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  • 特許-N逓倍器 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】N逓倍器
(51)【国際特許分類】
   H01P 5/12 20060101AFI20240311BHJP
   H01P 1/203 20060101ALI20240311BHJP
   H01P 1/213 20060101ALI20240311BHJP
   H03H 7/38 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
H01P5/12 A
H01P1/203
H01P1/213 M
H03H7/38 Z
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020030707
(22)【出願日】2020-02-26
(65)【公開番号】P2021136543
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小島 治夫
【審査官】佐藤 当秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-185311(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102509822(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 5/12
H01P 1/203
H01P 1/213
H03H 7/38
H03B 11/00- 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動作周波数が設定周波数から可変する基本波をN(Nは2以上の自然数)逓倍する逓倍回路と、
前記逓倍回路の出力端に入力端が接続される入力側T分岐回路と、
前記入力側T分岐回路の第1の出力端に入力端が接続される低域用バンドパスフィルタと、
前記入力側T分岐回路の第2の出力端に入力端が接続される高域用バンドパスフィルタと、
前記低域用バンドパスフィルタの出力端に第1の入力端が接続され、前記高域用バンドパスフィルタの出力端に第2の入力端が接続され、前記低域用バンドパスフィルタの出力、前記高域用バンドパスフィルタの出力を合わせて出力する出力側T分岐回路と、
前記低域用バンドパスフィルタの入力経路に配置され、インピーダンスを調整する第1の線路と、
前記低域用バンドパスフィルタの出力経路に配置され、インピーダンスを調整する第2の線路と、
前記高域用バンドパスフィルタの入力経路に配置され、インピーダンスを調整する第3の線路と、
前記高域用バンドパスフィルタの出力経路に配置され、インピーダンスを調整する第4の線路と
を具備し、
前記低域用バンドパスフィルタは、前記逓倍回路から出力されるN逓倍波を通過させ、(N-1)逓倍波及び(N+1)逓倍波を抑圧する低域用の通過帯域を備え、前記低域用の通過帯域の中心周波数が前記基本波の設定周波数より低い特性を有し、
前記高域用バンドパスフィルタは、前記逓倍回路から出力されるN逓倍波を通過させ、(N-1)逓倍波及び(N+1)逓倍波を抑圧する高域用の通過帯域を備え、前記高域用の通過帯域の中心周波数が前記基本波の設定周波数より高い特性を有し、
前記第1の線路と前記第2の線路の線路長を前記高域用バンドパスフィルタの通過帯域の中心周波数で、前記入力側T分岐回路の第1の出力端側、前記出力側T分岐回路の第1の入力端側から前記低域用バンドパスフィルタを見たインピーダンスがそれぞれ開放となるように設定し、
前記第3の線路と前記第4の線路の線路長を前記低域用バンドパスフィルタの通過帯域の中心周波数で、前記入力側T分岐回路の第2の出力端側、前記出力側T分岐回路の第2の入力端側から前記高域用バンドパスフィルタを見たインピーダンスがそれぞれ開放となるように設定した
N逓倍器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明の実施形態は、N逓倍器に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波用の周波数変換器に使用される従来のN逓倍器は、FET又はダイオードを使用して基本波をN逓倍する逓倍回路と、逓倍回路の出力端に接続され、逓倍回路から出力される高調波のうち、N逓倍波を通過させ、(N-1)逓倍波以下、(N+1)逓倍波以上を抑圧するバンドパスフィルタとを備える。例えば、2逓倍器では、基本波を2逓倍する逓倍回路の出力端に、2逓倍波を通過させ、基本波と3逓倍波を抑圧するバンドパスフィルタを接続した構成となっている。すなわち、逓倍回路に基本波を入力すると、高調波が生成されるが、この高調波は次数が高くなるに従ってレベルが低下する。そこで、取り出したい次数の高調波だけを抽出するために、2逓倍器の場合、基本波と3逓倍波を抑圧するバンドパスフィルタを逓倍回路の出力端に接続して、2逓倍波だけを取り出す方法をとるが一般的である。
【0003】
