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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】トンネルのリニューアル方法及び構造
(51)【国際特許分類】
   E21D 11/00 20060101AFI20240311BHJP
   E21D 11/08 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
E21D11/00 Z
E21D11/08
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020128205
(22)【出願日】2020-07-29
(65)【公開番号】P2022025405
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【氏名又は名称】西山 春之
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】山本 竜也
(72)【発明者】
【氏名】玉田 康一
(72)【発明者】
【氏名】小坂 琢郎
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-091194(JP,A)
【文献】特開2019-073920(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/00
E21D 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル内壁の既設の覆工体と、道床と、トンネル内で前記道床の下方にあるインバートコンクリートと、を備えるトンネルのリニューアル方法であって、
前記道床の幅方向の両端であって前記既設の覆工体との境界部を前記インバートコンクリートが露出するまで掘削して、トンネル軸方向に延在する凹溝を形成する凹溝形成工程と、
前記既設の覆工体の内側にて複数のセグメントピースをアーチ状に組み立てて新設の覆工体を1アーチずつ構築する工程であって、アーチ状に組み立てられる複数のセグメントピースのうち、左右両側の最下方のセグメントピースの下端部を前記凹溝内に位置させて前記インバートコンクリートに固定することを含むセグメント組立工程と、
前記最下方のセグメントピースの下端部と前記凹溝との隙間を埋め戻す間詰工程と、
を含む、トンネルのリニューアル方法。
【請求項2】
前記セグメント組立工程に先立って、前記既設の覆工体と後に構築される新設の覆工体との間の空間に位置させて、前記既設の覆工体の内周側の漏水箇所から、漏水を案内して前記道床の底部の既設の排水溝へ導水する導水路を設置する導水処理工程を更に含む、請求項1に記載のトンネルのリニューアル方法。
【請求項3】
前記セグメント組立工程の後に、前記既設の覆工体と前記新設の覆工体との間に裏込充填材を注入する裏込工程を更に含む、請求項1又は請求項2に記載のトンネルのリニューアル方法。
【請求項4】
前記セグメントピースはプレキャストRCセグメントであり、
前記トンネルは鉄道用トンネルであり、
前記道床は、バラストを敷き詰めて構築されている、請求項1~請求項3のいずれか1つに記載のトンネルのリニューアル方法。
【請求項5】
トンネル内壁の既設の覆工体と、道床と、トンネル内で前記道床の下方にあるインバートコンクリートと、を備えるトンネルのリニューアル構造であって、
前記道床の幅方向の両端であって前記既設の覆工体との境界部に形成されてトンネル軸方向に延在する凹溝と、
前記既設の覆工体の内側にて複数のセグメントピースがアーチ状に組み立てられて構築される新設の覆工体と、
を含んで構成され、
前記アーチ状に組み立てられる複数のセグメントピースのうち、左右両側の最下方のセグメントピースの下端部は、前記凹溝内に位置し、かつ、前記インバートコンクリートに固定され、
前記最下方のセグメントピースの下端部と前記凹溝との隙間には、充填材が充填されている、トンネルのリニューアル構造。
【請求項6】
