(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】ストランド
(51)【国際特許分類】
B29C 64/118 20170101AFI20240311BHJP
B33Y 70/10 20200101ALI20240311BHJP
【FI】
B29C64/118
B33Y70/10
(21)【出願番号】P 2020018263
(22)【出願日】2020-02-05
【審査請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【氏名又は名称】石田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】竹中 真
【審査官】今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/129613(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/182675(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00 - 64/40
B33Y 70/00
B33Y 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3Dプリンタの造形原料として用いられるストランドであって、
熱可塑性樹脂を主成分とする基材と、
この基材中に含浸され、軸方向に延在する1本又は複数本の繊維又は繊維束とを備え、
上記軸方向に沿って撚りが付与され、
上記繊維又は上記繊維束が炭素繊維を含むストランド。
【請求項2】
上記軸方向の長さ1m当たりの上記撚りの回数が10回/m以上200回/m以下である請求項1に記載のストランド。
【請求項3】
上記軸方向に対する上記撚りの角度が3°以上50°以下である請求項1又は請求項2に記載のストランド。
【請求項4】
上記繊維の平均太さが500tex以上100000tex以下である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のストランド。
【請求項5】
上記繊維の平均長さが2mm以上1000m以下である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のストランド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストランド及び造形物に関する。
【背景技術】
【0002】
立体的な形状を有する物体を成形する装置として、熱で可塑化状態にある樹脂を1層ずつ積み重ねていく熱融解積層方式を採用した3D(三次元)プリンタが知られている。この3Dプリンタは、金型、治具等を必要とすることなく三次元形状を成形することができる。加えて、従来の射出成形技術では形成が困難な三次元形状の物体を造形することもできる。
【0003】
このような3Dプリンタによる造形技術として、例えば樹脂を含む第1連続材料と炭素繊維等の繊維を含む第2連続材料とを別々に用い、これらをヘッドから供給することで、繊維により強化された成形物(造形物)を形成する技術が提案されている(国際公開第2015/182675号)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の技術は、2種の連続材料を供給する必要があるため、造形が簡便であるとはいい難い。
【0006】
一方、3Dプリンタの用途が広範に拡大するにつれ、立体構造物(造形物)に更なる機械的強度が求められる可能性がある。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、衝撃強度に優れた造形物を簡便に3Dプリンタで造形することを可能とするストランド、及び衝撃強度に優れた造形物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく本発明者らが鋭意研究したところ、以下の知見を得た。
すなわち、本発明者らは、3Dプリンタに適した造形原料として、特許文献1の第1連続材料及び第2連続材料に代えて、炭素繊維等の無機材料によって形成された連続繊維を融解状態にある熱可塑性樹脂に含浸させることを考えた。しかし、この含浸で得られた含浸物は、剛直であり、容易に座屈し易いため、巻き取り時に折れ曲がり易く、巻き取り難い等、取り扱い性に優れるとはいい難いことが判明した。
