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  • 特許-鉗子装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】鉗子装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/28 20060101AFI20240311BHJP
【FI】
A61B17/28
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023567090
(86)(22)【出願日】2022-03-23
(86)【国際出願番号】 JP2022013610
(87)【国際公開番号】W WO2023181201
(87)【国際公開日】2023-09-28
【審査請求日】2023-10-31
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515075692
【氏名又は名称】リバーフィールド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122183
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 一郎
(72)【発明者】
【氏名】秋吉 一樹
【審査官】宮崎 敏長
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/023865(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0314107(US,A1)
【文献】特開平03-146047(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/28 - A61B 17/295
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の処置を行う処置部を有する先端部と、
前記先端部と接続される柱状部品と、
前記柱状部品の、前記先端部と接続される側と反対側に接続されるパイプと、
前記先端部から前記柱状部品にかけて装着されるカバーと、
前記柱状部品に装着された前記カバーのパイプ側の端面の直径よりも大きな直径を有する拡径部と、を備え、
前記拡径部は、前記端面を覆う位置に設けられており、柱状部品側からパイプ側に向かって直径が小さくなるテーパーを有することを特徴とする鉗子装置。
【請求項2】
前記拡径部は、前記テーパーのパイプ側の端部の直径が前記パイプの直径よりも小さいことを特徴とする請求項に記載の鉗子装置。
【請求項3】
前記拡径部は、前記柱状部品又は前記パイプに設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の鉗子装置。
【請求項4】
前記拡径部は、鉗子装置が挿入されるトロッカーの内径よりも柱状部品側の直径が小さいことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の鉗子装置。
【請求項5】
前記処置部を動作させるワイヤを更に備え、
前記柱状部品は、前記ワイヤが通る貫通孔を有することを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の鉗子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉗子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、術者の負担軽減や、医療施設の省人化を図るためにロボット(マニピュレータ)を利用した医療処置の提案がされている。外科分野では、術者が遠隔操作可能な手術用マニピュレータを操作して患者の処置を行う、手術用マニピュレータシステムに関する提案が行われている。
【0003】
手術用マニピュレータの先端には各種の術具が装着されており、術具として手術の際に人体の組織を把持する鉗子が知られている。例えば、特許文献1には、外科用処置具における少なくとも基部の周囲を覆う筒状に形成された部材である外科処置具用カバーが開示されている。外科処置具用カバーは、絶縁性を有する材料から形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-195402号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述の外科処置具用カバーは、内視鏡外科手術などで使用可能なゴムなどの柔軟性を有する材料から形成されている。そのため、外科用処置具をトロッカーを通して挿抜する際に、トロッカーの端部にカバーが引っかかる可能性がある。そのため、場合によってはカバーが外科用処置具から抜けたりズレたりするおそれがある。