(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-07
(45)【発行日】2024-03-15
(54)【発明の名称】MnZn系フェライト用造粒粉およびその製造方法ならびにMnZn系フェライトおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 1/34 20060101AFI20240308BHJP
C01G 49/00 20060101ALI20240308BHJP
C04B 35/38 20060101ALI20240308BHJP
H01F 1/36 20060101ALI20240308BHJP
H01F 27/255 20060101ALI20240308BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
H01F1/34 140
C01G49/00
C04B35/38
H01F1/36
H01F27/255
H01F41/02 D
(21)【出願番号】P 2024504258
(86)(22)【出願日】2023-10-12
(86)【国際出願番号】 JP2023037098
【審査請求日】2024-01-23
(31)【優先権主張番号】P 2023023852
(32)【優先日】2023-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591067794
【氏名又は名称】JFEケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】吉田 裕史
(72)【発明者】
【氏名】藤枝 崇周
(72)【発明者】
【氏名】中村 由紀子
【審査官】秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/14218(WO,A1)
【文献】特開2021-183556(JP,A)
【文献】特表2018-517288(JP,A)
【文献】特開2015-36363(JP,A)
【文献】特開2014-80344(JP,A)
【文献】特開平05-315123(JP,A)
【文献】特開昭60-109208(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/34
C01G 49/00
C04B 35/38
H01F 1/36
H01F 27/255
H01F 41/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄化合物、亜鉛化合物、マンガン化合物、ケイ素化合物、カルシウム化合物、ニオブ化合物および不可避的不純物からなるMnZn系フェライト用造粒粉であって、
前記鉄化合物、前記亜鉛化合物、前記マンガン化合物の合計をFe
2O
3、ZnO、MnO換算で100mol%としたとき、
前記鉄化合物がFe
2O
3換算で51.5~56.8mol%、
前記亜鉛化合物がZnO換算で5.0~15.5mol%および
前記マンガン化合物がMnO換算で残部であり、
前記鉄化合物、前記亜鉛化合物、前記マンガン化合物の合計量に対し、
前記ケイ素化合物がSiO
2換算で50~300 mass ppm、
前記カルシウム化合物がCaO換算で100~1300 mass ppmおよび
前記ニオブ化合物がNb
2O
5換算で100~400 mass ppmであり、
トルク比が1.7以上であるMnZn系フェライト用造粒粉。
【請求項2】
さらにコバルト化合物およびニッケル化合物のうち少なくとも1種を含有し、
前記鉄化合物、前記亜鉛化合物、前記マンガン化合物の合計量に対し、
前記コバルト化合物がCoO換算で3500mass ppm以下および
前記ニッケル化合物がNiO換算で15000mass ppm以下である、請求項1に記載のMnZn系フェライト用造粒粉。
【請求項3】
請求項1に記載のMnZn系フェライト用造粒粉を製造する方法であって、
鉄化合物、亜鉛化合物およびマンガン化合物の混合物を仮焼して仮焼粉を得る仮焼工程と、
前記仮焼粉にケイ素化合物、カルシウム化合物およびニオブ化合物を添加して、混合した後、粉砕して粉砕粉を得る混合-粉砕工程と、
前記粉砕粉をアルカリ水溶液に浸漬する浸漬工程と、
前記浸漬工程後の粉砕粉にバインダーを添加して混合した後、造粒して造粒粉を得る造粒工程と、
を有する、MnZn系フェライト用造粒粉の製造方法。
【請求項4】
請求項2に記載のMnZn系フェライト用造粒粉を製造する方法であって、
鉄化合物、亜鉛化合物およびマンガン化合物の混合物を仮焼して仮焼粉を得る仮焼工程と、
前記仮焼粉にケイ素化合物、カルシウム化合物およびニオブ化合物を添加するとともに、さらにコバルト化合物およびニッケル化合物のうち少なくとも1種を添加して、混合した後、粉砕して粉砕粉を得る混合-粉砕工程と、
前記粉砕粉をアルカリ水溶液に浸漬する浸漬工程と、
前記浸漬工程後の粉砕粉にバインダーを添加して混合した後、造粒して造粒粉を得る造粒工程と、
を有する、MnZn系フェライト用造粒粉の製造方法。
【請求項5】
基本成分、副成分および不可避的不純物からなるMnZn系フェライトであって、
上記基本成分を、鉄、亜鉛、マンガンの合計をFe
2O
3、ZnO、MnO換算で100mol%としたとき、
鉄:Fe
2O
3換算で51.5~56.8mol%、
亜鉛:ZnO換算で5.0~15.5mol%および
マンガン:MnO換算で残部
であり、
前記基本成分に対し、前記副成分が、
SiO
2:50~300 mass ppm、
CaO:100~1300 mass ppmおよび
Nb
2O
5:100~400 mass ppmであり、
JIS C2560-3-1:2006の形名E42/15に従う焼結体の検体数100個について測定したM強度の最小値が300N超であり、平均値が600N以上であるMnZn系フェライト。
【請求項6】
前記副成分が、さらに前記基本成分に対し、
CoO:3500mass ppm以下およびNiO:15000mass ppm以下のうち少なくとも1種を含有する、請求項5に記載のMnZn系フェライト。
【請求項7】
100℃、100kHzおよび200mTにおける損失値が380kW/m
3以下である、請求項5または6に記載のMnZn系フェライト。
【請求項8】
請求項5に記載のMnZn系フェライトを製造する方法であって、
鉄化合物、亜鉛化合物およびマンガン化合物の混合物を仮焼して仮焼粉を得る仮焼工程と、
前記仮焼粉にケイ素化合物、カルシウム化合物およびニオブ化合物を添加して、混合した後、粉砕して粉砕粉を得る混合-粉砕工程と、
