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特許7451203貝類の駆除方法、貝類の繁殖抑制方法、および、貝類の駆除・繁殖抑制剤
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  • 特許-貝類の駆除方法、貝類の繁殖抑制方法、および、貝類の駆除・繁殖抑制剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】貝類の駆除方法、貝類の繁殖抑制方法、および、貝類の駆除・繁殖抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 43/40 20060101AFI20240311BHJP
   A01N 33/12 20060101ALI20240311BHJP
   A01P 9/00 20060101ALI20240311BHJP
   A01N 59/00 20060101ALI20240311BHJP
   A01N 59/02 20060101ALI20240311BHJP
   C02F 1/50 20230101ALI20240311BHJP
   A01M 25/00 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
A01N43/40 101K
A01N33/12 101
A01P9/00
A01N59/00 D
A01N59/02 Z
C02F1/50 510E
C02F1/50 520P
C02F1/50 532C
C02F1/50 532H
C02F1/50 540B
C02F1/50 532E
A01M25/00 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020018536
(22)【出願日】2020-02-06
(65)【公開番号】P2021123566
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2022-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000101042
【氏名又は名称】アクアス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】市川 真治
(72)【発明者】
【氏名】大貝 久生
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2001/0013496(US,A1)
【文献】特開平06-199606(JP,A)
【文献】特開平06-056607(JP,A)
【文献】柴田 浩彦,農業集落排水処理施設の維持管理基礎講座(第9回 JARUS型生物膜法の維持管理(その1)),JARUS journal of rural resource recycling solutions : 集落排水・バイオマス・農村環境,地域環境資源センター,2019年,123,28-34,[URL:https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000007515314-00]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
C02F
A01M
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物膜を表面に担持した固定床担体を内部に有する曝気槽を備えた水処理設備において、
四級アンモニウム塩として下記の化学式(I)で示されるビス四級アンモニウム塩、および/または、ポリ(2-ヒドロキシプロピルジメチルアンモニウムクロライド)を含む水処理剤により前記曝気槽内に生息する貝類を駆除する貝類の駆除方法であり、かつ、
前記貝類に少なくともサカマキガイ、および/または、ヒメモノアラガイが含まれていることを特徴とする貝類の駆除方法。
【化1】

(ただし、一般式である上記化学式(I) において、R およびR は、炭素数1~4の直鎖もしくは分岐を有する同一または異なるアルキレン基であり、R およびR は、水素原子、同一もしくは異なるハロゲン原子、同一または異なる低級アルキル基もしくは同一または異なる低級アルコキシ基であり、R は、炭素数2~12の直鎖もしくは分岐のアルキレン基であり、R は、炭素数1~18の直鎖もしくは分岐のアルキル基であり、Z - は、水中で解離可能な陰イオンである。)
【請求項2】
前記四級アンモニウム塩の前記曝気槽内での濃度が0.5mg/L以上1000mg/L以下となるように前記水処理剤を前記曝気槽、および/または、当該曝気槽に供給する水に添加することを特徴とする請求項1に記載の貝類の駆除方法。
【請求項3】
前記化学式(I)で表されるビス四級アンモニウム塩が、1,4-ビス(3,3’-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンの塩化物塩、臭化物塩、または、ヨウ化物塩であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の貝類の駆除方法。
【請求項4】
水中でアンモニウムイオンを生じる物質を併用することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の貝類の駆除方法。
【請求項5】
微生物膜を表面に担持した固定床担体を内部に有する曝気槽を備えた水処理設備において、
四級アンモニウム塩として下記の化学式(I)で示されるビス四級アンモニウム塩、および/または、ポリ(2-ヒドロキシプロピルジメチルアンモニウムクロライド)を含む水処理剤により前記曝気槽での貝類の繁殖を抑制する貝類の繁殖抑制方法であり、かつ、
