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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】新規微生物およびその利用
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20240311BHJP
   C12P 17/02 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
C12N1/20 A
C12P17/02 ZNA
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020008678
(22)【出願日】2020-01-22
(65)【公開番号】P2020115858
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2022-11-11
(31)【優先権主張番号】P 2019008699
(32)【優先日】2019-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-02629
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-02924
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-02925
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石輪 俊典
(72)【発明者】
【氏名】中島 賢則
(72)【発明者】
【氏名】大谷 彬
【審査官】山内 達人
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-501136(JP,A)
【文献】特表2008-532558(JP,A)
【文献】J. Agric. Food Chem,2014年,62,pp.12377-12383
【文献】Database GenBank [online],Accession No. KJ078647,2015年04月30日,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/KJ078647
【文献】Journal of Applied Bacteriology,1993年,75,pp.399-408
【文献】化学と教育,2017年,65 巻1 号,pp.12-15
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C12P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
その16S rRNA遺伝子の塩基配列が、ブラウティア・エスピー(Blautia sp.)DC 3
653(NITE BP-02629)株の16S rRNA遺伝子の塩基配列と100%の相同性を有する、微生物。
【請求項2】
ブラウティア・エスピー(Blautia sp.)DC 3652(NITE BP-0292
4)株、ブラウティア・エスピー(Blautia sp.)DC 3653(NITE BP-0
2629)株、又はブラウティア・エスピー(Blautia sp.)DC 3654(NITE
BP-02925)株である、請求項1に記載の微生物。
【請求項3】
下記工程(a1)を含む、脱メチル化ポリフェノールの製造方法。
工程(a1):メトキシ基を有するポリフェノールを含有する溶液において、請求項1又は2に記載の微生物に、メトキシ基を有するポリフェノールから該メトキシ基のメチル基が脱離した、脱メチル化ポリフェノールを生成させる工程
【請求項4】
前記メトキシ基を有するポリフェノールがメトキシ基を有するフラボノイドであり、
前記脱メチル化ポリフェノールが、該フラボノイドの有するメトキシ基のメチル基が脱離した、脱メチル化フラボノイドである、
請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記メトキシ基を有するフラボノイドがイソキサントフモールであり、前記脱メチル化フラボノイドが8-プレニルナリンゲニンである、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記メトキシ基を有するフラボノイドがグリシテインであり、前記脱メチル化フラボノイドが6-ヒドロキシダイゼインである、請求項4に記載の製造方法。
【請求項7】
下記工程(b1)を含む、フラボノイドのアグリコンを製造する方法。
工程(b1):フラボノイド配糖体を含有する溶液において、請求項1又は2に記載の微生物に、フラボノイド配糖体から糖が脱離した、フラボノイドのアグリコンを生成させる工程
【請求項8】
前記フラボノイド配糖体がダイジンであり、前記フラボノイドのアグリコンがダイゼインである、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記フラボノイド配糖体がグリシチンであり、前記フラボノイドのアグリコンがグリシテインである、請求項7に記載の製造方法。
【請求項10】
前記フラボノイド配糖体がゲニスチンであり、前記フラボノイドのアグリコンがゲニステインである、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
下記工程(c1)を含む、脱メチル化フラボノイドのアグリコンを製造する方法。
工程(c1):メトキシ基を有するフラボノイド配糖体を含有する溶液において、請求項1又は2に記載の微生物に、メトキシ基を有するフラボノイド配糖体から該メトキシ基のメチル基が脱離し、更に糖が脱離した、脱メチル化フラボノイドのアグリコンを生成させる工程
【請求項12】
前記メトキシ基を有するフラボノイド配糖体がグリシチンであり、前記脱メチル化フラボノイドのアグリコンが6-ヒドロキシダイゼインである、請求項11に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、新規微生物およびその利用に関する。
詳細には、本開示は新規微生物、並びに、該微生物を用いた、脱メチル化ポリフェノールを製造する方法、該微生物を用いた、フラボノイドのアグリコンを製造する方法、及び、該微生物を用いた、脱メチル化フラボノイドのアグリコンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホップ(Humulus lupulus L.)は、アサ科の多年草で、雌雄異株の蔓性植物である。雌株の毬花は、ビールに苦みなどを付与する原料を含み、さらに、8-プレニルナリンゲニンなどの成分を含んでいる。該8-プレニルナリンゲニンは、エストロゲン活性(非特許文献1)、血管新生抑制活性(特許文献1)、廃用性筋萎縮抑制活性(特許文献2)といった生理活性を示すことが報告されている。
しかし、8-プレニルナリンゲニンは、ホップ毬花には極微量で存在する(非特許文献2)ため、天然抽出物での回収は困難である。そこで、イソキサントフモールを出発物質とした脱メチル化反応による8-プレニルナリンゲニンの製造方法が開発されている。それには微生物を用いた製造方法があり、その微生物としては、例えば、ユーバクテリウム・リモスム(Eubacterium limosum)ATCC 8486株又はペプトストレプトコッカス・プロダクタス(Peptostreptococcus productus)ATCC 27340株が用いられている(特許文献3)。
【0003】
また、イソフラボン類は、腸内細菌により6-ヒドロキシダイゼインやダイゼインを経てエクオールに変換されることが知られている。エクオールは女性ホルモン様の生理作用が強いため、更年期症状や骨粗鬆症の予防や改善(特許文献4)、皮膚の老化及びシワの予防や治療(特許文献5)、アレルギー症状の緩和(特許文献6)等への利用が提案されている。
ダイゼイン配糖体であるダイジン、グリシチン、ゲニスチンは、β-グルコシダーゼ活性により、それぞれ、ダイゼイン、グリシテイン、ゲニステインに変換される(特許文献7)。このβ-グルコシダーゼ活性を有する微生物として、例えば、ブラウチア・プロダクタ(Blautia producta)DSM 2950株、ブラウチア・コッコイデス(Blautia coccoides)DSM 935株、ブラウチア・シンキ(Blautia schinki)DSM 10518株、ユーバクテリウム・レクタレ(Eubacterium rectale)A1-86株、同M104/1株、同T1-815株、ユーバクテリウム・シラエウム(Eubacterium siraeum)70/3株が知られている(非特許文献3、非特許文献4)。また、グリシテインは、腸内細菌による脱メチル化により6-ヒドロキシダイゼインに変換される。このような腸内細菌として、ユーバクテリウム・リモサム(Eubacterium limosum)が知られている(特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2005-526122号公報
【文献】特開2016-136952号公報
【文献】特表2008-532558号公報
【文献】特表2001-523258号公報
