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特許7450927寝具用粒状充填材、それを使用した寝具及び寝具用粒状充填材の製造方法
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  • 特許-寝具用粒状充填材、それを使用した寝具及び寝具用粒状充填材の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】寝具用粒状充填材、それを使用した寝具及び寝具用粒状充填材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A47G 9/10 20060101AFI20240311BHJP
【FI】
A47G9/10 G
A47G9/10 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020120940
(22)【出願日】2020-07-14
(65)【公開番号】P2022018009
(43)【公開日】2022-01-26
【審査請求日】2023-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】501044884
【氏名又は名称】株式会社総桐箪笥和光
(74)【代理人】
【識別番号】100114627
【弁理士】
【氏名又は名称】有吉 修一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100182501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100175271
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 宣圭
(74)【代理人】
【識別番号】100190975
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 聡子
(72)【発明者】
【氏名】加島 功一
【審査官】東 勝之
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-132107(JP,A)
【文献】実開平02-105769(JP,U)
【文献】特開昭52-053791(JP,A)
【文献】特開2000-226207(JP,A)
【文献】登録実用新案第3075172(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47G 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質材料形成され、表面側に他の用粒状充填材との摩擦で炭粉が生じないか、或いは生じにくいようにした所要深さの炭化処理層が形成されており、前記炭化処理層で囲まれた深部には、炭化させずに所定の温度で加熱された熱処理部が設けられている枕用粒状充填材であって、
その全体形状がほぼ多面体、または、ほぼ立方体であり、かつ、各角部と各辺部に当たる部分が丸まって形成されると共に、
前記炭化処理層の表面には、木目が表れている
用粒状充填材。
【請求項2】
内部に枕の形を所定形状に保つための袋体を有し、前記袋体に、木質材料で形成され、表面側に他の枕用粒状充填材との摩擦で炭粉が生じないか、或いは生じにくいようにした所要深さの炭化処理層が形成されており、前記炭化処理層で囲まれた深部には、炭化させずに所定の温度で加熱された熱処理部が設けられている枕用粒状充填材が、適宜量充填されている枕であって、
前記枕用粒状充填材の全体形状がほぼ多面体、または、ほぼ立方体であり、かつ、各角部と各辺部に当たる部分が丸まって形成されると共に、
前記炭化処理層の表面には、木目が表れている
【請求項3】
撹拌器内部で所要量の木質材料である白木のチップを撹拌し、撹拌している前記チップに着火して燃焼させ、前記チップ全体に火が回るように着火を繰り返す着火工程と、
