(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】静電容量測定装置および静電容量測定プログラム
(51)【国際特許分類】
G01R 27/26 20060101AFI20240311BHJP
G01R 31/00 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
G01R27/26 C
G01R31/00
(21)【出願番号】P 2022551203
(86)(22)【出願日】2021-08-20
(86)【国際出願番号】 JP2021030536
(87)【国際公開番号】W WO2022064915
(87)【国際公開日】2022-03-31
【審査請求日】2023-03-08
(31)【優先権主張番号】P 2020159803
(32)【優先日】2020-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591143021
【氏名又は名称】イサハヤ電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】黒川 不二雄
【審査官】島▲崎▼ 純一
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-271556(JP,A)
【文献】特開2012-181143(JP,A)
【文献】特開2011-53154(JP,A)
【文献】特開平3-140034(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0018948(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0113756(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 27/26
G01R 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容量性を有する電気部品への出力の過渡変化を指示する指示手段と、
前記出力を所定の回数微分した微分値が、正の場合に前記微分値に応じた正側を示す1以上のシンボルを割り当てると共に、負の場合に前記微分値に応じた負側を示す1以上のシンボルを割り当てたシンボルデータを生成する微分処理手段と、
前記シンボルデータが示す各シンボルから過渡変化に対する波形の変動度合いを演算して、静電容量値に対応する変動値を算出する演算手段とを備えた静電容量測定装置。
【請求項2】
前記変動値に基づいて異常を判定する判定手段を備えた請求項1記載の静電容量測定装置。
【請求項3】
前記指示手段は、前記過渡変化として、前記出力を単発パルス状に低下させるよう指示する請求項1または2記載の静電容量測定装置。
【請求項4】
前記静電容量値を所定間隔ごとに蓄積して、前記静電容量値から異常発生時期を予測する予測手段を備えた請求項1から3のいずれかの項に記載の静電容量測定装置。
【請求項5】
前記演算手段は、前記過渡変化の発生時間から所定時間内において、該シンボルデータから、正側のシンボルごとの総数または負側のシンボルごとの総数のいずれか一方または両方を、波形の変動度合い示す変動値として計数する請求項1から3のいずれかの項に記載の静電容量測定装置。
【請求項6】
前記演算手段は、前記過渡変化の発生時間から所定時間内において、該シンボルデータから、同じシンボルが連続したシンボル数を順次計数し、これらのシンボル数をそれぞれ2乗した総和を平方根した値を、波形の変動度合い示す変動値として演算する請求項1から3のいずれかの項に記載の静電容量測定装置。
【請求項7】
前記微分処理手段は、前記シンボルとして、前記微分値の符号が、正の場合に1を割り当てると共に、負の場合に0を割り当てたシンボルデータを生成し、
前記演算手段は、前記過渡変化の発生時間から所定時間内において、該シンボルデータのLSBからMSBまでの各ビットをMSBからLSBに入れ替えて、nを3以上としたn進数に変換した変動値として演算する請求項1から3のいずれかの項に記載の静電容量測定装置。
【請求項8】
前記演算手段は、前記過渡変化の発生時間から所定時間内において、該シンボルデータからシンボルが変化するまでのブロック数を計数し、ブロック数の総数を変動値として演算する請求項1から3のいずれかの項に記載の静電容量測定装置。
【請求項9】
前記微分処理手段が生成したシンボルデータに、収縮処理および膨張処理を行うことにより、所定長さより短いノイズを除去するノイズ除去手段を備えた請求項1から7のいずれかの項に記載の静電容量測定装置。
【請求項10】
前記微分処理手段は、微分値0を中心した所定範囲を不感帯として、シンボル化しない請求項1から8のいずれかの項に記載の静電容量測定装置。
【請求項11】
