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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】翼、飛翔体及び翼の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B64C 3/28 20060101AFI20240311BHJP
   B64F 5/10 20170101ALI20240311BHJP
   F42B 15/34 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
B64C3/28
B64F5/10
F42B15/34
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020090775
(22)【出願日】2020-05-25
(65)【公開番号】P2021187175
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-01-16
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「平成23年度、防衛省請負契約、産業技術強化法第17条の適用を受ける特許出願」
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100205350
【弁理士】
【氏名又は名称】狩野 芳正
(74)【代理人】
【識別番号】100117617
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 圭策
(72)【発明者】
【氏名】金澤 優
(72)【発明者】
【氏名】勝永 健太
(72)【発明者】
【氏名】荻村 晃示
【審査官】山本 賢明
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-516805(JP,A)
【文献】特開2006-135254(JP,A)
【文献】特開平05-097099(JP,A)
【文献】実開昭63-012500(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2020/0115030(US,A1)
【文献】特開2016-211550(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64C 3/28
B64C 3/36
B64F 5/10
F42B 10/06
F42B 15/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主構造部材と、
前記主構造部材の材料と異なる線熱膨張係数を有する材料で形成された前縁部材と、
円形の貫通穴が形成された、円柱状の偏心ブッシングと、
第1締結部材
とを備え、
前記前縁部材には、特定方向に長い形状を有する第1穴が形成され、
前記主構造部材には、第2穴が形成され、
前記偏心ブッシングの中心軸と前記貫通穴の中心軸とは、平行であり、且つ、ずれて位置しており、
前記偏心ブッシングは、前記第1穴に挿入されており、
前記第1締結部材は、前記貫通穴及び前記第2穴に挿入されて前記主構造部材と前記前縁部材とを結合し、
前記前縁部材は、
前記主構造部材に対向する対向面を有する本体部分と、
前記本体部分の前記対向面から突出するように設けられ、前記第1穴が形成された突出部分
とを備えており、
前記主構造部材と前記前縁部材とは、前記本体部分と前記主構造部材との間に隙間が設けられるように結合された
翼。
【請求項2】
請求項1に記載の翼であって、
前記主構造部材は、
前記第2穴が形成された第1フランジ部分と、
前記第1フランジ部分に対向して位置し、第3穴が形成された第2フランジ部分
とを含み、
前記前縁部材は、前記第1穴が形成された前記突出部分としての挿入部分を含み、
前記挿入部分が、前記第1フランジ部分と前記第2フランジ部分の間に形成された溝に挿入され、
前記第1締結部材が、前記第3穴に挿入されている
翼。
【請求項3】
請求項1に記載の翼であって、
更に、第2締結部材を備え、
前記前縁部材は、前記第1穴よりも当該翼の翼根に近い位置に円形の第4穴が形成され、
前記主構造部材には、前記第2穴よりも前記翼根に近い位置に円形の第5穴が形成され、
