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特許7450983サイトカインストーム又は炎症性疾患を抑制するために改善された細胞透過性核輸送阻害剤合成ペプチド及びその用途
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】サイトカインストーム又は炎症性疾患を抑制するために改善された細胞透過性核輸送阻害剤合成ペプチド及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20240311BHJP
   A61K 38/10 20060101ALI20240311BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20240311BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240311BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20240311BHJP
   C07K 7/08 20060101ALI20240311BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
C07K19/00
A61K38/10 ZNA
A61K38/16
A61P29/00
A61P37/06
C07K7/08
C07K14/47
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2022540791
(86)(22)【出願日】2021-02-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-06
(86)【国際出願番号】 KR2021001976
(87)【国際公開番号】W WO2021167324
(87)【国際公開日】2021-08-26
【審査請求日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】62/977,832
(32)【優先日】2020-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517051898
【氏名又は名称】セリベリー セラピューティクス,インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【弁理士】
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201732
【弁理士】
【氏名又は名称】松縄 正登
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【弁理士】
【氏名又は名称】伊佐治 創
(74)【代理人】
【識別番号】100227019
【弁理士】
【氏名又は名称】安 修央
(72)【発明者】
【氏名】ジョ、デウォン
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-514852(JP,A)
【文献】国際公開第2018/232383(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0309159(US,A1)
【文献】特表2017-527280(JP,A)
【文献】国際公開第2017/026779(WO,A1)
【文献】特表2018-524994(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0137482(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 19/00
A61K 38/10
A61K 38/16
A61P 29/00
A61P 37/06
C07K 7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイトカインストーム又は炎症性疾患を抑制するために改善された細胞透過性核輸送阻害剤(iCP-NI)合成ペプチドであって、
前記iCP-NI合成ペプチドは、NF-κB核局在化配列(NLS)及びaMTD(advanced macromolecule transduction domain)からなり
前記NF-κB NLSは、配列番号1のアミノ酸配列を含み、
前記aMTDは、配列番号2~6からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、iCP-NI合成ペプチド。
【請求項2】
前記iCP-NI合成ペプチドは、SRTF(stress-responsive transcription factor)核輸送を阻害するものである、請求項1に記載のiCP-NI合成ペプチド。
【請求項3】
前記SRTFは、NF-κB(nuclear factor κB)、NFAT(nuclear factor of activated T cells)、AP1(activator protein 1)、STAT1(signal transducer and activator of transcription 1)、又はNrf2(nuclear factor erythroid 2-related factor 2)である、請求項に記載のiCP-NI合成ペプチド。
【請求項4】
前記炎症性疾患は、自己免疫疾患(autoimmune disease)、移植片拒絶(graft rejection)、多発性硬化症(multple sclerosis)、膵炎(pancreatitis)、急性気管支炎(acute bronchits)、慢性気管支炎(chronic bronchitis)、急性細気管支炎(acute bronchiolitis)、慢性細気管支炎(chronic bronchiolitis)、敗血症(sepsis)、敗血症性ショック(septic shock)、急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome)、多臓器不全(multiple organ failure)、又は慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease)を含む、請求項1に記載のiCP-NI合成ペプチド。
【請求項5】
前記自己免疫疾患は、関節リウマチ(rheumatoid arthritis)、乾癬(psoriasis)、アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis)、クローン病(Crohn’s disease)、炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease)、シェーグレン症候群(Sjorgen’s syndrome)、視神経炎(optic neuritis)、慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease)、喘息(asthma)、I型糖尿病(type I diabetes)、視神経脊髄炎(neuromyelitis optica)、重症筋無力症(Myasthenia Gavis)、ブドウ膜炎(uveitis)、ギラン・バレー症候群(Guillain-Barre syndrome)、乾癬性関節炎(psoriatic arthritis)、Gaves病(Gaves’ disease)、又はアレルギー(allergy)を含む、請求項に記載のiCP-NI合成ペプチド。
【請求項6】
請求項1~のうちのいずれか1項に記載のiCP-NI合成ペプチドを含む、サイトカインストーム又は炎症性疾患の予防又は治療のための薬学的組成物。
【請求項7】
前記サイトカインストーム又は炎症性疾患は、ウイルス(viruses)、バクテリア(bacteria)、真菌(fungi)、又は寄生虫(parasites)による炎症性感染により誘発される、請求項に記載の薬学的組成物。
【請求項8】
前記ウイルスは、コロナウイルス(coronavirus)、インフルエンザウイルス(influenza virus)、ハンタウイルス(Hantavirus)、フラビウイルス(flavivirus)、エプスタインバールウイルス(Epstein-Barr virus)、ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus)、エボラウイルス(Ebola virus)、レトロウイルス(retrovirus)、又はバリオラウイルス(variola virus)を含む、請求項に記載の薬学的組成物。
【請求項9】
前記バクテリア感染は、菌血症(bacteremia)、細菌性敗血症(bacterial sepsis)、肺炎(pneumonia)、蜂窩織炎(cellulitis)、髄膜炎(meningitis)、丹毒(erysipelas)、感染性心内膜炎(infective endocarditis)、壊死性筋膜炎(necrotizing fasciitis)、前立腺炎(prostatitis)、偽膜性大腸炎(pseudomembranous colitis)、腎盂腎炎(pyelonephritis)、又は敗血性関節炎(septic arthritis)を含む、請求項に記載の薬学的組成物。
【請求項10】
前記真菌は、アスペルギルス(Aspergillis)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、又はクリプトコックス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)を含む、請求項に記載の薬学的組成物。
【請求項11】
前記寄生虫は、熱帯熱原虫(Plasmodium falciparum)を含む、請求項に記載の薬学的組成物。
【請求項12】
抗生剤(antibiotic)、抗ウイルス剤(anti-viral agent)、抗HIV剤(anti-HIV agent)、抗寄生虫剤(anti-parasite agent)、抗原虫剤(anti-protozoal agent)、ステロイド剤(steroidal agent)、ステロイド性又は非ステロイド性抗炎症剤(steroidal or non-steroidal anti-inflammatory agent)、抗ヒスタミン剤(antihistamine)、免疫抑制剤(immunosuppressant agent)、又はこれらの組み合わせをさらに含む、請求項に記載の薬学的組成物。
【請求項13】
前記抗生剤は、セファロスポリン系(cephalosporin series)、β-ラクタム系(beta-lactam series)、β-ラクタム/β-ラクタマーゼ阻害剤系(beta-lactam/beta-lactamase inhibitor series)、キノロン系(quinolone series)、グリコペプチド系(glycopeptide series)、カルバペネム系(carbapenem series)、アミノグリコシド系(aminoglycoside series)、マクロライド系(macrolide series)、サルファ剤系(sulfa drug series)、アズトレオナム(aztreonam)、クリンダマイシン(clindamycin)、チゲサイクリン(tigecycline)、コリスチンメタンスルホン酸ナトリウム(colistin sodium methanesulfonate)、メトロニダゾール(metronidazole)、スピラマイシン(spiramycin)、又はこれらの組み合わせを含む、請求項12に記載の薬学的組成物。
【請求項14】
前記炎症性疾患は、自己免疫疾患、移植片拒絶、多発性硬化症、膵炎、急性気管支炎、慢性気管支炎、急性細気管支炎、慢性細気管支炎、敗血症、敗血症性ショック、急性呼吸窮迫症候群、多臓器不全、又は慢性閉塞性肺疾患を含む、請求項に記載の薬学的組成物。
【請求項15】
前記自己免疫疾患は、関節リウマチ(rheumatoid arthritis)、乾癬(psoriasis)、アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis)、クローン病(Crohn’s disease)、炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease)、シェーグレン症候群(Sjorgen’s syndrome)、視神経炎(optic neuritis)、慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease)、喘息(asthma)、I型糖尿病(type I diabetes)、視神経脊髄炎(neuromyelitis optica)、重症筋無力症(Myasthenia Gavis)、ブドウ膜炎(uveitis)、ギラン・バレー症候群(Guillain-Barre syndrome)、乾癬性関節炎(psoriatic arthritis)、Gaves病(Gaves’ disease)、又はアレルギー(allergy)を含む、請求項14に記載の薬学的組成物。
【請求項16】
請求項1~のうちのいずれか1項に記載のiCP-NI合成ペプチドを対象体に投与するステップを含む、サイトカインストーム又は炎症性疾患の予防又は治療方法(但し、ヒトに対する医療行為を除く。)
【請求項17】