前記粉砕粉をアルカリ水溶液に浸漬する浸漬工程と、
前記浸漬工程後の粉砕粉にバインダーを添加して混合した後、造粒して造粒粉を得る造粒工程と、
前記造粒粉を成形して成形体を得た後、前記成形体を焼成してMnZn系フェライトを得る焼成工程と、
を有する、MnZn系フェライトの製造方法。
【請求項9】
請求項6に記載のMnZn系フェライトを製造する方法であって、
鉄化合物、亜鉛化合物およびマンガン化合物の混合物を仮焼して仮焼粉を得る仮焼工程と、
前記仮焼粉にケイ素化合物、カルシウム化合物およびニオブ化合物を添加するとともに、さらにコバルト化合物およびニッケル化合物のうち少なくとも1種を添加して、混合した後、粉砕して粉砕粉を得る混合-粉砕工程と、
前記粉砕粉をアルカリ水溶液に浸漬する浸漬工程と、
前記浸漬工程後の粉砕粉にバインダーを添加して混合した後、造粒して造粒粉を得る造粒工程と、
前記造粒粉を成形して成形体を得た後、前記成形体を焼成してMnZn系フェライトを得る焼成工程と、
を有する、MnZn系フェライトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に自動車搭載部品の磁心に適したMnZn系フェライトおよびそのMnZn系フェライト用の造粒粉ならびにそれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
MnZn系フェライトは、スイッチング電源等のノイズフィルタやトランス、アンテナの磁心として幅広く使用されている材料である。特長として、軟磁性材料の中ではkHz領域において高透磁率、低損失であり、またアモルファス金属等と比較して安価なことが挙げられる。
【0003】
近年の自動車のハイブリッド化、電装化に伴い、ニーズが拡大している自動車搭載用途の電子部品の磁心に供するMnZn系フェライトには、破壊荷重が高いことが求められる。というのは、MnZn系フェライトはセラミックスであり、脆性材料であることから破損しやすいこと、加えて従来の家電製品用途と比較して、自動車搭載用途では絶えず振動を受け、破損されやすい環境下で使用され続けるためである。
【0004】
万が一、製品の中に破壊荷重の低いフェライトが混入していた場合、フェライトの破損に伴って自動車自体が稼働できなくなってしまうことから、破壊荷重の低い不良品の混入(出現自体)を防ぐことは重要な課題である。
【0005】
その一方で、自動車用途では軽量化、省スペース化も同時に求められるため、高い破壊荷重に加え、従来用途と同様に良好な磁気特性を併せ持つことが重要である。
【0006】
かかる要求に応える自動車搭載用途向けのMnZn系フェライトとしては、過去に様々な開発が進められており、良好な磁気特性に言及したものであれば、特許文献1および2に記載された発明が挙げられる。
【0007】
また、磁気特性に加えて機械特性を改善したMnZn系フェライトとしては、例えば特許文献3に記載された発明が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2007-51052号公報
【文献】特開2012-76983号公報
【文献】特許第6730545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、例えば、特許文献1および特許文献2に記載の技術では、所望の磁気特性を実現するための組成について言及されているものの、破壊靭性値については一切述べられておらず、自動車車載用電子部品の磁心としてはいまだ問題が残っている。
【0010】
他方、特許文献3は、磁気特性に加え機械特性の改良について言及しているが、かかる機械特性については、材質特性である破壊靭性値に関する記述のみである。ここで、フェライトコアの破壊荷重は材質特性のみならず、破壊起点の性状の影響を受けるため、製造工程の安定性、製品不良の影響を受ける。すなわち、破壊荷重の低い不良品の出現を防ぎ安定した品質の製品を製造するという観点からは、破壊靭性値を制御するだけでは不十分である。
【0011】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、E型コアのJIS C2560に準拠し、長辺:42mm、短辺:21mm、厚み:15mmの焼結体E42/15のM強度に関し、その平均値が高いだけでなく、著しく強度の低い検体を出現させない優れた機械特性と、同条件で作製したトロイダル形状コアの100℃、100kHz、200mTにおける損失値が380kW/m3以下という良好な磁気特性とを併せ持つ、MnZn系フェライトおよびかかるMnZn系フェライト用の造粒粉ならびにそれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者らは、上記した課題を達成するために、鋭意検討を重ねた結果、以下の知見を得た。
【0013】
すなわち、発明者らはまず、100℃、100kHzおよび200mTにおける損失値の低減が可能なMnZn系フェライトのFe2O3量、ZnO量の最適な組成を見出した。この組成範囲内であれば、磁気異方性および磁歪が小さく、比抵抗も保持し、損失の温度特性が極小値を示すセカンダリピークも100℃近傍に出現させることが可能なことから、100℃、100kHzおよび200mTにおける低損失を実現することができる。
【0014】
また、粒界に偏析する非磁性成分であるSiO2、CaOおよびNb2O5を適量加えることで均一な粒界を生成でき、比抵抗が上昇することでさらに損失値の低減が可能であることを見出した。
【0015】
これらに加え、MnZn系フェライトの機械特性に関し、M強度の平均値向上および著しく低強度な検体を出現させないための効果的な因子を調査したところ、さらに、以下の知見を得ることができた。
【0016】
すなわち、発明者らは、M強度が低下する原因について調査し、コアの中足付根部に破壊の起点となる先在クラックが存在することに着目した。このクラック長が大きいほど、M強度は低下する傾向を示した。次に、この先在クラックが生じる製造工程について調査した結果、造粒粉を圧粉成形して成形体を作製した時点ですでに先在クラックが存在していることを突き止めた。
【0017】
そこで、かかる圧粉成形の工程に着目したところ、成形される造粒粉の形状や表面性状により、成形時の造粒粉間に生じる摩擦力が異なるため、成形圧力の伝播挙動が異なってしまうこと、また、摩擦力が大きいほど成形体内部の局所的な成形密度の偏差が大きくなるため、脱型時の膨張率に差が生じ、コアの中足付根部にクラックが発生しやすいことが分かった。
【0018】
