(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】光通信システム、送信側装置、受信側装置及び光通信方法
(51)【国際特許分類】
H04K 1/00 20060101AFI20240311BHJP
H04B 10/40 20130101ALI20240311BHJP
【FI】
H04K1/00 A
H04B10/40
(21)【出願番号】P 2020029350
(22)【出願日】2020-02-25
【審査請求日】2022-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 行史
【審査官】青木 重徳
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-135903(JP,A)
【文献】特開2015-213223(JP,A)
【文献】特開2017-085250(JP,A)
【文献】特開2002-246683(JP,A)
【文献】特開2008-263300(JP,A)
【文献】特開2009-253563(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04K 1/00
H04B 10/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝送データを所定の伝送符号で暗号化した後、光信号に変換して光通信路に出力する送信側装置と、
前記光通信路を介して前記送信側装置から出力される光信号を受信して電気信号に変換し、前記電気信号の暗号化を解読して正規の伝送データを出力する受信側装置と
を具備し、
前記送信側装置は、
前記伝送データを所定の伝送符号で暗号化する伝送符号暗号化手段と、
前記伝送符号で暗号化された伝送データに、指定の制御パターンによる符号変換を施す符号変換手段と、
前記符号変換が施された伝送データの電気量の振幅を電気/光変換デバイスによって光信号の光強度の振幅に変換して前記光通信路に出力する電気/光変換手段と、
複数の暗号情報から任意の暗号情報を選択する送信側暗号情報選択手段と、
前記送信側暗号情報選択手段で選択された前記暗号情報に対応する制御パターンを選択し、選択された制御パターンを前記指定の制御パターンとして前記符号変換手段に出力する制御パターン選択手段と、
前記制御パターン選択手段で選択された制御パターンに従って前記光信号の波長をシフトさせる波長制御手段と
を備え、
前記受信側装置は、
前記光通信路を介して伝送される光信号を電気信号に変換し、前記光信号の光強度の振幅変化を受信データとして検出する光強度検出手段と、
前記光通信路を介して伝送される光信号を入力してその波長変化を検出する波長検出手段と、
前記光強度検出手段で検出された前記光信号の光強度の振幅変化のパターンと前記波長検出手段で検出される波長変化のパターンとを照合して、両者のパターンの一致を検出する照合手段と、
前記照合によってパターンの一致が検出されたとき、一致が検出されたパターンに対応する暗号情報を前記複数の暗号情報から選択する受信側暗号情報選択手段と、
前記光強度検出手段で検出された受信データに前記一致が検出されたパターンによる符号逆変換を施す符号逆変換手段と、
前記符号逆変換手段で符号逆変換が施された受信データを入力し、前記受信側暗号情報選択手段で選択された暗号情報に基づいて前記伝送データの暗号化を解読して正規の伝送データとして出力する暗号化解読手段と
を備える光通信システム。
【請求項2】
伝送データを所定の伝送符号で暗号化した後、光信号に変換して光通信路に出力する送信側装置と、
前記光通信路を介して前記送信側装置から出力される光信号を受信して電気信号に変換し、前記電気信号の暗号化を解読して正規の伝送データを出力する受信側装置と
を具備する光通信システムに用いられ、
前記伝送データを所定の伝送符号で暗号化する伝送符号暗号化手段と、
前記伝送符号で暗号化された伝送データに、指定の制御パターンによる符号変換を施す符号変換手段と、
前記符号変換が施された伝送データの電気量の振幅を電気/光変換デバイスによって光信号の光強度の振幅に変換して前記光通信路に出力する電気/光変換手段と、
複数の暗号情報から任意の暗号情報を選択する送信側暗号情報選択手段と、
前記送信側暗号情報選択手段で選択された前記暗号情報に対応する制御パターンを選択し、選択された制御パターンを前記指定の制御パターンとして前記符号変換手段に出力する制御パターン選択手段と、
前記制御パターン選択手段で選択された制御パターンに従って前記光信号の波長をシフトさせる波長制御手段と