前記セグメントピースはプレキャストRCセグメントであり、
前記トンネルは鉄道用トンネルであり、
前記道床は、バラストを敷き詰めて構築されている、請求項5に記載のトンネルのリニューアル構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設のトンネルの経年劣化に対するトンネルのリニューアル方法及びリニューアル構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、トンネルのリニューアル方法を開示している。これは、既設のトンネルの覆工を取り壊して、新たな覆工を構築する方法であり、具体的には、既設の覆工を取り壊した後に、トンネルの内面形状より新たに構築する覆工の厚み分だけ小さい移動フレームを設置し、移動フレームとトンネルの地山との間に、パネルを設置し、前記パネルと地山との間に充填材を充填する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-061495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、供用中の道路・鉄道などのトンネルのリニューアル工事は、連続して作業を行うことができず、例えば夜間などの短時間にしか作業を行うことができない。例えば、道路では、夜間の限られた時間の間、通行止めにして、行うしかなく、あるいは、鉄道では、終電から始発までの限られた時間内(例えば深夜1時~4時)に、行うしかない。従って、作業の準備から撤収までを含む短時間の作業(1日のうちの限られた時間内での作業)を繰り返して、工事を進める必要がある。
【0005】
上記の点から考えると、特許文献1のような、既設のトンネルの覆工を取り壊して、新たな覆工を構築する方法は、供用中の道路・鉄道などのトンネルのリニューアル工事には向かない。既設のトンネルの覆工を一部取り壊した状態で作業を終了して供用に資するわけにはいかないし、取り壊しと同時に新たな覆工を構築するのは短時間では困難だからである。
【0006】
本発明は、このような実状に鑑み、例えば、作業の準備から撤収まで短時間の作業時間を想定して、短時間に工事を進めることができ、供用中の道路・鉄道などのトンネルのリニューアル工事に適した、トンネルのリニューアル方法及び構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るトンネルのリニューアル方法は、トンネル内壁の既設の覆工体と、道床と、トンネル内で前記道床の下方にあるインバートコンクリートと、を備えるトンネルを対象とし、
前記道床の幅方向の両端であって前記既設の覆工体との境界部を前記インバートコンクリートが露出するまで掘削して、トンネル軸方向に延在する凹溝を形成する凹溝形成工程と、
前記既設の覆工体の内側にて複数のセグメントピースをアーチ状に組み立てて新設の覆工体を1アーチずつ構築する工程であって、アーチ状に組み立てられる複数のセグメントピースのうち、左右両側の最下方のセグメントピースの下端部を前記凹溝内に位置させて前記インバートコンクリートに固定することを含むセグメント組立工程と、
前記最下方のセグメントピースの下端部と前記凹溝との隙間を埋め戻す間詰工程と、
を含む。
【0008】
本発明に係るトンネルのリニューアル構造は、トンネル内壁の既設の覆工体と、道床と、トンネル内で前記道床の下方にあるインバートコンクリートと、を備えるトンネルを対象とし、
前記道床の幅方向の両端であって前記既設の覆工体との境界部に形成されてトンネル軸方向に延在する凹溝と、
前記既設の覆工体の内側にて複数のセグメントピースがアーチ状に組み立てられて構築される新設の覆工体と、
を含んで構成され、
前記アーチ状に組み立てられる複数のセグメントピースのうち、左右両側の最下方のセグメントピースの下端部は、前記凹溝内に位置し、かつ、前記インバートコンクリートに固定され、
