IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本電解株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-電解銅箔及びその製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】電解銅箔及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 1/04 20060101AFI20240311BHJP
   C25D 1/00 20060101ALI20240311BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
C25D1/04 311
C25D1/00 311
H01M4/66 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020559226
(86)(22)【出願日】2019-12-03
(86)【国際出願番号】 JP2019047230
(87)【国際公開番号】W WO2020121894
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2022-11-15
(31)【優先権主張番号】P 2018231072
(32)【優先日】2018-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232014
【氏名又は名称】日本電解株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 利雄
(72)【発明者】
【氏名】小沼 剛
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 安浩
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-063938(JP,A)
【文献】国際公開第2014/178327(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/057688(WO,A1)
【文献】特開2012-241232(JP,A)
【文献】特開2000-182623(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 1/04
C25D 1/00
H01M 4/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素含有量が5ppm以下、硫黄含有量が3ppm以下、酸素含有量が5ppm以下、窒素含有量が0.5ppm以下であり、且つ炭素、硫黄、酸素、窒素及び水素の合計含有量が15ppm以下であり、その他の金属元素を含まなく、結晶粒数が8.0~12.0個/μmであり、導電率が96.8~99.7%IACSである電解銅箔であって、
150℃で1時間加熱されることによって、結晶粒数が0.6~1.0個/μmに変化するとともに、導電率が少なくとも2%IACS上昇し、かつ導電率が99.7~103.0%IACSに変化する、電解銅箔。
【請求項2】
銅原材料を洗浄する洗浄工程と、
前記洗浄後の銅原材料を溶解して、全有機体炭素量(TOC)が10ppm以下の電解液を得る溶解工程と、
前記電解液を電解することによって、炭素含有量が5ppm以下、硫黄含有量が3ppm以下、酸素含有量が5ppm以下、窒素含有量が0.5ppm以下であり、且つ炭素、硫黄、酸素、窒素及び水素の合計含有量が15ppm以下であり、その他の金属元素を含まなく、結晶粒数が8.0~12.0個/μmであり、導電率が96.8~99.7%IACSである電解銅箔であって、150℃で1時間加熱されることによって、結晶粒数が0.6~1.0個/μmに変化するとともに、導電率が少なくとも2%IACS上昇し、かつ導電率が99.7~103.0%IACSに変化する、電解銅箔を得る電解工程と
を含む、電解銅箔を製造する方法。
【請求項3】
