(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】液滴吐出ヘッド及びその駆動回路
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20240311BHJP
B41J 2/015 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
B41J2/14 611
B41J2/14 301
B41J2/015 101
(21)【出願番号】P 2019142365
(22)【出願日】2019-08-01
【審査請求日】2022-07-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003562
【氏名又は名称】東芝テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】仁田 昇
【審査官】大浜 登世子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-063581(JP,A)
【文献】特開2003-211665(JP,A)
【文献】特開2018-202643(JP,A)
【文献】特開2003-072069(JP,A)
【文献】特開2010-228100(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴吐出ヘッドのノズルから液滴を吐出させるための複数の駆動素子を駆動する駆動回路であって、
前記複数の駆動素子のそれぞれの一端に接続され、前記複数の駆動素子のそれぞれに駆動波形を与える複数の個別駆動回路と、
前記複数の駆動素子のそれぞれの他端に共通に接続されたコモン端子に一端を接続し、他端をグラウンド端子に接続してなる静電容量素子と、
前記静電容量素子と前記コモン端子との接続点に、抵抗素子を介して正の電圧を印加する定電圧回路と、
前記複数の駆動素子毎に駆動信号を生成し、その複数の前記駆動信号を前記複数の個別駆動回路にそれぞれ出力する駆動信号生成回路と、
を具備し、
前記複数の個別駆動回路は、それぞれ前記駆動信号生成回路から出力された前記駆動信号を受けて、対応する前記駆動素子にその
前記駆動信号に応じた駆動波形を与えるように動作
し、
前記駆動素子は、印可電圧の増減に対する変位量のカーブがバタフライ特性を有する圧電素子であり、前記定電圧回路が印加する電圧を、前記バタフライ特性の変位量が底となる負の電圧の絶対値よりも小さい正の電圧とする、液滴吐出ヘッド駆動回路。
【請求項2】
前記定電圧回路は、オペアンプで構成される、請求項1記載の液滴吐出ヘッド駆動回路。
【請求項3】
前記圧電素子は、薄膜の圧電体による圧電素子である、請求項
1記載の液滴吐出ヘッド駆動回路。
【請求項4】
前記静電容量素子の静電容量は、前記駆動素子の合計静電容量よりも大きい、請求項1乃至
3のうちいずれか1項記載の液滴吐出ヘッド駆動回路。
【請求項5】
ノズルから液滴を吐出させるための複数の駆動素子と、
前記複数の駆動素子のそれぞれの一端に接続され、前記複数の駆動素子のそれぞれに駆動波形を与える複数の個別駆動回路と、
前記複数の駆動素子のそれぞれの他端に共通に接続されたコモン端子に一端を接続し、他端をグラウンド端子に接続してなる静電容量素子と、
前記静電容量素子と前記コモン端子との接続点に、抵抗素子を介して正の電圧を印加する定電圧回路と、
前記複数の駆動素子毎に駆動信号を生成し、その複数の
前記駆動信号を前記複数の個別駆動回路にそれぞれ出力する駆動信号生成回路と、
を具備し、
前記複数の個別駆動回路は、それぞれ前記駆動信号生成回路から出力された前記駆動信号を受けて、対応する前記駆動素子にその
前記駆動信号に応じた駆動波形を与えるように動作
し、
