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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】手摺構造
(51)【国際特許分類】
   E04F 11/18 20060101AFI20240311BHJP
【FI】
E04F11/18
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020038678
(22)【出願日】2020-03-06
(65)【公開番号】P2021139193
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】303046244
【氏名又は名称】旭化成ホームズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100186716
【弁理士】
【氏名又は名称】真能 清志
(72)【発明者】
【氏名】井本 吉彦
【審査官】山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-136358(JP,A)
【文献】特開2015-175107(JP,A)
【文献】登録実用新案第3169914(JP,U)
【文献】米国特許第05193786(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
手摺棒と、
該手摺棒の両端を固定すると共に建物の固定部に固定されるブラケットと
を備える手摺構造であって、
前記ブラケットにおける手摺棒固定部には、スペーサを介して前記手摺棒の小口面が軸状部材で固定されており、
前記小口面と前記手摺棒固定部との間の領域であって、前記スペーサの径方向外側の全周方向位置の領域に空間が形成され、前記小口面が前記手摺棒固定部に対して傾くことができることを特徴とする手摺構造。
【請求項2】
前記スペーサは、前記手摺棒固定部において前記手摺棒側に突出して設けられた突起部である、請求項1に記載の手摺構造。
【請求項3】
前記スペーサは、前記手摺棒の軸方向における縦弾性係数が前記手摺棒よりも小さい、請求項1に記載の手摺構造。
【請求項4】
前記手摺棒固定部には、前記手摺棒の小口面が1つの軸状部材で固定されている、請求項1から3のいずれか一項に記載の手摺構造。
【請求項5】
前記ブラケットは、前記手摺棒の軸周りの回転を抑制する回転止めを有する、請求項4に記載の手摺構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、建物の壁等に固定する手摺構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建物のバリアフリー化に伴い、建物の壁等に手摺を設ける機会が増えてきており、使用者の円滑な移動を長期間確保するため、繰り返し荷重に対する長期耐久性を備えた手摺及び手摺の固定方法が求められている。
【0003】
特許文献1には、ブラケット本体に係合可能な差込片及び弾性片を備えたカバーを装着することで、手摺用ブラケットを固定する壁面に隣接する壁面との間に不体裁な空間を生じさせない手摺用エンドブラケットが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-193865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に開示された構成では、手摺用エンドブラケットに固定孔を介してねじ固定した手摺の長手方向中央部に撓み方向の荷重がかかると、梃子の原理により、手摺の小口面における荷重方向側の外周部を支点にねじを引き抜く方向の回転モーメントが作用する。従って、手摺に繰り返し荷重が作用すると、手摺をエンドブラケットに固定するねじが上述の引き抜き力によって緩み、がたつくため、メンテナンスが必要となることがあり、長期耐久性の観点から改善の余地があった。
【0006】
本開示は、このような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、長期耐久性に優れた手摺構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の手摺構造は、
手摺棒と、
該手摺棒の両端を固定すると共に建物の固定部に固定されるブラケットと
を備える手摺構造であって、
前記ブラケットにおける手摺棒固定部には、スペーサを介して前記手摺棒の小口面が軸状部材で固定されており、
