(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/17 20060101AFI20240311BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240311BHJP
B41J 2/195 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
B41J2/17
B41J2/01 451
B41J2/195
B41J2/01 213
(21)【出願番号】P 2020056273
(22)【出願日】2020-03-26
【審査請求日】2023-03-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川藤 洋志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 一生
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 武史
(72)【発明者】
【氏名】平 寛史
(72)【発明者】
【氏名】山室 友生
(72)【発明者】
【氏名】茂木 紗衣
(72)【発明者】
【氏名】新田 正樹
【審査官】牧島 元
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-057904(JP,A)
【文献】特開2013-215951(JP,A)
【文献】特開2004-160685(JP,A)
【文献】特開平10-016228(JP,A)
【文献】特開2003-039642(JP,A)
【文献】特開2016-020028(JP,A)
【文献】特開2014-104621(JP,A)
【文献】特開2020-019858(JP,A)
【文献】特開2008-230161(JP,A)
【文献】米国特許第06398333(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録データに従ってインクを吐出する記録ヘッドを主走査方向に走査させることにより、記録媒体に対する記録走査を行う記録走査手段と、
前記記録媒体を前記主走査方向と交差する方向に搬送する搬送手段と、
前記記録走査のそれぞれが行われる前に、前記記録ヘッドを加熱する加熱手段と、
前記記録走査手段、前記搬送手段及び前記加熱手段を制御する制御手段と
を備え、前記記録走査手段による前記記録走査と前記搬送手段による前記搬送を交互に行うことにより前記記録媒体に画像を記録するインクジェット記録装置であって、
前記制御手段は、前記記録媒体が第1の記録媒体である場合、前記記録走査のそれぞれが行われる前に、前記記録ヘッドを第1目標温度まで加熱し、
前記制御手段は、前記記録媒体が第2の記録媒体である場合、前記記録走査のそれぞれが行われる前に、前記記録ヘッドを前記第1目標温度よりも低い第2目標温度まで加熱
し、且つ、前記記録媒体に対する最初の記録走査が行われる前に、前記記録ヘッドを前記第2目標温度よりも高い第3目標温度まで加熱することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
記録データに従ってインクを吐出する記録ヘッドを主走査方向に走査させることにより、記録媒体に対する記録走査を行う記録走査手段と、
前記記録媒体を前記主走査方向と交差する方向に搬送する搬送手段と、
前記記録走査のそれぞれが行われる前に、前記記録ヘッドを加熱する加熱手段と、
前記記録走査手段、前記搬送手段及び前記加熱手段を制御する制御手段と
を備え、前記記録走査手段による前記記録走査と前記搬送手段による前記搬送を交互に行うことにより前記記録媒体に画像を記録するインクジェット記録装置であって、
前記制御手段は、前記記録媒体に対する最初の記録走査が行われる前に、前記記録ヘッドを第1目標温度まで加熱し、前記記録媒体に対する2回目以降の記録走査のそれぞれが行われる前に、前記記録ヘッドを第2目標温度まで加熱し、
前記記録媒体が第1の記録媒体である場合、前記第1目標温度と前記第2目標温度は等しく、前記記録媒体が第2の記録媒体である場合、前記第1目標温度は前記第2目標温度よりも高いことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項3】
記録データに従ってインクを吐出する記録ヘッドを主走査方向に走査させることにより、記録媒体に対する記録走査を行う記録走査手段と、
前記記録媒体を前記主走査方向と交差する方向に搬送する搬送手段と、
前記記録走査のそれぞれが行われる前に、前記記録ヘッドを加熱する加熱手段と、
前記記録走査手段、前記搬送手段及び前記加熱手段を制御する制御手段と
を備え、前記記録走査手段による前記記録走査と前記搬送手段による前記搬送を交互に行うことにより前記記録媒体に画像を記録するインクジェット記録装置であって、
前記制御手段は、前記記録媒体が第1の記録媒体である場合、前記記録走査のそれぞれが行われる前に、第1の制限時間の範囲で前記記録ヘッドを所定の温度を目標として加熱し、前記記録媒体が第2の記録媒体である場合、前記記録走査のそれぞれが行われる前に、前記第1の制限時間よりも短い第2の制限時間の範囲で前記記録ヘッドを前記所定の温度を目標として加熱することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記制御手段は、
前記記録媒体に対する最初の記録走査が行われる前に、前記第2の制限時間よりも長い第3の制限時間の範囲で前記記録ヘッドを加熱することを特徴とする
請求項3に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記制御手段は、
N回目の前記記録走査が行われる前に、前記第2の制限時間の範囲で前記記録ヘッドを前記所定の温度まで加熱できなかった場合、
N+1回目の前記記録走査が行われる前に前記加熱手段が前記記録ヘッドに付与する熱エネルギを、N回目の前記記録走査が行われる前に前記加熱手段が前記記録ヘッドに付与した熱エネルギよりも大きくすることを特徴とする
請求項3または4に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記制御手段は、
前記記録媒体に対する最初の記録走査が行われる前の前記記録ヘッドの検出温度が所定の充足温度よりも高い場合、前記加熱手段による加熱を介在させることなく、前記記録走査手段による前記記録走査と前記搬送手段による前記搬送とを交互に行い、
前記記録媒体に対する最初の記録走査が行われる前の前記記録ヘッドの検出温度が前記所定の充足温度よりも低い場合、前記記録走査のそれぞれが行われる前に、前記第2の制限時間の範囲で前記記録ヘッドを前記所定の温度を目標として加熱し、前記第2の制限時間が経過した後に前記記録走査を開始させることを特徴とする
請求項3から5のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記第1の記録媒体は普通紙またはコート紙であり、前記第2の記録媒体は光沢紙であることを特徴とする
請求項1から6のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
記録データに従ってインクを吐出する記録ヘッドを主走査方向に走査させることにより、記録媒体に対する記録走査を行う記録走査手段と、
前記記録媒体を前記主走査方向と交差する方向に搬送する搬送手段と、
前記記録走査のそれぞれが行われる前に、前記記録ヘッドを加熱する加熱手段と、
前記記録走査手段、前記搬送手段及び前記加熱手段を制御する制御手段と
を備え、前記記録走査手段による前記記録走査と前記搬送手段による前記搬送を交互に行うことにより前記記録媒体に画像を記録するインクジェット記録装置であって、
前記制御手段は、前記インクが第1のインクである場合、前記記録走査のそれぞれが行われる前に、前記記録ヘッドを第1目標温度まで加熱し、
