(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-07
(45)【発行日】2024-03-15
(54)【発明の名称】抽出されたハミルトニアンを使用した量子回路のシミュレーションのためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
G06N 10/80 20220101AFI20240308BHJP
【FI】
G06N10/80
(21)【出願番号】P 2023526992
(86)(22)【出願日】2020-11-20
(86)【国際出願番号】 CN2020130301
(87)【国際公開番号】W WO2022104670
(87)【国際公開日】2022-05-27
【審査請求日】2023-11-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】511050697
【氏名又は名称】アリババ グループ ホウルディング リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ディング,ダウェイ
(72)【発明者】
【氏名】ジャオ,フイハイ
(72)【発明者】
【氏名】ク,シャン-ション
【審査官】福西 章人
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第110472740(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111260066(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/057957(US,A1)
【文献】BURKARD, Guido,Circuit theory for decoherence in superconducting charge qubits,arXiv [online],2005年04月28日,pp.1-8,[検索日 2024.02.19]、インターネット:<URL:https://arxiv.org/pdf/cond-mat/0408588v2.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 3/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子回路を最適化するための方法であって、
1つまたは複数の量子ビットを含む量子回路の表現を取得することと、
フリーモードが非フリーモードからデカップリングされた第2のハミルトニアンを生成するために、線形変換行列を使用して前記量子回路に対応する第1のハミルトニアンを変換することと、
前記第2のハミルトニアンから前記フリーモードを除去することによって第3のハミルトニアンを生成することと、
前記第3のハミルトニアンを使用して前記量子回路の挙動をシミュレートすることと、
前記量子回路の前記シミュレートされた挙動に基づいて前記量子回路の設計を調整することと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記第2のハミルトニアンを生成するために前記第1のハミルトニアンを変換することは、
前記第2のハミルトニアン内の変換された電荷結合行列がフリーモードセクタおよび非フリーモードセクタへとブロック対角化されるように、前記第1のハミルトニアンの電荷結合行列の逆行列を前記変換された電荷結合行列の逆行列に変換すること
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2のハミルトニアンを生成するために前記第1のハミルトニアンを変換することは、
前記線形変換行列を使用して前記第1のハミルトニアンの電荷演算子を変換すること
をさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2のハミルトニアンを生成するために前記第1のハミルトニアンを変換することは、
前記第1のハミルトニアンの正準交換関係が前記第2のハミルトニアンで維持されるように、前記第1のハミルトニアンの磁束演算子を変換すること
をさらに含む、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記線形変換行列を使用して前記第1のハミルトニアンの実効キャパシタンス行列にガウス消去法を実行することをさらに含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第3のハミルトニアンを使用して前記量子回路の前記挙動をシミュレートすることは、
前記第3のハミルトニアンを対角化することによって前記量子回路の離散的なエネルギー固有値を得ること
を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記量子回路の前記挙動は、前記1つまたは複数の量子ビットのうちの1つの量子ビットの周波数を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
量子回路を最適化するための装置であって、
命令のセットを記憶するためのメモリと、
前記命令のセットを実行して前記装置に動作を実行させるように構成される少なくとも1つのプロセッサと、
を備え、前記動作は、
1つまたは複数の量子ビットを含む量子回路の表現を取得することと、
フリーモードが非フリーモードからデカップリングされた第2のハミルトニアンを生成するために、線形変換行列を使用して前記量子回路に対応する第1のハミルトニアンを変換することと、
前記第2のハミルトニアンから前記フリーモードを除去することによって第3のハミルトニアンを生成することと、
前記第3のハミルトニアンを使用して前記量子回路の挙動をシミュレートすることと、
前記量子回路の前記シミュレートされた挙動に基づいて前記量子回路の設計を調整することと、
を含む、装置。
【請求項9】
前記第2のハミルトニアンを生成するために前記第1のハミルトニアンを変換することは、
前記第2のハミルトニアン内の変換された電荷結合行列がフリーモードセクタおよび非フリーモードセクタへとブロック対角化されるように、前記第1のハミルトニアンの電荷結合行列の逆行列を前記変換された電荷結合行列の逆行列に変換すること
を含む、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記第2のハミルトニアンを生成するために前記第1のハミルトニアンを変換することは、
前記線形変換行列を使用して前記第1のハミルトニアンの電荷演算子を変換すること
をさらに含む、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記第2のハミルトニアンを生成するために前記第1のハミルトニアンを変換することは、
前記第1のハミルトニアンの正準交換関係が前記第2のハミルトニアンで維持されるように、前記第1のハミルトニアンの磁束演算子を変換すること
をさらに含む、請求項9または10に記載の装置。
【請求項12】
前記線形変換行列は、前記第1のハミルトニアンの実効キャパシタンス行列にガウス消去法を実行するように構成される、請求項8から11のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
前記第3のハミルトニアンを使用して前記量子回路の前記挙動をシミュレートすることは、
前記第3のハミルトニアンを対角化することによって前記量子回路の離散的なエネルギー固有値を得ること
をさらに含む、請求項8から12のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
前記量子回路の前記挙動は、前記1つまたは複数の量子ビットのうちの1つの量子ビットの周波数を含む、請求項7から10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
量子回路を最適化するための方法を実行するためにコンピューティングデバイスの少なくとも1つのプロセッサによって実行可能な命令のセットを記憶する非一時的コンピュータ可読媒体であって、前記方法は、
1つまたは複数の量子ビットを含む量子回路の表現を取得することと、
フリーモードが非フリーモードからデカップリングされた第2のハミルトニアンを生成するために、線形変換行列を使用して前記量子回路に対応する第1のハミルトニアンを変換することと、
前記第2のハミルトニアンから前記フリーモードを除去することによって第3のハミルトニアンを生成することと、
前記第3のハミルトニアンを使用して前記量子回路の挙動をシミュレートすることと、
前記量子回路の前記シミュレートされた挙動に基づいて前記量子回路の設計を調整することと、
を含む、非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項16】
前記第2のハミルトニアンを生成するために前記第1のハミルトニアンを変換することは、
前記第2のハミルトニアン内の変換された電荷結合行列がフリーモードセクタおよび非フリーモードセクタへとブロック対角化されるように、前記第1のハミルトニアンの電荷結合行列の逆行列を前記変換された電荷結合行列の逆行列に変換すること