次に、造粒粉間の摩擦力の大小を定量化可能な手法を調査した。その結果、粉体の流動性を測定可能なパウダーレオメータを用いて、粉体のゆるめかさ密度を測定する際の状態である未タップのすり切り充填の状態と、20回タップした状態の間で、粉体の流動性をトルクとして数値化したところ、20回タップ後のトルク値を未タップのすり切り状態のトルク値で除した比(以下、「トルク比」とも称する。)の値が一定以上であった場合、造粒粉の摩擦力が小さく成形性に優れ、成形密度の局所的な分布を抑制でき、クラック出現を抑制できることが判明した。
【0019】
このメカニズムについては以下のように推察される。
図1(a)に、造粒粉の表面に多数の小さな綿状物が付着した、摩擦力が大きい造粒粉(後述する比較例3-1)、また、
図1(b)に、造粒粉の表面に綿状物の付着がなく、平滑化した、摩擦力が小さい造粒粉(後述する発明例1-2)の顕微鏡観察像を示す。
図1(a)に示した状態では、造粒粉間の摩擦力が大きいために、20回タップ後のパウダーレオメータの羽根の回転力に対する抵抗力が低くなり、パウダーレオメータの羽根のトルク値が低く検出される。これに対し、
図1(b)に示したように造粒粉表面が平滑で造粒粉間の摩擦力が小さい場合には、20回タップ後のパウダーレオメータの羽根のトルク値が高く検出される。
【0020】
よって、タップ操作前後での粉体の粘性のトルク値の比という形で造粒粉表面の摩擦力の大小を定量化でき、この数値に規定を設けることで成形工程におけるクラックの出現を抑制し、ひいては得られる焼結コアのM強度の平均値が高く、かつ著しくM強度の低いコアの出現も抑制が可能となる。
【0021】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものである。すなわち、本発明の要旨構成は以下のとおりである。
[1]鉄化合物、亜鉛化合物、マンガン化合物、ケイ素化合物、カルシウム化合物、ニオブ化合物および不可避的不純物からなるMnZn系フェライト用造粒粉であって、前記鉄化合物、前記亜鉛化合物、前記マンガン化合物の合計をFe2O3、ZnO、MnO換算で100mol%としたとき、前記鉄化合物がFe2O3換算で51.5~56.8mol%、前記亜鉛化合物がZnO換算で5.0~15.5mol%および前記マンガン化合物がMnO換算で残部であり、前記鉄化合物、前記亜鉛化合物、前記マンガン化合物の合計量に対し、前記ケイ素化合物がSiO2換算で50~300 mass ppm、前記カルシウム化合物がCaO換算で100~1300 mass ppmおよび前記ニオブ化合物がNb2O5換算で100~400 mass ppmであり、トルク比が1.7以上であるMnZn系フェライト用造粒粉。
【0022】
[2]さらにコバルト化合物およびニッケル化合物のうち少なくとも1種を含有し、前記鉄化合物、前記亜鉛化合物、前記マンガン化合物の合計量に対し、前記コバルト化合物がCoO換算で3500mass ppm以下および前記ニッケル化合物がNiO換算で15000mass ppm以下である、前記[1]に記載のMnZn系フェライト用造粒粉。
【0023】
[3]前記[1]に記載のMnZn系フェライト用造粒粉を製造する方法であって、鉄化合物、亜鉛化合物およびマンガン化合物の混合物を仮焼して仮焼粉を得る仮焼工程と、前記仮焼粉にケイ素化合物、カルシウム化合物およびニオブ化合物を添加して、混合した後、粉砕して粉砕粉を得る混合-粉砕工程と、前記粉砕粉をアルカリ水溶液に浸漬する浸漬工程と、前記浸漬工程後の粉砕粉にバインダーを添加して混合した後、造粒して造粒粉を得る造粒工程と、を有する、MnZn系フェライト用造粒粉の製造方法。
【0024】
[4]前記[2]に記載のMnZn系フェライト用造粒粉を製造する方法であって、鉄化合物、亜鉛化合物およびマンガン化合物の混合物を仮焼して仮焼粉を得る仮焼工程と、前記仮焼粉にケイ素化合物、カルシウム化合物およびニオブ化合物を添加するとともに、さらにコバルト化合物およびニッケル化合物のうち少なくとも1種を添加して、混合した後、粉砕して粉砕粉を得る混合-粉砕工程と、前記粉砕粉をアルカリ水溶液に浸漬する浸漬工程と、前記浸漬工程後の粉砕粉にバインダーを添加して混合した後、造粒して造粒粉を得る造粒工程と、を有する、MnZn系フェライト用造粒粉の製造方法。
【0025】
[5]基本成分、副成分および不可避的不純物からなるMnZn系フェライトであって、上記基本成分を、鉄、亜鉛、マンガンの合計をFe2O3、ZnO、MnO換算で100mol%としたとき、鉄:Fe2O3換算で51.5~56.8mol%、亜鉛:ZnO換算で5.0~15.5mol%およびマンガン:MnO換算で残部であり、前記基本成分に対し、前記副成分が、SiO2:50~300 mass ppm、CaO:100~1300 mass ppmおよびNb2O5:100~400 mass ppmであり、JIS C2560-3-1:2006の形名E42/15に従う焼結体の検体数100個について測定したM強度の最小値が300N超であり、平均値が600N以上であるMnZn系フェライト。
【0026】
[6]前記副成分が、さらに前記基本成分に対し、CoO:3500mass ppm以下およびNiO:15000mass ppm以下のうち少なくとも1種を含有する、前記[5]に記載のMnZn系フェライト。
【0027】
[7]100℃、100kHzおよび200mTにおける損失値が380kW/m3以下である、前記[5]または[6]に記載のMnZn系フェライト。
【0028】
[8]前記[5]に記載のMnZn系フェライトを製造する方法であって、鉄化合物、亜鉛化合物およびマンガン化合物の混合物を仮焼して仮焼粉を得る仮焼工程と、前記仮焼粉にケイ素化合物、カルシウム化合物およびニオブ化合物を添加して、混合した後、粉砕して粉砕粉を得る混合-粉砕工程と、前記粉砕粉をアルカリ水溶液に浸漬する浸漬工程と、前記浸漬工程後の粉砕粉にバインダーを添加して混合した後、造粒して造粒粉を得る造粒工程と、前記造粒粉を成形して成形体を得た後、前記成形体を焼成してMnZn系フェライトを得る焼成工程と、を有する、MnZn系フェライトの製造方法。
【0029】