前記インクが第2のインクである場合、前記記録走査のそれぞれが行われる前に、前記記録ヘッドを前記第1目標温度よりも低い第2目標温度まで加熱
し、且つ、前記記録媒体に対する最初の記録走査が行われる前に、前記記録ヘッドを前記第2目標温度よりも高い第3目標温度まで加熱することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項9】
記録データに従ってインクを吐出する記録ヘッドを主走査方向に走査させることにより、記録媒体に対する記録走査を行う記録走査手段と、
前記記録媒体を前記主走査方向と交差する方向に搬送する搬送手段と、
前記記録走査のそれぞれが行われる前に、前記記録ヘッドを加熱する加熱手段と、
前記記録走査手段、前記搬送手段及び前記加熱手段を制御する制御手段と
を備え、前記記録走査手段による前記記録走査と前記搬送手段による前記搬送を交互に行うことにより前記記録媒体に画像を記録するインクジェット記録装置であって、
前記制御手段は、前記記録媒体に対する最初の記録走査が行われる前に、前記記録ヘッドを第1目標温度まで加熱し、前記記録媒体に対する2回目以降の記録走査のそれぞれが行われる前に、前記記録ヘッドを第2目標温度まで加熱し、
前記インクが第1のインクである場合、前記第1目標温度と前記第2目標温度は等しく、前記インクが第2のインクである場合、前記第1目標温度は前記第2目標温度よりも高いことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項10】
記録データに従ってインクを吐出する記録ヘッドを主走査方向に走査させることにより、記録媒体に対する記録走査を行う記録走査手段と、
前記記録媒体を前記主走査方向と交差する方向に搬送する搬送手段と、
前記記録走査のそれぞれが行われる前に、前記記録ヘッドを加熱する加熱手段と、
前記記録走査手段、前記搬送手段及び前記加熱手段を制御する制御手段と
を備え、前記記録走査手段による前記記録走査と前記搬送手段による前記搬送を交互に行うことにより前記記録媒体に画像を記録するインクジェット記録装置であって、
前記制御手段は、前記インクが第1のインクである場合、前記記録走査のそれぞれが行われる前に、第1の制限時間の範囲で前記記録ヘッドを所定の温度を目標として加熱し、前記インクが第2のインクである場合、前記記録走査のそれぞれが行われる前に、前記記録ヘッドを前記第1の制限時間よりも短い第2の制限時間の範囲で前記記録ヘッドを前記所定の温度を目標として加熱することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項11】
前記制御手段は、
前記記録媒体に対する最初の記録走査が行われる前に、前記第2の制限時間よりも長い第3の制限時間の範囲で前記記録ヘッドを加熱することを特徴とする
請求項10に記載のインクジェット記録装置。
【請求項12】
前記制御手段は、
N回目の前記記録走査が行われる前に、前記第2の制限時間の範囲で前記記録ヘッドを前記所定の温度まで加熱できなかった場合、
N+1回目の前記記録走査が行われる前に前記加熱手段が前記記録ヘッドに付与する熱エネルギを、N回目の前記記録走査が行われる前に前記加熱手段が前記記録ヘッドに付与した熱エネルギよりも大きくすることを特徴とする
請求項10または11に記載のインクジェット記録装置。
【請求項13】
前記制御手段は、
前記記録媒体に対する最初の記録走査が行われる前の前記記録ヘッドの検出温度が所定の充足温度よりも高い場合、前記加熱手段による加熱を介在させることなく、前記記録走査手段による前記記録走査と前記搬送手段による前記搬送とを交互に行い、
前記記録媒体に対する最初の記録走査が行われる前の前記記録ヘッドの検出温度が前記所定の充足温度よりも低い場合、前記記録走査のそれぞれが行われる前に、前記第2の制限時間の範囲で前記記録ヘッドを前記所定の温度を目標として加熱し、前記第2の制限時間が経過した後に前記記録走査を開始させることを特徴とする
請求項10から12のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項14】
前記記録媒体が光沢紙であった場合、前記第2のインクを用いて記録した画像の光沢性は前記第1のインクを用いて記録した画像の光沢性よりも高いことを特徴とする
請求項8から13のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項15】
前記記録ヘッドは、エネルギ発生素子に第1の電圧パルスが印加されることにより、インクを吐出するインクジェット方式の記録ヘッドであり、前記加熱手段は、前記第1の電圧パルスよりもパルス幅またはパルス電圧の少なくとも一方が小さい第2の電圧パルスを前記エネルギ発生素子に印加することにより、前記記録ヘッドを加熱することを特徴とする
請求項1から14のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項16】
前記制御手段は、前記記録ヘッドが停止している状態で、前記加熱手段に前記記録ヘッドを加熱させることを特徴とする
請求項1から15のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項17】
記録データに従って記録媒体にインクを吐出する記録ヘッドを主走査方向に走査させる記録走査と、前記記録媒体を前記主走査方向と交差する方向に搬送する搬送動作と、を交互に行うことにより前記記録媒体に画像を記録するためのインクジェット記録方法であって、
前記記録媒体が第1の記録媒体である場合、前記記録走査のそれぞれが行われる前に、前記記録ヘッドを第1目標温度まで加熱し、
前記記録媒体が第2の記録媒体である場合、前記記録走査のそれぞれが行われる前に、前記記録ヘッドを前記第1目標温度よりも低い第2目標温度まで加熱
し、且つ、前記記録媒体に対する最初の記録走査が行われる前に、前記記録ヘッドを前記第2目標温度よりも高い第3目標温度まで加熱することを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項18】
記録データに従って記録媒体にインクを吐出する記録ヘッドを主走査方向に走査させる記録走査と、前記記録媒体を前記主走査方向と交差する方向に搬送する搬送動作と、を交互に行うことにより前記記録媒体に画像を記録するためのインクジェット記録方法であって、
前記記録媒体に対する最初の記録走査が行われる前に、前記記録ヘッドを第1目標温度まで加熱し、前記記録媒体に対する2回目以降の記録走査のそれぞれが行われる前に、前記記録ヘッドを第2目標温度まで加熱する加熱工程を有し、
前記記録媒体が第1の記録媒体である場合、前記第1目標温度と前記第2目標温度は等しく、前記記録媒体が第2の記録媒体である場合、前記第1目標温度は前記第2目標温度よりも高いことを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項19】
記録データに従って記録媒体にインクを吐出する記録ヘッドを主走査方向に走査させる記録走査と、前記記録媒体を前記主走査方向と交差する方向に搬送する搬送動作と、を交互に行うことにより前記記録媒体に画像を記録するためのインクジェット記録方法であって、
前記記録媒体が第1の記録媒体である場合、前記記録走査のそれぞれが行われる前に、第1の制限時間の範囲で前記記録ヘッドを所定の温度を目標として加熱し、前記記録媒体が第2の記録媒体である場合、前記記録走査のそれぞれが行われる前に、前記記録ヘッドを前記第1の制限時間よりも短い第2の制限時間の範囲で前記記録ヘッドを前記所定の温度を目標として加熱することを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項20】
記録データに従って記録媒体にインクを吐出する記録ヘッドを主走査方向に走査させる記録走査と、前記記録媒体を前記主走査方向と交差する方向に搬送する搬送動作と、を交互に行うことにより前記記録媒体に画像を記録するためのインクジェット記録方法であって、
