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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】透明防錆塗料
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/06 20060101AFI20240311BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20240311BHJP
   C09D 5/08 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
C09D183/06
C09D7/63
C09D5/08
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023204021
(22)【出願日】2023-12-01
【審査請求日】2023-12-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】507381455
【氏名又は名称】株式会社フェクト
(74)【代理人】
【識別番号】100118393
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 康裕
(74)【代理人】
【識別番号】100119747
【弁理士】
【氏名又は名称】能美 知康
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 康哲
(72)【発明者】
【氏名】安田 一美
(72)【発明者】
【氏名】新谷 精豊
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0250350(US,A1)
【文献】特開2001-279177(JP,A)
【文献】特表2013-508494(JP,A)
【文献】特表2016-510079(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
23℃における粘度が0.1~50Pa・sであり、分子鎖両末端にシラノール基を有する直鎖状のオルガノポリシキロサンと、
ス[2-(トリメトキシシリル)エチル]アミン、ビス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アミン、ビス[4-(トリメトキシシリル)ブチル]アミン、ビス[2-(トリエトキシシリル)エチル]アミン、ビス[3-(トリエトキシシリル)プロピル]アミン、ビス[4-(トリエトキシシリル)ブチル]アミンから選択される少なくとも1種のビス(トリアルコキシシリルアルキル)アミン化合物及びテトラノルマルブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー及びテトラオクチルチタネートから選択される少なくとも1種のチタンアルコキシド化合物の反応生成物を含むことを特徴とする、室温硬化性の透明防錆塗料組成物。
【請求項2】
前記ビス(トリアルコキシシリルアルキル)アミン化合物及び前記チタンアルコキシド化合物の反応生成物は、前記ビス(トリアルコキシシリルアルキル)アミン1モルに対して前記チタンアルコキシド化合物を0.1~0.3モルの割合で反応させたものであることを特徴とする請求項1に記載の室温硬化性の透明防錆塗料組成物。
【請求項3】
前記ビス(トリアルコキシシリルアルキル)アミン化合物及び前記チタンアルコキシド化合物の反応生成物の含有割合は、前記オルガノポリシロキサンに対して固形比で0.5~10質量%であることを特徴とする,請求項1又は2に記載の室温硬化性の透明防錆塗料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明な防錆剤を含む透明防錆塗料に関し、特に実質的に透明で下地の視認性が良好であり、単一層でも高耐久性の防錆塗膜を形成することができる室温硬化性の透明防錆塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、防錆塗膜としては、防錆顔料を多量に混入したエポキシ系塗料等を下塗塗料とし、耐候性付与のためにウレタン系エナメル、フッ素樹脂系塗料やシリコーン樹脂系塗料等を上塗り塗料として塗装し、複層構造の塗膜を形成することが行われていた。