をさらに含む、請求項15に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項17】
前記第2のハミルトニアンを生成するために前記第1のハミルトニアンを変換することは、
前記線形変換行列を使用して前記第1のハミルトニアンの電荷演算子を変換すること
をさらに含む、請求項16に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項18】
前記第2のハミルトニアンを生成するために前記第1のハミルトニアンを変換することは、
前記第1のハミルトニアンの正準交換関係が前記第2のハミルトニアンで維持されるように、前記第1のハミルトニアンの磁束演算子を変換すること
をさらに含む、請求項16または17に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項19】
前記第3のハミルトニアンを生成することは、
前記線形変換行列を使用して前記第1のハミルトニアンの実効キャパシタンス行列にガウス消去法を実行すること
をさらに含む、請求項15から18のいずれか一項に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項20】
前記第3のハミルトニアンを使用して前記量子回路の前記挙動をシミュレートすることは、
前記第3のハミルトニアンを対角化することによって前記量子回路の離散的なエネルギー固有値を得ること
をさらに含む、請求項15から19のいずれか一項に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項21】
前記量子回路の前記挙動は、前記1つまたは複数の量子ビットのうちの1つの量子ビットの周波数を含む、請求項15から20のいずれか一項に記載のコンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[001] 本開示は一般に量子コンピューティングに関し、より詳細には、フリーモードをデカップリングするように変換されたハミルトニアンを使用した古典コンピュータによる量子回路のシミュレーションに関する。
【背景技術】
【0002】
[002] 量子コンピュータは超伝導量子回路を使用して実装することができる。量子コンピュータの設計および検証には、超伝導量子回路のシミュレーションが必要であり得る。超伝導量子回路の特定のフリーモード(たとえば、消滅する周波数を有する回路モードなど)は、回路の現実世界での性能には影響を与えず、回路のシミュレーションに干渉し得る。経験的測定(一部の単純な回路の場合)またはある特定の目的のための数学的手法(ある特定の回路の場合)は、そのような干渉に対処することができる。しかしながら、そのような方法は、より複雑な回路または一般的な回路には適用不可能であり得る(または時間を要し、適応させるのが困難であり得る)。
【発明の概要】
【0003】
[003] 開示したシステムおよび方法は、量子回路のハミルトニアンの変換を使用した量子回路のシミュレーションに関する。変換されたハミルトニアンは、量子回路のシミュレーションに本来干渉するはずのフリーモードを排除し得る。
【0004】
[004] 開示した実施形態は、量子回路を最適化するための方法であって、1つまたは複数の量子ビットを含む量子回路の表現を取得することと、フリーモードが非フリーモードからデカップリングされた第2のハミルトニアンを生成するために、線形変換行列を使用して量子回路に対応する第1のハミルトニアンを変換することと、第2のハミルトニアンからフリーモードを除去することによって第3のハミルトニアンを生成することと、第3のハミルトニアンを使用して量子回路の挙動をシミュレートすることと、量子回路のシミュレートされた挙動に基づいて量子回路の設計を調整することと、を含む、方法を含む。
【0005】
[005] 開示した実施形態はまた、量子回路を最適化するための装置であって、命令のセットを記憶するためのメモリと、命令のセットを実行して装置に動作を実行させるように構成される少なくとも1つのプロセッサと、を備え、動作は、1つまたは複数の量子ビットを含む量子回路の表現を取得することと、フリーモードが非フリーモードからデカップリングされた第2のハミルトニアンを生成するために、線形変換行列を使用して量子回路に対応する第1のハミルトニアンを変換することと、第2のハミルトニアンからフリーモードを除去することによって第3のハミルトニアンを生成することと、第3のハミルトニアンを使用して量子回路の挙動をシミュレートすることと、量子回路のシミュレートされた挙動に基づいて量子回路の設計を調整することと、を含む、装置を含む。
【0006】
[006] 開示した実施形態はさらに、量子回路を最適化するための方法を実行するためにコンピューティングデバイスの少なくとも1つのプロセッサによって実行可能な命令のセットを記憶する非一時的コンピュータ可読媒体であって、方法は、1つまたは複数の量子ビットを含む量子回路の表現を取得することと、フリーモードが非フリーモードからデカップリングされた第2のハミルトニアンを生成するために、線形変換行列を使用して量子回路に対応する第1のハミルトニアンを変換することと、第2のハミルトニアンからフリーモードを除去することによって第3のハミルトニアンを生成することと、第3のハミルトニアンを使用して量子回路の挙動をシミュレートすることと、量子回路のシミュレートされた挙動に基づいて量子回路の設計を調整することと、を含む、非一時的コンピュータ可読媒体を含む。
【0007】
[007] 開示した実施形態の追加の特徴および利点は、一部は以下の説明に記載し、一部は本説明から明らかになるか、または実施形態を実践することで理解され得る。開示した実施形態の特徴および利点は、特許請求の範囲に記載した要素および組み合わせによって実現および達成され得る。
【0008】
[008] 前述の概要説明および以下の詳細な説明の両方は例示的かつ説明的なものにすぎず、特許請求する開示した実施形態を限定するものではないことを理解されたい。
【0009】
[009] 本開示の実施形態および様々な態様を以下の詳細な説明および添付の図面に示している。図示した様々な特徴は、縮尺通りに描いていない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】[010]本開示のいくつかの実施形態と一致する、量子回路を最適化するための例示的なシステムを示す図である。
【
図2A】[011]本開示のいくつかの実施形態と一致する、例示的な量子回路オプティマイザを示す図である。
【
図2B】[012]本開示のいくつかの実施形態と一致する、例示的な量子回路シミュレータを示す図である。
【
図3A】[013]本開示のいくつかの実施形態と一致する、例示的な量子回路を示す図である。
【
図3B】[014]本開示のいくつかの実施形態と一致する、
図3Aの量子回路の例示的なキャパシタンステーブルである。
【
図4A】[015]フリーモードを有する
図3Aの量子回路のハミルトニアンに基づくエネルギースペクトルを示す図である。
【
図4B】[016]本開示のいくつかの実施形態と一致する、
図3Aの量子回路の抽出されたハミルトニアンに基づくエネルギースペクトルを示す図である。
【
図5】[017]本開示のいくつかの実施形態と一致する、量子回路を最適化するための方法の例示的なフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[018] ここで、例示的な実施形態を詳細に参照し、その例を添付の図面に示す。以下の説明では添付の図面を参照しており、図面では、別段の表示がない限り、異なる図面における同じ番号は同じまたは類似の要素を表す。例示的な実施形態の以下の説明に記載した実装は、本発明と一致する全ての実装を表すものではない。むしろ、それらは、添付の特許請求の範囲に記載した本発明に関連する態様と一致する装置および方法の例にすぎない。
【0012】
[019] 量子コンピュータは、将来的に可能性のあるあらゆる古典コンピュータを含めて、古典コンピュータでは困難であると考えられている特定のタスクを実行する(言い換えれば、特定の問題を解決する)能力を提供する。量子コンピュータの利点を理解するには、古典コンピュータとの違いを理解することが有用である。古典コンピュータはデジタル論理に従って動作する。デジタル論理とは、ビットと呼ばれる情報の単位で動作するタイプの論理システムを指す。ビットは、通常0および1で表される2つの値の1つを有し得、デジタル論理における情報の最小単位である。演算は論理ゲートを使用してビットに対して実行され、論理ゲートは1つまたは複数のビットを入力として受け取り、1つまたは複数のビットを出力として与える。典型的には、論理ゲートは出力として1ビットのみを有し(ただし、この単一のビットは他の複数の論理ゲートに入力として送られ得る)、このビットの値は通常、入力ビットのうちの少なくとも一部の値に依存する。現代のコンピュータでは、論理ゲートは通常トランジスタで構成され、ビットは通常、トランジスタに接続されたワイヤの電圧レベルとして表される。論理ゲートのシンプルな例はANDゲートであり、これは(最もシンプルな形態では)2ビットを入力として受け取り、1ビットを出力として与える。両方の入力の値が1の場合、ANDゲートの出力は1であり、それ以外の場合は0である。様々な論理ゲートの入力および出力を相互に特定の方法で接続することにより、古典コンピュータは任意の複雑なアルゴリズムを実装して様々なタスクを実現することができる。
