(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】回転機械の診断装置、診断方法及び診断プログラム
(51)【国際特許分類】
G01R 31/34 20200101AFI20240311BHJP
G01M 99/00 20110101ALI20240311BHJP
【FI】
G01R31/34 A
G01M99/00 A
(21)【出願番号】P 2020130197
(22)【出願日】2020-07-31
【審査請求日】2023-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】立石 浩毅
(72)【発明者】
【氏名】知識 陽平
(72)【発明者】
【氏名】園田 隆
【審査官】永井 皓喜
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/003389(WO,A1)
【文献】特開2019-2785(JP,A)
【文献】特開2005-241089(JP,A)
【文献】国際公開第2019/049188(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/020545(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0033580(US,A1)
【文献】岸野 光佑 ほか,稼動電動機の確率的巻線短絡故障診断システムの提案,電気学会論文誌C,日本,一般社団法人電気学会,2012年12月01日,Vol.132 No.12,p.1913-1918
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/34
G01M 99/00
H02P 29/024
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ又は発電機を含む回転機械の回転時に計測された電流の電流波形から前記電流の実効値を取得するように構成された実効値取得部と、
前記実効値の分布のばらつきを示す第1指標を取得するように構成された第1指標取得部と、
前記第1指標を含む異常指標と閾値との比較に基づいて前記回転機械の異常判定をするように構成された異常判定部と、
を備え
、
前記閾値は、前記電流波形の振幅と係数kとの積に基づいて決定された閾値である
回転機械の診断装置。
【請求項2】
前記第1指標取得部は、前記実効値の標準偏差を前記第1指標として取得するように構成され、
前記異常判定部は、前記異常指標としての前記第1指標が前記閾値以上であるとき、前記回転機械が異常であると判定するように構成された
請求項
1に記載の回転機械の診断装置。
【請求項3】
モータ又は発電機を含む回転機械の回転時に計測された電流の電流波形から前記電流の実効値を取得するように構成された実効値取得部と、
前記実効値の分布のばらつきを示す第1指標を取得するように構成された第1指標取得部と、
前記第1指標を含む異常指標と閾値との比較に基づいて前記回転機械の異常判定をするように構成された異常判定部と、
前記実効値の平均値の理論値に対する乖離を示す第2指標を取得するように構成された第2指標取得部
と、
を備え、
前記異常判定部は、
前記第1指標および前記第2指標を含む前記異常指標と前記閾値との比較に基づいて前記回転機械の異常判定をするように構成され
た
回転機械の診断装置。
【請求項4】
前記電流波形から、規定パルス数の分割波形を取得するように構成された分割波形取得部を備え、
前記実効値取得部は、前記分割波形の各々について前記電流の実効値を取得するように構成された
請求項1乃至
3の何れか一項に記載の回転機械の診断装置。
【請求項5】
前記分割波形取得部は、前記電流波形のうち、前記電流がゼロを通過するとともに、前記電流の符号が同一方向に変化する複数のゼロクロス点にて前記電流波形を分割して複数の前記分割波形を取得するように構成された
請求項
4に記載の回転機械の診断装置。
【請求項6】
前記電流波形は、規定のサンプリング周期で取得される前記電流の計測値を結ぶ曲線として表され、
前記分割波形取得部は、前記符号が異なる二つの前記計測値の線形補間により前記ゼロクロス点を特定するように構成された
請求項
5に記載の回転機械の診断装置。
【請求項7】
前記電流を示す信号からノイズ成分を低減するように構成されたフィルタを備え、
前記分割波形取得部は、前記フィルタで処理された信号に基づいて前記ゼロクロス点を特定するように構成された
請求項
6に記載の回転機械の診断装置。
【請求項8】
複数の前記分割波形にそれぞれ含まれる前記電流の計測値のサンプル数の最大値と最小値との差が許容範囲内に収まるように、前記フィルタの時定数を増加するように構成されたフィルタ設定部を備える
請求項
7に記載の回転機械の診断装置。
【請求項9】
前記フィルタ設定部は、前記差が前記許容範囲内に入るまで、前記時定数の一定量の増加を繰り返すように構成された
請求項
8に記載の回転機械の診断装置。
【請求項10】
モータ又は発電機を含む回転機械の回転時に計測された電流の電流波形から前記電流の実効値を取得するステップと、
前記実効値の分布のばらつきを示す第1指標を取得するステップと、
前記第1指標を含む異常指標と閾値との比較に基づいて前記回転機械の異常判定をするステップと、
を備え
、
前記閾値は、前記電流波形の振幅と係数kとの積に基づいて決定された閾値である
回転機械の診断方法。
【請求項11】