【0003】
たとえば、特許文献1(特許第6439022号公報)には、Si、In、及びBiから選ばれる少なくとも一種の元素と、Al及びMgとの合金粉とを防錆成分とし、さらに塗膜形成成分を含む防錆塗料及び防錆塗膜の発明(請求項1及び5参照)が開示されており、さらに、この防錆塗膜の表面に、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、及びアクリル樹脂から選ばれる少なくとも一種の樹脂を含む下塗り層と、ふっ素樹脂、ウレタン樹脂、及びシリコーン樹脂から選ばれる少なくとも一種の樹脂を含む上塗り層とをこの順に有する防錆積層塗膜の発明(請求項6参照)が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、防錆顔料と、エポキシ樹脂と、ジエチルケトンによってケチミン化されたアミン硬化剤と、沸点140℃以上の有機溶剤とを含む防錆塗料組成物の発明が開示されており、防錆顔料としては、リン酸亜鉛、トリポリリン酸2水素アルミニウムと酸化亜鉛の混合物、亜リン酸カルシウムなどを用いることができること([0038]参照)、この防錆塗料組成物により形成された下塗塗膜の表面に上塗塗膜を形成して複層塗膜とすること([0073]参照)も示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6439022号公報
【文献】特許第6162912号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Hakki, A., Yang, L., Wang, F., Macphee, D.E. "The Effect of Interfacial Chemical Bonding in TiO2-SiO2 Composites on Their Photocatalytic NOx Abatement Performance." J. Vis. Exp. (125), e56070, doi:10.3791/56070 (2017).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されている発明によれば、防錆成分として亜鉛末が無含有であっても、亜鉛末を含有する従来の塗料と同等以上の長期防食性を有する防錆塗膜、防錆積層塗膜、及びそれを形成することのできる防錆塗料が得られるようになる。また、特許文献2に開示されている発明によれば、塗膜の密着性や仕上がり性に優れるだけでなく、速乾性、貯蔵安定性及び防食性にも優れる防錆塗料組成物ないし複層塗膜が得られるようになる。
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示されている防錆塗料では、防錆成分はSi、In、及びBiから選ばれる少なくとも一種の元素と、Al及びMgとの合金粉からなるものであり、しかも、防錆塗料は防錆成分と塗膜形成成分との質量比が20/80~90/10([0035]参照)と多量に防錆成分を含んでいるため、この防錆塗料を用いて形成された防錆塗膜は実質的に不透明なものとなる。
【0009】
また、特許文献2に開示されている防錆塗料では、防錆顔料としては、リン酸亜鉛、トリポリリン酸2水素アルミニウムと酸化亜鉛の混合物、リン酸カルシウム等が用いられているが、これらの防錆顔料は何れも白色の原料である。しかも、この防錆塗料中の防錆顔料の含有割合は、防錆塗料組成物全体に対して、エポキシ樹脂の含有量が5~20質量%、アミン硬化剤の含有量が1~10質量%、前記防錆顔料の含有量が0.5~15質量%、有機溶剤の含有量が5~20質量%とされており(請求項9参照)、防錆塗膜中では有機溶剤は揮発するので防錆塗膜中の防錆顔料の含有割合はより多くなる。そのため、特許文献2に開示されている防錆塗料を用いて形成された防錆塗膜も実質的に不透明となっている。
【0010】
