(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】インプリント装置、インプリント方法、および物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/027 20060101AFI20240311BHJP
B29C 59/02 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
H01L21/30 502D
B29C59/02 Z
(21)【出願番号】P 2019197745
(22)【出願日】2019-10-30
【審査請求日】2022-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】飯野 諭
【審査官】佐藤 海
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-149415(JP,A)
【文献】特開2013-110398(JP,A)
【文献】特開2009-239274(JP,A)
【文献】特開2017-050428(JP,A)
【文献】特開2012-054322(JP,A)
【文献】特開2010-258085(JP,A)
【文献】特開2013-102132(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0050441(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
B29C 59/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上のインプリント材とモールドとを接触させて前記インプリント材にパターンを形成するインプリント装置であって、
前記基板の所定の一部のショット領域の部分的な表面形状を計測する取得部と、
前記取得部によって計測された前記所定の一部のショット領域の部分的な表面形状に基づき、前記インプリント材と前記モールドとを接触させている間に生じる前記基板と前記モールドとの相対的な位置ずれに対する補正量を取得する制御部と、
前記補正量に基づいて前記基板および前記モールドの少なくとも一方の形状を補正する形状補正部と、を有し、
前記制御部は、前記取得部によって計測した、前記所定の一部のショット領域の部分的な表面形状に基づいて前記基板
全体の表面段差量を取得し、前記表面段差量に基づいて前記補正量を取得するものであり、
前記表面段差量と前記位置ずれの量の関係を示す情報をあらかじめ記憶する記憶部を有し、前記記憶された情報を用いて、前記補正量を取得する、
ことを特徴とするインプリント装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記取得部によって計測した、前記所定の一部のショット領域の表面形状に基づいて前記基板全体の表面段差量を取得し、前記表面段差量に基づいて前記基板全体に対する前記補正量を取得することを特徴とする請求項1に記載のインプリント装置。
【請求項3】
前記取得部は、1つのショット領域における一部の表面形状を計測し、
前記制御部は、前記1つのショット領域の一部の表面形状に基づいて、前記基板全体の表面段差量を取得することを特徴とする請求項1または2に記載のインプリント装置。
【請求項4】
前記取得部は、1つのショット領域における複数の部分の表面形状を計測し、
前記制御部は、前記複数の部分の表面形状の情報を補間することで、前記1つのショット領域全体の表面段差量を取得し、前記1つのショット領域全体の表面段差量に基づいて、前記基板全体の表面段差量を取得することを特徴とする請求項1または2に記載のインプリント装置。
【請求項5】
前記取得部は、複数のショット領域におけるそれぞれの部分的な表面形状を計測し、
前記制御部は、前記複数のショット領域におけるそれぞれの表面形状の情報を補間することで、前記基板全体の表面段差量を取得することを特徴とする請求項1または2に記載のインプリント装置。
【請求項6】
前記制御部は、予め計測されたショット領域の全域における前記位置ずれの量と、前記位置ずれの量が計測されたそれぞれの地点のショット領域上における座標を用いて、前記補正量を取得することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項7】
前記制御部は、予め用意したショット領域全体の表面形状情報に基づいて、前記表面形状を計測する部分を決定することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項8】
前記形状補正部は、前記モールドの側面に力を加えて前記モールドの形状を変化させることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項9】
