(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】ガラスフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 35/16 20060101AFI20240311BHJP
C03B 17/06 20060101ALI20240311BHJP
B65G 49/06 20060101ALI20240311BHJP
B65H 20/10 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
C03B35/16
C03B17/06
B65G49/06 Z
B65H20/10 A
(21)【出願番号】P 2020029420
(22)【出願日】2020-02-25
【審査請求日】2022-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100129148
【氏名又は名称】山本 淳也
(72)【発明者】
【氏名】山城 陸
(72)【発明者】
【氏名】森 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】桐畑 洋平
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/070207(WO,A1)
【文献】特開2019-104642(JP,A)
【文献】特開2012-25624(JP,A)
【文献】国際公開第2013/099676(WO,A1)
【文献】特表2016-532620(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B35/00-35/26
C03B17/06
B65G49/06
B65H20/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形装置によって帯状のガラスフィルムを成形する成形工程と、前記ガラスフィルムを搬送する搬送工程と、を備えるガラスフィルムの製造方法において、
前記搬送工程は、前記ガラスフィルムを縦搬送装置によって縦方向に搬送する縦搬送工程と、前記ガラスフィルムの搬送方向を方向転換装置によって前記縦方向から横方向に転換する方向転換工程と、前記ガラスフィルムを横搬送装置によって前記横方向に搬送する横搬送工程と、を含み、
前記ガラスフィルムは、前記横搬送工程において上面となる表面と、前記表面の反対側に位置する裏面とを含み、
前記方向転換工程は、前記裏面が凸状となるように前記ガラスフィルムを変形させる変形工程を含
み、
前記方向転換装置は、気流を利用することにより前記裏面が凸状となるように前記ガラスフィルムを変形させる変形装置を備えることを特徴とするガラスフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記変形装置は、気体を噴射する吹付部を備え、
前記吹付部から噴射された前記気体によって生じる前記気流を前記ガラスフィルムの前記表面に当てることにより、前記裏面が凸状となるように前記ガラスフィルムを変形させる請求項
1に記載のガラスフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記方向転換装置は、前記縦搬送装置の下方に配置されるとともに前記ガラスフィルムの前記表面に接触する規制ローラと、前記規制ローラの下方位置に配置されるとともに前記裏面を支持するローラコンベアとを備え、
前記吹付部は、前記規制ローラと前記ローラコンベアとの間に配置される請求項
2に記載のガラスフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記変形装置は、前記気流を調整する気流調整部を備える請求項
2又は
3に記載のガラスフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記吹付部は、前記ガラスフィルムの前記表面における幅方向中央部に前記気流を当てる請求項
2から
4のいずれか一項に記載のガラスフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記変形装置は、気体を噴射する吹付部を備え、
前記吹付部から噴射された前記気体によって生じる前記気流を前記ガラスフィルムの前記裏面に当てることにより、前記裏面が凸状となるように前記ガラスフィルムを変形させる請求項
1に記載のガラスフィルムの製造方法。
【請求項7】