上記知見に基づいて本発明者らがさらに鋭意研究したところ、融解状態の熱可塑性樹脂に繊維を含浸させ又は含浸させながら撚ることで、得られたストランドが、座屈し難くなり、取り扱い性に優れることを見出した。しかも、特に複数本の繊維、及び繊維束を用いる場合、得られたストランドでは、含浸後に撚ることで熱可塑性樹脂成分がストランドの中心側よりも表面側により多く分布すること、繊維の破断折れが抑制されること、及び繊維間の摩擦が増大することを見出した。そして、このストランドを用いて熱融解積層方式の3Dプリンタで造形を行うと、上記熱可塑性樹脂成分の分布、繊維破断折れの抑制、繊維間の摩擦の増大等の寄与により、造形物が衝撃強度に優れることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、上記課題を解決するためになされた発明は、3Dプリンタの造形原料として用いられるストランドであって、熱可塑性樹脂を主成分とする基材と、この基材中に含浸され、軸方向に延在する1本又は複数本の繊維又は繊維束とを備え、上記軸方向に沿って撚りが付与されているストランドである。
【0010】
当該ストランドは、上記繊維又は繊維束が上記基材に含浸され、撚られていることで、座屈し難くなり、取り扱い性に優れる。加えて、上記撚られていることにより、当該ストランドを用いて3Dプリンタで造形した造形物が衝撃強度に優れる。従って、当該ストランドは、衝撃強度に優れた造形物を簡便に3Dプリンタで形成することを可能とする。
【0011】
上記軸方向の長さ1m当たりの上記撚りの回数としては、10回/m以上200回/m以下が好ましい。
【0012】
このように、上記撚りの回数が上記範囲内であることで、当該ストランドがより確実に座屈し難くなり、より取り扱い性に優れる。加えて、当該ストランドを用いて3Dプリンタで造形した造形物がより確実に衝撃強度に優れる。
【0013】
上記軸方向に対する上記撚りの角度としては、3°以上50°以下が好ましい。
【0014】
このように、上記撚りの角度が上記範囲内であることで、当該ストランドがより確実に座屈し難くなり、より取り扱い性に優れる。加えて、当該ストランドを用いて3Dプリンタで造形した造形物がより確実に衝撃強度に優れる。
【0015】
上記繊維又は繊維束としては、炭素繊維又は炭素束が好ましい。
【0016】
このように、上記繊維又は繊維束が炭素繊維又は炭素繊維束であることで、繊維材料の中でも比較的剛直な種類である炭素繊維又は炭素繊維束を用いた当該ストランドが座屈し難くなり、取り扱い性に優れるため、当該ストランドの優位性がより高まる。加えて、繊維又は繊維束の中でも比較的強度が高い炭素繊維又は炭素繊維束を用いることで、当該ストランドを用いて3Dプリンタで造形した造形物が、より衝撃強度に優れる。
【0017】
上記課題を解決するためになされた別の発明は、3Dプリンタによる造形物であって、熱可塑性樹脂を主成分とする基体と、この基体中に含有され、軸方向に沿って撚りが付与されている1本又は複数本の繊維又は繊維束とを備える造形物である。
【0018】
当該造形物は、上記繊維又は繊維束が上記基体中に含有され、撚られていることで、衝撃強度に優れる。
【0019】
ここで、「主成分」とは、最も含有量の多い成分を意味し、例えば含有量が50質量%以上の成分をいう。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明のストランドによれば、衝撃強度に優れた造形物を簡便に3Dプリンタで造形することができる。本発明の造形物は、衝撃強度に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態のストランドの横断面を模式的に示す概略断面図である。
【
図2】
図2は、本実施形態のストランドの製造装置を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明のストランド及び造形物の実施形態について詳説する。なお、本明細書では、任意の事項について記載された複数の上限値のうちの1つと複数の下限値のうちの1つとを適宜組み合わせることができる。このように組み合わせることで、組み合わされた上限値と下限値との間の数値範囲が上記任意の事項の好適な数値範囲として本明細書中に記載されているものとする。ここで、上記した上限値と下限値との間の数値範囲は上限値から下限値までの数値範囲、及び下限値から上限値までの数値範囲を含む。
