(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】防護柵
(51)【国際特許分類】
E01F 7/04 20060101AFI20240311BHJP
【FI】
E01F7/04
(21)【出願番号】P 2023099193
(22)【出願日】2023-06-16
【審査請求日】2023-06-19
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和 5年 4月 3日に発行された「高エネルギー吸収型落石防護柵 ダブルフェンス」(パンフレット)にて公開
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000229128
【氏名又は名称】ベルテクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】二見 豪
(72)【発明者】
【氏名】福永 一基
【審査官】小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-085691(JP,A)
【文献】特開2001-049625(JP,A)
【文献】特開2009-091827(JP,A)
【文献】特許第7202586(JP,B1)
【文献】特開2010-133248(JP,A)
【文献】特開2022-135486(JP,A)
【文献】国際公開第2016/084337(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/042470(WO,A1)
【文献】特開2002-363921(JP,A)
【文献】特開2005-146648(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01F 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の間隔を隔てて自立可能に立設した中間支柱と端末支柱を含む支柱と、支柱を間に挟み、支柱の上流側および下流側に防護ネットの阻止面を形成し、
隣り合う一対の中間支柱の間に形成した中間区間と中間支柱と端末支柱の間に形成した端末区間で被捕捉物を捕捉する防護柵であって、
前記防護ネットは支柱を間に挟んで隣り合う支柱の上流側に配置し、隣り合う支柱の間に掛け渡した複数のロープ材と、該ロープ材の片面に重合して配置した上流ネット面を具備した第1防護ネットと、
支柱を間に挟んで隣り合う前記支柱の下流側に配置し、隣り合う支柱の間に掛け渡した複数のロープ材と、該ロープ材の片面に重合して配置した下流ネット面を具備した第2防護ネット
とを有し、
前記第1防護ネットおよび第2防護ネットは金網製で共通の巻回ネットを具備し、
前記巻回ネットは前記第1防護ネット側
で中間区間と端末区間に跨って配置した上流ネット面と、前記第2防護ネット側
で中間区間と端末区間に跨って配置した下流ネット面と、端末区間に位置する端末支柱の周面に摺動可能に巻き掛けた折返ネット面とを有し、
受撃時に巻回ネットの折返ネット面が摺動して前記端末支柱に対する捩じり力の発生を抑制しつつ、前記上流ネット面または下流ネット面の何れか一方に発生した張力を折返ネット面を通じて前記上流ネット面および下流ネット面に分散して伝達し得るように、前記端末区間に設けた前記上流ネット面と下流ネット面とが折返ネット面を介して連続性を有していることを特徴とする、
防護柵。
【請求項2】
前記巻回ネットが無端構造であることを特徴とする、請求項1に記載の防護柵。
【請求項3】
前記巻回ネットが菱形金網であることを特徴とする、請求項1に記載の防護柵。
【請求項4】
前記第1防護ネットの限界撓み変形量が前記第2防護ネットの限界撓み変形量より小さい関係にあることを特徴とする、請求項1に記載の防護柵。
【請求項5】