前記駆動素子は、印可電圧の増減に対する変位量のカーブがバタフライ特性を有する圧電素子であり、前記定電圧回路が印加する電圧を、前記バタフライ特性の変位量が底となる負の電圧の絶対値よりも小さい正の電圧とする、液滴吐出ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、液滴吐出ヘッド及びその駆動回路に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電素子に電圧を印加して変形させることにより圧力室内の液体を加圧して、圧力室に連通するノズルから液滴を吐出させるようにした液滴吐出ヘッドがある。液滴吐出ヘッドは、複数のノズルに対応した複数の圧力室にそれぞれ圧電素子を設けている。そして、これらの圧電素子に対して個別に駆動波形を供給するようになっている。このため各圧電素子には、圧電素子に駆動波形を供給するための個別配線と、圧電素子に基準電位を供給するためのコモン配線とが接続されている。コモン配線の一端はそれぞれ圧電素子に接続されており、他端は共通のコモン端子に接続されている。コモン端子は、グラウンド端子に接続されている。したがって、各圧電素子に供給される基準電位は、グラウンド電位となっている。
【0003】
この種の液滴吐出ヘッドにおいては、圧電素子として薄膜圧電アクチュエータが用いられる場合が多い。薄膜圧電アクチュエータは、薄膜化された圧電体をシリコン基板上にMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)プロセスで形成したものである。薄膜圧電アクチュエータの場合、印加電圧と変位量との関係はバタフライ特性を有している。すなわち、負電圧を底とする印加電圧がゼロクロスして上昇するに連れて変位量が飽和する特性を有している。このため、ゼロクロスしない領域で印加電圧を変化させる場合とゼロクロスする領域で印加電圧を変化させる場合とを比較すると、同じ変位を得るための印加電圧は、前者よりも後者の方が小さくなる。すなわち、前者よりも後者の方が、駆動電圧に対する効率が良いといえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の実施形態が解決しようとする課題は、液滴吐出ヘッドへの印加電圧を小さくして駆動電圧に対する効率を高めることができる液滴吐出ヘッド駆動回路及びこの駆動回路を用いた液滴吐出ヘッドを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態において、液滴吐出ヘッド駆動回路は、複数の個別駆動回路と、静電容量素子と、定電圧回路と、駆動信号生成回路とを備える。個別駆動回路は、液滴吐出ヘッドのノズルから液滴を吐出させるための複数の駆動素子のそれぞれの一端に接続される。個別駆動回路は、複数の駆動素子のそれぞれに駆動波形を与える。静電容量素子は、複数の駆動素子のそれぞれの他端に共通に接続されたコモン端子に一端を接続し、他端をグラウンド端子に接続してなる。定電圧回路は、静電容量素子とコモン端子との接続点に、抵抗素子を介して正の所定電圧を印加する。駆動信号生成回路は、複数の駆動素子毎に駆動信号を生成し、その複数の駆動信号を複数の個別駆動回路にそれぞれ出力する。また、複数の個別駆動回路は、それぞれ駆動信号生成回路から出力された駆動信号を受けて、対応する駆動素子にその駆動信号に応じた駆動波形を与えるように動作し、駆動素子は、印可電圧の増減に対する変位量のカーブがバタフライ特性を有する圧電素子であり、定電圧回路が印可する電圧を、バタフライ特性の変位量が底となる負の電圧の絶対値よりも小さい性の電圧とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本実施形態に係る液滴吐出ヘッドの概略構成を示すブロック図。
【
図2】駆動波形の一例とコモン端子に印加される電圧との関係を示す特性図。
【
図3】圧電素子に印加される電圧と圧電素子の変位量との対応関係を示す特性図。
【
図4】シャントレギュレータを用いて定電圧回路を構成した場合の等価回路図。
【
図6】シャントレギュレータを用いて定電圧回路を構成した場合において、抵抗素子の抵抗値を2.2kΩとした場合の駆動電圧と電圧源に流れ込む電流との対応関係を示す図。
【
図7】抵抗素子の抵抗値を1Ωとした場合の駆動電圧と電圧源に流れ込む電流との対応関係を示す図。
【
図8】オペアンプを用いて定電圧回路を構成した場合の等価回路図。