このように、公知の防錆成分を用いた防錆塗料では、防錆成分として金属粉末や防錆顔料が用いられているので、下地の表面に防錆塗膜を形成しても、防錆塗膜自体が実質的に透明性を欠いているため、下地の表面状態を視認することが困難であった。特に下地が意匠性を有する金属部材ないし鏡面部材である場合には、防錆塗膜が実質的に透明性を欠いていると下地に意匠性付与ないし鏡面としたことの利益を享受することができなくなる。加えて、上述した公知の防錆顔料を用いた防錆塗料では、いずれも下地の表面に形成した防錆塗膜にさらにウレタン系塗膜、エナメル系塗膜、フッ素樹脂系塗膜やシリコーン樹脂系塗膜等を形成することにより、耐候性を確保しているため、工程が多くなり、工期が長くなるという課題があった。
【0011】
発明者等は、上述したような公知の防錆成分を用いた防錆塗料の有する不透明であること、複層構造の塗膜とする必要があること等の欠点を克服できる透明防錆塗料組成物を得るべく種々検討を重ねてきた結果、特定のビス(トリアルコキシシリルアルキル)アミン化合物と特定のチタンアルコキシド化合物との反応生成物と、塗膜形成成分としての所定のオルガノポリシロキサンとを組み合わせることにより、単一層の塗膜であっても長期間に亘って防錆効果を維持することができると共に実質的に透明な塗膜が得られることを見出し、本発明を完成するに到ったのである。すなわち、本発明は、実質的に透明な室温硬化性の防錆塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、23℃における粘度が0.1~50Pa・sであり、分子鎖両末端にシラノール基を有する直鎖状のオルガノポリシキロサンと、
ス[2-(トリメトキシシリル)エチル]アミン、ビス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アミン、ビス[4-(トリメトキシシリル)ブチル]アミン、ビス[2-(トリエトキシシリル)エチル]アミン、ビス[3-(トリエトキシシリル)プロピル]アミン、ビス[4-(トリエトキシシリル)ブチル]アミンから選択される少なくとも1種のビス(トリアルコキシシリルアルキル)アミン化合物及びテトラノルマルブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー及びテトラオクチルチタネートから選択される少なくとも1種のチタンアルコキシド化合物の反応生成物を含む室温硬化性の透明防錆塗料組成物が提供される。
【0013】
なお、ビス(トリアルコキシシリルアルキル)アミン化合物の一般式を下記に示す。ただし、下記一般式においてRはアルキル基を示す。
【0015】
そして、ビス(トリアルコキシシリルアルキル)アミン化合物とチタンアルコキシド化合物の反応は、テトラノルマルブチルチタネート及びテトラオクチルチタネートの一般式をTi(OR') で表すと、下記反応式のとおりと推定される。なお、ブチルチタネートダイマーは、テトラノルマルブチルチタネートの加水分解反応により生成する化合物であるので、実質的にテトラノルマルブチルチタネートの場合と同様の反応となると推定される。ただし、下記一般式においてRはアルキル基を示し、R'はn-ブチル基又はn-オクチル基を示す
【0016】
なお、チタンアルコキシド化合物自体は、水分と反応して白色のチタン酸化物を形成することが知られているが、本発明のビス(トリアルコキシシリルアルキル)アミン化合物とチタンアルコキシド化合物の反応生成物は、実質的に透明であり、水分に対してもチタンアルコキシドよりも遙かに安定であり、分子鎖両末端にシラノール基を有する直鎖状のオルガノポリシキロサンと組み合わせて用いることにより、長期に亘って良好な防錆作用を奏する室温硬化性の透明防錆塗料組成物が得られる。
【0017】
このビス(トリアルコキシシリルアルキル)アミン化合物としては、ビス[2-(トリメトキシシリル)エチル]アミン、ビス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アミン、ビス[4-(トリメトキシシリル)ブチル]アミン、ビス[2-(トリエトキシシリル)エチル]アミン、ビス[3-(トリエトキシシリル)プロピル]アミン、ビス[4-(トリエトキシシリル)ブチル]アミンから選択される少なくとも1種を使用することができる。より好ましいアミノビスシラン化合物は、ビス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アミン、ビス[3-(トリエトキシシリル)プロピル]アミンである。