前記第1防護ネットが隣り合う支柱の間に掛け渡した複数のロープ材と、該ロープ材の一部に介装した緩衝装置とを具備し、前記ロープ材に一定以上の引張力が作用したときにロープ材と緩衝装置の間で摺動が生じることを特徴とする、請求項1に記載の防護柵。
【請求項6】
前記第1防護ネットのロープ材が隣り合う支柱の間に略8字形に掛け渡した緩衝装置付きのクロスロープであり、前記ロープ材に一定以上の引張力が作用したときにロープ材と緩衝装置の間で摺動が生じることを特徴とする、請求項1に記載の防護柵。
【請求項7】
前記被捕捉物が崩落物または飛来物であることを特徴とする、請求項1または2に記載の防護柵。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は落石、土砂、雪崩、積雪等の崩落物または強風や竜巻等によって飛来する樹木、破壊された建造物、車両等の飛来物(以下「被捕捉物」という)を捕捉する防護柵に関し、特に隣り合う支柱の上流側(斜面山側)と下流側(斜面谷側)に分離独立して設けた2枚の防護ネットを具備した防護柵に関する。
【背景技術】
【0002】
出願人は、支柱の上流側と下流側に2枚の防護ネットを配置した防護柵を先に提案した(特許文献1)。
この防護柵は、隣り合う支柱の上流側に設置した第1防護ネットと、隣り合う支柱の下流側に設置した第2防護ネットとが、互いに分離独立していて、受撃時に時間をおいて個別に衝撃吸収作用を発揮する。
【0003】
第1防護ネットと第2防護ネットは、複数のロープ材と金網との組み合わせで構成する点で共通するが、下流側へ向けた第1防護ネットの限界撓み変形量が第2防護ネットの限界撓み変形量より小さくなるように構成した点で相違する。
第1および第2防護ネットの限界撓み変形量に差を設けたのは、荷重負担のピーク時期をずらすためであり、第1および第2防護ネットの荷重負担のピーク時期をずらすことで、防護柵全体としてのエネルギー吸収量が増大する。
【0004】
第1または第2防護ネットを構成する各複数のロープ材は、隣り合う支柱間にスパン単位で配索してある。
第1または第2防護ネットを構成する各金網は、防護柵の複数スパンに亘って連続して配設してある。
各金網の上下辺はスパン毎に設けたロープ材に対してコイル連結してあり、各金網の端末部(左右の側辺)は別途の連結用ロープをらせん状に巻き付けて端末支柱に一体に固定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
既述した防護柵はつぎの課題を内包している。
<1>第1または第2防護ネットに作用した衝撃力は、中間支柱だけでなく最終的に防護柵の端末支柱にも伝えられる。
そのため、端末支柱を中間支柱と比べて高強度に設計しなければならず、端末支柱が防護柵高騰の一因になっている。
<2>各金網の側辺が端末支柱に一体に固定してあるため、受撃時に各金網の張力が端末支柱への捩じり力として作用する。
捩じり力が作用すると、端末支柱の曲げ耐力が低下する。
<3>各金網の端末部が連結用ロープ等で端末支柱に一体に固定してあるため、受撃時に応力が集中して各金網の端末部が破断し易い。
<4>既述した複数の要因により、防護柵の中間区間(中間支柱と中間支柱の間の区間)に対して端末区間(端末支柱と中間支柱の間の区間)の衝撃吸収性能が低くなる。
そのため、端末区間の衝撃吸収性能を改善できる技術の提案が求められている。
【0007】
本発明の目的は、以上の問題点を解消できる防護柵を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、所定の間隔を隔てて自立可能に立設した中間支柱と端末支柱を含む支柱と、支柱を間に挟み、支柱の上流側および下流側に防護ネットの阻止面を形成して被捕捉物を捕捉する防護柵であって、前記防護ネットは支柱を間に挟んで隣り合う支柱の上流側に配置し、隣り合う支柱の間に掛け渡した複数のロープ材と、該ロープ材の片面に一体に付設した上流ネット面を具備した第1防護ネットと、支柱を間に挟んで隣り合う前記支柱の下流側に配置し、隣り合う支柱の間に掛け渡した複数のロープ材と、該ロープ材の