(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】酸無水物変性スチレンーイソブチレンブロック共重合体、その製造方法およびその樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08F 8/46 20060101AFI20240311BHJP
C08F 210/10 20060101ALI20240311BHJP
C08F 212/08 20060101ALI20240311BHJP
C08F 297/00 20060101ALI20240311BHJP
C08L 23/22 20060101ALI20240311BHJP
C08L 25/08 20060101ALI20240311BHJP
C08L 53/00 20060101ALI20240311BHJP
C08L 77/00 20060101ALI20240311BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
C08F8/46
C08F210/10
C08F212/08
C08F297/00
C08L23/22
C08L25/08
C08L53/00
C08L77/00
C08L101/00
(21)【出願番号】P 2020076740
(22)【出願日】2020-04-23
【審査請求日】2023-02-27
(31)【優先権主張番号】P 2019085726
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】井狩 芳弘
【審査官】宮内 弘剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-099807(JP,A)
【文献】国際公開第2013/108731(WO,A1)
【文献】特開2005-225899(JP,A)
【文献】特開平10-212392(JP,A)
【文献】特開2002-226667(JP,A)
【文献】特開平11-349640(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
C08K
C08L
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸無水物変性スチレン
-イソブチレンブロック共重合体(A)であって、
(1)該ブロック共重合体が(a)芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックと(b)イソブチレンを主体とする重合体ブロックを有し、
(2)サイズ排除クロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算重量平均分子量が90,000~200,000であって、
(3)スチレンを主成分とする重合体ブロックが10~50重量%、イソブチレンを主成分とする重合体ブロックが50~90重量%であって、
(4)樹脂中の酸無水物基含有量が0.01~10重量%であって、
(5)樹脂中に残存する酸無水物が800ppm以下であって、
(6)
230℃、せん断速度2,430sec
-1における溶融粘度が350~2,000Poiseであるブロック共重合体。
【請求項2】
前記芳香族ビニル化合物が、スチレン、およびp-メチルスチレン、m-メチルスチレン、α-メチルスチレン、インデンからなる群から選ばれる1種を主成分とすることを特徴とする請求項1に記載の酸無水物変性スチレン
-イソブチレンブロック共重合体。
【請求項3】
前記ブロック共重合体が、(a)-(b)のジブロック構造、(a)-(b)-(a)または(b)-(a)-(b)のトリブロック構造から選ばれる1種以上の構造を有していることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の酸無水物変性スチレン
-イソブチレンブロック共重合体。
【請求項4】
前記ブロック共重合体が、(a)-(b)-(a)のトリブロック構造を有していることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の酸無水物変性スチレン
-イソブチレンブロック共重合体。
【請求項5】
架橋助剤を使用せずに、もしくはブロック共重合体100重量部に対して0.5重量部未満使用し、無官能性スチレン
-イソブチレンブロック共重合体、α,β-不飽和カルボン酸無水物、有機過酸化物を150~250℃下に溶融混練することにより請求項1~4のいずれか1項に記載の酸無水物変性スチレン
-イソブチレンブロック共重合体を製造する方法。
【請求項6】
前記α,β-不飽和カルボン酸無水物が無水マレイン酸であることを特徴とする請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記有機過酸化物が芳香環を持たない化合物であることを特徴とする請求項5または6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記α,β-不飽和カルボン酸無水物を無官能性スチレン
-イソブチレンブロック共重合体100重量部に対して0.01~4重量部用いる請求項5~7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1~4のいずれかに記載の酸無水物変性スチレン
-イソブチレンブロック共重合体(A)と極性基含有熱可塑性樹脂(B)を含有する樹脂組成物であって、前記変性ブロック共重合体(A)と熱可塑性樹脂(B)との合計100重量部に対して、変性ブロック共重合体(A)を5~90重量部、熱可塑性樹脂(B)を10~95重量部含む樹脂組成物。
【請求項10】
前記極性基含有熱可塑性樹脂(B)が、ポリアミド、およびポリウレタン、ポリエステル、ポリカーボネート、ABS樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項9に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
前記極性基含有熱可塑性樹脂(B)がポリアミドであることを特徴とする請求項9または10に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
前記ポリアミドが、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド12、ポリアミド610からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項
10または1
1に記載の樹脂組成物。
【請求項13】
23℃、差圧1atmにおける酸素透過係数が1.50x10
-17(mol・m/m
2・sec・Pa)以下であることを特徴とする請求項9~12のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項14】
次に定める方法で測定した重量変化が10%以下であることを特徴とする請求項9~13のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
(方法) 2cmx5cmx0.5mmに成型した請求項8~12のいずれか1項に記載の樹脂組成物の重量を測定しW1とする。次に、20倍の重量のキシレン中にこの樹脂組成物を浸漬し、還流条件下に1時間保持する。その後、樹脂組成物をキシレン中から取り出し、120℃、真空下に4時間乾燥させる。再び樹脂組成物の重量W2を測定する。こうして得られたW1、W2を用い、(W1-W2)/W1x100の式から重量変化を求める。
【請求項15】
請求項9~14のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなる成形品。
【請求項16】
請求項9~14のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなる中空成形品。
【請求項17】
請求項9~14のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなる食品包装用フィルム。
【請求項18】
請求項9~14のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなる自動車用フィルム。
【請求項19】