前記洗浄工程が、加熱洗浄、圧縮蒸気洗浄、及び浸漬酸洗浄のうちの1つ又は2つ以上の組み合わせにより行い、これにより前記溶解工程においてTOCが10ppm以下の前記電解液を得る、請求項に記載の電解銅箔の製造方法。
【請求項4】
前記洗浄工程が、超音波洗浄、オゾン水洗浄、及び過熱水蒸気洗浄のうちの1つ又は2つ以上の組み合わせにより行い、これにより前記溶解工程においてTOCが10ppm以下の前記電解液を得る、請求項に記載の電解銅箔の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解銅箔及びその製造方法に関し、より詳しくは、リチウムイオン電池等の二次電池の負極集電体用やプリント配線板用の電解銅箔及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電解銅箔は、圧電銅箔と比べて量産性に優れ、比較的製造コストも低いことから、リチウムイオン電池等の二次電池やプリント配線板等の様々な用途で用いられている。特に、リチウムイオン電池等の二次電池においては、電解銅箔は、負極集電体の材料として好適に用いられている。その理由としては、炭素等から構成された負極活物質との密着性が高く、前述のように製造コストが低く生産性も高く、かつ、薄層化が容易であることが挙げられる。
【0003】
このような電解銅箔について、例えば、特許文献1には、銅箔中の炭素含有量が5ppm以下であり、かつ硫黄含有量が3ppm以下であることを特徴とする電解銅箔が開示されており、この電解銅箔は、常温及び加熱後の引張り強さに優れ、かつ常温及び加熱後の伸び率に優れていることから、二次電池用の集電体銅箔として好適に用いることができることが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、プリント配線板上に実装される部品の密度が上がり、且つ製品の小型化によりプリント配線板の小型化も求められ、銅箔パターンも形成範囲が限られたものとなる傾向にあるが、許容電流量を超えた電流を流す場所が存在した場合、銅箔パターンが大きく発熱する。銅箔パターンの発熱を抑制する方法として、抵抗率を下げる、即ち、導電率を上げる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-182623号公報
【文献】特開2018-137343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように電解銅箔は、二次電池用の集電体として好適であるものの、近年車載用途の二次電池が急増し、高容量化による発熱を抑止するためにより高い導電率が求められている。また、プリント基板の配線として、電解銅箔はその導電率の高さから好適であるものの、近年のデータの大容量化等によりプリント基板の発熱により、銅の抵抗率が増加するためにより抵抗率の低いもの、即ち、高い導電率が求められる。
【0007】
そこで本発明は、より高い導電率を有する電解銅箔及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、その一態様として、電解銅箔であって、この電解銅箔は、炭素含有量が5ppm以下、硫黄含有量が3ppm以下、酸素含有量が5ppm以下、窒素含有量が0.5ppm以下であり、かつ炭素、硫黄、酸素、窒素及び水素の合計含有量が15ppm以下であり、結晶粒数が8.0~12.0個/μmであって、更にこの電解銅箔は、150℃で1時間加熱されることによって、結晶粒数が0.6~1.0個/μmに変化するものである。
【0009】
前記電解銅箔は、導電率が96.8~99.7%IACSであって、更にこの電解銅箔は、150℃で1時間加熱されることによって、導電率が少なくとも2%IACS上昇し、かつ導電率が99.7~103.0%IACSに変化するものが好ましい。
【0010】
本発明は、別の一態様として、電解銅箔を製造する方法であって、この方法は、銅原材料を洗浄する洗浄工程と、前記洗浄後の銅原材料を溶解して、全有機体炭素量(TOC)が10ppm以下の電解液を得る溶解工程と、前記電解液を電解することによって、炭素含有量が5ppm以下、硫黄含有量が3ppm以下、酸素含有量が5ppm以下、窒素含有量が0.5ppm以下であり、かつ炭素、硫黄、酸素、窒素及び水素の合計含有量が15ppm以下であり、結晶粒数が8.0~12.0個/μmである電解銅箔であって、150℃で1時間加熱されることによって、結晶粒数が0.6~1.0個/μmに変化する、電解銅箔を得る電解工程とを含む。
