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特許7451121収差推定方法、収差推定装置、プログラムおよび記録媒体
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  • 特許-収差推定方法、収差推定装置、プログラムおよび記録媒体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】収差推定方法、収差推定装置、プログラムおよび記録媒体
(51)【国際特許分類】
   G01M 11/02 20060101AFI20240311BHJP
【FI】
G01M11/02 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019175234
(22)【出願日】2019-09-26
(65)【公開番号】P2021051039
(43)【公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110412
【弁理士】
【氏名又は名称】藤元 亮輔
(74)【代理人】
【識別番号】100104628
【弁理士】
【氏名又は名称】水本 敦也
(74)【代理人】
【識別番号】100121614
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 倫也
(72)【発明者】
【氏名】江口 輝
【審査官】平田 佳規
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-057172(JP,A)
【文献】特開2016-220960(JP,A)
【文献】特開2017-146189(JP,A)
【文献】特開2020-060469(JP,A)
【文献】特開2002-181663(JP,A)
【文献】光学,2009年,第38巻 第10号,第496~502頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 11/00- G01M 11/02
G01N 21/41- G01N 21/45
G02C 13/00
B24B 9/14
B24B 13/00
G06T 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学系を介して形成された被写体の複数のデフォーカスされた光学像の光強度分布を取得する取得ステップと、
前記光強度分布を用いて前記光学系の近似収差を算出する算出ステップと、
前記近似収差により決定される正則化項を含む目的関数を用いて最適化演算を行うことで前記光学系の収差を推定する推定ステップとを有し、
前記最適化演算は、前記目的関数を小さくするように推定収差を更新し、
前記正則化項は、前記近似収差と前記推定収差との差分を含むことを特徴とする収差推定方法。
【請求項2】
前記近似収差は、強度輸送方程式を用いて決定されることを特徴とする請求項1に記載の収差推定方法。
【請求項3】
前記正則化項は、前記近似収差と前記推定収差との差分二乗和であることを特徴とする請求項又はに記載の収差推定方法。
【請求項4】
前記正則化項は、前記近似収差と前記推定収差との差分の微分二乗和であることを特徴とする請求項又はに記載の収差推定方法。
【請求項5】
光学系を介して形成された被写体の複数のデフォーカスされた光学像の光強度分布を取得する撮像素子と、
前記光強度分布を用いて前記光学系の近似収差を算出すると共に、前記近似収差により決定される正則化項を含む目的関数を用いて最適化演算を行うことで前記光学系の収差を推定する制御部とを有し、
前記最適化演算は、前記目的関数を小さくするように推定収差を更新し、
前記正則化項は、前記近似収差と前記推定収差との差分を含むことを特徴とする収差推定装置。
【請求項6】
請求項1乃至の何れか一項に記載の収差推定方法をコンピュータに実行させるプログラム。
【請求項7】
請求項に記載のプログラムを、コンピュータで読み取り可能な記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光強度分布を用いて光学系の収差を推定する、収差推定方法、収差推定装置、プログラムおよび記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
カメラや望遠鏡などの光学機器では、機器の性能を評価および保証するためにレンズなどの光学系の収差が測定される。収差の計測では光の位相を計測する必要があるため、従来、干渉計やShack Hartmannセンサなどが用いられている。しかしながら、これらの測定装置は専用の光学モジュールを必要とするため、コストがかかり、装置も大がかりになってしまう。
【0003】
