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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】吊下げ本体部及び移動部
(51)【国際特許分類】
   B25J 13/08 20060101AFI20240311BHJP
【FI】
B25J13/08 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022172399
(22)【出願日】2022-10-27
(62)【分割の表示】P 2022003432の分割
【原出願日】2017-10-17
(65)【公開番号】P2023024974
(43)【公開日】2023-02-21
【審査請求日】2022-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】591156799
【氏名又は名称】ユニパルス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】嶋本 篤
【審査官】尾形 元
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/067457(WO,A1)
【文献】特開平4-93189(JP,A)
【文献】特開昭63-74582(JP,A)
【文献】特開2000-70312(JP,A)
【文献】特開昭64-8198(JP,A)
【文献】特開2014-50910(JP,A)
【文献】国際公開第2017/002266(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0013109(US,A1)
【文献】米国特許第5915673(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00-21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物品を吊下げて、昇降作動部と、モータ部と、重量検出部と、制御部とを有して、前記物品の移動を行う移動部をアシストする吊下げ本体部であって、
前記移動部は、前記物品若しくは前記物品を係止させる係止部材の少なくとも1つに、先端部に配置した当接部材を当接させて動力にて移動させ、
前記昇降作動部は、前記係止部材の昇降を行い、
前記モータ部は、前記昇降作動部と繋がっている駆動源であり、
前記重量検出部は、前記昇降作動部に加わる重量を検出して重量値を出力し、
前記制御部は、
前記当接部材と前記移動部との間に配置されて前記当接部材に加わる印加力を検出する力検出部から印加力値を得て、
前記重量検出部から得た前記重量値と前記印加力値とを基に生成した制御値に基づいて、前記係止部材又は前記物品がバランス状態となるように前記モータ部を制御し、
前記移動部が、前記当接部材によって前記物品を移動させるときには、前記印加力値が所定値以下となるように前記移動部の前記動力を制御する吊下げ本体部。
【請求項2】
物品を吊下げて、昇降作動部と、モータ部と、重量検出部と、制御部とを有して、前記物品の移動を行う移動部をアシストする吊下げ本体部であって、
前記移動部は、前記物品若しくは前記物品を係止させる係止部材の少なくとも1つに、先端部に配置した当接部材を当接させて動力にて移動させ、
前記昇降作動部は、前記係止部材の昇降を行い、
前記モータ部は、前記昇降作動部と繋がっている駆動源であり、
前記重量検出部は、前記昇降作動部に加わる重量を検出して重量値を出力し、
前記制御部は、
前記当接部材と前記移動部との間に配置されて前記当接部材に加わる印加力を検出する力検出部から印加力値を得て、
前記移動部が、前記印加力値が所定値以下で前記物品を移動させているとき、
前記重量検出部から得た前記重量値と前記印加力値とを基に生成した制御値に基づいて、前記係止部材又は前記物品がバランス状態となるように前記モータ部を制御する吊下げ本体部。
【請求項3】
物品の移動を行う物品移動装置システムの移動部であって、
前記物品移動装置システムは、吊下げ本体部と、係止部材と、当接部材とを含み、
前記物品は、前記吊下げ本体部に接続された前記係止部材によって吊下げられ、
前記吊下げ本体部は、前記係止部材の昇降をモータで行う昇降作動部と、前記昇降作動部に加わる重量値を検出する重量検出部とを有し、