前記吹付部は、前記ガラスフィルムの前記裏面における幅方向端部に前記気流を当てる請求項
6に記載のガラスフィルムの製造方法。
【請求項8】
前記変形装置は、気体を吸引する吸引部を備え、
前記吸引部は、前記ガラスフィルムの前記裏面側の空気を吸引することにより、前記裏面が凸状となるように前記ガラスフィルムを変形させる請求項
1に記載のガラスフィルムの製造方法。
【請求項9】
前記吸引部は、前記ガラスフィルムの前記裏面における幅方向中央部側の空気を吸引する請求項
8に記載のガラスフィルムの製造方法。
【請求項10】
前記横搬送工程は、前記横搬送装置によって、前記ガラスフィルムの幅方向両端部に前記横方向の搬送を推進する第一推進力を付与するとともに、前記ガラスフィルムの幅方向中央部に前記横方向の搬送を推進する第二推進力を付与する工程を含み、
前記第一推進力は、前記第二推進力よりも大きい請求項1から
9のいずれか一項に記載のガラスフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスフィルムを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、液晶ディスプレイ及び有機ELディスプレイ等のパネルディスプレイに用いられる板ガラスにおいては、軽量化への要請の高まりに伴って薄板化が推進されており、その厚みが300μm以下、あるいは200μm以下にまで薄板化されたガラスフィルムが開発、製造されるに至っている。
【0003】
このようなガラスフィルムは、例えばオーバーフローダウンドロー法に代表されるように、帯状のガラスフィルムを成形する成形工程と、成形したガラスフィルムを縦方向に搬送しながらアニール処理を施すアニール工程と、ガラスフィルムの搬送方向を縦方向から横方向に転換する方向転換工程と、方向転換したガラスフィルムを横方向に搬送する横搬送工程とを備える製造方法によって製造することができる。
【0004】
しかしながら、上述のような製造方法を採用した場合、ガラスフィルムは、その薄さ故に、種々の外的要因により、縦方向の搬送中に、表面と裏面の何れか一方の側が凸、他方の側が凹となる湾曲変形を生じ、さらにはその湾曲変形の向き(凹凸の向き)が短い周期で入れ替わることがある。
【0005】
このように縦方向搬送中のガラスフィルムの姿勢が不安定であると、方向転換工程に導入される際のガラスフィルムの姿勢も一定でなく、この際の姿勢に起因して、ガラスフィルムに応力集中が生じ、当該ガラスフィルムの破損を招き得る。この種の破損は製造ラインの長期停止を招き、また製造ラインの稼働再開までに多くの時間が必要となるため、ガラスフィルムの生産性を悪化させる要因となる。
【0006】
そこで、本出願人は、上記問題の解決策として、特許文献1に記載の製造方法を提案している。この製造方法では、横搬送工程において、横搬送部によりガラスフィルムの幅方向両端部に横方向の搬送を推進する第一推進力を付与し、幅方向中央部に第二推進力を付与する。第一推進力を第二推進力よりも大きくすることで、縦方向に搬送されているガラスフィルムの一部において、裏面側が凸状となり、表面側が凹状となる好ましい変形を生じさせることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の製造方法では、方向転換工程後の横搬送工程においてガラスフィルムに所定の各推進力を付与している。すなわち、ガラスフィルムが変形する部位から離れた位置で当該ガラスフィルムに力を加えていることから、ガラスフィルムの成形条件や搬送条件によっては、必ずしもその効果が十分であるとは言えない場合があった。
【0009】
ガラスフィルムの変形を好適に制御するには、当該変形が生じる部位に近い位置でガラスフィルムに力を付与することが望ましい。
【0010】
そこで、本発明は、製造過程における好ましくない向きのガラスフィルムの湾曲変形を方向転換工程において防止することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記の課題を解決するためのものであり、成形装置によって帯状のガラスフィルムを成形する成形工程と、前記ガラスフィルムを搬送する搬送工程と、を備えるガラスフィルムの製造方法において、前記搬送工程は、前記ガラスフィルムを縦搬送装置によって縦方向に搬送する縦搬送工程と、前記ガラスフィルムの搬送方向を方向転換装置によって前記縦方向から横方向に転換する方向転換工程と、前記ガラスフィルムを横搬送装置によって前記横方向に搬送する横搬送工程と、を含み、前記ガラスフィルムは、前記横搬送工程において上面となる表面と、前記表面の反対側に位置する裏面とを含み、前記方向転換工程は、前記裏面が凸状となるように前記ガラスフィルムを変形させる変形工程を含むことを特徴とする。
