(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】ヘレナリン誘導体を含有する前駆脂肪細胞の増殖及び/又は分化促進剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/365 20060101AFI20240311BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240311BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240311BHJP
A61K 8/49 20060101ALI20240311BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240311BHJP
A61K 36/28 20060101ALN20240311BHJP
【FI】
A61K31/365
A61P43/00 105
A61P17/00
A61K8/49
A61Q19/00
A61K36/28
(21)【出願番号】P 2023575625
(86)(22)【出願日】2023-04-11
(86)【国際出願番号】 JP2023014689
【審査請求日】2023-12-07
(31)【優先権主張番号】P 2022082055
(32)【優先日】2022-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000119472
【氏名又は名称】一丸ファルコス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100110973
【氏名又は名称】長谷川 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100116528
【氏名又は名称】三宅 俊男
(72)【発明者】
【氏名】坂元 孝太郎
(72)【発明者】
【氏名】光永 徹
(72)【発明者】
【氏名】山内 恒生
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-023476(JP,A)
【文献】特開2011-032233(JP,A)
【文献】FERNANDES, K.M. et al.,Helenalin-Mediated Post-Transcriptional Regulation of p21(Cip1) Inhibits 3T3-L1 Preadipocyte Prolife,Journal of Cellular Biochemistry,2008年,Vol.105,p.913-921
【文献】AULD, C.A. et al.,Novel effect of helenalin on Akt signaling and Skp2 expression in 3T3-L1 preadipocytes,Biochemical and Biophysical Research Communications,2006年,Vol.346,p.314-320
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I):
【化1】
(式中、Rは、水素原子、アセチル基、メタクリロイル基又はイソブチリル基である。)で表される化合物を有効成分として含有する
剤であって、質量比にて前記有効成分の総量を超える6-O-チグロイルヘレナリンを含まない、前駆脂肪細胞の増殖及び/又は分化促進剤。
【請求項2】
前記化合物が、6-O-メタクリロイルヘレナリン又は6-O-イソブチリルヘレナリンである、請求項1に記載の前駆脂肪細胞の増殖及び/又は分化促進剤。
【請求項3】
6-O-メタクリロイルヘレナリン及び6-O-イソブチリルヘレナリンの両方を含む請求項1に記載の前駆脂肪細胞の増殖及び/又は分化促進剤。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の前駆脂肪細胞の増殖及び/又は分化促進剤の有効量を含有する前駆脂肪細胞の増殖及び/又は分化促進用の皮膚外用剤で、
質量比にて前記有効成分の総量を超える6-O-チグロイルヘレナリンを含まない、前記外用剤。
【請求項5】
6-O-メタクリロイルヘレナリン及び/又は6-O-イソブチリルヘレナリンの含有量が、少なくとも0.1×10
-7質量%である、請求項
4に記載の皮膚外用剤。
【発明の詳細な説明】
【クロスリファレンス】
【0001】
本出願は、2022年5月19日に日本国において出願された特願2022-082055に基づき優先権を主張し、当該出願に記載された内容は、本明細書に援用する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、ヘレナリン誘導体を含有する前駆脂肪細胞の増殖及び/又は分化促進剤に関する。
【背景技術】
【0003】
脂肪細胞は、表皮、真皮、皮下組織の三層からなる皮膚構造の最下層にみられ、脂肪をトリグリセリドとして蓄えるエネルギー貯蔵組織を構成している。脂肪組織は、長寿ホルモンとして知られるアディポネクチンなど、種々のアディポカインを分泌することで他組織を刺激する。脂肪組織は、その生理的な機能だけでなく、女性においてはふくよかさを演出し、局所的な脂肪の蓄積によってシワの改善につながるなど、外観美を創り出す機能も有している。
【0004】
脂肪細胞は上述のように生理的及び外観美的に重要な機能を有しているにも関わらず、近年のダイエット志向によって、脂肪細胞は悪玉として捉えられる風潮にある。そのため、専ら前駆脂肪細胞の増殖抑制や脂肪細胞への分化抑制につながる成分を含む化粧品、食品、医薬品の開発が行われている。一方、皮膚の老化現象などを抑制すべく、皮膚より内方側にある筋肉のもととなる筋芽細胞の増殖を促進するため、アルニカ抽出物と紅藻抽出物とを含有する皮膚外用組成物が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
