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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】ランプユニット、車両用灯具システム
(51)【国際特許分類】
   F21S 41/20 20180101AFI20240311BHJP
   G02F 1/13 20060101ALI20240311BHJP
   G02F 1/13363 20060101ALI20240311BHJP
   G02F 1/1335 20060101ALI20240311BHJP
   F21S 41/151 20180101ALI20240311BHJP
   F21S 41/25 20180101ALI20240311BHJP
   F21S 41/64 20180101ALI20240311BHJP
   F21S 45/50 20180101ALI20240311BHJP
   F21V 9/14 20060101ALI20240311BHJP
   F21V 9/40 20180101ALI20240311BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20240311BHJP
   F21W 102/10 20180101ALN20240311BHJP
   F21Y 115/10 20160101ALN20240311BHJP
【FI】
F21S41/20
G02F1/13 505
G02F1/13363
G02F1/1335 510
F21S41/151
F21S41/25
F21S41/64
F21S45/50
F21V9/14
F21V9/40 400
G02B5/30
F21W102:10
F21Y115:10
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020045187
(22)【出願日】2020-03-16
(65)【公開番号】P2021150016
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】都甲 康夫
【審査官】野木 新治
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-050134(JP,A)
【文献】特開2004-177672(JP,A)
【文献】特開平11-052357(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F21S 41/20
G02F 1/13
G02F 1/13363
G02F 1/1335
F21S 41/151
F21S 41/25
F21S 41/64
F21S 45/50
F21V 9/14
F21V 9/40
G02B 5/30
F21W 102/10
F21Y 115/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
前記光源により生成された光の第1成分を反射して当該光の第2成分を透過させる光分岐素子と、
前記第2成分の偏光方向を変化させる光変調素子と、
前記第1成分と前記偏光方向の変化した前記第2成分がともに入射し、当該第1成分及び第2成分を用いて画像を生成する画像生成素子と、
前記画像生成素子によって生成される前記画像を車両周辺へ投影するレンズと、
を含み、
前記光分岐素子と前記光変調素子は一体の光学素子として構成されており、
前記光学素子は、
対向配置された第1基板及び第2基板と、
前記第1基板の前記第2基板と対向する側の一面において接着層を介して設けられており、前記光分岐素子として機能する光学膜と、
前記第2基板の前記第1基板と対向する一面に設けられた配向膜と、
前記第1基板と前記第2基板の各前記一面の間において前記光学膜と前記配向膜の間に設けられており、前記光変調素子として機能する液晶性媒体と、
前記第1基板と前記第2基板の各前記一面の間において、前記光学膜、前記配向膜及び前記液晶性媒体を囲んで設けられており、前記光学膜及び前記配向膜を介在させることなく前記第1基板と前記第2基板の各前記一面側と固着したシール材と、
を有
前記光学膜は、一軸延伸されたものであり、前記液晶性媒体は、少なくとも前記光学膜と接する界面近傍において前記光学膜の延伸方向に液晶分子が配向している、
車両用ランプユニット。
【請求項2】
前記光学膜と前記液晶性媒体が直接的に接している、