モータ又は発電機を含む回転機械の回転時に計測された電流の電流波形から前記電流の実効値を取得するステップと、
前記実効値の分布のばらつきを示す第1指標を取得するステップと、
前記実効値の平均値の理論値に対する乖離を示す第2指標を取得するステップと、
前記第1指標および前記第2指標を含む異常指標と閾値との比較に基づいて前記回転機械の異常判定をするステップと、
を備える回転機械の診断方法。
【請求項12】
コンピュータに、
モータ又は発電機を含む回転機械の回転時に計測された電流の電流波形から前記電流の実効値を取得する手順と、
前記実効値の分布のばらつきを示す第1指標を取得する手順と、
前記第1指標を含む異常指標と閾値との比較に基づいて前記回転機械の異常判定をする手順と、
を実行させる
ように構成され、
前記閾値は、前記電流波形の振幅と係数kとの積に基づいて決定された閾値である
回転機械の診断プログラム。
【請求項13】
コンピュータに、
モータ又は発電機を含む回転機械の回転時に計測された電流の電流波形から前記電流の実効値を取得する手順と、
前記実効値の分布のばらつきを示す第1指標を取得する手順と、
前記実効値の平均値の理論値に対する乖離を示す第2指標を取得する手順と、
前記第1指標および前記第2指標を含む異常指標と閾値との比較に基づいて前記回転機械の異常判定をする手順と、
を実行させるための回転機械の診断プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転機械の診断装置、診断方法及び診断プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
回転機械の異常を、回転機械の回転時に計測される電流値に基づいて検知することが提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には、回転機械の回転時に測定される電流に基づいて、回転機械を含む機械を診断する診断装置が開示さている。この診断装置では、測定した電流から取得される電流実効値の分布状態を、回転機械の正常時に測定された電流から取得される電流実効値の分布状態と比較することで、機械の異常を検知するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示される診断装置では、回転機械の正常時における電流実効値の分布状態を用いて診断を行うため、回転機械の診断にあたり、予め、正常時における電流計測をしておく必要がある。このため、電流の初回計測時には、回転機械の診断をすることができない。
【0006】
上述の事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態は、電流の初回計測時から回転機械の診断を適切に行うことが可能な回転機械の診断装置、診断方法及び診断プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の少なくとも一実施形態に係る回転機械の診断装置は、
モータ又は発電機を含む回転機械の回転時に計測された電流の電流波形から前記電流の実効値を取得するように構成された実効値取得部と、
前記実効値の分布のばらつきを示す第1指標を取得するように構成された第1指標取得部と、
前記第1指標を含む異常指標と閾値との比較に基づいて前記回転機械の異常判定をするように構成された異常判定部と、
を備える。
【0008】
また、本発明の少なくとも一実施形態に係る回転機械の診断方法は、
モータ又は発電機を含む回転機械の回転時に計測された電流の電流波形から前記電流の実効値を取得するステップと、
前記実効値の分布のばらつきを示す第1指標を取得するステップと、
前記第1指標を含む異常指標と閾値との比較に基づいて前記回転機械の異常判定をするステップと、
を備える。
【0009】
また、本発明の少なくとも一実施形態に係る回転機械の診断プログラムは、
コンピュータに、
モータ又は発電機を含む回転機械の回転時に計測された電流の電流波形から前記電流の実効値を取得する手順と、
前記実効値の分布のばらつきを示す第1指標を取得する手順と、
前記第1指標を含む異常指標と閾値との比較に基づいて前記回転機械の異常判定をする手順と、
を実行させる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、電流の初回計測時から回転機械の診断を適切に行うことが可能な回転機械の診断装置、診断方法及び診断プログラムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施形態に係る診断装置が適用される回転機械の概略図である。
【
図3】一実施形態に係る回転機械の診断方法のフローチャートである。
【
図4】一実施形態に係る診断装置により取得される電流波形の一例を示すグラフである。
【
図5】回転機械の正常時及び異常時のそれぞれにおける電流の実効値の確率分布の一例を示すグラフである。
【
図6】回転機械の正常時及び異常時のそれぞれにおける電流の実効値の確率分布の一例を示すグラフである。
【
図7】回転機械の正常時及び異常時のそれぞれにおける電流の実効値の確率分布の一例を示すグラフである。
【
図8】一実施形態に係る診断装置により取得される電流波形の一例を示すグラフである。
【
図9】一実施形態に係る診断方法において分割波形を取得する手順を説明するためのフローチャートである。
【
図10】一実施形態に係る診断装置により取得される電流波形の一例を示すグラフである。
【
図11】一実施形態に係る診断装置により取得される電流波形の一例を示すグラフである。
【