前記インクが第1のインクである場合、前記記録走査のそれぞれが行われる前に、前記記録ヘッドを第1目標温度まで加熱し、
前記インクが第2のインクである場合、前記記録走査のそれぞれが行われる前に、前記記録ヘッドを前記第1目標温度よりも低い第2目標温度まで加熱
し、且つ、前記記録媒体に対する最初の記録走査が行われる前に、前記記録ヘッドを前記第2目標温度よりも高い第3目標温度まで加熱することを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項21】
記録データに従って記録媒体にインクを吐出する記録ヘッドを主走査方向に走査させる記録走査と、前記記録媒体を前記主走査方向と交差する方向に搬送する搬送動作と、を交互に行うことにより前記記録媒体に画像を記録するためのインクジェット記録方法であって、
前記記録媒体に対する最初の記録走査が行われる前に、前記記録ヘッドを第1目標温度まで加熱し、前記記録媒体に対する2回目以降の記録走査のそれぞれが行われる前に、前記記録ヘッドを第2目標温度まで加熱する加熱工程を有し、
前記インクが第1のインクである場合、前記第1目標温度と前記第2目標温度は等しく、前記インクが第2のインクである場合、前記第1目標温度は前記第2目標温度よりも高いことを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項22】
記録データに従って記録媒体にインクを吐出する記録ヘッドを主走査方向に走査させる記録走査と、前記記録媒体を前記主走査方向と交差する方向に搬送する搬送動作と、を交互に行うことにより前記記録媒体に画像を記録するためのインクジェット記録方法であって、
前記インクが第1のインクである場合、前記記録走査のそれぞれが行われる前に、第1の制限時間の範囲で前記記録ヘッドを所定の温度を目標として加熱し、前記インクが第2のインクである場合、前記記録走査のそれぞれが行われる前に、前記記録ヘッドを前記第1の制限時間よりも短い第2の制限時間の範囲で前記記録ヘッドを前記所定の温度を目標として加熱することを特徴とするインクジェット記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置およびインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置において、好ましい吐出状態を維持するためには、インクの粘度や表面張力が適切な範囲に調整されていることが求められる。そして、このようなインクの粘度や表面張力のような物性は、インクの温度によって変化することが知られている。例えば、インク吐出量はインク温度とほぼ線形な関係を有しており、インク温度が高いほど吐出量は大きくなり、インク温度が低いほど吐出量は小さくなる。すなわち、所定の吐出量のインクを安定して吐出するためには、インクの温度を適切な範囲に調整することが求められる。
【0003】
特許文献1には、吐出用ヒータに電圧を印加することによりインクを滴として吐出させるサーマル方式のインクジェット記録装置において、吐出に至らない程度の短いパルスを吐出用ヒータに印加してインクを加熱する、インク温度の調整方法が開示されている。以下、吐出に至らない程度の短いパルスを吐出用ヒータに印加して、インクの温度を調整する処理を、本明細書では短パルス加熱処理と呼ぶ。短パルス加熱処理は、印刷ジョブを受信したタイミングや各ページで記録動作を開始するタイミングで行うことができる。また、シリアル型のインクジェット記録装置においては、短パルス加熱処理を、記録走査ごとに行うことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
短パルス加熱処理を記録走査ごとに行った場合、個々の記録走査はヘッド温度が目標温度に達したタイミングで開始される。すなわち、短パルス加熱処理の所要時間は、記録走査ごとにばらつくことになる。しかしながら、このような短パルス加熱処理をマルチパス記録に併用した場合、出力される画像にムラが発生してしまうことがある。
【0006】
ここで、マルチパス記録とは、記録媒体の単位領域の画像を、記録ヘッドの複数回の記録走査によって完成させる記録方法である。そして、マルチパス記録においては、複数の記録走査間の経過時間が、画像の光沢性や発色性に影響を与えることがある。よって、短パルス加熱処理をマルチパス記録に併用すると、記録媒体やインクの種類によっては、出力される画像にムラが発生してしまうことがある。
【0007】
本発明は上記問題点を解消するためになされたものである。よってその目的とするところは、短パルス加熱を採用したインクジェット記録装置において、ムラのない一様な画像を出力することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そのために本発明は、記録データに従ってインクを吐出する記録ヘッドを主走査方向に走査させることにより、記録媒体に対する記録走査を行う記録走査手段と、前記記録媒体を前記主走査方向と交差する方向に搬送する搬送手段と、前記記録走査のそれぞれが行われる前に、前記記録ヘッドを加熱する加熱手段と、前記記録走査手段、前記搬送手段及び前記加熱手段を制御する制御手段とを備え、前記記録走査手段による前記記録走査と前記搬送手段による前記搬送を交互に行うことにより前記記録媒体に画像を記録するインクジェット記録装置であって、前記制御手段は、前記記録媒体が第1の記録媒体である場合、前記記録走査のそれぞれが行われる前に、前記記録ヘッドを第1目標温度まで加熱し、前記制御手段は、前記記録媒体が第2の記録媒体である場合、前記記録走査のそれぞれが行われる前に、前記記録ヘッドを前記第1目標温度よりも低い第2目標温度まで加熱し、且つ、前記記録媒体に対する最初の記録走査が行われる前に、前記記録ヘッドを前記第2目標温度よりも高い第3目標温度まで加熱することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、短パルス加熱を採用したインクジェット記録装置において、ムラのない一様な画像を出力することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】インクジェット記録装置の構成概要図である。
【
図2】記録装置の制御の構成を説明するためのブロック図である。
【
図5】ヒータに印加する電圧パルスの種類を示す図である。
【
図7】一般的な記録制御方法を説明するためのフローチャートである。
【
図9】第1実施形態の記録制御方法を説明するためのフローチャートである。
【
図10】第1目標温度T1と第2目標温度T2を示す図である。
【
図11】記録ヘッドの検出温度の変化を示す図である。
【
図12】第2実施形態の記録制御方法を説明するためのフローチャートである。
【
図14】光沢紙用に用意した2種類の温調用パルスの例を示す図である。
【
図15】第3実施形態の記録制御方法を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態のインクジェット記録装置100(以下、単に記録装置100とも呼ぶ)の構成概要図である。キャリッジモータ210の駆動力は、駆動伝達ギア114~116を介して伝達され、リードスクリュー109を回転させる。リードスクリュー109に係合するキャリッジ101は、リードスクリュー109の回転に伴って、図の±x方向に移動する。すなわち、キャリッジ101は、キャリッジモータ210の正回転駆動または逆回転駆動に連動して、主走査方向となる図の±x方向に往復移動する。ガイドレール108は、±x方向に往復移動するキャリッジ101を下方より支持する。
【0012】
