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特許7451070ヒトミクロビオームおよびその成分の分析のための無細胞核酸
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】ヒトミクロビオームおよびその成分の分析のための無細胞核酸
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/689 20180101AFI20240311BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20240311BHJP
   C12Q 1/6888 20180101ALI20240311BHJP
   C12Q 1/6895 20180101ALI20240311BHJP
   G06F 30/00 20200101ALI20240311BHJP
【FI】
C12Q1/689 Z
C12Q1/6869 Z
C12Q1/6888 Z
C12Q1/6895 Z
G06F30/00
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2016528200
(86)(22)【出願日】2014-11-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2017-01-05
(86)【国際出願番号】 US2014064669
(87)【国際公開番号】W WO2015070086
(87)【国際公開日】2015-05-14
【審査請求日】2017-11-06
【審判番号】
【審判請求日】2020-12-03
(31)【優先権主張番号】61/901,114
(32)【優先日】2013-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/901,857
(32)【優先日】2013-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503115205
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100203035
【弁理士】
【氏名又は名称】五味渕 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【弁理士】
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】ド・ヴラマンク,イウェイン
(72)【発明者】
【氏名】ケルテス,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】クシュ,キラン・ケー
(72)【発明者】
【氏名】コワルスキー,マーク・アレック
(72)【発明者】
【氏名】マーティン,ランス
(72)【発明者】
【氏名】クエイク,スティーヴン・アール
(72)【発明者】
【氏名】バランタイン,ハンナ
【合議体】
【審判長】福井 悟
【審判官】鶴 剛史
【審判官】高堀 栄二
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-511269(JP,A)
【文献】特表2013-509883(JP,A)
【文献】国際公開第2013/156627(WO,A1)
【文献】Clinical Microbiology and Infection,2011年10月 5日,Vol. 18,pp.1126-1133
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N15/00-15/90
C12Q1/00-3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
BIOSIS/CAPLUS/MEDLINE/EMBASE/WPIDS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一の非微生物宿主からの無細胞核酸を含むサンプル中の、少なくとも一つの細菌、真菌または寄生生物を検出する方法であって、
(i)前記少なくとも一つの細菌、真菌または寄生生物の微生物無細胞核酸含む前記サンプルであって、前記少なくとも一つの細菌、真菌または寄生生物微生物無細胞核酸は、前記単一の非微生物宿主の血漿、血清、滑液、脳脊髄液から得られた微生物無細胞核酸であるサンプルを準備することであって、ここで、前記血漿、血清、滑液、脳脊髄液は実質的に細胞を含まないこと;
(ii)前記試料中の無細胞核酸を、ユニバーサルプライマーを用いた不偏性増幅により処理して増幅した無細胞核酸を生成すること;
(iii)前記増幅された無細胞核酸のハイスループット配列決定を行い、(a)前記微生物無細胞核酸配列リード(Sequence reads)、および(b)100bp未満のリード長を含む配列リードを生成すること、並びに
(iv)ヒト配列を差し引いて微生物無細胞核酸を微生物参照配列に割り当てて、前記サンプル中の、前記少なくとも一つの細菌、真菌または寄生生物を、種または株レベルで検出し、これにより、前記単一の非微生物宿主からの細菌、真菌または寄生生物核酸を少なくとも1つ検出すること
を含む方法。
【請求項2】
複数の細菌、真菌または寄生生物を検出する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記試料中の無細胞核酸を、ユニバーサルプライマーを用いた不偏性増幅により処理することが、ユニバーサルプライマーを用いたPCRによって行われる、請求項1記載の方法。
【請求項4】
少なくとも10個の配列リードを行う、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記微生物無細胞核酸からの配列リードについて、バイオインフォマティクス分析を行うことを更に含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記工程(iii)で検出される前記少なくとも一つの細菌、真菌または寄生生物が病原性である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
2以上の時点で前記検出を行う、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも一つの細菌、真菌または寄生生物の量が感染状態または治療結果の指標となる、請求項1記載の方法。
【請求項9】
所定閾値を超える前記少なくとも一つの細菌、真菌または寄生生物の量が感染状態または治療結果の指標となる、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記微生物無細胞核酸が、一本鎖RNA、二本鎖RNAおよびRNAヘアピンからなる群から選択される、少なくとも一つの核酸を含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記微生物無細胞核酸が、二本鎖DNA、一本鎖DNAからなる群から選択される、少なくとも一つの核酸を含む、請求項1記載の方法。
【請求項12】
少なくとも1000個の配列リードを行う、請求項1記載の方法。
【請求項13】
前記不偏性増幅が、前記無細胞核酸にアダプターを連結し、前記アダプターに特異的なプライマーで増幅を行うことを含む、請求項3記載の方法。
【請求項14】
前記真菌が検出される、請求項1記載の方法。
【請求項15】
前記細菌が検出される、請求項1記載の方法。
【請求項16】
前記無細胞核酸が、少なくとも5個の異なる標的核酸を含む、請求項1記載の方法。
【請求項17】
前記無細胞核酸が、少なくとも20個の異なる標的核酸を含む、請求項1記載の方法。
【請求項18】
前記感染状態が、感染の存在または非存在である、請求項8記載の方法。
【請求項19】
前記少なくとも一つの細菌、真菌または寄生生物の量が、前記感染状態を示し、前記感染状態が、前記細菌、真菌または寄生生物の潜伏または活発な感染である、請求項8記載の方法。
【請求項20】
前記バイオインフォマティクス分析の実行が、前記バイオインフォマティクス分析において用いられるデータベースから、宿主参照配列を差し引くことを含む、請求項5記載の方法。
【請求項21】
前記寄生生物が検出される、請求項1記載の方法。
【請求項22】
前記少なくとも一つの細菌を、種または株レベルで同定することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記少なくとも一つの真菌を、種または株レベルで同定することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記少なくとも一つの寄生生物を、種または株レベルで同定することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記工程(ii)の前に、前記微生物無細胞核酸にアダプターを付加し、アダプター付加微生物無細胞核酸を作り出すことを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
第2のサンプルが、異なる時点で前記非微生物宿主から採取され、分析される、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヒトミクロビオームおよびその成分の分析のための無細胞核酸に関する。
【0002】
政府の権利
本発明は、米国国立衛生研究所(National Institutes of Health)により授与された助成第RC4AI092673号に基づく米国政府の援助によりなされた。米国政府は本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
ヒト・ミクロビオーム(microbiome)は現在、ヒトの健康の重要な構成要素として認識されている。コミュニティレベルの分析は、年齢、食事、地理的位置、抗生物質治療および疾患のような、ミクロビオームの細菌およびウイルス成分の構造を形成する要因を明らかにしている。例えば、個々のミクロビオームは病原性生物の感染により改変されることがあり、その結果、その微生物の保有率の増加が全身的に又は望ましくない組織において見られうる。ミクロビオームは個体の免疫能の変化によっても改変されうる。
【0004】
種々の目的のために、個々のミクロビオームにおける特異的ミクロビオーム成分、例えば片利共生、相利共生、寄生性、日和見性および病原性生物の存在および保有率の迅速な特定ならびに全体的なミクロビオーム構造の分析のための方法を得ることが望ましいであろう。本発明は、臨床サンプルにおいてミクロビオーム組成物をモニタリングするための高感度で迅速で非侵襲的な方法を提供する。
【発明の概要】
【0005】
発明の概括
本発明は個体におけるミクロビオームまたはその個々の成分の分析のための方法、装置、組成物およびキットを提供する。該方法は、感染の判定において、ミクロビオーム構造の分析において、個体の免疫能の決定などにおいて有用である。幾つかの実施形態においては、本発明は、(i)個体からの無細胞核酸、すなわちDNAおよび/またはRNAのサンプルを準備し、(ii)ハイスループット配列決定、例えば、約10~約10個またはそれ以上のリード(read;読取り)を行い、(iii)バイオインフォマティクス分析を行って、該分析から宿主配列(すなわち、ヒト、ネコ、イヌなど)を差し引き、(iv)例えば、微生物参照配列に位置づけられる(マッピングされる)配列の被覆率(coverage)を宿主参照配列の被覆率と比較することにより、微生物配列の存在および保有を決定する工程を含む、個体における微生物の存在および保有率を決定するための方法を提供する。
【0006】
宿主配列の差し引き(サブトラクション;subtraction)は、参照宿主配列を特定し、参照宿主ゲノム内に存在する微生物配列または微生物擬態配列をマスクする工程を含みうる。同様に、微生物参照配列との比較による微生物配列の存在の決定は、参照微生物配列を特定し、参照微生物ゲノム内に存在する宿主配列または宿主擬態配列をマスクする工程を含みうる。
【0007】
本発明の特徴は個体からの無細胞核酸の不偏性分析である。本発明の方法は、一般に、例えば、汎用(ユニバーサル)プライマーでPCRを行うことによる、または該核酸にアダプターを連結し、該アダプターに特異的なプライマーで増幅することによる不偏性増幅工程を含む。本発明の方法は、典型的には、微生物配列の配列特異的増幅の非存在下で行われる。このアプローチの利点は、全ての入手可能なミクロビオーム配列を分析が含むことであるが、それは、宿主配列が優勢である複雑なデータセットにおいて関心配列を特定するためにバイオインフォマティクス分析を要する。
【0008】
本発明のもう1つの利点は、個々のミクロビオームの迅速な評価を提供しうることである。例えば、分析は、約3日未満、約2日未満、1日未満、例えば約24時間未満、約20時間未満、約18時間未満、約14時間未満、約12時間未満、約6時間未満、約2時間未満、約30分未満、約15分未満、約1分未満のうちに完了しうる。
【0009】
幾つかの実施形態においては、無細胞核酸の分析は、病原性スコアを計算するために用いられ、ここで、病原性スコアは、例えば開業医による解釈をし易くするために該生物の全体的な病原性を要約した数値またはアルファベット値である。ミクロビオームに存在する微生物には、微生物によって異なるスコアが割り当てられうる。
【0010】
微生物配列の存在および保有率の分析は、抗微生物治療、例えば抗生物質、抗ウイルス剤、免疫化、受動免疫療法などを含む治療、食事、免疫抑制などに対する応答、臨床試験における応答、感染などを決定するために用いられうる。該分析から得られた情報は、状態を診断するために、治療をモニタリングするために、治療レジメンを選択または修飾するために、そして治療を最適化するために用いられうる。このアプローチにより、治療経過にわたる種々の時点で得られた特異性データに従い治療および/または診断レジメンが個別化および適合化されることが可能となり、それにより、個別に適合したレジメンを得ることが可能となる。また、分析のために、患者サンプルは治療過程中、病原体に対する曝露の後、感染の経過中などの任意の時点で得られうる。微生物配列の存在および保有率の分析は報告として提供されうる。該報告は個人、医療専門家などに提供されうる。
【0011】
幾つかの実施形態においては、無細胞核酸は、血液、血清、脳脊髄液、滑液、尿および糞便からなる群から選択される生物学的サンプルから得られる。該核酸は該サンプルの無細胞部分から抽出され、例えば、血液の血清または血漿部分が使用されうる。幾つかの実施形態においては、該核酸は、二本鎖DNA、一本鎖DNA、一本鎖DNAヘアピン、DNA/RNAハイブリッド、一本鎖RNA、二本鎖RNAおよびRNAヘアピンからなる群から選択される。幾つかの実施形態においては、該核酸は、二本鎖DNA、一本鎖DNAおよびcDNAからなる群から選択される。幾つかの実施形態においては、該核酸はmRNAである。幾つかの実施形態においては、該核酸は循環性無細胞DNAである。
【0012】
幾つかの実施形態においては、該方法は、サンプルにおける微生物の保有率を決定するために1以上の核酸を定量することを含む。幾つかの実施形態においては、所定閾値を超える1以上の核酸の量は感染または保有率変化の指標となる。幾つかの実施形態においては、微生物によって異なる所定閾値が存在する。幾つかの実施形態においては、1以上の核酸の量における一時的な相違は感染における変化、保有率変化、治療応答などの指標となる。
【0013】
幾つかの実施形態においては、本発明はコンピュータ可読媒体を提供し、これは、(i)被験者からの無細胞核酸のサンプルにおいて検出された1以上の核酸からのハイスループット配列決定データを受け取り、(ii)バイオインフォマティクス分析を行って、分析から宿主配列(すなわち、ヒト、ネコ、イヌなど)を差し引き、(iii)例えば、微生物参照配列に位置づけられる配列の被覆率を宿主参照配列の被覆率と比較することにより、微生物配列の存在および保有率を決定する工程をコンピュータが実行するように該コンピュータ可読媒体に記録された一組の命令を含む。
【0014】
幾つかの実施形態においては、本発明は、本明細書に記載されている方法の1以上を実施するための試薬およびそのキットを提供する。
【0015】
幾つかの実施形態においては、ミクロビオームの分析、例えばウイローム(virome;生体内ウイルス集団)の分析により、個体、特に個々のヒトの免疫能の評価のための組成物および方法を提供する。本発明の幾つかの実施形態においては、免疫抑制レジメン、例えば薬物、放射線療法などで個体を治療する。幾つかの実施形態においては、個体は、免疫抑制レジメンで治療される移植レシピエントである。幾つかの実施形態においては、個体は、自己免疫レジメンで治療される自己免疫疾患を有する。他の実施形態においては、免疫抑制レジメンの非存在下で免疫能に関して個体を評価する。
【0016】
幾つかの実施形態においては、個体からの測定を2以上の時点で行い、ここで、ウイルス負荷の変化が免疫能の変化の指標となる。個体は免疫能の評価に従って治療可能であり、例えば、この場合、移植患者における望ましくない増強した免疫能の適応症は、増加したレベルの免疫抑制剤で治療され、あるいは免疫能の望ましくない低下は治療剤、例えば抗ウイルス剤などで治療される。
【0017】
患者から収集したサンプルにおける非ヒト無細胞核酸を特定し定量するために、核酸分析を用いる。ミクロビオームの成分の構成は前記のとおりに行われる。ミクロビオームのウイルス成分(ウイローム)の構造は免疫能の予測を可能にする。幾つかの実施形態においては、該方法は更に、免疫抑制レジメンの前、免疫抑制レジメンの開始時または免疫抑制レジメンの経過中にウイロームプロファイルを確立することを含み、これは個々のウイロームにおける変化の基準として用いられる。幾つかの実施形態においては、循環性無細胞DNAはアネロウイルス(annellovirus)DNAである。
【0018】
特に、アネロウイルス科のウイルスの負荷は免疫強度の予測因子であり、これは臓器移植拒絶の確率と相関する。他のウイルスも予測可能であるが、患者は、そのようなウイルスの負荷に影響を及ぼす抗ウイルス剤で治療されるのが一般的である。
【0019】
幾つかの実施形態においては、本発明は、(i)ドナーから移植を受けた被験者からのサンプルを準備し、(ii)1以上のウイローム核酸の存在または非存在を決定し、(iii)ウイローム負荷に基づいて移植状態または結果を診断または予測する工程を含む、移植状態または結果を診断または予測する方法を提供する。幾つかの実施形態においては、移植状態または結果は拒絶、寛容、非拒絶に基づく同種移植損傷、移植片機能、移植片生存、慢性移植損傷またはタイター(titer)薬理学的免疫抑制を含む。幾つかの実施形態においては、所定閾値を超える1以上の核酸の量はウイルス負荷および免疫能の指標となる。幾つかの実施形態においては、該閾値は、移植拒絶または他の病状の証拠を示さない臨床的に安定な移植後患者に関する規範値である。幾つかの実施形態においては、移植の結果または状態によって異なる所定閾値が存在する。幾つかの実施形態においては、1以上の核酸の量の一時的相違は免疫能の指標となる。
【0020】
本明細書に記載されている実施形態のいずれにおいても、移植片は任意の実質臓器、骨髄または皮膚移植片でありうる。幾つかの実施形態において、移植は、腎臓移植、心臓移植、肝臓移植、膵臓移植、肺移植、腸移植および皮膚移植からなる群から選択される。
【0021】
幾つかの実施形態においては、本発明は、本明細書に記載されている方法の1以上を実施するための試薬およびそのキットを提供する。
【0022】
本明細書に挙げられている全ての刊行物および特許出願を、各個の刊行物または特許出願が参照により本明細書に組み入れられると具体的かつ個別に示されている場合と同様に、参照により本明細書に組み入れることとする。
【0023】
本発明の新規特徴は添付の特許請求の範囲に詳細に記載されている。本発明の特徴および利点の更なる理解は、本発明の原理が用いられている例示的な実施形態を記載している以下の詳細な説明および後記の添付図面を参照することにより得られるであろう。
【0024】
発明の詳細な説明
以下、本発明の特に好ましい実施形態を詳細に記載する。好ましい実施形態の具体例は後記の実施例の節において例示される。
【0025】
特に示されていない限り、本明細書中で用いる全ての科学技術用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されているのと同じ意味を有する。本明細書中で言及されている全ての特許および刊行物の全体を参照により本明細書に組み入れることとする。
【0026】