【0013】
[020] 表面的なレベルでは、量子コンピュータは古典コンピュータと同じように動作する。量子コンピュータは、量子ビット(「量子」および「ビット」の混成語)と呼ばれる情報の単位で動作する論理のシステムに従って動作する。量子ビットは量子コンピュータにおける情報の最小単位であり、量子ビットは、通常|0>および|1>で表される2つの値の任意の線形結合を有し得る。換言すれば、|ψ>で表される量子ビットの値は、αおよびβの任意の組み合わせに対してα|0>+β|1>に等しくなり得、ここで、αおよびβは複素数であり、|α|2+|β|2=1である。演算は量子論理ゲートを使用して量子ビットに対して実行され、量子論理ゲートは1つまたは複数の量子ビットを入力として受け取り、1つまたは複数の量子ビットを出力として与える。現在のほとんどの量子系の低レベルでの性質を考慮して、量子アルゴリズムは、典型的にはその基礎となる量子回路で表現される。転じて、量子回路は、量子ビットを直接操作する基本コンポーネントである量子ゲートで構成される。
【0014】
[021] 量子コンピュータは、超伝導量子回路を使用して実装することができる。そのような量子コンピュータは、超伝導回路の離散的なエネルギー状態を使用して計算を実行することができる。当業者には理解されるように、量子コンピュータの設計および検証は、量子回路の挙動のシミュレーションを伴う。量子回路がフリーモードを有する場合、フリーモードによって、シミュレートされた回路は連続的なエネルギースペクトルを示すので、量子計算の実行に使用される離散的なエネルギー状態の識別または解析が妨げられ得る。フリーモードの存在は、量子回路のシミュレーションに悪影響を及ぼすが、実際の量子回路のエネルギースペクトルまたは他のオブザーバブルには影響を与えないように思われる。
【0015】
[022] 超電導量子回路の設計は、回路が1つまたは複数のフリーモードを有するか否かを決定することができる。有益な特性を有する一部の回路は、1つまたは複数のフリーモードを有し得る。非限定的な例として、グランドに対してフローティングするように構成される回路は、グランドプレーンノイズに対する感度が低下し得る。一部の一般的なカテゴリの回路は、1つまたは複数のフリーモードを有することができる。非限定的な例として、回路は、回路の他のコンポーネントに容量的にのみ接続された少なくとも1つのコンポーネントを含む場合、1つまたは複数のフリーモードを有し得る。
【0016】
[023] 超伝導量子回路の設計と、回路がフリーモードを有するか否かと、回路をシミュレートする能力との間の関係は、量子コンピュータの開発における技術的問題を構成する。経験的測定またはある特定の目的のための数学的手法により、ある特定の超伝導量子回路または単純な超伝導量子回路のシミュレーションが可能になり得るが、そのような方法は、より複雑な回路または一般的な回路には適用不可能であるか、または適用するにはあまりに非効率であり得る。したがって、量子コンピューティングアプリケーションのための超伝導量子回路設計は、単純な設計、既存の特定の目的のための解析技術の適用に適した設計、またはフリーモードを欠く設計に限定され得る。
【0017】
[024] 開示した実施形態は、フリーモードを有する超伝導量子回路のシミュレーションを可能にし得る。開示した実施形態は、単純な量子回路に限定されず、以下に式1で与える形を有する一般的な超伝導量子回路と共に使用することができる。したがって、開示した実施形態は、複雑な超伝導量子回路の設計および検証を可能にし、量子コンピューティングの分野における技術的改善を構成する。
【0018】
[025] 開示した実施形態と一致して、知られている回路量子化技術を使用して、超伝導量子回路のハミルトニアンを得ることができる。ハミルトニアンは、回路のコンポーネントに関連する容量項、誘導項、および(ジョセフソン)接合項を含むことができる。容量項および誘導項は、ハミルトニアンのモード間(自己結合を含む)の電荷結合および磁束結合を記述する結合行列によって表すことができる。フリーモードは、ハミルトニアン内の容量項に関連し得るが、誘導項または接合項には関連しない。フリーモードの電荷演算子はハミルトニアンに現れ得る。フリーモードの磁束演算子はハミルトニアンに現れない場合がある。したがって、これらのモードは、バウンドモードとは対照的に、ポテンシャルの影響を受けないので、「フリー」であると見なされ得る。一般に、そのようなフリーモードは連続的なエネルギースペクトルを有し得る。本開示に特に関係するのは、フリーモードがハミルトニアンの他のモードに電荷結合され得るということである。
【0019】
[026] 開示した実施形態と一致して、ハミルトニアン内のフリーモードは、線形変換を使用して残りのモードからデカップリングすることができる。本明細書に記載のように、線形変換はハミルトニアンから計算することができる。フリーモードをデカップリングする単純なアプローチには、電荷結合行列に線形変換を適用することが含まれ得る。線形変換は、電荷結合行列に対してガウス消去法を実行することができる。しかしながら、いくつかの場合では、正準交換関係を維持するには、磁束結合行列に同じ線形変換または類似の線形変換を適用する必要があり得る。残念ながら、磁束結合行列のそのような変換により、フリーモードが「フリー」ではなくなり、ハミルトニアンからの除去が妨げられ得る。単純なアプローチとは対照的に、また、開示した実施形態と一致して、想定される線形変換を使用して、電荷結合行列の逆行列に対してガウス消去法を実行することができる。正準交換関係を維持するために、磁束結合行列にも線形変換を実行することができる。しかしながら、フリーモードには磁束結合行列に対応する誘導項がないので、磁束結合行列の対応する行および列はゼロであり得る。したがって、この場合、ガウス消去法により磁束結合行列を保存することができる。変換後、変換されたハミルトニアンのフリーモードは、変換されたハミルトニアンの残りのモードからデカップリングされ得る。次いで、変換されたハミルトニアンから抽出されたハミルトニアンを得ることができる。抽出されたハミルトニアンは、超伝導量子回路の非フリーモードを表すことができる。その後、抽出されたハミルトニアンを使用して超電導回路をシミュレートすることができる。
【0020】
[027]
図1は、本開示のいくつかの実施形態と一致する、量子回路を最適化するための例示的なシステム100を示している。
図1ではサーバとして示しているが、システム100は、たとえば、デスクトップコンピュータ、ラップトップコンピュータ、タブレットなどの任意のコンピュータを含み得る。
図1に示すように、システム100はプロセッサ110を有し得る。プロセッサ110は、単一のプロセッサまたは複数のプロセッサを含み得る。たとえば、プロセッサ110は、CPU、GPU、再構成可能アレイ(たとえば、FPGAまたは他のASIC)などを含み得る。プロセッサ110は、メモリ120、入出力モジュール160、およびネットワークインターフェースコントローラ(NIC)180と動作可能に接続され得る。
【0021】
[028] メモリ120は、単一のメモリまたは複数のメモリを含み得る。さらに、メモリ120は、揮発性メモリ、不揮発性メモリ、またはそれらの組み合わせを含み得る。
図1に示すように、メモリ120は、1つまたは複数のオペレーティングシステム130およびオプティマイザ140を記憶し得る。たとえば、オプティマイザ140は、量子回路を最適化するための命令を含み得る。したがって、オプティマイザ140は、
図2Aおよび
図2Bに関して説明する本開示のいくつかの実施形態に従って1つまたは複数の量子回路をシミュレートし、最適化し得る。入出力モジュール(I/O)160は、1つまたは複数のデータベース170からデータを取り出し得る。たとえば、データベース170は、量子回路を記述するデータ構造を含み得る。メモリ120は、1つまたは複数のデータベース170から取り出されたデータ150をさらに記憶し得る。NIC180は、システム100を1つまたは複数のコンピュータネットワークに接続し得る。
図1に示すように、NIC180は、システム100をインターネット190に接続し得る。システム100は、NIC180を使用してネットワークを介してデータおよび命令を受信し得、かつNIC180を使用してネットワークを介してデータおよび命令を送信し得る。
【0022】
[029]
図2Aは、本開示のいくつかの実施形態と一致する、例示的な量子回路オプティマイザを示している。いくつかの実施形態では、量子回路オプティマイザ200は、
図1のプロセッサ110、
図1のオプティマイザ140、または
図1のプロセッサ110とオプティマイザ140との組み合わせによって実装することができる。
図2Aに示すように、量子回路オプティマイザ200は、量子回路取得器210、量子回路シミュレータ220、および量子回路調整器230を含むことができる。
【0023】