【0012】
かかる構成によれば、裏面が凸状となるようにガラスフィルムを変形させる変形工程を方向転換工程に備えることで、当該ガラスフィルムの変形を確実に制御できる。これにより、方向転換工程におけるガラスフィルムの好ましくない湾曲変形を防止することが可能になる。
【0013】
本方法において、前記方向転換装置は、気流を利用することにより前記裏面が凸状となるように前記ガラスフィルムを変形させる変形装置を備えてもよい。
【0014】
本方法において、前記変形装置は、気体を噴射する吹付部を備え、前記吹付部から噴射された前記気体によって生じる前記気流を前記ガラスフィルムの前記表面に当てることにより、前記裏面が凸状となるように前記ガラスフィルムを変形させてもよい。
【0015】
また、前記方向転換装置は、前記縦搬送装置の下方に配置されるとともに前記ガラスフィルムの前記表面に接触する規制ローラと、前記ローラの下方位置に配置されるとともに前記裏面を支持するローラコンベアとを備え、前記吹付部は、前記規制ローラと前記ローラコンベアとの間に配置されてもよい。
【0016】
かかる構成によれば、規制ローラによってガラスフィルムの位置を規制した状態で、吹付部の気流によってガラスフィルムを変形させることで、当該ガラスフィルムの変形を確実に、かつ精度良く制御することができる。
【0017】
前記変形装置は、前記気流を調整する気流調整部を備えてもよい。気流調整部によって気流発生部からの気流を調整することで、ガラスフィルムの寸法や搬送条件に応じて、当該ガラスフィルムを適切に変形させることができる。
【0018】
前記吹付部は、前記ガラスフィルムの前記表面における幅方向中央部に前記気流を当ててもよい。
【0019】
前記変形装置は、気体を噴射する吹付部を備え、前記吹付部から噴射された前記気体によって生じる前記気流を前記ガラスフィルムの前記裏面に当てることにより、前記裏面が凸状となるように前記ガラスフィルムを変形させてもよい。
【0020】
この場合において、前記吹付部は、前記ガラスフィルムの前記裏面における幅方向端部に前記気流を当ててもよい。
【0021】
本方法において、前記変形装置は、気体を吸引する吸引部を備え、前記吸引部は、前記ガラスフィルムの前記裏面側の空気を吸引することにより、前記裏面が凸状となるように前記ガラスフィルムを変形させてもよい。
【0022】
この場合において、前記吸引部は、前記ガラスフィルムの前記裏面における幅方向中央部側の空気を吸引してもよい。
【0023】
本方法において、前記横搬送工程は、前記横搬送装置によって、前記ガラスフィルムの幅方向両端部に前記横方向の搬送を推進する第一推進力を付与するとともに、前記ガラスフィルムの幅方向中央部に前記横方向の搬送を推進する第二推進力を付与する工程を含み、前記第一推進力は、前記第二推進力よりも大きくされてもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、製造過程における好ましくない向きのガラスフィルムの湾曲変形を方向転換工程において防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】第一実施形態に係るガラスフィルムの製造装置を示す側面図である。
【
図2】
図1のII-II矢視線における断面図である。
【
図4】
図3のIV-IV矢視線における断面図である。
【
図5】横搬送装置に係る第一搬送装置の斜視図である。
【
図6】第二実施形態に係る方向転換装置の背面図である。
【
図7】第三実施形態に係る方向転換装置の背面図である。
【
図8】
図7のVIII-VIII矢視線における側面図である。
【
図9】第四実施形態に係る方向転換装置の背面図である。
【
図10】
図9のX-X矢視線における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。
図1乃至
図5は、本発明に係るガラスフィルムの製造方法の第一実施形態を示す。
【0027】
図1及び
図2は、本方法に使用されるガラスフィルム(ガラスロール)の製造装置の全体構成を示す。製造装置1は、溶融ガラスから帯状の母材ガラスフィルム(ガラスリボン)G1を成形する成形装置2と、母材ガラスフィルムG1の進行方向を転換する方向転換装置3と、母材ガラスフィルムG1を横方向GXに沿って搬送する横搬送装置4と、母材ガラスフィルムG1の幅方向端部Ga,Gbの不要部分を除去し、幅方向中央部Gcを製品ガラスフィルムG2として巻き取ってガラスロールGRを形成する巻取装置5と、を備える。