コンピュータを、
容量性を有する電気部品への出力の過渡変化を指示する指示手段、
前記出力を所定の回数微分した微分値が、正の場合に前記微分値に応じた正側を示す1以上のシンボルを割り当てると共に、負の場合に前記微分値に応じた負側を示す1以上のシンボルを割り当てたシンボルデータを生成する微分処理手段、
前記シンボルデータが示す各シンボルから過渡変化に対する波形の変動度合いを演算して、静電容量値に対応する変動値を算出する演算手段として機能させる静電容量測定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容量性を有する電気部品の異常度合いを測定して異常を予測する静電容量測定装置および静電容量測定プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
容量性を有する電気部品、例えば、電解コンデンサでは、経年変化により、絶縁紙に含浸された電解液が封止ゴムに浸透することで外部に漏れて蒸発して、いわゆる容量抜けと称される静電容量の減少が発生する。この電解液の蒸発速度は、周囲温度が10度上昇すると2倍になる。従って、温度が10度上昇するごとに寿命が半分ずつ減少する。また、電気部品は突然に壊れ、絶縁状態となることがある。
このような容量性を有する電気部品について異常を検知する技術が、特許文献1に記載されている。
【0003】
特許文献1に記載の電気車用電力供給装置は、フィルタコンデンサとパッシブフィルタ回路とを備えた場合、パッシブフィルタ回路の帰線側端子を、電流センサと電車線路の帰線との間に接続し、そして、異常検知部が、電車線路とフィルタコンデンサおよびパッシブフィルタ回路のコンデンサとの間で充電又は放電が行われる期間に、電流信号を微分した信号の周波数を検出し、微分信号の周波数が上限閾値に達しなかった場合にコンデンサの容量低下を検知するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の電気車用電力供給装置では、フィルタコンデンサと、パッシブフィルタ回路のコンデンサとに対して、充電又は放電が行われる期間に、異常の有無を検知しているため、異常検知がその期間だけに絞られてしまうだけでなく、いつ充電又は放電が行われるか予測することが難しいため、計測のタイミングや期間が特定できない。
【0006】
そこで本発明は、任意のタイミングで容量性を有する電気部品の静電容量を測定することが可能な静電容量測定装置および静電容量測定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電気部品の静電容量測定装置は、容量性を有する電気部品への出力の過渡変化を指示する指示手段と、前記出力を所定の回数微分した微分値が、正の場合に前記微分値に応じた正側を示す1以上のシンボルを割り当てると共に、負の場合に前記微分値に応じた負側を示す1以上のシンボルを割り当てたシンボルデータを生成する微分処理手段と、前記シンボルデータが示す各シンボルから過渡変化に対する波形の変動度合いを演算して、静電容量値に対応する変動値を算出する演算手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明の電気部品の静電容量測定プログラムは、コンピュータを、容量性を有する電気部品への出力の過渡変化を指示する指示手段、前記出力を所定の回数微分した微分値が、正の場合に前記微分値に応じた正側を示す1以上のシンボルを割り当てると共に、負の場合に前記微分値に応じた負側を示す1以上のシンボルを割り当てたシンボルデータを生成する微分処理手段、前記シンボルデータが示す各シンボルから過渡変化に対する波形の変動度合いを演算して、静電容量値に対応する変動値を算出する演算手段として機能させることを特徴とするものである。
【0009】
本発明によれば、指示手段が容量性を有する電気部品への出力の過渡変化を指示すると、過渡変化した出力に電気部品により過渡波形が現れる。この出力を微分処理手段が微分して、微分値が、正の場合に微分値に応じた正側を示す1以上のシンボルを割り当てると共に、負の場合に微分値に応じた負側を示す1以上のシンボルを割り当てたシンボルデータを生成する。演算手段が、シンボルデータが示す各シンボルから過渡変化に対する波形の変動度合いを静電容量値に対応する変動値として算出することで、静電容量値を推定することができる。
従って、本発明は、指示手段が、電気部品への出力を過渡変化させることを、任意のタイミングで静電容量値の測定を行うことができる。
【0010】
前記変動値に基づいて異常を判定する判定手段を備えたものとすることができる。
そうすることで、任意のタイミングで静電容量値の測定を行うことができ、稼働中でも劣化や故障を検知することが可能である。
【0011】