[9]前記[6]に記載のMnZn系フェライトを製造する方法であって、鉄化合物、亜鉛化合物およびマンガン化合物の混合物を仮焼して仮焼粉を得る仮焼工程と、前記仮焼粉にケイ素化合物、カルシウム化合物およびニオブ化合物を添加するとともに、さらにコバルト化合物およびニッケル化合物のうち少なくとも1種を添加して、混合した後、粉砕して粉砕粉を得る混合-粉砕工程と、前記粉砕粉をアルカリ水溶液に浸漬する浸漬工程と、前記浸漬工程後の粉砕粉にバインダーを添加して混合した後、造粒して造粒粉を得る造粒工程と、前記造粒粉を成形して成形体を得た後、前記成形体を焼成してMnZn系フェライトを得る焼成工程と、を有する、MnZn系フェライトの製造方法。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、E型コアのJIS C2560に準拠し、長辺:42mm、短辺:21mm、厚み:15mmの焼結体E42/15のM強度に関し、その平均値が高いだけでなく、著しく強度の低い検体を出現させない優れた機械特性と、同条件で作製したトロイダル形状コアの100℃、100kHz、200mTにおける損失値が380kW/m3以下という良好な磁気特性とを併せ持つ、MnZn系フェライトを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】(a)は、造粒粉の表面に多数の小さな綿状物が付着した、摩擦力が大きい造粒粉(比較例3-1)の顕微鏡観察像である。(b)は、造粒粉の表面に綿状物の付着がなく、平滑化した、摩擦力が小さい造粒粉(発明例1-2)の顕微鏡観察像である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
一般的にMnZn系フェライトの損失値を低減するためには、磁気異方性と磁歪とを小さくすることが有効である。そして、これらの実現には、MnZn系フェライトの主成分であるFe2O3、ZnOおよびMnOの配合量を、好適な範囲内から選択する必要がある。また、かかるMnZn系フェライトの焼成工程において十分な熱を加え、フェライト内の結晶粒を適度に成長させることで、磁化工程における結晶粒内の磁壁の移動を容易化することができる。さらに、本発明では、粒界に偏析する成分を添加し、適度で均一な厚みの粒界を生成させることで比抵抗を保持し、かつ渦電流損失を低減させることで、100~500kHz領域での低損失を実現している。
【0033】
自動車車載用の電子部品の磁心に関しては、上記した磁気特性に加え、絶えず振動を受ける環境下でも破損しないよう、破壊荷重が安定して高いことが求められる。磁心であるMnZn系フェライトが破損した場合、インダクタンスが大きく低下することで、電子部品は所望の働きができなくなる。そのため、自動車全体が動作不能となる虞があるからである。
【0034】
よって、自動車車載用の電子部品に供するMnZn系フェライトは、低損失という磁気特性と高く安定した破壊荷重値との両立が求められるところ、本発明に従うことで、良好な磁気特性と破壊荷重値との両者を併せ持つMnZn系フェライトを提供することができる。
【0035】
以下、本発明の実施形態についてさらに説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されない。また、本明細書中、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ下限値及び上限値として含むものとする。
【0036】
本発明において、MnZn系フェライトの組成は限定される。まず、本発明において、MnZn系フェライト(以下、単にフェライトとも称する)の組成を以下の範囲に限定した理由について説明する。なお、基本成分として本発明に含まれる鉄、亜鉛、マンガンは、それぞれFe2O3、ZnO、MnOに換算した値で示す。また、これらFe2O3、ZnO、MnOの含有量については、Fe2O3、ZnO、MnO換算での鉄、亜鉛、マンガンの合計量を100mol%とした場合のmol%で表す。さらに、副成分および不可避的不純物の含有量については上記基本成分に対するmass ppmで表す。
【0037】
以下、基本成分について説明する。
【0038】
Fe2O3:51.5~56.8mol%
基本成分のうち、Fe2O3が適量範囲より少ない場合でも多い場合でも、磁気異方性が大きくなり、また磁歪が大きくなるために、損失増大を招く。そのため、Fe2O3の含有量は、51.5mol%以上とし、56.8mol%以下とする。好ましくは、Fe2O3の含有量は56.7mol%以下とする。
【0039】
ZnO:5.0~15.5mol%
ZnOが適量範囲よりも少ない場合は、キュリー温度が過度に高くなるため、100℃における損失値が増大する。よって、最低でもZnOを5.0mol%は含有させることとする。ZnOの含有量は好ましくは5.5mol%以上とする。一方、ZnOの含有量が適量範囲より多い場合でも損失値が極小値を示すセカンダリピーク温度が低下するため100℃における損失値の増大を招く。そこで、ZnOの含有量の上限を15.5mol%とする。ZnOの含有量は好ましくは15.0mol%以下とする。
【0040】
MnO:残部
本発明において、MnZn系フェライトの基本成分の残部はMnOとする。なぜなら、残部がMnOでなければ、100℃、100kHz、200mTの励磁条件下における損失値が380kW/m3以下とならないためである。なお、MnOの含有量は、好ましくは30.0mol%以上、より好ましくは30.5mol%以上とする。また、MnOの含有量は、好ましくは43.0mol%以下、より好ましくは42.0mol%以下とする。
【0041】
以上、基本成分について説明したが、副成分については次のとおりである。
【0042】
SiO2:50~300 mass ppm
SiO2は、フェライトの結晶組織の均一化に寄与することが知られており、適量の添加により異常粒成長を抑制し、比抵抗を高める。また、SiO2の適量の添加に伴い、100℃、100kHz、200mTの励磁条件下における損失値を低下することができる。そのため、最低でもSiO2を50mass ppm含有することとする。一方、SiO2の含有量が過多の場合には、異常粒が出現し、損失値を著しく悪化させることから、SiO2の含有量は300mass ppm以下にする。SiO2の含有量は、好ましくは55mass ppm以上、より好ましくは60mass ppm以上である。また、SiO2の含有量は、好ましくは275mass ppm以下、より好ましくは250mass ppm以下である。
【0043】
CaO:100~1300 mass ppm
CaOは、MnZn系フェライトの結晶粒界に偏析し結晶粒の成長を抑制する働きを持ち、適量の添加によって比抵抗を上昇させ、100℃、100kHz、200mTの励磁条件下における損失値を抑制することができる。そのため、最低でもCaOを100mass ppm含有することとする。一方、CaOの含有量が過多の場合には、異常粒が出現し、損失値が悪化することから、CaOの含有量は1300mass ppm以下にする。CaOの含有量は、好ましくは120mass ppm以上、より好ましくは150mass ppm以上、さらに好ましくは200mass ppm以上である。また、CaOの含有量は、好ましくは1200mass ppm以下、より好ましくは1100mass ppm以下である。