【0028】
本明細書において、「横方向」とは、水平方向と、水平方向に対して一定の角度をなす方向とを含む概念である。「縦方向」とは、鉛直方向と、鉛直方向に対して一定の角度をなす方向とを含む概念である。母材ガラスフィルムG1の「幅方向端部」(Ga,Gb)とは、当該母材ガラスフィルムG1の幅方向両端位置から当該母材ガラスフィルムG1の全幅方向寸法の5%以上でかつ10%以下までの領域をいうものとする。母材ガラスフィルムG1の「幅方向中央部」(Gc)とは、当該母材ガラスフィルムG1の幅方向端部を除いた領域をいうものとする。
【0029】
製品ガラスフィルムG2の厚みは、300μm以下とされ、好ましくは100μm以下とされる。製品ガラスフィルムG2は、横搬送装置4での搬送中に、上面となる第一主面G2Saと、第一主面G2Saの反対側に位置する第二主面G2Sbとを有する。以下、母材ガラスフィルムG1において、製品ガラスフィルムG2の第一主面G2Saに対応する面(横搬送装置4での搬送中に上面となり得る面)を表面G1Saといい、製品ガラスフィルムG2の第二主面G2Sbに対応する面(表面G1Saの反対側に位置し、横搬送装置4での搬送中に下面となり得る面)を裏面G1Sbという。第一主面G2Saに高品質な成膜等が施される場合、第一主面G2Saは品質保証面となる。なお、母材ガラスフィルムG1の幅方向両端には、他の部分よりも厚み寸法の大きい耳部Gdが形成されている。
【0030】
図1に示すように、成形装置2は、上端部にオーバーフロー溝6aが形成された断面視略楔形の成形体6と、成形体6の直下に配置されて、成形体6から溢出した溶融ガラスを表裏両側から挟むエッジローラ7と、エッジローラ7の直下に配備されるアニーラ8と、を備える。
【0031】
成形装置2は、成形体6のオーバーフロー溝6aの上方から溢流した溶融ガラスを、両側面に沿ってそれぞれ流下させ、下端で合流させてフィルム状の溶融ガラスを成形する。エッジローラ7は、溶融ガラスの幅方向収縮を規制して所定幅の母材ガラスフィルムG1とする。
【0032】
アニーラ8は、母材ガラスフィルムG1に対してアニール処理(除歪処理)を施すためのものである。このアニーラ8は、上下方向複数段に配設されたアニーラローラ8aを有する。各アニーラローラ8aは、母材ガラスフィルムG1を表裏両側から挟持するローラ対により構成される。アニーラローラ8aは、成形装置2によって成形された母材ガラスフィルムG1をアニーラ8内において縦方向GYに沿って搬送する縦搬送装置として機能する。
【0033】
アニーラ8の下方には、母材ガラスフィルムG1を表裏両側から挟持する支持ローラ9が配設されている。支持ローラ9とエッジローラ7との間、または支持ローラ9と何れか一箇所のアニーラローラ8aとの間には、母材ガラスフィルムG1を薄肉にすることを助長するための張力が付与されている。
【0034】
方向転換装置3は、母材ガラスフィルムG1の進行方向を縦方向GYから横方向GXへと転換する。方向転換装置3は、アニーラ8及び支持ローラ9の下方位置に設けられている。
【0035】
図3及び
図4に示すように、方向転換装置3は、母材ガラスフィルムG1の表面G1Saに当接する規制ローラ10a,10bと、母材ガラスフィルムG1を変形させる変形装置11と、規制ローラ10a,10b及び変形装置11の下方に設けられるローラコンベア12と、を備える。
【0036】
規制ローラ10a,10bは、母材ガラスフィルムG1の表面G1Sa側から当該母材ガラスフィルムG1の端部Ga,Gbに接触する。規制ローラ10a,10bは、母材ガラスフィルムG1の幅方向の一端部Gaに接触する第一規制ローラ10aと、母材ガラスフィルムG1の幅方向の他端部Gbに接触する第二規制ローラ10bとを含む。
【0037】
変形装置11は、縦方向GYにおいて、規制ローラ10a,10bとローラコンベア12との間に配置される。変形装置11は、母材ガラスフィルムG1に対して気流Aを発生させる気流発生部13と、気流発生部13からの気流Aを調整する気流調整部14とを備える。
【0038】
気流発生部13は、母材ガラスフィルムG1の表面G1Saに対向するように配置されている。気流発生部13は、気体を母材ガラスフィルムG1に噴射する吹付部15を備える。吹付部15は、管状に構成されており、内部に気体を流通させることができる。吹付部15は、母材ガラスフィルムG1の表面G1Saに向かって気体を噴射する複数の噴射口16を有する。
