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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】字消し
(51)【国際特許分類】
   B43L 19/00 20060101AFI20240311BHJP
   B43K 29/02 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
B43L19/00 B
B43K29/02 A
B43K29/02 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020071330
(22)【出願日】2020-04-10
(65)【公開番号】P2021167088
(43)【公開日】2021-10-21
【審査請求日】2023-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】390039734
【氏名又は名称】株式会社サクラクレパス
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100214363
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】北口 貴之
【審査官】金田 理香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/190377(WO,A1)
【文献】特開2017-105983(JP,A)
【文献】特開2019-035041(JP,A)
【文献】特開2019-178292(JP,A)
【文献】特開2014-177053(JP,A)
【文献】特開2013-129767(JP,A)
【文献】特開2019-183022(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 29/00-31/00
B43L 1/00-12/02
15/00-27/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維直径4nm以上100nm以下、平均アスペクト比10以上5,000以下の疎水化セルロースナノファイバー
塩化ビニル系樹脂、及び
可塑剤及び/又は軟化剤、
を含む、字消し。
【請求項2】
筆記具付属用である、請求項1に記載の字消し。
【請求項3】
平均繊維直径4nm以上100nm以下、平均アスペクト比10以上5,000以下疎水化セルロースナノファイバー
塩化ビニル系樹脂、及び
可塑剤及び/又は軟化剤、
を含む字消し用組成物を、押出成形、プレス成形又は射出成形する、字消しの製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の字消しを備える、筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、字消しに関するものである。特に、消字性及び強度に優れる字消しに関する。
【背景技術】
【0002】
字消しは、一般的に消しゴムと呼ばれ広く使用されている。一般的な字消しは、ポリ塩化ビニル樹脂等の樹脂成分に、可塑剤、充填剤、任意に着色料等を配合して均一に混合した後、加熱成形して製造される。字消しは、使用時に紙面との摩擦によって磨耗し、それにより発生した消しくずが、紙面に筆記された鉛筆による筆跡の鉛筆粉を取り込むようにして剥離してまとまり、その結果として筆跡を消して消字することとなる。
【0003】
しかしながら、ポリ塩化ビニル樹脂等を用いる、いわゆるプラスチック消しゴムは、一般に強度が低く折れやすいという欠点があり、特に強度が必要なシャープペンシルの頭冠部やノック部、消しゴム付鉛筆等の筆記具に設けられる字消しとして使用することは困難であった。また、最近広く用いられている多孔質フォームにポリ塩化ビニル樹脂ゾルを含浸させた字消しについても、薄片や細長い形状とした場合には、強度が低下し、筆記具に設けられる字消しとすることは困難であった。このため、強度は高いものの消字性の悪い字消しが用いられていた。
【0004】
字消しに強度を付与させるために、樹脂量を多くするとともにゲル化率を高くする方法や、鉱物質粉末を樹脂中に添加する方法(砂字消し)等が知られているが、消字性が低下する問題や、字消しが脆くなる問題等があった。