前記小口面と前記手摺棒固定部との間の領域であって、前記スペーサの径方向外側の領域に空間が形成される、又は、前記スペーサは、前記手摺棒よりも該手摺棒の軸方向の圧縮剛性が小さいことを特徴とするものである。
【0008】
また、本開示の手摺構造は、上記構成において、前記スペーサは、前記手摺棒固定部において前記手摺棒側に突出して設けられた突起部であることが好ましい。
【0009】
また、本開示の手摺構造は、上記構成において、前記スペーサは、前記手摺棒の軸方向における縦弾性係数が前記手摺棒よりも小さいことが好ましい。
【0010】
また、本開示の手摺構造は、上記構成において、前記手摺棒固定部には、前記手摺棒の小口面が1つの軸状部材で固定されていることが好ましい。
【0011】
また、本開示の手摺構造は、上記構成において、前記ブラケットは、前記手摺棒の軸周りの回転を抑制する回転止めを有することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、長期耐久性に優れた手摺構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A】本開示の第1実施形態に係る手摺構造を示す平面図である。
図1B図1Aにおける、A-A断面による断面図である。
図2図1Aにおける、木ねじ部分の拡大断面図である。
図3A図1Bにおける回転止め部分の第1変形例である。
図3B図1Bにおける回転止め部分の第2変形例である。
図3C図1Bにおける回転止め部分の第3変形例である。
図4】本開示の第2実施形態に係る手摺構造における木ねじ部分の拡大断面図である。
図5】手摺棒及びスペーサの圧縮剛性を計測する手段の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本開示をより具体的に説明する。
【0015】
図1Aは、本開示の第1実施形態に係る手摺構造100を示す平面図である。手摺構造100が取り付けられる壁Wは、例えば鉄骨造の軸組みを有する2階建ての工業化住宅等に設けられた壁である。
【0016】
なお、本願明細書、特許請求の範囲及び図面において、「スペーサ」とは、後述するブラケット10における手摺棒固定部11と手摺棒20とを手摺棒20の軸方向(中心軸線Oに沿う方向)に離間させる部位の総称である。
【0017】
手摺構造100が固定される壁Wは、建物において鉛直方向に延びる壁を想定しており、図1Aにおける紙面に垂直な方向が、鉛直方向である。また、図1Aにおける左右方向が、手摺構造100の左右方向(長手方向)であり、図1Aにおける上下方向が、手摺構造100の前後方向である。しかし、手摺構造100が固定される場所(固定部)はこれに限定されるものではなく、建物の腰壁上部、天井又は床等に固定されてもよい。手摺棒20における径方向外側とは、図1Aにおける手摺棒20の中心軸線Oを通り中心軸線Oに垂直な直線に沿って中心軸線Oから離れる方向であり、径方向内側とは、当該直線に沿って中心軸線Oに向かう方向を意味するものとする。
【0018】
図1Aに示すように、本実施形態に係る手摺構造100は、利用者が手をかける手摺棒20と、手摺棒20の長手方向両端の小口面20a(図2参照)を固定すると共に建物の壁W(固定部)に固定されるブラケット10とを備えている。
【0019】
本実施形態において、手摺棒20は、略円柱形状を有する棒状部材であり、図1Aの左右方向が手摺棒20の長手方向である。手摺棒20の長手方向端部における周方向の1箇所には、ブラケット10に設けられた回転止め18が挿入されることで手摺棒20の中心軸線O周りの回転を抑制する切り欠き部24が設けられている(図1B及び図2参照)。切り欠き部24の底部は、中心軸線Oに対して傾斜している。図示の例では、切り欠き部24の底部は、小口面20aから手摺棒20の長手方向中央に向かって径方向外側に約45度傾斜している。
【0020】
手摺棒20の小口面20aの径方向中央部には、手摺棒20を皿木ねじ30(軸状部材)によりブラケット10の手摺棒固定部11に固定する際に用いる下穴22が設けられている。なお、図1Aでは、下穴22の長さが皿木ねじ30の長さよりも長くなるように図示したが、この態様には限定されず、下穴22の長さが皿木ねじ30の長さより短くてもよい。
【0021】
手摺棒20の材料には、例えばポプラLVL(Laminated Veneer Lumber:単板積層材)を用いることができる。しかし、この態様には限定されず、手摺棒20は、他の木材、金属、合成樹脂等の他の材料を用いて形作ってもよい。