図12】一実施形態に係る診断装置により取得される電流波形の一例を示すグラフである。
【
図13】一実施形態に係る診断装置により取得される電流波形の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0013】
(診断装置の構成)
図1は、一実施形態に係る診断装置が適用される回転機械の概略図である。
図2は、一実施形態に係る診断装置の概略図である。幾つかの実施形態に係る診断装置は、モータ又は発電機を含む回転機械を診断するための診断装置である。
【0014】
幾つかの実施形態では、診断対象の回転機械はモータを含む。
図1に示す回転機械1は、モータを含む回転機械の一例であり、流体を圧縮するための圧縮機2と、圧縮機2を駆動するためのモータ4と、を含む。圧縮機2は、モータ4の出力シャフト3を介してモータ4に接続されている。モータ4は、電力供給を受けて駆動されるようになっている。
【0015】
モータ4は、交流電力によって駆動されるように構成されていてもよい。
図1に示す例示的な実施形態では、直流電源6(蓄電池等)からの直流電力が、インバータ8で交流電力に変換されてモータ4に供給されるようになっている。他の実施形態では、交流電源からの交流電力がモータ4に供給されるようになっていてもよい。
【0016】
幾つかの実施形態では、診断対象の回転機械は発電機を含む。このような回転機械は、例えば、流体によって駆動されるように構成されたタービンと、該タービンによって駆動されるように構成された発電機と、を含んでもよい。発電機は、交流電力を生成するように構成されてもよい。
【0017】
診断装置20は、回転機械1の回転時に電流計測部10によって計測される電流に基づいて、回転機械1を診断するように構成される。
【0018】
電流計測部10は、回転機械1に含まれるモータ(例えば
図1のモータ4)に供給される電流、又は、回転機械1に含まれる発電機から出力される電流を計測するように構成される。電流計測部10は、回転機械1に含まれるモータ又は発電機の巻線電流を計測するように構成されていてもよい。
【0019】
診断装置20は、電流計測部10から、電流計測値を示す信号を受け取るように構成される。診断装置20は、電流計測部10からの電流計測値を示す信号を、規定のサンプリング周期毎に受け取るように構成されていてもよい。また、診断装置20は、電流計測部10から受け取った信号を処理して、回転機械1の異常の有無を判定するように構成される。診断装置20による診断結果は、表示部40(ディスプレイ等;
図2参照)に表示されるようになっていてもよい。
【0020】
なお、診断装置20による異常判定の対象となる回転機械1の異常は、電流計測部10による電流計測値に影響を与え得る回転機械1の異常である。このような異常の例として、例えば、回転機械1におけるミスアライメント(芯ずれ)、キャビテーション、ベルトの緩み、地絡等が挙げられる。
【0021】
図2に示すように、一実施形態に係る診断装置20は、電流波形取得部22と、実効値取得部24と、第1指標取得部26と、第2指標取得部28と、異常判定部30と、分割波形取得部32と、フィルタ34と、フィルタ設定部36と、を含む。
【0022】
診断装置20は、プロセッサ(CPU等)、記憶装置(メモリデバイス;RAM等)、補助記憶部及びインターフェース等を備えた計算機を含む。診断装置20は、インターフェースを介して、電流計測部10から電流計測値を示す信号を受け取るようになっている。プロセッサは、このようにして受け取った信号を処理するように構成される。また、プロセッサは、記憶装置に展開されるプログラムを処理するように構成される。これにより、上述の各機能部(電流波形取得部22等)の機能が実現される。
【0023】
診断装置20での処理内容は、プロセッサにより実行されるプログラムとして実装される。プログラムは、補助記憶部に記憶されていてもよい。プログラム実行時には、これらのプログラムは記憶装置に展開される。プロセッサは、記憶装置からプログラムを読み出し、プログラムに含まれる命令を実行するようになっている。
【0024】
電流波形取得部22は、電流計測部10から受け取られる信号に基づいて、計測電流値の時間変化を示す電流波形110(
図4参照)を取得するように構成される。
【0025】
実効値取得部24は、電流波形取得部22により取得される電流波形から、電流の実効値を取得するように構成される。なお、実効値取得部24は、後述する分割波形取得部32により取得される複数の分割波形の各々について電流の実効値を取得するように構成されてもよい。
【0026】
第1指標取得部26は、実効値取得部24により取得される電流の実効値の分布のばらつきを示す第1指標を取得するように構成される。第2指標取得部28は、実効値取得部24により取得される電流の実効値の、理論値に対する乖離を示す第2指標を取得するように構成される。
【0027】
異常判定部30は、上述の第1指標及び/又は第2指標を含む異常指標と閾値との比較に基づいて、回転機械1の異常判定(即ち、回転機械1の異常有無の判定)をするように構成される。
【0028】
分割波形取得部32は、電流波形取得部22により取得される電流波形110を、規定パルス数毎に分割して、複数の分割波形112を取得するように構成される(