前記貝類に少なくともサカマキガイ、および/または、ヒメモノアラガイが含まれていることを特徴とする貝類の繁殖抑制方法。

【化2】

(ただし、一般式である上記化学式(I)において、R およびR は、炭素数1~4の直鎖もしくは分岐を有する同一または異なるアルキレン基であり、R およびR は、水素原子、同一もしくは異なるハロゲン原子、同一または異なる低級アルキル基もしくは同一または異なる低級アルコキシ基であり、R は、炭素数2~12の直鎖もしくは分岐のアルキレン基であり、R は、炭素数1~18の直鎖もしくは分岐のアルキル基であり、Z - は、水中で解離可能な陰イオンである。)
【請求項6】
微生物膜を表面に担持した固定床担体を内部に有する曝気槽を備えた水処理設備の前記曝気槽内に生息する貝類を駆除する、あるいは、当該貝類の繁殖を抑制するための水処理剤である貝類の駆除・繁殖抑制剤であって、
四級アンモニウム塩として下記の化学式(I)で示されるビス四級アンモニウム塩、および/または、ポリ(2-ヒドロキシプロピルジメチルアンモニウムクロライド)を含み、かつ、
前記貝類に少なくともサカマキガイ、および/または、ヒメモノアラガイが含まれていることを特徴とする貝類の駆除・繁殖抑制剤。
【化3】

(ただし、一般式である上記化学式(I)において、R およびR は、炭素数1~4の直鎖もしくは分岐を有する同一または異なるアルキレン基であり、R およびR は、水素原子、同一もしくは異なるハロゲン原子、同一または異なる低級アルキル基もしくは同一または異なる低級アルコキシ基であり、R は、炭素数2~12の直鎖もしくは分岐のアルキレン基であり、R は、炭素数1~18の直鎖もしくは分岐のアルキル基であり、Z - は、水中で解離可能な陰イオンである。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機物を含む水を処理する固定床式水処理設備内に生息する貝類の駆除方法、貝類の繁殖抑制方法、および、このような貝類の駆除に用いる貝類の駆除・繁殖抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
食品製造設備などの設備から排出される有機物を含む水のうち、排出基準を越えるCOD成分やBOD成分を含む水はこのような設備を備えた施設から排出する際には排出基準を満たすように処理する必要がある。これらCOD成分やBOD成分を微生物により分解させる水処理方法の一つとして微生物膜を表面に担持した固定床担体を内部に有する曝気槽を用いる水処理方法が知られている。
【0003】
このような曝気槽内でしばしばサカマキガイや、ヒメモノアラガイなどの有肺目に含まれる貝類が生息し、これら貝類が多量に繁殖して固定床担体に付着している有用な微生物膜を餌として摂取してしまい曝気槽の水処理性能を低下させる。
【0004】
さらに、固定床式水処理設備内で繁殖した貝の一部が水中を浮遊し、処理水を後工程に移送するためのポンプの閉塞を引き起こし、あるいは、処理水に貝殻やその破片が混入して施設からの排出水の水質を悪化させてしまう。
【0005】
これら有肺目に含まれる貝類は、湿度が高い環境であれば陸上でも生活できるので、固定床式水処理設備へ導入する処理対象水の水路に近接してこれら貝類の生息環境がある場合、処理対象水の水路や水処理設備からの完全な駆除が困難である。さらにこれら貝類は雌雄同体であり、かつ、繁殖力が旺盛なので少数の個体が生き残れば再度繁殖する。
【0006】
このため、微生物膜を表面に担持した固定床担体を有する曝気槽から、微生物膜の活性への影響を抑制しつつ、これら貝類を駆除する方法、このような貝類の繁殖を抑制する方法、および、貝類の駆除・繁殖抑制剤が求められてきた。
【0007】
ここで、汚水浄化槽などでも併用される微生物膜が形成された濾過材を曝気処理における従来の貝類の駆除方法として機械的除去を行う方法が提案されているが(特許文献1)、機械的な方法では微生物膜を表面に担持した固定床担体を内部に有する曝気槽を備えた水処理設備では、固定床担体同士の間に生息する貝類の完全な駆除はできない。ここで、完全な駆除ができない場合には駆除後に貝類が再度繁殖するので、実質的な駆除効果は得られない。
【0008】
また、薬剤の添加を伴う駆除方法として、水中の溶存酸素除去による貝類の駆除を目的に亜硫酸ナトリウム、あるいは、亜硫酸水素ナトリウムなどの脱酸素剤を添加する方法が提案されている(非特許文献1)。ここで非特許文献1によれば、サカマキガイに対するビーカースケール実験で、参考のために使用した硫酸ナトリウムでは実験条件中最高添加濃度である50mM(7.1g/L(リットル))の添加でも十分な駆除効果が得られないものの、亜硫酸水素ナトリウムでは添加濃度を50mM(5.2g/L)とした場合には駆除できたと報告されている。
【0009】