【
図9】オペアンプを用いて定電圧回路を構成した場合において、抵抗素子の抵抗値を2.2kΩとした場合の駆動電圧と電圧源に流れ込む電流との対応関係を示す図。
【
図10】液滴吐出ヘッドにおける変形例の概略構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、液滴吐出ヘッドに印加される電圧を小さくして駆動電圧に対する効率を高めることができる液滴吐出ヘッド駆動回路及びこの駆動回路を用いた液滴吐出ヘッドの実施形態について、図面を用いて説明する。
【0009】
図1は、本実施形態に係る液滴吐出ヘッド1の概略構成を示すブロック図である。液滴吐出ヘッド1は、ヘッド部10と駆動回路20とを含む。液滴吐出ヘッド1は、ヘッド部10と駆動回路20とを一体化したユニット構造である。液滴吐出ヘッド1は、例えばインク滴を吐出して印字を行うインクジェットプリンタに用いられるインクジェットヘッドである。液滴吐出ヘッド1は、インク滴以外の液滴を吐出して加工等を行う装置のヘッドであってもよい。
【0010】
ヘッド部10は、複数の圧電素子11a,11b,11c,…,11nを有している。各圧電素子11a~11nは、それぞれ図示しない圧力室に対応して設けられている。各圧力室には、それぞれ液滴を吐出するためのノズルが連通している。圧電素子11a~11nは、電圧の印加により変形する。この変形により、圧力室内のインク等の液体が加圧されて、圧力室に連通するノズルから液滴が吐出される。ここに、圧電素子は液滴吐出ヘッドのノズルから液滴を吐出させるための駆動素子として作用する。
【0011】
駆動回路20は、駆動信号生成回路21、バッファ回路22及びコモン電源回路23を含む。
【0012】
駆動信号生成回路21は、インクジェットプリンタ等の装置から与えられる出力データDATAに基づき、圧電素子11a~11n毎に駆動パルス信号Pa,Pb,Pc,…,Pnを生成する。駆動パルス信号Pa~Pnは、駆動信号生成回路21からバッファ回路22へと出力される。
【0013】
バッファ回路22は、各圧電素子11a~11nにそれぞれ対応して、バッファ22a,22b,22c,…,22nを備えている。駆動信号生成回路21において圧電素子11a~11n毎に生成された駆動パルス信号Pa~Pnは、その圧電素子11a~11nに対応したバッファ22a,22b,22c,…,22nへと出力される。各バッファ22a~22nは、駆動パルス信号Pa~Pnを受けて、その駆動パルス信号Pa~Pnに応じた駆動波形Wa,Wb,Wc,…,Wnを、対応する圧電素子11a~11nへと与える。ここに、バッファ22a~22nは、個別駆動回路として作用する。
【0014】
液滴吐出ヘッド1において、圧電素子11a~11nは、静電容量が100pFの薄膜圧電アクチュエータであり、シリコン基板上にMEMSプロセスによって形成されている。薄膜圧電アクチュエータの個数は1320個である。したがって、バッファ22a~22nの個数も1320個である。
【0015】
薄膜圧電アクチュエータからなる圧電素子11a~11nは、それぞれ個別電極12と共通電極13とを有する。そして各圧電素子11a~11nの個別電極12は、それぞれ個別配線31を介して対応するバッファ22a~22nに接続されている。各圧電素子11a~11nの共通電極13は、コモン配線32を介してコモン端子30に接続されている。コモン配線32は、圧電素子11a~11nに対して共通の基準電位を供給するためのものである。
【0016】
コモン電源回路23は、コモン端子30に対して正の電圧V3を印加するための回路である。コモン電源回路23の具体的構成については後述する。
【0017】
図2は、バッファ22aから出力される駆動波形Waの一例と電圧V3との関係を示す特性図である。
図2において、縦軸は電圧を表しており、横軸は時間を表している。また、実線は駆動波形Waを表しており、点線は4ボルトの電圧V3を表している。なお、以下では、バッファ22aについて説明するが、他のバッファ22b~22nについても同様に作用する。このため、他のバッファ22b~22nについての説明は省略する。
【0018】