前記iCP-NI合成ペプチドは、抗生剤(antibiotic)、抗ウイルス剤(anti-viral agent)、抗HIV剤(anti-HIV agent)、抗寄生虫剤(anti-parasite agent)、抗原虫剤(anti-protozoal agent)、ステロイド剤(steroidal agent)、ステロイド性又は非ステロイド性抗炎症剤(steroidal or non-steroidal anti-inflammatory agent)、抗ヒスタミン剤(antihistamine)、免疫抑制剤(immunosuppressant agent)、又はこれらの組み合わせと併用して投与される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記抗生剤は、セファロスポリン系(cephalosporin series)、β-ラクタム系(beta-lactam series)、β-ラクタム/β-ラクタマーゼ阻害剤系(beta-lactam/beta-lactamase inhibitor series)、キノロン系(quinolone series)、グリコペプチド系(glycopeptide series)、カルバペネム系(carbapenem series)、アミノグリコシド系(aminoglycoside series)、マクロライド系(macrolide series)、サルファ剤(sulfa drug series)、アズトレオナム(aztreonam)、クリンダマイシン(clindamycin)、チゲサイクリン(tigecycline)、コリスチンメタンスルホン酸ナトリウム(colistin sodium methanesulfonate)、メトロニダゾール(metronidazole)、スピラマイシン(spiramycin)、又はこれらの組み合わせを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記投与は、静脈内(intravenous)、非経口(parenteral)、経皮(transdermal)、皮下(subcutaneous)、筋肉内(intramuscular)、頭蓋内(intracranial)、眼窩内(intraorbital)、眼内(intraocular)、脳室内(intraventricular)、被膜内(intracapsular)、髄腔内(intrathecal)、槽内(intracisternal)、腹腔内(intraperitoneal)、鼻腔内(intranasal)、直腸内(intrarectal)、膣内(intravaginal)、噴霧(spraying)、経口(oral)投与を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記サイトカインストーム又は炎症性疾患は、ウイルス、バクテリア、真菌、又は寄生虫による炎症性感染により誘発される、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
前記サイトカインストーム又は炎症性疾患は、外傷(trauma)、負傷(injury)、火傷(burns)、毒素(toxins)、又は発癌物質(carcinogens)により誘発される、請求項16に記載の方法。
【請求項22】
前記炎症性疾患は、自己免疫疾患、移植片拒絶、多発性硬化症、膵炎、急性気管支炎、慢性気管支炎、急性細気管支炎、慢性細気管支炎、敗血症、敗血症性ショック、急性呼吸窮迫症候群、多臓器不全、又は慢性閉塞性肺疾患を含む、請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイトカインストーム(cytokine storm)又は炎症性疾患(inflammatory desease)を抑制するために改善された細胞浸透性核輸送阻害剤(cell-permeable nuclear import inhibitor)(iCP-NI)合成ペプチドに関するものであり、細胞透過性核輸入阻害剤(CP-NI、cSN50.1ペプチド)に、TSDT(therapeuticmolecule system delivery technology)を基盤とするaMTD(advanced macromolecule transduction domain)を導入し、溶解性及び安定性が向上した。本発明に係る改善された細胞透過性核輸入阻害剤合成ペプチドは、優れた細胞透過性を基に、NF-κBを含むストレス応答性転写因子(stress-responsive transcription factors)(SRTFs)により媒介されるシグナル伝達をより効率的に遮断し、従って、サイトカインストーム又は炎症性疾患に対する優れた予防又は治療剤として使用可能である。
【背景技術】
【0002】
炎症反応とは、微生物感染や外部ダメージから生体を保護するための防御メカニズムを意味する。炎症の目的は、初期に細胞のダメージを抑制し、ダメージを受けた組織や壊死細胞を傷部から除去すると同時に組織再生を開始させることにある。炎症自体は、疾病ではなく、生命体に必要な自己防衛システム(self-defense system)に該当する。しかし、身体の防御システムが過度に活性化されると、統制されない免疫反応が原因で「サイトカインストーム」と呼ばれる現象が発生する。サイトカインストームは、身体全体に激しい炎症反応が起こり、結果的に血管拡張、発熱、肝臓からの急性期蛋白質(acute phase proteins)の放出、炎症性病巣(foci)への白血球招集、また、酷い場合は、低血圧と臓器不全(organ failure)により患者が死亡することになる。また、過度な炎症とサイトカインストームは、様々な炎症性疾患の原因として知られている。
【0003】
炎症性疾患の一つである敗血症(sepsis)は、バクテリアやウイルス感染、酷い外傷などにより発生する症状であり、身体に侵入した病原体に由来する病原体関連分子パターン(pathogen-associated molecule pattern)(PAMP)、又はダメージを受けた組織に由来するダメージ関連分子パターン(damage-associated molecule pattern)(DAMP)のような原因物質は、マクロファージ及びサイトカインストームのような自己防御システムの過度な活性化を誘発する。このような過度な全身炎症反応は、循環系異常を誘発し、毛細血管漏出による血管透過性の増加で血圧が下がり、結局、全身の複数の臓器への血液供給が不足して多臓器不全(multiple organ failure)(MOF)を誘発する。敗血症は、致死率が約30%の代表的な難治性疾患であり、世界的に毎年2,700万人の患者が発生する。敗血症は、癌と心臓病に次いで世界で3番目に高い死亡原因と言われている。従って、身体と細胞の炎症反応を抑制し、サイトカインストームを遮断することを敗血症治療の目標とする必要がある。
【0004】
また、2019年12月にコロナウイルス疾患の原因病原体である重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(Severe acute respiratory syndrome coronavirus 2)(SARS-CoV-2)が最初報告された。
【0005】
2019年12月に中国武漢でCOVID-19の初期事例が報告されて以来(Huang,C.et al. Clinical features of patients infected with 2019 novel coronavirus in Whhan,China.Lancet 395,497-506(2020))、SARS-CoV-2は、医療システムを圧倒して脅威となるような侵襲的外部換気(invasive external ventilation)を必要とする重症事例の数が増加し続け、世界的大流行として浮上した(World Health Organization.Coronavirus disease(COVID-2019) situation reports.See website made up of “https://www.” before “who.int/emergencies/disease/novel-coronavirus-2019/situation-reports”)。COVID-19患者が無症状から重症まで様々な臨床結果を経験する理由は、まだ明らかではないが、COVID-19の病因及び死亡率の著しい特徴は、蔓延した炎症とARDSに繋がるCRSである(Mehta,P.et al.COVID-19:consider cytokine storm syndromes and immunosuppression.Lancet 395,1033-1034(2020);Qin,C.et al.Dysregulation of immune response in patients with COVID19 in Wuhan,China.Clin.Infect.Dis.(2020))。実際に、肺への過度な免疫細胞の浸透(immune cell infiltration)、サイトカインストーム及びARDSは、密接に関連したベータコロナウイルス属SARS-CoVに感染したヒトの重症疾病の特徴を定義するものと既に説明されている。
【0006】
一方、炎症誘発シグナルの増幅は、核内因子κB(NF-κB)、活性蛋白質1(AP-1)、シグナル変換器及び転写活性剤(STAT)を含む、限られた数の転写因子(ここでは、ストレス応答性因子、SRTFと指定されている)と、PRR及び炎症誘発性サイトカイン受容体により開始されたシグナルに反応し、サイトカイン及びその他の炎症性遺伝子の発現を調節するものである活性化されたT細胞の核因子(nuclear factor of activated T cells)(NFAT)に依存する。炎症に素早く反応するため、先天免疫系(innate immune system)の細胞は、不活性状態で細胞質に隔離されたSRTFsのプール(pool)を維持する。SRTFsは、NLS(nuclear localization sequence)を露出するリン酸化依存的変化により活性化され、蛋白質が核に移動できるようにする。NF-κBは、抑制蛋白質(IkB)のリン酸化により活性化される;AP-1及びSTAT1/3は、リン酸化により活性化され、NFAT1は、脱リン酸化により活性化される。
【0007】
以前の研究では、SRTF核輸送を標的にして炎症反応を抑制する可能性をテストした。各転写因子のNLSが同一の輸送アダプタ蛋白質であるImportin-5αにより認識されるという事実により作業が単純化された。細胞透過性ペプチド(cSN50.1)は、4つのSRTF全ての核輸入を競争的に抑制し、サイトカイン遺伝子発現の脂質多糖類(LPS)依存的活性化を遮断するため、十分な数のNLS配列を細胞に伝達して合成された。さらに、cSN50.1は、致死量のLPS及びその他の染症誘発作用剤で攻撃されたマウスを保護することができた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者等は、既存の細胞透過性核輸送阻害剤(CP-NI,cSN50.1ペプチド)の限界を克服するために多くの努力を傾けた結果、CP-NIに、TSDT(therapeuticmolecule systemic delivery techology)に基づくaMTD(advanced macromolecule transduction domain)を導入することにより、溶解性及び安定性が向上されることを見出し、本発明を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、サイトカインストーム又は炎症性疾患を抑制するために改善された細胞透過性核輸送阻害剤(iCP-NI)合成ペプチドを提供することにあり、iCP-NI合成ペプチドは、NF-κB NLS及びaMTDを含み、前記NF-κB NLSは、配列番号1のアミノ酸配列を含み、前記aMTDは、配列番号2~6からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。本発明に係るiCP-NI合成ペプチドは、impotin αと結合してNF-κBを含むSRTF(stress-responsive transcription factor)の核内移動を抑制することにより、サイトカインストームの発生を事前に防止することができる。
【0010】
発明の他の目的は、iCP-NI合成ペプチドを含む、サイトカインストーム又は炎症性疾患の予防又は治療のための薬学的組成物を提供することにある。
【0011】
本発明のまた他の目的は、NF-κB NLS及びaMTDを含むiCP-NI合成ペプチドを対象体に投与するステップを含む、サイトカインストーム又は炎症性疾患の予防又は治療方法を提供することにある。
【発明の効果】
【0012】
本発明による改善された細胞透過性核輸送阻害剤(iCP-NI)合成ペプチドは、優れた細胞透過性に基づき、NF-κBを含むSRTFにより媒介されるシグナル伝達をより効率的に遮断し、従って、iCP-NI合成ペプチドは、サイトカインストーム又は炎症性疾患に対する優れた予防又は治療剤として使用可能であるものと期待される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、LPS/D-Gal急性肝障害モデルの生存率に関するaMTDs-NLSsペプチドの効果を示す。
図2図2は、線状(INIS)又は円状(cNLS)形態の単独NLS配列がLPS/D-Gal急性肝障害モデルの生存率に及ぼす影響を示す。
図3図3は、LPS/D-Gal急性肝障害モデルの生存率に関するaMTD827-cNLSの静脈内(IV)又は腹腔内(IP)投与の効果を示す。
図4図4は、LPS/D-Gal急性肝障害モデルの生存率に関するcSN50.1ペプチドの効果を示す。
図5図5は、LPS/D-Gal急性肝障害モデルの生存率に関するiCP-NIの治療効果を示す。
図6図6は、25℃で3ヶ月以上におけるiCP-NIの安定性を示す。
図7図7は、表面プラズモン共鳴(surface plasmon resonance )により評価されたように、Improtin-a5に結合するiCP-NIの能力を示す。
図8図8は、培養されたRAW264.7細胞においてフルオレセインイソチオシアン酸塩(fluorescein isothiocyanate)(FITC)が結合されたiCP-NIに関するフローサイトメトリー解析結果を示す。
図9図9は、肺、脳、心臓、肝臓、脾臓及び腎臓におけるFITC-iCP-NIの分布を示す。
図10図10は、肺組織においてFITC-iCP-NIの薬物動態(pharmacokinetic)を示す。
図11図11は、核及び細胞質分画のウエスタンブロット解析(Western Blot analysis)によるNF-κB、AP-1及びSTAT3の核内移動に対するiCP-NIの効果を示す。
図12図12は、免疫染色によるNF-κB、AP-1及びSTAT3のiCP-NIの核内移動抑制効果を示す。
図13図13は、核及び細胞質分画物のウエスタンブロット解析によるNF-κB、STAT1/3、AP-1及びNFATのiCP-NIの核内移動抑制効果を示す。
図14図14は、免疫染色によるNF-κB、STAT1/3、AP-1及びNFATのiCP-NIの核内移動抑制効果を示す。
図15図15は、LPS/D-Gal急性肝障害モデルの生存率に関するiCP-NIの効果を示す。