【0039】
図3に示すように、噴射口16は、吹付部15の中途部に形成される円形の孔として構成されるが、噴射口16の形状は本実施形態に限定されるものではない。
図4に示すように、噴射口16は、母材ガラスフィルムG1の表面G1Saに対して気流A(実線で示す)が直角に当たるように気体を噴射する。これに限らず、噴射口16は、
図4において二点鎖線で示すように、気流Aが斜め下方を向くように、気体を噴射してもよい。
【0040】
気流調整部14は、複数(例えば二枚)の遮蔽部材17a,17bと、遮蔽部材17a,17bを移動させる移動機構(図示省略)と、を備える。遮蔽部材17a,17bは、長尺状の板部材により構成されるが、この形状に限定されるものではない。遮蔽部材17a,17bは、気流発生部13と母材ガラスフィルムG1の表面G1Saとの間に配置される。
【0041】
二枚の遮蔽部材17a,17bは、気流発生部13に係る吹付部15の長手方向に沿うように配置されている。移動機構は、各遮蔽部材17a,17bを吹付部15の長手方向(母材ガラスフィルムG1の幅方向)に沿って移動させるように構成されている。
【0042】
図3に示すように、気流調整部14の遮蔽部材17a,17bは、気流発生部13の一部の噴射口16を遮蔽し、残りの噴射口16を母材ガラスフィルムG1に対して遮蔽することなく露出させている。遮蔽部材17a,17bは、移動機構によってその位置を変更することで、遮蔽する噴射口16の数を変更する。これにより、気流調整部14は、気流発生部13から母材ガラスフィルムG1に向かう気流Aの強さ及び範囲を調整する。
【0043】
ローラコンベア12は、母材ガラスフィルムG1の裏面G1Sbを支持する複数のガイドローラ12aを有する。各ガイドローラ12aは、母材ガラスフィルムG1が略円弧状の軌跡を描いて搬送されるように、所定の位置に配置されている。
【0044】
横搬送装置4は、母材ガラスフィルムG1の進行方向において、方向転換装置3の下流側に配置されている。横搬送装置4は、第一搬送装置18と、第二搬送装置19と、第三搬送装置20とを有する。第一搬送装置18は、方向転換装置3の下流側に配置されている。第二搬送装置19は、第一搬送装置18の下流側に配置されている。第三搬送装置20は、第二搬送装置19の下流側に配置されている。
【0045】
第一搬送装置18は、例えば浮上式のベルトコンベアにより構成される。
図5に示すように、第一搬送装置18は、無端状のコンベアベルト21と、コンベアベルト21を駆動させる駆動ローラ22とを有する。
【0046】
コンベアベルト21には、多数の孔部23が形成されている。コンベアベルト21は、その内周に配設された気体供給装置(図示は省略)からの気体Vを孔部23から噴射させる。孔部23から噴射させた気体Vによって、母材ガラスフィルムG1の一部を浮上させることができる。
【0047】
コンベアベルト21の外表面の幅方向両側には、テープ24が無端状に貼り付けられている。これにより、第一搬送装置18上に導入された母材ガラスフィルムG1の幅方向両端部Ga,Gbは、これらテープ24と接することとなる。コンベアベルト21に設けられた複数の孔部23のうち、コンベアベルト21の幅方向両側に設けられた孔部23は、テープ24により塞がれている。したがって、テープ24と接する母材ガラスフィルムG1の幅方向両端部Ga,Gbには気体Vの噴射供給による浮力は作用しない。
【0048】
第二搬送装置19は、例えばベルトコンベアにより構成される。第二搬送装置19は、無端状のコンベアベルト25と、母材ガラスフィルムG1の幅方向端部Ga,Gbを非製品部Geとして切断する切断装置26とを備える。
【0049】
コンベアベルト25は、母材ガラスフィルムG1を当該コンベアベルト25の中途部へと搬送し、この中途部において、母材ガラスフィルムG1を切断することにより形成される製品ガラスフィルムG2及び非製品部Geを下流側へと搬送する。
【0050】
切断装置26は、例えばレーザ割断により母材ガラスフィルムG1を切断するが、この切断態様に限定されない。切断装置26は、一対のレーザ照射装置26aと、当該レーザ照射装置26aの下流側に配置される一対の冷却装置26bとを含む。切断装置26は、搬送される母材ガラスフィルムG1の所定部位に各レーザ照射装置26aからレーザ光を照射して加熱した後、冷却装置26bから冷媒を放出して当該加熱部位を冷却する。
【0051】