【0011】
前記洗浄工程は、加熱洗浄、圧縮蒸気洗浄、及び酸浸漬洗浄のうちの1つ又は2つ以上の組み合わせにより行い、これにより前記溶解工程においてTOCが10ppm以下の前記電解液を得ることが好ましい。又は、前記洗浄工程は、超音波洗浄、オゾン水洗浄、及び過熱水蒸気洗浄のうちの1つ又は2つ以上の組み合わせにより行い、これにより前記溶解工程においてTOCが10ppm以下の前記電解液を得ることも好ましい。
【発明の効果】
【0012】
このように本発明によれば、TOCを10ppm以下にする等の不純物の含有量を制御した電解液から電解銅箔を得ることによって、この電解銅箔は、製造時においては結晶粒数が8.0~12.0個/μmであるものの、少なくとも150℃、1時間の加熱を受けることによって結晶粒数が0.6~1.0個/μmに変化するものであることから、導電率も向上し、よって、例えば二次電池の負極集電体の材料に用いられた場合、上記の加熱を経て製造される二次電池において、優れた導電率を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る電解銅箔の切断面の結晶組織の例を示す走査型電子顕微鏡写真であって、(a)は加熱前のもので、(b)は加熱後のものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係る電解銅箔及びその製造方法の実施の形態を説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施の形態によって限定されるものではない。
【0015】
[電解銅箔]
本実施の形態の電解銅箔は、銅箔中の炭素含有量が5ppm以下、硫黄含有量が3ppm以下、酸素含有量が5ppm以下、窒素含有量が0.5ppm以下であり、且つ炭素、硫黄、酸素、窒素及び水素の合計含有量が15ppm以下であり、結晶粒数が8.0~12.0個/μmである。この電解銅箔は、150℃で1時間加熱されることで結晶粒数が0.6~1.0個/μmに変化することを特徴とする。
【0016】
結晶粒数は、JIS H 0501(伸銅品結晶粒度試験方法)で規定される切断法に基づいて測定する。具体的には、先ず、結晶粒度として、走査型電子顕微鏡の映像又は写真上に交差する既知の長さの線分を引き、夫々の線分によって完全に切られる結晶粒数を数え、その結晶粒数の平均値(個)を算出する。次に、既知の長さの測定総面積とこの結晶粒数とから、結晶粒1個当たりの面積(μm)を算出し、結晶粒1個当たりの面積(μm)の逆数から1μmあたりの結晶粒数を求める。測定の際の温度は、上記加熱の前のものでも後のものでも、室温(20℃)で行う。
【0017】
このように本実施の形態の電解銅箔は、結晶粒数が8.0~12.0個/μmであることから、電解銅箔の製造時においては比較的に硬く、製造が容易で、取り扱い易いものである。また、二次電池の負極集電体用の材料として用いられた場合、二次電池作製時に用いた溶媒を揮発させるために、この電解銅箔は、少なくとも150℃、1時間の加熱が行われる。推測であるが、結晶粒界にほとんど不純物を含まない本実施の形態の電解銅箔は、上記の加熱を受けると、再結晶化によって結晶粒が顕著に大きくなり、結晶粒数が0.6~1.0個/μmとなる。これにより、電解銅箔の導電率が上昇し、二次電池の性能向上に大きく寄与するとともに、電解銅箔は比較的に軟らかくなり、二次電池の負極集電体として好ましい柔軟性を有するものとなる。
【0018】
本実施の形態の電解銅箔は、96.8~99.7%IACSの導電率を有しており、150℃で1時間加熱されることで導電率が少なくとも2%IACS上昇し、導電率が99.7~103.0%IACSに変化するものである。
【0019】