【0044】
Nb2O5:100~400 mass ppm
Nb2O5は、MnZn系フェライトの結晶粒界に偏析し、結晶粒成長を緩やかに抑制し、かつ結晶粒成長に伴い発生する結晶粒界間の応力を緩和させる効果が知られている。そのため、適量の添加により、損失値を低減させることができることから、最低でもNb2O5を100mass ppm含有することとする。一方、Nb2O5の含有量が過多の場合には、異常粒が出現し、損失値の著しい悪化を誘発することから、Nb2O5の含有量は400mass ppm以下にする。Nb2O5の含有量は、好ましくは120mass ppm以上、より好ましくは130mass ppm以上である。また、Nb2O5の含有量は、好ましくは380mass ppm以下、より好ましくは375mass ppm以下、さらに好ましくは350mass ppm以下である。
【0045】
本発明のMnZn系フェライトは、副成分として、さらに以下の添加物を含有してもよい。
【0046】
CoO:3500mass ppm以下
CoOは、正の磁気異方性を有するCo2+イオンを含有する成分であり、同成分の添加により損失の極小温度を示すセカンダリピークの温度幅を広げることができる。CoOの含有量の下限は特に限定されず、0mass ppmであってもよいが、かかる効果を得るためには、500mass ppm超添加することが好ましい。一方、CoOの含有量を3500mass ppm以下とすることで、他の成分の有する負の磁気異方性と相殺でき、初透磁率の低下を防ぐことができる。より好ましくは、CoOの含有量は、2500mass ppm以下である。
【0047】
NiO:15000mass ppm以下
NiOは、スピネル格子のBサイトに選択的に組み込まれ、材料のキュリー温度を高めて飽和磁束密度を高める結果、損失値を低減する効果を有する。NiOの含有量の下限は特に限定されず、0mass ppmであってもよいが、かかる効果を得るためには、1200mass ppm以上添加することが好ましく、1500mass ppm以上添加することがより好ましい。さらに好ましくは、2000mass ppm以上である。一方、NiOの含有量を15000mass ppm以下とすることで、磁歪の増加をより防ぎ、損失値の低下をより防ぐことができる。そのため添加する場合には、NiOの含有量は、15000mass ppm以下にすることが好ましい。より好ましくは12000mass ppm以下である。
【0048】
不可避的不純物
本発明のMnZn系フェライトは、リン、ホウ素、塩素などの不可避的不純物が存在するが、これらを数百mass ppm以下に抑制することが好ましい。
【0049】
また、本発明のフェライト用造粒粉は、鉄化合物、亜鉛化合物、マンガン化合物、ケイ素化合物、カルシウム化合物、ニオブ化合物および不可避的不純物からなる。さらに、必要に応じて、ニッケル化合物およびコバルト化合物のうち少なくとも1種を含有することができる。
【0050】
前記鉄化合物、前記亜鉛化合物、前記マンガン化合物の合計をFe2O3、ZnO、MnO換算で100mol%としたとき、前記鉄化合物はFe2O3換算で51.5~56.8mol%、前記亜鉛化合物はZnO換算で5.0~15.5mol%および前記マンガン化合物はMnO換算で残部である。
【0051】
前記鉄化合物、前記亜鉛化合物、前記マンガン化合物の合計量に対し、前記ケイ素化合物はSiO2換算で50~300 mass ppm、前記カルシウム化合物はCaO換算で100~1300 mass ppmおよび前記ニオブ化合物はNb2O5換算で100~400 mass ppmである。さらに、前記コバルト化合物はCoO換算で3500mass ppm以下であり、前記ニッケル化合物はNiO換算で15000mass ppm以下である。
【0052】
なお、上述の各成分における含有量の限定理由は、前述したフェライトの各成分の説明中に記載した理由といずれにおいても同じである。
【0053】
また、本発明では、後述する製造工程にて得られる造粒粉に関し、パウダーレオメータを用いて測定する、未タップのゆるめかさ密度充填時の動的流動性(トルク値)に対する20回タップ後の動的流動性(トルク値)の比(トルク比)が1.7以上である必要がある。前述したように、かかるトルク比が1.7以上であると、造粒粉の摩擦力が小さく成形性に優れ、成形密度の局所的な分布を抑制でき、クラック出現を抑制することができる。なお、トルク比の上限は特に限定されないが、本発明の造粒粉において、トルク比は概ね2.50以下となる。
【0054】
かかるトルク比とコア強度低下との相関のメカニズムについては、以下のように考えている。すなわち、MnZn系フェライトは、その製造工程において、造粒粉を作製した後に圧粉成形処理を行うが、その際に粉体同士の摩擦が大きいと、金型から加圧された圧力が造粒粉間の摩擦力で減衰される。また、造粒粉が圧力を逃がすべく造粒粉間の空隙に移動する再配列という挙動が起きにくくなる。その結果、得られる成形体には局所的な密度分布のばらつきが生じ、脱型時の成形体の膨張率にも偏差が生じる。特に、この膨張率の偏りが過大であると、成形体は所望の形状を保持できなくなって、割れが生じる。かかる割れは、かかる成形体に焼成を施した後にも残存するため、かかる焼成によって得られたフェライトコアの強度の低下を誘発してしまう。
【0055】
これに対し、本発明では、粉砕粉をアルカリ水溶液に浸漬する浸漬処理を行うことが肝要である。かかる浸漬処理は、粉砕粉の表面に対して水酸基を付与するものであるが、この水酸基が、造粒粉に添加された有機バインダーと造粒粉を構成する粉砕粉との接着力を高め、バインダーの形状保持力が強くなる。そのため、1次粒子である粉砕粉が、その造粒粉から離脱する量が減少し、最終的に表面が平滑な造粒粉が得られる(
図1(b)参照)。
【0056】
アルカリ水溶液は、アンモニア水、炭酸アンモニウム水溶液、炭酸水素アンモニウム水溶液等から選択することができる。また、アルカリ水溶液は、0.01mol/L以上の溶質濃度を有することが好ましく、0.1mol/L以上の溶質濃度を有することがより好ましい。アルカリ水溶液の溶質濃度の上限は特に限定されないが、溶質濃度は5.0mol/L以下とすることができる。アルカリ水溶液の分量は、アルカリ水溶液の分量を粉砕粉質量で除した時の値が0.20以上となることが好ましく、0.50以上となることがより好ましい。当該値の上限は特に限定されないが、当該値は1.50以下とすることができる。浸漬処理の時間は特に限定されないが、5分以上とすることが好ましく、120分以下とすることができる。
