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特許7451066空調用熱源制御システム及び空調用熱源制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】空調用熱源制御システム及び空調用熱源制御方法
(51)【国際特許分類】
   F24F 11/85 20180101AFI20240311BHJP
   F24F 5/00 20060101ALI20240311BHJP
   F24F 11/46 20180101ALI20240311BHJP
   F24F 11/83 20180101ALI20240311BHJP
【FI】
F24F11/85
F24F5/00 101Z
F24F11/46
F24F11/83
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022062898
(22)【出願日】2022-04-05
(65)【公開番号】P2023153554
(43)【公開日】2023-10-18
【審査請求日】2022-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000191319
【氏名又は名称】新菱冷熱工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(72)【発明者】
【氏名】坂本 裕
【審査官】佐藤 正浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/187423(WO,A1)
【文献】特開2020-159671(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 11/00-11/89
F24F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱源機器から循環ポンプにより空調機器に冷水又は温水を供給する空調用熱源制御システムにおいて、
前記熱源機器から前記空調機器に送水される前記冷水又は温水の設計往還送水温度差である設定値と、温度センサーにより計測された前記空調機器への往き温度と該空調機器からの還り温度とから算出された往還送水温度差の測定値と、の偏差に基づき前記循環ポンプの送水圧力を可変に制御すると共に、前記冷水又は温水が流通する配管に設けられた制御弁の情報に基づき前記熱源機器の送水温度を可変に制御する制御装置を備えることを特徴とする空調用熱源制御システム。
【請求項2】
前記熱源機器に対して複数の前記空調機器が設けられており、前記制御装置は、前記熱源機器の入口側部分と出口側部分の温度差により前記往還送水温度差の測定値を求める請求項1に記載の空調用熱源制御システム。
【請求項3】
前記熱源機器に対して複数の前記空調機器が設けられており、前記制御装置は、前記各空調機器の入口側部分と出口側部分のそれぞれの温度差を加重平均することにより前記往還送水温度差の測定値を求める請求項1に記載の空調用熱源制御システム。
【請求項4】
前記熱源機器の上流側に冷却塔を直列に接続し、該熱源機器に還る冷水に対して該冷却塔を利用してフリークーリングを行う請求項1に記載の空調用熱源制御システム。
【請求項5】
熱源機器から循環ポンプにより空調機器に冷水又は温水を供給する空調用熱源制御方法において、
前記熱源機器から前記空調機器に送水される前記冷水又は温水の設計往還送水温度差である設定値と、温度センサーにより計測された前記空調機器への往き温度と該空調機器からの還り温度とから算出された往還送水温度差の測定値と、の偏差に基づき前記循環ポンプの送水圧力を可変に制御するステップと、
前記冷水又は温水が流通する配管に設けられた制御弁の情報に基づき前記熱源機器の送水温度を可変に制御するステップと、
を備えることを特徴とする空調用熱源制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱源機器から循環ポンプにより空調機器に冷水又は温水を供給する空調用熱源制御システム及び空調用熱源制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
空調用熱源を制御する際、部分負荷時に熱源機器の送水温度を高くすることで熱源機器の効率を向上させることができる。しかしながら、熱源機器の送水温度を高くして同等の能力を得るためには、熱源機器の送水量を増やす必要があり、搬送動力が増大する。このように、熱源機器の効率向上と搬送動力の増大とはトレードオフの関係があるため、闇雲に熱源機器の送水温度を高くすると、却って消費エネルギーが増大してしまうことがある。