請求項1に記載の車両用ランプユニット。
【請求項3】
前記光学膜には配向処理が行われており、前記配向処理の方向が前記延伸方向と略平行である、
請求項1又は2に記載の車両用ランプユニット。
【請求項4】
前記配向膜は、一軸配向規制力を有しており、
前記光学膜の延伸方向と前記配向膜の一軸配向規制力の方向とが略直交するように前記光学膜と前記配向膜とが配置されている、
請求項1又は2に記載の車両用ランプユニット。
【請求項5】
前記配向膜は、一軸配向規制力を有しており、
前記光学膜の延伸方向と前記配向膜の一軸配向規制力の方向とが略反平行又は略平行となるように前記光学膜と前記配向膜とが配置されている、
請求項1又は2に記載の車両用ランプユニット。
【請求項6】
前記液晶性媒体は、その一部又は全部がポリマー化されている、
請求項1~5の何れか1項に記載の車両用ランプユニット。
【請求項7】
前記光変調素子は、旋光性を有する素子、1/2波長素子又は1/4波長素子の何れかである、
請求項1~6の何れか1項に記載の車両用ランプユニット。
【請求項8】
請求項1~7の何れか1項に記載の車両用ランプユニットと、当該車両用ランプユニットの動作を制御する制御部を含む、車両用灯具システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両の前方に所望の配光パターンによる光を照射する車両用灯具システム等に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2018-185896号公報(特許文献1)には、光源と、光源からの光が入射する位置に配置される反射偏光板と、反射偏光板により生じる反射光を反射して当該反射偏光板へ再入射させる反射鏡と、反射偏光板の光出射面側に配置される液晶素子と、液晶素子の光出射面側に配置される偏光板と、偏光板の光出射面側に配置される投影レンズと、反射偏光板と反射鏡との間に配置される位相差板を含むランプユニット並びにこれを用いる車両用灯具システムが記載されている。上記構成によれば、液晶素子を用いて選択的な光照射を行う車両用灯具システムにおける光利用効率を高めることができる。
【0003】
ところで、上記した従来の車両用灯具システムでは、反射偏光板としてワイヤーグリッド偏光板を用いることで耐熱性など信頼性をより高めることが可能であるが、一般にワイヤーグリッド偏光板は比較的高価であるため、車両用灯具システム全体のコスト増加を招く。他方で、反射偏光板として、より安価な光学多層膜からなるフィルム状のもの用いることも考えられる。この場合、一般にワイヤーグリッド偏光板などの無機材料からなる反射偏光板に比べてより高い性能が得られるが、耐熱性や耐湿性の観点では不利であり、信頼性を高めるのが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-185896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明に係る具体的態様は、光利用効率が高く、信頼性に優れ、かつコスト低減を図ることが可能なランプユニット並びに車両用灯具システムを提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]本発明に係る一態様の車両用ランプユニットは、(a)光源と、(b)前記光源により生成された光の第1成分を反射して当該光の第2成分を透過させる光分岐素子と、(c)前記第2成分の偏光方向を変化させる光変調素子と、(d)前記第1成分と前記偏光方向の変化した前記第2成分がともに入射し、当該第1成分及び第2成分を用いて画像を生成する画像生成素子と、(e)前記画像生成素子によって生成される前記画像を車両周辺へ投影するレンズと、を含み、(f)前記光分岐素子と前記光変調素子は一体の光学素子として構成されており、(g)前記光学素子は、(g1)対向配置された第1基板及び第2基板と、(g2)前記第1基板の前記第2基板と対向する側の一面において接着層を介して設けられており、前記光分岐素子として機能する光学膜と、(g3)前記第2基板の前記第1基板と対向する一面に設けられた配向膜と、(g4)前記第1基板と前記第2基板の各前記一面の間において前記光学膜と前記配向膜の間に設けられており、前記光変調素子として機能する液晶性媒体と、(g5)前記第1基板と前記第2基板の各前記一面の間において、前記光学膜、前記配向膜及び前記液晶性媒体を囲んで設けられており、前記光学膜及び前記配向膜を介在させることなく前記第1基板と前記第2基板の各前記一面側と固着したシール材と、を有(h)前記光学膜は、一軸延伸されたものであり、前記液晶性媒体は、少なくとも前記光学膜と接する界面近傍において前記光学膜の延伸方向に液晶分子が配向している、車両用ランプユニットである。
