(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】センサデバイス
(51)【国際特許分類】
H03H 9/17 20060101AFI20240311BHJP
H10N 30/30 20230101ALI20240311BHJP
【FI】
H03H9/17 F
H10N30/30
(21)【出願番号】P 2019192305
(22)【出願日】2019-10-21
【審査請求日】2022-10-03
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】恩田 陽介
【審査官】綿引 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-115927(JP,A)
【文献】特表2019-527834(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/17
H10N 30/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられた圧電膜と、
前記圧電膜の少なくとも一部を挟んで対向する下部電極および上部電極と、
前記上部電極の、前記下部電極および前記上部電極が前記圧電膜を挟んで対向する共振領域に設けられる感応膜と、
を具備し、
前記共振領域において、前記基板と前記下部電極との間に空隙が設けられ、
前記下部電極に前記空隙とつながる孔部を有し、
前記感応膜に接続され前記孔部を閉塞し、前記感応膜と同種の材料で構成される延長部をさらに具備するセンサデバイス。
【請求項2】
請求項1に記載のセンサデバイスであって、
前記感応膜は、前記共振領域内の少なくとも一部に設けられ前記共振領域外には設けられていない
センサデバイス。
【請求項3】
請求項2に記載のセンサデバイスであって、
前記感応膜は、前記共振領域の全ての領域に設けられる
センサデバイス。
【請求項4】
請求項2に記載のセンサデバイスであって、
平面視で見たとき前記感応膜の外周と前記共振領域の外周との差は20μmより小さい
センサデバイス。
【請求項5】
請求項1~3
のいずれか1つに記載のセンサデバイスであって、
前記共振領域は、
前記センサデバイスの積層方向から平面視で見たときに楕円形状である
センサデバイス。
【請求項6】
請求項5に記載のセンサデバイスであって、
前記共振領域は第1の長軸と第1の短軸を有し、
前記感応膜は、前記センサデバイスの積層方向から平面視で見たときに第2の長軸と第2の短軸を有し、
前記第1の長軸と前記第2の長軸の差が20μmより小さく、前記第1の短軸と前記第2の短軸の差が20μmより小さい
センサデバイス。
【請求項7】
請求項1に記載のセンサデバイスであって、
前記延長部は、前記感応膜の一部である、
センサデバイス。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1つに記載のセンサデバイスであって、
前記共振領域において、前記圧電膜と、前記上部電極と、前記下部電極とは、
それぞれ前記基板と前記下部電極との間に前記空隙を形成する凸曲面部であり、
前記感応膜は、前記上部電極の前記凸曲面部に設けられる
センサデバイス。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1つに記載のセンサデバイスであって、
前記感応膜は、無機膜、有機ポリマー膜または有機色素膜である
センサデバイス。
【請求項10】
請求項9に記載のセンサデバイスであって、
前記感応膜は、セルロース系の樹脂、フッ素系樹脂、アクリル系樹脂または導電性高分子である
センサデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)等の圧電薄膜共振子を利用したセンサデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
FBARは、移動通信機器のフィルタやデュプレクサ等に使われるGHz帯域の共振子である。QCM(Quartz Crystal Microbalance)やSAW(Surface Acoustic Wave)といった圧電共振器に、特定のガスが吸着する感応膜を塗布し、その質量変化に対応する周波数変化を検知するにおいセンサの開発が進められている(非特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Matthew L. Johnston, Columbia University, New York, NY, USA MEMS 2012, Paris, FRANCE, 29 January - 2 February 2012 846-849