導電率は、JIS C 6515(プリント配線板用銅はく)に基づいて測定する。本明細書における導電率は、IACS(International Annealed Copper Standard)の20℃における体積抵抗率(1.7241×10-8Ωm)を100%とした場合、それに対する電解銅箔の体積抵抗率の%値である比較値を表し、%IACSで表記する。電解銅箔の体積抵抗率は、JIS C 6515に記載のIEC60249-1に基づいて測定する。測定の際の温度は、上記加熱の前のものでも後のものでも、室温(20℃)で行う。
【0020】
このように本実施の形態の電解銅箔は、製造時においては96.8~99.7%IACSの導電率を有しているものの、上述したように二次電池作製時に少なくとも150℃で1時間加熱されることで導電率が少なくとも2%IACS上昇し、99.7~103.0%IACSと非常に高い導電率を有するものになるので、特に二次電池が発熱しても信頼性が低下するのを防ぐことができる等、二次電池の性能を大きく向上させることができる。
【0021】
電解銅箔中の炭素、硫黄、酸素、窒素及び水素の含有量の測定は、元素分析装置により行われる。炭素含有量は4ppm以下であることが好ましい。硫黄含有量は、2ppm以下であることが好ましい。酸素含有量は、4ppm以下であることが好ましい。窒素含有量は、0.4ppm以下であることが好ましい。炭素含有量、硫黄含有量、酸素含有量、および窒素含有量のいずれの下限も、特に限定されないが、0.1ppm以上が好ましい。また、炭素、硫黄、酸素、窒素及び水素の合計含有量は10ppm以下であることが好ましく、8ppmが更に好ましい。炭素、硫黄、酸素、窒素及び水素の合計含有量の下限は、特に限定されないが、0.5ppm以上が好ましい。
【0022】
[電解銅箔の製造方法]
上述した電解銅箔を製造する方法の実施形態について、以下、説明する。本実施形態の電解銅箔の製造方法は、洗浄工程と、溶解工程と、電解工程とを含む。
【0023】
[洗浄工程]
銅原材料として使用するJIS H 2109に規定される1号ナゲット銅の表面には、被覆材や浸染油等の有機系不純物が被覆されており、これらが電解液に混入すると電解銅箔中の不純物の含有量が高くなり、上述した炭素、硫黄、酸素、窒素及び水素の含有量を規定値以下にすることができない。よって、電解銅箔中の炭素、硫黄、酸素、窒素及び水素の含有量を制御するために、銅原材料を洗浄する。
【0024】
銅原材料を洗浄する方法としては、例えば、加熱洗浄、圧縮蒸気洗浄、浸漬酸洗浄、超音波洗浄、オゾン水洗浄、および過熱水蒸気洗浄が挙げられ、これらのうちの1つの洗浄方法を行ってもよいし、2つ以上の洗浄方法を組み合わせてもよい。
【0025】
加熱洗浄は、大気雰囲気下で600~900℃の高温加熱洗浄炉に銅原材料を入れ、銅原材料を加熱して表面の汚れを昇華又は灰化した後、炉から取り出して水洗を行い、銅原材料の表面の不純物を除去する方法である。
【0026】
加熱温度は、700℃以上が好ましく、800℃以上が更に好ましい。圧縮蒸気洗浄は、温度80~100℃、圧力3~5MPaの高温高圧の水蒸気で銅原材料の表面の汚れを洗浄し、表面の不純物を除去する方法である。
【0027】
浸漬酸洗浄は、硫酸等の酸に銅原材料を浸漬し、銅原材料の表面を溶解して表面の不純物とともに除去する方法である。
【0028】
超音波洗浄は、水等の洗浄液中に銅原材料を浸漬させ、超音波を照射し、発生する衝撃波で銅原材料の表面の不純物を除去する方法である。洗浄液の温度は40~60℃が好ましく、超音波の周波数は20~40kHzが好ましい。
【0029】
オゾン水洗浄は、オゾン水中に銅原材料を浸漬させ、銅原材料の表面の不純物を除去する方法である。オゾン水のオゾン濃度は1~5ppmが好ましく、オゾン水の温度は20~30℃が好ましい。
【0030】
過熱水蒸気洗浄は、100℃で蒸発した飽和蒸気を更に加熱した熱放射性HOガスである過熱水蒸気で、銅原材料の表面の不純物を除去する方法である。過熱水蒸気の温度は、300~400℃が好ましく、圧力は、ほぼ大気圧である。なお、洗浄工程で使用する水としては、蒸留水や、イオン交換水を使用することが好ましい。
【0031】
[溶解工程]