【0057】
造粒粉表面の平滑性のみを考慮すると、アルカリ水溶液の成分は、金属系およびリン酸成分を含むものであっても、有効性に差異は無い。しかし、金属成分はその後の焼成工程において非金属成分のように分解、飛散をせず残存してしまう。この残存金属成分は、MnZn系フェライトを構成する成分と反応し、結晶粒成長に影響を及ぼすため、所望の磁気特性の達成を阻害する。また、リン酸成分に関しても同様で、特にリン成分は異常粒成長を誘発することから、焼成工程後に所望の磁気特性が得られないのみならず、コアの強度も著しく損なう。そのため、アルカリ水溶液の成分は非金属成分を含みかつ金属成分およびリン酸成分を含まないものが好ましい。
【0058】
アルカリ水溶液への浸漬処理後、粉砕粉はろ過等の工程によりアルカリ水溶液と分離して回収する。回収された粉砕粉はそのまま次工程に進めてもよく、乾燥させてから次工程に進めてもよい。得られた浸漬処理後の粉砕粉は、水とポリビニルアルコール等の公知の有機物バインダーを加えることでスラリー化し、スプレードライ法等を用い造粒粉とする。
【0059】
なお、造粒粉の摩擦力を低減したことの副次的な効果として、成形時の金型への充填重量の安定が挙げられる。特に金型への充填速度を速めた時、造粒粉の金型への充填重量が不安定になりやすく、得られる製品コアの重量が検体ごとに変動しやすくなる。造粒粉同士の摩擦を低減することで、この検体ごとの重量変動を抑制することができる。
【0060】
また、組成に限らず種々のパラメータによりMnZn系フェライトの諸特性は多大な影響を受ける。その中で、本発明のMnZn系フェライトは、磁気特性および機械特性を得るために、さらに以下の規定を設ける。
【0061】
すなわち、本発明のMnZn系フェライトは、JIS C2560-3-1:2006の形名E42/15に従う焼結体(長辺:42mm、短辺:21mm、厚み:15mmの焼結体)の検体数100個について測定したM強度の最小値が300N超であり、平均値が600N以上である。セラミックスであるMnZn系フェライトは、脆性材料であり、磁気特性のみならず強度に関してもJIS C2560に規定されている。特に、車載用途では常に振動が加わる環境下で使用されることから、衝撃を受けても割れないよう高強度であって、低強度品を生成しない製造方法が求められる。本発明では、前述した組成および造粒粉の各条件を満たすことにより、製造されるコアは破壊時の起点となるクラックを効果的に抑制することができ、100検体のM強度を測定した時の平均強度が600N以上であって、かつかかるM強度の最小値が300N超、すなわち、かかるM強度で300N以下となる低強度コアの出現が無く、安定した強度特性のコアを得ることが可能となる。
【0062】
次に、本発明のMnZn系フェライトの製造方法について説明する。本発明のMnZn系フェライトの製造方法は、前記基本成分の混合物を仮焼し、冷却して仮焼粉を得る仮焼工程と、前記仮焼粉に前記副成分を添加して、混合した後、粉砕して粉砕粉を得る混合-粉砕工程と、前記粉砕粉をアルカリ水溶液に浸漬する浸漬工程と、前記アルカリ水溶液に浸漬した後の粉砕粉にバインダーを添加して混合した後、造粒して造粒粉を得る造粒工程と、前記造粒粉を成形して成形体を得る成形工程と、前記成形体を焼成してMnZn系フェライトを得る焼成工程と、を有するものである。
【0063】
MnZn系フェライトの製造においては、まず前述した比率となるように、基本成分であるFe2O3、ZnOおよびMnO粉末をそれぞれ秤量し、これらを十分に混合して混合物とした後に、該混合物を仮焼し、冷却して仮焼粉とする(仮焼工程)。
【0064】
かようにして得られた仮焼粉に、本発明にて規定された副成分を、所定の比率で加え混合して粉砕を行う(混合-粉砕工程)。この工程にて、添加した成分の濃度に偏りがないよう粉末を充分に均質化し、同時に仮焼粉を目標の平均粒径(1.0~1.5μm)の大きさまで微細化させ、粉砕粉とする。
【0065】
次いで、得られた粉砕粉を、アルカリ水溶液に浸漬することで表面改質を施す(浸漬工程)。この工程は、粉砕粉表面に水酸基を付与する役割を果たすと考えられる。かかる付与された水酸基は、次工程である造粒時に添加されるバインダーとの接着力を高める作用がある。そのため、かようにして得られた造粒粉は、表面が平滑で造粒粉間の摩擦が小さく、成形の際に充填性が良くかつ加圧時の造粒粉の再配列が促進されやすく、金型内の位置毎の密度分布差が出現しにくいことから、特に、脱型時に発生する成形体の割れを抑制する。それ故、最終的に得られるコア製品の強度不良を抑制する効果が得られる。
【0066】
浸漬処理後の粉砕粉はアルカリ水溶液をろ過により除去した後、ポリビニルアルコール等の公知の有機物バインダーを加え、スプレードライ法等を用い造粒して造粒粉にする(造粒工程)。その際、得られた造粒粉は、前述のゆるめかさ密度に充填した時および20回タップ後の動的流動性に関し、前述したとおりの数値範囲内という条件を充足する。
【0067】
その後、前記造粒粉は、必要に応じ粒度調整のための篩通し等の工程を経て、成形機にて圧力を加えて成形して成形体とする(成形工程)。次いで、成形体を公知の焼成条件の下で焼成し、本発明に従うMnZn系フェライトを得る(焼成工程)。
【0068】
上記MnZn系フェライトには、適宜、表面研磨等の加工を施すことができる。
【0069】
かくして得られたMnZn系フェライトは、従来のMnZn系フェライトでは不可能であった、E型コアのJIS C2560に準拠して測定される、長辺:42mm、短辺:21mm、厚み:15mmの焼結体E42/15のM強度に関し、その平均値が600N以上と高いだけでなく、かかるM強度が300N以下となる著しく強度の低い検体を出現させない、という優れた機械特性を有する。加えて、同条件で作製したトロイダル形状コアの100℃、100kHz、200mTにおける損失値が380kW/m3以下という良好な磁気特性を同時に実現している。
【0070】
なお、トロイダル形状コアの損失値は、コアに1次側5ターン、2次側5ターンの巻線を施した後に、コアロス測定器(岩通計測製:SY-8232)を用い、100℃における100kHz、200mTの損失値を測定する。
【0071】
また、焼結コアの強度については、JIS C2560-3-1(2006)に則り、長辺:42mm、短辺:21mm、厚み:15mmの焼結体E42/15のM強度を、1水準あたり100検体を測定し、得られた値の平均値および300N以下の検体数を算出する。