樹脂中の酸無水物基含有量が0.3~3重量%である、請求項1~4のいずれか1項に記載の酸無水物変性スチレン-イソブチレンブロック共重合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸無水物変性スチレンーイソブチレンブロック共重合体、その製造方法およびその樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ABS樹脂などの極性基を有する熱可塑性樹脂は種々の成形品の材料として利用されてきている。しかし、単一の樹脂だけでは十分な性能が得られない場合があり、その場合は他の高分子物質を添加して性能の改善を図っている。たとえば、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのランダム共重合体、ブロック共重合体、さらにその部分水素化物などの高分子物質を含有する熱可塑性樹脂組成物が知られている。しかしながら、これらの高分子物質は熱可塑性樹脂との相溶性に劣るため添加による改良効果は不十分であった。特許文献1では、相溶性の改良に関しては高分子物質に特定の官能基を導入して官能性を付与することにより解決する方法が開発されている 。
【0003】
しかし近年、成形品の使用場面の多様化などから様々な性能が要求されてきており、その要求特性としてガスバリア性、制振性があげられる。これらの要求特性を満たすには、上述の方法においても改善が不十分であり、更なる改善の余地があった。
【0004】
ガスバリア性や制振性に優れる樹脂としては、イソブチレン系ブロック共重合体が知られており、更に特許文献2では、極性樹脂との相溶性を改善する技術も報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特公昭60-11966号公報
【文献】特開2005-225899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に記載の技術では、特定の官能基を有するスチレンーイソブチレンブロック共重合体により、ポリアミド樹脂への相溶性を改善し、耐衝撃性やガスバリア性、その他の機械物性を改善できることが報告されている。しかしながら、本発明者が検討した結果、これらの物性の改善の程度は限定的であり、更なる改善の余地があることが分かった。これは、該文献では得られた酸無水物変性重合体そのものの特性が明らかにされておらず、極性樹脂の改質効果との相関の理解が不十分であるためである。
【0007】
また、極性樹脂の改質効果を高めるために酸無水物を多量に添加すると、残存不純物による着色が顕著になる場合があることが明らかとなった。これは、酸無水物変性スチレンーイソブチレンブロック共重合体自体の外観や物性を損なうばかりでなく、極性樹脂との樹脂組成物の外観も損なうことが分かった。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、樹脂自体が取り扱い易く、ガスバリア性が良好で、低着色であって、柔軟性、耐衝撃性、耐熱性、耐油性に優れ、極性基含有樹脂の改質効果の高い酸無水物変性スチレンーイソブチレンブロック共重合体、その製造方法、およびその樹脂組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、特定の酸無水物変性スチレンーイソブチレンブロック共重合体により上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、
(1).酸無水物変性スチレンーイソブチレンブロック共重合体であって、
(1)該ブロック共重合体が(a)芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックと(b)イソブチレンを主体とする重合体ブロックを有し、
(2)サイズ排除クロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算重量平均分子量が90,000~200,000であって、
(3)スチレンを主成分とする重合体ブロックが10~50重量%、イソブチレンを主成分とする重合体ブロックが50~90重量%であって、
(4)樹脂中の酸無水物基含有量が0.01~10重量%であって、
(5)樹脂中に残存する酸無水物が800ppm以下であって、
(6)せん断速度2,430sec-1における溶融粘度が350~2,000Poise
である酸無水物変性スチレンーイソブチレンブロック共重合体に関する。
(2).前記芳香族ビニル化合物がスチレン、およびp-メチルスチレン、m-メチルスチレン、α-メチルスチレン、インデンからなる群から選ばれる1種を主成分とすることを特徴とする酸無水物変性スチレンーイソブチレンブロック共重合体に関する。
(3).前記ブロック共重合体が、(a)-(b)のジブロック構造、(a)-(b)-(a)または(b)-(a)-(b)のトリブロック構造から選ばれる1種以上の構造を有していることを特徴とする酸無水物変性スチレンーイソブチレンブロック共重合体に関する。
(4).前記ブロック共重合体が、(a)-(b)-(a)のトリブロック構造を有していることを特徴とする酸無水物変性スチレンーイソブチレンブロック共重合体に関する。
(5).架橋助剤を使用せずに、もしくはブロック共重合体100重量部に対して0.5重量部未満使用し、無官能性スチレンーイソブチレンブロック共重合体、α,β-不飽和カルボン酸無水物、有機過酸化物を150~250℃下に溶融混練することにより酸無水物変性スチレンーイソブチレンブロック共重合体を製造する方法に関する。
(6).前記α,β-不飽和カルボン酸無水物が無水マレイン酸であることを特徴とする製造方法に関する。
(7).前記有機過酸化物が芳香環を持たない化合物であることを特徴とする製造方法に関する。
(8).前記α,β-不飽和カルボン酸無水物を無官能性スチレンーイソブチレンブロック共重合体100重量部に対して0.01~4重量部用いる製造方法に関する。
(9).請求項1~4のいずれかに記載の酸無水物変性スチレンーイソブチレンブロック共重合体と極性基含有熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物であって、前記変性ブロック共重合体と熱可塑性樹脂との合計100重量部に対して、変性ブロック共重合体を5~90重量部、熱可塑性樹脂を10~95重量部含む樹脂組成物に関する。
(10).前記極性基含有熱可塑性樹脂が、ポリアミド、およびポリウレタン、ポリエステル、ポリカーボネート、ABS樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする樹脂組成物に関する。
(11).前記極性基含有熱可塑性樹脂がポリアミドであることを特徴とする樹脂組成物に関する。
(12).前記ポリアミドがポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド12、ポリアミド610からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする樹脂組成物に関する。
(13).23℃、差圧1atmにおける酸素透過係数が1.50x10-17(mol・m/m2・sec・Pa)以下であることを特徴とする樹脂組成物に関する。
(14).次に定める方法で測定した重量変化が10%以下であることを特徴とする樹脂組成物に関する。
(方法) 2cmx5cmx0.5mmに成型した請求項8~12のいずれか1項に記載の樹脂組成物の重量を測定しW1とする。次に、20倍の重量のキシレン中にこの樹脂組成物を浸漬し、還流条件下に1時間保持する。その後、樹脂組成物をキシレン中から取り出し、120℃、真空下に4時間乾燥させる。再び樹脂組成物の重量W2を測定する。こうして得られたW1、W2を用い、(W1-W2)/W1x100の式から重量変化を求める。
(15).(9)~(14)のいずれかに記載の樹脂組成物からなる成形品に関する。
(16).(9)~(14)のいずれかに記載の樹脂組成物からなる中空成形品に関する。
(17).(9)~(14)のいずれかに記載の樹脂組成物からなる食品包装用フィルムに関する。
(18).(9)~(14)のいずれかに記載の樹脂組成物からなる自動車用フィルムに関する。
(19).樹脂中の酸無水物基含有量が0.3~3重量%である、(1)~(4)のいずれか1項に記載の酸無水物変性スチレン-イソブチレンブロック共重合体に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、樹脂自体が取り扱い易く、ガスバリア性が良好で、低着色であって、柔軟性、耐衝撃性、耐熱性、耐油性に優れ、極性基含有樹脂の改質効果の高い酸無水物変性スチレンーイソブチレンブロック共重合体、その製造方法、およびその樹脂組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の酸無水物変性スチレンーイソブチレンブロック共重合体(以降、単に「本発明の変性ブロック共重合体」とも言う)は、(a)芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックと(b)イソブチレンを主体とする重合体ブロックを有する。
【0012】
芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロック(a)は実質的にスチレンのみからなる重合体ブロックであってもよいし、本発明の効果を損なわない範囲であれば、スチレン以外のモノマーを含有していてもよい。
【0013】
ここで、共重合できるモノマーとしては、例えば、メチルスチレン(o-体、m-体又はp-体のいずれでも良い)、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、2,6-ジメチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、α-メチル-o-メチルスチレン、α-メチル-m-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン、β-メチル-o-メチルスチレン、β-メチル-m-メチルスチレン、β-メチル-p-メチルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレン、α-メチル-2,6-ジメチルスチレン、α-メチル-2,4-ジメチルスチレン、β-メチル-2,6-ジメチルスチレン、β-メチル-2,4-ジメチルスチレン、o-、m-又はp-クロロスチレン、2,6-ジクロロスチレン、2,4-ジクロロスチレン、α-クロロ-o-クロロスチレン、α-クロロ-m-クロロスチレン、α-クロロ-p-クロロスチレン、β-クロロ-o-クロロスチレン、β-クロロ-m-クロロスチレン、β-クロロ-p-クロロスチレン、2,4,6-トリクロロスチレン、α-クロロ-2,6-ジクロロスチレン、α-クロロ-2,4-ジクロロスチレン、β-クロロ-2,6-ジクロロスチレン、β-クロロ-2,4-ジクロロスチレン、t-ブチルスチレン(o-体、m-体又はp-体のいずれでも良い)、メトキシスチレン(o-体、m-体又はp-体のいずれでも良い)、クロロメチルスチレン(o-体、m-体又はp-体のいずれでも良い)、ブロモメチルスチレン(o-体、m-体又はp-体のいずれでも良い)、シリル基で置換されたスチレン誘導体、インデン、ビニルナフタレン等が挙げられる。
【0014】
これらの中でも、工業的な入手性や価格、反応性の観点から、メチルスチレン(o-体、m-体又はp-体のいずれでも良い)、α-メチルスチレン、インデンか、または、これらの混合物が好ましい。
【0015】
モノマーの入手性、反応性、得られる変性ブロック共重合体の物性等の観点から、スチレンに由来するユニットが60重量%以上含まれることが好ましく、80重量%以上含まれることが更に好ましい。60重量%を下回ると、経済性の面で不利になる場合があるため好ましくない。
【0016】
イソブチレンを主体とする重合体ブロック(b)は実質的にイソブチレンのみからなる重合体ブロックであってもよいし、本発明の効果を損なわない範囲であれば、イソブチレン以外のモノマーを含有していてもよい。イソブチレン以外のモノマーとしては、イソブチレンとカチオン重合可能なモノマーであれば特に制限はないが、例えば、1-ブテンなどの脂肪族オレフィン類、上記の芳香族ビニル化合物、1,3-ブタジエンやイソプレン等のジエン類、ブチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類、ビニルトリメチルシランやアリルトリメチルシラン等のシラン類、ビニルカルバゾール、α-ピネンやβ-ピネン、リモネン等のテルペン類、アセナフチレン等の単量体が例示できる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
重合体ブロック(b)は、得られる変性ブロック共重合体の機械物性の観点から、イソブチレンに由来するユニットが60重量%以上含まれることが好ましく、80重量%以上含まれることが更に好ましい。60重量%を下回ると、本発明の変性ブロック共重合体のガスバリア性や制振性が低下する場合があるため好ましくない。
【0018】
本発明の変性ブロック共重合体は、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロック(a)とイソブチレンを主体とする重合体ブロック(b)から構成されている限り、その構造には特に制限はなく、例えば、直鎖状、分岐状、星状等の構造を有することができる。
【0019】
直鎖状構造の例としては、(a)-(b)からなるジブロック構造や、(a)-(b)-(a)または(b)-(a)-(b)などのトリブロック構造、(b)-(a)-(b)-(a)-(b)などのトリブロック構造以上の高次ブロック構造(マルチブロックとも言う)が挙げられる。
【0020】
また、分岐状や星状構造の場合の各ポリマーアーム鎖は、それぞれジブロック構造、トリブロック構造、マルチブロック構造等のいずれも選択可能である。
【0021】
好ましい構造としては、諸物性や成形加工性の観点から、(a)-(b)-(a)のトリブロック構造が好ましい。一方、粘着性を所望する場合は、(a)-(b)のジブロック構造であることが好ましい。機械物性と粘着性のバランスが必要な場合は、(a)-(b)-(a)のトリブロック構造と(a)-(b)のジブロック構造を混合してもよい。この時、より粘着性を求める場合は、ジブロック構造の含有量が40重量%超100重量%未満であることが好ましく、取り扱い易さや機械物性を重視する場合はジブロック構造の含有量が0重量%超40重量%以下を目安として両者をブレンドすればよい。
【0022】
本発明の変性ブロック共重合体は、物性や取り扱い易さの観点から、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロック(a)の含有量が10~50重量%であり、イソブチレンを主体とする重合体ブロック(b)の含有量が50~90重量%であることが好ましい。
【0023】
芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロック(a)の含有量が10重量%未満となる場合は、加工時の取り扱い性が悪化したり、機械物性が不足する場合があることから好ましくない。一方、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロック(a)の含有量が50重量%超となる場合は、硬度が高くなり過ぎ、柔軟性が乏しくなる場合があるため好ましくない。
【0024】
本発明の変性ブロック共重合体の数平均分子量は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC測定、またはGPC測定とも言う)で測定した標準ポリスチレン換算重量平均分子量において、90,000~200,000(g/mol)が好ましく、90,000~150,000(g/mol)が更に好ましい。
【0025】
数平均分子量が上記範囲よりも低い場合には低分子量成分のブリードアウトが起こる場合や、機械物性が不十分となる場合があるため好ましくない。一方上記範囲を超える場合には流動性、加工性の面で不利となる場合があるため好ましくない。
【0026】
本発明の変性ブロック共重合体の分子量分布(重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比(Mw/Mn)で表される数)は、樹脂の溶融粘度を低粘度化でき、成形加工時の取り扱いやすさの観点で、1.01~3.00が好ましく、1.30~2.50がより好ましい。3.00を超える場合は、低分子量体のブリードアウトが見られたり機械物性が不十分となる場合があるため好ましくない。
【0027】
本発明の変性ブロック共重合体を製造する方法としては特に限定されないが、例えば、下記の2つの例が簡便であり、好適である。一つ目の方法は、酸無水物で変性されていないスチレンーイソブチレンブロック共重合体(無官能性スチレン-イソブチレンブロック共重合体、または単に無官能性ブロック共重合体とも言う)をまず製造し、次にこのブロック共重合体を溶融下または溶液中で、有機過酸化物などのラジカル発生剤の共存下に不飽和カルボン酸無水物を反応させて酸無水物変性する方法である。二つ目は、スチレンーイソブチレンブロック共重合体を製造する際に、酸無水物官能基含有モノマーを共重合する方法である。
【0028】
酸化防止剤や紫外線吸収剤などの安定剤や、各種フィラーなどを混合する場合は、押出機等を用いて溶融下に酸無水物変性を行うと各作業を一度で完了でき、生産性が向上するため好ましい。一方、本発明の変性ブロック共重合体中の所望の位置に酸無水物基を導入したい場合は、重合中に酸無水物官能基含有モノマーを共重合させたり、重合が実質的に終了した段階で重合系中に酸無水物官能基含有モノマーを添加することもできる。これらはいずれの方法を用いてもよい。
【0029】
本発明の変性ブロック共重合体の前駆体となる無官能性スチレンーイソブチレンブロック共重合体の製造方法については特に制限はないが、例えば、下記一般式(1) で表される化合物の存在下に、イソブチレンを主成分とする単量体及び芳香族ビニル系単量体を主成分とする単量体を重合させることにより得られる。