例えば、カバーが外科用処置具からズレると、絶縁性能に影響を与える。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その例示的な目的の一つは、鉗子装置からカバーが抜けたりズレたりしにくくなる新たな技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の鉗子装置は、対象の処置を行う処置部を有する先端部と、先端部と接続される柱状部品と、柱状部品の、先端部と接続される側と反対側に接続されるパイプと、先端部から柱状部品にかけて装着されるカバーと、柱状部品に装着されたカバーのパイプ側の端面の直径よりも大きな直径を有する拡径部と、を備える。拡径部は、端面を覆う位置に設けられている。
【0008】
この態様によると、トロッカーに挿入された鉗子装置を抜いたり挿入したりする際に、カバーの端面にトロッカーの端部が引っかかりにくくなる。また、仮にトロッカーの端部がカバーに接触する場合でも、接触位置をカバーの端面から先端部側へ移動できる。
【0009】
拡径部は、柱状部品側からパイプ側に向かって直径が小さくなるテーパーを有してもよい。これにより、トロッカーに挿入された鉗子装置を抜く際に、カバーの端面にトロッカーの端部が引っかかりにくくなる。また、トロッカーに挿入された鉗子装置を抜く際に、トロッカーの軸と鉗子装置の軸との軸同士の角度が鋭角になる。
【0010】
拡径部は、テーパーのパイプ側の端部の直径がパイプの直径よりも小さい。これにより、トロッカーに挿入された鉗子装置を抜く際に、拡径部のパイプ側の端部にトロッカーの端部が引っかかりにくくなる。
【0011】
拡径部は、柱状部品又はパイプに設けられていてもよい。これにより、柱状部品とパイプとの間の領域近傍で、カバーの端面にトロッカーの端部が引っかかりにくくなる。
【0012】
拡径部は、鉗子装置が挿入されるトロッカーの内径よりも柱状部品側の直径が小さい。これにより、鉗子装置をトロッカーの内部に挿入することができる。
【0013】
処置部を動作させるワイヤを更に備えてもよい。柱状部品は、ワイヤが通る貫通孔を有してもよい。
【0014】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、などの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、鉗子装置からカバーが抜けにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施の形態に係る鉗子装置の正面図である。
図2図2(a)~図2(b)は、ジョイントカバーがベースキャップから抜ける様子を説明するための模式図である。
図3】本実施の形態に係る鉗子装置における拡径部近傍を拡大した図である。
図4】トロッカーの端部がジョイントカバーに接触する位置による撓みの違いを説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一又は同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述される全ての特徴やその組合せは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0018】
(鉗子装置)
図1は、本実施の形態に係る鉗子装置の正面図である。図1に示す医療用の鉗子装置10は、一対の把持部12a,12bと、一対の把持部12a,12bを保持する支持体14と、支持体14を回転可能に支持する第1の回転軸16と、第1の回転軸16を保持するベース部品18と、第1の回転軸16と同軸に配置されている4つのガイドプーリ(不図示)と、一対の把持部12a,12bと同軸に保持される4つのジョープーリ20と、4つのガイドプーリと4つのジョープーリ20との間に掛けられた4本のワイヤ22と、支持体14を第1の回転軸16を中心に回転させるための2本のワイヤ24と、を備えている。
【0019】
ベース部品18は、柱状部品であるベースキャップ26の先端側と連結されている。ベースキャップ26の後端側はパイプ28と連結されている。本実施の形態に係る鉗子装置10は、支持体14からベースキャップ26の後端部まで、円筒状のジョイントカバー30で覆われている。これにより、手術中にワイヤやプーリ等の部品間の隙間に異物が入り込みにくくなる。なお、ジョイントカバー30は、支持体14に加えて把持部12a,12bの一部を覆うように構成されていてもよい。また、把持部12a,12bに電気を通して患者の組織を止血するタイプの鉗子装置の場合、絶縁性を有するジョイントカバー30が用いられる。
【0020】
ベースキャップ26は、材質がエンジニアリングプラスチック等で構成されている円筒状(柱状)の樹脂部品である。これにより、部品強度と絶縁性を両立し得る。具体的には、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)やPEI(ポリエーテルイミド)といった材料が用いられるが、これらに限られない。