【0072】
その他、本明細書に記載のない焼結体(MnZn系フェライト)を製造する方法は、その条件や使用機器等に特に限定はなく、いわゆる常法に従えば良い。
【実施例】
【0073】
(実施例1)
含まれるFeをFe2O3として換算し、また含まれるZnをZnOとして換算し、さらに含まれるMnをMnOとして換算した場合に、Fe2O3、ZnO、およびMnOが、表1に示す比率(mol%)となるように秤量した各原料粉末を、ボールミルを用いて16時間混合した後、大気中にて900℃で3時間の仮焼を行い、大気中にて1.5時間かけて室温まで冷却して仮焼粉とした。
【0074】
かかる仮焼粉に対し、SiO2、CaOおよびNb2O5をそれぞれ150、700、250mass ppm相当分秤量した後に添加し、ボールミルで12時間、混合-粉砕を行なって、粉砕粉を得た。
【0075】
次に、該粉砕粉に対し、0.1mol/L濃度のアンモニア水を用い、該粉砕粉との質量比で0.6とした該アンモニア水に1h浸漬し、アンモニア水をろ過等で除去した後に、水およびポリビニルアルコールを加えてスラリー化し、かかるスラリーをスプレードライして造粒した。かかる造粒粉を、発明例、比較例共に、その試料の粒度を篩分級でほぼ同じにした。造粒粉の組成は得られたフェライトと同じ組成であった。
【0076】
かくして得られた造粒粉に対し、以下の条件で、パウダーレオメータを用い、充填のみでタップをしていないゆるめかさ密度状態、および20回タップ後の状態の双方にて、羽根の回転トルク値によりその流動性を定量化した。20回タップ後のトルク値を充填のみのタップしていない状態のトルク値で除した時の比(トルク比)を求めた。結果を表1に示す。
【0077】
次いで、かかる造粒粉に118MPaの圧力をかけトロイダル形状およびE型形状の成形体を得た。その後、これらの成形体を焼成炉に装入して、最高温度:1320℃、焼結時間:2時間で、窒素ガスと空気とを混合したガス流中で焼成し、外径:25mm、内径:15mm、高さ:5mmの焼結体トロイダル形状コア(N=3)と、長辺:42mm、短辺:21mm、厚み:15mmの焼結体E型形状(E42/15)コア(N=100)とを得た。なお、E型形状コアは成形ストロークを15個/minの速度で成形し、焼結コアの目標重量は45.0gとした。
【0078】
《トルクの測定方法》
・ゆるめかさ密度用:内径を25mm、容積を25mLとした円筒状ガラス容器に、試料を44g(逆算すると高さは約51mmに相当)として自然落下させる。
・タップ密度用:ゆるめかさ密度に充填したものを、4cmの高さから自然落下させる操作を20回繰り返した(20回タップ)。
・測定装置:フリーマンテクノロジー社製パウダーレオメータFT4(ブレード回転速度:100mm/s、ブレード直径:23.5mm)を使用した。
・トルク測定:ゆるめ嵩密度用およびタップ密度用について、上記FT4のブレードを回転させて所定の高さまで降下させ、その後所定の高さまで昇降する作業を7回連続で行う。7回目の流動エネルギーからトルクを計算した。さらに、ゆるめかさ密度用のトルクとタップ密度用のトルクとからトルク比を計算した。
【0079】
上述した方法に従って、トロイダル形状コアの損失値、およびオートグラフを用いJISC2560に則る形にてE型(E42/15)コアのM強度につき、検体数(全数検査):100での平均強度および300N以下のコアの出現率について値を求めた。得られた結果を表1に併記する。なお、全ての水準に関して、焼結後のE型形状コアの重量はN=100の検体全てが45.0gから±3%の範囲内に収まった。
【0080】
【0081】
表1に示したとおり、本発明に従ったいずれの水準に関しても、粉砕粉をアルカリ水溶液に浸漬したことにより、造粒粉表面が平滑化したことで、成形不良が抑制でき、平均のM強度およびM強度が著しく低いコアの出現率ともに好ましい値を示している。さらに、磁気特性に着目すると、発明例1-1~1-5では、100℃、100kHz、200mTにおける損失値が380kW/m3以下である。よって、発明例は、いずれも、前記した高強度と共に、好適な磁気特性を併せ持っていることが分かる。
【0082】
これに対し、Fe2O3を51.5mol%未満しか含まない比較例(比較例1-1)およびFe2O3が56.8mol%より多い比較例(比較例1-2)では、高靱性は実現できているものの、磁気異方性と磁歪が大きくなったため損失値が増大しており、100℃、100kHz、200mTにおける損失値が380kW/m3以下を満たせていない。また、ZnOが本発明の範囲より不足した比較例(比較例1-3)では、キュリー温度が過度に上昇し、反対にZnOを本発明の範囲より多量に含む比較例(比較例1-4)では、損失が極小値を示すセカンダリピークが低下し、いずれも100℃、100kHz、200mTにおける損失値が380kW/m3以下を満たせていない。
【0083】
(実施例2)
含まれるFeをFe2O3として換算し、また含まれるZnをZnOとして換算し、さらに含まれるMnをMnOとして換算した場合に、Fe2O3:53.0mol%、ZnO:12.0mol%、MnO:35.0mol%の成分組成(実施例1の発明例1-2に同じ)となるよう原料を秤量し、ボールミルを用いて16時間混合した後、大気中にて900℃で3時間仮焼を行い、大気中にて1.5時間かけて室温まで冷却して仮焼粉とした。
【0084】
かかる仮焼粉に対し、以下の表2に示す量のSiO2、CaOおよびNb2O5並びに一部試料にはCoOまたはNiOを加え、ボールミルで12時間、混合-粉砕を行なって、粉砕粉を得た。
【0085】
次に、該粉砕粉に対し、0.1mol/L濃度のアンモニア水を用い、該粉砕粉との質量比で0.6とした該アンモニア水に1h浸漬し、アンモニア水をろ過等で除去した後に、水およびポリビニルアルコールを加えてスラリー化し、かかるスラリーをスプレードライして造粒した。かかる造粒粉を、発明例、比較例共に、その試料の粒度を篩分級でほぼ同じにした。造粒粉の組成は得られたフェライトと同じ組成であった。
【0086】
かくして得られた造粒粉に対し、パウダーレオメータを用い、実施例1と同様の手法にて、20回タップ後のトルク値を充填のみのタップしていない状態のトルク値で除した時の比(トルク比)を求めた。結果を表2に示す。
【0087】