前記移動部は、力検出部と、制御部とを有し、先端部に配置した前記当接部材を前記物品若しくは前記係止部材に当接させて、前記物品の移動を動力で行い、
前記力検出部は、前記当接部材に加わる印加力を検出して印加力値を前記吊下げ本体部の制御部へ出力し、
前記吊下げ本体部の制御部が、前記重量検出部から得た前記重量値と前記力検出部から得た前記印加力値とを基に生成した制御値に基づいて、前記係止部材又は前記物品がバランス状態となるように前記モータの制御を行っているときには、
前記移動部の制御部は、前記当接部材を前記物品又は前記係止部材に当接させて前記物品を移動させるときに前記印加力値が所定値以下となるように前記動力を制御する移動部。
【請求項4】
物品の移動を行う物品移動装置システムの移動部であって、
前記物品移動装置システムは、吊下げ本体部と、係止部材と、当接部材とを含み、
前記物品は、前記吊下げ本体部に接続された前記係止部材によって吊下げられ、
前記吊下げ本体部は、前記係止部材の昇降をモータによって行う昇降作動部と、前記昇降作動部に加わる重量値を検出して前記移動部の制御部へ出力する重量検出部とを有し、
前記移動部は、力検出部を有し、先端部に配置した前記当接部材を前記物品若しくは前記係止部材に当接させて、前記物品の移動を動力で行い、
前記力検出部は、前記当接部材に加わる印加力を検出して印加力値を前記移動部の制御部へ出力し、
前記移動部の制御部は、
前記当接部材を前記物品又は前記係止部材に当接させて前記物品を移動させるときには、前記印加力値が所定値以下となるように前記動力を制御し、
前記重量検出部から得た前記重量値及び前記力検出部から得た前記印加力値を基に生成した制御値に基づいて、前記係止部材又は前記物品がバランス状態となるように前記モータを制御する移動部。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造分野の製造組立てや搬送などに用いる、物品を移動させる際にモータによるアシストで重量バランスさせ僅かな操作力で移動させる物品移動装置システムを構成する吊下げ本体部及び移動部に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から工業製品の組立てや移送を行う工場などでは、製品、半完成品などの物品を移動させる産業用のロボットが使用されている。このような工場では生産ラインにおいて、例えば多関節のアームで構成されそのアーム先端にエンドエフェクタを有するロボットが用いられている。ロボットの関節機構は、ACサーボモータやDCブラシレスサーボモータ等のサーボモータと、高出力のトルクを得るためにサーボモータの出力側には減速機とを有し、アームやリンク等の可動部材に接続されて構成されている。
【0003】
このようなロボットを用いて、サイズや重量が異なる物品を扱う多品種少量生産を行うことが要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平06-231867号公報
【文献】特開2003-266252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこでサイズや重量が異なる物品を扱うために、対象とする物品に適合したロボットを複数台設置する発明が公知である(特許文献1及び特許文献2)。このようにロボットを複数台設置するとフットプリントが大きくなるという課題がある。そこでフットプリントを低減するために、ロボット台数を減らし汎用性を高めると、対象とする物品の中で最大外形、最大重量の物品に合わせたロボットを用いる必要性があり、ロボットの大型化という課題がある。
【0006】
また生産ラインにおいて、既に設置されているロボットが扱える大きさ、重量を超える物品を扱う必要性が生じた場合は、より大きなロボットへの交換を行う必要があり、フットプリントの増大に加えて生産ラインのレイアウトも変更することになり、この設置及びレイアウト変更に要する時間が多大となるという課題もあった。
【0007】
このような問題に鑑みて、本発明は様々な重量の物品の移動作業を、装置のフットプリントの増大化、大型化を抑制して効率的に行うことができる、物品移動装置システムの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の吊下げ本体部は、上記の目的を達成するために、
