、外歯歯車と内歯歯車の正常な噛合いを確保できなくなることがある。特許文献1の技術は、この観点から工夫を講じたものではなく、改良の余地があった。
【0005】
本発明のある態様は、こうした状況に鑑みてなされ、その目的の1つは、軽量化を図りつつ、外歯歯車と内歯歯車の正常な噛合いを確保できる歯車装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述の課題を解決するための本発明のある態様は歯車装置である。この態様の歯車装置は、外歯歯車と、前記外歯歯車と噛み合う内歯歯車が設けられた内歯部材と、を備える歯車装置であって、前記内歯部材は、樹脂系素材により構成され、前記外歯歯車との噛み合いによる前記内歯歯車の径方向外側への変形を拘束する補強部材を備え、前記内歯部材には、前記補強部材とは別に設けられるボルトが、前記内歯歯車の内歯と径方向から見て重なる位置、又は径方向において前記補強部材と前記内歯との間の位置にねじ込まれる。
【発明の効果】
【0007】
本発明のある態様によれば、軽量化を図りつつ、外歯歯車と内歯歯車の正常な噛合いを確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態の一例を説明する。同一の構成要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。各図面では、説明の便宜のため、構成要素の一部を適宜省略したり、その寸法を適宜拡大、縮小する。図面は符号の向きに合わせて見るものとする。本明細書で言及する構造や形状には、言及している形状に厳密に一致する構造や形状のみでなく、寸法誤差や製造誤差等の誤差の分だけずれた構造や形状も含まれる。
【0010】
図1を参照する。実施形態の歯車装置10は、主に、入力部材12と、外歯歯車14と、内歯部材16と、ケーシング18と、キャリヤ20と、出力部材22を備える。内歯部材16には外歯歯車14と噛み合う内歯歯車24が設けられる。以下、内歯歯車24の中心軸線Laに沿う方向を単に「軸方向X」といい、その中心軸線La周りの周方向、径方向に関して、単に「周方向」、「径方向」という。
【0011】
本実施形態の歯車装置10は、後述する起振体26により外歯歯車14を撓み変形させつつ動かすことで外歯歯車14を自転させ、その自転成分を出力する撓み噛み合い型歯車装置である。本実施形態の歯車装置10は、複数の内歯部材16を用いた、いわゆる筒型の撓み噛み合い型歯車装置である。
【0012】
入力部材12は、駆動装置(不図示)と連結され、その駆動装置から回転が入力される。駆動装置は、たとえば、モータ、ギヤモータ、エンジン等である。駆動装置は、入力部材12に対して軸方向Xの一方側(図中右側)に配置される。以下、説明の便宜から、軸方向Xの一方側を入力側といい、他方側(図中左側)を反入力側という。
【0013】
本実施形態の入力部材12は、いわゆる起振体26が構成する。起振体26は、自らの回転により外歯歯車14を撓み変形させることができる程度の剛性を持つ筒状部材である。起振体26は、軸方向Xの中間部に中間軸部26aを備える。中間軸部26aの軸方向Xに直交する断面の外周形状は楕円状をなす。本明細書での「楕円」とは、幾何学的に厳密な楕円に限定されず、略楕円も含まれる。
【0014】
外歯歯車14は、入力部材12の外周側に配置され、入力部材12との間に配置される第1軸受28を介して入力部材12に回転自在に支持される。本実施形態の外歯歯車14は、可撓性を持つ筒状部材であり、起振体26の中間軸部26aの外周側に配置される。
【0015】
内歯部材16は、外歯歯車14の外周側に配置される環状部材であり、その内周部に内歯歯車24が設けられる。内歯歯車24は、内歯部材16の内周部に全周に亘る範囲で設けられる複数の内歯により構成される。本実施形態の内歯部材16は、起振体26の回転に追従して変形しない程度の剛性を持つ。本実施形態の内歯部材16には、入力側に配置される減速用内歯部材16A(第1内歯部材)と、反入力側に配置される出力用内歯部材16B(第2内歯部材)とが含まれる。
【0016】