溶解工程では、上記の洗浄工程後の銅原材料を硫酸に溶解し、電解液を得る。電解液中の銅濃度としては、硫酸銅(CuSO・5HO)換算で、200~400g/Lが好ましく、150~350g/Lがより好ましい。また、電解液中の全有機体炭素量(TOC)は、10ppm以下とする。TOCは、市販されている全有機体炭素計で測定することができる。電解液中のTOCが10ppmを超えると、後述する電解工程によって得られる電解銅箔は、所定の加熱後に再結晶が進まず、単位面積当たりの結晶粒数の変化が少なく、且つ導電率も変化せず、所望する電解銅箔を得ることができない。電解液中のTOCは5ppm以下にすることがより好ましい。
【0032】
電解液中のTOCは、上述した洗浄工程の加熱洗浄、圧縮蒸気洗浄、および浸漬酸洗浄のうちの1つ又はこれらを組み合わせることで達成することができるが、溶解工程において、電解液を活性炭ろ過装置により処理したり、オゾン活性装置により電解液中に存在する有機物を酸化分解したりする等の電解液中の不純物を更に除去することを行ってもよく、これにより電解液中のTOCを下げることができる。
【0033】
本発明に係る電解銅箔の電解液を調製する際に電解液中に通常使用される各種添加剤、例えば、チオ尿素、アラビアゴム、ゼラチン、膠等で銅箔中に共析しない添加剤であれば使用することができる。
【0034】
[電解工程]
電解工程では、上記の溶解工程で得た電解液を電解することによって、電解銅箔を得る。電解方法としては、特に限定されないが、例えば、電解液を、回転ドラム状又は板状の陰極を有する電解装置によって電解する方法を用いることができる。電解工程における電流密度としては、特に限定されないが、20~200A/dmが好ましく、30~120A/dmがより好ましい。電解工程における液温としては、特に限定されないが、25~80℃が好ましく、30~70℃がより好ましい。また、電解工程によって得られる電解銅箔の厚さとしては、3~210μmが好ましく、5~100μmがより好ましい。
【0035】
このようにして得られた電解銅箔は、銅箔中の炭素含有量が5ppm以下、硫黄含有量が3ppm以下、酸素含有量が5ppm以下、窒素含有量が0.5ppm以下であり、且つ炭素、硫黄、酸素、窒素及び水素の合計含有量が15ppm以下であり、結晶粒数が8.0~12.0個/μmである。この電解銅箔は、150℃で1時間加熱されることによって結晶粒数が0.6~1.0個/μmに変化するという特徴がある。また、この電解銅箔は、導電率が96.8~99.7%IACSである。導電率も、電解銅箔が150℃で1時間加熱されと、少なくとも2%IACS上昇し、99.7~103.0%IACSに変化するという特徴がある。なお、このようにして得られた電解銅箔の表面に、必要に応じて、粗面化処理層、耐熱層、または防錆層等を設けてもよい。
【実施例
【0036】
以下に、本発明の実施例および比較例を挙げて、本発明をより詳細に説明する。しかし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0037】
[実施例1]
(1)電解銅箔の製造
先ず、銅原材料であるJIS H 2109に規定される1号ナゲット銅を、第一次洗浄として加熱洗浄し、次に第二次洗浄として浸漬酸洗浄した。加熱洗浄は、高温加熱洗浄炉としてロータリーキルンに銅原材料を収容し、大気雰囲気下で約800~900℃に加熱し、銅原材料の表面の汚れを昇華又は灰化した後、水洗を行い、銅原材料の表面の不純物を除去した。浸漬酸洗浄は、100g/Lの硫酸水溶液を用いて、20分間浸漬処理し、銅原材料の表面に付着する不純物を除去した。次いで、このように洗浄した銅原材料を、硫酸に溶解し、硫酸銅溶液を得た。この硫酸銅溶液をろ過装置によりろ過して、以下の組成の電解液を得た。なお、硫酸としては精製硫酸を使用した。
硫酸銅(CuSO・5HO):280g/L
硫酸(HSO):90g/L
【0038】
また、この時の電解液の全有機体炭素量(TOC)を測定した。電解液中のTOCの測定は、全有機体炭素計(島津製作所社製、TOC-LCPH)で行った。そして、この電解液を用いて、貴金属酸化物被覆チタンを陽極、チタン製回転ドラムを陰極とする電解装置で、電流密度50A/dm、液温40℃の条件で電解することによって、厚さ8μmの電解銅箔を得た。