駆動波形Waは、最大振幅が24ボルトであり、振幅7ボルトのパルスを4つ含むものである。このような駆動波形Waがバッファ22aに対応した圧電素子11aに与えられることにより、当該圧電素子11aが設けられた圧力室に連通したノズルから液滴が4滴吐出される。このように、駆動波形Waのパルス数は液滴の吐出数に一致する。したがって、パルス数を増減させることにより、1回の駆動波形Waで吐出される液滴の数を調整できる。インクジェットヘッドの場合、この調整により、グレースケール印字を行うことができる。
【0019】
電圧V3は、前述したように4ボルトに設定されている。したがって、駆動波形Waが圧電素子11aの個別電極に印加されている間、圧電素子11aの共通電極に印加される電圧は、コモン端子30の電圧4ボルトを維持する。
【0020】
コモン端子30の電圧4ボルトは、圧電素子11aの基準電位となる。基準電位が4ボルトの圧電素子11aに対して最大振幅24ボルトの駆動波形Waが印加されると、正味-4ボルトから20ボルトの駆動波形Waが圧電素子11aに対して印加されたこととなる。因みに、コモン端子30を直接グラウンド端子GNDに接続した場合、コモン端子30の電圧0ボルトが圧電素子11aの基準電位となる。基準電位が0ボルトの圧電素子11aに対して最大振幅24ボルトの駆動波形Waが印加されると、0ボルトから24ボルトの駆動波形Waが圧電素子11aに対して印加されたこととなる。
【0021】
図3は、圧電素子11aに印加された電圧とその変位量との対応関係を示す特性図である。
図3には左右2つの特性図が描かれているが、どちらも同じ特性を表している。
図3において、縦軸は変位量を表しており、横軸は印加電圧を表している。
図3に示すように、薄膜圧電アクチュエータを用いた圧電素子11aは、印加電圧の増減に対する変位量のカーブがバタフライ特性を有している。具体的には、変位量が底となる負の電圧から印加電圧が上昇すると変位量は急激に増大する。ただし変位量の増加率は、印加電圧の上昇に伴い小さくなり、やがて飽和する。
【0022】
このようなバタフライ特性を有する圧電素子11aに対し、0ボルトから24ボルトまでのゼロクロスしない電圧幅Vmの電圧を印加した場合、
図3の向かって左側の特性図に示すように、変位量はDmとなる。一方、当該圧電素子11aに対し、-4ボルトから20ボルトまでのゼロクロスする電圧幅Vmの電圧を印加した場合には、
図3の向かって右側の特性図に示すように、変位量はDmよりも大きいDnとなる。つまり、圧電素子11aに対して同じ電圧幅Vmの電圧を印加した場合でも、ゼロクロスした電圧を印加する場合とゼロクロスしない電圧を印加した場合とでは、前者の方が後者よりも変位量が大きくなる。
【0023】
換言すれば、-4ボルトからゼロクロスする電圧を印加した場合に変位量がDmとなるまでの電圧幅Vnは、電圧幅Vmよりも小さくなる。すなわちゼロクロスする電圧を印加した場合には、ゼロクロスしない電圧を印加した場合よりも小さい電圧幅で同じ変位量を得ることができる。ノズルから所定の吐出速度で液滴を吐出するために必要な変位量は決まっている。したがって、圧電素子の両端子間にゼロクロスしない電圧を印加する場合よりもゼロクロスする電圧を印加した場合の方が電圧幅を小さくできるので、駆動電圧に対する効率が良くなる。
【0024】
圧電素子の両端子間にゼロクロスする電圧を印加させるためには、コモン端子30に正の電圧V3を印加する必要がある。本実施形態では、コモン端子30とグラウンド端子GNDとの間にコモン電源回路23を接続することによって、コモン端子30に4ボルトの正の電圧V3を印加するようにしている。そこで次に、コモン電源回路23について具体的に説明する。なお、電圧V3は、4ボルトに限定されない。変位量が底となる負の電圧の絶対値よりも小さい正の電圧であればよい。電圧V3は、変位量が底となる負の電圧の絶対値に近い程、電圧効率は向上する。しかし電圧V3は、変位量が底となる負の電圧の絶対値に非常に近いと圧電素子が脱分極する恐れが増加する。電圧V3は、変位量が底となる負の電圧の絶対値を越えてしまうと圧電素子は脱分極してしまう。電圧V3の大きさは、脱分極の恐れが無く、かつ効率が良い適切な値に選べばよい。