本実施形態の減速用内歯部材16Aは外部部材(不図示)に固定される。減速用内歯部材16Aの内周部には外歯歯車14と噛み合う減速用内歯歯車24A(第1内歯歯車)が設けられる。減速用内歯歯車24Aは、外歯歯車14と異なる歯数、本実施形態では、外歯歯車14よりも多い歯数である。これにより、起振体26が一回転したとき、減速用内歯歯車24Aと外歯歯車14の歯数差に応じた回転位相のずれが外歯歯車14に生じ、そのずれ分の自転が外歯歯車14に生じる。減速用内歯歯車24Aは、起振体26の回転に連動して外歯歯車14を自転させることになる。外歯歯車14は、減速用内歯歯車24Aと外歯歯車14の歯数差に応じた減速比のもと起振体26の回転数よりも減速した回転数で自転する。
【0017】
出力用内歯部材16Bの内周部には外歯歯車14と噛み合う出力用内歯歯車24B(第2内歯歯車)が設けられる。出力用内歯歯車24Bは、外歯歯車14と同じ歯数である。これにより、起振体26が一回転することで外歯歯車14が自転したとき、その自転成分と同じ大きさの回転が出力用内歯部材16Bに出力される。出力用内歯歯車24Bは、起振体26の回転に連動して外歯歯車14が自転したとき、その自転成分と同期することになる。
【0018】
ケーシング18は、歯車装置10の最外周部に設けられる環状部材である。本実施形態のケーシング18は、出力用内歯歯車24Bに対して径方向外側に配置される。ケーシング18と出力用内歯歯車24Bとの間には主軸受30が配置される。本実施形態のケーシング18は、主軸受30を介して出力用内歯歯車24Bを回転自在に支持する。本実施形態のケーシング18は嵌め合い、ボルト等を用いて減速用内歯歯車24Aと一体化される。
【0019】
主軸受30は、転動体30aと、内輪30bと、外輪30cとを備える。本実施形態の転動体30aは球体であるが、ころ等でもよい。本実施形態において、内輪30bは出力用内歯部材16Bとは別の部材により構成され、外輪30cはケーシング18とは別の部材により構成される。内輪30bは出力用内歯部材16Bにより構成されてもよいし、その外輪30cはケーシング18により構成されてもよい。
【0020】
本実施形態のキャリヤ20には、入力側に配置される入力側キャリヤ20Aと、反入力側に配置される反入力側キャリヤ20Bとが含まれる。本実施形態の入力側キャリヤ20Aは、第1ボルトB1を用いて減速用内歯歯車24Aと連結されることで、減速用内歯歯車24Aと一体化される。本実施形態の反入力側キャリヤ20Bは、第2ボルトB2を用いて出力用内歯歯車24Bと連結されることで、出力用内歯歯車24Bと一体化される。各キャリヤ20と入力部材12との間には第2軸受32が配置され、キャリヤ20は入力部材12を第2軸受32を介して回転自在に支持する。
【0021】
出力部材22は、被駆動装置と連結されることで被駆動装置と一体化され、被駆動装置に回転動力を出力する。本実施形態の出力部材22は反入力側キャリヤ20Bである。
【0022】
以上の歯車装置10の動作を説明する。
【0023】
駆動装置から入力部材12に回転が伝達されると、外歯歯車14及び内歯歯車24が構成する減速機構を介して出力部材22に回転が伝達される。このとき、入力部材12の回転は、減速機構の減速比で減速されたうえで出力部材22から被駆動装置に出力される。
【0024】
本実施形態では、起振体26(入力部材12)の回転に追従して、起振体26の中間軸部26aにより第1軸受28を介して楕円状に外歯歯車14が撓み変形させられる。このとき、外歯歯車14は、内歯歯車24との噛合位置を周方向に変えつつ、起振体26の中間軸部26aの形状に合うように撓み変形させられる。これにより、外歯歯車14は、起振体26が一回転するごとに、外歯歯車14と減速用内歯歯車24Aとの歯数差に相当する分、減速用内歯歯車24Aに対して相対回転(自転)する。このとき、出力用内歯歯車24Bは、入力部材12が一回転する前後で外歯歯車14に対する相対的な噛合位置を変えないまま、外歯歯車14の自転成分に同期して回転する。この出力用内歯歯車24Bの回転は反入力側キャリヤ20B(出力部材22)から被駆動装置に出力される。
【0025】