【0003】
従来、空調用熱源を制御する技術として、例えば、特許文献1に記載の空調熱源システム及び空調熱源システムの制御方法や、特許文献2に記載の送水温度制御装置及び方法や、特許文献3に記載の負荷応答型空調システム及び方法などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003―262384号公報
【文献】特許第5320128号公報
【文献】特許第6994218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した特許文献1に記載の発明では、多くのインプットデータと複雑な計算を行って最適解を求める必要がある。また、数多くのセンサーや演算装置が必要となり、演算ソフトも個別に開発が必要となるため、コストが増大し、汎用性が高いとは言えない。
【0006】
また、特許文献2に記載の発明では、学習型のためデータ蓄積装置が必須となり、計算方法も複雑となるという問題がある。
【0007】
さらに、特許文献3に記載の発明は、単に制御弁の情報で送水温度可変と圧力可変を切り替える方法を開示しているだけであり、消費エネルギーが最小となる最適な送水温度に制御する方法を開示していないため、省エネルギー化を最大限に図ることができない。
【0008】
このように上記した発明は、いずれも、熱源や空調機器の仕様、台数、制御方法が異なる建物で共通して利用できる手法ではなく、その都度多くの時間とコストを掛けて、変流量(VWV:Variable Water Volume)制御と変送水温度(VWT:Variable Water Temperature)制御のロジックを開発、整備する必要があり、費用対効果や汎用性が低いという共通した課題がある。
【0009】
本発明は、上記した課題を解決すべくなされたものであり、非常にシンプルで費用対効果や汎用性が高く、省エネルギー化を最大限に図ることのできる空調用熱源制御システム及び空調用熱源制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成するため、本発明は、熱源機器から循環ポンプにより空調機器に冷水又は温水を供給する空調用熱源制御システムにおいて、前記空調機器の往還送水温度差の設定値と測定値との偏差に基づき前記熱源機器の送水温度を可変に制御すると共に、前記冷水又は温水が流通する配管に設けられた制御弁の情報に基づき前記循環ポンプの圧力を可変に制御する制御装置を備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、熱源機器から循環ポンプにより空調機器に冷水又は温水を供給する空調用熱源制御システムにおいて、前記空調機器の往還送水温度差の設定値と測定値との偏差に基づき前記循環ポンプの送水圧力を可変に制御すると共に、前記冷水又は温水が流通する配管に設けられた制御弁の情報に基づき前記熱源機器の送水温度を可変に制御する制御装置を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る空調用熱源制御システムには、前記熱源機器に対して複数の前記空調機器が設けられており、前記制御装置は、前記熱源機器の入口側部分と出口側部分の温度差により前記往還送水温度差の測定値を求めても良い。
【0013】
本発明に係る空調用熱源制御システムには、前記熱源機器に対して複数の前記空調機器が設けられており、前記制御装置は、前記各空調機器の入口側部分と出口側部分のそれぞれの温度差を加重平均することにより前記往還送水温度差の測定値を求めても良い。
【0014】
本発明に係る空調用熱源制御システムは、前記熱源機器の上流側に冷却塔を直列に接続し、該熱源機器に還る冷水に対して該冷却塔を利用してフリークーリングを行っても良い。
【0015】
さらに、本発明は、熱源機器から循環ポンプにより空調機器に冷水又は温水を供給する空調用熱源制御方法において、前記空調機器の往還送水温度差の設定値と測定値との偏差に基づき前記熱源機器の送水温度を可変に制御するステップと、前記冷水又は温水が流通する配管に設けられた制御弁の情報に基づき前記循環ポンプの圧力を可変に制御するステップと、を備えることを特徴とする。
【0016】
