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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】ミーリング加工装置
(51)【国際特許分類】
   B23C 3/12 20060101AFI20240311BHJP
   B23C 9/00 20060101ALI20240311BHJP
   B23Q 3/06 20060101ALI20240311BHJP
   B23Q 11/00 20060101ALI20240311BHJP
   B25J 15/08 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
B23C3/12 Z
B23C9/00 Z
B23Q3/06 303B
B23Q11/00 M
B25J15/08 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020017763
(22)【出願日】2020-02-05
(65)【公開番号】P2021122892
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2023-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000154901
【氏名又は名称】株式会社北川鉄工所
(74)【代理人】
【識別番号】100187838
【弁理士】
【氏名又は名称】黒住 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100215393
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 祐資
(74)【代理人】
【識別番号】100205589
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 和将
(74)【代理人】
【識別番号】100194478
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 文彦
(72)【発明者】
【氏名】三島 淳司
【審査官】野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/004727(WO,A1)
【文献】特開2019-217554(JP,A)
【文献】実開昭48-045281(JP,U)
【文献】特開2003-039222(JP,A)
【文献】特開2019-171503(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 1/00- 9/00
B23Q 3/00- 3/154
B23Q 3/16- 3/18
B23Q11/00-13/00
B23Q33/00-35/48
B25J 1/00-21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの特定箇所を固定するワーク固定手段と、
ワークを切削する切削工具を取り付けて回転させるスピンドルと、
切削工具でワークを切削しているときのスピンドルを、ワーク固定手段に対して、少なくともx方向及びy方向の2方向で相対的に移動させることが可能な相対移動手段と、
スピンドルに対して相対的に動かない状態で設けられ、ワークにおける切削工具で切削している箇所(以下「被切削部」という。)の近傍を挟持するワーク挟持手段と
を備え、
ワーク挟持手段が、
ワークに対してz方向正側(スピンドルが配された側。以下同じ。)から当接する球状の転がり部材からなる第一当接部を有する第一挟持部材と、
ワークに対してz方向負側(スピンドルが配されていない側。以下同じ。)から当接する球状の転がり部材からなる第二当接部を有する第二挟持部材と
で構成され、
第一当接部を構成する転がり部材と、第二当接部を構成する転がり部材とが、z方向に重なって配され、
ワーク挟持手段に対するワークのz方向の動きが規制される一方、ワーク挟持手段に対するワークのx方向及びy方向の動きが許容されるようにした
ことを特徴とするミーリング加工装置。
【請求項2】
被切削部の周辺のエアをz方向負側に吸引する、又は、被切削部に対してz方向負側からエアを送出することによって、被切削部の切屑を除去する切屑除去用通気口Aが、第二挟持部材に設けられた請求項1記載のミーリング加工装置。
【請求項3】
被切削部の周辺のエアをz方向正側に吸引する、又は、被切削部に対してz方向正側からエアを送出することによって、被切削部の切屑を除去する切屑除去用通気口Bが、第一挟持部材に設けられた請求項2記載のミーリング加工装置。
【請求項4】
