IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 古河電池株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-鉛蓄電池用液口栓 図1
  • 特許-鉛蓄電池用液口栓 図2
  • 特許-鉛蓄電池用液口栓 図3
  • 特許-鉛蓄電池用液口栓 図4
  • 特許-鉛蓄電池用液口栓 図5
  • 特許-鉛蓄電池用液口栓 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】鉛蓄電池用液口栓
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/655 20210101AFI20240311BHJP
【FI】
H01M50/655
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019213855
(22)【出願日】2019-11-27
(65)【公開番号】P2021086699
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000005382
【氏名又は名称】古河電池株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104204
【弁理士】
【氏名又は名称】峯岸 武司
(72)【発明者】
【氏名】瀬尾 秋夫
(72)【発明者】
【氏名】新妻 滋
(72)【発明者】
【氏名】高田 利通
【審査官】佐宗 千春
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/054163(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/054164(WO,A1)
【文献】特開2009-176600(JP,A)
【文献】実開平04-063559(JP,U)
【文献】特開2010-277936(JP,A)
【文献】特開2000-215907(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/30-50/392
50/60-50/77
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛蓄電池の電槽蓋に各セル室毎に形成されて一括排気口に連通する電解液注液口の開口部周縁面に対向する環状面を有する栓頭部と、
前記栓頭部と一体に形成される中空円筒状の栓本体と、
前記環状面と前記開口部周縁面との間で押圧されて前記電解液注液口を封止するリング状のパッキンを前記環状面との間に挟持する、前記栓本体の外周にその径方向に突出して周方向の一部に切り欠きを有して形成されたパッキン脱落防止リブと、
前記切り欠きにおける前記栓本体に貫通して設けられて前記栓本体内部の中空部および前記一括排気口に連通する貫通孔と
前記環状面に環状に突出して前記栓本体の外周を囲んで形成され、前記パッキンに接触する環状線状の頂部を有する環状リブと、
を備える鉛蓄電池用液口栓。
【請求項2】
前記電解液注液口を開口させて前記電槽蓋に形成される前記栓本体の周囲を囲む液筒の内壁に設けられた雌ネジに螺合する、前記パッキン脱落防止リブの前記栓頭部と反対側における前記栓本体の外周に設けられたネジ山と、前記ネジ山の前記パッキン脱落防止リブ側の端部に前記ネジ山の高さより高く張り出して鍔状に形成された鍔部とを備えることを特徴とする請求項1に記載の鉛蓄電池用液口栓。
【請求項3】
前記環状リブは三角形の断面形状を有し、前記断面形状の頂点は前記頂部を形成することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の鉛蓄電池用液口栓。
【請求項4】
前記環状リブは、前記環状面から前記頂部までの突出高さが0.2mm以上0.4mm以下であることを特徴とする請求項3に記載の鉛蓄電池用液口栓。
【請求項5】