さらにまた、本発明は、熱源機器から循環ポンプにより空調機器に冷水又は温水を供給する空調用熱源制御方法において、前記空調機器の往還送水温度差の設定値と測定値との偏差に基づき前記循環ポンプの送水圧力を可変に制御するステップと、前記冷水又は温水が流通する配管に設けられた制御弁の情報に基づき前記熱源機器の送水温度を可変に制御するステップと、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、非常にシンプルで費用対効果や汎用性が高く、省エネルギー化を最大限に図ることができる等、種々の優れた効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施の形態に係る空調用熱源制御システムの基本的な構成を示す図である。
図2】本発明の実施の形態に係る空調用熱源制御システムにおいて、熱源機器の送水温度に対する単位エネルギー消費量及びエネルギー消費率の試算結果を示す図である。
図3】本発明の実施の形態に係る空調用熱源制御システムにおいて、負荷率が変化した時の熱源機器の送水温度に対するエネルギー消費率の試算結果を示す図である。
図4】本発明の実施の形態に係る空調用熱源制御システムにおいて、負荷率毎の送水温度と空調機器のコイル出口水温及び流量比との関係を示す図である。
図5】本発明の実施の形態に係る空調用熱源制御システムにおいて、負荷率毎の送水温度と往還送水温度差との関係を示す図である。
図6】本発明の実施の形態に係る空調用熱源制御システムにおいて、負荷率毎の送還送水温度差とエネルギー消費率との関係を示す図である。
図7】本発明の実施の形態に係る空調用熱源制御システムにおいて、熱源機器のCOPが5.0から8.0に上昇した場合の負荷率毎の送還送水温度差とエネルギー消費率との関係を示す図である。
図8】本発明の実施の形態に係る空調用熱源制御システムにおいて、熱源機器に対して複数設置された空調機器に負荷の偏差が生じた場合の一対応例を示す図である。
図9】本発明の実施の形態に係る空調用熱源制御システムにおいて、熱源機器に対して複数設置された空調機器に負荷の偏差が生じた場合の別の対応例を示す図である。
図10】本発明の実施の形態に係る空調用熱源制御システムの第1の制御方法を示すフローチャートである。
図11】本発明の実施の形態に係る空調用熱源制御システムの第2の制御方法を示すフローチャートである。
図12】本発明の実施の形態に係る空調用熱源制御システムの第2の制御方法を示すフローチャートである。
図13】本発明の実施の形態に係る空調用熱源制御システムにおいて、フリークーリング設備を併用した時の構成を示す図である。
図14図13のフリークーリング設備を併用した時の空調用熱源制御システムにおいて、送水温度と往還送水温度差との関係を示す図である。
図15図13のフリークーリング設備を併用した時の空調用熱源制御システムにおいて、(a)は負荷率50%の時の外気湿球温度と往還送水温度差との関係を示す図であり、(b)は負荷率30%の時の外気湿球温度と往還送水温度差との関係を示す図である。
図16図13のフリークーリングを併用した時の空調用熱源制御システムにおいて、(a)は負荷率50%の時の最適往還送水温度差によるシステムCOP向上の効果を示す図であり、(b)は負荷率30%の時の最適往還送水温度差によるシステムCOP向上の効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態に係る空調用熱源制御システム及び空調用熱源制御方法について説明する。
【0020】
[空調用熱源制御システムの概要]
まず、図1図7を参照しつつ、本発明の実施の形態に係る空調用熱源制御システム10の概要について説明する。なお、本発明の実施の形態では、熱源機器として冷凍機を使用し、負荷側の空調機器に冷水を循環させることで冷房運転を行う場合について説明するが、本発明は、ヒートポンプ式熱源等の他のタイプの熱源機器を使用して空調機器に温水を循環させることで暖房運転を行う場合にも適用可能である。
【0021】
図1は本発明の実施の形態に係る空調用熱源制御システム10の基本的な構成を示す図である。空調用熱源制御システム10は、熱源機器である冷凍機11と空調機器12とが冷水配管13を介して接続されて構成されている。空調機器12は、冷水コイル14と送風機15を備えている。そして、送風機15には、給気ダクト16が接続され、給気ダクト16にはVAV(Variable Air Volume)ユニット17や給気出口温度を測定する温度センサー18などが設けられている。
【0022】
冷水配管13には、冷凍機11の上流側に一次循環ポンプ20が設けられていると共に、冷凍機11と冷水コイル14との間に二次循環ポンプ21が設けられている。冷水配管13には、一般的な空調システムで設置される制御弁22や、第1~第3の温度センサー23~25などが設けられている。なお、第1の温度センサー23は冷凍機11の送水温度を計測し、第2の温度センサー24は空調機器12への冷水の往き温度を計測し、第3の温度センサー25は空調機器12からの冷水の還り温度を計測する。