前記指示手段は、前記過渡変化として、前記出力を単発パルス状に低下させるよう指示するものとすることができる。単発パルスが出力を高めると、電気部品へのダメージが心配されるが、出力を低下させるようにするため、電気部品へのダメージを抑止することができる。
【0012】
前記静電容量値を所定間隔ごとに蓄積して、前記静電容量値から異常発生時期を予測する予測手段を備えたものとすることができる。
所定間隔ごとに蓄積された静電容量値から異常発生時期を予測するため、事前に電気部品の交換を準備することができる。
【0013】
前記演算手段は、前記過渡変化の発生時間から所定時間内において、該シンボルデータから、正側のシンボルごとの総数または負側のシンボルごとの総数のいずれか一方または両方を、波形の変動度合い示す変動値として計数するものとすることができる。
【0014】
また、前記演算手段は、前記過渡変化の発生時間から所定時間内において、該シンボルデータから、同じシンボルが連続したシンボル数を順次計数し、これらのシンボル数をそれぞれ2乗した総和を平方根した値を、波形の変動度合い示す変動値として演算するものとすることができる。
【0015】
また、前記微分処理手段は、前記シンボルとして、前記微分値の符号が、正の場合に1を割り当てると共に、負の場合に0を割り当てたシンボルデータを生成し、前記演算手段は、前記過渡変化の発生時間から所定時間内において、該シンボルデータのLSB(least significant bit)からMSB(most significant bit)までの各ビットをMSBからLSBに入れ替えて、nを3以上としたn進数に変換した変動値として演算ものとすることができる。
【0016】
更に、前記演算手段は、前記過渡変化の発生時間から所定時間内において、該シンボルデータからシンボルが変化するまでのブロック数を計数し、ブロック数の総数を変動値として演算するものとすることができる。
【0017】
前記微分処理手段が生成したシンボルデータに、収縮処理および膨張処理を行うことにより、所定長さより短いノイズを除去するノイズ除去手段を備えたものとすることができる。微分による微分値に基づいてシンボルデータを生成するが、微分は過渡波形に過敏に反応することがあり、シンボルデータにノイズとなって現れる。しかし、シンボルデータに、収縮処理および膨張処理を行うことにより、所定長さより短いノイズを除去することにより、正確なシンボルデータを得ることができる。
【0018】
前記微分処理手段は、微分値0を中心した所定範囲を不感帯として、シンボル化しないものとすることができる。
微分値が0となるような極大点や極小点では、ノイズが発生しやすくなる。そのため、微分値0を中心した所定範囲を不感帯として、シンボル化しないようにすることにより、ノイズの発生を抑止することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、電気部品への出力を過渡変化させることを、指示手段が任意のタイミングで指示することにより、稼働中でも劣化や故障を検知することが可能である。よって、本発明は、任意のタイミングで容量性を有する電気部品の経年変化や異常の検知を可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施の形態に係る静電容量測定装置とコンバータとの構成を示す図である。
【
図2】
図1に示す静電容量測定装置による異常検知方法を説明するためのフローチャートである。
【
図3】
図1に示す静電容量測定装置の微分処理手段および演算手段の動作を説明するための図である。
【
図4】シンボルデータを収縮して膨張してノイズ除去することを説明するための図であり、(A)はノイズが除去された状態を示す図、(B)はノイズでないため元のデータに復元された状態を示す図である。
【
図5】演算手段がシンボルデータに基づいて変動値を算出することを説明するための図であり、(A)は、「1」および「0」の総数を計数することを説明するための図、(B)はLSBからMSBまでの各ビットを入れ替えて数値化することを説明するための図、(C)はブロック数を計数することを説明するための図である。
【
図6】クラスタリング法により静電容量値を得ることを説明するためのグラフであり、(A)は温度に対応する静電容量値がプロットされたグラフ、(B)は出力容量(負荷電力)に対応する静電容量値がプロットされたグラフ、(C)は時間に対する静電容量値がプロットされ、近似曲線が描かれたグラフである。
【
図8】シミュレーション結果を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態に係る静電容量測定装置を図面に基づいて説明する。
図1に示す本発明の実施の形態に係る静電容量測定装置10は、電力変換装置の一例であるコンバータ100の、容量性(キャパシタンス)を有する電気部品の一例である出力コンデンサC