特許文献1には、専用の光学系を用いることなく、複数のデフォーカス位置で計測された光強度分布を最も良く再現する収差を最適化演算によって推定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4344849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の方法では、最適化において撮像素子で生じるノイズ等の外乱が加わると正しい結果が得られないという課題を、最適化を行う際の目的関数に先験情報に基づいた正則化項を導入することで解決している。正則化項を導入することで、最適化を安定化させることができるが、演算値と計測値との差分が十分に小さくならないという弊害も生じる。したがって、問題に適した正則化項を選択しなければ、所望の推定精度を得ることができない。
【0006】
上記課題に鑑みて、本発明は、高精度に光学系の収差を推定可能な、収差推定方法、収差推定装置、プログラムおよび記憶媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面としての収差推定方法は、光学系を介して形成された被写体の複数のデフォーカスされた光学像の光強度分布を取得する取得ステップと、光強度分布を用いて光学系の近似収差を算出する算出ステップと、近似収差により決定される正則化項を含む目的関数を用いて最適化演算を行うことで光学系の収差を推定する推定ステップとを有し、最適化演算は、目的関数を小さくするように推定収差を更新し、正則化項は、近似収差と推定収差との差分を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高精度に光学系の収差を推定可能な、収差推定方法、収差推定装置、プログラムおよび記憶媒体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る収差推定装置の概略図である。
図2】近似収差の算出方法を示す概略図である。
図3】収差の推定方法を示すフローチャートである。
図4】実施例1の推定結果を示す図である。
図5】実施例2の推定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、添付の図面に基づいて詳細に説明する。各図において、同一の部材については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係る収差推定装置100の概略図である。被検光学系102は、ピンホール101から発せられた光を結像して、撮像素子103の撮像面に被写体の光学像を形成する。撮像素子103は、駆動装置104上に設置されている。駆動装置104は、コンピュータ(制御部)105によって制御されており、撮像素子103を指定のデフォーカス量だけ光軸に沿って移動させる。撮像素子103は、移動した各位置において、光学像の光強度分布を取得し、取得した光強度分布をコンピュータ105または不図示のデータ保持装置に保存する。コンピュータ105は、取得した光強度分布に対して後処理を実行することで被検光学系102の収差を推定する。後処理は、コンピュータ105が実行してもよいし、別の演算装置が実行してもよい。また、ネットワークを通じてクラウド上に存在する演算装置が後処理を実行してもよい。
【0012】
以下、算出される収差は被検光学系102の波面収差として説明を行うが、本発明によって計測が可能な収差はこれに限るものではない。波面収差が得られれば、簡単な演算によって横収差量や縦収差量を算出可能である。また、複数の波長で計測を行うことで、色収差も計測可能である。更に、波面収差をZernike多項式で展開することで、ザイデル収差に変換可能である。
【0013】
コンピュータ105が実行する後処理の方法として、例えば、最適化がある。最適化では、目的関数の値が最も小さくなるように収差を逐次的に変更していくことで収差を推定する。演算負荷を減らすために収差を適当な関数で展開し、その係数を最適化変数として最適化を実行することも可能である。収差を展開する関数として、例えば、Zernike多項式がある。Zernike多項式は、収差の種類と基底関数が対応しているため、収差を展開する関数として適している。
【0014】
最適化を実行する方法は種々存在し、例えば、最急降下法、共役勾配法、または準ニュートン法等がある。使用する方法は問題に応じて適宜選択すればよい。目的関数は、最適化の各更新ステップにおける推定収差から演算によって得られる光強度分布と計測で得られる光強度分布との一致度を評価する指標であり、種々の形が存在する。例えば、演算によって得られる光強度分布と計測によって得られる光強度分布の差分二乗和や、振幅分布の差分二乗和等がある。これも問題に応じて適宜選択すればよい。なお、光強度分布を演算によって算出する方法として、例えば、岡田和佳、天谷賢治、大西有希、「低解像度スポット像を用いた収差解析手法の開発」光学41(12)、pp.627、2012年12月10日やJoseph Goodman,“Introduction to Fourier Optics”, Roberts and Company Publishers等に開示されている方法を用いることができる。