【0023】
[第1実施形態]
まず、本実施形態のストランドについて説明する。
【0024】
<ストランド>
当該ストランドは、3Dプリンタの造形原料として用いられるストランドであって、熱可塑性樹脂を主成分とする基材と、この基材中に含浸され、軸方向に延在する1本又は複数本の繊維又は繊維束とを備え、上記軸方向に沿って撚りが付与されている。以下、繊維又は繊維束を、まとめて「繊維材料」ともいう。基材中に1本又は複数本の繊維又は繊維束が含浸されたものを、「複合体」ともいう。
【0025】
例えば
図1に示す態様では、ストランド1は、熱可塑性樹脂を主成分とする基材3と、この基材3中に含浸され、軸方向として一方向(
図1の紙面と垂直な方向)に延在する複数本(
図1では3本)の繊維材料5を備え、上記軸方向に沿って撚りが付与されている。このように、ストランド1が複数本の繊維材料5を備える態様の他、ストランド1が1本の繊維材料5を備える態様を採用してもよい。
【0026】
(3Dプリンタ)
上記3Dプリンタは、熱可塑性樹脂成分を熱で融解した当該ストランドを少しずつ積み重ねていくことで三次元形状の造形物を形成する、すなわち、熱融解積層方式を採用するものである。この熱融解積層方式では、一層ずつ、先に形成した層と次の層とを半固形(軟化)状態で接着させながら造形を行う。この3Dプリンタは、熱で可塑化状態にある樹脂を少しずつ積み重ねていくことで造形物を形成することができるものであれば、特に限定されない。例えば3Dプリンタとしては、上下、左右及び前後方向に自在に移動可能な支持板と、当該ストランドの熱可塑性樹脂成分を可塑化しながら上記支持板に供給する供給部とを備えるものが挙げられる。
【0027】
(基材)
上記基材は、熱可塑性樹脂を主成分とする。上記基材は、融解状態で上記繊維又は繊維束を含浸させ得るものである。上記熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂、ナイロン等のポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル系樹脂、ポリエチレンイミド(PEI)等のポリイミド系樹脂、ナイロン等のポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド等が挙げられる。
【0028】
当該ストランド(100質量%)中における上記基材の含有量(含浸量)の下限としては、2質量%が好ましく、5質量%がより好ましい。上記含有量が上記下限に満たないと、当該ストランドの衝撃強度が低下するおそれがある。一方、上記含有量の上限としては、98質量%が好ましく、95重量%がより好ましい。上記含有量が上記上限を超えると、ストランドの取り扱い性が低下するおそれがある。
【0029】
(繊維又は繊維束)
当該ストランドは、1又は複数本の繊維又は繊維束を備える。すなわち、当該ストランドは、1本の繊維、複数本の繊維、1本の繊維束、又は複数本の繊維束を備える。
【0030】
上記繊維は、長繊維、すなわち連続繊維である。上記繊維の平均長さは、2mm以上であれば特に限定されない。上記繊維の平均長さの下限としては、2mmが好ましく、5mmがより好ましい。一方、上記繊維の平均長さの上限は、特に限定されない。この上限としては、例えば、1000m、500mといった長さに適宜設定することができる。
【0031】
上記繊維束は、複数本の繊維が束ねられて連続した線状に形成されたものである。上記繊維束の平均長さは、2mm以上であれば特に限定されない。上記繊維束の平均長さの下限としては、2mmが好ましく、5mmがより好ましい。一方、上記繊維の平均長さの上限は、特に限定されない。この上限としては、例えば、1000m、500mといった長さに適宜設定することができる。
【0032】
上記繊維の平均直径の下限としては、1μmが好ましく、10μmがより好ましい。上記太さが上記下限に満たないと、ストランド及び造形物の衝撃強度を十分に大きくし難いおそれがある。一方、上記平均直径の上限としては、30mmが好ましく、10mmがより好ましい。上記平均直径が上記上限を超えると、ストランドを屈曲させることが困難になり、また、造形物を造形し難くなるおそれがある。