片面に一体に付設した下流ネット面を具備した第2防護ネットと、前記第1防護ネットおよび第2防護ネットに沿って配置した金網製の巻回ネットとを有し、前記巻回ネットは前記第1防護ネット側に配置した上流ネット面と、前記第2防護ネット側に配置した下流ネット面と、端末区間に位置する端末支柱の周面に摺動可能に巻き掛けた折返ネット面とを有し、受撃時に巻回ネットの折返ネット面が摺動して前記端末支柱に対する捩じり力の発生を抑制しつつ、前記上流ネット面または下流ネット面の何れか一方に発生した張力を折返ネット面を通じて前記上流ネット面および下流ネット面に分散して伝達し得るように、前記端末区間に設けた前記上流ネット面と下流ネット面とが折返ネット面を介して連続性を有している。
本発明の他の形態において、前記巻回ネットが無端構造である。
本発明の他の形態において、前記巻回ネットが菱形金網である。
本発明の他の形態において、前記第1防護ネットの限界撓み変形量が前記第2防護ネットの限界撓み変形量より小さい関係にある。
本発明の他の形態において、前記第1防護ネットが隣り合う支柱の間に掛け渡した複数のロープ材と、該ロープ材の一部に介装した緩衝装置とを具備し、前記ロープ材に一定以上の引張力が作用したときにロープ材と緩衝装置の間で摺動が生じる。
本発明の他の形態において、前記第1防護ネットのロープ材が隣り合う支柱の間に略8字形に掛け渡した緩衝装置付きのクロスロープであり、前記ロープ材に一定以上の引張力が作用したときにロープ材と緩衝装置の間で摺動が生じる。
本発明の他の形態において、前記被捕捉物が崩落物または飛来物である。
【発明の効果】
【0009】
本発明は少なくともつぎのひとつの効果を有する。
<1>端末支柱の周面に巻き掛けた巻回ネットが連続性を有していて、上流ネット面と下流ネット面との間で荷重の伝達が可能である。
したがって、巻回ネットに全面に亘って荷重を分散できるので、巻回ネットを破断させずに、端末区間における衝撃吸収性能を向上させることができる。
<2>端末区間における巻回ネットは、その全長に亘って衝撃力を分散して吸収できるので、端末支柱に作用する荷重負担を軽減できる。
したがって、端末支柱を中間支柱と比べて高強度に設計する必要がなくなり、端末支柱を経済的に製作できる。
<3>端末支柱の外周面に沿って巻回ネットを巻き掛けるので、受撃時に巻回ネットが摺動して、端末支柱に対する捩じり力の発生を効果的に抑制することができる。
<4>第1防護ネットと第2防護ネットの減勢時期をずらすことで、第1防護ネットと第2防護ネットに対して被捕捉物が段階的に衝突して、被捕捉物が保有する運動エネルギーを効率よく減衰することができる。
<5>第1防護ネットと第2防護ネットの機能時期がずれることで、支柱(中間支柱および端末支柱)の荷重負担が軽減されて、支柱に過大な荷重が作用するのを回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】巻回ネットの一部を省略した防護柵の組立て説明図
【
図3】一部を省略した支柱の説明図で、(A)は山側から見た支柱の斜視図、(B)は谷側から見た支柱の斜視図
【
図5】第1防護ネットの説明図で、(A)は防護柵を山側から見た側面図、(B)は第1防護ネットを構成するクロスロープの説明図
【
図6】第2防護ネットの説明図で、(A)は防護柵を谷側から見た側面図、(B)は第2防護ネットを構成する水平ロープの説明図
【
図7】第1防護ネットの減勢作用の説明図で、(A)は第1防護ネットの側面モデル図、(B)は第1防護ネットの断面モデル図
【
図8】第2防護ネットの減勢作用の説明図で、(A)は第2防護ネットの側面モデル図、(B)は第2防護ネットの断面モデル図
【
図10】端末区間における巻回ネットの挙動を説明するための平面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.被捕捉物
本発明に係る防護柵の捕捉対象は崩落物または飛来物を含んだ被捕捉物を指す。