前記形状補正部は、前記基板および前記モールドの少なくとも一方に前記インプリント材を硬化させる光とは異なる光、または、熱を照射して、前記基板および前記モールドの少なくとも一方の形状を変化させることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項10】
前記基板上に前記インプリント材を供給する供給部を有し、
前記制御部は、前記補正量に基づいて、前記インプリント材の供給量および前記基板上に供給されるインプリント材の配置を決定する請求項1乃至9のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項11】
基板上のインプリント材とモールドとを接触させて前記インプリント材にパターンを形成するインプリント方法であって、
前記基板の所定の一部のショット領域の部分的な表面形状を計測する取得工程と、
前記取得工程において計測された前記所定の一部のショット領域の部分的な表面形状に基づき、前記インプリント材と前記モールドとを接触させている間に生じる前記基板と前記モールドとの相対的な位置ずれに対する補正量を取得し、前記補正量に基づいて前記基板および前記モールドの少なくとも一方の形状を補正する形状補正工程と、を有し、
前記形状補正工程では、前記取得工程において計測した前記所定の一部のショット領域の部分的な表面形状に基づいて前記基板
全体の表面段差量を取得し、前記表面段差量に基づいて前記補正量を取得するものであり、
前記表面段差量と前記位置ずれの量の関係を示す情報をあらかじめ記憶する記憶部に記憶された前記情報を用いて、前記補正量を取得する、
ことを特徴とするインプリント方法。
【請求項12】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載のインプリント装置を用いてパターンを前記基板に形成する工程と、
前記工程で前記パターンが形成された前記基板を処理する工程と、
処理された前記基板から物品を製造する工程と、を有することを特徴とする物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インプリント装置、インプリント方法、および物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インプリント技術は、ナノスケールの微細パターンの転写を可能にする技術であり、半導体デバイスや磁気記憶媒体などのデバイスの量産用ナノリソグラフィ技術の1つとして提案されている。インプリント技術を用いたインプリント装置は、パターンが形成されたモールド(型)と基板上のインプリント材とを接触させた状態でインプリント材を硬化させ、硬化したインプリント材からモールドを引き離すことで基板上にパターンを形成する。この際、樹脂硬化法として、一般に、紫外線などの光の照射によって樹脂を硬化させる光硬化法が採用されている。
【0003】
インプリント装置では、デバイスの性能を維持するために、基板上のパターン(基板のショット領域)に対して、モールドのパターンを高精度に転写する必要がある。モールドと基板とのアライメント(位置合わせ)方式として、一般的に、ダイバイダイアライメントが採用されている。ダイバイダイアライメントとは、基板のショット領域ごとに、モールドに設けられたマークと基板に設けられたマークとを検出してモールドと基板との位置ずれを補正するアライメント方式である。しかし、半導体デバイスなどの製造に使われている基板は、表面に段差形状を有していることがある。段差をもつ基板にインプリントすると、基板の段差によってモールドが変形し、基板とモールドの水平方向における相対的な位置ずれ(歪み)が生じる可能性がある。
【0004】
このような位置ずれに対応するため、特許文献1には、基板のナノトポグラフィーを計測し、そのデータから基板の変形量と、それによる基板の位置ずれを予測し、補正する方法が記載されている。特許文献2には、事前に基板とモールドそれぞれの形状情報を個々に取得しておき、ダイバイダイアライメントの際に、それらの情報に基づき、基板とモールドの水平方向の相対的な位置ずれを補正する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2013-527972号公報
【文献】特開2016-63219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
基板の段差の程度は、基板の個体によって異なる場合がある。このため、基板ごとに、補正量算出元となるデータ(段差形状や、それによって生じる水平方向の位置ずれ量をなど)を装置内部、または外部計測機にて取得することも可能である。しかしこのような方法では、一般的に非常に長い時間を要してしまい、インプリント装置の生産性を著しく低下させてしまうため現実的ではない。
【0007】