【文献】特表2002-511860号公報
【文献】特許4479505号明細書
【文献】特開2010-104241号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】S. Milligan, et al., J. Clin. Endocrinol. Metab., 84, 2249-2252 (1999)
【文献】H. Rong, et al., Chromatographia, 51, 545-552 (2000)
【文献】Int. J. Syst. Evol. Microbiol., 63, 599-603 (2013)
【文献】FEMS Microbiol. Ecol., 66, 487-495 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示の課題は、少なくとも、メトキシ基を有するポリフェノールから該メトキシ基のメチル基が脱離した、脱メチル化ポリフェノールを製造するのに有用な微生物の提供であり、また、フラボノイド配糖体から糖が脱離した、フラボノイドのアグリコンを製造するのに有用な微生物の提供であり、また、メトキシ基を有するフラボノイド配糖体から該メトキシ基のメチル基が脱離し、更に糖が脱離した、脱メチル化フラボノイドのアグリコンを製造するのに有用な微生物の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
〔1〕その16S rRNA遺伝子の塩基配列が、ブラウティア・エスピー(Blautia sp.)DC
3653(NITE BP-02629)株の16S rRNA遺伝子の塩基配列と98.5%以上の相同性を有する、微生物。
〔2〕ブラウティア・エスピー(Blautia sp.)DC 3652(NITE BP-02924)株、ブラウティア・エスピー(Blautia sp.)DC 3653(NITE BP-02629)株、又はブラウティア・エスピー(Blautia sp.)DC 3654(NITE BP-02925)株である、〔1〕に記載の微生物。
〔3〕下記工程(a1)を含む、脱メチル化ポリフェノールの製造方法。
工程(a1):メトキシ基を有するポリフェノールを含有する溶液において、〔1〕又は〔2〕に記載の微生物に、メトキシ基を有するポリフェノールから該メトキシ基のメチル基が脱離した、脱メチル化ポリフェノールを生成させる工程
〔4〕前記メトキシ基を有するポリフェノールがメトキシ基を有するフラボノイドであり、
前記脱メチル化ポリフェノールが、該フラボノイドの有するメトキシ基のメチル基が脱離した、脱メチル化フラボノイドである、
〔3〕に記載の製造方法。
〔5〕前記メトキシ基を有するフラボノイドがイソキサントフモールであり、前記脱メチル化フラボノイドが8-プレニルナリンゲニンである、〔4〕に記載の製造方法。
〔6〕前記メトキシ基を有するフラボノイドがグリシテインであり、前記脱メチル化フラボノイドが6-ヒドロキシダイゼインである、〔4〕に記載の製造方法。
〔7〕下記工程(b1)を含む、フラボノイドのアグリコンを製造する方法。
工程(b1):フラボノイド配糖体を含有する溶液において、〔1〕又は〔2〕に記載の微生物に、フラボノイド配糖体から糖が脱離した、フラボノイドのアグリコンを生成させる工程
〔8〕前記フラボノイド配糖体がダイジンであり、前記フラボノイドのアグリコンがダイゼインである、〔7〕に記載の製造方法。
〔9〕前記フラボノイド配糖体がグリシチンであり、前記フラボノイドのアグリコンがグリシテインである、〔7〕に記載の製造方法。
〔10〕前記フラボノイド配糖体がゲニスチンであり、前記フラボノイドのアグリコンがゲニステインである、〔7〕に記載の方法。
〔11〕下記工程(c1)を含む、脱メチル化フラボノイドのアグリコンを製造する方法。
工程(c1):メトキシ基を有するフラボノイド配糖体を含有する溶液において、〔1〕又は〔2〕に記載の微生物に、メトキシ基を有するフラボノイド配糖体から該メトキシ
基のメチル基が脱離し、更に糖が脱離した、脱メチル化フラボノイドのアグリコンを生成させる工程
〔12〕前記メトキシ基を有するフラボノイド配糖体がグリシチンであり、前記脱メチル化フラボノイドのアグリコンが6-ヒドロキシダイゼインである、〔11〕に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本開示は、少なくとも、メトキシ基を有するポリフェノールから該メトキシ基のメチル基が脱離した、脱メチル化ポリフェノールを製造するのに有用な微生物を提供するという効果を奏し得、また、フラボノイド配糖体から糖が脱離した、フラボノイドのアグリコンを製造するのに有用な微生物を提供するという効果を奏し得、また、メトキシ基を有するフラボノイド配糖体から該メトキシ基のメチル基が脱離し、更に糖が脱離した、脱メチル化フラボノイドのアグリコンを製造するのに有用な微生物を提供するという効果を奏し得る。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<新規微生物>
本開示の一実施態様は、新規微生物であるブラウティア・エスピー(Blautia sp.)DC 3653(NITE BP-02629)株である。
当該菌株は、メトキシ基を有するポリフェノールから該メトキシ基のメチル基が脱離した、脱メチル化ポリフェノールを生成する能力を有する微生物であり、また、フラボノイド配糖体から糖が脱離した、フラボノイドのアグリコンを生成する能力を有する微生物であり、また、メトキシ基を有するフラボノイド配糖体から該メトキシ基のメチル基が脱離し、更に糖が脱離した、脱メチル化フラボノイドのアグリコンを生成する能力を有する微生物であり、嫌気性の微生物である。当該菌株の菌学的性質は実施例に記載した通りである。
当該菌株は、2018年2月7日付で、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に寄託され、NITE
P-02629の受託番号が付与され、2018年12月27日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管請求され、NITE BP-02629の受託番号が付与されたものである。
本明細書では、当該寄託菌株を「本開示の菌株」や「本菌株」、「寄託菌株」などと称することがある。
【0010】
本開示の一実施態様は、その16S rRNA遺伝子の塩基配列が、本菌株の16S rRNA遺伝子の塩基配列と98.5%以上、好ましくは98.7%以上、より好ましくは99%以上、さらに好ましくは100%の相同性を有する菌株である。
このような菌株は、本菌株から、変異処理、遺伝子組換え、自然変異株の選択等によって育種することができる。
【0011】
また、このような菌株は、メトキシ基を有するポリフェノールから該メトキシ基のメチル基が脱離した、脱メチル化ポリフェノールを生成する能力を有することが推測され、また、ブラウティア(Blautia)属に属する微生物であることが推測され、いずれも好ましい態様であり、
また、フラボノイド配糖体から糖が脱離した、フラボノイドのアグリコンを生成する能力を有することが推測され、また、ブラウティア(Blautia)属に属する微生物であることが推測され、いずれも好ましい態様であり、
また、メトキシ基を有するフラボノイド配糖体から該メトキシ基のメチル基が脱離し、更に糖が脱離した、脱メチル化フラボノイドのアグリコンを生成する能力を有することが推測され、また、ブラウティア(Blautia)属に属する微生物であることが推測され、いずれも好ましい態様である。
【0012】
このような菌株としては、ブラウティア・エスピー(Blautia sp.)DC 3652(NITE BP-02924)株が例示できる。当該菌株の16S rRNA遺伝子の塩基配列は、実施例に記載した通り、本菌株の16S rRNA遺伝子の塩基配列と100%の相同性を有する。
当該菌株は、ブダペスト条約に基づいて、2019年3月20日付で、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に国際寄託され、NITE BP-02924の受託番号が付与されたものである。
当該菌株は、本菌株と同様に、上記各能力を有する微生物であり、嫌気性の微生物である。当該菌株の菌学的性質は実施例に記載した通りである。
【0013】
さらに、このような菌株としては、ブラウティア・エスピー(Blautia sp.)DC 3654(NITE BP-02925)株が例示できる。当該菌株の16S rRNA遺伝子の塩基配列は、実施例に記載した通り、本菌株の16S rRNA遺伝子の塩基配列と100%の相同性を有する。
当該菌株は、ブダペスト条約に基づいて、2019年3月20日付で、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に国際寄託され、NITE BP-02925の受託番号が付与されたものである。
当該菌株は、本菌株と同様に、上記各能力を有する微生物であり、嫌気性の微生物である。当該菌株の菌学的性質は実施例に記載した通りである。
【0014】
<脱メチル化ポリフェノールの製造方法>
本開示の他の実施態様は、下記工程(a1)を含む、脱メチル化ポリフェノールの製造方法である。