[030] 量子回路取得器210は、量子回路201の表現を取得するように構成することができる。この表現は、量子回路取得器210によって(たとえば、プログラムを実行した結果として、ユーザとのやりとりを通じて、など)生成するか、量子回路取得器210によって他のコンピューティングデバイスから受信するか、または量子回路取得器210がアクセス可能な非一時的メモリから取り出すことができる。開示した実施形態は、入力がどのように表現されているか(たとえば、関与するデータ構造)、または入力が何を表すか(たとえば、入力がどのような量子回路表現を使用しているか)に限定されない。たとえば、開示した実施形態は、量子回路201を取得、記憶、または処理するために特定のデータ構造を使用することに限定されない。同様に、量子回路201の論理表現は、コンポーネント間の論理関係を示す特定の方法に限定されない。
【0024】
[031] 量子回路シミュレータ220は、量子回路201の挙動をシミュレートするように構成することができる。本明細書に記載のように、量子回路シミュレータ220は、量子回路201の元のハミルトニアンを生成し、元のハミルトニアンから量子回路201の非フリーモードに対応するハミルトニアンを抽出し、量子回路201のダイナミクスをシミュレートするように構成することができる。たとえば、量子回路シミュレータ220は、量子回路の状態の時間発展(たとえば、量子回路のモードの状態の時間発展)をシミュレートすることができる。様々な場合において、量子回路シミュレータ220は、入力または他の摂動に対する量子回路の応答をシミュレートすることができる。
【0025】
[032]
図2Bを参照して量子回路の元のハミルトニアンからフリーモードを除去するプロセスを説明し、
図2Bは、本開示のいくつかの実施形態と一致する、例示的な量子回路シミュレータを示している。
図2Bに示すように、量子回路シミュレータ220は、ハミルトニアン変換ユニット221、ハミルトニアン抽出ユニット222、および量子回路シミュレーションユニット223を含むことができる。
【0026】
[033] ハミルトニアン変換ユニット221は、量子回路201の元のハミルトニアンに基づいて、量子回路201の変換されたハミルトニアンを生成するように構成することができる。本開示のいくつかの実施形態によれば、元のハミルトニアンを線形変換して、変換されたハミルトニアン内でフリーモードを他の回路モードからデカップリングすることによって、変換されたハミルトニアンを生成することができる。
【0027】
[034] 当業者には理解されるように、量子回路の元のハミルトニアンは様々な方法で導出することができる。非限定的な例として、一般的な超伝導量子回路のハミルトニアンは、「Circuit theory for decoherence in superconducting charge qubits」、G.Burkard、Physical Review B、2005年4月に開示された方法を使用して導出することができ、これによりその全体が引用により本明細書に組み込まれ、本開示ではBurkardと呼ぶことにする。Burkardでは、一般的な超伝導量子回路(たとえば、量子回路201)の導出された散逸なしのハミルトニアンは以下の形をとる。
【0028】
【0029】
[035] ここで、
【0030】
【0031】
【数3】
は、量子回路201の回路モードの磁束演算子および電荷演算子のベクトルである。
【0032】
【数4】
は外部から印加される磁束を示し、Φ
0は磁束量子であり、Φ
iは磁束変数である。
【0033】
【数5】
は量子回路201における電圧バイアスのベクトルであり、C
-1、M
0、N、およびC
Vはそれぞれ、電荷結合行列、磁束結合行列、外部磁束結合行列、および電圧結合行列である。n
Jはジョセフソン接合の数であり、E
J,iは各ジョセフソン接合の特徴的エネルギースケールで
ある。
【0034】
[036] いくつかの実施形態では、量子回路201のフリーモードの数Fは、次のように与えることができる。
F≡dim(ker(M0)∩ker(NT)∩VL) (式2)
【0035】
[037] ここで、VLはインダクタ磁束によって張られる部分空間である。式2に示すように、フリーモードの数Fは、磁束結合行列M0のカーネルと、転置された外部磁束結合行列NTのカーネルと、量子回路201のインダクタ磁束によって張られる部分空間VLとに共通する部分空間の次元として定義することができる。いくつかの実施形態では、量子回路201のモードは、無視できるほど小さいポテンシャル項を有し得る。そのような場合、どのモードもフリーではない場合があるが、閾値基準を満たすモードはフリーモードであると見なすことができる。たとえば、閾値未満のポテンシャル値を有するハミルトニアン内のモードは、モードのポテンシャル値がゼロではない場合があるが、フリーモードとして扱うことができる。
【0036】
[038] 本開示のいくつかの実施形態によれば、磁束演算子
【0037】
【0038】
【数7】
は、導出されたハミルトニアンにおいてフリーモードを明示的にすることができるような形にすることができる(たとえば、式1として表される)。いくつかの実施形態では(たとえば、式2の部分空間の共通部分を対角化する適切な変換を介して)、磁束演算子
【0039】
【0040】
【数9】
として表すことができ、ここで、Φ
1,...,Φ
Fはフリーモードの磁束演算子であり、Φ
F+1,...,Φ
nは非フリーモードの磁束演算子であり、nはハミルトニアン内のモードの総数である。同様に、電荷演算子
【0041】
【0042】
【数11】
として表すことができ、ここで、Q
1,...,Q
Fはフリーモードの電荷演算子であり、Q
F+1,...,Q
nは非フリーモードの電荷演算子である。磁束演算子
【0043】
【0044】
【数13】
のこの表現と一致して、外部磁束結合行列Nの最初のF行ならびに磁束結合行列M
0の最初のF行および最初のF列の要素は全てゼロであり得る。
【0045】
[039] いくつかの実施形態では、たとえば、量子回路201の回路モードを線形変換して電荷結合行列C-1の逆行列(たとえば、C)に対してガウス消去法を効果的に実行することによって、フリーモードを非フリーモードからデカップリングした変換されたハミルトニアンを得ることができる。次いで、正準変換の要件に従って、同じガウス消去法を磁束結合行列M0に対して実行することができる。したがって、変換されたハミルトニアンは、元のハミルトニアンと同じ数のフリーモードを有することになる。次いで、変換されたハミルトニアンからフリーモードを除去することによって、抽出されたハミルトニアンを得ることができる。
【0046】
[040] 開示した実施形態と一致して、電荷結合行列C-1においてフリーモード成分を非フリーモード成分からデカップリングすることができるような変換行列Wを定義することができる。電荷結合行列C-1は、量子回路201の実効キャパシタンス行列Cの逆行列とすることができ、Cは正定値とすることができる。f∈{1,2,...,F}について、行列WfおよびCfを反復的に定義することができる。行列Wfは、以下のエントリを有する列fを除いて、n×nの単位行列として定義することができ、
【0047】
【0048】
【数15】
として定義される。行列C
0は、量子回路201の実効キャパシタンス行列Cとして定義することができる。行列C
f-1は正定値であるので、行列W
fがwell-definedであることを帰納法で証明することができる(したがって、要素(C
f-1)
ffはゼロではない)。まず、Burkardによって求められるとおり、行列C
0≡Cを正定値とすることができる。第2に、行列C
f-1が正定値であると仮定すると、要素(W
f)
ff=-1であるので、行列W
fはwell-definedである。したがって、行列W
fの第f列は、行列W
fの他の列とは線形独立である(W
fの他の列は定義により単位行列を構成するため)。したがって、W
fはフルランクを有し、これは行列
【0049】
【0050】
[041] 最終的な行列は次のようになる。
C’≡WCWT (式3)
ここで、
【0051】
【数17】
は、最初のF行および列について、消滅する非対角要素を有し、これは以下のように検証することができる。行列C
fの第f列の非対角エントリは次のように計算することができる。
【0052】
【0053】
[042] 行列Cfの対称性により、行列Cfの第f行の非対角エントリも消滅し、すなわち、ゼロになる。第1行~第f-1行および第1列~第f-1列の行列Cfの非対角項も消滅することも示すことができ、これは帰納法によって立証することができる。まず、これは行列C1に当てはまる。第2に、同じことが行列Cfにも当てはまると仮定し、これは要素(Cf)if+1=0(i<f+1について)を意味し、これは同じことが行列Wf+1にも当てはまる、すなわち、(Wf+1)if+1=0(i<f+1について)であることを意味する。対称性により、同じことが行列Cfの第f+1行にも当てはまり、同じことが行列Wf+1にも当てはまる。したがって、行列CfおよびWf+1の両方、ひいては行列
【0054】
【数19】
は、ブロック次元1,...,1,n-fのブロック対角行列になり、これは同じことが行列C
f+1にも当てはまることを意味する。
【0055】