図4参照)。ここで、電流波形を規定パルス数毎に分割して得られる分割波形112は、電流波形110から、該電流波形110に現れる山(peak)と谷(trough)のペアを規定数組含む部分(すなわち、概ね規定数周期分の波形)をそれぞれ切り出したものである。例えば、パルス数1の分割波形112は、電流波形取得部22により得られる電流波形110から、電流波形に現れる山と谷のペアを1組含む部分(すなわち、概ね1周期分の波形)をそれぞれ切り出して得られる分割波形である(
図4参照)。
【0029】
フィルタ34は、電流計測部10から受け取られる信号からノイズ成分(高周波成分)を低減するためのフィルタである。フィルタ設定部36は、フィルタ34の時定数等の設定を変更可能に構成される。
【0030】
(回転機械の診断のフロー)
以下、一実施形態に係る回転機械の診断の流れについて、より具体的に説明する。なお、以下において、上述の診断装置20を用いて一実施形態に係る回転機械の診断方法を実行する場合について説明するが、幾つかの実施形態では、他の装置を用いて回転機械の診断方法を実行するようにしてもよい。
【0031】
図3は、一実施形態に係る回転機械の診断方法のフローチャートである。
図3に示すように、一実施形態では、まず、電流計測部10を用いて、回転機械1の回転時に電流を計測する(S2)。ステップS2で計測される電流は、モータに供給される電流、又は、発電機から出力される電流であってもよい。
【0032】
次に、電流波形取得部22により、電流計測部10から受け取られる信号(電流計測値を示す信号)に基づいて、計測電流値の時間変化を示す電流波形110を取得する(S4)。ここで、
図4は、一実施形態に係る電流波形取得部22(診断装置20)により取得される電流波形110の一例を示すグラフである。
図4に示すように、ステップS4で取得される電流波形110は、山P(peak;正のピーク)と谷T(trough;負のピーク)が交互に出現する交流電流の波形である。
【0033】
次に、分割波形取得部32により、ステップS4で取得される電流波形110を、規定パルス数毎に分割して、複数の分割波形112を取得する(S6)。ステップS6では、電流波形110を1パルスごとに分割した複数の分割波形112(パルス数1の分割波形;
図4参照)を取得してもよい。ステップS6では、電流波形110を、回転機械1の回転数に関連する期間毎、又は、交流電流の周期に関連する期間毎に、電流波形110から当該期間に含まれる部分を切り出すことによって複数の分割波形112を取得してもよい。あるいは、後述するように、電流波形110から把握されるゼロクロス点に基づいて該電流波形110を分割することにより、複数の分割波形112を取得してもよい。
【0034】
以下の説明では、ステップS6において、電流波形110を1パルスごとに分割して複数の分割波形112を取得した場合について説明する。なお、電流波形110を2パルス以上のパルス数毎に分割して分割波形を取得した場合についても、以下の説明を適用可能である。
【0035】
次に、ステップS6で得られた複数の分割波形112の各々について、実効値取得部24により電流の実効値を取得する(S8)。ここで、各分割波形112の電流の実効値I
rmsは、各分割波形112の電流計測値Iの二乗平均(時間平均)の平方根として算出することができる。なお、電流計測値が規定サンプリング周期毎に取得される場合、各分割波形112に含まれる複数の計測点における電流値I
t、及び、各分割波形112の開始点から終了点までの時間長さTを用いれば、分割波形112の電流の実効値I
rmsは下記式(A)で表現することができる。
【数1】
【0036】
ステップS8では、複数の分割波形112の各々について、分割波形112の電流値を、該分割波形112の振幅Aで除算することにより正規化分割波形(ピーク値(振幅)が1の分割波形)を取得し、該正規化分割波形についての実効値Irmsを算出するようにしてもよい。
【0037】
次に、第1指標取得部26により、ステップS8で取得した複数の実効値Irms(即ち、複数の分割波形112の各々についての実効値Irms)の分布のばらつきを示す第1指標J1を取得する(S10)。
【0038】
次に、異常判定部30は、ステップS10で取得した第1指標J1に基づき、異常指標JABを取得する(S12)。異常指標JABは、回転機械1の異常度を示す指標である。そして、異常判定部30は、異常指標JABと閾値とを比較し(S14)、異常指標JABが閾値以上であるときは回転機械1に異常があると判定する(S16)。一方、異常指標JABが閾値未満であるときは回転機械1に異常はないと判定する(S18)。ステップS16,S18での判定結果は、表示部40に表示されるようになっていてもよい(S20)。
【0039】
ここで、
図5~
図7は、それぞれ、回転機械1の正常時及び異常時のそれぞれにおける電流の実効値の確率分布の一例を示すグラフである。なお、この確率分布は、電流波形を分割して得られる複数の分割波形の各々の実効値に基づき取得されるものである。
図5~
図7のグラフにおいて、横軸は実効値を表し、縦軸は確率を表す。
図5~
図7において、曲線100は、回転機械1の正常時(異常が生じていないとき)における電流実効値の確率分布を示し、曲線102は、回転機械1に異常が生じているときの電流実効値の確率分布を示す。破線104は、電流の実効値の理論値(正弦波の実効値)I
eを示す。
【0040】
本発明者らの知見によれば、モータ(例えば
図1のモータ4)又は発電機を含む回転機械1に異常が発生したとき、計測される電流波形110に乱れが生じ、電流波形110から得られる実効値の分布のばらつきが大きくなる場合がある。例えば、
図5及び
