(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】車両窓用ガラスアッセンブリー
(51)【国際特許分類】
B23K 35/26 20060101AFI20240311BHJP
C22C 28/00 20060101ALI20240311BHJP
C03C 17/06 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
B23K35/26 310D
C22C28/00 B
C03C17/06 A
(21)【出願番号】P 2020541159
(86)(22)【出願日】2019-08-29
(86)【国際出願番号】 JP2019033825
(87)【国際公開番号】W WO2020050120
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2022-06-09
(31)【優先権主張番号】P 2018168245
(32)【優先日】2018-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】523220503
【氏名又は名称】セントラル硝子プロダクツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】関 康平
(72)【発明者】
【氏名】濱田 潤
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-509944(JP,A)
【文献】特開2017-170521(JP,A)
【文献】特表2010-500703(JP,A)
【文献】国際公開第2019/092947(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/26
C22C 28/00
C03C 17/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項10】
前記ガラス板が、非強化ガラスからなる、請求項1乃至9のいずれかに記載の車両窓用ガラスアッセンブリー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、所定パターンの導電体層が主面に形成された車両窓用ガラス板の前記導電体層を、無鉛ハンダを介して、接続端子を接合させてなる、車両窓用ガラスアッセンブリーに関する。
【背景技術】
【0002】
車両窓用ガラス板の主面には、アンテナ線や、ガラスの曇りを除去するための熱線を形成するため、銀プリントなどによる導電体層が形成される。前記導電体層は、特許文献1、2に記載の通り、片側面がハンダ接合面となり、その接合面とは反対側面に電線の固定部が備えつけられている金属板を有する接続端子とハンダ付けされ、前記接続端子は電力線によりハーネスを介して、各種素子や電源と接合される。特許文献2では、接続端子として、円盤のものが使用され、電力線は、円盤の中心部に取り付けられている。
【0003】
また、ハンダ付けに使用されるハンダ材料の無鉛化が求められており、ガラス板に与える応力の影響が少ない、有鉛ハンダと同等の柔軟性を備える、インジウムを有する無鉛ハンダを使用した車両窓用ガラスアッセンブリーが特許文献2~9で提案されている。
【0004】
特許文献2では、30%錫、65%インジウム、0.5%銅、4.5%銀の合金からなるハンダ材料が提案されている(この文献の、各成分の含有量は質量%を意味すると推察される。)。また、特許文献3では、39~74質量%錫、26~56質量%インジウムのSn-In系合金、特許文献4では、66~90質量%インジウム、4~25質量%錫、0.5~9質量%銀、及びアンチモン、銅、ニッケルを含むIn-Sn系合金、特許文献5では、58~62質量%インジウム、35~38質量%錫のIn-Sn系合金等が提案されている。一方で、特許文献6では、ガラスアッセンブリーが120℃の高温で耐えるように、固相線温度が120℃以上の、インジウムを70~86質量%、錫を4~20質量%、銀を1~8質量%含むインジウム-錫系合金からなるハンダ材料を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2010-500703号公報
【文献】米国特許第6406337号明細書
【文献】特開2014-096198号公報
【文献】特表2014-509944号公報
【文献】特表2016-500575号公報