【0015】
上述した方法により、光強度分布から被検光学系102の収差を推定することができる。しかしながら、実際の計測では、撮像素子103で生じるノイズ等の外乱が加わるため、正しい結果を得ることが難しい。例えば、目的関数F(c)が以下の式(1)で示されるように演算によって得られる光強度分布と計測によって得られる光強度分布の差分二乗和であるとする。
【0016】
【数1】
【0017】
ここで、Iは、最適化の各更新ステップにおける推定収差から演算によって得られる光強度分布である。Iは、計測によって得られる光強度分布である。x,yは、光軸と垂直な平面での2次元直交座標である。zは、光軸方向の座標である。jは、デフォーカスの番号である。Jは、デフォーカスの総数である。cは、最適化の各更新ステップにおける推定収差を適当な直交関数系で展開した場合の係数列を1次元ベクトルで表したものである。xとyに関する加算は、演算の対象領域内で行われる。説明を簡単にするため、以降の説明では光強度分布Iを演算値、光強度分布Iを計測値と称す。計測値Iにノイズnが存在すると、計測値Iは被検光学系102を介して形成される光強度分布Iとノイズnの和となるため、目的関数F(c)は以下の式(2)で表される。
【0018】
【数2】
【0019】
最適化では目的関数F(c)を最小化する収差を探索するため、ノイズnも再現する収差を探索することになる。ノイズ等の外乱を再現するためには、収差は極端な大きさや形状となる必要があるため、推定された収差は真の収差から外れたものとなる。
【0020】
この問題に対して、特許文献1では以下の式(3)で示されるように目的関数に項を加える方法を提案している。
【0021】
【数3】
【0022】
Nは推定収差の展開に用いる関数系の最大項数である。新たに加えられた項は、収差が極端に大きくなると値が大きくなるため、目的関数を増加させる。これにより、最適化の更新が止まるため、推定される収差が真値から外れてしまうことを防ぐことができる。本実施形態では、最適化を安定化させるために目的関数に加えられる項を正則化項と称す。
【0023】
正則化項を導入することで、最適化を安定化させることができるが、演算値と計測値との差分が十分に小さくならないという弊害も生じる。正則化項は、被検光学系102の収差によって値と微分値が変わるため、被検光学系102によって目的関数F(c)に与える影響が変わる。例えば、収差が大きい被検光学系102では正則化項の影響が大きくなるため、演算値と計測値との差分が十分に下がり切る前に最適化が終了し、十分な推定精度を得ることができない。特許文献1では、被検物の表面形状の概形から決まる参照解との差分を正則化項に含めることも提案している。しかしながら、表面形状をあらかじめ計測する等の余分な計測が必要となる。また、被検物の設計値を使用する場合、設計値からのずれが大きい被検光学系102では同じ課題が生じる。加えて、設計値が手元に無い場合は適用できない。
【0024】
そこで、本発明では、収差の推定に好適に機能する正則化項を導入する。適切な正則化項を導入することで、外乱に対してロバストで、かつ精度の高い収差の推定が可能となる。本発明の目的関数F(c)は、以下の式(4)で表される。
【0025】
【数4】
【0026】
ここで、Rは、正則化項を構成する関数である。αは、実数である。Wは、推定収差である。Wappは、被検光学系102の近似収差である。ξ,ηは、瞳面での2次元直交座標である。
【0027】
正則化項は、被検光学系102の近似収差Wappを用いている。近似収差Wappは、真の収差に近く、かつ他の計測結果等の事前情報に依ることなく定まる。事前情報に依らない値を用いることで事前準備の手間を簡略化することができる。
【0028】
近似収差は真の収差に近い値を持つため、正則化項は以下の式(5)で示されるように推定収差Wと近似収差Wappとの差分を有することで、より好適に機能する。
【0029】
【数5】
【0030】
ここで、R’は、推定収差Wと近似収差Wappとの差分から正則化項を決定する関数である。
【0031】
近似収差Wappは真の収差に近い値を持つため、推定収差Wと近似収差Wappとの差分W-Wappは収差によらず、同程度の値と形状を持つことができる。そのため、正則化項は収差の量や形状に依らずに機能する。
【0032】
本発明では、近似収差Wappを計測された一連のデフォーカス像から算出する。近似収差Wappの算出方法の一例として、強度輸送方程式を用いる方法について説明する。強度輸送方程式は、以下の式(6)で表される。
【0033】
【数6】
【0034】