[043] 上記で立証したように、全ての行列Wfはフルランクであるため可逆であり、これは変換行列Wが可逆であることを意味する。したがって、変換された電荷結合行列
C’-1=(WT)-1C-1W-1 (式4)
はwell-definedである。変換された電荷行列C’はブロック次元1,...,1,n-Fのブロック対角行列であるので、変換された電荷結合行列C’-1もブロック次元1,...,1,n-Fのブロック対角である。
【0056】
[044] さらに、F(フリーモードの数)より大きいインデックスに対応する電荷結合行列C-1および変換された電荷結合行列C’-1の部分行列は同じである。これは次のように証明することができる。
【0057】
【0058】
【0059】
【数22】
であるためであり、ここで、δ
jf((W
f)
if-(W
f)
if)が続くのは、i≠jかつi≠fであるためである。ここで、j=fの場合はδ
jf=1であり、j≠fの場合はδ
jf=0である。
【0060】
[045] i,j>Fについて、以下の関係が成立する。
【0061】
【0062】
[046] そのため、Fより大きいインデックスに対応する電荷結合行列C-1および変換された電荷結合行列C’-1の部分行列は同じである。したがって、この線形変換は、元のハミルトニアンの非フリーモードの電荷結合に影響を与えない。
【0063】
[047] 電荷演算子
【0064】
【数24】
の線形変換は次のように定義することができる。
【0065】
【0066】
[048] ハミルトニアン内の正準共役量間の以下の正準交換関係
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
[049] これにより、正準交換関係が維持される。i>Fについて、Φi=ΣjWjiΦj’=Φi’であり、ここで、
【0071】
【数29】
は変換された磁束演算子である。したがって、開示した実施形態と一致して、変換された磁束は元の非フリーモードの磁束を含む。したがって、変換されたモードでのハミルトニアンにおいてフリーモードを除去することによって、元の非フリーモードのハミルトニアンを明示的に得ることができる。さらに、ハミルトニアン内の接合項は保存され、局所項(たとえば、局所演算子のテンソル積の和として表すことができる、複数のモードに関与する一般的な項とは対照的な、単一モードに関与する項)のままになる。
【0072】
[050] 開示した実施形態と一致して、磁束モードの線形変換は、次のような磁束結合行列の対応する変換を意味する。
M0→WM0WT (式7)
【0073】
[051] しかしながら、この変換は、以下に示すように、磁束結合行列の要素値に影響を与えない。
【0074】
【0075】
[052] その理由は、M0の第f行および第f列が両方とも0であるためである。したがって、
M0=WM0WT
である。
【0076】
[053] したがって、変換された磁束結合行列は元の磁束結合行列と同じである。
【0077】
[054] 同様の結果が外部磁束結合行列Nにも当てはまる。磁束モードの線形変換は、次のような外部磁束結合行列の対応する線形変換を意味する。
N→WN (式8)
【0078】
[055] しかしながら、
【0079】
【0080】
[056] したがって、N=WNであり、外部磁束結合行列は磁束モードの線形変換の影響を受けない。変換された外部磁束結合行列Nの最初のF個のモードはフリーモードであり、モードのうちの残りのモード(すなわち、非フリーモード)の磁束結合および外部磁束結合は同じままである。
【0081】
[057] この線形変換は、次のような電圧結合行列CVの対応する線形変換を意味する。
CV→WCV (式9)
【0082】
[058] 本開示のいくつかの実施形態によれば、式3~式9に基づいて、式1のハミルトニアンは、次のように変換されたモードで表すことができる。
【0083】
【0084】
[059] ここで、式10で表される変換されたハミルトニアンは、他の全てのモードから独立したF個のフリーモードを有するn個のモードの系を記述する。したがって、本開示のいくつかの実施形態によれば、式10のハミルトニアンからフリーモードの電荷に対応する項を除去することによって、元の非フリーモードのハミルトニアンを抽出することができる。
【0085】
[060]
図2Bに戻って参照すると、ハミルトニアン抽出ユニット222は、たとえば、フリーモードに対応する変換されたハミルトニアンの成分を除去することによって、量子回路201の抽出されたハミルトニアンを生成するように構成することができる。抽出されたハミルトニアンは次のように表すことができる。
【0086】
【0087】
[061] 式11において、下付き文字\Fは、フリーモードに対応する成分が、対応する演算子または行列から除去されていることを意味する。本開示のいくつかの実施形態によれば、外部磁束結合行列Nおよび変換された電圧結合行列CV’について、記号\Fは、変換されたハミルトニアンのフリーモードに対応する行を除去することを意味し得る。
【0088】
[062] 開示した実施形態と一致して、式11の抽出されたハミルトニアンH\Fは、V2に比例する恒等項を含まない場合がある(ここで、Vは回路内の電圧バイアスのベクトルである)。いくつかの実施形態では、この項はハミルトニアンのシフトのみに寄与し得、無視することができる。
開示した実施形態と一致して、抽出されたハミルトニアンH\FにおけるVに比例する駆動項は
【0089】
【数34】
に等しくなり得る。以下に示すように、この関係は、変換された電荷結合行列C’
-1のブロック対角型の性質、および電荷結合行列C
-1の部分行列と、元のハミルトニアンの非フリーモードに対応する変換された電荷結合行列C’
-1の抽出された部分との間の等価性から得ることができる。この関係の裏付けとして、フリーモードを含む次の駆動項を考える。
【0090】
【0091】
[063] この駆動項からフリーモードを除去することは、変換された電荷結合行列C’-1の最初のF列と、変換された電荷演算子
【0092】
【数36】
の最初のFエントリとを除去することと等価である。変換された電荷結合行列C’
-1はブロック対角行列であるので、最初のF行は、変換された電荷結合行列C’
-1の最初のF列が除去されると、全て0になる。したがって、変換された電荷結合行列C’
-1の最初のF行、および変換された電圧結合行列C
V’の最初のF行も除去することができる。上記で説明したように、フリーモードを除去した後の変換された電荷結合行列C’
-1の残りの部分行列は、電荷結合行列C
-1の部分行列と同じであるので、抽出されたハミルトニアンH
\Fの駆動項は式11のように表すことができる。
【0093】
[064] 開示された実施形態と一致して、また、本明細書で提供する抽出されたハミルトニアンの導出に従って、元のハミルトニアン内のフリーモード項を除去し、式9に示すように電圧結合行列CVを変換することによって、抽出されたハミルトニアンを得ることができる。電圧結合行列を変換することにより、いくつかの実施形態において、電圧源を使用する場合に、元のハミルトニアンの代わりに抽出されたハミルトニアンを使用する解析によって正しい結果が提供されるようになり得る。
【0094】
[065]
図2Bに戻って参照すると、量子回路シミュレーションユニット223は、開示した実施形態に従って、抽出されたハミルトニアンH
\Fを使用して量子回路201の挙動をシミュレートするように構成することができる。本開示のいくつかの実施形態によれば、量子回路201のシミュレーションは古典コンピュータによって実行することができる。いくつかの実施形態では、量子回路201のシミュレーションを使用して、量子回路201が設計または計画通りの挙動または性能を示すか否かを検証または評価することができる。いくつかの実施形態では、量子回路201を表す抽出されたハミルトニアンH
\Fから量子回路201の解析に使用できる固有値を得ることができる。本開示のいくつかの実施形態によれば、量子回路シミュレーションユニット223は、抽出されたハミルトニアンH
\Fに基づいて量子回路201のエネルギースペクトルを決定することができる。本開示のいくつかの実施形態によれば、量子回路201の抽出されたハミルトニアンH
\Fから量子情報処理に関係する固有値のスペクトルを得ることができる。いくつかの実施形態では、抽出されたハミルトニアンH
\Fを使用して、量子回路201の解析に適した離散的なエネルギー固有値を得ることができる。非限定的な例として、これらの離散的なエネルギー固有値を使用して、量子回路201の量子ビット周波数を(たとえば、2つの最も低い固有値間の差などとして)決定することができる。いくつかの実施形態では、量子ビットの周波数は、対応する量子ビットを制御するために使用することができる周波数を示す。
【0095】
[066]
図2Aに戻って参照すると、量子回路調整器230は、たとえば