キャリッジ101には、インクジェット方式の記録ヘッド102とインクタンク103とが一体化されたカートリッジ104が着脱可能に搭載される。キャリッジ101が±x方向に往復移動しながら、記録ヘッド102が記録データに従ってインクを吐出することにより、記録媒体Pには1バンド分の画像が記録される。記録ヘッド102によって記録されている部分の記録媒体Pは、プラテン105と紙押さえ板107とによって、記録ヘッド102の吐出口面に対し平行な面が保たれている。記録ヘッド102による1バンド分の記録走査が行われると、記録媒体Pは1バンド分に相当する距離だけ、x方向と交差する方向(本実施形態の場合は、+y方向)に搬送される。このような、記録ヘッド102による記録走査と記録媒体Pの搬送動作とを交互に繰り返すことにより、記録媒体Pには段階的に画像が形成されていく。
【0013】
キャリッジ101の走査領域のうち、+x方向の端部はホームポジションとなっている。ホームポジションには、記録ヘッド102の吐出口面をワイピングするためのクリーニングブレード122と、吐出口面をキャッピングするためのキャップ128が配されている。キャリッジ101がホームポジションにある時、キャップ支持部121がキャップ128を吐出口面に当接させることにより、吐出口面からのインクの蒸発を抑えることができる。また、吐出口面をキャップした状態で、吸引器120が動作することにより、記録ヘッドに対する吸引回復処理を行うことができる。
【0014】
キャリッジ101がホームポジションにあるとき、フォトカプラ112、113は、キャリッジ101に取り付けられているレバー111を検出する。フォトカプラ112、113による検出結果は、キャリッジモータ210の回転方向の切り替えなどにも利用される。
【0015】
図2は、記録装置100の制御の構成を説明するためのブロック図である。コントローラ208は、MPU201、ROM202、DRAM203、G.A(ゲートアレイ)204を備えている。MPU201は、ROM202に格納されているプログラムに従って、DRAM303をワークエリアとしながら記録装置100全体を制御する。G.A204は、記録ヘッド102に対する記録データの供給制御のほか、インターフェース200、MPU201、DRAM203の間のデータ転送制御を行う。
【0016】
ヘッドドライバ205は、G.A204から供給された記録データに基づいて、記録ヘッド102を駆動する。搬送モータドライバ206は、MPU201の指示の下、記録媒体Pを搬送するための搬送モータ209を駆動する。キャリッジモータドライバ207は、MPU201の指示のもと、キャリッジモータ210を正方向または逆方向に駆動する。
【0017】
外部に接続されたホスト装置より供給された画像データは、インターフェース200を介してコントローラ208に入力される。MPU201は、受信した画像データに対してROM202に記憶されているプログラムに従って所定の処理を施し、記録ヘッド102が記録可能な記録データを生成する。MPU201は、生成された記録データに従って、記録ヘッド102、搬送モータ209、キャリッジモータ210を駆動し、記録媒体Pに対する記録動作を制御する。
【0018】
記録ヘッド102には、記録ヘッド102の温度を検出するための温度センサ53が配されており、温度センサ53の検出値はコントローラ208に送信される。また、各種センサ211は、
図1で説明したフォトカプラ112、113の他、装置内の各箇所に配置された複数のセンサを含んでいる。MPU201は、温度センサ53や各種センサ211のセンサ検出値に基づいて、記録媒体Pに対する記録を制御する。
なお、MPU201が実行する制御プログラムは、消去や書き込みが可能なEEPROMのような記憶媒体に記憶されていてもよい。そして、外部に接続されたホスト装置より、EEPROMに保存する制御プログラムを更新できるようにしてもよい。
【0019】
図3は、本実施形態で使用するカートリッジ104の外観斜視図である。本実施形態のカートリッジ104は、記録ヘッド102とインクタンク103とが一体的に構成されている。インクタンク103の内部には繊維質状もしくは多孔質状のインク吸収体が収容されており、記録ヘッド102に供給するためのインクが保持されている。
【0020】
カートリッジ104がキャリッジ101に装着されることにより、カートリッジ104の側面に配された電極(不図示)が装置の本体基板(不図示)と電気的に接続される。そして、電極が本体基板から受信した吐出信号に従って、記録ヘッド102の吐出口列300からインクが吐出される。
【0021】
なお、以上では、記録ヘッド102とインクタンク103とが一体的に構成されたカートリッジ104を例に説明したが、これらは、例えば境界線301で分離可能な構成としてもよい。この場合、インクタンク103のインクが消費された際、記録ヘッド102はキャリッジ101に搭載したまま、インクタンク103のみを交換すればよい。
【0022】
図4は、記録ヘッド102においてインクを吐出する部分となる、素子基板30の構成を説明するための図である。素子基板30は、主に、基板51上に流路部材54が積層されて構成される。
【0023】
基板51には、インクを吐出させるためのエネルギ発生素子となるヒータ52が、所定のピッチで図中y方向に配列している。本実施形態では、600dpiのピッチで配列するヒータが2列配列している。2列のヒータ52の間には、y方向に延在しz方向に貫通するインク供給口56が設けられている。インクタンク103から供給されるインクは、インク供給口56を介して素子基板30に供給される。基板51上の端部には、記録ヘッド102の温度を検出するための温度センサ53が配されている。温度センサ53の検出温度は、実質的に温度センサ53に接触するインクの温度を検出することになる。
【0024】
流路部材54において、個々の発熱抵抗素子52に対向する位置には吐出口55が設けられ、y方向に並ぶ吐出口列300を形成している。2列の吐出口列300は、y方向に半ピッチずれた状態で配置され、本実施形態では、この半ピッチに相当する1200dpiの記録解像度でドットを記録することができるようになっている。また、流路部材54には、吐出口55それぞれに連通する流路59と、インク供給口56と接続し複数の流路59に共通して接続する共通液室60が設けられている。
【0025】
以上の構成の下、インク供給口56から共通液室60に供給されたインクは、個々の流路を経由して吐出口55まで導かれ、メニスカスを形成する。そして、吐出信号に従ってヒータ52に所定のパルス電圧が印加されると、ヒータ52に接するインク中に膜沸騰が生じ、発生した泡の成長エネルギによって吐出口55からインクが滴としてz方向に吐出される。
【0026】
図5(a)~(c)は、ヒータ52に印加する電圧パルスの種類を示す図である。また
図6は、
図5(a)~(c)に示す各パルスのパラメータを説明する図である。
【0027】
図5(a)は吐出用パルスP1を示す。吐出用パルスP1は、電圧Vop、パルス幅Pop、駆動周期Tを有している。吐出用パルスP1が印加されたヒータ52では、インク中に膜沸騰が発生し、インクが吐出口55より吐出される。
【0028】
図5(b)は第1の温調用パルスP2である。第1の温調用パルスP2は、短パルス加熱処理で使用するパルスであり、電圧Vh、パルス幅Ph、駆動周期Tを有している。第1の温調用パルスP2は、吐出に至らない程度にインクを温めるためのパルスである。よって、吐出動作が行われる下限値のパルス幅をPthとすると、Ph<Pth<Popが成立する。
【0029】
図5(c)は、第2の温調用パルスP2´である。第2の温調用パルスP2´は、短パルス加熱処理で補助的に使用するパルスであり、電圧Vh´、パルス幅Ph´、駆動周期T´を有している。第2の温調用パルスP2´は、第1の温調用パルスP2よりも、高い電圧と短い周期を有している。
【0030】
すなわち、