【0022】
ブラケット10は、建物の壁Wに固定する基部15と、基部15から壁Wに垂直方向に立設された手摺棒固定部11、上壁13及び下壁(図示せず)と、手摺棒固定部11における基部15と反対側(利用者側)の端部を閉塞する前壁14と、手摺棒固定部11から手摺棒20側に突出して設けられ、手摺棒20の長手方向端部を径方向外側から囲んで手摺棒20の脱落を抑制する筒壁部16と、手摺棒固定部11上に一体に設けられ、手摺棒20の小口面20aが当接する突起部12(スペーサ)(図2参照)と、手摺棒固定部11から手摺棒20側に突出し、上述の切り欠き部24に入り込んで手摺棒20の中心軸線O周りの回転を抑制する回転止め18とを備えている。ブラケット10は、図1Aにおける右側が開放されており、手摺構造100の取付作業者は、開放された側から皿木ねじ30にアクセスすることができる。なお、手摺構造100を壁Wに固定した後は、ブラケット10の開放部を化粧板等により閉塞することができる。本実施形態では、基部15、手摺棒固定部11、突起部12、上壁13、下壁、前壁14、筒壁部16及び回転止め18は、亜鉛ダイキャストにより一体形成されている。なお、亜鉛以外の他の金属材料等を用いてもよいし、ブラケット10を複数の部材を組み立てることにより構成してもよい。
【0023】
基部15は、例えば図示しない取り付け穴を備えることができ、木ねじ及び当該取り付け穴によって壁Wにねじ固定することができる。しかし、この態様には限定されず、基部15は、他の係合、接着等の手段によって壁Wに固定することもできる。
【0024】
突起部12は、図2に示すように、手摺棒固定部11上に一体形成され、手摺棒20側に突出する部位である。突起部12は、略ドーム状に突出しており、突起部12の径方向中央位置(中心軸線O上)には、皿木ねじ30を貫通させて手摺棒固定部11と手摺棒20とを固定するための取り付け穴12aが設けられている。すなわち、皿木ねじ30がスペーサである突起部12を貫く構成となっている。突起部12は、図2に示すように、ブラケット10における手摺棒固定部11と手摺棒20とを手摺棒20の中心軸線Oに沿う方向に離間させる部位であり、本実施形態において「スペーサ」の役割を果たしている。
【0025】
皿木ねじ30は、頭部31が皿状形状を有する木ねじであり、図2に示すように、頭部31が突起部12における手摺棒20とは反対側の面に形成された凹所に入り込んで手摺棒固定部11と手摺棒20とを締結する。
【0026】
本実施形態において、突起部12の外径は、手摺棒20の外径よりも小さく構成されている。従って、小口面20aと手摺棒固定部11との間の領域であって、突起部12の径方向外側且つ小口面20aの外周端よりも径方向内側の領域に空間が形成されている。これによって、突起部12の径方向外側の領域は、手摺棒固定部11と手摺棒20との間の隙間を形成しており、手摺棒20の小口面20aは、外周部が手摺棒固定部11に当接することなく、皿木ねじ30が配置された中心軸線O上近傍における突起部12を支点に傾くことができる。従って、利用者が手摺棒20につかまることで手摺棒20の長手方向中央部に撓み方向の荷重がかかっても、手摺棒20の小口面20aは、皿木ねじ30近傍の突起部12を支点に傾くため、皿木ねじ30に対して引き抜き力がかかるのを抑制することができる。
【0027】
本実施形態では、突起部12に設けられた取り付け穴12aの内径は、皿木ねじ30のねじ部33の外径よりも僅かに大きく形成されている。この構成によって、手摺棒20の小口面20aが突起部12上で傾く際に、皿木ねじ30が取り付け穴12aに当接して小口面20aの傾きが妨げられてしまうのを抑制することができる。
【0028】
回転止め18は、図1B及び図2に示すように、切り欠き部24に対応する周方向位置において、手摺棒固定部11と筒壁部16とを斜めに掛け渡すように設けられており、図2における紙面に垂直方向の幅が切り欠き部24の同方向の幅よりも僅かに狭く形成されている。このような構成によって、手摺棒20を中心軸線O周りに回転させようとしても、回転止め18の側面18aが切り欠き部24の側面24aに当接して手摺棒20の更なる回転を抑制する(図1B等参照)。これによって、手摺棒20の小口面20aを、中心軸線O上の1点のみでブラケット10に固定した場合でも、手摺棒20がブラケット10に対して中心軸線O周りに回転するのを効果的に抑制することができる。この場合、ブラケット10側には回転止め18を一体形成し、手摺棒20側には切り欠き部24を僅かな後加工により形成することができるので、簡素な手段で手摺棒20の中心軸線O周りの回転を抑制することができる。
