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特許7450820要因推定装置、要因推定方法および要因推定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-07
(45)【発行日】2024-03-15
(54)【発明の名称】要因推定装置、要因推定方法および要因推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 18/23 20230101AFI20240308BHJP
   G05B 23/02 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
G06F18/23
G05B23/02 302Y
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023533299
(86)(22)【出願日】2022-11-14
(86)【国際出願番号】 JP2022042218
【審査請求日】2023-05-31
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000236056
【氏名又は名称】三菱電機ビルソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002491
【氏名又は名称】弁理士法人クロスボーダー特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 圭
(72)【発明者】
【氏名】阪田 恒次
(72)【発明者】
【氏名】藤田 武
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-236302(JP,A)
【文献】特開2015-170121(JP,A)
【文献】特開2017-211713(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
G06F 18/23
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号グループの正常時の信号データである正常データを使って、正常時の信号間の相関関係を示す相関関係情報を算出する関係導出部と、
異常が検出された信号データである異常データに基づいて前記信号グループの信号ごとに、機械学習によって作成された学習済みモデルを使って前記信号の異常度を算出し、前記異常データと前記相関関係情報に基づいて前記信号グループの信号間の相関関係の異常度を算出し、算出された異常度の組み合わせと、各信号の異常度と信号間の相関関係の異常度の組み合わせごとに異常要因を示す組み合わせ表と、に基づいて異常要因を推定する要因推定部と、
を備える要因推定装置。
【請求項2】
前記関係導出部は、前記正常データに対する主成分分析を行い、前記主成分分析の結果を前記相関関係情報として算出する
請求項1に記載の要因推定装置。
【請求項3】
前記要因推定部は、検出された異常が前記異常データの取得元の故障を要因とする異常であるか否か、を前記異常要因として推定する
請求項1に記載の要因推定装置。
【請求項4】
前記関係導出部は、前記正常データの第一主成分の統計量と、前記正常データの第二主成分の統計量と、を前記相関関係情報として算出し、
前記要因推定部は、
前記第一主成分における前記異常データの値と、前記第二主成分における前記異常データの値と、を算出し、
前記第一主成分の前記統計量と、前記第一主成分における前記異常データの前記値と、を用いて前記第一主成分における前記異常データの特徴量を算出し、
前記第二主成分の前記統計量と、前記第二主成分における前記異常データの前記値と、
を用いて前記第二主成分における前記異常データの特徴量を算出し、
前記第一主成分における前記異常データの前記特徴量と、前記第二主成分における前記異常データの前記特徴量と、を前記信号グループの信号間の相関関係の前記異常度として算出して前記異常要因を推定する
請求項1に記載の要因推定装置。
【請求項5】
前記正常データを学習して学習済みモデルを作成するモデル構築部と、
前記学習済みモデルを使って、信号データから異常を検出する異常検出部と、
を備える
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の要因推定装置。
【請求項6】
信号グループの正常時の信号データである正常データを使って、正常時の信号間の相関関係を示す相関関係情報を算出し、
異常が検出された信号データである異常データに基づいて前記信号グループの信号ごとに、機械学習によって作成された学習済みモデルを使って前記信号の異常度を算出し、前記異常データと前記相関関係情報に基づいて前記信号グループの信号間の相関関係の異常度を算出し、算出された異常度の組み合わせと、各信号の異常度と信号間の相関関係の異常度の組み合わせごとに異常要因を示す組み合わせ表と、に基づいて異常要因を推定する要因推定方法。