を備える光通信システムの送信側装置。
【請求項3】
前記波長制御手段は、前記電気/光変換手段に用いる電気/光変換デバイスの温度を制御する請求項2記載の光通信システムの送信側装置。
【請求項4】
前記波長制御手段は、前記電気/光変換手段に用いる前記光信号の発振波長調整用の共振器の長さを制御する請求項2記載の光通信システムの送信側装置。
【請求項5】
前記波長制御手段は、前記波長の変化を傾きに情報を含める請求項2記載の光通信システムの送信側装置。
【請求項6】
さらに、前記電気/光変換手段は、前記光通信路に出力する光信号を最小受信感度に合わせて減衰する可変減衰器を備える請求項2記載の光通信システムの送信側装置。
【請求項7】
伝送データを所定の伝送符号で暗号化した後、光信号に変換して光通信路に出力する送信側装置と、
前記光通信路を介して前記送信側装置から出力される光信号を受信して電気信号に変換し、前記電気信号の暗号化を解読して正規の伝送データを出力する受信側装置と
を具備する光通信システムに用いられ、
前記送信側装置が、
前記伝送データを所定の伝送符号で暗号化する伝送符号暗号化手段と、
前記伝送符号で暗号化された伝送データに、指定の制御パターンによる符号変換を施す符号変換手段と、
前記符号変換が施された伝送データの電気量の振幅を電気/光変換デバイスによって光信号の光強度の振幅に変換して前記光通信路に出力する電気/光変換手段と、
複数の暗号情報から任意の暗号情報を選択する送信側暗号情報選択手段と、
前記送信側暗号情報選択手段で選択された前記暗号情報に対応する制御パターンを選択し、選択された制御パターンを前記指定の制御パターンとして前記符号変換手段に出力する制御パターン選択手段と、
前記制御パターン選択手段で選択された制御パターンに従って前記光信号の波長をシフトさせる波長制御手段と
を備えるとき、
前記光通信路を介して伝送される光信号を電気信号に変換し、前記光信号の光強度の振幅変化を受信データとして検出する光強度検出手段と、
前記光通信路を介して伝送される光信号を入力してその波長変化を検出する波長検出手段と、
前記光強度検出手段で検出された前記光信号の光強度の振幅変化のパターンと前記波長検出手段で検出される波長変化のパターンとを照合して、両者のパターンの一致を検出する照合手段と、
前記照合によってパターンの一致が検出されたとき、一致が検出されたパターンに対応する暗号情報を前記複数の暗号情報から選択する受信側暗号情報選択手段と、
前記光強度検出手段で検出された受信データに前記一致が検出されたパターンによる符号逆変換を施す符号逆変換手段と、
前記符号逆変換手段で符号逆変換が施された受信データを入力し、前記受信側暗号情報選択手段で選択された暗号情報に基づいて前記伝送データの暗号化を解読して正規の伝送データとして出力する暗号化解読手段と
を備える光通信システムの受信側装置。
【請求項8】
前記送信側
装置で複数の波長光源を使ったマルチ型の多次元の変調による暗号方式を採用するとき、前記光通信路からの光信号を分配手段で複数の受信系に分配し、それぞれに割り当てられた波長の光信号を受信して受信データを復号するものとし、さらに前記受信データを解析して機械学習させ、学習結果から伝送データを推論する請求項7記載の光通信システムの受信側装置。
【請求項9】
送信側で、伝送データを所定の伝送符号で暗号化した後、光信号に変換して光通信路に出力し、
受信側で、前記光通信路を介して前記送信側装置から出力される光信号を受信して電気信号に変換し、前記電気信号の暗号化を解読して正規の伝送データを出力するものとし、
前記送信側は、
前記伝送データを所定の伝送符号で暗号化し、
前記伝送符号で暗号化された伝送データに、指定の制御パターンによる符号変換を施し、
前記符号変換が施された伝送データの電気量の振幅を電気/光変換デバイスによって光信号の光強度の振幅に変換して前記光通信路に出力し、
複数の暗号情報から任意の暗号情報を選択し、
前記選択された前記暗号情報に対応する制御パターンを選択し、選択された制御パターンを前記指定の制御パターンとして前記符号変換に用い、
前記選択された前記暗号情報に対応する制御パターンに従って前記光信号の波長をシフトさせ、
前記受信側は、
前記光通信路を介して伝送される光信号を電気信号に変換し、前記光信号の光強度の振幅変化を受信データとして検出し、
前記光通信路を介して伝送される光信号を入力してその波長変化を検出し、
前記光信号の光強度の振幅変化のパターンと前記光信号の波長変化のパターンとを照合して、両者のパターンの一致を検出し、