図2Bの量子回路シミュレーションユニット223によるシミュレーション結果に基づいて量子回路を調整するように構成することができる。いくつかの実施形態では、量子回路201が計画または設計通りに挙動していることをシミュレーション結果が示している場合、量子回路調整器230は、調整が必要ないこと、または量子回路201が最適であることを確認し得る。いくつかの実施形態では、量子回路201が設計または計画通りに挙動していないことをシミュレーション結果が示している場合、量子回路調整器230は、たとえば、回路の接続を変更すること、異なる回路素子(たとえば、キャパシタ、インダクタ、抵抗器など)を選択すること、回路素子に対して異なるパラメータ値を選択することなどを含めて、量子回路201の設計を変更することによって、量子回路201を調整することができる。いくつかの実施形態では、量子回路調整器230は、量子回路201が計画または設計通りに適切に挙動することができるように、または量子回路201がその目的を考慮して最適な性能を提供するよう挙動することができるように、量子回路201を調整することができる。
【0096】
[067] 開示した実施形態と一致して、量子回路調整器230は、量子回路の設計を自動的に調整するように構成することができる。いくつかの実施形態では、量子回路オプティマイザ200は、何らかの仕様(たとえば、コスト関数)を満たす量子回路設計のパラメータの空間を探索するように構成することができる。開示した実施形態は、いかなる特定の探索アルゴリズムにも限定されない。非限定的な例として、量子回路オプティマイザ200は、モンテカルロ探索、勾配降下探索、機械学習探索(たとえば、遺伝的アルゴリズムなど)、または他の適切な探索を実行することができる。
【0097】
[068] 開示した実施形態と一致して、量子回路調整器230は、ユーザ入力に応答して設計を調整するように構成することができる。たとえば、ユーザは、量子回路オプティマイザ200によって提供されるインターフェースとやりとりすることができる。いくつかの場合では、ユーザは回路シミュレーションの結果を閲覧することができる。様々な場合において、ユーザはインターフェースを使用して命令を提供することができる。命令は量子回路調整器230に量子回路の設計を変更させることができる。いくつかの場合では、命令は、量子回路シミュレータ220に、変更された量子回路を実行または再実行させることができる。次いで、量子回路オプティマイザ200は、変更された量子回路のシミュレーションの結果を表示して、ユーザがさらなる変更を指示できるようにすることができる。いくつかの実施形態では、量子回路オプティマイザ200は、自動探索をユーザ命令と組み合わせることができる。たとえば、ユーザは、量子回路オプティマイザ200とやりとりして、1つもしくは複数の自動探索を構成したり、または1つもしくは複数の自動探索の結果を閲覧したりすることができる。
【0098】
[069]
図3Aは、本開示のいくつかの実施形態と一致する、例示的な量子回路を示している。
図3Aの量子回路300を参照して、量子回路300のハミルトニアンを生成し、ハミルトニアンからフリーモードを除去するプロセスを例示の目的で説明する。
図3Aにおいて、参照のために回路素子およびノードにラベルを付けていることは理解されよう。
図3Aに示すように、量子回路300は、クーパーペアボックスと、クーパーペアボックスに容量結合された共振器とを含む。量子回路300において、クーパーペアボックスは、並列接続されたジョセフソン接合J1(たとえば、ジョセフソン接合エネルギーL
qを有する)およびキャパシタC1(たとえば、キャパシタンスC
qを有する)を含む。この例を続けると、共振器は、並列接続されたインダクタL1(たとえば、インダクタンスL
rを有する)およびキャパシタC2(たとえば、キャパシタンスC
rgを有する)を含む。量子回路300では、クーパーペアボックスおよび共振器は、キャパシタC3(たとえば、キャパシタンスC
1rを有する)、C4(たとえば、キャパシタンスC
2gを有する)、C5(たとえば、キャパシタンスC
2rを有する)、およびキャパシタンスC6(たとえば、キャパシタンスC
1gを有する)によって容量結合される。グランドノードは参照符号gとして示す。量子回路300では、ジョセフソン接合J1およびキャパシタC1が一緒になって量子ビットを構成する。
【0099】
[070] Burkardで定義されているように、
図3Aの量子回路300の電荷結合行列C
-1および磁束結合行列M
0は次のように得ることができる。
【0100】
【0101】
[071] 簡単のため、
図3Aの量子回路300の解析では外部磁束も電圧源も考慮していないことに気づくであろう。式1に基づいて、量子回路300のハミルトニアンは次のように表すことができる。
【0102】
【0103】
[072] ここで、量子回路300の電荷演算子
【0104】
【0105】
【0106】
【0107】
【数42】
と表すことができる。下付き文字はオブザーバブル(たとえば、演算子)が量子回路300のどのブランチに対応するかを記述していることに気づくと思われ、本開示では同じ下付き文字を使用して、量子回路300のモードおよびそれらに対応する部分空間を示す。たとえば、電荷演算子Q
1gはノード1とノード0(すなわち、グランドノードg)との間のブランチに対応し、電荷演算子Q
qはノード1とノード2との間のブランチに対応し、電荷演算子Q
rはノード3とノード0との間のブランチに対応する。
【0108】
[073] この非限定的な例では、量子回路300を記述するには3つのモードで十分である。インダクタの部分空間は部分空間1gおよび部分空間rによって張られ、磁束結合行列M0のカーネルは部分空間qおよび部分空間1gによって張られ、したがってそれらの間に1つの部分空間1gが存在するので、モードのうちの1つはフリーである。したがって、量子回路300の例示的な元のハミルトニアンは、単一のフリーモードを含む。フリーモードを含むハミルトニアンが、たとえばLanczosアルゴリズムを使用して対角化され、固有値が得られた場合、フリーモードは量子回路300のスペクトルを連続的にするので、同じ固有値が常に最も低い固有値として現れ得る。
【0109】
[074]
図3Bは、本開示のいくつかの実施形態と一致する、
図3Aの量子回路300の例示的なキャパシタンステーブルを示している。
図3Bのテーブル310には、各ブランチに対応するキャパシタンス値がリストされている。たとえば、ノード0とノード1との間のブランチに対応するキャパシタンス値は1フェムトファラッド(fF)であり、ノード0とノード2との間のブランチに対応するキャパシタンス値は2fFである、などである。ここでは、
図3Bのテーブル310のキャパシタンス値に加えて、インダクタ値L
r=700nHおよびジョセフソン接合エネルギー値E
J=L
q=3GHz・hを例示の目的で使用している。この例では、最も低い10個の固有値が-0.965GHz・hとして計算され得る。このように、離散的なエネルギー準位のスペクトルが得られない。代わりに、
図4Aに示すように、エネルギースペクトルは-0.965GHz・h以上の全ての実数をカバーする。
【0110】
[075] いくつかの実施形態では、量子回路のフリーモードを識別するために基底の変更が必要であり得る。しかしながら、この非限定的な例では、観察によってフリーモードを識別することができる。この例では、モード1gはポテンシャル項を有さないので、モード1gは量子回路300においてフリーモードである。式2により、量子回路300は1つのフリーモードを有するので、量子回路300の線形変換行列Wは次のように表すことができ、
【0111】
【数43】
ここで、C
c≡C
1g+C
2g+C
1r+C
2rである。式3に基づいて、量子回路300の変換された実効キャパシタンス行列C’は次のように表すことができる。
【0112】
【0113】
[076] 式3および式4に関して示すように、量子回路300の変換されたキャパシタンス行列C’はブロック対角型であることに留意されたい。変換行列Wおよび電荷演算子
【0114】
【数45】
が与えられると、量子回路300の変換された電荷演算子
【0115】
【0116】
【0117】
【0118】
[077] 式6に関して示すように、非フリーモードの磁束演算子はΦqおよびΦrとして保存されることに留意されたい。
【0119】
[078] したがって、式11に基づいて、量子回路300の抽出されたハミルトニアンH\Fは次のように表すことができる。
【0120】
【0121】
[079] この簡単な例では、量子回路の抽出されたハミルトニアンH\Fは、元のハミルトニアンからフリーモード項を単に除去するだけで得ることができる。しかしながら、より複雑な例では、フリーモードをデカップリングするのがより困難であり得る。さらに、この例では、変換行列Wを生成する方法を示しており、これは抽出されたハミルトニアンで正しい電圧源項(voltage source term)を得るために必要になり得る。この簡単な例では、抽出されたハミルトニアンはそのような電圧源項を含まない。
【0122】
[080] 量子回路300のエネルギースペクトルを評価するために、抽出されたハミルトニアンを対角化することができる。本開示のいくつかの実施形態と一致して、対角化されたハミルトニアンを使用して、
図4Bに示す離散的なエネルギー固有値のスペクトルを得ることができる。これらの離散的なエネルギー固有値が与えられると、量子ビットの周波数を2つの最も低い固有値間の差として決定することができる。この周波数は、量子情報処理に使用することができる(たとえば、