図5(a)~(c)で示す3種類のパルスの間には、パルス幅、パルス電圧、パルス周期において以下の関係が成り立つ。Pop>Pth>Ph>Ph´、Vh<Vh´、T>T´。なお、以上は、Vop=Vh´とした場合の大小関係を示したものであるが、VopとVh´の大小関係は特に限定されるものではない。また、第1の温調パルスP2の駆動周期は、吐出用パルスの駆動周期Tと異なっていてもよい。
【0031】
本実施形態では、記録走査ごとに短パルス加熱処理を行う。すなわち、キャリッジ101を停止させた状態で、個々のヒータ52に第1の温調用パルスP2を印加する。そして、温度センサ53の検出温度が閾値を超えたことを検知すると、キャリッジ101の移動を開始させ1回分の記録走査を行う。記録走査を行っているとき、個々のヒータ52には、
図5(a)で示した吐出用パルスP1が吐出信号に従って印加される。
【0032】
なお、
図6において、Nh、Nh´は、短パルス加熱処理を行った際の、第1の温調用パルスP2、第2の温調用パルスP2´それぞれの印加回数を示す。短パルス加熱処理の所要時間がThであったとすると、印加回数Nh、Nh´は、Nh=Th/T、Nh´=Th/T´となる。
【0033】
図7は、シリアル型のインクジェット記録装置における、従来の一般的な記録制御方法を説明するためのフローチャートである。本処理は、記録装置100に印刷ジョブが入力された時に開始される。
【0034】
本処理が開始されると、MPU201は、まず、S801において、次の記録走査の記録データが存在するか否かを判定する。次の記録走査の記録データが存在する場合、MPU201はS802に進み、温度センサ53の検出温度を取得する。
【0035】
S803において、MPU201は、S802で取得した検出温度が目標温度以上であるか否かを判定する。検出温度が目標温度未満である場合、MPU201はS804に進み、所定の短パルス加熱処理を実行する。具体的には、予め設定されたパルス幅Ph、パルス電圧Vh、パルス周期Tの下で、所定回数Nhだけ温調用のパルスが印加される。
【0036】
S802~S804の処理は、S803で検出温度が目標温度以上であると判定されるまで繰り返す。S803で検出温度が目標温度以上であると判定した場合、MPU201はS805に進み、1回分の記録走査を実行し、S801に戻る。
【0037】
MPU201は、以上説明したS801~S805の処理を、S801で記録データが存在しないと判定されるまで繰り返す。そして、S801において、次の記録走査のための記録データが存在しないと判定すると、本処理を終了する。
【0038】
以上説明した従来の短パルス加熱制御において、S802~S804の処理は、S803で、検出温度が目標温度以上であると判定されるまで繰り返される。このため、S805で記録走査を行ってから、次にS805で記録走査を行うまでの経過時間は、その時々の検出温度に応じて異なることになる。そしてこのような短パルス加熱制御をマルチパス記録で行うと、上記連続して行う記録走査間で経過する時間のばらつきが、画像のムラとなって認識される場合がある。
【0039】
図8は、マルチパス記録の説明図である。ここでは、4パスのマルチパス記録を例に説明する。また、説明を簡単にするため、吐出口列300には、同じ種類のインクを吐出する16個の吐出口55が一列に配置されているものとして示している。
【0040】
4パスのマルチパス記録を行う際、16個の吐出口55は、4つずつを含む第1~第4の吐出口群に分割される。そして、第1~第4の吐出口群には、第1~第4のマスクパターンがそれぞれ対応付けられる。各マスクパターンは、4エリア×4エリアの領域を有し、黒で示したエリアはドットの記録を許容するエリア、白で示したエリアはドットの記録を許容しないエリアをそれぞれ示している。第1~第4のマスクパターンは互いに補完の関係を有している。
【0041】
第1記録走査~第4記録走査に対応付けて示したパターンP0003~P0006は、第1~第4のマスクパターンに従って4パスのマルチパ記録走査を行った場合に、記録媒体Pで画像が完成されていく様子を示す。各記録走査が終了するたびに、記録媒体Pはy方向に4画素分ずつ搬送され、記録媒体の単位領域(4×4画素領域)は、互いに補完の関係を有する第1~第4のマスクパターンに従う4回の記録走査によって、画像が完成される。このようなマルチパス記録を行うことにより、個々のノズルの吐出特性や記録媒体の搬送精度のばらつきに起因する画像弊害は画像全体に分散され、画像上で目立ち難くすることができる。
【0042】
以上のようなマルチパス記録において、途中までの記録走査が行われた単位領域では、次の記録走査が行われるまで、既に付与されているインクが大気に曝されることになる。この場合、光沢紙のように比較的インクの吸収性が低い記録媒体では、次の記録走査までの間に、既に付与されたインクの乾燥が進み、画像上に凹凸が形成されることがある。そして、このような凹凸は、記録走査間の経過時間が長時間であるほど顕著になり、光沢性を低下させ発色性を変化させる要因となる。すなわち、短パルス加熱処理のための所要時間が比較的長い単位領域と、比較的短い単位領域とにおいて、光沢性や発色性に差が生じ、これが画像上でムラとして認識されてしまうことがある。
【0043】
一方、普通紙やコート紙のような、比較的インク吸収性の高い記録媒体の場合、記録媒体の表面にインクは残りにくく、凹凸も形成され難い。このため、短パルス加熱のために、記録走査間の経過時間にばらつきが生じても、各単位領域で光沢性や発色性の差は生じにくく、画像のムラも認識されにくい。本実施形態では以上の状況に鑑み、短パルス加熱制御の方法を記録媒体の種類に応じて異ならせるものとする。
【0044】
図9は、本実施形態の記録制御方法を説明するためのフローチャートである。本処理は、記録装置100に印刷ジョブが入力された時、
図2のMPU201がROM202に記憶されているプログラムに従って、DRAM203をワークエリアとしながら実行する処理である。
【0045】
本処理が開始されると、MPU201は、まずS901において、受信した印刷ジョブを解析し、記録媒体Pの種類を取得する。次に、MPU201は、S902において、S901で取得した記録媒体の種類に基づいて、第1目標温度を設定する。ここで、第1目標温度とは、記録媒体に対する最初の記録走査を開始するために要される記録ヘッド102の目標温度を示す。
【0046】
S903において、MPU201は、温度センサ53の検出温度を取得し、S904において、検出温度がS902で設定した第1目標温度T1以上であるか否かを判定する。検出温度が、第1目標温度T1未満である場合、MPU201はS905に進み、第1の短パルス加熱処理を実行する。すなわち、第1の短パルス加熱処理用に予め設定されたパルス幅Ph、パルス電圧Vh、パルス周期T、印加回数Nhに従って、個々のヒータ52に温調用パルスP2を印加する。
【0047】
このようなS903~S905の工程は、S904で、検出温度が第1目標温度T1以上であると判定されるまで、記録ヘッド102が停止した状態で繰り返される。S904で検出温度が第1目標温度T1以上であると判定した場合、MPU201はS906に進む。
【0048】
S906において、MPU201は、S901で取得した記録媒体の種類に基づいて、第2目標温度T2を設定する。ここで、第2目標温度T2は、2回目以降の記録走査を開始するために要される記録ヘッド102の目標温度を示す。
【0049】
S907において、MPU201は、次の記録走査の記録データが存在するか否かを判定する。次の記録走査の記録データが存在する場合、MPU201はS908に進み、温度センサ53の検出温度を取得する。続くS909において、MPU201は、検出温度がS906で設定した第2目標温度T2以上であるか否かを判定する。検出温度が、第2目標温度T2未満である場合、MPU201はS910に進み、第2の短パルス加熱処理を実行する。すなわち、第2の短パルス加熱処理用に予め設定されたパルス幅Ph、パルス電圧Vh、パルス周期T、印加回数Nhに従って、個々のヒータ52に温調用パルスP2を印加する。