【文献】尾上守夫、十文字弘道、"エネルギーとじこめ形圧電共振子の解析、電気通信学会誌、Vol.48, 1965
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
圧電共振器上に感応膜を塗布すると、共振特性が変化する。通常、共振周波数の低周波数側へのシフトが見られるが、感応膜塗布条件によっては、Q値の大幅な低下やスプリアスが発生する。Q値の低下やスプリアスの発生は、発振不良や発振周波数の不安定化を引き起こし、ガスあるいはにおいの検出特性を低下させる。MHz帯域で共振するQCMと比較し、GHz帯域で共振するFBARは上記感応膜が共振特性に与える影響がより敏感であり、感応膜の形成条件を慎重に管理する必要がある。
【0005】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、感応膜による共振特性の劣化を抑えることができるセンサデバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るセンサデバイスは、基板と、圧電膜と、下部電極および上部電極と、感応膜とを具備する。
前記圧電膜は、前記基板上に設けられる。
前記下部電極および前記上部電極は、前記圧電膜の少なくとも一部を挟んで対向する。
前記感応膜は、前記下部電極および前記上部電極が前記圧電膜を挟んで対向する共振領域に設けられる。
前記共振領域において、前記基板と前記下部電極との間に空隙が設けられ、
前記下部電極に前記空隙とつながる孔部を有する。
前記感応膜に接続され前記孔部を閉塞し、前記感応膜と同種の材料で構成される延長部をさらに具備する。
【0007】
上記センサデバイスにおいては、感応膜を共振領域に設けることで、Q 値の大幅な低下やスプリアスの発生を防止する。これにより共振特性の劣化を抑え、ガスの検出特性を高めることができる。
【0008】
前記感応膜は、前記共振領域内の少なくとも一部に設けられ前記共振領域外には設けられていなくてもよい。
【0009】
前記感応膜は、前記共振領域の全ての領域に設けられてもよい。
平面視で見たとき前記感応膜の外周と前記共振領域の外周との差は20μmより小さくてもよい。
【0010】
前記共振領域は、前記センサデバイスの積層方向から平面視で見たときに楕円形状であってもよい。
【0011】
前記共振領域は第1の長軸と第1の短軸を有し、前記感応膜は、前記センサデバイスの積層方向から平面視で見たときに第2の長軸と第2の短軸を有してもよい。この場合、前記第1の長軸と前記第2の長軸の差が20μmより小さく、前記第1の短軸と前記第2の短軸の差が20μmより小さい。
【0012】
前記延長部は、前記感応膜の一部でもよい。
【0014】
前記共振領域において、前記圧電膜と、前記上部電極と、前記下部電極とは、それぞれ前記基板と前記下部電極との間に空隙を形成する凸曲面部であってもよい。前記感応膜は、前記上部電極の前記凸曲面部に設けられる。
【0015】
前記感応膜は、無機膜、有機ポリマー膜または有機色素膜であってもよい。
【0016】
前記感応膜は、セルロース系の樹脂、フッ素系樹脂、アクリル系樹脂または導電性高分子であってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、感応膜による共振特性の劣化を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係るセンサデバイスの構成を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)におけるA-A線断面図である。
【
図2】比較例1,2に係るセンサデバイスの構成を示す平面図である。
【
図3】
図1及び
図2に示すセンサデバイスの共振特性を示す実験結果である。
【
図5】
図1のセンサデバイスの製造方法を説明する各工程の断面図である。
【
図6】
図1のセンサデバイスの構成の変形例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係るセンサデバイスの構成を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)におけるA-A線断面図である。
【0021】
[センサデバイス]
本実施形態のセンサデバイス100は、基板10と、圧電膜22と、圧電膜22の少なくとも一部を挟んで対向する下部電極21および上部電極23と、感応膜30とを備えるFBAR型の圧電共振器として構成される。
【0022】
基板10は、例えば、シリコン(Si)基板やガリウム砒素(GaAs)基板等の半導体基板のほか、石英基板、ガラス基板、アルミナ基板などのセラミック基板を用いることができる。
【0023】