[2]本発明に係る車両用灯具システムは、上記の車両用ランプユニットと、当該車両用ランプユニットの動作を制御する制御部を含む、車両用灯具システムである。
【0007】
上記構成によれば、光利用効率が高く、信頼性に優れ、かつコスト低減を図ることが可能なランプユニット並びに車両用灯具システムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、一実施形態の車両用灯具システムの構成を示す図である。
図2図2(A)は、光学素子の構成を示す模式的な平面図である。図2(B)は、光学素子の模式的な断面図である。
図3図3は、光学素子の製造方法の一例を説明するための図である。
図4図4(A)、図4(B)は、光学素子の製造方法の一例を説明するための図である。
図5図5(A)、図5(B)は、光学素子の製造方法の一例を説明するための図である。
図6図6は、光学素子の製造方法の一例を説明するための図である。
図7図7(A)、図7(B)は、光学素子の製造方法の一例を説明するための図である。
図8図8(A)、図8(B)、図8(C)は、光学素子の製造方法の一例を説明するための図である。
図9図9は、変形例の車両用灯具システムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、一実施形態の車両用灯具システムの構成を示す図である。図示の車両用灯具システムは、例えば車両の前方へ所定の配光パターンによる照射光を形成するために用いられるものであり、光源1、凹面リフレクタ(第1反射板)2、光学素子3、リフレクタ(第2反射板)4、液晶素子5、一対の偏光板6a、6b、投影レンズ7、制御部8、カメラ9を含んで構成されている。この車両用灯具システムは、光学素子3によって分離される2つの偏光のいずれも照射光の形成に利用することができるので光利用効率が高い。なお、光源1、凹面リフレクタ(第1反射板)2、光学素子3、リフレクタ(第2反射板)4、液晶素子5、一対の偏光板6a、6b、投影レンズ7を含んで「車両用ランプユニット」が構成されている。
【0010】
光源1は、例えば白色光を放射するLED(light emitting diode)とその駆動回路を含んで構成されている。光源1に含まれるLEDのチップ数は1つでもよいし、複数でもよい。複数のLEDを並べる場合には、図1の紙面と直交する方向(奥行き方向)に一列もしくは複数列で各LEDを配置することが望ましい。例えば本実施形態では、2列構成とし、各列について奥行き方向に4つのLEDを並べて構成された光源1を用いる。
【0011】
凹面リフレクタ2は、光源1によって生成される光を反射し、集光して光学素子3へ入射させる。なお、凹面リフレクタ2に代えてレンズを配置して光源1からの光を集光してもよい。
【0012】
光学素子3は、光源1によって生成されて凹面リフレクタ2を介して入射する光を2つの偏光に分離して一方の偏光(第1成分)を反射させて他方の偏光(第2成分)を透過させる偏光ビームスプリッタ(光分岐素子)としての機能と、透過した一方の偏光の偏光方向を90°回転させる光変調素子としての機能を有する。光学素子3によって反射された偏光は液晶素子5へ入射する。
【0013】
リフレクタ4は、光学素子3を透過した偏光を反射し、集光して液晶素子5へ入射させる。なお、リフレクタ4に代えてレンズを配置して光源1からの光を集光してもよい。
【0014】
液晶素子5は、一対の偏光板6a、6bに挟まれて配置されており、入射する光を画素領域ごとに個別に透過または遮断させることにより所望の画像を形成する。本実施形態では、液晶素子5は、その基板上にドライバICが実装されている。液晶素子5としては、例えば一軸配向の垂直配向モードの液晶層を備える液晶素子を用いることができる。なお、本実施形態では液晶素子5と一対の偏光板6a、6bが「画像生成素子」に対応する。
【0015】
一対の偏光板6a、6bは、それぞれ例えば一般的な有機物を用いた偏光板(ヨウ素系または染料系)であり、例えば互いの偏光軸(吸収軸ないし透過軸)を略直交させるように配置されている。なお、各偏光板6a、6bとして他の構造のもの(例えばワイヤーグリッド型偏光板、光学多層膜型偏光板)が用いられてもよい。