【0021】
パイプ28の材質は、例えば、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)やGFRP(ガラス繊維強化プラスチック)が用いられる。ジョイントカバー30の材質は、例えば、ブチルゴムやシリコーンゴム、ポリエチレンが用いられるが、これらに限られない。
【0022】
このように、本実施の形態に係る鉗子装置10は、手術対象の処置を行う処置部としての把持部12a,12bを有する先端部31と、先端部31と接続されるベースキャップ26と、ベースキャップ26の、先端部31と接続される側と反対側に接続されるパイプ28と、先端部31からベースキャップ26にかけて装着されるジョイントカバー30と、を備える。
【0023】
図2(a)~図2(b)は、ジョイントカバーがベースキャップから抜ける様子を説明するための模式図である。鉗子装置10は、腹腔鏡手術の際にトロッカー32を介して患者の体内に挿入される。挿入された鉗子装置10は患者の体内で傾いたりスライドしたりする場合がある。そのため、トロッカー32の端部32aに引っかかったジョイントカバー30(図2(a))は、そのまま鉗子装置10がトロッカー32から抜ける方向に動く際に一部がベースキャップ26の凹部26aから浮き上がる(図2(b))。そのため、ジョイントカバー30とベースキャップ26の凹部26aとの接触面積が減り、摩擦が減少することで更にジョイントカバー30がベースキャップ26に対してズレやすくなる。
【0024】
その状態で更にジョイントカバー30にトロッカー32から力が加わると、最終的にジョイントカバー30が鉗子装置10から抜け落ちる可能性がある。そこで、本実施の形態に係る鉗子装置10は、パイプ28やベースキャップ26の直径よりも大きな直径を有する拡径部(大径部)が設けられている。
【0025】
図3は、本実施の形態に係る鉗子装置における拡径部近傍を拡大した図である。図3に示すように、拡径部34は、ベースキャップ26に装着されたジョイントカバー30のパイプ側の端面30aの直径d1よりも大きな直径d2を有する。本実施の形態に係る直径d1は4.0~15.0mmの範囲(好ましくは8.7±1.5mmの範囲)、直径d2は4.1~15.1mmの範囲(好ましくは9.6±1.5mmの範囲)で設定されている。また、拡径部34は、端面30aを覆う位置に設けられている。換言すると、端面30aを覆う位置に設けられた拡径部34は、トロッカー32に挿入された鉗子装置10を抜く際に、トロッカー32の端部32aから見て端面30aを隠すことできる。
【0026】
このように設けられた拡径部34により、トロッカー32に挿入された鉗子装置10を抜いたり挿入したりする際に、ジョイントカバー30の端面30aにトロッカー32の端部32aが引っかかりにくくなる。
【0027】
拡径部34は、ベースキャップ26側からパイプ28側に向かって直径が小さくなるテーパー34aを有している。これにより、トロッカー32に挿入された鉗子装置10を抜く際に、トロッカー32の軸と鉗子装置10の軸との軸同士の角度αが鋭角になる。その結果、仮にトロッカー32の端部32aがジョイントカバー30に接触する場合でも、接触位置Pをジョイントカバー30の端面30aから先端部側へ移動できる。
【0028】
図4は、トロッカーの端部がジョイントカバーに接触する位置による撓みの違いを説明するための模式図である。図4に示すように、接触点X1は、先端側の基準位置Sからの距離がL1であり、接触点X2は、先端側の基準位置Sからの距離がL2(L2>L1)である。この場合、接触点X2の方がジョイントカバー30の剛性がひくい。このように、接触位置Pをジョイントカバー30の端面30aではなく先端部側へ移動することで、少なくとも接触位置Pよりもパイプ28側の部分A1のジョイントカバー30は撓みにくくなる。その結果、ジョイントカバー30は、部分A1の静止摩擦力によってベースキャップ26から抜けにくくなる。
【0029】
拡径部34は、テーパー34aのパイプ側の端部34bの直径d3がパイプ28の直径d4よりも小さい。本実施の形態に係る直径d3は3.9~14.9mmの範囲(好ましくは8.0±1.5mmの範囲)、直径d4は4.0~15.0mmの範囲(好ましくは8.4±1.5mmの範囲)で設定されている。これにより、トロッカー32に挿入された鉗子装置10を抜く際に、拡径部34のパイプ側の端部34bにトロッカー32の端部32aが引っかかりにくくなる。
【0030】
拡径部34は、ベースキャップ26の一部として、あるいはパイプの一部として、あるいは独立した部品として、鉗子装置10に設けられていてもよい。これにより、ベースキャップ26とパイプ28との間の領域近傍で、ジョイントカバー30の端面30aにトロッカー32の端部32aが引っかかりにくくなる。