【0033】
上記繊維束の平均太さの下限としては、500texが好ましく、1000texがより好ましく、5000texがさらに好ましい。上記平均太さが上記下限に満たないと、ストランド及び造形物の衝撃強度を十分に大きくし難いおそれがある。一方、上記平均太さの上限としては、100000texが好ましく、60000texがより好ましく、40000texがさらに好ましい。上記平均太さが上記上限を超えると、ストランドを屈曲させることが困難になり、また、造形物を造形し難くなるおそれがある。
【0034】
上記繊維としては、例えば炭素繊維、ガラス繊維、アラミド等の有機合成樹脂、鋼線などの金属繊維等が挙げられる。上記繊維としては、炭素繊維が好ましい。上記繊維束としては、例えば炭素繊維束、ガラス繊維束等が挙げられる。上記繊維束としては、炭素繊維束が好ましい。ここで、炭素繊維は、繊維材料の中でも比較的強度が高い。よって、上記繊維が炭素繊維であることで、また、上記繊維束が炭素繊維束であることで、当該ストランドが座屈し難くなり、取り扱い性に優れる。従って、当該ストランドの優位性がより高まる。加えて、繊維の中でも比較的強度が高い炭素繊維又は炭素繊維束を用いることで、当該ストランドを用いて3Dプリンタで造形した造形物が、より衝撃強度に優れる。
【0035】
(撚り)
当該ストランドにおいては、上記基材に上記繊維材料が含浸された複合体が、上記軸方向に撚られている。上記軸方向の長さ1m当たりの上記撚りの回数の下限としては、10回/mが好ましく、20回/mがより好ましく、50回/mがさらに好ましく、70回/mが特に好ましい。上記撚りの回数が上記下限に満たないと、当該ストランドが座屈し易くなり、取り扱い性に劣るおそれがある。加えて、当該ストランドを用いて3Dプリンタで形成した造形物が衝撃強度に劣るおそれがある。一方、上記撚りの回数の上限としては、200回/mが好ましく、150回/mがより好ましく、100回/mがさらに好ましい。上記撚りの回数が上記上限を超えると、当該ストランドの製造時に樹脂材料の量に比して繊維材料の量が相対的に小さくなり、当該ストランドを用いて3Dプリンタで造形した造形物が衝撃強度に劣るおそれがある。
【0036】
上記軸方向に対する撚りの角度は、繊維材料の平均太さ及び平均直径と、撚りの回数とによって決定される。この撚りの角度の下限としては、例えば3°が好ましく、10°がより好ましく、15°がさらに好ましい。上記撚りの角度が上記下限に満たないと、当該ストランドが座屈し易くなり、取り扱い性に劣るおそれがある。加えて、当該ストランドを用いて3Dプリンタで造形した造形物が衝撃強度に劣るおそれがある。一方、上記撚りの角度の上限としては、50°が好ましく、35°がより好ましく、25°がさらに好ましい。上記撚りの角度が上記上限を超えると、樹脂材料の量に比して繊維材料の量が相対的に小さくなり、当該ストランドを用いて3Dプリンタで造形した造形物が衝撃強度に劣るおそれがある。
【0037】
特に、当該ストランドが複数本の繊維、又は1本若しくは複数本の繊維束を備える場合、上記のように撚りを付与することで、当該ストランド中の熱可塑性樹脂成分を当該ストランドの中心側よりも外表面側に多く分布させることができるため、造形物の衝撃強度をより高めることができる。
【0038】
(ストランドの製造方法)
本実施形態のストランドの製造方法は、融解状態の上記基材に上記繊維又は繊維束を含浸させる工程(含浸工程)と、含浸させた上記繊維又は繊維束を撚られている状態にする工程(撚り工程)とを備える。当該製造方法は、例えば
図2に示す製造装置1を用いて行うことができる。
【0039】
(製造装置)
図2に示すように、製造装置1は、コイル状に巻かれた繊維材料5を所定速度で送り出す複数(
図2では3つ)の繊維材料供給部11と、基材3を混練溶融させる混練押出機25と、繊維材料供給部11から送り出された繊維材料5に混練押出機25で可塑化された基材3を含浸させる樹脂浴部27とを備える。
【0040】
この製造装置10は、樹脂浴部27の下流側に配設されて樹脂浴部27から送り出された含浸後の繊維材料5を冷却する冷却部31と、この冷却部31の下流側に配設されて、主として冷却前の繊維材料5に軸中心周りの撚りを付与させる撚り部41とを備える。