工程(a1):メトキシ基を有するポリフェノールを含有する溶液において、その16S rRNA遺伝子の塩基配列が、ブラウティア・エスピー(Blautia sp.)DC 3653(NITE BP-02629)株の16S rRNA遺伝子の塩基配列と98.5%以上の相同性を有する、微生物に、メトキシ基を有するポリフェノールから該メトキシ基のメチル基が脱離した、脱メチル化ポリフェノールを生成させる工程
【0015】
(メトキシ基を有するポリフェール)
本明細書において、メトキシ基を有するポリフェールは、一のメトキシ基を有するものであってもよいし、複数のメトキシ基を有するものであってもよい。好ましくは一のメトキシ基を有するものである。いずれも、その原料は特に制限されない。
【0016】
本態様におけるメトキシ基を有するポリフェールとしては、例えば、メトキシ基を有するフェノール酸、メトキシ基を有するタンニン、メトキシ基を有するリグナン、メトキシ基を有するクロマン、メトキシ基を有するクマリン、メトキシ基を有するフラボノイド、メトキシ基を有するキサントン等が挙げられる。いずれも、その原料は特に制限されない。
【0017】
前記メトキシ基を有するフラボノイドとしては、例えば、メトキシ基を有するアントシアニン、メトキシ基を有するアントシアニジン、メトキシ基を有するフラバン、メトキシ基を有するフラバノール(「メトキシ基を有するカテキン」と称されることもある。)、メトキシ基を有するフラボン、メトキシ基を有するフラボノール、メトキシ基を有するフラバノン、メトキシ基を有するイソフラボン、メトキシ基を有するカルコン等が挙げられる。いずれも、その原料は特に制限されない。
【0018】
前記メトキシ基を有するフラボノールとしては、例えば、ポリメトキシフラボン等が挙げられる。
前記メトキシ基を有するフラバノンとしては、例えば、イソキサントフモール等が挙げられる。
前記メトキシ基を有するイソフラボンとしては、例えば、グリシテイン、ビオカニンA、ホルモノネチン、テクトリゲニン等が挙げられる。
いずれも、その原料は特に制限されない。
【0019】
(脱メチル化ポリフェノール)
本明細書では、前記工程(a1)により、「メトキシ基を有するポリフェノール」から該メトキシ基のメチル基が脱離して生成したポリフェノールを「脱メチル化ポリフェノール」と称することがある。
尚、本明細書において、脱メチル化ポリフェノールは、一のメトキシ基を有するポリフェールから生成する場合には、該メトキシ基のメチル基が脱離して生成したものであり、また、複数のメトキシ基を有するポリフェールから生成する場合には、該複数のメトキシ基のうち一のメトキシ基のメチル基が脱離して生成したものでもよいし、該複数のメトキシ基のうち二以上のメトキシ基のメチル基が脱離して生成したものでもよいし、該複数のメトキシ基のうちすべてのメトキシ基のメチル基が脱離して生成したものでもよい。
【0020】
また、他の「メトキシ基を有するポリフェノール」についても同様に称することがあり、例えば、「メトキシ基を有するフェノール酸」から該メトキシ基のメチル基が脱離して生成した生成物を「脱メチル化フェノール酸」と称することがあり、また、他の例としては、「メトキシ基を有するフラボノイド」から該メトキシ基のメチル基が脱離して生成した生成物を「脱メチル化フラボノイド」と称することがある。
【0021】
また、例えば、「メトキシ基を有するアントシアニン」から該メトキシ基のメチル基が脱離して生成した生成物を「脱メチル化アントシアニン」と称することがあり、また、他の例としては、「メトキシ基を有するフラボノール」から該メトキシ基のメチル基が脱離して生成した生成物を「脱メチル化フラボノール」と称することがある。
脱メチル化フラボノールとしては、例えば、ポリメトキシフラボンのメトキシ基のメチル基が脱離して生成するケルセチン等が挙げられる。
脱メチル化フラバノンとしては、例えば、イソキサントフモールのメトキシ基のメチル基が脱離して生成する8-プレニルナリンゲニン等が挙げられる。
脱メチル化イソフラボンとしては、例えば、グリシテインのメトキシ基のメチル基が脱離して生成する6-ヒドロキシダイゼイン、ビオカニンAのメトキシ基のメチル基が脱離して生成するゲニステイン、ホルモノネチンのメトキシ基のメチル基が脱離して生成するダイゼイン、テクトリゲニンのメトキシ基のメチル基が脱離して生成する6-ヒドロキシゲニステイン等が挙げられる。
【0022】
(メトキシ基を有するポリフェノールの該メトキシ基のメチル基を脱離して脱メチル化ポリフェノールを生成する能力を有する微生物)
本態様における、メトキシ基を有するポリフェノールの該メトキシ基のメチル基を脱離して脱メチル化ポリフェノールを生成する能力を有する微生物は、その16S rRNA遺伝子の塩基配列が、ブラウティア・エスピー(Blautia sp.)DC 3653(NITE BP-02629)株の16S rRNA遺伝子の塩基配列と98.5%以上の相同性を有する、微生物である。当該微生物は、属、種、株にかかわらず、その一を用いてもよいし二以上を用いてもよい。
当該微生物の詳細は既述の通りであるが、ブラウティア・エスピー(Blautia sp.)DC 3653(NITE BP-02629)株を例にして説明すると、本態様では、当該微生物は、本菌株のみに限られず、本菌株と実質的に同等の菌株であってもよい。実質
的に同等の菌株とは、メトキシ基を有するポリフェノールの該メトキシ基のメチル基を脱離して脱メチル化ポリフェノールを生成する能力を有する微生物であることが好ましく、また、ブラウティア(Blautia)属に属する微生物であることが好ましく、また、その16S
rRNA遺伝子の塩基配列が、本菌株の16S rRNA遺伝子の塩基配列と98.5%以上、好ましくは98.7%以上、より好ましくは99%以上、さらに好ましくは100%の相同性を有する菌株である。さらに、当該微生物は、本開示の効果が損なわれない限り、本菌株又はそれと実質的に同等の菌株から、変異処理、遺伝子組換え、自然変異株の選択等によって育種された菌株であってもよい。
このことは、本態様における他の微生物についても同様に適用される。
【0023】
(メトキシ基を有するポリフェノールの該メトキシ基のメチル基を脱離して脱メチル化ポリフェノールを生成する能力を有する微生物の静止菌体)
本態様における、メトキシ基を有するポリフェノールの該メトキシ基のメチル基を脱離して脱メチル化ポリフェノールを生成する能力を有する微生物は、その静止菌体を含む。
静止菌体とは、培養した微生物から遠心分離等の操作により培地成分を取り除き、塩溶液や緩衝液で洗浄し、該洗浄液と同一の液に懸濁した菌体であって、増殖しない状態の菌体を指し、本態様においては、少なくとも、メトキシ基を有するポリフェノールの該メトキシ基のメチル基を脱離して脱メチル化ポリフェノールを生成できる代謝系を有している菌体をいう。
塩溶液の例としては、生理食塩水等が挙げられる。緩衝液の例としては、リン酸緩衝液、トリス-塩酸緩衝液、クエン酸-リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、MOPS緩衝液、酢酸緩衝液、グリシン緩衝液等が挙げられる。いずれも、pHや濃度は、常法に従い適宜調製できる。
本明細書に記載されている微生物はいずれも静止菌体を含む。
【0024】
(メトキシ基を有するポリフェノールを含有する溶液)
本態様におけるメトキシ基を有するポリフェノールを含有する溶液とは、該溶液において、前記微生物に、メトキシ基を有するポリフェノールの該メトキシ基のメチル基を脱離して脱メチル化ポリフェノールを生成させることができるものであれば特に制限されない。好ましくは培地であり、より好ましくは後述する「培地、及び培養による脱メチル化ポリフェノールの生成」欄に記載した培地である。また、前記微生物が静止菌体である場合には、前述した塩溶液や緩衝液が好ましい。
尚、本明細書に記載されている「培地」とは、いずれも、最少培地を含む、微生物が増殖できる溶液をいい、微生物が増殖できない溶液、例えば、前述した塩溶液や緩衝液などを含まないものとする。
【0025】
該溶液へメトキシ基を有するポリフェノールを添加する場合には、脱メチル化ポリフェノールの生成前に添加しても、その途中で添加してもよく、また、一括添加、逐次添加、連続添加でもよい。
溶液中のメトキシ基を有するポリフェノールの含有量は、通常0.01g/L以上、好ましくは0.1g/L以上、より好ましくは1g/L以上である。一方、通常100g/L以下、好ましくは20g/L以下、より好ましくは10g/L以下である。
【0026】
(培地、及び培養による脱メチル化ポリフェノールの生成)
工程(a1)では、前記溶液が培地であることが好ましい。該培地は特に限定されないが、例えば、Oxoid社製のANAEROBE BASAL BROTH (ABB培地)、Oxoid社製のWilkins-Chalgren Anaerobe Broth (CM0643)、日水製薬株式会社製のGAM培地、変法GAM培地、ブレインハートインヒュージョン培地等を使用することができる。
【0027】
また、培地に水溶性の有機物を炭素源として加えることができる。水溶性の有機物とし
て、以下の化合物を挙げることができる。すなわち、グルコース、アラビノース、ソルビトール、フラクトース、マンノース、スクロース、トレハロース、キシロースなどの糖類;グリセロールなどのアルコール類;吉草酸、酪酸、プロピオン酸、酢酸、ギ酸、フマル酸などの有機酸類などを挙げることが出来る。