【0005】
字消しの強度を上げるための手段として、これまで種々の提案がなされている。
特許文献1には、ガラス繊維を配合した字消しが記載されている。しかし、この字消しは、強度向上効果よりもガラス繊維による削り効果を期待してなされたものであり、いわゆる砂字消しのように紙面を傷つけ、製造時の成形安定性の点で問題があった。
特許文献2には、チタン酸カリウム繊維を配合した字消しが記載されている。この字消しは、強度等を向上させると字消しが固くなりすぎて消字性が悪くなり、また、チタン酸カリウム繊維が紙面を傷つけてしまうおそれがあった。
特許文献3には、木粉を混合した字消しが記載されている。この字消しは、消字性及び強度が向上したものとされるが、割れやすいものでゲル硬度が低く、消字性も悪いものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】実開昭51-82539号公報
【文献】特公昭62-47720号公報
【文献】特公昭62-59156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、硬さ、消字性及びゲル硬度に優れた字消しを得ることを課題とする。さらに、本発明は、生産性の高い成形方法により、シャープペンシルの頭冠部やノック部、消しゴム付鉛筆等の筆記具に設けられる字消しとして有用な字消しを得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、下記の字消しにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には以下のとおりである。
[1]平均繊維直径1~700nmのセルロースナノファイバーを含む、字消し。
[2]セルロースナノファイバーが、疎水化セルロースナノファイバーである、[1]に記載の字消し。
[3]筆記具付属用である、[1]又は[2]に記載の字消し。
[4]平均繊維直径1~700nmのセルロースナノファイバーを含む字消し用組成物を、押出成形、プレス成形又は射出成形する、字消しの製造方法。
[5][1]~[3]のいずれかに記載の字消しを備える、筆記具。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、硬さ、消字性及びゲル硬度に優れた字消しを得ることができる。さらに、本発明によれば、生産性の高い成形方法により、シャープペンシルの頭冠部やノック部、消しゴム付鉛筆用字消し等の筆記具に設けられる字消しとして有用な字消しを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[字消し構成成分]
本発明の字消しは、平均繊維直径1~700nmのセルロースナノファイバーを含む。さらに、本発明の字消しは、樹脂成分、充填剤、可塑剤、軟化剤、安定剤等を含むことができる。以下、各成分について詳細に説明する。
【0011】
<セルロースナノファイバー>
本発明の字消しに用いられるセルロースナノファイバーは、木材等の植物由来のセルロース系の原料(パルプ等)がナノメートルレベルまで微細化されたもので、平均繊維直径(平均繊維幅)が1~700nm、好ましくは3~500nm、より好ましくは4~100nmの微細繊維である。
【0012】
セルロースナノファイバーの長さ(平均繊維長)は特に限定されないが、1μm以上、好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上である。また、セルロースナノファイバーのアスペクト比(平均アスペクト比)は、字消し内部に適度な網目構造を形成し強度を向上させる観点から、5以上、好ましくは10以上、より好ましくは15以上である。また、10,000以下、好ましくは5,000以下、より好ましくは3,000以下、さらに好ましくは1,000以下である。
本発明において、セルロースナノファイバーの平均繊維直径(平均繊維幅)及び平均繊維長は、原子間力顕微鏡(AFM)または透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて顕微鏡画像を得て、画像中の少なくとも50本以上の各セルロースナノファイバーを観察した結果から得られるセルロースナノファイバーの直径及び長さを平均することによって得ることができる。また、こうして得られた平均繊維長さ及び平均繊維直径から、平均アスペクト比(平均繊維長さ/平均繊維直径)を算出するものとする。