物品を吊下げて、昇降作動部と、モータ部と、重量検出部と、制御部とを有して、物品の移動を行う移動部をアシストする吊下げ本体部であって、
移動部は、物品若しくは物品を係止させる係止部材の少なくとも1つに、先端部に配置した当接部材を当接させて動力にて移動させ、
昇降作動部は、係止部材の昇降を行い、
モータ部は、昇降作動部と繋がっている駆動源であり、
重量検出部は、昇降作動部に加わる重量を検出して重量値を出力し、
制御部は、
当接部材と移動部との間に配置されて当接部材に加わる印加力を検出する力検出部から印加力値を得て、
重量検出部から得た重量値と印加力値とを基に生成した制御値に基づいて、係止部材又は物品がバランス状態となるようにモータ部を制御し、
移動部が、当接部材によって物品を移動させるときには、印加力値が所定値以下となるように移動部の動力を制御する。
【0009】
本発明の吊下げ本体部は、上記の目的を達成するために、
物品を吊下げて、昇降作動部と、モータ部と、重量検出部と、制御部とを有して、物品の移動を行う移動部をアシストする吊下げ本体部であって、
移動部は、物品若しくは物品を係止させる係止部材の少なくとも1つに、先端部に配置した当接部材を当接させて動力にて移動させ、
昇降作動部は、係止部材の昇降を行い、
モータ部は、昇降作動部と繋がっている駆動源であり、
重量検出部は、昇降作動部に加わる重量を検出して重量値を出力し、
制御部は、
当接部材と移動部との間に配置されて当接部材に加わる印加力を検出する力検出部から印加力値を得て、
移動部が、印加力値が所定値以下で物品を移動させているとき、
重量検出部から得た重量値と印加力値とを基に生成した制御値に基づいて、係止部材又は物品がバランス状態となるようにモータ部を制御する。
【0010】
本発明の移動部は、上記の目的を達成するために、
物品の移動を行う物品移動装置システムの移動部であって、
物品移動装置システムは、吊下げ本体部と、係止部材と、当接部材とを含み、
物品は、吊下げ本体部に接続された係止部材によって吊下げられ、
吊下げ本体部は、係止部材の昇降をモータで行う昇降作動部と、昇降作動部に加わる重量値を検出する重量検出部とを有し、
移動部は、力検出部と、制御部とを有し、先端部に配置した当接部材を物品若しくは係止部材に当接させて、物品の移動を動力で行い、
力検出部は、当接部材に加わる印加力を検出して印加力値を吊下げ本体部の制御部へ出力し、
吊下げ本体部の制御部が、重量検出部から得た重量値と力検出部から得た印加力値とを基に生成した制御値に基づいて、係止部材又は物品がバランス状態となるようにモータの制御を行っているときには、
移動部の制御部は、当接部材を物品又は係止部材に当接させて物品を移動させるときに印加力値が所定値以下となるように動力を制御する。
【0011】
本発明の移動部は、上記の目的を達成するために、
物品の移動を行う物品移動装置システムの移動部であって、
物品移動装置システムは、吊下げ本体部と、係止部材と、当接部材とを含み、
物品は、吊下げ本体部に接続された係止部材によって吊下げられ、
吊下げ本体部は、係止部材の昇降をモータによって行う昇降作動部と、昇降作動部に加わる重量値を検出して移動部の制御部へ出力する重量検出部とを有し、
移動部は、力検出部を有し、先端部に配置した当接部材を物品若しくは係止部材に当接させて、物品の移動を動力で行い、
力検出部は、当接部材に加わる印加力を検出して印加力値を移動部の制御部へ出力し、
移動部の制御部は、
当接部材を物品又は係止部材に当接させて物品を移動させるときには、印加力値が所定値以下となるように動力を制御し、
重量検出部から得た重量値及び力検出部から得た印加力値を基に生成した制御値に基づいて、係止部材又は物品がバランス状態となるようにモータを制御する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、重量検出部と力検出部とからの出力を基にモータ部にて物品の重量をキャンセルするように制御部が制御していることから、容易に物品の移動を行うことができる。したがって移動部は扱う物品の重量が小さい小型のロボットで済むことから、フットプリントは小さく、大型化も抑制できる。また物品の重さが変わっても移動部はそのままでレイアウト変更をする必要が無く、生産効率を向上させることができる。