値の範囲が示されている場合、その範囲の上限と下限との間の、文脈に明らかに矛盾しない限り下限の単位の10分の1までの各介在値、およびその示されている範囲内の任意の他の示されている又は介在する値が本発明に含まれると理解される。これらの、より小さい範囲の、上限および下限は、独立して、より小さい範囲内に含まれることが可能であり、示されている範囲内のいずれかの特に除外される限界がありうることを前提として、同様に本発明に含まれる。示されている範囲がそれらの限界の一方または両方を含む場合、それらの含まれる限界の一方または両方を除外する範囲も本発明に含まれる。
【0027】
本明細書においては、ある範囲は、「約」なる語に続く数値で示されている。「約」なる語は、本明細書においては、それに続く厳密な数、およびその語に続く数に近い又は近似した数に対する文字上の対応を示すために用いられる。ある数が、具体的に列挙された数に近い又は近似しているかどうかを判定する場合、近い又は近似した列挙されていない数は、それが示されている文脈において、具体的に列挙されている数の実質的な等価体を示す数でありうる。
【0028】
本発明の実施は、特に示されていない限り、免疫学、生化学、化学、分子生物学、微生物学、細胞生物学、ゲノミクスおよび組換えDNAの通常の技術を用い、それらは当技術分野の技量の範囲内である。Sambrook,FritschおよびManiatis,MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL,2nd edition(1989);CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY(F.M.Ausubelら編(1987));METHODS IN ENZYMOLOGYのシリーズ(Academic Press,Inc.):PCR 2:A PRACTICAL APPROACH(M.J.MacPherson,B.D.HamesおよびG.R.Taylor編(1995))、HarlowおよびLane編(1988)ANTIBODIES,A LABORATORY MANUAL、ならびにANIMAL CELL CULTURE(R.I.Freshney編(1987))を参照されたい。
【0029】
本発明は個体におけるミクロビオームまたはその個々の成分の分析のための方法、装置、組成物およびキットを提供する。該方法は、感染の判定において、ミクロビオーム構造の分析において、個体の免疫能の決定などにおいて有用である。幾つかの実施形態においては、本発明は、患者または被験者が免疫能を示しているかどうかを決定する方法を提供する。本明細書中で用いる「個体」、「患者」または「被験者」なる語はヒトおよび他の哺乳動物を含む。
【0030】
定義
本明細書中で用いる、状態または結果の「診断」または「診断する」なる語は、状態または結果を予測または診断すること、状態または結果に対する素因を判定すること、患者の治療をモニタリングすること、患者の治療応答を診断すること、状態または結果、進行および特定の治療に対する応答の予後を含む。
【0031】
微生物叢. 本明細書中で用いる微生物叢なる語は、個体(通常は個々の哺乳動物、より通常はヒト個体)内に存在する微生物の集合を意味する。微生物叢は、病原性種;1つの組織、例えば皮膚、口腔などの常在菌叢を構成するが、他の組織、例えば血液、肺などにおいては望ましくない種;疾患の非存在下で見出される共生生物などを含みうる。ミクロビオームの部分集合の1つはウイローム(virome)であり、これはミクロビオームのウイルス成分を含む。
【0032】
本明細書中で用いる「ミクロビオーム成分」なる語は個々の株または種を意味する。該成分はウイルス成分、細菌成分、真菌成分などでありうる。
【0033】
健常動物においては、内部組織、例えば脳、筋肉などは通常は細菌種を比較的含有しないと推定されるが、表面組織、すなわち、皮膚および粘膜は環境生物と絶えず接触しており、種々の微生物種によって容易にコロニー形成される。いずれかの解剖学的部位においてヒトで見出されることが知られている又は推定される生物の混合物は常在微生物叢と称され、常在微生物叢の種々の成分が含まれる。常在微生物に加えて、病原性または日和見感染のような種々の一過性成分が存在する。後記の微生物の参照配列は例えばGenbankデータベースにおいて公に入手可能であり、公知である。
【0034】
ヒトの腸内微生物叢は、2つの細菌門内で見出される種により支配されており、バクテロイデテス(Bacteroidetes)およびフィルミクテス(Firmicutes)のメンバーが細菌集団の90%以上を構成する。幾つかの他の門のうち、アクチノバクテリア(Actinobacteria)(例えば、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属のメンバー)およびプロテオバクテリア(Proteobacteria)はそれほど優勢ではない。関心のある一般的な種はこの集団の顕著な又はそれほど豊富でないメンバーを包含し、限定的なものではないが、バクテロイデス・シータイオタオミクロン(Bacteroides thetaiotaomicron)、バクテロイデス・カッケ(Bacteroides caccae)、バクテロイデス・フラギリス(Bacteroides fragilis)、バクテロイデス・メラニノゲニクス(Bacteroides melaninogenicus)、バクテロイデス・オラリス(Bacteroides oralis)、バクテロイデス・ユニフォルミス(Bacteroides uniformis)、ラクトバシラス(Lactobacillus)、クロストリジウム・パーフリンジェンス(Clostridium perfringens)、クロストリジウム・セプチカム(Clostridium septicum)、クロストリジウム・テタニ(Clostridium tetani)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、エンテロコッカス・フェカーリス(Enterococcus faecalis)、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)、サルモネラ・エンテリティディス(Salmonella enteritidis)、クレブシエラ属種(Klebsiella sp.)、エンテロバクター属種(Enterobacter sp.)、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)、シュードモナス・エルジノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、ペプトストレプトコッカス属種(Peptostreptococcus sp.)、ペプトコッカス属種(Peptococcus sp.)、フェカリバクテリウム属種(Faecalibacterium sp,)、ロセブリア属種(Roseburia sp.)、ルミノコッカス属種(Ruminococcus sp.)、ドレア属種(Dorea sp.)、アリスチペス属種(Alistipes sp.)などを含みうる。
【0035】
皮膚ミクロビオームにおいては、ほとんどの細菌は以下の4つの異なる門に含まれる:アクチノバクテリア(Actinobacteria)、フィルミクテス(Firmicutes)、バクテロイデテス(Bacteroidetes)およびプロテオバクテリア(Proteobacteria)。皮膚生着菌と一般にみなされる微生物には、コリネ型の放線菌門(アクチノバクテリア;Actinobacteria)[コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、プロピオニバクテリウム(Propionibacterium)属、例えばプロピオニバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes)およびブレビバクテリウム(Brevibacterium)属]、ミクロコッカス(Micrococcus)属およびスタフィロコッカス属種(Staphylococcus spp.)が含まれる。最も一般的に単離される真菌種としては、マラッセジア属種(Malassezia spp.)が挙げられ、これは皮脂性領域において特に優勢である。ニキビダニ(Demodex mite)[例えば、デモデックス・フォリクロラム(Demodex folliculorum)およびデモデックス・ブレビス(Demodex brevis)]も存在しうる。皮膚上で成長すると考えられている他のタイプの真菌には、デバリオマイセス(Debaryomyces)およびクリプトコッカス属種(Cryptococcus spp.)が含まれる。非共生体としては、火傷には一般に、ストレプトコッカス・ピオゲネス(S.pyogenes)、エンテロコッカス属種(Enterococcus spp.)またはシュードモナス・エルジノーサ(Pseudomonas aeruginosa)が感染し、真菌および/またはウイルスも感染しうる。スタヒロコッカス・エピデルミディス(S.epidermidis)は非常に一般的な皮膚共生菌であるが、それはカテーテルまたは心臓弁のような留置医療装置上の院内感染の最も頻繁な原因でもある。総説としては、Nat Rev Microbiol.(2011)Apr;9(4):244-53を参照されたい。
【0036】
病原性種は細菌、ウイルス、寄生原虫、真菌種などでありうる。細菌には、ブルセラ属種(Brucella sp.)、トレポネマ属種(Treponema sp.)、マイコバクテリウム属種(Mycobacterium sp.)、リステリア属種(Listeria sp.)、レジオネラ属種(Legionella sp.)、ヘリコバクター属種(Helicobacter sp)、ストレプトコッカス属種(Streptococcus sp)、ナイセリア属種(Neisseria sp)、クロストリジウム属種(Clostridium sp)、スタフィロコッカス属種(Staphylococcus sp.)またはバシラス属種(Bacillus sp.)が含まれ、限定的なものではないが、トレポネーマ・パリダム(Treponema pallidum)、マイコバクテリウム・ツベルクローシス(Mycobacterium tuberculosis)、マイコバクテリウム・レプレ(Mycobacterium leprae)、リステリア・モノシトゲネス(Listeria monocytogenes)、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)、ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)、ネイセリア・メニンジティス(Neisseria meningitis)、クロストリジウム・ノビイ(Clostridium novyi)、クロストリジウム・ボツリナム(Clostridium botulinum)、スタヒロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、バシラス・アンスラシス(Bacillus anthracis)などが含まれる。
【0037】
病原性寄生生物には、トリコモナス(Trichomonas)、トキソプラズマ(Toxoplasma)、ジアルジア(Giardia)、クリプトスポリジウム(Cryptosporidium)、プラスモジウム(Plasmodium)、リーシュマニア(Leishmania)、トリパノソーマ(Trypanosoma)、エントアメーバ(Entamoeba)、シストソーマ(Schistosoma)、フィラリエ(Filariae)、アスカリア(Ascaria)、ファスシオラ(Fasciola)が含まれ、限定的なものではないが、トリコモナス・バジナリス(Trichomonas vaginalis)、トキソプラズマ・ゴンジ(Toxoplasma gondii)、ジアルジア・インテスチナリス(Giardia intestinalis)、クリプトスポリジウム・パルバ(Cryptosporidium parva)、プラスモジウム・ファルシパラム(Plasmodium falciparum)、トリパノソーマ・クルージ(Trypanosoma cruzi)、エントアメーバ・ヒストリチカ(Entamoeba histolytica)、ジアルジア・ランブリア(Giardia lamblia)、ファスシオラ・ヘパチカ(Fasciola hepatica)などが含まれる。
【0038】
ヒトに感染するウイルスには例えば以下のものが含まれる:アデノ随伴ウイルス、アイチウイルス、オーストラリア・コウモリ・リッサウイルス、BKポリオーマウイルス、バンナウイルス、バーマフォレストウイルス、ブニヤムウェラウイルス、ラクロスブニアウイルス(Bunyavirus La Crosse)、カンジキウサギブニアウイルス(Bunyavirus snowshoe hare)、オナガザルヘルペスウイルス、チャンディプラウイルス、チクングニアウイルス、コサウイルス(Cosavirus)A、牛痘ウイルス、コクサッキーウイルス、クリミア-コンゴ出血熱ウイルス、デング熱ウイルス、ドーリウイルス、ジュグベウイルス、デュベンヘイジウイルス、東部ウマ脳炎ウイルス、エボラウイルス、エコーウイルス、脳心筋炎ウイルス、エプスタイン-バーウイルス、ヨーロッパコウモリリッサウイルス、GBウイルスC/G型肝炎ウイルス、ハンタウイルス、ヘンドラウイルス、A型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、E型肝炎ウイルス、デルタ肝炎ウイルス、馬痘ウイルス、ヒトアデノウイルス、ヒトアストロウイルス、ヒトコロナウイルス、ヒトサイトメガロウイルス、ヒトエンテロウイルス68,70、ヒトヘルペスウイルス1、ヒトヘルペスウイルス2、ヒトヘルペスウイルス6、ヒトヘルペスウイルス7、ヒトヘルペスウイルス8、ヒト免疫不全ウイルス、ヒトパピローマウイルス1、ヒトパピローマウイルス2、ヒトパピローマウイルス16,18、ヒトパラインフルエンザ、ヒトパルボウイルスB19、ヒト呼吸器合胞体ウイルス、ヒトライノウイルス、ヒトSARSコロナウイルス、ヒトスプーマレトロウイルス、ヒトTリンパ球向性ウイルス、ヒトトロウイルス、A型インフルエンザウイルス、B型インフルエンザウイルス、C型インフルエンザウイルス、イスファハンウイルス、JCポリオーマウイルス、日本脳炎ウイルス、フニンアレナウイルス、KIポリオーマウイルス、クンジンウイルス、ラゴスコウモリウイルス、ビクトリア湖マールブルグウイルス、ランガットウイルス、ラッサウイルス、ローズデイルウイルス(Lordsdale virus)、跳躍病ウイルス、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス、マチュポウイルス、マヤロウイルス、MERSコロナウイルス、麻疹ウイルス、メンゴ脳心筋炎ウイルス、メルケル細胞ポリオーマウイルス、モコラウイルス、伝染性軟属腫ウイルス、サル痘ウイルス、ムンプスウイルス、マレー渓谷脳炎ウイルス、ニューヨークウイルス、ニパウイルス、ノーウォークウイルス、オニョンニョンウイルス、オルフウイルス、オロポーシェウイルス、ピチンデウイルス、ポリオウイルス、プンタ・トロ・フレボウイルス(Punta toro phlebovirus)、プーマラウイルス、狂犬病ウイルス、リフトバレー熱ウイルス、ロサウイルス(Rosavirus)A、ロスリバーウイルス、ロタウイルスA、ロタウイルスB、ロタウイルスC、風疹ウイルス、サギヤマウイルス(Sagiyama virus)、サリウイルス(Salivirus)A、サシチョウバエ熱シチリアウイルス、サッポロウイルス、セムリキ森林ウイルス、ソウルウイルス、サル泡沫状ウイルス、シミアンウイルス5、シンドビスウイルス、サウサンプトンウイルス、セントルイス脳炎ウイルス、ダニ媒介ポワッサンウイルス、トルク腱滑膜ウイルス、トスカーナウイルス、ウークニエミウイルス、ワクシニアウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、天然痘ウイルス、ベネズエラウマ脳炎ウイルス、水疱性口内炎ウイルス、西部ウマ脳炎ウイルス、WUポリオーマウイルス、西ナイルウイルス、ヤバサル腫瘍ウイルス、ヤバ様病ウイルス、黄熱病ウイルス、ジカウイルス。
【0039】
アネロウイルス科. アネロウイルス科は非包膜環状一本鎖DNAウイルスからなる。アネロウイルスの3つの属(TTV、TTMDVおよびTTMVと称される)がヒトに感染することが公知である。
【0040】
トルクテノウイルス(TTV)は、環状マイナスセンスゲノムを有する非包膜一本鎖DNAウイルスである。トルクテノ様ミニウイルス(Torque Teno-like Mini Virus)(TTMV)と後に命名された、より小さなウイルスも特徴づけられている。TTVおよびTTMVのゲノムサイズの中間のゲノムサイズを有する第3のウイルスが発見され、トルクテノ様ミディウイルス(Torque Teno-like Midi Virus)(TTMV)と後に命名された。命名法における最近の変化は、ヒトに感染しうるそれらの3つのアネロウイルスをアネロウイルス科ウイルスのアルファトルクウイルス(Alphatorquevirus)(TTV)、ベータトルクウイルス(Betatorquevirus)(TTMV)およびガンマトルクウイルス(Gammatorquevirus)(TTMDV)属に分類している。現在のところ、アネロウイルスは尚も、ヒト疾患に関連づけられることを待っている「オーファン」ウイルスとみなされている。
【0041】
ヒトアネロウイルスは、TTVでは3.8~3.9kb、TTMDVでは3.2kb、そしてTTMVでは2.8~2.9kbの範囲であるゲノムサイズにおいて異なっている。アネロウイルスの特徴は、アネロウイルスの種内および種間の両方で見出される極度の多様性であり、それらはヌクレオチドレベルで33%~50%もの相違を示しうる。ヌクレオチド配列の多様性にもかかわらず、アネロウイルスは、共通のビリオン構造および遺伝子機能をもたらす保存されたゲノム構成、転写プロファイル、非コード化GCリッチ領域および配列モチーフを共有している。
【0042】
アネロウイルス感染は一般集団において非常に蔓延している。日本における研究は、試験された患者の75~100%が前記の3つのヒトアネロウイルスの少なくとも1つに感染しており、多数が複数の種に感染していることを見出した。アネロウイルスは若い小児に感染することがあり、記録された最も早い感染は出生後1カ月以内に生じた。これらのウイルスは、血漿、血清、末梢血単核細胞(PBMC)、鼻咽頭吸引液、骨髄、唾液、母乳、糞便ならびに甲状腺、リンパ節、肺、肝臓、脾臓、膵臓、および腎臓を含む種々の組織を含む、試験されたほぼ全ての身体部位、体液および組織において見出されている。アネロウイルスの複製動態は、これらのウイルスが培養内で複製不能であるため、実質的に未知である。局所ウイルス複製の指標となるプラス鎖TTV DNAは肝細胞、骨髄細胞、循環PBMCにおいて記載されている。
【0043】
アネロウイルスは、母子感染および気道感染も報告されているものの、主として糞便から口への伝染により広がる。臍帯血試料におけるTTVの存在に関しては相反する報告が存在する。
【0044】
アネロウイルスの参照配列は、例えば以下のとおりに、Genbankにおいてアクセス可能である:トルクテノミニウイルス1,アクセッション:NC 014097.1;トルクテノミニウイルス6,アクセッション:NC 014095.1;トルクテノミディウイルス2,アクセッション:NC 014093.1;トルクテノミディウイルス1,アクセッション:NC 009225.1;トルクテノウイルス3,アクセッション:NC 014081.1;トルクテノウイルス19,アクセッション:NC 014078.1;トルクテノミニウイルス8,アクセッション:NC 014068.1。
【0045】
本明細書中で用いる「抗生物質」なる語は、全ての一般的に使用される静菌性および殺菌性抗生物質を含み、通常は、経口投与されるものを含む。抗生物質には以下のものが含まれる:アミノグリコシド、例えばアミカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、ストレプトマイシンおよびトブラマイシン;セファロスポリン、例えばセファマンドール、セファゾリン、セファレキシン、セファログリシン、セファロリジン、セファロチン、セファピリンおよびセフラジン;マクロライド、例えばエリスロマイシンおよびトロレアンドマイシン;ペニシリン、例えばペニシリンG、アモキシシリン、アンピシリン、カルベニシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、メチシリン、ナフシリン、オキサシリン、フェネチシリンおよびチカルシリン;ポリペプチド抗生物質、例えばバシトラシン、コリスチメタート、コリスチン、ポリミキシンB;テトラサイクリン、例えばクロルテトラサイクリン、デメクロサイクリン、ドキシサイクリン、メタサイクリン、ミノサイクリン、テトラサイクリンおよびオキシテトラサイクリン;ならびに他の雑多な抗生物質、例えばクロラムフェニコール、クリンダマイシン、サイクロセリン、リンコマイシン、リファンピン、スペクチノマイシン、バンコマイシンおよびバイオマイシン。追加的な抗生物質は“Remington’s Pharmaceutical Sciences,”16th Ed.,(Mack Pub.Co.,1980),pp.1121-1178に記載されている。