【0013】
本発明において、セルロース系の原料としては、疎水化処理したセルロースを用いることが好ましい。疎水化処理したセルロースを原料とすることで、セルロースナノファイバーの有機溶媒における分散性が向上する。
セルロースナノファイバーは、パルプ等に機械的な力を加えて微細化(解繊)することで得ることができる。微細化(解繊)手段としては、特に限定されないが、本発明においては、セルロース(パルプ)を溶媒中で直接機械的に解繊する手段を用いることが好ましい。解繊条件を調製することにより、セルロースナノファイバーの平均繊維直径(平均繊維幅)及び長さ(平均繊維長)を調整することができる。
【0014】
解繊に際して用いられる溶媒としては、特に限定されないが、水又は有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、高沸点溶剤、低沸点溶剤だけでなく、可塑剤、軟化剤、オイル等の機能を持った液体を用いることもできる。
本発明においては、セルロースナノファイバーとして、疎水化処理したセルロース(パルプ)を有機溶媒中で直接機械的に解繊したものを用いることが好ましい。その際の有機溶媒としては、可塑剤、より好ましくはフタル酸エステル系可塑剤又はクエン酸エステル系可塑剤、さらに好ましくはクエン酸エステル系可塑剤が用いられる。
疎水化処理したセルロースを有機溶媒中で解繊して得られるセルロースナノファイバー(分散体)としては、例えば、服部商店社より市販されている「セナフ(登録商標)」等を用いることができる。
【0015】
セルロースナノファイバーの含有量は、字消し全量に対して0.1~15質量%、好ましくは0.2~10質量%、より好ましくは0.3~8質量%である。0.1質量%より少ないと、消字性及び強度の向上を図ることができない。15質量%を超えると、成形性及び消字性が低下するおそれがある。
【0016】
セルロースナノファイバーが字消しに含まれることにより、字消しの消字性が向上する機構等については明らかではないが、例えば、使用時に紙面との摩擦によって露出したナノサイズのセルロースナノファイバーが、鉛筆等の筆記により紙繊維の隙間に入り込んだ着色粉を掃き出す等の効果により、消字率が向上できるのではないかと考えられる。
また、字消しの強度が向上する機構等についても明らかではないが、例えば、セルロースナノファイバーと字消しを構成する樹脂とを混合した際に、セルロースナノファイバーが字消し内部で絡み合いネットワーク(網目構造)を構成する。セルロースナノファイバーは、ナノサイズで表面積が大きいことから、より強固なネットワーク(網目構造)を形成することができ、字消しの強度が向上するものと考えられる。さらに、字消し内部に形成されたセルロースナノファイバーの網目構造は、化学結合等で強固に結合していないことから、擦過により容易に解すことができ、強固なネットワーク(網目構造)を有していながら、消字性を維持することができるものと考えられる。
【0017】
<樹脂成分>
本発明の字消しに用いられる樹脂成分としては、従来の字消しに使用されてきた樹脂及びエラストマーからなる群より選ばれる1種以上を用いることができる。
樹脂成分は、溶液、分散体、ペースト、粉体又は固体状の任意の形態のものが用いられる。
【0018】
樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂、多液硬化性樹脂(例えば、二液硬化性樹脂等)、触媒硬化性樹脂、繊維素エステル等からなる群より選ばれる1種以上を用いることができる。
エラストマーとしては、ポリイソプレン系(天然ゴム)、スチレン系、ブタジエン系、イソプレン系、エチレン-プロピレン系、ニトリル系、クロロプレン系、ウレタン系、アクリル系、ポリエステル系、オレフィン系の各エラストマーからなる群より選ばれる1種以上を用いることができる。
【0019】
本発明において、樹脂成分は、熱可塑性のものを用いることが好ましい。