【0014】
また、制御部は係止部材及び物品の正味の重量を演算し、これを基にモータ部にて物品の重量をキャンセルするように吊下げ本体部が制御していることから、バランスの状態を良好に保ちつつ物品の移動を行うことができる。
【0015】
また、移動部は単独では移動可能な重量を超えた物品であっても小さな力を保って物品の移動を行うことができる。
【0016】
また、上記効果に加えて、物品と係止部材との着脱を、移動部が当接部材を軽微な力で動かすことで容易に実行することができる。
【0017】
また、上記効果に加えて、物品と係止部材との着脱を、移動部が当接部材を軽微な力で動かすことで容易に実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態に係る物品移動装置システム全体の斜視構成図である。
図2】本発明の実施形態に係る物品移動装置システムの吊下げ部の一部を省略した斜視構成図である。
図3】本発明の実施形態に係る物品移動装置システムの動作を示す模式図である。
図4】本発明の実施形態に係る物品移動装置システムの動作を示す模式図である。
図5】本発明の実施形態に係る物品移動装置システムの動作を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態に係る物品移動装置システムについて、図面を基に詳細な説明を行う。図1は本発明の実施形態である物品移動装置システム全体の斜視構成図である。
【0020】
物品移動装置システム1は、物品30の吊下げ制御を行う吊下げ本体部11と、この吊下げ本体部11からリンクチェーン6に沿って下方に伸びた位置にあって物品30を吊下げて係止する係止部材8と、係止部材8に当接する当接部材42と、当接部材42を先端に配置して当接部材42を移動させる移動部40とで構成されている。吊下げ本体部11は、天面部に吊下げ用フック9が設けられて、建物の梁などの構造物やレール32上を水平方向に移動可能なスライドブロック33などに吊して使用することができる(図3参照)。
【0021】
吊下げ本体部11の内部には第1の制御部10が収納されている。第1の制御部10はCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、その他の記憶装置及び入出力装置を備えて、リンクチェーン6を介して係止部材8の上下動の制御等を行う。
【0022】
そして吊下げ本体部11からリンクチェーン6に沿って下方に伸びた位置に、第1の制御部10と電気的に繋がった操作部22が設けられている。操作部22は吊下げ本体部11によって上下動するリンクチェーン6と共に上下動し、作業者が係止部材8の上下動の操作等を行うためのものである。
【0023】
係止部材8は、リンクチェーン6の一端と繋がって物品30を係止する部材である。本実施形態では、物品30は例えば天部に鍔が設けられた容器とその中に入った部品等であり、物品30を移動させるために、係止部材8は物品30の鍔に係止させる略コの字型の部材と、フック形状の部材で構成されている。
【0024】
移動部40は、例えば直列に配置されたアームとこのアーム間にてアームを回動させる6軸の移動部モータ40a~40fとで構成されたロボットである。移動部40は少なくとも鉛直方向に動くものであればこれに限るものではない。
【0025】
当接部材42は、移動部40の先端部に設けられたいわゆるエンドエフェクタであって、本実施形態では係止部材8を挟持する構造を有している。当接部材42はこれに限らず、係止部材8の形状によって適宜選択されるものであって、係止部材8に自在継ぎ手を介して接続される等の変形が可能である。当接部材42は係止部材8及び物品30の少なくとも1つに当接するように設けられており、係止部材8及び物品30の両方に当接する形状及び構造であっても良い。
【0026】
力検出部41は、当接部材42と移動部40との間に設けられて、当接部材42に加わる少なくとも鉛直成分の印加力を検出して印加力値を出力するものである。力検出部41は例えば多分力計であって移動部40の動作はこれを基に制御することができる。 力検出部41と各移動部モータ40a~40fとは、移動部40内の中空部を通る配線により第2の制御部43と電気的に繋がっていて、各種信号の通信及び電源の供給が行われる。
【0027】