前記第2締結部材は、前記第4穴及び前記第5穴に挿入されて前記主構造部材と前記前縁部材とを結合する
翼。
【請求項4】
請求項に記載の翼であって、
更に、第3締結部材を備え、
前記前縁部材には、前記第1穴と前記第4穴との間の位置に円形の第6穴が形成され、
前記主構造部材には、前記第2穴と前記第5穴との間の位置に円形の第7穴が形成され、
前記第3締結部材は、前記第6穴及び前記第7穴に挿入されて前記主構造部材と前記前縁部材とを結合する
翼。
【請求項5】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の翼であって、
前記前縁部材が、耐熱材料で形成された
翼。
【請求項6】
本体と、

とを備え、
前記翼が、
主構造部材と、
前記主構造部材の材料と異なる線熱膨張係数を有する材料で形成された前縁部材と、
円形の貫通穴が形成された、円柱状の偏心ブッシングと、
第1締結部材
とを備え、
前記前縁部材には、特定方向に長い形状を有する第1穴が形成され、
前記主構造部材には、第2穴が形成され、
前記偏心ブッシングの中心軸と前記貫通穴の中心軸とは、平行にずれて位置しており、
前記偏心ブッシングは、前記第1穴に挿入されており、
前記第1締結部材は、前記貫通穴及び前記第2穴に挿入されて前記主構造部材と前記前縁部材とを結合し、
前記前縁部材は、
前記主構造部材に対向する対向面を有する本体部分と、
前記本体部分の前記対向面から突出するように設けられ、前記第1穴が形成された突出部分
とを備えており、
前記主構造部材と前記前縁部材とは、前記本体部分と前記主構造部材との間に隙間が設けられるように結合された
飛翔体。
【請求項7】
請求項に記載の飛翔体であって、
前記主構造部材は、
前記第2穴が形成された第1フランジ部分と、
前記第1フランジ部分に対向して位置し、第3穴が形成された第2フランジ部分
とを含み、
前記前縁部材は、前記第1穴が形成された前記突出部分としての挿入部分を含み、
前記挿入部分が、前記第1フランジ部分と前記第2フランジ部分の間に形成された溝に挿入され、
前記第1締結部材が、前記第3穴に挿入されている
飛翔体。
【請求項8】
請求項又はに記載の飛翔体であって、
前記前縁部材が、耐熱材料で形成された
飛翔体。
【請求項9】
主構造部材と、前記主構造部材の材料と異なる線熱膨張係数を有する材料で形成された前縁部材と、円形の貫通穴が形成され、前記貫通穴の中心軸と平行であり、且つ、位置がずれた中心軸を有する円柱状の偏心ブッシングを用意する工程と、
前記前縁部材に、特定方向に長い形状を有する第1穴を形成する工程と、
前記主構造部材に、第2穴を形成する工程と、
前記偏心ブッシングを前記第1穴に挿入する工程と、
前記貫通穴及び前記第2穴に締結部材を挿入して前記主構造部材と前記前縁部材とを結合する工程
とを備え、
前記前縁部材は、
前記主構造部材に対向する対向面を有する本体部分と、
前記本体部分の前記対向面から突出するように設けられ、前記第1穴が形成された突出部分
とを備えており、
前記主構造部材と前記前縁部材とを結合する前記工程において、前記主構造部材と前記前縁部材とは、前記本体部分と前記主構造部材との間に隙間が設けられている
翼の製造方法。
【請求項10】
請求項に記載の翼の製造方法であって、
前記第1穴及び前記第2穴は、前記主構造部材と前記前縁部材とが重なり合わせられない状態で形成される
翼の製造方法。
【請求項11】
請求項又は10に記載の翼の製造方法であって、
前記前縁部材が、耐熱材料で形成された
翼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、翼及びその製造方法に関し、特に、前縁に耐熱材料が用いられる翼及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気中を高速で飛翔する飛翔体の翼(例えば操舵翼)の前縁は、空力加熱により高温環境下に晒される。この高温環境に対応するために、翼の前縁には、主構造部材の材料とは異なる耐熱材料で形成された前縁部材が取り付けられることがある。
【0003】
主構造部材と前縁部材との連結には、リベットのような締結部材が用いられ得る。例えば、主構造部材と前縁部材のそれぞれに穴を形成し、その穴にリベットを通すことで主構造部材と前縁部材とが結合される。
【0004】