キク科・アルニカ花から抽出したエキスは、抗炎症効果や血液循環作用をもつメディカルハーブとして古来より使用されている。このアルニカ抽出物は、脂肪細胞を増やす働きを持ち、脂肪層をボリュームアップさせ、肌のハリと弾力を向上させることも報告されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、アルニカ花エキスに含まれる、前駆脂肪細胞の増殖、分化促進に関わる有効成分は未だ明らかではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-32233号公報
【文献】特開2020-023476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、アルニカ抽出物に含まれる前駆脂肪細胞の増殖及び/又は分化を促進する化合物を見出し、この化合物を用いて脂肪層をボリュームアップさせて外観美を創り出すための化粧品、食品、医薬品等、及び/又はこれらに配合する素材など、を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものである。アルニカ花抽出物からカラムクロマトグラフィー等を用いて分画、精製した特定の化合物が、前駆脂肪細胞の増殖及び/又は分化を促進することなどを見出したことにより、本発明を創作した。
すなわち、本発明は以下の実施形態を含む。
【0009】
(1)下記式(I):
【化1】
(式中、Rは、水素原子又は炭素数1~5のアシル基である。)で表される化合物を有効成分として含有する、前駆脂肪細胞の増殖及び/又は分化促進剤。
(2)化合物が、6-O-メタクリロイルヘレナリン又は6-O-イソブチリルヘレナリンである(1)に記載の、前駆脂肪細胞の増殖及び/又は分化促進剤。
(3)化合物が、ヘレナリン又は6-O-アセチルヘレナリンである(1)に記載の前駆脂肪細胞の増殖及び/又は分化促進剤。
(4)化合物が、6-O-チグロイルヘレナリンを含まないか又は質量比にて有効成分の総量以下の6-O-チグロイルヘレナリンを含有する、(1)に記載の前駆脂肪細胞の増殖及び/又は分化促進剤。
(5)上記式(I)で表される化合物を有効成分として含有する、前駆脂肪細胞の増殖及び/又は分化促進用の皮膚外用剤。
(6)各有効成分の含有量が、少なくとも0.1×10
-9質量%である、(5)に記載の皮膚外用剤。
(7)6-O-チグロイルヘレナリンを含まないか又は約1×10
-7質量%以下の濃度で含有する、(5)又は(4)に記載の皮膚外用剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明の前駆脂肪細胞の増殖及び/又は分化促進剤は、前駆脂肪細胞の増殖及び分化を促進し、脂肪層をボリュームアップさせて外観美を創り出すための化粧品、食品、医薬品等、及び/又はこれらに配合する素材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、アルニカ抽出物から有効成分を分画精製するスキームを示す。
【
図2】
図2は、アルニカ抽出物をジエチルエーテル抽出及びシリカゲルオープンカラムクロマトグラフィー分画した各画分のヒト皮下前駆脂肪細胞の増殖試験及び分化試験の結果を示す。
【
図3】
図3は、DEFr.4-2画分からシリカゲルオープンカラムクロマトグラフィー及び分取HPLC等を用いて単離した化合物1及び化合物3~10のヒト皮下前駆脂肪細胞の増殖試験及び分化試験の結果を示す。
【
図4】
図4は、化合物7、8及び9を単独で又はそれぞれ混合した場合のヒト皮下前駆脂肪細胞の増殖試験及び分化試験の結果を示す。
【
図5】
図5は、DEFr.3及びDEFr.5~DEFr.8をさらに精製し、新たな化合物12~19を単離するための分画スキームを示す。
【
図6】
図6は、化合物11(Cmpd11)から化合物19(Cmpd19)のヒト皮下前駆脂肪細胞の増殖試験及び分化試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の各実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する各実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また、各実施形態の中で説明されている諸要素及びその組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0013】
(定義)
本明細書において、「前駆脂肪細胞」とは、脂肪細胞へ分化する能力を有する脂肪組織由来の細胞をいう。成熟した脂肪細胞とは異なり、前駆脂肪細胞は細胞内に脂肪をまだ含有しておらず、増殖性を有する線維芽細胞様の細胞である。成熟脂肪細胞とは、この前駆脂肪細胞が細胞内に脂肪を蓄積できるように分化した細胞を指し、その形態としては細胞内に脂肪を蓄積した状態である。肌が老化する原因の一つに、加齢や紫外線による皮下脂肪の退縮・減少がある。皮下脂肪層がボリュームダウンすると、肌のハリが無くなり、肌表面に凹凸が生じ、シワやくぼみへとつながる。従って、主にヒトなどの生体の前駆脂肪細胞を増やし、脂肪細胞に分化させることで、局所的な肌(バスト、唇、涙袋、手の甲など)のボリューム減少を予防し、治療し及び/又は改善する作用を有する。そして、皮下脂肪細胞が増加することによって、ほうれい線などとともに、肌の透明感やツヤが改善されると考えられる。
【0014】
本実施形態における「前駆脂肪細胞の増殖及び/又は分化促進剤」(以下、単に「本実施形態の剤」と称する場合がある。)とは、これらの用途に使用される有効成分を含有する組成物等を意味し、化粧品や医薬品に添加して用いることができる素材である。この剤は、液体だけでなく、例えば固形等も挙げられ、具体的な用途としては皮膚外用剤だけでなく、経口組成物(例えば、固体でも液体でも作製可能)であってもよい。
【0015】
(有効成分)
本実施形態の前駆脂肪細胞の増殖及び/又は分化促進剤は、下記式(I):
【化2】
【0016】