【0050】
このような、S908~S910の工程は、S909で、検出温度が第2目標温度T2以上であると判定されるまで繰り返す。S909で検出温度が第2目標温度以上であると判定した場合、MPU201はS911に進み、1回分の記録走査を実行し、S907に戻る。
【0051】
MPU201は、S907~S911の工程を、S907で記録データが存在しないと判定するまで繰り返す。そして、次の記録走査の記録データが存在しないと判定すると、本処理を終了する。
【0052】
図10は、
図9のS902で取得する第1目標温度T1と、S906で取得する第2目標温度T2とを、記録媒体の種類およびインクの種類に対応付けて示す図である。このような情報は予めROM202(
図2参照)に保存されており、MPU201はこの情報を参照して目標温度の設定を行う。
【0053】
本実施形態では、記録媒体の種類に応じて、使用するインクの種類も切り替えるものとする。具体的には、普通紙及びコート紙では高濃度で先鋭性に優れた画像を記録可能なマットブラックインク(マットBK)を使用する。また、光沢紙では、階調性に優れ粒状感が目立ち難いフォトブラックインク(フォトBK)を使用する。例えば記録媒体が光沢紙であった場合、フォトBKを用いて記録した画像はマットBKを用いて記録した画像よりも高い光沢性が得られる。
【0054】
図10の右側には、それぞれのインクを用いた場合に、安定した吐出が可能な、記録ヘッド102の下限温度を示している。安定した吐出動作のために、マットBKでは20℃以上の温度が必要であり、フォトBKでは15℃以上の温度が必要である。なお、マットBKとフォトBKは、キャリッジ101に同時に両方のカートリッジ104が装着される形態でもよく、装着するカートリッジ104を交換することにより切り替える形態であってもよい。
【0055】
本実施形態において、第1目標温度T1及び第2目標温度T2は、上述した下限温度に対し十分なマージンを取った温度に設定されている。このため、デューティーの低い画像を記録する場合であっても、記録走査中に記録ヘッドの温度が上記下限値を下回ることはない。
【0056】
本実施形態において、第1目標温度T1は、普通紙、コート紙、及び光沢紙のいずれについても25℃に統一されている。一方、第2目標温度T2は、普通紙とコート紙は25℃、光沢紙はこれらよりも低い20℃に設定されている。光沢紙についての第2目標温度T2を普通紙やコート紙よりも低く設定することにより、光沢紙に記録する際の第2の短パルス加熱処理の所要時間を、普通紙やコート紙に記録する場合の所要時間よりも短縮することができる。つまり、結果的に、画像表面の凹凸を抑制することができる。また、第1目標温度T1が第2目標温度T2よりも高く設定されていることも、第2の短パルス加熱処理の短縮化に寄与している。最初の記録走査の際に記録ヘッドの温度を十分高くしておくことにより、その後の記録走査で、記録ヘッドの温度が第2目標温度を下回るのを、遅らせることができるためである。
【0057】
すなわち、本実施形態の短パルス加熱制御によれば、光沢紙に画像を記録する場合であっても、安定した吐出動作のもと、表面の凹凸を画像全体で抑制し、単位領域間の光沢性や発色性の差に起因する画像ムラを目立たなくすることができる。
【0058】
図11(a)および(b)は、普通紙およびコート紙に画像を記録する場合と光沢紙に画像を記録する場合における記録ヘッドの検出温度の変化を示す図である。ここでは、周囲の環境温度を15℃とし、記録ヘッドに一定の駆動周波数でインクを吐出させながら、記録媒体に一様な画像を記録した場合を示している。なお、両図において、1回の記録走査の所要時間は1秒としている。
【0059】
図11(a)は、第1目標温度T1及び第2目標温度T2を共に25℃に設定した状態で、
図9のフローチャートに従ってマルチパス記録を行った場合の、温度センサ53の温度変化を示す。以下、このような記録モードを第1記録モードと称する。一方、
図11(b)は、第1目標温度T1を25℃、第2目標温度T2を20℃に設定した状態で、
図9のフローチャートに従ってマルチパス記録を行った場合の、温度センサ53の温度変化を示す。以下、このような記録モードを第2記録モードと称する。
【0060】
第1記録モードにおいても第2記録モードにおいても、処理が開始されると、記録ヘッド102はまず第1目標温度T1まで加熱される(S903~S905のルーティン)。処理が開始されてから検出温度が第1目標温度T1に到達するまでの時間は、両モードとも同程度である。
【0061】
検出温度が第1目標温度T1に到達すると、1回目の記録走査が行われる。そして、この記録走査が行われる約1秒の間に、記録ヘッド102の温度は、第1目標温度T1より低い値に変化する。
【0062】
2回目の記録走査を開始する際、再び短パルス加熱処理が行われる(S908~S910のルーティン)。そして、検出温度が第2目標温度T2よりも高い状態にあれば、2回目の記録走査が行われる。この際、第2目標温度T2が25℃に設定されている第1記録モード(
図11(a)参照)では、記録ヘッドを第2目標温度T2まで加熱するために4秒の時間がかかっている。すなわち、2回目の記録走査以降、第1記録モードでは、4秒の短パルス加熱処理と、1秒の記録走査とが交互に行われる。
【0063】
その後、記録走査が更に繰り返され、記録ヘッド102全体の温度が上昇すると、記録走査毎に温度が低下する量も小さくなり、第2の短パルス加熱処理にかかる時間も少なくなる。その結果、1秒の短パルス加熱処理と、1秒の記録走査とが交互に行われる状態になる。
【0064】
この場合、ページ全体で考えると、ページの先頭部分は4秒の短パルス加熱処理と、1秒の記録走査とが交互に行われる領域となる。これに対しページの後続部分は、1秒の短パルス加熱処理と、1秒の記録走査とが交互に行われる領域となる。よって、記録媒体が光沢紙であると、記録媒体の先頭部分と後続部分とで、表面に形成される凹凸の程度が異なり、光沢性や発色性に差異が生じることが懸念される。しかしながら、記録媒体がインクの吸収性に優れた普通紙やコート紙であれば、記録媒体の表面に凹凸は形成され難く、待機時間のばらつきが光沢性や発色性の差異を招くこともない。よって、本実施形態では、このような第1の記録モードを、マットBKを用いて普通紙、コート紙に画像を記録する場合の記録モードとして用意している。
【0065】
一方、第2目標温度T2が20℃に設定されている第2記録モード(
図11(b))では、2回目の記録走査を開始するタイミングにおいて、記録ヘッド102の温度は第2目標温度T2よりも十分高い状態にある。このため、2回目の記録走査の前に、第2の短パルス加熱処理が行われることはなく、1回目の記録走査の後、直ぐに2回目の記録走査が行われる。そして、このような短パルス加熱処理を介さない記録走査がしばらく連続して行われながら、記録ヘッド102の温度が徐々に低下し、何回目かの記録走査の時に第2目標温度T2よりも低い温度が検出される。
図11(b)では、5回目の記録走査のタイミングで、第2目標温度T2よりも低い温度が検出された場合を示している。
【0066】
第2目標温度T2よりも低い温度が検出されたタイミングで、第2の短パルス加熱処理(S910)が行われる。但し、第2記録モードにおける第2目標温度T2(20℃)は十分低く設定されているため、第2の短パルス加熱処理にかかる時間(1秒)も第1記録モード(4秒)に比べて十分短い。そして、これ以降、第2記録モードでは、1秒の短パルス加熱処理と、1秒の記録走査とが交互に繰り返されることになる。
【0067】
その後、記録走査が更に繰り返されても、周囲の環境温度が15℃である中、記録ヘッド102の全体の温度は大きく変動せず20度前後が維持される。このため、記録走査ごとの記録ヘッドの温度低下量も小さく、短パルス加熱処理の所要時間も1秒程度に維持される。
【0068】
すなわち、