ワーク挟持手段が、ワークを弾性的に挟持するものとされた請求項1~3いずれか記載のミーリング加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転している切削工具に対してワークを相対的に移動させることでワークにミーリング加工を施すミーリング加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
撓みやすいワーク(薄板状のワーク等)にミーリング加工を施す際には、ワークをテーブルの上に固定し、加工時のワークが撓まない状態とされる。しかし、そのワークが凹凸や曲面を有する複雑な形状である場合には、テーブルの上にワークを安定した状態で固定しにくい。このため、加工時のワークに撓みやぐらつきが生じて、加工不良が生じやすくなる。この点、テーブルの上面をワークの形状に倣った形状とすれば、曲面状のワークであってもテーブル上で安定させることができる。しかし、その場合には、ワークの種類に応じてテーブルの形状を変更する等、段取り替えの作業が必要になったり、ワークに沿った形状の治具を製作する必要が生じたりする。
【0003】
ところで、特許文献1の図9には、帯状を為すワークWを固定治具(図示省略)で固定して、ワークWの倣い部Wd(同文献の図3を参照。)を固定部81に押し付けた状態で、多関節ロボット11におけるアーム12に取り付けられた加工ユニット13をワークに対して移動させることによって、加工ユニット13に設けられた刃部73で、ワークWの帯状部Wc(同文献の図3を参照。)の端面に面取り加工を施す加工装置が記載されている。この加工装置では、加工ユニット13に設けられた上下一対の挟持ローラ65で、ワークWの帯状部Wcを挟持するようになっている。
【0004】
特許文献1の図9の加工装置のように、ワークWの一側を挟持ローラ65で挟持するとともに、ワークWの他側を固定部81に押し付ける構造を採用すれば、ワークWを宙に浮いた状態(ワークWをテーブルの上に固定しない状態)でワークWに加工を施すことが可能になる。加えて、刃部73等を有する加工ユニット13は、多関節ロボット11のアーム12に取り付けられており、三次元的に移動できるようになっている。このため、特許文献1の加工装置では、ワークWが複雑な形状を有する場合であっても、ワークWを比較的安定した状態に保ちながら加工できる可能性がある。
【0005】
ただし、ワークWを宙に浮いた状態で支持すると、ワークWの自重等によってワークWが撓むおそれがあるし、刃部73がワークWにビビリ(ワークWの板厚方向の振動)を生じさせるおそれもある。この点、特許文献1の図9の加工装置のように、ワークWにおける刃部73で加工する部分(被加工部)の近傍を挟持ローラ65で挟持すれば、少なくとも、ワークWにおける被加工部の周辺では撓みやビビリが生じないようにすることができる。このため、特許文献1の加工装置では、ワークWに比較的精度よく面取り加工を施すことが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2015/004727号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の図9の加工装置では、面取り加工等、ワークWの帯状部Wcの端面に沿った箇所の加工しか行うことができなかった。というのも、特許文献1の加工装置では、ワークWが固定部81に押し付けられた状態を保つために、刃部73でワークWを固定部81側に押し付ける必要があるところ、ワークWの帯状部Wcの端面に沿わない箇所(例えば、ワークWの帯状部Wcの短手方向中間部分)に加工を施す場合には、刃部73からワークWにそのような押し付け力が加わりにくくなるからである。
【0008】
また、特許文献1の加工装置では、刃部73を、ワークWにおける帯状部Wcの長手方向に沿って移動させる一次元的な加工を施すことはできても、刃部73を、帯状部Wcの長手方向及び短手方向の双方に移動させる二次元的な加工は行いにくい。というのも、挟持ローラ65は、ワークWの帯状部Wcの長手方向にしか転がらないようになっている(特許文献1の段落0019及び図3を参照。)からである。このように、特許文献1の加工装置には、加工の自由度が低いという欠点があった。
【0009】
さらに、特許文献1の加工装置では、固定部81に押し付ける倣い部Wcを有する形態のワークWしか加工することができなかった。このため、特許文献1の加工装置には、ワークWの形態の自由度が低いという欠点もあった。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために為されたものであり、
[1]凹凸や曲面を有する複雑な形状のワークでも加工できる。
[2]ワークの撓みやビビリを抑えて精度よく加工できる。
[3]一次元的な加工だけでなく、二次元的な加工ができる等、加工の自由度が高い。
[4]上記の特許文献1に記載された倣い部Wcに相当する部分がワークになくても加工でき、ワークの形態の自由度が高い。