図4Bでは1.06GHz=0.0928-(-0.965))。このようにして、量子回路300の抽出されたハミルトニアンを使用して、量子情報処理に関係するモードのスペクトルを得ることができる。
【0123】
[081] 本開示のいくつかの実施形態によれば、一般的な超伝導量子回路においてフリーモードを処理するためのスキームが提供される。本開示のいくつかの実施形態によれば、量子回路の元のハミルトニアンの実効キャパシタンス行列を使用して線形変換行列を決定することができる。線形変換行列は、元のハミルトニアンの実効キャパシタンス行列に依存することができる。線形変換行列を使用して、元のハミルトニアンを変換されたハミルトニアンに変換することができる。線形変換行列を使用して、元のハミルトニアンの電荷結合行列から、変換された電荷結合行列を生成することができる。変換された電荷結合行列は、フリーモード部分行列と非フリーモード部分行列とを含むブロック対角型にすることができる。変換された電荷結合行列の非フリーモード部分行列は、元の電荷結合行列の相当する部分行列と等しくなり得る。線形変換行列を同様に使用して、元のハミルトニアンの電荷演算子、磁束演算子、および電圧結合行列を変換することができる。変換されたハミルトニアンのフリーモードを除去することによって、変換されたハミルトニアンから、抽出されたハミルトニアンを得ることができる。抽出されたハミルトニアンを使用して、回路をシミュレートすることができる(たとえば、以降の対角化、または他の適切な解析技術の使用)。
【0124】
[082]
図5は、本開示のいくつかの実施形態と一致する、量子回路を最適化するための方法の例示的なフロー図を示している。例示の目的で、量子回路を最適化するための方法について、
図2Aの量子回路オプティマイザ200および
図2Bの量子回路シミュレータを参照して説明する。いくつかの実施形態では、量子回路を最適化するための方法の少なくとも一部は、
図1のプロセッサ110とオプティマイザ140との組み合わせにおいて、またはその組み合わせによって直接的もしくは間接的に実行できることは理解される。
【0125】
[083] 工程S510において、量子回路201の表現を取得することができる。工程S510は、たとえば、とりわけ、量子回路取得器210によって実行することができる。いくつかの実施形態では、初期量子回路、すなわち最適化される量子回路は、様々な手段によって取得され得る。たとえば、いくつかの実施形態では、初期量子回路は入力として取得され得る。この入力は、入力がどのように表現されているか(たとえば、関与するデータ構造)、および入力が何を表すか(たとえば、入力がどのような量子回路表現を使用しているか)の両方において、様々な形で到来し得る。さらに、上記で述べたように、開示した実施形態は量子回路のいかなる特定の表現にも限定されない。
【0126】
[084] 工程S520において、量子回路201の挙動をシミュレートすることができる。工程S520は、たとえば、とりわけ、量子回路シミュレータ220によって実行することができる。本開示のいくつかの実施形態によれば、工程S520は、3つのサブ工程S521、S522、およびS523によって実行することができる。
【0127】
[085] サブ工程S521において、量子回路201のハミルトニアンを変換して、変換されたハミルトニアンを生成することができる。工程S521は、たとえば、とりわけ、ハミルトニアン変換ユニット221によって実行することができる。本開示のいくつかの実施形態によれば、線形変換行列を使用して、元のハミルトニアン内でフリーモードを他の回路モードからデカップリングすることによって、変換されたハミルトニアンを生成することができる。元のハミルトニアンを変換するための例示的なプロセスについては、式1~式10に関して説明している。同様のプロセスをサブ工程S521で使用することができる。したがって、本明細書に記載のように、また、開示した実施形態と一致して、式1で表される元のハミルトニアンから式10で表される変換されたハミルトニアンを生成することができる。
【0128】
[086] サブ工程S522において、変換されたハミルトニアンに基づいて抽出されたハミルトニアンを生成することができる。工程S522は、たとえば、とりわけ、ハミルトニアン抽出ユニット222によって実行することができる。本開示のいくつかの実施形態によれば、量子回路201の抽出されたハミルトニアンは、たとえば、変換されたハミルトニアンからフリーモードを除去することによって生成することができる。本開示のいくつかの実施形態によれば、変換されたハミルトニアンではフリーモードが他の回路モードからデカップリングされているので、非フリーモード成分に影響を与えることなく、変換されたハミルトニアンからフリーモードを除去することができる。本開示のいくつかの実施形態によれば、式10で表されるように、変換されたモードでの変換されたハミルトニアンからフリーモードを除去することができる。本発明のいくつかの実施形態によれば、抽出されたハミルトニアンは、式11のように表すことができる。
【0129】
[087] サブ工程S523では、量子回路201の抽出されたハミルトニアンに基づいて、量子回路201の挙動をシミュレートすることができる。工程S523は、たとえば、とりわけ、量子回路シミュレーションユニット223によって実行することができる。本開示のいくつかの実施形態によれば、量子回路201のシミュレーションは古典コンピュータによって実行することができる。いくつかの実施形態では、量子回路201のシミュレーションを使用して、量子回路201が設計または計画通りの挙動または性能を示すか否かを検証または評価することができる。いくつかの実施形態では、量子回路201の抽出されたハミルトニアンH\Fから量子回路201の解析に使用できる固有値を得ることができる。本開示のいくつかの実施形態によれば、抽出されたハミルトニアンH\Fに基づいて量子回路201のエネルギースペクトルをシミュレートすることができる。本開示のいくつかの実施形態によれば、量子回路201の抽出されたハミルトニアンH\Fから量子情報処理に関係するモードのスペクトルを得ることができる。いくつかの実施形態では、抽出されたハミルトニアンH\Fは、たとえばLanczosアルゴリズムを使用して対角化することができる。本開示のいくつかの実施形態によれば、抽出されたハミルトニアンH\Fを対角化することによって、離散的なエネルギー固有値を得ることができる。離散的なエネルギー固有値に基づいて、量子情報処理に関係するモード(たとえば、非フリーモード)からなる量子ビットの周波数を計算することができる。いくつかの実施形態では、量子ビットの周波数は、2つの最も低い固有値の間の差とすることができる。いくつかの実施形態では、量子ビットの周波数は、対応する量子ビットを制御するために使用することができる周波数を示す。
【0130】
[088] 工程S530において、量子回路201を調整することができる。工程S530は、たとえば、とりわけ、量子回路調整器230によって実行することができる。いくつかの実施形態では、量子回路201が計画または設計通りに挙動していることをシミュレーション結果が示している場合、調整は不要であり得る。いくつかの実施形態では、量子回路201が設計または計画通りに挙動していないことをシミュレーション結果が示している場合、たとえば、回路の接続を変更すること、異なる回路素子(たとえば、キャパシタ、インダクタ、抵抗器など)を選択すること、回路素子に対して異なるパラメータ値を選択することなどを含めて、量子回路201の設計を変更することによって、量子回路201を調整することができる。いくつかの実施形態では、量子回路201が計画または設計通りに適切に挙動することができるように、または量子回路201がその目的を考慮して最適な性能を提供するよう挙動することができるように、量子回路201が調整され得る。本明細書に記載のように、そのような調整は自動で、または少なくとも部分的に手動で行うことができる。
【0131】
[089] 以下の条項を使用して、実施形態をさらに説明し得る。
【0132】
[090] 1.量子回路を最適化するための方法であって、1つまたは複数の量子ビットを含む量子回路の表現を取得することと、フリーモードが非フリーモードからデカップリングされた第2のハミルトニアンを生成するために、線形変換行列を使用して量子回路に対応する第1のハミルトニアンを変換することと、第2のハミルトニアンからフリーモードを除去することによって第3のハミルトニアンを生成することと、第3のハミルトニアンを使用して量子回路の挙動をシミュレートすることと、量子回路のシミュレートされた挙動に基づいて量子回路の設計を調整することと、を含む、方法。
【0133】
[091] 2.第2のハミルトニアンを生成するために第1のハミルトニアンを変換することは、第2のハミルトニアン内の変換された電荷結合行列がフリーモードセクタおよび非フリーモードセクタへとブロック対角化されるように、第1のハミルトニアンの電荷結合行列の逆行列を、変換された電荷結合行列の逆行列に変換することを含む、条項1に記載の方法。
【0134】
[092] 3.第2のハミルトニアンを生成するために第1のハミルトニアンを変換することは、線形変換行列を使用して第1のハミルトニアンの電荷演算子を変換することをさらに含む、条項2に記載の方法。
【0135】