【0028】
炭素源としての培地に加える有機物の濃度は、効率的に発育させるために適宜調節することができる。一般的には、0.1~10wt/vol%の範囲から添加量を選択することができる。
【0029】
前記の炭素源に加えて、培地に窒素源を加えることができる。窒素源としては通常の発酵に用いうる各種の窒素化合物を用いることができる。
好ましい無機窒素源として、アンモニウム塩、硝酸塩などを、より好ましくは、硫安、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウム、硝酸カリウム及び硝酸ソーダなどを挙げることが出来る。
また、有機窒素源としては、アミノ酸類、酵母エキス、ペプトン類(例えばポリペプトンN、大豆ペプトンなど)、肉エキス(例えばエールリッヒカツオエキス、ラブ-レムコ末、ブイヨンなど)、魚介類エキス、肝臓エキス、消化血清末、魚油などを挙げることが出来る。
【0030】
さらに、炭素源や窒素源に加えて、例えば、ビタミンなどの補因子や各種の塩類等の無機化合物を培地に加えることによって、増殖や活性を増強できる場合もある。たとえば無機化合物、ビタミン類、脂肪酸など、動植物由来の微生物増殖補助因子として以下のものを挙げることができる。
【0031】
無機化合物 ビタミン類
リン酸二水素カリウム ビオチン
硫酸マグネシウム 葉酸
硫酸マンガン ピリドキシン
塩化ナトリウム チアミン
塩化コバルト リボフラビン
塩化カルシウム ニコチン酸
硫酸亜鉛 パントテン酸
硫酸銅 ビタミンB12
明ばん チオオクト酸
モリブデン酸ソーダ p-アミノ安息香酸
塩化カリウム ビタミンK
ホウ酸等
塩化ニッケル
タングステン酸ナトリウム
セレン酸ナトリウム
硫酸第一鉄アンモニウム
酢酸ナトリウム三水和物
硫酸マグネシウム七水和物
硫酸マンガン四水和物
【0032】
また、培地中に、システイン、シスチン、硫化ナトリウム、亜硫酸塩、アスコルビン酸、グルタチオン、チオグリコール酸、ルチンなどの還元剤や、カタラーゼ、スーパーオキシドムターゼなどの活性酸素種を分解する酵素を添加することにより生育が良好になる可能性がある。
【0033】
培養中の気相、水相としては、空気もしくは酸素を含まないことが好ましく、例えば、窒素及び/又は水素を任意の比率で含むことや、窒素及び/又は二酸化炭素を任意の比率で含むことが挙げられ、水素を含む気相や水相であることが好ましい。気相における水素の割合は、脱メチル化ポリフェノールの生成が促進されることから、通常0.5%以上、好ましくは1.0%以上、より好ましくは2.0%以上であり、一方、通常100%以下、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下である。
培養中の気相や水相をこのような環境にする方法は特に制限されないが、例えば、培養前に前記ガスで気相を置換する方法、これに加えて、培養中も培養器の底部から供給する及び/又は培養器の気相部に供給する方法、培養前に前記ガスで水相をバブリングするなどの方法をとることが出来る。前記水素は、水素ガスをそのまま用いてもよい。また、培地にギ酸及び/又はその塩などの水素の原料を添加し、微生物の作用により培養中に水素を生成してもよい。
【0034】
通気量としては、好ましくは0.005~2vvmであり、0.05~0.5vvmがより好ましい。また、混合ガスはナノバブルとして供給することもできる。
培養温度は、好ましくは20℃~45℃、より好ましくは25℃~40℃、さらに好ましくは30℃~37℃である。
培養器の加圧条件は、生育できる条件であれば特に限定されるものではないが、好ましくは0.001~1MPaの範囲、より好ましくは0.01~0.5MPaである。
培養時間としては、好ましくは8~340時間、より好ましくは12~170時間、さらに好ましくは16~120時間である。
【0035】
また、培養液に界面活性剤、吸着剤、包摂化合物などを添加することにより、脱メチル化ポリフェノールの生成を促進できる場合がある。
界面活性剤としては、例えば、Tween 80等が挙げられ、0.001g/L以上10g/L以下程度添加することが出来る。
吸着剤としては、例えば、セルロース及びその誘導体;デキストリン;三菱化学株式会社製の疎水吸着剤であるダイアイオンHPシリーズやセパビーズシリーズ;オルガノ株式会社製のアンバーライトXADシリーズなどを挙げることができる。
【0036】
包摂化合物としては、例えば、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、クラスターデキストリン(高度分岐環状デキストリン)のほか、これらの類縁体でもよく、例えば、メチル-β-シクロデキストリン、トリメチル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンなどを挙げることができる。この中で、γ-シクロデキストリンが最も効果的である場合がある。また、2種以上の包摂化合物を共存させることにより、脱メチル化ポリフェノールの生成を更に促進できる場合がある。
添加量としては、メトキシ基を有するポリフェノールに対し、モル比の総量で、通常0.1当量以上、好ましくは0.5当量以上、より好ましくは1.0当量以上であり、一方、通常5.0当量以下、好ましくは2.5当量以下、より好ましくは2.0当量以下である。
【0037】
(静止菌体による脱メチル化ポリフェノールの生成)
前記微生物が静止菌体である場合の溶液は、前記培地の代わりに、前記「メトキシ基を有するポリフェノールの該メトキシ基のメチル基を脱離して脱メチル化ポリフェノールを生成する能力を有する微生物の静止菌体」欄に記載した塩溶液や緩衝液が好ましい。
その他の条件については、前記「培地、及び培養による脱メチル化ポリフェノールの生成」欄の記載を援用する。
【0038】
(その他の工程)
本態様は、例えば、得られた脱メチル化ポリフェノールを定量する工程を含んでもよい。その方法は常法に従うことができる。たとえば、培養液の一部を採取して適宜希釈し、よく撹拌した後、ポリテロラフルオロエチレン(PTFE)膜などの膜を使用して濾過し、不溶物を除去したものを高速液体クロマトグラフィーで定量することなどが挙げられる。
【0039】
また、本態様は、得られた脱メチル化ポリフェノールを回収する工程を含んでもよい。当該回収工程は、精製工程や濃縮工程等を含む。精製工程における精製処理としては、熱などによる微生物の殺菌;精密濾過(MF)、限外濾過(UF)などによる除菌;固形物、高分子物質の除去;有機溶媒やイオン性液体などによる抽出;疎水性吸着剤、イオン交換樹脂、活性炭カラム等を用いた吸着、脱色といった処理を行うことができる。また、濃縮工程における濃縮処理としては、エバポレーター、逆浸透膜等による濃縮が挙げられる。
さらに、得られた脱メチル化ポリフェノールを含む溶液は、凍結乾燥、噴霧乾燥などにより粉末化することができる。粉末化において、ラクトース、デキストリン、コーンスターチ等の賦形剤を添加することもできる。
【0040】
<エクオールの製造方法(1)>
本開示の他の実施態様は、同一の系で行われる前記工程(a1)及び下記工程(a2)を含み、前記工程(a1)における、前記メトキシ基を有するポリフェノールがグリシテインであって、前記脱メチル化ポリフェノールが6-ヒドロキシダイゼインである、エクオールの製造方法である。
工程(a2):前記工程(a1)で生成した6-ヒドロキシダイゼインを含有する溶液において、アドレクラウチア(Adlercreutzia)属に属する微生物に、6-ヒドロキシダイゼインからエクオールを生成させる工程
【0041】
(6-ヒドロキシダイゼインからエクオールを生成する微生物)
本工程における、6-ヒドロキシダイゼインを含有する溶液において、6-ヒドロキシダイゼインからエクオールを生成する微生物としては、6-ヒドロキシダイゼインからエクオールを生成することができれば特に制限されず、例えば、アドレクラウチア(Adlercreutzia)属に属する微生物等が挙げられる。
アドレクラウチア(Adlercreutzia)属に属する微生物としては、アドレクラウチア・エクオリファシエンス・サブスピーシーズ・セラツス(Adlercreutzia equolifaciens subsp. celatus)に属する微生物が好ましく、アドレクラウチア・エクオリファシエンス・サブスピーシーズ・セラツス(Adlercreutzia equolifaciens subsp. celatus)JCM 14811株がより好ましい。
JCM番号が付与された微生物は、Japan Collection of Microorganisms(国立研究開発法人理化学研究所バイオリソースセンター微生物材料開発室、郵便番号:305-0074、住所:茨城県つくば市高野台3-1-1)から入手することができる。
本工程における、6-ヒドロキシダイゼインからエクオールを生成する微生物としては、属、種、株にかかわらず、その一を用いてもよいし二以上を用いてもよい。。
【0042】
(6-ヒドロキシダイゼインからエクオールを生成する微生物の静止菌体)