このような構造では、主構造部材と前縁部材とに設けられた穴の位置が整合していることが望まれるが、現実には、穴の位置が不整合になる事態が生じ得る。
【0005】
一つの要因は、実使用時の空力加熱である。空力加熱により翼の温度が上昇すると、主構造部材と前縁部材に熱膨張が生じる。このとき、主構造部材と前縁部材とが、異なる線熱膨張係数を有する材料で形成されていると、主構造部材と前縁部材に形成された穴に位置ずれが生じ得る。熱膨張によって穴に位置ずれが生じると、好ましくない熱応力が発生する。
【0006】
他の要因の一つは、製造工程における加工誤差である。主構造部材と前縁部材とにそれぞれに穴を形成する穴あけ加工では、加工誤差が発生し得る。加工誤差は、主構造部材と前縁部材とに設けられた穴の位置の不整合を生じさせ得る。共穴加工(stack drilling)によって主構造部材と前縁部材とに穴を形成すれば、加工誤差による穴の位置の不整合性を低減し得るかもしれない。しかしながら、飛翔体の翼のような大型部材について共穴加工によって多くの穴を形成することは、工程管理に困難性を生じさせ得る。
【0007】
なお、特開2016-211550号公報は、ファスナーを用いて熱膨張係数が異なるタービン構成要素を接続するための技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2016-211550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的の一つは、主構造部材と前縁部材とに形成される穴の位置の不整合に対応するための技術を提供することにある。本発明の他の目的は、下記の開示から当業者は理解し得るであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下に、「発明を実施するための形態」で使用される符号を付しながら、課題を解決するための手段を説明する。これらの符号は、「特許請求の範囲」の記載と「発明を実施するための形態」との対応関係の一例を示すために付加されたものである。
【0011】
本発明の一の観点では、翼(2)が、主構造部材(3)と、主構造部材(3)の材料と異なる線熱膨張係数を有する材料で形成された前縁部材(4)と、円形の貫通穴(19)が形成された、円柱状の偏心ブッシング(17)と、第1締結部材(16)とを備えている。前縁部材(4)には、特定方向に長い形状を有する第1穴(18)が形成され、主構造部材(3)には、第2穴(20)が形成されている。偏心ブッシング(17)の中心軸(17a)と貫通穴(19)の中心軸(19a)とは、平行であり、且つ、ずれて位置している。偏心ブッシング(17)は、第1穴(18)に挿入されている。第1締結部材(16)は、偏心ブッシング(17)の貫通穴(19)及び主構造部材(3)の第2穴(20)に挿入されて主構造部材(3)と前縁部材(4)とを結合する。
【0012】
一実施形態では、主構造部材(3)は、該第2穴(20)が形成された第1フランジ部分(12)と、第1フランジ部分(12)に対向して位置し、第3穴(21)が形成された第2フランジ部分(13)とを含み、前縁部材(4)は、第1穴(18)が形成された挿入部分(15)を含み、挿入部分(15)が、第1フランジ部分(12)と第2フランジ部分(13)の間に形成された溝に挿入されてもよい。この場合、第1締結部材(16)は、第3穴(21)にも挿入される。
【0013】
一実施形態では、前縁部材(4)は、主構造部材(3)に対向する対向面(14a)を有する本体部分(14)と、本体部分(14)の対向面(14a)から突出するように設けられ、第1穴(18)が形成された突出部分(15)とを備えていてもよい。この場合、主構造部材(3)と前縁部材(4)とは、本体部分(14)と主構造部材(3)との間に隙間(D)が設けられるように結合されることが好ましい。
【0014】
一実施形態では、当該翼(2)が、更に、第2締結部材(34)を備えており、前縁部材(4)は、第1穴(18)よりも当該翼(2)の翼根に近い位置に円形の第4穴(33)が形成され、主構造部材(3)には、第2穴(20)よりも翼根に近い位置に円形の第5穴(31、32)が形成されてもよい。この場合、第2締結部材(34)は、第4穴(33)及び第5穴(31、32)に挿入されて主構造部材(3)と前縁部材(4)とを結合する。
【0015】