前記切り欠きの前記栓本体の周方向における長さは前記パッキン脱落防止リブの周縁を囲む外周長に対する比が5%以上10%以下であり、前記パッキン脱落防止リブの前記栓本体外周からの突出高さは前記パッキンの径方向の幅に対する比が25%以上30%以下であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の鉛蓄電池用液口栓。
【請求項6】
前記パッキンの厚みは1.0mm以上2.5mm以下であり、前記パッキン脱落防止リブの前記栓本体外周からの突出高さは0.8mm以上1.1mm以下であることを特徴とする請求項5に記載の鉛蓄電池用液口栓。
【請求項7】
前記パッキンの厚みは1.2mm以上1.8mm以下であることを特徴とする請求項6に記載の鉛蓄電池用液口栓。
【請求項8】
前記パッキンの厚みは1.3mm以上1.7mm以下であることを特徴とする請求項7に記載の鉛蓄電池用液口栓。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池の電槽蓋に各セル室毎に形成されて一括排気口に連通する電解液注液口を塞ぐ鉛蓄電池用液口栓に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等に搭載される鉛蓄電池において、電槽から排気されるガスの排気構造の小型化は、容積効率の点から重要な課題である。一般的に、複数のセル室を有するモノブロック式の鉛蓄電池の排気構造には、各セル室に個別の排気栓を設ける方式と、各セル室の排気経路を連結した一括排気方式がある。
【0003】
一括排気方式の排気構造を備えた鉛蓄電池としては、例えば、特許文献1に開示された鉛蓄電池がある。同文献に記載の鉛蓄電池では、複数のセル室を隔壁により区画形成した電槽を一個の蓋で覆い、その電槽蓋の上面に各セル室に対応して穿孔した排気孔を有する凹状空間部を形成し、各排気孔からの排気ガスを連通口により一括排気するようにしている。
【0004】
排気栓は、電解液を注入する液口を塞ぐための液口栓を兼ねることもある。係る液口に取り付けられる排気栓の機能も有する栓体を総称し、本明細書中では「液口栓」と表記している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5084396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一括排気方式の排気構造を備えた鉛蓄電池では上記のように電槽蓋に一括排気通路が形成されるが、従来、電槽蓋の樹脂成型時における樹脂の収縮により、一括排気通路と電槽蓋の表面との間の樹脂層の厚みが厚い箇所における電槽蓋の表面に、ヒケが形成された。このヒケにより電槽蓋に外観不良が生じ、鉛蓄電池の生産効率の向上に影響を与える一因となる。
【0007】
また、EN規格(European Norm)の鉛蓄電池は、JIS規格の鉛蓄電池と比べ、電池の高さが低く設計される。このため、このような鉛蓄電池は、近年の車高が低く抑えられた車両に採用されると好適である。一方、鉛蓄電池の構造をEN規格に適合させる場合は、高さ方向の内部構造が設計上の制約を受けるため、安全性に十分な配慮をした上で、優れた電池特性を実現することは容易ではない。
【0008】
電解液の漏液を防止するために、栓本体にパッキンを取り付けることで気密性を高めた液口栓が知られているが、上記のようなEN規格の鉛蓄電池に取り付けられる電槽蓋においても、液口栓の栓本体にパッキンを取り付けることで気密性を高めようとしたところ、パッキンがずれる事象が確認された。すなわち、液口栓を電解液注液口に締め込むためにパッキンの一部が電槽蓋に貼り付き、液口栓を外す際にパッキンが斜めになって取り出されて、パッキンの設置位置がずれることが確認された。電解液の補液後、このようなパッキンがずれた状態を作業者が認識せずに、パッキンがずれたままの状態で再度液口栓を電解液注液口に締め込もうとした場合、液口栓の電解液注液口に対する嵌合不良により電解液の注液口が密封されず、電解液の漏出を招く虞がある。