少なくとも前記チップの表面が炭化するように前記チップ全体を撹拌しながら燃焼させる燃焼工程と、
前記チップの表面が所要の深さで炭化したところで、前記チップ全体に水をかけて燃焼を止める消火工程と、
前記チップ全体を撹拌しながら水で洗浄し、前記チップ同士の接触により、前記チップの各角部と各辺部に当たる部分を丸めると共に、前記チップの表面に木目が表れるようにする洗浄工程と、
洗浄した前記チップを乾燥させる乾燥工程とを備える
枕用粒状充填材の製造方法
【請求項4】
前記洗浄工程は、前記チップの表面の炭化した部分のうち脆い部分を削るようにする
請求項3記載の枕用粒状充填材の製造方法
【請求項5】
材料となる前記チップは、立方体の粒を使用する
請求項3又は4記載の枕用粒状充填材の製造方法
【請求項6】
前記洗浄工程において、研磨材を混入して撹拌を行う
請求項5記載の枕用粒状充填材の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寝具用粒状充填材、それを使用した寝具及び寝具用粒状充填材の製造方法に関するものである。詳しくは、枕などの寝具に入れたときに、寝具の形が使用者の使用形態に合わせて容易に変形して使いやすく、防黴性に優れると共に、経年の使用による異臭も生じにくい寝具用粒状充填材、それを使用した寝具及び寝具用粒状充填材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木チップや蕎麦殻などの各種自然素材を、枕を初めとする寝具用の充填材として使用することは、従来から様々に試みられている。このような寝具は、自然素材を活かすことで、使用感(使い心地)に優れるとされており、一例としては特許文献1に開示されている「枕および枕用粒子状充填材」がある。
【0003】
上記従来の枕は、布状または網状の袋を備え、この袋に粒子状充填材を充填してなり、粒子状充填材が、四面体、三角柱および角錐から選ばれる一種以上の、桐材などで作られた多面体粒子からなることを特徴とする。これにより、粒子状充填材の流動性を利用して、枕の必要な部分の高さを簡単に変更することができると共に、寝心地の良い形状を安定して保つことができるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-99867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の粒子状充填材を使用した枕には、次のような課題があった。
すなわち、粒子状充填材が白木であるために、枕の内部で粒子状充填材同士が接触したときの摩擦力が比較的大きく、相互の滑性が良いとはいえない。
【0006】
従って、上記したような、枕の必要な部分の高さを簡単に変更することができるという変形性については、実際にはそれほど優れているわけではなく、一旦整形されたその形状がそのまま強く維持されてしまう傾向が依然としてある。
【0007】
また、粒子状充填材が白木であるため、粒子状充填材の含水率が高い状態が維持されやすい。これにより、粒子状充填材が吸放湿性に優れる桐材で作られていたとしても、粒子状充填材に黴が生じるのを防ぐことは難しい。このため、この黴によって異臭がしたり、使用者に健康被害が生じたり、或いは黴が発生していなくても、経年の使用によって使用者の体臭が移って異臭がするようになるなど、結果的に枕が使用できなくなる可能性が高かった。
【0008】
本発明は、以上の点を鑑みて創案されたものであり、枕などの寝具に入れたときに、寝具の形が使用者の使用形態に合わせて容易に変形して使いやすく、防黴性に優れると共に、経年の使用による異臭も生じにくい寝具用粒状充填材、それを使用した寝具及び寝具用粒状充填材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記の目的を達成するために、本発明に係る寝具用粒状充填材は、木質材料で所要形状に形成され、表面側に他の寝具用粒状充填材との摩擦で炭粉が生じないか、或いは生じにくいようにした所要深さの炭化処理層が形成されており、前記炭化処理層で囲まれた深部には、炭化させずに所定の温度で加熱された熱処理部が設けられている。
