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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】管理者支援装置
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/06 20240101AFI20240311BHJP
【FI】
G06Q50/06
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020073651
(22)【出願日】2020-04-16
(65)【公開番号】P2021170275
(43)【公開日】2021-10-28
【審査請求日】2023-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】鷹箸 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】毛受 卓
(72)【発明者】
【氏名】黒川 太
(72)【発明者】
【氏名】松本 隼
(72)【発明者】
【氏名】横山 雄
(72)【発明者】
【氏名】金谷 道昭
【審査官】橋沼 和樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-118830(JP,A)
【文献】特開2001-079310(JP,A)
【文献】特開2011-056478(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
過去の薬品注入率および過去の水質情報の実績値データを格納した実績値データベースと、
水質管理値のデータを格納した水質管理値データベースと、
発生事象と、この発生事象に対する対応内容とを含む情報であって、運転管理者が前記薬品注入率を決定する際に用いたノウハウ情報のデータを格納した運転ノウハウデータベースと、
所定時間後の天候情報と、水処理プロセスに流入する原水の水質情報と、前記原水の流量情報と、前記水処理プロセスから排出された処理水の水質情報と、を含む情報を外部から取得し、外部から取得した前記情報のデータと前記実績値データとに基づいて、所定時間後の前記原水と、被処理水と、前記処理水との水質情報と、を含む予測情報を演算する水質予測部と、
前記予測情報と、前記予測情報から得られる前記発生事象に対する前記ノウハウ情報のデータと、前記水質管理値のデータとに基づいて前記水質管理値を達成するための前記薬品注入率を演算する薬品注入率算出部と、
前記予測情報から得られる前記発生事象に対する前記ノウハウ情報が有るときに、前記薬品注入率の算出根拠を説明する説明情報を生成する表示情報生成部と、
前記説明情報を運転管理者に提示する表示部と、を備えた管理者支援装置。
【請求項2】
前記説明情報は、前記薬品注入率を時系列で表示するとともに、前記ノウハウ情報に基づいて前記薬品注入率の値と前記説明情報とを対応付けて表示するための表示情報である、請求項1記載の管理者支援装置。
【請求項3】
前記表示情報生成部は、前記薬品注入率の前記実績値データを時系列で表示するための表示情報を更に生成することができる、請求項1又は2記載の管理者支援装置。
【請求項4】
過去に演算された前記予測情報は前記実績値データベースに格納され、
前記表示情報生成部は、過去に演算された前記予測情報を時系列で表示するための表示情報を更に生成することが出来る、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の管理者支援装置。
【請求項5】
前記表示情報生成部は、エラー発生時の日時に対応する位置に、エラーの根拠を表示する表示情報を生成することが出来る、請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の管理者支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、管理者支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
浄水場には、河川などの取水源の水質変動によらず、水質基準に適合する水質を有し、かつ必要量の水を需要者に供給することが求められる。そのため、浄水場では厳しい水質管理が行われている。
【0003】