図2を参照する。以上の内歯部材16は、樹脂系素材により構成される。本実施形態では減速用内歯部材16A及び出力用内歯部材16Bの両方が樹脂系素材により構成される。ここでの「樹脂系素材」には、エンジニアリングプラスチック等の他、炭素繊維強化樹脂、硝子繊維強化樹脂等の繊維強化樹脂、つまり、複合材料が含まれる。これにより、内歯部材16に金属系素材を用いる場合より、内歯部材16の軽量化が図られる。ここでの「金属系素材」には、鋳鉄、鋼を含む鉄系素材、アルミニウム合金を含むアルミニウム系素材が含まれる。
【0026】
減速用内歯部材16Aは、第1環状部34と、第1環状部34の内周側端部から軸方向Xに突き出る第1突出部36と、第1環状部34の内周側端部から第1突出部36とは軸方向Xの反対側に突き出る第2突出部38とを備える。また、減速用内歯部材16Aは、第1環状部34の外周側端部から軸方向Xに突き出る第3突出部40を備える。減速用内歯歯車24Aは、第1環状部34及び第1突出部36の内周部や第2突出部38の基端部の内周部に設けられる。減速用内歯部材16Aには第1突出部36と第3突出部40の間に軸方向Xに凹む環状凹部42が設けられる。減速用内歯部材16Aと入力側キャリヤ20Aを連結する第1ボルトB1は、第2突出部38にねじ込まれる。
【0027】
出力用内歯部材16Bは、出力用内歯歯車24Bが内周部に設けられる第2環状部44と、第2環状部44から軸方向Xに突き出る第4突出部46と、第2環状部44から第4突出部46とは軸方向Xの反対側に突き出る第5突出部48とを備える。出力用内歯部材16Bと反入力側キャリヤ20Bを連結する第2ボルトB2は、第4突出部46にねじ込まれる。第5突出部48は、減速用内歯部材16Aの環状凹部42の内側に配置され、径方向から見て、減速用内歯部材16Aの第1突出部36と重なる位置に設けられる。
【0028】
減速用内歯部材16Aは、第1突出部36が構成する第1外周部50と、第2突出部38が構成する第2外周部52と、第1環状部34及び第3突出部40が構成する第3外周部54とを備える。出力用内歯部材16Bは、第2環状部44及び第4突出部46や第5突出部48の基端側部分が構成する第4外周部56と、第5突出部48の先端側部分が構成する第5外周部58とを備える。ここでの「外周部」とは、言及している内歯部材16において径方向外側を向く面が構成する箇所をいう。この「面」は、本実施形態において、軸方向Xに延びる平坦面であり、内歯部材16の中心軸線La周りの全周に亘る範囲で設けられる。
【0029】
減速用内歯部材16Aの減速用内歯歯車24Aの内歯64から第1外周部50、第2外周部52及び第3外周部54までの径方向距離をL1、L2、L3という。出力用内歯部材16Bの出力用内歯歯車24Bの内歯66から第4外周部56及び第5外周部58までの径方向距離をL4、L5という。この「径方向距離」は、言及している内歯歯車24の内歯の歯底から、言及している外周部が構成する径方向外側を向く面までの距離をいう。このとき、本実施形態では、減速用内歯部材16Aの複数の外周部50、52、54のうち、第1外周部50の径方向距離L1が最も小さく、次に第2外周部52の径方向距離L2が小さく、第3外周部54の径方向距離L3が最も大きくなる。また、本実施形態では、出力用内歯歯車24Bの複数の外周部56、58のうち、第4外周部56の径方向距離L4が最も小さく、第5外周部58の径方向距離L5が最も大きくなる。
【0030】
外歯歯車14との噛み合いにより内歯歯車24には径方向外側に向かう荷重が付与され、その荷重により外径が部分的に大きくなるように変形しようとする。歯車装置10は、このような、外歯歯車14との噛み合いによる内歯歯車24の径方向外側への変形を拘束する補強部材60を備える。本実施形態の補強部材60には、減速用内歯歯車24Aの変形を拘束する第1補強部材60Aと、出力用内歯歯車24Bの変形を拘束する第2補強部材60Bとが含まれる。
【0031】
補強部材60は、補強部材60が用いられる内歯部材16を構成する樹脂系素材よりもヤング率[Pa]が大きい素材を用いて構成される。これを実現するため、本実施形態の補強部材60は、金属系素材により構成される。これにより、内歯部材16を構成する樹脂系素材を用いるより、内歯部材16の変形を効果的に拘束できる。この効果との関係では、補強部材60のヤング率は大きいほど好ましい。補強部材60のヤング率は、たとえば、内歯部材16を構成する樹脂系素材のヤング率の10倍以上となるように設定される。これは、たとえば、内歯部材16をエンジニアプラスチックにより構成したうえで、補強部材60を金属系素材(たとえば、鉄系素材)により構成することで実現される。