【0010】
寝具用粒状充填材は、表面側に炭化処理層が形成されており、炭化処理層は、炭粉が生じないか、或いは生じにくい処理がされている状態で、充分な硬さを有している。これにより、寝具用粒状充填材は、炭化処理層の表面が良好な滑性を有している。特に、寝具用粒状充填材同士を接触させた場合の摩擦力が小さいので、相互の滑性に優れる。
【0011】
従って、適宜量の寝具用粒状充填材を寝具に入れたとき、或いは詰めたときに、寝具用粒状充填材は、寝具内部で相互に接触しながら比較的自由に動くことが可能であり、流動性に優れ、寝具の形が使用者の使用形態に合わせて容易に変形することができる。
【0012】
なお、寝具の形は、使用者の使用形態に合わせて容易に変形はするが、寝具用粒状充填材が相互に全く抵抗なく滑るわけではなく、当然に一定の整形性も併せ持っているので、上記良好な変形性とも相俟って使いやすい。
【0013】
また、炭化処理層は、他の寝具用粒状充填材と接触しても炭粉は生じないか、或いは生じにくいが、多孔質の炭としての特性を持っており、良好な吸放湿性と消臭性を有する。
【0014】
つまり、寝具用粒状充填材は、加熱されることによって水分の殆どが蒸発しているので、寝具用粒状充填材には、良好な吸放湿性とも相俟って黴が発生しにくく、黴による健康被害も当然に生じにくい。更には、良好な消臭性を備えることにより、寝具の経年の使用においても、使用者の体臭などを吸着して、寝具に異臭が生じることを抑制できる。
【0015】
なお、深部の熱処理部は、周りの炭化処理層となる部分が燃焼することにより加熱されており、水分が蒸発することにより木繊維が収縮している。そして、放熱により例えば常温まで冷却されると、白木と比較して相当に硬くなる。これにより、寝具用粒状充填材の個々の強度が増して、寝具用粒状充填材の耐久性が向上する。
【0016】
(2)本発明の寝具用粒状充填材は、全体形状がほぼ多面体である構成とすることもできる。
【0017】
この場合は、寝具用粒状充填材が相互に接触して滑る際に、点接触でなく面接触になりやすい。これにより、寝具用粒状充填材間で、寝具の必要充分な整形性に寄与できる摩擦力が生じやすい。
【0018】
(3)本発明の寝具用粒状充填材は、全体形状がほぼ立方体である構成とすることもできる。
【0019】
この場合は、寝具用粒状充填材が相互に接触して滑る際に、点接触でなく面接触になりやすい。これにより、寝具用粒状充填材間で、寝具の必要充分な整形性に寄与できる摩擦力が生じやすい。
【0020】
また、寝具用粒状充填材はほぼ立方体であるので、ボリュームのある形状にも関わらず、複数の平面を有する立体としては面の数が比較的少なく、しかも隣接する面同士は直角を成している。これにより、例えば材料に対し直線的な切断を複数回行うだけでチップを作ることができるなど、比較的容易に効率よく製造できる。更には、熱処理部が充分な大きさで確保できるので、個々の強度をより強くすることも可能になる。
【0021】
(4)本発明の寝具用粒状充填材は、各角部と各辺部に当たる部分が丸まって形成されている構成とすることもできる。
【0022】
この場合は、寝具用粒状充填材が他の寝具用粒状充填材と接触したときに、元々表面の滑性に優れることに加えて、互いに引っ掛かりが生じにくくなるので、寝具に入れたときの流動性に、より優れている。また、炭粉の発生も更に抑制することができる。
【0023】
(5)上記の目的を達成するために、本発明に係る寝具は、内部に寝具の形を所定形状に保つための袋体を有し、前記袋体に、木質材料で所要形状に形成され、表面側に他の寝具用粒状充填材との摩擦で炭粉が生じないか、或いは生じにくいようにした所要深さの炭化処理層が形成されており、前記炭化処理層で囲まれた深部には、炭化させずに所定の温度で加熱された熱処理部が設けられている寝具用粒状充填材が、適宜量充填されている。
【0024】