(式中、Rは、水素原子又は炭素数1~5のアシル基である。)で表される化合物を有効成分として含有する。ここで、「炭素数1~5のアシル基」におけるアシル基とは、置換されたカルボニル基を意味し、直鎖状、分岐状、環状、飽和、不飽和の脂肪族炭化水素基であり、具体的にはアセチル基、プロピオニル基、イソプロピオニル基、イソブチリル基、チグロイル基、イソバレリル基、ピバロイル基、メタクリロイル基、アクロイル基、クロトノイル基、2-メチルクロトノイル基などがあげられる。好ましい実施形態では、上記式(I)におけるRが水素原子又は炭素数1~4のアシル基である。さらに好ましい実施形態としては、Rが水素原子、アセチル基、メタクリロイル基又はイソブチリル基である。
【0017】
1つの実施形態において、本発明の有効成分は、6-O-メタクリロイルヘレナリン及び/又は6-O-イソブチリルヘレナリンである。ここで、6-O-メタクリロイルヘレナリンとは、上記一般式(I)で表される化合物において、Rがメタクリロイル基を示す化合物8である。また、6-O-イソブチリルヘレナリンは、上記一般式(I)で表される化合物において、Rがイソブチリル基を示す化合物9である。
【0018】
他の1つの実施形態において、本発明の有効成分は、ヘレナリン又は6-O-アセチルヘレナリンである。ここで、ヘレナリンとは、上記一般式(I)で表される化合物において、Rが水素原子を示す化合物12である。また、6-O-アセチルヘレナリンは、上記一般式(I)で表される化合物において、Rがアセチル基を示す化合物13である。
【0019】
これらの化合物は、例えば、アルニカ花から直接抽出するか、あるいは、アルニカ等の薬用植物から抽出したヘレナリンを母化合物として化学修飾により合成してもよい。例えば、ヘレナリンの6位の水酸基に無水酢酸を用いてアセチル化する方法が報告されている(Maria F Beer et al.,Molecules.2019;24(6):1113、スキーム2参照)。これらに基づき、ヘレナリンと酸無水物とを用いて当業者であれば容易に上記化合物8及び化合物9を合成することができる。
【0020】
本実施形態の有効成分をアルニカ花から抽出する場合、「アルニカ」は、キク科、アルニカ属の植物(学名Arnica montana)である。アルニカの抽出物を製造する際には、材料として、例えば、根、根茎、葉、茎、花、果実、果皮、種子、全草、又はこれらの混合物を用いることができる。アルニカの抽出物は、例えば、材料を生のまま又は乾燥したものを粉砕後に溶媒で抽出して作製する。例えば、アルニカの花乾燥物50gを30%1,3-ブチレングリコール溶液1kgに浸漬し、約10℃~約30℃の環境で5~10日間抽出する。あるいは、アルニカの花乾燥物50gを約30℃~約50℃の温水1kgに浸漬して、2~10時間抽出してもよい。この浸漬を経て得られる溶液を、所定の濾過材(Glass Fiber File保持時間(ADVANTEC製Gf-75)とMixed Cellurose ester(ADVANTEC製A045A047A)など)を用いて、濾過する。濾過後の溶液を約0℃~約10℃の環境で5~10日間、静置する。再度、所定の濾過材を用いて、濾過し、得られる溶液をアルニカの抽出物として用いる。
【0021】
(有効成分の単離精製操作)
本実施形態の有効成分は、アルニカ抽出物から溶媒による分液抽出、種々の分離モード(イオン交換、親水性吸着、疎水性吸着、サイズ排除、配位子交換、アフィニティー等)によるクロマトグラフィーを用いた分画、濾紙やメンブランフィルター、限外濾過膜等を用いた分子量分画濾過、加圧又は減圧、加温又は冷却、乾燥、pH調整、脱臭、脱色、長時間の静置保管等を用いて行うことができ、これらを任意に選択し、組み合わせて処理することも可能である。1つの実施形態として、後述する実施例で用いたカラムクロマトグラフィー及び分取HPLC等を組み合わせて行うことが好ましい。精製した化合物は、NMRや質量分析法により構造決定することができる。
【0022】
(前駆脂肪細胞の増殖及び/又は分化促進剤)
本実施形態の剤における、各有効成分の含有比率は、特に限定されるものではない。例えば、本実施形態の剤は、6-O-メタクリロイルヘレナリン及び6-O-イソブチリルヘレナリンのいずれか一方だけを含んでもよいし、又は両方を任意の比率にて含有することができる。好ましい実施形態では6-O-メタクリロイルヘレナリン及び6-O-イソブチリルヘレナリンの両方を含み、より好ましくはこれらをほぼ1:1の割合で含む。本実施形態の剤は、これら有効成分以外に任意の化合物を含んでもよい。例えば、アルニカをはじめとするキク科植物には、多種類のヘレナリン、その誘導体又はその類縁体が含まれる。これらは、ラクトン環を持つ親油性の15炭素のテルペノイド化合物であるセスキテルペンラクトン類と総称されている。
【0023】
民間療法において、セスキテルペンラクトン類は様々な症状に対する漢方薬として使用されている。その多様性は、その生物学的活性の多様性と一致し、抗炎症作用、細胞毒性、抗癌作用、抗菌作用、抗真菌作用、殺虫作用、抗原虫作用を発揮することが示されている。従って、本実施形態の剤がその他の成分としてセスキテルペンラクトン類を含む場合、これらの各種生理活性、特に、細胞毒性に注意する必要がある。例えば、後述する実施例で示すように、アルニカ抽出物には、多種類のセスキテルペンラクトン類が含まれるが、それらの中で細胞毒性の強い成分の含有比率を低下させることが好ましい。細胞毒性の強いヘレナリン誘導体としては、例えば、6-O-チグロイルヘレナリンが挙げられる。一方、本実施形態の有効成分より少量の6-O-チグロイルヘレナリンを含むことで、前記脂肪細胞の分化が促進される場合がある。従って、本実施形態の剤は、6-O-チグロイルヘレナリンを含まないか又は質量比にて有効成分の総量以下の6-O-チグロイルヘレナリンを含有することが好ましい。これにより、その他の成分による細胞毒性作用を抑制するとともに、本実施形態の有効成分との相乗作用も期待することができるからである。
【0024】
(皮膚外用剤に含まれる有効成分の含有量)