図16図16は、TNF-α、IL-6及びIL-10の発現に対するiCP-NIの効果を示す。
図17図17は、肝障害及び大規模肝細胞のアポトーシス(apoptosis)に対するiCP-NIの効果を示す。
図18図18は、LPS/Poly I:C誘導肺炎モデルにおいてiCP-NIが生存率に与える影響を示す。
図19図19は、LPS/Poly I:C誘導肺炎モデルにおいて肺組織学に対するiCP-NIの効果を示す。
図20図20は、肺胞障害程度に対するiCP-NIの効果を示す。
図21図21は、CLP誘導腹膜炎モデルにおいてiCP-NIが生存率に及ぼす影響を示す。
図22図22は、CS誘発腹膜炎モデルにおいてiCP-NIが生存率に及ぼす影響を示す。
図23図23は、LPS吸入誘導急性肺炎モデルにおいて肺組織学に対するiCP-NIの効果を示す。
図24図24は、Poly I:C吸入-誘導急性肺炎モデルにおいて肺組織学に対するiCP-NIの効果を示す。
図25図25は、LPS吸入誘導急性肺炎モデルにおいてBALFの細胞数に対するiCP-NIの効果を示す。
図26図26は、Poly I:C吸入誘導急性肺炎モデルにおいて肺組織からのiCP-NIの炎症誘発性サイトカイン(pro-inflammatory cytokines)(IL-12、TNF-α、IL-6及びMCP-1)抑制効果を示す。
図27図27は、LPS/Poly I:Cで刺激されたRAW264.7細胞においてiCP-NIの感染誘発性サイトカイン(TNF-α、IL-6、IL-1β)抑制効果を示す。
図28図28は、Poly I:C/SEB全身炎症モデルにおいて肝臓及び脾臓の好中球浸潤(infiltration)及び好中球数に対するiCP-NIの効果を示す。
図29図29は、Poly I:C/SEB全身炎症モデルにおいて肺の肺胞体積に対するiCP-NIの効果を示す。
図30図30は、アポトーシス脾臓細胞に対するiCP-NIの効果を示す。
図31図31は、マイクロCTによる肺線維症のマウスBLM誘導モデルに対するiCP-NIの効果を示す。
図32図32は、肺線維症のマウスBLM誘導モデルに対するiCP-NIの効果を示す。
図33図33は、SARS-CoV-2感染サルモデルのO飽和度、呼吸数、心拍数、及び体温に対するiCP-NIの効果を示す。
図34図34は、血漿のIFN-γ及びBalfのMCP-1の水準に対するiCP-NIの効果を示す。
図35図35は、SARS-CoV-2感染サルモデルのウイルス力価(viral tilter)に対するiCP-NIの効果を示す。
図36図36は、SARS-CoV-2感染サルモデルの肺において免疫細胞の浸潤、増殖、出血、及び線維症に対するiCP-NIの効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の具体的な実施例に係るサイトカインストーム又は炎症性疾患を抑制するための改善された細胞透過性核輸入阻害剤合成ペプチド、NF-κB核局在化配列及びaMTDを含む改善された細胞透過性核輸入阻害剤合成ペプチド、サイトカインストーム又は炎症性疾患の予防又は治療のための薬学的組成物、改善された細胞透過性核輸入阻害剤合成ペプチドを含む薬学的組成物、及びサイトカインストーム又は炎症性疾患の予防又は治療方法を詳細に説明する。但し、これは例示のための実施例に過ぎず、本発明の範囲がこれらによって限定されることはなく、本発明の範囲内で種々に変更できることは当業者にとって明らかである。
【0015】
「含有する(include)」又は「含む(comprise)」の用語は、本明細書全体にわたって、他に述べられない限り、特に制限なく特定の構成(又は、要素)を含むことを意味し、他の構成(又は、要素)の追加を排除するものとは解釈されない。
【0016】
本発明で使用された用語「アミノ酸」とは、最も広い意味で自然発生したL-α-アミノ酸又はその残基だけでなく、D-アミノ酸、及び化学的に変形したアミノ酸を含む。例えば、アミノ酸は、前述したアミノ酸の模倣体及び類似体を含むことができる。本開示において、模倣体及び類似体には、機能的等価物が含まれる。
【0017】
本発明で使用された用語「炎症」とは、一般的に異物又は有害な刺激による宿主侵入に対する身体組織の局部的保護反応の結果である。このような炎症の原因は、バクテリア、ウイルス、寄生虫などの感染性原因、火傷や放射線などの物理的原因、又は毒素、薬物や産業用試薬のような化学物質、又はアレルギー及び自己免疫反応のような免疫反応、又は酸化ストレスに関連した異常状態が挙げられる。
【0018】
本発明で使用された「予防」という用語は、本発明により改善された細胞透過性核輸送阻害剤合成ペプチド(cell-permeable nuclear import inhibitor syntehtic peptide)を投与することで、サイトカインストーム又は炎症性疾患の発生を抑制又は遅延させる全ての作用を意味し、また、「治療」という用語は、本発明により改善された細胞透過性核輸送阻害剤合成ペプチドを投与することで、サイトカインストーム又は炎症性疾患の症状が改善、又は有利に変形する全ての作用を意味する。
【0019】
本発明で使用された「投与」するとは、任意の好適な方式で対象体に本発明の予め決定された薬学的組成物を提供することを意味する。
【0020】
本発明で使用された用語「対象体」とは、サイトカインストーム又は炎症性疾患が発症又は発症する可能性のあるヒトを含む全ての動物を意味する。動物には、ヒトのみならず、類似症状の治療を必要とする牛、馬、羊、豚、山羊、ラクダ、羚羊、犬又は猫が含まれるが、これらに制限されない。
【0021】
第1の実施例によれば、本発明は、サイトカインストーム又は炎症性疾患を抑制するための改善された細胞透過性核輸送阻害剤(iCP-NI)合成ペプチド、NF-κB核局在化配列(NLS)及びaMTDを含む、改善された細胞透過性核輸送阻害剤合成ペプチドを提供する。
【0022】
本発明の改善された細胞透過性核輸送阻害剤合成ペプチドと関連して、NF-κB NLSは、線状NF-κB NLS及び2つの追加システインを有する円状NLSであり得る。本発明の改善された細胞透過性核輸送阻害剤合成ペプチドと関連して、円状NF-κB核局在化配列番号1のアミノ酸配列を含むことができる。
【0023】
本発明の改善された細胞透過性核輸送阻害剤合成ペプチドにおいて、aMTDは、配列番号2~6からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むことができる。
【0024】
本発明の改善された細胞透過性核輸送阻害剤合成ペプチドと関連して、改善された細胞透過性核輸送阻害剤合成ペプチドは、ストレス応答性転写因子(SRTFs)の核輸送を抑制することができる。
【0025】
例えば、SRTFは、NF-κB(nuclear factor κB)、NFAT(nuclear factor of activated T cells)、AP1(activator protein 1)、STAT1(signal transducer and activator of transcription 1)、又はNrf2(nuclear factor erythroid 2-related factor 2)であり得る。
【0026】
本発明の改善された細胞透過性核輸送阻害剤合成ペプチドについて、サイトカインストームには、自己免疫疾患(autoimmune disease)、移植片拒絶(graft rejection)、多発性硬化症(multple sclerosis)、膵炎(pancreatitis)、急性気管支炎(acute bronchits)、慢性気管支炎(chronic bronchitis)、急性細気管支炎(acute bronchiolitis)、慢性細気管支炎(chronic bronchiolitis)、敗血症(sepsis)、敗血症性ショック(septic shock)、急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome)、多臓器不全(multiple organ failure)、又は慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease)を誘発することがある。例えば、自己免疫疾患には、関節リウマチ(rheumatoid arthritis)、乾癬(psoriasis)、アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis)、クローン病(Crohn’s disease)、炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease)、シェーグレン症候群(Sjorgen’s syndrome)、視神経炎(optic neuritis)、慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease)、喘息(asthma)、I型糖尿病(type I diabetes)、視神経脊髄炎(neuromyelitis optica)、重症筋無力症(Myasthenia Gavis)、ブドウ膜炎(uveitis)、ギラン・バレー症候群(Guillain-Barre syndrome)、乾癬性関節炎(psoriatic arthritis)、Gaves病(Gaves’ disease)、又はアレルギー(allergy)が含まれるが、これらに制限されない。
【0027】
第2の実施例によれば、本発明は、NF-κB NLS及びaMTDを含む改善された細胞透過性核輸送阻害剤(iCP-NI)合成ペプチドを含む、サイトカインストーム又は炎症性疾患の予防又は治療のための薬学的組成物を提供する。
【0028】
本発明に係るサイトカインストーム又は炎症性疾患の予防又は治療のための薬学的組成物において、NF-κB NLSは、線状NF-κB NLS及び2つの追加システインを有する円状NLSであり得る。
【0029】
本発明に係るサイトカインストーム又は炎症性疾患の予防又は治療のための薬学的組成物において、円状NF-κB NLSは、配列番号1のアミノ酸配列を含むことができる。
【0030】
本発明に係るサイトカインストーム又は炎症性疾患の予防又は治療のための薬学的組成物において、aMTDは、配列番号2~6からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むことができる。
【0031】
本発明に係るサイトカインストーム又は炎症性疾患の予防又は治療のための薬学的組成物において、改善された細胞透過性核輸送阻害剤合成ペプチドは、ストレス応答性転写因子(SRTF)の核輸送を抑制することができる。例えば、SRTFは、NF-κB(nuclear factor κB)、NFAT(nuclear factor of activated T cells)、AP1(activator protein 1)、STAT1(signal transducer and activator of transcription 1)、又はNrf2(nuclear factor erythroid 2-related factor 2)であり得る。
【0032】
本発明に係るサイトカインストーム又は炎症性疾患の予防又は治療のための薬学的組成物において、サイトカインストーム又は炎症性疾患は、ウイルス、バクテリア、カビ、又は寄生虫による炎症性感染により誘発され得る。炎症性感染は、ウイルス、バクテリア、真菌又は寄生虫により誘発され得る。例えば、ウイルスには、コロナウイルス(coronavirus)、インフルエンザウイルス(influenza virus)、ハンタウイルス(Hantavirus)、フラビウイルス(flavivirus)、エプスタインバールウイルス(Epstein-Barr virus)、ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus)、エボラウイルス(Ebola virus)、レトロウイルス(retrovirus)、又は痘瘡ウイルス(variola virus)が含まれるが、これらに制限されない。コロナウイルスは、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)であり得る。バクテリア感染には、菌血症(bacteremia)、細菌性敗血症(bacterial sepsis)、肺炎(pneumonia)、蜂窩織炎(cellulitis)、髄膜炎(meningitis)、丹毒(erysipelas)、感染性心内膜炎(infective endocarditis)、壊死性筋膜炎(necrotizing fasciitis)、前立腺炎(prostatitis)、偽膜性大腸炎(pseudomembranous colitis)、腎盂腎炎(pyelonephritis)、又は敗血性関節炎(septic arthritis)が含まれるが、これらに制限されない。バクテリア感染は、野兎病菌(Francisella tularensis)、連鎖球菌(Streptococcus spp.)、ブドウ球菌(staphylococcus spp.)、サルモネラ属菌(Salmonella spp.)、シュードモナス属菌(Pseudomonas spp.)、クロストリジウム属菌(Clostridium spp.)、ビブリオ属菌(Vibrio spp.)、マイコバクテリウム属菌(Mycobacterium spp.)、又はヘモフィルス属菌(Haemophilus spp.)により誘発され得るが、これらに制限されない。前記真菌には、アスペルギルス(Aspergillis)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、又はクリプトコックス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)が含まれるが、これらに制限されない。前記寄生虫には、熱帯熱原虫(Plasmodium falciparum)のようなマラリア寄生虫が含まれるが、これらに制限されない。
【0033】