【0041】
混練押出機25は、内部が空洞とされたチャンバ26内に混練翼を有するスクリュシャフト(不図示)を回転自在に備えており、ホッパ23から投入された基材3を融解して可塑化する。
【0042】
樹脂浴部27は、筒軸方向を上下に向けた円筒状に形成されており、その筒内部には混練押出機25で可塑化された基材3が供給され貯留される。樹脂浴部27の上端部は開口しており、この上端開口から樹脂浴部27内に貯留された基材3に対して繊維材料5を引き入れることができるようになっている。
【0043】
図示は省略するが、この樹脂浴部27の内部には、軸心を水平方向へ向けて回転自在に保持された複数本(例えば4本)の含浸ロールが、互いに平行で、且つ上下方向に所定か距離を空けて設けられる。樹脂浴部27の上端開口から導入された繊維材料5は、これらの含浸ロールを上から下へ向けて蛇行するように順番に架け渡される。少なくともこれら複数の含浸ロールのうち最下方の含浸ロールよりも下流側において、繊維材料5に撚りが付与される。
【0044】
樹脂浴部27の下端部には、含浸後の繊維材料5を外部に引き出すための出口部28が設けられる。この出口部28には、繊維材料5を被覆状態にしている基材3を整形して、断面形状を形作るためのダイス29が設けられる。
【0045】
冷却部31は、樹脂浴部27から含浸後の繊維材料5が引き出される方向に沿って長い水槽とされており、槽内に冷却水32を貯留するようになっている。樹脂浴部27の出口部28(ダイス29)に最も近接して対向する槽壁に、含浸後の繊維材料5を導入するための入口部が設けられ、この入口部から最も離れた槽壁に含浸後の繊維材料5を排出するための出口部が設けられる。従って、この冷却部31では、繊維材料5に含浸及び被覆状態となっている基材3を冷却水32中で冷却し、硬化させることができる。
【0046】
冷却部31の下流側に配設される撚り部41としては、様々な機構等を採用可能である。例えば撚り部41として、図示を省略するが、ストランド1を巻き取るボビンをストランド1の軸心周りに回転させる機構を採用してもよい。一方、
図2に示すように、例えば撚り部41として、互いの外周面を接触させた上下一対の引取ロール43及び引取ロール45を有する構成を採用してもよい。これら引取ロール43及び引取ロール45は、冷却部31から送り出された含浸後の繊維材料5を対向状に挟んで、さらに下流側に送り出せるように、互いに異なる回転方向に回転可能である。
【0047】
すなわち、この撚り部41が備える上下一対の引取ロール43及び引取ロール45は、繊維材料供給部11から樹脂浴部27へと繊維材料5を引き込み、さらに樹脂浴部27から冷却部31及び撚り部41へと含浸後の繊維材料5を引き出す機能を兼ね備えており、製造装置1のなかでは、繊維材料5及びストランド1に対する引取部を構成するものとなっている。なお、撚り部41の下流側に、別途、巻取部(不図示)を設けて、得られたストランド1をボビンなどに巻き取るようにすればよい。
【0048】
上記上下一対の引取ロール43及び引取ロール45は、いずれも、含浸後の繊維材料5の引き取り方向に対して傾斜した方向を向くように配設されており、両引取ロール43及び引取ロール45同士が互いに等しい角度で且つ異なる方向を向くようになっている。すなわち、上側の引取ロール45の回転軸心と下側の引取ロール43の回転軸心とが、含浸後の繊維材料5の引き取り軸線を中心とする上面視対称形のX形に交差している。
【0049】
次に、製造装置1を用いた当該ストランド1の製造方法の一例について説明する。
【0050】
(含浸工程)
含浸工程は、製造装置1の樹脂浴部27によって行う。具体的には、ホッパ23から供給された基材3を混錬押出機25で混練し、融解状態の基材3を樹脂浴部27に貯留する。この樹脂浴部27に繊維材料供給部11から繊維材料5を供給する。樹脂浴部27内で、融解状態の基材3に繊維材料5を含浸させ、出口部28に配置されたダイス29を通過させて含浸量を調整する。この含浸により、各繊維材料5内の隙間、各繊維材料5の周囲、及び各繊維材料5同士の間に基材3が存在している状態となる。このようにして得られた基材3と繊維材料5との複合体(含浸後の繊維材料)を冷却部31で冷却する。
【0051】