図7に示すケースでは、回転機械1の異常時における電流実効値の確率分布の曲線102は、回転機械1の正常時における電流実効値の確率分布の曲線100よりも横軸方向に大きく広がっている。すなわち、回転機械1の異常発生時の方が、正常時に比べて、電流波形から得られる実効値の分布のばらつきが大きくなっている。
【0041】
この点、上述の実施形態によれば、計測した電流の実効値の分布のばらつきを示す第1指標J1を含む異常指標JABと閾値との比較により回転機械1の異常判定をすることができる。このため、回転機械1の診断にあたり、予め回転機械1の正常時における電流計測をする必要がない。よって、電流の初回計測時から回転機械1の診断を適切にすることができる。
【0042】
一実施形態では、上述のステップS12において、異常判定部30は、複数の実効値Irmsの分布のばらつきを示す第1指標J1(例えば複数の実効値Irmsの標準偏差σ)を含む異常指標JABを取得する。異常指標JABは、例えば、複数の実効値Irmsの標準偏差σ、又は、該標準偏差σの整数倍(例えば2σ、3σ、等)であってもよい。
【0043】
この場合、ステップS14において異常指標JABと比較される閾値は、複数の分割波形112の振幅Aに基づき決定される閾値であってもよい。該閾値は、複数の分割波形112の振幅Aの平均Amean、又は、上述の正規化分割波形の振幅A0(=1)に基づき決定されてもよく、例えば、上述の振幅Aの平均Amean又は振幅A0のk倍(ただしk>0)の値であってもよい。
【0044】
より具体的に、例えば、異常指標JABを電流実効値の2σ(標準偏差σの2倍)とし、閾値を0.03×A(又は0.03×Amean、又は、0.03×A0)として、該異常指標JABが閾値以上であるか否かにより、ステップS14での回転機械1の異常判定を行ってもよい。
【0045】
上述したように、回転機械1に異常が発生したとき、計測される電流波形110に乱れが生じ、電流波形110から得られる実効値の分布のばらつきが大きくなる場合がある。この場合、回転機械1の異常時における電流実効値の標準偏差σは、回転機械1の正常時における電流実効値の標準偏差σよりも大きくなる(
図5及び
図7参照)。なお、
図5~
図7において、回転機械1の異常時における電流実効値の標準偏差σの2倍の大きさ(2σ)が示されている。
【0046】
この点、上述の実施形態によれば、電流実効値の標準偏差σやその整数倍の値と、閾値との比較に基づいて、簡易かつ適切に回転機械1の異常検知をすることができる。
【0047】
また、ステップS14において電流波形の振幅に基づいて決定される閾値を用いる場合、該閾値に基づいて、簡易かつ適切に回転機械の異常検知をすることができる。
【0048】
一実施形態では、ステップS10において、第1指標取得部26により上述の第1指標J1を取得するのに加え、第2指標取得部28により第2指標J2を取得してもよい。第2指標J2は、ステップS8で取得した複数の実効値Irmsの平均値Irms_meanと、分割波形112の実効値の理論値Ieとの乖離を示す指標である。ここで、分割波形112の実効値の理論値Ieは、上述の正規化処理を行った場合、正規化分割波形の振幅A0(=1)の正弦波の実効値(即ち、A0×2-1/2)である。第2指標J2は、複数の実効値Irmsの平均値Irms_meanと、分割波形112の実効値の理論値Ieとの差(Irms_mean-Ie)、又は、その絶対値(|Irms_mean-Ie|)であってもよい。
【0049】
また、ステップS12では、上述の第1指標J
1及び第2指標J
2を含む異常指標J
ABを取得してもよい。異常指標J
ABは、例えば、第1指標J
1と第2指標J
2の線形和(a×J
1+b×J
2;ただし、a>0かつb>0)であってもよい。より具体的に、異常指標J
ABは、分割波形112の実効値の理論値I
eとの差の絶対値(|I
rms_mean-I
e|)と、電流実効値の2σ(標準偏差σの2倍)との和B(
図6及び
図7参照)であってもよい。そして、ステップS14~S18では、このように取得された異常指標J
ABと閾値との比較に基づいて、回転機械1の異常判定を行ってもよい。
【0050】
本発明者らの知見によれば、モータ(例えば
図1のモータ4)又は発電機を含む回転機械に異常が発生したとき、計測される電流波形から得られる実効値の平均値が変動する場合がある。例えば、
図6及び
図7に示すケースでは、回転機械1の異常時における電流実効値(曲線102参照)の平均値I
rms_meanは、回転機械1の正常時における電流実効値(曲線100参照)の平均値よりも小さくなっている。
【0051】
ここで、特に
図6に示すケースでは、回転機械1の正常時(曲線100参照)と異常時(曲線102参照)とでは、実効値の確率分布を示す曲線はほぼ同じ形状を有しており、電流波形110から得られる実効値の分布のばらつき(標準偏差σ等)にあまり変化はない。このため、実効値の分布のばらつきを示す第1指標J
1にのみ基づく異常指標J
ABを用いた場合、回転機械1の異常判定を適切に行うことができない場合がある。
【0052】
この点、上述の実施形態では、上述の第1指標J
1に加え、電流波形から得られる実効値の平均値の理論値に対する解離を示す第2指標J
2に基づいて回転機械1の異常判定をする。したがって、例えば
図6に示すケースのように、回転機械1の異常発生時に実効値の分布のばらつきが大きくならない場合であっても、回転機械1の異常を検知することができる。よって、回転機械1の異常をより確実に検知することができる。
【0053】