【0046】
抗ウイルス剤. 個体は抗ウイルス療法を受けうる。これは、該療法による影響を受けるウイルスのウイルス負荷を変化させる。このようにして治療されるウイルス感染症の例には以下のものが含まれる:HIV、ボーエン様丘疹症、水痘、小児HIV疾患、ヒト牛痘、C型肝炎、デング熱、エンテロウイルス、疣贅状表皮発育異常症、伝染性紅斑(第5病)、ブシュケ-レーベンシュタイン巨大尖圭コンジローム、手足口病、単純ヘルペス、ヘルペスウイルス6、帯状疱疹、カポジ水痘様発疹、麻疹、搾乳者小結節、伝染性軟属腫、サル痘、Orf、小児バラ疹、風疹、天然痘、ウイルス性出血熱、性器疣贅および非性器疣贅。
【0047】
抗ウイルス剤には以下のものが含まれる:アジドウリジン(azidouridine)、アナスマイシン(anasmycin)、アマンタジン(amantadine)、ブロモビニルデオクスシジン(bromovinyldeoxusidine)、クロロビニルデオクスシジン(chlorovinyldeoxusidine)、シタルビン(cytarbine)、ジダノシン(didanosine)、デオキシノジリマイシン(deoxynojirimycin)、ジデオキシシチジン(dideoxycitidine)、ジデオキシイノシン(dideoxyinosine)、ジデオキシヌクレオシド(dideoxynucleoside)、デスシクロビル(desciclovir)、デオキシアシクロビル(deoxyacyclovir)、エドクスイジン(edoxuidine)、エンビロキシム(enviroxime)、フィアシタビン(fiacitabine)、フォスカメット(foscamet)、フィアルリジン(fialuridine)、フルオロチミジン(fluorothymidine)、フロクスウリジン(floxuridine)、ヒペリシン(hypericin)、インターフェロン、インターロイキン、イセチオナート(isethionate)、ネビラピン(nevirapine)、ペンタミジン(pentamidine)、リバビリン(ribavirin)、リマンタジン(rimantadine)、シタビルジン(stavirdine)、サルグラモスチン(sargramostin)、スラミン(suramin)、トリコサンチン(trichosanthin)、トリブロモチミジン(tribromothymidine)、トリクロロチミジン(trichlorothymidine)、ビダラビン(vidarabine)、ジドビリジン(zidoviridine)、ザルシタビン(zalcitabine)および3-アジド-3-デオキシチミジンならびにそれらの類似体、誘導体、医薬上許容される塩、エステル、プロドラッグ、コドラッグ(codrug)および保護形態。
【0048】
本明細書中で用いる免疫抑制または免疫抑制レジメンは、自己抗原または移植片に対する宿主免疫系の免疫応答を低減する物質での、個体、例えば移植レシピエントの治療を意味する。典型的な免疫抑制レジメンはより詳細に本明細書に記載されている。
【0049】
主要免疫抑制剤には、結合タンパク質と合体してカルシニューリン活性を阻害するカルシニューリンインヒビターが含まれ、それらには、例えば、タクロリムス(tacrolimus)、シクロスポリンAなどが含まれる。シクロスポリンおよびタクロリムスの両方のレベルは注意深くモニタリングされる必要がある。最初は、レベルは10~20ng/mLの範囲に維持されることが可能であるが、3カ月後、腎毒性のリスクを低減するために、レベルはより低く(5~10ng/mL)維持されうる。
【0050】
通常、補助剤がカルシニューリンインヒビターと組合され、ステロイド、アザチオプリン(azathioprine)、ミコフェノール酸モフェチル(mycophenolate mofetil)およびシロリムス(sirolimus)を包含する。関心のあるプロトコルには、ミコフェノール酸モフェチルと組合されたカルシニューリンインヒビターが含まれる。補助剤の使用は、臨床医が適当な免疫抑制を達成する一方で、個々の物質の用量および毒性を低減することを可能にする。幾つかの臨床試験が、アザチオプリンと比較して著しく低減した、急性細胞拒絶の罹患率、および1年間の治療の失敗の減少を示した後、腎臓移植レシピエントにおけるミコフェノール酸モフェチルは免疫抑制において重要な役割を果たしている。
【0051】
抗体に基づく療法はモノクローナル(例えば、ムロモナブ(muromonab)-CD3)もしくはポリクローナル抗体または抗CD25抗体(例えば、バシリキシマブ(basiliximab)、ダクリズマブ(daclizumab))を使用することが可能であり、移植後の早い時期(8週間まで)に投与される。抗体に基づく療法はカルシニューリンインヒビターの回避または用量減少を可能にし、おそらくは腎毒性のリスクを低減する。ポリクローナルおよびモノクローナル抗体の副作用プロファイルは幾人かの患者におけるそれらの使用を制限する。
【0052】
本明細書中で用いる「核酸」なる語は、2以上のヌクレオチドを含むポリヌクレオチドを意味する。それはDNAまたはRNAでありうる。「変異体」核酸は、修飾された(例えば、それぞれ、欠失した、挿入された、または置換された)少なくとも1つのヌクレオチドを有すること以外は、その元の核酸のものと同一のヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドである。該変異体は、元の核酸のヌクレオチド配列に対して少なくとも約80%、90%、95%または99%同一であるヌクレオチド配列を有しうる。
【0053】
循環性の、すなわち無細胞のDNAは1948年に最初にヒト血漿中で検出された(Mandel,P.Metais,P.,C R Acad.Sci.Paris,142,241-243(1948))。それ以来、疾患とのその関連性が幾つかの領域において確立された(Tong,Y.K.Lo,Y.M.,Clin Chim Acta,363,187-196(2006))。研究が示すところによると、血中の循環性核酸のほとんどは壊死またはアポトーシス細胞から生じ(Giacona,M.B.ら,Pancreas,17,89-97(1998))、アポトーシスからの核酸のレベルの著しい上昇が癌のような疾患において観察される(Giacona,M.B.ら,Pancreas,17,89-97(1998);Fournie,G.J.ら,Cancer Lett,91,221-227(1995))。特に癌の場合には、循環性DNAが、癌遺伝子における突然変異、マイクロサテライト変化、そして或る癌ではウイルスゲノム配列を含む該疾患の特徴的な徴候を示し、血漿中のDNAまたはRNAが疾患に関する潜在的バイオマーカーとして益々研究されるようになっている。例えば、Diehlらは最近、全循環DNA中の低レベルの循環性腫瘍DNAに関する定量的アッセイが、臨床的に使用されている標準的なバイオマーカーである癌胎児性抗原と比較して、結腸直腸癌の再発を検出するためのより良好なマーカーとして働きうることを示した(Diehl,F.ら,Proc Natl Acad Sci,102,16368-16373(2005);Diehl,F.ら,Nat Med,14,985-990(2008))。Maheswaranらは、薬物治療に影響を及ぼす肺癌患者における上皮増殖因子受容体における活性化突然変異を検出するために血漿中の循環性細胞の遺伝子型決定を利用することを報告した(Maheswaran,S.ら,N Engl J Med,359,366-377(2008))。これらの結果は総合的に、癌の検出および治療における有用な種としての、血漿中の遊離状態の循環性DNAを確立している。循環性DNAは胎児診断のために健常患者においても有用であり、この場合、母体血液中を循環する胎児DNAが性別、Rh(rhesus)D状態、胎児異数性および伴性遺伝障害に関するマーカーとして働く。Fanらは最近、母体血液サンプルから採取された無細胞DNAのショットガン配列決定により胎児異数性を検出するための方法を示した。この方法は、より侵襲的で危険な技術、例えば羊水穿刺または絨毛サンプリングに取って代わりうるものである(Fan,H.C.,Blumenfeld,Y.J.,Chitkara,U.,Hudgins,L.,Quake,S.R.,Proc Natl Acad Sci,105,16266-16271(2008))。
【0054】
本明細書中で用いる「由来する(誘導された)」なる語は起源または源に関するものであり、天然に存在する分子、組換え分子、未精製分子または精製分子を含みうる。元の核酸に由来する核酸は、部分的または全体的に、元の核酸を含むことが可能であり、元の核酸の断片または変異体でありうる。生物学的サンプルに由来する核酸はそのサンプルから精製されうる。
【0055】
本発明の方法における「標的核酸」は、検出されるべき核酸、DNAまたはRNAである。生物に由来する標的核酸は、該生物の配列に由来する配列を有する、該生物に特異的なポリヌクレオチドである。病原体に由来する標的核酸は、その特異的病原体に由来するポリヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドを意味する。
【0056】
幾つかの実施形態においては、1pg、5pg、10pg、20pg、30pg、40pg、50pg、100pg、200pg、500pg、1ng、5ng、10ng、20ng、30ng、40ng、50ng、100ng、200ng、500ng、1μg、5μg、10μg、20μg、30μg、40μg、50μg、100μg、200μg、500μgまたは1mg未満の核酸を分析用サンプルから得る。幾つかの実施形態においては、約1~5pg、5~10pg、10~100pg、100pg~1ng、1~5ng、5~10ng、10~100ng、100ng~1μgの核酸を分析用サンプルから得る。
【0057】
幾つかの実施形態においては、本明細書に記載されている方法は、関心のある微生物に対応する又は生物のミクロビオームに対応する核酸配列を検出および/または定量するために使用される。本明細書に記載されている方法は少なくとも1、2、3、4、5、10、20、50、100、200、500、1,000、2,000、5,000、10,000、20,000、50,000、100,000、200,000、300,000、400,000、500,000、600,000、700,000、800,000、900,000、10、5×10、10、5×10、10、5×10、10個またはそれを超える配列リード(sequence read)を分析しうる。
【0058】
幾つかの実施形態においては、本明細書に記載されている方法は、例えば、微生物からのmRNAの存在を、その微生物からのDNAに関して決定することにより、遺伝子発現を検出および/または定量するために使用される。幾つかの実施形態においては、本明細書に記載されている方法は複数の遺伝子の高度に識別可能な定量分析を提供する。本明細書に記載されている方法は、少なくとも1、2、3、4、5、10、20、50、100、200、500、1,000、2,000、5,000、10,000、20,000、50,000、100,000個またはそれを超える異なる標的核酸の発現を識別し、定量しうる。
【0059】
無細胞核酸を含有するサンプルは被験者から得られる。そのような被験者はヒト、家畜、例えばウシ、ニワトリ、ブタ、ウマ、ウサギ、イヌ、ネコ、ヤギなどでありうる。幾つかの実施形態においては、本発明において使用される細胞は患者から採取される。サンプルには、例えば、全血、汗、涙、唾液、耳流動物、喀痰、リンパ液、骨髄懸濁液、リンパ液、尿、唾液、精液、膣流動物、脳脊髄液、脳液、腹水、乳、気道、腸管または尿生殖器管の分泌物、組織または器官(例えば、肺)の洗浄液、あるいは乳房、肺、腸、皮膚、子宮頸部、前立腺、膵臓、心臓、肝臓および胃のような器官から摘出された組織の無細胞画分が含まれる。そのようなサンプルは、遠心分離、水簸、密度勾配分離、アフェレーシス、アフィニティ選択、パンニング、FACS、ハイパック(Hypaque)での遠心分離などにより分離されうる。サンプルが得られたら、それは直接使用可能であり、凍結可能であり、あるいは適当な培地内で短期間維持可能である。
【0060】
血液サンプルを得るためには、当技術分野で公知の任意の技術(例えば、シリンジまたは他の真空吸引装置)が用いられうる。血液サンプルは、所望により、使用前に前処理または加工されうる。血液サンプルのようなサンプルは、サンプルの入手時から4週間、2週間、1週間、6日、5日、4日、3日、2日、1日、12時間、6時間、3時間、2時間または1時間以内に、あるいは凍結された場合にはそれより長い時間の後に、本明細書に記載されている方法および系(システム)のいずれかにおいて分析されうる。被験者からのサンプル(例えば、血液サンプル)を得る場合には、その量は被験者のサイズおよびスクリーニングされる条件によって変動しうる。幾つかの実施形態においては、少なくとも10ml、5ml、1ml、0.5ml、250、200、150、100、50、40、30、20、10、9、8、7、6、5、4、3、2または1μLのサンプルを得る。幾つかの実施形態においては、1~50、2~40、3~30または4~20μLのサンプルを得る。幾つかの実施形態においては、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95または100μL以上のサンプルを得る。
【0061】
無細胞画分は好ましくは血清または血漿である。本明細書中で用いる生物学的サンプルの「無細胞画分」なる語は、細胞を実質的に含有しない生物学的サンプルの画分である。本明細書中で用いる「細胞を実質的に含有しない」なる語は、約20,000細胞/ml未満、好ましくは約2,000細胞/ml未満、より好ましくは約200細胞/ml未満、最も好ましくは約20細胞/ml未満を含む、生物学的サンプルからの調製物に関するものである。ある先行技術方法とは対照的に、ゲノムDNAは無細胞サンプルから除外されず、典型的には、サンプル中に存在する核酸の約50%~約90%を含む。
【0062】
本発明の方法は更に、生物学的サンプルから無細胞画分を調製することを含みうる。無細胞画分は、当技術分野で公知の通常の技術を用いて調製されうる。例えば、血液サンプルの無細胞画分は、約3~30分間、好ましくは約3~15分間、より好ましくは約3~10分間、最も好ましくは約3~5分間、約200~20,000g、好ましくは約200~10,000g、より好ましくは約200~5,000g、最も好ましくは約350~4,500gの低速で、血液サンプルを遠心分離することにより得られうる。生物学的サンプルは、可溶性DNAまたはRNAを含む無細胞画分から細胞およびその断片を分離するために、限外濾過により得られうる。通常、限外濾過は、0.22μmメンブレンフィルターを使用して行われる。
【0063】
本発明の方法は更に、生物学的サンプルの無細胞画分中の標的核酸を濃縮(または富化)することを含みうる。標的核酸は、当技術分野で公知の通常の技術を用いて、例えば、高塩濃度の存在下の固相吸収、フェノール-クロロホルムによる有機抽出およびそれに続くエタノールまたはイソプロピルアルコールでの沈殿、あるいは高塩濃度または70~80% エタノールもしくはイソプロピルアルコールの存在下の直接沈殿により濃縮されうる。該濃縮標的核酸は無細胞画分におけるものより少なくとも約2、5、10、20または100倍濃縮されうる。該標的核酸は、濃縮されているかされていないかには無関係に、本発明の方法に従う増幅に使用されうる。
【0064】
幾つかの実施形態においては、本発明は移植拒絶の診断または予測のための方法を提供する。「移植拒絶」なる語は急性および慢性の両方の移植拒絶を含む。「急性拒絶またはAR」は、移植組織が免疫学的に異質である場合の、組織移植レシピエントの免疫系による拒絶である。急性拒絶は、レシピエントの免疫細胞による移植組織の浸潤により特徴づけられ、該免疫細胞はそのエフェクター機能を果たし、移植組織を破壊する。急性拒絶の開始は迅速であり、一般に、ヒトにおいては移植手術後数週間以内に生じる。一般に、急性拒絶は、免疫抑制薬、例えばラパマイシン、シクロスポリンA、抗CD40Lモノクローナル抗体などで阻害または抑制されうる。
【0065】
「慢性移植拒絶またはCR」は、一般に、ヒトにおいては、急性拒絶の免疫抑制が成功しても移植の数か月~数年以内に生じる。線維症は全てのタイプの臓器移植の慢性拒絶における一般的要因である。慢性拒絶は、典型的には、個々の器官に特徴的である或る範囲の特異的障害により記載されうる。例えば、肺移植においては、そのような障害には気道の線維増殖性破壊(閉塞性細気管支炎)が含まれ、心臓移植または心臓組織の移植、例えば弁置換においては、そのような障害には線維性アテローム性動脈硬化症が含まれ、腎臓移植においては、そのような障害には閉塞性腎症、腎硬化症、尿細管間質性腎症が含まれ、肝臓移植においては、そのような障害には消失胆管症候群が含まれる。慢性拒絶は、免疫抑制薬に関連した虚血性傷害、移植組織の脱神経、高脂血症および高血圧によっても特徴づけられうる。
【0066】
幾つかの実施形態においては、本発明は更に、移植、例えば同種移植を受けた被験者に関する免疫抑制レジメンの有効性を決定するための方法を含む。
【0067】
本発明の或る実施形態は、移植を受けた被験者における移植片生存を予測する方法を提供する。本発明は、移植患者または被験者における移植片が生存するか喪失するかどうかを診断または予測する方法を提供する。ある実施形態においては、本発明は、長期移植片生存の存在を診断または予測する方法を提供する。「長期移植片生存」は、1以上のこれまでの急性拒絶エピソードの発生にもかかわらず、現在のサンプリングを越える少なくとも約5年間の移植片生存を意味する。ある実施形態においては、移植片生存は、少なくとも1つの急性拒絶エピソードが生じた患者に関して決定される。したがって、これらの実施形態は、急性拒絶語の移植片生存を決定または予測する方法を提供する。移植片生存は、ある実施形態においては、移植療法、例えば免疫抑制療法(免疫抑制療法は当技術分野で公知である)の場合に決定または予測される。更に他の実施形態においては、急性拒絶の(単にその存在だけではなく)クラスおよび/または重症度を決定する方法を提供する。
【0068】
移植分野においては公知のとおり、移植器官、組織または細胞は同種または異種であることが可能であり、したがって、移植片は同種移植片または異種移植片でありうる。本方法により検出または特定される移植片許容性表現型の特徴は、それが、免疫抑制療法を伴わずに生じる表現型であること、すなわち、それが、免疫抑制療法を受けていない宿主(したがって、宿主に免疫抑制剤が投与されていない)において存在することである。移植片は任意の実質臓器および皮膚移植片でありうる。本明細書に記載されている方法により分析されうる臓器(器官)移植の例には、限定的なものではないが、腎臓移植、膵臓移植、肝臓移植、心臓移植、肺移植、腸移植、腎臓移植後の膵臓、および同時膵臓腎臓移植が含まれる。
【0069】
ミクロビオームの検出および分析
本発明の方法は、個体からの無細胞核酸サンプルのハイスループット配列決定、およびそれに続く、ミクロビオーム配列の存在および保有率を決定するためのバイオインフォマティクス分析を含み、ここで、該配列は、固有生物、例えば、腸、皮膚などの正常ミクロビオームからのものであることが可能であり、あるいは非固有の、例えば、日和見、病原性などの感染からのものでありうる。分析は、完全ミクロビオームに関して、またはそれにおける成分、例えばウイローム、細菌ミクロビオーム、真菌ミクロビオーム、寄生原虫ミクロビオームなどに関して行われうる。核酸の例には、限定的なものではないが、二本鎖DNA、一本鎖DNA、一本鎖DNAヘアピン、DNA/RNAハイブリッド、RNA(例えば、mRNAまたはmiRNA)およびRNAヘアピンが含まれる。幾つかの実施形態においては、核酸はDNAである。幾つかの実施形態においては、核酸はRNAである。例えば、無細胞RNAおよびDNAはヒト血漿中に存在する。
【0070】