前記照合によってパターンの一致が検出されたとき、一致が検出されたパターンに対応する暗号情報を前記複数の暗号情報から選択し、
前記検出された受信データに前記一致が検出されたパターンによる符号逆変換を施し、
前記符号逆変換が施された受信データを入力し、前記選択された暗号情報に基づいて前記伝送データの暗号化を解読して正規の伝送データとして出力する
光通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、光通信システム、送信側装置、受信側装置及び光通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信システムにあっては、伝送データの漏洩に対する安全性を考慮した技術として、ビット誤りを生じさせるような揺らぎを伴ったキャリア光を用いて誤り訂正符号付きのデータを送受信する方式がある。この方式は、比較的シンプルな方式であるが、誤り訂正に要する時間がかかり、伝送効率が落ちるという問題がある。他の技術として、量子暗号化技術による位相変調量の不正読み取り防止対策も提案されているが、量子暗号化による誤り率の増加から誤り訂正符号を用いることが必然となるため、やはり伝送効率が落ちてしまう。また、波長可変レーザアレイの波長制御による対策も提案されている。この提案によれば、伝送効率は良いが、通信の秘匿性は低い。また、個別のデータ値をそれぞれ複数の波長に関連付けて送信し、複数のデータアイテムを含むデータセットを受信及び解析することで暗号化するシステムが提案されている。この提案によれば、伝送効率は良いが、多波長のレーザを必要とするため、コストが高い上に、小型化が困難であることや、光波長が固定となるため、多変量解析により伝送データが特定される恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-035072号公報
【文献】特開2007-251998号公報
【文献】特開2015-207738号公報
【文献】特開2018-98762号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】マイクロマシン構造を用いた温度無依存・波長可変レーザ,中濱正統,東京工業大学大学院,http://www.fbi-award.jp/sentan/jusyou/2014/1.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のように、光通信システムにおいて、安全性を確保する従来の手法では、コスト、伝送効率、小型化、秘匿性を同時に満足させることが困難な状況にある。
【0006】
本実施形態は上記課題に鑑みなされたもので、光波長の判別が困難で、光伝送路における漏洩から解読が困難であり、コスト、伝送効率、小型化、秘匿性に優れた光通信システム、送信側装置、受信側装置及び光通信方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本実施形態に係る光通信システムは、伝送データを符号化し暗号化した後、光信号に変換して光通信路に出力する送信側装置と、前記光通信路を介して前記送信側装置から送信される光信号を受信して前記暗号化を解読し前記符号化された伝送データを復号する受信側装置とを具備する。前記送信側装置は、前記暗号化のための選択された暗号化パターンに基づいて前記光通信路に出力する光信号の波長を制御し、前記受信側装置は、前記光通信路を通じて受信された前記送信側装置からの光信号の波長の変化を検出して前記暗号化パターンを照合し、照合された暗号化パターンにより前記暗号化を解読する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態に係る光通信システムの構成を示すブロック図。
【
図2】
図2は、実施形態に用いる情報処理例を示す図。
【
図3】
図3は、
図2に示す情報処理例の暗号化コード表を示す図。
【
図4】
図4は、実施形態に用いる送信波長の変動例を示す波形図。
【
図5】
図5は、実施形態に用いる送信強度の変動例を示す波形図。
【
図6】
図6は、実施形態に用いる2つの波長フィルタの透過特性を示す波形図。
【
図7】
図7は、実施形態に用いる2つの波長フィルタの出力をO/E変換した波長検出用の差分情報を示す特性図。
【
図8】
図8は、実施形態に用いる2つの波長フィルタの出力それぞれのO/E変換結果を示す波形図。
【
図9】
図9は、実施形態に用いる波長変動と同符号連続数の関係性をイメージ化して示す特性図。
【
図10】
図10は、実施形態に用いる暗号化コードの切替周期に応じて行われる波長予測結果を示す波形図。
【
図11】