【0009】
したがって、一括排気構造を有する鉛蓄電池においては、液口栓の形状の設計が、漏液の防止や安全なガス排気といった安全性に大きく影響する。本発明は上記の各事情を鑑みてなされたもので、電槽蓋に外観不良が生じることが無く、しかも、電解液の漏出を招く虞が無くて安全性に優れた鉛蓄電池用液口栓を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このために本発明は、鉛蓄電池の電槽蓋に各セル室毎に形成されて一括排気口に連通する電解液注液口の開口部周縁面に対向する環状面を有する栓頭部と、栓頭部と一体に形成される中空円筒状の栓本体と、前記環状面と前記開口部周縁面との間で押圧されて電解液注液口を封止するリング状のパッキンを前記環状面との間に挟持する、栓本体の外周にその径方向に突出して周方向の一部に切り欠きを有して形成されたパッキン脱落防止リブと、前記切り欠きにおける栓本体に貫通して設けられて栓本体内部の中空部および一括排気口に連通する貫通孔と、前記環状面に環状に突出して栓本体の外周を囲んで形成され、パッキンに接触する環状線状の頂部を有する環状リブと、を備える鉛蓄電池用液口栓を構成した。
【0011】
本構成によれば、一括排気口に連通する貫通孔は、パッキン脱落防止リブの切り欠きにおける中空円筒状の栓本体に貫通して設けられ、栓本体内部の中空部に連通する。また、パッキン脱落防止リブは、パッキンを栓頭部の環状面との間に挟持する位置における栓本体の外周に、その径方向に突出して形成される。したがって、栓頭部の環状面から栓本体の外周に形成されるパッキン脱落防止リブまで、つまり、その切り欠きにおける貫通孔までの距離は、パッキンの厚さ程度までに短くすることができる。このため、貫通孔に連通する一括排気口の電槽蓋表面からの深さを浅くすることができ、一括排気口と電槽蓋の表面との間の厚かった樹脂層の厚みを薄く形成できる。その結果、樹脂層が厚く形成される箇所の電槽蓋の表面にその樹脂成型時に生じていたヒケの発生を防止することが可能となる。よって、ヒケの発生によって電槽蓋に外観不良が生じなくなり、鉛蓄電池の生産効率の向上に悪影響を与えなくなる。
【0012】
また、本構成によれば、電解液注液口を封止するパッキンは、パッキン脱落防止リブにより、栓頭部の環状面とパッキン脱落防止リブとの間における栓本体の外周に係止される。したがって、液口栓を締め込むことでパッキンの一部が電槽蓋における電解液注液口の開口部周縁面に貼り付いたとしても、液口栓を外す際にパッキンがパッキン脱落防止リブによって強制的に持ち上げられて、電解液注液口の開口部周縁面から剥がされる。このため、従来のように、液口栓を外す際にパッキンが斜めになって取り出されて、パッキンがずれる事象は発生しなくなる。よって、電解液の補液を行った後に再度液口栓を電解液注液口に締め込む際に、液口栓の電解液注液口に対する嵌合不良により電解液注液口が密封されなくなる事態の発生が防止され、従来の電解液の漏出を招く虞は解消される。
また、本構成によれば、パッキンは、栓頭部の環状面に押圧されると共に、その環状面に環状に突出して形成された環状リブにより環状線状に強く押圧されて、電解液注液口の開口部周縁面に押し付けられる。したがって、パッキンは、環状面の全面によって電解液注液口の開口部周縁面に面で均一に押し付けられる従来の場合と異なり、環状リブによって電解液注液口の開口部周縁面に環状線状に強く押し付けられる。このため、パッキンは、電解液注液口の開口部周縁面に貼り付き難くなり、開口部周縁面との貼り付きが強くなってパッキン脱落防止リブを乗り超えて脱落する虞は、無くなる。
【0013】
また、本発明は、電解液注液口を開口させて電槽蓋に形成される栓本体の周囲を囲む液筒の内壁に設けられた雌ネジに螺合する、パッキン脱落防止リブの栓頭部と反対側における栓本体の外周に設けられたネジ山と、ネジ山のパッキン脱落防止リブ側の端部にネジ山の高さより高く張り出して鍔状に形成された鍔部とを備えることを特徴とする。
【0014】