ミクロビオーム核酸の遺伝子型決定、ならびに/またはミクロビオーム特異的核酸の検出、特定(同定)および/もしくは定量は、一般に、サンプルの増幅の初期工程を含む。尤も、十分な無細胞核酸が入手可能であり、直接的に配列決定されうる場合も存在しうる。核酸がRNAである場合、該増幅工程に先行して、RNAをDNAに変換するための逆転写酵素反応が行われうる。好ましくは、該増幅は不偏性であり、すなわち、増幅用プライマーはユバーサルプライマーであり、あるいは分析される核酸にアダプターが連結され、増幅プライマーは該アダプターに特異的である。PCR技術の例には、限定的なものではないが、ホットスタートPCR、ネステッドPCR、インシトゥ・ポロノニー(polonony)PCR、インシトゥ・ローリングサークル増幅(RCA)、ブリッジ(bridge)、ピコタイター(picotiter)PCRおよびエマルションPCRが含まれる。他の適当な増幅方法には、リガーゼ連鎖反応(LCR)、転写増幅、自家持続配列複製、標的ポリヌクレオチド配列の選択的増幅、コンセンサス配列プライム化(consensus sequence primed)ポリメラーゼ連鎖反応(CP-PCR)、任意プライム化(arbitrarily primed)ポリメラーゼ連鎖反応(AP-PCR)、縮重オリゴヌクレオチドプライム化PCR(DOP-PCR)および核酸ベース配列増幅(NABSA)が含まれる。特定の多型遺伝子座を増幅するために使用されうる他の増幅方法には、米国特許第5,242,794号、第5,494,810号、第4,988,617号および第6,582,938号に記載されているものが含まれる。
【0071】
増幅後、増幅された核酸を配列決定する。配列決定は、ハイスループット系を用いて達成されうる。該ハイスループット系の幾つかは、成長しつつある鎖内へのその取り込みの直後または取り込みの際の配列決定ヌクレオチドの検出(すなわち、リアルタイムまたは実質的にリアルタイムの配列の検出)を可能にする。幾つかの場合には、ハイスループット配列決定は、1時間当たり少なくとも1,000、少なくとも5,000、少なくとも10,000、少なくとも20,000、少なくとも30,000、少なくとも40,000、少なくとも50,000、少なくとも100,000または少なくとも500,000個の配列リードを与え、ここで、各リードは、1リード当たり少なくとも50、少なくとも60、少なくとも70、少なくとも80、少なくとも90、少なくとも100、少なくとも120または少なくとも150個の塩基である。配列決定は、本明細書に記載されている核酸、ゲノムDNA、RNA転写産物由来のcDNAまたはRNAを鋳型として使用して行われうる。
【0072】
幾つかの実施形態においては、ハイスループット配列決定は、Helicos BioSciences Corporation(Cambridge,Massachusetts)により利用可能な技術、例えば、合成による単一分子配列決定(Single Molecule Sequencing by Synthesis)(SMSS)法の利用を含む。SMSSは、前増幅工程を要することなくゲノム全体の配列決定を可能にするため、独特である。したがって、核酸の測定における非線形性および歪みが低減される。SMSSは米国公開出願番号2006002471 I、20060024678、20060012793、20060012784および20050100932に部分的に記載されている。
【0073】
幾つかの実施形態においては、ハイスループット配列決定は、454 Lifesciences,Inc.(Branford,Connecticut)により利用可能な技術、例えば、ピコタイタープレート(Pico Titer Plate)装置の利用を含む。該装置は、該装置内のCCDカメラにより記録される配列決定反応により生成された化学発光シグナルを伝達する光ファイバープレート(fiber optic plate)を含む。光ファイバーのこの使用は少なくとも2000万塩基対の、4.5時間以内の検出を可能にする。
【0074】
ビーズ増幅(bead amplification)およびそれに続く光ファイバー検出を使用するための方法がMarguiles,M.ら,“Genome sequencing in microfabricated high-density pricolitre reactors”,Nature,doi:10.1038/nature03959、ならびに米国公開出願番号20020012930、20030058629、20030100102、20030148344、20040248161、20050079510、20050124022および20060078909に記載されている。
【0075】
幾つかの実施形態においては、クローン単一分子アレイ(Clonal Single Molecule Array)(Solexa,Inc.)または可逆的ターミネーター化学を利用するシークエンシング・バイ・シンセシス(sequencing-by-synthesis)(SBS)を用いて、ハイスループット配列決定を行う。これらの技術は米国特許第6,969,488号、第6,897,023号、第6,833,246号、第6,787,308号および米国公開出願番号200401061 30、20030064398、20030022207およびConstans,A,,The Scientist 2003,17(13):36に部分的に記載されている。
【0076】
この態様の幾つかの実施形態においては、RNAまたはDNAのハイスループット配列決定は、AnyDot.チップ(Genovoxx,Germany)を使用することにより行われうる。AnyDot.チップは、生物学的過程、例えばmiRNA発現または対立遺伝子可変性のモニタリング(SNP検出)を可能にする。特に、AnyDotチップはヌクレオチド蛍光シグナル検出の10倍~50倍の増強を可能にする。AnyDot.チップおよびその使用方法は国際公開出願番号WO 02088382、WO 03020968、WO 0303 1947、WO 2005044836、PCTEP 05105657、PCMEP 05105655およびドイツ国特許出願番号DE 101 49 786、DE 102 14 395、DE 103 56 837、DE 10 2004 009 704、DE 10 2004 025 696、DE 10 2004 025 746、DE 10 2004 025 694、DE 10 2004 025 695、DE 10 2004 025 744、DE 10 2004 025 745およびDE 10 2005 012 301に部分的に記載されている。
【0077】
他のハイスループット配列決定系は、Venter,J.ら,Science 16 February 2001;Adams,M.ら,Science 24 March 2000;およびM.J,Leveneら,Science 299:682-686,January 2003;ならびに米国公開出願番号20030044781および2006/0078937に開示されているものを含む。総合すると、そのような系は、核酸の分子上で測定される重合反応により塩基の時間的付加により複数の塩基を有する標的核酸分子を配列決定することを含む。すなわち、配列決定される鋳型核酸分子上の核酸重合酵素の活性をリアルタイムで追跡する。ついで、一連の塩基付加における各工程において核酸重合酵素の触媒活性により標的核酸の成長相補鎖内にどの塩基が取り込まれているのかを特定することにより、配列を推定することが可能である。標的核酸分子に沿って移動し活性部位においてオリゴヌクレオチドプライマーを伸長させるのに適した位置に標的核酸分子複合体上のポリメラーゼが提供される。活性部位の近傍に複数の標識タイプのヌクレオチド類似体が提供され、それぞれの識別可能なタイプのヌクレオチド類似体は標的核酸配列内の異なるヌクレオチドに相補的である。成長中の核酸鎖は、活性部位において核酸鎖にヌクレオチド類似体を付加するためにポリメラーゼを使用することにより伸長され、ここで、付加されるヌクレオチド類似体は活性部位における標的核酸のヌクレオチドに相補的である。重合工程の結果としてオリゴヌクレオチドプライマーに付加されたヌクレオチド類似体を特定する。標識ヌクレオチド類似体を提供し、成長中の核酸鎖を重合させ、付加されたヌクレオチド類似体を特定する工程を繰返して、核酸鎖を更に伸長させ、標的核酸の配列を決定する。
【0078】
幾つかの実施形態においては、ショットガン配列決定を行う。ショットガン配列決定においては、DNAを多数の小断片へとランダムに破壊し、鎖終結法を用いてこれらを配列決定してリード(read)を得る。この断片化および配列決定の数ラウンドを行うことにより、標的DNAに関する複数の重複リードを得る。ついでコンピュータプログラムが、異なるリードの重複末端を使用して、それらを連続鎖へと合体させる。
【0079】
幾つかの実施形態においては、本発明は、配列決定による微生物配列の検出および定量のための方法を提供する。この場合、検出感度を推定することが可能である。以下の2つの感度成分が存在する:(i)分析される分子の数(配列決定の深度)および(ii)配列決定過程のエラー(過誤)率。配列決定の深度に関しては、個体間の変動に関する頻繁な推定は、1000個当たり約1個の塩基が異なるというものである。現在、イムミナ・ゲノム・アナライザー(Illumina Genome Analyzer)のようなシーケンサーは、36塩基対を超える長さを読取っている。血中の宿主DNAの画分は個体の状態によって可変性でありうるが、90%をベースライン推定値として採用することが可能である。ドナーDNAのこの画分においては、分析される10個の分子のうちの約1個が微生物のものであろう。ゲノムアナライザー(Genome Analyzer)上で、1個の分析チャネル当たり約1000万個の分子を得ることが可能であり、1回の装置運転当たり8個の分析チャネルが存在する。したがって、チャネル1個当たりサンプル1個をローディングした場合、ミクロビオームの状態に関して情報価値があり微生物として特定されうる約10個の分子を検出することが可能となるはずである。より高い感度は、単に、より多数の分子を配列決定することにより、すなわち、より多数のチャネルを使用することにより達成されうる。
【0080】
配列決定エラー率もこの技術の感度に影響を及ぼす。塩基置換に関する典型的な配列決定エラー率はプラットフォーム間で変動するが、0.5~1.5%である。これは0.16~0.50%の感度に対する潜在的制限を課す。しかし、Helicos BioSciences(Harris,T.D.ら,Science,320,106-109(2008))により実証されているとおり、サンプル鋳型を複数回にわたって再配列決定することにより、配列決定エラー率を系統的に低減することが可能である。再配列決定の1回の適用が、予想されるエラー率を低減するであろう。
【0081】
配列決定後、配列のデータセットをバイオインフォマティクス分析のためにデータプロセッサにアップロードして、分析から宿主配列(すなわち、ヒト、ネコ、イヌなど)を差し引き、そして、例えば、微生物参照配列に位置づけられる配列の被覆率(coverage)を宿主参照配列の被覆率と比較することにより、微生物配列の存在および保有率を決定する。宿主配列の差し引きは、参照宿主配列を特定し、参照宿主ゲノム内に存在する微生物配列または微生物擬態配列をマスクする工程を含みうる。同様に、微生物参照配列との比較による微生物配列の存在の決定は、参照微生物配列を特定し、参照微生物ゲノム内に存在する宿主配列または宿主擬態配列をマスクする工程を含みうる。
【0082】
配列の質を確認し、シーケンサー特異的ヌクレオチド(アダプター配列)の残余物を除去し、重複するペア形成末端リードを合体させて、より少数のリードエラーを有する、より高い質のコンセンサス配列を得るために、データセットは、所望により、クリーニングされうる。反復配列は、同一の開始部位および長さを有するものとして特定され、重複物は分析から除去されうる。
【0083】
本発明の重要な特徴は分析からのヒト配列の差し引きである。増幅/配列決定工程は不偏性であるため、サンプルにおいて優勢な配列は宿主配列となる。差し引きプロセスは、該プロセスの速度および精度を改善するために幾つかの方法で最適化されうる。これは、例えば、複数の差し引きを行うことにより実施され、ここで、初期アライメントは粗フィルターに設定され[すなわち、速いアライナ(aligner)を使用する]、そして、より細かいフィルター(すなわち、高感度アライナ)で追加的なアライメントを行う。
【0084】
リードのデータベースは、バイオインフォマティクスにより宿主DNAを差し引くために、最初はヒト参照ゲノム(限定的なものではないが、Genbank hg19参照配列を包含する)に対してアライメント(整列)される。各配列はヒト参照配列内の最良フィット配列とアライメントされる。ヒトはバイオインフォマティクスにより分析から除去されているため、配列はポジティブ(正)に特定される。
【0085】
参照ヒト配列は、参照データベース内に十分には表されていない、ゲノム内に存在する高反復配列(これに限定されるものではない)を包含する、高いヒット率を有するコンティグを付加することによっても最適化されうる。大きなセットのヒト配列を含むデータベース(例えば、全NCBI NTデータベース)が使用される場合、hg19に対してアライメントしないリードのうち、有意な量が該経路の更に後の段階でヒトとして最終的に特定されることが認められている。該分析における、より早期に、これらのリードを除去することは、拡大ヒト参照体を構築することにより行われうる。この参照体は、初期ヒトリード差し引き後に高い被覆率を有する、該参照体以外のヒト配列データベース(例えば、NCBI NTデータベース)においてヒトコンティグを特定することにより作製される。それらのコンティグはヒト参照体に付加されて、より包括的な参照セットを与える。更に、コホート研究からの新規構築ヒトコンティグがヒト由来リードの更なるマスクとして使用されうる。
【0086】
非ヒト配列を含有するヒトゲノム参照配列の領域、例えば、参照サンプルのゲノム内に組込まれたウイルスおよび細菌配列がマスクされうる。例えば、エプスタイン-バーウイルス(EBV)はそのゲノムの約80%がhg19内に組込まれている。
【0087】
ついで、非ヒトとして特定された配列リードを微生物参照配列のヌクレオチドデータベースに対してアライメントさせる。データベースは、宿主に関連していることが公知の微生物配列(例えば、ヒト共生および病原性微生物)に関して選択されうる。
【0088】
微生物データベースは、混入配列がマスクまたは除去されるように最適化されうる。例えば、多数の公開データベースエントリーは、微生物に由来しない人工産物配列、例えばプライマー配列、宿主配列および他の混入物を含むことが認められている。初期アライメントまたは複数のアライメントをデータベース上で行うことが望ましい。複数のサンプルがアライメントされた場合にリード被覆率において不規則性を示す領域は人工産物としてマスクまたは除去されうる。そのような不規則な被覆率の検出は、種々のメトリクス、例えば、特定のヌクレオチドの被覆率と、このヌクレオチドが見出される全コンティグの平均被覆率との比により行われうる。一般に、その参照配列の平均被覆率の約5倍、約10倍、約25倍、約50倍、約100倍より大きなものとして表される配列は人工産物である。あるいは、コンティグの全被覆率が与えられたら、被覆率の毎塩基尤度(per-base likelihood)を得るために、2項検定が適用されうる。参照データベースからの混入配列の除去は微生物の正確な特定を可能にする。サンプルのアライメントによりデータベースが改良されることは本発明の方法の利点である。例えば、商業的または臨床的使用の前にデータベースを改良するために、データベースは1、10、20、50、100個以上のサンプルとアライメントされうる。
【0089】
それぞれの高信頼度リードは、与えられた微生物データベース内の複数の生物に対してアライメントされうる。この可能なマッピングリダンダンシーに基づいて生物存在度を正確に帰属するために、アルゴリズムを使用して、アルゴリズムが選択された最も可能性の高い生物を計算する(例えば、Lindnerら,Nucl.Acids Res.(2013)41(1):e10を参照されたい)。例えば、与えられたリードが由来する最も可能性の高い生物を計算するために、GRAMMyまたはGASicアルゴリズムが使用されうる。これらのデータは無細胞核酸サンプル中の微生物の存在に関する情報を提供する。
【0090】
宿主配列または微生物配位に対するアライメントおよび帰属は、当技術分野で認識されている方法により行われうる。例えば、50ntのリードは、該リードの長さにわたって1個以下のミスマッチ、2個以下のミスマッチ、3個以下のミスマッチ、4個以下のミスマッチ、5個以下のミスマッチなどが存在する場合には、与えられたゲノムにマッチするものとして帰属されうる。アライメントおよび特定(同定)のためには市販のアルゴリズムが一般に使用される。そのようなアライメントアルゴリズムの非限定的な例としては、bowtie2プログラム(Johns Hopkins University)が挙げられる。例えば、所望のアライメント速度に基づいて、末端間モード(end-to-end mode)の予め設定された選択肢が選択されうる。
【0091】
・非常に速い:以下と同じ:-D5-R1-N0-L22-iS,0,2.50
・速い:以下と同じ:-D10-R2-N0-L22-iS,0,2.50
・高感度:以下と同じ:-D15-R2-L22-iS,1,1.15
・非常に高感度:以下と同じ:-D20-R3-N0-L20-iS,1,0.50
他のアライメントアルゴリズムまたはソフトウェアパッケージにおいては、同等な設定が用いられうる。
【0092】
ついで、生物(すなわち、宿主またはミクロビオーム成分)に対するリードのこれらの帰属を合計し使用して、与えられたサンプルにおける各生物に帰属されたリードの推定数を計算する(無細胞核酸サンプルにおける生物の保有率の決定の場合)。該分析は微生物ゲノムのサイズに関する計数を正規化して、該微生物に関する被覆率の計算をもたらす。サンプル間の配列決定深度における相違を考慮して、各微生物に関する正規化被覆率を同じサンプルにおける宿主配列被覆率と比較する。
【0093】
該最終決定は、微生物の保有率およびサンプル中の配列により表される微生物のデータセットを与える。これらのデータは、所望により、統合され、即座の可視化のために、例えば個体または医療提供者に提供される報告の形態で表示され、あるいはハイパーリンクされたデータでブラウザ形態で記載される。該被覆率推定はサンプルからのメタデータと統合され、各サンプルまたはサンプルのコホートに関する表および図面へとソートされうる。
【0094】
所望により、フィルターで除去された宿主配列は他の目的、例えば個別化医療に使用されうる。例えば、ヒトゲノム内の或るSNPは、与えられた患者の薬物感受性を医師が特定することを可能にしうる。ヒト由来配列は宿主ゲノム内へのウイルス(例えば、EBV、HPV、ポリオーマウイルス)の組込みを表しうる。あるいは、それは相乗的臨床用途に使用されうる(例えば、無細胞腫瘍DNAは、化学療法ゆえに感染に対して高感受性である患者において、感染のモニタリングと並行して、癌の進行をモニタリングするために使用されうる)。
【0095】
幾つかの実施形態においては、無細胞核酸の分析は、病原性スコアを計算するために用いられ、ここで、病原性スコアは、例えば医療実施者による解釈をし易くするために該生物の全体的な病原性を要約した数値またはアルファベット値である。ミクロビオームに存在する微生物には、微生物によって異なるスコアが割り当てられうる。最終的な「病原性スコア」は多数の異なる因子の組合せであり、典型的には、例えば0~1、0~10または0~100の範囲の任意単位として、関心のあるミクロビオームに関する全ての観察された病原性スコアからの百分位数などとして提供される。特異的パラメータおよびそれらのパラメータのウェイト(重み)は、例えば、観察された疾患の重症度に関数をフィットさせることにより実験的に、あるいは種々のパラメータおよび基準の重要性を設定することにより手動により決定されうる。
【0096】
病原性スコアの計算に重要な因子には、限定的なものではないが、例えば、参照被験者または被験者群(例えば、試験集団)における微生物の存在度と比較して、ヒトリードと比較してリードの数により計算される微生物の存在度、既知感染、既知未感染個体などが含まれうる。微生物ゲノム内で見出される特異的突然変異は、微生物に関連した毒性、病原性、抗生物質耐性などのデータベースを参照して施されることが可能であり、限定的なものではないが、SNP、インデル、プラスミドなどを包含する。特定の比および群の生物(これらに限定されるものではない)を含む特定の微生物の同時発生。ある配列の発現(例えば、mRNAの検出)は病原性スコアに重要であることがあり、例えば、微生物が活発に複製しているか潜伏性であるかなどの情報に富む。地理的特徴(ここで、地理は、関心のある微生物に対する曝露の指標となる)、例えば宿主の旅行歴、感染個体との相互作用なども含まれうる。