幾つかの実施形態では、ステップS6において、分割波形取得部32は、ステップS4で取得される電流波形110を、複数のゼロクロス点ZP(例えば
図4中のZP
0~ZP
3)にて分割して複数の分割波形112を取得してもよい。ここで、ゼロクロス点ZPは、電流波形110において、電流がゼロを通過するとともに、電流の符号が同一方向(負から正、又は、正から負)に変化する点である。なお、
図4中のゼロクロス点ZP
0~ZP
3は、電流がゼロを通過するとともに、電流の符号が負から正に変化する点である。
【0054】
図4に示す電流波形110の場合、例えば、隣り合う一対のゼロクロス点間(例えばZP
0とZP
1の間、ZP
1とZP
2の間等)の部分を分割波形112として取得することができる。
【0055】
電流波形110を分割する際、規定の周波数(回転機械の回転数と関連する周波数等)ごとに分割することが考えられるが、この場合、計測機器のサンプリング間隔等によっては、1周期あたりのサンプル数が安定しない可能性がある。この点、上述の実施形態によれば、上述のゼロクロス点にて電流波形110を分割する。これにより、始点(ゼロクロス点)及び終点(即ちゼロクロス点)における電流値がゼロの複数の分割波形112を得ることができる。よって、このように得られる複数の分割波形112の各々について、ステップS8にて実効値を適切に取得することができる。
【0056】
図8は、ステップS4で取得される電流波形110の一例を示すチャートである。一実施形態では、
図8に示すようにステップS4で取得される電流波形110は、規定のサンプリング周期Tsで取得される電流の計測値を結ぶ曲線として表される。一実施形態では、ステップS6において、分割波形取得部32は、符号が異なる二つの計測値(例えば
図8中の計測点P
A,P
Bでの計測値)の線形補間によりゼロクロス点ZPを特定するようにしてもよい。
【0057】
図8に示す例では、計測電流の符号が正である計測点P
Aの計測時刻t
aから、計測電流の符号が負である計測点P
Bの計測時刻t
bまでの間に電流値がゼロを通過しているが、この間、電流計測値がゼロとなる計測点が含まれない。この場合、計測点P
AとP
Bとの間に存在するゼロクロス点ZPの時刻t
zは、計測点P
Aの時刻t
a及び計測電流値I
a、及び、計測点P
Bの時刻t
b及び計測電流値I
bに基づいて、線形補間により特定することができる。
【0058】
上述したように、電流の計測値は、所定のサンプリング周期毎の離散的な計測値として取得されることがある。この点、上述の実施形態では、規定のサンプリング周期Tsで取得される複数の電流計測値のうち、符号が異なる二つの計測値(例えばPAとPB)の線形補間によりゼロクロス点ZPを特定することができる。よって、離散的な複数の電流計測値の中に電流値ゼロの計測点が含まれない場合であっても、電流波形110の分割波形112への分割を適切に行うことができる。
【0059】
幾つかの実施形態では、電流波形取得部22は、ステップS4において、フィルタ34を用いて、電流計測部10から受け取られる信号(電流計測値を示す信号)からノイズ成分(高周波成分)を低減して、電流波形110を取得するようにしてもよい。一実施形態では、ステップS6において、分割波形取得部32は、フィルタ34で処理された信号に基づいて得られる電流波形110から、ゼロクロス点ZPを特定するようにしてもよい。
【0060】
ノイズが含まれる信号から得られる電流波形において、ノイズに起因する波形の乱れにより、本来の(即ち、ノイズがない場合の)ゼロクロス点ZP以外にも、電流値がゼロとなる点がランダムに現れる場合がある。この点、上述の実施形態では、フィルタ34によってノイズ成分が低減された信号に基づいてゼロクロス点ZPを特定するようにしたので、このように特定したゼロクロス点ZPに基づいて、電流波形110をより適切に分割して分割波形112を得ることができる。
【0061】
図9は、一実施形態に係る診断装置及び診断方法において分割波形を取得する手順を説明するためのフローチャートである。
【0062】
図9に示すように、一実施形態では、フィルタ34を用いて、ステップS2で計測される電流計測値を示す信号から、ノイズを低減して、電流波形110を取得する(S102、
図3のS4)。次に、得られた電流波形110における複数のゼロクロス点ZPを特定する(S104)。ステップS104では、上述したように、線形補間の手法を用いてもよい。
【0063】
次に、複数のゼロクロス点ZPの各ゼロクロス点間に含まれる電流計測点数(サンプル数)を取得する(S106)。また、各ゼロクロス点間に含まれる電流計測点数の最大値及び最小値を取得する(S108)。
【0064】
そして、ステップS108で得られる最大値と最小値の差が許容範囲内であるか否かを判定する(S110)。上述の差が許容範囲外である場合(S110でNo)、フィルタ設定部36は、フィルタ34の時定数を増加して(S112)、ステップS102に戻る。そして、新たな時定数が設定されたフィルタ34を用いて、ステップS102~S108を繰り返し行う。
【0065】
一方、ステップS110で上述の差が許容範囲内である場合(S110でYes)、直近に行ったステップS102及びS104で取得された電流波形110及びゼロクロス点ZPに基づいて、複数の分割波形を取得する(S114、
図3のS6)。
【0066】
ここで、
図10及び
図11は、ステップS108で得られる最大値と最小値の差が許容範囲外である場合(ステップS108でNo)の電流波形110の一例を示すグラフである。なお、
図11は、
図10中に示される部分Aの拡大図である。