しかし、内部に固定床担体が存在する曝気槽では曝気以外の方法では添加薬剤の均一な混合は困難であるが、脱酸素剤を添加する際に曝気による混合を行えば、水中の溶存酸素除去に寄与するのはその一部に限られ、脱酸素剤添加の効果が阻害される。ここで実際の曝気槽で曝気による攪拌を行わずに曝気槽内での濃度が50mMとなると考えられる量の亜硫酸水素ナトリウムを添加し、ある程度のサカマキガイの駆除はできたが、曝気槽内の貝類の根本的な駆除はできず、その後再度繁殖してしまい、実質的な駆除効果は得られなかった。このため濃度が100mMとなると考えられる量の亜硫酸水素ナトリウムを添加したが、やはり完全には駆除できなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2000-325975号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】岩垣隼人著 県立広島大学大学院 総合学術研究科修士論文「小型合併浄化槽における水質浄化に関する研究」 令和元年9月4日検索(http://harp.lib.hiroshima-u.ac.jp/pu-hiroshima/file/8615/20141216151108/Smaster201101.pdf)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記の従来技術の問題を解決する、すなわち、微生物膜を表面に担持した固定床担体を内部に有する曝気槽から、微生物膜の活性への影響を抑制しつつ、微生物膜を害する貝類を駆除する方法、このような貝類の繁殖を抑制する方法、および、貝類の駆除・繁殖抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の貝類の駆除方法は、上記課題を解決するため、微生物膜を表面に担持した固定床担体を内部に有する曝気槽を備えた水処理設備において、
四級アンモニウム塩として下記の化学式(I)で示されるビス四級アンモニウム塩、および/または、ポリ(2-ヒドロキシプロピルジメチルアンモニウムクロライド)を含む水処理剤により前記曝気槽内に生息する貝類を駆除する貝類の駆除方法であり、かつ、
前記貝類に少なくともサカマキガイ、および/または、ヒメモノアラガイが含まれていることを特徴とする。
【化1】

(ただし、一般式である上記化学式(I) において、R およびR は、炭素数1~4の直鎖もしくは分岐を有する同一または異なるアルキレン基であり、R およびR は、水素原子、同一もしくは異なるハロゲン原子、同一または異なる低級アルキル基もしくは同一または異なる低級アルコキシ基であり、R は、炭素数2~12の直鎖もしくは分岐のアルキレン基であり、R は、炭素数1~18の直鎖もしくは分岐のアルキル基であり、Z - は、水中で解離可能な陰イオンである。)
【0014】
また、本発明の貝類の駆除方法は、上記の構成に加え、前記四級アンモニウム塩の前記曝気槽内での濃度が0.5mg/L以上1000mg/L以下となるように前記水処理剤を前記曝気槽、および/または、当該曝気槽に供給する水に添加する構成とすることができる。
【0015】
また、本発明の貝類の駆除方法は、上記の構成に加え、上記の化学式(I)で表されるビス四級アンモニウム塩が、1,4-ビス(3,3’-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンの塩化物塩、臭化物塩、または、ヨウ化物塩である構成とすることができる。
【0018】
また、本発明の貝類の駆除方法では、上記の構成に加え、水中でアンモニウムイオンを生じる物質を併用する構成とすることができる。
【0019】
また、本発明の貝類の繁殖抑制方法は、微生物膜を表面に担持した固定床担体を内部に有する曝気槽を備えた水処理設備において、四級アンモニウム塩として下記の化学式(I)で示されるビス四級アンモニウム塩、および/または、ポリ(2-ヒドロキシプロピルジメチルアンモニウムクロライド)を含む水処理剤により前記曝気槽での貝類の繁殖を抑制する貝類の繁殖抑制方法であり、かつ、前記貝類に少なくともサカマキガイ、および/または、ヒメモノアラガイが含まれていることを特徴とする。
【化2】

(ただし、一般式である上記化学式(I) において、R およびR は、炭素数1~4の直鎖もしくは分岐を有する同一または異なるアルキレン基であり、R およびR は、水素原子、同一もしくは異なるハロゲン原子、同一または異なる低級アルキル基もしくは同一または異なる低級アルコキシ基であり、R は、炭素数2~12の直鎖もしくは分岐のアルキレン基であり、R は、炭素数1~18の直鎖もしくは分岐のアルキル基であり、Z - は、水中で解離可能な陰イオンである。)
【0020】
さらに、本発明の貝類の駆除・繁殖抑制剤は、微生物膜を表面に担持した固定床担体を内部に有する曝気槽を備えた水処理設備の前記曝気槽内に生息する貝類を駆除する、あるいは、当該貝類の繁殖を抑制するための水処理剤である貝類の駆除・繁殖抑制剤であって、四級アンモニウム塩として下記の化学式(I)で示されるビス四級アンモニウム塩、および/または、ポリ(2-ヒドロキシプロピルジメチルアンモニウムクロライド)を含み、かつ、前記貝類に少なくともサカマキガイ、および/または、ヒメモノアラガイが含まれていることを特徴とする。
【化3】

(ただし、一般式である上記化学式(I) において、R およびR は、炭素数1~4の直鎖もしくは分岐を有する同一または異なるアルキレン基であり、R およびR は、水素原子、同一もしくは異なるハロゲン原子、同一または異なる低級アルキル基もしくは同一または異なる低級アルコキシ基であり、R は、炭素数2~12の直鎖もしくは分岐のアルキレン基であり、R は、炭素数1~18の直鎖もしくは分岐のアルキル基であり、Z - は、水中で解離可能な陰イオンである。)
【発明の効果】
【0021】
本発明の貝類の駆除方法は、微生物膜を表面に担持した固定床担体を内部に有する曝気槽を備えた水処理設備において、四級アンモニウム塩を含む水処理剤により曝気槽内に生息する貝類を駆除する構成により、微生物膜の活性への影響を抑制しつつ、曝気槽を備えた水処理設備内に生息する貝類を効果的に駆除することができる。さらに、従来の脱酸素剤を用いる貝類の駆除方法と比べた場合、水処理剤添加後に曝気による極めて効率のよい攪拌を行うことができることから、過剰量の薬剤添加を必要とせず、適量の添加で確実に駆除できるので、微生物膜の活性への影響を抑制することができる。