【0023】
また、制御対象となる室内には、室温を計測するための温度センサー26が設けられており、前記各機器やセンサー等の制御機器は、汎用コントローラ等の制御装置30によって制御される。
【0024】
上記した構成を備えた本発明の実施の形態に係る空調用熱源制御システム10は、冷凍機11から空調機器12に送水される冷水の往還送水温度差が一定値(=設計往還送水温度差)になる送水温度に制御すると、冷凍機11と循環ポンプ20,21の消費エネルギーの総和が最小になることに着眼したものである。
【0025】
図2は、冷凍機11の送水温度に対する単位エネルギー消費量(kW)及びエネルギー消費率(送水温度7℃時の単位エネルギー消費量に対する比率)の試算結果を示す図であり、この時の試算条件は、次の通りである。
【0026】
<試算条件>
・冷凍機11のシステムCOP:5.0(送水温度上昇により2%/℃効率向上)
・循環ポンプ20,21の揚程:20mAq程度(流量の2乗で動力変化)
・空調機器12の風量(=負荷率):70%、50%、30%(出口空気温度16℃)
・冷水コイル14の設計往還送水温度差:6℃(7℃→13℃)
【0027】
図2に示すように、冷凍機11の送水温度を高くすると、送水量の増量が必要になるため、単に冷凍機11の送水温度を上げただけではポンプ動力を含めた総エネルギー消費量を減少させることができない。図2の試算例では、送水温度が10~11℃の時に最も省エネルギー(最適送水温度)になることが分かる。
【0028】
図3は、上記試算条件において、空調機器12の風量(=負荷率)が70%(丸印)、50%(三角印)、30%(四角印)と変化した時の冷凍機11の送水温度に対するエネルギー消費率の試算結果を示す図である。この図3によれば、冷凍機11の最適な送水温度は、負荷率によって変化することが分かる(図中の(1)→(2)→(3)参照)。
【0029】
図4は、上記試算条件において、負荷率が70%(丸印)、50%(三角印)、30%(四角印)と変化した時の冷凍機11の送水温度と空調機器12の冷水コイル14の出口水温及び流量比との関係を示す図であり、図4によれば、負荷率の増加或いは送水温度の上昇に伴って冷水コイル14の出口水温が低下することが分かる。
【0030】
図5は、縦軸を図4の出口水温から往還送水温度差に変更した時の図であり、負荷率が70%(丸印)、50%(三角印)、30%(四角印)と変化した時の冷凍機11の送水温度と往還送水温度差との関係を示している。図5によれば、冷水コイル14の特性として送水温度を上げると往還送水温度差は小さくなり、反対に送水温度を下げると往還送水温度差は大きくなることが分かるが、図3で求めた各負荷率(70%、50%、30%)の最適な送水温度((1)、(2)、(3))の往還送水温度差は、ほぼ6℃差に集中し、この温度差は上記試算条件における冷水コイル14の設計往還送水温度差(6℃)と同値となることが分かる。
【0031】
このように風量や空気温度などの熱伝達条件が変化したとしても、空調機器12の冷水コイル14に供給する冷水の往還送水温度差を設計往還送水温度差付近の流量に制御すれば、自ずと最適な送水温度付近に収束することが分かる。
【0032】
また、図6は、図5と同じ条件で、往還送水温度差をX軸、エネルギー消費率をY軸にして、負荷率が70%(丸印)、50%(三角印)、30%(四角印)と変化した時の往還送水温度差とエネルギー消費率との関係を示している。図6によれば、いずれの負荷率でも、最適な往還送水温度差である6℃付近で傾きが小さくなる鍋底型の波形になることから、往還送水温度差が最適な往還送水温度差と多少の乖離があったとしても省エネルギー性能が極端に低下することはない。
【0033】
さらにまた、図7は、冷凍機11の効率や外気環境の変化を想定して、冷凍機11のシステムCOPが5.0から8.0に上昇した場合に、空調機器12の風量(=負荷率)が70%(丸印)、50%(三角印)、30%(四角印)と変化した時の往還送水温度差とエネルギー消費率との関係を示している。図7によれば、冷凍機11の性能が大きく変化したとしても最適な往還送水温度差の値にほとんど変化なく、冷凍機11の効率が変化しても最適な往還送水温度差は一定値としても支障ないことが分かる。
【0034】
なお、上記した試算では、送水温度上昇による冷凍機11の効率向上率を定率と仮定したが、実際には冷凍機11の種類、負荷率、或いは外気条件によって効率向上率は微妙に変化する。また、空調機器12側の負荷率によっても最適になる往還送水温度差には若干の偏差が生じる傾向がある。したがって、例えば、負荷率、外気温度、外気湿球温度、外気エンタルピー等をパラメータとして、往還送水温度差の最適値を演算して可変しても良い。