崩落物とは、斜面に沿って崩落する落石、土砂、雪崩、積雪等を含み、飛来物とは強風、台風、竜巻等によって飛来する樹木、破壊された建造物の構成部材や車両等を含む。
【0012】
2.防護柵の概要
崩落物を対象とした防護柵と飛来物を対象とした防護柵は、柵本体の寸法が異なるだけで、その基本構成は同じである。
本例では崩落物を対象とした防護柵について説明する。
【0013】
図1,2を参照しながら説明すると、防護柵は、所定の間隔を隔てて自立可能に立設した複数の支柱10と、複数の支柱10の斜面山側(上流側または一方の側面側)に横架した第1防護ネット20と、複数の支柱10の斜面谷側(下流側または他方の側面側)に横架した第2防護ネット30とを具備する。
隣り合う支柱10の頭部間には竿状の間隔保持材12が横架してある。
【0014】
3.支柱
図2,3を参照して説明する。支柱10は、その配置位置により中間支柱10aと端末支柱10bを含み、両支柱10a,10bの基本構造は同一である。
【0015】
支柱10は支柱本体11を有する。支柱10の立設形態としては、支柱本体11の下部を基礎中に埋設して支柱10を立設する形態の他に、支柱本体11の下端面を基礎面(現地地盤の表面、コンクリート基礎の上面等)に着地させて立設してもよい。
【0016】
<1>支柱本体
図3に例示した支柱本体11はコンクリート充填鋼管であり、鋼管13の内部に複数の補強材14を並行に配置した後にコンクリート15を充填して製作する。
支柱本体11は補強材14を省略したコンクリート充填鋼管でもよい。
【0017】
<2>係留要素とブラケット
図3,4を参照して説明する。支柱本体11の山側周面の上下部には、第1防護ネット20を構成するクロスロープ21を係留するための係留要素16,16を突設する。
支柱本体11の谷側周面の上下部には、第2防護ネット30を構成する水平ロープ31を連結するためのブラケット17,17を突設する。
【0018】
<2.1>係留要素
支柱10の係留要素16は、隣り合う2組のクロスロープ21,21を共有して巻き掛けるための部材である。
本例の係留要素16は、支柱10の外周面に水平に突設した短柱16aと、短柱16aと支柱本体11の間に跨って設置した単数または複数の外れ止め16bとを具備する。
【0019】
<2.2>ブラケット
ブラケット17は、水平ロープ31,31の端部を支柱10に連結するための連結要素である。
ブラケット17は、その板面に複数の取付孔17aを有していて、溶接等により支柱本体11の谷側外周面に固着してある。
ブラケット17の各取付孔17aにシャックル34を介して各水平ロープ31を構成する分割ロープ31aの端部を連結する。
【0020】
4.防護ネット
図2を参照して説明する。本発明の防護柵は、支柱10を間に挟んで金属製または繊維製からなる第1防護ネット20と、金属製または繊維製からなる第2防護ネット30を具備する。
第1防護ネット20と第2防護ネット30の限界撓み変形量は異なり、第1防護ネット20の限界撓み変形量は第2防護ネット30の限界撓み変形量より小さい関係にある。
【0021】
<1>中間区間と端末区間(
図1)
以降の説明にあたり、防護柵の受撃面に関し、隣り合う一対の中間支柱10aの間の区間を中間区間S
1と定義し、中間支柱10aと端末支柱10bの間の区間を端末区間S
2と定義して説明する。
【0022】
<2>支柱の両側に限界撓み変形量の異なる防護ネットを設けた理由
本発明では、支柱10を間に挟んで第1防護ネット20と第2防護ネット30の2つの防護ネットを配備しつつ、第1防護ネット20の限界撓み変形量を第2防護ネット30の限界撓み変形量より小さくした。
防護柵をこのように構成したのは、各防護ネット20,30で被捕捉物の運動エネルギーを分散して吸収することで防護性能(緩衝性能)を高めるためと、防護柵を構成する支柱10および防護ネット20,30の荷重負担を小さくして構成資材の低コスト化を図るためである。
【0023】
<3>第1防護ネット