前記最下方のセグメントピースの下端部と前記凹溝との隙間には、充填材が充填されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、既設の覆工体の内側にて複数のセグメントピースをアーチ状に組み立てて新設の覆工体を構築することにより、短時間の作業に分割して、工事を進めることができる。従って、供用中の道路・鉄道などのトンネルのリニューアル工事に適するものとなる。
また、アーチ状に組み立てられた新設の覆工体は、その脚部(最下方のセグメントピースの下端部)を道床の幅方向の両端であって既設の覆工体との境界部に形成した凹溝内に支持することで、確実に新設の覆工体を支持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態として示すリニューアル前のトンネルの断面図
図2】凹溝形成工程~道床土留工程でのトンネルの断面図
図3】導水処理工程でのトンネルの断面図
図4】セグメント組立工程でのトンネルの断面図
図5】裏込工程でのトンネルの断面図
図6】間詰工程でのトンネルの断面図(リニューアル後のトンネルの断面図)
図7】道床土留工程での要部詳細図
図8】導水処理工程での要部詳細図
図9】セグメント組立工程での要部詳細図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
本実施形態でのトンネルのリニューアル工事は、供用中の道路・鉄道などのトンネルのリニューアル工事であり、この場合、トンネルのリニューアル作業を実施する作業時間と、作業を中断してリニューアル中のトンネルを供用に資する供用時間とが、ほぼ一定の時間割合で、繰り返される。しかも、作業時間は供用時間に比して圧倒的に短い。
【0012】
例えば道路用トンネルの場合、一般に深夜のみ通行止めにして、その時間帯を作業時間にあて、鉄道用トンネルの場合は、終電から始発までの時間帯(例えば深夜1時~4時)を作業時間にあて、いずれの場合も1日の残りの時間が供用時間となる。
【0013】
従って、このようなトンネルのリニューアル工事は、各工程での作業を、作業の準備から撤収までを含む1作業時間内の作業に分割し、1作業時間内の作業を日々繰り返して、工事を進めることになる。
【0014】
図面に基づいて、鉄道用トンネルのリニューアル工事の例で、本発明の一実施形態を詳細に説明する。
図1は本発明の一実施形態として示すリニューアル工事前の鉄道用トンネルの断面図である。
【0015】
既設のトンネル1は、トンネル内壁の既設の覆工体2と、トンネル内の底部に水平面を形成する底盤(インバート)3と、トンネル内の底盤3上に設けられる走行路を含む道床4とを備えている。
【0016】
既設の覆工体2は、本実施形態では、例えば9個のセグメントピースがリング状に組み立てられ、各リングがトンネル軸方向に連結されることで、構築されている。
【0017】
底盤3は、本実施形態では、インバートコンクリート(場所打ちコンクリート又はプレキャストコンクリート)により造成されている。但し、埋め戻し土(トンネル掘削土)により造成されていてもよい。
【0018】
道床4は、本実施形態では、鉄道用トンネルであるので、バラストを敷き詰めて構築されている。そして、バラスト上に、枕木5が設置され、枕木5上に軌道として一対のレール6が敷設されている。この例の鉄道は複線であり、道床4による走行路は、一対のレール6からなる軌道を2組を有している。道路用トンネルの場合は、道床として、コンクリート製の底版が設けられ、その上に走行用の路床(路面)が形成されていてもよい。
【0019】
尚、底盤3の上面は幅方向両端部から中央部へ向かってわずかながら下向きに傾斜しており、底盤3の上面の幅方向中央部を凹ませて、道床4との間に、トンネル軸方向に延在する中央排水溝7を形成してある。また、図3に示されているように、底盤3と道床4との間には、トンネル軸方向に適宜の間隔で、横断排水管8が設置されている。横断排水管8は、塩ビ管(VP管)からなり、底盤3の上面の幅方向両端部から中央排水溝7へ導水する。
【0020】
次に、図1に示した既設の鉄道用トンネルのリニューアル工事について説明する。
図2図6はリニューアル工事中の工程別のトンネルの断面図であり、以下、これらの図に従って、工程別に説明する。