という特徴を備えたミーリング加工装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、
ワークの特定箇所を固定するワーク固定手段と、
ワークを切削する切削工具を取り付けて回転させるスピンドルと、
切削工具でワークを切削しているときのスピンドルを、ワーク固定手段に対して、少なくともx方向及びy方向の2方向で相対的に移動させることが可能な相対移動手段と、
スピンドルに対して相対的に動かない状態で設けられ、ワークにおける切削工具で切削している箇所(以下「被切削部」という。)の近傍を挟持するワーク挟持手段と
を備え、
ワーク挟持手段が、
ワークに対してz方向正側(スピンドルが配された側。以下同じ。)から当接する第一当接部を有する第一挟持部材と、
ワークに対してz方向負側(スピンドルが配されていない側。以下同じ。)から当接する第二当接部を有する第二挟持部材と
で構成され、
ワーク挟持手段に対するワークのz方向の動きが規制される一方、ワーク挟持手段に対するワークのx方向及びy方向の動きが許容されるようにした
ことを特徴とするミーリング加工装置
を提供することによって解決される。
【0012】
ここで、「(ワーク挟持手段が)スピンドルに対して相対的に動かない状態で設けられ」とは、相対移動手段を駆動して、ワーク固定手段に対してスピンドルを移動させたときに、スピンドルとワーク挟持手段とが全体として一体的に動くことを意味しており、スピンドルの回転動作や、ワーク挟持手段の挟持動作については、除外して考えることとする。すなわち、スピンドルには、それに取り付けられた切削工具を回転させるための可動部材が存在し、ワーク挟持手段にも、第一挟持部材と第二挟持部材とを相対的に接近又は離反させるための可動部材が存在しており、これらの可動部材の動作を考慮してしまうと、「ワーク挟持手段がスピンドルに対して相対的に動かない状態で設けられている」とは言えなくなるところ、「ワーク挟持手段がスピンドルに対して相対的に動かない状態」となっているか否かを判断する際には、これらの可動部材の動作を考慮しないこととする。
【0013】
本発明のミーリング加工装置は、ワーク固定手段とワーク挟持手段とでワークを宙に浮いた状態で支持するものとなっている。このため、凹凸や曲面を有する複雑な形状のワークを、安定して支持することができるようになっている。加えて、本発明のミーリング加工装置では、ワーク挟持手段によって、ワークにおける被切削部の近傍のz方向の動きを規制している。このため、ワークにおける被切削部の近傍に生じ得る撓みやビビリが抑えられ、加工の精度を高めることができるようになっている。
【0014】
また、本発明のミーリング加工装置では、ワーク挟持手段に対するワークのx方向及びy方向の動きが許容されている。加えて、宙に浮いた状態で支持されたワークに対して相対的に、切削工具をx方向又はy方向に移動させることで、加工を施すようになっている。このため、本発明のミーリング加工装置は、二次元的な加工を行うことができる等、加工の自由度が高いものとなっている。さらに、本発明のミーリング加工装置では、ワーク固定手段に固定できる箇所と、ワーク挟持手段で挟持できる箇所とがワークに存在しさえすれば、ワークの形態にかかわらず、加工を施すことができる。このため、本発明のミーリング加工装置は、ワークの形態の自由度が高いものとなっている。
【0015】
本発明のミーリング加工装置においては、被切削部の周辺のエアを吸引する、又は、被切削部に対してエアを送出する切屑除去用通気口を、被切削部の近傍に設けることが好ましい。被切削部に切屑が残ったままの状態で加工を続けると、ワークや切削工具を傷付けたり、切屑を周囲に飛散させて作業環境を悪化させるおそれがあるところ、上記の切屑除去用通気口を設けることで、切屑を被切削部から除去し、そのような不具合を生じにくくすることが可能になる。また、切屑除去用通気口を通過する気流によって、工具を冷却することもできる。
【0016】
ところで、ワークにおけるスピンドル側の面に溝等を加工する場合には、切屑は、主に、ワークのz方向正側の面に生じる。このため、上記の切屑除去用通気口は、ワークよりもz方向正側に配される部材であって、スピンドルと一体的にx方向及びy方向に移動する部材に設けることが好ましい。このような部材としては、第一挟持部材が挙げられる。以下においては、第一挟持部材に設けられる切屑除去用通気口を、後述する切屑除去用通気口(第二挟持部材に設けられる切屑除去用通気口A)と区別して、「切屑除去用通気口B」と表記する。切屑除去用通気口Bは、被切削部の周辺のエアをz方向正側に吸引する、又は、被切削部にz方向正側からエアを送出するものとされる。この切屑除去用通気口Bによって、ワークのz方向正側に生じる切屑等を効率的に除去することが可能になる。
【0017】