浄水場において、水処理プロセスに被処理水が流入してから処理が完了するまでには数時間を要するため、数時間後の天候や水質を予測して水質管理を行う必要がある。このような水質管理のために、水処理の過程で被処理水に注入する酸化剤や凝集剤などの薬品の注入率は、水処理に熟練した運転管理者の知識や経験等のノウハウに基づいて決定されるのが一般的であった。近年は、水処理の業務の効率化や運転管理者の負荷軽減等のため、熟練運転管理者のノウハウをデータベース化して薬品注入率などを自動的に制御するシステムの導入が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-18116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
薬品注入率などを自動的に制御する場合であっても、例えばシステムの不具合や取水源の水質の急激な変化に対応するために、運転管理者により薬品注入率を監視することが必要である。しかしながら、従来の制御システムでは、運転管理者に対して制御システムが算出した薬品注入率の根拠などについて十分な情報が提供されないために、運転管理者がシステムから提供された情報に基づいてシステムが提示する薬品注入率の妥当性を判断することが難しい場合があった。
【0006】
本発明の実施形態は上記事情を鑑みて成されたものであって、水質を管理する施設において、システムが薬品注入率を算出するとともに、その算出根拠を的確に運転管理者に提示を行い、支援する、管理者支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態による管理者支援装置は、過去の薬品注入率および過去の水質情報の実績値データを格納した実績値データベースと、水質管理値のデータを格納した水質管理値データベースと、発生事象と、この発生事象に対する対応内容とを含む情報であって、運転管理者が前記薬品注入率を決定する際に用いたノウハウ情報のデータを格納した運転ノウハウデータベースと、所定時間後の天候情報と、水処理プロセスに流入する原水の水質情報と、前記原水の流量情報と、前記水処理プロセスから排出された処理水の水質情報と、を含む情報を外部から取得し、外部から取得した前記情報のデータと前記実績値データとに基づいて、所定時間後の前記原水と、前記被処理水と、前記処理水との水質情報と、を含む予測情報を演算する水質予測部と、前記予測情報と、前記予測情報から得られる前記発生事象に対する前記ノウハウ情報のデータと、前記水質管理値のデータとに基づいて前記水質管理値を達成するための前記薬品注入率を演算する薬品注入率算出部と、前記予測情報から得られる前記発生事象に対する前記ノウハウ情報が有るときに、前記薬品注入率の算出根拠を説明する説明情報を生成する表示情報生成部と、前記説明情報を運転管理者に提示する表示部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、一実施形態の管理者支援装置を含む水処理システムの一構成例を概略的に示す図である。
図2図2は、一実施形態の管理者支援装置の一構成例を概略的に示す機能ブロック図である。
図3図3は、一実施形態の管理者支援装置の運転ノウハウデータベースに格納された情報の一例を説明するための図である。
図4図4は、一実施形態の管理者支援装置にて、運転管理者に提示される表示情報の一例を概略的に示す図である。
図5図5は、一実施形態の管理者支援装置にて、運転管理者に提示される表示情報の他の例を概略的に示す図である。
図6図6は、一実施形態の管理者支援装置にて、運転管理者に提示される表示情報の他の例を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、一実施形態の管理者支援装置について、図面を参照して説明する。
図1は、一実施形態の管理者支援装置を含む水処理システムの一構成例を概略的に示す図である。
【0010】
水処理システム100は、水処理プロセスWPに流入する被処理水の将来の水質を予測する機能と、水処理プロセスWPにおいて被処理水に注入する薬品(例えば、酸化剤や凝集剤、活性炭など)の注入率を算出する機能と、システムが算出した注入率の根拠情報(以下「説明情報」という。)を運転管理者に提示する機能と、を有する。
【0011】
水処理システム100は、運転支援装置1と、薬品注入装置2と、原水水質計51と、流入流量計52と、処理水水質計53と、水処理プロセスWPと、を備え、運転支援装置1で決定した薬品注入率が薬品注入装置2に入力し、薬品注入装置2内の図示しない薬品注入ポンプで被処理水に薬品を注入する。
【0012】