ところで、動作する周波数が固定、または狭帯域の場合は従来の構成で問題はないが、動作周波数を可変した場合は次のような問題が生じる。例えば、基本波の周波数を10%下げた場合には、2逓倍波、3逓倍波の周波数も10%下がるが、周波数の偏移量は2逓倍波で2倍、3逓倍波で3倍となる。従って、2逓倍波はバンドパスフィルタの通過帯域内のためレベルは確保できるが、3逓倍波はバンドパスフィルタの通過帯域近傍で十分抑圧できないことになる。なお、3逓倍波を抑圧するために、バンドパスフィルタの通過帯域幅を狭くすると、取り出したい2逓倍波もバンドパスフィルタの通過帯域外となり、抑圧されてしまう。また、バンドパスフィルタの通過帯域幅を狭くしてRFスイッチによって複数のバンドパスフィルタを切り換える方式もあるが、切換用RFスイッチ、及び切換用RFスイッチのドライバも必要となり、機器の大型化、高コスト化を招く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭63-20985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のように、高周波用の周波数変換器に用いられる従来のN逓倍器では、逓倍器から出力される高調波のうち、N逓倍波を通過させ、(N-1)逓倍波、(N+1)逓倍波を抑圧するバンドパスフィルタの通過帯域が固定であるため、動作周波数を可変した場合に(N+1)逓倍波の抑圧が不十分となるという問題があった。
【0006】
本発明に係る実施形態の課題は、基本波の周波数が低下したとしても、バンドパスフィルタの通過帯域幅を保持したまま(N+1)逓倍波を十分に抑圧できるN逓倍器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態に係るN逓倍器によれば、動作周波数が設定周波数から可変する基本波をN(Nは2以上の自然数)逓倍する逓倍回路と、前記逓倍回路の出力端に入力端が接続される入力側T分岐回路と、前記入力側T分岐回路の第1の出力端に入力端が接続される低域用バンドパスフィルタと、前記入力側T分岐回路の第2の出力端に入力端が接続される高域用バンドパスフィルタと、前記低域用バンドパスフィルタの出力端に第1の入力端が接続され、前記高域用バンドパスフィルタの出力端に第2の入力端が接続され、前記低域用バンドパスフィルタの出力、前記高域用バンドパスフィルタの出力を合わせて出力する出力側T分岐回路と、を備える。前記低域用バンドパスフィルタの入力経路には、インピーダンスを調整する第1の線路が配置され、前記低域用バンドパスフィルタの出力経路には、インピーダンスを調整する第2の線路が配置され、前記高域用バンドパスフィルタの入力経路には、インピーダンスを調整する第3の線路が配置され、前記高域用バンドパスフィルタの出力経路には、インピーダンスを調整する第4の線路が配置される。前記低域用バンドパスフィルタは、前記逓倍回路から出力されるN逓倍波を通過させ、(N-1)逓倍波及び(N+1)逓倍波を抑圧する低域用の通過帯域を備え、前記低域用の通過帯域の中心周波数が前記基本波の設定周波数より低い特性を有し、前記高域用バンドパスフィルタは、前記逓倍回路から出力されるN逓倍波を通過させ、(N-1)逓倍波及び(N+1)逓倍波を抑圧する高域用の通過帯域を備え、前記高域用の通過帯域の中心周波数が前記基本波の設定周波数より高い特性を有する。前記第1の線路と前記第2の線路の線路長は、それぞれ前記高域用バンドパスフィルタの通過帯域の中心周波数で、前記入力側T分岐回路の第1の出力端側、前記出力側T分岐回路の第1の入力端側から前記低域用バンドパスフィルタを見たインピーダンスがそれぞれ開放となるように設定され、前記第3の線路と前記第4の線路の線路長は、前記低域用バンドパスフィルタの通過帯域の中心周波数で、前記入力側T分岐回路の第2の出力端側、前記出力側T分岐回路の第2の入力端側から前記高域用バンドパスフィルタを見たインピーダンスがそれぞれ開放となるように設定される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態に係る2逓倍器の構成を示すブロック図である。
図2図2は、実施形態で適用される2逓倍器の従来構成を示すブロック図である。
図3図3は、図1に示す2逓倍器において、A点から見たインピーダンス特性を示す特性図である。
図4図4は、図1及び図2に示す2逓倍器の処理動作を比較して示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る2逓倍器の構成を示すブロック図である。図1において、1はFET又はダイオードを使用した、基本波を2逓倍する逓倍回路である。この逓倍回路1の出力端には、入力側T分岐回路2の入力端が接続される。入力側T分岐回路2の第1の出力端は、線路4を介して低域用バンドパスフィルタ8の入力端に接続され、同フィルタ8の出力端は線路5を介して出力側T分岐回路3の第1の入力端に接続される。また、入力側T分岐回路2の第2の出力端は、線路6を介して高域用バンドパスフィルタ9の入力端に接続され、同フィルタ9の出力端は線路7を介して出力側T分岐回路3の第2の入力端に接続される。
【0010】