また、スリット等、ワークを板厚方向に貫通した加工を行う場合や、ワークの端面に加工を行う場合には、切屑は、ワークのz方向負側にも生じる。このため、上記の切屑除去用通気口を、ワークよりもz方向負側に配される部材であって、スピンドルと一体的にx方向及びy方向に移動する部材に設けることも好ましい。このような部材としては、第二挟持部材が挙げられる。以下においては、第二挟持部材に設けられる切屑除去用通気口を、上述した切屑除去用通気口(第一挟持部材に設けられる切屑除去用通気口B)と区別して、「切屑除去用通気口A」と表記する。切屑除去用通気口Aは、被切削部の周辺のエアをz方向負側に吸引する、又は、被切削部にz方向負側からエアを送出するものとされる。この切屑除去用通気口Aによって、ワークのz方向負側に生じる切屑等を効率的に除去することが可能になる。
【0018】
本発明のミーリング加工装置において、ワーク挟持手段は、それがワークを挟持しているときに、第一挟持部材に対して第二挟持部材が開かないようにロックされる構造のものであってもよい。しかし、この場合には、ワーク挟持手段によって、ワークが、z方向だけでなく、x方向やy方向にもある程度のレベルで規制されるようになり、ワーク挟持手段に対してワークをx方向やy方向にスムーズに移動させにくくなるおそれがある。このため、ワーク挟持手段で、ワークを弾性的に挟持することが好ましい。これにより、ワーク挟持手段に対するワークのz方向の動きを規制しながらも、ワーク挟持手段に対してワークをx方向及びy方向にスムーズに移動させることが可能になる。
【0019】
本発明のミーリング加工装置において、第一挟持部材の第一当接部と、第二挟持部材の第二当接部は、ワークに対して直接的に接触する部分である。このため、ワークに対する第一当接部及び第二当接部の摩擦係数は、できるだけ小さくすることが好ましい。この点、第一当接部や第二当接部を低摩擦な素材で形成するといっても限界がある。また、第一当接部や第二当接部をローラとすれば、そのローラが転がる方向では、摩擦係数を小さくすることができるものの、ローラが転がらない方向での摩擦係数は小さくならない。したがって、x方向とy方向のうち、いずれか一方では、ワークをスムーズに移動させることができても、他方では、ワークをスムーズに移動させることができないおそれがある。この点、第一当接部及び第二当接部を、球状を為す転がり部材によって構成すると、x方向及びy方向の双方に、ワークをスムーズに移動させることが可能になる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明によって、
[1]凹凸や曲面を有する複雑な形状のワークでも加工できる。
[2]ワークの撓みやビビリを抑えて精度よく加工できる。
[3]一次元的な加工だけでなく、二次元的な加工ができる等、加工の自由度が高い。
[4]ワークの形態の自由度が高い。
という特徴を備えたミーリング加工装置を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明のミーリング加工装置の全体を示した図である。
図2】本発明のミーリング加工装置におけるスピンドル及びワーク挟持手段の周辺を拡大して示した断面図である。
図3】本発明のミーリング加工装置における第一当接部の周辺を拡大して示した断面図である。
図4】本発明のミーリング加工装置における第一当接部の配置を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
1.はじめに
本発明のミーリング加工装置の好適な実施形態について、図面を用いてより具体的に説明する。図1は、本発明のミーリング加工装置の全体を示した図である。図2は、本発明のミーリング加工装置におけるスピンドル20及びワーク挟持手段40の周辺を拡大して示した断面図である。
【0023】
図1及び図2、並びに、後掲する図3及び図4においては、x軸、y軸及びz軸からなる座標系を示している。このx軸、y軸及びz軸の向きは、異なる図面であっても共通としている。z方向正側は、鉛直方向上側を向いており、z方向負側は、鉛直方向下側を向いている。このため、以下の説明では、z方向を「上下方向」と呼び、z方向正側を「上側」と呼び、z方向負側を「下側」と呼ぶことがある。また、x方向を「左右方向」と呼び、x方向正側を「右側」と呼び、x方向負側を「左側」と呼ぶことがある。さらに、y方向を「前後方向」と呼び、y方向正側を「後側」と呼び、y方向負側を「前側」と呼ぶことがある。
【0024】
しかし、これらの方向を表す語は、各部材の相対的位置関係を説明するために便宜的に用いたものであり、ミーリング加工装置やワークWを設置する向き等を限定するものではない。例えば、図1では、ワークWを、左右方向(x方向)と略平行に描いているが、ワークWは、左右方向に対して傾斜した状態であってもよい。また、図2では、切削工具60を、上下方向(z方向)と平行に描いているが、切削工具60は、上下方向(z方向)に対して傾斜した状態に設けてもよい。