本発明の寝具は、内部の袋体に寝具用粒状充填材を適宜量充填することで、枕など、所定の形状の寝具とすることができる。
寝具に充填される寝具用粒状充填材は、表面側に炭化処理層が形成されており、炭化処理層は、炭粉が生じないか、或いは生じにくい処理がされている状態で、充分な硬さを有している。これにより、寝具用粒状充填材は、炭化処理層の表面が良好な滑性を有している。特に、寝具用粒状充填材同士を接触させた場合の摩擦力が小さいので、相互の滑性に優れる。
【0025】
従って、適宜量の寝具用粒状充填材を寝具に入れたとき、或いは詰めたときに、寝具用粒状充填材は、寝具内部で相互に接触しながら比較的自由に動くことが可能であり、流動性に優れ、寝具の形が使用者の使用形態に合わせて容易に変形することができる。
【0026】
なお、寝具の形は、使用者の使用形態に合わせて容易に変形はするが、寝具用粒状充填材が相互に全く抵抗なく滑るわけではなく、当然に一定の整形性も併せ持っているので、上記良好な変形性とも相俟って使いやすい。
【0027】
また、炭化処理層は、他の寝具用粒状充填材と接触しても炭粉は生じないか、或いは生じにくいが、多孔質の炭としての特性を持っており、良好な吸放湿性と消臭性を有する。
【0028】
つまり、寝具用粒状充填材は、加熱されることによって水分の殆どが蒸発しているので、寝具用粒状充填材には、良好な吸放湿性とも相俟って黴が発生しにくく、黴による健康被害も当然に生じにくい。更には、良好な消臭性を備えることにより、寝具の経年の使用においても、使用者の体臭などを吸着して、寝具に異臭が生じることを抑制できる。
【0029】
なお、深部の熱処理部は、周りの炭化処理層となる部分が燃焼することにより加熱されており、水分が蒸発することにより木繊維が収縮している。そして、放熱により例えば常温まで冷却されると、白木と比較して相当に硬くなる。これにより、寝具用粒状充填材の個々の強度が増して、延いては寝具用粒状充填材を使用した枕などの寝具の耐久性が向上する。
【0030】
(6)上記の目的を達成するために、本発明に係る寝具用粒状充填材の製造方法は、撹拌器内部で所要量の木質材料である白木のチップを撹拌し、撹拌している前記チップに着火して燃焼させ、前記チップ全体に火が回るように着火を繰り返す着火工程と、少なくとも前記チップの表面が炭化するように前記チップ全体を撹拌しながら燃焼させる燃焼工程と、前記チップの表面が所要の深さで炭化したところで、前記チップ全体に水をかけて燃焼を止める消火工程と、前記チップ全体を撹拌しながら水で洗浄する洗浄工程と、洗浄した前記チップを乾燥させる乾燥工程とを備える。
【0031】
本発明に係る寝具用粒状充填材の製造方法は、着火工程において、撹拌器内部で所要量の木質材料である白木のチップを撹拌することにより、表面に出てくるチップが常に入れ替わる。これにより、撹拌しているチップに着火して燃焼させるときに、特に燃焼初期において、一部のチップを継続して燃焼させてチップの個々の燃焼にムラが生じることを抑制できる。
【0032】
また、チップ全体に火が回るように着火を繰り返すことにより、徐々に攪拌器内部の温度が上昇し、改めて着火することなく、チップの燃焼が継続するようになる。これにより、チップの全体を万遍なく燃焼させることができるようになる。
【0033】
更に、燃焼工程においては、少なくともチップの表面が炭化するようにチップ全体を撹拌しながら燃焼させることにより、チップの表面が所要の深さで炭化し、炭化処理層が形成される。
【0034】
必要な炭化処理層が形成されたところで、消火工程において、チップ全体に水をかけて燃焼を止めることにより、チップを濡らして温度を急速に低下させることができ、チップの表面が所要深さで炭化した状態を維持できるようになる。
【0035】
そして、洗浄工程において、チップ全体を撹拌しながら水で洗浄することにより、表面の炭化処理層のうち、比較的脆い部分が、チップ同士の接触により削られて、表面に木目が表れるようになる。これにより、他の寝具用充填材と擦れ合うときに適度な摩擦が生じ、寝具用充填材を使用した寝具の適度な整形性に寄与できる。
【0036】