Oの静電容量を測定して、容量抜けや、容量減少する故障、絶縁故障のように、規定された動作可能な値が外れた状態の異常を検知するものである。
ここで、まず、コンバータ100について説明する。コンバータ100は、電源Pである三相交流(Van,Vbn,Vcn)を入力して、負荷Rに、電圧V
DCを出力するものである。
【0022】
[コンバータ100の構成]
コンバータ100は、第1アーム110と第2アーム120と第3アーム130とを有している。
第1アーム110から第3アーム130は、第1上アーム111、第2上アーム121および第3上アーム131と、第1上アーム111から第3上アーム131のそれぞれに対応する、第1下アーム112、第2下アーム122および第3下アーム132とが、それぞれ直列に接続されたものである。
【0023】
第1上アーム111から第3上アーム131と、第1下アーム112から第3下アーム132は、ゲート端子に、後述する目標電圧の出力指示手段からの信号が接続された、スイッチング素子の一例であるNチャンネル型のMOSFETにより形成されている。
第1上アーム111から第3上アーム131と、第1下アーム112から第3下アーム132との接続点と、電源Pとの間には、ノイズ除去用のコイルLが直列接続されている。
【0024】
第1アーム110から第3アーム130は、出力電圧(電圧VDC)が目標電圧となるように、制御手段140により指示される。
制御手段140は、第1アーム110と第2アーム120と第3アーム130とのスイッチングをPWM(Pulse Width Modulation)により制御する。
【0025】
[静電容量測定装置10の構成]
次に、静電容量測定装置10の構成について、図面に基づいて説明する。静電容量測定装置10は、静電容量測定プログラムが動作するコンピュータである。
静電容量測定装置10は、出力指示手段11と、AD変換手段12と、微分処理手段13と、ノイズ除去手段14と、演算手段15と、判定手段16と、報知手段17と、クラスタリング手段18と、予測手段19とを備えている。
【0026】
出力指示手段11(指示手段)は、容量性を有する電気部品への出力を、過渡変化として単発パルス状に変化させるよう、制御手段140に指示する。
AD変換手段12は、入力した出力電圧(電圧VDC)をアナログ信号からデジタル信号に変換する。
微分処理手段13は、出力を微分した微分値が、正の場合に微分値に応じた正側を示す1以上のシンボルを割り当てると共に、負の場合に微分値に応じた負側を示す1以上のシンボルを割り当てたシンボルデータを生成する。
【0027】
ノイズ除去手段14は、微分処理手段13が生成したシンボルデータに、収縮処理および膨張処理を行うことにより、所定長さより短いノイズを除去する。
演算手段15は、シンボルデータが示す各シンボルから過渡変化に対する波形の変動度合いを演算して、静電容量値に対応する変動値を算出する。変動値に対応させた静電容量値は、図示しない記憶手段に格納されている。
判定手段16は、演算手段15による変動値または静電容量値が閾値以上または閾値以下となった場合に、異常を判定する。
報知手段17は、判定手段16により異常が判定されたときに、管理者に異常を報知する。
クラスタリング手段18は、目標電圧、目標電圧に対応した変動値、閾値を過渡特性のデータとして収集したデータ集団をクラスタリングする。
予測手段19は、静電容量値を所定間隔ごとに蓄積して、静電容量値から異常発生時期を予測する。
【0028】
[静電容量測定装置10の動作および使用状態]
以上のように構成された本発明の実施の形態に係る電気部品の静電容量測定装置10の動作および使用状態を図面に基づいて説明する。
本実施の形態では、
図1に示す出力コンデンサC
Oの容量抜けを検知することを説明する。
まず、
図1に示すAD変換手段12は、出力電圧(電圧V
DC)をデジタル変換して測定データを出力する(
図2に示すステップS10参照)。
出力指示手段11は、出力電圧を単発パルス状に低下させるよう、制御手段140に目標電圧を指示する(ステップS20参照)。
【0029】
微分処理手段13は、
図3に示すように、単発パルスPの発生時間から所定時間内となる、出力電圧が立下がった時間t1から任意の時間t2までの出力電圧(電圧V
DC)についての測定データを微分してシンボルデータS[n]を生成する(ステップS30参照)。
【0030】
微分処理手段13は、出力を微分した微分値が正の場合に、微分値を所定値ごとに正側を示す「0」、「1」、「2」の3種類の値としたり、「1」~「3」の範囲の値としたり、「1」~「4」以上の値としたりすることができる。また、負の場合に、微分値を所定値ごとに負側を示す「-1」、「-2」の2種類の値としたり、「-1」~「-3」の範囲の値としたり、「-1」~「-4」以下の値としたりすることができる。つまり、正側と負側とを多値化することができる。