【文献】特開2016-052684号公報
【文献】米国特許第6253988号明細書
【文献】特表2009-504411号公報
【文献】特開2012-91216号公報
【発明の概要】
【0006】
インジウムを有する無鉛ハンダは柔軟性を備えることから、前記導電体層に、前記接続端子をはんだ付けした後や、車両窓用ガラスアッセンブリーを熱サイクル試験にかけたときに、ガラス板や、前記導電体層にクラック等の不良は発生しづらい。他方で、ハンダ接合部に電力線などにより引張応力がかかった場合の接合強度は十分ではない。特には、特許文献1のように、前記接続端子において、前記接続端子と、前記導電体層とのハンダ接合部が1つで、前記接合部と、前記電力線の前記接続端子への固定部が近接するような構造では、後者の現象は、発生しやすいものとなる。
【0007】
車両窓用ガラスアッセンブリーは、前記熱サイクル試験だけでなく、「DIN EN ISO16750-4-K セクション5.1.2.2」に準拠したヒートソーク試験を合格する品質を備える必要がある。中でも、ドイツ自動車工業会(VDA)に定められた、ヒートソーク試験を合格することが好ましい。VDAに定められたヒートソーク試験とは、前記ハンダ接合部を105℃の温度環境下におき、前記導電体層に14Vの電圧を印加しながら、前記接続端子に接続した電力線を10Nの荷重で、96時間、ガラス板の主面に対して垂直方向に引っ張る、というもので、規格化されたヒートソーク試験の中でも条件の厳しいものである。
【0008】
しかしながら、インジウムを有する無鉛ハンダによるハンダ接合部を備える車両窓用ガラスアッセンブリーでは、前記VDAによるヒートソーク試験を合格することが難しい。それは、インジウムを有する無鉛ハンダは、融点が115~155℃程度と低く、105℃という温度環境で、ハンダ接合部にハンダ層に対して垂直方向に引張荷重をかけると、ハンダ層のクリープ疲労(物体に一定の荷重を加えることで、時間とともに物体が変形していく現象)により、ハンダ接合部の接合強度が劣化することが原因であると考えられる。
【0009】
本開示は、電力線に接続した接続端子とガラス板主面に形成された導電体層とを接合するインジウムを有する無鉛ハンダによるハンダ接合部を備え、且つ、前記接続端子において、前記接続端子と前記導電体層とのハンダ接合部が1つである車両窓用ガラスアッセンブリーにおいて、接続端子のハンダ接合部にかかる引張応力を軽減し、且つ高温での優れた耐クリープ特性を有する無鉛ハンダを使用することで、ハンダ接合部の接合強度の低下を抑制することができ、VDAに定められたヒートソーク試験を合格できるものを提供することを課題とする。
【0010】
本開示の一態様に係る車両窓用ガラスアッセンブリーは、
所定パターンの銀を含む導電体層がガラス板主面に形成された車両窓用ガラス板と、
前記導電体層と、インジウム含有の無鉛ハンダからなるハンダ層と、
前記ハンダ層を介して接続された接続端子と、
前記接続端子に固定された電力線と、を備える、車両窓用ガラスアッセンブリーであって、
前記接続端子は、
前記ハンダ層と接合する第一主面と、前記第一主面とは反対側に位置する第二主面とを備える金属板と、
前記第二主面に前記電力線を固定する、固定部と、を備え、
前記電力線は、前記固定部から延伸し、
前記固定部から延伸する電力線の始点(すなわち、前記固定部から延伸する電力線の固定されていない部分(非固定部)の先端)が、前記ハンダ層と前記第一主面とからなる第一接合領域の縁よりも内側の領域の上方にあり、
前記無鉛ハンダが、インジウムを主成分として含むIn-Sn系非共晶合金で、前記インジウムを65質量%以上、74質量%まで含み、さらに、3質量%~9質量%の銀、それぞれ0質量%~2質量%のアンチモン、銅、ニッケル、または亜鉛、を含み、残部が錫及び不可避不純物からなる、固相線温度が120℃以上の合金からなる、ものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】In-Snはんだの合金状態図を示す図である。
【
図2】本開示の一実施形態に係る車両窓用ガラスアッセンブリーの典型例の要部を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を用いて本開示の実施形態を説明する。
【0013】
図2は、本開示の実施形態に係る車両窓用ガラスアッセンブリー1の典型例の要部を説明する図、
図3は、前記ガラスアッセンブリー1で使用される、接続端子の典型例を、詳細に説明する図である。