【0018】
係る態様の室温硬化性の透明防錆塗料組成物においては、前記ビス(トリアルコキシシリルアルキル)アミン化合物とチタンアルコキシド化合物の反応生成物は、ビス(トリアルコキシシリルアルキル)アミン化合物1モルに対してチタンアルコキシド化合物を0.1~0.3モルの割合で反応させたものであることが好ましい。これにより、遊離の状態で存在している未反応のビス(トリアルコキシシリルアルキル)アミン化合物ないしチタンアルコキシド化合物の量が少なく、良好な防錆効果を奏する反応生成物を得ることができるようになる。
【0019】
なお、ビス(トリアルコキシシリルアルキル)アミン化合物1モルに対してチタンアルコキシド化合物が0.1モル未満であると、チタンアルコキシド化合物に対して未反応のビス(トリアルコキシシリルアルキル)アミン化合物の量が多くなるので、塗料組成物の基材に対する塗膜の密着性が弱くなり、充分な防錆効果を奏することができなくなる。同じく0.3モルを越えると、ビス(トリアルコキシシリルアルキル)アミン化合物に対して未反応のチタンアルコキシド化合物の量が多くなるので、塗料組成物の安定性が劣るようになる。
【0020】
また、本発明の室温硬化性の透明防錆塗料組成物においては、分子鎖両末端にシラノール基を有する直鎖状のオルガノポリシキロサンとして、23℃における粘度が0.1~50Pa・sのものを用いることが好ましい。このような透明防錆塗料組成物によれば、室温硬化性であり、単一層の塗膜であっても、良好な防錆性を有し、透明で長寿命の塗膜が得られるようになる。前記オルガノポリシキロサンの23℃における粘度が0.1Pa・s未満であると得られる塗膜の伸びが十分に確保できず、同じく50Pa・sを越えると塗膜形成時の作業性が劣るようになるので、好ましくない。
【0021】
係る態様の透明防錆塗料組成物においては、ビス(トリアルコキシシリルアルキル)アミン化合物とチタンアルコキシド化合物の反応生成物の含有割合は、前記オルガノポリシロキサンに対して固形比で0.5~10質量%であることが好ましい。オルガノポリシロキサンに対するビス(トリアルコキシシリルアルキル)アミン化合物とチタンアルコキシド化合物の反応生成物の含有割合が0.5質量%未満であると基材に対する透明防錆塗膜の密着性が弱くなって充分な防錆効果が得られなくなり、同じく10質量%を越えると得られる防錆塗料組成物が増粘してゲル状態となるので、好ましくない。
【発明の効果】
【0022】
以上述べたように、本発明によれば、実質的に透明で下地の視認性が良好であり、単一層でも高耐久性の防錆塗膜を形成することができる室温硬化性の透明防錆塗料組成物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施例1の反応液に対するFTIRによる測定結果の経時変化を示す図である。
図2】実施例1、3、4及び比較例1、2、4、5のそれぞれの試料の塩水噴霧試験後の外観を示す図である。
図3】ヘーズ値の測定方法の概念を示す図である。
図4】それぞれの塗料を用いてガラス面に塗膜を形成した試料1~7のガラス面を新聞紙上に載置した際の状態を、ヘーズ値順に並べて示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る室温硬化性の透明防錆塗料について、各種実施例及び比較例を用いて詳細に説明する。ただし、以下に示す各種実施例は、本発明の技術思想を具体化するための例を示すものであって、本発明をこれらの実施例に示したものに特定することを意図するものではない。本発明は特許請求の範囲に含まれるその他の実施形態のものにも等しく適応し得るものである。
【0025】
(実施例1)