【0035】
[空調用熱源制御システムの第1の制御方法]
次に、図1及び図8図10を参照しつつ、本発明の実施の形態に係る空調用熱源制御システム10の第1の制御方法について説明する。
【0036】
本発明の実施の形態に係る空調用熱源制御システム10は、第1の制御方法として、制御装置30が、冷凍機11に対する往還送水温度差の設定値Sと第2の温度センサー24及び第3の温度センサー25から算出した測定値Mとの偏差に基づき、比例的或いは段階的に、冷凍機11の送水温度を可変に制御する。
【0037】
この時、制御装置30は、冷凍機11の送水温度や給気出口温度や室温の変化に基づき、制御弁22の開度を制御して冷水配管13内を流通する冷水量を制御することが必要となる。これにより、冷水配管13内に圧力変動が生じるため、二次循環ポンプ21の送水圧力を制御する必要があるが、その制御方式としては、例えば、往還圧力一定INV制御、末端圧力一定INV制御、推定末端圧力一定INV制御のような一般的な圧力制御方式をそのまま適用可能である。また、上記圧力制御方式を流量計測機能付き二方弁により設定圧力値を可変する方法に適用することも可能である。
【0038】
上記した図1では、冷凍機11と空調機器12を1対1で設置した例を示したが、実際には、図8図9に示すように、1系統の冷凍機11に対して複数の空調機器12a,12b,12cが設置される場合が多い。このような場合、空調機器12a,12b,12c毎に少なからず負荷の偏差が生じ、往還送水温度差にも空調機器12a,12b,12c間で偏差が生じる。
【0039】
そこで、図8に示すように、冷凍機11廻りの集合管に第4の温度センサー27を設置し、制御装置30は、第1の温度センサー23と第4の温度センサー27との温度差を往還送水温度差の測定値Mとし、この測定値Mと往還送水温度差の設定値Sとの偏差を求めることにより、冷凍機11の送水温度を可変に制御することができる。
【0040】
或いは、制御装置30は、各空調機器12a~12cの冷水コイル14a~14cの出入口側部分に設けられた第2の温度センサー24a~24cと第3の温度センサー25a~25cとの温度差と各冷水コイル14a~14cの冷水量とから次式(1)により算出した加重平均温度差を往還送水温度差の測定値Mとし、この測定値Mと往還送水温度差の設定値Sとの偏差を求めることにより、冷凍機11の送水温度を可変に制御しても良い。
加重平均温度差=Σ(Δti×Qi)÷ΣQi (1)
ここで、Qi:水量、Δti:温度差
【0041】
或いは、制御装置30は、各空調機器12a~12cの冷水コイル14a~14cの出入口側部分に設けられた第2の温度センサー24a~24cと第3の温度センサー25a~25cとの温度差と各制御弁22a~22cの開度とから次式(2)により算出した加重平均温度差を往還送水温度差の測定値Mとし、この測定値Mと往還送水温度差の設定値Sとの偏差を求めることにより、冷凍機11の送水温度を可変に制御しても良い。
加重平均温度差=Σ(Δti×Vi)÷ΣVi (2)
ここで、Vi:制御弁開度
【0042】
図8に示したように制御対象の建物全体で負荷形態が似通っていれば、上記した方法で問題なく制御することができるが、例えば、図9に示されている空調機器12cのように、極端に負荷の偏差が大きい系統が発生した場合には、同一系統内の全ての空調機器で決定された送水温度では負荷処理が不能に陥ることもあり得る。
【0043】
例えば、往還送水温度差の設定値Sが6℃であるのに対して測定値Mが3℃以下と極端に小さかったり、或いは、制御弁22cの開度が例えば95%以上と全開に近く、給気出口温度や室温が制御設定値を満たしていなかったりすることを、制御装置30が検知した場合には、送水温度を1℃ずつ下げるなどして補正を行っても良い。
【0044】
また、空調環境品質の側面から送水温度を高くすると除湿能力が低下して、室内湿度が上昇した場合には、室内の湿度測定値から送水温度を変更して室内環境の悪化を抑制しても良い。
【0045】
次に、図1図8図9、及び図10のフローチャートを参照しつつ、本発明の実施の形態に係る空調用熱源制御システム10の第1の制御方法について詳細に説明する。
【0046】
まず、制御装置30は、ステップ11(S11)に示すように、各空調機器12a~12cに対する送水温度、還水温度、流量(冷水量)、制御弁開度の情報に基づき、上式(1)又は(2)により加重平均温度差を算出する。
【0047】