ここで、∇は、x,y方向の微分演算子である。zは、計測位置である。I(x,y,z)は、位置zにおける光軸に垂直な平面内での光強度分布である。Φ(x,y,z)は、位置zにおける光軸に垂直な平面内での位相分布である。λは、波長である。
【0035】
この方法では図2に示されるように、焦点位置から正負対称に離れた2つの位置で計測された光強度分布を演算に用いる。デフォーカスを正負対称に十分な大きさで取っていれば、計測される光強度分布は瞳空間で瞳面を対称に等距離だけ離れた位置で計測した光強度分布と等価であるとみなすことができる。そのため、強度輸送方程式の解φは瞳面での位相分布、すなわち収差W(ξ,η)となる。このとき、座標ξ,ηは、座標x,y、計測位置z、および被検光学系102の開口数から換算される。右辺の位置zの微分は2つの計測値Im1,Im2の差分値で近似することができ、左辺の光強度分布は計測値Im1,Im2の平均値で近似することができる。差分化された方程式に対しては種々の解法があり、例えば直交関数系で位相分布および光強度分布を展開することで解くことができる。このとき、直交関数系としてフーリエ基底やZernike多項式等の取扱いが容易な関数を選択することで、演算負荷を低減できる。式(6)を解くために必要な計測値Im1,Im2を、計測された一連のデフォーカス像のうち2つから取得することで、近似収差Wappを事前情報なしに算出することができる。このとき、計測値Im1,Im2として、一連の計測値のうち、正および負の方向に対してデフォーカス量が大きい2つの計測値を取得することが望ましい。
【0036】
算出された近似収差Wappを式(4)に含まれる正則化項に用いることで、高精度な収差推定が可能となる。図3は、本発明の正則化項を用いた収差の推定方法を示すフローチャートである。ステップS1(取得ステップ)では、コンピュータ105は、撮像素子103を介して光強度分布を取得する。撮像は複数のデフォーカス位置で行われることが望ましい。ステップS2(算出ステップ)では、コンピュータ105は、取得した光強度分布を用いて強度輸送方程式を解くことで近似収差Wappを算出する。ステップS3では、コンピュータ105は、近似収差Wappを式(4)の関数Rに代入することで正則化項を決定する。ステップS4(推定ステップ)では、コンピュータ105は、正則化項を含む目的関数を最小にする収差を最適化演算によって推定する。
【0037】
本実施形態は、数学的にモデル化することができるため、コンピュータ・システムのソフトウェア機能として実装可能である。ここで、コンピュータ・システムのソフトウェア機能は、実行可能なコードを含んだプログラミング(プログラム)を含む。ソフトウェア・コードは、汎用コンピュータで実行可能である。ソフトウェア・コード動作中に、コード、または関連データ記録は、汎用コンピュータ・プラットフォーム内に格納される。しかしながら、その他の場合、ソフトウェアは他の場所に格納される、または適切な汎用コンピュータ・システムにロードされる。したがって、ソフトウェア・コードは、1つまたは複数のモジュールとして、少なくとも1つの機械可読媒体(記憶媒体)で保持可能である。
【0038】
以下、本発明の好ましい実施例を詳細に説明する。
【実施例1】
【0039】
本実施例の収差の推定方法を、実測値に対する解析結果を用いて説明する。本実施例の収差の推定は、図1の収差推定装置100によって実現される。撮像素子103は、駆動装置104上に設置され、コンピュータ105によって指示された位置に移動する。コンピュータ105は、図3のフローチャートに沿って収差を推定する。まず、コンピュータ105は、駆動装置104および撮像素子103をそれぞれ制御することで、計8つの光強度分布を異なるデフォーカス位置で取得する。次に、コンピュータ105は、正および負の方向に対してデフォーカス量の大きい2つの光強度分布を用いて強度輸送方程式を解くことで近似収差を算出する。次に、コンピュータ105は、近似収差を用いて正則化項を決定する。本実施例では、正則化項として以下の式(7)に示される推定収差Wと近似収差Wappとの差分二乗和を用いる。
【0040】
【数7】
【0041】
ここで、capp,kは、近似収差Wappを直交関数展開した場合のk番目の係数である。ξとηに関する加算は、瞳の開口領域内で行われる。本実施例では、収差をFringe Zernike多項式で展開し、各係数を最適化変数としている。近似関数もFringe Zernike多項式で展開する。
【0042】
最後に、コンピュータ105は、最適化演算を実行し、式(4)に示される目的関数F(c)が最小となる収差を算出する。得られた収差が被検光学系102の収差である。
【0043】
図4は、推定されたFringe Zernike多項式の係数と干渉計を用いて計測された係数との差分を示している。従来例は、式(3)で示される目的関数を用いて収差を推定した結果である。本実施例では、推定された32個の係数のうち27個において、従来例よりも差分が小さくなっている。更に収差全体で評価するため、推定された収差と干渉計で計測された収差の残差RMSresを算出する。残差RMSresは、以下の式(8)で定義される。