次いで、かかる造粒粉に118MPaの圧力をかけトロイダル形状およびE型形状の成形体を得た。その後、これらの成形体を焼成炉に装入して、最高温度:1320℃、焼結時間:2時間で、窒素ガスと空気とを混合したガス流中で焼成し、外径:25mm、内径:15mm、高さ:5mmの焼結体トロイダル形状コア(N=3)と、長辺:42mm、短辺:21mm、厚み:15mmの焼結体E型形状(E42/15)コア(N=100)とを得た。なお、E型形状コアは成形ストロークを15個/minの速度で成形し、焼結コアの目標重量は45.0gとした。
【0088】
これらの各試料について、実施例1と同じ手法、装置を用いそれぞれの特性を評価した。得られた結果を表2に併記する。なお、表2に示す全ての水準に関しても、焼結後のE型形状コアの重量はN=100の検体全てが45.0gから±3%の範囲内に収まった。
【0089】
【0090】
表2に示したとおり、本発明に従ったいずれの水準に関しても、粉砕粉をアルカリ水溶液に浸漬したことにより、造粒粉表面が平滑化したことで、成形不良が抑制でき、平均のM強度およびM強度が著しく低いコアの出現率ともに好ましい値を示している。さらに、磁気特性に着目すると、SiO2、CaO、Nb2O5、CoOおよびNiO量が本発明の範囲内である発明例2-1~2-11では、100℃、100kHz、200mTにおける損失値が380kW/m3以下である。よって、発明例は、いずれも、前記した高強度と共に、好適な磁気特性を併せ持っていることが分かる。
【0091】
これに対し、SiO2、CaOおよびNb2O5の3成分のうち1つでも本発明の範囲未満しか含まない比較例2-1、2-3および2-5では、粒界生成が不十分となることから比抵抗が低下し、渦電流損失が増大することに起因し損失値が劣化していることが分かる。また、上記3成分のうち1つの成分でも過多である比較例2-2、2-4および2-6では、異常粒の出現により損失値が著しく劣化しており、また機械特性に関しても大幅に劣化していることが分かる。
【0092】
(実施例3)
実施例1に示した手法により、基本成分および副成分が発明例1-2と同じ組成となるように原料を秤量し、混合、粉砕して粉砕粉とした。
【0093】
かかる粉砕粉を、表3に示す条件にてアルカリ水溶液に浸漬する処理を施した水準、およびかかる処理をしなかった水準をそれぞれ作製した。
【0094】
かかる処理後の粉砕粉もしくは未処理の粉砕粉に、ポリビニルアルコールを加えてスプレードライ造粒した。かかる造粒粉を、発明例、比較例共に、その試料の粒度を篩分級でほぼ同じにした。造粒粉の組成は得られたフェライトと同じ組成であった。
【0095】
かくして得られた造粒粉に対し、パウダーレオメータを用い、実施例1と同様の手法にてトルク値をそれぞれ測定し、トルク比を求めた。結果を表3に示す。
【0096】
次いで、かかる造粒粉に118MPaの圧力をかけトロイダル形状およびE型形状の成形体を得た。その後、これらの成形体を焼成炉に装入して、最高温度:1320℃、焼結時間:2時間で、窒素ガスと空気とを混合したガス流中で焼成し、外径:25mm、内径:15mm、高さ:5mmの焼結体トロイダル形状コア(N=3)と、長辺:42mm、短辺:21mm、厚み:15mmの焼結体E型形状(E42/15)コア(N=100)とを得た。なお、E型形状コアは成形ストロークを15個/minの速度で成形し、焼結コアの目標重量は45.0gとした。
【0097】
これらの各試料について、実施例1と同じ手法、装置を用いそれぞれの特性を評価した。また、焼結後のE型形状コアの重量について、N=100の検体全てを測定し、45.0g±3%の範囲外となった個数について記録した。得られた結果を表3に併記する。
【0098】
【0099】
本発明の規定を満たしている発明例1-2、2-7、2-10、および3-1~3-5では、20回タップ後のトルク値を未タップ時のトルク値で除した比(トルク比)の値が1.7以上と高くなって、平滑な造粒粉が得られていることから、成形体のクラック発生が抑制できている。その結果、M強度に関し、平均値が高くかつ著しく低強度な検体が出現していないことが分かる。また、造粒粉間の摩擦が低減できていることから、金型への造粒粉の充填時の充填重量も安定しているため、成形ストロークが15個/minと速い条件下であっても、重量が大きく外れた検体は出現していない。
【0100】
一方、粉砕粉のアルカリ水溶液に浸漬する処理をしていない比較例3-1では、バインダーの1次粒子への接着力が強化されていないため、造粒粉の表面平滑性に劣ることから、20回タップ後のトルク値を未タップ時のトルク値で除した比の値が1.7未満と低い。そのため、成形体にクラックが出現しやすく、得られるコアのM強度の平均値が低く、かつ著しくM強度の低い検体が出現している。さらには、造粒粉間の摩擦が増加した影響で成形時の金型充填量が安定せず、焼結コアの状態での重量を測定した時に、目標である45.0gから±3%の範囲外となった検体が出現している。
【0101】
なお、発明例1-2の未タップ、ゆるめかさ密度は1.40g/cm3、20回タップ後の嵩密度は1.48g/cm3であった。これに対し、比較例3-1の未タップ、ゆるめかさ密度は1.38g/cm3、20回タップ後の嵩密度は1.44g/cm3であった。したがって、発明例1-2と比較例3-1のタップ密度はほぼ同じであった。
【産業上の利用可能性】
【0102】
以上述べたように、本発明に規定したMnZn系フェライトは、100℃において100kHz、200mTの励磁条件下における損失値が380kW/m3以下という良好な磁気特性、および焼結体E型形状(E42/15)のM強度に関し、その平均値が高くかつ著しく強度の低い検体を出現させないという優れた機械的特性の両者を併せ持っており、特に自動車搭載用電子部品の磁心に適している。
【要約】
E型コアのJIS C2560に準拠した焼結体(形名E42/15)のM強度に関し、平均値が高いだけでなく、著しく強度の低い検体を出現させない優れた機械特性と、100℃、100kHz、200mTにおける損失値が380kW/m3以下という良好な磁気特性とを併せ持つMnZn系フェライトを製造可能な造粒粉を提供する。本発明の造粒粉は、鉄化合物、亜鉛化合物、マンガン化合物の合計をFe2O3、ZnO、MnO換算で100mol%としたとき、前記鉄化合物をFe2O3換算で51.5~56.8mol%、前記亜鉛化合物をZnO換算で5.0~15.5mol%および前記マンガン化合物をMnO換算で残部であり、前記鉄化合物、前記亜鉛化合物、前記マンガン化合物の合計量に対し、ケイ素化合物をSiO2換算で50~300 mass ppm、カルシウム化合物をCaO換算で100~1300 mass ppmおよびニオブ化合物をNb2O5換算で100~400 mass ppmであり、トルク比が1.7以上である。