図4は、本開示の範疇にある、接続端子の派生例を説明する図である。
図5、
図6は、それぞれ本開示の範疇外の接続端子の比較例を説明する図である。
図7は、
図2のA-B断面の概略を示す図である。
【0014】
図2に示すように、車両窓用ガラスアッセンブリー1は、所定パターンの導電体層3がガラス板主面21に形成された車両窓用ガラス板2と、前記導電体層3と、インジウム含有の無鉛ハンダからなる、ハンダ層4を介して接続された接続端子5と、前記接続端子に固定された電力線6と、を備える。尚、
図2に示された、円形の導電体層3から、図の左下方向に延伸する線も、導電体層3である。
【0015】
図3に示すように、前記接続端子5は、第一主面511と該第一主面と反対側の第二主面512とを有する金属板51と、前記電力線6を固定する固定部52とを備える。前記第一主面511は、前記ハンダ層4の接合領域となり、前記固定部52は前記第二主面512側に備えつけられる。
図7に示すように、前記ハンダ層4と、前記第一主面511とで第一接合領域71が形成され、該第一接合領域71の周辺が縁711となる。また、前記ハンダ層4と、前記導電体層3とで第二接合領域72が形成され、該第一接合領域の周辺が縁721となる。
【0016】
図2~4に示すように、前記電力線6は前記固定部52から延伸し、固定部52で固定された部位以外は、前記接続端子5に固定されることなく、前記接続端子5から開放されており、
図7の断面図に示すように、前記固定部52から延伸する電力線6の始点60が、前記ハンダ層4と前記第一主面511とからなる接合領域71の縁711よりも内側の領域の上方にある。ここで、上方とは、ガラス板主面21から垂直方向に離隔する方向のことを言い、縁711の上方を、「X=0」とする(
図7参照方)。
図7で示された「X=0」の地点から矢印で示された方向で、「X=0」の地点を含まない領域が、縁711よりも内側の領域の上方である。
【0017】
図5は、接続端子の第一比較例を示すものであり、電力線6の始点60が「X=0」の上方に位置する。また、
図6は、接続端子の第ニ比較例を示すものであり、固定部52が金属板51の外に設けられており、電力線6の始点60が「X=0」よりも外側の領域にある。
【0018】
前記電力線6における前記固定部52から延伸する部位は、前記接続端子5から開放された構造となっているので、前記電力線6を前記金属板51に対して垂直の方向から引っ張るモードが発生しうる。このモードは、引張のモードの中で、前記ハンダ層4に対して最も強い引張応力を発生させるモードである。VDAによるヒートソーク試験は、前記電力線6を前記第二主面512に対して垂直の方向から引っ張るモードも含む。本実施形態の車両窓用ガラスアッセンブリー1は、上記構造を備えることで、VDAによるヒートソーク試験を合格するものとすることができる。
【0019】
前記ハンダ層4の形成時には、溶融状態にあるハンダが、前記導電体層3と、前記第一主面511とで挟まれた状態で、前記接続端子5を、ガラス板の主面21に向かって押し当てることが好ましい。これにより、前記第一接合領域71は、前記ハンダ層4と前記導電体層3との第二接合領域72よりも小さく、前記第一接合領域71の縁711は、第二接合領域72の縁721よりも内側の領域の上方にある、構造となる。前記第一接合領域71の面積は、前記第二接合領域72の面積に対して、例えば、0.85倍~0.95倍としてもよい。また、接続端子5と、ハンダ層4と、導電体層3とからなる、ハンダ接合構造を、コンパクトなものとするためにも、前記第一主面511の全てが、前記第一接合領域71であることが好ましい。
【0020】
前記ハンダ層4の、前記導電体層3と、前記接続端子5の第一主面511との接合は、様々な熱源から発生する熱をハンダ接合部近傍に供給することで達成される。熱源としては、従来から知られる半田鏝や熱風、抵抗溶接が挙げられる。具体的には、予め、接続端子5の第一主面511に無鉛ハンダを溶融、付着させる。その後、接続端子5の第一主面511をガラス板主面21に押し付けつけた状態で、第二主面512に対して、鏝先温度を200~300℃に設定した半田鏝を接触、保持させる、又は前記金属板51を通電加熱することによって、接合は達成される。または、前記第一主面511に付着された無鉛はんだが溶融された状態で、接続端子5をガラス板主面21方向に押し付けつけてもよい。
【0021】