また、微分処理手段13は、シンボルとして、
図3に示す例では、微分値の符号が、正の場合と0の場合とで「1」を割り当てると共に、負の場合に「0」を割り当てたシンボルデータを生成することができる。本実施の形態では、シンボルは「1」と「0」との2種類を使用している。
【0031】
次に、ノイズ除去手段14が、シンボルデータを収縮処理と膨張処理とを行うことでノイズを除去する(ステップS40参照)。例えば、
図4(A)に示すシンボルデータでは、3つのシンボル「0」同士の間に、1つのシンボル「1」が挟まれている。ノイズ除去手段14が、収縮処理により「1」が「0」に置き換わる。そして、全てが「0」となったシンボルデータを膨張処理することで、全てが「0」のまま元の長さのシンボルデータとなる。
【0032】
また、
図4(B)に示すシンボルデータでは、3つのシンボル「0」同士の間に、3つのシンボル「1」が挟まれている。この「1」はノイズでは無い。
従って、ノイズ除去手段14が、3つ連続した「1」を収縮処理しても、1つの「1」が残り、そして、「1」が1つとなったシンボルデータを膨張処理することで、「1」が3つ連続した状態に復元されたシンボルデータとすることができる。
【0033】
ここで、ノイズ除去手段14によりノイズ除去をすること以外に、出力電圧を微分した微分値が、極大点および極小点にて非常に小さくなり、微分値の符号が頻繁に切り替わるような揺らぎによるノイズを、微分処理手段13が除去することができる。
【0034】
例えば、1あるいは0が何度か同じ値で続かない限り値を変更しないようにすることができる。また、微分値0となる近辺(微分値0を中心した所定範囲)に不感帯を設け、シンボル化(数値化)しないようにすることができる。更に、微分値0となる近辺に第3の値を割り付ける。これは、上記説明では、符号が正と微分値が0であれば「1」、符号が負であれば「0」としているところ、例えば、符号が正で、微分値が所定以上あれば「+1」、微分値の絶対値が所定未満であれば「0」、符号が負で、微分値が所定以下あれば「-1」とすることを意味する。
そうすることで、微分値の極大値と極小値との付近で発生しやすくなるノイズを除去することができる。
【0035】
次に、演算手段15は、シンボルデータが示す各シンボルから単発パルスに対する出力電圧波形の変動度合いを演算して、変動値を算出する(ステップS50参照)。
例えば、演算手段15は、単発パルスの発生時間から所定時間内において、シンボルデータから、正側のシンボルごとの総数または負側のシンボルごとの総数のいずれか一方または両方を、波形の変動度合い示す変動値として計数することができる。
【0036】
初期状態であるときに、出力電圧が立下がった時間から任意の時間での出力電圧が、
図5(A)に示すように「000111111000」であった場合では、「1」の総数は6であり、「0」の総数は3+3=6である。
出力コンデンサC
O(
図1参照)の容量抜けを起こした容量変化状態では、
図5(A)に示すように「001111001101」のようになる。この場合、「1」の総数は4+2+1=7であり、「0」の総数は2+2+1=5である。
そして、演算手段15は、「1」の総数7または「0」の総数5を算出して変動値とし、この変動値に対応する静電容量値を記憶手段から読み出すことにより、静電容量値を推定することができる(ステップS60参照)。
【0037】
判定手段16は、「1」の総数が所定値(第1閾値)より増加すると劣化したと判定することができ、「0」の総数が所定値(第1閾値)より減少すると劣化したと判定することができる。また、これらの条件の両方で判定することができる。また、判定手段16は、静電容量値が異常値を示すときに異常と判定することができる(ステップS70参照)。
【0038】
また、演算手段15は、シンボルデータから、同じシンボルが連続したシンボル数を順次計数し、これらのシンボル数をそれぞれ2乗した総和を平方根した値を、波形の変動度合い示す変動値として演算することができる(ステップS50参照)。これは、シンボル数をn次元の座標として表したときの原点からの距離を示している。
【0039】
初期状態であるときに、出力電圧が立下がった時間から任意の時間での出力電圧が、「000111111000」であった場合では、√(3
2+6
2+3
2+0+0+0)=√54≒7.35となる。
出力コンデンサC
O(
図1参照)の容量抜けを起こした容量変化状態では、「001111001101」のようになると、√(2
2+4
2+2
2+2
2+1
2+1
2)=√30≒5.48となる。
そして、演算手段15は、シンボル数をn次元の座標として表したときの原点からの距離を算出して変動値とし、この変動値に対応する静電容量値を記憶手段から読み出すことにより、静電容量値を推定することができる(ステップS60参照)。