酢酸ブチル20質量部、イソプロピルアルコール60質量部の混合溶媒に、撹拌しながらビス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アミン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)を16質量部加え、次にテトラノルマルブチルチタネート(マツモトファインケミカル(株)製)を4質量部加えて、30℃で60分撹拌を続けた後、密封して25℃で24時間静置した。反応液は無色透明液から徐々に着色し、濃い透明黄色液に変化した。次いで、この24時間静置後の反応液を、粘度が6Pa・sの分子鎖両末端にシラノール基を有する直鎖状のオルガノポリシキロサン100質量部に対して10質量部を添加し、実施例1の室温硬化性の透明防錆組成物を得た。
【0026】
また、別途、前記反応液について、製造直後から、1時間後、6.5時間後、3か月後のFTIR(フーリエ変換赤外分光)法による測定結果を、Cary630FTIR光度計 (商品名、アジデント・テクノロジー(株)製)で求めた。結果を纏めて図1に示した。図1に示した実施例1の室温硬化性の透明防錆組成物のFTIR法による測定結果は、調製直後の初期から時間の経過と共に変動しているが、何れの時期でも900cm-1付近にピークが生じていることが確認できた。このピークは、非特許文献1の記載によれば、Ti-O-Si伸縮振動を示しているから、チタンとシリカの反応生成物ができているものと考えられる。なお、FTIR法による測定結果が図1に示したように経時変化することの正確な理由は、現在の所明確ではなく、今後の解明を待つ必要があるが、おそらくはビス(トリアルコキシシリルアルキル)アミン化合物とチタンアルコキシド化合物の反応が加水分解反応であるために反応速度が遅いことと、ビス(トリアルコキシシリルアルキル)アミン化合物とチタンアルコキシド化合物の反応生成物と分子鎖両末端にシラノール基を有する直鎖状のオルガノポリシキロサンとの間に何等かの反応が生じていることによるものと推定される。
【0027】
(実施例2)
酢酸ブチル20質量部、イソプロピルアルコール60質量部の混合溶媒に、撹拌しながらビス[3-(トリエトキシシリル)プロピル]アミンを16質量部加え、次にテトラノルマルブチルチタネート3質量部加えて30℃で60分撹拌を続けた後、これを密封して25℃で48時間静置して透明黄色の反応液を得た。この反応液を粘度が6Pa・sの分子鎖両末端にシラノール基を有する直鎖状のオルガノポリシキロサン100質量部に対して15質量部添加し、実施例2の室温硬化性の透明防錆塗料組成物を得た。
【0028】
(実施例3)
酢酸ブチル20質量部、イソプロピルアルコール60質量部の混合溶媒に、撹拌しながらビス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アミンを16質量部加え、次にテトライソプロピルチタネートを2.5質量部加えて30℃で60分撹拌を続けた後、これを密封して25℃で24時間静置して透明黄色反応液を得た。この反応溶液を粘度が25Pa・sの分子鎖両末端にシラノール基を有する直鎖状のオルガノポリシロキサン100質量部に対して6質量部添加して、実施例3の室温硬化性の透明防錆塗料組成物を得た。
【0029】
(実施例4)
酢酸ブチル20質量部、イソプロピルアルコール60質量部の混合溶媒に、撹拌しながらビス[3-(トリエトキシシリル)プロピル]アミンを16質量部加え、次にテトラ(2-エチルヘキシル)チタネートを4質量部加えて30℃で60分撹拌続けた後、これを密封して25℃で48時間静置して透明黄色の反応液を得た。この反応液を粘度が1Pa・sのオルガノポリシロキサン100質量部に対して20質量部添加して、実施例4の室温硬化性の透明防錆塗料組成物を得た。
【0030】
(比較例1)
酢酸ブチル20質量部、イソプロピルアルコール60質量部の混合溶媒に撹拌しながら、ビス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アミンを16質量部加えてビス(トリアルコキシシリルアルキル)アミン化合物溶液を得た。この溶液を粘度が6Pa・sの分子鎖両末端にシラノール基を有するオルガノポリシロキサン100質量部に対して10質量部添加して、比較例1の室温硬化性のオルガノポリシロキサン組成物を得た。この比較例1の混合溶媒には、ビス(トリアルコキシシリルアルキル)アミン化合物が含まれているが、チタンアルコキシドは含まれていない。