【0032】
第1補強部材60Aは、軸受およびボルトとは別部材により構成される。ここでの「軸受」は、歯車装置10に用いられる互いに相対回転可能な複数の構成要素の間に配置される。本実施形態では、たとえば、第1軸受け28、主軸受30等が該当する。ここでの「ボルト」は、歯車装置10に用いられる複数の構成要素の連結に用いられる。本実施形態では、たとえば、第1ボルトB1、第2ボルトB2が該当する。本実施形態の第2補強部材60Bは、主軸受30の内輪30bにより構成される。
【0033】
第1補強部材60Aは無端リング状をなす。第2補強部材60Bは無端リング状をなす。ここでの「無端リング状」とは、中心軸線La周りの全周に亘る範囲で連続しており、周方向に端部が無い形状をいう。
【0034】
第1補強部材60Aは、減速用内歯部材16Aの第1外周部50に嵌合されることで、その第1外周部50に設けられる。第1補強部材60Aは、第1補強部材60Aが用いられる減速用内歯部材16Aの外周部50、52、54のうち、前述の径方向距離L1が最も小さい第1外周部50に設けられることになる。第1補強部材60Aは、締まり嵌め、中間嵌め等により嵌合される。
【0035】
本実施形態の減速用内歯部材16Aの第1環状部34には軸方向Xに窪むとともに周方向に延びる環状の溝部62が形成され、第1補強部材60Aの一部は溝部62に嵌め込まれる。
【0036】
第2補強部材60Bは、出力用内歯部材16Bの第4外周部56に嵌合されることで、その第4外周部56に設けられる。第2補強部材60Bは、第2補強部材60Bが用いられる出力用内歯部材16Bの外周部56、58のうち、前述の径方向距離L4が最も小さい第4外周部56に設けられることになる。第2補強部材60Bは、締まり嵌め、中間嵌め等により嵌合される。
【0037】
以上の歯車装置10の効果を説明する。
【0038】
本実施形態の歯車装置10によれば、外歯歯車14との噛み合いにより内歯歯車24が径方向外側に変形しようとしたとき、その変形を補強部材60により拘束できる。よって、金属系素材と比べて剛性が低い樹脂系素材を内歯部材16に用いた場合でも、補強部材60がないときと比べ、外歯歯車14と内歯歯車24の正常な噛合いを確保できる。このため、内歯部材16に樹脂系素材を用いることで軽量化を図りつつ、外歯歯車14と内歯歯車24の正常な噛合いを確保できる。
【0039】
仮に、内歯歯車24が径方向外側に変形した場合、作用するトルクが大きくなるほど、内歯歯車24と外歯歯車14の間でラチェッティング(歯飛び)が生じ易くなる。この点、本実施形態によれば、内歯歯車24の径方向外側への変形を抑制することでラチェッティングの抑制を図れる。よって、内歯部材16に樹脂系素材を用いることで軽量化を図りつつ、歯車装置10の許容トルクの高トルク化を図れる。
【0040】
また、外歯歯車14と内歯歯車24の正常な噛合いを確保できない場合、局所的な摩耗の原因となる。この点、本実施形態によれば、外歯歯車14と内歯歯車24の正常な噛合いを確保できるため、局所的な摩耗の抑制を図れる。
【0041】
補強部材60は、内歯部材16の外周部のうち、内歯歯車24の内歯からの径方向距離が最も小さい外周部50、56に設けられる。この利点を説明する。
【0042】
補強部材60と内歯部材16を径方向に隔てる境界を境界位置といい、外歯歯車14に対する内歯歯車24の歯当たり位置に径方向外側に向かう一定の荷重が付与される場合を考える。この場合、内歯部材16の歯当たり位置から境界位置までの径方向範囲が広くなるほど、その径方向範囲での内歯部材16の圧縮変形量が増大し易くなり、その歯当たり位置が径方向に変化し易くなる。
【0043】
この点、本実施形態によれば、内歯歯車24の内歯からの径方向距離が遠い外周部52、54、58に補強部材60を設ける場合と比べ、内歯部材16の歯当たり位置から境界位置までの径方向範囲を狭めることができる。これに伴い、外歯歯車14に対する内歯歯車24の歯当たり位置に荷重が付与された場合に、前述の径方向範囲での圧縮変形量を低減でき、外歯歯車14と内歯歯車24の正常な噛合いをより確保できる。