【0025】
本発明のミーリング加工装置は、図1及び図2に示すように、ワーク固定手段10(図1)と、スピンドル20と、相対移動手段30(図1)と、ワーク挟持手段40とを備えている。本実施形態のミーリング加工装置において、ワーク固定手段10は、ミーリング加工装置のベース部分(図示省略)に対して動かない状態で設けている。一方、スピンドル20及びワーク挟持手段40は、相対移動手段30であるロボットアーム31の終端部(先端部)に設けており、ミーリング加工装置のベース部分に対して移動可能となっている。以下においては、ロボットアーム31(相対移動手段30)の終端部に取り付けられた、スピンドル20及びワーク挟持手段40等からなる部分を「加工ユニット50」と呼ぶことがある。
【0026】
2.ワーク固定手段
ワーク固定手段10は、ワークWの特定箇所を固定するためのものとなっている。ワーク固定手段10によるワークWの固定箇所や、ワーク固定手段10の具体的な機構は、特に限定されない。本実施形態のミーリング加工装置において、ワーク固定手段10は、図1に示すように、ワークWの一方の側縁(左側の側縁)を上下方向(z方向)に挟持することによって固定するクランプ部材となっている。ワークWは、ワーク固定手段10に対して、左右方向(x方向)、前後方向(y方向)及び上下方向(z方向)のいずれにも動くことができない状態で固定される。
【0027】
3.スピンドル
スピンドル20は、図2に示すように、加工ユニット50に設けられている。このスピンドル20の下側には、切削工具60が取り付けられている。スピンドル20は、この切削工具60をその中心線周りに回転するものとなっている。切削工具60が回転することによって、ワークWが切削される。使用する切削工具60の種類は、加工の種類によって適宜決定される。本実施形態のミーリング加工装置においては、切削工具60として、エンドミルを用いているが、フライスカッター等、エンドミル以外のものを用いる場合もある。
【0028】
4.相対移動手段
相対移動手段30(図1)は、ワーク固定手段10に対してスピンドル20を、少なくとも、左右方向(x方向)及び前後方向(y方向)の2方向で相対的に移動させることが可能なものとなっている。換言すると、相対移動手段30は、ワークWに対して切削工具60を、少なくとも、左右方向(x方向)及び前後方向(y方向)に移動させるものとなっている。切削工具60でワークWを切削しているときに、この相対移動手段30を駆動し、ワークWと切削工具60とを相対的に移動させると、その移動軌跡に応じてワークWが加工される。すなわち、ワークWにミーリング加工が施される。ワークW及び切削工具60は、少なくとも、左右方向(x方向)及び前後方向(y方向)の2方向に相対的に移動することができるため、ワークWには、一次元的な加工だけでなく、二次元的な加工を行うことも可能である。また、後述するように、相対移動手段30としてロボットアーム31等を採用すれば、ワークWに三次元的な加工を行うことも可能である。例えば、ワークWに対して、切削工具60を、左右方向(x方向)や前後方向(y方向)に動かしながら上下方向(z方向)にも動かして加工することができる。
【0029】
相対移動手段30は、
[1]動かないワークW(ワーク固定手段10)に対して切削工具60(スピンドル20)を移動させる態様のものと、
[2]動かない切削工具60(スピンドル20)に対してワークW(ワーク固定手段10)を移動させる態様のものと、
[3]動いているワークW(ワーク固定手段10)に対して切削工具60(スピンドル20)を移動させる態様のもの
のうち、いずれを採用してもよい。しかし、上記[2],[3]は、機構が大掛かりになることに加えて、ワークWを移動させるスペースを確保しなければならない。このため、上記[1]の態様が好ましい。
【0030】
本実施形態のミーリング加工装置においては、既に述べたように、ワークW(ワーク固定手段10)を動かない状態にするとともに、切削工具60(スピンドル20)をロボットアーム31の終端部に取り付けており、上記[1]の態様を採用している。このロボットアーム31は、その始端部(基端部)と終端部(先端部)との間に、複数の関節が設けられた多関節型のものとなっている。それぞれの関節には、その関節の両側の部材を相対的に移動させるための駆動手段(サーボモータ等)が設けられている。これらの駆動手段を駆動することで、ロボットアーム31の終端部を三次元的に移動させることができる。このため、本実施形態のミーリング加工装置において、切削工具60は、ワークWに対して、左右方向(x方向)及び前後方向(y方向)の2方向だけでなく、上下方向(z方向)にも移動させることができるようになっている。したがって、ワークWに穴をあける加工を行うことも可能である。
【0031】
5.ワーク挟持手段