【0031】
(比較例2)
酢酸ブチル20質量部、イソプロピルアルコール60質量部の混合溶媒に、撹拌しながら、テトラノルマルブチルチタネートを4質量部加えてチタンアルコキシド溶液を得た。この溶液を粘度が6Pa・sの分子鎖両末端にシラノール基を有するオルガノポリシロキサン100質量部に対して10質量部添加して、比較例2の室温硬化性のオルガノポリシロキサン組成物を得た。この比較例2の混合溶媒には、チタンアルコキシドが含まれているが、ビス(トリアルコキシシリルアルキル)アミン化合物は含まれていない。
【0032】
(比較例3~5)
更に、比較例3として、金属への付着性が良好なアクリル樹脂WML-337(不揮発分45%、商品名、DIC(株)製)100質量部にキシレン/メチルイソブチルケトン=1/1の混合溶媒を40質量部加え、実施例1で得られたビス(トリアルコキシシリルアルキル)アミン化合物とチタンアルコキシド化合物の反応生成物からなる透明黄色液を12質量部加えて、比較例3の透明のアクリル樹脂組成物からなる塗料を得た。この比較例3の透明のアクリル樹脂組成物には直鎖状のオルガノポリシキロサンは含まれていない。さらに、比較例4として、市販のアクリル系防錆塗料(鉄部用クリアコート、(株)アサヒペン製)を用意し、比較例5として市販のエポキシ系防錆塗料(FOC防錆クリアー、(株)フェクト製)を用意した。なお、このエポキシ系防錆塗料の主剤の組成は、エポキシ樹脂(エポキシ当量:450~500g/eq):42.5質量部、プロピレングリコールモノメチルエーテル:16.7質量部、キシレン:39.8質量部、添加剤:1質量部からなるものであり、同じく硬化剤の組成は、ポリアミド樹脂(アミン価:80~120mg KOH/g、活性水素当量:472g/eq):40質量部、硬化促進剤:1.5質量部、キシレン:52質量部、n-ブタノール:6.5質量部からなるものである。
【0033】
上記のようにして調製した実施例1~4、比較例1及び2の室温硬化性の透明防錆組成物ないし透明オルガノポリシロキサン組成物の組成を表1に示し、比較例3~5の各種透明塗料の組成を表2に示した。
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
[塩水噴霧試験]
上述のようにして調製した実施例1~4及び比較例1~5の各種塗料について、以下のようにしてJIS Z 2371:2015に準じた塩水噴霧試験により防錆性を調査した。用いた下地の金属板は冷間圧延鋼板(150×50×0.6mm)であり、各塗膜は何れも刷毛塗り法により23℃で一昼夜乾燥後の厚さが80~100μmになるように塗装したものを用いた。また、傷の形成は、カッターナイフで交差部の角度が30°になるように切り込みを入れることにより形成した。塩水としては、イオン交換水95質量%と塩化ナトリウム5質量%の混合液を用いた。傷の具体的な測定方法としては、カット部より一番錆幅が広い部分を定規にて測定した。
【0036】
防錆性の判断基準としては、塩水噴霧後、所定時間経過した後に全ての試料についてカット部に何等の錆の発生が認められなかったものを「〇」、同じくカット部に錆の発生が認められたものを「△」、同じくカット部を越えて大きく錆の発生が認められたものを「×」と表し、一部の試料のみカット部に錆の発生が認められたものを「△~〇」、一部の試料のみカット部を越えて大きく錆の発生が認められたものを「△~×」と表し、全ての試料に錆の発生があったものについては錆の幅の平均寸法を調べた。また、錆の発生があったものについては、塗膜に膨れが認められたものをJIS K5600-8-2に示されている等級表に従って判断した。
【0037】
実施例1~4及び比較例1~5のそれぞれの塩水噴霧試験の結果を表3に示すと共に、2000時間経過後の実施例1、3、4、及び、比較例1、2、4、5のそれぞれの各試料の外観を図2に示した。
【表3】
【0038】
表3及び図2に示した結果から、以下のことが分かる。実施例1~4の試料では、1000時間経過でも何も異常は認められず、2000時間経過時には一部の試料に錆の発生が認められたが、錆の線幅は1.0mm以下であり、実質的にカット部内に収まっていた。それに対し、比較例1及び2の試料では、500時間経過後には全ての試料に錆の発生は認められなかったが、1000時間経過時には全ての試料に線幅1.5mm程度の錆の発生が認められ、2000時間経過時には全ての試料で錆の発生だけでなく塗膜の膨れも生じていた。