また、特許文献1では、基板全体のナノトポグラフィー情報を取得することが前提となっており、この情報の取得には時間がかかると想像できるため、基板ごとに効率的に補正値を算出する必要性については想定されていない。また、特許文献2では、基板とモールドそれぞれの形状情報を個々に取得しておきそれぞれの相対位置ずれを補正する。それぞれの形状を取得する工程は、インプリント処理と並行して行われるため生産性には影響しないが、基板の凹凸によって生じる基板とモールドとの位置ずれについては言及されていない。
【0008】
本発明は、例えば、生産性を低減させることなく、モールドと基板との位置合わせ精度を向上する点で有利なインプリント装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、基板上のインプリント材とモールドとを接触させて前記インプリント材にパターンを形成するインプリント装置であって、前記基板の所定の一部のショット領域の部分的な表面形状を計測する取得部と、前記取得部によって計測された前記所定の一部のショット領域の部分的な表面形状に基づき、前記インプリント材と前記モールドとを接触させている間に生じる前記基板と前記モールドとの相対的な位置ずれに対する補正量を取得する制御部と、前記補正量に基づいて前記基板および前記モールドの少なくとも一方の形状を補正する形状補正部と、を有し、前記制御部は、前記取得部によって計測した、前記所定の一部のショット領域の部分的な表面形状に基づいて前記基板全体の表面段差量を取得し、前記表面段差量に基づいて前記補正量を取得するものであり、前記表面段差量と前記位置ずれの量の関係を示す情報をあらかじめ記憶する記憶部を有し、前記記憶された情報を用いて、前記補正量を取得する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、例えば、生産性を低減させることなく、モールドと基板との位置合わせ精度を向上する点で有利なインプリント装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一側面としてのインプリント装置1の構成を示す概略図である。
【
図3】実施例1に係る処理を示したフローチャートである。
【
図4】ショット領域の段差形状の一例を示す図である。
【
図6】段差量と位置ずれの関係を説明する図である。
【
図7】インプリント材の分布と位置ずれの関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の好ましい実施形態を添付の図面に基づいて詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明の一側面としてのインプリント装置1の構成を示す概略図である。インプリント装置1は、基板上のインプリント材にモールド(型)を用いてパターンを形成する、即ち、基板上のインプリント材をモールドで成形して基板上にパターンを形成するインプリント処理を行うリソグラフィ装置である。
【0014】
インプリント材としては、硬化用のエネルギーが与えられることにより硬化する硬化性組成物(未硬化状態の樹脂と呼ぶこともある)が用いられる。硬化用のエネルギーとしては、電磁波、熱等が用いられうる。電磁波は、例えば、その波長が10nm以上1mm以下の範囲から選択される光、例えば、赤外線、可視光線、紫外線などでありうる。硬化性組成物は、光の照射により硬化する光硬化性組成物でありうる。あるいは、硬化性組成物は、加熱により硬化する熱硬化性組成物、または、冷却により硬化する熱可塑性組成物でありうる。これらのうち、光硬化性組成物は、少なくとも重合性化合物と光重合開始剤とを含有し、必要に応じて非重合性化合物または溶剤を更に含有してもよい。非重合性化合物は、増感剤、水素供与体、内添型離型剤、界面活性剤、酸化防止剤、ポリマー成分などの群から選択される少なくとも一種である。本実施形態では、インプリント材として光硬化性組成物を用いる例について説明する。
【0015】
インプリント材は、液滴状、或いは複数の液滴が繋がってできた島状又は膜状となって基板上に配置されうる。あるいは、インプリント材は、スピンコート法、スリットコート法、スクリーン印刷法等の方法で基板の上に塗布あるいは配置されうる。インプリント材の粘度(25℃における粘度)は、例えば、1mPa・s以上100mPa・s以下でありうる。
【0016】
本明細書および添付図面では、基板13の表面に平行な方向をXY平面とし、基板13およびモールド11の厚さ方向をZ軸とするXYZ座標系において方向を示す。インプリント装置1は、モールド11を保持するモールド保持部12と、基板13を保持する基板保持部14と、計測部15と、形状補正部16と、制御部17とを有する。また、インプリント装置1は、基板上にインプリント材を供給するためのディスペンサを含む供給部21を含む。基板上に供給されるインプリント材は、基板上にモールドのパターンを転写するためのものであるだけでなく、インプリント材の厚み分布を制御することにより、基板とモールドとの歪みを補正するためにも使用されうる。さらに、インプリント装置1は、モールド保持部12を保持するためのブリッジ定盤、基板保持部14を保持するためのベース定盤なども有する。