【請求項7】
信号グループの正常時の信号データである正常データを使って、正常時の信号間の相関関係を示す相関関係情報を算出する関係導出処理と、
異常が検出された信号データである異常データに基づいて前記信号グループの信号ごとに、機械学習によって作成された学習済みモデルを使って前記信号の異常度を算出し、前記異常データと前記相関関係情報に基づいて前記信号グループの信号間の相関関係の異常度を算出し、算出された異常度の組み合わせと、各信号の異常度と信号間の相関関係の異常度の組み合わせごとに異常要因を示す組み合わせ表と、に基づいて異常要因を推定する要因推定処理と、
をコンピュータに実行させるための要因推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、教師データ無しの手法における異常要因の推定に関するものである。
【背景技術】
【0002】
設備から異常データが検出された場合、迅速かつ適切な保守対応を取るためには、「異常の要因は何か」を、早期に解明する必要がある。
異常要因の推定のための手法として、教師データ有りの手法と、教師データ無しの手法と、が知られている。
【0003】
K近傍法による異常要因推定は、教師データ有りの手法である。
この手法では、異常の要因がラベル付けされた教師データが用いられる。そして、異常検出データの近傍の教師データの異常要因が異常検出データの異常要因として出力される。
但し、この手法では、異常要因推定に用いる教師データが十分に無いと、精度の良い異常要因推定ができない。また、この手法では、機器仕様および運転条件ごとに教師データを準備する必要があるため、教師データの作成に手間がかかる。
【0004】
特許文献1は、教師データ無しの手法を開示している。
この手法は、正常データに対する異常データのベクトルを算出し、算出したベクトルに基づいて異常な信号を示す情報を提示する。
この手法は、教師データを使わずに異常な信号を提示できるが、どのような異常が検出されたかを提示できない。
どのような異常が検出されたかが提示されないと、保守員は、検出された異常に対して迅速に正しい対応を取ることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2021-149315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、教師データ無しの手法で異常要因を推定できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の要因推定装置は、
信号グループの正常時の信号データである正常データを使って、正常時の信号間の相関関係を示す相関関係情報を算出する関係導出部と、
異常が検出された信号データである異常データと、前記相関関係情報と、に基づいて異常要因を推定する要因推定部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、教師データ無しの手法で異常要因を推定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1における要因推定装置100の構成図。
図2】実施の形態1における要因推定システム200の構成図。
図3】実施の形態1における要因推定方法(準備)のフローチャート。
図4】実施の形態1における第一主成分と第二主成分の関係図。
図5】実施の形態1における要因推定方法(評価)のフローチャート。
図6】実施の形態1における主成分と異常データの関係図。
図7】実施の形態1における異常データの異常度を示すグラフ。
図8】教師データ有りの従来手法を示す概要図。
図9】教師データ無しの従来手法を示す概要図。
図10】設備構成と組み合わせ表の例を示す図。
図11】実施の形態1における要因推定装置100のハードウェア構成図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態および図面において、同じ要素または対応する要素には同じ符号を付している。説明した要素と同じ符号が付された要素の説明は適宜に省略または簡略化する。図中の矢印はデータの流れ又は処理の流れを主に示している。
【0011】
実施の形態1.
異常要因の推定について、図1から図11に基づいて説明する。
【0012】
***構成の説明***
図1に基づいて、要因推定装置100の構成を説明する。
要因推定装置100は、プロセッサ101とメモリ102と補助記憶装置103と通信装置104と入出力インタフェース105といったハードウェアを備えるコンピュータである。これらのハードウェアは、信号線を介して互いに接続されている。
【0013】