6-ヒドロキシダイゼインからエクオールを生成する微生物は、その静止菌体を含む。当該静止菌体については、前記「メトキシ基を有するポリフェノールの該メトキシ基のメチル基を脱離して脱メチル化フラボノイドを生成する能力を有する微生物の静止菌体」欄の記載を援用する。
【0043】
(6-ヒドロキシダイゼインを含有する溶液)
6-ヒドロキシダイゼインを含有する溶液とは、前記工程(a1)で生成した、前記脱
メチル化ポリフェノールである6-ヒドロキシダイゼインを含有する溶液である。
【0044】
前記工程(a1)で生成した6-ヒドロキシダイゼインとは別に、該溶液に、さらに6-ヒドロキシダイゼインを添加する場合には、エクオールの生成前に添加しても、その途中で添加してもよく、また、一括添加、逐次添加、連続添加でもよい。
溶液中の6-ヒドロキシダイゼインの含有量は、通常0.01g/L以上、好ましくは0.1g/L以上、より好ましくは1g/L以上である。一方、通常100g/L以下、好ましくは20g/L以下、より好ましくは10g/L以下である。
【0045】
(培地、及び培養によるエクオールの生成)
本態様に係るエクオールの製造方法では、前記工程(a1)及び工程(a2)が同一の系で行われる。そのため、工程(a2)における培地条件、及び培養によるエクオールの生成条件は、前記「培地、及び培養による脱メチル化ポリフェノールの生成」欄の説明を援用する。
【0046】
(静止菌体によるエクオールの生成)
本態様に係るエクオールの製造方法では、前記工程(a1)及び工程(a2)が同一の系で行われる。そのため、6-ヒドロキシダイゼインからエクオールを生成する微生物が静止菌体である場合の溶液も、前記「メトキシ基を有するポリフェノールの該メトキシ基のメチル基を脱離して脱メチル化ポリフェノールを生成する能力を有する微生物の静止菌体」欄に記載した塩溶液や緩衝液であることが好ましい。
その他の条件については、前記「培地、及び培養による脱メチル化ポリフェノールの生成」欄の説明を援用する。
【0047】
(同一の系)
工程(a1)及び(a2)が同一の系で行われるとは、工程(a1)において6-ヒドロキシダイゼインが生成されてから、該生成した6-ヒドロキシダイゼインが工程(a2)の6-ヒドロキシダイゼインとしてそのまま用いられて、工程(a2)においてエクオールが生成されるまでの一連の流れが、同一の系で連続して行われることをいう。すなわち、工程(a1)と工程(a2)の間に、例えば、工程(a1)で生成した6-ヒドロキシダイゼインを分離及び/又は精製する工程などを含まないことをいう。
【0048】
具体例としては、グリシテインから6-ヒドロキシダイゼインを生成する本菌株と、6-ヒドロキシダイゼインからエクオールを生成する微生物とを同じ培養液に植菌し、培養することにより、エクオールを生成することなどが挙げられる。
【0049】
<フラボノイドのアグリコンを製造する方法>
本開示の他の実施態様は、下記工程(b1)を含む、フラボノイドのアグリコンを製造する方法である。
工程(b1):フラボノイド配糖体を含有する溶液において、その16S rRNA遺伝子の塩基配列が、ブラウティア・エスピー(Blautia sp.)DC 3653(NITE BP-02629)株の16S rRNA遺伝子の塩基配列と98.5%以上の相同性を有する、微生物に、フラボノイド配糖体から糖が脱離した、フラボノイドのアグリコンを生成させる工程
【0050】
(フラボノイド配糖体)
本明細書において、フラボノイド配糖体は、一の糖を有するものであってもよいし、複数の糖を有するものであってもよい。好ましくは一の糖を有するものである。いずれも、その原料は特に制限されない。
【0051】
本態様におけるフラボノイド配糖体としては、例えば、ダイジン、グリシチン、ゲニス
チン、ヘスペリジン、ルチン等が挙げられる。いずれも、その原料は特に制限されない。
【0052】
(フラボノイドのアグリコン)
本明細書では、前記工程(b1)により、フラボノイド配糖体から糖が脱離して生成したアグリコンを「フラボノイドのアグリコン」と称することがある。
尚、本明細書において、フラボノイドのアグリコンは、一の糖を有するフラボノイド配糖体から生成する場合には該糖が脱離して生成したものであり、また、複数の糖を有するフラボノイド配糖体から生成する場合には、該複数の糖のうち一の糖が脱離して生成したものでもよいし、該複数の糖のうち二以上の糖が脱離して生成したものでもよいし、該複数の糖のうちすべての糖が脱離して生成したものでもよい。
【0053】
本態様におけるフラボノイドのアグリコンは、前記工程(b1)により、フラボノイド配糖体から糖が脱離して生成するところ、例えば、
ダイジンから糖が脱離して生成するのはダイゼインであり、
グリシチンから糖が脱離して生成するのはグリシテインであり、
ゲニスチンから糖が脱離して生成するのはゲニステインであり、
ヘスペリジンから糖が脱離して生成するのはヘスペレチンであり、
ルチンから糖が脱離して生成するのはケルセチンである。
【0054】
(フラボノイド配糖体から糖を脱離してフラボノイドのアグリコンを生成する能力を有する微生物)
本態様における、フラボノイド配糖体から糖を脱離してフラボノイドのアグリコンを生成する能力を有する微生物は、その16S rRNA遺伝子の塩基配列が、ブラウティア・エスピー(Blautia sp.)DC 3653(NITE BP-02629)株の16S rRNA遺伝子の塩基配列と98.5%以上の相同性を有する、微生物である。当該微生物は、属、種、株にかかわらず、その一を用いてもよいし二以上を用いてもよい。
当該微生物の詳細は既述の通りであるが、ブラウティア・エスピー(Blautia sp.)DC 3653(NITE BP-02629)株を例にして説明すると、本態様では、当該微生物は、本菌株のみに限られず、本菌株と実質的に同等の菌株であってもよい。実質的に同等の菌株とは、フラボノイド配糖体から糖を脱離してフラボノイドのアグリコンを生成する能力を有する微生物であることが好ましく、また、ブラウティア(Blautia)属に属する微生物であることが好ましく、また、その16S rRNA遺伝子の塩基配列が、本菌株の16S rRNA遺伝子の塩基配列と98.5%以上、好ましくは98.7%以上、より好ましくは99%以上、さらに好ましくは100%の相同性を有する菌株である。さらに、当該微生物は、本開示の効果が損なわれない限り、本菌株又はそれと実質的に同等の菌株から、変異処理、遺伝子組換え、自然変異株の選択等によって育種された菌株であってもよい。
このことは、本態様における他の微生物についても同様に適用される。
【0055】
(フラボノイド配糖体から糖を脱離してフラボノイドのアグリコンを生成する能力を有する微生物の静止菌体)
本態様における、フラボノイド配糖体から糖を脱離してフラボノイドのアグリコンを生成する能力を有する微生物は、その静止菌体を含む。その詳細は、前記「メトキシ基を有するポリフェノールの該メトキシ基のメチル基を脱離して脱メチル化ポリフェノールを生成する能力を有する微生物の静止菌体」欄の記載を援用する。
【0056】
(フラボノイド配糖体を含有する溶液)
本態様におけるフラボノイド配糖体を含有する溶液とは、該溶液において、前記微生物に、フラボノイド配糖体から糖を脱離してフラボノイドのアグリコンを生成させることができるものであれば特に制限されない。好ましくは培地であり、より好ましくは前述した
「培地、及び培養による脱メチル化ポリフェノールの生成」欄に記載した培地である。また、前記微生物が静止菌体である場合には、前述した塩溶液や緩衝液が好ましい。
【0057】
該溶液へフラボノイド配糖体を添加する場合には、フラボノイドのアグリコンの生成前に添加しても、その途中で添加してもよく、また、一括添加、逐次添加、連続添加でもよい。
溶液中のフラボノイド配糖体の含有量は、通常0.01g/L以上、好ましくは0.1g/L以上、より好ましくは1g/L以上である。一方、通常100g/L以下、好ましくは20g/L以下、より好ましくは10g/L以下である。
【0058】
(培地、及び培養によるフラボノイドのアグリコンの生成)
工程(b1)では、前記溶液が培地であることが好ましい。該培地は特に限定されないが、例えば、Oxoid社製のANAEROBE BASAL BROTH (ABB培地)、Oxoid社製のWilkins-Chalgren Anaerobe Broth (CM0643)、日水製薬株式会社製のGAM培地、変法GAM培地、ブレインハートインヒュージョン培地等を使用することができる。
その他については、前記「培地、及び培養による脱メチル化ポリフェノールの生成」欄の記載を援用する。
【0059】
(静止菌体によるフラボノイドのアグリコンの生成)
前記微生物が静止菌体である場合の溶液は、前記培地の代わりに、前記「メトキシ基を有するポリフェノールの該メトキシ基のメチル基を脱離して脱メチル化ポリフェノールを生成する能力を有する微生物の静止菌体」欄に記載した塩溶液や緩衝液が好ましい。
その他の条件については、前記「培地、及び培養による脱メチル化ポリフェノールの生成」欄の記載を援用する。
【0060】
(その他の工程)
本態様は、例えば、得られたフラボノイドのアグリコンを定量する工程や、得られたフラボノイドのアグリコンを回収する工程を含んでもよい。
その詳細は、前記「脱メチル化ポリフェノールの製造方法」における「その他の工程」欄の記載を援用する。