【0017】
モールド11は、矩形の外形形状を有し、基板13(の上のインプリント材)に転写すべきパターン(凹凸パターン)が形成されたパターン面11aを有する。モールド11は、基板上のインプリント材を硬化させるための紫外線を透過する材料、例えば、石英などで構成されている。また、モールド11のパターン面11aには、モールド側マーク18が形成されている。
【0018】
モールド保持部12は、モールド11を保持する保持機構である。モールド保持部12は、例えば、モールド11を真空吸着又は静電吸着するモールドチャックと、モールドチャックを載置するモールドステージと、モールドステージを駆動する(移動させる)駆動系を含む。かかる駆動系は、モールドステージ(即ち、モールド11)を少なくともz軸方向(基板上の樹脂にモールド11を押印する際の押印方向)に駆動する。また、かかる駆動系は、z軸方向だけではなく、x軸方向、y軸方向及びθ(z軸周りの回転)方向にモールドステージを駆動する機能を備えていてもよい。
【0019】
基板13は、モールド11のパターンが転写される基板であって、基板13の材料としては、例えば、ガラス、セラミックス、金属、半導体、樹脂等が用いられうる。必要に応じて、基板の表面に、基板とは別の材料からなる部材が設けられてもよい。基板13は、例えば、単結晶シリコン基板やSOI(Silicon on Insulator)基板などを含む。基板13には、供給部21からインプリント材が供給(塗布)されうる。なお、インプリント材は、インプリント装置1の外部において、スピンコート法、スリットコート法、スクリーン印刷法等の方法で基板13の上に供給(塗布)あるいは配置されても良い。また、基板13の複数のショット領域のそれぞれには、基板側マーク19が形成されている。
【0020】
基板保持部14は、基板13を保持する保持機構である。基板保持部14は、例えば、基板13を真空吸着又は静電吸着する基板チャックと、基板チャックを載置する基板ステージと、基板ステージを駆動する(移動させる)駆動系とを含む。かかる駆動系は、基板ステージ(即ち、基板13)を少なくともx軸方向及びy軸方向(モールド11の押印方向に直交する方向)に駆動する。また、かかる駆動系は、x軸方向及びy軸方向だけではなく、z軸方向及びθ(z軸周りの回転)方向に基板ステージを駆動する機能を備えていてもよい。
【0021】
計測部15は、モールド11に設けられたモールド側マーク18と、基板13の複数のショット領域のそれぞれに設けられた基板側マーク19を光学的に検出(観察)するスコープを含む。計測部15は、かかるスコープの検出結果に基づいて、モールド11と基板13との相対的な位置(位置ずれ)を計測する。但し、計測部15は、モールド側マーク18と基板側マーク19との相対的な位置関係を検出することができればよい。従って、計測部15は、2つのマークを同時に撮像するための光学系を備えたスコープを含んでいてもよいし、2つのマークの干渉信号やモアレなどの相対位置関係を反映した信号を検知するスコープを含んでいてもよい。また、計測部15は、モールド側マーク18と基板側マーク19とを同時に検出できなくてもよい。例えば、計測部15は、内部に配置された基準位置に対するモールド側マーク18及び基板側マーク19のそれぞれの位置を求めることで、モールド側マーク18と基板側マーク19との相対的な位置関係を検出してもよい。
【0022】
形状補正部16は、基板13のショット領域ごとに、モールド11のパターンと基板13のショット領域との形状の差を補正する補正部として機能する。即ち、形状補正部16は、基板13およびモールド11の少なくとも一方の形状を補正する。形状補正部16は、本実施形態では、モールド11に対して、パターン面11aに平行な方向に力を加えてモールド11(パターン面11a)を変形させることで、パターン面11aの形状を補正する。
図2は、形状補正部の構成の一例を示す図である。例えば、形状補正部16は、
図2に示すように、モールド11の側面を吸着する吸着部16aと、モールド11の側面に向かう方向及びモールド11の側面から遠ざかる方向に吸着部16aを駆動するアクチュエータ16bを含む。吸着部16aは、モールド11の側面を吸着する機能を有していなくてもよく、モールド11の側面に接触する接触部材であってもよい。また、形状補正部16は、モールド11に熱を与えてモールド11の温度を制御することでパターン面11aを変形させてもよい。さらに、モールド11のパターン面11aを変形させるのではなく、基板上の所定の位置に一定強度の光を照射することで局所的に基板13を熱膨張させ、基板13のショット領域(基板13に形成されたパターン)の形状を補正する場合もある。この時、形状補正に用いられる光は、インプリント材を硬化させる光とは異なる光であることが好ましい。この場合、インプリント装置1は、形状補正部としてモールド11又は基板13に熱を供給するための熱供給部を備える。