図2,5を参照して説明すると、本例で例示した第1防護ネット20は、隣り合う支柱10,10の山側周面の上部間、下部間および交差して上下斜めに連続して略8字形に架け渡したクロスロープ21と、クロスロープ21と重合して配置した巻回ネット40の上流ネット面41とにより構成する。
クロスロープ21と上流ネット面41の間は公知の連結コイル等で一体に連結する。
【0024】
<3.1>クロスロープ
クロスロープ21は、複数の分割ロープ21a,21bと、各分割ロープ21a,21bの端部近くの重合部を把持する緩衝装置22,22とを具備する。
【0025】
分割ロープ21a,21bは、隣り合う支柱10,10の上部間、下部間および交差して上下斜めに連続して略8字形に架け渡し可能な全長に、摺動長(スリップ長)である余長部21cを加えた全長を有する。
【0026】
クロスロープ21の組付け方法について説明すると、上半の分割ロープ21aの一部を支柱10,10の山側周面の上部間に掛け渡し、下半の分割ロープ21bの一部を支柱10,10の山側周面の下部間に掛け渡す。
各分割ロープ21a,21bの端部近くを重合させた重合部を摩擦摺動式の緩衝装置22で把持して略8字形に架け渡す。
【0027】
<3.2>クロスロープの余長部
緩衝装置22から外方ヘはみ出した分割ロープ21a,21bの部位が余長部21cとなる。
クロスロープ21は緩衝装置22で把持した余長部21cの摺動運動により、被捕捉物の運動エネルギー吸収作用(緩衝作用)を発揮する。
余長部21cが消失して緩衝装置22による緩衝作用が終了することで、クロスロープ21による緩衝作用を終了する。
したがって、第1防護ネット20の緩衝性能等に応じて、クロスロープ21の余長部21cの全長を適宜選択する。
【0028】
<4>第2防護ネット
図2,6を参照して説明すると、本例で例示した第2防護ネット30は、隣り合う支柱10,10の谷側周面の上部間および下部間に水平に架け渡した水平ロープ31,31と、水平ロープ31と重合して配置した巻回ネット40の下流ネット面42とにより構成する。
上下の水平ロープ31,31と下流ネット面42の間は公知の連結コイル等で一体に連結する。
【0029】
<4.1>水平ロープ
水平ロープ31は、複数の分割ロープ31a,31aと、各分割ロープ31a,31aの端部近くの重合部を把持する緩衝装置32とを具備する。
水平ロープ31を構成する分割ロープ31aは、隣り合う支柱10,10の谷側周面の上部間および下部間に連続して架け渡し可能な全長に、摺動長(スリップ長)である余長部31cを加えた全長を有する。
【0030】
<4.2>水平ロープの余長部
各水平ロープ31はその端部を、シャックル34を介して支柱10のブラケット17に連結し、各分割ロープ31a,31aの端部近くを重合させた重合部を摩擦摺動式の緩衝装置32で把持する。
緩衝装置32から外方ヘ延出した分割ロープ31aの部位が余長部31cとなる。
【0031】
水平ロープ31と緩衝装置32の間の摺動運動により、被捕捉物の運動エネルギーの吸収作用(緩衝作用)を発揮し、余長部31cが消失することで緩衝作用を終了する。
したがって、第2防護ネット30の緩衝性能等に応じて、水平ロープ31の余長部31cの寸法を適宜選択する。
【0032】
<5>緩衝装置
緩衝装置22,33には公知の摩擦摺動式の緩衝装置または緩衝具が適用可能である。
【0033】
<6>巻回ネット
図1および
図9に示すように、第1防護ネット20および第2防護ネット30は、共通の巻回ネット40を具備する。
巻回ネット40は、第1防護ネット20側に配置した上流ネット面41と、第2防護ネット30側に配置した下流ネット面42と、端末支柱10bに巻き掛けた折返ネット面43とを有していて、これら複数のネット面41~43が連続性を有している。
巻回ネット40の全体形状は閉鎖形状のエンドレス形に限定されず、少なくとも1本の端末支柱10bに巻回ネット40が巻き掛けてあればよい。
【0034】
<6.1>巻回ネットの素材