なお、低域用バンドパスフィルタ8及び高域用バンドパスフィルタ9による合計帯域幅は、図2に示す従来構成による2逓倍器(逓倍回路1の出力端にバンドパスフィルタ10の入力端を接続した構成)で用いられているバンドパスフィルタ10の帯域幅と等しくなるように選定される。また、線路4と線路5の線路長は高域用バンドパスフィルタ9の通過帯域の中心周波数で、図1のA点、C点から見たインピーダンスがそれぞれ開放となるように設定される。また、線路6と線路7の線路長は低域用バンドパスフィルタ8の通過帯域の中心周波数で、図1のB点、D点から見たインピーダンスがそれぞれ開放となるように設定される。一例として、図3に、図1のA点から見たインピーダンス特性を示す。
【0011】
すなわち、線路4は、高域用バンドパスフィルタ9の通過帯域の中心周波数で、線路長が図1のA点から見たインピーダンスが開放となるように設定される。線路5は、高域用バンドパスフィルタ9の通過帯域の中心周波数で、線路長が図1のC点から見たインピーダンスが開放となるように設定される。線路6は、低域用バンドパスフィルタ8の通過帯域の中心周波数で、線路長が図1のB点から見たインピーダンスが開放となるように設定される。線路7は、低域用バンドパスフィルタ8の通過帯域の中心周波数で、図1のD点から見たインピーダンスを開放となるように設定される。
【0012】
上記構成による2逓倍器の処理動作を、図2に示す従来構成の場合と比較して説明する。
まず、図2に示す従来構成の2逓倍器において、逓倍回路1に基本波を入力すると、逓倍回路1で生成された高調波は次数が高くなるに従ってレベルが低下する。そこで、取り出したい次数の高調波だけを抽出するために、バンドパスフィルタ10で2逓倍波を通過させ、基本波と3逓倍波を抑圧する。この場合、バンドパスフィルタ10は、図4(a)の特性Aのように、基本波の周波数低下を考慮して、十分な通過帯域幅を確保している。
【0013】
しかしながら、上記従来構成の2逓倍器では、バンドパスフィルタ10の周波数帯域が固定であるため、図4(b)に示すように、基本波の周波数が10%低下した場合には、2逓倍波、3逓倍波の周波数も10%下がり、周波数の偏移量は2逓倍波で2倍、3逓倍波で3倍となる。したがって、2逓倍波はバンドパスフィルタ10の通過帯域内のためそのレベルを確保できるものの、3逓倍波がバンドパスフィルタ10の通過帯域近傍で十分抑圧できないことになる。なお、3逓倍波を抑圧するために、バンドパスフィルタ10の通過帯域幅を狭くすると、取り出したい2逓倍波もバンドパスフィルタ10の通過帯域外となって、抑圧されてしまう恐れがある。
【0014】
これに対して、本実施形態に係る2逓倍器では、低域用バンドパスフィルタ8と高域用バンドパスフィルタ9を備え、それぞれ図4(a)に示すように、2逓倍波を通過帯域内に含める特性L,Hを有するものとする。この構成によれば、基本波の周波数が10%下がると、2逓倍波、3逓倍波の周波数も10%下がるが、周波数の偏移量は図4(c),(d)に示すように2逓倍波で2倍、3逓倍波で3倍となり、2逓倍波は図4(c)に示すように低域用バンドパスフィルタ8の通過帯域内のためレベルは確保でき、3逓倍波は図4(d)に示すように低域用バンドパスフィルタ8と高域用バンドパスフィルタ9とで十分に抑圧できる。これは、本来の通過帯域を2分割することで、各バンドパスフィルタ8,9の通過帯域幅を狭く設定できるため、帯域近傍の帯域外抑圧度を向上できるためである。通常、通過帯域幅と通過帯域近傍の通過帯域外の抑圧度は相関が強く、フィルタの段数が同じ場合は、通過帯域幅が狭い方が通過帯域近傍の通過帯域外の抑圧度を向上させることができる。
【0015】
以上のように、本実施形態に係る2逓倍器では、基本波の周波数が低下したとしても、バンドパスフィルタの全通過帯域幅を保持したまま3逓倍波を十分に抑圧できる。特に、入出力のT分岐回路1,3とインピーダンスの位相補正用線路4,5,6,7を組合せることにより、損失が小さく、RFスイッチの必要無いフィルタを形成して、機器の小型化、低コスト化を実現することができる。
【0016】
なお、上記実施形態では、2逓倍器に適用した場合を説明したが、N逓倍器の場合も同様に実施可能である。この場合、バンドパスフィルタを低域用、高域用だけでなく、複数の帯域に分割するようにしてもよい。具体的には、基本波をN逓倍する逓倍回路に対して、N逓倍されたN逓倍波を通過させ、他の逓倍波を抑圧する通過帯域をn個の周波数帯域に分割してそれぞれの周波数帯域を受け持つn個のバンドパスフィルタを容易し、逓倍回路の出力端に入力端が接続され、n個の周波数帯域の系統に分岐してn個のバンドパスフィルタに出力する入力側分岐回路と、n個のバンドパスフィルタの出力をn個の入力端から入力してそれぞれのバンドパスフィルタの通過逓倍波を出力する出力側分岐回路とを配置し、n個のバンドパスフィルタの入力経路、出力経路に、それぞれインピーダンスを調整する線路群を配置するようにすれば、基本波の周波数が低下したとしても、RFスイッチを用いずに、不要な帯域を抑圧しつつ、目的の逓倍波を取り出すことができる。
【0017】
また、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0018】
1…逓倍回路、2…入力側T分岐回路、3…出力側T分岐回路、4,5,6,7…線路、8…低域用バンドパスフィルタ、9…高域用バンドパスフィルタ、10…バンドパスフィルタ。
図1
図2
図3
図4