【0039】
比較例1の試料は分子鎖両末端にシラノール基を有する直鎖状のオルガノポリシキロサンとビス(トリアルコキシシリルアルキル)アミン化合物との混合物からなる塗料であり、比較例2の塗料は分子鎖両末端にシラノール基を有する直鎖状のオルガノポリシキロサンとチタンアルコキシドとの混合物からなる塗料であるので、ともにビス(トリアルコキシシリルアルキル)アミン化合物とチタンアルコキシド化合物の反応生成物を含んでいない。そのため、表3に示した実施例1~4と比較例1及び2の結果の差異は、分子鎖両末端にシラノール基を有する直鎖状のオルガノポリシキロサンと、ビス(トリアルコキシシリルアルキル)アミン化合物とチタンアルコキシド化合物の反応生成物の両者による相乗効果を示すものと考えられる。
【0040】
また、比較例3の試料は市販のアクリル系塗料に実施例1の室温硬化性の透明防錆塗料組成物で防錆成分として用いられているビス(トリアルコキシシリルアルキル)アミン化合物とチタンアルコキシド化合物の反応生成物を添加したものであり、比較例4の試料は比較例3とは別の市販のアクリル系防錆塗料自体を用いたものであるが、アクリル系防錆塗料自体の撥水性が低いことともあり、両者とも500時間経過時には既に一部の試料にわずかに錆の発生が認められ、1000時間経過後には全ての試料に錆の発生が認められ、一部の試料のみにカット部を越えて錆幅1.5~2.0mm程度の大きい錆の発生が認められ、さらに2000時間経過後には全ての試料にカット部を越えて錆幅3.0mm程度の大きい錆の発生が認められた。ただし、塗膜に膨れは認められなかった。
【0041】
すなわち、比較例3の試料と比較例4の試料の間には実質的に防錆効果の差異は認められなかった。これらの比較例3及び4の試料の結果と実施例1~4の試料の結果を対比すると、ビス(トリアルコキシシリルアルキル)アミン化合物とチタンアルコキシド化合物の反応生成物は、分子鎖両末端にシラノール基を有する直鎖状のオルガノポリシキロサンと組み合わせた場合に選択的に良好な防錆作用を奏するものであることが分かる。
【0042】
さらに、比較例5の試料では、エポキシ系塗料は、本来、水を通さず、防錆効果が高い塗膜が得られるものであるためか、500時間経過時には何れの試料も錆の発生は認められなかったが、1000時間経過時には全ての試料のカット部に錆幅1.5mm程度の錆の発生が認められ、2000時間経過時には全ての試料について錆幅3.0mm程度の大きい錆の発生が認められた。ただし、塗膜に膨れは認められなかった。
【0043】
以上述べたように、本発明の室温硬化性の透明防錆塗料組成物によれば、良好な防錆効果を有している塗膜が得られることが確認された。ただ、表3及び図2に示した結果では、本発明の室温硬化性の透明防錆塗料組成物の透明性については確認できていないので、別途透明性について検討を行った。
【0044】
[ヘーズ試験]
塗料の透明度については定まった試験方法が存在しないので、ここではヘーズ試験(雲価測定試験)により各種試料の透明性を確認した。ヘーズ試験とは、物質を透過する光に対する拡散光の割合(%)をヘーズ値として求めるものであり、完全な透明体は拡散光がないのでヘーズ値=0となり、拡散光成分が増加するに従ってヘーズ値が大きくなる。そこで、基準となる所定サイズのガラス板の一方の表面に各種塗膜を形成し、その各種塗膜付き試料のヘーズ値を測定するとともに、下地と見なした書面上にガラス板の部分を載置してどの様に視認できるかを確認し、どの程度のヘーズ値であれば実質的に透明と見なせるかについて検討した。
【0045】
ここで、本発明の防錆塗料の透明度の確認のために採用したヘーズ値の測定方法を、図3を用いて説明する。なお、図3はヘーズ値の測定方法の概念を示す図であり、具体的な測定手段は図示省略した。
【0046】