【0023】
制御部17は、CPUやメモリなどを含み、インプリント装置1の全体(インプリント装置1の各部)を制御する。制御部17は、本実施形態では、インプリント処理及びそれに関連する処理を制御する。例えば、制御部17は、インプリント処理を行う際に、計測部15の計測結果に基づいて、モールド11と基板13とのアライメント(位置合わせ)を行う。また、制御部17は、インプリント処理を行う際に、形状補正部16によるモールド11のパターン面11aの変形量および、モールド11又は基板13に供給する熱を計算し制御する。さらに、制御部17は、基板とモールドの位置ずれ補正に必要なインプリント材の密度分布を計算し制御する。
【0024】
取得部20は、基板表面を走査し、基板の段差形状の情報を取得する。基板ごとに情報を取得した段差情報に基づき、基板ごとに形状補正の補正値を変更する。取得部20は、非接触型の光学センサであってもよいし、これと同等の効果が得られる段差計測可能な他方式のセンサであってもよい。
【0025】
(実施例1)
図3は、実施例1に係る処理を示したフローチャートである。このフローチャートで示す各動作(ステップ)は、制御部17による各部の制御によって実行されうる。本実施例においては、ショット領域の一部分のみの表面形状に基づいて、基板全体の表面段差量を取得することで、モールド11と基板13との位置ずれを補正する。S1では、制御部17は、予め用意した基板のある1ショット領域全体の表面形状情報を取得する。各ショット領域は、種々の原因により、凹凸(段差形状)を有しうる。
図4は、ショット領域の段差形状の一例を示す図である。
図4(A)は、一例として、基板のパターン面13aに対して、段差形状13bが格子状に配置されている様子を示している。
図4(B)は、図中の矢印の方向に取得部20を走査させた場合の段差形状13bのz方向の高さを示している。表面形状情報は、該凹凸を示す情報を含みうる。該凹凸は、所定の傾向があるため、例えば、予め、取得部20や外部計測機などによって、基板のある1ショット領域全体の段差形状を表面形状情報として取得しておく。なお、シミュレーションや実験により、基板のある1ショット領域全体または基板全体の段差形状が取得できている場合には、これを表面形状情報として用いるために取得しても良い。なお、複数のショット領域の段差形状に基づいて表面形状情報を取得しても良い。この場合、例えば、複数のショット領域の段差形状の標準偏差に基づいて生成された表面形状情報を用いる。
【0026】
図3に戻り、S2では、取得部20にて、ショット領域の部分的な表面形状を取得する。このとき、取得部20にて表面形状を取得するショット領域の部分は、段差を有する部分である必要がある。そこで、制御部17はS1にて取得した表面形状情報に基づいて、ショット領域のうち表面形状を計測する部分を決定し、取得部20は制御部17によって決定された部分の段差量を取得する。
【0027】
S3では、制御部17は、S2で取得した部分的な表面形状に基づいて、基板全体の表面段差量を補間演算等の算出により取得する。S2は、基板のある1ショットのみで行われてもよいし、複数ショットで行われてもよい。前者の場合、S3において、制御部17は、段差計測を実施した1ショットの段差量が、全ショットで共通であると仮定して、基板全体の段差量を算出する。後者の場合は、取得した複数点の段差情報から、線形補間などにより基板内の段差量分布を推定する。また、1つのショット領域で取得される段差量は、ショット領域のある一部分だけでもよいし、ショット領域の複数点の情報を取得してもよい。前者の場合は、取得された1つの段差量が、ショット全体で共通であると仮定して基板全体の段差量を算出する。後者の場合は、取得した複数点の段差情報から、線形補間などによりショット内の段差量分布を推定する。以上のように、取得された部分的な段差情報から、基板全体の表面段差量を推定する。S2をいずれのように実施する場合でも、基板の部分的な段差量の計測に留まるので、インプリント装置の生産性にほとんど影響なく、基板全体の段差情報を取得することができる。
【0028】
S4では、制御部17は、S3で取得した基板全体の段差量に基づいて、基板上のインプリント材とモールド11とを接触させている間に生じる基板13とモールド11との相対的な位置ずれ、および、それに対する補正量(形状補正値)を算出する。ここで補正する位置ずれとは、S07のダイバイダイアライメントで補正する、並進、倍率、回転などの低次成分以外の高次成分である。