第2の制御部43は、例えば移動部40のベースとなる部分に設けられていて、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、その他の記憶装置及び入出力装置を備えている。そして第2の制御部43は操作部44等と電気的に繋がっていて、各移動部モータ40a~40fの駆動回路も含んでいる。そして第1の制御部10と第2の制御部43とは、ケーブル45で接続されて通信が可能な構成となっている。ケーブル45は入力用の配線と出力用の配線などのように複数本の配線を有していても良い。なお図1ではケーブル45を便宜上一本の線として示している。さらに本実施形態では吊下げ本体部11の制御は第1の制御部10、移動部40の制御は第2の制御部43のように分離して設けたが、吊下げ本体部11側及び移動部40側のいずれか一方にまとめた制御部として配置しても良いし、これらとは別にして外部に設けても良い。
【0028】
操作部44は、各移動部モータ40a~40fによって移動部40を手動で移動させたり、移動部40の動きを教示させたりするためのものである。また本実施形態では吊下げ本体部11の操作は操作部22で行い、移動部40の操作は操作部44で行うように分離して設けたが、第1の制御部10と第2の制御部43とはケーブル45で接続されて通信が可能な構成となっていることから、操作部44の釦の切り換えによって操作部44のみで操作できるようにしても良い。また本実施形態では、操作部44は有線で第2の制御部43に接続されているがこれに限らず、無線による接続であっても良い。
【0029】
図2は本発明の実施形態に係る物品移動装置システム1の吊下げ本体部11のカバーを省略して本体部の内部構造を一部示したものである。
【0030】
駆動源のモータの負荷側には減速機が取り付けられてモータと共にモータ部2を構成している。このモータは例えば交流サーボモータである。
【0031】
そして減速機はモータの回転速度を所定の速度に減速している。減速機は例えば波動歯車減速機である。波動歯車減速機は外周が楕円状のウエーブジェネレータと、外周に多数の外歯が形成されウエーブジェネレータに外嵌されてウエーブジェネレータの回転により円周方向へ撓まされる位置が変化するようにした弾性変形可能なフレクスプラインと、フレクスプラインの外周側にあってフレクスプラインの外歯と嵌合する内歯を備えたサーキュラスプラインとからなる。そして動力は、フレクスプラインを回転出力として繋げた回転出力軸3に取り出されて伝達するようになっている。この装置の減速機に例えば波動歯車減速機のようなバックラッシが微小なものを使用することで、モータの正逆回転切り換えを頻繁に行って上下動作を行う時に、切り換え時の制御不能な領域をなくし、スムーズな操作感を実現できる。
【0032】
回転出力軸3は減速機にて減速された回転軸であり、昇降作動部7に連結され、昇降作動部7を連続的に正逆に回転させるものである。
【0033】
吊下げ用フック9が、吊下げ本体部11の天面に固定されている。吊下げ用フック9は建物構造物に設けられたレール32に、水平方向に移動可能なスライドブロック33を介して取り付けられている(図3参照)。そしてこの吊下げ用フック9は、水平方向において吊下げ本体部11の重心位置に近いところに設けられる。
【0034】
リンクチェーン6は、半円弧部とこれに繋がる直線部からなる長円形の環が交差して交互に連接されたものであって、一端は係止部材8に繋がっていて、他端(無負荷側)はリンクチェーン収納部12に収納されている。
【0035】
昇降作動部7は、駆動源のモータ部2からの動力の伝達によって回転する回転部材と、係止部材8に接続されたリンクチェーン6を含んで構成される。本実施形態では昇降作動部7の回転部材は円筒の形状であって、回転出力軸3と繋がっていて、リンクチェーン6を巻回し、リンクチェーン6の巻上げ、送り出しを行う。リンクチェーン6が巻回される位置は、おおよそ吊下げ用フック9の鉛直下付近であって、吊下げ本体部11の重心位置に近いところに設けられる。リンクチェーン6は昇降作動部7の回転部材に設けられたポケット溝に嵌入されておおよそ180度ほど巻回される。本実施形態では係止部材8に繋がって昇降作動部7に巻回されるものにリンクチェーン6を用いたが、これに限らずワイヤーロープであっても良い。その際、昇降作動部7はドラム形状でワイヤーロープはその一端が固定されて回転部材に巻回される。