( CR1R2X)nR3 (1)
式中、Xはハロゲン原子、炭素数1~6のアルコキシ基及び炭素数1~6のアシロキシル基からなる群より選択される置換基を表す。R1及びR2は、それぞれ、水素原子又は炭素数1~6の1価の炭化水素基を表す。R1及びR2は、同一であっても異なっていてもよい。また、複数存在するR1及びR2は、それぞれ、同一であっても異なっていてもよい。R3は、n個の置換基(CR1R2X)を有することができる多価の芳香族炭化水素基又は多価の脂肪族炭化水素基を表す。nは、1~6の自然数を表す。
【0030】
上記ハロゲン原子としては、塩素、臭素が挙げられる。上記炭素数1~6のアルコキシル基としては、メトキシ基、エトキシ基等が挙げられる。上記炭素数1~6のアシロキシ基としては、例えば、アセチルオキシ基が挙げられる。上記炭素数1~6の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-又はイソプロピル基等が挙げられる。
【0031】
上記一般式(1)で表わされる化合物も重合開始剤となるもので、ルイス酸等の存在下で炭素陽イオンを生成し、カチオン重合の開始点になると考えられる。
本発明で用いられる一般式(1)の化合物の例としては、次のような化合物等が挙げられる。
【0032】
(1-クロル-1-メチルエチル)ベンゼン(別名:クミルクロリド)、1,4-ビス(1-クロル-1-メチルエチル)ベンゼン(別名:p-ジクミルクロリド)、1,3-ビス(1-クロル-1-メチルエチル)ベンゼン(別名:m-ジクミルクロリド)、1,3,5-トリス(1-クロル-1-メチルエチル)ベンゼン(別名:トリクミルクロリド)、及び、1,3-ビス(1-クロル-1-メチルエチル)-5-(tert-ブチル)ベンゼン。
【0033】
これらの中でより好ましいものは、入手性、反応性、共重合体の物性の観点から、クミルクロリド、p-ジクミルクロリド、m-ジクミルクロリド、トリクミルクロリドである。
【0034】
上記重合反応においては、一般にルイス酸触媒を共存させる。このようなルイス酸触媒としてはカチオン重合に使用できるものであれば特に限定されず、例えば、TiCl4、TiBr4、BCl3、BF3、BF3 ・OEt2、SnCl4、AlCl3 、AlBr3等の金属ハロゲン化物;または、TiCl3(OiPr)、TiCl2(OiPr)2、TiCl(OiPr)3等の金属上にハロゲン原子とアルコキシド基の両方を有する金属化合物;Et2AlCl、EtAlCl2、Me2AlCl、MeAlCl2、Et1.5AlCl1.5、Me1.5AlCl1.5等の有機金属ハロゲン化物等が挙げられる。
【0035】
これらの中でも、触媒活性や入手の容易さを考えた場合、TiCl4、BCl3 、SnCl4、TiCl3(OiPr)、TiCl2(OiPr)2、TiCl(OiPr)3、EtAlCl2、Et1.5AlCl1.5から選ばれる一種以上のルイス酸の使用が好ましい。
【0036】
上記ルイス酸触媒の使用量としては特に限定されず、使用する単量体の重合特性、重合濃度、所望する重合時間や系中の発熱挙動等を鑑みて任意に設定することができる。好ましくは、上記一般式(1)で表される化合物に対して、0.1~200倍モルの範囲で用いられ、より好ましくは0.2~100倍モルの範囲である。
【0037】
重合反応においては、必要に応じて、ピリジン類、アミン類、アミド類、スルホキシド類、エステル類、金属原子に結合した酸素原子を有する金属化合物等の電子供与体成分を共存させることもできる。電子供与体成分は、成長末端の炭素カチオンを安定化させたり、ルイス酸に配位することでルイス酸性を調整したりする効果があるものと考えられており、分子量分布が狭く、構造が制御された重合体を得ることができる。
【0038】
上記電子供与体成分としては、種々の化合物の電子供与体(エレクトロンドナー)としての強さを表すパラメーターとして定義されるドナー数が15~60であるものとして、例えば、ピリジン、2-メチルピリジン、2,6-ジメチルピリジン、N,N-ジメチルアミノピリジン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、酢酸エチル、酢酸ブチル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ヘキサメチレンオキシド、チタン(IV)テトラメトキシド、チタン(IV)テトライソプロポキシド、チタン(IV)テトラブトキシド等が挙げられる。
【0039】
この内、2-メチルピリジン、2,6-ジメチルピリジン、トリエチルアミン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、チタン(IV)テトライソプロポキシドから選ばれる一種以上の電子供与体成分が、添加効果、入手性の面でより好ましい。
【0040】
電子供与体成分は、通常、上記重合開始剤に対して0.01~100倍モル用いられ、0.1~50倍モルの範囲で用いられるのが好ましい。
【0041】
本発明における重合反応は必要に応じて有機溶媒中で行うことができる。そのような重合溶媒としては、カチオン重合で一般的に使用される溶媒であれば特に限定されず、ハロゲン化炭化水素からなる溶媒、脂肪族炭化水素や芳香族炭化水素等の非ハロゲン系の溶媒又はこれらの混合物を用いることができる。
【0042】
ハロゲン化炭化水素としては、例えば、塩化メチル、塩化メチレン、塩化プロピル、塩化ブチル、塩化ペンチル、塩化ヘキシル等が挙げられる。
【0043】
脂肪族及び/又は芳香族系炭化水素としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、トルエン等が挙げられる。
【0044】
これらの中でも、入手性、溶解性、経済性の点から、塩化メチル、塩化ブチル、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、トルエンが特に好ましい。
【0045】
これらは1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。2種以上を混合して用いる場合は、溶解性、反応性、経済性の観点を鑑みて、任意の割合で混合することができる。
【0046】
溶液の粘度や除熱の容易さを考慮して、得られる重合体の溶液濃度が1~50重量%となるように設定するのが好ましく、より好ましくは、3~35重量%である。
【0047】
本発明のカチオン重合を行う温度は、特に制限は無いが、例えば、-100℃以上50℃未満の温度で各成分を混合し、重合させることが好ましい。更には、エネルギーコストと重合反応の安定性から、-85℃~0℃がより好ましい。-100℃より低い温度ではポリマーが析出する場合があるため好ましくない。逆に、50℃以上では、副反応の割合が増大し、目的とするブロック共重合体が得られにくくなる場合があるため好ましくない。
【0048】
本発明の変性ブロック共重合体は、ポリマー鎖中の任意の位置に酸無水物基が導入されたブロック共重合体である。
【0049】
無官能性ブロック共重合体に酸無水物基を導入するための酸無水物基含有化合物としては、(メタ)アクリル酸無水物、エタクリル酸無水物、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水イタコン酸、無水アコニット酸、無水ハイミック酸、2,3-ジメチルマレイン酸無水物、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物等のα,β-不飽和カルボン酸無水物が挙げられる。
【0050】
または、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸、アコニット酸、アリルコハク酸、2-フェニルマレイン酸などのα,β-不飽和カルボン酸を用いて無官能性ブロック共重合体にカルボキシ基を導入し、これを脱水反応により無水物に誘導してもよい。
【0051】
これらの中でも、工業的入手の容易さの観点から、無水マレイン酸、無水イタコン酸、および5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物が好ましい。これらはそれぞれ単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0052】
用いる酸無水物基含有化合物の量は、無官能性ブロック共重合体100重量部に対して、0.01~10重量部が好ましく、より好ましくは0.1~7重量部、更に好ましくは0.5~5重量部、特に好ましくは0.5~4重量部、より特に好ましくは0.5~3重量部、最も特に好ましくは0.5~2重量部である。0.01部未満では、変性効果が不十分な場合があるため好ましくなく、10重量部以上では変性反応の費用対効果や着色、臭気の観点から好ましくない。