【0044】
補強部材60は無端リング状をなす。よって、補強部材60が周方向に端部が有る有端状をなす場合と比べ、補強部材60の高剛性化を図れ、補強部材60により内歯部材16の変形をより拘束し易くなる。
【0045】
樹脂系素材により補強部材60を構成した場合、内歯部材16のみならず、補強部材60もヒケの影響を受けてしまい、補強部材60と内歯部材16の寸法精度を確保し難くなる。これに起因して、内歯部材16の外周部に補強部材60を嵌合するうえで、内歯部材16と補強部材60の間に大きな隙間が生じ易くなり、補強部材60による変形拘束効果を安定して得にくくなる。
【0046】
この点、本実施形態によれば、金属系素材により補強部材60が構成されるため、補強部材60に樹脂系素材を用いる場合と比べ、補強部材60の寸法精度を確保し易くなる。これに伴い、内歯部材16の外周部に補強部材60を嵌合するうえで、内歯部材16と補強部材60の間に大きな隙間が生じ難くなり、補強部材60による変形拘束効果を安定して得やすくなる。
【0047】
補強部材60には、外歯歯車14を自転させる減速用内歯部材16Aの変形を拘束する第1補強部材60Aが含まれる。この利点を説明する。
【0048】
出力用内歯歯車24Bは外歯歯車14の自転成分と同期する。よって、理想的には、出力用内歯歯車24Bの各内歯の噛合相手となる外歯歯車14の外歯は、起振体26の回転数によらず同じとなる。一方、減速用内歯歯車24Aは、外歯歯車14の自転により外歯歯車14に対して相対回転する。よって、減速用内歯歯車24の各内歯の噛合相手となる外歯歯車14の外歯は、起振体26の回転数に応じて変化する。外歯歯車14の各外歯は寸法誤差の影響により寸法が変化するため、起振体26の回転数に応じて内歯歯車24の各内歯の噛合相手が変化すると、外歯歯車14に対する各内歯の歯当たり位置も変化する恐れがある。この結果、減速用内歯歯車24Aは、出力用内歯歯車24Bと比べて、歯先側での局所的な摩耗が生じ易いという問題がある。本実施形態によれば、このような前提のもとでも、減速用内歯歯車24Aの変形を第1補強部材60Aにより拘束できるため、その歯先側での局所的な摩耗の抑制を効果的に図れる。
【0049】
次に、本実施形態の減速装置の他の工夫点を説明する。
【0050】
第1補強部材60Aは、径方向から見て、第1補強部材60Aが用いられる減速用内歯歯車24Aの内歯64と重なる位置に設けられる。本実施形態では、減速用内歯歯車24Aの内歯64の軸方向の一部と重なる位置に設けられる。詳しくは、この内歯64の軸方向中央部64aを含む範囲と重なる位置に設けられる。この範囲とは、本実施形態では、内歯64の軸方向全長Laに対して半分以上の範囲となる。
【0051】
第2補強部材60Bは、径方向から見て、第2補強部材60Bが用いられる出力用内歯歯車24Bの内歯66と重なる位置に設けられる。本実施形態では、出力用内歯歯車24Bの内歯66の軸方向の一部と重なる位置に設けられる。詳しくは、この内歯66の軸方向中央部66aを含む範囲と重なる位置に設けられる。この範囲とは、本実施形態では、内歯66の軸方向全長Lbに対して半分以上の範囲となる。
【0052】
これにより、径方向から見て、内歯歯車24と重ならない位置に補強部材60を設ける場合と比べ、内歯歯車24の歯当たり位置から径方向外側に荷重が付与されたとき、その荷重を補強部材60によりしっかりと受け易くなる。これに伴い、内歯歯車24の径方向外側への変形を補強部材60により効果的に拘束できる。
【0053】
このような効果を効果的に得る観点から、補強部材60は、径方向から見て、補強部材60が用いられる内歯歯車24の内歯66、68の軸方向全長La、Lbと重なる位置に設けられると好ましい。
【0054】
各構成要素の変形例を説明する。
【0055】
歯車装置10は、互いに噛み合う外歯歯車14と内歯部材16を備えるものであれば、その具体例は特に限定されない。たとえば、撓み噛み合い型歯車装置の他に、偏心揺動型歯車装置、単純遊星歯車装置等でもよい。偏心揺動型歯車装置は、内歯歯車24の中心軸線La上に入力部材12となるクランク軸が配置されるセンタークランクタイプでもよい。この他にも、その中心軸線Laからオフセットした位置にクランク軸が配置される振り分けタイプでもよい。撓み噛み合い型歯車装置は、筒型に限定されず、たとえば、シルクハット型、カップ型等が用いられてもよい。