【0029】
本実施形態では、回転止め18を切り欠き部24内に入り込ませることによって手摺棒20の中心軸線O周りの回転を抑制するように構成したが、この態様には限定されない。例えば、図3Aに示す第1変形例のように、皿木ねじ30(ねじ部33)を中心軸線Oに対して前方(図の上方)にオフセットさせると共に、オフセット方向とは直交する鉛直方向(図の左右方向)における手摺棒20と筒壁部16との径方向の隙間が小さくなるように構成してもよい。このような構成の採用によって、手摺棒20に回転モーメントが加わって手摺棒20が皿木ねじ30及び突起部12を中心に回転しようとすると、手摺棒20の外周面が鉛直方向に近接して配置された筒壁部16に当接してそれ以上手摺棒20が回転するのを阻止する。この場合、ブラケット10に設けられた筒壁部16が回転止めの役割を果たすことになる。
【0030】
また、図3Bに示す第2変形例のように、雌ねじ部19により手摺棒固定部11にねじ係合されたビス35の先端部を、手摺棒20の小口面20aに設けられた有底孔26に進入させてもよい。このような構成によって、手摺棒20が中心軸線O周りに回転しようとすると、手摺棒固定部11に一体化されたビス35の先端部外面が有底孔26の内面に当接することで手摺棒20の回転を抑止するように作用する。なお、ビス35を手摺棒固定部11にねじ係合させる代わりに、手摺棒固定部11から手摺棒20側に突出した凸部が有底孔26に嵌合するように構成してもよい。
【0031】
また、図3Cに示す第3変形例のように、ビス35が手摺棒固定部11に設けられた貫通孔19aを通って手摺棒20側に突出し、ビス35の頭部が手摺棒固定部11から浮いた状態で、ビス35の先端部が手摺棒20の小口面20aにねじ係合されていてもよい。このような構成によって、手摺棒20が中心軸線O周りに回転しようとすると、手摺棒20と一体化されたビス35のねじ部外面が貫通孔19aの内面に当接することで手摺棒20の回転を抑止するように作用する。
【0032】
以上述べたように、本実施形態は、手摺棒20と、手摺棒20の両端を固定すると共に建物の固定部(壁W)に固定されるブラケット10とを備える手摺構造100であって、ブラケット10における手摺棒固定部11には、スペーサを介して手摺棒20の小口面20aが軸状部材(皿木ねじ30)で固定されており、小口面20aと手摺棒固定部11との間の領域であって、スペーサの径方向外側の領域に空間が形成されるように構成した。このような構成の採用によって、スペーサの径方向外側の領域は、手摺棒固定部11と手摺棒20との間の隙間を形成するため、手摺棒20の小口面20aの外周部が手摺棒固定部11に当接することなく、小口面20aが手摺棒固定部11に対して傾くことができる。従って、利用者が手摺棒20につかまることで手摺棒20の長手方向中央部に撓み方向の荷重がかかっても、手摺棒20の小口面20aが手摺棒固定部11に対して傾くときに手摺棒固定部11を押圧する荷重を低減することができる。そのため、当該軸状部材にかかる引き抜き力を低減することができる。
【0033】
また、本実施形態では、スペーサは、手摺棒固定部11において手摺棒20側に突出して設けられた突起部12であるように構成した。このような構成の採用によって、スペーサを手摺棒固定部11と容易に一体化して部品点数や製造工程を少なくすることができる。
【0034】
また、本実施形態では、手摺棒固定部11には、手摺棒20の小口面20aが1つの軸状部材で固定されように構成した。このような構成の採用によって、手摺棒20の長手方向中央部に撓み方向の荷重がかかっても、手摺棒20の小口面20aは、当該1つの軸状部材近傍のスペーサを支点に傾くため、当該1つの軸状部材に対して引き抜き力がかかるのを抑制することができる。
【0035】
また、本実施形態では、ブラケット10は、手摺棒20の軸周り(中心軸線O周り)の回転を抑制する回転止め18を有するように構成した。このような構成の採用によって、手摺棒20の小口面20aが1つの軸状部材で固定される場合でも、手摺棒20の軸周りの回転を抑制して、手摺棒20の長期耐久性を更に向上させることができる。
【0036】
次に、本開示の第2実施形態に係る手摺構造200について、図4等を用いて説明する。図4は、第1実施形態における図2に対応する図面であり、手摺構造200におけるなべ木ねじ130部分の拡大図である。