【0067】
図10及び
図11に示す電流波形にはノイズが多量に含まれており、ノイズに起因する波形の乱れにより、本来のゼロクロス点(回転機械1の回転数に対応する周期で出現するはずのゼロクロス点)以外に、電流値がゼロとなる点がランダムに多数含まれている。例えば
図11に示すように、比較狭い時間範囲の間(グラフ中の横軸4.5~5.5の範囲)に、ゼロクロス点zp1~zp4が含まれている。なお、この部分A(
図10参照)の期間は、本来であれば(回転機械1の回転数に基づけば)、電流値が負から正に変化する点(ゼロクロス点)を1点含む期間である。仮にこれらのゼロクロス点zp1~zp4に基づいて電流波形を分割した場合、周期がランダムの多数の波形(例えば
図11に示す波形1~波形5等)を分割波形として取得してしまうことになり、適切な分割波形を得ることができない。
【0068】
ところで、この場合、ゼロクロス点間の時間長さ(
図11における波形1~波形5の時間長さ)のばらつきが大きい。したがって、各ゼロクロス点間に含まれる電流計測点数(サンプル数)のばらつきも大きく、該サンプル数の最大値と最小値の差が大きい。そこで、各ゼロクロス点間に含まれる電流計測点数(サンプル数)の最大値と最小値の差が許容範囲内に収まるように、フィルタ34の時定数を変更することで(ステップS110~S112)、各ゼロクロス点間に含まれる電流計測点数(サンプル数)のばらつきを小さくすることができる。
【0069】
ここで、
図12及び
図13は、ステップS108で得られる最大値と最小値の差が許容範囲内である場合の電流波形110の一例を示すグラフである。なお、
図13は、
図12中に示される部分Aの拡大図である。
図10と
図12、又は、
図11と
図13を比較してわかるように、
図12及び
図13では、
図10及び
図11に比べて、電流波形110におけるノイズが低減されているとともに、部分Aにはゼロクロス点ZPが1点だけ含まれている。すなわち、フィルタ34の時定数を適宜増加することにより、電流波形110から、本来のゼロクロス点ZP(回転機械1の回転数に対応する周期で出現するゼロクロス点)のみを抽出可能となることが示されている。適切に抽出された複数のゼロクロス点ZPに基づいて電流波形を分割することにより、分割波形を適切に得ることができる。
【0070】
上述したように、ノイズが含まれる信号の場合、本来のゼロクロス点ZP以外にも電流値がゼロとなる点がランダムに現れる。このため、このような見かけ上のゼロクロス点zpに基づいて得られる複数の分割波形には、始点から終点までの長さ(分割波形の周期)及びサンプル数に大きなばらつきがある場合がある。
【0071】
この点、上述の実施形態では、フィルタ設定部36により、複数の分割波形(あるいは、電流波形110における一対のゼロクロス点間)に含まれる電流の計測値のサンプル数の最大値と最小値との差が許容範囲内に収まるようにフィルタ34の時定数を増加する。したがって、フィルタ34での処理により得られる信号からゼロクロス点ZPに基づいて得られる複数の分割波形112に含まれる電流計測値のサンプル数のばらつきを小さくすることができる。よって、電流波形110をより適切に分割して分割波形を得ることができる。
【0072】
一実施形態では、フィルタ設定部36は、複数の分割波形(あるいは、電流波形110における一対のゼロクロス点間)に含まれる電流の計測値のサンプル数の差が許容範囲内に入るまで、時定数の一定量の増加を繰り返すように構成されてもよい。すなわち、一実施形態では、ステップS112において、フィルタ34の時定数を一定量だけ増加するようにしてもよい。この場合、フィルタ34の時定数は、ステップS102~S110のループ数に比例して増加することになる。
【0073】
上述の実施形態によれば、複数の分割波形(あるいは、電流波形における一対のゼロクロス点間)に含まれる電流の計測値のサンプル数の最大値と最小値との差が許容範囲内に入るまで、時定数の一定量の増加を繰り返すようにしたので、フィルタ34での処理により得られる信号からゼロクロス点ZPに基づいて得られる複数の分割波形112に含まれる電流計測値のサンプル数のばらつきを確実に小さくすることができる。よって、電流波形110をより適切に分割して分割波形112を得ることができる。
【0074】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0075】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る回転機械(1)の診断装置(20)は、
モータ(4)又は発電機を含む回転機械の回転時に計測された電流の電流波形(110)から前記電流の実効値を取得するように構成された実効値取得部(22)と、
前記実効値の分布のばらつきを示す第1指標(J1)を取得するように構成された第1指標取得部(26)と、
前記第1指標を含む異常指標(JAB)と閾値との比較に基づいて前記回転機械の異常判定をするように構成された異常判定部(30)と、
を備える。
【0076】
本発明者らの知見によれば、モータ又は発電機を含む回転機械に異常が発生したとき、計測される電流波形に乱れが生じ、電流波形から得られる実効値のばらつきが大きくなる場合がある。この点、上記(1)の構成によれば、計測した電流の実効値の分布のばらつきを示す第1指標を含む異常指標と閾値との比較により回転機械の異常判定をすることができる。このため、回転機械の診断にあたり、予め回転機械の正常時における電流計測をする必要がない。よって、電流の初回計測時から回転機械の診断を適切にすることができる。