【0025】
図1に示すように、コモン電源回路23は、静電容量素子231と、抵抗素子232と、定電圧回路233と、を含む。静電容量素子231は、一端をコモン端子30に接続し、他端をグラウンド端子GNDに接続している。抵抗素子232は、一端を静電容量素子231とコモン端子30との接続点に接続し、他端を定電圧回路233の正極(+)に接続している。定電圧回路233は、正極(+)を抵抗素子232の他端に接続し、負極(-)をグラウンド端子GNDに接続している。
【0026】
定電圧回路233は、静電容量素子231とコモン端子30との接続点に、抵抗素子232を介して正の電圧V3を印加するための回路である。この種の定電圧回路233は、例えばシャントレギュレータを用いて構成することができる。
【0027】
図4は、シャントレギュレータU1を用いて定電圧回路233を構成した場合の等価回路図である。シャントレギュレータU1には、例えばテキサスインスツルメンツ社のLM4041ADJを使用できる。なお、
図4において、
図1と共通する部分には同一符号を付している。
【0028】
図4において、静電容量素子C1は、その一端を電圧V1の電圧源41に接続し、他端をコモン端子30に接続している。すなわち静電容量素子C1は、全ての圧電素子11a~11nの合計静電容量を表す。本実施形態では、静電容量素子C1の静電容量を0.132μF(=132000pF)とする。
【0029】
抵抗素子R1は、その一端を電圧V2の電圧源42に接続し、他端を定電圧回路233Aと抵抗素子232との接続点に接続している。抵抗素子R1は、定電圧回路233Aに駆動電源を供給するための素子である。本実施形態では、電圧V2を18ボルトとし、抵抗素子R1を10kΩとする。
【0030】
定電圧回路233Aは、シャントレギュレータU1と、抵抗素子R2と、抵抗素子R3とで構成される。シャントレギュレータU1は、カソード端子Kを抵抗素子232の一端に接続し、アノード端子Aをグラウンド端子GNDに接続している。抵抗素子R2は、一端をシャントレギュレータU1のカソード端子Kに接続し、他端を抵抗素子R3の一端に接続している。抵抗素子R3は、一端を抵抗素子R2の他端に接続し、他端をシャントレギュレータU1のアノード端子Aに接続している。抵抗素子R2と抵抗素子R3との直列回路は、分圧抵抗として作用する。そしてこの分圧抵抗の中点PをシャントレギュレータU1のリファレンス端子Rfに接続して、定電圧回路233Aを構成している。
【0031】
かかる構成の定電圧回路233Aを含むコモン電源回路23において、静電容量素子231の静電容量は、全ての圧電素子11a~11nの合計静電容量0.132μFよりも十分に大きな値が選択される。本実施形態では、静電容量素子231の静電容量を10μFとする。因みに、静電容量素子231には高速な瞬時電流が流れるので、静電容量素子231は、圧電素子11a~11nの近くに置くことが望ましい。
【0032】
一方、抵抗素子232の抵抗値は、一回の駆動波形による圧電素子11a~11nの駆動が終了した後、次の駆動の前までに静電容量素子231の両端電圧が復帰する程度に小さく、かつ、シャントレギュレータU1に大きすぎるパルス電流を流さない程度に大きい値が選択される。本実施形態では、抵抗素子232の抵抗値を2.2kΩとする。
【0033】
図5は、抵抗素子232の作用説明に用いる回路図である。なお、
図4と共通する部分には同一符号を付している。抵抗素子232は、一端を電圧V3の電圧源43に接続し、他端をコモン端子30に接続している。静電容量素子C1の静電容量は0.1320μFであり、静電容量素子231の静電容量は10μFである。
【0034】
かかる回路構成において、抵抗素子232の抵抗値を2.2kΩとし、
図2の駆動波形Waを個別電極12に与えたときにアクチュエータ11aの両端に加わる正味の電圧V1と電圧源43から流れ出す電流I1との対応関係を
図6に示す。
図6において、実線は電圧波形であり、左側の縦軸でその電圧値を示している。破線は電流波形であり、右側の縦軸でその電流値を示している。横軸は時間を示している。