【0053】
上記α,β-不飽和カルボン酸無水物を用いた変性反応は特に限定されるものではなく、例えば公知の手法に準じて行うことができる。
【0054】
例えば、有機過酸化物の存在下、溶融状態や溶液状態等の状態で、ラジカル反応条件下に行うことが好ましい。好適に使用できる有機過酸化物としては、例えば、ジクミルパーオキシド、ジ-tert-ブチルパーオキシド、tert-ブチルクミルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、n-ブチル-4 ,4-ジ(tert-ブチルパーオキシ)バレレート、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、2,5-ジメチル-2 ,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2 ,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)-2 ,5-ジメチル-3-ヘキシン、1,1-ジ(tert-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、ジベンゾイルパーオキシド、ジラウロイルパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、tert-ブチルヒドロパーオキサイド、1,4-ビス[(tert-ブチルパーオキシ)イソプロピル]ベンゼン、1,1-ジ(tert-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシピバレート、シクロヘキサノンパーオキシド、tert-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、クミルパーオキシオクトエート、tert-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、ジ(2-tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1-ジ(tert-ブチルパーオキシ)シクロドデカン、ジ(t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、1,6-ジ(tert-ブチルパーオキシカルボニルオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシ 2-エチルヘキシルカーボネート等が挙げられる。
【0055】
これらの中でも、樹脂の加工温度と同じ温度帯に1分半減期温度を有する有機過酸化物が好ましい。本発明の場合は、1分半減期温度が130~250℃であるものが好ましく、150~200℃であるものが更に好ましい。
【0056】
有機過酸化物の選択基準として、得られる本発明の変性ブロック共重合体の臭気や着色を低減する観点から、芳香環を有しない有機過酸化物が好ましい。
【0057】
更なる有機過酸化物の選択基準として、副反応を抑える観点からヒドロキシ基を有しない有機過酸化物が好ましい。
【0058】
これらの中でも、工業的な入手性の観点から、2,5-ジメチル-2 ,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,4-ビス[(tert-ブチルパーオキシ)イソプロピル]ベンゼン、ジ-tert-ブチルパーオキシド、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、1,1-ジ(tert-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ジ(tert-ブチルパーオキシ)シクロヘキサンの中から選ばれる1種以上の有機過酸化物を使用することが好ましい。
【0059】
有機過酸化物の使用量は特に限定されるものではないが、通常、無官能性ブロック共重合体に対して0.001~5重量%であることが好ましい。0.001重量%未満では、目的とする酸無水物変性の効果が得られにくい場合があるため好ましくない。逆に、5重量%超では、得られる変性ブロック共重合体の物性が不十分になることがあるため好ましくない。
【0060】
好ましい変性方法の一例としては、無官能ブロック共重合体、酸無水物基含有化合物、および有機過酸化物を単軸または二軸押出機中、150~250℃の温度において溶融混練し、反応させる方法が挙げられる。十分な酸無水物基の導入量と副反応の抑制効果の観点から、反応温度は、150~200℃であることがより好ましい。
【0061】
混練時間は、通常0.1~10分、好ましくは0.2~5分、更に好ましくは0.5~3分程度である。
【0062】
この方法によれば、ゲル等の好ましくない成分の副生や、溶融粘度の著しい増大に伴う加工性の悪化を抑制し易い。
【0063】
上記の溶融変性による酸無水物官能基導入においては、酸無水物基の導入効率を高めたり、ポリマー鎖の分解を抑制したりする目的で、酸化防止剤や架橋助剤を共存させてもよい。
【0064】
好適に使用できる酸化防止剤としては、Irganox1010、Irganox1076などのヒンダードフェノール系酸化防止剤、アデカスタブPEP-8、アデカスタブPEP-36などのリン系酸化防止剤、スミライザーTPLなどの硫黄系酸化防止剤が挙げられる。
【0065】
これらの酸化防止剤は、無官能性ブロック共重合体に対して0.01~10重量%を使用することが好ましく、0.1~5重量%の範囲で使用することがより好ましい。
【0066】
好適に使用できる架橋助剤としては、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルフタレートなどのアリル化合物、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのアクリル酸エステル化合物、α-メチルスチレンダイマー、ジビニルベンゼン、1,2-ポリブタジエン、1,4-ポリブタジエン等の不飽和結合含有化合物などが好適に使用できる。
【0067】
これらの架橋助剤は、無官能性ブロック共重合体100重量部に対して0~10重量部を使用することが好ましく、0~5重量部の範囲で使用することがより好ましく、0~0.5重量部未満の範囲で使用することがさらにより好ましい。
【0068】
変性反応後に得られる樹脂中に残存する低分子量化合物は、使用中にブリードアウトしたり、製品の保存中に意図しない架橋反応などが起こって保存安定性を損なう場合がある。このため、これらの課題の抑制が重要である場合には、架橋助剤を添加せずに変性反応を行うことが好ましい。
【0069】
上記の溶融変性による酸無水物基の導入においては、ブロック共重合体の架橋反応や切断反応が同時に起こりうるため、本発明の変性ブロック共重合体の分子量分布は、前駆体の無官能性ブロック共重合体のそれよりも大きくなる傾向がある。
【0070】
前駆体の無官能性ブロック共重合体の分子量分布をMw/Mn(1)、本発明の変性ブロック共重合体の分子量分布をMw/Mn(2)とした場合、副反応を抑え、機械物性が良好な変性ブロック共重合体を得る指標としては、下記式(2)で示される分子量分布の比の数値が1.0~2.0の範囲であることが好ましく、1.0~1.5の範囲であることが更に好ましく、1.0~1.3の範囲であることが更に好ましい。
【0071】
分子量分布の比=(Mw/Mn(2))/(Mw/Mn(1)) (式2)
本発明の変性ブロック共重合体中の酸無水物基の含有量は、0.01~10重量%であることが好ましく、0.10~3重量%がより好ましく、0.20~2重量%がさらにより好ましく、0.30~1重量%が特に好ましい。0.01重量%未満であると、極性官能基を有する熱可塑性樹脂との混和性が不十分になる場合があるため好ましくない。逆に、10重量%超では、変性ブロック共重合体の吸湿性や着色が課題になる場合があるため好ましくない。
【0072】
本発明の変性ブロック共重合体は、そのブロック共重合体中に残存していてブロック共重合体に結合していない酸無水物基含有化合物の含有量が800ppm以下であることが好ましい。
【0073】
変性ブロック共重合体中の残存酸無水物基含有化合物の含有量をこの範囲に制御することで、変性ブロック共重合体自体の着色はもとより、極性官能基含有熱可塑性樹脂との樹脂組成物の着色も抑えることができ、良好な外観を有する樹脂組成物が得られることが判明した。逆に800ppm以上であると、これらの着色が顕著になり、良好な外観が得られなくなる場合があるため好ましくない。
本発明の変性ブロック共重合体は、せん断速度2,430sec-1における溶融粘度が350~2,000Poiseである。
【0074】
せん断速度がこの範囲にあることで、極性官能基含有熱可塑性樹脂との溶融混練が好適に進行し、高い改質効果が得られ、諸物性のバランスに優れる樹脂組成物を得ることができる。