次のステップ12(S12)において、制御装置30は、制御対象の室内で計測された露点温度が所定温度(例えば、18DP℃)未満か否かを判断する。その結果、制御装置30は、室内露点温度が所定温度(例えば、18DP℃)未満であると判断した場合(Yesの場合)には、ステップ13(S13)に進み、各制御弁22a~22cの開度情報に基づき、100%の開度の制御弁22a~22cが存在しないか否かを判断する。その結果、制御装置30は、100%の開度の制御弁22a~22cが存在しないと判断した場合(Yesの場合)には、ステップ14(S14)に進む。
【0048】
一方、制御装置30は、上記ステップ12(S12)において室内露点温度が所定温度(例えば、18DP℃)未満でないと判断した場合(Noの場合)と、上記ステップ13(S13)において100%の開度の制御弁22a~22cが存在すると判断した場合(Noの場合)には、ステップ17(S17)に進み、冷凍機11の送水温度を所定温度(t℃)下げた後、制御を終了する。
【0049】
ステップ14(S14)では、制御装置30は、上記ステップ11(S11)において算出した加重平均往還送水温度差の測定値Mから往還送水温度差の設定値Sを引いた偏差が1℃を超えるかどうかを判断する。その結果、制御装置30は、加重平均往還送水温度差の測定値Mから往還送水温度差の設定値Sを引いた偏差が1℃を超える場合(Yesの場合)には、ステップ15(S15)に進み、冷凍機11の送水温度を所定温度(t℃)上げた後、制御を終了する。
【0050】
一方、制御装置30は、上記ステップ14(S14)において加重平均温度差の測定値Mから往還送水温度差の設定値Sを引いた偏差が1℃を超えていない場合(Noの場合)には、ステップ16(S16)に進む。
【0051】
ステップ16(S16)では、制御装置30は、上記ステップ11(S11)において算出した加重平均温度差の測定値Mから往還送水温度差の設定値Sを引いた偏差が1℃未満かどうかを判断する。その結果、制御装置30は、加重平均温度差の測定値Mから往還送水温度差の設定値Sを引いた偏差が1℃未満であると判断した場合(Yesの場合)には、ステップ17(S17)に進み、送水温度を所定温度(t℃)下げた後、制御を終了する。
【0052】
一方、制御装置30は、上記ステップ16(S16)において加重平均温度差の測定値Mから往還送水温度差の設定値Sを引いた偏差が1℃未満でないと判断した場合(Noの場合)には、制御を終了する。
【0053】
なお、上記ステップ15(S15)及び上記ステップ17(S17)における送水温度の変化量である所定温度(t℃)は、固定値としても良いし、偏差量に比例させた値としても良い。
【0054】
[空調用熱源制御システムの第2の制御方法]
次に、図1図8図9、及び図11図16を参照しつつ、本発明の実施の形態に係る空調用熱源制御システム10の第2の制御方法について説明する。
【0055】
本発明の実施の形態に係る空調用熱源制御システム10は、第2の制御方法として、制御装置30が、空調機器12の往還送水温度差の設定値Sと第2の温度センサー24及び第3の温度センサー25から算出した測定値Mとの偏差に基づき、循環ポンプ20,21の送水圧力を可変に制御する。
【0056】
すなわち、冷凍機11の送水温度を過度に上昇させると送水量が過剰になり、エネルギー消費量が増大するため、循環ポンプの送水圧力を往還送水温度差で調整することにより、往還送水温度差を一定値に保つ送水量に調整して過流量となることを抑制することが第2の制御方法の特徴である。
【0057】
この場合、制御装置30は、制御弁22a~22cの開度情報に基づき、冷凍機11の送水温度を可変に制御する。例えば、制御装置30は、制御弁22a~22cの開度情報から、制御弁22a~22cの少なくとも1つが不足な状態(開度95%以上)であると判断した場合には送水温度を1℃下げ、すべての制御弁22a~22cが過剰な状態(開度80%以下)である判断した場合には送水温度を1℃上げ、各制御弁22a~22cに適正な状態(開度80~95%)と過剰な状態とが混在していると判断した場合には送水温度を維持するように制御する。このように制御することにより、送水温度上昇による能力不足を回避するとともに、送水温度をできるだけ高く、かつ制御弁を全開に近い状態に維持することができる。
【0058】
第2の制御方法では、循環ポンプ21の前後の圧力を計測し、空調機器12a~12cの制御弁22a~22cの開閉により上昇又は下降する循環ポンプ21の前後の圧力を一定値に保つように循環ポンプ21のモータの回転数を制御することで省エネルギー化を図っており、この圧力の設定値を可変に制御すれば送水量の増量又は減少が可能である。