プロセッサ101は、演算処理を行うICであり、他のハードウェアを制御する。例えば、プロセッサ101は、CPU、DSPまたはGPUである。
ICは、Integrated Circuitの略称である。
CPUは、Central Processing Unitの略称である。
DSPは、Digital Signal Processorの略称である。
GPUは、Graphics Processing Unitの略称である。
【0014】
メモリ102は揮発性または不揮発性の記憶装置である。メモリ102は、主記憶装置またはメインメモリとも呼ばれる。例えば、メモリ102はRAMである。メモリ102に記憶されたデータは必要に応じて補助記憶装置103に保存される。
RAMは、Random Access Memoryの略称である。
【0015】
補助記憶装置103は不揮発性の記憶装置である。例えば、補助記憶装置103は、ROM、HDD、フラッシュメモリまたはこれらの組み合わせである。補助記憶装置103に記憶されたデータは必要に応じてメモリ102にロードされる。
ROMは、Read Only Memoryの略称である。
HDDは、Hard Disk Driveの略称である。
【0016】
通信装置104はレシーバ及びトランスミッタである。例えば、通信装置104は通信チップまたはNICである。要因推定装置100の通信は通信装置104を用いて行われる。
NICは、Network Interface Cardの略称である。
【0017】
入出力インタフェース105は、入力装置291および出力装置292が接続されるポートである。例えば、入出力インタフェース105はUSB端子であり、入力装置291はキーボードおよびマウスであり、出力装置292はディスプレイである。要因推定装置100の入出力は入出力インタフェース105を用いて行われる。
USBは、Universal Serial Busの略称である。
【0018】
要因推定装置100は、データ取得部111とモデル構築部112と関係導出部113と異常検出部114と要因推定部115といった要素を備える。これらの要素はソフトウェアで実現される。
【0019】
補助記憶装置103には、データ取得部111とモデル構築部112と関係導出部113と異常検出部114と要因推定部115としてコンピュータを機能させるための要因推定プログラムが記憶されている。要因推定プログラムは、メモリ102にロードされて、プロセッサ101によって実行される。
補助記憶装置103には、さらに、OSが記憶されている。OSの少なくとも一部は、メモリ102にロードされて、プロセッサ101によって実行される。
プロセッサ101は、OSを実行しながら、要因推定プログラムを実行する。
OSは、Operating Systemの略称である。
【0020】
要因推定プログラムの入出力データは記憶部190に記憶される。
メモリ102は記憶部190として機能する。但し、補助記憶装置103、プロセッサ101内のレジスタおよびプロセッサ101内のキャッシュメモリなどの記憶装置が、メモリ102の代わりに、又は、メモリ102と共に、記憶部190として機能してもよい。
【0021】
要因推定装置100は、プロセッサ101を代替する複数のプロセッサを備えてもよい。
【0022】
要因推定プログラムは、光ディスクまたはフラッシュメモリ等の不揮発性の記録媒体にコンピュータ読み取り可能に記録(格納)することができる。
【0023】
図2に、要因推定システム200の構成例を示す。
要因推定システム200は、要因推定装置100の要素と、設備201と、を備える。
信号データDB210とモデルDB220と相関関係DB230は、要因推定装置100に備えられてもよいし、外部装置に備えられてもよい。DBは、データベースを意味する。
正常データ211は、モデル構築部112を経由して関係導出部113に入力されてもよいし、信号データDB210から関係導出部113へ直接に入力されてもよい。
【0024】
***動作の説明***
要因推定装置100の動作の手順は要因推定方法に相当する。また、要因推定装置100の動作の手順は要因推定プログラムによる処理の手順に相当する。
【0025】
図3に基づいて、要因推定方法(準備)を説明する。
要因推定方法(準備)は、学習済みモデル221と相関関係情報231を用意するための方法である。
【0026】
要因推定方法(準備)において、設備201の状態は正常である。
設備201は、各時刻の信号データを出力する。信号データは、複数の信号のそれぞれの値を示す。
例えば、設備201は1つ以上の機器を備え、入力信号が各機器に入力され、出力信号が各機器から出力される。この場合、信号データは、各機器の入力信号の値と、各機器の出力信号の値と、を示す。
【0027】
設備201の複数の信号は、1つ以上の信号グループを構成する。設備201の複数の信号は、例えば設備201の設計情報に基づいてグループ化される。