【0036】
モータ部2の反負荷側にはモータの回転角位置を検出する位置検出部4がモータ部2に連結されている。位置検出部4はいわゆるアブソリュートエンコーダであって、光学式にてモータの回転角位置を検出して位置信号を出力する。この位置検出部4は、係止部材8の繰出し位置すなわち昇降位置を検出することができる。
【0037】
重量検出部5は昇降作動部7に巻きつけられているリンクチェーン6から伝達される力を反力として検出できるように起歪体と起歪体に貼られた歪みゲージを備えている。歪みゲージは重量に応じて起歪体に生ずる歪みを電気信号に変換するホイートストーンブリッジ回路に組み込まれ、これによって重量検出部5は昇降作動部7に加わる重量を検出して重量値を出力する。
【0038】
そして第1の制御部10が昇降作動部7の近傍で吊下げ本体部11内に配置されている。第1の制御部10は、位置検出部4からの位置信号及び重量検出部5からの重量信号を基に、モータ部2を制御する。第1の制御部10をはじめとする電装部は、吊下げ本体部11を粉粒や水滴のかかる場所での使用も可能にするためにカバー内に配置されている。
【0039】
本実施形態では、位置検出部4はモータ部2の反負荷側に配置したがこれに限らず、減速機の出力である回転出力軸3や昇降作動部7に設けられても良く、また両方に設けられても良い。さらに光学式に限らず磁気式や静電容量式等であっても良い。
【0040】
また重量検出部5は係止部材8に加わる重量を検出できれば良く、減速機と昇降作動部7との間に設けた回転軸の捻れからトルクを検出するような回転型の構造や、モータ部2が受ける反力を検出する鼓型の構造のものであっても良い。さらに歪みゲージ式に限らず静電容量式等であっても良い。
【0041】
係止部材8は、本実施形態ではリンクチェーン6に接続されたフックと略コの字型をした部材で構成されている。略コの字型の部材天面にはフックが接続できるように例えば輪を有したボルトが取り付けられていて、一方で下方先端部には物品30の鍔を係止するように折れ曲がった形状の着脱部14が設けられている。物品30は、この係止部材8を水平方向Aに移動させることで着脱部14と係合することができ、係止部材8と着脱することが可能となる。
【0042】
図3から図5は本発明の実施形態に係る物品移動装置システム1の動作を示す模式図である。
【0043】
図3は、吊下げ本体部11が係止部材8にて床などの固定構造物31に置かれた物品30を持ち上げる以前の状態である。当接部材42は係止部材8を挟持していて、移動部40によって係止部材8を下方向へ動かそうとしている状態である。移動部40は当接部材42によって係止部材8を上下に移動させる力を発生させることが可能であってその荷重と向きは力検出部41によって検出することができる。第1の制御部10は、昇降作動部7に加わる荷重W1を重量検出部5からの出力を基に得て、第2の制御部43は当接部材42に加わる印加力が鉛直下方向の成分であることと、その成分値P1を力検出部41からの出力を基に得る。第1の制御部10は昇降作動部7に加わる荷重W1から当接部材42に加わる印加力のうち鉛直下方向の成分値P1を減算する。第1の制御部10は、この減算した値を制御対象の制御値として登録記憶する。そして第1の制御部10は制御値を正味の係止部材8の荷重とみなしてモータ部2を制御する。
【0044】
一方第2の制御部43は、当接部材42にて発生する印加力が移動部40で扱うことができる許容範囲内の所定値以下になるように、力検出部41にて検出した出力を基にして移動部40を各移動部モータ40a~40fによって制御する。
【0045】
したがって第1の制御部10が演算して生成した制御値に基づいてモータ部2を制御することよって、係止部材8はバランス状態となり、移動部40は当接部材42を介して係止部材8を軽微な力で動かすことができる。
【0046】