本構成によれば、液口栓は、栓本体の外周に設けられたネジ山が、栓本体の周囲を囲む位置の電槽蓋に形成される液筒の内壁に設けられた雌ネジに螺合することで、電解液注液口に嵌合する。この嵌合により、液口栓は、栓頭部の環状面がパッキンを電解液注液口の開口部周縁面に押し付け、電解液注液口を封止する。この際、ネジ山のパッキン脱落防止リブ側の端部にネジ山の高さより高く張り出して鍔状に形成された鍔部の外周縁が液筒の内壁に当接し、栓本体の外周に設けられたネジ山と液筒の内壁に設けられた雌ネジとの間に生じる隙間を塞ぐ。このため、この隙間から電槽内の電解液が漏れるのが防止され、より高い漏液の防止効果が得られる。また、液口栓と電解液注液口との嵌合時の摩擦抵抗を減らすためにネジ山の高さを低く形成した場合にも、液筒の内周と栓本体との間に生じる隙間を鍔部によって閉塞でき、液口栓の締結作業性の向上と漏液防止の効果とを両立することが出来る。また、液口栓の栓頭部の下方に形成されてパッキンで封止される一括排気口に通じる空間の密閉度が鍔部によって向上し、栓本体の内部の中空部および貫通孔を経由して排出される排気ガスは電槽内に戻ることなく、速やかに一括排気口を介して鉛蓄電池の外部に放出されるようになる。
【0015】
また、本発明は、環状リブが三角形の断面形状を有し、断面形状の頂点が前記頂部を形成することを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、環状リブが、前記環状面から前記頂部までの突出高さが0.2mm以上0.4mm以下であることを特徴とする。
【0018】
環状リブの環状面からの突出高さが0.2mmより低ければ、環状リブの上記効果は奏されない。また、環状リブの環状面からの突出高さが0.4mmより高ければ、環状リブがパッキンを傷つける虞が生じ、また、液口栓の成型金型の溝深さが大きくなって成型金型の製作にかかる時間および費用が増えてしまう。一方、環状リブの環状面からの突出高さが0.2mm以上0.4mm以下に設定されることで、パッキンを傷つける虞が無く、しかも、成型金型の製作にかかる時間および費用が増えること無く、上記効果が奏される。
【0019】
また、本発明は、前記切り欠きの栓本体の周方向における長さの、パッキン脱落防止リブの周縁を囲む外周長に対する比が5%以上10%以下であり、パッキン脱落防止リブの栓本体外周からの突出高さの、パッキンの径方向の幅に対する比が25%以上30%以下であることを特徴とする。
【0020】
パッキン脱落防止リブの一部に切欠きを形成することは、パッキンがパッキン脱落防止リブを乗り越えやすくなってパッキンの脱落防止に不利になると考えることもできる。しかし、本構成の各部の寸法関係によれば、パッキンの電槽蓋への貼り付きが多少生じても、パッキンの脱落防止効果を十分に得ることが出来る。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、電槽蓋に外観不良が生じることが無く、しかも、電解液の漏出を招く虞が無くて安全性に優れた鉛蓄電池用液口栓を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】(a)は、本発明の一実施形態による鉛蓄電池用液口栓の側面図、(b)は(a)に示す液口栓を下方から見上げた斜視図、(c)は(a)に示す液口栓を別の角度から見上げた斜視図である。
図2】(a)は図1に示す液口栓の平面図、(b)は(a)におけるA-A線破断矢視断面図、(c)は(b)におけるB部の一部拡大断面図である。
図3】(a)は、図1に示す液口栓にパッキンが取り付けられた状態における液口栓の側面図、(b)は(a)に示す状態の液口栓を下方から見上げた斜視図、(c)は(a)に示す状態の液口栓を別の角度から見上げた斜視図である。
図4図1に示す液口栓で電解液注液口が封止される鉛蓄電池の電槽蓋の斜視図である。
図5図4におけるC-C線で電槽蓋を破断した際の矢視断面図である。