本実施形態の剤は、1つの用途として皮膚外用剤が挙げられる。皮膚外用剤における各有効成分の含有量は、その投与形態および投与方法等を考慮し、前駆脂肪細胞の増殖及び/又は分化促進作用が得られるような量であればよく、特に限定されるものではない。例えば、各有効成分の含有量は、当該皮膚外用剤の全重量に対して、好ましくは0.1×10-9質量%以上、より好ましくは0.1×10-7質量%(水溶液として用いる場合は約0.1ng/mL)以上、さらに好ましくは0.3×10-7質量%以上であり、さらになお好ましくは1×10-7質量%以上である。また、ヘレナリン誘導体としての細胞毒性を考慮して、好ましくは1×10-2質量%以下、より好ましくは1×10-3質量%以下、さらに好ましくは1×10-4質量%以下である。1つの実施形態において、6-O-チグロイルヘレナリン(化合物7)を含む場合は、約1×10―7質量%以下の濃度で含有するか、又はこれを含有しないことが好ましい。
【0025】
(皮膚外用剤の形態)
本発明による皮膚外用剤は、アンプル、カプセル、粉末、顆粒、液体、ゲル、気泡、エマルジョン、シート、ミスト、スプレー剤等利用上の適当な形態の1)医薬品類、2)医薬部外品類、3)局所用又は全身用の皮膚外用剤類(例えば、化粧水、乳液、クリーム、軟膏、ローション、オイル、パック等の基礎化粧料、固形石鹸、液体ソープ、ハンドウォッシュ等の洗顔料や皮膚洗浄料、マッサージ用剤、クレンジング用剤、除毛剤、脱毛剤、髭剃り処理料、アフターシェーブローション、プレシェーブローション、シェービングクリーム、ファンデーション、口紅、頬紅、アイシャドウ、アイライナー、マスカラ等のメークアップ化粧料、香水類、美爪剤、美爪エナメル、美爪エナメル除去剤、パップ剤、プラスター剤、テープ剤、シート剤、貼付剤、エアゾール剤等)、4)頭皮・頭髪に適用する薬用又は/及び化粧用の製剤類(例えば、シャンプー剤、リンス剤、ヘアートリートメント剤、プレヘアートリートメント剤、パーマネント液、染毛料、整髪料、ヘアートニック剤、育毛・養毛料、パップ剤、プラスター剤、テープ剤、シート剤、エアゾール剤等)、5)浴湯に投じて使用する浴用剤、6)その他、腋臭防止剤や消臭剤、制汗剤、衛生用品、衛生綿類、ウエットティシュ等が挙げられる。
【0026】
(皮膚外用剤の構成成分)
また、このような剤には、必要に応じて、本発明の効果を損ねない範囲で以下に例示する成分や添加剤を任意に選択・併用して製造することができ、これらの処方系中への配合量は、特に規定するものではないが、通常、0.0001~50%程度が好ましいと考えられる。
【0027】
(1)各種油脂類
アボカド油、アーモンド油、ウイキョウ油、エゴマ油、オリーブ油、オレンジ油、オレンジラファー油、ゴマ油、カカオ脂、カミツレ油、カロット油、キューカンバー油、牛脂脂肪酸、ククイナッツ油、サフラワー油、シア脂、液状シア脂、大豆油、ツバキ油、トウモロコシ油、ナタネ油、パーシック油、ヒマシ油、綿実油、落花生油、タートル油、ミンク油、卵黄油、パーム油、パーム核油、モクロウ、ヤシ油、牛脂、豚脂、スクワレン、スクワラン、プリスタン又はこれら油脂類の水素添加物(硬化油等)等。
【0028】
(2)ロウ類
ミツロウ、カルナバロウ、鯨ロウ、ラノリン、液状ラノリン、還元ラノリン、硬質ラノリン、カンデリラロウ、モンタンロウ、セラックロウ、ライスワックス等。
【0029】
(3)鉱物油
流動パラフィン、ワセリン、パラフィン、オゾケライド、セレシン、マイクロクリスタンワックス等。
【0030】
(4)脂肪酸類
ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、ウンデシレン酸、トール油、ラノリン脂肪酸等の天然脂肪酸、イソノナン酸、カプロン酸、2-エチルブタン酸、イソペンタン酸、2-メチルペンタン酸、2-エチルヘキサン酸、イソペンタン酸等の合成脂肪酸。
【0031】
(5)アルコール類
エタノール、イソプロパノール、ラウリルアルコール、セタノール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、ラノリンアルコール、コレステロール、フィトステロール、フェノキシエタノール等の天然アルコール、2-ヘキシルデカノール、イソステアリルアルコール、2-オクチルドデカノール等の合成アルコール。
【0032】
(6)多価アルコール類
酸化エチレン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ポリエチレングリコール、酸化プロピレン、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1、3-ブチレングリコール、ペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリトリトール、トレイトール、アラビトール、キシリトール、リビトール、ガラクチトール、ソルビトール、マンニトール、ラクチトール、マルチトール等。
【0033】
(7)エステル類
ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、ラウリン酸ヘキシル、ミリスチン酸ミリスチル、オレイン酸オレイル、オレイン酸デシル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ジメチルオクタン酸ヘキシルデシル、乳酸セチル、乳酸ミリスチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、酢酸ラノリン、モノステアリン酸エチレングリコール、モノステアリン酸プロピレングリコール、ジオレイン酸プロピレングリコール等。
【0034】
(8)金属セッケン類
ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、パルミチン酸亜鉛、ミリスチン酸マグネシウム、ラウリン酸亜鉛、ウンデシレン酸亜鉛等。
【0035】
(9)ガム質、糖類又は水溶性高分子化合物