この場合、一実施形態では、当該翼(2)が、更に、第3締結部材(34)を備え、前縁部材(4)には、第1穴(18)と第4穴(33)との間の位置に円形の第6穴(33)が形成され、主構造部材(3)には、第2穴(20)と第5穴(31、32)との間の位置に円形の第7穴(31、32)が形成され、第3締結部材(34)は、第6穴(33)及び第7穴(31、32)に挿入されて主構造部材(3)と前縁部材(4)とを結合してもよい。
【0016】
このような翼(2)の構成は、前縁部材(4)が、耐熱材料で形成されている場合に特に有用である。
【0017】
本発明の他の観点では、飛翔体(100)が、本体(1)と、翼(2)とを備えている。翼(2)は、主構造部材(3)と、主構造部材(3)の材料と異なる線熱膨張係数を有する材料で形成された前縁部材(4)と、円形の貫通穴(19)が形成された、円柱状の偏心ブッシング(17)と、締結部材(16)とを備えている。前縁部材(4)には、特定方向に長い形状を有する第1穴(18)が形成され、主構造部材(3)には、第2穴(20)が形成されている。偏心ブッシング(17)の中心軸と貫通穴(19)の中心軸とは、平行にずれて位置している。偏心ブッシング(17)は、前縁部材(4)の第1穴(18)に挿入されている。締結部材(16)は、貫通穴(19)及び第2穴(20)に挿入されて主構造部材(3)と前縁部材(4)とを結合する。
【0018】
本発明の更に他の観点では、主構造部材(3)と、主構造部材(3)の材料と異なる線熱膨張係数を有する材料で形成された前縁部材(4)と、円形の貫通穴(19)が形成され、貫通穴(19)の中心軸と平行であり、且つ、位置がずれた中心軸を有する円柱状の偏心ブッシング(17)を用意する工程と、前縁部材(4)に、特定方向に長い形状を有する第1穴(18)を形成する工程と、主構造部材(3)に、第2穴(20)を形成する工程と、偏心ブッシング(17)を第1穴(18)に挿入する工程と、貫通穴(19)及び第2穴(20)を貫通する締結部材(16)を打設して主構造部材(3)と前縁部材(4)とを結合する工程とを備えている。
【0019】
前縁部材(4)の第1穴(18)及び主構造部材(3)の第2穴(20)は、主構造部材(3)と前縁部材(4)とが重なり合わせられない状態で形成される。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、主構造部材と前縁部材とに形成される穴の位置の不整合に対応するための技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】一実施形態における飛翔体の構成を概略的に示す側面図である。
図2】一実施形態における翼の構成を示す側面図である。
図3】一実施形態における主構造部材と前縁部材のIII-III断面における構造を示す断面図である。
図4】一実施形態における、翼根から離れた領域にあるリベット結合機構のIV-IV断面における構成を示す断面図である。
図5】一実施形態における前縁部材の挿入部分及び偏心ブッシングの構造を示す側面図である。
図6】一実施形態における前縁部材の挿入部分に設けられた長穴の構造を示す側面図である。
図7】一実施形態における偏心ブッシングの構造を示す側面図及びVII-VII断面における該偏心ブッシングの構造を示す断面図である。
図8】一実施形態における主構造部材のフランジ部分の構成を示す切り欠き図である。
図9】一実施形態におけるリベット結合機構の偏心ブッシングの位置及び向きの調節を示す側面図である。
図10】一実施形態における、翼根に近い領域にあるリベット結合機構のX-X断面における構成を示す断面図である。
図11】一実施形態の翼の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。添付図面では、実施形態に開示されている技術の理解を容易にするために、各構成要素の寸法が、実際の比率とは異なる比率で図示されていることがある。
【0023】
図1は、一実施形態における飛翔体100の構造を概略的に示す側面図である。飛翔体100は、推進力を発生するエンジンが搭載された本体1と、本体1に接合された翼2とを備えている。翼2は、飛翔体100の飛翔方向を制御する操舵翼として構成されてもよい。
【0024】
図2は、翼2の構成を示す側面図である。翼2は、主構造部材3と前縁部材4とを備えている。主構造部材3は、翼根部3aを有しており、翼根部3aにおいて翼2が本体1に接合される。主構造部材3は、翼2の構造部材として機能する。
【0025】