熱可塑性の樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル樹脂や塩化ビニルと他の共重合性単量体との共重合体(例えば、塩化ビニル-酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル-エチレン-酢酸ビニル系樹脂等)等の塩化ビニル系樹脂、エチレン-酢酸ビニル等の酢酸ビニル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-ポリプロピレン共重合体ブタジエン系樹脂等のオレフィン系樹脂、エチレン-エチルアクリレート共重合体等のアクリル系樹脂、アイオノマー樹脂等からなる群より選ばれる1種以上があげられる。
熱可塑性のエラストマーとしては、例えば、スチレン系(スチレン-ブタジエン-スチレン系、スチレン-イソプレン-スチレン系、スチレン-エチレンブチレン-スチレン系、スチレン-ブタジエン系等)、アクリロニトリル-ブタジエン系、ブチル系等からなる群より選ばれる1種以上があげられる。
【0020】
本発明においては、樹脂成分として、多様な可塑剤との混和が容易であり、消字性が高い字消しを得ることができる塩化ビニル系樹脂、特に、ポリ塩化ビニル樹脂を用いることが好ましい。このうち、ペーストによる成形が可能な微粒子状態のものを好適に用いることができ、例えば、商品名「ゼストP21」(新第一塩ビ株式会社製)等を用いることができる。
【0021】
樹脂成分の含有量は、字消し全量に対して20~50質量%、好ましくは25~45質量%、より好ましくは25~40質量%である。20質量%より少ないと、字消しとしての使用性、成形性が低下するおそれがある。50質量%を超えると、ゲル硬度が高くなりすぎ消字性が低下する。
【0022】
<可塑剤・軟化剤>
本発明の字消しには、可塑剤及び/又は軟化剤を含有させることができる。可塑剤・軟化剤は、字消しを柔らかくし、使用により発生する字消し屑を纏める機能を有する。また、本発明において、可塑剤、軟化剤は、セルロースナノファイバーを解繊する際の有機溶媒としても用いられる。
【0023】
可塑剤・軟化剤は、字消しに使用する樹脂成分に応じて適宜選択して用いることができる。
可塑剤としては、例えば、フタル酸エステル系可塑剤(例えば、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DOP)、フタル酸ジイソノニル(DINP)、フタル酸ジウンデシル(DUP)等)、アジピン酸エステル系可塑剤(例えば、ジ-2-エチルヘキシルアジペート(DOA)、アジピン酸ジイソノニル(DINA)等)、クエン酸エステル系可塑剤(アセチルクエン酸トリブチル(ATBC)等)、安息香酸エステル系可塑剤(安息香酸グリコールエステル等)、テレフタル酸エステル系可塑剤(テレフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)等)、トリメリット酸エステル系可塑剤、アジピン酸ポリエステル系可塑剤、フタル酸ポリエステル系可塑剤等からなる群より選ばれる1種以上があげられる。
軟化剤としては、例えば、植物油、動物油、鉱物油、流動パラフィン、ポリブテン等からなる群より選ばれる1種以上があげられる。
【0024】
このうち、可塑剤としては、SP値(Solubility Parameter;溶解度パラメータ)が8.3以上10以下、好ましくは8.5以上9.8以下のものを用いることが好ましい。SP値が8.3よりも小さい、またはSP値が10よりも大きいと、樹脂成分との相溶性が一般的に悪くなり、字消しとして必要な機能を発現しにくくなるおそれがある。
例えば、樹脂としてポリ塩化ビニル樹脂(SP値:9.5)を用いる場合には、可塑剤として、アセチルクエン酸トリブチル(ATBC:SP値9.0)等のアセチルクエン酸エステル系可塑剤、およびジ-2-エチルヘキシルアジペート(DOA:SP値8.5)等のアジピン酸エステル系可塑剤が好適に用いられる。
【0025】
可塑剤及び/又は軟化剤の含有量は、例えば、字消し全量に対して30~70質量%、好ましくは35~60質量%、より好ましくは35~50質量%である。30質量%より少ないと、字消しが固くなりすぎて、消字性が低下するおそれがある。70質量%を超えると、字消しが柔らかくなりすぎ、消す際に力が入りにくく、字消しとしての使用性、成形性及び消字性が低下するおそれがある。
【0026】
<充填剤>
本発明の字消しは、これまで字消しに使用されてきた充填剤を含んでいてもよい。充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、シリカ、タルク、クレー、珪藻土、石英粉、アルミナ、アルミナシルケート、マイカ等からなる群より選ばれる1種以上があげられる。