【0040】
判定手段16は、原点からの距離が所定値(第2閾値)より減少すると劣化したと判定することができる。また、判定手段16は、静電容量値が異常値を示すときに異常と判定することができる(ステップS70参照)。
【0041】
演算手段15は、シンボルデータのLSBからMSBまでの各ビットをMSBからLSBに入れ替えて、10進数または16進数に変換した変動値として演算することができる(ステップS50参照)。なお、変動値は、nを3以上としたn進数とすることも可能である。
【0042】
初期状態であるときに、出力電圧が立下がった時間から任意の時間での出力電圧が、
図5(B)に示すように「000111111000」であった場合では、LSBからMSBを入れ換えると、「000111111000」である。従って、このシンボルデータを10進数に変換すると504となる。
出力コンデンサC
O(
図1参照)の容量抜けを起こした容量変化状態では、
図5(B)に示すように「001111001101」のようになり、LSBからMSBを入れ換えると、「101100111100」となり、10進数に変換すると2876となる。
そして、演算手段15は、LSBからMSBまでを入れ換えた変動値に対応する静電容量値を記憶手段から読み出すことにより、静電容量値を推定することができる(ステップS60参照)。
【0043】
判定手段16は、10進数の値(変動値)が所定値(第3閾値)より増加すると劣化したと判定することができる。また、判定手段16は、静電容量値が異常値を示すときに異常と判定することができる(ステップS70参照)。
シンボルデータを10進数に変換する以外に、3進数以上の数値とすることができる。
【0044】
演算手段15は、シンボルが変化するまでのブロック数を計数し、ブロック数の総数を変動値として演算することができる(ステップS50参照)。
【0045】
初期状態であるときに、出力電圧が立下がった時間から任意の時間での出力電圧が、
図5(C)に示すように「000111111000」であった場合では、シンボルが変化するまでのブロックとして「000」と「111111」と「000」とに分割することができるため、「0」のブロックが2、「1」のブロックが1であることから総数は3である。
出力コンデンサC
O(
図1参照)の容量抜けを起こした容量変化状態では、
図5(C)に示すように「001111001101」のようになると、シンボルが変化するまでのブロックとして「00」と、「1111」と、「00」と、「11」と、「0」、「1」とに分割することができ、「0」のブロックが3、「1」のブロックが3であることから総数は6である。
そして、演算手段15は、ブロック総数を算出して変動値とし、この変動値に対応する静電容量値を記憶手段から読み出すことにより、静電容量値を推定することができる(ステップS60参照)。
【0046】
判定手段16は、ブロック数の値(変動値)が所定値(第4閾値)より増加すると劣化したと判定することができる。また、判定手段16は、静電容量値が異常値を示すときに異常と判定することができる(ステップS70参照)。
【0047】
判定手段16が劣化を検出すると、報知手段17は、管理者に報知する(ステップS80参照)。この報知は、画面に表示するものでもよいし、音により通知するものでもよい。また、報知手段17は、図示しないネットワークを介して通知するものでもよい。また、報知手段17は、静電容量値を報知することができる(ステップS90参照)。
【0048】
予測手段19は、所定間隔ごとの静電容量値(変動値)を記憶手段に蓄積して、近似式を求めることで、静電容量値の推移が予測できるので、異常の予測が可能である(ステップS100参照)。従って、劣化による出力コンデンサCOの交換時期が予測できるため、交換準備を予定することができる。この予測は、近似式を求める以外に、出力電圧、出力電流、負荷、周囲環境などの統計的なデータに基づいてAI(artificial intelligence)により推定することもできる。
【0049】
このようにして、
図1に示す静電容量測定装置10は、出力指示手段11が、コンバータ100の出力コンデンサC
Oへの出力電圧を単発パルス状に変化させるよう、制御手段140に指示することにより、任意のタイミングで、出力コンデンサC
Oの変動値を算出して静電容量値を測定することができ、容量抜けや故障を検知することが可能である。
【0050】
また、特許文献1に記載の電気車用電力供給装置では、電流信号を微分した信号がゼロレベルを交差したゼロクロスを検出することで周波数を算出しているが、微分によるゼロクロスの検出はピンポイントな変化を観察するものであり、ノイズを誤検知するおそれがあるため、正確な把握が難しい。