【0022】
また、本発明の貝類の駆除方法は、上記の構成に加え、四級アンモニウム塩の曝気槽内での濃度が1000mg/L以下となるように水処理剤を前曝気槽、および/または、曝気槽に供給する水に添加する構成とすることにより、従来、殺菌剤や殺生物剤として用いられてきた四級アンモニウム塩の微生物膜の活性への影響をより効果的に抑制することができ、このとき、貝類の駆除処理後の微生物膜の活性の、迅速な回復が可能となる。
【0023】
また、本発明の貝類の駆除方法では、上記の構成に加え、四級アンモニウム塩として下記の化学式(I)で示されるビス四級アンモニウム塩を含む構成とすることにより、より低濃度の添加で貝類の駆除が可能となるとともに、微生物膜の活性への影響をさらに効果的に抑制できる。
【0024】
【化2】
(ただし、一般式である上記化学式(I)において、RおよびRは、炭素数1~4の直鎖もしくは分岐を有する同一または異なるアルキレン基であり、RおよびRは、水素原子、同一もしくは異なるハロゲン原子、同一または異なる低級アルキル基もしくは同一または異なる低級アルコキシ基であり、Rは、炭素数2~12の直鎖もしくは分岐のアルキレン基であり、Rは、炭素数1~18の直鎖もしくは分岐のアルキル基であり、Zは、水中で解離可能な陰イオンである。)
【0025】
また、本発明の貝類の駆除方法では、上記の構成に加え、四級アンモニウム塩として四級アンモニウム塩ポリマーを含む構成とすることにより、より低濃度の添加で貝類の駆除が可能となるとともに、微生物膜の活性への影響をさらに効果的に抑制できる。
【0026】
また、本発明の貝類の駆除方法では、上記の構成に加え、水中でアンモニウムイオンを生じる物質を併用する構成とすることにより、より低濃度の四級アンモニウム塩の添加で貝類の駆除が可能となる。
【0027】
また、本発明の貝類の繁殖抑制方法は、微生物膜を表面に担持した固定床担体を内部に有する曝気槽を備えた水処理設備において、四級アンモニウム塩を含む水処理剤により曝気槽での貝類の繁殖を抑制する構成により、微生物膜の活性への影響を抑制しつつ、曝気槽を備えた水処理設備での貝類の繁殖を効果的に抑制することができる。
【0028】
さらに、本発明の貝類の駆除・繁殖抑制剤によれば、上記した本発明の貝類の駆除方法や本発明の貝類の繁殖抑制方法により得られると同様の効果を奏することができ、曝気槽を備えた水処理設備内に生息する貝類を効果的に駆除し、あるいは、このような水処理設備での貝類の繁殖を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】実施例1でのサンプル瓶の様子を示す写真である。
図2】本発明の貝類の駆除方法の実施例3を行った水処理設備の、微生物膜を表面に担持した固定床担体を内部に有する曝気槽付近を示したモデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の貝類の駆除方法、および、本発明の貝類の繁殖抑制方法、ならびに、本発明の貝類の駆除・繁殖抑制剤について、本発明の貝類の駆除方法、および、繁殖抑制方法を説明しつつ併せて本発明の貝類の駆除・繁殖抑制剤について説明する。
【0031】
なお、本明細書において、数値範囲(たとえば、曝気槽での四級アンモニウム塩の添加量等の範囲)について、段階的に記載された下限値および上限値は、それぞれ独立して互いに組み合わせることができる。たとえば、「0.5mg/L以上1000mg/L以下、好ましくは1mg/L以上800mg/L以下、より好ましくは3mg/L以上600mg/L以下」という記載から、「0.5mg/L以上」と、「好ましくは800mg/L以下」とを組み合わせて、「0.5mg/L以上800mg/L以下」としたり、あるいは、「好ましくは1mg/L以上」と、「より好ましくは600mg/L以下」とを組み合わせて、「1mg/L以上600mg/L以下」などとすることもできる。
【0032】
また、それぞれ別個に段階的に記載された下限値と上限値についても、それぞれ独立して互いに組み合わせることができる。たとえば、「0.1mg/L以上」という下限値についての記載と、「好ましくは100mg/L以下」という上限値についての記載から、これらを組み合わせて、「0.1mg/L以上100mg/L以下」としたり、あるいは、「好ましくは0.3mg/L以上」という下限値についての記載と、「より好ましくは50mg/L以下」という上限値についての記載から、これらを組み合わせて、「0.3mg/L以上50mg/L以下」などとすることもできる。
【0033】
本発明の貝類の駆除方法は微生物膜を表面に担持した固定床担体を内部に有する曝気槽を備えた水処理設備において、四級アンモニウム塩を含む水処理剤によりこのような曝気槽内に生息する貝類を駆除する。
【0034】
また、本発明の貝類の繁殖抑制方法は微生物膜を表面に担持した固定床担体を内部に有する曝気槽を備えた水処理設備において、四級アンモニウム塩を含む水処理剤によりこのような曝気槽での貝類の繁殖を抑制する。
上記の四級アンモニウム塩を含む水処理剤が、本発明の貝類の駆除・繁殖抑制剤をなす。
【0035】
本発明の貝類の駆除方法は、微生物膜を表面に担持した固定床担体を内部に有する曝気槽を備えた水処理設備において、上記曝気槽内に生息する貝類を駆除するものである。
【0036】
また、本発明の貝類の繁殖抑制方法は、微生物膜を表面に担持した固定床担体を内部に有する曝気槽を備えた水処理設備において、上記曝気槽での貝類の繁殖を抑制するものである。
【0037】
ここで水処理設備としては、微生物膜を表面に担持した固定床担体を内部に有し、かつ、曝気槽を備えたもの、および、このような水処理設備に処理対象水を供給する水路や流路を含むが、特に限定されない。このような水処理設備としては、たとえば、食品製造設備などから排出される有機物を含む排水を処理する設備が挙げられる。