乾燥工程において、洗浄したチップを乾燥させることにより、充分に軽くすることができるので、できた寝具用充填材を充填材として寝具に入れたときに、寝具の軽量化に寄与できる。また、寝具用充填材の含水率は相当に低くなっているので、黴の発生が抑制される。更に、表面の炭化処理層の多孔性の炭としての一定の特性は維持される。
【0037】
(7)本発明に係る寝具用粒状充填材の製造方法は、洗浄工程において、研磨材を混入して撹拌を行う構成としてもよい。
【0038】
この場合は、研磨材を混入して撹拌を行うため、チップ同士の接触に加えて、研磨材がチップと接触して、チップの表面を少しずつ削ることにより、表面の炭化した部分の煤が落ちる。これにより、チップの表面の加工がより効率的に行われる。
【発明の効果】
【0039】
本発明は、枕などの寝具に入れたときに、寝具の形が使用者の使用形態に合わせて容易に変形して使いやすく、防黴性に優れると共に、経年の使用による異臭も生じにくい寝具用粒状充填材、それを使用した寝具及び寝具用粒状充填材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】本発明に係る寝具用粒状充填材を示す斜視説明図である。
図2】寝具用粒状充填材の断面図である。
図3】本発明に係る寝具である枕の構造を示す斜視説明図である。
図4】枕としての使用例を示す斜視説明図である。
図5】枕の他の実施形態の使用例を示す斜視説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
図1乃至図5を参照して、本発明に係る寝具用粒状充填材及び寝具の実施の形態について、更に詳細に説明する。
【0042】
寝具用粒状充填材Aは、木質材料である桐材で粒状に形成され、ほぼ立方体の形状を有している。つまり、寝具用粒状充填材Aは、立方体の六面の各辺部に当たる部分と、立方体の八箇所の角部に当たる部分は、やや丸められている(図1図2参照)。
【0043】
なお、図1では、全ての寝具用粒状充填材Aがほぼ立方体なのではなく、形状には多少のバラツキがあり、立方体でないものも混じっているが、殆どはほぼ立方体である。また、図2では、寝具用粒状充填材Aを切り口がほぼ正方形になるように切断して、断面形状を表している。
【0044】
また、寝具用粒状充填材Aは、本実施の形態では、多少の大小はあるが、概ね最小径(一辺の長さ)が約7mmの大きさを有している。なお、寝具用粒状充填材の形状及び粒径の大きさは、これに限定するものではなく、使用対象の寝具の種類などによって、適宜の形状及び大きさに形成される。
【0045】
寝具用粒状充填材Aの表面側には、多少のばらつきはあるが、厚さが約0.5mmの炭化処理層1が形成されている。炭化処理層1は、桐材の燃焼によって炭化した部分に、他の寝具用粒状充填材Aと接触しても、或いはその際に生じる摩擦によっても、炭粉が生じないか、或いは生じにくい程度にまで、表面加工が施されている。
【0046】
しかしながら、寝具用粒状充填材Aの表面の炭化処理層1には、炭化部分が残っており、この炭化部分が有する多孔質の炭としての特性は失われておらず、その特性を充分に発揮できる。なお、炭化処理層1は、乾燥させてあり、含水率が低くなっているので、桐材の木繊維が炭化すると共に比較的強く収縮して、白木の状態と比較して硬度が上がっている。
【0047】
また、寝具用粒状充填材Aの炭化処理層1で囲まれた深部には、熱処理部2が形成されている。熱処理部2は、製造時、炭化処理層1が燃焼しているときに、桐材が発火点近くまで熱せられることで、燃焼及び炭化させることなく加熱された部分である。
【0048】
熱処理部2は、炭化処理層1と同様に、乾燥して含水率が低くなっており、やはり桐材の木繊維が比較的強く収縮して、白木の状態と比較して硬度が上がっているが、上記炭化処理層1と比較するとやや低い。
【0049】