【0029】
また、S4では、外部計測機にて計測する評価点の座標の情報を考慮する。
図5は、評価点の座標の一例を説明する図である。各評価点は、段差形状13bの上に配置され、外部計測機にて計測される。評価点13cは、基板のパターン面13aと段差形状13bの境界に近く、評価点13dは評価点13cと比較して境界から遠い。それぞれの評価点から伸びる矢印は、インプリント時(基板上のインプリント材とモールド11との接触時)に発生する基板13とモールド11の相対的な位置ずれを表しており、矢印の長さが長いほど、位置ずれか大きいことを示している。位置ずれは、段差境界に近いほど大きくなることが分かっている。よって、制御部17は、例えば、記憶部を有し、予め計測されたショット領域の全域における位置ずれの量と、位置ずれの量が計測されたそれぞれの地点のショット領域上における座標を記憶部に記憶しておく。そして、位置ずれの補正量を算出する際は、制御部17は、外部計測機にて計測した評価点の座標において発生する位置ずれを計算することで、評価点での位置ずれが最小となるように補正量を算出する。
【0030】
図6は、段差量と位置ずれの関係を説明する図である。本図は、あるショット領域において、段差形状により発生する位置ずれが、段差量によって変化する様子を示している。
図6(A)は、ある段差形状13eと、その段差形状をもつ基板にインプリントしたときに発生する基板とモールドの位置ずれを示している。
図6(B)は、段差形状13eより高い段差形状13fと、その段差形状をもつ基板にインプリントしたときに発生する位置ずれであり、段差量の大きい方が発生する位置ずれが大きいことを示している。段差量と発生する位置ずれの量の関係は、線形変化であることが分かっている。
【0031】
図3に示すS4では、位置ずれを補正したい評価点の座標情報と、シミュレーションや事前実験にて取得した段差量と位置ずれの関係を予め、例えば、記憶部などに記録しておく。これにより、S2で取得したショット領域の部分的な段差量から、インプリント時に発生する基板全体の位置ずれを計算することができる。
【0032】
S5では、ディスペンサを備える供給部21にて、基板上にインプリント材を配置する。その後、モールド保持部12が下降し、基板13上のインプリント材にモールド11を押し付ける。このとき、基板保持部14をモールド保持部12の方向へ上昇させても良いし、双方を駆動させることで、モールド11と基板13上のインプリント材とを接触させても良い。
【0033】
S6では、S4で算出された補正値に基づいて、モールド11および基板13の形状補正を行う。形状補正部16は、各軸がモールド11の側面に加圧することによって、所望の形状になるようにモールド11を変形させる。また、熱供給部によって、モールド上または基板上の所定の位置に一定強度の光を照射する。これによって局所的にモールド11または基板13を熱膨張させ、モールド11と基板13の相対的な位置を所望の形状に変化させる。S6で実施する形状補正の具体的な方法については、特開2013-102132号公報を参照のこと。
【0034】
S7では、計測部15にて、モールド11に設けられたモールド側マーク18と、基板13のショット領域に設けられた基板側マーク19とを光学的に検出し、モールド11と基板13の相対的な位置ずれを計測する。基板保持部14は、計測部15が計測した位置ずれ情報に基づき基板ステージを駆動させることで、モールド11と基板13の位置合わせ(ダイバイダイアライメント)を行う。ここで補正する位置ずれとは、並進、倍率、回転などの低次成分である。
【0035】
S8では、基板13上のインプリント材に硬化用のエネルギー(ここでは、紫外線)を照射することによって、インプリント材を硬化させる。その後、モールド保持部12が上昇し、基板13上のインプリント材とモールド11とを引き離すことによって、モールド11のパターン面11aに描画されている凹凸パターンが、基板上にインプリント材のパターンが形成される。
【0036】
以上の工程を経ることにより、段差量の異なる基板に対しても、それぞれについて基板全体の表面段差量を計測することなく、効率的に位置ずれを補正することが可能となる。そして、生産性を低減させることなく、モールドと基板との位置合わせ精度を向上させることができる。
【0037】
(実施例2)
以降の説明においては、
図3に示すフローチャートに基づいて、実施例1のとの相違点のみ記載する。本実施例では、基板上に供給されるインプリント材の分布を用いて、基板とモールドの位置ずれを補正する。具体的には、基板とモールドの位置ずれを補正するように、配置するインプリント材の密度、すなわちインプリント材の厚みに分布をもたせる。これにより、モールド11のパターン面11aを、歪みを相殺するように変形させ、位置ずれを補正する。
【0038】
図7は、インプリント材の分布と位置ずれの関係を説明する図である。