図11(b)に示す第2の記録モードにおいて、最初の4回の記録走査では、0秒の短パルス加熱処理と1秒の記録走査とが交互に行われ、5回目以降の記録走査では、1秒の短パルス加熱処理と1秒の記録走査とが交互に行われる状態になる。この場合、ページ全体で考えると、先頭領域と他の領域で各記録走査間の経過時間に1秒程度の差異が生じていることになる。しかしながら、この程度の差であれば、凹凸の状態に大きな差異は現れず、光沢性や発色性のムラが確認されることもない。
【0069】
また、上記例では、記録ヘッドの駆動周波数が一定である場合を示しているが、実際には各記録走査で記録ヘッドの温度が低下する量、及び第2の短パルス加熱処理の所要時間は変動する。但し、本実施形態のように、第2目標温度T2を十分低い値に設定しておけば、記録開始からの経過時間によらず、検出温度や第2の短パルス加熱処理の所要時間の変動量を許容範囲に抑えておくことができる。その結果、光沢紙において、記録媒体表面の凹凸を画像全体で抑制し、単位領域間の光沢性や発色性の差に起因する画像ムラを、ページ全体で目立たなくすることができる。以上のことより、本実施形態では、このような第2の記録モードを、フォトBKを用いて光沢紙に画像を記録する場合の記録モードとして用意している。
【0070】
以上説明したように、本実施形態の第1の記録モードでは、普通紙やコート紙に対し、マットBKを用いたマルチパス記録を行うことにより、高濃度で先鋭性に優れた画像を記録することができる。一方、第2の記録モードでは、光沢紙に対し、フォトBKを用いたマルチパス記録を行うことにより、階調性と光沢性に優れた一様な画像を記録することができる。
【0071】
(第2の実施形態)
本実施形態においても、
図1~
図6で説明したインクジェット記録装置を用いる。
【0072】
図12は、本実施形態の記録制御を説明するためのフローチャートである。本処理は、記録装置100に印刷ジョブが入力された時、
図2のMPU201がROM202に記憶されているプログラムに従って、DRAM203をワークエリアとしながら実行する処理である。
【0073】
本処理が開始されると、MPU201は、まずS1201において、印刷ジョブを解析し、記録媒体Pの種類を取得する。S1202において、MPU201は、S1201で取得した記録媒体の種類に基づいて、加熱条件を設定する。
【0074】
図13は、S1201で取得する加熱条件を、記録媒体の種類およびインクの種類に対応付けて示す図である。加熱条件は、短パルス加熱処理における目標温度T3、温調用パルスP2のパルス幅Phとパルス電圧Vh、パルス印加周期T、印加回数Nhの他、短パルス加熱処理の繰り返し上限値(C_loopMax)が、記録媒体の種類ごとに設定される。本実施形態において、目標温度T3は全ての記録媒体で25℃としている。また、温調用パルスP2のパルス幅Ph、パルス電圧Vh、パルス印加周期T、印加回数Nhも全ての記録媒体で同じ値としている。繰り返し上限値(C_loopMax)のみ、普通紙とコート紙では「6」、光沢紙では「1」が設定される。このような加熱条件の情報は、予めROM202(
図2参照)に保存されている。
【0075】
図12のフローチャートに戻る。S1203において、MPU201は、次の記録走査の記録データが存在するか否かを判定する。次の記録走査の記録データが存在する場合、MPU201はS1204に進み、ループカウントC_loopをリセットする(C_loop=0)。
【0076】
S1205において、MPU201は、温度センサ53の検出温度を取得し、S1206において、検出温度がS1202で設定した加熱条件の目標温度T3以上であるか否かを判定する。検出温度が、目標温度T3未満である場合、MPU201はS1207に進み、S1202で設定した加熱条件に従った短パルス加熱処理を実行する。すなわち、パルス幅Ph、パルス電圧Vh、パルス周期T、印加回数Nhに従って、個々のヒータ52を駆動する。一方、検出温度が目標温度T3以上である場合、MPU201はS1207をスキップして、S1208に進む。
【0077】
S1208において、MPU201は、ループカウントC_loopをインクリメント(C_loop=C_loop+1)する。そして、S1209において、MPU201は、ループカウントC_loopがS1202で設定された繰り返し上限値(C_loopMax)より大きいか否かを判定する。ループカウントC_loopが繰り返し上限値C_loopMax以下の場合、MPU201はS1205に戻る。
【0078】
このようなS1205~S1209の工程は、S1209で、ループカウントC_loopがが繰り返し上限値(C_loopMax)より大きいと判定されるまで繰り返す。S1209でループカウントC_loopが繰り返し上限値C_loopMaxがより大きいと判定した場合、MPU201はS1220に進み、1回分の記録走査を実行し、S1203に戻る。
【0079】
MPU201は、S1203~S1210の工程を、S1203で記録データが存在しないと判定されるまで繰り返す。そして、S1203で次の記録走査の記録データが存在しないと判定すると、本処理を終了する。
【0080】
このような本実施形態において、S1205~S1209のループは、S1207の短パルス加熱処理を実行するか否かに関わらず、ループカウントC_loopが繰り返し上限値C_loopMaxに達するまで行われる。すなわち、ループカウントC_loopの初期値は0なので、上記ループは(C_loopMax+1)回行われることになる。
【0081】
ここで再び
図13を参照する。普通紙又はコート紙の場合、繰り返し上限値C_loopMaxは6である。よって、パルス幅Phの温度調整用パルスを5000回印加するS1207の短パルス加熱処理は、最大7(=6+1)回行われることになる。つまり、各記録走査における短パルス加熱処理の所要時間は、最大で、
T×Nh×(C_loopMax+1)
=100μs×5000×7=3.5秒となる。
【0082】
言い換えると、普通紙又はコート紙の場合、短パルス加熱処理は、3.5秒という制限時間の範囲で行われることになる。
【0083】
一方、光沢紙の場合、繰り返し上限値C_loopMaxは1である。よって、パルス幅Phの温度調整用パルスを5000回印加するS1207の短パルス加熱処理は、最大2(=1+1)回行われることになる。つまり、各記録走査における短パルス加熱処理の所要時間は、最大で、
T×Nh×(C_loopMax+1)
=100μs×5000×2=1.0秒となる。
【0084】
言い換えると、光沢紙の場合、短パルス加熱処理は、1.0秒という制限時間の範囲で行われることになる。
【0085】
このような本実施形態によれば、記録媒体が光沢紙の場合、各記録走査で短パルス加熱処理を行いながらも、その所要時間を画像にムラが現れない程度に抑えることができる。その結果、光沢紙において、階調性と光沢性に優れた一様な画像を記録することができる。一方、記録媒体が普通紙やコート紙の場合は、各記録走査の短パルス加熱処理により、インクの温度をより適切に調整することができる。その結果、普通紙やコート紙において、高濃度で先鋭性に優れた画像を記録することができる。
【0086】
なお、本実施形態において、繰り返し上限値C_loopMaxは、
図13に示した値に限定されるものではない。繰り返し上限値C_loopMaxは、画像ムラが目立たない範囲で記録ヘッドが安定した吐出動作が行えるように、記録媒体の種類やインクの種類に基づいて、適切な値が設定されればよい。
【0087】
また、繰り返し上限値C_loopMaxは、第1の実施形態の目標温度のように、最初の記録走査の前に行う第1の短パルス加熱処理と、2回目以降の記録走査の前に行う第2の短パルス加熱処理とで、異なる値を設定してもよい。第1の短パルス加熱処理における繰り返し上限値C_loopMaxを大きな値に設定し、記録ヘッド102を十分加熱してから最初の記録走査を開始すれば、2回目以降の記録走査において第2の短パルス加熱処理の所要時間を短縮することができる。