なお、炭化処理層1と熱処理部2は、その厚み方向の境界において、相互に一方から他方の材質に、次第に変化している構造であるので、炭化処理層1と熱処理部2の一体化は顕著であり、炭化処理層1は容易には脱落しない。このように、寝具用粒状充填材Aは、乾燥した状態において、白木より軽量でありながら、白木に比べて充分な強度を有している。
【0050】
ここで、図3を参照して、寝具用粒状充填材を内部に充填した寝具である枕3について説明する。枕3は、布製の枕カバー30を有している。枕カバー30の内部には、上記寝具用粒状充填材Aを多数収容した所定の網目を有する袋体であるネット31が収容されている。枕カバー30とネット31は、何れもファスナ(符号省略)を備えることにより、収容物を内部で保持できる。
【0051】
次に、寝具用粒状充填材Aの製造方法について説明する。材料となるチップは、桐材の白木のチップで、本実施の形態では、一辺が9mmの立方体の粒である。本実施の形態では、このチップを、1.4kg用意して、以下の加工を施した。
【0052】
本実施の形態では、撹拌器として、ドラム回転式の電動のコンクリートミキサーを採用した。ドラム容量は60L、有効撹拌容量は30L、回転数は40rpmまでで調整可能である。ドラム容量と有効撹拌容量、及び回転数は、これに限定するものではなく、製造の規模などに合わせて、適宜規格のものが採用できる。なお、ドラムの内部は、内部の塗料を燃やして焼失させてあり、製造する寝具用粒状充填材の品質に影響を及ぼさないようにしている。
【0053】
〔1.予備撹拌工程〕
撹拌器のドラム内部に、1.4kgのチップを投入し、20rpmでドラムを回転させてチップを撹拌した。チップの撹拌が、ドラムからこぼれることなく、安定して行われることを確認し、チップに対する着火を開始した。
【0054】
〔2.着火工程〕
着火を行う際には、スイッチ操作で、ドラムの回転を一旦止め、動いていないチップに対して、バーナーで火炎を放射し、着火させた。チップに着火したところで、ドラムの回転を開始してチップの撹拌を行い、すぐにドラムの回転を止めて、バーナーで着火させた。このように、ドラムを止めた状態でのチップに対する着火と、その後の短時間の撹拌を交互に繰り返した。
【0055】
〔3.燃焼行程〕
上記着火と撹拌を繰り返すにつれて、チップとドラム内の温度は上昇し、表面が白木のままのチップは徐々に少なくなって、チップ全体に火が回った。そして、撹拌時に、ドラム内部で目視できるチップは、その殆どが、表面が焦げたチップとなり、継続して自燃(じねん:自ら燃えること)をするようになった。この状態で、バーナーで着火することを止めて、チップの撹拌を継続しながら、目視を続け、チップの焼け具合、つまり表面の炭化の進み具合を確認した。
【0056】
〔4.消火工程〕
炭化の進み具合を適当と判断した時点で、ホースでチップの全体に一気に水をかけて消火した。消火後も放水をさらに続け、ドラム内において、チップは全体が水に浸かり、短時間で冷やされて、チップは表面が所要深さで炭化した状態を維持できるようになる。
【0057】
〔5.洗浄工程〕
ドラム内の水とチップを他容器に移してチップを濾し取り、再度撹拌器のドラムに移し、適量の水を入れて、更に適量の研磨材を混ぜ入れる。そして、ドラムの開口部を、チップが漏れ出ない大きさの目を有するネットで塞ぎ、ドラムの外からネットを通してドラムに水を入れながら、ドラムの回転数20rpmで撹拌を行う。
【0058】
このように、チップ全体を撹拌しながら水で洗浄することにより、表面の炭化した部分のうち比較的脆い部分が、チップ同士の接触により削られて煤が落ち、表面に木目が表れるようになる。
【0059】
所定の時間をかけて撹拌し、ドラム内部の水が清浄化したところで、チップを濾し取る。なお、研磨材としては、チップを傷付けにくいという点では、いわゆるスポンジ研磨材などが好ましいが、これに限定はせず、既存の各種研磨材を適宜採用できる。
【0060】
〔6.乾燥工程〕
濾し取ったチップを、所定の時間、天日干しして自然乾燥させる。あるいは、各種乾燥機を使用して乾燥させることもできる。乾燥の程度は、例えば含水率で10%程度を目安とするが、表面を焼いた桐材である寝具用充填材Aが吸放湿性に優れることから、自然に周囲の雰囲気の湿度に近づくので、特に限定はしない。