【0075】
変性ブロック共重合体のせん断速度2,430sec-1における溶融粘度が350Poise未満である場合、溶融粘度が低すぎることで極性官能基含有熱可塑性樹脂との混合が困難になったり、樹脂組成物の物性が不十分になる場合があるため好ましくない。逆に、変性ブロック共重合体のせん断速度2,430sec-1における溶融粘度が2,000Poise超である場合、極性官能基含有熱可塑性樹脂との混練が不十分となる場合があるため好ましくない。
【0076】
本発明の極性官能基含有熱可塑性樹脂とは、ハロゲン、エーテル基、エステル基、アミド基、イミド基、ウレタン基、カーボネート基、シアノ基、アミノ基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、エポキシ基、酸無水物基、チオエーテル基、チオエステル基から選ばれる1種以上の官能基を主鎖中、主鎖末端、または側鎖に有する熱可塑性樹脂である。
【0077】
そのような熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリ塩化ビニル、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテル系樹脂、PETやPBTポリエステル、ナイロンなどのポリアミド、ポリエーテルイミド(PEI) 等のポリイミド、ポリウレタン、ポリカーボネート、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン系樹脂(ABS)、アクリロニトリル-スチレン系樹脂(AS)、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)、アクリル樹脂、メチルメタクリレート-スチレン系樹脂(MS)、ポリアセタール(POM)、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)、エポキシ樹脂、及びフェノール樹脂等が例示できる。
【0078】
これらの中でも柔軟性、ガスバリア性などの改善が求められる樹脂として、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエステル、ポリカーボネート、ABS樹脂、及びエチレン-ビニルアルコール共重合体が好適に例示できる。
【0079】
ポリアミドの中でも更に、ナイロン-6などの脂肪族ポリアミド、ナイロンー6Tなどの半芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミドなどが例示できる。
【0080】
これらのポリアミドの中でも更に、ナイロン-6 、ナイロン-6,6、ナイロン-11 、ナイロン-12 、またはポリアミドとポリエーテルの共重合体であるポリアミド系エラストマーが好適に例示できる。
【0081】
本発明の極性官能基含有熱可塑性樹脂の分子量は特に限定されないが、樹脂組成物の機械的強度や加工性等の観点から、通常は数平均分子量5,000~500,000であることが好ましく、より好ましくは10,000~ 400,000である。
【0082】
また、本発明の極性官能基含有熱可塑性樹脂は、DSC測定による融点が300℃未満であることが好ましく、280℃未満であることが更に好ましい。
【0083】
DSC測定による融点が300℃以上の樹脂を用いると、本発明の変性ブロック共重合体との混練が困難になる場合があり、得られる樹脂組成物の物性が不十分になる場合があるため好ましくない。
【0084】
また、本発明の極性官能基含有熱可塑性樹脂の官能基がウレタン基、アミノ基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、エポキシ基、チオエーテル基から選ばれる1種以上である場合、本発明の酸無水物変性ブロック共重合体中の酸無水物基との反応性が良好であるため好ましい。
【0085】
この反応性の観点から、極性官能基含有熱可塑性樹脂中のこれらの官能基は、0.2x10-5~40x10-5mol/gの含有量であることが好ましく、1.0x10-5~20x10-5mol/gの含有量であることがより好ましい。0.2x10-5mol/g未満であるか、20x10-5mol/g超となる場合、樹脂組成物の物性が不十分となる場合があるため好ましくない。
【0086】
本発明で用いられる極性基含有熱可塑性樹脂は、上記具体例の中の1種類に限らず、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0087】
本発明の樹脂組成物は、酸無水物変性スチレンーイソブチレンブロック共重合体(A)と極性基含有熱可塑性樹脂(B)の合計100重量部に対して、変性ブロック共重合体(A)を5~90重量部、熱可塑性樹脂(B)を10~95重量部、含む樹脂組成物である。
【0088】
熱可塑性樹脂(B)の割合が10重量部未満であると、耐熱性や弾性率の低下が著しくなる場合があるため好ましくない。逆に、熱可塑性樹脂(B)の割合が95重量部超の場合、柔軟性や耐衝撃性が不足する場合があるため好ましくない。
【0089】
また、熱可塑性樹脂(B)の優れた靭性、耐摩耗性、耐薬品性、耐熱性等の特徴を活かしながら柔軟性や耐衝撃性を付与したい場合には、変性ブロック共重合体(A)を5~50重量部、熱可塑性樹脂(B)を50~95重量部含む樹脂組成物とすることが更に好ましい。
【0090】
更には、熱可塑性樹脂(B)の上記特性を維持しながらも、柔軟性、耐衝撃性のバランスがより重視される場合には、変性ブロック共重合体(A)を20~70重量部、熱可塑性樹脂(B)を30~80重量部含む樹脂組成物とすることが更に好ましい。
【0091】
本発明の樹脂組成物は、23℃、差圧1atmにおける酸素透過係数が1.50x10-17(mol・m/m2・sec・Pa)以下であることが好ましい。酸素透過係数を1.50x10-17(mol・m/m2・sec・Pa)以下とすることで、ガスバリア性に優れ、成型品の薄肉化が測れ、軽量化にも繋がるため好ましい。
【0092】
また、酸素透過係数は小さいほど好ましいが、極性基含有熱可塑性樹脂のガスバリア性の観点から、3.00x10-19(mol・m/m2・sec・Pa)以上が好ましい。
【0093】
本発明の樹脂組成物は、後述の実施例の項に記載する方法で測定した重量変化が10%以下であることが好ましく、5%以下であることが更に好ましい。
【0094】
なお、この重量変化は、樹脂組成物の耐油性を特徴づけるものであり、重量変化が小さいほど耐油性に優れることを意味する。耐油性に優れることで、燃料や冷媒などと接触する用途にも好適に使用できる。
【0095】
本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を本質的に損なわない範囲で、充填剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、可塑剤、安定化剤、難燃剤、帯電防止剤、顔料等の各種添加剤や、変性ブロック共重合体(A)以外のエラストマーや、熱可塑性樹脂(B)以外の熱可塑性樹脂等を必要に応じて配合することができる。
【0096】
充填剤としては、ガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスフレーク、カーボンブラック、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、酸化チタン、アルミナ、シリカ、アスベスト、タルク、クレー、マイカ、石英粉等が例示される。
各種添加剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤等の酸化防止剤; ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系等の紫外線吸収剤; 脂肪族カルボン酸エステル系、パラフィン系等の外部滑剤; 有機スズ化合物、有機鉛化合物等の有機化合物系安定化剤; 難燃化剤、帯電防止剤、顔料などが挙げられる。
【0097】
変性ブロック共重合体(A)以外のエラストマーとしては、無官能性スチレンーイソブチレンブロック共重合体や、スチレン-エチレンブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)等のスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0098】
これらのエラストマー成分を使用する場合、経済性と物性のバランスの観点から、変性ブロック共重合体(A)100重量部に対して、エラストマー成分を10~1,000重量部の範囲で用いるのが好ましく、50~500重量部の範囲で用いるのが更に好ましい。
【0099】