【0088】
ところで、第2の実施形態の場合、短パルス加熱処理が(C_loopMax+1)回行われると、検出温度が目標温度より低くても記録走査は行われてしまう。よって、このような記録走査では吐出状態が安定しないおそれが生じる。このような場合には、次の短パルス加熱処理から、更に加熱効果の高い温調用パルスに切り替えるようにしてもよい。すなわち、N回目(Nは2以上の整数)の記録走査のための短パルス加熱処理において、記録ヘッドを目標温度まで加熱できなかった場合、N+1回目の記録走査のための短パルス加熱処理では、より大きな熱エネルギを付与可能な温調用パルスを用いればよい。
【0089】
図14は、光沢紙用に用意した2種類の温調用パルスの例を示す。上段は、通常の短パルス加熱処理で使用する温調用パルスを示す。下段は、検出温度が目標温度より低い状態で記録走査を行った後の短パルス加熱処理で使用する温調用パルスを示す。下段のパルス幅Phは、上段のパルス幅Phより大きくなっている。このように、温調用パルスのパルス幅Phを、既に説明した下限値のパルス幅Pthを超えない範囲で大きくすることにより、インクに付与する熱エネルギを増大させ、同じ駆動周期の下で加熱効率を更に増大させることができる。なお、インクに付与する熱エネルギを増大させる方法としては、パルス電圧Vhを高くしたり、駆動周波数を高くしたりする方法も有効である。
【0090】
(第3の実施形態)
本実施形態においても、
図1~
図6で説明したインクジェット記録装置を用いる。
【0091】
図15は、本実施形態において、光沢紙を記録する場合の記録制御を説明するためのフローチャートである。本処理は、記録装置100に印刷ジョブが入力された時、
図2のMPU201がROM202に記憶されているプログラムに従って、DRAM203をワークエリアとしながら実行する処理である。
【0092】
本処理が開始されると、MPU201は、まずS1501において、温度センサ53の検出温度を取得する。S1502において、MPU201は、検出温度が予め定められた第1目標温度T1以上であるか否かを判定する。本実施形態において、第1目標温度は、その後の記録走査で短パルス加熱処理が必要とされない程度に高温な充足温度とする。検出温度が、第1目標温度T1以上である場合、MPU201はS1511に進む。
【0093】
S1511において、MPU201は、次の記録走査の記録データが存在するか否かを判定する。次の記録走査の記録データが存在する場合、MPU201はS1512で1回分の記録走査を実行し、S1511に戻る。S1511~S1512の工程を、MPU201は、S1511で記録データが存在しないと判定するまで繰り返す。そして、次の記録走査の記録データが存在しないと判定すると、本処理を終了する。
【0094】
一方、S1502で、検出温度が、第1目標温度T1未満であると判定した場合、MPU201はS1503に進む。
【0095】
S1503において、MPU201は、待機時間Twaitを設定する。ここで待機時間Twaitとは、短パルス加熱処理の所要時間として定められた固定の時間である。
【0096】
S1504において、MPU201は、次の記録走査の記録データが存在するか否かを判定する。次の記録走査の記録データが存在する場合、MPU201はS1505に進み、待機時間カウンタをリセット(Cw=0)し、更にカウントを開始する。
【0097】
S1506において、MPU201は、現時点のカウント値CwがS1503で設定した待機時間Twait未満であるか否かを判定する。カウント値Cwが待機時間Twait未満である場合、MPU201はS1507に進み、温度センサ53の検出温度を取得する。
【0098】
S1508において、MPU201は、検出温度が予め設定された第2目標温度T2以上であるか否かを判定する。検出温度が第2目標温度T2未満である場合、MPU201はS1509に進み、所定の短パルス加熱処理を実行した後、S1506に戻る。一方、S1508で、検出温度が予め設定された第2目標温度T2以上であると判定した場合、MPU201は、S1509の短パルス加熱処理をスキップしてS1506に戻る。
【0099】
このような、S1506~S1509の工程は、S1506で、現時点のカウント値Cwが待機時間Twait以上であると判定するまで繰り返す。S1506で現時点のカウント値Cwが待機時間Twait以上であると判定した場合、MPU201はS1510に進み、1回分の記録走査を実行し、S1504に戻る。
【0100】
MPU201は、S1504~S1510の工程を、S1504で記録データが存在しないと判定されるまで繰り返す。そして、次の記録走査の記録データが存在しないと判定すると、本処理を終了する。
【0101】
以上説明した本実施形態の記録制御によれば、印刷ジョブが入力された時点の検出温度が第1目標温度T1以上である場合、全ての記録走査を、短パルス加熱処理を介在させない状態で実行する。一方、印刷ジョブが入力された時点の検出温度が第1目標温度T1未満である場合は、一定の待機時間Twaitの下で短パルス加熱処理を実行する。このように、本実施形態の記録制御によれば、印刷ジョブが入力された時点の検出温度が第1目標温度T1以上であっても、第1目標温度T1未満であっても、各記録走査間の経過時間は一定値が維持された状態で全ての記録走査を行うことができる。その結果、光沢紙において、階調性と光沢性に優れた一様な画像を記録することができる。
【0102】
なお、本実施形態において、第1目標温度T1と第2目標温度T2は適宜設定可能である。第2目標温度T2については、記録ヘッドが安定した吐出動作を行うために必要な温度に設定されることが好ましい。第1目標温度T1については、その後の記録走査でも短パルス加熱処理が必要とされない程度に、第2目標温度T2よりも十分高い温度に設定されていることが好ましい。
【0103】
また、待機時間Twaitについては、短パルス加熱処理の効果が十分に得られる程度に大きな値であることが求められる。但し、あまり大きな待機時間Twaitを設定してしまうと、記録処理のための時間が必要以上に大きくなり、スループットが低下してしまう。このような観点から、待機時間Twaitは、印刷ジョブを受けた後の最初の短パルス加熱処理において、第2目標温度T2に達するのに要する時間と同等、或いはそれ以下に設定しておくことが好ましい。
【0104】
(その他の実施形態)
以上の実施形態では、目標温度、加熱条件、待機時間のような記録制御に必要なパラメータを、記録媒体の種類に応じて設定する場合について説明した。しかしながら、上記パラメータは、使用するインクの種類に応じて設定する形態としてもよい。また、記録媒体とインクの組み合わせに基づいて設定する形態としてもよい。
【0105】
また、以上ではマルチパス記録を行う場合を前提とした記録制御について説明したが、本発明はマルチパス記録を行わない場合であっても効果を発揮できる場合がある。1パス記録であっても、個々の記録走査で記録されるバンドの境界部には、上記説明した凹凸に伴う光沢性の差異は発生し、つなぎスジとして認識されてしまうことがある。上記記録制御方法を採用することにより、光沢性の差異を低減しつなぎスジを目立たなくすることができる。
【0106】
以上説明した第1~第3の実施形態は、互いの構成を部分的に導入することもできる。例えば、第1の実施形態において、印刷ジョブが入力された時点の検出温度が十分に高温な充足温度に達している場合は、第3の実施形態のように、全ての記録走査を短パルス加熱処理を介在させずに行ってもよい。
【0107】
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサーがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【符号の説明】
【0108】
1 インクジェット記録装置
102 記録ヘッド
201 MPU
P 記録媒体