【0021】
〔凹溝形成工程~道床土留工程〕
図2に示すように、道床4の幅方向の両端であって既設の覆工体2との境界部のバラストを底盤3が露出するまで掘削して、トンネル軸方向に延在する凹溝11を形成する(凹溝形成工程)。
【0022】
同じく図2に示すように、凹溝形成工程と並行して、あるいは当該工程後に、凹溝11内に道床4に対する土留め(道床土留)12を施工する(道床土留工程)。
【0023】
道床土留12については、図7の要部拡大断面図に具体例を示すように、残された道床4の側部の全面に、木板(板材)12aをあてがい、トンネル軸方向に所定の間隔で、木板12aを倒れ止めするように、木板12aと既設の覆工体2との間にバタ角(切梁)12bを設置し、バタ角12bはキャンバー(木製のクサビ)12cにより固定する。
道床土留12を施工した後は、軌道側のバラストを突き固め、軌道整備を行う。
【0024】
尚、1作業時間で見ると、1作業時間内に、トンネル軸方向に所定の長さの凹溝11を形成し、同じ1作業時間内に、凹溝11を形成した全ての箇所への道床土留12の施工を終えるようにする。1作業時間内に道床土留12の施工を完了することで、供用中の道路・鉄道のリニューアル工事に適して工事を進めることができる。
【0025】
〔導水処理工程(縦樋設置工程)〕
図3に示すように、漏水対策として、現状において既設の覆工体2から発生している漏水を確実に処理すべく、既設の覆工体2の内周側の漏水箇所から、漏水を案内して、道床4の底部の既設の中央排水溝7へ導水する導水路として、縦樋13を設置する(導水処理工程)。
【0026】
導水処理工程での縦樋13の設置には、足場台車101を用い、足場台車101は軌道上を走行させる。
【0027】
また、導水処理工程は、後述するセグメント組立工程に先立って行い、縦樋13は、既設の覆工体2と、後に構築される新設の覆工体15(図4参照)との間の空間に位置させる。
【0028】
縦樋13から中央排水溝7への導水路については、図8の要部拡大断面図に示されるように構成される。凹溝11の底部に、トンネル軸方向に延在する縦断排水管(VP管)14を設置し、縦樋13の下端部を縦断排水管14に接続する。そして、縦断排水管14から既存の横断排水管8に接続する。これにより、漏水箇所からの漏水を縦樋13により確実に導水し、縦断排水管14及び横断排水管8を介して、中央排水溝7へ導水することができる。
【0029】
〔セグメント組立工程〕
図4に示すように、既設の覆工体2の内側にて複数(本例では7個)のセグメントピースS1~S7をアーチ状に組み立てて新設の覆工体15を1アーチずつ構築する(セグメント組立工程)。
【0030】
尚、ここでいう「アーチ状」とは、底部がつながっていないことを意味し、門形に限らず、本実施形態のような円弧状を含む。
また、複数のセグメントピースをリング状に組み立てる場合、その組立体を「1リング」と呼んでおり、これに準じて、アーチ状に組み立てる場合も現場では「1リング」と呼んでいる。従って、アーチ状に組み立てる場合の組立体を「1リング」と表記することも可能であるが、本明細書では正確を期して「1アーチ」と表記する。
【0031】
セグメント組立工程では、図4に示されているように、2台のエレクタ(セグメント組立台車)102A、102Bを用いる。道床4上の走行路が2組の軌道を有していることから、2台のエレクタを用い、各エレクタは各軌道上を走行させる。また、図示しないが、セグメントピースを運搬してエレクタに供給する運搬台車を用いる。エレクタは、基本的に円周方向に動作し、可動範囲が限定されることから、鉄道設備を損傷するリスクが少ない。
【0032】
組立に用いるセグメントピースS1~S7は、トンネル周方向に円弧状をなすプレキャストRCセグメントであり、その幅(トンネル軸方向の長さ)は例えば1mである。
セグメントピースS1~S7はまた、トンネル周方向の端面にピース間継手を有し、また、トンネル軸方向の端面にアーチ間継手(リング間継手)を有している。従って、セグメントピースをワンタッチでトンネル周方向に隣り合うセグメントピースに組み付けることができ、同様にワンタッチでトンネル軸方向に隣り合うセグメントピースと連結することができる。