信号グループは、信号の組であり、関係がある2つ以上の信号から成る。例えば、入力信号と出力信号には入出力の関係があり、入力信号と出力信号が信号グループを構成する。
【0028】
正常時の信号データを、正常データ211と称する。
【0029】
ステップS110において、データ取得部111は、設備201から各時刻の正常データ211を取得し、取得した正常データ211を信号データDB210に記憶する。
【0030】
ステップS120において、モデル構築部112は、正常データ211を学習して学習済みモデル221を作成する。
【0031】
具体的には、モデル構築部112は、信号グループごとに、正常データ211を学習して学習済みモデル221を作成する。
【0032】
学習済みモデル221は、以下のように作成される。
利用者は、入力装置291を使用して学習条件情報および信号グループ情報を要因推定装置100に入力する。
学習条件情報は、学習のための条件を示す。例えば、学習条件情報は、学習対象期間および機器仕様などを示す。学習対象期間は、学習の対象となる期間である。機器仕様は、設備201に備わる機器の仕様である。
信号グループ情報は、1つ以上の信号グループを示す。
モデル構築部112は、入力された学習条件情報および入力された信号グループ情報を受け付ける。
【0033】
モデル構築部112は、学習条件情報および信号グループ情報に基づいて、正常データ211の学習を行う。学習は以下のように行われる。
まず、モデル構築部112は、学習条件情報を参照し、学習対象期間の信号データ(正常データ211)を信号データDB210から取得する。
次に、モデル構築部112は、信号グループ情報を参照し、取得された正常データ211を1つ以上の信号グループに対応する1つ以上の正常データ211に分ける。
そして、モデル構築部112は、信号グループごとに、正常データ211を学習して学習済みモデル221を作成する。
【0034】
学習の具体的な方法は機械学習である。機械学習の一例はマハラノビスタグチ手法である。
【0035】
モデル構築部112は、作成された学習済みモデル221をモデルDB220に記憶する。
【0036】
ステップS130において、関係導出部113は、正常データ211を使って相関関係情報231を算出する。
相関関係情報231は、正常時の信号間の相関関係を示す。
【0037】
具体的には、関係導出部113は、信号グループごとに、正常データ211を使って相関関係情報231を算出する。
【0038】
相関関係情報231は、以下のように算出される。
関係導出部113は、正常データ211に対する主成分分析を行い、主成分分析の結果を算出する。算出された結果が相関関係情報231となる。
主成分分析の結果は、第一主成分の方向と第二主成分の方向を含む。また、主成分分析の結果は、正常データ211の第一主成分の統計量と、正常データ211の第二主成分の統計量を含む。統計量の例は平均および標準偏差である。
第一主成分は、正常時の信号間の相関関係を示す方向(相関方向)の成分である。
第二主成分は、正常時の信号間の相関関係と無関係の方向(無関係方向)の成分である。相関方向と垂直な方向が無関係方向である。
【0039】
図4に、第一主成分と第二主成分の関係の例を示す。
第二主成分の方向は、第一主成分の方向と直交している。
実線楕円は、学習データ(正常データ211)の存在範囲を表す。
破線楕円は、学習済みモデル221における正常範囲を表す。
【0040】
図3に戻り、ステップS130の説明を続ける。
関係導出部113は、算出された相関関係情報231を相関関係DB230に記憶する。
【0041】
図5に基づいて、要因推定方法(評価)を説明する。
要因推定方法(評価)は、学習済みモデル221を使って異常を検出し、相関関係情報231を使って異常要因を推定するための方法である。
【0042】
要因推定方法(評価)において、設備201の状態は正常または異常である。
【0043】
評価の対象となる信号データを、対象データ212と称する。
【0044】
ステップS140において、データ取得部111は、設備201から各時刻の対象データ212を取得し、取得した対象データ212を信号データDB210に記憶する。
【0045】
ステップS150において、異常検出部114は、学習済みモデル221を使って、対象データ212から異常を検出する。
【0046】
具体的には、異常検出部114は、信号グループごとに、学習済みモデル221を使って、対象データ212から異常を検出する。
【0047】
異常検出は、以下のように行われる。
利用者は、入力装置291を使用して評価条件情報および信号グループ情報を要因推定装置100に入力する。
評価条件情報および信号グループ情報は、ステップS120における学習条件情報および信号グループ情報に相当する。