【0037】
なお、本実施形態は、第1実施形態と比較して、突起部12の代わりにスペーサ112を設けた他は、第1実施形態の構成と近似している。従って、第1実施形態との差異点を中心に説明する。
【0038】
図4に示すように、本実施形態に係る手摺構造200は、利用者が手をかける手摺棒20と、手摺棒20の長手方向両端の小口面20aを固定すると共に建物の壁(図示せず)に固定されるブラケット110とを備えている。
【0039】
ブラケット110は、第1実施形態と同様に手摺棒固定部111を備えており、手摺棒固定部111と手摺棒20の小口面20aとの間には、スペーサ112が配置されている。スペーサ112は、図4に示すように手摺棒20よりも直径が小さく、ブラケット110における手摺棒固定部111と手摺棒20とを手摺棒20の中心軸線Oに沿う方向に離間させる部材である。
【0040】
なべ木ねじ130は、頭部131がなべ型形状を有する木ねじである。図4に示すように、なべ木ねじ130のねじ部133を貫通孔111a及び取り付け穴112aを通して手摺棒20に係合させ、頭部131が手摺棒固定部111に当接することで手摺棒固定部111と手摺棒20とを締結する。
【0041】
スペーサ112は、リング状部材であり、径方向中央部には、なべ木ねじ130を貫通させて手摺棒固定部111と手摺棒20とを固定するための取り付け穴112aが設けられている。なお、本実施形態においても、取り付け穴112aの内径は、なべ木ねじ130のねじ部133の外径よりも僅かに大きく形成されている。スペーサ112の材料には、例えば硬質ゴム等のゴム材料や、合成樹脂、金属等を用いることができる。
【0042】
スペーサ112の外径は、図4に示すように、手摺棒20の外径よりも小さく構成されている。このような構成によって、スペーサ112の径方向外側の領域は、手摺棒固定部111と手摺棒20との間の隙間を形成しており、手摺棒20の小口面20aは、外周部が手摺棒固定部111に当接することなく、なべ木ねじ130の近傍におけるスペーサ112上を支点に傾くことができる。従って、利用者が手摺棒20につかまることで手摺棒20の長手方向中央部に撓み方向の荷重がかかっても、手摺棒20の小口面20aは、なべ木ねじ130が配置されている中心軸線O近傍のスペーサ112を支点に傾くため、なべ木ねじ130に対して引き抜き力がかかるのを抑制することができる。
【0043】
図4に示すように、スペーサ112の外径が手摺棒20の外径より小さくなるようにして、スペーサ112の径方向外側且つ小口面20aの外周端よりも径方向内側の領域に空間が形成されることが好ましいが、この態様には限定されない。スペーサ112の外径が手摺棒20の外径と同じか、又は手摺棒20の外径より大きくてもよい。但し、この場合、スペーサ112は、手摺棒20よりも中心軸線O方向の圧縮剛性が小さいことが必要である。
【0044】
スペーサ112の外径が手摺棒20の外径と同じである場合、手摺棒20の長手方向中央部に撓み方向の荷重がかかると、手摺棒20の小口面20aが傾き、当該荷重方向における手摺棒20の小口面20aの外周部が手摺棒固定部111に近づく。そのため、小口面20aの当該外周部において、スペーサ112が中心軸線O方向に圧縮されるため、その圧縮荷重に相当する引き抜き荷重がなべ木ねじ130に作用する。しかし、当該圧縮荷重は、スペーサ112の中心軸線O方向の圧縮剛性が小さい部材であるほど小さくなる。従って、スペーサ112の材料として、手摺棒20よりも中心軸線O方向の圧縮剛性が小さい部材を選択することによって、手摺棒20の撓み変形に対してなべ木ねじ130にかかる引き抜き荷重を低減することができる。
【0045】
なお、スペーサ112が、手摺棒20よりも中心軸線O方向の圧縮剛性が小さいか否かは、図5に示す測定手段によって測定することができる。
【0046】
圧縮剛性の測定は、互いに固定されていない状態の、手摺棒20と、スペーサ112とを、手摺構造200と同様に手摺棒20の長手方向に直列配置し、高い剛性を備えるブラケット110の代わりに設置した試験用壁TWに対して矢印の向きに所定荷重で押圧する。図5は、手摺棒20とスペーサ112が共に同じ直径Dを有する場合を示している。押圧時に、手摺棒20の軸方向(中心軸線Oに沿う)の長さTがT’に変化し、スペーサ112の軸方向の長さSがS’に変化する場合を考えると、スペーサ112が手摺棒20よりも圧縮剛性が小さいと言えるためには、以下の数式(1)が成立すればよい。
【0047】
【数1】
【0048】