水処理プロセスWPには、着水井と、混和池と、フロック形成池と、沈殿池と、ろ過池と、浄水池が含まれる。水処理プロセスWPに原水が被処理水として流入してから、水処理プロセスWPから処理水として流出されるまでの種々の地点において、酸化剤や凝集剤などの薬品が被処理水に注入される。
原水水質計51は、水処理システム100にて処理される前の原水の、臭気や色度、濁度、pH、水温などを検出し、検出値を運転支援装置1に供給する。
流入流量計52は、水処理システム100に流入する原水(被処理水)の流量を検出し、検出値を運転支援装置1に供給する。
【0013】
処理水水質計53は、水処理システム100の水処理プロセスWPにて処理される被処理水、および、水処理プロセスWPから排出された処理水について、複数の地点において、臭気や色度、濁度、pH、残留塩素濃度、水温などを検出し、検出値(プロセス情報)を運転支援装置1に供給する。
【0014】
運転支援装置1は、例えば、少なくとも1つのプロセッサと、プロセッサにより実行されるプログラムが記録されたメモリ(図2に示すメモリM)と、を備えた演算装置を含む管理者支援装置である。運転支援装置1は、ソフトウエアにより、又は、ソフトウエアとハードウエアとの組み合わせにより種々の機能を実現することができる。
【0015】
運転支援装置1は、原水の水質の検出値と、被処理水の流量と、プロセス情報と、を取得するとともに、例えば現在および所定時間後の気温、温度、降水量、紫外線インデックス、天気などの天候情報を外部から取得する。運転支援装置1は、取得した情報を用いて将来の原水水質および被処理水水質を演算し、将来の原水水質や被処理水水質や天候情報を考慮した薬品注入率を算出する。
【0016】
運転支援装置1は、薬品注入率の算出根拠に関する説明情報の生成を行い、生成した説明情報を薬品注入率に対応付けて運転管理者に提示する機能を有する。運転支援装置1により演算された薬品注入率は、運転管理者により必要に応じて修正され得る。運転支援装置1は、運転管理者の確認された後の薬品注入率を薬品注入装置2へ供給する。
【0017】
薬品注入装置2は、運転支援装置1から取得した薬品注入率に基づいて、被処理水に対して対応する薬品を注入する。薬品注入装置2は、図示しない薬品注入ポンプで被処理水に薬品を注入する。薬品注入装置2は、複数の薬品注入ポンプを備え、水処理プロセスWPの複数の位置において種々の薬品を注入することができる。
【0018】
図2は、一実施形態の管理者支援装置の一構成例を概略的に示す機能ブロック図である。
運転支援装置1は、一実施形態の管理者支援装置であって、制御部CTRと、実績値データベース(DB)12と、運転ノウハウデータベース(DB)14と、水質管理値データベース(DB)16と、表示部17と、操作部18と、通信部19と、メモリMと、を備えている。制御部CTRは、水質予測部11と、薬品注入率算出部13と、表示情報生成部15と、を備えている。
制御部CTRと、表示部17と、操作部18と、通信部19と、メモリMとは、バス配線を介して、互いに通信可能に接続されている。
【0019】
実績値データベース12には、過去の原水水質と、過去のプロセス情報と、過去の天候情報と、過去に実際に採用された薬品注入率が関連付けられて格納されている。実績値データベース12に格納された情報は、後述する水質予測部11にて、第1学習済みモデルの入力データおよび教師データとして用いられ得る。なお、実績値データベース12に格納された値は、周期的に更新される。
【0020】
運転ノウハウデータベース14は、熟練の運転管理者が薬品注入率を決定する際に用いたノウハウ情報が格納されたデータベースである。運転ノウハウデータベース14は、例えば、水質情報や天候情報に含まれる項目の変化(発生事象)に対して、どの時点でどの薬品注入率をどのように変化させるべきであるのか(対応内容)を格納している。
【0021】
例えば、水処理プロセスに被処理水が流入してから処理が完了するまでには数時間要するため、発生事象が生じている時点で薬品注入率を変化させても対応が間に合わず、水質基準を満たすことが出来なくなる可能性がある。したがって、発生事象が生じる所定時間前の時点で、薬品注入率を変化させる対応が必要となる。運転ノウハウデータベース14には、所定時間後に生じると予測される発生事象と、その発生事象に対する対応内容が関連付けて格納されている。
【0022】
図3は、一実施形態の管理者支援装置の運転ノウハウデータベースに格納された情報の一例を説明するための図である。