【0033】
セグメントピースの組立順は、図中のS1~S7の順で、左横下、右横下、左横上、右横上、左上、右上、上中央の順となる。
【0034】
セグメント組立工程では、図4に示されているように、アーチ状に組み立てられるセグメントピースS1~S7のうち、左右両側の最下方(左横下、右横下)のセグメントピースS1、S2の下端部を前記凹溝11内に位置させて固定する。
【0035】
具体的には、図9の要部拡大断面図に示すように、最下方のセグメントピースS1、S2の下端部を支持金物16により支持し、支持金物16の脚部をアンカー17で、凹溝11の底部、すなわち底盤(インバートコンクリート)3の上面に固定する。そして、支持金物16を囲む型枠18を設けて、型枠18内(型枠18と既設の覆工体2との間)に無収縮モルタル19を充填する。
【0036】
また、セグメントを組み立てる部位の道床土留12については、セグメントの組立に先立って、バタ角12bを取外し、セグメントの組立後に、木板12aと新設の覆工体15との間に、これらの間隔に対応した長さのバタ角12b’を取付ける。
【0037】
ここにおいて、新設の覆工体15は、既設の覆工体2との間に空隙を有し、既設の覆工体2とは剛結されていない。また、既設の覆工体2の内周面に防水シートは設置しない。
その代わりに、漏水対策として、組立に用いるセグメントピースS1~S7の外周面(背面)に予め工場で防水シートを貼り付けてある。また、セグメントピース間の目地(セグメントピースの外周面及び内周面を除く4つの端面を一巡するシール溝)に水膨張性のシール材を配置してある。このようにして、既設の覆工体2からの漏水を確実に導水することで高い止水性を長期にわたって確保する。
【0038】
セグメント組立工程は、新設の覆工体15を1アーチ単位で組み立てることになるので、新設の覆工体15の構築途中での作業の中断(線路閉鎖解除)が容易となる。
【0039】
〔裏込工程〕
図5に示すように、セグメント組立工程の後に、既設の覆工体2と新設の覆工体15との間に裏込充填材20を注入・充填する(裏込工程)
【0040】
裏込工程では、足場台車101と裏込プラント103とを用いる。裏込充填材20としては、地山強度以上のモルタルを用い、新設の覆工体15のセグメントピースに予め設けられている注入孔からホースで圧力注入し、充填する。未充填のおそれがあるクラウン部については、エア抜きパイプを設置し、そこから裏込充填材が吐出することで、充填を確認する。
【0041】
〔間詰工程(埋め戻し工程)〕
図6に示すように、道床土留12を撤去し、あるいは道床土留12を残置したまま、最下方のセグメントピースS1、S2の下端部と凹溝11との隙間をバラストで埋め戻す。言い換えれば、前記隙間に充填材(埋め戻し用のバラスト)21を充填する。尚、セグメント組立工程において、セグメントを組み立てる部位の道床土留12については、セグメントの組立に先立って、バタ角12bを取外し、セグメントの組立後に、木板12aと新設の覆工体15との間に、これらの間隔に対応した長さのバタ角12b’を取付けると説明したが、セグメント組立工程のセグメントの組立後に、前記隙間に充填材(埋め戻し用のバラスト)21を充填してもよい。
【0042】
以上により、リニューアル工事が終了し、図1の既設のトンネル(リニューアル前のトンネル)1が図6のリニューアル後のトンネル1’に生まれ変わる。
【0043】
次に、上記リニューアル工事の各工程を、1作業時間内、すなわち、1日のうちの限られた時間(例えば深夜1時~4時)内において、どのように進めるかについて、説明する。
【0044】
先ずセグメント組立工程について説明する。
セグメント組立工程は、1作業時間(例えば180分)で、新設の覆工体を1アーチ分構築するように実施する。7個のセグメントピースの組立に約70分かかり、セグメントピース組立前に、エレクタ(セグメント組立台車)移動、セグメント運搬台車移動、セグメント荷卸しなどの準備作業があり、また、セグメントピース組立後に、組立固め、更にエレクタ移動、運搬台車移動などの撤去作業があることから、これが妥当である。