【0038】
このような水処理設備においては、しばしば後記するような淡水産の有肺類である貝類、具体的にはたとえばサカマキガイ、モノアラガイ、ヒメモノアラガイなどが多量に繁殖し、上記したような様々な問題を生じさせているが、本発明の貝類の駆除方法、または、本発明の貝類の繁殖抑制方法によれば、このような水処理設備内に生息する貝類を効果的に駆除し、または、貝類の繁殖を効果的に抑制することができる。
【0039】
しかも、本発明の貝類の駆除方法によれば、微生物膜の活性への影響を抑えることができるので駆除処理や繁殖抑制処理を行った後、7日ないし10日程度という短期間で、その水処理設備の生物処理能力を、本来の生物処理能力と同程度に回復させることができる。
【0040】
また、本発明の貝類の繁殖抑制方法では、微生物膜の活性への影響をより低く抑えることが可能であり、その結果、微生物膜の活性への影響はほとんどないか、低く抑えることができる。
【0041】
本発明において駆除、または、繁殖抑制の対象とする貝類としては、このように曝気槽を備えた水処理設備において、上記曝気槽内に生息する、または、上記曝気槽内で繁殖する貝類であればよく、特に制限されないが、淡水産の有肺類である貝類が挙げられる。
【0042】
本発明において駆除や繁殖抑制の対象とする貝類としてより具体的には、軟体動物門腹足綱基眼目のサカマキガイ科やモノアラガイ科に属する貝類が挙げられ、とりわけサカマキガイ、モノアラガイ、ヒメモノアラガイなどに対して有効に用いることができる。
【0043】
このような貝類、とりわけサカマキガイ、モノアラガイ、ヒメモノアラガイは、鰓がなく、外套膜を通して空気呼吸を行う(有肺類)が、溶存酸素がある間は生存し、また、小型軽量で、基本的には壁などに付着し生活しているが浮遊性もあり、さらに繁殖力が旺盛であるばかりか、雑食性であって微生物膜や汚泥を食べるスピードが速く、しかも他の貝類に比べて水質汚濁にも強いという特徴がある。
【0044】
したがって、このような貝類は、上記したように、曝気槽内で多量に繁殖し、固定床担体に付着している有用な微生物膜を餌として摂取してしまい、曝気槽の水処理能力を低下させるとともに繁殖した貝の一部が水中を浮遊し、処理水を後工程に移送するためのポンプの閉塞を引き起こし、更には施設からの排出水の水質を悪化させてしまうとともに排出水に貝殻やその破片が混入するなどの問題を生じさせるが、本発明によれば、微生物膜の活性への影響を抑えつつ、このような貝類を効果的に駆除、または、その繁殖を抑制することができる。
【0045】
ここで「駆除」とは、基本的には、上記曝気槽内に生息する貝類をほぼ100%死滅させることができる程度の完全駆除を指している。たとえ5%程度でも生存していると速やかに回復し、後には元通りとなるおそれがあるからである。
【0046】
本発明の貝類の駆除方法における四級アンモニウム塩の添加量は十分な駆除効果を得ることができるので曝気槽での濃度が0.5mg/L以上、好ましくは1mg/L以上、より好ましくは3mg/L以上となるように添加する。なお、必要以上の濃度となるように添加しても添加量増加に引き合う駆除効果上昇は得られなくなるとともに微生物膜の活性への影響を勘案して、上限値としては通常、1000mg/L以下、好ましくは800mg/L以下、より好ましくは600mg/L以下とする。
【0047】
したがって、本発明の駆除方法における四級アンモニウム塩の添加量は、曝気槽での濃度が、0.5mg/L以上1000mg/L以下、好ましくは1mg/L以上800mg/L以下、より好ましくは3mg/L以上600mg/L以下である。
【0048】
本発明の貝類の繁殖抑制方法は、たとえば本発明の上記貝類の駆除方法により一旦、貝類の駆除を行った後に貝類が再度繁殖することを防止する目的で実施することができ、このときには基本的には水処理剤に対して耐性が低い、幼貝(幼生)を駆除することができる濃度で水処理剤を添加することが好ましい。具体的には四級アンモニウム塩の曝気槽での濃度が0.1mg/L以上、好ましくは0.3mg/L以上、より好ましくは0.5mg/L以上となるように添加する。上限値としては上記貝類の駆除方法での上限値と同じ量であるが、より少ない添加量、たとえば200mg/L以下、好ましくは100mg/L以下、より好ましくは50mg/L以下とすることで、微生物膜の活性への影響が少なくなる、あるいは、ほとんどなくなるので好ましい。
【0049】
本発明では四級アンモニウム塩として、窒素原子に4つのアルキル基、アリール基などの炭化水素基が結合した四級アンモニウム構造を1つ有し、ハロゲンイオン、硫酸イオンなどとが塩を形成してなる一般的な四級アンモニウム塩やビス四級アンモニウム塩、さらには四級アンモニウム塩ポリマーなどを単独で、あるいは、複数種組合せて用いることができ、その組合せには特に制限はない。
【0050】
なお、窒素原子に4つのアルキル基、アリール基などの炭化水素基が結合してなる四級アンモニウム塩以外に、ピリジン、ピペリジン、キノリンなどの窒素含有環状化合物の窒素原子を四級化したものも本発明で用いることができる四級アンモニウム塩に包含される。
【0051】
本発明で用いる四級アンモニウム塩は上記のような一般的な、四級アンモニウム構造を1つ備えた四級アンモニウム塩以外に、ビス四級アンモニウム塩は四級アンモニウム塩化合物の1種であり、たとえば化学式(I)で表される四級アンモニウム塩であると貝類の駆除効果が高く、微生物膜の活性への影響がより低い低濃度の添加でも効果的な駆除が可能となるので好ましい。
【0052】
【化3】