アラビアゴム、ベンゾインゴム、ダンマルゴム、グアヤク脂、アイルランド苔、カラヤゴム、トラガントゴム、キャロブゴム、クインシード、寒天、カゼイン、乳糖、果糖、ショ糖又はそのエステル、トレハロース又はその誘導体、デキストリン、ゼラチン、ペクチン、デンプン、カラギーナン、カルボキシメチルキチン又はキトサン、エチレンオキサイド等のアルキレン(C2~C4)オキサイドが付加されたヒドロキシアルキル(C2~C4)キチン又はキトサン、低分子キチン又はキトサン、キトサン塩、硫酸化キチン又はキトサン、リン酸化キチン又はキトサン、アルギン酸又はその塩、ヒアルロン酸又はその塩、コンドロイチン硫酸又はその塩、ヘパリン、エチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシエチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ニトロセルロース、結晶セルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメタアクリレート、ポリアクリル酸塩、ポリエチレンオキサイドやポリプロピレンオキサイド等のポリアルキレンオキサイド又はその架橋重合物、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレンイミン等。
【0036】
(10)界面活性剤
アニオン界面活性剤(アルキルカルボン酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩)、カチオン界面活性剤(アルキルアミン塩、アルキル四級アンモニウム塩)、両性界面活性剤:カルボン酸型両性界面活性剤(アミノ型、ベタイン型)、硫酸エステル型両性界面活性剤、スルホン酸型両性界面活性剤、リン酸エステル型両性界面活性剤、非イオン界面活性剤(エーテル型非イオン界面活性剤、エーテルエステル型非イオン界面活性剤、エステル型非イオン界面活性剤、ブロックポリマー型非イオン界面活性剤、含窒素型非イオン界面活性剤)、その他の界面活性剤(天然界面活性剤、タンパク質加水分解物の誘導体、高分子界面活性剤、チタン・ケイ素を含む界面活性剤、フッ化炭素系界面活性剤)等。
【0037】
(11)各種ビタミン類
ビタミンA群:レチノール、レチナール(ビタミンA1)、デヒドロレチナール(ビタミンA2)、カロチン、リコピン(プロビタミンA)、ビタミンB群:チアミン塩酸塩、チアミン硫酸塩(ビタミンB1)、リボフラビン(ビタミンB2)、ピリドキシン(ビタミンB6)、シアノコバラミン(ビタミンB12)、葉酸類、ニコチン酸類、パントテン酸類、ビオチン類、コリン、イノシトール類、ビタミンC群:ビタミンC酸又はその誘導体、ビタミンD群:エルゴカルシフェロール(ビタミンD2)、コレカルシフェロール(ビタミンD3)、ジヒドロタキステロール、ビタミンE群:ビタミンE又はその誘導体、ユビキノン類、ビタミンK群:フィトナジオン(ビタミンK1)、メナキノン(ビタミンK2)、メナジオン(ビタミンK3)、メナジオール(ビタミンK4)、その他、必須脂肪酸(ビタミンF)、カルニチン、フェルラ酸、γ-オリザノール、オロット酸、ビタミンP類(ルチン、エリオシトリン、ヘスペリジン)、ビタミンU等。
【0038】
(12)各種アミノ酸類
バリン、ロイシン、イソロイシン、トレオニン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、リジン、グリシン、アラニン、アスパラギン、グルタミン、セリン、システイン、シスチン、チロシン、プロリン、ヒドロキシプロリン、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒドロキシリジン、アルギニン、オルニチン、ヒスチジン等や、それらの硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、クエン酸塩、或いはピロリドンカルボン酸のごときアミノ酸誘導体等。
【0039】
(13)植物又は動物系原料由来の種々の添加物
これらは、添加しようとする製品種別、形態に応じて常法的に行われる加工(例えば、粉砕、製粉、洗浄、加水分解、醗酵、精製、圧搾、抽出、分画、ろ過、乾燥、粉末化、造粒、溶解、滅菌、pH調整、脱臭、脱色等を任意に選択、組み合わせた処理)を行い、各種の素材から任意に選択して供すれば良い。
【0040】
次に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。なお、以下の実施例において、各種成分の添加量を示す数値の単位%は、質量%を意味する。
【実施例】
【0041】
[実施例1]
(アルニカ花熱水抽出物の成分分画)
アルニカの花乾燥物を約50℃の温水に5時間浸漬した。この浸漬を経て得られる溶液を、所定の濾過材(ガラス濾紙、Gf-75、ADVANTEC製)とセルロース混合エステルメンブレンフィルタ、A045A047A、ADVANTEC製)を用いて濾過した。濾過後の溶液をエバポレーターで濃縮後に凍結乾燥機を用いて粉体とし、アルニカの抽出物として用いた。このアルニカ抽出物を
図1に示した分画スキームにより成分分画した。
【0042】
アルニカ花熱水抽出物(211.8g)は、蒸留水(500mL)に懸濁し、ジエチルエーテル(5×250mL、S01)、酢酸エチル(5×250mL、S02)、ブタノール(5×250mL、S03)を用いてそれぞれ液液分配し、ジエチルエーテル画分(DEFr.3.9g)、酢酸エチル画分(EFr.2.8g)、ブタノール画分(BFr.10.8g)及び水画分(WFr.収量測定不能)を得た。
【0043】
最も活性の高かったDEFr.(3.9g)はシリカゲルオープンカラムクロマトグラフィー(57mmφ×355mmL(直径57mm、長さ355mm)、S04)に供し、ヘキサン:アセトン=3:1、3:2、1:1を用いて溶出した。溶出液はTLCで分析し、13画分(DEFr.1~DEFr.13)を得た。DEFr.9(281.9mg)は分取HPLC(条件1、S06)に供し、化合物1(6.4mg、保持時間19.7min)を得た。細画分のうち高い活性がみられたDEFr.4(659.2mg)はLH-20ゲルオープンカラムクロマトグラフィー(20mmφ×515mmL、S05)に供し、クロロホルム:メタノール=1:1を用いて溶出した.溶出液はTLCで分析し、7画分(DEFr.4-1~DEFr.4-7)を得た。
【0044】
DEFr.4-2(462.6mg)はシリカゲルオープンカラムクロマトグラフィー(35mmφ×363mmL、S07)に供し、Hexane:Chloroform:Ethyl acetate=1:1:0.1、1:1:0.3、1:1:1、Chloroform:MeOH=1:1を用いて溶出した。溶出液はTLCで分析し、13画分(DEFr.4-2-1~DEFr.4-2-13)を得た。
【0045】