評価条件情報は、評価(異常検出)のための条件を示す。例えば、評価条件情報は、評価対象期間および機器仕様などを示す。評価対象期間は、評価の対象となる期間である。機器仕様は、設備201に備わる機器の仕様である。
信号グループ情報は、1つ以上の信号グループを示す。
異常検出部114は、入力された評価条件情報および入力された信号グループ情報を受け付ける。
【0048】
異常検出部114は、評価条件情報および信号グループ情報に基づいて、対象データ212の評価を行う。評価は以下のように行われる。評価対象期間の各時刻を、評価対象時刻と称する。
まず、異常検出部114は、評価条件情報を参照し、評価対象時刻の信号データ(対象データ212)を信号データDB210から取得する。
次に、異常検出部114は、信号グループ情報を参照し、取得された対象データ212を1つ以上の信号グループに対応する1つ以上の対象データ212に分ける。
そして、異常検出部114は、信号グループごとに、対象データ212を入力にして学習済みモデル221を演算する。
対象データ212が異常時の信号データである場合、学習済みモデル221の演算によって異常が検出される。異常検出のために、学習済みモデル221は例えば閾値を使用する。
【0049】
異常が検出された対象データ212を、異常データ213と称する。
【0050】
ステップS160において、要因推定部115は、異常データ213と相関関係情報231に基づいて異常要因を推定する。
【0051】
具体的には、要因推定部115は、信号グループごとに、異常データ213と相関関係情報231に基づいて異常要因を推定する。
【0052】
特に、要因推定部115は、検出された異常が設備201の故障を要因とする異常であるか否か、を異常要因として推定する。設備201は異常データ213の取得元である。
【0053】
異常要因は、以下のように推定される。
要因推定部115は、相関関係情報231に基づいて異常データ213の特徴量を算出し、算出された特徴量に基づいて異常要因を推定する。
【0054】
具体的には、異常要因は以下のような手順で推定される。第一主成分および第二主成分は、相関関係情報231に示される主成分を意味する。つまり、第一主成分および第二主成分は、正常データ211の主成分を意味する。
まず、要因推定部115は、第一主成分における異常データ213の値と、第二主成分における異常データ213の値と、を算出する。
次に、要因推定部115は、第一主成分の統計量と、第一主成分における異常データ213の値と、を用いて第一主成分における異常データ213の特徴量を算出する。
また、要因推定部115は、第二主成分の統計量と、第二主成分における異常データ213の値と、を用いて第二主成分における異常データ213の特徴量を算出する。
そして、要因推定部115は、第一主成分における異常データ213の特徴量と、第二主成分における異常データ213の特徴量と、に基づいて異常要因を推定する。
【0055】
第二主成分における異常データ213の特徴量が第一主成分における異常データ213の特徴量より大きい場合、要因推定部115は、設備201の故障を異常要因として推定する。設備201は異常データ213の取得元である。
【0056】
図6に、第一主成分と第二主成分と異常データ(A,B)の値の関係を示す。
図7に、異常データ(A,B)の異常度を示す。異常度は特徴量に相当する。
異常データAの場合、第二主成分の異常度よりも第一主成分の異常度の方が大きい。この場合、異常が検出されたが、信号間の相関関係は保たれている。そのため、異常要因が設備201の故障ではない可能性が高い。レアな運転条件が異常要因になっている可能性がある。
異常データBの場合、第一主成分の異常度よりも第二主成分の異常度の方が大きい。この場合、信号間の相関関係が崩れている。そのため、異常要因が設備201の故障である可能性が高い。
【0057】
異常度(特徴量)は、例えばホテリング理論を使って以下のように計算される。
第一主成分の異常度a(d1)は、以下の式で表される。
a(d1) =(d1)^2/(σ1)^2
d1は、第一主成分における異常データ213の値(第一主成分得点)である。
σ1は、第一主成分における正常データ211の値の標準偏差である。
第二主成分の異常度a(d2)は、以下の式で表される。
a(d2) =(d2)^2/(σ2)^2
d2は、第二主成分における異常データ213の値(第二主成分得点)である。
σ2は、第二主成分における正常データ211の値の標準偏差である。
【0058】
図5に戻り、ステップS160の説明を続ける。
要因推定部115は、異常要因を示す情報(異常要因情報)を出力する。
例えば、要因推定部115は、異常データグループと、異常要因情報と、をディスプレイに表示する。
【0059】
***実施の形態1の効果***
図8に、教師データ有りの従来手法の概要を示す。
黒丸は異常検出データを表す。網掛けの丸は要因Aの教師データを表す。白丸は要因Bの教師データを表す。