図11は、実施形態に用いる波長の予測値と実測値の誤差を示す波形図。
【
図12】
図12は、実施形態に用いる受信系の情報処理例を示す図。
【
図13】
図13は、実施形態の変形例として、システム1とシステム2が光通信路で接続されたシステム例を示すブロック図。
【
図14】
図14は、実施形態の変形例として、多波長化した光通信システムの構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
まず、実施形態に係る光通信システムの概要について説明する。
【0010】
本実施形態は、「光波長・光強度」(物理層)及び「データ処理(データリンク層)」を用いて多次元的な変調を行うことにより、暗号性の高いシステムを提案する。すなわち、正規送信側では、通信データに依存した熱起因する光波長シフトとは別に、外部からデバイスの温度を制御することで微量の光波長シフトを行い、この光波長シフトによって暗号情報(暗号化コード)を重畳する。一方の正規受信側では、光強度及び波長フィルタを用いて精密な波長計測を行い、受信強度に応じて波長変動量を予測する。この波長変動の予測値と実測値の乖離量から暗号情報(暗号化コード)を推定し、データ処理で本来の通信データを復号する。このように本実施形態は、「多次元的な変調を行うこと」と「微小な波長変動」で暗号情報の伝送を煩雑化して、第三者に通信情報が解読されにくいようにしている点に特徴がある。
【0011】
以下、実施形態について、図面を参照して説明する。
【0012】
図1は、実施形態に係る光通信システムの構成を示すブロック図である。
図1において、光通信システムは送信側装置100と受信側装置200を備え、両者は光通信路で光接続される。
【0013】
上記送信側装置100において、送信データは伝送符号暗号化器101で所定の伝送符号で暗号化された後、符号変換器102で指定パターンによる符号変換が施される。符号変換された送信データは、電流増幅器103で電流増幅された後、E/O(電気/光)変換器104で半導体レーザ等の光デバイスにより電気信号から光信号に変換される。この光信号は、必要に応じてオプションの可変減衰器105で指定量の減衰処理が施された後、分配器106で外部系統と内部系統に分配される。
【0014】
一方、外乱測定器107によって光伝送の外乱となる外気温が測定される。この外気温の測定結果は、温度制御パターン選択器108に送られる。この温度制御パターン選択器108は、外気温の測定結果に対応した温度制御パターンを選択し、その温度制御バターンでE/O変換器104に装着された温度制御器109の温度を制御することで、E/O変換器104で発生する光信号の波長をシフトする。さらに、暗号化の秘匿性を高めるため、パターン設定信号により暗号パターン選択器110を通じて温度制御パターン選択器108の温度制御パターンを選択指定し、選択されたパターン情報を符号変換器102に送り、符号変換に埋め込む。
【0015】
ただし、外気温による外乱は、短時間では見えづらく、長時間の伝送で補正が必要になる。そこで、外乱補正はオプションとし、長時間伝送の要求があった場合に追加するようにしてもよい。
【0016】
上記分配器106で内部系統に分配された光信号は、さらに分配器111で強度検出用と波長検出用に2分配され、それぞれ波長フィルタ112,113に入力される。波長フィルタ112,113の通過帯域の中心は、それぞれ伝送帯域中心の上側と下側に設定され、通過光はそれぞれO/E(光/電気)変換器114,115で電気信号に変換されて外乱補正器116に送られる。外乱補正器116は、O/E変換器114,115で得られた電気信号から、外乱(外気温)によって生じた光信号の光波長シフト量と光強度変化量を検出する。検出された光波長シフト量は、温度制御パターン選択器108を通じてE/O変換における温度制御によって補正され、光強度変化量は可変減衰器105で補正される。
【0017】
なお、上記温度制御パターン選択器108には、外乱測定器107の測定結果と外乱補正器116の補正値が与えられるが、両方でよいし、いずれか一方でもよい。
【0018】