本発明に係るサイトカインストーム又は炎症性疾患の予防又は治療のための薬学的組成物において、前記サイトカインストーム又は炎症性疾患は、外傷、傷害、毒素又は発癌性物質により誘発され得る。毒素には、リポ多糖誘発毒素(lipopolysaccharide-induced toxins)、スーパー抗原誘発毒素(superantigen-induced toxins)(例えば、ブドウ球菌腸毒素A又はB(Staphylococcal enterotoxin A or B)、連鎖球菌発熱毒素(streptococcal pyrogenic toxin)及びM蛋白質(M protein)、又はバクテリアにより生成される全てのスーパー抗原)、植物性毒素(plant toxins)(例えば、ポイズン・アイビー(poison ivy))、ニッケル(nickel)、ラテックス(latex)、環境毒素(environmental toxins)(例えば、ポイズン(poisions))、又はアレルギーが含まれるが、これらに制限されない。
【0034】
本発明に係るサイトカインストーム又は炎症性疾患の予防又は治療のための薬学的組成物において、サイトカインストームは、例えば、自己免疫疾患、移植片拒絶、多発性硬化症、膵炎、急性気管支炎、慢性気管支炎、急性細気管支炎、慢性細気管支炎、敗血症、敗血症性ショック、急性呼吸窮迫症候群、多臓器不全、又は慢性閉塞性肺疾患のような炎症性感染を誘発することがある。例えば、自己免疫疾患には、関節リウマチ、乾癬、アトピー性皮膚炎、クローン病、炎症性腸疾患、シェーグレン症候群、視神経炎、慢性閉塞性肺疾患、喘息、I型糖尿病、視神経脊髄炎、重症筋無力症、ブドウ膜炎、ギラン・バレー症候群、乾癬性関節炎、Gaves病、又はアレルギーが含まれるが、これらに制限されない。
【0035】
本発明に係るサイトカインストーム又は炎症性疾患の予防又は治療のための薬学的組成物において、薬学的組成物には、抗生剤(antibiotic)、抗ウイルス剤(anti-viral agent)(例えば、レムデシビル(remdesivir))、抗HIV剤(anti-HIV agent)、抗寄生虫剤(anti-parasite agent)、抗原虫剤(anti-protozoal agent)、ステロイド剤(steroidal agent)、ステロイド性又は非ステロイド性抗炎症剤(steroidal or non-steroidal anti-inflammatory agent)、抗ヒスタミン剤(antihistamine)(例えば、ジフェンヒドラミン(diphenhydramine))、免疫抑制剤(immunosuppressant agent)、又はこれらの組み合わせがさらに含まれる。例えば、抗生剤には、セファロスポリン系(cephalosporin series)、β-ラクタム系(beta-lactam series)、β-ラクタム/β-ラクタマーゼ阻害剤系(beta-lactam/beta-lactamase inhibitor series)、キノロン系(quinolone series)、グリコペプチド系(glycopeptide series)、カルバペネム系(carbapenem series)、アミノグリコシド系(aminoglycoside series)、マクロライド系(macrolide series)、サルファ剤系(sulfa drug series)、アズトレオナム(aztreonam)、クリンダマイシン(clindamycin)、チゲサイクリン(tigecycline)、コリスチンメタンスルホン酸ナトリウム(colistin sodium methanesulfonate)、メトロニダゾール(metronidazole)、スピラマイシン(spiramycin)、又はこれらの組み合わせが含まれるが、これらに制限されない。セファロスポリン系抗生剤には、セファゾリン(cefazolin)、セフカペンピボキシル(cefcapene pivoxil)、セフポドキシムプロキセチル(cefpodoxime proxetil)、セフラジン(cephradine)、セフトリアキソン(ceftriaxone)、セフブペラゾン(cefbuperazone)、セフォタキシム(cefotaxime)、セフミノクス(cefminox)、セフタジジム(ceftazidime)、セフピロム(cefpirome)、セフィキシム(cefixime)、セファレキシン(cephalexin)、セフジニル(cefdinir)、セフロキサジン(cefroxadine)、セフロキシム(cefuroxime)、セファドロキシル(cefadroxil)、セフォキシチン(cefoxitin)、セフェタメットピボキシル(cefetamet pivoxil)、セフチゾキシム(ceftizoxime)、セファマンドールナファート(cefamandole nafate)、セファゼドン(cefazedone)、セフテラムピボキシル(cefteram pivoxil)、セフテゾル(ceftezole)、セフプロジル(cefprozil)、セフォテタン(cefotetan)、セフメノキシム(cefmenoxime)、セフジトレンピボキシル(cefditoren pivoxil)、セファトリジンプロピレングリコール(cefatrizine proplyene glycol)、セフォチアム(cefotiam)、セフォチアムヘキセチルHCl(cefotiam hexetil HCl)、セフチブテン(ceftibuten)、セファクロル(cefaclor)、セフォペラゾン(cefoperazone)、セフピラミド(cefpiramide)、セファロチン(cephalothin)、セフォジジム(cefodizime)、セフォニシド(cefonicid)、セフメタゾール(cefmetazole)、又はセフェピム(cefepime)が含まれる。β-ラクタム系抗生剤には、ナフシリン(nafcillin)、ピペラシリン(piperacillin)、又はアンピシリン(ampicillin)が含まれる。β-ラクタマーゼ阻害剤系抗生剤には、スルバクタム(sulbactam)、タゾバクタム(tazobactam)、スルタミシリントシル酸塩(sultamicillintosylate)、アモキシシリン(amoxicillin)、クラブラン酸カリウム(potassium clavulanate)、チカルシリン(ticarcillin)、又はピボキシルスルバクタム(pivoxil sulbactam)が含まれる。キノロン系抗生剤には、シプロフロキサシン(ciprofloxacin)、モキシフロキサシン(moxifloxacin)、レボフロキサシン(levofloxacin)、又はロメフロキサシン(lomefloxacin)が含まれる。グリコペプチド系抗生剤には、バンコマイシン(vancomycin)、リネゾリド(linezolid)、又はテイコプラニン(teicoplanin)が含まれる。カルバペネム系抗生剤には、メロペネム(meropenem)、ドリペネム一水和物(doripenem monohydrate)、シラスタチン(cilastatin)、イミペネム一水和物(imipenem monohydrate)が含まれる。アミノグリコシド系抗生剤には、アミカシン(amikacin)、トブラマイシン(tobramycin)、ネチルマイシン(netilmicin)、シソマイシン(sisomicin)、イセパマイシン(isepamicin)、ホスホマイシン(Fosfomycin)、又はゲンタマイシン(gentamicin)が含まれる。マクロライド系抗生剤には、クラリスロマイシン(clarithromycin)、ロキシスロマイシン(roxithromycin)、又はアジスロマイシン(azithromycin)が含まれる。サルファ剤系抗生剤には、スルファメトキサゾール(sulfamethoxazole)、又はトリメトプリム(trimethoprim)が含まれる。
【0036】
本発明の薬学組成物は、通常使用される適切な担体、賦形剤(excipient)又は希釈剤(diluent)をさらに含むことができる。本発明の薬学組成物に含まれる担体、賦形剤又は希釈剤には、乳糖(lactose)、ブドウ糖(dextrose)、ショ糖(sucrose)、ソルビトール(sorbitol)、マンニトール(mannitol)、キシリトール(xylitol)、エリスリトール(erythritol)、マルチトール(maltitol)、澱粉(starch)、アカシアゴム(acacia rubber)、アルギネート(alginate)、ゼラチン(gelatin)、リン酸カルシウム(clacium phosphate)、ケイ酸カルシウム(calcium silicate)、セルロース(cellulose)、メチルセルロース(methyl cellulose)、結晶セルロース(microcrystalline cellulose)、ポリビニルピロリドン(polyvinyl pyrrolidone)、水、メチルヒドロキシベンゾエート(methylhydroxybenzoate)、プロピルヒドロキシベンゾエート(propyl hydroxybenzoate)、滑石(talc)、マグネシウムステアレート(magnesium stearate)、ミネラルオイル(mineral oil)が含まれるが、これらに制限されない。
【0037】
本発明の薬学組成物は、通常の方法で経口又は非経口剤形で投与することができ、剤形化の際には、充填剤(fillers)、増量剤(extenders )、結合剤(binders)、湿潤剤(wetting agents)、崩解剤(disintegrants)、界面活性剤(surfactants)などのように一般的に使用される希釈剤又は賦形剤を使用することができる。経口投与用固形製剤としては、錠剤(tablets)、丸剤(pills)、散剤(powders)、顆粒剤(granules)、カプセル剤(capsules)などが挙げられ、このような固形製剤は、組成物に少なくとも一つの賦形剤、例えば、澱粉(starch)、炭酸カルシウム(calcium carbonate)、ショ糖、乳糖、ゼラチンなどを混合して製造される。単純な浮形剤の他に、マグネシウムステアレート(magnesium stearate)及び滑石のような潤滑剤も使用される。経口投与用液剤には、懸濁液(suspensions)、内服用液剤(liquid solutions for lnternal use)、乳剤(emulsions)、シロップ剤(syrups)などが含まれる。一般的に使用される単純希釈剤である水及び流動パラフィン(liquid paraffin)の他に、湿潤剤、甘味剤(sweetening agents)、香料(fragrances)、防腐剤(preservatives)などの様々な賦形剤が含まれる。 非経口投与のための製剤には、滅菌水溶液(sterile aqueous solutions)、非水溶媒(non-aqueous solvents)、懸濁液、乳剤、凍結乾燥製剤(lyophilized formulations)及び坐剤(suppositories)が含まれる。非水溶媒及び懸濁液には、プロピレングリコール(propylene glycol)、ポリエチレングリコール(polyethylene glycol)、オリーブオイル(olive oil)のような植物性油(vegetable oil)、オレイン酸エチル(ethyl oleate)のような注射可能なエステル(injectable ester)などが使用される。坐剤の基剤には、ウイテプゾール(witepsol)、マクロゴール(macrogol)、ツイーン61(tween61)、カカオ脂(cacao butter)、ラウリン脂(laurin butter)、グリセロゼラチン(glycerogelatin)などが使用されるが、これらに制限されない。
【0038】
本発明の薬学組成物の好適な投与量は、対象体の病理状態及び体重、疾患の深刻度、薬物の種類、投与経路、並びに期間によって異なるが、当業者が適切に選択可能である。好ましい効果を得るため、本発明の薬学的組成物は、0.001mg/kg/日~1000mg/kg/日の容量範囲で投与することができる。投与は、一日一回投与してもよく、数回に分けて投与してもよい。前記投与量は、いかなる面においても本発明の範囲を限定することはない。
【0039】
第3の実施例によれば、本発明は、NF-κB核局在化配列(NLS)及びaMTDを含む改善された細胞透過性核輸送阻害剤合成ペプチドを対象体に投与するステップを含む、サイトカインストーム又は炎症性疾患の予防又は治療方法を提供する。
【0040】
本発明に係るサイトカインストーム又は炎症性疾患の予防又は治療方法において、NF-κB NLSは、線状NF-κB NLS、及び2つの追加システインを有する円状NLSであり得る。
【0041】
本発明に係るサイトカインストーム又は炎症性疾患の予防又は治療方法において、円状NF-κB NLSは、配列番号1のアミノ酸配列を含むことができる。
【0042】
本発明に係るサイトカインストーム又は炎症性疾患の予防又は治療方法において、aMTDは、配列番号2~6からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むことができる。
【0043】
本発明に係るサイトカインストーム又は炎症性疾患の予防又は治療方法において、改善された細胞透過性核輸送阻害剤合成ペプチドは、ストレス応答性転写因子(SRTF)の核輸送を抑制することができる。SRTFは、NF-κB(nuclear factor κB)、NFAT(nuclear factor of activated T cells)、AP1(activator protein 1)、STAT1(signal transducer and activator of transcription 1)、又はNrf2(nuclear factor erythroid 2-related factor 2)であり得る。
【0044】
本発明に係るサイトカインストーム又は炎症性疾患の予防又は治療方法において、改善された細胞透過性核輸送阻害剤合成ペプチドは、抗生物質(antibiotic)、抗ウイルス剤(anti-viral agent)(例えば、レムデシビル(remdesivir))、抗HIV剤(anti-HIV agent)、駆虫剤(anti-parasite agent)、抗原虫剤(anti-protozoal agent)、ステロイド剤(steroidal agent)、ステロイド性又は非ステロイド性抗炎症剤(steroidal or non-steroidal anti-inflammatory agent)、抗ヒスタミン剤(antihistamine)(例えば、ジフェンヒドラミン(diphenhydramine))、免疫抑制剤(immunosuppressant agent)、又はこれらの組み合わせと併用投与(co-administed)することができる。例えば、抗生剤には、セファロスポリン系(cephalosporin series)、β-ラクタム系(beta-lactam series)、β-ラクタム/β-ラクタマーゼ阻害剤系(beta-lactam/beta-lactamase inhibitor series)、キノロン系(quinolone series)、グリコペプチド系(glycopeptide series)、カルバペネム系(carbapenem series)、アミノグリコシド系(aminoglycoside series)、マクロライド系(macrolide series)、サルファ剤系(sulfa drug series)、アズトレオナム(aztreonam)、クリンダマイシン(clindamycin)、チゲサイクリン(tigecycline)、コリスチンメタンスルホン酸ナトリウム(colistin sodium methanesulfonate)、メトロニダゾール(metronidazole)、スピラマイシン(spiramycin)、又はこれらの組み合わせが含まれるが、これらに制限されない。