【0016】
投影レンズ7は、特定の距離に焦点を持つ反転投影型のプロジェクタレンズであり、液晶素子5および一対の偏光板6a、6bによって生成された画像を車両周辺(本実施形態では車両前方)へ投影する。この投影レンズ7は、入射する光の角度に応じてN/A(開口数)が設定されている。投影レンズ7の中心線に対してそれぞれ最も傾斜して入射する光の角度をθとすると、N/Aはsinθとなる。
【0017】
制御部8は、カメラ9によって撮影される車両周辺の画像を用いて画像処理を行うことにより前方車両などの対象物を検知し、例えば前方車両の存在する領域は減光ないし遮光し、それ以外の領域には光を照射するような配光パターンを設定する。そして、制御部8は、その配光パターンを実現するための画像を液晶素子5に形成させる制御信号を生成して液晶素子5へ供給する。
【0018】
図2(A)は、光学素子の構成を示す模式的な平面図である。図2(B)は、光学素子の模式的な断面図である。図2(B)の断面図は図2(A)に示すa-a線における断面に対応するものである。
【0019】
光学素子3は、上基板(第1基板)11、下基板(第2基板)12、光学膜13、接着層14、配向膜15、液晶性媒体(液晶層)16、シール材17および封止材18を含んで構成されている。
【0020】
上基板11と下基板12は、それぞれ例えばガラス基板などの透光性基板であり、互いに対向して配置されている。
【0021】
光学膜13は、光学多層膜からなる反射偏光フィルムである。図2(B)に示すように、光学膜13は、光源1から入射する光Lを2つの偏光L1、L2に分離する。一方の偏光L1は光学膜13を透過し、他方の偏光L2は光学膜13によって反射される。すなわち、光学膜13は偏光ビームスプリッタとしての機能を奏する。光学膜13としては、例えば国際公開第2012/173170号に開示されている一軸延伸された光学多層膜からなる反射偏光フィルム(一軸延伸多層積層フィルム)を用いることができる。
【0022】
接着層14は、反射偏光フィルムからなる光学膜13を上基板11に固定するためのものであり、上基板11と光学膜13との間に介在している。接着層14は、透光性を有する材料からなる。
【0023】
配向膜15は、液晶性媒体16の液晶分子に対して一軸配向規制力を与えるためのものである。本実施形態では、配向膜15として一軸配向処理の施された水平配向膜が用いられている。
【0024】
液晶性媒体16は、流動性を有するネマティック液晶材料を用いて構成されており、上基板11と下基板12の間に設けられている。詳細には、液晶性媒体16は、上基板11の光学膜13と下基板12の配向膜15との間に設けられており、光学膜13と直接的に接している。本実施形態の液晶性媒体16は、モーガン条件を満たして旋光性を有するように設定されたTN(捻れネマティック)配向に構成されている。このような構成により、入射する偏光L1の偏光方向に対して入射側の配向方向が略直交または略並行となるようにすることで偏光L1の偏光方向を90°回転させることができる。なお、液晶性媒体16は、例えばホモジニアス配向とされ、その層厚と液晶材料の屈折率異方性Δnで定まる位相差を所定値としてλ/2板(光変調素子である1/2波長素子)としての機能を奏するように構成されていてもよい。
【0025】
シール材17は、液晶性媒体16を封止するとともに上基板11と下基板12を固定するためのものであり上基板11と下基板12の外縁に沿って液晶性媒体16を囲むように設けられている。図2(A)ではシール材17の形成される範囲を分かりやすくするために模様を付して示している。本実施形態では、シール材17は、光学膜13、接着層14、配向膜15を介在させることなく上基板11および下基板12のそれぞれと直接的に接するように設けられている。
【0026】
封止材18は、液晶材料を注入する際に用いるためにシール材17に設けられた開口部19を塞ぐためのものである。
【0027】
本実施形態の光学素子3は、上基板11、下基板12、液晶性媒体16およびシール材17によって光学膜13が囲まれる構造となるので、光学膜13が外部の湿度の影響を受けにくい。このため、比較的に安価な反射偏光フィルムを用いた場合でも信頼性(耐湿性)を高めることができる。また、光変調素子として機能する液晶性媒体16も一体に形成されているので、部品点数を削減できる。さらに、この光学素子3は、従来の一般的な液晶素子の製造工程と同様な構成にて製造することができるので量産性がよく製造コストを低減できる。以下に、光学素子3の製造方法の一例について図3図8を参照しながら詳細に説明する。