第三搬送装置20は、例えば吸着コンベアにより構成される。第三搬送装置20は、製品ガラスフィルムG2を固定保持した状態で、下流側に搬送する。
【0052】
第三搬送装置20は、製品ガラスフィルムG2を吸着可能なコンベアベルト27を有する。コンベアベルト27には、当該コンベアベルト27を厚み方向に貫通した多数の吸着用孔(図示省略)が形成されている。また、コンベアベルト27の内周側には、真空ポンプ等と接続された負圧発生装置(図示省略)が配置されている。負圧発生装置は、吸着用孔を介して製品ガラスフィルムG2を吸着するための負圧を発生させる。
【0053】
これにより、コンベアベルト27の表面は、製品ガラスフィルムG2の第二主面G2Sbを吸着により固定保持する。コンベアベルト27に吸着された状態の製品ガラスフィルムG2は、当該コンベアベルト27の送り速度と同一の搬送速度の下で、搬送経路の下流側に搬送される。
【0054】
製品ガラスフィルムG2は、第三搬送装置20の固定保持によって、第二搬送装置19と第三搬送装置20との間の領域では弛んだ状態で搬送され、第三搬送装置20と巻取装置5との間ではその長手方向に張力が付与された状態で搬送される。
【0055】
巻取装置5は、第三搬送装置20の下流側に設置されている。巻取装置5は、巻取ローラ28と、この巻取ローラ28を回転駆動するモータ(図示省略)と、巻取ローラ28に保護シートPSを供給する保護シート供給部29とを有する。巻取装置5は、保護シート供給部29から保護シートPSを製品ガラスフィルムG2に重ね合わせつつ、モータにより巻取ローラ28を回転させることで、製品ガラスフィルムG2をロール状に巻き取る。巻き取られた製品ガラスフィルムG2は、ガラスロールGRとして構成される。
【0056】
以下、上記構成の製造装置1を使用してガラスフィルムG1,G2(ガラスロールGR)を製造する方法について説明する。本方法は、母材ガラスフィルムG1を成形する成形工程と、各ガラスフィルムG1,G2を搬送する搬送工程と、製品ガラスフィルムG2をロール状に巻き取る巻取工程と、を備える。
【0057】
成形工程では、成形装置2における成形体6のオーバーフロー溝6aの上方から溢流した溶融ガラスを両側面に沿ってそれぞれ流下させ、下端で合流させて当該溶融ガラスをフィルム状に成形する。この際、溶融ガラスの幅方向収縮をエッジローラ7により規制して所定幅の母材ガラスフィルムG1とする。その後、母材ガラスフィルムG1に対してアニーラ8によりアニール処理を施す(アニール工程)。母材ガラスフィルムG1は、支持ローラ9によって付与される張力の作用により、所定の厚みに形成される。
【0058】
搬送工程は、母材ガラスフィルムG1を縦方向GYに沿って搬送する縦搬送工程と、母材ガラスフィルムG1の搬送方向を縦方向GYから横方向GXに転換する方向転換工程と、母材ガラスフィルムG1を横方向GXに沿って搬送する横搬送工程と、を含む。
【0059】
縦搬送工程では、母材ガラスフィルムG1にアニール処理を施しながら、縦搬送装置としてのアニーラローラ8aによって当該母材ガラスフィルムG1を縦方向GY(下方)に沿って搬送する。
【0060】
方向転換工程では、アニーラ8から搬送された母材ガラスフィルムG1の搬送方向を方向転換装置3によって縦方向GYから横方向GXに転換する。方向転換工程は、方向転換直前に母材ガラスフィルムG1の一部を変形させる変形工程を備える。
【0061】
変形工程において、各規制ローラ10a,10bは、母材ガラスフィルムG1の表面G1Saにおける幅方向端部Ga,Gbに接触する。これにより、母材ガラスフィルムG1の位置が規制される。また、変形工程では、変形装置11の気流発生部13(吹付部15)から気体が噴射されることで、当該変形装置11から母材ガラスフィルムG1の表面G1Saに向かう気流Aが発生する。この気流Aは、母材ガラスフィルムG1の表面G1Saにおける幅方向中央部Gcに当たる。母材ガラスフィルムG1の幅方向中央部Gcがこの気流Aに押されることで、
図4において二点鎖線で示すように、母材ガラスフィルムG1の幅方向中央部Gcにおいて、その表面G1Saが凹状に変形する。この変形に伴い、母材ガラスフィルムG1の幅方向中央部Gcにおける裏面G1Sbは凸状に変形する。
【0062】
その後、母材ガラスフィルムG1は、変形装置11を通過し、ローラコンベア12に到達する。母材ガラスフィルムG1は、ローラコンベア12の各ガイドローラ12aによって裏面G1Sbが支持された状態で案内されることで、縦方向GYから横方向GXへと進行方向を変える。