[093] 4.第2のハミルトニアンを生成するために第1のハミルトニアンを変換することは、第1のハミルトニアンの正準交換関係が第2のハミルトニアンで維持されるように、第1のハミルトニアンの磁束演算子を変換することをさらに含む、条項2または3に記載の方法。
【0136】
[094] 5.線形変換行列を使用して第1のハミルトニアンの実効キャパシタンス行列にガウス消去法を実行することをさらに含む、条項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【0137】
[095] 6.第3のハミルトニアンを使用して量子回路の挙動をシミュレートすることは、第3のハミルトニアンを対角化することによって量子回路の離散的なエネルギー固有値を得ることを含む、条項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【0138】
[096] 7.量子回路の挙動は、1つまたは複数の量子ビットのうちの1つの量子ビットの周波数を含む、条項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【0139】
[097] 8.量子回路を最適化するための装置であって、命令のセットを記憶するためのメモリと、命令のセットを実行して装置に動作を実行させるように構成される少なくとも1つのプロセッサと、を備え、動作は、1つまたは複数の量子ビットを含む量子回路の表現を取得することと、フリーモードが非フリーモードからデカップリングされた第2のハミルトニアンを生成するために、線形変換行列を使用して量子回路に対応する第1のハミルトニアンを変換することと、第2のハミルトニアンからフリーモードを除去することによって第3のハミルトニアンを生成することと、第3のハミルトニアンを使用して量子回路の挙動をシミュレートすることと、量子回路のシミュレートされた挙動に基づいて量子回路の設計を調整することと、を含む、装置。
【0140】
[098] 9.第2のハミルトニアンを生成するために第1のハミルトニアンを変換することは、第2のハミルトニアン内の変換された電荷結合行列がフリーモードセクタおよび非フリーモードセクタへとブロック対角化されるように、第1のハミルトニアンの電荷結合行列の逆行列を、変換された電荷結合行列の逆行列に変換することを含む、条項8に記載の装置。
【0141】
[099] 10.第2のハミルトニアンを生成するために第1のハミルトニアンを変換することは、線形変換行列を使用して第1のハミルトニアンの電荷演算子を変換することをさらに含む、条項9に記載の装置。
【0142】
[0100] 11.第2のハミルトニアンを生成するために第1のハミルトニアンを変換することは、第1のハミルトニアンの正準交換関係が第2のハミルトニアンで維持されるように、第1のハミルトニアンの磁束演算子を変換することをさらに含む、条項9または10に記載の装置。
【0143】
[0101] 12.線形変換行列は、第1のハミルトニアンの実効キャパシタンス行列にガウス消去法を実行するように構成される、条項8から11のいずれか一項に記載の装置。
【0144】
[0102] 13.第3のハミルトニアンを使用して量子回路の挙動をシミュレートすることは、第3のハミルトニアンを対角化することによって量子回路の離散的なエネルギー固有値を得ることをさらに含む、条項8から12のいずれか一項に記載の装置。
【0145】
[0103] 14.量子回路の挙動は、1つまたは複数の量子ビットのうちの1つの量子ビットの周波数を含む、条項7から10のいずれか一項に記載の装置。
【0146】
[0104] 15.量子回路を最適化するための方法を実行するためにコンピューティングデバイスの少なくとも1つのプロセッサによって実行可能な命令のセットを記憶する非一時的コンピュータ可読媒体であって、方法は、1つまたは複数の量子ビットを含む量子回路の表現を取得することと、フリーモードが非フリーモードからデカップリングされた第2のハミルトニアンを生成するために、線形変換行列を使用して量子回路に対応する第1のハミルトニアンを変換することと、第2のハミルトニアンからフリーモードを除去することによって第3のハミルトニアンを生成することと、第3のハミルトニアンを使用して量子回路の挙動をシミュレートすることと、量子回路のシミュレートされた挙動に基づいて量子回路の設計を調整することと、を含む、非一時的コンピュータ可読媒体。
【0147】
[0105] 16.第2のハミルトニアンを生成するために第1のハミルトニアンを変換することは、第2のハミルトニアン内の変換された電荷結合行列がフリーモードセクタおよび非フリーモードセクタへとブロック対角化されるように、第1のハミルトニアンの電荷結合行列の逆行列を、変換された電荷結合行列の逆行列に変換することをさらに含む、条項15に記載のコンピュータ可読媒体。
【0148】
[0106] 17.第2のハミルトニアンを生成するために第1のハミルトニアンを変換することは、線形変換行列を使用して第1のハミルトニアンの電荷演算子を変換することをさらに含む、条項16に記載のコンピュータ可読媒体。
【0149】
[0107] 18.第2のハミルトニアンを生成するために第1のハミルトニアンを変換することは、第1のハミルトニアンの正準交換関係が第2のハミルトニアンで維持されるように、第1のハミルトニアンの磁束演算子を変換することをさらに含む、条項16または17に記載のコンピュータ可読媒体。
【0150】
[0108] 19.第3のハミルトニアンを生成することは、線形変換行列を使用して第1のハミルトニアンの実効キャパシタンス行列にガウス消去法を実行することをさらに含む、条項15から18のいずれか一項に記載のコンピュータ可読媒体。
【0151】
[0109] 20.第3のハミルトニアンを使用して量子回路の挙動をシミュレートすることは、
[0110] 第3のハミルトニアンを対角化することによって量子回路の離散的なエネルギー固有値を得ること
をさらに含む、条項15から19のいずれか一項に記載のコンピュータ可読媒体。
【0152】
[0111] 21.量子回路の挙動は、1つまたは複数の量子ビットのうちの1つの量子ビットの周波数を含む、条項15から20のいずれか一項に記載のコンピュータ可読媒体。
【0153】
[0112] 本明細書の実施形態には、データベースシステム、方法、および有形非一時的コンピュータ可読媒体が含まれる。これらの方法は、たとえば、有形非一時的コンピュータ可読記憶媒体(たとえば、
図1のメモリ120)から命令を受け取る少なくとも1つのプロセッサによって実行され得る。同様に、本開示と一致するシステムは、少なくとも1つのプロセッサおよびメモリを含み得、メモリは有形非一時的コンピュータ可読記憶媒体であり得る。本明細書で使用する場合、有形非一時的コンピュータ可読記憶媒体とは、少なくとも1つのプロセッサによって読み取り可能な情報またはデータが記憶され得る任意のタイプの物理メモリを指す。例には、ランダムアクセスメモリ(RAM)、読み取り専用メモリ(ROM)、揮発性メモリ、不揮発性メモリ、ハードドライブ、CD ROM、DVD、フラッシュドライブ、ディスク、レジスタ、キャッシュ、および他の任意の知られている物理記憶媒体が含まれる。「メモリ」および「コンピュータ可読記憶媒体」などの単数形の用語はさらに、複数のメモリまたはコンピュータ可読記憶媒体などの複数の構造を指し得る。本明細書で言及する場合、「メモリ」は、特に指定しない限り、任意のタイプのコンピュータ可読記憶媒体を含み得る。コンピュータ可読記憶媒体は、本明細書の実施形態と一致する工程またはステージをプロセッサに実行させるための命令を含む、少なくとも1つのプロセッサによって実行される命令を記憶し得る。さらに、1つまたは複数のコンピュータ可読記憶媒体は、コンピュータ実装方法を実装する際に利用され得る。「非一時的コンピュータ可読記憶媒体」という用語は、有形のアイテムを含み、搬送波および一過性の信号を除くものと理解されたい。
【0154】
[0113] 本明細書で使用する場合、特に別段の記載がない限り、「または」という用語は、実行不可能な場合を除き、全ての可能な組み合わせを包含する。たとえば、データベースがAまたはBを含み得ると記載している場合、特に別段の記載がないかまたは実行不可能でない限り、データベースはA、またはB、またはAおよびBを含み得る。第2の例として、データベースがA、B、またはCを含み得ると記載している場合、特に別段の記載がないかまたは実行不可能でない限り、データベースは、A、B、C、AおよびB、AおよびC、BおよびC、AおよびBおよびCを含み得る。
【0155】
[0114] 前述の明細書では、実装ごとに異なり得る多数の特定の詳細を参照して実施形態を説明している。説明した実施形態の特定の適応および修正を行うことができる。他の実施形態は、本明細書を考慮し、本明細書に開示した本発明を実践することにより、当業者に明らかとなろう。本明細書および例は単なる例示と考えられ、本発明の真の範囲および思想は以下の特許請求の範囲によって示されるものとする。また、図に示した工程の順序は、例示のみを目的としており、いかなる特定の工程の順序にも限定されないものとする。したがって、当業者であれば、同じ方法を実装しながら、これらの工程を異なる順序で実行できることを理解することができる。