図6図4および図5に示す電槽蓋の電解液注液口に図1に示す液口栓が嵌合させられた状態の一部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明の一実施の形態による鉛蓄電池用液口栓について説明する。
【0024】
図1(a)は、一実施形態による鉛蓄電池用液口栓1の側面図、同図(b)は液口栓1を下方から見上げた斜視図、同図(c)は液口栓1を別の角度から見上げた斜視図である。また、図2(a)は液口栓1の平面図、同図(b)は同図(a)におけるA-A線破断矢視断面図、同図(c)は同図(b)におけるB部の一部拡大断面図である。
【0025】
液口栓1は、栓頭部1aと栓本体1bとが同軸にポリプロピレン樹脂等によって一体に樹脂成型されて、形成されている。栓頭部1aは円板状の形状をしている。栓本体1bは、栓頭部1aの直径よりも一回り小さな直径をした中空円筒状の形状をしており、排気筒を兼ねている。栓頭部1aはその下面に環状面1a1を有し、上面に工具が嵌合する溝1hが形成されている。環状面1a1の外周付近には、環状リブ1cが環状に突出して、栓本体1bの外周を囲んで形成されている。この環状リブ1cは、図2(c)の一部拡大断面図に示すように、断面が三角形状をしており、その三角形の頂部が環状面1a1から最も突出した高さにある。環状リブ1cは、環状面1a1からの突出高さが0.2mm以上0.4mm以下に設定され、本実施形態では0.3mmに形成されている。
【0026】
また、栓本体1bの外周には、その径方向に突出して形成されたパッキン脱落防止リブ1dが栓頭部1aと離間して設けられている。パッキン脱落防止リブ1dは、栓本体1bの周方向の対向する箇所の一部に、一対の切り欠き1d1を有している。各切り欠き1d1における栓本体1bにはそれぞれ貫通孔1eが貫通して、栓本体1bの内部の中空部に連通して設けられている。また、パッキン脱落防止リブ1dの栓頭部1aと反対側における栓本体1bの外周には、ネジ山1fが設けられている。このネジ山1fのパッキン脱落防止リブ1dの側の端部には、鍔部1gがネジ山1fの高さより高く張り出して、鍔状に形成されている。
【0027】
パッキン脱落防止リブ1dの栓本体1bの外周からの突出高さhは0.8mm以上1.1mm以下に設定されるのが好ましい。本実施形態では、パッキン脱落防止リブ1dの外径φ1は16.5mm、内径(栓本体1bの外径)φ2は14.5mm、栓本体1bの外周からの突出高さhは0.95mm、厚みdは1mmになっている。また、パッキン脱落防止リブ1dの各切り欠き1d1の栓本体1bの周方向における長さL1は、それぞれ4mmになっている。
【0028】
また、1つの切り欠き1d1の長さL1は、パッキン脱落防止リブ1dの周縁を囲む外周長に対する比が5%以上10%以下に設定されるのが好ましい。本実施形態では、パッキン脱落防止リブ1dの周縁を囲む外周長は、パッキン脱落防止リブ1dの外径φ1が16.5mmであるから、51.84mm(=φ1×π=16.5π)と計算される。したがって、本実施形態では、1つの切り欠き1d1の栓本体1bの周方向における長さL1は、パッキン脱落防止リブ1dの周縁を囲む外周長に対する比が7.72%(=(4/51.84)×100)になっており、5%以上10%以下に設定されている。
【0029】
図3(a)は、液口栓1にパッキン2が取り付けられた状態における液口栓1の側面図、同図(b)は同図(a)に示す状態の液口栓1を下方から見上げた斜視図、同図(c)は同図(a)に示す状態の液口栓1を別の角度から見上げた斜視図である。なお、図3において図1と同一部分には同一符号を付してその説明は省略する。
【0030】
パッキン2はリング状をしたゴム材等の弾性体からなり、パッキン脱落防止リブ1dによって栓頭部1aの環状面1a1との間に挟持される。環状面1a1に形成される環状リブ1cは、その頂部がこのパッキン2に線接触する。
【0031】