ここでは、熟練の運転管理者が被処理水に対する塩素注入率を設定する際に用いたノウハウ情報の一例を示している。水処理プロセスWPでは、例えば、原水に含まれる微生物や細菌の増殖抑制(殺菌)や、鉄やマンガンなどの金属類や、有機物・アンモニア態窒素などを除去したり、異臭を除去したりするために、酸化剤として塩素(次亜塩素酸ナトリウム)を注入する場合がある。塩素の注入は、水処理プロセスWP中の複数の地点で行われ得る。例えば、沈殿池よりも前の地点で塩素が注入される前塩素処理(前次亜)、沈殿池とろ過池との中間地点(若しくはろ過池の入口)で塩素が注入される中間塩素処理(中次亜)、ろ過池移行に塩素が注入される後塩素処理(後次亜)などがあり得る。
【0023】
例えば、紫外線は水に含まれる塩素を分解、揮散させる。紫外線の増加により被処理水に注入された塩素の分解、揮散が進むと、沈殿池で微生物が増殖したり、鉄やマンガンなどの金属が除去されずに残留量が増加したりする原因となる。また、紫外線が減少すると被処理水に注入された塩素の分解が進まず、トリハロメタンが生成されるリスクが向上する。したがって、例えば熟練の運転管理者は、所定時間後の天候情報に基づいて、所定時間後の紫外線の増加が予測されたときに所定の時点(例えば紫外線が増加する数時間前)における前次亜塩素注入率、中次亜塩素注入率、および、後次亜塩素注入率の設定値を増加させ、所定時間後の紫外線の減少が予測されたときに所定の時点(例えば紫外線が減少する数時間前)における前次亜塩素注入率、中次亜塩素注入率、および、後次亜塩素注入率の設定値を減少させる。
【0024】
例えば、原水の水温が上昇すると水に含まれる塩素が分解、揮散される。したがって、水温が上昇すると紫外線が増加したときと同様に被処理水に注入された塩素の分解、揮散が進み、沈殿池で微生物や細菌が増殖したり、鉄やマンガンなどの金属が除去されずに残留量が増加したりする原因となる。また、水温が下降すると紫外線が減少したときと同様に被処理水に注入された塩素の分解が進まず、トリハロメタンが生成されるリスクが向上する。したがって、例えば熟練の運転管理者は、所定時間後の天候情報に基づいて、所定時間後の原水の水温上昇が予測されたときに所定の時点(例えば原水の水温上昇の数時間前)における前次亜塩素注入率、中次亜塩素注入率、および、後次亜塩素注入率の設定値を増加させ、所定時間後の原水の水温下降が予測されたときに所定の時点(例えば原水の水温下降の数時間前)における前次亜塩素注入率、中次亜塩素注入率、および、後次亜塩素注入率の設定値を減少させる。
【0025】
例えば、原水中のアンモニア成分が増加すると、酸化剤である塩素とアンモニア成分とが結合することにより塩素が消費され、沈殿池で微生物や細菌が増殖したり、鉄やマンガンなどの金属の残留量が増加したりする原因となる。したがって、例えば熟練の運転管理者は、所定時間後に被処理水中のアンモニア成分が増加する(閾値を超える)と予測したとき、所定の時点(例えばアンモニア成分が増加する数時間前)における前次亜塩素注入率の設定値を増加させる。
【0026】
例えば、原水中にマンガンが多く含まれると、異臭味や着色水の問題を引き起こすため、除去すべきである。マンガンは、塩素などの酸化剤を添加することにより不溶解性とすることができる。したがって、例えば熟練の運転管理者は、所定時間後に被処理水中のマンガンが増加する(閾値を超える)と予測したとき、所定の時点(例えばマンガンが増加すると同時)における前次亜塩素注入率の設定値を増加させる。
【0027】
例えば、沈殿池出口における残留塩素濃度が正常範囲よりも高い状態であると、トリハロメタンの生成リスクが向上し、沈殿池出口における残留塩素濃度が正常範囲よりも低い状態であると、沈殿池で微生物や細菌が増殖したり、鉄やマンガンなどの金属が残留したりする原因となる。したがって、例えば熟練の運転管理者は、所定時間後に沈殿池出口における残留塩素濃度が正常範囲よりも高くなると予測したとき、所定の時点(例えば残留塩素濃度が正常範囲よりも高くなる数時間前)における前次亜塩素注入率の設定値を減少させ、所定時間後に沈殿池出口における残留塩素濃度が正常範囲よりも低くなると予測したときは、所定の時点(例えば残留塩素濃度が正常範囲よりも低くなる数時間前)における前次亜注入率の設定値を増加させる。
【0028】
例えば、ろ過池出口における残留塩素濃度が正常範囲よりも高い状態であると、トリハロメタンの生成リスクが向上し、ろ過池出口における残留塩素濃度が正常範囲よりも低い状態であると、ろ過池で微生物や細菌が増殖する原因となる。したがって、例えば熟練の運転管理者は、所定時間後にろ過池出口における残留塩素濃度が正常範囲よりも高くなると予測したとき、所定の時点(例えば残留塩素濃度が正常範囲よりも高くなる数時間前)における中次亜注入率の設定値を減少させ、所定時間後にろ過池出口における残留塩素濃度が正常範囲よりも低くなると予測したときは、所定の時点(例えば残留塩素濃度が正常範囲よりも低くなる数時間前)における中次亜注入率の設定値を増加させる。