【0031】
拡径部34は、鉗子装置10が挿入されるトロッカーの内径d5よりもベースキャップ26側の直径d2が小さい。これにより、鉗子装置10をトロッカー32の内部に挿入することができる。本実施の形態に係る内径d5は、5.0~15.0mmの範囲(好ましくは10~15mmの範囲)で設定されており、拡径部34の直径d2は、トロッカー32の内径d5の99%以下の範囲で設定されている。また、トロッカー32の有効長L2は、30~200mmの範囲(好ましくは30~100mmの範囲)で設定されている。
【0032】
直径d2が大きすぎると、トロッカー32に対して鉗子装置10の姿勢変化が小さくなってしまう。一方、直径d2が小さすぎると、鉗子装置10に対するトロッカー32の傾きαが大きくなりがちになり、接触位置Pにおけるトロッカー32の端部32aのジョイントカバー30への食い込み(接触荷重)が大きくなる。加えて、接触位置Pがジョイントカバー30の端面30aに近づきやすくなる。そこで、鉗子装置10を挿抜するトロッカー32に対して、傾きαが鋭角となるように、拡径部34を設ける位置や直径d2の大きさを設定するとよい。
【0033】
なお、拡径部34でトロッカー32の内壁を支持することで、トロッカー32がジョイントカバー30に接触する際の荷重の一部が分担される。その結果、トロッカー32の端部32aのジョイントカバー30への食い込みを小さくできる。また、拡径部34があることで、トロッカー32の端部32aがジョイントカバー30に接触する位置を、ジョイントカバー30の端面30aよりも先端側にずらすことができる。その結果、仮にトロッカー32がジョイントカバー30に接触する場合であっても、ジョイントカバー30の端面30aに近い剛性が低い位置X2(図4参照)よりも、剛性が高い先端側の位置X1に接触することとなり、ジョイントカバー30の撓みを抑制できる。
【0034】
また、トロッカー32が位置X2に接触する場合、位置X2から端面30aまでの間で生じるベースキャップ26とジョイントカバー30との摩擦が抗力となる。そのため、位置X2よりも先端側の位置X1にトロッカー32が接触した方が、接触位置から端面30aまでの間で生じるベースキャップ26とジョイントカバー30との摩擦が増大し、ジョイントカバー30が脱げにくくなる。
【0035】
本実施の形態に係るベースキャップ26は、処置部である把持部12a,12bの開閉や回転といった動作をさせるワイヤ22やワイヤ24が通る貫通孔26bを有している。また、ベースキャップ26のパイプ28側に設けられている凹部26aは、長さL1が7.0±3mmの範囲であり、凹部26aの小径部分の直径d6が3.0~11.9mmの範囲(好ましくは7.2±1.5mmの範囲)で設定されている。また、ベースキャップ26の大径部分の直径d7は3.1~12.0mmの範囲(好ましくは7.8±1.5mmの範囲)で設定されている。
【0036】
また、拡径部34の直径d2は、トロッカー32の端部32aがジョイントカバー30に突き当たる接触位置Pが、ベースキャップ26の凹部26aよりも先端側に位置するように設定するとよい。この場合、接触位置Pよりもパイプ28側にある凹部26aに嵌まっているジョイントカバー30の一部が段差に引っかかることで、ジョイントカバー30がベースキャップ26から更に抜けにくくなる。
【0037】
なお、拡径部34は、材質がエンジニアリングプラスチック等で構成されている樹脂部品であってもよい。これにより、部品強度と絶縁性を両立し得る。具体的には、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)やPEI(ポリエーテルイミド)といった材料が用いられるが、これらに限られない。
【0038】
また、本実施の形態では、ベースキャップ26の外周部に環状の凹部26aが形成された鉗子装置を例に説明したが、凹部26aが形成されていない、つまり凹部26aの側壁に相当する段差がない鉗子装置であってもよい。
【0039】
以上、本発明を上述の実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて実施の形態における組合せや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、鉗子装置からカバーが抜けにくくなる。
【符号の説明】
【0041】
10 鉗子装置、 12a,12b 把持部、 14 支持体、 16 第1の回転軸、 18 ベース部品、 20 ジョープーリ、 22 ワイヤ、 24 ワイヤ、 26 ベースキャップ、 26a 凹部、 26b 貫通孔、 28 パイプ、 30 ジョイントカバー、 30a 端面、 31 先端部、 32 トロッカー、 32a 端部、 34 拡径部、 34a テーパー、 34b 端部。
図1
図2
図3
図4