【0063】
横搬送工程では、方向転換装置3を通過した母材ガラスフィルムG1を第一搬送装置18及び第二搬送装置19によって搬送し、製品ガラスフィルムG2を第二搬送装置19及び第三搬送装置20によって搬送する。
【0064】
図5に示すように、第一搬送装置18は、母材ガラスフィルムG1の幅方向両端部Ga,Gbに対し、横方向GXの搬送を推進する第一推進力F1を付与する。また、第一搬送装置18は、母材ガラスフィルムG1の幅方向中央部Gcに対して第二推進力F2を付与する。
【0065】
第一搬送装置18上に母材ガラスフィルムG1が導入されると、気体Vが孔部23を介してコンベアベルト21上の母材ガラスフィルムG1に噴射供給される。これにより、母材ガラスフィルムG1の幅方向中央部Gcは、コンベアベルト21から浮上した状態となる。この場合において、耳部Gdを含む母材ガラスフィルムG1の幅方向両端部Ga,Gbは浮上することなく、第一搬送装置18のテープ24に接触した状態で支持される。第一搬送装置18のコンベアベルト21が駆動されることで、母材ガラスフィルムG1は第二搬送装置19に向かって搬送される。
【0066】
横搬送工程では、母材ガラスフィルムG1を全体としては湾曲のない平坦な姿勢で横方向に搬送しつつ、第一搬送装置18により母材ガラスフィルムG1の幅方向両端部Ga,Gbに相応な大きさを有する横向きの搬送推進力(第一推進力F1)を付与しながら、母材ガラスフィルムG1を横方向GXに沿って搬送できる。また、第一搬送装置18により母材ガラスフィルムG1の幅方向中央部Gcに付与される第二推進力F2は実質的に零となるので、この第二推進力F2よりも第一推進力F1を確実に大きくすることができる。
【0067】
このように、第二推進力F2と第一推進力F1との差を広げることで、縦方向GYに搬送されている上流側の母材ガラスフィルムG1の部分に対して、表面G1Saが凹状となり、裏面G1Sbが凸となる湾曲変形を積極的に発生させることができる。すなわち、第一搬送装置18は、変形装置11による母材ガラスフィルムG1の好適な変形を助長するように、補助的に機能する。
【0068】
横搬送工程は、母材ガラスフィルムG1を製品ガラスフィルムG2と非製品部Geとに分断する切断工程と、非製品部Geを廃棄する廃棄工程とを備える。
【0069】
切断工程では、第一搬送装置18から搬送された母材ガラスフィルムG1を第二搬送装置19のコンベアベルト25によって下流側に搬送する。この搬送の途中において、切断装置26は、レーザ照射装置26aからレーザ光を母材ガラスフィルムG1の一部に照射して加熱する。その後、加熱した部位に冷却装置26bによって冷媒を吹き付ける。これにより、母材ガラスフィルムG1に熱応力が生じる。母材ガラスフィルムG1には、予め初期クラックが形成されており、切断装置26は、このクラックを熱応力によって進展させる。これにより、母材ガラスフィルムG1から製品ガラスフィルムG2と、非製品部Geとが形成される。
【0070】
廃棄工程において、非製品部Geは、第二搬送装置19によって下流側に搬送される。その後、非製品部Geは、製品ガラスフィルムG2の搬送経路から下方に離脱し、廃棄に適した長さに切断される。
【0071】
巻取工程では、保護シート供給部29から保護シートPSを製品ガラスフィルムG2に供給しつつ、第三搬送装置20によって搬送された製品ガラスフィルムG2を巻取装置5の巻取ローラ28にてロール状に巻き取る。所定長さの製品ガラスフィルムG2を巻取ローラ28により巻き取ることで、ガラスロールGRが完成する。
【0072】
以上説明した本実施形態に係るガラスフィルムの製造方法によれば、方向転換工程において、変形装置11の気流Aを母材ガラスフィルムG1の表面G1Saに当てることで、裏面G1Sb側が凸状となるように当該母材ガラスフィルムG1を変形させることができる。これにより、母材ガラスフィルムG1の表面G1Saが凸状となる好ましくない変形の発生を防止できる。
【0073】
図6は、本発明に係るガラスフィルムの製造方法の第二実施形態を示す。本実施形態に係る変形装置11の気流発生部13は、二つの吹付部(第一吹付部15a及び第二吹付部15b)を備える。
【0074】
各吹付部15a,15bは、第一実施形態における気流調整部14を介することなく、母材ガラスフィルムG1の表面G1Saに対して気体を吹き付けることができる。本実施形態では、気流Aを調整することなく、母材ガラスフィルムG1を変形させるために適切な位置(幅方向中央部Gc)に直接気流Aを当てることで、母材ガラスフィルムG1の裏面G1Sbを凸状に変形させることができる。各吹付部15a,15bは、移動機構により、その位置を変更するように構成されてもよい。