パッキン2は、本実施形態では、外径φ3が22mm、内径φ4が15mm、径方向の幅wが3.5mm、厚みtは1.5mmの寸法になっている。パッキン2の厚みtは1.3mm以上1.7mm以下に設定されるの好ましい。また、パッキン脱落防止リブ1dの栓本体1bの外周からの突出高さhは、パッキン2の径方向の幅wに対する比が25%以上30%以下に設定されるのが好ましい。本実施形態では、突出高さhが0.95mm、径方向の幅wが3.5mmであるから、この突出高さhの径方向の幅wに対する比は27.14%(=(0.95/3.5)×100)になっており、25%以上30%以下に設定されている。
【0032】
図4は鉛蓄電池の電槽蓋3の斜視図、図5図4におけるC-C線で電槽蓋3を破断した際の矢視断面図である。なお、これら各図において同一部分には同一符号を付して説明する。
【0033】
電槽蓋3は、複数のセル室に区分された図示しない電槽の開口部を塞ぐもので、各セル室毎に電解液注液口3aが形成されている。この電槽蓋3も、液口栓1と同様にポリプロピレン樹脂等によって成型される。各セル室は、電槽蓋3において、図5に示す隔壁3bによって区分けされており、各隔壁3bが、電槽において各セル室を区分けする図示しない隔壁に熱溶着されることで、密閉される。各電解液注液口3aは、電槽蓋3の裏側に筒状に形成された液筒3cの上方に形成されて、電槽蓋3の表面に現れている開口である。液筒3cは、電解液注液口3aを開口させて、電槽蓋3に形成されている。この液筒3cの内壁には、液口栓1のネジ山1fに螺合する雌ネジ3dが設けられている。また、電解液注液口3aの開口部周縁に形成される開口部周縁面3eには、電解液注液口3aに液口栓1が嵌合させられるとき、栓頭部1aの環状面1a1が対向させられる。
【0034】
各セル室における液筒3cは、電槽蓋3の表面から一定深さの下方に形成された一括排気口3fによって、隣同士のものが連通させられている。電槽蓋3の長手方向の両側面にはそれぞれガス排出孔3gが形成されている。ガス排出孔3gは、端にあるセル室に設けられた液筒3cに連通する一括排気口3fの一端を電槽蓋3の側面に開口させる。このガス排出孔3gには図示しないチューブ等が接続され、一括排気口3fによって形成される排気通路を通ってきた電解液の排気ガスは、このチューブ等によって外部へ放出される。
【0035】
電解液の排気ガスは、充電末期に電解液中の水分が電気分解されて生じる酸素ガスまたは水素ガスであり、助燃性や可燃性を有する。一括排気方式の本実施形態におけるガス排気構造では、ガス排出孔3gにチューブ等を接続することで、安全にガスを排気することができ、従来のエンジンルームだけでなく、自動車の室内にも鉛蓄電池を載置可能となる。このため、エンジンルーム内の電池用の空間を縮小し、室内を広げられる利点を有する。
【0036】
図6は、電解液注液口3aに液口栓1が嵌合させられ、液筒3cが液口栓1の栓本体1bの周囲を囲んだ状態の一部拡大断面図である。同図において図1図5と同一部分には同一符号を付してその説明は省略する。
【0037】
液口栓1は、栓本体1bが電解液注液口3aに差し込まれ、栓頭部1aの溝1hに工具が当てられて栓頭部1aが回されることで、ネジ山1fが雌ネジ3dに螺合して電解液注液口3aに締結される。この際、栓頭部1aの環状面1a1と電槽蓋3の開口部周縁面3eとの間に挟持されるパッキン2が環状面1a1によって開口部周縁面3eに押圧されて、電解液注液口3aが封止される。
【0038】
この状態では、栓本体1bの一対の切り欠き1d1に設けられた各貫通孔1eは、栓本体1bの内部の中空部にそれぞれ連通すると同時に、一括排気口3fの延設方向に一直線に並んで一括排気口3fに連通する。したがって、一括排気口3fが形成する排気通路の途中に排気ガスの流れを邪魔する障害物がなくなる。このため、液筒3cを通って上がってくる排気ガスは、各貫通孔1eを経由して、一括排気口3fが形成する排気通路を通ってガス排出孔3gへ速やかに導かれる。
【0039】