【0045】
従って、セグメントピースの幅(トンネル軸方向の長さ)が1mの場合、1アーチ(1m)/1日のペースで、新設の覆工体を構築することになる。
但し、1作業時間をより長く確保できる場合などは、1作業時間で、新設の覆工体を複数アーチ分構築するように実施してもよい。
【0046】
これに対し、セグメント組立工程前の、凹溝形成工程~道床土留工程、及び、導水処理工程については、次のように実施する。
【0047】
凹溝形成工程~道床土留工程は、1作業時間で、すなわち1日のうちの限られた時間内で、新設の覆工体を1作業時間で構築するアーチ分のトンネル軸方向の長さ(例えば1m)より長い長さ(例えば8m)の凹溝を形成し、かつその凹溝に道床土留を施工するように実施する。このように、より長い距離を一括して工事することで、工期の短縮が可能となる。
【0048】
導水処理工程についても同様で、1作業時間で、すなわち1日のうちの限られた時間内で、新設の覆工体を1作業時間で構築するアーチ分のトンネル軸方向の長さ(例えば1m)より長い距離範囲に、導水処理を施すように実施する。但し、これは漏水箇所の数に依存する。
【0049】
また、セグメント組立工程後の、裏込工程、及び、間詰工程についても同様で、次のように実施する。
【0050】
裏込工程は、1作業時間で、すなわち1日のうちの限られた時間内で、新設の覆工体を1作業時間で構築するアーチ分のトンネル軸方向の長さ(例えば1m)より長い距離範囲に、裏込注入を施すように実施する。
【0051】
間詰工程についても同様で、1作業時間で、すなわち1日のうちの限られた時間内で、新設の覆工体を1作業時間で構築するアーチ分のトンネル軸方向の長さ(例えば1m)より長い距離範囲に、間詰(埋め戻し)を施すように実施する。
【0052】
また、上記の各工程をトンネル内でトンネル軸方向の場所を変えて時間的にオーバーラップさせることも可能である。しかし、同じトンネル内では作業が錯綜し、限られた時間内での作業に支障を来すおそれがあり、オーバーラップさせることは好ましくないと考える。
【0053】
本実施形態によれば、セグメント組立工程は、1作業時間で、新設の覆工体15を1~複数アーチ分構築するように、好ましくは1アーチ分構築するように、実施することにより、限られた時間内で確実に作業を終了して、供用に資することができるという効果が得られる。
【0054】
また、本実施形態によれば、凹溝形成工程は、1作業時間で、新設の覆工体15を1作業時間で構築するアーチ分のトンネル軸方向の長さより長い長さの凹溝11を形成するように実施することにより、工期の短縮を図ることができる。
【0055】
また、本実施形態によれば、凹溝形成工程と並行して、あるいは当該工程後に、凹溝11内に道床4に対する土留めを施工する道床土留工程を更に含むことにより、供用中の道床4の安全を担保する一方、凹溝11の一括形成を可能ならしめることができる。
【0056】
また、本実施形態によれば、セグメント組立工程では、最下方のセグメントピースS1、S2の下端部は、トンネル内で道床4の下方にあって道床4を支持する底盤3に支持させることにより、新設の覆工体15の支持を確実なものとすることができる。
【0057】
また、本実施形態によれば、セグメント組立工程に先立って、既設の覆工体2と後に構築される新設の覆工体15との間の空間に位置させて、既設の覆工体2の内周側の漏水箇所から、漏水を案内して道床4の底部の既設の排水溝7へ導水する導水路(縦樋13)を設置する導水処理工程を更に含むことにより、既設の覆工体2の漏水箇所に対し導水処理を施して、新設の覆工体15の止水性を高めることができる。
【0058】
また、本実施形態によれば、セグメント組立工程の後に、既設の覆工体2と新設の覆工体15との間に裏込充填材20を注入する裏込工程を更に含むことにより、既設の覆工体2と新設の覆工体15とを一体化することができる。
【0059】