第1異常検出データの近傍には要因Aの教師データが多い。そのため、第1異常検出データの場合、異常要因が要因Aであると推定される。
第2異常検出データの近傍には、いずれの要因の教師データも無い。そのため、第2異常検出データの場合、異常要因を推定できない。
このように、教師データ有りの従来手法では、教師データが十分に無ければ異常要因をうまく推定できない。
【0060】
図9に、教師データ無しの従来手法の概要を示す。
黒丸は正常データを表す。網掛けの丸は異常データを表す。グラフは、第1異常データのベクトルと信号の関係を示す。
教師データ有りの従来手法では、正常データに対する異常データのベクトルに基づいて異常な信号が推定される。
第1異常データの場合、信号X1が異常であると推定される。
第2異常データは正常領域から外れているが、第2異常データにおいて信号X1のベクトルと信号X2のベクトルの相関関係が保たれている。この場合、異常要因は設備の故障ではなく、レアな稼働条件での学習データが不足していると考えられる。従来、このような考えを推定することはできなかった。
このように、教師データ無しの従来手法では、異常な信号を提示することはできるが、異常の種類を提示することはできなかった。
【0061】
実施の形態1は、正常時のデータ特性(信号間の相関関係)に対して異常が検出されたデータがどのように乖離しているかを示す特徴量を算出して異常の種類を推定することができる、という効果を奏する。
つまり、実施の形態1は、教師データ無しの従来の手法よりも詳細に要因推定結果を提示できる。これにより、異常検出時に保守員は適切な対応を取ることができる。
【0062】
***実施の形態1のまとめ***
実施の形態1は、教師データ無しの異常要因推定手法として、信号ごとの異常度だけでなく異常の種類も推定する手法を開示する。
具体的には、実施の形態1は、正常時のデータ特性(信号間の相関関係)に対して異常が検出されたデータがどのように乖離しているかを示す特徴量を算出して異常の種類を推定する。
【0063】
要因推定方法は、関係導出処理と要因推定処理を有することを特徴とする。
関係導出処理は、正常時の信号間の相関関係を計算する。
要因推定処理は、正常時の信号間の相関関係を利用して異常検出データを特徴量に変換し、その特徴量を利用して異常要因を推定する。
【0064】
実施の形態1は、正常時の相関関係を考慮して異常データをベクトルに分解し、ベクトルを用いて要因を推定する、という新規性を有する。
実施の形態1は、教師データ無しでも異常の種類を推定できる、という進歩性を有する。
【0065】
実施の形態1は、異常要因がラベル付けされた教師データを用いることなく異常時の要因(異常の種類)を推定することができる。
実施の形態1は、異常要因推定のための教師データの作成および蓄積の手間が省ける。そのため、実施の形態1の運用を早期に開始することができる。
【0066】
***実施例の説明***
要因推定部115は、各信号の単体の異常度と信号間の相関関係の異常度に基づいて、異常要因を推定してもよい。これにより、より詳細な要因の推定が可能になる。
異常要因は以下のように推定される。
まず、要因推定部115は、信号ごとの異常度を算出する。また、要因推定部115は、信号間の相関関係の異常度を算出する。異常度は、異常データ213を使って、例えばホテリングT法で算出される。
そして、要因推定部115は、算出された異常度の組み合わせに対応する異常要因を組み合わせ表から選択する。選択された異常要因が推定された異常要因である。
組み合わせ表は、各信号の異常度と信号間の相関関係(入出力関係)の異常度の組み合わせごとに異常要因を示す。
組み合わせ表は以下のように作成される。
まず、利用者は、設備201の設計情報および設備201の制御関係情報などを参照し、設備201の構成を把握する。
そして、利用者は、設備201の構成に基づいて、組み合わせ表を作成する。
図10に、設備構成と組み合わせ表の例を示す。
設備は、機器AとセンサBとセンサCを備える。センサBは入力信号Xを検出し、機器Aは入力信号Xを出力信号Yに変換し、センサCは出力信号Yを検出する。例えば、機器Aは電動機であり、入力信号Xは電流であり、出力信号Yはトルクである。
組み合わせ表において、異常要因の欄は、結果の解釈と、故障の可能性が高い部位と、を示す。
要因(1)は、異常なし(正常)を意味する。
要因(2)は、単信号(X,Y)は正常範囲だが入出力関係が崩れているため、機器Aの故障の可能性が高いことを意味する。
要因(3)は、単信号は異常だが入出力関係が保たれているため、レアな運転条件(および操作ミスなど)が要因である可能性が高いことを意味する。
要因(4)は、単信号と入出力関係のどちらもおかしいため、設備構成(A,B,C)がおかしいという可能性、又は、レアな運転条件(および操作ミスなど)が要因である可能性が高い、又は、両方の可能性が高いことを意味する。