このような本実施形態の鉛蓄電池用液口栓1によれば、上記のように、一括排気口3fに連通する貫通孔1eは、パッキン脱落防止リブ1dの切り欠き1d1における中空円筒状の栓本体1bに貫通して設けられ、栓本体1bの内部の中空部に連通する。また、パッキン脱落防止リブ1dは、パッキン2を栓頭部1aの環状面1a1との間に挟持する位置における栓本体1bの外周に、その径方向に突出して形成される。したがって、栓頭部1aの環状面1a1から栓本体1bの外周に形成されるパッキン脱落防止リブ1dまで、つまり、その切り欠き1d1における貫通孔1eまでの距離は、パッキン2の厚さt程度までに短くすることができる。
【0040】
このため、貫通孔1eに連通する一括排気口3fの電槽蓋3の表面からの深さD(図5参照)を浅くすることができ、一括排気口3fと電槽蓋3の表面との間の厚かった樹脂層の厚みを薄く形成できる。その結果、樹脂層が厚く形成される箇所の電槽蓋3の表面にその樹脂成型時に生じていたヒケの発生を防止することが可能となる。よって、ヒケの発生によって電槽蓋3に外観不良が生じなくなり、鉛蓄電池の生産効率の向上に悪影響を与えなくなる。
【0041】
また、本実施形態の鉛蓄電池用液口栓1によれば、電解液注液口3aを封止するパッキン2は、パッキン脱落防止リブ1dにより、栓頭部1aの環状面1a1とパッキン脱落防止リブ1dとの間における栓本体1bの外周に係止される。したがって、液口栓1を締め込むことで、また、大気が乾燥する冬場などは静電気による貼り付き力などが加わって、パッキン2の一部が電槽蓋3における電解液注液口3aの開口部周縁面3eに貼り付いたとしても、液口栓1を外す際にパッキン2がパッキン脱落防止リブ1dによって強制的に持ち上げられて、電解液注液口3aの開口部周縁面3eから剥がされる。このため、従来のように、液口栓1を外す際にパッキン2が斜めになって取り出されて、パッキン2がずれる事象は発生しなくなる。よって、電解液の補液を行った後に再度液口栓1を電解液注液口3aに締め込む際に、液口栓1の電解液注液口3aに対する嵌合不良により電解液注液口3aが密封されなくなる事態の発生が防止され、従来の電解液の漏出を招く虞は解消される。
【0042】
このため、本実施形態の鉛蓄電池用液口栓1によれば、電槽蓋3に外観不良が生じることが無く、しかも、電解液の漏出を招く虞が無くて安全性に優れた鉛蓄電池用液口栓1を提供することが可能になる。
【0043】
また、本実施形態の鉛蓄電池用液口栓1によれば、液口栓1は、栓本体1bの外周に設けられたネジ山1fが、栓本体1bの周囲を囲む位置の電槽蓋3に形成される液筒3cの内壁に設けられた雌ネジ3dに螺合することで、電解液注液口3aに嵌合する。この嵌合により、液口栓1は、栓頭部1aの環状面1a1がパッキン2を電解液注液口3aの開口部周縁面3eに押し付け、電解液注液口3aを封止する。この際、ネジ山1fのパッキン脱落防止リブ1d側の端部にネジ山1fの高さより高く張り出して鍔状に形成された鍔部1gの外周縁が液筒3cの内壁に当接し、栓本体1bの外周に設けられたネジ山1fと液筒3cの内壁に設けられた雌ネジ3dとの間に生じる隙間を塞ぐ。このため、この隙間から電槽内の電解液が漏れるのが防止され、より高い漏液の防止効果が得られる。
【0044】
また、液口栓1と電解液注液口3aとの嵌合時の摩擦抵抗を減らすためにネジ山1fの高さを低く形成した場合にも、液筒3cの内周と栓本体1bとの間に生じる隙間を鍔部1gによって閉塞でき、液口栓1の締結作業性の向上と漏液防止の効果とを両立することが出来る。また、液口栓1の栓頭部1aの下方に形成されてパッキン2で封止される、一括排気口3fに通じる空間の密閉度が鍔部1gによって向上し、栓本体1bの内部の中空部および貫通孔1eを経由して排出される排気ガスは電槽内に戻ることなく、速やかに一括排気口3fを介して鉛蓄電池の外部に放出されるようになる。
【0045】
また、本実施形態の鉛蓄電池用液口栓1によれば、パッキン2は、栓頭部1aの環状面1a1に押圧されると共に、その環状面1a1に環状に突出して形成された環状リブ1cにより外周付近が環状線状に強く押圧されて、電解液注液口3aの開口部周縁面3eに押し付けられる。したがって、パッキン2は、環状面1a1の全面によって電解液注液口3aの開口部周縁面3eに面で均一に押し付けられる従来の場合と異なり、環状リブ1cによって電解液注液口3aの開口部周縁面3eに環状線状に強く押し付けられる。このため、パッキン2は、電解液注液口3aの開口部周縁面3eに貼り付き難くなり、開口部周縁面3eとの貼り付きが強くなってパッキン脱落防止リブ1dを乗り超えて脱落する虞は、無くなる。