DEFr.4-2-6(66.5mg)は分取HPLC(条件2、S09)に供し、化合物2(5.1mg、保持時間31.2min)、化合物3(13.5mg、保持時間31.8min)、化合物4(19.3mg、保持時間32.0min)を得た。
【0046】
DEFr.4-2-2(348.4mg)はODSゲルオープンカラムクロマトグラフィー(30 mmφ×112mmL、S08)に供し、水:メタノール=1:1、1:2、0:1を用いて溶出した。溶出液はTLCで分析し、13画分(DEFr.4-2-2-1~DEFr.4-2-2-13)を得た。
【0047】
DEFr.4-2-2-4(50.9mg)は分取HPLC(条件3、S10)に供し、化合物5(5.1mg、保持時間30.8min)、化合物6(10.8mg、保持時間31.6min)を得た。
【0048】
DEFr.4-2-2-8(77.2mg)は分取HPLC(条件4、S12)に供し、化合物7(43.2mg、保持時間33.3min)を得た。
【0049】
DEFr.4-2-2-6、7(80.9mg)は分取HPLC(条件5、S11)に供し、化合物8(9.5mg、保持時間31.6min)、化合物9(10.9mg、保持時間32.2min)、化合物10(15.9mg、保持時間32.5min)を得た。
【0050】
(単離化合物の構造解析)
化合物1の構造解析
DEFr.9-1(6.4mg)は重メタノールに溶解し、FT-NMR分析に供した。また、メタノールに溶解し、MALDI-TOF-MS分析に供した。
【0051】
化合物2の構造解析
DEFr.4-2-6-1(5.1mg)は重アセトン、重クロロホルムに溶解し、FT-NMR分析に供した。また、メタノールに溶解し、MALDI-TOF-MS分析に供した。
【0052】
化合物3の構造解析
DEFr.4-2-6-2(13.5mg)は重アセトン、重クロロホルムに溶解し、FT-NMR分析に供した。また、メタノールに溶解し、MALDI-TOF-MS分析に供した。
【0053】
化合物4の構造解析
DEFr.4-2-6-3(19.1mg)は重アセトン、重クロロホルムに溶解し、FT-NMR分析に供した。また、メタノールに溶解し、MALDI-TOF-MS分析に供した。
【0054】
化合物5の構造解析
DEFr.4-2-2-4-1(5.1mg)は重クロロホルムに溶解し、FT-NMR分析に供した。また、メタノールに溶解し、MALDI-TOF-MS分析に供した。
【0055】
化合物6の構造解析
DEFr.4-2-2-4-2(10.8mg)は重クロロホルムに溶解し、FT-NMR分析に供した。また、メタノールに溶解し、MALDI-TOF-MS分析に供した。
【0056】
化合物7の構造解析
DEFr.4-2-2-8-1(43.2mg)は重クロロホルムに溶解し、FT-NMR分析に供した。また、メタノールに溶解し、MALDI-TOF-MS分析に供した。
【0057】
化合物8の構造解析
DEFr.4-2-2-6-1(9.5mg)は重クロロホルムに溶解し、FT-NMR分析に供した。また、メタノールに溶解し、MALDI-TOF-MS分析に供した。
【0058】
化合物9の構造解析
DEFr.4-2-2-6-2(10.9mg)は重クロロホルムに溶解し、FT-NMR分析に供した。また、メタノールに溶解し、MALDI-TOF-MS分析に供した。
【0059】
化合物10の構造解析
DEFr.4-2-2-6-3(3.2mg)は重クロロホルムに溶解し、FT-NMR分析に供した。また、メタノールに溶解し、MALDI-TOF-MS分析に供した。
【0060】
なお、上述の構造解析で用いたサンプルにおける対象化合物の純度を、後述する高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析し、その結果を以下表1に示す。
【0061】
【0062】
<高速液体クロマトグラフィー(HPLC)>
装置:SHIMADZU
ポンプ:LC-20AD
ダイオードアレイ検出器:SPD-M20A
カラムオーブン:CTO-20AD
システムコントローラ:CBM-20A
デガッサ:DGU-20A
オートサンプラ:SIL-20A
カラム:Inertsil(登録商標)ODS-3、5(4.6mmφ×250mmL)
注入量:10μl
分析時間:60min
検出器波長:210~600nm
流速:1.0ml/min
グラジエントプログラム:MeOH:0.05%TFAaq.=5%:95%→100%:0%(40min)
【0063】
<分取高速液体クロマトグラフィー(Preparative HPLC)>
装置:JASCO
ポンプ:880-PU
検出器:870-UV
デガッサ:880-51
システムコントローラ:880-30
カラム:Inertsil(登録商標)ODS-3、5(20mmφ×250mmL)
注入量:350μl
検出器波長:280.0nm
流速:9.0ml/min
【0064】
(条件1)
グラジエントプログラム:MeOH:0.05%TFA aq.=25:75→100:0(30min)
【0065】
(条件2)
グラジエントプログラム:MeOH:0.05%TFA aq.=60:40→85:15(30min)
【0066】
(条件3)
グラジエントプログラム:MeOH:Water=60:40(30min)
【0067】
(条件4)
グラジエントプログラム:Acetonitrile:Water=60:40→85:15(30min)
【0068】
(条件5)
グラジエントプログラム:Acetonitrile:0.05%TFA aq.=50:50(30min)
【0069】
(条件6)
グラジエントプログラム:MeOH:Water=65:35(30min)
【0070】
<変換核磁気共鳴装置(FT-NMR)>
装置:JEOL EC 600MHz(JEOL、TOKYO、JAPAN)
溶媒:Chloroform-d(Cambridgr Isotope Laboratories、Inc.CAS865-49-6)
Methanol-d4(関東化学株式会社、CAS25221-96)
Acetone-d6(SIGMA-ALDRICH、CAS666-52-4)
【0071】
<マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計(MALDI-TOF-MS)>
装置:SHIMADZU BIOTECH AXIMA RESONANCE
イオンモード:positive ion mode
質量範囲:Low100+、Low300+
Power:120~150
マトリクス:2、5-dibenzoic acid(DHB)
【0072】
<旋光度計>
装置:JASCO-P2300 system
溶媒:Methanol、Chloroform
【0073】
それぞれのサンプルについて上記測定により得られた13C-NMRスペクトル、1H-NMRスペクトル、COSYスペクトル、HMBCスペクトル、HMQCスペクトル及びMALDI-TOF-MSスペクトルから推定された化合物1及び化合物3~10の構造を以下に示す。
【0074】
【0075】
(ヒト皮下前駆脂肪細胞の増殖試験)
ヒトの皮下前駆脂肪細胞に対して上記精製画分を添加することにより、細胞増殖が促進されるかどうかを確認した。この評価で用いる各精製画分は、アルニカ花熱水抽出物から回収された質量に基づき、元の抽出物中に存在する割合となるように、表2及び表3に記載のように、調製した。まず、各精製画分をDMSOに溶解して保存液を作製した。これを30%BGに0.75%となるように溶解した後、細胞に対して1000倍又は3000倍希釈で添加した。親となるアルニカ花熱水抽出物の粉体は、50mgを500μLの30%BGに溶解した後、これを30%BGに0.75%となるように希釈し、さらにDMSOを0.75%となるように添加したものを、細胞に対して1000倍又は3000倍希釈で添加した。また、比較対象として、30%BGに0.75%となるようにDMSOを添加したものを調製し、細胞に対して1000倍又は3000倍希釈で添加した。
【0076】
【0077】
【0078】
ヒト皮下前駆脂肪細胞(ロンザ製、PT-5020)を、10%FBSを含むPreadipocyte Growth Medium(ロンザ製 PT-8002)を用いて、96ウェルプレートに対して1×103(個)/ウェルで撒き、5%CO2培養機にて37℃で16時間培養した。その後、各精製画分を上記濃度となるように添加し、5%CO2培養機にて37℃で72時間培養した。培養後、ウェル内の細胞数を測定した。本実験のコントロールとして、各精製画分を含まない抽出溶媒である30%1、3ブチレングリコールを添加したウェルを設定し、この設定したウェルの細胞数も測定した。この設定したウェルの細胞数を100として、各精製画分を添加したウェルの細胞数の割合(相対値)を算出した。
【0079】
(ヒト皮下前駆脂肪細胞の分化試験)
前駆脂肪細胞から脂肪細胞に分化することで、細胞内に脂肪滴が貯めこまれることが知られている(肥満研究vol.13,No.1,2007,84~86ページ)。ヒトの皮下前駆脂肪細胞に対して上記各精製画分を添加することにより、脂肪細胞への分化が促進されるかどうかを脂肪滴の形成で確認した。この評価で用いる各精製画分は、アルニカ花熱水抽出物から回収された質量に基づき、元の抽出物中に存在する濃度となるように調製し、細胞に対して1000倍又は3000倍希釈で添加した。
【0080】
ヒト皮下前駆脂肪細胞(ロンザ製、PT-5020)を、10%FBSを含むPreadipocyte Growth Medium(ロンザ製、PT-8002)を用いて、96ウェルプレートに対して1×104(個)/ウェルで撒き、5%CO2培養機にて37℃で16時間培養した。顕微鏡による目視でコンフルエントになっていることを確認後、分化誘導培地(ロンザ製、PT-8002)をロンザ社の推奨の1/2倍濃度で添加した。その際に、各精製画分を上記濃度となるように添加し、5%CO2培養機にて37℃で10日間培養した。脂肪滴の蓄積を顕微鏡による目視で確認後、培養液を抜き取り、ウェルをPBSで二回洗浄した。細胞を10%中性緩衝ホルマリン(和光純薬製、062-01661)で固定後、60%イソプロピルアルコールに飽和溶解させたオイルレッドO(和光純薬製、154-02072)を用いて、脂肪滴を染色した。精製水でウェルを洗浄後、100%イソプロピルアルコールを用いて、染色された脂肪滴を抽出し、吸光度510nmを測定した。各精製画分の代わりに抽出溶媒である30%の1、3ブチレングリコールを上記濃度となるように添加したウェルの吸光度値を1として、アルニカの抽出物を添加したウェルの吸光度の割合(相対値)を算出し、分化の割合(相対値)とした。
【0081】
その結果を
図2~4に示す。
図2~4において、「Parentは、精製原料として用いたアルニカ花熱水抽出物」、「Contは、30%の1、3ブチレングリコール」、を表す。
図2の結果より、アルニカ抽出物を、ジエチルエーテル抽出(S01)した画分DEFr.及びこの画分をシリカゲルオープンカラムクロマトグラフィー分画(S04)したDEFr.4画分に、ヒト皮下前駆脂肪細胞の増殖及び分化促進活性が見出された。そこで、DEFr.4画分をさらにシリカゲルオープンカラムクロマトグラフィー及び分取HPLCで分画した。得られた分画(表3に記載の、DEFr.2、Cmpd1、Cmpd3、Cmpd4、Cmpd5、Cmpd6、Cmpd7、Cmpd8、Cmpd9及びCmpd10)について、上記方法により測定した結果を
図3に示す。
図3の結果より、Cmpd7(化合物7を含有)、Cmpd8(化合物8を含有)及びCmpd9(化合物9を含有)がヒト皮下前駆脂肪細胞の増殖及び分化促進活性を有することが分かった。Cmpd7の1000倍希釈でヒト皮下前駆脂肪細胞の増殖活性が低下している理由は、この化合物の有する細胞毒性に起因すると考えられる。
【0082】
そこで、Cmpd7(化合物7を含有)、Cmpd8(化合物8を含有)及びCmpd9(化合物9を含有)を単独で又はそれぞれ混合した場合のヒト皮下前駆脂肪細胞の増殖試験及び分化試験の結果を
図4に示す。なお、
図4において、「Cmpd7+8」はCmpd7及びCmpd8を共に添加、「Cmpd7+9」はCmpd7及びCmpd9を共に添加、「Cmpd8+9」はCmpd8及びCmpd9を共に添加、「Cmp7+8+9」はCmpd7とComp8とCmpd9を共に添加、を示す。