尚、図示の実施形態はあくまで本発明を概略的に例示するものであり、本発明は、説明した実施形態により直接的に示されるものに加え、特許請求の範囲内で当業者によりなされる各種の改良・変更を包含するものであることは言うまでもない。
尚、出願当初の請求項は以下の通りであった。
[請求項1]
トンネル内壁の既設の覆工体と、道床と、を備えるトンネルのリニューアル方法であって、
前記道床の幅方向の両端であって前記既設の覆工体との境界部を掘削してトンネル軸方向に延在する凹溝を形成する凹溝形成工程と、
前記既設の覆工体の内側にて複数のセグメントピースをアーチ状に組み立てて新設の覆工体を1アーチずつ構築する工程であって、アーチ状に組み立てられる複数のセグメントピースのうち、左右両側の最下方のセグメントピースの下端部を前記凹溝内に位置させて固定することを含むセグメント組立工程と、
前記最下方のセグメントピースの下端部と前記凹溝との隙間を埋め戻す間詰工程と、
を含むことを特徴とする、トンネルのリニューアル方法。
[請求項2]
トンネルのリニューアル作業を実施する作業時間と、作業を中断してリニューアル中のトンネルを供用に資する供用時間とが繰り返される場合に、
前記セグメント組立工程は、1作業時間で、前記新設の覆工体を1~複数アーチ分構築するように実施することを特徴とする、請求項1記載のトンネルのリニューアル方法。
[請求項3]
前記凹溝形成工程は、1作業時間で、前記新設の覆工体を1作業時間で構築するアーチ分のトンネル軸方向の長さより長い長さの前記凹溝を形成するように実施することを特徴とする、請求項2記載のトンネルのリニューアル方法。
[請求項4]
前記凹溝形成工程と並行して、あるいは当該工程後に、前記凹溝内に前記道床に対する土留めを施工する道床土留工程を更に含むことを特徴とする、請求項1~請求項3のいずれか1つに記載のトンネルのリニューアル方法。
[請求項5]
前記セグメント組立工程では、前記最下方のセグメントピースの下端部は、トンネル内で前記道床の下方にある底盤に支持させることを特徴とする、請求項1~請求項4のいずれか1つに記載のトンネルのリニューアル方法。
[請求項6]
前記セグメント組立工程に先立って、前記既設の覆工体と後に構築される新設の覆工体との間の空間に位置させて、前記既設の覆工体の内周側の漏水箇所から、漏水を案内して前記道床の底部の既設の排水溝へ導水する導水路を設置する導水処理工程を更に含むことを特徴とする、請求項1~請求項5のいずれか1つに記載のトンネルのリニューアル方法。
[請求項7]
前記セグメント組立工程の後に、前記既設の覆工体と前記新設の覆工体との間に裏込充填材を注入する裏込工程を更に含むことを特徴とする、請求項1~請求項6のいずれか1つに記載のトンネルのリニューアル方法。
[請求項8]
トンネル内壁の既設の覆工体と、道床と、を備えるトンネルのリニューアル構造であって、
前記道床の幅方向の両端であって前記既設の覆工体との境界部に形成されてトンネル軸方向に延在する凹溝と、
前記既設の覆工体の内側にて複数のセグメントピースがアーチ状に組み立てられて構築される新設の覆工体と、
を含んで構成され、
前記アーチ状に組み立てられる複数のセグメントピースのうち、左右両側の最下方のセグメントピースの下端部は、前記凹溝内に位置固定され、
前記最下方のセグメントピースの下端部と前記凹溝との隙間には、充填材が充填されていることを特徴とする、トンネルのリニューアル構造。
【符号の説明】
【0060】
1 既設のトンネル(リニューアル前のトンネル)
1’リニューアル後のトンネル
2 既設の覆工体
3 底盤(インバートコンクリート)
4 道床(バラスト)
5 枕木
6 レール
7 中央排水溝
8 横断排水管
11 凹溝
12 道床土留
12a 木板
12b バタ角
12c キャンバー
13 縦樋
14 縦断排水管
15 新設の覆工体(セグメントピースS1~S7)
16 支持金物
17 アンカー
18 型枠
19 無収縮モルタル
20 裏込充填材
21 充填材(埋め戻し用のバラスト)
101 足場台車
102 エレクタ
103 裏込プラント
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9