【0039】
(2)電解銅箔の特性試験
得られた電解銅箔をサンプルとして、電解銅箔中の不純物の含有量の測定を行った。不純物の測定は、炭素及び硫黄の含有量の測定には、元素分析装置(堀場製作所社製、EMIA-Expert)を用い、酸素及び窒素の含有量の測定には、元素分析装置(堀場製作所社製、EMGA-920)を用い、水素の含有量の測定には、元素分析装置(堀場製作所社製、EMGA-921)を用いた。
【0040】
また、得られた電解銅箔をサンプルとして、電解銅箔の結晶粒数および導電率の特性試験を行った。結晶粒数は、室温(20℃)にて、JIS H 0501に記載される切断法に基づいて測定した。導電率は、室温(20℃)にて、JIS C 6515及びIEC60249-1に基づいて測定した。なお、結晶粒数および導電率は、電解銅箔のサンプルを150℃で1時間加熱した後、室温(20℃)に戻したものについても測定した。以上の測定結果について表1に示す。
【0041】
[実施例2]
電解銅箔の製造において、硫酸銅溶液(電解液)を作製するにあたり、洗浄工程として、温度約100℃、圧力4.0MPaの高温高圧の水蒸気を用いて圧縮蒸気洗浄を行った以外は、実施例1と同様にして電解銅箔を製造し、各特性試験を行った。その結果を表1に示す。
【0042】
[実施例3]
電解銅箔の製造において、硫酸銅溶液(電解液)を作製するにあたり、洗浄工程として、浸漬酸洗浄のみを行った以外は、実施例1と同様にして電解銅箔を製造し、各特性試験を行った。その結果を表1に示す。
【0043】
[実施例4]
電解銅箔の製造において、硫酸銅溶液(電解液)を作製するにあたり、洗浄工程として、温度約50℃、周波数28kHzで超音波洗浄を行った以外は、実施例1と同様にして電解銅箔を製造し、各特性試験を行った。その結果を表1に示す。
【0044】
[実施例5]
電解銅箔の製造において、硫酸銅溶液(電解液)を作製するにあたり、洗浄工程として、温度約27℃、濃度1.5ppmのオゾン水を用いて洗浄を行った以外は、実施例1と同様にして電解銅箔を製造し、各特性試験を行った。その結果を表1に示す。
【0045】
[実施例6]
電解銅箔の製造において、硫酸銅溶液(電解液)を作製するにあたり、洗浄工程として、温度約350℃の過熱水蒸気を用いて洗浄を行った以外は、実施例1と同様にして電解銅箔を製造し、各特性試験を行った。その結果を表1に示す。
【0046】
[比較例1]
電解銅箔の製造において、硫酸銅溶液(電解液)を作製するにあたり、洗浄工程を省略したこと以外は、実施例1と同様にして電解銅箔を製造し、各特性試験を行った。その結果を表1に示す。
【0047】
[比較例2]
電解銅箔の製造において、硫酸銅溶液(電解液)を作製するにあたり、電解液にゼラチンを3ppm、塩素イオンを20ppm含有させたこと以外は、実施例1と同様にして電解銅箔を製造し、各特性試験を行った。その結果を表1に示す。
【0048】
[比較例3]
電解銅箔の製造において、硫酸銅溶液(電解液)を作製するにあたり、電解液にゼラチンを10ppm含有させたこと以外は、実施例1と同様にして電解銅箔を製造し、各特性試験を行った。その結果を表1に示す。
【0049】
[比較例4]
電解銅箔の製造において、硫酸銅溶液(電解液)を作製するにあたり、電解液に酵素分解ゼラチンを3ppm含有させたこと以外は、実施例1と同様にして電解銅箔を製造し、各特性試験を行った。その結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
表1に示すように、TOCが10ppm以下の電解液から得た実施例1~6の電解銅箔は、結晶粒数が8.0個/μm以上であったのが、150℃で1時間の加熱を行うことによって1.0個/μm以下になり、再結晶化により結晶粒が顕著に大きくなったことが確認できた。また、実施例1~6の電解銅箔は、150℃で1時間の加熱を行うことによって導電率が2%IACS以上の上昇を示し、99.7%IACS以上となった。一方、10ppmを超えるTOCの電解液から得た比較例1~4の電解銅箔は、150℃で1時間の加熱を行っても再結晶が進まず、結晶粒数の変化が小さく、且つ導電率も変化しなかった。
図1