前記導電体層3と、前記接続端子5との接合をより確実なものとするために、前記導電体層3と、前記ハンダ層4との接合面積は、36mm2~64mm2、好ましくは、38mm2~50mm2としてもよい。また、前記金属板51の第一主面511の面積は、36mm2~64mm2、好ましくは、38mm2~50mm2としてもよい。また、前記金属板51の形状は、必要なハンダ接合面積を確保しやすくするために、正多角形状、略正多角形状、円形状、又は楕円形状としてよい。また、多角形状や略正多角形状の場合、その角部は、円弧状に丸められたものとしてもよい。さらには、前記金属板51は、切り欠きを備える構造であってもよい。
【0022】
また、前記始点60は、前記接合領域71の重心部の上方にあることが好ましい。ここで、重心部とは、重心点の周縁まで含んだ領域で、好ましくは、前記重心点を中心に、4mmφの領域を重心部としてもよい。このような構造とすることで、電力線6が引っ張られる状態となったときに、接続端子5にかかる応力の分散がより確実なものとできる。
【0023】
前記ガラス板2は、ガラス板主面21と、ガラス板端面とを備える。車両窓として用いることができるように、前記ガラス板2は、湾曲形状を備えていてもよい。また、車両の形状に応じた面積を備えていてもよい。その厚みは、特に限定されるものではないが、0.3mm~6mmの範囲で適宜選ばれる。前記ガラス板2を形成する材料としては、ISO16293-1で定義できるソーダライムガラスを使用することができる。本実施形態のガラスアッセンブリー1では、前記ガラス板2が非強化ガラスであっても、VDAに定められたヒートソーク試験、以下実施例にて検証されたような熱サイクル試験を満足する。よって、前記ガラス板2として、非強化ガラスを使用してもよい。また、前記ガラス板2として、前記非強化ガラスを含む合せガラスであってもよい。また、前記ガラス板2として、非強化ガラスだけではなく、風冷強化ガラス、化学強化ガラス等が使用されても良い。
【0024】
尚、本開示で言う非強化ガラスとは、炉内での加熱によって曲げ加工されたガラス板が炉内での温度プロファイルに従って冷却されることで、ガラス板の表面に50MPa以下の圧縮応力を備えることになったもの、又は表面に圧縮応力を備えないガラス板のことを言う。
【0025】
前記熱サイクル試験は、「DIN EN ISO16750-4-H セクション5.3.1.2」に準拠した、ドイツ自動車工業会(VDA)に定められた、熱サイクル試験を合格することが好ましい。VDAに定められた熱サイクル試験とは、前記ハンダ接合部を-40℃~105℃の温度サイクル環境下(全60サイクル)におき、昇温及び105℃保持ステップにおいて、前記導電体層に14Vの電圧を印加させる、というものである。
【0026】
前記導電体層3は、アンテナや電熱素子等の目的に応じた配線パターンを備え、前記接続端子5と電気的に接続されるバスバーや、接続端子部を備える。前記導電体層3は、好適には、銀や銀合金と、ガラスフリットの焼結体からなるものである。その焼結体は、例えば、銀や銀合金の粒子と、ガラスフリットと、有機オイルを含む、所謂銀ペーストを、スクリーン印刷等の方法でガラス板主面21に塗布し、500~700℃の加熱過程を経て形成することができる。また、車両窓用ガラスアッセンブリー1は、前記導電体3と、ガラス板表面21との間に、付加的に黒色などのカラーセラミックス層を備えていてもよい。カラーセラミック層は、好適には、顔料と、ガラスフリットとの焼結体からなるものである。その焼結体は、例えば、顔料の粒子と、ガラスフリットと、有機オイルを含む、所謂カラーセラミックペーストを、スクリーン印刷等の方法でガラス板主面21に塗布し、500~700℃の加熱過程を経て形成することができる。
【0027】
前記ハンダ層4は、インジウム基の無鉛ハンダからなる。そして、前記無鉛ハンダは、インジウムを主成分として含むIn-Sn系非共晶合金で、前記インジウムを74質量%まで含み、さらに、3質量%~9質量%の銀を含み、固相線温度が120℃以上の合金からなる、ものである。
【0028】
前記合金において固相線温度が120℃以上であることが、特許文献6の教示の通り、本実施形態における前提条件となる。
【0029】
ここで、