【0045】
本発明に係るサイトカインストーム又は炎症性疾患の予防又は治療方法において、投与には、静脈内(intravenous)、非経口(parenteral)、経皮(transdermal)、皮下(subcutaneous)、筋肉内(intramuscular)、頭蓋内(intracranial)、眼窩内(intraorbital)、眼内(intraocular)、脳室内(intraventricular)、被膜内(intracapsular)、髄腔内(intrathecal)、槽内(intracisternal)、腹腔内(intraperitoneal)、鼻腔内(intranasal)、直腸内(intrarectal)、膣内(intravaginal)、噴霧(spraying)、又は経口(oral)投与が含まれる。
【0046】
本発明に係るサイトカインストーム又は炎症性疾患の予防又は治療方法において、サイトカインストームは、ウイルス、バクテリア、真菌、又は寄生虫による炎症感染により誘発され得る。
【0047】
本発明に係るサイトカインストーム又は炎症性疾患の予防又は治療方法において、サイトカインストーム又は炎症性疾患は、外傷、負傷、火傷、毒素、又は発癌物質により誘発され得る。
【0048】
本発明に係るサイトカインストーム又は炎症性疾患の予防又は治療方法において、炎症性疾患には、自己免疫疾患、移植片拒絶、多発性硬化症、膵炎、急性気管支炎、慢性気管支炎、急性細気管支炎、慢性細気管支炎、敗血症、敗血症性ショック、急性呼吸窮迫症候群、多臓器不全、又は慢性閉塞性肺疾患が含まれる。例えば、自己免疫疾患には、関節リウマチ、乾癬、アトピー性皮膚炎、クローン病、炎症性腸疾患、シェーグレン症候群、視神経炎、慢性閉塞性肺疾患、喘息、I型糖尿病、視神経脊髄炎、重症筋無力症、ブドウ膜炎、ギラン・バレー症候群、乾癬性関節炎、Gaves病、又はアレルギーが含まれるが、これらに制限されない。
【0049】
以下、実施例及び実験例を挙げて本発明を詳述する。但し、後述の実施例及び実験例は、本発明の例示に過ぎず、本発明の内容が後述の実施例及び実験例に限定されることはない。
【実施例
【0050】
1.逆相高圧液体クロマトグラフィー(reversed-phase high-pressure liquid chromatography)(RP-HPLC)を用いた安定性の検証
iCP-NIの安定性は、逆相高圧液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)を用いて検証された。2つの種々の条件で保管されたiCP-NIの吸光度を測定、比較した:1)凍結乾燥粉末として25℃で3か月保管し、2)凍結乾燥粉末として-20℃で保管した。各条件におけるiCP-NI凍結乾燥粉末1mgが、HPLC等級の水1mLに溶解され、溶液が0.2μm孔径のシリンジフィルター(ADVANTEC社、Cat No.13HP020AN)でろ過された。50μLのiCP-NIが、逆相カラム(reversed-phase-column)(25cm×4.6mm、HRC-ODS;SHIMADZU社、Cat No.228-23463-92)に注入された。条件は、次の通りである:緩衝液A;蒸留水及び緩衝液B中の0.05%トリフルオロ酢酸(TFA);アセトニトリル中の0.05%TFA。クロマトグラフィーは、35℃で1mL/minの流速で60分間、0~100%バッファーBの傾きを適用して行われた。ピークは、230nmにおいて吸光度を測定し、モニタリングされた。Agilent Open LAB Control Panel Softwareを用いてクロマトグラムを導出し、解析を行った。
【0051】
2.表面プラズモン共鳴(surface plasmon resonance)(SPR)を用いた結合親和度の測定
iCP-NIとインポーチンα5との間の直接的な相互作用を確認するため、表面プラズモン共鳴(SPR)が行われた。Cytiva社製のBiacore T200装置は、SPRの運搬に使用された。全実験において、温度は、25℃固定にした。ランニングバッファー(Running buffer)は、次のように再蒸留水(double-distilled water)(DW)が準備された:25mM HEPES、100mM NaCl、0.05%界面活性剤P20、pH7.5。流動システム(flow system)は、実験を開始する前に3回プライミングされた。全実験には、CM5センサーチップ(Cytiva社、BR100530、10285242)が使用された。センサーチップの表面は、α5固定化前に、ランニングバッファーを3回注入して濯いだ。インポーチンα5は、CM5センサーチップに注入され、1900RUのRmax値を達成した。希釈された濃度(10、25、50、70、及び100μMの間)のiCP-NIが、合計180秒間、30μL/minの速度でセンサーチップに注入された。CM5センサーチップ表面の再生は、100nM NaOH(60秒間、30μL/min)で行われた。各実験の前後に、基準反応値を比較して表面再生の効果を評価した。iCP-NIとインポーチンα5との間の親和度測定が完了した後、Biacore T200 Evaluation Software3.1を用いて解離定数(KD)を計算した。
【0052】
3.iCP-NIの薬物動態解析及び分布
肺においてiCP-NIの薬物動態を評価するため、C57BL/6マウス(6~8週齢)に、FITCが結合されたiCP-NI 100mg/kgが静脈内投与された。その後、様々な時点でマウスを犠牲にして薬物動態解析のために肺組織を得た。また、iCP-NI解析の分布のため、他の組織(脳、心臓、肝臓、脾臓、腎臓、小腸・大腸及び膵臓)を収集した。代表的な肺組織の標本が4%パラホルムアルデヒド(paraformaldehyde)(PFA;BISESANG社、Cat No.PC2031-100-00)で灌流固定され、30%ショ糖溶液において4℃で一晩培養された。次に、標本が最適切除温度(OCT)化合物(Leica Biosystems社、Cat No.3801480)に包埋され、顕微鏡のガラススライド上に10μm厚さの冷凍切片にした。冷凍切片のサンプルがPBSで徹底的に洗浄され、塩化アンモニウム(NH4Cl、Sigma-Aldrich社、Cat No.A9434)溶液と共に室温(room temperature)(RT)で20分間インキュベーションされた。サンプルがDAPI含有マウンティング溶液(Invitrogen社、Cat No.00-4959-52)に適用され、共焦点レーザー走査顕微鏡システム(Leica SP8)を用いて蛍光顕微鏡で視覚化され、イメージがLeica LAS Xソフトウェアで処理された。
【0053】
4.細胞培養システム
マウス(murine)マクロファージ様細胞株(RAW264.7)、マウス樹状細胞株(DC2.4)、ヒト単核球細胞株(THP-1)及びヒト肺胞上皮細胞株(A549)は、韓国細胞株バンク(KCLB)から購入し、ヒトTリンパ球(Jurkat T cell、E6-1)は、米国ティッシュ・カルチャー・コレクション(ATC)から購入した。RAW264.7細胞は、10%ウシ胎児血清及び1%ペニシリン(penicillin)-ストレプトマイシン(streptomycin)(Hyclone、Cat No.SV30010)を含有するDulbeccoの変形されたEagle培地にて維持された。DC2.4、THP-1、Jurkat T及びA549細胞は、10%FBS及び1%ペニシリン-ストレプトマイシンを含有するRPMI-1640培地(Hyclone、Cat No.SH30255.01)にて培養された。全細胞は、5%CO2インキュベーターを備えた加湿環境で37℃に維持された。
【0054】
5.マウス骨髄に由来するマクロファージ(BMDM)の分離
骨髄に由来するマクロファージ(BMDM)は、C57BL/6Jマウス(8週齢)の骨髄(BM)から分離した。BM細胞は、マウスの大腿骨及び脛骨から得られ、無血清DMEM培地にてフラッシュされた。その後、単細胞懸濁液がナイロンセルストレーナー(nylon cell strainer)(70-μmナイロンメッシュ)にてろ過され、HBSS 培地で2回洗浄された。細胞が遠心分離され(200Xg、5分)、上清液が吸引された。細胞が室温で3分間、赤血球細胞溶解緩衝液(Sigma-Aldrich社、Cat No.R7757)で溶解され、溶解緩衝液を血清含有DMEM培地にて希釈し、反応が遮断された。細胞が遠心分離され(200Xg、5分)、上清液を捨てた。細胞は、完全BMDM培地[10%FBS、50ng/mLのM-CSF(PeproTech社、Cat No.315-20)が補充された1%ペニシリン-ストレプトマイシンを含有するDMEM]と共に、12ウェル組織培養プレート(1×10cells/well)で培養され、加湿インキュベーターで37℃及び5%COに維持された。1日目と3日目には、培地が交換され、5日目には、分化したBMDMが付着され、実験に供された。
【0055】
6.細胞刺激、活性化及び形質感染
全細胞は、LPS(Sigma-Aldrich社、Cat No.L3012)、ヒトIFN-γ(R&D Systems社、Cat No.285-IF)、マウスIFN-γ(R&D Systems社、Cat No.485-MI-100)、ホルボールミリステートアセテート(phorbol myristate acetate)(PMA;Sigma-Aldrich社、Cat No.P1585)、イオノマイシン(ionomycin)(Sigma-Aldrich社、Cat No.I0634)及びポリI:C(Poly I:C)(Sigma-Aldrich社、Cat No.P1530)を用いて刺激された。各実験に対する活性化プロトコル及び活性化時間のポイントは、個別に図面において凡例で示されている。ポリI:C細胞内伝達のため、RAW264.7細胞は、メーカーの指針に従ってリポフェクタミン3000(lopofectamine)(Thermo Scientific社、Cat No.L3000-015)を用いてポリI:Cで形質感染された。
【0056】
7. 動物システム
雄のC57BL/6マウス(6~8週齢)は、Nara-Biotech社及びSamtako社から購入し、全動物実験は、実験動物の管理及び使用に関する国家指針の機関推奨事項に従って行われた。全プロトコルは、Celliveryの実験室動物資源研究所の機関動物管理及び使用委員会(IACUC;Approval No.CV-2019-32) の承認を受けた。
【0057】
8.LPS/D-ガラクトサミン誘発急性肝障害モデル
LPS及びD-ガラクトサミン(D-galactosamine)(Sigma-Aldrich社、Cat No.G0500)が急性肝障害モデルに使用された。雄のC57BL/6マウス(6週齢)にPBS(100μL/マウス)又はiCP-NI(50mg/kg、100μL/マウス)が静脈内(IV)注射で投与された。1時間後、LPS(200μLに50μg/kg)及びD-ガラクトサミン(200μLに400mg/kg)が個別にマウスに腹腔内注射された。LPS/D-ガラクトサミン誘発マウスに、各時点でIVによりPBS(100μL/マウス)又はiCP-NI(100μL/マウス)が注射された。個別に図面において凡例で示された特定のプロトコル。全動物がモニタリングされ、LPS/D-gal誘発後、16時間で犠牲にした。
【0058】
9.毒素吸入誘発急性肺炎モデル
雄のC57BL/6マウス(6~8週齢)に、PBS(100μL/マウス)又はiCP-NI(50mg/kg、100μL/マウス)がIV注射で投与された。PBS又はiCP-NI注射のマウスにネブライザー(オムロン社、Cat No.NE-U22)を用いて吸入によりLPS又はポリI:Cが投与された。全マウスがLPS(0.5mg/mL、7mL)又はポリI:C(1mg/mL、5mL)を吸入しながら30分間オーダーメード型アクリルケージに収容された。次に、個別に図面において凡例で示されるように、吸入完了後、尾静脈注射によりiCP-NIが投与された。
【0059】
10.IT LPS/ポリI:Cマウスモデル
雄のC57BL/6マウス(6~8週齢)がイソフルラン(isoflurane)で麻酔され、気管内投与によりLPSとポリI:Cとがいずれも投与された。正常動物には、50μLのPBSのみが提供された。PBSに溶解されたLPS及び10mg/kgのLPS(50μL/マウス)が投与された。4時間後、LPS感作マウス(LPS-sensitized mice)がイソフルランで麻酔され、50mg/kgのポリI:C(100μL/マウス)が気管内注射された。LPS/ポリI:C誘発されたマウスが2つの別のグループに無作為に割り当てられた。処理群は、以下の通りである:(1)IT LPS/ポリI:C、PBS、38匹。(2)IT LPS/ポリI:C、iCP-NI、25匹。マウスは、ポリI:C注入後、4、16、28及び52時間で、IV注入により投与されたPBS(100μL/マウス)又はiCP-NI(30mg/kg、100μL/マウス)で処理された。
【0060】
11.盲腸スラリー誘発腹膜炎モデル(Cecal slurry-induced peritonitis model)