ワーク挟持手段40は、図2に示すように、ワークWの上側(z方向正側)に位置する第一挟持部材41と、ワークWの下側(z方向負側)に位置する第二挟持部材42とを備えており、ワークWにおける被切削部αの近傍を、第一挟持部材41に設けられた第一当接部41aと、第二挟持部材42に設けられた第二当接部42aとの間で挟持するものとなっている。このワーク挟持手段40によって、ワークWにおける被切削部αの近傍の上下方向(z方向)の移動を規制して、ワークWにおける被切削部αの近傍の撓みやビビリを抑えることができるようになっている。したがって、ワークWに精度よく加工を施すことが可能となっている。
【0032】
このワーク挟持手段40は、上述したスピンドル20とともに、加工ユニット50を構成している。このため、図1に示すロボットアーム31(相対移動手段30)を駆動して、スピンドル20を移動させても、ワーク挟持手段40は、スピンドル20とともに移動するようになっており、ワーク挟持手段40とスピンドル20との相対位置が変わらないようになっている。すなわち、ミーリング加工を行う間、切削工具60は、ワークWに対して左右方向(x方向)や前後方向(y方向)に移動するところ、切削工具60が移動した先でも、ワーク挟持手段40でワークWが挟持されるようになっている。
【0033】
このため、ワーク挟持手段40に対するワークWの左右方向(x方向)及び前後方向(y方向)の移動が、許容された状態となっている。したがって、ワーク挟持手段40でワークWを挟持した状態のまま、加工ユニット50をワークWに対して左右方向(x方向)や前後方向(y方向)に動かすことが可能となっている。ワーク挟持手段40を、ワークWの上下方向(z方向)の動きを規制しながらも、ワークWの左右方向(x方向)及び前後方向(y方向)の動きを許容できるものとする機構は、特に限定されない。例えば、第一挟持部材41の第一当接部41aや、第二挟持部材42の第二当接部42aを、ワークWに対する摩擦係数の小さな素材(例えば、鏡面加工を施した金属等)で形成してもよい。しかし、それだけでは、ワーク挟持手段40に対してワークWを左右方向(x方向)や前後方向(y方向)にスムーズに移動させることが難しい場合がある。この点、本実施形態のミーリング加工装置においては、以下で述べる構成を採用することによって、ワーク挟持手段40に対してワークWが左右方向(x方向)や前後方向(y方向)にスムーズに移動するようにしている。
【0034】
すなわち、第一挟持部材41における第一当接部41aを、図3に示すように、球状を為す転がり部材41aによって構成している。図3は、本発明のミーリング加工装置における第一当接部41aの周辺を拡大して示した断面図である。転がり部材41aは、ホルダ41bに設けられた保持穴41bに保持されており、その下部(z方向負側の部分)が下側(z方向負側)に露出した状態となっている。このため、転がり部材41aは、ワークWの上面(z方向正側の面)に対していずれの方向にも転がることができるようになっている。保持穴41bにおける第一当接部41aの上側(z方向正側)には、複数の小さな転動体41cが収容されている。それぞれの転動体41cは、球状を為している。このため、第一当接部41aを構成する転がり部材41aは、保持穴41bの内部で摩擦が非常に小さな状態で回転できるようになっている。
【0035】
第一当接部41aは、切削工具60の近傍における少なくとも1箇所に設けていればよいが、複数個所に設けることが好ましい。この場合、複数の第一当接部41aは、切削工具60を中心とした対称となる位置に配することが好ましい。図4は、第一当接部41aの配置を説明する図である。本実施形態のミーリング加工装置においては、図4に示すように、4個の第一当接部41aを、切削工具60を中心とした回転対称となる位置に配している。これにより、被切削部αの周辺のワークWを、ワーク挟持手段40でバランスよく挟持でき、上述したワークWの撓みやビビリをより効果的に抑えることが可能となる。
【0036】
第一挟持部材41における第一当接部41aと同様、第二挟持部材42における第二当接部42aも、球状の転がり部材42a図2)によって構成することができる。転がり部材42aの保持構造は、転がり部材41aの保持構造と同様である(図3を上下方向(z方向)に反転した構造を採用することができる)。第二当接部42aの配置も、第一当接部41aの配置と同様である(図4を上下方向(z方向)に反転した配置を採用することができる)。第一当接部41aと第二当接部42aは、通常、上下方向(z方向)に重なるように配される。
【0037】