さらに、フラボノイドのアグリコンを含む溶液は、凍結乾燥、噴霧乾燥などにより粉末化することができる。粉末化において、ラクトース、デキストリン、コーンスターチ等の賦形剤を添加することもできる。
【0061】
<エクオールの製造方法(2)>
本開示の他の実施態様は、同一の系で行われる前記工程(b1)及び下記工程(b2)を含み、前記工程(b1)における、前記フラボノイド配糖体がダイジンであって、前記フラボノイドのアグリコンがダイゼインである、エクオールの製造方法である。
工程(b2):前記工程(b1)で生成したダイゼインを含有する溶液において、アドレクラウチア(Adlercreutzia)属に属する微生物に、ダイゼインからエクオールを生成させる工程
【0062】
(ダイゼインからエクオールを生成する微生物)
本工程における、ダイゼインを含有する溶液において、ダイゼインからエクオールを生成する微生物としては、ダイゼインからエクオールを生成することができれば特に制限されず、例えば、アドレクラウチア(Adlercreutzia)属に属する微生物が挙げられる。
アドレクラウチア(Adlercreutzia)属に属する微生物としては、アドレクラウチア・エクオリファシエンス・サブスピーシーズ・エクオリファシエンス(Adlercreutzia equolifaciens subsp. equolifaciens)に属する微生物が好ましく、アドレクラウチア・エクオリファシエンス・サブスピーシーズ・エクオリファシエンス(Adlercreutzia equolifa
ciens subsp. equolifaciens)JCM 14793株がより好ましい。尚、JCM 14793株は、アドレクラウチア・エクオリファシエンス(Adlercreutzia equolifaciens)DSM 19450株と同一である。
DSM番号が付与された微生物は、DSMZ (Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH) に保存されている微生物であり、同機関から入手することができる微生物である。
本工程における、ダイゼインからエクオールを生成する微生物としては、属、種、株にかかわらず、その一を用いてもよいし二以上を用いてもよい。。
【0063】
(ダイゼインからエクオールを生成する微生物の静止菌体)
ダイゼインからエクオールを生成する微生物は、その静止菌体を含む。当該静止菌体については、前記「メトキシ基を有するポリフェノールの該メトキシ基のメチル基を脱離して脱メチル化ポリフェノールを生成する能力を有する微生物の静止菌体」欄の記載を援用する。
【0064】
(ダイゼインを含有する溶液)
ダイゼインを含有する溶液とは、前記工程(b1)で生成した、前記フラボノイドのアグリコンであるダイゼインを含有する溶液である。
【0065】
前記工程(b1)で生成したダイゼインとは別に、該溶液に、さらにダイゼインを添加する場合には、エクオールの生成前に添加しても、その途中で添加してもよく、また、一括添加、逐次添加、連続添加でもよい。
溶液中のダイゼインの含有量は、通常0.01g/L以上、好ましくは0.1g/L以上、より好ましくは1g/L以上である。一方、通常100g/L以下、好ましくは20g/L以下、より好ましくは10g/L以下である。
【0066】
(培地、及び培養によるエクオールの生成)
本態様に係るエクオールの製造方法では、前記工程(b1)及び工程(b2)が同一の系で行われる。そのため、工程(b2)における培地条件、及び培養によるエクオールの生成条件は、前記「培地、及び培養によるフラボノイドのアグリコンの生成」欄の説明を援用する。
【0067】
(静止菌体によるエクオールの生成)
本態様に係るエクオールの製造方法では、前記工程(b1)及び工程(b2)が同一の系で行われる。そのため、ダイゼインからエクオールを生成する微生物が静止菌体である場合の溶液も、前記「フラボノイド配糖体から糖を脱離してフラボノイドのアグリコンを生成する能力を有する微生物の静止菌体」欄に記載した塩溶液や緩衝液が好ましい。
その他の条件については、前記「培地、及び培養によるフラボノイドのアグリコンの生成」欄の説明を援用する。
【0068】
(同一の系)
工程(b1)及び(b2)が同一の系で行われるとは、工程(b1)においてダイゼインが生成されてから、該生成したダイゼインが工程(b2)のダイゼインとしてそのまま用いられて、工程(b2)においてエクオールが生成されるまでの一連の流れが、同一の系で連続して行われることをいう。すなわち、工程(b1)と工程(b2)の間に、例えば、工程(b1)で生成したダイゼインを分離及び/又は精製する工程などを含まないことをいう。
【0069】
具体例としては、ダイジンからダイゼインを生成する本菌株と、ダイゼインからエクオールを生成する微生物とを同じ培養液に植菌し、培養することにより、エクオールを生成
することなどが挙げられる。
【0070】
<脱メチル化フラボノイドのアグリコンを製造する方法>
本開示の他の実施態様は、下記工程(c1)を含む、脱メチル化フラボノイドのアグリコンを製造する方法である。
工程(c1):メトキシ基を有するフラボノイド配糖体を含有する溶液において、その16S rRNA遺伝子の塩基配列が、ブラウティア・エスピー(Blautia sp.)DC 3653(NITE BP-02629)株の16S rRNA遺伝子の塩基配列と98.5%以上の相同性を有する、微生物に、メトキシ基を有するフラボノイド配糖体から該メトキシ基のメチル基が脱離し、更に糖が脱離した、脱メチル化フラボノイドのアグリコンを生成させる工程
【0071】
尚、「メトキシ基を有するフラボノイド配糖体から該メトキシ基のメチル基が脱離し、更に糖が脱離した」と記載したが、当該記載は、「メトキシ基を有するフラボノイド配糖体から該メトキシ基のメチル基が脱離すること」と「糖が脱離すること」との順序を定めたものではない。すなわち、反応系において、メトキシ基を有するフラボノイド配糖体から該メトキシ基のメチル基が脱離し、次いで、糖が脱離するという態様でもよいし、糖が脱離し、次いで、トキシ基を有するフラボノイド配糖体から該メトキシ基のメチル基が脱離するという態様でもよいし、「メトキシ基を有するフラボノイド配糖体から該メトキシ基のメチル基が脱離すること」と「糖が脱離すること」とが同時に起こるという態様でもよい。
【0072】
本態様は、既述の「脱メチル化ポリフェノールの製造方法」において「メトキシ基を有するポリフェール」が「メトキシ基を有するフラボノイド」である場合の態様と、既述の「フラボノイドのアグリコンを製造する方法」とを含む、態様である。
すなわち、本態様は、その一態様として、後述する実施例3-1から分かるように、「メトキシ基を有するフラボノイド配糖体」から糖が脱離して「メトキシ基を有するフラボノイド」(すなわち、アグリコン)が生成し、該「メトキシ基を有するフラボノイド」から該メトキシ基のメチル基が脱離して「脱メチル化フラボノイド」(すなわち、本態様で言う「脱メチル化フラボノイドのアグリコン」)が生成する態様を含む。
【0073】
(メトキシ基を有するフラボノイド配糖体)
本明細書において、メトキシ基を有するフラボノイド配糖体は、一のメトキシ基を有するものであってもよいし、複数のメトキシ基を有するものであってもよいが、好ましくは一のメトキシ基を有するものであり、また、一の糖を有するものであってもよいし、複数の糖を有するものであってもよいが、好ましくは一の糖を有するものである。いずれも、その原料は特に制限されない
【0074】
本態様におけるメトキシ基を有するフラボノイド配糖体としては、例えば、グリシチン等が挙げられる。いずれも、その原料は特に制限されない。
【0075】
(脱メチル化フラボノイドのアグリコン)
本明細書では、前記工程(c1)により、メトキシ基を有するフラボノイド配糖体から該メトキシ基のメチル基が脱離し、更に糖が脱離して生成した結果物を「脱メチル化フラボノイドのアグリコン」と称することがある。
尚、本明細書において、脱メチル化フラボノイドのアグリコンは、
メチル基については、一のメトキシ基を有するフラボノイド配糖体から生成する場合には、該メトキシ基のメチル基が脱離して生成したものであり、また、複数のメトキシ基を有するフラボノイド配糖体から生成する場合には、該複数のメトキシ基のうち一のメトキシ基のメチル基が脱離して生成したものでもよいし、該複数のメトキシ基のうち二以上の
メトキシ基のメチル基が脱離して生成したものでもよいし、該複数のメトキシ基のうちすべてのメトキシ基のメチル基が脱離して生成したものでもよく、
糖については、一の糖を有するフラボノイド配糖体から生成する場合には該糖が脱離して生成したものであり、また、複数の糖を有するフラボノイド配糖体から生成する場合には、該複数の糖のうち一の糖が脱離して生成したものでもよいし、該複数の糖のうち二以上の糖が脱離して生成したものでもよいし、該複数の糖のうちすべての糖が脱離して生成したものでもよい。
【0076】
本態様における脱メチル化フラボノイドのアグリコンは、前記工程(c1)により、メトキシ基を有するフラボノイド配糖体から該メトキシ基のメチル基が脱離し、更に糖が脱離して生成するところ、例えば、グリシチンのメトキシ基のメチル基が脱離し、更に糖が脱離して生成するのは6-ヒドロキシダイゼインである。
【0077】