図4は係止部材8が物品30を持ち上げる直前の状態である。すなわち図3において移動部40が当接部材42を介して係止部材8を方向Bへ移動させ、係止部材8の着脱部14は物品30の鍔部付近に位置している。この移動に伴って、吊下げ本体部11もスライドブロック33によって水平移動する。この状態においては図3に示すものと同様に物品30は持ち上げられていないが、当接部材42は係止部材8を挟持しつつ、移動部40によって係止部材8を上方向へ動かして、係止部材8を物品30に係止させようとしている状態である。この時、昇降作動部7には荷重W2が加わり、当接部材42には鉛直上方向に印加力の成分値P2が生じる。第1の制御部10は、昇降作動部7に加わる荷重W2を重量検出部5からの出力を基に得て、第2の制御部43は当接部材42に加わる印加力が鉛直上方向の成分であることと、その成分値P2を力検出部41からの出力を基に得る。第1の制御部10は昇降作動部7に加わる荷重W2に当接部材42に加わる印加力のうち鉛直上方向の成分値P2を加算する。第1の制御部10は、この加算した値を制御対象の制御値として登録記憶する。そして第1の制御部10は制御値を正味の係止部材8の荷重とみなしてモータ部2を制御する。第1の制御部10は図3と同様の係止部材8のバランスを保つ制御を行う。なおこの移動部40の移動操作は作業者によって操作部44で行われても良いし、予めプログラミングされた動作に基づいて移動部40が実行しても良い。
【0047】
図5は係止部材8及び物品30が持ち上がった時の状態である。この後係止部材8及び物品30は、移動部40が係止部材8及び物品30の少なくとも一つを当接部材42にて当接させて動かすことで移動ができる。移動部40及び当接部材42により係止部材8及び物品30を下方に移動させる場合には、第1の制御部10は、昇降作動部7に加わる荷重W3を重量検出部5からの出力を基に得て、一方第2の制御部43は当接部材42に加わる印加力のうち鉛直下方向の成分値P3を力検出部41からの出力を基に得る。そして第1の制御部10は昇降作動部7に加わる荷重W3から当接部材42に加わる成分値P3を減算する。
【0048】
移動部40及び当接部材42により係止部材8及び物品30を上方に移動させる場合には、第1の制御部10は、昇降作動部7に加わる荷重W4を重量検出部5からの出力を基に得て、一方第2の制御部43は当接部材42に加わる印加力が上向きであることと、その成分値P4を力検出部41からの出力を基に得る。そして第1の制御部10は昇降作動部7に加わる荷重W4に当接部材42に加わる成分値P4を加算する。
【0049】
そして第1の制御部10は、この減算若しくは加算した結果の値が正味の係止部材8及び物品30の重量とみなして登録記憶し、モータ部2を制御する。したがって常に係止部材8及び物品30はバランス状態となっていて、当接部材42を移動部40で軽微な力で動かすことで係止部材8及び物品30を昇降させることが可能である。
【0050】
一方第2の制御部43は、当接部材42にて発生する印加力が移動部40で扱うことができる許容範囲内の所定値以下になるように、力検出部41にて検出した出力を基に移動部40を制御する。したがって移動部40は、たとえ係止部材8と物品30が移動部40の扱える重量範囲を越えたものであっても、移動部40の許容範囲内での印加力の制御により物品30の移動作業を行うことができる。
【0051】
ゆえに、移動部が扱うことができる重量を越えたものであっても、吊下げ本体部による物品の持ち上げのアシストが行われることから、移動部の大型化を必要とせずに物品の移動作業を行うことができる。そして、吊下げ本体部に重量検出部、移動部の先端の当接部材付近に力検出部をそれぞれ備えているので、移動部が係止部材及び物品に加える外力の鉛直方向の成分を除去し、正味の係止部材及び物品の重量を検出できることから、吊下げ本体部による係止部材及び物品のバランス制御が可能となる。
【0052】
以上、本発明を好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の活用例として、物品の移動を行う物品移動装置への適用が可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 :物品移動装置システム
2 :モータ部
3 :回転出力軸
4 :位置検出部
5 :重量検出部
6 :リンクチェーン
7 :昇降作動部
8 :係止部材
9 :吊下げ用フック
10 :第1の制御部
11 :吊下げ本体部
12 :リンクチェーン収納部
14 :着脱部
22 :操作部
30 :物品
31 :固定構造物
32 :レール
33 :スライドブロック
40 :移動部
40a~40f :移動部モータ
41 :力検出部
42 :当接部材
43 :第2の制御部
44 :操作部
45 :ケーブル


図1
図2
図3
図4
図5