前縁部材4は、翼2の前縁2aを構成する部材であり、主構造部材3に接合されている。本実施形態では、翼2が空力加熱による温度上昇に耐えられるようにするために、前縁部材4が耐熱材料で形成される。例えば、前縁部材4は、タングステン、モリブデン、アルミナ(Al)、TiAl合金、TZM(titanium zirconium molybdenum)、ホウ化ジルコニウム(ZrB)、炭素、炭化ケイ素(SiC)、窒化シリコン(Si)などの材料で形成されてもよい。耐熱材料は、耐熱性が高いものの脆いことが多く、主構造部材3として適さないことがある。このため、本実施形態では、主構造部材3と異なる材料で前縁部材4が形成されている。これに伴い、主構造部材3と前縁部材4が形成される材料の線熱膨張係数が、異なっている。
【0026】
以下、翼2の構成について詳細に説明する。以下の説明においては、方向を示すためにXYZ直交座標系を用いることがある。Y軸は、前縁部材4が延伸する方向に規定され、X軸は、Y軸に垂直で翼2に含まれる方向に規定されている。また、Z軸が、X軸及びY軸に垂直な方向に規定されている。
【0027】
図3は、主構造部材3と前縁部材4の構造を示す断面図である。主構造部材3は、本体部分11と、本体部分11から-X方向に突出する一対のフランジ部分12、13とを有している。前縁部材4は、本体部分14と、挿入部分15とを備えている。本体部分14は、フランジ部分12、13に対向する対向面14aを有している。挿入部分15は、対向面14aから突出するように生成された部分である。挿入部分15は、主構造部材3のフランジ部分12、13の間に形成された溝3bに挿入されている。
【0028】
図2に戻り、前縁部材4は、リベット結合機構5、6によって主構造部材3に結合されている。ここで、リベット結合機構5は、翼2の翼根から離れた領域Aに位置しており、リベット結合機構6は、翼根に近い領域Bに位置している。後述されるように、翼根から離れた領域Aにあるリベット結合機構5の構成と翼根に近い領域Bにあるリベット結合機構6の構成とは相違し得る。図2には、7個のリベット結合機構5と、3個のリベット結合機構6とが図示されているが、リベット結合機構5の数は、7に限定されず、リベット結合機構6の数は3に限定されない。
【0029】
図4は、リベット結合機構5の構造を示す断面図である。リベット結合機構5は、リベット16と、偏心ブッシング17とを備えている。リベット16は、主構造部材3のフランジ部分12、13と、前縁部材4の挿入部分15とを締結する締結部材である。後に詳細に説明するように、偏心ブッシング17は、リベット16が挿入部分15を貫通する位置を可変にする機能を有している。
【0030】
図5は、前縁部材4の挿入部分15及び偏心ブッシング17の構造を示す側面図である。挿入部分15には、長穴18が形成されている。本実施形態では、長穴18は、特定の方向、本実施形態では前縁部材4が延伸する方向であるY軸方向に長い形状に形成されている。詳細には、図6に図示されているように、長穴18の側壁は、互いに逆向きの半円筒の形状の半円筒部分18a、18bと、平坦な形状の平坦部分18c、18dとを有しており、半円筒部分18aの両端は、平坦部分18c、18dによって半円筒部分18bの両端に接続されている。
【0031】
図4に図示されているように、偏心ブッシング17は、挿入部分15に対応する厚さ、本実施形態では同一の厚さを有しており、図5に図示されているように、偏心ブッシング17は、長穴18に挿入されている。図7に図示されているように、偏心ブッシング17は、円形の貫通穴19が形成された円柱状の形状に形成されている。偏心ブッシング17は、その直径が、長穴18の半円筒部分18a、18bの直径と実質的に同一であるように形成される。ここでいう「実質的」とは、製造工程において偏心ブッシング17を長穴18に挿入可能にするために、偏心ブッシング17の直径が長穴18の半円筒部分18a、18bの直径よりも僅かに小さくなるように長穴18が形成される場合も含むことを意味している。偏心ブッシング17の中心軸17aと貫通穴19の中心軸19aとは、平行であるが、位置がずれている。
【0032】
図4に図示されているように、リベット16は、フランジ部分12、13の穴20、21と、偏心ブッシング17の貫通穴19に挿入されて前縁部材4を主構造部材3に結合する。
【0033】