【0046】
また、環状リブ1cの環状面1a1からの突出高さが0.2mmより低ければ、環状リブ1cの上記効果は奏されない。また、環状リブ1cの環状面1a1からの突出高さが0.4mmより高ければ、環状リブ1cがパッキン2を傷つける虞が生じ、また、液口栓1の成型金型の溝深さが大きくなって成型金型の製作にかかる時間および費用が増えてしまう。一方、本実施形態の鉛蓄電池用液口栓1では、環状リブ1cの環状面1a1からの突出高さが0.2mm以上0.4mm以下に設定されるので、パッキン2を傷つける虞が無く、しかも、液口栓1の成型金型の製作にかかる時間および費用が増えること無く、上記効果が奏される。
【0047】
また、パッキン脱落防止リブ1dの一部に切欠き1d1を形成することは、パッキン2がパッキン脱落防止リブ1dを乗り越えやすくなってパッキン2の脱落防止に不利になると考えることもできる。しかし、本実施形態では、切り欠き1c1の栓本体1bの周方向における長さL1の、パッキン脱落防止リブ1dの周縁を囲む外周長に対する比が5%以上10%以下で、パッキン脱落防止リブ1dの栓本体1bの外周からの突出高さhの、パッキン2の径方向の幅wに対する比が25%以上30%以下に設定される、本実施形態の鉛蓄電池用液口栓1におけるこれら各部の寸法関係によれば、パッキン2の電槽蓋3への貼り付きが多少生じても、パッキン2の脱落防止効果を十分に得ることが出来る。
【0048】
また、上記各部の寸法関係において、パッキン2の厚みを1.0mm以上2.5mm以下、パッキン脱落防止リブ1dの栓本体1bの外周からの突出高さを0.8mm以上1.1mm以下に設定し、液口栓1の締め付けトルクを一定値、周囲温度を3水準にして、液口栓1を電解液注液口3aに締め込んだ状態に所定時間放置する実証実験を行った。その結果、各条件下、液口栓1を電解液注液口3aから外す際に、パッキン2がパッキン脱落防止リブ1dを乗り越えて脱落する事象は発生しないことが確認された。
【0049】
パッキン2の厚みは、より好ましくは1.2mm以上1.8mm以下であるのが望ましい。このように薄くすることで、パッキン2の柔軟性が高まり、その変形に必要な力を小さくできるので、栓頭部1aとパッキン脱落防止リブ1dとの間へのパッキン2の取り付けが容易になり、鉛蓄電池の製造コストを低減することができる。さらに好ましくは、パッキン2の厚みは1.3mm以上1.7mm以下であるのが望ましい。このようにさらに薄くすることで、パッキン2の柔軟性がさらに高まり、パッキン2の取り付けがさらに容易になって鉛蓄電池の製造コストを削減できる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
上記の実施形態による鉛蓄電池用液口栓1は、電解液が栓本体1bの内部に侵入するのを防ぐ防沫板と排気ガスを浄化するフィルタとを栓本体1bの内部に収納するための空間を貫通孔1eの下方に確保しながら、栓頭部1aから貫通孔1eまでの距離を上記のように短くすることができる。このため、上記の実施形態による鉛蓄電池用液口栓1は、その全長が短くなるので、近年の車高が低く抑えられた車両に採用される、高さ方向の内部構造が設計上の制約を受けるEN規格の鉛蓄電池に適用されると、好適である。
【符号の説明】
【0051】
1:鉛蓄電池用液口栓、1a:栓頭部、1a1:環状面、1b:栓本体、1c:環状リブ、1d:パッキン脱落防止リブ、1d1:切欠き、1e:貫通孔、1f:ネジ山、1g:鍔部、1h:溝、2:パッキン、3:電槽蓋、3a:電解液注液口、3b:隔壁、3c:液筒、3d:雌ネジ、3e:開口部周縁面、3f:一括排気口、3g:ガス排出孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6