(メトキシ基を有するフラボノイド配糖体の該メトキシ基のメチル基を脱離し、更に糖を脱離して、脱メチル化フラボノイドのアグリコンを生成する能力を有する微生物)
本態様における、メトキシ基を有するフラボノイド配糖体の該メトキシ基のメチル基を脱離し、更に糖を脱離して、脱メチル化フラボノイドのアグリコンを生成する能力を有する微生物は、その16S rRNA遺伝子の塩基配列が、ブラウティア・エスピー(Blautia sp.)DC 3653(NITE BP-02629)株の16S rRNA遺伝子の塩基配列と98.5%以上の相同性を有する、微生物である。当該微生物は、属、種、株にかかわらず、その一を用いてもよいし二以上を用いてもよい。
当該微生物の詳細は既述の通りであるが、ブラウティア・エスピー(Blautia sp.)DC 3653(NITE BP-02629)株を例にして説明すると、本態様では、当該微生物は、本菌株のみに限られず、本菌株と実質的に同等の菌株であってもよい。実質的に同等の菌株とは、メトキシ基を有するフラボノイド配糖体の該メトキシ基のメチル基を脱離し、更に糖を脱離して、脱メチル化フラボノイドのアグリコンを生成する能力を有する微生物であることが好ましく、また、ブラウティア(Blautia)属に属する微生物であることが好ましく、また、その16S rRNA遺伝子の塩基配列が、本菌株の16S rRNA遺伝子の塩基配列と98.5%以上、好ましくは98.7%以上、より好ましくは99%以上、さらに好ましくは100%の相同性を有する菌株である。さらに、当該微生物は、本開示の効果が損なわれない限り、本菌株又はそれと実質的に同等の菌株から、変異処理、遺伝子組換え、自然変異株の選択等によって育種された菌株であってもよい。
このことは、本態様における他の微生物についても同様に適用される。
【0078】
(メトキシ基を有するフラボノイド配糖体の該メトキシ基のメチル基を脱離し、更に糖を脱離して、脱メチル化フラボノイドのアグリコンを生成する能力を有する微生物の静止菌体)
本態様における、メトキシ基を有するフラボノイド配糖体の該メトキシ基のメチル基を脱離し、更に糖を脱離して、脱メチル化フラボノイドのアグリコンを生成する能力を有する微生物は、その静止菌体を含む。その詳細は、前記「メトキシ基を有するポリフェノールの該メトキシ基のメチル基を脱離して脱メチル化ポリフェノールを生成する能力を有する微生物の静止菌体」欄の記載を援用する。
【0079】
(メトキシ基を有するフラボノイド配糖体を含有する溶液)
本態様におけるメトキシ基を有するフラボノイド配糖体を含有する溶液とは、該溶液において、前記微生物に、メトキシ基を有するフラボノイド配糖体の該メトキシ基のメチル基を脱離し、更に糖を脱離して、脱メチル化フラボノイドのアグリコンを生成させることができるものであれば特に制限されない。好ましくは培地であり、より好ましくは前述した「培地、及び培養による脱メチル化ポリフェノールの生成」欄に記載した培地である。また、前記微生物が静止菌体である場合には、前述した塩溶液や緩衝液が好ましい。
【0080】
該溶液へメトキシ基を有するフラボノイド配糖体を添加する場合には、脱メチル化フラボノイドのアグリコンの生成前に添加しても、その途中で添加してもよく、また、一括添加、逐次添加、連続添加でもよい。
溶液中のメトキシ基を有するフラボノイド配糖体の含有量は、通常0.01g/L以上、好ましくは0.1g/L以上、より好ましくは1g/L以上である。一方、通常100g/L以下、好ましくは20g/L以下、より好ましくは10g/L以下である。
【0081】
(培地、及び培養による脱メチル化フラボノイドのアグリコンの生成)
工程(c1)では、前記溶液が培地であることが好ましい。該培地は特に限定されないが、例えば、Oxoid社製のANAEROBE BASAL BROTH (ABB培地)、Oxoid社製のWilkins-Chalgren Anaerobe Broth (CM0643)、日水製薬株式会社製のGAM培地、変法GAM培地、ブレインハートインヒュージョン培地等を使用することができる。
その他については、前記「培地、及び培養による脱メチル化ポリフェノールの生成」欄の記載を援用する。
【0082】
(静止菌体による脱メチル化フラボノイドのアグリコンの生成)
前記微生物が静止菌体である場合の溶液は、前記培地の代わりに、前記「メトキシ基を有するポリフェノールの該メトキシ基のメチル基を脱離して脱メチル化ポリフェノールを生成する能力を有する微生物の静止菌体」欄に記載した塩溶液や緩衝液が好ましい。
その他の条件については、前記「培地、及び培養による脱メチル化ポリフェノールの生成」欄の記載を援用する。
【0083】
(その他の工程)
本態様は、例えば、得られた脱メチル化フラボノイドのアグリコンを定量する工程や、得られた脱メチル化フラボノイドのアグリコンを回収する工程を含んでもよい。
その詳細は、前記「脱メチル化ポリフェノールの製造方法」における「その他の工程」欄の記載を援用する。
さらに、脱メチル化フラボノイドのアグリコンを含む溶液は、凍結乾燥、噴霧乾燥などにより粉末化することができる。粉末化において、ラクトース、デキストリン、コーンスターチ等の賦形剤を添加することもできる。
【0084】
<エクオールの製造方法(3)>
本開示の他の実施態様は、同一の系で行われる前記工程(c1)及び下記工程(c2)を含み、前記工程(c1)における、前記メトキシ基を有するフラボノイド配糖体がグリシチンであって、前記脱メチル化フラボノイドのアグリコンが6-ヒドロキシダイゼインである、エクオールの製造方法である。
工程(c2):前記工程(c1)で生成した6-ヒドロキシダイゼインを含有する溶液において、アドレクラウチア(Adlercreutzia)属に属する微生物に、6-ヒドロキシダイゼインからエクオールを生成させる工程
【0085】
本態様の詳細としては、前記「<エクオールの製造方法(1)>」欄の説明を援用する。
【実施例
【0086】
以下に実施例を記載するが、いずれの実施例も、限定的な意味として解釈される実施例ではない。
【0087】
〔実施例1〕菌株の単離
1ppmのレサズリンナトリウム(ナカライテスク社)を含む10mLの変法GAM培地(日水製薬社)にヒト糞便由来培養物を加え、H:CO(8:2)ガスで置換し、
37℃、150rpmで振とう培養を行った。
次に、培養液300μLを1.5mLチューブに分注し、凍結(-20℃)と融解(室温)を30分毎に3時間繰り返した。その後、終濃度5μg/mLのシソマイシンを変法GAM培地に添加し、H:CO(8:2)ガスでガス置換、37℃、150rpmで振とう培養を行い、希釈法によるシングルコロニーアイソレーションにより、微生物を分離した。
【0088】
3株の微生物を単離した。得られた3種の微生物は、下表1の特性を有していた。後述するように、3種の微生物は、それぞれ、ブラウティア・エスピー(Blautia sp.)DC
3652(NITE BP-02924)株、ブラウティア・エスピー(Blautia sp.)DC 3653(NITE BP-02629)株、及びブラウティア・エスピー(Blautia sp.)DC 3654(NITE BP-02925)株と同定された。
【0089】
【表1】
【0090】
ブラウティア・エスピー(Blautia sp.)DC 3652(NITE BP-02924)株の16S rRNA遺伝子の塩基配列は、配列番号1で表される塩基配列である。
ブラウティア・エスピー(Blautia sp.)DC 3653(NITE BP-02629)株の16S rRNA遺伝子の塩基配列は、配列番号2で表される塩基配列である。
及びブラウティア・エスピー(Blautia sp.)DC 3654(NITE BP-02925)株の16S rRNA遺伝子の塩基配列は、配列番号3で表される塩基配列である。
【0091】
微生物同定用DNAデータベースに対するBLAST相同性検索の結果、ブラウティア・エスピー(Blautia sp.)DC 3652(NITE BP-02924)株、ブラウ
ティア・エスピー(Blautia sp.)DC 3653(NITE BP-02629)株、及びブラウティア・エスピー(Blautia sp.)DC 3654(NITE BP-02925)株の16S rRNA遺伝子の塩基配列は、ブラウティア・プロダクタ(Blautia producta)JCM 1471株の16S rRNA遺伝子の塩基配列(配列番号4)に対して、いずれも98.14%の相同性を有し、また、ブラウティア・コッコイデス(Blautia coccoides)JCM 1395株の16S rRNA遺伝子の塩基配列(配列番号5)に対して、いずれも98.35%の相同性を有することが分かった。
すなわち、いずれの微生物も、ブラウティア属に属する新規菌株と判断されたので、ブラウティア・エスピー(Blautia sp.)DC 3652(NITE BP-02924)株、ブラウティア・エスピー(Blautia sp.)DC 3653(NITE BP-02629)株、及びブラウティア・エスピー(Blautia sp.)DC 3654(NITE BP-02925)株として寄託した。
【0092】