本発明の樹脂組成物の製造は、通常用いられている混練方法、例えばリボンブレンダー、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、ドラムタンブラー、単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、コニーダ、多軸スクリュー押出機等で行うことができる。
【0100】
混練に際しての加熱温度は、通常200~300℃の範囲が適当であるが、樹脂の分解等が懸念される場合は、200~270℃の範囲で取り扱うことが更に好ましい。
【0101】
溶融混合する順番は、全成分を同時に溶融混合しても良いし、予め(A)および/または(B)成分を単独溶融させてから溶融混合する方法でも良く、特に混練する順序に制限はない。
【0102】
本発明の成形品を製造するに当たっては、何ら限定されるものではないが、目的とする成形品の種類、用途、形状等に応じて、一般的に用いられている種々の成形方法や成形装置が使用できる。
【0103】
例えば、射出成形、押出成形、中空成形、プレス成形、ブロー成形、カレンダー成形、真空成形、発泡成形、回転成形、流延成形等の任意の成形法が例示され、これらの方法を組み合わせてもよい。
【0104】
さらに、他の樹脂との複合成形、多層成型をすることもできる。
【0105】
成形品の形状としては、ストランド状、繊維状、ペレット状、板状、シート状、フィルム状、中空状、パイプ状、箱状等の形状が挙げられる。
【0106】
これらの中でも、ガスバリア性柔軟性、耐衝撃性、耐熱性、耐油性に優れることから、チューブ、ホース、パイプ等の中空成形品用途や、食品包装用フィルムまたは自動車用フィルム等に好適に用いることができる。
【0107】
上記の成形により、自動車部品、工業材料、産業資材、電気電子部品、機械部品、事務機器用部品、家庭用品、シート、フィルム、繊維、その他の任意の形状および用途の各種成形品を製造することができる。
【実施例】
【0108】
以下の実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0109】
(分子量測定)
下記実施例中、「数平均分子量」および「分子量分布(重量平均分子量と数平均分子量の比)」は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を用いた標準ポリスチレン換算法により算出した。
【0110】
測定装置としては、Waters社製GPCシステムを用いて、クロロホルムを移動相とし、カラム温度35℃の条件にて、ポリマー濃度が4mg/mlである試料溶液を用いて測定した。
【0111】
(スチレン含量の測定)
1H NMRにより、スチレンに由来する芳香族領域のピーク面積と、イソブチレンに由来する脂肪族領域のピーク面積の割合から、スチレン含量を計算した。
【0112】
(重合体に結合した酸無水物基の定量)
赤外分光法を用いて得られた酸無水物基の吸光度から、別に作成した検量線を用いて重合体に結合している酸無水物基の含有量を求めた。
【0113】
(重合体中に残存する重合体に結合していない酸無水物基含有化合物の定量)
ガスクロマトグラフィーを用いて、別に作成した検量線を用いて重合体中の残存酸無水物基含有化合物を定量した。
【0114】
(溶融粘度)
JIS K-7199に準拠し、株式会社東洋精機製作所製キャピログラフ(キャピラリーダイ:内径1mmx長さ10mm)にて、230℃における溶融粘度を測定した。
【0115】
(酸素透過係数)
JIS K-7126に準拠し、0.2mm厚のプレスシートを用い、差圧法により酸素透過係数を測定した。
【0116】
(樹脂の外観)
JIS K7373に準拠し、各サンプルの黄変度を測定した。黄変度が高いほど樹脂の着色が強く、外観が不良であるとした。逆に、黄変度が低いほど外観が良好であるとした。
【0117】
(酸無水物変性ブロック共重合体の取り扱い易さ)
得られた酸無水物変性ブロック共重合体にブロッキング防止剤としてセリダスト6050M(クラリアント社製、ポリオレフィン系微粒子)をペレットの互着がなくなるまで添加した。ペレット同士の互着が強い場合、樹脂が大きな塊状となり、ホッパーへの投入が困難となったり、定量フィーダーでの定量性が維持できなくなるなど、樹脂の取り扱いが困難になる。
【0118】
ここで、必要なブロッキング防止剤の量が多いほど樹脂自体の互着が強く、取り扱いにくい樹脂であるとした。逆に、ブロッキング防止剤の必要量が少ないほど、取り扱いやすい樹脂である。
【0119】
(耐油性)
2cmx5cmx0.5mmに成型した樹脂組成物の重量を測定しW1とする。次に、20倍の重量のキシレン中にこの樹脂組成物を浸漬し、還流条件下に1時間保持する。その後、樹脂組成物をキシレン中から取り出し、120℃、真空下に4時間乾燥させる。再び樹脂組成物の重量W2を測定する。こうして得られたW1、W2を用い、次式から重量変化を求めた。
重量変化(%)=(W1-W2)/W1x100
【0120】
(引張弾性率の測定)
JIS K7113に準じて、オートグラフ(株式会社島津製作所製)を使用して引張降伏強さおよび引張降伏伸びを測定した。
【0121】
(曲げ強度、曲げ弾性率の測定)
JIS K7171に準じて、オートグラフ(株式会社島津製作所製)を使用して曲げ強度および曲げ弾性率を測定した。
【0122】
(ノッチ付アイゾット衝撃値の測定(耐衝撃性))
JIS K7110に準じて、アイゾット衝撃試験器(株式会社東洋精機製作所製) を使用して、ノッチ付アイゾット衝撃値を測定した。
【0123】
(荷重たわみ温度(DTUL)の測定(耐熱性))
JIS K7191に準じて、B法(0.45MPa)の条件で荷重たわみ温度を測定した。
【0124】
(製造例1)スチレン-イソブチレンブロック共重合体(X-1)の合成
1Lのセパラブルフラスコの容器内を窒素置換した後、注射器を用いて塩化ブチル(モレキュラーシーブスで乾燥したもの)400mL及びヘキサン(モレキュラーシーブスで乾燥したもの)35mLを加え、約-70℃まで冷却した。次に、イソブチレン150mL(1.59mol)、p-ジクミルクロリド0.2565g(1.11mmol)及びα-ピコリン0.122g(1.31mmol)を加えた。混合物の内温が-70℃以下であることを確認し、四塩化チタン1.50mL(13.6mmol)を加えて重合を開始した。重合開始から60分間撹拌を行った後、ガスクロマトグラフィー(GC)によりイソブチレンの消費率を求めたところ、99.8%に達していることを確認した。その後、スチレン22.6g(216mmol)を添加した。GCによってスチレンの消費量を経時的に測定し、仕込量の88%が消費された時点で、反応混合物を50度に加熱している純水320gと塩化ブチル110gの混合物に注いだ。反応混合物の内温が50℃に到達後、60分間激しく撹拌を続けた後、攪拌を止め、有機相と水相を分離させて、分離した水相を払い出した。次に、有機相に純水250gを加えて、50℃で30分間激しく攪拌することで有機相を水洗し、その後攪拌を止めて廃水を払い出した。同様の水洗操作を更に1回繰り返した。このようにして得られた有機相を分け取り、溶媒などの揮発分を、加熱真空下に留去し、乾燥させることで、スチレン-イソブチレンブロック共重合体(X-1)を得た。
【0125】
得られたブロック共重合体(X-1)の重量平均分子量は131,140、分子量分布は1.22、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロック(a)含有量は18重量%であった。また、酸素透過係数は2.39x10-16(mol・m/m2・sec・Pa)であった。
【0126】
(製造例2)スチレン-イソブチレンブロック共重合体(X-2)の合成
1Lのセパラブルフラスコの容器内を窒素置換した後、注射器を用いて塩化ブチル(モレキュラーシーブスで乾燥したもの)400mL及びヘキサン(モレキュラーシーブスで乾燥したもの)33mLを加え、約-70℃まで冷却した。次に、イソブチレン125mL(1.32mol)、p-ジクミルクロリド0.2580g(1.12mmol)及びα-ピコリン0.123g(1.32mmol)を加えた。混合物の内温が-70℃以下であることを確認し、四塩化チタン1.52mL(13.8mmol)を加えて重合を開始した。重合開始から60分間撹拌を行った後、ガスクロマトグラフィー(GC)によりイソブチレンの消費率を求めたところ、99.8%に達していることを確認した。その後、スチレン38.6g(335mmol)を添加した。GCによってスチレンの消費量を経時的に測定し、仕込量の94%が消費された時点で、反応混合物を50度に加熱している純水320gと塩化ブチル150gの混合物に注いだ。反応混合物の内温が50℃に到達後、60分間激しく撹拌を続けた後、攪拌を止め、有機相と水相を分離させて、分離した水相を払い出した。次に、有機相に純水250gを加えて、50℃で30分間激しく攪拌することで有機相を水洗し、その後攪拌を止めて廃水を払い出した。同様の水洗操作を更に1回繰り返した。このようにして得られた有機相を分け取り、溶媒などの揮発分を、加熱真空下に留去し、乾燥させることで、スチレン-イソブチレンブロック共重合体(X-2)を得た。