要因(5)は、入力信号Xの異常度が高く入出力関係が崩れているため、センサBが異常である可能性、又は、レアな運転条件(入力信号Xが高め)と機器Aの異常が要因である可能性が高いことを意味する。
要因(6)は、出力信号Yの異常度が高く入出力関係が崩れているため、センサCが異常である可能性、又は、機器Aが異常である可能性が高いことを意味する。
【0067】
使用される主成分分析は、一般的な主成分分析でもよいし、カーネル主成分分析のような特別な主成分分析でもよい。また、主成分分析以外の手法が使用されてもよい。
一般的な主成分分析以外の手法は、非線形の相関関係を有する信号の組が推定の対象になる場合に特に有効である。
信号間の相関関係の種類(線形または非線形)は、設備201の設計情報を参照して判定することができる。設計情報は信号仕様を示す。信号仕様は信号の仕様である。
【0068】
非線形の相関関係を有する信号の組が推定の対象になる場合、要因推定装置100は、信号間の相関関係を線形に変換し、変換後に一般的な主成分分析などを行ってもよい。
【0069】
信号間の相関関係を変化させる条件を、変化条件と称する。例えば、設備201の動作モードが変化条件となる。
学習済みモデル221は、変化条件ごとに作成され使い分けられてもよい。相関関係情報231は、変化条件ごとに算出され使い分けられてもよい。これにより、より精度の高い推定を実施することができる。
【0070】
モデル構築部112は、除外時刻の正常データ211を除外し、残りの正常データ211を学習して学習済みモデル221を作成してもよい。
関係導出部113は、除外時刻の正常データ211を除外し、残りの正常データ211を使って相関関係情報231を算出してもよい。
除外時刻は、不正な信号データが取得された時刻である。例えば、除外時刻は、一部または全部の信号の値が取得されなかった時刻、または、一部または全部の信号の値が外れ値であった時刻である。
【0071】
***実施の形態1の補足***
図11に基づいて、要因推定装置100のハードウェア構成を説明する。
要因推定装置100は処理回路109を備える。
処理回路109は、データ取得部111とモデル構築部112と関係導出部113と異常検出部114と要因推定部115とを実現するハードウェアである。
処理回路109は、専用のハードウェアであってもよいし、メモリ102に格納されるプログラムを実行するプロセッサ101であってもよい。
【0072】
処理回路109が専用のハードウェアである場合、処理回路109は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC、FPGAまたはこれらの組み合わせである。
ASICは、Application Specific Integrated Circuitの略称である。
FPGAは、Field Programmable Gate Arrayの略称である。
【0073】
要因推定装置100は、処理回路109を代替する複数の処理回路を備えてもよい。
【0074】
処理回路109において、一部の機能が専用のハードウェアで実現されて、残りの機能がソフトウェアまたはファームウェアで実現されてもよい。
【0075】
このように、要因推定装置100の機能はハードウェア、ソフトウェア、ファームウェアまたはこれらの組み合わせで実現することができる。
【0076】
実施の形態1は、好ましい形態の例示であり、本開示の技術的範囲を制限することを意図するものではない。実施の形態1は、部分的に実施してもよいし、他の形態と組み合わせて実施してもよい。フローチャート等を用いて説明した手順は、適宜に変更してもよい。
【0077】
要因推定装置100の各要素の「部」は、「処理」、「工程」、「回路」または「サーキットリ」と読み替えてもよい。
【符号の説明】
【0078】
100 要因推定装置、101 プロセッサ、102 メモリ、103 補助記憶装置、104 通信装置、105 入出力インタフェース、109 処理回路、111 データ取得部、112 モデル構築部、113 関係導出部、114 異常検出部、115 要因推定部、190 記憶部、200 要因推定システム、201 設備、210 信号データDB、211 正常データ、212 対象データ、213 異常データ、220 モデルDB、221 学習済みモデル、230 相関関係DB、231 相関関係情報、291 入力装置、292 出力装置。
【要約】
関係導出部(113)は、信号グループの正常時の信号データである正常データを使って、正常時の信号間の相関関係を示す相関関係情報を算出する。要因推定部(115)は、異常が検出された信号データである異常データと、前記相関関係情報と、に基づいて異常要因を推定する。
図1
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図11