充填剤の含有量は、例えば、字消し全量に対して0~70質量%、好ましくは5~40質量%とすることができる。
【0027】
<安定剤>
本発明の字消しは、変色や劣化防止の目的で各種の安定剤を添加することもできる。そのような安定剤としては、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、老化防止剤等があげられる。
本発明においては、ブチル錫ラウレート系、ブチル錫マレート系、ブチル錫メルカプト系、オクチル錫ラウレート系、オクチル錫マレート系、オクチル錫メルカプト系、金属石鹸系(Ba、Mg、Ca及びZnからなる群より選ばれる1種以上の系;例えば、Ba/Zn複合系、Ca/Zn複合系、Mg/Zn複合系等)、エポキシ系、有機リン系等の公知の熱安定剤から選ばれる1種以上の熱安定剤を用いることができる。また、ジブチルヒドロキシトルエン、イルガノックス1010等のヒンダートフェノール系等の酸化防止剤を用いることができる。
安定剤の含有量は、例えば、字消し全量に対して0~5質量%、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.8質量%以下とすることができる。本発明の字消しは、安定剤をこのような少量用いることにより、十分な安定性、例えば十分な熱安定性を有するものにできる。
【0028】
<その他の成分>
本発明の字消しには、上記の成分以外の成分(その他の成分)を用いることができる。その他の成分としては、例えば、着色剤、香料、研磨剤、界面活性剤、グリコール類等があげられる。
着色剤としては、有機顔料、無機顔料、蛍光顔料などの公知の顔料や、公知の染料等を用いることができる。また、本発明では、擦過力によって潰れる感圧性マイクロカプセルで構成されている変色性色素成分(感圧変色性色素成分)や、擦過熱によって変色する感熱性着色成分が含有されている変色性色素成分(感熱変色性色素成分)を用いることもできる。
その他の成分の配合量は、本発明の字消しの消字性、ゲル硬度等の特性を極端に低下させない範囲において、適宜定めることができる。
【0029】
[字消しの製造方法]
本発明の字消しの製造方法としては、樹脂組成物の成形に用いられる公知の成形方法を制限なく用いることができる。
例えば、上記のセルロースナノファイバー、樹脂、可塑剤、軟化剤、充填剤、安定剤等と、必要により上記のその他成分を容器に投入し、撹拌混合して平均繊維直径1~700nmのセルロースナノファイバーを含む字消し用組成物を得た後に、これを成形し、必要に応じて所望の大きさに切断することで得ることができる。
各成分の投入順序等は特に限定されず、例えば、セルロースナノファイバーを可塑剤に分散させた分散体と、樹脂等を容器に投入することができる。
成形方法としては、押出成形、プレス成形、射出成形等があげられる。
本発明の字消しは、硬さ、消字性及びゲル硬度に優れており、押出成形、プレス成形、射出成形等の生産性に優れた成形手段により、細長い形状や薄片状の形状の字消しを容易に得ることができることから、極めて有用な発明である。
【0030】
[字消しの用途]
本発明の字消しは、鉛筆やシャープペンシルの筆跡を消去する消しゴムとして用いることができる。特に、本発明の字消しは、ゲル硬度に優れることから、メラミンフォーム等の多孔性構造体に含浸させる必要がなく、押出成形やプレス成形等の簡易な成形手段により字消しを形成することができる。
本発明の字消しは、例えば、消しゴム付き鉛筆の消しゴム、シャープペンシルの頭冠部やノック部に取り付けられる字消し等の筆記具付属用の字消し、電動型字消しのホルダに取り付けられる字消し、繰り出し機構を持つ繰り出し式の字消し、字消しを芯とするノック式の字消し、円筒内に着脱自在に取り付けられた字消し等に用いることができる。特に、字消しを備える筆記具を好適に構成することができる。
【実施例
【0031】
以下に実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を、「部」は質量部を意味する。
【0032】
[字消し構成成分]
字消しを構成する成分として以下のものを用意した。
・樹脂:ポリ塩化ビニル樹脂(ZEST P21(新第一塩ビ社製商品名))
・充填剤:重質炭酸カルシウム(ライトン A-4(備北粉化工業社製商品名))
・可塑剤:アセチルクエン酸トリブチル(ATBC)