図4の結果より、Cmpd8とCmpd9の組み合わせが、ヒト皮下前駆脂肪細胞の増殖及び分化促進の両方において最も強い活性を示すことが分かった。なお、
図2~4において、*はContに対し、ダネット検定(片側のみ)によりp<0.05の有意差を有し、**は、同じくContに対し、ダネット検定(片側のみ)によりp<0.01の有意差を有することを示す。
【0083】
[実施例2]
実施例1で得たジエチルエーテル可溶部をシリカゲルオープンカラムクロマトグラフィーで分画した13画分(DEFr.1~DEFr.13)のうち、DEFr.3及びDEFr.5~8の各画分をさらに精製し、新たな化合物12~19を単離した。この新たな化合物を単離するための分画スキームを
図5に示す。
【0084】
DEFr.3(340.0mg)はODSゲルオープンカラムクロマトグラフィー(30mmφ×112mmL、S14)に供し、水:メタノール=3:2を用いて溶出した。細画分のうち活性がみられたDEFr.3-8(156.0mg)は分取HPLC(アセトニトリル:水=39:61、S15)に供し化合物17(8.3mg)を得た。一方、得られた画分DEFr.3-8-5をさらに分取HPLC(ヘキサン:2-プロパノール=90:10、S16)に供し化合物16(15.8mg)を得た。
【0085】
DEFr.5(504.6mg)はLH-20ゲルオープンカラムクロマトグラフィー(20mmφ×515mmL、S17)に供し、メタノール:クロロホルム=3:2を用いて溶出した。溶出液はTLCで分析し、2つの画分(DEFr.5-2及びDEFr.5-3)を得た。この画分DEFr.5-2(167.0mg)は、分取HPLC(メタノール:水=45:55、S18)に供し、化合物13(11.2mg)を得た。一方、得られた画分DEFr.5-2-1をさらに分取HPLC(アセトニトリル:水=30:70、S19)に供し化合物14(2.1mg)を得た。画分DEFr.5-3(130.1mg)は、ODSゲルオープンカラムクロマトグラフィー(S20)に供した。水:メタノール=2:3、1:1及び1:0を用いてそれぞれ溶出した。得られた画分DEFr.5-3-23(5.0mg)をさらに分取HPLC(メタノール:水=40:60、S21)に供し化合物15(2.9mg)を、画分DEFr.5-3-4(40.0mg)をさらに分取HPLC(メタノール:水=25:75、S22)に供し化合物15(13.4mg)を得た。
【0086】
DEFr.6(299.0mg)はODSゲルオープンカラムクロマトグラフィー(30mmφ×112mmL、S23)に供し、水:メタノール=1:1、1:2、0:1を用いて溶出した。得られた画分DEFr.6-3(59.1mg)をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに供し、クロロフォルム:メタノール=20:1で溶出し(S24)、1つの溶出画分DEFr.6-3-1(40.0mg)をさらに分取HPLC(メタノール:水=40:60、S25)に供し化合物12(9.5mg)を得た。
【0087】
DEFr.7(515.0mg)は、LH-20ゲルオープンカラムクロマトグラフィー(20mmφ×515mmL、S05)に供し、クロロホルム:メタノール=1:1を用いて溶出した.溶出液はTLCで分析し、6画分(DEFr.7-1~DEFr.7-6)を得た。DEFr.7-4(32.0mg)は分取HPLCに供し、メタノール:水(0.05%TFA)=30:70、S27)で溶出して化合物18(18.2mg)を得た。
【0088】
DEFr.8(548.2mg)は、LH-20ゲルオープンカラムクロマトグラフィー(20mmφ×515mmL、S05)に供し、クロロホルム:メタノール=1:1を用いて溶出した。得られた1つの画分DEFr.8-7(25.3mg)を分取HPLCに供し、メタノール:水(0.05%TFA)=25:75、S29)で溶出して化合物19(11.3mg)を得た。
【0089】
(単離化合物の構造解析)
実施例1と同様の方法により、13C-NMRスペクトル、1H-NMRスペクトル、COSYスペクトル、HMBCスペクトル、HMQCスペクトル及びMALDI-TOF-MSスペクトルから推定された化合物11~19の構造を以下に示す。
【0090】
【0091】
実施例1と同様の方法により、ヒト皮下前駆脂肪細胞の増殖試験及び分化試験を行った。その結果を以下の表4及び
図6に示す。表4及び
図6において、サンプル名として記載した「KS0019」と「KS0020」は、それぞれロットの異なるアルニカ抽出液を表す。「BG/DMSO」は、精製画分を含まない抽出溶媒である30%1、3ブチレングリコールとDMSOを添加した群を表す。Cmpd11~Cmpd19は、それぞれ化合物11~19を含有する。いずれのサンプルも化合物の濃度がアルニカ抽出液中と同じになるように濃度調整して、細胞に1000倍希釈で添加した。
【0092】
【0093】
表4及び
図6の結果より、Cmpd12(化合物12を含有)及びCmpd13(化合物13を含有)がヒト皮下前駆脂肪細胞の分化を有意に促進した。
なお、
図6において、*はBG/DMSOに対し、ダネット検定(片側のみ)によりp<0.05の有意差を有し、**は、同じくBG/DMSOに対し、ダネット検定(片側のみ)によりp<0.01の有意差を有し、***は、同じくBG/DMSOに対し、ダネット検定(片側のみ)によりp<0.001の有意差を有することを示す。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の前駆脂肪細胞の増殖及び/又は分化促進剤は、化粧品、食品、医薬品等、及び/又はこれらに配合する素材として産業上利用することができる。
【要約】
【課題】アルニカ抽出物に含まれる前駆脂肪細胞の増殖及び/又は分化を促進する化合物を見出し、この化合物を用いて脂肪層をボリュームアップさせて外観美を創り出すための化粧品、食品、医薬品等、及び/又はこれらに配合する素材を提供する。
【解決手段】下記式(I):
(式中、Rは、水素原子又は炭素数1~5のアシル基である。)で表される化合物を有効成分として含有する、前駆脂肪細胞の増殖及び/又は分化促進剤。
【選択図】
図1