多菌性敗血症(Polymicrobial sepsis)は、盲腸スラリー(CS)で誘発された腹膜炎モデル(1-3)を用いて研究を行った。雄のC57BL/6マウス(8週齢)を安楽死して犠牲にし、各マウスの切除のために盲腸全体が分離された。全盲腸内容物が収集され、4mLのPBSと混合して1g/mL濃度のCSが生成された。このCSが殺菌した70μmストレーナー(strainers)にてろ過され、PBS内の30%グリセロールの同一体積と混合され、15%グリセロールの最終のストック溶液(final stock solution)(1×CS)が生成された。その後、最終の溶液が分取され,-80℃で保管された。マウス敗血症誘導のため、凍結されたCSストック(1.5mg/kg)が37℃で解凍され、1mLシリンジを用いてマウスモデルに腹膜注射した。25mg/kgのメロペネム(Sigma-Aldrich社、Cat No.1392454)が、CS注入2時間後、最初投与されてから24時間ごとに定期的に投与された。iCP-NI(50mg/kg)は、盲腸スラリー投与後、2時間後に最初注射され、2時間の間隔で4回投与された。メロペネムとiCP-NIは、いずれも静脈注射された。
【0061】
12.CLP(Cecal-ligation and puncture)誘発腹膜炎モデル
Cecal-ligation and puncture(CLP)誘発腹膜炎モデルは、ヒトの敗血症と類似した敗血症を起こす傾向があるため、研究目的に最適であるものとみなされ、これは、全身菌血症、器官機能障害及び究極的な全身炎症を誘発する(4-6)。雄のC57BL/6マウス(8週齢)が筋肉内注射により適用されたアルファキサン(alfaxan)(Jurox社、Cat No.470760)とロンプン(rompun)(Bayer社)との混合物(7:3)で麻酔され、仰向けに寝た姿勢で置かれた。剃刀及び無菌を準備した後、腹壁を通して1~2cm正中切開した。盲腸は、6-0の絹製縫合糸で部分的に結紮された。盲腸壁の穿刺は、19ゲージの針で行われ、盲腸の内容物がスムーズに漏出された。切開部は、6-0絹製縫合糸のオートクリップ(autoclip)で縫合された。手術部位の感染を避けるため、縫合部位にポビドンヨードを塗布した。
【0062】
13.肺炎誘発全身炎症モデル(ポリI:C/SEB)
ポリI:C及び連鎖球菌腸毒素B(SEB;Sigma-Aldrich社、Cat No.BT202)は、肺炎誘発全身炎症モデルに使用された。雄のC57BL/6マウス(6週齢)に、PBS(100μL/マウス)又はiCP-NI(50mg/kg、100μL/マウス)がIV注射で投与された。PBS又はiCP-NI注射されたマウスは、ネブライザーを用いて30分間ポリI:C(1mg/mL、5mL)を吸入した。その後、マウスを筋肉内注射によりアルファキサンとロンプンとの混合物(7:3)で麻酔させ、鼻腔経路を介してSEB(0.25mg/kg、20μL/マウス)が投与された。ポリI:C/SEB誘導マウスに、PBS(100μL/マウス)又はiCP-NI(50mg/kg、100μL/マウス)が、各時点でIVにより注射された。個別に図面において凡例に示される特定のプロトコル。全動物は、ポリI:C/SEB誘発後、0.5、1、2、4又は6時間で犠牲にした。
【0063】
14.ブレオマイシン誘発肺線維症モデル
ブレオマイシンは、肺線維症の実験モデルを開発するために使用された(7、8)。ブレオマイシンサルフェート(Bleomycin sulphate)(BLM;Sigma-Aldrich社、Cat No.B2434)が滅菌PBSに溶解され、実験に供された。雄のC57BL/6マウス(8週齢)がイソフルラン(isoflurane)で麻酔され、0日目(Day0)に気管内を通じてPBS又はブレオマイシンが投与された。 ブレオマイシン(50μL PBS中、3mg/kg)の単一器官内(IT)注射が動物(n=41)マウスに投与された。正常動物(n=10)には50μLのPBSのみが投与された。ブレオマイシンが投与されたマウスは、無作為に2つの別のグループに割り当てられた。治療グループは以下の通りである:(1)ITブレオマイシン、PBS、21匹。(2)ITブレオマイシン、iCP-NI、20匹。マウスは、静脈内(IV)注射でPBS(100μL/マウス)又はiCP-NI(50mg/kg、1日2回、100μL/マウス)が7日間処理された。マイクロコンピューター断層撮影(CT)スキャニングのためにマウスがイソフルランで麻酔され、マウスの肺の画像がIn Vivo X線放射線撮影Micro-CTシステム(In Vivo X-ray Radiography Micro-CT System)を用いて撮影された。マウスを犠牲にし、病理組織学的に解析するため、肺組織を収集した。
【0064】
15.SARS-CoV-2感染非ヒト霊長類(NHP)の研究
15-1.SARS-CoV-2感染非ヒト霊長類(NHP)モデル
この研究は、赤毛猿(rhesus macaques)(RM)と、アフリカミドリザル(African green monkeys)(AGM)において、SARS-CoV-2に対するiCP-NIの治療効能を評価するために設計された。動物は、研究期間中、サザンリサーチ(Southern Research’s)(SR)A/BSL-3施設に収容された。ウイルス菌株(2019-nCoV/USA-WA1/2020)は、CDC由来のものであり、UTMB Galvestonから提供された。動物が麻酔され、供給チューブが気管に挿入された。チューブの先端が気管の中間地点に到達すると、動物が座った姿勢を保ち、接種チューブにより接種物(1.0又は4.0mL)が注入された後、十分な量のフラッシュ物質(Mg2+/Ca2+がない滅菌DPBS)が注入され、誘発物質の完全な伝達を確実にさせた。誘発ウイルスは、0日(Day0) に4.0×106 TCID 50/mLで使用された。SARS-CoV-2のバイアル(Vials)が解凍され、誘発の準備前に、10秒間ボルテックス(vortexed)され、氷の単位用量投与に貯蔵された。動物は、接種のためにケタミン(ketamine)とキシラジン(xylazine)で麻酔された。誘発後、概ね24時間後に、静脈内(IV)で、指定された動物に30分間、iCP-NI200mg/kg/動物の単一IV注入が投与された。投与物質は、注入ポンプにより投与され、使用された血管は、文書として記録された。用量は、毎分1mLの速度で約30mLの体積が伝達された。全動物は、臨床徴候、体温、ブドウ糖レベル、O飽和度、心拍数(BPM)、呼吸数、及び体重についてモニタリングされた。5日及び8日目に、病理組織学のために剖検が行われ、組織が収集された。
【0065】
15-2.血液収集、処理及びサイトカイン解析
全動物について、サイトカイン及びブドウ糖のレベル評価のために血液が収集された。麻酔された動物から概ね6mLが収集され、2mLはEDTAチューブで血漿(サイトカイン解析)を処理するために使用され、4mLは-3、2、4、5、6及び8日目(Days -3、2、4、5、6、8)にナトリウムヘパリンチューブ(sodium heparin tubes)においてPBMCに使用された。指や足の指から収集された血液から、ブドウ糖レベルがモニタリングされた。アクセス可能な全静脈から血液サンプルが採取された。安楽死前に瀕死状態動物の血液が収集された。EDTA及びナトリウムヘパリン抗凝固剤が含まれたチューブに収集された血液は、収集直後、柔らかにインバーティングされた。Luminexを用いて、サイトカインレベル(IL-6、IL-10、MCP1、INF-β、INF-γ、TNF-α、IL-1β、IL-2、IL-4、4及びIL-17a)が測定された。
【0066】
15-3.剖検及び病理組織学
全動物は、肺、肝臓,腎臓及び脾臓の限られた事後検査を受けた。組織サンプルは、10%中性緩衝ホルマリン(neutral bufferd formalin)に固定された。肺、肝臓、腎臓及び脾臓組織が全剖検動物から収集され、体重を測定し、病理組織学のために10%中性緩衝ホルマリンに固定された。収集された組織がスライドに処理され、ヘマトキシリン(hematoxylin)-エオシン(eosin)(全組織に該当)及びトリクローム(trichrome)(肺のみに該当)で染色された。
【0067】
16.細胞測定ビーズアレイ(CBA)及び酵素結合免疫吸着測定(ELISA)
16-1.マウス血漿及び組織におけるサイトカインの測定
TNF-α、IL-6、IL-12、IL-10及びIFN-γの濃度は、血漿サンプル、気管支肺胞洗浄液(BALF)又は肺組織においてメーカーのプロトコルに従って細胞測定ビーズアレイ(BD Biosciences社、Cat No.552364)を用いて測定された。血漿は、LPS/D-ガラクトサミン誘発急性肝障害マウス(LPS/D-Galactosamine-induced acute liver injury mice)、LPS又はポリI:C吸入誘発肺炎マウス(LPS or Poly I:C inhalation-induced pneumontis mice)から収集された。気管支肺胞洗浄液(BALF)は、LPS又はポリI:C吸入誘発肺炎マウスから収集された。肺組織均質液は、LPS/ポリI:C誘発肺炎マウスから収集された。LSRIIフローサイトメーター(LSRII flow cytometer)(BD Biosciences社)でデータが収集され、FCAPアレイソフトウェア(FCAP Array Software)(BD Biosciences社)で分析された。
【0068】
16-2.酵素結合免疫吸着検査
細胞培養液の上清液に含まれたサイトカインがマウスTNF-α(Invitrogen社、Cat No.88-7324-88)、マウスIL-6(Invitrogen社、Cat No.88-7064-88)及びマウスIL-1β(Invitrogen社、Cat No.88-7013-88)用に市販されるELISAキットを用いて二重にTNF-α、IL-6、IL-1βの含有量の分析が行われた。分析は、メーカーのプロトコルに従って行われた。
【0069】
17. 細胞質/核抽出物の準備
免疫細胞においてSRTF(ストレス応答性転写因子)の核内移動阻害を分析するため、メーカーの指針に従ってNE-PER核細胞質抽出試薬キット(Thermo Scientific社、Cat No.78835)を用いて細胞質及び核抽出を準備した。簡単に言えば、刺激された細胞が氷冷PBS(ice-cold PBS)で2回洗浄され、500Xgで3分間遠心分離された。上清液が慎重に除去され、細胞ペレット(cell pellet)がボルテックによりプロテアーゼ/ホスファターゼ阻害剤が補充された細胞質抽出試薬I(CERI)で懸濁された。懸濁液が氷上で10分間培養された後、細胞質抽出試薬II(CERII)が添加され、5秒間ボルテックスされ、氷上で1分間培養され、16,000Xgで5分間遠心分離された。上清液(細胞質抽出物)が予め冷却されたチューブに移動された。核を含む不溶性ペレット画分(insoluble pellet fraction)が10分ごとに15秒間ボルテックスされ、核抽出試薬(NER)で再懸濁され、氷上で40分間培養された後、16,000Xgで10分間遠心分離された。核抽出物を構成する上清液が後続の実験に供された。
【0070】
18.ウエスタンブロット解析
全ての細胞溶解物及び細胞質/核蛋白質が実験に供された。全細胞ペレットがプロテアーゼ/ホスファターゼ阻害剤(Cell Signaling、#5872S)が補充されたRIPA緩衝液(BIOSESANG社、Cat No.RC2002-050-00)で溶解され、溶解物が収集された。蛋白質サンプルが、Bradford解析(Bio-Rad社)を用いて定量化された。30μgの蛋白質を含有するサンプルをSDS-サンプル緩衝液と混合し、5分間沸かした。蛋白質が10%SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離され、ポリビニリデンフルオライド(polyvinylidene fluoride)(PVDF;Merck Millipore社、Cat No.IPVH00010)メンブレン(membrane)に移動された。ブロッティングされたメンブレンは、室温で1時間、0.1%ツイーン20を含有するトリス緩衝食塩水(Biopure社、Cat No.TWN508-500)中の5%牛血清アルブミン(BSA;BIOSESANG社、Cat No.A1025)で遮断された後、4℃で1次抗体とともに一晩インキュベーションされ、次に、HRP(horseradish peroxidase)が結合された2次抗体とともに室温で1時間インキュベーションされた。この蛋白質バンド(protein bands)は、化学発光試薬(Super SignalTM West Dura Extended Duration Substrate;Thermo Scientific社、Cat No.34075)を用いて、ChemiDocイメージングシステム(Bio-Rad社)により視覚化され、ImageJソフトウエアで定量化された。使用された抗体は、次の通りである:anti-phopho-NF-κB p65 Ser536(Cell Signaling,#3033),anti-NF-κB p65(Santa Cruz,sc-8008),anti-NFATc1(Santa Cruz,sc-7294),anti-phospho-c-Jun Ser63(Cell Signaling,#91952),anti-c-Jun(Santa Cruz,sc-747543),anti-phospho-STAT3 Tyr705(Cell Signaling,#9145),anti-STAT3(Cell Signaling,#9139),anti-phospho-STAT1 Tyr701(Cell Signaling,#9167),anti-STAT1(Santa Cruz,sc-464),anti-IL-1β(R&D Systems,AF-401-NA),anti-snail(Cell Signaling,#3879),anti-slug(Cell Signaling,#9585),anti-twist(Santa Cruz,sc-81417),β-Actin(Sigma-Aldrich,Cat No.A3854),anti-LaminB1(Santa Cruz,sc-374015),anti-GAPDH(Bioworld,Cat No.MB001H),horseradish peroxidase(HRP)-conjugated anti-rabbit IgG antibody(Cell Signaling,#7074),及びhorseradish perozidase(HRP)-conjugated anti-mouse IgG(Cell Signaling,#7076).