下部電極21は、基板10上に所定の形状で形成される。下部電極21の厚みは、例えば、240nmである。下部電極21は、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、又はイリジウム(Ir)の金属単層膜、あるいは、これらの積層膜で構成される。
【0024】
圧電膜22は、下部電極21の一部を被覆するように基板10上に所定の形状で形成される。圧電膜22の厚みは、例えば、500nmである。圧電膜22は、例えば、(002)方向を主軸とする窒化アルミニウム(AlN)を主成分とする圧電体で構成される。圧電膜22には、AlN膜以外にも、例えば、ZnO膜を用いることができる。
【0025】
上部電極23は、圧電膜22の少なくとも一部を被覆するように基板10上に所定の形状で形成される。上部電極23の厚みは、例えば、240nmである。上部電極23は、下部電極21で列挙した金属材料の単層膜、あるいは、これらの積層膜で構成される。
【0026】
センサデバイス100は、共振領域24を有する。共振領域24は、下部電極21および上部電極23が圧電膜22を挟んで対向する領域をいう。共振領域24において、基板10と下部電極21との間には空隙Gが設けられる。本実施形態では、共振領域24において、圧電膜22と下部電極21と上部電極23とは、基板10と下部電極21との間に空隙Gを形成する凸曲面部である。上部電極23の凸曲面の平面形状は、例えば、長軸が270μm、短軸が180μmの楕円形状である。共振領域24は、下部電極21と上部電極23との間に所定周波数の電圧信号が入力されたときに厚み縦振動モードで共振する領域である。共振領域24の共振周波数は特に限定されず、典型的には、GHz帯域の周波数である。
【0027】
なお、共振領域24の平面形状は、円形状、多角形状などの他の形状に形成されてもよい。特に、共振領域24の平面形状を楕円や多角形状とすることで、共振領域24の平面形状が四角形(正方形あるいは長方形)の場合よりも、横方向に伝播する振動モードの発生を抑制できるため、共振特性の劣化を防ぐことができる。
【0028】
共振領域24において、空隙Gは、基板10の平坦な上面と下部電極21との間に形成されたドーム状の膨らみである。ドーム状の膨らみとは、例えば、空隙Gの周辺では空隙Gの高さが低く、空隙Gの内部ほど空隙Gの高さが高くなるような形状の膨らみである。下部電極21の下側には、空隙Gを形成する際にエッチャントを導入することで形成される導入路25が設けられている。導入路25の先端付近は、圧電膜22などで覆われておらず、導入路25の先端は孔部26となっている。孔部26は、空隙Gを形成する際のエッチャントを導入する導入口である。
【0029】
孔部26の形成位置は特に限定されないが、好ましくは、共振領域24の近傍に設けられる。孔部26は、空隙Gの形成後、適宜の材料を用いて閉塞される。これにより、空隙Gの外気との連通を遮断できるため、空隙Gへの侵入ガスによる共振特性の劣化を阻止することができる。孔部26を閉塞する材料は特に限定されず、感応膜30の一部で孔部26が閉塞されてもよい。
【0030】
感応膜30は、検出対象のガスを吸着可能な材料で構成される。感応膜を構成する材料は、検出対象のガスの種類によって任意に選択でき、典型的には、有機ポリマー膜(有機高分子膜、有機低分子膜)、有機色素膜または無機膜等を用いることができる。より具体的には、感応膜30は、セルロース系の樹脂、フッ素系樹脂、アクリル系樹脂または導電性高分子が挙げられるが、勿論これに限られない。感応膜30の形成方法としては、感応膜の材料を溶媒に溶解させ塗布する方法のほか、蒸着法、スパッタリング法またはCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いることができる。
【0031】
有機高分子材料としては、例えばポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、6-ナイロン、セルロースアセテート、ポリ-9,9-ジオクチレフルオレン、ポリビニルアルコール、ポリビニルカルバゾール、ポリエチレンオキシド、ポリ塩化ビニル、ポリ-p-フェニレンエーテルスルホン、ポリ-1-ブテン、ポリブタジエン、ポリフェニルメチルシラン、ポリカプロラクトン、ポリビスフェノキシホスファゼン、ポリプロピレンなどの単一構造からなるホモポリマー、ホモポリマー2種以上の共重合体であるコポリマー、これらを混合したブレンドポリマーなどを用いることができる。
【0032】