【0097】
また、前記方法の1以上を実施するための試薬およびそのキットも提供する。本試薬およびそのキットは多種多様でありうる。関心のある試薬には、前記の製造における使用のために特別に設計された試薬が含まれる:(i)ミクロビオームおよび個体のプロファイリング、(ii)ミクロビオームプロファイルの特定、ならびに(ii)個体から得られたサンプルにおけるミクロビオームからの1以上の核酸の検出および/または定量。該キットは、本明細書に記載されている方法、例えばPCRおよび配列決定を用いて核酸抽出および/または核酸検出を行うのに必要な試薬を含みうる。該キットは更に、データ分析のためのソフトウェアパッケージを含むことが可能であり、これは試験プロファイルとの比較のための参照プロファイルを含むことが可能であり、特に、前記のとおりに最適化された参照データベースを含むことが可能である。該キットは試薬、例えばバッファーおよびHOを含みうる。
【0098】
そのようなキットは、該組成物の活性および/または利点を示し又は確立する、および/または用量、投与、副作用、薬物相互作用もしくは医療提供者に有用な他の情報を記載する科学的参考文献、添付文書資料、臨床試験結果および/またはこれらの要約などのような情報をも含みうる。そのようなキットは、データベースにアクセスするための説明をも含みうる。そのような情報は、種々の研究、例えば、インビボモデルを含む実験動物を使用した研究、およびヒト臨床試験に基づく研究の結果に基づくものでありうる。本明細書に記載されているキットは、医師、看護師、薬剤師、処方職員などを含む医療提供者に提供され、販売され、および/または販売促進されうる。キットは、幾つかの実施形態においては、消費者に直接販売されうる。
【0099】
前記方法はいずれも、コンピュータ可読媒体上に記録されるコンピュータ実行可能論理を含むコンピュータプログラム製品により行われうる。例えば、該コンピュータプログラムは以下の機能の一部または全部を実行しうる:(i)サンプルからの核酸の単離を制御する、(ii)サンプルから核酸を前増幅する、(iii)サンプルにおける特定の領域を増幅し、配列決定し、整列させる、(iv)サンプルにおける微生物配列を特定および定量する、(v)サンプルから検出された微生物の存在または保有率に関するデータを所定閾値と比較する、(vi)感染、ミクロビオームの健全性、免疫能状態または結果を決定する、(vi)感染、ミクロビオームの健全性、免疫能などに関するサンプル状態を示す。
【0100】
該コンピュータ実行可能論理は、パーソナルコンピュータ、ネットワークサーバ、ワークステーションまたは他のコンピュータプラットフォーム(現在開発されているもの又は後に開発されるもの)のような汎用コンピュータの種々のタイプのいずれかでありうる任意のコンピュータにおいて働きうる。幾つかの実施形態においては、コンピュータ利用可能媒体内に保存されたコンピュータ実行可能論理(プログラムコードを含むコンピュータソフトウェアプログラム)を有するコンピュータ利用可能媒体を含むコンピュータプログラム製品が記載されている。該コンピュータ実行可能論理はプロセッサにより実行されて、本明細書に記載されている機能を該プロセッサに行わせうる。他の実施形態においては、幾つかの機能は、例えばハードウェアステートマシンを使用して主にハードウェアにおいて実行される。本明細書に記載されている機能を果たすためのハードウェアステートマシンの実行は関連技術分野の当業者に明らかであろう。
【0101】
該プログラムは、ミクロビオームおよび個体のプロファイリングならびに/または個体の循環中のミクロビオームからの1以上の核酸の定量を反映するデータにアクセスすることにより、個体における微生物の状態を評価する方法を提供しうる。
【0102】
1つの実施形態においては、本発明のコンピュータ論理を実行するコンピュータはデジタル入力装置、例えばスキャナをも含みうる。デジタル入力装置は核酸に関する情報(例えば、存在または保有率)を提供しうる。
【0103】
幾つかの実施形態においては、本発明は、コンピュータ可読媒体を提供し、これは、(i)サンプルにおいて検出された1以上の核酸からのデータを受け取り、(ii)マイクロビオームの定量に基づいて状態を診断または予測する工程をコンピュータが実行するように該コンピュータ可読媒体に記録された一組の命令を含む。
【0104】
また、微生物参照配列のデータベース、およびヒト参照配列のデータベースを提供する。そのようなデータベースは、典型的には、前記の最適化データセットを含むであろう。
【0105】
幾つかの実施形態においては、本発明の方法は感染に関する個体の状態を提供する。幾つかのそのような実施形態においては、微生物感染は病原体であり、ここで、病原体配列の存在は、臨床的に関連した感染を示す。他の実施形態においては、有病率(保有率)は微生物負荷の指標となり、ここで、予め決められたレベルは臨床的関連性の指標となる。幾つかのそのような実施形態においては、個体は抗微生物療法、例えば抗生物質、受動または能動免疫療法、抗ウイルス剤などで治療され、またはそのような治療が考慮される。個体は治療前、治療中および治療後に試験されうる。
【0106】
微生物感染は共生生物に関する負荷によっても示されることが可能であり、ここで、血液サンプル中の共生生物のレベルは腸の健康(例えば、腸管内腔破壊)の指標となる。
【0107】
微生物RNAの比較が単独で又は微生物DNAとの関連で行われることが可能であり、ここで、微生物配列に関する過剰のRNA(例えば、微生物DNAの被覆率の約5倍、10倍、15倍、20倍、25倍)は活発な感染の指標となる。幾つかの実施形態においては、このようにして分析される微生物は、潜伏感染が可能な微生物、例えばヘルペスウイルス、肝炎ウイルスなどである。
【0108】
他の実施形態においては、ミクロビオームの全体的な推定に関心が持たれ、この場合、微生物のクラスの相対的な存在または保有率に関心が持たれる。食事、および薬物、例えばスタチン、抗生物質、免疫抑制剤などでの治療はミクロビオームの全体的な健全性に影響を及ぼしうることが当技術分野で公知であり、したがって、ミクロビオームの組成を決定することに関心が持たれる。
【0109】
幾つかの実施形態においては、抗微生物治療の有効性をモニタリングするために、または治療を選択するために、ミクロビオームからの前記の1以上の核酸の量における時間的相違が用いられうる。例えば、ミクロビオームからの1以上の核酸の量が治療の前および後で測定されうる。ミクロビオームからの1以上の核酸の、治療後の減少は、該治療が成功したことを示しうる。また、ミクロビオームからの1以上の核酸の量は、治療間の選択、例えば、異なる強度の治療の間の選択のために用いられうる。
【0110】
1つの態様においては、本発明は、免疫抑制レジメンを受けている被験者における免疫能、移植状態または結果の診断または予測のための方法を提供する。免疫抑制後、前記のサンプルが患者から採取され、ウイローム核酸を含む1以上のミクロビオームの存在または非存在に関して分析されうる。幾つかの実施形態においては、サンプルは血液、血漿、血清または尿である。微生物核酸の比率および/または量は経時的にモニタリングされることが可能であり、この比率の増加は、免疫能を決定するために用いられうる。負荷の定量は、本明細書に記載されている方法を含む当技術分野で公知のいずれかの適当な方法(例えば、配列決定、核酸アレイまたはPCR)により行われうる。
【0111】
幾つかの実施形態においては、免疫抑制レシピエントからのサンプル中の1以上のミクロビオーム核酸の量を、移植状態または結果を判定するために用いる。したがって、幾つかの実施形態においては、本発明の方法は更に、ミクロビオームからの1以上の核酸を定量することを含む。幾つかの実施形態においては、ドナーサンプルからの1以上の核酸の量をサンプル中の全核酸に対する比率(百分率)として決定する。幾つかの実施形態においては、ドナーサンプルからの1以上の核酸の量をサンプル中の全核酸に対する比として決定する。幾つかの実施形態においては、ドナーサンプルからの1以上の核酸の量をサンプル中の1以上の参照核酸に対する比または比率として決定する。例えば、ミクロビオームからの1以上の核酸の量はサンプル中の全核酸の10%であると決定される。あるいは、ミクロビオームからの1以上の核酸の量はサンプル中の全核酸と比較して1:10の比でありうる。更に、ミクロビオームからの1以上の核酸の量はβ-グロビンのような参照遺伝子の10%または1:10の比であると決定されうる。幾つかの実施形態においては、ミクロビオームからの1以上の核酸の量は濃度として決定されうる。例えば、ドナーサンプルからの1以上の核酸の量は1μg/mLであると決定されうる。
【0112】
幾つかの実施形態においては、所定閾値を超える、ミクロビオームからの1以上の核酸の量は、免疫能状態の指標となる。例えば、移植拒絶または他の病状の証拠を示していない臨床的に安定な患者に関する規範値が決定されうる。臨床的に安定な移植後患者に関する規範値を下回る、ミクロビオームからの1以上の核酸の量の増加は、安定な結果を示しうるであろう。一方、臨床的に安定な移植後患者に関する規範値以上の、ミクロビオームからの1以上の核酸の量は、免疫能および移植拒絶のリスクの増強を示しうるであろう。
【0113】
幾つかの実施形態においては、所定閾値が異なれば、それが示す移植結果または状態も異なる。例えば、前記のとおり、臨床的に安定な移植後患者に関する規範値を超える、ミクロビオームからの1以上の核酸の量の増加は、移植拒絶または移植損傷のような移植後状態または結果の変化を示しうるであろう。しかし、臨床的に安定な移植後患者に関する規範値を超え、かつ、所定閾値レベル未満の、ミクロビオームからの1以上の核酸の量の増加は、移植拒絶ほどは重大でない状態、例えばウイルス感染を示しうるであろう。より高い閾値を超える、ミクロビオームからの1以上の核酸の量の増加は、移植拒絶を示しうるであろう。
【0114】
幾つかの実施形態においては、ミクロビオームからの前記の1以上の核酸の量の時間的相違は免疫能の指標となる。例えば、ミクロビオームからの1以上の核酸の量を決定するために、移植患者は経時的にモニタリングされうる。ミクロビオームからの1以上の核酸の量が時間的に減少し、ついで正常値に戻った場合、これは、移植拒絶ほどは重大でない状態を示しうるであろう。一方、ミクロビオームからの1以上の核酸の量の持続的減少は重大な状態、例えば、有効な免疫抑制の欠如および移植拒絶を示しうるであろう。
【0115】
幾つかの実施形態においては、ミクロビオームからの前記の1以上の核酸の量の時間的相違は、免疫抑制治療の有効性をモニタリングするために、または免疫抑制治療を選択するために使用されうる。例えば、ミクロビオームからの1以上の核酸の量は免疫抑制治療の前および後で決定されうる。ミクロビオームからの1以上の核酸の、治療後の減少は、該治療が免疫拒絶の予防に成功したことを示しうる。また、ミクロビオームからの1以上の核酸の量は、免疫抑制治療間の選択、例えば、異なる強度の免疫抑制治療の間の選択のために用いられうる。例えば、ミクロビオームからの1以上の核酸の、より少ない量は、非常に強力な免疫抑制が必要であることを示しうる。一方、ミクロビオームからの1以上の核酸の、より多い量は、それほど強力でない免疫抑制が用いられうることを示しうる。
【0116】
本発明は高感度かつ特異的な方法を提供する。幾つかの実施形態においては、移植状態または結果を診断または予測するための本明細書に記載されている方法は少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%または100%の感度を有する。幾つかの実施形態においては、本明細書に記載されている方法は少なくとも50%の感度を有する。幾つかの実施形態においては、本明細書に記載されている方法は少なくとも78%の感度を有する。幾つかの実施形態においては、本明細書に記載されている方法は約70%~約100%の特異性を有する。幾つかの実施形態においては、本明細書に記載されている方法は約80%~約100%の特異性を有する。幾つかの実施形態においては、本明細書に記載されている方法は約90%~約100%の特異性を有する。幾つかの実施形態においては、本明細書に記載されている方法は約100%の特異性を有する。
【0117】
本発明は、免疫抑制レジメンで治療されている、抗微生物剤で治療されているなどの個体を含む個体に関する非侵襲的診断を提供し、該診断は、非ヒト由来の無細胞DNAまたはRNAの配列をモニタリングすることによるものである。例えば、個体は幾つかのウイルスを保有し、ここで、ウイルス負荷は個体の免疫能によって変動することが本明細書に示されている。免疫能をモニタリングするための好ましいウイルスはアネロウイルスであり、この場合、ウイルス負荷は個体の免疫能と相関することが本明細書に示されている。
【0118】
幾つかの実施形態においては、本発明は、血漿中で又はウイルス粒子から通常は遊離している循環性核酸を検出および/または定量するための、あるいは感染、免疫能、移植状態または結果の診断、予後、検出および/または治療のための方法、装置、組成物およびキットを提供する。
【0119】
幾つかの特定の実施形態においては、本発明は、ウイローム分析による移植患者における免疫能の非侵襲的検出に対するアプローチを提供し、これは、他の外来源由来のDNAからの微小キメラ化の潜在的問題を回避し、性別の考慮を伴うことなく全臓器レシピエントに普遍的である。幾つかの実施形態においては、個体のウイロームに関して遺伝的フィンガープリントを作製する。このアプローチは、ドナーおよびレシピエントの性別には無関係な様態でなされうる、配列の信頼しうる特定を可能にする。
【0120】
免疫抑制レジメン(例えば、移植、自己免疫疾患の治療と組合されたもの)の後、血液のような体液が患者から採取され、マーカーに関して分析されうる。体液の例には、限定的なものではないが、塗抹標本、喀痰、生検、分泌物、脳脊髄液、胆汁、血液、リンパ液、唾液および尿が含まれる。ウイローム配列の検出、特定(同定)および/または定量は、リアルタイムPCR、チップ、循環性核酸(例えば、無細胞DNA)のハイスループットショットガン配列決定および当技術分野で公知の他の方法(本明細書に記載されている方法を含む)を用いて行われうる。ウイルス負荷は経時的にモニタリング可能であり、この比率の増加は、免疫能の状態または結果を判定するために用いられうる。
【0121】
本明細書に記載されている実施形態のいずれにおいても、移植片は任意の実質臓器(実質器官)または皮膚移植片でありうる。本明細書に記載されている方法により分析されうる臓器移植の例には、限定的なものではないが、腎臓移植、膵臓移植、肝臓移植、心臓移植、肺移植、腸移植、腎臓移植後の膵臓および同時膵臓-腎臓移植が含まれる。
【0122】
幾つかの実施形態においては、本発明の方法は、個体レベルでの、または患者群の分析における、例えば臨床試験形態における、感染を含む疾患の治療のための療法の有効性の判定において用いられる。そのような実施形態は、典型的には、患者または患者群に関する2つの時点の比較を含む。治療剤、治療レジメンまたは治療を受けている患者に対する疾患チャレンジの結果として、患者の状態は2つの時点の間で異なると予想される。
【0123】
そのような実施形態の形態の例は、限定的なものではないが、2以上の時点でミクロビオームを分析することを含むことが可能であり、ここで、第1の時点は、診断されているが治療されていない患者であり、第2の又は追加的な時点は、候補治療剤またはレジメンで治療された患者である。
【0124】
もう1つの形態においては、第1の時点は、候補治療剤またはレジメンの結果として、例えば現在の臨床基準により確認された疾患寛解における、診断された患者である。第2の又は追加的な時点は、候補治療剤またはレジメンで治療され、疾患誘発因子でチャレンジされた患者(例えば、ワクチンの場合)である。
【0125】
そのような臨床試験形態においては、時点の各組は、単一患者、患者群、例えばコホート群、または個体および群データの混合体に対応しうる。当技術分野で公知のとおり、そのような臨床試験形態には追加的対照データ、例えばプラセボ群、疾患非含有群なども含まれうる。関心のある形態は交差研究、ランダム化、二重盲検、プラセボ対照、並行群試験を包含し、薬物の有効性などを試験することも可能である。例えば、Clinical Trials:A Methodologic Perspective Second Edition,S.Piantadosi,Wiley-Interscience;2005,ISBN-13:978-0471727811;ならびにDesign and Analysis of Clinical Trials:Concepts and Methodologies,S.ChowおよびJ.Liu,Wiley-Interscience;2003;ISBN-13:978-0471249856(それらのそれぞれを参照により具体的に本明細書に組み入れることとする)を参照されたい。
【図面の簡単な説明】
【0126】
図1】研究設計、リード(read)統計および系統分布。A.免疫抑制はリスクを移植における拒絶の低減するが、感染のリスクを増大させる。B。研究の設計。656個の血漿サンプルを収集し、無細胞DNAを精製し、1.2Gbp/サンプルの平均深度まで配列決定した。C.該研究の種々の患者群部分に関する時間の関数としての収集サンプルの数。D.研究コホートにおける患者に関する治療プロトコルであり、全ての患者は維持免疫抑制(成人心臓および肺移植レシピエントに対するタクロリムスに基づく(TAC)もの並びに小児患者に対するシクロスポリン(CYC))で治療される。CMV陽性(ドナーまたはレシピエント,CMV+)移植例は抗CMV予防剤バルガンシクロビル(valganciclovir)(VAL)で治療される。TACに基づくプロトコルで治療された移植レシピエントの血液において測定されたタクロリムスの平均レベル(破線は実際、実線はウィンドウ平均フィルタ)。E.低品質および重複リードのフィルタリングの後(平均86%、左)ならびにヒトおよび低複雑度リードの除去の後(平均2%、右)で残存したリードの比率。F.ヒトリードの除去の後の分類学的分類の種々のレベルにおける相対ゲノム存在度(全臓器移植レシピエント(n=656)からの全サンプルの平均)。
図2】薬物用量の関数としての相対ウイルスゲノム存在度および健常参照体との比較。A.抗ウイルス薬物用量(バルガンシクロビル)および血中で測定されたタクロリムスの濃度の関数としての、免疫抑制剤タクロリムスで治療された患者(47名の患者、380個のサンプル)に関する平均ウイローム組成。薬物用量に対するウイローム組成の効果の遅延を考慮して、薬物用量に関するデータをウインドウ平均フィルタリングに付した(window average filtered)(ウィンドウサイズ45日、図1Cを参照されたい)。患者が低用量の免疫抑制剤および抗ウイルス薬の投与を受けた場合には、ヘルペスウイルス科およびカウドウイルス目がウイロームにおいて優勢である。逆に、患者が高用量のこれらの薬物の投与を受けた場合には、アネロウイルスがウイロームにおいて優勢である。B.健常参照体(n=9)、低薬物曝露を伴う移植後第1日のサンプル(n=13)および高薬物曝露(タクロリムス9ng/ml、バルガンシクロビル600mg、n=68)に対応するサンプルに対応するウイローム組成の比較。第1日のサンプル(1)のウイローム構造および1組の健常個体(H)に関して測定されたウイローム構造は、高薬物用量に対応するサンプル(D)に関して測定された、アネロウイルスが優勢な分布とは異なる。円グラフは平均比率、マン-ホイットニー検定に基づく箱ひげ図におけるp値を示す。C.全てのサンプル、同じ移植型(心臓または肺)を有する患者、被験者、類似薬物投与(タクロリムスレベル±0.5ng/ml、バルガンシクロビル±50mg)で治療された患者、および1カ月の期間内で同じ被験者から収集されたサンプルにおけるに関するブレイ-カーティス・ベータ多様性。
図3】移植後のミクロビオーム組成の時間的変動。種々の期間に関するdsDNAおよびssDNAウイルスの相対存在度(全サンプルの平均)。ssDNAウイルスの相対存在度は移植後薬物療法の開始の後に迅速に増加する。6カ月後には逆の傾向が観察される。B.種々の期間における分類学的分類の科および目レベルにおけるウイルスゲノム存在度。アネロウイルスの比率は移植後の最初の数か月で迅速に増加する。その同じ期間内にヘルペスウイルス科、カウドウイルス目およびアデノウイルス科の比率は減少する。6カ月後には逆の傾向が観察される。C.細菌門の相対存在度の時間変動。ウイルス存在度と比較して、種々の細菌門の表示は、観察された移植後期間にわたって相対的に不変である。D.時間の関数としての細菌およびウイルス属に関するサンプル内アルファ多様性の尺度としてのシャノン・エントロピー(データは1カ月の期間ごとに分類されている)。