加えて、本実施形態のミーリング加工装置においては、図2に示すように、ワーク挟持手段40に、2つのピストン(第一ピストン43及び第二ピストン44)を用いる「二重ピストン機構」を組み込んでいる。具体的には、第一挟持部材41の基端側に、第一ピストン43を固定するとともに、第二挟持部材42の基端側に、第二ピストン44を固定している。第一ピストン43及び第二ピストン44は、加工ユニット50のハウジング51に固定されたシリンダー部45の内側に収容されており、シリンダー部45の中心線に沿ってスライドできるようになっている。第二ピストン44は、第一ピストン43を上下方向(z方向)に貫通しており、第一ピストン43よりも上側(z方向正側)に突き出た状態となっている。
【0038】
第一ピストン43の上側(z方向正側)の端部には、第一フランジ部43aが設けられており、第二ピストン44における、第一ピストン43よりも上側(z方向正側)に突き出た部分には、第二フランジ部44aが設けられている。第一フランジ部43aは、その下側(z方向負側)に配された第一付勢部材43bによって、上側(z方向正側)に付勢されている。一方、第二フランジ部44aは、その上側(z方向正側)に配された第二付勢部材44bによって、下側(z方向負側)に付勢されている。このため、第一フランジ部43aと第二フランジ部44aは、互いに接近する向きに付勢された状態となっている。ただし、第一フランジ部43a及び第二フランジ部44aは、それが最も接近したときでも、その間に空間βが形成されるようになっている。この空間βは、図示省略のエア供給手段に接続されている。このエア供給手段を通じて空間βにエアを供給することで、空間βを加圧状態とすることができる一方、このエア供給手段を通じて空間βからエアを排出することで、空間βを非加圧状態とすることができるようになっている。
【0039】
ワーク挟持手段40でワークWを挟持しないときには、空間βからエアが排出され、空間βが非加圧状態とされる。このときには、第一付勢部材43bの付勢力によって、第一挟持部材41が、図2に示す位置よりも上側(z方向正側)に移動するとともに、第二付勢部材44bの付勢力によって、第二挟持部材42が、図2に示す位置よりも下側(z方向負側)に移動する。したがって、ワーク挟持手段40は、第一挟持部材41と第二挟持部材42とが互いに離反する向きに変位した「開状態」になる。これに対し、ワーク挟持手段40でワークWを挟持するときには、空間βにエアが供給され、空間βが加圧状態とされる。このときには、第一挟持部材41が、第一付勢部材43bの付勢力に抗って下側(z方向負側)に移動するとともに、第二挟持部材42が、第二付勢部材44bの付勢力に抗って上側(z方向正側)に移動する。したがって、ワーク挟持手段40は、第一挟持部材41と第二挟持部材42とが互いに接近した「閉状態」となる。
【0040】
ワーク挟持手段40がワークWを挟持しているとき(閉状態のとき)には、その状態から第一挟持部材41及び第二挟持部材42が開かないように、第一挟持部材41や第二挟持部材42をロックしてもよい。しかし、この場合には、ワークWが、左右方向(x方向)や前後方向(y方向)にスムーズに移動しにくくなるおそれがある。また、ワークWに、水平面(x-y平面)に対して傾斜した部分が存在し、その部分の傾斜に沿ってミーリング加工を施そうとすると、切削工具60の位置(被切削部αの位置)を上下方向(z方向)に変化させながら加工する必要があるところ、ワーク挟持手段40がそのような加工に対応できなくなる。すなわち、ワーク挟持手段40が三次元的な加工に対応できなくなる。
【0041】
この点、第一挟持部材41や第二挟持部材42をロックしなくても、ワーク挟持手段40がワークWを挟持しているときには、第一挟持部材41及び第二挟持部材42のいずれもが、空間β内のエアの圧力によって、ワークW側に付勢された状態となっている。換言すると、空間β内のエア(エアスプリング)の弾性力によって、ワークWが弾性的に挟持された状態となっている。このエアスプリングの弾性力のみでも、ワークWにビビリ等が生じないレベルで、ワークWの上下方向(z方向)の動きを規制できる。加えて、ワークWを弾性的に挟持すると、ワークWの左右方向(x方向)や前後方向(y方向)へのスムーズな移動を許容することができる。また、ワーク挟持手段40が、三次元的な加工に対応できるようになる。したがって、本実施形態のミーリング加工装置においては、ワークWを挟持しているときの第一挟持部材41や第二挟持部材42をロックすることなく、ワーク挟持手段40でワークWを弾性的に挟持するようにしている。
【0042】
6.切屑除去用通気口
ところで、本実施形態のミーリング加工装置においては、図2に示すように、加工ユニット50における被切削部αの近傍となる箇所に、切屑除去用通気口A,Bを設けている。この切屑除去用通気口A,Bは、被切削部αで発生した切屑を除去するためのものとなっている。これにより、切屑でワークWや切削工具60が傷付かないようにしたり、切屑の飛散による作業環境の悪化を防ぐことができる。従来のミーリング加工装置では、この種の切屑除去用通気口は、ワークWの上側(z方向正側)に設けられることが多いところ、本実施形態のミーリング加工装置においても、ワークWの上側(z方向正側)に位置する第一挟持部材41に、切屑除去用通気口Bを設けている。