(撚り工程)
【0052】
撚り工程では、樹脂浴部27で基材3が含浸された状態の繊維材料5に、撚り部41によって撚りを付与する。具体的には、冷却部31を通過した含浸後の繊維材料5を、撚り部41の引取ロール43及び引取ロール45を回転させながらこれらのニップを通過させる。これにより、上述したように、少なくとも樹脂浴部27内の最下方の含浸ロール(不図示)よりも下流側にて上記含浸後の(すなわち含浸状態にある)繊維材料5に撚りを付与する。上記引取ロール43及び引取ロール45の引き取り方向に対する傾斜角度を調整することで、撚り回数及び撚り角度を調整することができる。このように撚りを付与することにより、特に繊維材料5として複数本の繊維、又は1本若しくは複数本の繊維束を用いる場合、ストランド1中の熱可塑性樹脂成分をストランド1の中心側よりも外表面側に多く分布させることができる。
【0053】
このようにして、熱可塑性樹脂を含む基材に繊維材料が含浸され、軸方向に撚りが付されているストランドを製造することができる。
【0054】
<利点>
当該ストランドは、上記繊維又は繊維束が上記基材に含浸され、撚られていることで、座屈し難くなり、取り扱い性に優れる。加えて、上記撚られていることにより、当該ストランドを用いて3Dプリンタで造形した造形物が衝撃強度に優れる。従って、当該ストランドは、衝撃強度に優れた造形物を簡便に3Dプリンタで造形することを可能とする。
【0055】
[第2実施形態]
次いで、本実施形態の造形物について説明する。
【0056】
本実施形態の造形物は、3Dプリンタによる造形物であって、熱可塑性樹脂を主成分とする基体と、この基体中に含有され、軸方向に沿って撚りが付与されている1本又は複数本の繊維又は繊維束とを備える。
【0057】
(3Dプリンタ)
本実施形態の造形物における3Dプリンタとしては、上述した第1実施形態のストランドにおける3Dプリンタと同様の3Dプリンタと同様のものが挙げられる。
【0058】
(繊維又は繊維束)
本実施形態の造形物における1本又は複数本の繊維又は繊維束としては、上述した第1実施形態のストランドにおける1本又は複数本の繊維又は繊維束と同様のものが挙げられる。また、上述したように、繊維又は繊維束を、まとめて「繊維材料」ともいう。
【0059】
(基体)
上記基体は、熱可塑性樹脂を主成分とする。上記基体は、この基体内に上記繊維又は繊維束を含有させ得るものである。上記熱可塑性樹脂としては、上述した第1実施形態の熱可塑性樹脂と同様のものが挙げられる。
【0060】
(造形物の製造方法)
本実施形態の造形物の製造方法としては、例えば上述した本実施形態のストランドを造形材料として用いて3Dプリンタによって造形する工程を備える。具体的には、上述した本実施形態のストランドを用い、3Dプリンタによって、熱で可塑化状態にある当該ストランドを1層ずつ積み重ねていく熱融解積層法方式で造形物を造形する工程を備える。この造形物では、上記基材が融解した後、冷却されて再び固化することで、基体が形成される。この基体内に、上記のように撚られている繊維材料が存在している。
【0061】
<利点>
当該造形物は、上記繊維又は繊維束が熱可塑性樹脂を主成分とする基体中に含有され、撚られていることで、上述したように、衝撃強度に優れる。
【0062】
[その他の実施形態]
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。
例えば、上記実施形態のストランドでは、上記した一対の引取ロールを有する撚り部によって、融解した熱可塑性樹脂に含浸させた複合体に撚りを付与した。しかし、その他、撚りの付与として、含浸後、上述したように、冷却した複合体を巻き取りながら撚るように構成された巻取部(ボビン)を採用することもできる。この場合、例えば巻取部が、上記複合体を巻き取るロールと、このロールを支持する支持部材とを有し、上記ロールが上記複合体を巻き取るよう上記複合体の引き取り方向と垂直な第1軸心周りに上記支持部材に対して回転しながら、上記支持部材が上記引き取り方向の第2軸心周りに上記ロールと共に回転するように構成された態様を採用することができる。
【0063】
上記実施形態の