上記の数式(1)の左辺は、手摺棒20の中心軸線Oに沿う方向の圧縮歪み、数式(1)の右辺は、スペーサ112の圧縮歪みである。数式(1)が成立するためには、例えば、スペーサ112の中心軸線O方向の縦弾性係数が手摺棒20の縦弾性係数よりも小さくなるように、スペーサ112及び手摺棒20の材質を選択すればよい。また、所定荷重で押圧したときの圧縮変形は、必ずしも可逆的な弾性変形である必要は無い。スペーサ112は、例えば発泡性部材のように、塑性変形を伴って圧縮変形するものであってもよい。また、スペーサ112は、例えば中心軸線O方向に圧縮変形し易い圧縮コイルばねなど、材料自体の縦弾性係数は小さくないものの、スペーサ112の形状に起因して圧縮剛性が小さくなるように構成されたものであってもよい。
【0049】
以上述べたように、本実施形態は、手摺棒20と、手摺棒20の両端を固定すると共に建物の固定部(壁W)に固定されるブラケット110とを備える手摺構造200であって、ブラケット110における手摺棒固定部111には、スペーサ112を介して手摺棒20の小口面20aが軸状部材(なべ木ねじ130)で固定されており、スペーサ112は、手摺棒20よりも手摺棒20の軸方向(中心軸線Oに沿う方向)の圧縮剛性が小さくなるように構成した。このような構成の採用によって、スペーサ112が手摺棒20よりも中心軸線Oに沿う方向に圧縮変形し易いため、手摺棒20の撓みに伴う小口面20aの傾きによりスペーサ112が中心軸線O方向に圧縮される。すると、圧縮荷重に相当する引き抜き荷重がなべ木ねじ130に作用するが、当該圧縮荷重は、スペーサ112の中心軸線O方向の圧縮剛性が小さいほど小さくなる。従って、スペーサ112の材料として、手摺棒20よりも中心軸線O方向に圧縮剛性が小さく圧縮変形し易い部材を選択することによって、手摺棒20の撓み変形に対してなべ木ねじ130にかかる引き抜き荷重を低減することができる。この効果は、スペーサ112の外径が手摺棒20の外径と同一、又は手摺棒20の外径よりも大きい場合であっても得ることができる。
【0050】
また、本実施形態では、スペーサ112は、手摺棒20の軸方向における縦弾性係数が手摺棒20よりも小さくなるように構成した。このような構成の採用によって、例えば硬質ゴム製のOリングなど、素材として圧縮変形し易く量産性の高い部材をスペーサ112に採用して手摺構造200を安価に製造することができる。
【0051】
本開示を諸図面および実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形または修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形または修正は本発明の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部に含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部を1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【0052】
例えば、実施形態1及び2では、1本の皿木ねじ30又はなべ木ねじ130を用いて手摺棒20をブラケット10,110に取り付けるように構成したが、この態様には限定されない。2本以上の皿木ねじ30等を用いて手摺棒20をブラケット10,110に取り付けるようにしてもよい。例えば、2本の皿木ねじ30等を用いる場合、手摺棒20に最も高い頻度で荷重がかかる方向とは直交する方向に2本の皿木ねじ30が並ぶように配置することが好ましい。更に、軸状部材についても、皿木ねじ30、なべ木ねじ130に限られず、ビスやボルトなど別の軸状部材を用いてもよい。
【符号の説明】
【0053】
10 ブラケット
11 手摺棒固定部
12 突起部(スペーサ)
12a 取り付け穴
13 上壁
14 前壁
15 基部
16 筒壁部
18 回転止め
18a 側面
19 雌ねじ部
19a 貫通孔
20 手摺棒
20a 小口面
22 下穴
24 切り欠き部
24a 側面
26 有底孔
30 皿木ねじ(軸状部材)
31 頭部
33 ねじ部
35 ビス
100,200 手摺構造
110 ブラケット
111 手摺棒固定部
111a 貫通孔
112 スペーサ
112a 取り付け穴
130 なべ木ねじ(軸状部材)
131 頭部
133 ねじ部
O 中心軸線
TW 試験用壁
W 壁
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5