巻回ネット40は、鋼線や高張力鋼線で編成した公知の菱形金網が適用可能である。
巻回ネット40の上流ネット面41は、公知の連結コイル等を介してクロスロープ21と一体化し、同様に巻回ネット40の下流ネット面42は、公知の連結コイル等を介して水平ロープ31と一体化する。
【0035】
<6.2>巻回ネットを端末支柱に巻き掛けた理由
巻回ネット40の折返ネット面43を端末支柱10bに巻き掛けたのは、上流ネット面41と下流ネット面42に連続性を持たせて、端末区間S2における衝撃吸収性能を向上させるためである。
【0036】
上流ネット面41と下流ネット面42に連続性を持たせることで、上流ネット面41と下流ネット面42間での荷重伝達が可能となって、巻回ネット40の全体に荷重を分散しつつ、端末支柱10bの負担荷重を軽減することができる。
【0037】
さらに、折返ネット面43を介して上流ネット面41と下流ネット面42に連続性を持たせたことで、端末支柱10bの外周面に沿った折返ネット面43の摺動が可能となり、受撃時における端末支柱10bに対する捩じり力の発生を効果的に抑制することができる。
【0038】
[防護柵の施工方法]
図1~2を参照しながら防護柵の施工方法について説明する。
【0039】
<1>支柱の立設
所定の間隔を隔てて複数の支柱10を斜面の途中、または斜面の裾部に立設し、隣り合う各支柱10,10の頭部間に間隔保持材12を横架する。
【0040】
<2>第1防護ネットと第2防護ネットの取付け
隣り合う支柱10の山側に第1防護ネット20を取り付けると共に、隣り合う支柱10の谷側に第2防護ネット30を取り付けて防護柵の施工を完了する。
【0041】
<3>巻回ネットの取付け
第1防護ネット20および第2防護ネット30の取付けにあたっては、各ロープを隣り合う支柱10の間に先行して取り付けた後に、巻回ネット40を取り付ける。
巻回ネット40は、所定の長さの菱形金網を現場へ搬入し、隣り合う菱形金網の突合せ端にコイル状の列線を絡ませて連結して所定の長さに延長することができる。
【0042】
[防護柵の減勢作用]
1.中間区間における減勢作用
図7~8を参照しながら防護柵の中間区間S
1における減勢作用について説明する。
【0043】
<1>第1防護ネットによる減勢作用
図7は中間区間S
1における第1防護ネット20へ受撃したときの防護柵のモデル図を示している。
図7(A)は第1防護ネット20を山側から谷側へ向けて見た側面モデル図を示し、
図7(B)に第1防護ネット20単独の断面モデル図を示す。
【0044】
防護柵の斜面山側から落石等の被捕捉物Fが落下すると、被捕捉物Fは支柱10の山側に位置する第1防護ネット20に衝突する。
第1防護ネット20に作用した衝撃は第1防護ネット20を通じて支柱10が支持する。
【0045】
被捕捉物Fの衝突に伴い、第1防護ネット20が斜面谷側へ向けて変形する。
上流ネット面41もクロスロープ21に追従して斜面谷側へ変形する。
【0046】
第1防護ネット20を構成するクロスロープ21は、クロスロープ21に作用する引張力が、緩衝装置22の摩擦抵抗を超えると、緩衝装置22とクロスロープ21の間で摺動が生じて被捕捉物Fの運動エネルギーを吸収する。
【0047】
被捕捉物Fの運動エネルギーが、第1防護ネット20の緩衝性能の範囲内であれば、第1防護ネット20のみによって被捕捉物Fが保有する運動エネルギーのすべてを吸収する。
【0048】
<2>第2防護ネットによる減勢作用
図8は中間区間S
1における第2防護ネット30へ受撃したときの防護柵のモデル図を示している。
図8(A)は第2防護ネット30を山側から谷側へ向けて見た側面モデル図を示し、
図8(B)は第2防護ネット30単独の断面モデル図を示す。
【0049】
図7に示した第1防護ネット20が限界撓み変形量に達する直前、または限界撓み変形量に達すると、被捕捉物Fが第2防護ネット30に衝突して第2防護ネット30が減勢作用(防護作用)を発揮する。
【0050】