また、同様にBLAST相同性検索を行った結果、ブラウティア・エスピー(Blautia sp.)DC 3652(NITE BP-02924)株、及びブラウティア・エスピー(Blautia sp.)DC 3654(NITE BP-02925)株の16S rRNA遺伝子の塩基配列は、ブラウティア・エスピー(Blautia sp.)DC 3653(NITE BP-02629)株の16S rRNA遺伝子の塩基配列に対して、いずれも100%の相同性を有することが分かった。
【0093】
〔実施例2-1〕脱メチル化ポリフェノールの製造方法(1)
変法GAM培地(日水製薬社製)に、イソキサントフモール(ナカライテスク社製)を添加した後、加熱滅菌し、気相をN:CO:H(80%/10%/10%)ガスで置換したものを基本培地とした。イソキサントフモールはエタノールに溶解したものを使用した。終濃度5mg/Lのイソキサントフモールを含む培地に、ブラウティア・エスピー(Blautia sp.)DC 3652(NITE BP-02924)株、ブラウティア・エスピー(Blautia sp.)DC 3653(NITE BP-02629)株、又はブラウティア・エスピー(Blautia sp.)DC 3654(NITE BP-02925)株を植菌し、37℃で嫌気培養した。培養後、培養液5mLに対して等量の酢酸エチル(1.5%ギ酸)で生成物を抽出し、得られた酢酸エチル相を回収後、乾固させた。このようにして得た乾固物をメタノール0.5mLに再溶解し、HPLCにより8-プレニルナリンゲニンの定量分析を行った。
【0094】
HPLCは下記の条件で行った。LKT Laboratories社製の8-プレニルナリンゲニンを標品として用い、DMSOに溶解して用いた。その結果、1週間の培養により、各微生物は、下表2に記載の変換率にてイソキサントフモールを8-プレニルナリンゲニンに変換したことが分かった。
【0095】
【表2】
【0096】
HPLC条件:
カラム:Inertsil ODS-3 (250×4.6mm)(GL Science社製)
溶離液:A液(水/ギ酸=99/1)、B液(アセトニトリル/ギ酸=99/1)、およ
びB液20%~70%のグラジェント
流速:1.0mL/min
カラム温度:40℃
検出:290nm
【0097】
〔実施例2-2〕脱メチル化ポリフェノールの製造方法(2)
変法GAM培地(日水製薬社製)に、グリシテインを添加した後、加熱滅菌し、気相をNガスで置換したものを基本培地とした。終濃度54mg/Lのグリシテインを含む培地に、ブラウティア・エスピー(Blautia sp.)DC 3652(NITE BP-02924)株、ブラウティア・エスピー(Blautia sp.)DC 3653(NITE BP-02629)株、又はブラウティア・エスピー(Blautia sp.)DC 3654(NITE BP-02925)株を植菌し、37℃で嫌気培養した。培養後、培養液5mLに対して10倍量の70%エタノールで希釈し、0.45μmフィルターでろ過した後、上清を用いてHPLCにより6-ヒドロキシダイゼインの定量分析を行った。
HPLCは下記条件で行った。その結果、1週間の培養により、各微生物は、下表3に記載の蓄積濃度の6-ヒドロキシダイゼインを生成したことが分かった。
【0098】
【表3】
【0099】
HPLC条件:
カラム:Phenomenex SYNERGI (150×4.6mm)
溶離液:水/メタノール=55/45
流速:1.0mL/min
カラム温度:35℃
検出:280nm
【0100】
〔実施例2-3〕エクオールの製造方法(1)
変法GAM培地(日水製薬社製)に、グリシテインを添加した後、加熱滅菌し、気相をNガスで置換したものを基本培地とした。終濃度54mg/Lのグリシテインを含む培地に、ブラウティア・エスピー(Blautia sp.)DC 3652(NITE BP-02924)株、ブラウティア・エスピー(Blautia sp.)DC 3653(NITE BP-02629)株、又はブラウティア・エスピー(Blautia sp.)DC 3654(NITE BP-02925)株と、アドレクラウチア・エクオリファシエンス・サブスピーシーズ・セラツス(Adlercreutzia equolifaciens subsp. celatus)JCM 14811株とを植菌し、嫌気的に共培養した。培養後、培養液5mLに対して10倍量の70%エタノールで希釈し、0.45μmフィルターでろ過した後、上清を用いてHPLCにより、下表4の生成物の定量分析を行った。HPLC分析は実施例2-2と同様にして行った。
その結果、各微生物は、下表4に記載の濃度の6-ヒドロキシダイゼイン及びエクオールを生産したことが分かった。
【0101】
【表4】
【0102】
〔実施例3-1〕フラボノイドのアグリコンを製造する方法(1)
変法GAM培地(日水製薬社製)に、ダイジン、グリシチン、及びゲニスチンをいずれも終濃度55mg/Lとなるように添加した後、加熱滅菌し、気相をNガスで置換したものを基本培地とした。基本培地に、ブラウティア・エスピー(Blautia sp.)DC 3652(NITE BP-02924)株、ブラウティア・エスピー(Blautia sp.)DC 3653(NITE BP-02629)株、又はブラウティア・エスピー(Blautia sp.)DC 3654(NITE BP-02925)株を植菌し、37℃で嫌気培養した。培養後、培養液5mLに対して10倍量の70%エタノールで希釈し、0.45μmフィルターでろ過した後、上清を用いてHPLCにより、下表5に記載の生成物の定量分析を行った。HPLC分析は実施例2-2と同様にして行った。
その結果、下表5に記載の濃度の生成物が生成したことが分かった。
【0103】
【表5】
【0104】
この結果から、各菌株はβ-グルコシダーゼ活性を有し、ダイジンからダイゼイン、グリシチンからグリシテイン、ゲニスチンからゲニステインが生成し、生成したグリシテインは、続けて、そのメトキシ基のメチル基が脱離し、6-ヒドロキシダイゼインが生成したと推測される。
すなわち、グリシチンからグリシテインが生成したことは、前記「フラボノイドのアグリコンを製造する方法」の一態様であり、該グリシテインから6-ヒドロキシダイゼインが生成したことは、前記「脱メチル化ポリフェノールの製造方法」の一態様である。そして、グリシチンからグリシテインを介して6-ヒドロキシダイゼインが生成したことは、当該2つの製造方法を含むものであって、前記「脱メチル化フラボノイドのアグリコンを製造する方法」の一態様であることを示している。
【0105】
〔実施例3-2〕エクオールの製造方法(2)
変法GAM培地(日水製薬社製)に、ダイジン、グリシチン、及びゲニスチンをいずれも終濃度55mg/Lとなるように添加した後、加熱滅菌し、気相をNガスで置換したものを基本培地とした。基本培地に、ブラウティア・エスピー(Blautia sp.)DC 3652(NITE BP-02924)株、ブラウティア・エスピー(Blautia sp.)D
C 3653(NITE BP-02629)株、又はブラウティア・エスピー(Blautia sp.)DC 3654(NITE BP-02925)株と、アドレクラウチア・エクオリファシエンス・サブスピーシーズ・セラツス(Adlercreutzia equolifaciens subsp.
celatus)JCM 14811株又はアドレクラウチア・エクオリファシエンス(Adlercreutzia equolifaciens)DSM 19450株とを植菌し、嫌気的に共培養した。培養後、培養液5mLに対して10倍量の70%エタノールで希釈し、0.45μmフィルターでろ過した後、上清を用いてHPLCにより、下表6に記載の生成物の定量分析を行った。HPLC分析は実施例2-2と同様にして行った。
その結果、下表6に記載の濃度の生成物が生成したことが分かった。
【0106】
【表6】
【0107】
これらの結果から、各菌株が生成した6-ヒドロキシダイゼインを基質に、アドレクラウチア・エクオリファシエンス・サブスピーシーズ・セラツス(Adlercreutzia equolifaciens subsp. celatus)JCM 14811株がエクオールを生成したと推測される。すなわち、グリシチンからグリシテインが生成したことは、前記「フラボノイドのアグリコンを製造する方法」の一態様であり、該グリシテインから6-ヒドロキシダイゼインが生成したことは、前記「脱メチル化ポリフェノールの製造方法」の一態様であり、該6-ヒドロキシダイゼインからエクオールが生成したことは、前記「エクオールの製造方法(1)」の一態様である。
また、各菌株が生成したダイゼインを基質に、アドレクラウチア・エクオリファシエンス(Adlercreutzia equolifaciens)DSM 19450株がエクオールを生成したと推測される。すなわち、ダイジンからダイゼインが生成したことは、前記「フラボノイドのアグリコンを製造する方法」の一態様であり、該ダイゼインからエクオールが生成したことは、前記「エクオールの製造方法(2)」の一態様である。
また、グリシチンからグリシテインを介して6-ヒドロキシダイゼインが生成したことは、前記2つの製造方法を含むものであって、前記「脱メチル化フラボノイドのアグリコンを製造する方法」の一態様であり、該6-ヒドロキシダイゼインからエクオールが生成したことは、前記「エクオールの製造方法(1)」の一態様であり、前記「エクオールの製造方法(3)」の一態様でもある。
【配列表】
0007451185000001.app