【0028】
図3に示すように、大基板111の一面(内側面)に、それぞれ接着層14を介在させて複数の光学膜13を貼り合わせる。大基板111は、後の工程において分割されてそれぞれ複数の上基板11となるものである。各光学膜13は、予め裏側に接着層14をコーティングしてあるものを用い、それぞれ所定の大きさにカットされたものを大基板111に貼り合わせる。また、オートクレイブ処理を行うことで光学膜13の貼り付け後の気泡を除去する。図示のように、大基板111の四隅には、ITO膜や金属膜などからなる位置合わせ用マーク120を設けてもよい。
【0029】
なお、大基板111の他面(外側面)には、酸化シリコン膜などのアルカリブロッキング膜を設けることも好ましい。また、大基板111の他面には、反射防止膜およびアルカリブロッキング膜として、屈折率の低い酸化シリコン膜や屈折率の高い金属酸化膜(例えば酸化タンタル膜など)を複数層設けることも好ましい。さらに、大基板111の一面にも酸化シリコン膜などのアルカリブロッキング膜を設けてもよい。
【0030】
図4(A)は、図3に示した大基板111の一部を拡大して示すものである。図4(A)に示すように、光学膜13に対してラビング処理(配向処理)を行う。本実施形態では、ラビング方向121は、例えば図中の右へ向かう方向であるとする。このとき、光学膜13として一軸延伸されたものを用いている場合には、その延伸方向122とラビング方向121と略平行であることが望ましい。これにより、光学膜13には延伸方向に沿った一軸配向規制力が発生する。
【0031】
図4(B)は、後の工程においてカットされて複数の下基板12となるべき大基板112の一部を拡大して示すものである。図示のように、大基板112には、ITO膜や金属膜などからなる位置合わせ用マーク130が設けられていてもよい。図4(B)に示すように、大基板112の一面(内側面)に複数の配向膜15を形成する。具体的には、例えばフレキソ印刷などの方法でポリイミドからなる水平配向膜材料を塗布し、180℃~250℃程度の温度による焼成が行われる。その後、各配向膜15に対してラビング処理(配向処理)を行う。本実施形態では、ラビング方向131は、例えば、図中の下へ向かう方向であるとする。これにより、各配向膜15にはラビング方向131に沿った一軸配向規制力が発生する。
【0032】
次に、図5(A)に示すように、大基板111の一面にギャップ材20を散布する。ギャップ材20は、上基板11と下基板12の間を所定間隔に保つためのものであり、例えば、概ね1.5μm~50μmの粒径を有する球状のものが用いられる。本実施形態では粒径が18μmのギャップ材20を用いるものとする。このとき、液晶性媒体16をTN配向にする場合には、モーガン条件を満たすようにギャップ材20の粒径を設定する。なお、液晶性媒体16をホモジニアス配向とする場合には、550nmの光波長におけるλ/2板として機能させるために、液晶性媒体16の位相差が225nmとなるように液晶材料のΔnとの関係でギャップ材20の粒径を設定する。
【0033】
なお、ギャップ材20の粒径(すなわち液晶性媒体16の層厚)が大きいほどλ/2板としての性能は高くなる傾向にあるが、他方でギャップ材20の粒径が50μm以上となると散乱などにより光学的性能に影響が出る可能性もある。このため、ギャップ材20の粒径は50μmより小さい範囲で設定することが好ましい。
【0034】
また、図5(B)に示すように、大基板112の一面に、各配向膜15を囲むようにして複数のシール材17を形成する。シール材17としては、例えば、紫外線と熱により硬化するタイプのアクリレート樹脂を用いることができる。シール材17の形成は、例えばスクリーン印刷やディスペンサ印刷などの方法によって行うことができる。また、シール材17に対してギャップコントロール材を添加してもよい。詳細には、光学膜13の膜厚と大基板111に散布したギャップ材20の粒径を足した大きさの粒径を有するギャップコントロール材を添加することが望ましい。例えば、光学膜13の膜厚が60μmであるとすると、約80μmの粒径のギャップコントロール材を添加するとよい。また、シール材17は、光学膜13等と重ならないように設けることが望ましい。
【0035】