図1では、基材に複数本の繊維が含浸されている態様を示したが、その他、基材に1本の繊維が含浸される態様、基材に1本の繊維束が含浸される態様、及び基材に複数本の繊維束が含浸される態様を採用することもできる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0065】
繊維材料の撚り回数がストランドの屈曲性、及び造形物の衝撃強度に及ぼす影響を検討するため、以下に示す実施例1~実施例4、及び比較例1を用意した。
【0066】
(実施例1)
繊維材料として、1本の12000texの炭素繊維束を用いた。基体である熱可塑性樹脂として、ポリプロピレンを用いた。
図2に示すような製造装置を用い、融解状態の熱可塑性樹脂に繊維材料を含浸させ、複合体を撚り部の一対の引取ロールの引き取り方向に対する傾斜角度を調整して撚ることで、上記複合体に対して、表1に示すように撚り角度が5°、1m当たりの撚り回数が22回/mとなるように撚りを付与した。これにより、実施例1のストランドを形成した。得られたストランドの平均直径(外径)は1.5mmであった。
【0067】
(実施例2~4、比較例1)
表1に示す撚り角度及び撚り回数となるよう上記一対の引取ロールの引き取り方向に対する傾斜角度を変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例2~4及び比較例1のストランドを形成した。実施例2~4及び比較例1のストランドの平均直径(外径)は、いずれも1.5mmであった。
【0068】
(円筒への巻き付け性(屈曲性)の評価)
得られた実施例1~4及び比較例1のストランドを、直径の異なる円筒に巻き付けたとき、座屈せずに巻き付けることができる最大の直径を測定した。結果を表1に示す。表1においては、巻き付ける際、ストランドが屈曲せずに巻ける場合、良好であるとして「G」と表した。巻き付ける際、屈曲が発生した場合、「屈曲」と表した。また、円筒への巻き付けが可能であった場合、「可」と表し、紙管に巻き付けることができなかった場合、「不可」と表した。
【0069】
(耐衝撃特性の評価)
得られた実施例2~4及び比較例1のストランドをそれぞれ長さ100mmに切断し、測定試料とした。実施例2~4及び比較例1のそれぞれについて、内側の長さが100mm、幅が100mm、厚さが2mmの金枠内に複数本の測定試料を敷き詰め、180℃にて加熱プレスを行うことによって造形物を得た。これは、3Dプリントの多層を模したものである。得られた造形物の繊維含有率は50質量%であった。この造形物を10mm幅となるよう切断し、シャルビー衝撃試験を測定した。結果を表1に示す。
【0070】
【0071】
表1に示すように、熱可塑性樹脂を主成分とする基材に繊維材料を含浸させ、撚りを付与することで、座屈せず、衝撃強度に優れる造形物を造形し得るストランドが得られることが、示された。なお、比較例1を用いる場合、上記のようにストランドを切断して使用すれば層を重ねて造形物を造形することができるものの、このストランドが屈曲性に劣るため、連続して層を重ねて造形物を造形することは困難であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上説明したように、当該ストランドは、熱可塑性樹脂を主成分とする基材と、この基材中に含浸され、軸方向に延在する1本又は複数本の繊維又は繊維束とを備え、上記軸方向に沿って撚りが付与されていることで、座屈し難くなり、取り扱い性に優れる。加えて、上記撚られていることにより、当該ストランドを用いて3Dプリンタで造形した造形物が衝撃強度に優れる。従って、当該ストランドは、衝撃強度に優れた造形物を簡便に3Dプリンタで造形することを可能とする。当該造形物は、熱可塑性樹脂を主成分とする基体と、この基体中に含有され、軸方向に沿って撚りが付与されている1本又は複数本の繊維又は繊維束とを備えることで、衝撃強度に優れる。従って、当該ストランドを用いて造形物を造形することで、3Dプリンタによる複雑かつ繊細で、衝撃強度に優れる造形物を造形するという今後ますます要望されることが予想される造形を実行することが可能となる。
【符号の説明】
【0073】
1 ストランド
3 基材
5 繊維材料(繊維又は繊維束)
10 製造装置
11 繊維材料供給部
23 ホッパ
25 押出混練機
26 チャンバ
27 樹脂浴部
28 出口部
29 ダイス
31 冷却部
32 冷却水
41 撚り部
43、45 引取ロール