【0056】
出力部材22は、いずれのキャリヤ20が構成してもよいし、ケーシング18が構成してもよい。
【0057】
歯車装置10の構成要素のうち、内歯部材16以外の構成要素の素材は特に限定されない。たとえば、外歯歯車14は金属系素材及び樹脂系素材の何れが用いられてもよい。他の構成要素も同様である。
【0058】
複数の内歯部材16が用いられる場合、一つの内歯部材16のみを樹脂系素材とし、他の内歯部材16を他の素材としてもよい。この場合、歯車装置10は、樹脂系素材の内歯部材16の変形を拘束する補強部材60を備えていればよい。たとえば、歯車装置10は、樹脂系素材の第1内歯部材16Aと、金属系素材の第2内歯部材16Bと、第1内歯部材16Aの変形を拘束する第1補強部材60Aとを備え、第2内歯部材16Bの変形を拘束する第2補強部材60Bを備えなくともよい。この他にも、歯車装置10は、金属系素材の第1内歯部材16Aと、樹脂系素材の第2内歯部材16Bと、第2内歯部材16Bの変形を拘束する第2補強部材60Bとを備え、第1内歯部材16Aの変形を拘束する第1補強部材60Aを備えなくともよい。
【0059】
補強部材60は、補強部材60が用いられる内歯部材16の外周部のうち、その内歯部材16の内歯に対して径方向外側にて径方向距離が最も小さい外周部に設けられる例を説明した。この他にも、内歯部材16の内歯に対して径方向内側にて径方向距離が最も小さい外周部に設けられてもよい。
【0060】
補強部材60は、軸受およびボルトとは別部材により構成される場合、内歯部材16の内部に埋め込まれてもよい。また、この場合、補強部材60は、補強部材60が用いられる内歯部材16の外周部のうち、その径方向距離が他より大きい外周部に設けられてもよい。たとえば、第1補強部材60Aは、第1内歯部材16Aの第2外周部52や第3外周部54に設けられてもよいということである。
【0061】
補強部材60は周方向に端部が有る有端状をなしてもよい。これは、たとえば、C型の止め輪等により補強部材60を構成する場合を想定している。また、補強部材60は、リング形状を周方向に分割した複数の分割体により構成してもよい。
【0062】
補強部材60は、金属系素材に限定されず、たとえば、樹脂系素材により構成されてもよい。この場合も、補強部材60が用いられる内歯部材16を構成する樹脂系素材よりもヤング率が大きい素材を補強部材60に用いてもよい。この場合、補強部材60は、内歯部材16と共通の樹脂系素材をベースとして、そのベース中に繊維を埋め込んで構成する繊維強化樹脂を用いてもよい。この場合、繊維を埋め込んだ部分が補強部材60となる。補強部材60は、内歯部材16と別の部材により構成される場合に限られず、内歯部材16と同じ部材の一部として構成されてもよいということである。
【0063】
内歯部材16の外周部に補強部材60を嵌合する場合、内歯部材16に溝部62が形成されていなくともよい。
【0064】
補強部材60は、径方向から見て、補強部材60が用いられる内歯歯車24の内歯と重ならない位置に設けられていてもよい。
【0065】
以上、本発明の実施形態や変形例について詳細に説明した。前述した実施形態や変形例は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施形態や変形例の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態」との記載を付して強調しているが、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。以上の構成要素の任意の組み合わせも、本発明の態様として有効である。図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【符号の説明】
【0066】
10…歯車装置、14…外歯歯車、16…内歯部材、24…内歯歯車、26…起振体、50、52、54、56、58…外周部、60…補強部材。