まず、50×90×2.0mmの透明ガラス板10を用意し、このガラス板10の一方側の表面に各種塗膜11を、試料2~5については流し塗り後した後に常温下で3日間乾燥して形成し、試料6及び7についてはスプレー塗装した後80℃で30分間強制乾燥して形成すると共に、それぞれの塗膜の厚さを測定した。そして、ヘーズ値の測定手段としてヘーズメーターHZ-V3(商品名、スガ試験機(株))を用い、JIS K 7136に従って各種塗膜11が形成された試料のヘーズ値を測定した。なお、この測定手段によるヘーズ値の測定方法は、各種塗膜11が形成されたガラス板10を測定手段(図示省略)に設置すると、各種塗膜11が形成されたガラス板10の一方側の面(「右」と表示された側)から入射された測定手段の発光部12からの光を、このガラス板10の反対側の面(「左」と表示された側)に配置された受光部13で測定し、各種塗膜11が形成されたガラス板10が存在していない場合を基準としてヘーズ値(%)を求めるものである。
【0047】
ここでは、ガラス板のみの場合を試料1とし、実施例1の透明防錆塗料組成物を用いて防錆塗膜の厚さを1000μmとしたものを試料2、同じく450μmとしたものを試料3と、同じく150μmとしたものを試料4とし、さらに、他社シリコンゴム塗料を用いて厚さ400μmとしたものを試料5、アクリル系艶消し塗料を用いて厚さ10μmとしたものを試料6とし、アクリル系つや消し塗料/クリア塗料=1/1の割合で混合した塗料を用いて厚さ20μmとしたものを試料7とし、それぞれについてヘーズ値を測定した。この測定値を表3の塗膜位置の「右」と表示された側に纏めて示した。なお、ヘーズ値は、光の入射方向によっても変化するので、上述した試料1~7について試料への入射方向を逆にした際の結果を表3の塗膜位置の「左」と表示された側について纏めて示し、さらに、両者の平均を「平均値」の欄に纏めて示した。
【0048】
【表4】
表3に示した結果によれば、実施例1の透明防錆塗料を用いて作成した試料2~4によれば、塗膜の厚さは150~1000μmの範囲でヘーズ値が約17~62%の範囲に収まっていることが確認できた。
【0049】
次に、試料1~7のそれぞれについて、ガラス面を下地としての新聞紙上に載置した際にはどのように視認できるかを確認した。結果をヘーズ値順に並べて図4にまとめて示した。なお、図4は、それぞれの塗料を用いてガラス面に塗膜を形成した試料1~7のガラス面を新聞紙上に載置した際の状態を、ヘーズ値順に並べて示す図である。
【0050】
図4に示した結果から、ヘーズ値が61.2%(試料2)までは下地の文字が一応読み取れるが、ヘーズ値が67.5%(試料5)の場合には文字が読み取りにくくなっていることから、一応ヘーズ値が65%以下であれば、一応下地の文字が読み取れると認められる。したがって、ヘーズ値が65%以下の防錆塗膜であれば、一応下地の表面が良好に視認できると考えられるので、本発明における「実質的に透明」とはヘーズ値が65%以下のものを示すものとすることができる。なお、本発明の実施例1に対応する防錆塗料を用いて形成した試料2~4は、何れもヘーズ値が65%以下となっているので、本発明における本発明における「実質的に透明」という条件を満たしている。
【符号の説明】
【0051】
10…ガラス板
11…塗布膜
12…発光部
13…受光部
【要約】
【課題】実質的に透明で下地の視認性が良好であり、単一層でも高耐久性の防錆塗膜を形成することができる室温硬化性の透明防錆塗料を提供する。
【解決手段】本発明の室温硬化性の透明防錆塗料は、23℃における粘度が0.1~50Pa・sであり、分子鎖両末端にシラノール基を有する直鎖状のオルガノポリシキロサンと、アミノビスシラン化合物とチタンアルコキシド化合物の反応生成物とを含むことを特徴とする。アミノビスシラン化合物は、ビス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アミン、ビス[3-(トリエトキシシリル)プロピル]アミン等を用いることができ、チタンアルコキシド化合物は、テトラノルマルブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー及びテトラオクチルチタネート等を用いることができる。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4