上記受信側装置200において、送信側装置100から伝送される光信号は分配器201で2系統に分配され、その一方はO/E変換器202で電気信号に変換され、強度検出器203で光強度の振幅が検出される。その検出結果は、受信データとして照合器204に送られる。照合器204で後述の照合で正規認証が得られた場合には、受信データは符号逆変換器205で符号化の逆変換が施された後、伝送符号復号器206に送られる。ここで、入力の分配器201で分配された光信号は、分配器207でさらに2分配され、それぞれ波長フィルタ208,209に送られる。波長フィルタ208,209の通過帯域の中心は、それぞれ伝送帯域中心の上側と下側に設定され、通過光はそれぞれO/E(光/電気)変換器210,211で電気信号に変換されて波長検出器212に送られる。波長検出器212は、入力された2系統の電気信号から伝送光信号の波長変化のパターンを検出し、このパターンを照合器204に送り、強度検出器203の出力との照合を図る。その照合で一致が検出された場合は、暗号パターン選択器213に照合パターンを送り、対応する暗号パターンを選択させる。選択された暗号パターンは伝送符号復号器206に送られ、暗号パターンにより符号逆変換器205からの受信データの暗号化を解除する。
【0019】
上記構成による光通信システムにおいて、以下にその処理動作を説明する。
【0020】
まず、送信側装置100の処理を説明する。送信側装置100において、E/O変換器104に用いられる半導体レーザ等の光デバイスでは、伝送符号の変化に伴う変調やデバイス周囲温度の変動により、発振モード数の増減や送信波長の変動が発生する。高密度波長多重送信においては、光波長変動により相互干渉が発生するため、送信周波数を安定的に伝送するための補正方法が数多く検討されている。本実施形態では、単に光波長安定化だけではなく、光波長シフト自体に暗号情報を組み込む方式を提案する。
【0021】
光波長シフトが起きる主な要因は、半導体レーザなどの光デバイスに注入する電流キャリア効果や温度に依存している。光デバイスの温度は、「伝送符号のパターンに依存してパルス駆動のレーザに過渡的な温度変化が起きる内部発熱量」と「周囲構造の熱伝導や外部温度制御によって決まる外部発熱量(吸熱量)」に依存する。ここで外部温度制御に着目し、暗号情報(暗号化コード)に従って、伝送符号とは異なるパターンにより光デバイスの温度を変化させて送信波長をシフトさせる。正規受信側の器材では、光強度と光波長のシフト量を測定する。受信した光強度から光波長の予測値が割り出せ、実際の観測値との僅かなずれを読み解くと、暗号情報(暗号化コード)が算出できる。この暗号情報(暗号化コード)を用いて受信した信号を復調し、正規データを得ることができる。
【0022】
この方式では盗聴者が光通信路から光漏れを検出できたとしても、波長変動を検出する上で十分なS/N比を確保できず、暗号情報(暗号化コード)を抽出することは困難であるため、極めて秘匿性が高い。また、正規受信側の最小受信感度になるように送信側で光強度を小さくすれば、さらに暗号情報(暗号化コード)を解読することが物理的に難しくなる。
【0023】
具体的な暗号化の仕組みについて動作内容を説明する。まず、
図2乃至
図5を参照して、送信側装置100の処理を説明する。ここで、
図2は情報処理例を示す図、
図3は
図2に示す情報処理例の暗号化コード表を示す図、
図4は送信波長の変動例を示す波形図、
図5は送信強度の変動例を示す波形図である。
【0024】
図2に示す情報処理例では、送信データのビット系列を「55aa55aa…」とする。符号に対して任意に設定した暗号化コードに基づいて、パターン表を選択して暗号化を施す。ここでは分かりやすく説明するために、
図3に示すように、暗号化コードを3種(コード1、コード2、コード3)に限定する。そして、波長情報を予測しやすくするための同符号連続数の制限を行う。同符号連続数制限の仕組みとしては8ビット/10ビット変換(高速シリアル転送方式の一種である符号長変換)を例とする。同符号連続数を制限すれば、波長シフト量の幅を小さくすることができる。伝送効率が低下するが光波長シフト量が微量であるほど第三者に光波長の変動を検出されにくいメリットがある。
【0025】
この後、送信符号に基づき電流を増幅させ、レーザなどでE/O変換する。ここで同時に暗号化コードに応じて温度制御を行って微小の波長変動を起こす。例えば、「コード1では低波長側、コード2は現状維持、コード3では高波長シフト」とする。すると、E/O変換後の光波長と光強度は、例えば
図4、
図5に示すような特性となる。
【0026】
次に、
図6乃至
図12を参照して、受信側装置200の処理を説明する。ここで、
図6は2つの波長フィルタ208,209の透過特性を示す波形図、
図7は2つの波長フィルタ208,209の出力をO/E変換した波長検出用の差分情報を示す特性図、
図8は2つの波長フィルタ208,209の出力それぞれのO/E変換結果を示す波形図、
図9は波長変動と同符号連続数の関係性をイメージ化して示す特性図、
図10は暗号化コードの切替周期に応じて行われる波長予測結果を示す波形図、