図8に示すように、被捕捉物Fが衝突すると、第2防護ネット30を構成する第2ネット32と水平ロープ31が谷側へ向けて変形する。
水平ロープ31に作用する引張力が、緩衝装置32の摩擦抵抗を超えると、緩衝装置32と水平ロープ31の間で摺動が生じて運動エネルギーを吸収する。
第2防護ネット30に作用した衝撃は引き続き支柱10が支持する。
【0051】
<3>両防護ネットによる総合的な減勢作用
このように本発明では、第1防護ネット20が先行して減勢作用を発揮し、第1防護ネット20の減勢作用が低下し始めたときに、第2防護ネット30が減勢作用を発揮する。
換言すれば、両防護ネット20,30は荷重負担のピークが重ならず、第1防護ネット20がピークを過ぎた後に第2防護ネット30がピークを迎える。
換言すれば、各防護ネット20,30の荷重負担のピークが前後し、第1防護ネット20の防護機能が低下したときに第2防護ネット30が機能を発揮する。
【0052】
第1防護ネット20と第2防護ネット30のピークをずらしたのは、支柱10の荷重負担を軽減しながら、第1および第2防護ネット20,30を継続的に機能させることでエネルギーの吸収時間を長く確保し、防護柵全体としてのエネルギー吸収量を増やすためである。
したがって、第1および第2防護ネット20,30を共通の支柱10に設けても、受撃時において、支柱10に過大な反力が生じない。
【0053】
2.端末区間における減勢作用
図9~10を参照しながら防護柵の端末区間S
2における減勢作用について説明する。
【0054】
<1>第1および第2防護ネットによる減勢作用
図9は端末区間S
2における第1防護ネット20および第2防護ネット30の平面図を示している。
第1防護ネット20と第2防護ネット30による減勢作用は、先の中間区間S
1と同様であるので説明を省略する。
【0055】
<2>受撃時における巻回ネットの挙動
端末区間S2において、端末支柱10bの周面に巻き掛けた上流ネット面41、折返ネット面43および下流ネット面42は連続性を有している。
以下に、巻回ネット40の端末区間S2における受撃時の挙動について説明する。
【0056】
<2.1>上流ネット面のたわみ変形
被捕捉物Fが端末区間S2の上流ネット面41に衝突すると、上流ネット面41の張力が増して斜面谷側へ向けて変形する。
上流ネット面41に一定以上の張力が作用すると、ネットを構成する列線が伸長方向に変形して上流ネット面41がネットの長手方向(横方向)に向けて伸長する。
【0057】
<2.2>上流ネット面と下流ネット面による張力の分散吸収
上流ネット面41に発生した張力は、折返ネット面43を経由して下流ネット面42へ分散して伝えられる。
【0058】
端末区間S2における巻回ネット40は連続性を有していることから、上流ネット面41に発生した張力は、折返ネット面43を経由して下流ネット面42へ伝えられ、上流ネット面41に発生した張力は、上流ネット面41、折返ネット面43および下流ネット面42に分散して吸収される。
【0059】
<2.3>下流ネット面のたわみ変形
被捕捉物Fが端末区間S2の下流ネット面42に衝突すると、連続性を有する端末区間S2の巻回ネット40の全長に亘って引張力が伝達されるが、巻回ネット40の全体がバランスよく引っ張られている状態となっているため、巻回ネット40の全面で応力を吸収することができる。
【0060】
<2.4>荷重の分散伝達範囲
端末支柱10bの周面に巻き掛けた巻回ネット40は連続性を有していて、上流ネット面41と下流ネット面42との間で荷重の伝達が可能である。
そのため、上流ネット面41と下流ネット面42との間で張力差が生じると、張力の大きい側にネット面が引き寄せられて、巻回ネット40が端末支柱10bの周面上でスリップして、巻回ネット40の一部に過大な応力が集中することを回避する。
【0061】
このように上流ネット面41に作用した衝撃力は、上流ネット面41のみで負担するのではなく、折返ネット面43を経由して下流ネット面42でも分散して支持できる。