【0059】
例えば、往還送水温度差が設定値より小さい時は送水圧力を下げると、送水量が減少して空調機器12a~12cの放熱量が減少するため、制御弁22a~22cは開方向になる。そして、制御弁22a~22cが全開状態でも空調機器12a~12cの放熱量の能力不足になった場合には、制御装置30は、上記したように制御弁22a~22cの開度情報に基づき、送水温度を下げるように制御する。
【0060】
このように往還送水温度差が目標値になるまで相互制御を場合によっては繰り返しを行うことで、結果的に設定往還送水温度差に収束し、最適な送水温度に制御することができ、送水温度と送水圧力を同時に制御することができる。
【0061】
なお、図8図9に示すように、1系統の冷凍機11に対して複数の空調機器12a,12b,12cが設置される場合の往還送水温度差は、上記した第1の制御方法と同様に、冷凍機11廻りの冷水配管に設けた温度センサー23,27や加重平均温度差によって求めることができる。
【0062】
次に、図1図8図9、及び図11図12のフローチャートを参照しつつ、本発明の実施の形態に係る空調用熱源制御システム10の第2の制御方法について詳細に説明する。
【0063】
まず、送水温度制御に関して、図11のステップ21(S21)に示すように、制御装置30は、制御対象の室内で計測された露点温度が所定温度(例えば、18DP℃)未満か否かを判断する。その結果、制御装置30は、室内露点温度が所定温度(例えば、18DP℃)未満であると判断した場合(Yesの場合)には、次のステップ22(S22)に進む。
【0064】
一方、制御装置30は、上記ステップ21(S21)において制御対象の室内で計測された露点温度が所定温度(例えば、18DP℃)未満でないと判断した場合(Noの場合)には、ステップ25(S25)に進み、冷凍機11の送水温度を1℃上げて、制御を終了する。
【0065】
次のステップ22(S22)では、制御装置30は、各制御弁22a~22cの開度情報に基づき、制御弁22a~22cの総合状態を判断する。具体的には、制御装置30は、制御弁22a~22cの少なくとも1つが「不足な状態1」(例えば、開度95%以上)であるか、或いは、各制御弁22a~22cが「適正な状態2」(例えば、開度80~95%)であるか、或いは、すべての制御弁22a~22cが「過剰な状態3」(例えば、開度80%以下)であるかどうかを判断する。
【0066】
その結果、制御装置30は、制御弁22a~22cの少なくとも1つの総合状態が、「不足な状態1」であると判断した場合(Yesの場合)には、次のステップ23(S23)に進み、冷凍機11の送水温度を1℃下げる。
【0067】
一方、制御装置30は、ステップ22(S22)においてすべての制御弁22a~22cの総合状態が「不足な状態1」でないと判断した場合(NOの場合)には、ステップ24(S24)に進む。
【0068】
ステップ24(S24)では、制御装置30は、すべての制御弁22a~22cが「過剰な状態3」(例えば、開度80%以下)であるかどうかを判断する。その結果、制御装置30は、すべての制御弁22a~22cの総合状態が「過剰な状態3」であると判断した場合(Yesの場合)には、ステップ25(S25)に進み、冷凍機11の送水温度を1℃上げる。
【0069】
一方、制御装置30は、ステップ24(S24)においていずれかの制御弁22a~22cの総合状態が「過剰な状態3」でないと判断した場合(NOの場合)には、制御を終了する。
【0070】
次に、ポンプ圧力制御に関して、図12のステップ31(S31)に示すように、制御装置30は、各空調機器12a~12cに対する送水温度や還水温度の測定値に基づき、上式(1)又は(2)により加重平均往還送水温度差を算出する。
【0071】
次のステップ32(S32)において、制御装置30は、往還送水温度差の設定値Sから上記ステップ31(S31)において算出した加重平均往還送水温度差の測定値Mを引いた偏差が1℃を超えるかどうかを判断する。その結果、制御装置30は、往還送水温度差の設定値Sから加重平均往還送水温度差の設定値Mを引いた偏差が1℃を超える場合(Yesの場合)には、ステップ33(S33)に進み、圧力設定値を10kPa下げた後、制御を終了する。
【0072】
一方、制御装置30は、上記ステップ32(S32)において往還送水温度差の設定値Sから往還送水温度差の測定値Mを引いた偏差が1℃を超えない場合(Noの場合)には、ステップ34(S34)に進む。
【0073】