【0061】
なお、上記各工程における作業時間の長さについては、気温、湿度、作業者の熟練度など、様々な要素が関わるため、画一的に作業時間を決めることはせず、作業者は適宜調整を行いながら製造作業を行うようにする。
【0062】
(作用)
上記方法で製造した寝具用粒状充填材Aの作用(性質及び機能性などを含む)について説明する。
寝具用粒状充填材Aには、表面側に炭化処理層1が形成され、炭化処理層1は、洗浄が充分に行われて炭粉が生じないか、或いは生じにくい処理がされている状態で、充分に乾燥しているので、表面の硬度が高い。
【0063】
表面の硬度を測定するために、次のような試験を行った。
〔ブリネル硬さ試験1〕
・試験体 焼桐粒(寝具用粒状充填材A)
・試験片数 1個
・試験方法
JIS Z2101:2009 木材の試験方法 表面硬さ(ブリネル硬さ)の測定を参考
測定は、試験体の任意の5箇所で行った。
圧入速度:0.5mm/min
【0064】
【表1】
【0065】
〔ブリネル硬さ試験2〕
・試験体 桐白木
・試験片数 1個
・試験方法
JIS Z2101:2009 木材の試験方法 表面硬さ(ブリネル硬さ)の測定を参考
測定は、試験体の任意の5箇所で行った。
圧入速度:0.5mm/min
【0066】
【表2】
【0067】
(考察)
ブリネル硬さ試験1の表1、及びブリネル硬さ試験2の表2から分かるように、焼桐粒(寝具用粒状充填材A)の表面の硬さ(N)は、平均値が3.8で、桐白木の表面硬さ(N)の平均値3.2より硬くなっていた。
【0068】
また、これにより、寝具用粒状充填材Aは、炭化処理層1の表面が良好な滑性を有している。特に、寝具用粒状充填材A同士を接触させた場合の摩擦力が小さいので、相互の滑性に優れる。
【0069】
表面の摩擦を測定するために、次のような試験を行った。
〔繊維物理試験〕
・試験体 焼桐粒(寝具用粒状充填材A)、桐白木、(それぞれ乾燥と湿潤)4点
・試験方法 JIS K 7125 プラスチックフィルム及びシート-摩擦係数試験方法を参考
・試験器:(株)島津製作所製 精密万能試験機 AG-5kNX
・滑り片:試験器付属品、63mm×63mm、201,9g
・移動速度:100mm/min 移動距離:50mm
・試験片の状態 張設
・乾燥:標準雰囲気(23℃、50%RH)の条件で24時間以上、状態張設
・湿潤:乾燥状態の試験片を濡れた布巾で拭き取り後、すぐに測定
・測定回数 2回
【0070】
【表3】
【0071】
(考察)
表3から分かるように、焼桐粒(乾燥:寝具用粒状充填材A)の方が白木(乾燥)よりも、静摩擦係数、動摩擦係数共に小さく、滑性に優れている。また、比較対象とした焼桐(湿潤)と白木(湿潤)の関係も同様で、焼桐粒(湿潤)の方が白木(湿潤)よりも、静摩擦係数、動摩擦係数共に小さく、滑性に優れている。
【0072】
従って、適宜量の寝具用粒状充填材Aを、前記寝具である枕3に入れたとき、或いは詰めたときに、寝具用粒状充填材Aは、枕3内部で相互に接触しながら比較的自由に動くことが可能であり、流動性に優れ、図4に示す枕3の形は使用者の使用形態に合わせて容易に変形させることができる。また、図5に示す異なる形態の枕3aは、長方形状の広い枕の一端側を丸めて高くすることができるものである。
【0073】
なお、枕3などの寝具の形は、使用者の使用形態に合わせて容易に変形はするが、寝具用粒状充填材Aが相互に全く抵抗なく滑るわけではなく、上記したように表面に木目が表れるなどして、一定の整形性も併せ持っているので、寝具は上記良好な変形性とも相俟って使いやすい。
【0074】
また、炭化処理層1は、その寝具用粒状充填材Aが他の寝具用粒状充填材Aと接触しても炭粉は生じないか、或いは生じにくいが、多孔質の炭としての特性を持っており、良好な吸放湿性と消臭性を有している。
【0075】
吸放湿性の確認をするために、次のような試験を行った。
〔吸放湿試験1〕
・試験体 焼桐粒(寝具用粒状充填材A)
・試験片量 約500g