図11は波長の予測値と実測値の誤差を示す波形図、
図12は受信側の情報処理例を示す図である。
【0027】
受信側装置200において、送信側装置100から光通信路を介して送られてくる光信号を分配器201に入力し、強度検出用と波長検出用に分光して測定を行う。受信光の光変調度が小さい場合には、移動平均閾値などにより微弱な光の2値判定を行う。同符号連続数制限を行うとクロック再生が容易にできるので、そのクロックをもとに波長予測する区間を決める。光波長を精度検出するために、2つの波長フィルタ208,209を用いる。波長-利得特性があればどのようなフィルタでもよい。例えば、
図6に示すような波長-利得特性を持つバンドイルミネーションフィルタを用いることができる。なお、フィルタによっては、
図6の縦軸と横軸が変わる特性を持つものもある。
【0028】
2つの波長フィルタ208,209を用いると、
図7に示すように波長検出用のO/E変換の差分情報から波長が割り出せる。発展形として、波長検出用の和情報は光強度の情報として置き換えることも可能である。O/E変換後の情報を
図8に示す。
【0029】
ここで、送信側の外部温度が一定のときに、波長変動と同符号連続数の関係性を1次遅れ系に近似したイメージを
図9に示す。DFB(Distributed Feedback:分布帰還型)レーザのように安定性の高いレーザを採用した場合には、温度による屈折率変化は遅いため、波長変動量は小さい。デバイス固有の熱伝導の時定数に応じて暗号化コードの切替周期を予め送信側装置100、受信側装置200のそれぞれに既知の情報としておく。
【0030】
図9に示した特性は送信デバイス固有のものである。予め受信側装置200にも既知の情報として保持させておく。受信側装置200では、暗号化コードの切替周期に応じて波長予測を行う。波長予測した結果を
図10に示す。ここでは伝送符号のある長さ毎に波長予測の初期値を実測値に逐次刷新しながら、予測を繰り返した例を示している。
【0031】
続いて予測値と実測値の誤差を
図11に示す。この誤差値から暗号化コードを割り出すことができる。そして、受信側で予め持たせた
図12に示すパターン表により、受信したバイナリデータに対して復号化を行い、元の送信データを得る。
【0032】
以上のように、上記構成による光通信システムによれば、「光波長・光強度」(物理層)及び「データ処理(データリンク層)」を用いて多次元的な変調を行うようにしているので、より暗号性の高いシステムを構築することができる。すなわち、正規送信者の通信データに依存した熱起因する光波長シフトとは別に、外部から光デバイスの温度制御をすることで微量の光波長シフトを行い、暗号情報(暗号化コード)を重畳する。一方の正規受信側では、光強度の検出及び波長フィルタを用いた精密な波長計測を行い、受信強度に応じて波長変動量を予測する。この波長変動の予測値と実測値の乖離量から暗号情報(暗号化コード)を推定し、データ処理で本来の通信データを復号する。このように、本実施形態では、「多次元的な変調を行うこと」と「微小な波長変動」で暗号情報の伝送が煩雑化されており、光通信路から漏洩情報を取得したとしても、その漏洩光量が極めて微弱であることから多次元的な変調、微小な波長変動を識別して暗号情報を取得することは極めて困難である。よって、従来のシステムに比して第三者に通信情報が解読されにくい、優れた効果を奏するものである。
【0033】
なお、上記実施形態の構成は、以下のような種々の変形が可能である。
(1)波長可変構造の変更
本実施形態においては、波長制御のために温度調整を用いている。温度上昇により光路長や屈折率が変化することで波長が変化するが、そのほかの波長制御でも適用できる。例えば、発振波長調整用のマイクロマシン(MEMS:Micro Electro Mechanical Systems)による共振器長の変化を用いてもよい。また波長変化量については、制御量を可変させて、波長変動量のタイムマネージメントをしてよい。(非特許文献1参照)
(2)送信光強度の可変
情報漏洩に対する堅牢性を高める上で、送信側にオプションとして光信号の可変減衰器105を用いて送信利得を下げてもよい。2つ以上の器材が双方向通信可能なとき、解読率を下げられるように、送信光の光強度を最小受信感度近傍に設定する。この設定には、光強度・光波長を変動させながら最小受信感度を見つけることができるようなハンドシェーク機能が考えられる。この機能を用いて、[受信利得=光送信利得-伝送路損失(ファイバ損失+コネクタ損失+波長フィルタ感度損失)>最小受信感度]を満たす範囲で、送信利得を調整するとよい。