(ただし、一般式である上記化学式(I)において、RおよびRは、炭素数1~4の直鎖もしくは分岐を有する同一または異なるアルキレン基であり、RおよびRは、水素原子、同一もしくは異なるハロゲン原子、同一または異なる低級アルキル基もしくは同一または異なる低級アルコキシ基であり、Rは、炭素数2~12の直鎖もしくは分岐のアルキレン基であり、Rは、炭素数1~18の直鎖もしくは分岐のアルキル基であり、Zは、水中で解離可能な陰イオンである。)
【0053】
上記化学式(I)で表される化合物において、化学式(I)中、Zとしては、水中で解離可能な陰イオンであり、たとえば、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、カルボン酸イオン、OS(Rは、低級アルキル基もしくは置換あるいは無置換のフェニル基である。)が挙げられる。
【0054】
ここで、上記化学式(I)で表される化合物が1,4-ビス(3,3’-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンの塩(タマ化学工業社から入手可能)であると、特に高い駆除効果が得られるので好ましい。上記化学式(I)で表される化合物として、より具体的には、以下の化学式(II)で表される1,4-ビス(3,3’-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンの臭化物塩が挙げられる。
【0055】
【化4】
【0056】
本発明で用いることができる四級アンモニウム塩ポリマーは、四級アンモニウム塩化合物の1種であり、主鎖骨格に四級アンモニウム構造を複数有する高分子化合物である。このような四級アンモニウム塩ポリマーは、少なくとも1種以上の四級アンモニウム構造を有しているポリマーであれば特に限定されない。このようなものとして、ポリアルキレンポリアミン四級アンモニウム塩、アルキル化ポリアルキレンポリアミン四級アンモニウム塩、N,N,N’,N’-テトラメチルプロピレンジアミンとブロモクロロプロパンとからなるポリマー、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,6-ヘキサンジアミンと1,6-ジクロロヘキサンとからなるポリマー、テトラメチルエチレンジアミンとジクロロエチルエーテルとからなるポリマー、テトラメチルプロピレンジアミンとハロゲン化エチルエーテルとからなるポリマーなどが挙げられ、これらから選ばれる1種以上を用いることができる。
【0057】
また、四級アンモニウム塩ポリマーとしては、ポリ(2-ヒドロキシプロピルジメチルアンモニウムクロライド)(アストロ社から入手可能)も、単独添加で、あるいは、アンモニアまたは亜硫酸水素アンモニウムとの併用添加により、微生物膜の活性への影響がより低い低濃度であっても優れた駆除効果が得られるので好ましい。
【0058】
このような四級アンモニウム塩を含む水処理剤は曝気槽内の水に直接添加してもよく、また、曝気槽に供給される水や処理対象水に添加してもよい。
【0059】
本発明の貝類の駆除方法、および、貝類の繁殖抑制方法では上記の四級アンモニウム塩に加えて、水中でアンモニウムイオンを生じる、1種以上の物質を併用することができる。
【0060】
そして水中でアンモニウムイオンを生じる物質単独では、十分な駆除効果を得ることは困難であるが、上記の四級アンモニウム塩とともに、この水中でアンモニウムイオンを生じる物質を併せて用いることで、特に高い駆除効果を得ることができるので好ましい。また、短い処理時間で十分な効果が得られるので、連続的に水処理を行う曝気槽での貝類の駆除では、これら物質に比べ比較的価格の高い四級アンモニウム塩の必要量も減らすことが可能となる。
【0061】
本発明で用いることができる水中でアンモニウムイオンを生じる物質としては、アンモニアや各種アンモニウム塩が挙げられ、後者では特に強酸とのアンモニウム塩が、水中でアンモニウムイオンを生じやすいので好ましく、このようなものとしてはたとえば硫酸アンモニウム、硫酸水素アンモニウム、亜硫酸アンモニウム、亜硫酸水素アンモニウム、および、塩化アンモニウムなどが挙げられる。
【0062】
水中でアンモニウムイオンを生じる物質を併用する場合には、曝気槽での四級アンモニウム塩の添加濃度を、十分な併用効果を得るために曝気槽でのアンモニウムイオン濃度換算(添加したアンモニウムイオンを生じる物質のすべてがアンモニウムイオンを形成したと仮定したときのアンモニウムイオン濃度)で曝気槽での濃度が0.5mg/L以上、好ましくは1mg/L以上、より好ましくは3mg/L以上となるように添加する。なお、水中でアンモニウムイオンを生じる物質を過剰に添加しても、その添加濃度増加による駆除効果の上昇が飽和し、曝気槽や曝気処理の後工程から排出される水に対する次亜塩素酸塩などの酸化剤が必要となったり、あるいはその必要量が増加するので好ましくなく、貝類の駆除を目的とする場合には通常はアンモニウムイオン濃度の上限値を曝気槽での濃度がアンモニウムイオン濃度換算で100mg/L以下、好ましくは70mg/L以下、より好ましくは50mg/L以下とする。
【0063】
したがって、曝気槽でのこのアンモニウムイオン濃度を、0.5mg/L以上100mg/L以下、好ましくは1mg/L以上70mg/L以下、より好ましくは3mg/L以上50mg/L以下とする。
【0064】
一方、貝類の繁殖抑制を目的とする場合には曝気槽での濃度が0.5mg/L以上、好ましくは1mg/L以上、より好ましくは3mg/L以上となるように添加する。上限値としては上記貝類の駆除方法での上限値と同じ量であるが、より少ない添加量、たとえば100mg/L以下、好ましくは70mg/L以下、より好ましくは50mg/L以下とすることで、曝気槽の生物処理能力の毀損がまったくなくなる、ないし、ほとんどなくなるので好ましい。