【0029】
運転ノウハウデータベース14には、例えば上述のような運転管理者のノウハウに基づいて、複数の発生事象(所定時間後に発生すると予測される事象)と、各発生事象に対する対応内容とが関連付けて格納されている。運転ノウハウデータベース14に格納された発生事象は、後述する表示情報生成部15にて薬品注入率が算出された根拠として用いられる。運転ノウハウデータベース14に格納された対応内容は、例えば、対象とする薬品と、注入地点と、注入率の変化量を示す値と、対応する時点と、の情報を含み得る。注入率の変化量を示す値は、増減する割合の値であってもよく、変化量の度合いを段階的に示す値(例えば「+1」、「+2」、「-1」、「-2」などの数値や、記号など)であってもよい。また、例えば、所定の時間継続して注入率を変化させる場合には、対応内容には注入率を変化させる継続時間の情報も含まれ得る。
【0030】
なお、運転ノウハウデータベース14は、複数種類のノウハウ情報を格納することができる、例えば、運転ノウハウデータベース14は、複数の熟練の運転管理者のノウハウを格納していてもよい。この場合には、運転ノウハウデータベース14には、例えば、運転管理者の識別子と、複数の発生事象と、各発生事象に対する対応内容が関連付けて格納される。運転管理者はそれぞれにノウハウを持ち、運転管理者毎に対応内容にも差が生じ得る。そのため、未熟な運転管理者の操作では、複数の運転管理者のノウハウ情報のいずれかを選択して使用できるように構成されていてもよい。
【0031】
また、運転ノウハウデータベース14には、例えば、水質管理値の下限値を下廻らない程度まで薬品注入率の設定値を下げ、薬品の使用量を減らしコストミニマムとするノウハウと、複数の運転管理者による薬品注入率の平均的な値とする際のノウハウとを格納してもよい。この場合には、運転ノウハウデータベース14には、例えば、どの運転管理者のノウハウ情報であるかを識別するためのノウハウ情報の識別子と、発生事象と、各発生事象に対する対応内容とが関連付けて格納される。
【0032】
水質管理値データベース16には、浄水場が定める沈殿池出口、ろ過池出口、浄水池出口における水質基準のデータを格納している。例えば、沈殿池出口の残留塩素濃度は、0.03mg/L以上、0.3mg/L以下、ろ過池出口の残留塩素濃度は、0.3mg/L以上、1.2mg/L以下、浄水池の残留塩素濃度は、0.3mg/L以上、1.2mg/L以下などの水質管理値が格納されている。また、水質管理値に対する閾値(上限値および下限値)として例えば、沈殿池出口の残留塩素濃度は、0.05mg/L(上限値)以上、0.2mg/L(下限値)以下、ろ過池出口の残留塩素濃度は、0.5mg/L(上限値)以上、1.0mg/L(下限値)以下、浄水池の残留塩素濃度は、0.5mg/L(上限値)以上、1.0mg/L(下限値)以下などが、関連付けられて格納されている。
【0033】
また、水質管理値データベース16は、水質基準のデータとして薬品のコスト情報を格納していてもよい。その場合、水質管理値データベース16には、例えば、薬品の名称などの識別情報と、単位量当たりのコストと、所定時間に消費される薬品の総コストの上限値と、が関連付けられて格納され得る。
すなわち、水質管理値データベース16には、上述した水質管理値および閾値などの目標とすべき水質に関するデータが格納されている。
【0034】
通信部19は、運転支援装置1の外部の構成と双方向に通信することが可能である。通信部19は、例えば、原水水質計51から原水水質の情報を受信し、流入流量計52から被処理水の流入量の情報を受信し、処理水水質計53から被処理水および処理水の水質の情報を受信することが出来る。また、通信部19は、インターネットなどのネットワークを介して、天候情報を受信することが出来る。通信部19は、運転支援装置1にて設定された薬品注入率を、薬品注入装置2へ送信する。
【0035】
操作部18は、運転支援装置1の利用者(運転管理者)により操作され得る構成であり、例えば、マウスやキーボードやマイクなどの機器や、例えばタッチパネルなどのセンサや、運転支援装置1に設けられた操作ボタン等を含み得る。運転支援装置1の利用者は、操作部18を操作することにより、運転支援装置1の制御部CTRに対して操作情報を入力することが出来る。