図4】抗ウイルス予防の非存在下および存在下のウイローム組成および全ウイルス負荷。A.配列決定により検出されたヒトゲノムコピー当たりのウイルスゲノムコピーとして測定された、時間の関数としての絶対ウイルス負荷。種々の期間に関して箱ひげ図が示されており、該期間の中心がx軸上に表示されている。全患者クラスに関して、全ウイルス負荷は移植後の最初の数週間で増加する(黒線はシグモイドフィットであり、負荷の変化は7.4±3)。B.免疫抑制剤および抗ウイルス薬の両方で治療されたCMV+の症例に関するウイルス負荷および組成(78名の患者、543個のサンプル)。C.免疫抑制剤のみで治療されたCMV -/-の症例に関するウイルス負荷および組成(12名の患者、75個のサンプル)。
図5】移植片拒絶を示した患者における、より低いアネロウイルス負荷。A.重度の拒絶エピソードを示した患者の亜群(生検等級2R/3A、赤色データ、20名の患者、177個の時点)における、および非重篤拒絶移植後経過を示していない患者の亜群(青色データ、40名の患者、285個の時点)におけるアネロウイルス負荷の時間依存性。種々の期間に関する箱ひげ図が示されており、該期間の中心がx軸上に表示されている。実線は3次スプラインである(スムージングパラメータ 0.75)。挿入図は、拒絶および感染の発生と免疫能との、予想される逆の関連性を示す図である。B.同じ時点における全サンプルに関して測定された平均負荷に対するアネロウイルス負荷。非拒絶患者(N=208)の時間正規化負荷が、軽度の拒絶事象を示した患者(生検等級1R、N=102)および重度の拒絶エピソードを示した患者(生検等級2R/3A、N=22)に関して測定された負荷と比較されている。p値は、ウイルス負荷の中央値が、より大きな拒絶リスクの亜群に関して、より高くなる確率を反映している。p値は、測定点の、より大きな量を有する集団の無作為抽出により計算される。N倍の無作為抽出,p=総和(中央値(Arej)>中央値(Anon-rej))/N),ここで、N=10であり、ArejおよびAnon-rejは、それぞれ、拒絶および非拒絶の、より大きなおよびより小さなリスクの集団に関する相対ウイルス負荷である。C.非拒絶対重度拒絶の受信者動作特性曲線(曲線下面積=0.72)としての患者の分類における相対アネロウイルス負荷の性能の試験。
図6】ゲノムサイズおよびヒット統計、qPCRアッセイ、ならびに分類学的分類の種々のレベルにおける種の測定相対存在度に対するリード長の影響。(A)1401個のウイルスゲノム、32個の真菌ゲノムおよび1980個の細菌ゲノムを含有する参照データベースにおけるゲノムサイズの分布。(B)配列決定された100万個のユニーク分子当たりのユニークblastヒットの分布(ヒットの平均数がx軸表示において示されている)。C.ウイルス、細菌および真菌に関するゲノム等価体(感染因子/二倍体ヒト)の分布(ゲノム等価体の平均数がx軸表示において示されている)。(D)qPCRを用いて検出されたウイルスコピーの数に対する、配列決定された全リードの100万個当たりで見出される配列決定ヒットの比較。qPCRアッセイの場合、DNAを1mlの血漿から精製し、100μlの体積中で溶出した。(E)選択された症例に関するCMVおよびパルボウイルス負荷の測定。全サンプルに関して測定されたCMVウイルス(ゲノム等価体、ウイルス/ヒト二倍体、G.E.)の最高負荷は、臨床的に診断された播種性CMV感染の2つの症例に対応した(aおよびb,陰影領域は臨床診断の時間ウィンドウを示し、は死亡時を示す)。(c)は、CMVウイルス血症に罹患した小児患者の時間トレースを示す。移植直後の1人の小児心臓移植患者においてパルボウイルスが検出された(d)。 (F)分類学的分類の種々のレベルにおける種の測定相対存在度に対するリード長の影響(n=52)。スピアマン(Spearman)サンプル対サンプル相関、r、およびp値、p、(2サンプル マン-ホイットニーU検定)(50および100bpのデータセットから抽出された最も豊富なノード(node)の存在度に関するもの):r=0.80,p=0.8(a),r=0.86,p=0.4(b),r=0.92,p=0.6(c),r=0.84,p=0.5(d),r=0.7,p=0.28(e),r=0.99,p=1(f)。
図7】移植後の成人心臓および肺移植患者の平均薬物用量および測定レベルならびにウイローム組成に対する薬物投与量の影響。(A~C)本研究に関する、成人心臓および肺移植患者の、投与されたバルガンシクロビルおよびプレドニゾンの平均用量(AおよびC)ならびに血中のタクロリムスの測定レベル(B)。(D)ウイルス成分と比較して、ミクロビオームの細菌成分の組成は抗ウイルス剤および免疫抑制剤に対して比較的非感受性である。(E)抗CMV薬(バルガンシクロビル)および免疫抑制剤(プレドニゾン)の用量の関数としてのウイローム組成。
図8】移植後のミクロビオームの細菌成分の時間的変動。(A)時間の関数としての細菌門の相対存在度。(B)時間の関数としての細菌属の相対存在度。
図9】種々の患者クラスに関するウイローム組成および全ウイルス負荷(AおよびB)。免疫抑制剤および抗ウイルス剤の両方で治療された、CMV陽性成人心臓(A)、成人肺(B)および小児心臓(C)移植レシピエントに関するウイルス負荷および組成。
図10】CMV感染誘発性同種移植損傷。A.特定の体液(BALおよび血清)からのCMV(ヒトヘルペスウイルス5、HHV-5)感染の臨床報告間の相関(P値;マン-ホイットニーU検定)を示し、ドナー臓器cfdDNAシグナルは臨床試験日に適合されている。B.1を超える臨床陽性試験結果を示す感染に関する、感染の臨床診断と無細胞DNAレベルとの間の相関に関するP値(破線はボンフェローニ補正有意性閾値を示す)。C.CMV陽性およびCMV陰性患者におけるCMV由来無細胞DNAレベルの性能を試験するROC曲線(AUC=0.91)。
図11】インフェクトーム(infectome)のモニタリング。A.配列決定において検出されたウイルス感染事象と比較された臨床試験頻度。B.未試験患者に対する、特異的感染の陽性試験結果(赤色矢印)を示した患者に関する時間系列データ。(1)未試験患者(L34)と比較して強調された臨床的陽性を示すL78におけるアデノウイルスシグナル。(2)未試験患者(L57)における持続的シグナルと比較して1つの陽性試験結果を示すL69におけるポリオーマウイルスシグナル。(3)強調されたCMV(HHV-5)に関する陽性(赤色)および陰性(黒色)の両方の試験結果を示すL58における3つのヘルペスウイルス感染(HHV-4、5および8)。(4)微胞子虫症の症状を有するが未試験であったL78において観察されたシグナルと比較された、4つの陽性試験結果を示すI6における微胞子虫シグナル。データはヒトに対するゲノム等価体の対数であり、ここで、ゼロの値は該アッセイの検出限界で置換されている(標的ゲノムに割り当てられた単一配列リードに合致したゲノム等価体の数)。
【0127】
実施例
免疫抑制および抗ウイルス療法に対するヒトウイロームの時間的応答
ミクロビオームのウイルス成分、すなわち、ヒトウイロームは比較的に尚も研究対象となっており(Wylieら(2012)Transl Res 160,283-290)、ウイローム組成に対する免疫調節および抗ウイルス療法の効果に関してはほとんど知られていない。健常腸ウイロームは経時的に著しく安定なままであること(Reyesら(2010)Nature 466,334-338)、および食事とウイローム組成との関連性が見出されているものの、変動(ばらつき)の主要原因は被験者間の相違であること(Minotら(2011).Genome Research 21,1616-1625)が既に示されている。
【0128】
免疫抑制療法は臓器移植における移植拒絶のリスクを有意に低下させるが、感染に対するレシピエントの感受性を増加させる。ウイルス病原体、特にヘルペスウイルス サイトメガロウイルス(CMV)による感染は頻繁に生じ、レシピエントの移植失敗のリスクを増大させる。したがって、臓器移植レシピエントはCMVに対する抗ウイルス予防または先制療法に付されることが多い。
【0129】
免疫抑制のレベルおよび感染のリスクと拒絶との間の逆相関は狭い治療ウィンドウを患者の治療に利用可能とするに過ぎない。感染および拒絶の診断のための現在利用可能な方法の多数の制約により、移植後のケアが更に困難となる。拒絶の診断は、大抵は、観察者によるばらつき、高いコストおよび患者の不快感を伴う侵襲的生検によるものである。感染の症状は免疫抑制後に消失し、現在用いられている診断方法、例えば抗原検出およびPCRに基づく分子試験は特定の標的に基づいており、したがって感染源に関する先験的仮定に基づいていることを考慮すると、感染の診断は難題である。
【0130】
最終的な複雑化要因としては、免疫抑制薬に対する感受性における患者と患者との間のばらつきは過剰および過少免疫抑制を引き起こして、それぞれ感染または拒絶のリスクを増大させうる。
【0131】
免疫系の健常性を測定するための本質的方法がほとんどなく、免疫能とミクロビオームのウイルス成分との間の関連性は十分には理解されていない。臓器移植レシピエントは、ヒトウイロームに対する免疫調節の効果のための手段をもたらす、免疫抑制と抗ウイルス薬とを組合せた移植後療法で治療される。本発明者らは、臓器移植レシピエントのコホート(656個のサンプル、96名の患者)における薬物-ウイローム相互作用を調べるために、そして抗ウイルス剤および免疫抑制剤が血漿中のウイロームの構造に強い影響を及ぼすことを見出すために、血漿中の無細胞DNAの配列決定(シークエンシング)を用いた。本発明者らは治療開始時における顕著なウイローム組成動態を観察しており、全ウイルス負荷は免疫抑制と共に増加するが、ミクロビオームの細菌成分はほとんど影響を受けないままであることを見出している。該データはヒトウイローム、免疫系の状態および薬理学的治療の効果の間の関係に関する洞察をもたらし、免疫能を予測するためのウイローム状態の潜在的用途をもたらす。
【0132】
本研究において、本発明者らは、臓器移植後の薬物-ミクロビオーム相互作用を調べるために、血漿中を循環する無細胞DNAを配列決定した。本発明者らは、免疫抑制剤および抗ウイルス予防剤の組合せに付された心臓および肺移植レシピエントにおける感染のパターンを調べた。本発明者らは、免疫抑制剤および抗ウイルス剤がミクロビオームのウイルス成分の構造には強い影響を及ぼすが、細菌成分に対してはそうではないことを見出している。種々の個体のウイローム組成は類似した薬物決定状態へと収束するため、強力な組成動態が薬物療法の開始時に観察されている。ウイルス、特にアネロウイルスは免疫能の低減を利用するため、療法に応答して全ウイルス負荷は顕著に増加する。最後に、本発明者らは、アネロウイルス負荷の測定が拒絶および非拒絶レシピエントの層化を可能にすることを示す。
【0133】
656個の血漿サンプルを96名の実質臓器レシピエント(41名の成人心臓、24名の小児心臓、31名の成人肺)から長期的に収集した。無細胞DNAを血漿から精製し、配列決定した。合計で820ギガベース(Gbp)の配列決定データを得た(平均1.25Gbp/サンプル)(Illumina HiSeq,1×50bpのリード,図1B)。臓器移植レシピエントを2年以上にわたって連続的に該研究に登録し、該レシピエントから移植後に一定の時点でサンプルを収集し、サンプル収集は移植後の最初の月に最高頻度であった。図1Cは、種々の患者クラスに関する、移植後の時間の関数としての、分析されたサンプルの数を示す。
【0134】
該コホート内の患者を、標準化移植後療法の一部として、抗ウイルス予防および免疫抑制で治療した(図1D)。維持免疫抑制は、成人心臓およびヒト移植レシピエントの場合、タクロリムスに基づくものであり、ミコフェノール酸モフェチルおよびプレドニゾンで相補された。小児患者は、シクロスポリンに基づく抗拒絶療法で治療した。CMV陽性移植レシピエント(レシピエントおよび/またはドナーに対する過去のCMV感染)は抗ウイルス予防薬で治療し、CMV陰性レシピエントにはそれを行わなかった。プロトコル設計は、移植後の最初の数か月は高用量の免疫抑制剤および抗ウイルス薬を含み、その後は、拒絶および感染のリスクが低下するにつれて用量を次第に低減する。免疫抑制に利用可能な狭い治療ウィンドウ、およびタクロリムスの薬物動態における患者間の大きなばらつきを考慮して、タクロリムスの濃度を血中で直接測定し、目標薬物レベルが維持されるように用量を調節する。図1Dは、タクロリムス治療患者に関する、血中で測定されたタクロリムスの平均レベルを示し、薬物治療プロトコルの設計を示す。
【0135】
DNA配列分析. コンピュータによるヒト由来配列の差し引き(サブトラクション;subtraction)の後、ミクロビオーム由来配列を特定した。この目的のために、重複および低品質リードを除去し、残存リードをヒト参照ゲノム[ビルド(build)hg19(BWA(LiおよびDurbin,2009),「方法」を参照されたい]にマッピングした。ついで、マッピングされていないリードを集め、低複雑度リードを除去した。図1Eは、重複およびクオリティ(quality)フィルターを適用した後の残存リード画分の分布(平均86%)、およびヒトリードの差し引きの後の残存画分の分布(平均2%)を示す。
【0136】
感染因子を特定するために、残存する、高品質の、ユニークな、非ヒトリードを、BLASTを使用して、ウイルス(n=1401)、細菌(n=1980)および真菌(n=32)ゲノムの参照データベース(NCBIからダウンロードした,図6A)に対してマッピングした。ユニーク配列決定リードの0.12%が標的ゲノムの少なくとも1つとアライメントした(図6B、C)本発明者らは、配列決定に基づくアプローチにより特定された陽性ヒットを検証するために、配列決定により特定された標的(ヘルペスウイルス4、5、6およびパルボウイルス)のサブセットを標的化する定量PCR(qPCR)アッセイを用いた。本発明者らは、配列決定とqPCRとにより測定されたウイルス数の間に定量的合致を見出した。
【0137】
本発明者らは更に、ヘルペスウイルスの検出のための配列決定アッセイの感度がqPCR測定と同等であることを見出した。したがって、配列決定アッセイに利用可能な、より大きな捕捉断面積(完全な標的ゲノムとPCRアンプリコン標的領域との比較)は、配列決定ライブラリー調製における限定的な効率およびライブラリーアンダーサンプリングにより引き起こされる、配列決定におけるシグナル低下を克服するのに十分である。該研究における全サンプルにわたる配列決定を用いて測定された最高CMV負荷は、臨床的に診断された播種性CMV感染に罹患した2名の成人心臓移植患者に対応した(図6Eを参照されたい)。
【0138】
DNA抽出および配列決定ライブラリー調製に使用する試薬における潜在的混入の存在を試験するために、本発明者らは2つの対照実験を行った。第1に、既知鋳型(Lambda gDNA,Pacbio Part no:001-119-535)を有する2個のサンプルを調製し、前記のワークフローにより配列決定用DNAを精製した(Illumina Miseq,340万個および350万個のリード)。ラムダ由来配列を除去し、残存配列(0.4%)を前記のBLAST参照データベースとアラインメントさせた。本研究において考察されている種々の感染因子に関する証拠は見出されなかったが、本発明者らは、エンテロバクテリアセエ(Enterobacteriaceae)細菌科(プロバクテリア(Proteobacteria)門)、主として大腸菌(E.coli)および腸内細菌ファージ(<1%)に関連した配列を検出した。これらは、おそらく、ラムダDNA培養の残遺物であろう。第2の対照において、本発明者らはヌクレアーゼ非含有水から配列決定用サンプルを調製した。該サンプルを、この研究に無関係なサンプルと共に、配列決定の実施において使用し、限られた数の配列のみ(合計15個)を採用し、これは2つの細菌種のゲノムにマッピングされた。この場合もまた、後記で考察される感染因子の証拠は見出されなかった。
【0139】
本発明者らは、種の相対存在度の最尤推定を行うためにBLASTで得られた配列類似性データを利用するツールであるグラミー(Grammy)を使用して、分類学的分類の種々のレベルにおける血漿中のミクロビオーム組成を調べた。GRAMMyはリード帰属の曖昧さおよび標的ゲノムサイズにおける相違を考慮する。このアプローチは、参照データベースにおいてゲノムデータが利用可能な種の存在度の評価しか可能にしないことに注意すべきである。図1Fは分類学的分類の種々のレベルにおける種の相対存在度を示す(全てのサンプルの平均)。本発明者らは、ウイルス(73%)が細菌(25%)および真菌(2%)より豊富に表されることを見出している(図1Fパネルa)。ウイルスのうち、ssDNAウイルスはdsDNAウイルス(28%)より大きな比率(72%)を占めることを、本発明者らは見出している。7個の異なるウイルス科が見出されており(存在度>0.75%)、1つの優勢な科であるアネロウイルス科(Anelloviridae)が全集団の68%を占めた(図1F、パネルb)。そのアネロウイルス科の比率の大部分(97%)はアルファトルクウイルス(Alphatorquevirus)属のウイルスから構成される(図1F、パネルc)。アルファトルク属はトルクテノウイルス(TTV)の属であり、14個の異なるトルクテノ・ビロタイプ(virotype)に関連した配列が特定された(図1、パネルd)。ポリオーマウイルスによる感染はヒト集団において広がっており、実質臓器移植後の最初の年にはポリオーマウイルスDNA血症が珍しくない。ポリオーマウイルス由来配列は、本コホート内の36名の患者に対応する75個のサンプル(11%)において見出された。BK(41%)、JC(27%)、TS(4%)、WUポリオーマウイルス(6%)、SV40(6%)および最近発見されたHpyV6(13%)の存在の証拠(Schowalterら,2010)が見出された(図1F、パネルe)。細菌のうち、プロテオバクテリア(Proteobacteria)(36%)、フィルミクテス(Firmicutes)(50%)、アクチノバクテリア(Actinobacteria)(10%)、バクテロイデテス(Bacteroidetes)(4%)は、該サンプルにおいて最も豊富に表された門(系統)である(図1F、パネルf)。
【0140】
この研究に利用可能な比較的短いリード(50bp)の潜在的な不正確な帰属を調べるために、本発明者らは、サンプル(n=55)のサブセットのために収集された、より長いペアエンド(paired-end)リード(2×100bp)に基づいて、リード長に対する存在度評価の依存性を調べた。本発明者らは、50bpのサブリードおよび100bpのリードに基づく存在度推定が、本明細書に記載されている分類学的分類の全てのレベルに関して類似していることを見出した(図6F)。
【0141】
薬物投与に対するウイローム組成の感受性. 薬物投与に関する入手可能な臨床データを用いて、薬物-ミクロビオーム相互作用を分析した。ここで、本発明者らは、タクロリムスに基づく抗拒絶プロトコルで治療された成人心臓および肺移植患者に関するデータを調べ(47名の患者および380例の観察)、それにより、シクロスポリンで治療された小児患者、および薬物不耐性の問題ゆえにタクロリムスからシクロスポリン免疫抑制へと切り換えられた患者を除外した。処方抗ウイルス薬用量(バルガンシクロビル)および血中のタクロリムスの測定レベルに関するデータを個々の患者の記録から集め、種々の薬物レベルに対応するサンプルの平均組成を抽出した。用量の変化に対するミクロビオーム組成の遅延効果を考慮するために、薬物レベルおよび用量データは、スライドウィンドウ平均フィルターで処理された(図1Cおよび図7A~Cを参照されたい;ウィンドウサイズ45日)。
【0142】
本発明者らは、ミクロビオームのウイルス成分の構造が薬物投与量の感受性関数であることを見出している(47名の患者、380個のサンプル、図2A)。しかし、後記で更に考察するとおり、ミクロビオームの細菌成分の構造は薬物療法によっては有意には変化しなかった(図7D)。患者が低用量のバルガンシクロビルおよびタクロリムスの投与を受けた場合には、ヘルペスウイルス科およびカウドウイルス目がウイロームにおいて優勢であった。これとは対照的に、高用量の免疫抑制剤および抗ウイルス剤は、アネロウイルス科(高い薬物レベルで94%まで占有)が優勢であるウイローム構造をもたらした。抗ウイルス予防はCMV疾患を予防すると意図されるが、他のヘルペスウイルスも該薬物に感受性であり、したがって、より高い用量のバルガンシクロビルが、より低い比率の、ヘルペスウイルス目のウイルスをもたらすことは、驚くべきことではない。アネロウイルス科ウイルスが宿主免疫系の抑制を利用するという観察は文献からの種々の観察と合致している。すなわち、アネロウイルス科ウイルスの発生がHIV患者におけるエイズへの進行と共に増加すること、およびアネロウイルスTTVの全負荷が肝臓移植後に増加することが既に示されていた。更に、発熱を示す小児患者におけるアネロウイルス科ウイルスの保有率の増加が最近報告された。