図1にIn-Snはんだの合金状態図(I. Isomaeki, M. Haemaelaeinen, W. Gierlotka, B. Onderka, and K. Fitzner, J. Alloys Compd., 422 [1-2] 173-177 (2006).)を示す。該合金状態図によれば、インジウムを主成分とする合金において、該合金を共晶合金とすると、共晶点の固相線温度が120℃未満となる(例えば、インジウムが52質量%、錫が残部の共晶組成では共晶点の固相線温度は117℃となる)。その場合、その他の金属成分の含有によって、固相線温度を120℃以上とすると、インジウムを有する無鉛ハンダの利点である柔軟性が維持され難いものとなる。インジウムと錫との合金では、その共晶点となるIn52質量%の組成よりもインジウム量が多い側の非共晶となる領域で、固相線温度が120℃以上となる。
【0030】
また、前記合金に3質量%~9質量%含まれる銀は、前記導電体層3中の銀が、前記ハンダ層4にとりこまれることを防ぐため及び接合強度を高めるためのものである。そのため、前記合金への銀の含有も、本実施形態における前提条件となる。
【0031】
但し、これら前提条件を満たしただけでは、前記固定部52から延伸する電力線6の始点が、前記ハンダ層4と前記第一主面511とからなる第一接合領域71の縁711よりも内側の領域の上方であったとしても、VDAによるヒートソーク試験を合格できない、車両窓用ガラスアッセンブリー1が生じ得る。これは、前記合金に含まれるインジウムが軟質な材料であるため、前記ヒートソーク試験でハンダ層4が高温状態に保たれたときに、ハンダ層4にクリープ疲労が生じやすいためでないかと考えられる。そのため、本実施形態では、前記合金中に、インジウムの含有量を、74質量%まで含むものとすることで、前記合金の耐クリープ特性を改善せしめている。その結果、車両窓用ガラスアッセンブリー1を、VDAによるヒートソーク試験を合格するものとできる。
【0032】
In-Sn系合金はIn52.0質量%、Sn48.0質量%に共晶点を有するが、本実施形態で用いるIn-Sn系非共晶合金はIn含有量が共晶組成より多いものである。前記したように、インジウム含有量が多くなりすぎると、ハンダ層4にクリープ疲労が生じやすくなると考えられる。これを考慮すると、前記合金中のインジウムの含有量の上限を、好ましくは質量74質量%、より好ましくは70質量%としてもよい。また、前記合金中のインジウムの含有量の下限を65質量%、より好ましくは67質量%としてもよい。
【0033】
前記In-Sn系合金は、インジウムを有する無鉛ハンダの利点である柔軟性が維持できるように、アンチモン、銅、ニッケル、亜鉛などの第四成分を任意に0質量%~2質量%、好ましくは0質量%~1.5質量%含有するものであってもよい。前記合金において、ここで挙げられた金属成分以外の残部成分は錫及び不可避不純物からなるものとされる。不可避不純物とは、前記で挙げられた成分以外のもので、前記合金に0.1質量%まで含有されるもののことである。
【0034】
また、前記合金において、銀の含有量が、前記ヒートソーク試験の結果に影響するといえる。そのため、車両用窓ガラス1の工業的な生産において、各製品の品質のばらつきを小さくするために、前記合金の銀の含有量の範囲において、下限側を5質量%、より好ましくは5.5質量%、上限側を8質量%、より好ましくは7質量%としてもよい。
【0035】
前記金属板51としては、銅、亜鉛、鉄、ニッケル、スズ、クロム、コバルト、又はクロムが挙げられ、2つ以上の元素が含まれた合金からなる金属板でもよい。しかしながら、一般的に導電性と加工の容易性の点から、銅又は黄銅(真鍮)のような導電性物質が良好で、機械加工が容易な材料であることが望ましい。
【0036】
前記金属板51の厚みは、ヒートソーク試験に影響することがある。これを考慮すると、各部位の厚みは、0.3mm~2.0mm、好ましくは、0.5mm~1.0mmとしてもよく、さらには、各部位の厚みを、同一としてもよい。
【0037】
電力線6を固定する、固定部52は、第二主面512上に設けられる。固定部52は、電力線6の始点60より前方部分(以下[先端部分]という)を固定できる程度の大きさを備えていればよい。固定部52の構造は、
図2に示すような、電力線6の先端部分を加締めることができる構造の他に、ロウ材を用いたロウ接、抵抗溶接のような溶接で電力線6の先端部分を固定する構造としてもよい。電力線6の先端部分を加締めることができる構造の代表的な例としては、Bクリンプが挙げられる。電力線6は、ガラス板主面21に沿って延伸する。電力線6の材質としては、電気抵抗率の低い銅やアルミニウムが挙げられるが、より電気伝導性が優れ、安価な銅が好ましい。また、被覆絶縁体の例としては、想定される使用温度以上の耐熱性を有しているものであればよく、塩化ビニルや耐熱ビニルが挙げられる。電力線の径については、車両窓用ガラス板の主面に形成された熱線に対して流れると想定される電流値が、電力線の許容電流以下になるように設定されればよい。しかしながら、電力線の柔軟性の観点から、電力線の径は0.3sq(AWG:22)~2.0sq(AWG:14)であることが好ましい。