例えば、有機低分子材料としては、トリス(8-キノリノラト)アルミニウム(Alq3)、ナフチルジアミン(α-NPD)、BCP(2,9 - dimethyl - 4,7 - diphenyl -1,10 - phenanthroline)、CBP(4,4' - N,N' - dicarbazole - biphenyl)、銅フタロシアニン、フラーレン、ペンタセン、アントラセン、チオフェン、Ir(ppy(2 - phenylpyridinato))3、トリアジンチオール誘導体、ジオクチルフルオレン誘導体、テトラコンタン、パリレンなどを用いることができる。
【0033】
例えば、無機材料としては、アルミナ、チタニア、五酸化バナジウム、酸化タングステン、フッ化リチウム、フッ化マグネシウム、アルミニウム、金、銀、スズ、インジウム・シン・オキサイド(ITO)、カーボンナノチューブ、塩化ナトリウム、塩化マグネシウムなどを用いることができる。
【0034】
感応膜30は、圧電機能20の共振領域24に選択的に設けられる。本実施形態では、感応膜30は、上部電極23の共振領域24内に設けられ、典型的には、上部電極23上の共振領域24に対応する部位に設けられる。共振領域24に対応する部位とは、上部電極23の楕円のドーム部表面をいい、感応膜30は、上部電極23の凸曲面部に設けられる。共振領域24は、当該ドーム部分と同一の長軸および短軸を有する楕円形状に形成される。感応膜30の厚みは特に限定されず、例えば250μmである。
【0035】
感応膜30は、上述のポリマー材料を含み、図示しないマスク材料を用いて共振領域24に選択的に塗布、乾燥処理された塗膜からなる。感応膜30は、上記マスクの開口精度あるいは位置精度によっては、共振領域24よりも広い領域あるいは狭い領域に形成されてもよいし、共振領域からオフセットした位置に設けられてもよい。
【0036】
ここで、圧電共振器上に感応膜を塗布すると、振動モードに影響を及ぼし、共振特性が変化する。通常、共振周波数の低周波数側へのシフトが見られるが、感応膜の塗布条件によっては、Q値の大幅な低下やスプリアスが発生する。Q値の低下やスプリアスの発生は、発振不良や発振周波数の不安定化を引き起こし、ガスあるいはにおいの検出特性を低下させる。MHz帯域で共振するQCMと比較し、GHz帯域で共振するFBARは上記感応膜が共振特性に与える影響がより敏感であり、感応膜の形成条件を慎重に管理する必要がある。
【0037】
本発明者らは、
図1に示す本実施形態のセンサデバイス100に加えて、
図2(a)に模式的に示す比較例1に係るセンサデバイス101と、
図2(b)に示す比較例2に係るセンサデバイス102を準備し、これらの周波数特性を測定した。比較例1,2のセンサ構造は本実施形態のセンサデバイス100と同一であり、感応膜30の塗布形態のみが異なる。比較例1では、感応膜301は、共振領域24よりも狭い領域であって、共振領域24よりも長軸および短軸がそれぞれ20μm小さい楕円形状に形成される。一方、比較例2では、感応膜302は、基板10の全面に設けられる。
【0038】
センサデバイス100,101,102の共振特性を
図3に比較して示す。図中、横軸は周波数、縦軸はインピーンスであり、波形A1は
図1のセンサデバイス100の共振特性を、波形A2は
図2(a)のセンサデバイス101の共振特性を、そして、波形A3は
図2(b)のセンサデバイス102の共振特性をそれぞれ示している。また、
図4は、センサデバイス100,101,102のセンサ部(感応膜なし)の等価回路である。ここでは、抵抗R0を0.568Ω、抵抗Rsを0.185Ω、抵抗Rpを0.141Ω、キャパシタCsを161.386fF、キャパシタCpを3.913pF、インダクタLsを27.684nHとし、感応膜が無い場合の共振部100a(共振領域24)の共振周波数を2.4GHzとした。
【0039】
図3に示すように、本実施形態のセンサデバイス100(波形A1)においては、単一のスプリアスの無い共振特性で、安定した発振特性が得られる。
これに対して、比較例1に係るセンサデバイス101(波形A2)および比較例2に係るセンサデバイス102(波形A3)においては、主共振以外にスプリアス共振が認められ、Q値も低下する。つまり、波形A1と比較して、共振特性の劣化により、発振特性に悪影響を及ぼす。通常、圧電共振器は、エネルギー閉じ込めにより弾性波が共振器内部に閉じ込められ、単一の共振特性が得られる。比較例1,2の場合は、感応膜301,302の形成によりエネルギー閉じ込めの条件を逸脱することは、明らかである。
【0040】
以上のように本実施形態によれば、感応膜30を上部電極23上の共振領域24に対応する部位に選択的に設けることで、共振領域24での安定した共振特性を維持することができる。これにより、検出対象のガスあるいはにおいの検出特性を高めることができる。
【0041】
また、比較例1の結果より、平面視で楕円形状の感応膜の長軸および短軸と同じく楕円形状の共振領域24の長軸および短軸との差分がそれぞれ20μm未満であることが好ましい。