【0143】
次に、臓器移植レシピエントに関して測定されたウイローム組成を、免疫抑制剤も抗ウイルス剤も使用しない状態の、健常個体(n=9、過去の研究から入手可能な配列決定データ)において観察された組成と比較する。ここでは、健常組成を、最小薬物曝露に対応する薬物療法開始時(術後第1日、n=13)の臓器移植レシピエントに関して測定された組成、および高い薬物レベルに曝露された移植レシピエント(移植処置からかなりの時間の後、タクロリムス9ng/ml、バルガンシクロビル600mg、n=68)に関して測定された組成と比較する。本発明者らは、健常参照サンプルおよび最小薬物曝露に対応するサンプルに関して類似のウイローム組成を見出している(図2B)。しかし、健常参照および最小薬物曝露サンプルの組成は、高薬物曝露サンプルに関して測定されたアネロウイルス優勢組成とは異なっている。
【0144】
タクロリムスに基づく免疫抑制療法は、移植後の最初の3日間において、導入療法(抗胸腺細胞グロブリン、ダクリズマブまたはバシリキシマブ)で相補され、患者は更に、移植後療法の全体にわたってコルチコステロイドであるプレドニゾンの投与を受ける。プレドニゾンおよびタクロリムスの時間-投与プロファイルは類似している(療法の開始時には高い用量、ついで用量漸減)(図7A~C)。したがって、図2Aにおけるデータはプレドニゾンおよびタクロリムスの複合効果を表している。ウイローム組成に対するプレドニゾンおよびバルガンシクロビルの示差的効果の分析(図7E)は、図2Aにおいて観察されているのと同じ傾向を示しており、より高いプレドニゾン用量は、アネロウイルスの、より大きな表現(representation)をもたらす。最後に、本発明者らは、患者の一部が抗ウイルス薬で治療されなかったことに注目している。患者のこの一部に対応するデータは、後記のとおり、ウイロームの組成に対する抗ウイルス薬および免疫抑制剤の差示的効果を本発明者らが更に解明することを可能にした。
【0145】
ミクロビオーム多様性の分割. 本発明者らはミクロビオームの細菌およびウイルス成分の多様性を調べた。細菌およびウイルスの両方に関して、被験者内多様性は被験者間多様性より低かった(ブレイ-カーティス・ベータ多様性、門レベルの細菌組成、科および目レベルのウイルス、図2C)。移植型、心臓もしくは肺または年齢による患者に関するデータの分割は多様性を低減しなかった。被験者内では、1カ月の期間内に集められたサンプルについては、この場合も細菌およびウイルスの両方に関して、多様性はより低かった。細菌ではなくウイルスに関しては、本発明者らは、類似した薬物投与量(タクロリムスレベル±0.5ng/ml、バルガンシクロビル±50mg)において集められたサンプルを比較した場合、多様性がより低いことを見出している。したがって、図2Aにおける薬物投与に対する集団平均の感受性と総合すると、本発明者らは、同じ薬物療法に付された患者に関するウイロームの組成が類似状態に収束することを見出している。
【0146】
薬物用量変化に対するウイロームの動的応答. 薬物投与量の変化に対するウイロームの強力な時間的応答が観察され、これは薬物投与量に対するウイローム組成の感受性と合致している。図3AはssDNAおよびdsDNAウイルスの相対ゲノム存在度の時間依存性を示している(全患者群およびサンプルからのデータ,n=656)。ssDNAウイルスの比率は移植後の最初の月に急速に増加し、ついで、6カ月以降には逆の傾向を示す。図3Bは、科および目のレベルで分類された最も豊富なウイルスの時間依存的相対組成を示し、ウイローム組成動態に関する更なる詳細を示す(全患者群およびサンプルからのデータ,n=656)。dsDNA比率はカウドウイルス目、アデノウイルス科、ポリオーマウイルス科およびヘルペスウイルス科からなり、これらは全体で、移植後第1週におけるウイロームの95%を占める。ssDNAウイルスは初期ウイロームの5%を占めるに過ぎず、主としてアネロウイルス科のメンバーからなる。アデノウイルス科、カウドウイルス目およびヘルペスウイルス科により占められる比率は最初の数か月で著しく減少する。なぜなら、これらのビロタイプは抗ウイルス予防薬によって有効に標的化されるからである。これとは対照的に、アネロウイルス科ウイルスの相対存在度は急速に増加する。なぜなら、これらのビロタイプは大部分が抗ウイルス薬による標的化を逃れ、患者の免疫能の低下を利用するからである(4.5~6カ月において最大84%)。臓器移植処置の6カ月後には反対の傾向が観察され、これは、治療プロトコルにより処方された抗ウイルスおよび免疫抑制薬における低減と合致している。
【0147】
ウイルス成分と比較して、微生物の細菌成分は経時的に比較的安定なままであり、これは、門、目および属の分類レベルにおいてなされた観察である(図3C,n=656および図S3)。図3Dは時間の関数としての細菌およびウイルス属に関するサンプル内アルファ多様性を示す(シャノン・エントロピー、1カ月の期間、590個の細菌属、168個のウイルス属を検査)。観察されたウイルス属の多様性は治療の開始時に減少し(第1月における1.05±0.5から第4~5月における0.31±0.33、p<<10-6、マン-ホイットニーU検定)、一方、細菌のアルファ多様性は移植後療法の経過中に比較的不変のままである(第1月における2.2±1.14から第4~5月における2.6±0.85、p=0.1、マン-ホイットニーU検定)。
【0148】
移植後療法の開始時の全ウイルス負荷の増加. 全ウイルス負荷に対する治療薬の効果に関する洞察を得るために、本発明者らは、ヒトゲノムの被覆率に対してウイルス標的のゲノム被覆率を正規化することにより、ヒトゲノムコピー数に対する全ウイルスの絶対的ゲノム存在度を抽出した。この研究の全患者群に関して、移植型(心臓または肺)または年齢(成人または小児)には無関係に、全ウイルス負荷の増加が治療開始時に観察される(図4A)(負荷の変化、7.4±3、シグモイドフィット、黒線)。相対存在度データと組合せて、全ウイルス負荷データは、抗ウイルス剤および免疫抑制剤で同時に治療された患者に関して、移植後の最初の3カ月間におけるヘルペスウイルス科負荷の正味の減少およびアネロウイルス科負荷の正味の増加を示している。
【0149】
したがって、該データは種々のビロタイプに対する抗ウイルス剤と免疫抑制剤との組合せの示差的効果を示している。該データは全アデノウイルス科負荷の減少をも示しており、これは、アデノウイルス科ウイルスの複製が、過去の研究と合致して、バルガンシクロビルにより抑制されることを示している。図4Bは全移植型に関するデータを要約しているが、異なる移植型によって層化した場合に同じ傾向が観察される[成人心臓移植レシピエント(n=268、図9A)、成人肺移植レシピエント(n=166、図8B)およびタクロリムスではなくシクロスポリンで治療された小児患者(n=99、図9C)]。
【0150】
該研究コホート内の全ての患者が抗ウイルス薬および免疫抑制薬の両方の投与を受けたわけではない。ドナーおよびレシピエントの両方がCMV抗体アッセイにおいて過去のCMV感染の証拠を示さない移植例の場合、抗ウイルス予防による合併症のリスクが、新たに獲得されるCMV感染の潜在的リスクより重要であると判断され、したがって、患者は抗ウイルス予防薬では治療されない。したがって、これらの患者は免疫抑制剤のみで治療される。図9CはCMV陰性例の時間依存的ウイルス負荷および組成を示す(n=75)。免疫抑制のみの療法の正味の効果は、ヘルペスウイルス科およびアデノウイルス科を含む全ビロタイプの増加である。免疫抑制の漸減は全ウイルス負荷の減少を招く。
【0151】
移植拒絶エピソードを有する患者における、より低いアネロウイルス負荷. 免疫抑制の程度とのアネロウイルス負荷の相関性(図2Aおよび図4を参照されたい)、そして免疫能と拒絶のリスクとの関連性を考慮して、本発明者らは、拒絶および非拒絶移植レシピエントの分類のためにアネロウイルス負荷が用いられうるかどうかを問うた。図5Aは、移植後の時間の関数としての、拒絶および非拒絶患者に関して測定されたアネロウイルス負荷を示す。ここでは、患者が、生検により決定された中等度または重度の少なくとも1つの拒絶エピソード、生検等級2R/3Aを有する場合、患者は拒絶と分類される(赤色;20名の患者、177個のデータ点)。非拒絶患者は、移植後の経過の全体にわたって中等度または重度の移植片損傷を受けているとは診断されない患者に対応する(青色;生検等級<2R/3A、40名の患者、285個のデータ点)。
【0152】
図5Aは、拒絶個体に関してはほぼ全ての時点においてアネロウイルス負荷が有意により低いことを示している。本発明者らは次に、拒絶時の患者に関するアネロウイルス負荷を、拒絶の非存在下の患者に関して測定された負荷と直接的に比較した。前記のアネロウイルス負荷の時間依存性(図5A)を考慮して、本発明者らは、同じ時点で全サンプルに関して測定された平均負荷に対してアネロウイルス負荷を抽出した。図5Bは、軽度の拒絶事象を有する患者(生検等級1R、N=102)および重度の拒絶エピソードを有する患者(生検等級2R/3A、N=22)に関して測定された負荷と比較した、非拒絶患者(N=208)に関する時間正規化負荷を示す。この図は、時間正規化負荷が、より大きな拒絶リスクを有する患者に関して、有意により低いことを示している。p値は、測定点の、より大きな量を有する集団の無作為抽出により計算される。p=総和(中央値(Arej)>中央値(Anon-rej))/N,ここで、N=10であり、ArejおよびAnon-rejは、それぞれ、拒絶および非拒絶の、より大きなおよびより小さなリスクの集団に関する相対ウイルス負荷である(p=0.011,p=0.0002およびp=0.036)。
【0153】
これらの観察は、拒絶のリスクおよび感染の発生が患者の免疫能と逆の関連性を有するという見解と合致している(インセット図5Aを参照されたい)。したがって、拒絶患者に関して観察された、より低いウイルス負荷は、これらの患者が同じ免疫抑制プロトコルで治療された場合であっても、患者のこの亜群における、より高いレベルの免疫能を示す。免疫機能の抑制に対する感受性における患者間のばらつきが生じることが知られており、免疫抑制における予測可能性の欠如は移植における重要なリスク因子である。免疫能の測定のために現在用いられている商業的アッセイが急性拒絶または有意な感染を予測することは判明していない。したがって、既存のアッセイに取って代わりうる又はそれを相補しうる免疫能の直接測定のための方法の開発が重要であろう。臓器移植レシピエントにおいて記録される全アネロウイルス負荷は代替的マーカーとして働きうるであろう。図5Cは受信者動作特性を示し、非拒絶および拒絶患者の分類における相対アネロウイルス負荷の性能を試験している(曲線下面積=0.72)。
【0154】
本発明者らは、レシピエントの血漿中の無細胞DNAを配列決定することにより、実質臓器移植後の薬物-ミクロビオーム相互作用を研究した。該データは血漿中のヒトウイロームの基本構造に関する多くのことを示しており、そして、それがどのようにして薬理学的摂動(pharmacological perturbation)に応答するかについて示している。それらはまた、ミクロビオームの細菌成分の組成の免疫抑制に対する相対的非感受性を示している。これらのデータは移植後治療プロトコルの設計および最適化において有用である。例えば、それらは、初期の高用量からの抗ウイルス予防薬の漸減がヘルペスウイルス科画分の復活を招くことを示している。CMV DNA負荷はCMV疾患の再発および拒絶を予測することが既に示されており、患者はより長期の予防療法から利益を得るのかどうかという疑問が生じている。
【0155】
免疫抑制の際のアネロウイルス科ウイルスの存在度の顕著な増加も更に検討に値する。アネロウイルスはヒト集団に遍在しており、病原性は確認されていないものの、アネロウイルスは発癌における潜在的補因子として現在研究されている。移植レシピエントにおいて見られる癌発生の増加を考慮すると特に、免疫抑制に対してアネロウイルス科ウイルスが感受性であることにより、臓器移植は、アネロウイルス科ウイルスの特性の研究のための理想的な状況となる。拒絶エピソードを有する患者におけるアネロウイルスの平均未満の負荷の観察は、これらの患者がプロトコールに従い処方されたレベルの免疫抑制剤を受けていたとしても、この患者亜群において免疫抑制が不十分であることの指標となる。これは、循環薬物レベルの測定に加えて、患者の免疫能のレベルを直接的に測定することを可能にするアッセイを設計することが有効であることを示唆している。移植レシピエントの血液において特定されるアネロウイルスの全負荷は、そのような個々の患者の免疫抑制の全体的状態を示すマーカーの1つとして働きうる。
【0156】
ハイスループットDNA配列決定は感染の無仮定(hypothesis-free)診断において有用である。感染は移植において頻繁に生じ、免疫抑制状態の個体において診断することが困難であることを考慮すると、そして配列分析は、血中を循環するドナー由来ヒトDNAの定量により移植片の健全性に関する情報を更に提供しうることを考慮すると、このアプローチは移植の場合に特に適している。感染症の他の領域においては、ヒトDNAを排除しウイルスおよび微生物由来のDNAを富化させるための差し引き法(減法;subtractive method)を開発することが有用でありうる。
【0157】
実験方法
臨床サンプルの収集:患者をStanford University Hospital(SUH)またはLucile Packard Children’s Hospital(LPCH)において登録し、彼らが多臓器移植のレシピエントであった場合には除外された。この研究はStanford University Institutional Review Board(プロトコール # 17666)により承認され、登録は2010年3月に開始された。患者の募集および患者の移植後治療の詳細に関しては、詳細な実験方法の節を参照されたい。
【0158】
血漿加工およびDNA抽出:血漿を、既に記載されているとおりに(Fanら,2008)、サンプル収集から3時間以内に全血サンプルから抽出し、-80℃で保存した。分析に必要な場合には、血漿サンプルを解凍し、QIAamp循環核酸キット(Circulating Nucleic Acid Kit)(Qiagen)を使用して、0.5~1mlの血漿から循環DNAを直ちに抽出した。
【0159】
配列決定ライブラリーの調製および配列決定:標準的なIlluminaインデックス付きアダプター(IDTから購入)と共にIllumina用のNEBNext DNA Library Prep Master Mix Setを使用して、あるいはマイクロフルイディクスに基づく自動化ライブラリー調製プラットフォーム(Mondrian ST,Ovation SP Ultralowライブラリーシステム)を使用して、患者の精製血漿DNAから配列決定ライブラリーを調製した。ライブラリーを、Agilent 2100 Bioanalyzer(High sensitivity DNA kit)を使用して特徴づけし、qPCRにより定量した。サンプルは26個の異なる配列決定実施の一部であり、22カ月にわたって配列決定された。1レーン当たり平均6個のサンプルが配列決定された。
【0160】
移植後モニタリングおよび臨床サンプル収集. この分析は、胸部臓器移植後の急性および慢性拒絶ならびに同種移植の失敗の診断のためのドナー由来無細胞DNAアッセイの臨床的有用性を研究するための、米国国立衛生研究所(National Institutes of Health)(RC4 AI092673)により資金提供された前向きコホート研究の下位研究に相当する。Stanford University Hospital(SUH)またはLucile Packard Children’s Hospital(LPCH)において心臓または肺移植を受けた患者を登録し、彼らが多臓器移植のレシピエントであった場合または彼らが移植後にSUHまたはLPCH以外の施設で追跡観察された場合には、彼らは除外された。この研究はStanford University Institutional Review Board(プロトコル # 17666)により承認され、登録は2010年3月に開始された。
【0161】
移植後治療プロトコル、成人心臓移植レシピエントの詳細. 移植後免疫抑制は、メチルプレドニゾロン500mgを手術直後に投与し、ついで125mgを8時間ごとに3用量投与することからなるものであった。抗胸腺細胞グロブリン(rATG)1mg/kgを術後第1、2および3日に投与した。維持免疫抑制は、術後第1日からプレドニゾン20mgを毎日2回投与し、術後第6月までに0.1mg/kg/日未満に漸減し、心内膜心筋生検が細胞拒絶の証拠を示さなかったら更に漸減することからなるものであった。タクロリムスの投与を術後第1日から開始し、第0~6月には10~15ng/ml、第6~12月には7~10ng/ml、そしてその後は5~10ng/mlのレベルが維持されるように用量を更に調節した。ミコフェノール酸モフェチルの投与を術後第1日から毎日2回、1,000mgで開始し、白血球減少症に対応するために必要に応じて用量調節を行った。
【0162】
ドナーおよびレシピエントの両方がCMV陰性でない限り、全ての患者が、術後第1日から開始され1時間ごとの、腎機能に応じて調節される5mg/kg(IV)のガンシクロビルからなる標準的なCMV(抗ウイルス)予防薬の投与を受けた。レシピエントは、経口投薬に耐えうる場合には、1日2回、2週間にわたるバルガンシクロビル900mgの投与の開始に付され、ついで術後第6月までは900mgの毎日の投与に付され、ついで術後第12月までは450mgの毎日の投与に付され、術後第12月に抗ウイルス予防を中断した。白血球減少症の場合にはバルガンシクロビルの用量低減を行った。CMV+ 同種移植片のCMV- レシピエントはまた、CMV過免疫グロブリン 150mg/kg IVの投与を移植の72時間以内に受け、100mg/kgの投与を移植後第2、4、6および8週に受け、50mg/kgの投与を移植後第12および16週に受けた。
【0163】
CMV 同種移植片のCMV レシピエントは2012年5月までは抗ウイルス予防薬で治療されなかった。ついでこれらのレシピエントはアシクロビル400mgで1日2回、1年間にわたって治療された。抗真菌予防は移植後の最初の3カ月間の毎日のイトラコナゾール300mgの投与からなり、ニューモシスチス・ジロベシ(pneumocystis jiroveci)感染に対する予防はトリメトプリム/スルファメトキサゾール、80mg TMP成分の毎日の投与からなるものであった。ニューモシスチス感染に対する予防は無期限に継続され、TMP-SMXに不耐性の患者はアトバコン(atovaquone)、ダプソン(dapsone)または吸入ペンタミジン(pentamidine)で治療された。
【0164】
全ての心臓移植レシピエントを、予定された移植後間隔(第1月には毎週、第3月までは隔週、第6月までは毎月、ついで第9、12、16、20および24月)で行う監視(surveillance)心内膜心筋生検により、急性細胞拒絶に関してモニタリングした。生検をISHLT 2004改訂等級尺度(0、1R、2R、3R)に従い等級分けした(29)。移植後の以下の時点で心臓移植レシピエントから血液サンプルを収集した:第2、4および6週;第2、2.5、3、4、5、6、8、10、12、16、20および24月。心臓移植レシピエントの一部からは移植後第1日にも血液サンプルが収集された。血液サンプル採取および心内膜心筋生検を同じ日に行った場合には、生検処置の前に血液を収集することを確実に守るように注意した。
【0165】
小児心臓移植レシピエント. 誘導免疫抑制は最初はダクリズマブ(daclizumab)1mg/kg IVの2週間ごとの合計5用量の投与からなるものであり、2011年8月からは、術後第0および4日にバシリキシマブ(basiliximab)10~20mg IVに切り換えた。レシピエントはまた、直ちにパルス・メチルプレドニゾロン 10 mg/kg IVで8時間ごとに3用量にわたって治療され、ついでプレドニゾン 0.5 mg/kgで1日2回、移植後の最初の14日間にわたって治療され、ついでコルチコステロイドは、急性拒絶が無ければ、移植後1年の間に漸減された。
【0166】