【0035】
一方、抵抗素子232の抵抗値を1Ωとし、
図2の駆動波形Waを個別電極12に与えたときにアクチュエータ11aの両端に加わる正味の電圧V1と電圧源43から流れ出す電流I1との対応関係を
図7に示す。
図7においても、実線は電圧波形であり、左側の縦軸でその電圧値を示している。破線は電流波形であり、右側の縦軸でその電流値を示している。横軸は時間を示している。
図6及び
図7に示すように、抵抗素子232の抵抗値を2.2kΩとした場合も1Ωとした場合も電圧V1の波形はほとんど同じである。したがって、抵抗素子232の抵抗値が2.2kΩであっても1Ωであってもアクチュエータ11の動きは変わらない。しかし抵抗素子232の抵抗値を1Ωとした場合には電圧源43から最大で300mAに近い電流I1が流れ出すのに対し、抵抗素子232の抵抗値を2.2kΩとすれば電圧源43から流れ出す電流は0.1mA程度で済む。
【0036】
前述したように、本実施形態では、抵抗素子232の抵抗値を2.2kΩとしている。これにより、電圧源43に流れ込む電流I1は小さくなる。したがって、電圧源43として、シャントレギュレータU1を用いた定電圧回路233を使用することができる。
【0037】
なお、電圧源43に流れ込む電流I1は小さいので、シャントレギュレータU1ではなくオペアンプを用いて定電圧回路233を構成することも可能である。
【0038】
図8は、オペアンプU2を用いて定電圧回路233を構成した場合の等価回路図である。オペアンプU2には、例えばアナログデバイセズ社のLT1636を使用できる。以下では、オペアンプU2を用いた定電圧回路233を定電圧回路233Bと表す。なお、
図8において、
図4と共通する部分には同一符号を付している。
【0039】
定電圧回路233Bは、オペアンプU2と、抵抗素子R4と、抵抗素子R5とで構成される。オペアンプU2は、その非反転入力端子(+)を電圧V4の電圧源44に接続し、反転入力端子(-)を、抵抗素子R4を介してグラウンド端子GNDに接続している。また、オペアンプU2は、その出力端子を抵抗素子232の一端に接続するとともに、抵抗素子R5を介して反転入力端子(-)に接続して、帰還回路を形成している。本実施形態において、抵抗素子R4は1.1KΩであり、抵抗素子R5は3.3KΩである。したがって、定電圧回路233Bは、オペアンプU2を使用して入力電圧V4を4倍に増幅する非反転増幅器である。電圧源44は、入力電圧V4をオペアンプU2の非反転入力端子に供給する。本実施形態では、入力電圧V4を1ボルトとする。そうすることにより、1ボルトの入力電圧V4が定電圧回路233Bによって4ボルトに増幅されて、抵抗素子232を介してコモン端子30へと印加される。
【0040】
かかる回路構成において、抵抗素子232の抵抗値を2.2kΩとした場合の駆動電圧V1と定電圧回路233Bに流れ込む電流I2との対応関係を
図9に示す。
図9において、左側の縦軸は電圧を示し、右側の縦軸は電流値を示し、横軸は時間を示している。
図9に示すように、-4ボルトから20ボルトの範囲内で4つのパルスを含む駆動電圧V1を印加した場合、定電圧回路233Bには0.1mA前後の小さい電流I2しか流れ込まない。したがって、オペアンプU2を用いて定電圧回路233Bを構成することができる。そして、オペアンプU2を用いて構成した定電圧回路233Bにおいても、定電圧回路233Aと同様に、抵抗素子232を介してコモン端子30に4ボルトの電圧V3を定常的に印加することができる。
【0041】
以上詳述したように本実施形態の駆動回路20は、コモン端子30とグラウンド端子GNDとの間にコモン電源回路23を接続してコモン端子30に正の電圧V3を定常的に印加するようにしている。したがって、コモン端子30にグラウンド端子GNDが直接接続されている場合と比較して、圧電素子11a~11nに印加する電圧を小さくしても同じ変位量を得ることができる。その結果、駆動回路20からヘッド部10に印加する電圧を小さくできるので、駆動電圧に対する効率を高めることができる。
【0042】