・CNF分散体:セルロースナノファイバーのATBC分散体(セナフ(服部商店社製商品名);疎水化処理したパルプをATBC中で直接解繊して得られるセルロースナノファイバー分散体(ナノセルロース含有量10質量%))
・安定剤1:Mg/Zn複合金属石鹸(EMBILIZER R-23L(東京ファインケミカル社製商品名))
・安定剤2:亜リン酸エステル(EMBILIZER TC-110S(東京ファインケミカル社製商品名))
・木粉:(スギ 178μmパス木粉(那賀ウッド社製);粒子径150~212μmが31.8質量%、同106~150μmが51.6質量%、同45~106μmが12.2質量%)
【0033】
[字消し評価方法]
得られた字消しの評価は、以下のように行った。
<硬さ>
字消しを、20±2℃の恒温室に12時間静置した。
JIS K 6253の5.2(試験機)に規定する型の硬度計(JIS K 6301(スプリング式硬さ試験機C型))を用いて硬度を測定した。
具体的には、ガラス板上に字消しを置き、水平に保持した字消しの表面に試験機の押針が鉛直になるようにして加圧面を接触させ、直ちに目盛りを整数で読み切った。3か所の測定値の中央値を硬さとした。
【0034】
<消字性>
JIS S 6050:2002 プラスチック字消しの6.4に準拠した以下の手順に沿って測定した消字率に基づき評価した。
(i)字消しを厚さ5mmの板状に切り、着色紙と接触する先端部分を半径6mmの円弧に仕上げたものを試験片とした。
(ii)画線機を用いて、JIS S 6006に規定する鉛筆のHBと、坪量90g/m以上、白色度75%以上の上質紙を使用して着色紙を作製した。この着色紙に対して、試験片を垂直に、かつ着色線に対して直角になるように接触させた。この状態で、試験片におもりとホルダの質量の和が0.5kgとなるようにおもりを載せ、150±10cm/min.の速さで着色部を4往復摩消させた。
(iii)濃度計によって、着色紙の非着色部分の濃度を0として、着色部および摩消部の濃度をそれぞれ測定した。
(iv)消字率は、次の式によって算出し、3回の平均値を求めた。
消字率(%)=(1-(摩消部の濃度)÷(着色部の濃度))×100
【0035】
<ゲル硬度>
ゲル硬度は、字消しの強度としてみることができる。
ゲル硬度は以下の方法で測定した。
字消しをポンチで直径がφ12±2mmの円柱状となるよう打ち抜いた後に、5mmの厚さに切断して試験片とした。測定室の温度を20±2℃に保ち、その中に試験片を2時間以上放置した。
測定器として、AIKOH ENGINEERING CPU GAUGE 9550 Bを用い、ロッドの下端をφ4.41mm、ロッド速度を7mm/分とした。
試験片を置き、その上から上記ロッドを試験片中央に上記速度で突き刺した。その時の突き刺しに要する荷重の上昇を観察し、1秒以上一定値を示す荷重をゲル硬度(kgf)とした。
【0036】
[実施例1~3、比較例1~3]
表1に示す成分を、それぞれ表1に示す配合量で用い、撹拌容器に投入し、均一になるまで撹拌した後に、温度120℃、プレス圧10kgf/cm(=98N/cm)で10分間熱プレスして硬化させ、字消しを調製した。
得られた母材を撹拌混合して混合し、押出成形して、字消しを製造した。
【0037】
【表1】
【0038】
表1より、以下のことがわかる。
セルロースナノファイバーを含まない比較例1は、硬さが低くて力が入りにくく、また、ゲル硬度が低いことから割れやすい。
セルロースナノファイバーを含まず、硬さを高くするとともにゲル硬度を高くした比較例2は、消字率が悪くなる。
セルロースナノファイバーに代えて、セルロース系材料である木粉を用いた比較例3は、硬さは高くなり力が入りやすいが、消字率が悪い。
一方で、セルロースナノファイバーを含む実施例1~3は、硬さは十分であり、消字率に優れ、ゲル硬度にも優れて割れにくく、良好な特性を示す字消しを構成することができる。
本発明の字消しは、特に強度が必要な、細長い形状や薄い形状の字消し、シャープペンシルや鉛筆等の筆記具付属用の字消しとして、好適に使用することができる。
【0039】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、請求の範囲によって規定され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。