カルシニューリン阻害は、主として、移植後第0~3月には300~350ng/ml、第4~6月には275~325ng/ml、第7~12月には250~300ng/ml、そして移植後第12月より後は200~250の目標レベルのシクロスポリンの投与からなるものであった。シクロスポリンに不耐性の患者はタクロリムスで治療された。日和見感染症に対する予防および監視(surveillance)心内膜心筋生検のためのプロトコルは成人心臓移植レシピエントの場合と同様であった。
【0167】
肺移植レシピエント. 移植後免疫抑制は、メチルプレドニゾロン 500~1000mgを手術直後に投与し、ついで0.5mg/kg IVを1日2回投与することからなるものであった。誘導免疫抑制のために第0および4日にバシリキシマブ 20mg IVを投与した。維持免疫抑制は、メチルプレドニゾロン 0.5mg/kg IVを術後第0~3日に1日2回投与し、ついでプレドニゾン 0.5mg/kgを第30日まで毎日投与し、ついで移植後第6~12月には2~3カ月ごとに0.1mg/kg(1日量)へと漸減することからなるものであった。タクロリムスの投与を術後第0日に開始し、第0~6月には12~15ng/ml、第6~12月には10~15ng/ml、そしてその後は5~10ng/mlのレベルが維持されるように用量を調節した。ミコフェノール酸モフェチルの投与を術後第0日から毎日2回、500mgで開始し、白血球減少症に対応するために必要に応じて用量調節を行った。抗ウイルス、抗真菌およびPCP予防は成人心臓移植コホートの場合と同様であった。
【0168】
全ての肺移植レシピエントを、移植後第1.5、3、6、12、18および24月に行う経気管支生検プロトコルにより、急性細胞拒絶に関してモニタリングした。症状または肺機能試験の結果に基づいて、臨床上の理由により適応する場合には、生検を行った。以下の間隔で研究目的で肺移植レシピエントから血液サンプルを収集した:移植後第1日に2回、第2日に2回および第3日に1回、ついで第1および2週、ならびに第1.5、2、3、4.5、6、9、12、18および24月。パー・プロトコルおよび臨床的に適応した生検の実施の前に血液サンプルを採取した。
【0169】
病原体由来配列の特定のためのワークフロー. Cベースユーティリティ(C-based utility)fastq.cppを使用して、厳密な重複体を除去した。fastxパッケージ(fastq quality filter -Q33 -q21 - p50)の一部であるクオリティ(quality)フィルターを使用して、低品質リードを除去した。ついで、BWAを使用して、残存リードをヒト参照ゲノムビルドhg19(bwaaln - q25)にアライメントさせた。samtools(samtools view -f4)を使用して、マッピングされていないリードを収集し、Seqclean(seqclean -l 40 -c 1)を使用して低複雑度リードを除去した。ついでリードを、選択されたウイルス、細菌および真菌参照ゲノムならびに全参照体(ncbi fungiでダウンロードされたもの)に対してアライメントさせた。
【0170】
図6Aはゲノムサイズの分布を示す。BLASTアライメントのために以下のパラメータを用いた:リウォード(reward)=1、ペナルティ= 3、ワード サイズ=12、ギャップオープン=5、ギャップエクステンド(gapextend)=2、e値=10 、同一性%(perc_identity)=90、選別限界(culling limit)=2。45より短いアライメント長を有するBlastヒットを除去した。サンプルのサブセットに関しては、より長いリードが利用可能である(23 100bp、n=55)。ゲノム存在度推定の頑強性(ロバストネス)を試験するために、組成測定の長さ依存性を調べた。ここでは、リードを40、50、65、80および100bpの長さに調節し(fastx trimmer)、前記ワークフローを用いて分析した。ここでは、37、45、59、72および80bpより短いアライメント長を有するblatヒットを、それぞれ40、50、65、80および100bpのリードのために除去した。ゲノム存在度推定. 相対ゲノム存在度推定をGRAMMyで計算した。このツールはBLAST由来核酸配列類似性データを利用して、サンプルにおける種の相対存在度の最尤推定を行う。GRAMMyはBLASTアライメントマトリックス(E-スコア、アライメント長および同一性率)によりヒットをフィルターにかけ、候補参照ゲノムの相対存在度の評価におけるリード帰属の曖昧さおよび標的ゲノムサイズを考慮する。Grammyは、以下のパラメータを用いて呼び出された:python grammy rdt.py;python grammy pre.py -q ‘‘40,40,1’’インプットセット(input set);python grammy em.py -b 5 -t 0.0001 -n 100 input.mtx;grammy post.py input.est setinput.btp.。
【0171】
株レベル存在度評価を組合せて、より高い分類学的レベルの存在度における存在度を得るために、カスタムスクリプトを使用した。ここでは、Taxtasticを使用して、参照データベースに関する最小タクソノミーを構築した。
【0172】
絶対的ウイルス負荷の定量. サンプルにおける感染因子の負荷を定量するために、blastヒットの結果を収集し、カスタムスクリプト(Bioperl)を使用して各リードに関して最良ヒットを選択した。図6Bは、配列決定された100万個のユニーク分子当たりのユニークウイルス、細菌および真菌blastヒットの数の分布を示す。図6Cは、サンプル中に存在するヒトゲノムコピーの数と比較されたウイルス、細菌および真菌ゲノムコピーの数を示す。感染因子のゲノムの被覆率はヒトゲノム被覆率に対して正規化された。
【0173】
選択されたウイルス標的に関する配列決定結果のqPCR検証. ヒトヘルペスウイルス4、5および6ならびにパルボウイルスの定量のための標準的qPCRキット(PrimerDesign,genesig)を用いて、無細胞DNAサンプルのサブセットに関する配列決定結果を検証した。~1mlの血漿から抽出され、100ml Trisバッファー(50mM[pH 8.1~8.2])中で溶出されたcfDNA上でqPCRアッセイを行った。該血漿抽出およびPCR実験は、異なる施設で行った。各実験においてPCR試薬が含まれていることを検証するために、無鋳型対照を使用した。図6Dは、得られた100万個のリード当たりのblastヒットの相対数を、qPCRを用いて決定されたウイルスゲノムコピーの濃度と比較している。
【0174】
無鋳型対照. 無鋳型対照実験を行った。配列決定ライブラリーをヌクレアーゼ非含有水(S01001,Nugen)から作製した。該ライブラリーは、ライブラリー調製中の可能なサンプル間相互干渉を試験するために7個の追加的なサンプルライブラリー(無細胞ヒトDNA)と共に調製した。イルミナ(Illumina)フローセル上の十分な密度を有するクラスターの形成を保証するために、サンプルを、該研究に無関係なサンプルと共に配列決定した。該研究に無関係なサンプルは1600万個のリードを集めたが、無鋳型対照ライブラリーは、参照データベース内の2つの種[メタノカルコドカス・ジャナシュイ(methanocalcodoccus janaschii)(9ヒット)およびバシラス・サチリス(Bacillus subtillis)(5ヒット)ゲノム]にマッピングされた15個のリードを与えたに過ぎなかった。ヒト関連配列に関する証拠は見出されなかった。このことは、サンプル間汚染が低かったことを示している。
【0175】
実施例2
ミクロビオームの臨床モニタリング
実施例1に記載されている方法を用いて、CMVゲノムにマッピングされたリードをサンプルごとに定量した。感染に関して臨床的に陽性であったサンプルにおいて、CMV存在度の増加が観察された(p=7.10-9、マン-ホイットニーU検定、図10C)。本発明者らのサンプルにおけるCMV由来DNAのレベルは0.91のAUCのCMVの臨床報告に合致した。このデータは、同じ配列データを使用して、CMV監視が、拒絶のモニタリングと並行して行われうることを示しており、このことから本発明者らは他のウイルス感染症が同様にモニタリングされうるかどうかを調べた。
【0176】
本発明者らは、十分に特徴づけられた病原性ウイルスおよびオンコウイルス(図11A)ならびに共生トルクテノウイルス(TTV、アルファトルクウイルス属)を特定した。これは免疫抑制とTTV存在度との間の関連性のこれまでの観察と合致している。これらのウイルスに関する臨床試験の頻度はかなり変動し、CMV(ヒトヘルペスウイルス5、HHV-5、本発明者らのコホートにおけるn=1082の試験)は他の病原体と比較して頻繁な監視が行われた(図11A)。本発明者らは、臨床スクリーニング頻度と比較した感染の発生数(与えられたウイルスが配列決定により検出されるサンプルの数)を評価した。CMVは最も頻繁にスクリーニングされたが(335個のサンプル)、配列決定により決定されたその発生数(22個のサンプルにおいて検出)は、アデノウイルスおよびポリオーマウイルス(それぞれ4つの場合および1つの場合に臨床的に試験された;図11A)を含む通常にはスクリーニングされなかった他の病原体の場合に類似していた。
【0177】
アデノウイルスは、肺移植レシピエントにおける移植片喪失を引き起こしうる市中感染呼吸器感染因子であり、小児患者に対して特に高いリスクをもたらす。アデノウイルスに関して陽性試験結果を示した1人の小児患者(L78、図11Bパネル1)からサンプルを収集した。この患者はコホート全体において最高のアデノウイルス由来DNA負荷をも示した。試験は典型的には小児肺移植例に限定されるため臨床的にスクリーニングされなかった数人の他の成人移植患者(例えば、L34、図11Bパネル1)において、持続的なアデノウイルス負荷が更に観察された。
【0178】
ポリオーマウイルスは腎臓移植後の同種移植片拒絶の主要原因であるが、それは通常は肺移植後監視には含まれない。本発明者らは、この病原体に関して試験されなかった2名の患者(L57およびL15、図11Bパネル2)においてポリオーマウイルスを検出した。どちらの場合にも、臨床記録は、ポリオーマウイルス感染から生じた可能性のある持続性腎不全を示した。
【0179】
感染の広範かつ無仮定スクリーニングの利益の最後の例において、本発明者らは、実質臓器移植後に合併症を引き起こしうるオンコウイルスであるヒトヘルペスウイルス(HHV)8(図11Bパネル3)の高い負荷を示した患者を調べた。この患者(L58)は、HHV-8再活性化を刺激する可能性を有する2つの他のヘルペスウイルス(HHV-4aおよびHHV-5)に関して陽性試験結果を示した。HHV-8に関する移植後モニタリングは特定の臨床状況においてのみ推奨されるが、配列決定の使用は、それを使用しなければ未検出となる疑われない例における該ウイルスの特定を可能にする。
【0180】
ミクロビオームの臨床モニタリング. 血清において測定されるウイルスに加えて、他の体液において検出される真菌または細菌感染[尿培養により検出されるクレブシエラ・ニューモニア(Klebsiella pneumonia)感染(ROC=0.98)およびBALにおいて検出される真菌感染を含む]と無細胞測定との間の相関性をも本発明者らは観察している。細菌および真菌相関に関する特性は、問題となる感染型および体液の両方に対して感受性であった。本発明者らは、より緊密に血液と結びついている体液に関する、より良好な特性を観察し、そしてまた、バックグラウンドシグナルに対する感受性を観察した。例えば、最も一般的に培養される細菌感染(シュードモナス(Pseudomonas))は、本発明者らの患者サンプルの80%以上で、無細胞測定において検出された。これは、本発明者らの患者サンプルの6%においてしか検出されなかった最も一般的に検出されるウイルス病原性種(CMV)と全く対照的であった。
【0181】
これは、常在菌叢の一部である共生感染(シュードモナスを含む)と、専ら病原性でありより低いバックグラウンドシグナルを有する非共生感染との間の重要な相違を強調している。この相違は、非共生体(CMVに関してAUC=0.91)と比較された場合の、一般的に培養される共生感染[例えば、シュードモナス・エルジノーサ(P.aeruginosa)および大腸菌(E.coli)に関してそれぞれAUC=0.66および0.62]に関して測定される感受性および特異性における相違を説明しうる。共生細菌の場合、臨床的な問題は存在または非存在ではなく、不適当な身体部位における存在または非存在である。
【0182】
本発明者らのコホートにおいて、本発明者らは、免疫抑制患者において腸感染症を引き起こしうる非共生真菌である微胞子虫に由来する無細胞DNAをも検出した。本発明者らは、微胞子虫症の標準的な症状を示した患者であるL78(図11Bパネル4)における持続的な微胞子虫負荷を測定した。アデノウイルス感染(L78、図11Bパネル1)が、疑われる原因であった。尤も、内視鏡検査およびS状結腸鏡検査の結果は決定的ではなく、糞便サンプルはC.diffおよびアデノウイルスに関して陰性結果を示した。本発明者らの配列決定データに基づけば、微胞子虫症が、その患者の症状に関する最も考えられうる説明である。なぜなら、この患者において測定された微胞子虫のシグナルは、微胞子虫に関して陽性試験結果を示した無関係なコホートからの患者であるI6の場合に類似しているからである。
【0183】
血漿1ml当たり100億個を超える断片を有する循環性無細胞DNAは、人間生理機能につながる情報に富む窓口であり、「ゲノム移植ダイナミクス(genome transplant dynamics)」(GTD)による癌の診断および癌の治療モニタリング、遺伝的出生前診断および心臓移植拒絶のモニタリングにおける急速に拡大している用途を有する。本研究において、本発明者らは、不良な生存率および同種移植片拒絶に関する不正確で侵襲的な試験により制限される特に困難なタイプの実質臓器移植である肺移植にGTDの原理を適用した。
【0184】
同種移植片感染および急性拒絶を示す肺移植レシピエントは類似症状を臨床的に示しうるため、本発明者らはGTDの範囲を感染症のモニタリングへと拡張した。本発明者らは、まず、移植後移植片損傷の主要原因であるCMVに由来するcfDNAと臨床試験結果との間の強力な相関性を示した。本発明者らは更に、陽性臨床試験結果および関連症状を示す患者と比較して類似した微生物cfDNAレベルを有する患者におけるアデノウイルス、ポリオーマウイルス、HHV-8および微胞子虫の未診断例を含む多数の未試験病原体を無仮定(hypothesis-free)感染モニタリングが示すことを示した。これらの例は、病原体特異的試験と比較した場合の、配列決定に基づく広範な感染モニタリングの利点を例示している。該アプローチは、感染発生および感染源の決定を補助しうる手段として直ちに用いられうる。移植の場合には、感染の発生率が高く、拒絶および感染が同時発生することがあり、そして感染および拒絶の症状を区別することが困難であるが、該アプローチはそのような移植の場合に特に重要でありうる。
【0185】
本明細書には本発明の好ましい実施形態が示され記載されているが、そのような実施形態は単なる例示として記載されているに過ぎないことが当業者に明らかであろう。本発明から逸脱することなく多数の変更、変化および置換が今や当業者に認識されるであろう。
本明細書に記載されている本発明の実施形態の種々の代替物が本発明の実施において使用されうると理解されるべきである。以下の特許請求の範囲は本発明の範囲を定めるものであり、これらの特許請求の範囲の範囲内の方法および構造ならびにそれらの均等物が本発明に含まれると意図される。
本発明は一態様において、以下のものを提供する。
[項目1]
非微生物宿主からの無細胞核酸のサンプルにおける微生物配列の存在および保有率を決定する方法であって、
(i)個体からの無細胞核酸のサンプルを準備し、
(ii)該核酸のハイスループット配列決定を行い、
(iii)バイオインフォマティクス分析を行って、分析から宿主配列を差し引き、
(iv)該非微生物宿主のミクロビオーム評価のために微生物配列の存在および保有率を決定することを含む方法。
[項目2]
複数の微生物の存在および保有率を決定する、項目1記載の方法。
[項目3]
不偏性方法により増幅された核酸サンプルに関してハイスループット配列決定を行う、項目1記載の方法。
[項目4]
少なくとも10 個の配列リードを行う、項目1記載の方法。
[項目5]
工程(iv)が、微生物参照配列に位置づけられる配列の被覆率を宿主参照配列の被覆率と比較することを含む、項目1記載の方法。
[項目6]
工程(iii)が、参照宿主配列を特定し、参照宿主ゲノム内に存在する微生物配列または微生物擬態配列をマスクすることを含む、項目1記載の方法。
[項目7]
工程(iii)が、参照微生物配列を特定し、参照微生物ゲノム内に存在する宿主配列または宿主擬態配列をマスクすることを含む、項目1記載の方法。
[項目8]
1以上の病原性微生物の存在を確認する、項目1記載の方法。
[項目9]
2以上の時点で分析を行う、項目1記載の方法。
[項目10]
前記の1以上の微生物核酸の量が感染状態または治療結果の指標となる、項目1記載の方法。
[項目11]
所定閾値を超える前記の1以上の核酸の量が感染状態または治療結果の指標となる、項目10記載の方法。
[項目12]
該サンプルが、血液、血清、尿および糞便からなる群から選択される、項目1記載の方法。
[項目13]
該核酸が、二本鎖DNA、一本鎖DNA、一本鎖DNAヘアピン、DNA/RNAハイブリッド、一本鎖RNA、二本鎖RNAおよびRNAヘアピンからなる群から選択される、項目1記載の方法。
[項目14]
該核酸が、二本鎖DNA、一本鎖DNAおよびcDNAからなる群から選択される、項目1記載の方法。
[項目15]
該ミクロビオームの評価を該個体に提供することを更に含む、項目1記載の方法。
[項目16]
該ミクロビオームの評価が治療に対する応答の決定をもたらす、項目1記載の方法。
[項目17]
該ミクロビオームの評価が人間生理機能の測定をもたらす、項目1記載の方法。
[項目18]
該ミクロビオームの評価を、該非微生物宿主に存在する微生物に関する病原性スコアを計算するために用いる、項目1記載の方法。
[項目19]
コンピュータ可読媒体であって、
(i)被験者からのサンプルにおいて検出された1以上の無細胞核酸からのハイスループットデータを受け取り、
(iii)バイオインフォマティクス分析を行って、分析から宿主配列を差し引き、
(iv)微生物配列の存在および保有率を決定する工程をコンピュータが実行するように該コンピュータ可読媒体に記録された一組の命令を含むコンピュータ可読媒体。
[項目20]
被験者からのサンプルを準備し、
該サンプルにおける1以上のミクロビオーム核酸の存在または非存在を決定し、
前記の1以上のミクロビオーム核酸の存在に基づいて免疫能を評価することを含む、個体の免疫能を評価する方法。
[項目21]
該ミクロビオームのウイローム成分を分析する、項目20記載の方法。
[項目22]
前記の1以上のウイローム核酸の量の時間的相違が免疫能状態の指標となる、項目21記載の方法。
[項目23]
該個体におけるウイルス負荷を定量することを含む、項目21記載の方法。
[項目24]
アネロウイルスのウイルス負荷に関してウイロームを分析する、項目23記載の方法。
[項目25]
該個体が免疫抑制レジメンを受けている、項目20記載の方法。
[項目26]
該個体が移植を受けている、項目20記載の方法。
[項目27]
該移植が、骨髄移植、腎臓移植、心臓移植、肝臓移植、膵臓移植、肺移植、腸移植および皮膚移植からなる群から選択される、項目26記載の方法。
[項目28]
該核酸が循環性無細胞DNAである、項目20記載の方法。
[項目29]
前記の1以上の核酸の存在または非存在を、配列決定、核酸アレイまたはPCRからなる群から選択される方法により決定する、項目20記載の方法。
[項目30]
前記の1以上の核酸の量が移植状態または結果の指標となる、項目20記載の方法。
[項目31]
所定閾値を超える前記の1以上の核酸の量が移植状態または結果の指標となる、項目30記載の方法。
[項目32]
該閾値が、移植拒絶または他の病状の証拠を示さない臨床的に安定な移植後患者に関する規範値である、項目30記載の方法。
[項目33]
移植の結果または状態によって異なる所定閾値が存在する、項目30記載の方法。
[項目34]
免疫能の評価に従い該個体を治療することを更に含む、項目30記載の方法。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F-a】
図6F-b】
図6F-c】
図6F-d】
図6F-e】
図6F-f】
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図11A
図11B