【0042】
[センサデバイスの製造方法]
次に、本実施形態のセンサデバイス100の製造方法について説明する。
図5(a)~(d)は、センサデバイス100の製造方法を示す断面図である。
【0043】
図5(a)に示すように、基板10上に、例えばスパッタリング法、蒸着法、又は化学気相成長法(CVD法)を用いて、犠牲層40を形成する。犠牲層40には、例えば酸化マグネシウム(MgO)膜を用いることができ、少なくとも空隙Gが形成する領域を含んで設けられる。犠牲層40の膜厚は、例えば20nm程度である。
【0044】
続いて、例えばアルゴン(Ar)ガス雰囲気下でスパッタリングを行い、基板10及び犠牲層40上に金属膜を成膜する。金属膜の成膜は、蒸着法又はCVD法を用いて行ってもよい。金属膜は、下部電極21で列挙した材料(Al、Cu、Cr、Mo、W、Ta、Pt、Ru、Rh、又はIr)のうちの少なくとも1つから選択される。その後、例えばフォトリソグラフィ法及びエッチング法を用いて、金属膜を所望の形状として下部電極21を形成する。この際、下部電極21の一部は犠牲層40を覆うようにする。なお、下部電極21はリフトオフ法によって形成してもよい。
【0045】
続いて
図5(b)に示すように、基板10及び下部電極21上に、AlN膜からなる圧電膜22を成膜する。圧電膜22の成膜は、窒素を含む雰囲気下(例えば窒素と希ガス(Arなど)の混合ガス雰囲気下)で、アルミニウム金属ターゲットを用いた1元スパッタリング法によって行うことができる。
【0046】
続いて、例えばArガス雰囲気下でスパッタリングを行うことで、圧電膜22上に金属膜を成膜する。金属膜の成膜は、蒸着法又はCVD法を用いて行ってもよい。この金属膜も、前述と同様に、Al、Cu、Cr、Mo、W、Ta、Pt、Ru、Rh、又はIrのうちの少なくとも1つから選択される。
【0047】
その後、
図5(c)に示すように、フォトリソグラフィ法及びエッチング法を用いて、金属膜を所望の形状として上部電極23を形成する。上部電極23は、リフトオフ法によって形成してもよい。続いて、例えばフォトリソグラフィ法及びエッチング法を用いて、圧電膜22を所望の形状にする。さらに、下部電極21と犠牲層40とを選択的にエッチングして孔26(
図1(a)参照)を形成する。
【0048】
続いて
図5(d)に示すように、孔26からエッチャントを導入して犠牲層40をエッチングする。ここで、下部電極21、圧電膜22、及び上部電極23の積層膜の応力を予め圧縮応力になるようにしておく。これにより、犠牲層40のエッチングが完了した時点で、積層膜は膨れ上がり、基板10と下部電極21との間に、ドーム状の膨らみをした空隙Gを有する共振領域24が形成される。また、空隙Gと孔26とを連結する導入路25も形成される。その後、上部電極23上の共振領域24に対応する部位に感応膜30を設けることで、
図1に示すセンサデバイス100が作製される。
【0049】
感応膜30の形成方法としては、例えば、セルロース系の樹脂、フッ素系樹脂、アクリル系樹脂、導電性高分子をアセトン、メタノール、エタノール、トルエン、THF、MEK、NMP、ヘプタン、水などの溶媒に溶解させる。上記以外に他の溶媒を用いてもよいが、上記の溶媒は、揮発性が比較的高い(沸点が比較的低い)ため、感応膜30が乾燥しやすく、均一な膜を成膜できる点で好適である。
続いて、メタルマスクを用いた印刷法やキャスト・ディスペンス法などにより、共振領域24上に選択的に感応膜を塗布する。
【0050】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。
【0051】
例えば以上の実施形態では、基板10と下部電極21との間に空隙Gを形成することで共振領域24が構成されたエアギャップ構造のセンサデバイスを例に挙げて説明したが、基板10にキャビティを設け、当該キャビティの上に形成された下部電極、圧電膜および上部電極の積層領域を共振領域とするキャビティ構造のセンサデバイスで構成されてもよい。あるいは、音響反射膜構造のセンサデバイスが採用されてもよい。
【0052】
また、
図6に示すセンサデバイス200のように、感応膜30に接続された延長部31がさらに備えられていてもよい。延長部31は、感応膜30に接続され
、孔部26を閉塞する。延長部31の構成材料は特に限定されず、感応膜30と同種の材料で構成されてもよい。これにより
、孔部26を延長部30bで閉塞することができるため、感応膜30の形成工程と孔部26の形成工程とを同時に行うことができる。
【符号の説明】
【0053】
10…基板
21…下部電極
22…圧電膜
23…上部電極
24…共振領域
30…感応膜
31…延長部
100,200…センサデバイス
G…空隙