【0071】
19.RNA抽出及び定量的RT-PCR
TRIzol試薬(Thermo Scientific社、Cat No.15596018)を用いて、細胞又は組織からトータルRNAが分離され、メーカーの指針に従ってiScript cDNA合成キット(Bio-Rad社、Cat No.1708897)を用いて、総1μgのRNAからcDNAが合成された。qPCRは、次のステップに従ってBio-Rad CFX96 Real-Time PCR検出システム(Bio-Rad社)でiQ SYBR(登録商標) Green Supermix(Bio-Rad社、カタログ番号1708880)で行われた:(1)ポリメラーゼ及びDNAの変性、95℃で5分、(2)変性、95℃で10秒間、(3)35サイクルの間、30秒間、60℃のアーニリング及び延長、(4)溶融曲線分析、60-95℃の増分、5秒/ステップ。mRNAの相対的な量(2ΔΔCt)は、β-アクチン遺伝子のレベルに正規化して得られた。
【0072】
20.細胞透過性測定のためのフローサイトメトリー
RAW264.7細胞(5×10細胞/ウェル)が12ウェルにシーディングされ、24時間インキュベーションされた。細胞がPBSで2回洗浄され、FBS-free培地でFITC-conjugated iCP-NI、FITC-conjugated-cNLS又はFITCペプチド対照群で37℃又は4℃で1時間処理された。次に、細胞上層液が除去され、細胞ペレットが収集され、ice-cold PBSで3回洗浄された。次に、70%EtOHを用いて、4℃で30分間細胞が固定され、ice-cold PBSで3回洗浄された。細胞の内在化したペプチドが、LSRIIフローサイトメトリーシステム(LSRII flow cytometry system)(BD)を用いて解析された。ペプチドの細胞吸収を評価するため、RAW264.7細胞が細胞内メカニズムと関連した様々なタイプの製剤で処理された。ATP(Sigma-Aldrich,Cat No.A2383)-depleting agent(Antimycin;Sigma-Aldrich,Cat No.A8674),proteniase K(Cosmogenetech,Cat No.CMB-022),microtubule inhibitor(Taxol;Sigma-Aldrich,Cat No.T7402),clathrin-mediated endocytosis blocker(chlorpromazine;Sigma-Aldrich,Cat No.C8138),lipid raft-mediated endocytosis blocker(methyl-β-cyclodextrin;Sigma-Aldrich,Cat No.C4555)、又はmacropinocytosis blocker(amiloride;Sigma-Aldrich,Cat No.A7410)が解析に供された。手順は次の通りである:RAW264.7細胞は、(1)2時間、1mM ATPの存在又は不在下で、10μMのアンチマイシン、(2)10分間、10μg/mlプロテイナーゼK、(3)タキソール20μM、(4)30分間、3μMのクロルプロマジン、(5)30分間、5mMのメチル-β-シクロデキストリン、(6)無血清培地で2時間、1mM ATPの存在又は不在下で、10μMアンチマイシンで前処理された。その後、細胞がFITC結合iCP-NI、FITC結合cNLS又はFITCペプチド対照群で後処理された。細胞固定及び解析は、上述の通りである。
【0073】
21.免疫細胞化学(ICC)
細胞が室温で15分間、4%パラホルムアルデヒド(paraformaldehyde)に固定され、-20℃でメタノールを用いて透過化された。次に、細胞がブロッキング溶液(PBS中、3%BSA及び0.3%TritonX-100)でインキュベーションされた後、1次抗体と共に室温で60分間インキュベーションされた。1次抗体が4℃で一晩添加され、PBSで細胞が洗浄された。また、2次抗体が室温で1時間添加された。次に、細胞がPBSで洗浄され、DAPI(Invitrogen社、Cat No.E132139)を備えたFluoromount-GTMでスライドに装着された。得られた製剤が、デジタルイメージングシステム(Leica TCS SP8-STED)付共焦点顕微鏡を用いて観察及び写真撮影された。画像は、Leica LAS Xソフトウェアで処理及び記録された。使用された抗体は次の通りである:anti-phopho-NF-κB p65 Ser536(Cell Signaling,#3033),anti-phospho-c-Jun Ser63(Cell Signaling,#91952),anti-phospho-STAT1 Tyr701(Cell Signaling,#9167),anti-phospho-STAT3 Tyr705(Cell Signaling,#9145),NFAT(Abcam,ab2722),vimentin(Abcam,ab8978),anti-E-cadherin(Abcam,ab40772),Goat anti-Rabbit IgG Alexa Fluor 488(Invitrogen,Cat No.A11034),Goat anti-rabbit IgG Alexa Fluor 488(Invitrogen,Cat No.A11001),Goat anti-rabbit IgG Alexa Fluor 647(Invitrogen,Cat No.A21245),Goat anti-mouse IgG Alexa Fluor 647(Invitrogen,Cat No.A21235),anti-mouse CD3 PE-conjugated Antibody(R&D Systems社,Cat No.FAB4841P),anti-mouse CD45R PE-conjugated Antibody(eBIoscience,Cat No.12-0452-82),anti-mouse CD11b-PE-conjugated Antibody(eBioscience,Cat No.12-4801-82)。
【0074】
22.免疫組織化学 (IHC)
全組織が10%緩衝ホルマリン(buffered formaluin)で24時間固定され、パラフィン(paraffin)包埋された。パラフィンが包埋された組織が厚さ4μmで切片にされた。脱パラフィン化のため、サンプルが65℃で30分間培養された後、新鮮なキシレン(xylene)で、それぞれ20分間、3回培養された。サンプルの再水化(rehydration)は、それぞれ100%、90%及び70%EtOHで5分間行われた。その後、サンプルが沸かしたpH6のクエン酸ナトリウム溶液で30分間インキュベーションされ、抗原を回収し、20分間インキュベーションを行う間、NH4Cl溶液に移動された。PBSで洗浄された後、サンプルがブロッキング溶液(blocking solution)(3%BSA、PBS中、0.3%TritonX-100)でインキュベーションされ、室温で1時間インキュベーションされた。好中球を識別するPE-conjugated Ly6Gマウス単クローン1次抗体(Thermo Scientific社、Cat No.12-9668-82)がブロッキング溶液で希釈され、4℃でサンプルと共に一晩培養された。PBSで濯いだ後、DAPIが含まれたマウンティング溶液(mounting solution)でサンプルがマウンティングされた。全サンプルは、共焦点レーザースキャニング顕微鏡システム(Leica TCS SP8)を用いて蛍光顕微鏡で視覚化し、画像は、Leica LAS Xソフトウェアで処理された。
【0075】
23.病理組織学的解析のための組織染色
全組織は、10%緩衝ホルマリンで48時間固定され、パラフィン包埋された。4-μmセクションが、炎症、コラーゲン沈着及び繊維をそれぞれ評価するため、ヘマトキシリン及びエオシン(H&E;Abcam社、Cat No.ab245880)、Masson’s trichrome(Abcam社、Cat No.ab150686)、シリウスレッド (Abcam社、Cat No.ab150681)で染色された。また、ApopTag Peroxidase染色キット(Millipore、#S7101)を用いてTUNEL(terminal deoxynucleotidyl transferase dUTP nick terminal labeling)染色が行われた。デジタルイメージングシステム(ニコン社、DS-Ri2)付顕微鏡を用いて全サンプルを観察し、写真撮影した。全実験は、メーカーのプロトコルに従って行われた。
【0076】
24.統計分析
グラフパッド・プリズム・ソフトウエア5(GraphPad Prism software 5)、及びマイクロソフト・エクセル・ソフトウエア(Microsoft Excel software)を用いて統計分析を行った。全結果は、2回の生物学的複製と少なくとも3回の独立実験として行われた。全実験データは、平均±標準偏差(SD)で示され、グループ間の差を比較するため、スチューデントt検定(Student‘s t test)が使用された。 <0.05、<0.01又は<0.001のP値は、統計的に有意なものと見なされた。
【0077】
<実験例>
1.改善された細胞透過性核輸送阻害剤iCP-NIの開発
我々は、細胞内蛋白質伝達に最適化された配列、指定された巨大分子伝達ドメイン又はaMTDを用いて、改善された細胞透過性核輸送阻害剤(iCP-NI)を開発した。aMTDは、6つの重要な特徴(アミノ酸の長さ(12個アミノ酸)、曲げ可能性、剛性・柔軟性、構造的特徴、疎水性(hydropathy)、及びアミノ酸組成を統合し(国際特許(worldwide patent)WO2016028036A1)、向上した緑色蛍光蛋白質(green fluorescent protein)、パーキン(Parkin)及びサイトカインシグナル伝達3の阻害因子(Suppressor of Cytokine Signaling 3)(SOCS3)のような大きな蛋白質貨物(protein cargo)を伝達するため、前の世代における最適化されていない配列を大きく凌駕した。
【0078】
本研究に使用されたペプチドは、表1に示される。線状NLS(lNLS)は、2つのシスチンが側面にあるNF-κB1(p50)の線状核局在化配列から構成される。円状NLS(cNLS)は、二硫化結合により円形化された同一の配列を有する。6つのペプチドは、円形化されたNLSと細胞内蛋白質伝達を促進する他の配列を含む:最適化されていないFGF-4配列(cSN50.1)及び5つのaMTD(aMTD385-cNLS、aMTD666-cNLS、aMTD891-cNLS、aMTD831-cNLS、及びaMTD827-cNLS)。追加ペプチド(aMTD827-1NLS)は、NLSが円形化されていない以外は、aMTD827-cNLSと同様である。
【表1】
【0079】
2.最適なiCP-NIの選定
2-1.表1中のペプチドの抗炎活性
細菌性リポ多糖類(LPS)と感作剤であるD-ガラクトサミン(D-Gal)とを投与した後、90%以上のマウスが致命的な炎症反応に負けたマウス急性肝障害モデルにおいて、各ペプチドの抗炎症活性が評価された。5つのaMTD含有ペプチドを用いた処理は、試験動物の20~100%を保護した。円状(aMTD827-cNLS)及び線状(aMTD827-lNLS)が同等に効果的であった(図1)。線状(lNIS)又は円状(cNLS)形態のNLS配列単独で処理しても生存が向上しなかったので、aMTD827配列は、aMTD827-cNLSの抗炎症活性のために厳しく要求された(図2)。aMTD827-cNLSは、腹腔内(IP)注射より静脈(IV)投与時に一層効果的であった(それぞれ100%及び75%保護、図3)。cSN50.1ペプチドは、投与経路とは無関係に、aMTD827-cNLSより効果が少なかった(図4)。このような観察に基づき、aMTD827-cNLSが候補の抗炎症性COVID19治療剤として選択された。
【0080】
2-2.iCP-NIの治療プロトコル
我々は、急性肝臓障害モデルにおいて様々な治療療法をテストし、4つの50mg/kg治療又は6つの25mg/kg治療で100%保護を達成した。4回の25mg/kg又は3回の25mg/kg治療療法は、統計的に有意な差ではないが、比較的効果が少なかった。4回の5mg/kg又は10mg/kg40を投与した療法では、より高い水準の死亡率が観察された(それぞれ25%及び38%生存)。また、我々は、急性肝障害モデルの治療プロトコルを樹立し、このモデルにおいて6回の50mg/kg投与マウスの60%治療効果を観察した(図5)。