しかし、本実施の形態に係る静電容量測定装置10では、出力電圧を微分した微分値の符号に応じてシンボル化しているため、過渡波形を連続的に観察することができる。従って、出力コンデンサCOの容量変化を正確に把握することができる。
【0051】
また、出力電圧を微分した微分値の正負の符号により、「1」と「0」などの数や文字、記号等の符号に置き換え、数値化あるいは記号化(符号化)することで、信号処理で用いられる多くの手法を応用することが可能となり、容易に、電力変換器の出力フィルタの電解コンデンサなどの部品の変化を識別することができるので、不良、故障、劣化などの異常を判定することができる。
【0052】
なお、上記第1閾値から第4閾値による判定では、常に一定というよりは、いろいろな負荷条件やデバイスのばらつき等のパラメータの違いで、ばらついた過渡特性となる。
これらの過渡特性のデータは、目標電圧や目標電圧に対応した変動値、閾値を数値として収集できるので、これらに基づいてキャパシタンス毎のばらついたデータの集団を、
図1に示すクラスタリング手段18が、クラスタリングすることで、ばらついた条件下でも監視対象の電気部品のキャパシタの故障や経年変化等による変化を識別することができる。
【0053】
ここで、クラスタリング手段18によるクラスタリングにより、故障や経年変化を識別することについて詳細に説明する。
演算手段15により静電容量値が推定されると、これをクラスタリングすることにより予測する。
クラスタリングは、様々な手法により行うことができる。
クラスタリングの手法は、例えば、階層クラスタリング(ウォード法、群平均法、最短距離法、最長距離法など)、分割クラスタリング(kmeans法,kmedians法など)などが使用できる。
クラスタリング手段18および予測手段19は、これらのクラスタリング手法に基づいて故障や経年変化を予測する。
【0054】
被監視装置となるコンバータ100の温度を測定する温度センサが設けられており、出力容量(負荷電力)は不明な場合に、測定温度と、推定された静電容量値とから、経年変化(経時変化)による静電容量値の低下を予測することも可能である。
【0055】
例えば、
図6(A)に示すグラフでは、X年に測定された温度に対応する静電容量値がプロットされている。また、このグラフでは、翌年となるX+1年に測定された温度ごとの静電容量値がプロットされている。この測定期間は、例えば、3ヶ月ごと、半年など、任意に変更することが可能である。
クラスタリング手段18は、これらの測定値に対する推定値を、例えば、群平均法等によりクラスタリングして中央値を求める。また、中央値の代わりに平均値、または中央値をクラスタの中心とすることができる。
【0056】
次に、被監視装置となるコンバータ100の出力容量(負荷電力)を測定する場合について説明する。なお、この場合、温度は不明であるとする。
図6(B)に示すグラフでは、X年およびX+1年に測定された出力容量(負荷電力)に対応する静電容量値がプロットされている。
クラスタリング手段18は、クラスタリング手法に基づいて経年変化を演算する。これらの測定値に対する推定値を群平均法等によりクラスタリングして中央値を求める。また、
図6(A)のグラフの際に説明したように、中央値の代わりに平均値または中心値とすることができる。
【0057】
このようにして、
図6(A)および同図(B)に示すグラフにおけるクラスタごとの静電容量値が算出されると、予測手段19が、静電容量値の予測を行うことができる。
予測手段19は、このように算出された静電容量値の中央値、平均値、中心値を、年ごとにプロットして、
図6(C)の近似曲線を示す関数を得る。
この近似曲線を示す関数から、近似曲線の先を見ることで、あるいは標準の曲線との値の差とか傾きの差を見ることで、何年後とか数ヶ月後に規定の値を下回るとかが予測できる。従って、将来の静電容量値の変化を予測することができるので、容量性を有する電気部品の劣化を予測することができる。
【0058】
なお、演算手段15が時間ごとに静電容量値を演算していれば、予測手段19は、
図6(C)に示すグラフのように、時間ごとの静電容量値から近似曲線を示す関数を演算することができる。クラスタリング手段18によりクラスタリングを用いることなく、予測することができる。
このとき、近似曲線に基づいてばらつき要素をフィルタ(ローパスフィルタやカルマンフィルタで基本要素を取り出す)で除外した後に近似曲線を求める。そうすることで、近似曲線の精度を向上させることができる。
【0059】
また、
図6(B)に示すグラフの場合、同じ出力電力の時の値のみを抽出して、クラスタリングを行うようにすることもできる。そうすることで、負荷電力の大きさでステップ変化時の振動周期が変わる影響を除くことができる。
【0060】
図6(A)に示すグラフでは温度と静電容量値、