このような構造では、偏心ブッシング17の貫通穴19の位置は、X軸方向及びY軸方向の2方向に自由度を持っている。貫通穴19のX軸方向の位置は、偏心ブッシング17をZ軸の周りに回転させることで調節可能である。一方、貫通穴19のY軸方向の位置は、偏心ブッシング17の位置をY軸方向に調節することで調節可能であり、更に、偏心ブッシング17の向きを調節する、即ち、偏心ブッシング17をZ軸の周りに回転させることでも調節可能である。
【0034】
リベット16が挿入される貫通穴19の位置にX軸方向及びY軸方向の自由度を与えるという観点では、長穴18が長く形成される方向は、XY平面内の任意の方向であってよい。ただし、主構造部材3と前縁部材4の線熱膨張係数の相違を吸収するという観点では、長穴18が長く形成される方向は、前縁部材4が延伸する方向、即ち、Y軸方向であることが好ましい。
【0035】
また、貫通穴19の位置にX軸方向及びY軸方向の自由度を与えるという観点では、長穴18の形状は、図6に図示されるような長円形には限られず、他の形状、例えば、特定方向に長く形成された楕円形であってもよい。ただし、図6に図示されるような長円形の長穴18は、偏心ブッシング17の貫通穴19の位置に自由度を与える一方で、偏心ブッシング17のガタツキを抑制できるという点で有利である。
【0036】
図8は、主構造部材3のフランジ部分12の構成を、フランジ部分13を除去して示す切り欠き図である。フランジ部分12には、リベット16を通すための穴20が形成されている。穴20は、前縁部材4の挿入部分15に設けられた長穴18に対応する位置に形成される。図8には、長穴18及びそれに挿入される偏心ブッシング17の位置が破線で示されている。フランジ部分13もフランジ部分12と同様の構造を有しており、フランジ部分13には、穴21が形成される。穴21も、前縁部材4の挿入部分15に設けられた長穴18に対応する位置に形成される。
【0037】
このような構造のリベット結合機構5は、実使用時に空力加熱により翼2の温度が上昇したときにおける、主構造部材3と前縁部材4の線熱膨張係数の差異を吸収することができる。主構造部材3と前縁部材4の線熱膨張係数が異なっていると、主構造部材3と前縁部材4のY軸方向における熱伸びの大きさに差異が生じ得る。しかしながら、図5に示すように、本実施形態のリベット結合機構5では、長穴18に、偏心ブッシング17をY軸方向に移動可能にする遊び22が存在しているため、熱伸びの大きさの差異があっても、リベット16に熱応力が作用しにくい。
【0038】
前縁部材4の本体部分14と主構造部材3のフランジ部分12、13の間に隙間Dが設けられる構造も、主構造部材3と前縁部材4の線熱膨張係数の差異を吸収することに寄与している。隙間Dが設けられていることにより、主構造部材3と前縁部材4のX軸方向の熱伸びの大きさに差が生じても、本体部分14と主構造部材3のフランジ部分12、13とが接触しない。これは、リベット16に熱応力が作用することを防ぐ。
【0039】
加えて、リベット結合機構5は、主構造部材3のフランジ部分12、13に穴20、21が形成される位置が加工誤差によってずれた場合に、そのずれを吸収することができる。例えば、図9に示すように、本来、主構造部材3のフランジ部分12、13に、破線23で示す位置に穴20、21を形成すべきところ、破線23からX軸方向、Y軸方向のいずれについてもずれた位置に穴20、21が形成されたとする。この場合、偏心ブッシング17のY軸方向の位置を調節し、更に、偏心ブッシング17の向きを調節する(即ち、中心軸17aの周りに回転させる)ことにより、偏心ブッシング17の貫通穴19の位置を、穴20、21が実際に形成された位置に合わせることができる。したがって、リベット結合機構5は、フランジ部分12、13に形成される穴20、21の位置の加工誤差を吸収することができる。
【0040】
上述されたリベット結合機構5は、主構造部材3と前縁部材4の間のガタツキを生じさせ得る。このようなガタツキが、翼2の変形のような何らかの不都合を招く場合には、一実施形態では、翼2の翼根に近い複数個のリベット結合機構6として、共穴加工で形成された穴にリベットを通して主構造部材3と前縁部材4とを該リベットで結合する構造を採用してもよい。
【0041】
図10は、このように構成されたリベット結合機構6の構成を示す断面図である。主構造部材3のフランジ部分12、13と前縁部材4の挿入部分15には、共穴加工によって円形の穴31、32、33がそれぞれに形成されている。主構造部材3と前縁部材4とは、穴31、32、33に挿入されたリベット34によって締結される。