図7(A)は、インプリント材の密度に分布をつけて配置した様子を示している。
図7(B)は、分布をもったインプリント材に対してインプリントしたときの、基板とモールドの位置ずれを矢印によって示している。この位置ずれは、インプリント材の密度に応じて、押し付けた時のモールドの形状が変化するために生じるものである。本図に示すように、インプリント材の密度(厚み)がより高い箇所から、より低い箇所へ向かって基板とモールドの位置ずれが生じる。よって、S4において、制御部17は、S3で算出された段差量に基づいて、インプリント材の供給量および基板上に供給されるインプリント材の配置を決定する。
【0039】
S5では、ディスペンサを備える供給部21にて、S4で決定された供給量および配置のインプリント材を基板上に供給する。
【0040】
なお、補正対象の位置ずれ形状に対するドロップ配置方法については、あらかじめシミュレーションや事前実験にて求め、例えば、制御部17の記憶部に記憶しておく。このインプリント材の密度分布によって行われる位置ずれの補正は、S6の形状補正と同時に使用してもよいし、単独で使用してもよい。単独の場合は、S6の工程は省略される。その後、モールド保持部12が下降し、基板13上のインプリント材にモールド11を押し付ける。なお、S5で実施するインプリント材の配置に分布を持たせて位置ずれを補正する具体的な方法については、US15/162130明細書を参照のこと。
【0041】
本実施例によれば、形状補正部を構成することなく、基板とモールドの位置ずれを補正することができる。また、形状補正部と併用することで、より柔軟に基板とモールドの位置ずれを補正することが可能となり、モールドと基板との位置合わせ精度をさらに向上させることができる。
【0042】
〔物品製造方法の実施形態〕
インプリント装置を用いて形成した硬化物のパターンは、各種物品の少なくとも一部に恒久的に、或いは各種物品を製造する際に一時的に、用いられる。物品とは、電気回路素子、光学素子、MEMS、記録素子、センサ、或いは、型等である。電気回路素子としては、DRAM、SRAM、フラッシュメモリ、MRAMのような、揮発性或いは不揮発性の半導体メモリや、LSI、CCD、イメージセンサ、FPGAのような半導体素子等が挙げられる。型としては、インプリント用のモールド等が挙げられる。
【0043】
硬化物のパターンは、上記物品の少なくとも一部の構成部材として、そのまま用いられるか、或いは、レジストマスクとして一時的に用いられる。ウエハの加工工程においてエッチング又はイオン注入等が行われた後、レジストマスクは除去される。
【0044】
次に、物品の具体的な製造方法について説明する。
図8(A)に示すように、絶縁体等の被加工材2zが表面に形成されたシリコンウエハ等のウエハ1zを用意し、続いて、インクジェット法等により、被加工材2zの表面にインプリント材3zを付与する。ここでは、複数の液滴状になったインプリント材3zがウエハ上に付与された様子を示している。
【0045】
図8(B)に示すように、インプリント用のモールド4zを、その凹凸パターンが形成された側をウエハ上のインプリント材3zに向け、対向させる。
図8(C)に示すように、インプリント材3zが付与されたウエハ1zとモールド4zとを接触させ、圧力を加える。インプリント材3zはモールド4zと被加工材2zとの隙間に充填される。この状態で硬化用のエネルギーとして光をモールド4zを透して照射すると、インプリント材3zは硬化する。
【0046】
図8(D)に示すように、インプリント材3zを硬化させた後、モールド4zとウエハ1zを引き離すと、ウエハ1z上にインプリント材3zの硬化物のパターンが形成される。この硬化物のパターンは、モールドの凹部が硬化物の凸部に、モールドの凹部が硬化物の凸部に対応した形状になっており、即ち、インプリント材3zにモールド4zの凹凸パターンが転写されたことになる。
【0047】
図8(E)に示すように、硬化物のパターンを耐エッチングマスクとしてエッチングを行うと、被加工材2zの表面のうち、硬化物が無いか或いは薄く残存した部分が除去され、溝5zとなる。
図8(F)に示すように、硬化物のパターンを除去すると、被加工材2zの表面に溝5zが形成された物品を得ることができる。ここでは硬化物のパターンを除去したが、加工後も除去せずに、例えば、半導体素子等に含まれる層間絶縁用の膜、つまり、物品の構成部材として利用してもよい。
【0048】
(その他の実施形態)
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形および変更が可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 インプリント装置
11 モールド
13 基板
15 計測部
16 形状補正部
17 制御部
20 取得部
21 供給部