【0036】
表示部17は、液晶表示パネルや有機EL表示パネルなどの表示手段を含み、制御部CTRにより動作を制御され、表示情報生成部15から供給された表示情報を表示することができる。
【0037】
水質予測部11は、取得可能な情報に基づいて、所定時間後の水質情報を演算する第1学習済みモデルを備えている。第1学習済みモデルは、例えばニューラルネットワークなどの深層学習により学習済みのモデルであって、例えば、過去の原水水質情報と、実績値データベース12に格納された、過去の処理水水質情報と、過去の天候情報と、過去の薬品注入率の実績値の情報と、に基づくデータを入力データとし、入力データ検出時から所定時間後の水質(原水水質、被処理水の水質、および、処理水水質を含む)情報を教師データとして学習されている。水質予測部11は、例えば、原水水質と、プロセス情報と、天候情報と、過去の実績値と、の情報に基づくデータを入力データとし、入力データ取得時(現時点)から24時間後までの水質の予測情報を演算可能であり、1分ごとに新たな入力データに基づく予測情報を演算して出力することが可能である。
【0038】
水質予測部11から出力される予測情報には、例えば、入力データ検出時から所定時間後における、水処理プロセスWPに流入する原水水質情報、複数地点における被処理水の水質情報、処理水水質情報、被処理水の流量情報、処理水の需要量情報、天候情報などが含まれ得る。
水質予測部11は、演算した所定時間後の水質の予測情報に基づくデータを実績値データベース12へ格納するとともに、薬品注入率算出部13へ出力する。
【0039】
薬品注入率算出部13は、運転ノウハウデータベース14にアクセスして、水質予測部11にて算出された所定時間後の水質情報および天候情報に該当する発生事象の有無を確認し、該当する発生事象があったときに、該当する発生事象に関連付けられた対応内容を取得することが出来る。
【0040】
薬品注入率算出部13は、水質予測部11にて算出された予測情報と、運転ノウハウデータベース14から取得したノウハウ情報のデータと、水質管理値データベース16から取得した水質基準情報のデータと、を用いて、水質管理値のデータが達成されるように、所定時間後の薬品注入率を演算する第2学習済みモデルを備えている。第2学習済みモデルは、例えばニューラルネットワークなどの深層学習により学習済みのモデルであって、例えば、過去の予測情報と、ノウハウ情報と、水質基準のデータと、を入力データとし、過去の薬品注入率の実績データを教師データとして学習されている。
【0041】
なお、薬品注入率算出部13の第2学習済みモデルの入力データは、複数の日時の予測情報を含み得る。例えば、メモリMに所定の期間の予測情報を一時的に記憶させて、第2学習済みモデルの入力データとして用いることが出来る。また、薬品注入率算出部13は、例えば、薬品のコスト情報などが複数ある場合には、所定時間に消費される薬品の総コストの上限値を設けて、複数のコスト情報それぞれに対応する薬品注入率を算出することが可能である。薬品注入率算出部13は、演算した薬品注入率を、実績値データベース12へ格納するとともに、表示情報生成部15へ出力する。
【0042】
表示情報生成部15は、実績値、予測情報、薬品注入率、説明情報を表示部17に表示させる表示情報を生成することが出来る。表示情報生成部15は、例えば利用者が操作部18を操作することにより得られる操作情報に基づいて、実績値データベース12、運転ノウハウデータベース14、および水質管理値データベース16にアクセスして必要な情報を取得し、表示部17に表示させる表示情報を更新して出力することが出来る。
【0043】
図4は、一実施形態の管理者支援装置にて、運転管理者に提示される表示情報の一例を概略的に示す図である。
ここでは、横軸を時間軸とし縦軸を紫外線インデックス(UVI)の軸として、紫外線量の実績値と、過去の予測結果の値と、所定時間後までの算出値(予測値)と、を折れ線グラフにて表示した例を示している。
【0044】
図4に示す表示例では、現在の時刻を時間軸の中央とし、紙面に向かって右側を現在から24時間後までの時間軸、紙面に向かって左側を現在から24時間前までの時間軸としている。また、この例では、運転管理者の操作により紫外線量と降雨(雪)量とを表示可能としている。
【0045】
この表示を運転管理者に提示することにより、運転管理者は、過去の予測値と実績値とを対比することができ、実績値に対する予測値の妥当性を、より容易に判断できることになる。