次に、図6に示すように大基板111と大基板112の各々の一面(内側面)が向かい合うようにして両者を重ね合わせる。このとき、液晶性媒体16をTN配向とするには、ラビング方向121とラビング方向131とが略直交するように大基板111と大基板112を向かい合わせる。なお、液晶性媒体16をホモジニアスとするには、ラビング方向121とラビング方向131とが略平行になるように予め大基板111と大基板112のそれぞれにおけるラビング方向を設定しておく。図6では、重ね合わせたものを大基板112の他面側から見た様子が示されている。大基板111と大基板112のアライメント調整は位置合わせ用マーク120、130を用いて行うことができる。このとき、予め点状に設けておいた紫外線硬化樹脂140に紫外線を照射することで、大基板111と大基板112の相互の位置関係を固定することができる。
【0036】
その後、大基板111と大基板112を透明な平板(石英、ガラス等)でプレスした状態でこれら全体に紫外線を照射することで、各シール材17を硬化させて大基板111、112に強く接着させる。なお、透明なフィルムを用いて大基板111、112を真空パックし、その状態で紫外線の照射を行ってもよい。
【0037】
なお、各シール材17を硬化させることにより各シール材17の幅が少し広がる場合があるが、その場合でも各シール材17が各光学膜13と重ならないように、各シール材17の形成条件を設定することが望ましい。また、各シール材17が部分的に各光学膜13と重なったとしても、シール材17の形成範囲より外側に光学膜13がはみ出すことのないように、各シール材17の形成条件を設定することが望ましい。
【0038】
次に、図7(A)に示すように、大基板111、112の各々の他面(外側面)に複数のスクライブ線141、142を設ける。これらのスクライブ線141、142は、最終的に各々が光学素子3となる領域ごとに大基板111、112を分割できるように設けられる。スクライブ線141、142の形成は、例えばダイヤモンドホイールを用いたスクライブ機によって行うことができる。
【0039】
次に、図7(B)に示すように、図中縦方向の各スクライブ線142に沿って大基板111、112を分割して短冊状のセル113を形成する。これにより、各注入口19が露出する。このような分割(ブレイキング)は、例えばブレイキング機を用いて行うことができる。
【0040】
次に、図8(A)に示すように、注入機の注入タンク150に液晶材料151を満たし、セル113の各注入口19と注入タンク150の位置合わせを行う。そして、注入機のチャンバー内を真空(低圧)状態にして液晶材料151の脱泡を行う。その後、図8(B)に示すように、真空状態にてセル113の各注入口19を液晶材料151に接触させた状態にして、チャンバー内を大気圧に戻すことで、セル113の各シール材17で囲まれた領域内に液晶材料151が充填される。
【0041】
次に、セル113の各注入口19を封止材18によって封止し、スクライブ線141に沿ってセル113を分割することによって図8(C)に示すような光学素子3が得られる。具体的には、各注入口19に封止材18を塗布し、少しセル113の内部へ封止材18が進入するまで放置した後に、紫外線照射を行って封止材18を硬化させる。なお、必要に応じて光学素子3の洗浄や面取りなどを行ってもよい。
【0042】
本実施形態の光学素子3は、基板面法線方向における偏光板としての機能は光学膜13を単体で用いた場合と遜色ない。また、基板面法線方向から角度を持たせた方向においても偏光板としての機能(クロスニコル時の遮光性)が高い。これは、スネルの法則により、基板に入射した光の角度が変化するためである。例えば光学膜13を単体で2つ用いて基板面法線方向から30°の角度を持たせて光を入射させた際のクロスニコル時の遮光性と、光学素子3を2つ用いて基板面法線方向から19°の角度を持たせて光を入射させた際のクロスニコル時の遮光性とがほぼ同じである。このことから光学素子3の偏光板としての性能が高いことが分かる。
【0043】
また、本実施形態の光学素子3は、上基板11、下基板12、液晶性媒体16およびシール材17によって光学膜13を保護していることから、光学膜13を単体で用いる場合に比較して信頼性も高い。例えば、光学膜13を単体にて、高温高湿(85℃、85%)の信頼性試験を行った場合には、24時間程度の試験時間で偏光板としての機能の劣化(遮光率低下、反射ムラ)が見られた。これに対して本実施形態の光学素子3は、その製造条件にもよるが4000時間以上の試験時間でも劣化が見られなかった。別の比較例として、光学膜13を単にガラス基板で挟んだのみでシール材によって囲んでいない構造のものに対して信頼性試験を行った場合には、1500時間程度で劣化が見られた。