【0042】
図2を参照して、翼根に最も近いリベット結合機構6は、他のリベット結合機構5、6の位置の基準として用いられる。残りのリベット結合機構6は、主構造部材3に対する前縁部材4の回転を止め、ガタツキを低減する役割を果たす。翼根に近い領域Bに設けられたリベット結合機構6については、熱伸びの大きさが小さい主構造部材3と前縁部材4の線熱膨張係数の差異に起因して生じる熱応力の問題は重大ではない。一方、リベット結合機構6よりも翼根から離れた領域Aにおいては、線熱膨張係数の差異の問題は重大になり得る。このような領域Aでは、リベット結合機構5が用いられ、これにより、線熱膨張係数の差異及び加工誤差が吸収される。
【0043】
図11は、図4図9に示された構成のリベット結合機構5と、図10に示された構成のリベット結合機構6とを備える翼2の製造方法を示すフローチャートである。主構造部材3と前縁部材4と偏心ブッシング17が用意された後、下記の一連のステップが行われる。
【0044】
ステップS01~S03は、翼根から離れた領域Aにあるリベット結合機構5の形成のための加工工程である。
【0045】
ステップS01では、主構造部材3のフランジ部分12、13に円形の穴20、21が形成され、ステップS02では、前縁部材4の挿入部分15に長円形の長穴18が形成される。ステップS01、S02においては、共穴加工は行われず、フランジ部分12、13への穴20、21の形成及び、挿入部分15への長円形の長穴18の形成は、主構造部材3と前縁部材4とで個別に行われる。言い換えれば、フランジ部分12、13の穴20、21と挿入部分15の長穴18は、主構造部材3のフランジ部分12、13と前縁部材4の挿入部分15とが重ね合されない状態で(即ち、挿入部分15が主構造部材3の溝3bに挿入されない状態で)形成される。
【0046】
ステップS03では、前縁部材4の挿入部分15の長穴18に、偏心ブッシング17が挿入される。
【0047】
ステップS04では、翼根に近い領域Bにあるリベット結合機構6の形成のために、主構造部材3のフランジ部分12、13に円形の穴31、32が形成され、前縁部材4の挿入部分15に円形の穴33が形成される。穴31、32、33は、主構造部材3のフランジ部分12、13と前縁部材4の挿入部分15とが重ね合された状態で(即ち、挿入部分15が主構造部材3の溝3bに挿入された状態で)、共穴加工によって形成される。
【0048】
ステップS05では、偏心ブッシング17の位置及び向きが、ステップS01においてフランジ部分12、13に形成された穴20、21に合わせて調節される。
【0049】
ステップS06では、リベット結合機構5のリベット16及びリベット結合機構6のリベット34が打設される。これにより、主構造部材3のフランジ部分12、13と前縁部材4の挿入部分15とが結合される。
【0050】
本実施形態の製造方法によれば、線熱膨張係数の差異や加工誤差に起因する主構造部材3と前縁部材4とに形成される穴の位置の不整合に対応可能な翼2を製造することができる。加えて、本実施形態の製造方法によれば、共穴加工により形成される穴の数を低減しながら、主構造部材3と前縁部材4の間のガタツキを低減することができる。
【0051】
なお、ステップS01~S06が行われる順序は、図11に示されているものに限定されず、技術的に可能な範囲で変更され得る。
【0052】
以上には、本発明の実施形態が具体的に記述されているが、本発明は、上記の実施形態に限定されない。本発明が種々の変更と共に実施され得ることは、当業者には理解されよう。
【符号の説明】
【0053】
100 :飛翔体
1 :本体
2 :翼
2a :前縁
3 :主構造部材
3a :翼根部
3b :溝
4 :前縁部材
5、6 :リベット結合機構
11 :本体部分
12、13:フランジ部分
14 :本体部分
14a :対向面
15 :挿入部分
16 :リベット
17 :偏心ブッシング
17a :中心軸
18 :長穴
18a、18b:半円筒部分
18c、18d:平坦部分
19 :貫通穴
19a :中心軸
20、21:穴
22: 遊び
23 :破線
31、32、33:穴
34 :リベット
D:隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11