図6(B)に示すグラフでは出力容量(負荷電力)の2つのパラメータの分布に基づいて静電容量値を決定していたが、例えば、周囲温度、回路パラメータ、入力電圧、入力電流、出力電圧、出力電流等のパラメータをn次元のデータとして、クラスタリングしてもよい。
【0061】
[シミュレーション]
図1に示すコンバータ100にてインディシャル応答のデータを取り、出力コンデンサC
Oを100%と80%でどのような違いが出るかをシミュレートした。
検証方法は、コンバータ100の出力電圧目標値を400Vから300Vに100μs変化するインディシャル応答させたときの特性で検証する。また、
図7に示す各条件によりシミュレーションを行った。
【0062】
シミュレーションは、サンプリング周波数を5KHzにして、出力コンデンサの定格容量を、3300μFから、5%から40%まで5%ずつ低減させたときの出力電圧について、単発パルスを発生させたt1=0.4秒からt2=0.47秒までのシンボルデータの中から微分値の符号が正および微分値が0となる「1」の数を計数した。また、微分値の符号が負となる「0」の数も計数した。
【0063】
結果、
図8のグラフに示すように、初期状態では「1」が220、「0」が130、5%減では「1」が220、「0」が130、10%減では「1」が223、「0」が127、15%減では「1」が228、「0」が122、20%減では「1」が231、「0」が119、25%減では「1」が234、「0」が116、30%減では「1」が236、「0」が114、35%減では「1」が241、「0」が109、40%減では「1」が242、「0」が108であった。
【0064】
このことから判るように、キャパシタを低減させると「1」の総数は増加する。そして、演算手段15が予め「1」の総数と静電容量値を対応付けして図示しない記憶手段に格納することで、一定期間の微分値より求めた「1」の総数から出力コンデンサの値(静電容量値)を類推することができる。
この結果を用いて、所定間隔ごとの静電容量値(変動値)を記憶手段に蓄積すると、静電容量値の変動傾向に基づいて推移を予測することで、電力変換器を動作させたままでキャパシタの経年変化などの異常を予測および検知が可能である。
【0065】
なお、本実施の形態では、
図1に示すコンバータ100の出力コンデンサC
Oの容量が時間の経過と共に徐々に抜ける容量抜けを起こすような劣化の検知を説明したが、本発明は容量が急激に減少するような故障であっても検知することが可能である。
また、コンバータ100の出力コンデンサC
Oを例に説明したが、容量性を有する電気部品、例えば、バッテリでも、本発明を充電回路に適用することで、バッテリの異常を検知することが可能である。
【0066】
また、本実施の形態では、コンバータ100の出力電圧を単発パルス状に変化させて、過渡変化させているが、過渡的に電圧あるいは電流、電力などを振動的に変化させられれば、過渡変化は、
図1に示す出力指示手段11がインディシャル応答、ステップ応答あるいは正弦波による変化を指示するようにしてもよい。
また、出力指示手段11は、単発パルスとして、電圧を低下させるように指示しているが、電圧が上昇してもダメージを受けず、問題なければ、電圧を上げるような単発パルスを指示してもよい。
【0067】
更に、本実施の形態では、微分回数が1回であったが、出力を複数回の微分したときの値に基づいてシンボルデータを生成してもよい。
また、コンバータ100は定電圧源として機能するものであるため、出力は出力電圧を測定するようにしていたが、出力を電力とすることもできる。また、コンバータが定電流源として機能するものであれば、出力は出力電流や電力とすることができる。
【0068】
また、電力変換装置は、定電圧源および定電流源のいずれでも、PID制御する制御手段のために、出力電圧や出力電流を計測しているため、出力電圧や出力電流により静電容量値を測定する本実施の形態に係る静電容量測定装置10は、出力電圧や出力電流を測定する新たな回路を追加することなく、実現可能である。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、容量性を有する電気部品の静電容量値が稼働中でも測定できるので、コンデンサやバッテリなどを使用する電気機器に好適であり、電力変換装置の出力フィルタ(出力コンデンサ)の異常の検出に最適である。
【符号の説明】
【0070】
10 静電容量測定装置
11 出力指示手段
12 AD変換手段
13 微分処理手段
14 ノイズ除去手段
15 演算手段
16 判定手段
17 報知手段
18 クラスタリング手段
19 予測手段
100 コンバータ
110 第1アーム
111 第1上アーム
112 第1下アーム
120 第2アーム
121 第2上アーム
122 第2下アーム
130 第3アーム
131 第3上アーム
132 第3下アーム
140 制御手段
CO 出力コンデンサ
L コイル
P 電源
R 負荷