そのため、受撃時に、端末区間S2に設けた巻回ネット40の一部に過大な応力が集中してネットが破断するといった問題を解消できる。
したがって、巻回ネット40が有する本来の引張強度を発揮することができる。
【0062】
<2.5>端末支柱の荷重負担について
巻回ネット40に作用した衝撃力は、中間支柱10aだけでなく端末支柱10bによっても支持される。
先に説明したように、端末区間S2における巻回ネット40は、受撃時において、その全長に亘って衝撃力を分散できるだけでなく、巻回ネット40の全長が伸長して巻回ネット40の変形時間が長くなって、巻回ネット40によるエネルギー吸収性能が高くなる。
そのため、従来と比べて端末支柱10bに作用する荷重負担を軽減できる。
さらに、端末区間S2における巻回ネット40のネット面41~43が伸びた分だけ変形時間が長くなるため、巻回ネット40による減衰作用が高くなる。
したがって、端末支柱10bを中間支柱10aと比べて高強度に設計する必要がなくなり、端末支柱10bを経済的に製作できる。
【0063】
<2.6>端末支柱の捩じり力について
ネットの端末を端末支柱に一体に固定しておくと、受撃時にネットの張力が端末支柱への捩じり力として作用して、端末支柱の曲げ耐力が低下する。
【0064】
これに対して、本発明では、受撃時に巻回ネット40が端末支柱10bの周面上でスリップするので、端末支柱10bに対する捩じり力の発生を効果的に抑制することができる。
【0065】
<2.7>端末区間における衝撃吸収性能
従来の防護柵では中間区間に対して端末区間の衝撃吸収性能が低い関係にあった。
これに対して、本発明では、従来と比べて端末区間S2の衝撃吸収性能を向上できるので、中間区間S1と端末区間S2との衝撃吸収性能の差を縮小することができる。
【0066】
[被捕捉物が飛来物である場合]
<1>防護柵の構成
以上は被捕捉物が崩落物である場合について説明したが、被捕捉物が飛来物である形態においても、全体寸法が異なるだけで、防護柵の基本的な構成は既述した構成と同じである。
【0067】
<2>防護柵の設置場所
防護柵は、飛来物からの保護を必要とする保護対象物の近傍に立設する。
例えば発電機器を内蔵する格納建屋を防護する場合には、格納建屋の周囲等の保護を必要とする範囲に亘って防護柵を設置する。
防護柵の寸法は保護範囲に応じて適宜選択する。
防護柵を設置する際、支柱10に対して第1防護ネット20を飛来物の飛来方向(上流側)側に向けて配置する。
【0068】
<3>防護柵の減勢作用
防護柵による飛来物の減勢作用は既述したとおりであるので、その説明を省略する。
【0069】
<4>効果
本発明は、被捕捉物が飛来物であっても、防護柵が飛来物を捕捉または飛来物の運動エネルギーを減衰して保護対象物を安全に防護することができる。
【符号の説明】
【0070】
10・・・・支柱
11・・・・支柱本体
12・・・・間隔保持材
13・・・・鋼管
14・・・・補強材
15・・・・コンクリート
16・・・・係留素子
17・・・・ブラケット
20・・・・第1防護ネット
21・・・・クロスロープ
21a・・・分割ロープ
21b・・・分割ロープ
21c・・・余長部
22・・・・緩衝装置
30・・・・第2防護ネット
31・・・・水平ロープ
31a・・・分割ロープ
31c・・・余長部
32・・・・緩衝装置
40・・・・巻回ネット
41・・・・上流ネット面
42・・・・下流ネット面
43・・・・折返ネット面
F・・・・・被捕捉物
【要約】
【課題】端末支柱と中間支柱の間の端末区間における衝撃吸収性能を高めて端末支柱の荷重負担を軽減できる、防護柵を提供すること。
【解決手段】第1防護ネット20および第2防護ネット30に沿って配置した巻回ネット40を有し、巻回ネット40は上流ネット面41と下流ネット面42と、端末支柱10bの周面に巻き掛けた折返ネット面43とを有し、端末区間に設けた上流ネット面41と下流ネット面42とが折返ネット面43を介して連続性を有している。
【選択図】
図1