【0044】
また、本実施形態の光学素子3は、製造コストの面でも優位性がある。具体的には、上記で例示したように大基板から一括で製作して最後に分割するという製造方法を採ることができるので、1つ1つの製造コストを抑えることができる。これに対して、例えば無機材料を用いたワイヤーグリッド偏光板や無機材料を用いた広帯域波長板は、信頼性が高いものの高価であり、また大面積で性能の均一なものを得ることが難しいことから必要な面積が大きくなると価格が急激に上昇するという不都合がある。
【0045】
また、本実施形態の光学素子3は、λ/2板としての機能する液晶性媒体16と偏光ビームスプリッタとして機能する光学膜13とが上基板11と下基板12の間で互いに直接的に接して一体化されているので、表面反射などによる反射ロスが抑えられる。さらに、光学膜13として有機材料系のものを用いることができるので、無機材料からなる偏光ビームスプリッタに比べて高い性能を得ることができる。
【0046】
以上のような実施形態の構成によれば、光利用効率が高く、かつ信頼性に優れた車両用灯具システムを得ることができる。
【0047】
なお、本発明は上記した実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。例えば、上記した実施形態の光学素子3における液晶性媒体16としてポリマー化(高分子安定化)した液晶性媒体を用いてもよい。この場合には、液晶材料として光重合可能な基を有する液晶性モノマーを注入し(図8(B)参照)、その後に紫外線等の光を照射することによって硬化させるとよい。この場合、例えば封止材19の形成(図8(C)参照)と同時に光照射を行うことができる。液晶性媒体16の一部ないし全部をポリマー化することにより、耐熱性や長期信頼性をより高めることができる。
【0048】
また、車両用灯具システムの構成は上記した実施形態のものに限定されず種々に変更し得る。図9は、変形例の車両用灯具システムの構成を示す図である。図9に示す車両用灯具システムは、光源201、コリメートレンズ202、光学素子203、反射板204、液晶素子205、偏光板206、投影レンズ207、制御部208、カメラ209を含んで構成されている。なお、上記した実施形態と機能の共通する構成については同一名称を用いた上で詳細な説明を省略する。
【0049】
図9に示す変形例の車両用灯具システムでは、光源201により生成される光をコリメートレンズ202によって集光して略平行光に変換して光学素子203に入射させる。光学素子203は、上記した実施形態の光学素子3と同一の構成を有しており(図2参照)、下基板12が光源201と対向するように配置されている。また、液晶性媒体16は、例えばホモジニアス配向であり、液晶材料のΔnと層厚の積であるΔn・dが概ね135nmになるように設定されている。それにより、液晶性媒体16は、λ/4板(位相差素子である1/4波長素子)として機能する。また、液晶性媒体16の配向方向は、光学膜13の透過軸もしくは反射軸と45°ずれた方向に設定される。なお、液晶性媒体16は、3λ/4板や5λ/4板など、λ/4と機能的に等価なものとなるようにΔn・dが設定されてもよい。例えば、Δn・dを概ね410nmになるように設定すれば3λ/4板としての機能が得られる。
【0050】
このような配置により、光学素子203に入射した光は、液晶性媒体16を透過し、光学膜13において2つの偏光に分離される。分離された一方の偏光は、反射光として液晶性媒体16を透過することで円偏光となり、反射板204で反射されて再び液晶性媒体16と通過することで、分離された一方の偏光の偏光方向から90°回転した偏光となる。この偏光が光学膜13へ再入射すると光学膜13を透過できるので、結果として、ほとんどの光の成分が光学素子203を透過するようになる。
【0051】
このような変形例の構成によっても、光利用効率が高く、かつ信頼性に優れた車両用灯具システムを得ることができる。
【符号の説明】
【0052】
1:光源、2:凹面リフレクタ、3:光学素子、4:リフレクタ、5:液晶素子、6a、6b:偏光板、7:投影レンズ、8:制御部、9:カメラ、11:上基板(第1基板)、12:下基板(第2基板)、13:光学膜、14:接着層、15:配向膜、16:液晶性媒体、17:シール材、18:封止材、19:注入口
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9