【0038】
車両窓用ガラスアッセンブリー1では、電力線6に起因して、前記接続端子5や、接続端子5と導電体層3とのハンダ接合部に引張応力がかかることがある。本実施形態のガラスアッセンブリー1では、電力線6の始点60が、前記ハンダ層4と第一主面511の第一接合領域71の縁711よりも内側の領域の上方、さらには、電力線6においては、固定部52で固定された部位以外は、前記接続端子5に固定されることなく、前記接続端子5から開放されている。そのため、電力線6によって、前記引張応力が発生する状態となっても、前記ハンダ層4にかかる応力は、前記ハンダ層4の重心部にかかることになるので、接続端子5と、前記ハンダ層4と、前記導電層3とからなるハンダ接合構造部に均等に応力がかかって、該構造部内に局所的に強い応力が発生することを抑制できる。かくして、本実施形態のガラスアッセンブリー1は、接続端子5と導電体層3とのハンダ接合部の、前記引張応力や持続荷重に対する耐久性が良好なものとなる。
【実施例】
【0039】
以下に、本開示を実施例にて、より詳細に説明する。
【0040】
[実施例1]
フロート法で製造された、ソーダライムガラスからなるガラス板2(一般的な車両窓サイズ、2mm厚さ;非強化ガラス)の主面に、先ず、黒色セラミックペーストをスクリーン印刷にて塗工、乾燥された後、その上に銀ペーストがスクリーン印刷で所定の熱線回路パターン形状に塗布、乾燥された。次いで、黒色セラミックペースト及び銀ペーストが塗布されたガラス板2が加熱処理され、導電体層3が形成されたガラス板主面21が準備された。
【0041】
ニッケルメッキ処理を施された銅金属板から加工された接続端子5が準備された。接続端子5の形状は、
図3に示すとおりである。この接続端子5では、金属板51の厚みは、0.8mmであった。前記金属板51は、矩形状で、第一、第二主面は表裏の関係で、その面積は、それぞれ49mm
2であった。
【0042】
前記第二主面512上には、Bクリンプ型の固定部52が備え付けられており、固定部52の長尺方向は前記金属体51の一辺に対して垂直の関係にあり、固定部52の長尺方向の始点はその一辺で、前記金属板51の中心部が終点となるものであった。尚、実施例では、その中心部が、ハンダ層4の重心部の上方にあたるものとなる。
【0043】
2.1mmφの塩化ビニルで被覆された銅線からなる電力線6の銅線が剥き出しにされた部位が前記固定部52に固定され、接続端子5が導電体層3にハンダ付けされた際には、固定部52の長尺方向はガラス板2の端面22に対して垂直の関係にあり、前記電力線6がガラス板主面21に沿って、ガラス端面22方向に延伸するように、加締められた。前記電力線6の始点60は、前記固定部52の長尺方向の終点に相当するもので、前記電力線6は、前記固定部52に固定された部位以外は、前記接続端子5から開放されている。
【0044】
前記第一主面に、<インジウム68質量%、スズ:23質量%、銀:6質量%、アンチモン:1質量%、銅:1質量%、亜鉛:1質量%>の、固相線温度が124℃である非共晶合金からなる無鉛ハンダが、0.2g量、ハンダ付けされた。
【0045】
接続端子5にハンダ付けされたハンダが、接続端子5と、導電体層3と間に配置されるように、ベースガラス上に、接続端子5が配置された。次いで、接続端子5の通電加熱による前記ハンダの再溶融を経て、ハンダ層4が形成され、車両窓用ガラスアッセンブリー1を模擬する、試料が得られた。当試料では、前記ハンダ層4は、前記第一主面の全面と接合していた。また、縁711(X=0)の地点から、電力線6の始点60までの距離が、x=3.5mmであった。
【0046】
本実施例で得られた試料は、VDAに定められた、ヒートソーク試験及び熱サイクル試験を満足するものであった。
【0047】
[実施例2]
接続端子5を、
図4の形状を有するものとし、縁711(X=0)の地点から、電力線6の始点60までの距離を、x=1.5mmとした以外は、実施例1と同じ手順で、車両窓用ガラスアッセンブリー1を模擬する、試料が得られた。本実施例で得られた試料は、上記ヒートソーク試験及び熱サイクル試験を満足するものであった。尚、実施例1、2の構造上の違いは、固定部52の位置の違いによる、縁711(X=0)の地点から、電力線6の始点60までの距離だけである。