【0081】
2-3.iCP-NIの安定性及びインポーチン-5に対する結合力
iCP-NIは、溶解性に優れているため、25℃で3か月以上凍結乾燥粉末として安定的であり(図6)、表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance)で評価したインポーチンα5に対する結合能を維持した(図7)。
【0082】
2-4.iCP-NIの細胞内伝達
細胞内伝達を分析するため、iCP-NIがFITC(Fluorescein isothiocyanate)で標識して培養されたRAW264.7細胞の吸収をフローサイトメトリーでモニタリングした。iCP-NIは、aMTD827を有しないNLSより1000倍も高い細胞透過性を示した(図8)。IV投与後、FITC-iCP-NIは、肺をはじめとした脳、心臓、肝臓、脾臓、腎臓を含む主要臓器に広く分布した(図9)。高い水準のiCP-NIは、最低8時間の間、肺組織に残存し、経時的に減少した(図10)。
【0083】
3.SRTFの核内移動に対するiCP-NIの効能
ストレス応答性転写因子(SRTF)は、炎症誘発刺激に対する反応として、サイトカイン及びケモカイン遺伝子発現プログラムを活性化する。多くのSRTFは、NF-κB(nuclear factor kappa B)、AP-1(activator protein 1)、STAT1、及びSTAT3(signal transducer and activator of transcription 1 and 3)、並びにLPSとポリI:C、又はLPSとインターフェロンガンマ(IFN-γ)で処理されたRAW264.7細胞の核においてNFAT(nuclear factor of activated T-cells)の蓄積で説明されるように、核内移動レベルで調節される。iCP-NIは、核及び細胞質画分のウエスタンブロット解析(図11)及び免疫染色(図12)により評価されたように、NF-κB(リン酸化及び非リン酸化p65)と、活性蛋白質1及びAP-1(リン酸化c-Jun)及びSTAT3の核内移動を抑制した。iCP-NIは、また、ウェスタンブロット解析(図13)と免疫染色(図14)により評価されたように、LPS/IFN-γに対する反応として、NF-κB(phosphorylated and unphosphorylated p65)、STAT1及びSTAT3(phosphorylated proteins、p-STAT1 and p-STAT3)、AP-1(phosphorylated c-Jun)、及びNFATの核蓄積を遮断した。
【0084】
4.急性炎症モデルにおけるiCP-NIの効能
iCP-NIによるSRTF核内移動の抑制は、iCP-NIにより運搬されるNLS配列がインポーチンα5に結合するためSRTFと競争してSRTF核輸送を阻害するモデルと一致する。結果的に、iCP-NIの全身伝達は、SRTFとこれらが発現を調節するサイトカイン及びケモカインが重要な病理学的役割を果たす炎症性障害を抑制することが予想される。このような予測は、急性炎症の複数の末端マウスモデルにおいてテストされた:LPS/D-Gal誘発肝炎、LPS/ポリI:C誘発肺炎、並びにCLP(cecal ligation and puncture)及びCS(cecal slurry)により誘発された腹膜炎。
【0085】
4-1.LPS/D-Gal誘発肝炎
静脈内投与されたiCP-NIは、100%生存(n=163)で立証されるように、LPS/D-Galにより誘発された、依然として致命的な(n=120)肝炎からマウスを保護した(図15)。iCP-NI処理は、炎症性サイトカイン(TNF-α及びIL-6)の発現を抑制し、抗炎症性サイトカインであるIL-10の発現を誘導し(図16)、肝障害及び大規模な肝細胞のアポトーシスから保護した(図17)。LPS/D-Gal肝炎モデルにおいて予防的iCP-NIの顕著な利点は、SRTF活性化の急性結果と肝臓の恒常性に伴う炎症反応が説明される。
【0086】
4-2.LPS/ポリI:C誘発肺炎
LPSが先に投与され、4時間後にポリI:Cが投与された。いずれもC57BL/6マウスにおいて気管内投与された。単独療法は致命的ではなかったが(データは示されない)、動物の79%において組み合わせが致命的であった。マウスは、ポリI:Cを投与してから120時間以内に、肺音と共に荒い呼吸、大きく減少した活動及び死亡を含めて、ARDSと類似した症状を示した。対照的に、ポリI:C4時間後に開始したiCP-NIの処理は、生存が84%(治療効能の70.6%)に増加された(図18)。上皮増殖、単核球浸潤及び肺胞構造のダメージを特徴とする肺組織学においてもiCP-NI処理により著しく改善され(図19)、肺胞障害の程度も同様であった(図20)。
【0087】
4-3.CLP(cecal ligation and puncture)及びCS(cecal slurry)により誘発された腹膜炎
iCP-NIは、また、CLP(図21)及びCS(図22)プロトコルにより誘発された重症敗血症の治療に有益であることが立証された。iCP-NIは、抗生剤メロペネムだけで達成した以上に両モデル共に生存を向上させた。
【0088】
5.亜急性肺炎症モデルにおけるiCP-NIの効能
COVID-19は、非常に多様な疾病の重症度と進行状況を示している。 これは、ウイルスに感染した近位(呼吸器及び肺)組織と遠位組織との間の複雑な相互作用、宿主炎症反応の全身効果及び随伴疾患、遺伝学及び療法(例えば、人工呼吸器誘発肺障害(VILI))のような患者変数の結果であると考えられる。ヒトCOVID―19の複雑性によって、動物モデルの開発が複雑化し、よって、COVID-19治療剤としてのiCP-NIの前臨床評価が複雑化する。そこで、我々は、様々な病理学的エンドポイントに対するiCP-NIの影響を評価するため、広範なアクセス方式をとり、いくつかの致命的でない肺炎モデルを使用した:肺組織学、LPS吸入後のBALF細胞数及びサイトカイン発現;肺組織学、ポリ(I:C)吸入後のBALF細胞数及びサイトカイン発現;肺組織学、ポリI:C吸入及びブドウ球菌腸毒素B(SEB)の鼻腔投与後の好中球浸潤及び肝臓及び脾臓全身効果;並びに、ブレオマイシン誘発肺線維症。また、我々は、A549ヒト肺胞上皮細胞においてTGF-bで誘発された上皮から間葉への転移に対するiCP-NIの効果を調査した。
【0089】
吸入LPS又はポリI:Cは、上皮増殖、単核球浸潤及び肺胞構造のダメージを特徴とする肺組織学の一時的な変化を誘導した。LPS又はポリI:C以前に開始されたiCP-NI処理は、正常対照群に比べてこれらの反応の大部分を遮断し、肺胞構造を保存し(図23及び24)、BALFから回収された細胞数が5~6倍増加した(図25)。iCP-NIの抗炎効果は、IL-12、TNF-α、IL-6及びMCP-1発現の減少をもたらした(図26)。さらに、LPSによるサイトカイン発現の類似した活性化が、RAW264.7細胞において観察された。TNF-α、IL-6及びIL-1βの水準は、iCP-NIの濃度依存的にiCP-NI処理された細胞から減少した(図27)。
【0090】
ポリI:C吸入後、SEBの鼻腔(IN)投与は、iCP-NI処理により抑制された細胞性、好中球浸潤(Ly-6G陽性細胞)及び好中球数の増加を誘導した。iCP-NIは、好中球浸潤及び肝数値(図28)及び肺の肺胞体積(図29)を減少させた。脾臓において観察された潜在的な活性化結果-依存的細胞死滅でもあり得る死滅細胞数の減少を含め、全身効果もiCP-NI処理により顕著に改善された(図28及び30)。
【0091】
ARDS及び中等度から重症のSARS-CoV-2感染は、間質性線維症と関連がある。我々は、iCP-NIの抗線維症効果を検証するため、肺線維症のブレオマイシン(BLM)誘発マウスモデルを使用した。BLM誘発15時間後、BLM処理されたマウスの肺は、マイクロ-CT(図31)によりイメージ化されるように、広範な肺胞障害が示され、肺胞構造のダメージ、炎症細胞浸潤、ガラス質化及びコラーゲン沈着のような特徴を示した(図32)。このような線維化変化は、IV iCP-NI治療により大きく遮断された。
【0092】
これと共に、このような結果は、肺炎症が感染症刺激の以前に開始された静脈内投与されたiCP-NIに良く反応することを示唆する。ケモカインMCP-1の生成が制限され、免疫細胞、特に中等度から重症のCOVID-19疾病で観察されるサイトカインストームの主要原因である好中球の走化性が抑制される。従って、iCP-NIは、ケモカイン/サイトカインの発現を抑制し、肺胞構造を保存し、微細血管のダメージ及び多臓器不全につながる全身炎症を抑制する能力がある、効果的なCOVID-19治療剤になることが可能である。
【0093】
6.SARS-CoV-2に感染した非ヒト霊長類のサイトカイン/ケモカイン分泌及び肺炎症に対するiCP-NIの効能
非ヒト霊長類(アフリカミドリサル:AGM、赤毛猿:RM)にSARS-CoV-2を感染させた後、iCP-NIを注入して臨床徴候(O飽和度、呼吸数、心拍数、血糖数値、体温)の改善を観察した。全動物のサイトカイン/ケモカイン血漿水準及びBALFを追跡した。全動物を犠牲にして病理組織学的解析を行った。不幸にもSARS-CoV-2に感染したサルは、軽微な症状しか現れず、BAL液及び炎症誘発性サイトカイン/ケモカイン血漿の水準が低かった。
【0094】
SARS-CoV-2に感染した猿の軽い症状と低いサイトカイン/ケモカイン分泌にもかかわらず、iCP-NI処理動物において臨床症状が改善され、サイトカイン(IFN-γ)/ケモカイン(MCP-1)の分泌が減少した。1~5dpi(感染後1日)において、O飽和度は、86%に落ち、呼吸数は、1分当たり32回に増加し、心拍数は、163bpmに増加し、血糖は、286mg/dLに増加したが、iCP-NI投与の猿は、正常状態(酸素飽和度98%、呼吸数20回、心拍数113回、血糖103mg/dL)を維持した(図33)。IFN-γの分泌水準は、血漿において12.91pg/mLに増加し、これは、iCP-NI投与後、50.5%減少した6.39pg/mLであった。直接感染及び炎症部位であるBALFにおいてMCP-1は、感染5日後に2010.9pg/mLまで増加したが、iCP-NI処理動物においては、99.9%減少し、24.87pg/mLと示された(図34)。SARS-CoV-2のウイルス力価は、臨床症状の水準と相関関係がなかったが、iCP-NI処理によってその消滅率が高く維持された。iCP-NI投与初日(処理前)と比較して、希釈動物のウイルス力価は70%の減少率を示し、これに対し、iCP-NI処理動物は、完全に確立したSARS-CoV-2サルモデルにおいて91%の減少率を示した。同じく、部分及び未確立グループの希釈動物は、ウイルス力価が増加した倍数を示したが(それぞれ641%、426%)、これに対し、iCP-NI処理動物は、それぞれ37%及び98%の減少率を示した(図35)。iCP-NI処理をしなかった動物の肺からは、免疫細胞浸潤、増殖、出血、線維症が観察されたが、iCP-NI処理動物では、このような病理学的所見は観察されなかった(図36)。
【0095】
本発明は、例示的な実施例を参照して説明されている。本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、本発明の思想及び範囲を逸脱しない範囲内で本発明を種々に変更して実施可能であることが理解されるだろう。従って、本明細書に開示の実施例は、制限的な側面でなく例示的な側面から考慮されるべきである。本発明の範囲は、特許請求の範囲により定義され、均等な範囲内の全ての差異点は、本発明に含まれるものと解析されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明による改善された細胞透過性核輸送阻害剤合成ペプチドは、優れた細胞透過性を基に、NF-κBを含むSRTF(stress-responsive transcription factor)により媒介されるシグナル伝達をより効率的に遮断し、従って、サイトカインストーム又は炎症性疾患に対する優れた予防又は治療剤として使用可能である。
[参照]
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