【0043】
具体的には、第一挟持部材41における、第一当接部41aで囲まれた部分の中央に、切屑除去用通気口Bを設けており、被切削部αの切屑を、この切屑除去用通気口Bで吸引することができるようにしている。切削工具60は、この切屑除去用通気口BからワークWの側に突出させている。切屑除去用通気口Bに吸引された切屑は、加工ユニット50に設けた通気路52(ダクト)を通じて回収されるようになっている。通気路52の内部は、図示省略のポンプ等によって負圧に維持された状態となっている。これとは逆に、通気路52の内部を正圧とし、切屑除去用通気口Bからエアが送出されるようにしてもよい。この場合には、被切削部αの切屑は、切屑除去用通気口Bから送出されたエアによって吹き飛ばされるようになる。
【0044】
また、本実施形態のミーリング加工装置では、ワークWの下側(z方向負側)に位置する第二挟持部材42にも、切屑除去用通気口Aを設けている。ワークWを板厚方向に貫通した加工を行う場合や、ワークWの端面に加工を行う場合には、ワークWの下側(z方向負側)にも切屑が生じるところ、上記の切屑除去用通気口Bに吸引されるエア、又は、切屑除去用通気口Bから送出されるエアでは、ワークWの下側(z方向負側)の切屑を効率的に除去しにくい。この点、ワークWの下側(z方向負側)に切屑除去用通気口Bを設けることで、ワークWの下側(z方向負側)の切屑を効率的に除去できるようになっている。
【0045】
具体的には、第二挟持部材42における、第二当接部42aで囲まれた部分の中央(切削工具60と上下方向(z方向)に重なる箇所)に、切屑除去用通気口Aを設けており、被切削部αの切屑を、この切屑除去用通気口Aで吸引することができるようにしている。切屑除去用通気口Aに吸引された切屑は、第二挟持部材42に設けた通気路42dを通じて回収されるようになっている。通気路42dの内部は、図示省略のポンプ等によって負圧に維持された状態となっている。これとは逆に、通気路42dの内部を正圧とし、切屑除去用通気口Aからエアが送出されるようにしてもよい。この場合には、被切削部αの切屑は、切屑除去用通気口Aから送出されたエアによって吹き飛ばされるようになる。
【0046】
ワークWをテーブルの上に固定する従来のミーリング加工装置では、ワークWの下側(z方向負側)にはテーブルが位置するようになることに加えて、被切削部αの場所が変わるため、ワークWの下側に、上記の切屑除去用通気口Aに相当する部分を設けることが難しい。この点、本実施形態のミーリング加工装置では、ワーク挟持手段40における第二挟持部材42と、スピンドル20に取り付けられた切削工具60とが、左右方向(x方向)及び前後方向(y方向)に一体的に移動するため、第二挟持部材42と切削工具60とが、ワークWを挟んで上下方向(z方向)に略重なった状態が維持されるようになっている。このため、上記のように、第二挟持部材42に切屑除去用通気口Aを設けると、ワークWにおける被切削部αの移動に応じて、切屑除去用通気口Aの位置を変えながら、被切削部αの切屑を効率的に除去することできるようになっている。
【0047】
7.ワーク
本発明のミーリング加工装置で加工を施すワークは、その形態を特に限定されない。本発明のミーリング加工装置では、単純な平板状を為すものから、複雑な形態を為すものまで、幅広い形態のワークに対応することが可能である。なかでも、撓みやすく、且つ、凹凸や曲面を有する複雑な形態を有する薄板状のワークに加工を施すものとして好適である。このような形態のワークは、撓みやビビリが生じやすいことに加えて、従来のミーリング加工装置では、安定した状態で支持することが難しいため、精度よく加工しにくいところ、本発明のミーリング加工装置では、そのようなワークでも精度よく加工することができるからである。このような形態を有するワークとしては、自動車のボディ(ルーフやボンネットやドアパネル等)や内装材(インパネ等)が例示される。金属製のワークに限らず、樹脂製のワークであっても加工することが可能である。
【符号の説明】
【0048】
10 ワーク固定手段
20 スピンドル
30 相対移動手段
31 ロボットアーム
40 ワーク挟持手段
41 第一挟持部材
41a 第一当接部
41a 転がり部材
41b ホルダ
41b 保持穴
41c 転動体
42 第二挟持部材
42a 第二当接部
42a 転がり部材
42d 通気路
43 第一ピストン
43a 第一フランジ部
43b 第一付勢部材
44 第二ピストン
44a 第二フランジ部
44b 第二付勢部材
45 シリンダー部
50 加工ユニット
51 ハウジング
52 通気路(ダクト)
60 切削工具
A 切屑除去用通気口
B 切屑除去用通気口
W ワーク
α 被切削部
β 空間
図1
図2
図3
図4