【0034】
(3)波長計測の変更
波長フィルタには、多層膜フィルタ、FBG(Fiber Bragg Grating)、複屈折フィルタ、ファブリペロエタロンのように周波数-減衰特性があるものを使用する。光強度と光波長ができればよいので、受信側の光分配器の位置や分配比は任意に変更してよい。
【0035】
(4)波長変調種別の変更
図13に示すように、システム1とシステム2が光通信路で接続された状態で、それぞれのシステムがGPS衛星から時刻情報T1を受け取り可能とする場合、システム間の時刻同期をした上で、波長情報に暗号化コードの代わりに時刻情報を挿入する。このようにすれば、データ到達時刻とそのデータに含まれる時刻情報を比較することにより、第三者が光伝送路の途中に設置した中継器の遅延が割り出せるので、再生中継方式による障害を発見することができる。具体的には、
安全:到達時刻T2-時刻情報T1≒伝送時間
危険:到達時刻T3-時刻情報T1≠伝送時間
のように判定基準を設けるとよい。
【0036】
(5)外乱成分の抑制
外気温が波長と光強度における外乱成分の一つとなる。外乱測定器107において、サーミスタなどで外乱量を測定し、温度制御パターン選択器108に入力して、フィードバック制御により外乱となる波長変動と出力変動を抑制する。もしくは、分配器106で送信光の一部を折り返して受信させることにより、外乱成分を相殺することができる。
【0037】
(6)暗号化コードの多値化
本実施形態では、暗号化コードを3種類としたが、さらに多値化できる。さらには、波長変動の傾き(微小変動量=差分δ)にも情報を含めることができる。また、光強度にも多値化を持たせることができる。この多値化は必ずしも線形性を担保する必要はなく、例えば指数関数系の投射による数値変換を行ってもよい。
【0038】
(7)誤り訂正及び誤り検出
暗号化コードの代わりに、例えばリードソロモンやCRC(Cyclic Redundancy Check:巡回冗長検査)などの情報を波長領域に盛り込むことによって、低ビットレートの信号伝送においても、波長情報からデータ伝送の信頼性を向上させることができる。
【0039】
(8)波長フィルタの温度制御
温度依存性のある波長検出用の波長フィルタ208,209のロバスト性向上(周囲環境の状態による外乱成分抑制)として、波長フィルタ208,209の周囲温度を一定温度に制御することが考えられる。例えば、2つのフィルタ208,209にそれぞれ温度検出用の素子と温度調整用の素子を設けるとよい。
【0040】
(9)多波長化
システムコストの低減・小型化に背くが、複数の波長光源を使ったマルチ型の多次元の変調による暗号方式を採用した光通信システムも考えらえる。
図14に多波長化した光通信システムの構成を示す。このシステムは、送信側装置において、送信系1と送信系2に送信データを分配して互いに異なる波長で多次元の暗号化を施した光信号を結合器で結合し、光通信路を介して受信側装置に送る。受信側装置において、光通信路からの光信号を分配器で受信系1と受信系2に分配し、それぞれに割り当てられた波長の光信号を受信して受信データを復号する。さらに、受信データを解析して機械学習させ、学習結果から推論する。
【0041】
上記構成によれば、各送信系1,2において、多次元をさらに増やしていくので、同時組み合わせ伝送や冗長系伝送にも使用できる。受信側装置では多次元のパラメータが多くなるため、通信初期の段階で、外乱成分などを抑制するパラメータを学習させた上で、推論に基づく数値判定を行う方法も考えらえる。さらには、暗号化コードを定期的に送信側で更新し、受信側で同期コード(Syncコード)を検出しやすいように再学習させる方法も考えられる。
【0042】
その他、本発明は上記実施形態をそのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0043】
100…送信側装置、101…伝送符号暗号化器、102…符号変換器、103…電流増幅器、104…E/O(電気/光)変換器、105…可変減衰器、106…分配器、107…外乱測定器、108…温度制御パターン選択器、109…温度制御器、110…暗号パターン選択器、111…分配器、112,113…波長フィルタ、114,115…O/E(光/電気)変換器、116…外乱補正器、
200…受信側装置、201…分配器、202…O/E変換器、203…強度検出器、204…照合器、205…符号逆変換器、206…伝送符号復号器、207…分配器、208,209…波長フィルタ、210,211…O/E(光/電気)変換器、212…波長検出器、213…暗号パターン選択器。