【0065】
なお、水中でアンモニウムイオンを生じる物質の添加は、四級アンモニウム塩の添加と同時に行っても、あるいは、四級アンモニウム塩添加の前あるいは後に行ってもよく、また、両者をあらかじめ混合して一液の貝類の駆除・繁殖抑制剤として添加してもよい。
【0066】
本発明では四級アンモニウム塩や、必要に応じて四級アンモニウム塩と併用する水中でアンモニウムイオンを生じる物質の添加は、曝気槽への処理対象水の供給を停止した状態でバッチ処理的に行っても、あるいは、これら水を曝気槽に供給しながら連続的に行ってもよい。また、駆除を目的とする場合には曝気槽内で貝類がある程度繁殖した場合、あるいは、繁殖が進行し始めた場合(貝類の繁殖状況は曝気槽内の直接観察や、あるいは、曝気槽の生物処理能力の変化から検知することができる)に行う。一方、繁殖抑制を目的とする場合には常時行ってもよいし、断続的に、あるいは、抑制目的の貝類が繁殖しやすいとき、たとえば処理対象水の水温が高いときにのみに行ってもよい。
【0067】
本発明において、四級アンモニウム塩や水中でアンモニウムイオンを生じる物質以外にも、本発明の効果を損なうことがない限り、その他の各種水処理を併用することができる。なお、これらの各種水処理剤は、主剤となる四級アンモニウム塩と同時に、あるいは、四級アンモニウム塩の添加の前後に行うことができる。
【0068】
以上、本発明について、好ましい実施形態を挙げて説明したが、本発明の貝類の駆除方法、貝類の繁殖抑制方法、および、貝類の駆除・繁殖抑制剤は、上記実施形態の構成に限定されるものではない。
【0069】
当業者は、従来公知の知見に従い、本発明の貝類の駆除方法、貝類の繁殖抑制方法、および、貝類の駆除・繁殖抑制剤を適宜改変することができる。このような改変によってもなお、本発明の貝類の駆除方法、貝類の繁殖抑制方法、および、貝類の駆除・繁殖抑制剤の構成を具備する限り、もちろん、本発明の範疇に含まれるものである。
【実施例
【0070】
以下、本発明の貝類の駆除方法、および、貝類の繁殖抑制方法についての実施例を示す。
<実施例1:ビーカースケールでの駆除実験(その1)>
排水処理設備の、微生物膜を表面に担持した固定床担体を内部に有する曝気槽(以下、「曝気槽」と略記)でサカマキガイを採取した。なお、この曝気槽ではサカマキガイが繁殖した結果、サカマキガイにより微生物膜を構成する微生物が摂取されたことにより、採取時には生物処理能力が低下していた。
【0071】
採取は曝気槽での曝気を一時停止し、水面に浮上したサカマキガイを採取した。また、サカマキガイの採取に先立ち、曝気停止する前の曝気槽からの処理水を取水した。
【0072】
なお、曝気停止によりこのようにサカマキガイが水面に浮上するのは、曝気停止による水中の酸素濃度低下により、槽壁や固定床担体に付着していたサカマキガイが、酸素を求めて移動するためであると考えられる。
【0073】
実験はサカマキガイの採取当日に行った。まず、内容量が1000mLのガラス製サンプル瓶に、上記で採取した処理水500mLとサカマキガイ20匹ずつを入れ、10分後にそれらサカマキガイがすべて動いている(生きている)ことを確認した。その後、それぞれのサンプル瓶に表1に種類および添加濃度を示した薬剤を添加し、ガラス棒を使って30秒間、軽く攪拌し、その後、サンプル瓶に蓋をした。なお、この実験では、四級アンモニウム塩とアンモニアあるいは亜硫酸水素アンモニウムとを併用するときには、これらを同時にサンプル瓶に添加した。
【0074】
このときのサンプル瓶の様子(表1中実験No.5、薬剤添加30分後の様子)を図1に示す。なお、図1中、サンプル瓶内部の濃色の点がサカマキガイである。
【0075】
【表1】
表中、「A」はアンモニア、「B」は1,4-ビス(3,3’-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンの臭化物塩、「C」はポリ(2-ヒドロキシプロピルジメチルアンモニウムクロライド)、「D」は亜硫酸水素アンモニウムをそれぞれ示す。また、アンモニア(A)、および、亜硫酸水素アンモニウム(D)の添加量はそれぞれアンモニウムイオンとしての換算添加量である。
【0076】
薬剤添加の30分後、60分後、および、120分後に各サンプル瓶内のサカマキガイを目視して、動いていないものを死んでいると判断し、生存数(匹)を調べ、生存率(生存数(匹)÷20(実験開始前生存数(匹))×100%)を算出した。各生存率の経時変化を表1に併せて示す。
【0077】
表1より、上記の実験条件ではアンモニア(A)、および、亜硫酸水素アンモニウム(D)の単独添加では、サカマキガイを完全駆除できないこと、それに対して、「B」と「C」で示される四級アンモニウム塩添加によれば、完全駆除が可能であり、さらに、四級アンモニウム塩にアンモニア(A)、あるいは、亜硫酸水素アンモニウム(D)を併用した場合にはより短い時間での完全駆除が可能であることが理解される。
【0078】
なお、上記実験で用いたポリ(2-ヒドロキシプロピルジメチルアンモニウムクロライド)はアストロ社から入手した「ラパント」のJグレード品であり、このJグレード品より比較的分子量が小さいHグレード品についても同様に検討を行った。その結果、Jグレード品同様に、Hグレード品の単独添加にて、および、アンモニア(A)または亜硫酸水素アンモニウム(D)との併用添加にても、添加後120分(2時間)以内でのサカマキガイの完全駆除が可能であった。
【0079】
<実施例2;ビーカースケールでの駆除実験(その2)>