・試験方法
1.40℃、30%RH下で17時間調湿させ、試験体質量(W)を測定する。
2.40℃、90%RH下で吸湿させ、2、4、8、24時間後の試験体質量(W)を測定する。
3.吸湿開始から24時間後、試験条件を40℃に変更する。
4.40℃以下で放湿させ、2、4、8、24時間後の試験体質量(W)を測定する。
5.試験体を全乾状態にし、試験体質量(W)を測定する。
6.以下の式を用いて各時間における含水率を算出する。
含水率(%)=((W-W0)/W0)×100
【0076】
【表4】
【0077】
〔吸放湿試験2〕
・試験体 白木桐粒
・試験片量 約500g
・試験方法
1.40℃、30%RH下で17時間調湿させ、試験体質量(W)を測定する。
2.40℃、90%RH下で吸湿させ、2、4、8、24時間後の試験体質量(W)を測定する。
3.吸湿開始から24時間後、試験条件を40℃に変更する。
4.40℃以下で放湿させ、2、4、8、24時間後の試験体質量(W)を測定する。
5.試験体を全乾状態にし、試験体質量(W)を測定する。
6.以下の式を用いて各時間における含水率を算出する。
含水率(%)=((W-W0)/W0)×100
【0078】
【表5】
【0079】
(考察)
焼桐粒の表4、及び白木桐粒の表5から分かるように、吸湿性においては、焼桐粒と白木桐粒では、白木桐粒の方が、より吸湿をし、各条件を通して焼桐粒より含水率が大きいまま維持された。なお、焼桐粒も白木桐粒との比較ではやや劣るが、良好に吸湿することが分かった。また、放湿性においては、焼桐粒は、初期の含水率が白木粒よりやや小さいが、2時間経過以降も白木粒より小さいままで維持された。
【0080】
つまり、寝具用粒状充填材Aは、加熱されることによって水分の殆どが蒸発し、洗浄後の乾燥も充分に行われているので、寝具用粒状充填材Aには、良好な吸放湿性とも相俟って黴が発生しにくく、黴による健康被害も当然に生じにくい。更には、炭化処理層1によって良好な消臭性を備えることにより、枕3などの寝具の経年の使用においても、使用者の体臭などを吸着して、寝具に異臭が生じることを抑制できる。
【0081】
防黴性について、確認のため次のような試験を行った。
〔カビの分析結果〕
・試験体 焼桐粒(寝具用粒状充填材A)
・条件 枕に入れて一年使用
・方法 ポテトデキストロース寒天平板培養法
【0082】
【表6】
【0083】
(考察)
表6から分かるように、焼桐粒に黴の発生は認められなかった。なお、黴の発生が抑制される要因については、寝具用粒状充填材Aの含水率が低い点に加え、寝具用粒状充填材Aから発生する遠赤外線の効果やマイナスイオンの効果によって黴の発生を抑制している可能性もある。
【0084】
なお、寝具用粒状充填材Aの炭化処理層1で囲まれた深部の熱処理部2は、周りの炭化処理層1となる部分が燃焼することにより加熱されており、水分が蒸発することにより木繊維が収縮している(図2参照)。そして、放熱により例えば常温まで冷却されると、白木と比較して相当に硬くなる。これにより、寝具用粒状充填材Aの個々の強度が増して、寝具用粒状充填材Aの耐久性が向上する。
【0085】
このように、本発明は、枕3、3aなどの寝具に入れたときに、寝具の形が使用者の使用形態に合わせて容易に変形して使いやすく、防黴性に優れると共に、経年の使用による異臭も生じにくい寝具用粒状充填材A、及びそのような機能性を有する寝具用粒状充填材Aを使用した枕3、3aなどの寝具、更には寝具用粒状充填材Aの製造方法を提供することができる。
【0086】
本明細書及び特許請求の範囲で使用している用語と表現は、あくまでも説明上のものであって、なんら限定的なものではなく、本明細書及び特許請求の範囲に記述された特徴およびその一部と等価の用語や表現を除外する意図はない。また、本発明の技術思想の範囲内で、種々の変形態様が可能であるということは言うまでもない。
【符号の説明】
【0087】
A 寝具用粒状充填材
1 炭化処理層
2 加熱処理部
3 枕
30 枕カバー
31 ネット
図1
図2
図3
図4
図5