【0044】
【数8】
【0045】
ここで、Westは、最適化によって推定された収差である。Wは、干渉計で計測された収差である。Nは、瞳の開口領域内でのデータ点数である。加算は、瞳の開口領域内で行われ、差分RMSresが小さいほど推定結果がより正しいことを示している。差分RMSresは、従来例では117mλであり、本実施例では68mλである。すなわち、本実施例の方法によれば、高い精度で収差を推定可能である。
【実施例2】
【0046】
本実施例の収差の推定方法を、実測値に対する解析結果を用いて説明する。光強度分布の計測方法および最適化方法は実施例1と同じである。本実施例では、正則化項として以下の式(9)に示される推定収差Wと近似収差Wappとの差分に対する微分二乗和を用いる。
【0047】
【数9】
【0048】
加算は、瞳の開口領域内で行われる。∇Wおよび∇WappをFringe Zernike多項式で展開することで、正則化項は各係数から行列計算によって算出することができる。通常、収差の推定には36項程度を使えばよいため、収差の2次元分布から微分を計算するよりも各係数から行列計算で演算を行った方が高速である。
【0049】
図5は、推定されたFringe Zernike多項式の係数と干渉計を用いて計測された係数との差分を示している。従来例は、以下の式(10)で示される正則化項を用いて収差を推定した結果である。
【0050】
【数10】
【0051】
本実施例では、推定された32個の係数のうち25個において、従来例よりも差分が小さくなっている。更に、推定された収差と干渉計で計測された収差の差分RMSを比較すると、従来例では105mλであり、本実施例では63mλである。すなわち、本実施例の方法によれば高い精度で収差を推定可能である。
【0052】
なお、本実施形態では、説明を容易にするため軸上近傍に結像する光について説明したが、軸外に結像する光についても同様である。本発明は計測する像高に依存しない。
【0053】
また、本実施形態では近似収差の算出方法の一例として強度輸送方程式を解く方法について説明したが、本発明はこれに限定されない。近似収差の算出方法として例えば、フーリエ変換を繰り返す方法がある(特開2000-294488号公報参照)。ただし、強度輸送方程式を解く方法は、繰り返し演算が不要なため高速な処理が可能であり、加えて位相アンラッピングが不要なため収差が大きくても機能する、等のメリットがあるため、近似収差の算出方法として優れている。また、非特許文献(Scott W. Paine and James R. Fienup, “Machine learning for improved image-based wavefront sensing”, Optics letters, USA, March 2018, Vol.43, pp.1235)に記載される機械学習を用いて近似収差を算出する方法もある。この方法を用いると1つ光強度分布から近似収差と推定収差を算出することも可能となる。
【0054】
また、本実施形態では、駆動装置104は撮像素子103を移動させるが、光学系にデフォーカスを与えられれば、本発明はこれに限定されない。例えば、駆動装置104は、被検光学系102を移動させてもよいし、ピンホール101を移動させてもよい。または、空間光変調器を用いて、所望の位相変調を与えてもよい。
【0055】
また、本実施形態では、ピンホール101を用いて光学像を形成しているが、本発明はこれに限定されない。被検光学系102によって撮像面の微小な領域に光強度分布が集中する光を被検光学系102に入射させれば同等の効果を得ることができる。例えば、遠方にある一般的な照明光源や、望遠鏡等で観測される天体等を光源として用いても同等の効果を得ることができる。レーザーなどから発せられる平行平面波を被検光学系102に入射させてもよい。また、ピンホール101を用いる場合でも、その開口の大きさは有限であって構わない。
【0056】
また、本実施形態ではFringe Zernike多項式を使用しているが、本発明はこれに限定されない。標準Zernike多項式等の他のZernike多項式を用いても同様に収差を推定することができる。ただし、多項式の定義によって規格化の方法が異なるため、それに応じて正則化項の演算時に各係数に対して補正係数を掛ける必要がある。
[その他の実施例]
本発明は、上述の実施例の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0057】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0058】
102 被検光学系(光学系)
図1
図2
図3
図4
図5