【0127】
得られたブロック共重合体(X-2)の重量平均分子量は138,871、分子量分布は1.67、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロック(a)含有量は31重量%であった。また、酸素透過係数は2.35x10-16(mol・m/m2・sec・Pa)であった。
【0128】
(比較例1)酸無水物変性スチレン-イソブチレンブロック共重合体(Y-1)の合成
製造例1で得られたブロック共重合体(X-1)、無水マレイン酸、有機過酸化物(パーブチルP(日本油脂製、1,4-ビス[(tert-ブチルパーオキシ)イソプロピル]ベンゼン)、Irganox1010(酸化防止剤、BASFジャパン社製)、アルカマイザー1(安定剤、協和化学工業社製)を、表1に示す重量比で、ヘンシェルミキサーによって予備混合した。この予備混合物を単軸押出機(シリンダー温度:200℃) に供給し、溶融条件下に変性反応を行うことによって、酸無水物変性ブロック共重合体(Y-1)を得た。また、得られた酸無水物変性ブロック共重合体はストランドカットすることでペレット形状に加工し、ブロッキング防止剤(セリダスト6050M(クラリアント社製、ポリオレフィン系微粒子)をペレットの互着がなくなるまで添加した。各種物性およびブロッキング防止剤の使用量を表1に示す。
【0129】
(比較例2)酸無水物変性スチレン-イソブチレンブロック共重合体(Y-2)の合成
表1に示す通り、無水マレイン酸を2重量部用い、有機過酸化物はパーヘキサ25B(日本油脂製、2,5-ジメチル-2 ,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン)を用いたこと以外は比較例1と同様にして、酸無水物変性ブロック共重合体(Y-2)を得た。各種物性およびブロッキング防止剤の使用量を表1に示す。
【0130】
(比較例3)酸無水物変性スチレン-イソブチレンブロック共重合体(Y-3)の合成
表1に示す通り、ブロック共重合体(X-2)を用い、反応温度を180℃としたこと以外は比較例2と同様にして、酸無水物変性ブロック共重合体(Y-3)を得た。各種物性およびブロッキング防止剤の使用量を表1に示す。
【0131】
(比較例4)酸無水物変性スチレン-イソブチレンブロック共重合体(Y-4)の合成
表1に示す通り、反応温度を220℃としたこと以外は比較例3と同様にして、酸無水物変性ブロック共重合体(Y-4)を得た。各種物性およびブロッキング防止剤の使用量を表1に示す。
【0132】
(実施例1)
有機過酸化物種としてパーヘキサ25Bを用いたこと以外は比較例1と同様にして酸無水物変性ブロック共重合体(P-1)を得た。各種物性およびブロッキング防止剤の使用量を表1に示す。
【0133】
(実施例2)
無水マレイン酸を1重量部用いたこと以外は比較例3と同様にして酸無水物変性ブロック共重合体(P-2)を得た。各種物性およびブロッキング防止剤の使用量を表1に示す。
【0134】
(実施例3)
反応温度を200℃としたこと以外は実施例2と同様にして酸無水物変性ブロック共重合体(P-3)を得た。各種物性およびブロッキング防止剤の使用量を表1に示す。
【0135】
(実施例4)
反応温度を220℃としたこと以外は実施例3と同様にして酸無水物変性ブロック共重合体(P-4)を得た。各種物性およびブロッキング防止剤の使用量を表1に示す。
【0136】
【0137】
比較例1~4に示す通り、先行文献2を参照して酸無水物変性ブロック共重合体を合成しても、酸無水物基量が少ない場合や、得られた酸無水物変性ブロック共重合体の黄変度が著しく増大し外観不良となる場合、また、酸素透過係数が前駆体である無官能性ブロック共重合体よりも増大する場合があるという課題が明らかとなった。更には、酸無水物変性ブロック共重合体のペレット同士が強く互着して、取り扱いが困難になる場合があることも判明した。従って、従来公知の技術では、これらの物性のバランスをとることは困難であった。
【0138】
一方、実施例1~4に示す通り、本願発明の酸無水物変性ブロック共重合体は上記課題を解決することが分かる。
【0139】
次に、極性基含有熱可塑性樹脂としてナイロン6(PA6、宇部興産製「UBEATA1013B」)と、ブロック共重合体X-1およびX-2、酸無水物変性ブロック共重合体Y-1~Y-4およびP-1~P-4を表1に記載の重量比で予備混合し、二軸押出機を用いて230℃ で溶融混練することにより、樹脂組成物を得た。これらの樹脂組成物を各種試験片に成形し、物性評価等を行った。得られた評価結果を表2に示す。
【0140】
【0141】
表2の比較例5~10と実施例5~8を比較すると、本発明の酸無水物変性ブロック共重合体によれば、従来公知の酸無水物変性ブロック共重合体に比べて、極性基含有熱可塑性樹脂に良好な柔軟性、耐衝撃性、ガスバリア性、耐熱性、耐油性を付与しながら、低い黄変度、すなわち良好な外観の樹脂組成物が得られており、これら物性のバランスに優れることがわかる。
【0142】
次に、PA6と酸無水物変性ブロック共重合体の割合を変えて更に検討した。
【0143】
【0144】
表3より、酸無水物変性ブロック共重合体の割合を増やしても、諸物性のバランスに優れる樹脂組成物が得られることがわかる。
【0145】
また、耐衝撃性を見ると、特許文献2の従来技術に比べ、本発明の酸無水物変性ブロック共重合体の方が大きく改善できていることから、本発明のブロック共重合体は改質効果に優れることがわかる。
【0146】
次に、特許文献2(特開2005-225899号公報)に記載の従来公知の技術と本願発明の比較を行った。
【0147】
(実施例13)
無水マレイン酸を1重量部用い、反応温度を210℃にしたこと以外は比較例3と同様にして酸無水物変性ブロック共重合体(P-13)を得た。各種物性を表4に示す。
【0148】
(比較例15)
無水マレイン酸を5重量部用い、過酸化物としてパーブチルDを0.5重量部用いたこと以外は実施例13と同様にして酸無水物変性ブロック共重合体(Y-15)を得た。各種物性を表4に示す。
【0149】
(比較例16)
ノフマーMSDを0.25重量部追加したこと以外は比較例15と同様にして酸無水物変性ブロック共重合体(Y-16)を得た。各種物性を表4に示す。
【0150】
(比較例17)
パーブチルDを1.0重量部用いたこと以外は比較例15と同様にして酸無水物変性ブロック共重合体(Y-17)を得た。各種物性を表4に示す。
【0151】
(比較例18)
ノフマーMSDを0.25重量部追加したこと以外は比較例17と同様にして酸無水物変性ブロック共重合体(Y-18)を得た。各種物性を表4に示す。
【0152】
【0153】
次に、酸無水物変性ブロック共重合体P-2、P-13、Y-15、Y-16、Y-17、Y-18を用いてナイロンコンパウンドを作成した。
【0154】
ここでは、極性基含有熱可塑性樹脂としてナイロン12(PA12、宇部興産製「UBEATA3030U」)を用いて、表5に記載の重量比で各酸無水物変性ブロック共重合体と予備混合し、二軸押出機を用いて200℃ で溶融混練することにより、樹脂組成物を得た。これらの樹脂組成物から各種試験片に成形し、物性評価を行った。結果を表5に示す。
【0155】
【0156】
表4から、従来公知の技術では黄変度が高く、残存無水マレイン酸量の多い酸無水物変性ブロック共重合体しか得られなかった。
【0157】
表5より、これらを用いたナイロンコンパウンドは黄変度が大きく、耐油性が悪いことがわかる。
【0158】
ここで、耐油性の重量変化は、ナイロンと未反応の酸無水物変性ブロック共重合体がコンパウンド樹脂から溶媒中に抽出されることで起こるため、この数値が大きいことは、多くの酸無水物変性ブロック共重合体が抽出されていることを意味する。これは、ナイロンと酸無水物変性ブロック共重合体とが効率的に反応できなかったことを示唆し、ひいては、極性樹脂の改質効果として不十分な結果しか得られない。
【0159】
以上の結果から、本発明の酸無水物変性ブロック共重合体によれば、極性樹脂の改質効果の高いブロック共重合体が得られることがわかる。
【0160】
以上より、本発明の酸無水物変性ブロック共重合体は、樹脂自体が取り扱い易く、ガスバリア性が良好で、低着色であって、柔軟性、耐衝撃性、耐熱性、耐油性に優れ、極性基含有樹脂の改質効果が高いことが分かる。また、当該重合体は本発明の製造方法によって簡便に製造することができる。更には、本発明の樹脂組成物によれば、柔軟性、耐衝撃性、ガスバリア性、耐熱性、耐油性に優れ、良好な外観の樹脂組成物が得られることが分かる。
【0161】
これらのことより、本発明の樹脂組成物は各種成形品、特に中空成形品や、電線保護材、食品包装用フィルムなどに好適に使用できる。