【0048】
[実施例3]
接続端子5を、
図3の形状を有するものとし、前記第一主面に、<インジウム68質量%、スズ:26質量%、銀:6質量%>の、固相線温度が121℃である非共晶合金からなる無鉛ハンダが、0.2g量、ハンダ付けされた以外は、実施例1と同じ手順で、車両窓用ガラスアッセンブリー1を模擬する、試料が得られた。本実施例で得られた試料は、上記ヒートソーク試験及び熱サイクル試験を満足するものであった。
【0049】
[実施例4]
接続端子5を、
図3に形状を有するものとし、前記第一主面に、<インジウム68質量%、スズ:23質量%、銀:9質量%>の、固相線温度が121℃である非共晶合金からなる無鉛ハンダが、0.2g量、ハンダ付けされた以外は、実施例1と同じ手順で、車両窓用ガラスアッセンブリー1を模擬する、試料が得られた。本実施例で得られた試料は、上記ヒートソーク試験及び熱サイクル試験を満足するものであった。
【0050】
[実施例5]
接続端子5を、
図3に形状を有するものとし、前記第一主面に、<インジウム68質量%、スズ:29質量%、銀:3質量%>の、固相線温度が120℃である非共晶合金からなる無鉛ハンダが、0.2g量、ハンダ付けされた以外は、実施例1と同じ手順で、車両窓用ガラスアッセンブリー1を模擬する、試料が得られた。本実施例で得られた試料は、上記ヒートソーク試験及び熱サイクル試験を満足するものであった。
【0051】
[比較例1]
接続端子5を、
図5の形状を有するものとし、縁711(X=0)の地点上に電力線6の始点60を位置させた以外は、実施例1と同じ手順で、車両窓用ガラスアッセンブリー1を模擬する、試料が得られた。本比較例で得られた試料は、上記ヒートソーク試験を満足するものではなかった。尚、実施例1と比較例1との構造上の違いは、固定部52の位置の違いであり、固定部から延伸する電力線の始点が、ハンダ層と第一主面とからなる第一接合領域の縁よりも内側の領域の上方にあるという要件を満たしていない。
【0052】
[比較例2]
接続端子5を、
図6の形状を有するものとし、実施例1と同じ手順で、車両窓用ガラスアッセンブリー1を模擬する、試料が得られた。この試料は、比較例1と同様に、前記要件を満たしていない。本比較例で得られた試料は、上記ヒートソーク試験を満足するものではなかった。
【0053】
[比較例3]
接続端子5を、
図3の形状を有するものとし、前記第一主面に、<インジウム75質量%、スズ:15質量%、銀:6質量%、アンチモン:1質量%、銅:1質量%、亜鉛:1質量%、ニッケル:1質量%>の、固相線温度が130℃である非共晶合金からなる無鉛ハンダが、0.2g量、ハンダ付けされた以外は、実施例1と同じ手順で、車両窓用ガラスアッセンブリー1を模擬する、試料が得られた。本比較例で得られた試料は、上記ヒートソーク試験を満足するものではなかった。尚、実施例1と比較例3との構造上の違いは、ハンダ層4を形成する合金の組成だけである。
【0054】
[比較例4]
接続端子5を、
図3の形状を有するものとし、前記第一主面に、<インジウム69質量%、スズ:29質量%、銀:2質量%>の、固相線温度が120℃である非共晶合金からなる無鉛ハンダが、0.2g量、ハンダ付けされた以外は、実施例1と同じ手順で、車両窓用ガラスアッセンブリー1を模擬する、試料が得られた。本比較例で得られた試料は、上記ヒートソーク試験を満足するものではなかった。尚、実施例1と比較例4との構造上の違いは、ハンダ層4を形成する合金の組成だけである。
【0055】
上述の通り、本開示の実施形態に係る、電力線6に接続した接続端子5とガラス板主面21に形成された導電体層3とを接合するインジウムを有する無鉛ハンダによるハンダ接合部4を備え、且つ、前記接続端子5において、前記接続端子5と前記導電体3層とのハンダ接合部4が1つである車両窓用ガラスアッセンブリー1は、VDAに定められたヒートソーク試験と熱サイクル試験との双方に合格する品質を有する。
【符号の説明】
【0056】
1: 車両窓用ガラスアッセンブリー
2: 車両用窓ガラス板
21: ガラス板主面
3: 導電体層
4: ハンダ層
5: 接続端子
51: 金属板
511: 第一主面
512: 第二主面
52: 固定部
6: 電力線
60: 電力線の始点
71: 第一接合領域
711: 第一接合領域の縁
72: 第二接合領域
721: 第二接合領域の縁