しかも駆動回路20は、コモン電源回路23を、複数の圧電素子11a~11nのそれぞれの他端に共通に接続されたコモン端子30に一端を接続し、他端をグラウンド端子GNDに接続してなる静電容量素子231と、当該静電容量素子231とコモン端子30との接続点に、抵抗素子232を介して正の電圧を印加する定電圧回路233とで構成している。したがって、駆動回路20に対してコモン電源回路23を簡単な構成で組み込むことができる。駆動回路20は、ヘッド部10とともにユニット化されて液滴吐出ヘッド1となるので、駆動回路20にコモン電源回路23を設けても液滴吐出ヘッド1が大型化する懸念はない。
【0043】
特に、定電圧回路233は、シャントレギュレータU1と2つの抵抗素子R1,R2とによって構成できる。したがって、駆動回路20をよりコンパクトに構成できるメリットがある。この点に関しては、定電圧回路233をオペアンプU2と2つの抵抗素子R3,R4とによって構成した場合も同様である。因みに、シャントレギュレータU1を用いて定電圧回路233を構成すると、低価格かつコンパクトに構成できる利点がある。その一方、オペアンプU2を用いて定電圧回路233を構成すると、オペアンプU2の入力電圧V4を制御することで電圧V3を容易に調整できるという利点がある。
【0044】
また、シャントレギュレータU1を用いた定電圧回路233に対する駆動電圧V2は、その電圧値を例えば18ボルトから36ボルトまで変化させても、定電圧回路233の動作は変わらない。このため、電圧V1が18ボルトから36ボルトの範囲内であるならば、
図10に示すように、電圧V2の供給を省略して、定電圧回路
233に電圧V1を与えることができる。電圧V2の供給を省略することでヘッド、ヘッド駆動回路および電源はコンパクトでかつ安価になり、ヘッドとして扱い易いものになる。
【0045】
以上、液滴吐出ヘッドに印加される電圧を小さくして駆動電圧に対する効率を高めることができる液滴吐出ヘッド駆動回路及びこの駆動回路を用いた液滴吐出ヘッドの実施形態について説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態及びその変形は、発明の範囲に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]液滴吐出ヘッドのノズルから液滴を吐出させるための複数の駆動素子を駆動する駆動回路であって、前記複数の駆動素子のそれぞれの一端に接続され、前記複数の駆動素子のそれぞれに駆動波形を与える複数の個別駆動回路と、前記複数の駆動素子のそれぞれの他端に共通に接続されたコモン端子に一端を接続し、他端をグラウンド端子に接続してなる静電容量素子と、前記静電容量素子と前記コモン端子との接続点に、抵抗素子を介して正の電圧を印加する定電圧回路と、を具備する液滴吐出ヘッド駆動回路。
[2]前記定電圧回路は、シャントレギュレータで構成される、付記[1]記載の液滴吐出ヘッド駆動回路。
[3]前記駆動素子は、薄膜の圧電素子である、付記[1]記載の液滴吐出ヘッド駆動回路。
[4]前記定電圧回路に与える電源は、前記駆動波形の生成に必要な電源と共通である、付記[1]記載の液滴吐出ヘッド駆動回路。
[5]前記静電容量素子の静電容量は、前記駆動素子の合計静電容量よりも大きい、付記[1]乃至[4]のうちいずれか1項記載の液滴吐出ヘッド駆動回路。
[6]ノズルから液滴を吐出させるための複数の駆動素子と、前記複数の駆動素子のそれぞれの一端に接続され、前記複数の駆動素子のそれぞれに駆動波形を与える複数の個別駆動回路と、前記複数の駆動素子のそれぞれの他端に共通に接続されたコモン端子に一端を接続し、他端をグラウンド端子に接続してなる静電容量素子と、前記静電容量素子と前記コモン端子との接続点に、抵抗素子を介して正の電圧を印加する定電圧回路と、を具備する液滴吐出ヘッド。
【符号の説明】
【0046】
1…液滴吐出ヘッド、10…ヘッド部、11a~11n…圧電素子、20…駆動回路、21…駆動信号生成回路、22…バッファ回路、23…コモン電源回路、30…コモン端子、231…静電容量素子、232…抵抗素子、233…定電圧回路、U1…シャントレギュレータ、U2…オペアンプ。