ステップ34(S34)では、制御装置30は、往還送水温度差の設定値Sから上記ステップ31(S31)において算出した加重平均往還送水温度差の測定値Mを引いた偏差が1℃未満かどうかを判断する。その結果、制御装置30は、加重平均温度差の設定値Sから往還送水温度差の測定値Mを引いた偏差が1℃未満であると判断した場合(Yesの場合)には、ステップ35(S35)に進み、圧力所定値を10kPa上げた後、制御を終了する。
【0074】
一方、制御装置30は、上記ステップ34(S34)において加重平均温度差の設定値Sから往還送水温度差の測定値Mを引いた偏差が1℃未満でないと判断した場合(Noの場合)には、制御を終了する。
【0075】
なお、上記ステップ33(S33)及び上記ステップ35(S35)における圧力設定値の変化量である圧力所定値(10kPa)は、固定値としても良いし、偏差量に比例させた値としても良い。
[空調用熱源制御システムの応用例]
【0076】
次に、本発明の実施の形態に係る空調用熱源制御システム10の応用例として、図13図16を参照しつつ、フリークーリング設備を併用した空調用熱源制御システム50について説明する。
【0077】
図13に示すように、この空調用熱源制御システム50は、放射パネル51や顕熱空調機52などの比較的高い温度帯の冷水を熱媒とするシステムにおいて、冷却塔53を熱源11と直列に配置し、冷水の還水をこの冷却塔53で冷却した後、下流側の熱源11で所定の温度に冷却するシステムである。
【0078】
このように、外気条件等によって飛躍的に効率が高い冷却システムを併用できる空調用熱源制御システム50では、往還送水温度差を敢えて小さく設定することで、フリークーリング設備のような高効率熱源の活用を促進させることもできる。
【0079】
図14に示すように、往還送水温度差を通常の空調用熱源制御システム10の利用時の往還送水温度差の1/2程度に小さくすると、往還送水温度レンジは高温側に移行する。この場合、通常の往還送水温度差の時の往還送水温度レンジではフリークーリング設備の運転が不可能な湿球温度条件でも、往還送水温度レンジが高い温度に推移することでフリークーリング設備の運転が可能となる。フリークーリング設備運転時の冷却効率は、冷凍機11の冷却効率に比べて数倍~数十倍向上するため、搬送動力の増大分を十分に吸収することができる。このように往還送水温度差を条件によって可変にすることで、高効率の冷却システムの運転期間を拡大することができ、省エネルギー効果を向上させることが可能となる。
【0080】
フリークーリング設備を併用した空調用熱源制御システム50の場合、外気湿球温度や空調機器の負荷率により、該システム50の効率(システムCOP)は大きく変化する。そのため、図15(a)、(b)に示すように、空調機器の負荷率毎や外気湿球温度毎に、より最適な往還送水温度差(線形)を求め、該負荷率と外気湿球温度により最適往還送水温度差の設定値を可変制御することが好ましい。これにより、図16(a)、(b)に示すように、効率(システムCOP)を向上させることができ、省エネルギー効果をさらに高めることが可能となる。
【0081】
[本発明の実施の形態に係る空調用熱源制御システムの効果]
上記したように本発明に係る空調用熱源制御システム10,50は、一般的な空調システムで設置される温度センサーや汎用コントローラ等の通常の制御機器を使用して往還送水温度差による送水温度の可変制御を行うことができ、多数の計測機器や演算装置の導入、及び事前の詳細設計やソフト開発も不要であるため、費用対効果が高く、汎用性も向上させることができる。
【0082】
また、制御弁の開度情報で送水温度を可変に制御すると共に、往還送水温度差で送水圧力を可変に制御することで、送水温度(VWT)と流量(VWV)の双方を同時且つ最適に制御することができるため、省エネルギー効果を最大限に高めることが可能となる。
【0083】
なお、上記した本発明の実施の形態の説明は、本発明に係る空調用熱源制御システムにおける好適な実施の形態について説明しているため、技術的に好ましい種々の限定を付している場合もあるが、本発明の技術範囲は、特に本発明を限定する記載がない限り、これらの態様に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0084】
10 空調用熱源制御システム
11 冷凍機(熱源機器)
12 空調機器
20 一次循環ポンプ
21 二次循環ポンプ
30 制御装置
50 空調用熱源制御システム
53 冷却塔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
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図16