実施例1において、サカマキガイが繁殖していた排水処理設備に代えて、茨城県内の排水処理設備のヒメモノアラガイが繁殖し、その生物処理能力が低下している曝気槽からヒメモノアラガイを採取し、薬剤添加の効果を調べたこと以外は、実施例1と同様にしてビーカースケール実験を行った。
【0080】
薬剤の種類、添加濃度、および、薬剤添加後の生存率の経時変化を表2に示す。この実験では、四級アンモニウム塩とアンモニアまたは硫酸アンモニウムとを併用するときには、これらを同時にサンプル瓶に添加した。
【0081】
【表2】
【0082】
表2より、上記の実験条件ではアンモニア(A)、および、硫酸アンモニウム(E)の単独添加では、ヒメモノアラガイを完全には駆除できないこと、それに対して、四級アンモニウム塩添加によれば完全駆除が可能であり、さらに、四級アンモニウム塩にアンモニア(A)、あるいは、硫酸アンモニウム(E)を併用した場合にはより短い時間での完全駆除が可能であることが理解される。
【0083】
<実施例3:実機での駆除実験>
清涼飲料水製造工場の排水処理設備の曝気槽(曝気槽容量:220m)を備えた水処理設備で、実機での駆除実験を行った。この曝気槽ではサカマキガイが繁殖し、その結果、微生物膜を構成する微生物が摂取されたことにより生物処理能力が低下して、生物処理能力は、実験開始時にはサカマキガイの繁殖前の50%程度となっていた。この曝気槽付近を示すモデル図を図2に示す。
【0084】
図示しない前工程からの被処理水は配管1aから、この例では90m/h(時間)で曝気槽1に供給される。曝気槽1の底部付近には、すのこ状体1bが設けられ、このすのこ状体1bに固定床担体2を収納する網状容器2aが載置されている。
【0085】
曝気槽1外部に曝気用のエアーポンプ3が設置され、このエアーポンプ3は配管3aにより、すのこ状体1bの下方に配置された曝気管4に接続されており、これらにより曝気槽1内の被処理水に対して曝気が行われる。このときの曝気用エアーの供給量は曝気槽1に供給される被処理水の水質や曝気槽1から排出される処理水に要求される水質に応じて適宜調整される。
【0086】
曝気槽1で処理された水はオーバーフロー部1cから処理水槽5に供給され、水中ポンプ6と水中ポンプ6と接続された配管6aにより図示しない後工程に送られる。なお、曝気槽1内に生息するサカマキガイが処理水槽5に達すると水中ポンプ6の故障や配管の閉塞を引き起こす可能性がある。
【0087】
このように生物処理能力が低下し、サカマキガイの繁殖前の50%程度となっていた水処理設備において、曝気槽1への被処理水の供給を停止し、かつ、曝気を継続しながら薬剤の添加を行った。薬剤として1,4-ビス(3,3’-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンの臭化物塩を曝気槽での添加濃度が100mg/Lとなるように添加し、その2時間後(120分後)に曝気槽の状態を調べた。
【0088】
曝気槽の水面には多くのサカマキガイが浮かんでいた。また、固定床担体間にもサカマキガイが多く見られた。これらを採取して調べたが、いずれも動く個体はなく、曝気槽内のサカマキガイはすべて駆除されたと判断された。また、駆除処理後に水処理を再開したところ、その生物処理能力は薬剤添加直前と同じで、サカマキガイの繁殖前の約50%を維持し、薬剤添加の7日後にはサカマキガイの繁殖前の80%程度、10日後には90%程度にまで回復していることが確認され、微生物膜の活性への影響なくこれら貝類の駆除を行うことができることが確認された。
【0089】
<実施例4:実機での駆除実験、および、繁殖抑制実験>
実施例3とは異なる、食品製造工場の排水処理設備の、サカマキガイが繁殖し、かつ、生物処理能力がサカマキガイ繁殖前の生物処理能力の60%程度まで低下している曝気槽(曝気槽容量:280m)で行ったこと以外は、実施例3と同様にして、実機での駆除実験を行った。
ただし、本実施例4では、実施例3で用いた1,4-ビス(3,3’-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンの臭化物塩の代わりに、ポリ(2-ヒドロキシプロピルジメチルアンモニウムクロライド)を用い、曝気槽での添加濃度が100mg/Lとなるように添加して駆除実験を行った。
【0090】
その結果、薬剤を添加した120分後には、サカマキガイを完全駆除したことが確認され、かつ、曝気槽の生物処理能力は、駆除処理の直後でサカマキガイの繁殖前の生物処理能力の60%程度であり、駆除による影響は見られなかった。そして、駆除処理の7日後には、生物処理能力はサカマキガイの繁殖前と同等レベルに回復した。
【0091】
なお、この水処理設備およびその周辺について調査したところ、水処理設備に処理対象水を供給する水路に隣接してサカマキガイが生息している川があり、その川水の飛沫や陸上での移動により、サカマキガイやその幼貝、卵が水処理設備の水路に入り込むことがあることが判った。
【0092】
そこで、この水処理設備での再度のサカマキガイの繁殖を防止するために、水温が23~25℃より高い季節にポリ(2-ヒドロキシプロピルジメチルアンモニウムクロライド)を、曝気槽での添加濃度が10mg/Lとなるように水処理設備の処理対象水の流れ方向上流で上記の水路に添加して繁殖抑制処理を行ったところ、この水処理設備でのサカマキガイの繁殖を年間を通じて防止することができた。なお、この繁殖抑制処理による曝気槽の生物処理能力の低下は観察されず、これらから微生物膜の活性への影響なしで貝類の駆除および繁殖の抑制ができることが判った。
【符号の説明】
【0093】
1 曝気槽
1a 配管
1b すのこ状体
1c オーバーフロー部
2 固定床担体
2a 網状容器
3 エアーポンプ
3a 配管
4 曝気管
5 処理水槽
6 水中ポンプ
6a 配管
図1
図2