【0075】
図7及び
図8は、本発明に係るガラスフィルムの製造方法の第三実施形態を示す。本実施形態に係る変形装置11の気流発生部13は、母材ガラスフィルムG1の裏面G1Sbに対向するように配置される。
【0076】
気流発生部13は、二つの吹付部(第一吹付部15a及び第二吹付部15b)を備える。第一吹付部15aは、母材ガラスフィルムG1の幅方向の一端部Gaに対向するように配置されている。第二吹付部15bは、母材ガラスフィルムG1の幅方向の他端部Gbに対向するように配置されている。
【0077】
本実施形態では、方向転換工程において、第一吹付部15aによる気流Aを母材ガラスフィルムG1の裏面G1Sb側から当該母材ガラスフィルムG1の一端部Gaに当てる。さらに、第二吹付部15bによる気流Aを母材ガラスフィルムG1の裏面G1Sb側から当該母材ガラスフィルムG1の他端部Gbに当てる。
【0078】
母材ガラスフィルムG1の各端部Ga,Gbは、気流Aに押されることで、
図8において二点鎖線で示すように、変形装置11から離れるように変形する。母材ガラスフィルムG1の幅方向中央部Gcは、気流Aに押されていないため、殆ど変形しない。このような母材ガラスフィルムG1の端部Ga,Gbの変形により、母材ガラスフィルムG1は、裏面G1Sbが凸状となり、表面G1Saが凹状となるように変形する。
【0079】
図9及び
図10は、本発明に係るガラスフィルムの製造方法の第四実施形態を示す。本実施形態に係る変形装置11の気流発生部13は、母材ガラスフィルムG1の裏面G1Sbに対向するように配置される。気流発生部13は、気体を吸引する吸引部30を備える。吸引部30は、周囲の空気を吸い込む吸込口31を備える。
【0080】
図10に示すように、方向転換工程において、気流発生部13は、吸引部30によって母材ガラスフィルムG1の裏面G1Sb側であって当該母材ガラスフィルムG1における幅方向中央部Gc側の周囲の空気を吸引する。これにより、母材ガラスフィルムG1から吸引部30に向かう気流Aが発生する。
【0081】
母材ガラスフィルムG1の幅方向中央部Gcは、この気流Aによって吸引部30側に引き寄せられる。これにより、母材ガラスフィルムG1は、
図10において二点鎖線で示すように、裏面G1Sbが凸状となり、表面G1Saが凹状となるように変形する。
【0082】
なお、本発明は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、上記した作用効果に限定されるものでもない。本発明は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0083】
上記の実施形態では、第一搬送装置18によって母材ガラスフィルムG1を変形させることが可能な推進力F1,F2を付与する工程を例示したが、本発明はこの構成に限定されない。第一搬送装置18は、浮上式のコンベア以外の搬送装置によって構成されてもよい。第一搬送装置18として、単一の推進力を付与するような通常のベルトコンベアを使用しても良い。
【0084】
上記の実施形態では、巻取ローラ28で製品ガラスフィルムG2を巻き取ることで、ガラスロールGRを作製する形態で説明を行ったが、この形態には限定されない。例えば、巻取ローラ28の代わりに、図示しない幅方向切断装置を設けることで、枚葉式ガラスフィルムを製造する形態でもよい。
【0085】
上記の実施形態を適宜組み合わせても良い。例えば、第一実施形態と第三実施形態とを組み合わせても良い。第二実施形態と第三実施形態とを組み合わせても良い。第三実施形態と第四実施形態とを組み合わせても良い。第一実施形態と第三実施形態と第四実施形態とを組み合わせても良い。第二実施形態と第三実施形態と第四実施形態とを組み合わせても良い。
【符号の説明】
【0086】
2 成形装置
3 方向転換装置
4 横搬送装置
8a アニーラローラ(縦搬送装置)
10a 第一規制ローラ
10b 第二規制ローラ
11 変形装置
12 ローラコンベア
14 気流調整部
15 吹付部
30 吸引部
A 気流
F1 第一推進力
F2 第二推進力
G1 母材ガラスフィルム
G1Sa 母材ガラスフィルムの表面
G1Sb 母材ガラスフィルムの裏面
Ga 母材ガラスフィルムの幅方向端部
Gb 母材ガラスフィルムの幅方向端部
Gc 母材ガラスフィルムの幅方向中央部
GX 横方向
GY 縦方向