【0046】
図5は、一実施形態の管理者支援装置にて、運転管理者に提示される表示情報の他の例を概略的に示す図である。
ここでは、横軸を時間軸とし縦軸を残留塩素濃度(mg/L)の軸として、沈殿池出口の残留塩素濃度の実績値と、過去の予測結果の値と、所定時間後までの複数の算出値(予測値)A、Bと、を折れ線グラフにて表示した例を示している。算出値Aと算出値Bとは、例えば被処理水に注入される塩素のコストを考慮して、残留塩素濃度として可能性のある複数の値を算出した結果である。
【0047】
図5に示す表示例では、現在の時刻を時間軸の中央とし、紙面に向かって右側を現在から24時間後までの時間軸、紙面に向かって左側を現在から24時間前までの時間軸としている。また、この例では、残留塩素濃度(mg/L)について、沈殿池出口での値の他に、ろ過池出口での値および浄水池出口での値を、運転管理者の操作に基づいて表示可能としている。
【0048】
この表示を運転管理者に提示することにより、上述の紫外線インデックス同様に運転管理者は、過去の予測値と実績値とを対比することができ、実績値に対する予測値の精度や妥当性を、より容易に判断できる。また、異なる条件での算出値Aと算出値Bを同時に表示することで、運転管理者は複数の塩素注入率の候補からより適切なものを選択することができる。例えば、算出値Aと算出値Bは、原水水質や紫外線インデックなどが同一条件のもと、算出値Bは算出値Aに比べ前次亜塩素注入率を少なくした場合の算出値であり、注入率を少なくすることで塩素にかかるコストを下げる選択ができる。
【0049】
また、表示情報生成部15は、運転ノウハウデータベース14にアクセスして、水質予測部11にて算出された所定時間後の水質情報および天候情報に該当する発生事象の有無を確認し、予測情報に該当する発生事象があったときに、該当する発生事象と、該当する発生事象に対応する対応内容とを取得することが出来る。
この場合、表示情報生成部15は、取得した発生事象および対応内容に基づいて、薬品注入率が算出された根拠を運転管理者に提示するための説明情報を生成し、生成した説明情報を対応する薬品注入率の表示位置に表示する表示情報を生成して表示部17へ出力する。
【0050】
表示情報生成部15にて生成される説明情報は、例えば、運転ノウハウデータベース14から供給されたノウハウ情報の発生事象を運転管理者に提示するように生成される。運転ノウハウデータベース14から複数の発生事象に対応するノウハウ情報が得られた場合には、表示情報生成部15は、複数の説明情報をそれぞれの対応する位置に表示させるように表示情報を生成することができる。例えば、表示情報生成部15は、複数の発生事象を文字により提示するよう説明情報を生成してもよく、予め発生事象ごとに個別の図柄や色彩が設定された画像を提示するように説明情報を生成してもよい。
【0051】
なお、説明情報は、水処理システム100においてエラーが発生したときに、時系列の対応する位置にエラーの根拠を説明するための表示情報を含み得る。例えば、水処理システム100において、検出器のエラーにより水質や流水量のデータが取得できない場合や、薬品注入装置2の故障により薬品注入が正常に行われない場合などがあり得る。制御部CTRは、通信部19を介して異常の通知を受信したり、取得した検出データの値が異常であったりすることに基づいて、水処理システム100のどの部分でエラーが生じているかを判断することができる。制御部CTRにてエラーが認識された場合には、表示情報生成部15にて、エラー発生時の日時に対応する位置に、エラーの根拠を説明するための文字や図柄を表示する表示情報を生成することが出来る。
【0052】
図6は、一実施形態の管理者支援装置にて、運転管理者に提示される表示情報の他の例を概略的に示す図である。
ここでは、横軸を時間軸とし縦軸を塩素注入率(mg/L)の軸として、前次亜塩素注入率の実績値と、過去の予測結果と、所定時間後までの複数の算出値(予測値)C、算出値(最適値)Dと、を折れ線グラフにて表示した例を示している。算出値Cと算出値Dとは、例えば被処理水に注入される薬品のコストを考慮して、総コストの制約内にて塩素注入率の可能性のある複数の値を算出した結果である。
【0053】
図6に示す例では、現在の時刻を時間軸の中央とし、紙面に向かって右側を現在から24時間後までの時間軸、紙面に向かって左側を現在から24時間前までの時間軸としている。また、この例では、塩素注入率(mg/L)について、前次亜塩素注入率の値の他に、中塩素注入率の値および後次亜塩素注入率の値を、運転管理者の操作に基づいて表示可能としている。
【0054】
なお、塩素注入率が変化するタイミングにおいて、プロットに付された吹き出し内に説明情報CA-CDが表示されている。ここでは、発生事象に対して塩素注入率を変化させるタイミングのプロット近傍に、対応する発生事象が説明情報として表示されている。
例えば、説明情報CAは、紫外線が7時間後に増加するとの発生事象に基づいて表示されており、ノウハウ情報によれば、この発生事象により7時間前の前次亜塩素注入率を変化させる対応内容となっていることから、発生事象より7時間前の塩素注入率のプロット近傍に、「紫外線 7時間後に増加」との説明情報CAを表示することで、前次亜塩素注入率の増加が、7時間後に沈殿池に到達する原水が紫外線の増加で塩素の分解、揮発が進み沈殿池での微生物の増殖やマンガンなどの金属が除去されずに残留量が増加することを防ぐために行われることを運転管理者に提示し、このことにより、運転管理者は前次亜塩素注入率の増加の根拠を理解した上で薬品注入率を設定することができる。なお、上述では「紫外線7時間後に増加」として、一例として7時間前に塩素注入率を増加させたが、原水流入量の多い少ないによっては、前塩素処理における次亜塩素酸ナトリウムの注入箇所から沈殿池まで被処理水が到達するために要する時間が例えば7時間に対して前後するので、説明情報CAの表示する時間箇所も変更とされる。
また、同様に例えば、説明情報CBは、紫外線が減少するとの発生事象に基づいて表示されており、ノウハウ情報によれば、この発生事象により13時間前の塩素注入率を変化させる対応内容となっていることから、発生事象より13時間前の塩素注入率のプロット近傍に、「紫外線 13時間後に減少」との説明情報CBが表示される。
【0055】
運転管理者は、表示された説明情報CA-CDを参考にして、塩素注入率の算出値Cや算出値Dが妥当であるか判断することができる。例えば、運転管理者は、表示された説明情報CA-CDを参考にして、算出値Cと算出値Dとのいずれかを実際の塩素注入率の設定値として選択することが可能である。また、例えば、塩素注入率の算出値Cや算出値Dが妥当でないと判断した場合には、運転管理者は妥当な値の塩素が注入されるように設定することが可能である。運転管理者が選択した塩素注入率や、妥当な値として設定した塩素注入率は、薬品注入装置2へ送信されるとともに、実績値データベース12に格納される。
【0056】
なお、図6に示す説明情報の表示は、運転管理者へ説明情報を提供する態様の一例であり、これに限定されるものではなく、他の態様により説明情報を運転管理者へ提供しても構わない。例えば、説明情報は、グラフ内に表示される必要はなく、グラフの周囲の領域において発生事象と対応する時刻とが時系列に順次並んで表示されてもよい。また、例えば、説明情報は文字ではなく発生事象に対応する図柄の画像により、運転管理者へ提供されてもよい。その場合には、対応するマークをプロットの近傍に表示してもよく、時間軸の対応する時刻の位置近傍に表示されてもよい。また、説明情報は、運転管理者の操作により表示されてもよい。例えば、運転管理者がプロットを選択(タッチパネルに接触したり、マウスでクリックしたりする等)したときに、プロットの近傍に説明情報を含む吹き出しが表示されてもよい。
また、例えば、説明情報は音声により運転管理者に提供されてもよく、説明情報が運転管理者に対するメッセージとして送受信されて提供されてもよい。
【0057】
上記のように、本実施形態の管理者支援装置では、運転管理者に対して薬品注入率が算出された根拠(説明情報)を提示することが可能であり、このことにより、運転管理者はシステムから提供された説明情報に基づいてシステムが提示する薬品注入率の妥当性を判断することができる。
【0058】
すなわち、本実施形態によれば、水質を管理する施設において、システムにより制御される薬品注入率を監視する運転管理者を支援する、管理者支援装置を提供することができる。
【0059】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0060】
1…運転支援装置、2…薬品注入装置、51…原水水質計、52…流入流量計、53…処理水水質計、CTR…制御部、11…水質予測部、12…実績値データベース、13…薬品注入率算出部、14…運転ノウハウデータベース、15…表示情報生成部、16…水質管理値データベース、17…表示部、18…操作部、19…通信部、100…水処理システム、CA-CD…説明情報
図1
図2
図3
図4
図5
図6