【0077】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、
前記閾値は、前記電流波形の振幅に基づいて決定された閾値である。
【0078】
上記(2)の構成によれば、電流波形の振幅に基づいて決定される閾値を用いるので、該閾値に基づいて、簡易かつ適切に回転機械の異常検知をすることができる。
【0079】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)の構成において、
前記第1指標取得部は、前記実効値の標準偏差を前記第1指標として取得するように構成され、
前記異常判定部は、前記異常指標としての前記第1指標が前記閾値以上であるとき、前記回転機械が異常であると判定するように構成される。
【0080】
上記(3)の構成によれば、電流実効値の標準偏差と閾値との比較に基づいて、簡易かつ適切に回転機械の異常検知をすることができる。
【0081】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)の構成において、
前記回転機械の診断装置は、
前記実効値の平均値の理論値に対する乖離を示す第2指標(J2)を取得するように構成された第2指標取得部(28)を備え、
前記異常判定部は、
前記第1指標および前記第2指標を含む前記異常指標と前記閾値との比較に基づいて前記回転機械の異常判定をするように構成される。
【0082】
本発明者らの知見によれば、モータ又は発電機を含む回転機械に異常が発生したとき、計測される電流波形から得られる実効値の平均値が変動する場合がある。この点、上記(4)の構成によれば、上述の第1指標に加え、電流波形から得られる実効値の平均値の理論値に対する解離を示す第2指標に基づいて回転機械の異常判定をするようにしたので、回転機械の異常発生時に実効値のばらつきが大きくならなかったとしても、回転機械の異常を検知することができる。よって、回転機械の異常をより確実に検知することができる。
【0083】
(5)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(4)の何れかの構成において、
前記回転機械の診断装置は、
前記電流波形から、規定パルス数の分割波形(112)を取得するように構成された分割波形取得部(32)を備え、
前記実効値取得部は、前記分割波形の各々について前記電流の実効値を取得するように構成される。
【0084】
上記(5)の構成によれば、電流計測により得られる電流波形から、規定パルス数の分割波形を取得するようにしたので、このように得られる複数の分割波形の各々について実効値を取得することで、実効値の分布のばらつきを示す第1指標を適切に取得することができる。よって、このように取得した第1指標を用いて、回転機械の異常判定を適切にすることができる。
【0085】
(6)幾つかの実施形態では、上記(5)の構成において、
前記分割波形取得部は、前記電流波形のうち、前記電流がゼロを通過するとともに、前記電流の符号が同一方向に変化する複数のゼロクロス点(ZP)にて前記電流波形を分割して複数の前記分割波形を取得するように構成される。
【0086】
電流波形を分割する際、規定の周波数(回転機械の回転数と関連する周波数等)ごとに分割することが考えられるが、この場合、計測機器のサンプリング間隔等によっては、1周期あたりのサンプル数が安定しない可能性がある。
この点、上記(6)の構成によれば、電流波形において電流がゼロを通過するとともに電流の符号が同一方向(負から正又は正から負)に変化するゼロクロス点にて電流波形を分割する。これにより、始点及び終点における電流値がゼロの複数の分割波形を得ることができ、このように得られる複数の分割波形の各々について、実効値を適切に取得することができる。
【0087】
(7)幾つかの実施形態では、上記(6)の構成において、
前記電流波形は、規定のサンプリング周期で取得される前記電流の計測値を結ぶ曲線として表され、
前記分割波形取得部は、前記符号が異なる二つの前記計測値の線形補間により前記ゼロクロス点を特定するように構成される。
【0088】
電流の計測値は、所定のサンプリング周期毎の離散的な計測値として取得されることがある。上記(7)の構成によれば、規定のサンプリング周期で取得される複数の電流計測値のうち、符号が異なる二つの計測値の線形補間によりゼロクロス点を特定するようにしたので、離散的な複数の電流計測値の中に電流値ゼロの計測点が含まれない場合であっても、電流波形の分割波形への分割を適切に行うことができる。
【0089】
(8)幾つかの実施形態では、上記(7)の構成において、
前記回転機械の診断装置は、
前記電流を示す信号からノイズ成分を低減するように構成されたフィルタ(34)を備え、
前記分割波形取得部は、前記フィルタで処理された信号に基づいて前記ゼロクロス点を特定するように構成される。
【0090】
ノイズが含まれる信号では、ノイズに起因する波形の乱れにより、本来の(即ち、ノイズがない場合の)ゼロクロス点以外にも、電流値がゼロとなる点がランダムに現れる場合がある。この点、上記(8)の構成によれば、フィルタによってノイズ成分が低減された信号に基づいてゼロクロス点を特定するようにしたので、このように特定したゼロクロス点に基づいて、電流波形をより適切に分割して分割波形を得ることができる。
【0091】
(9)幾つかの実施形態では、上記(8)の構成において、
前記回転機械の診断装置は、
複数の前記分割波形にそれぞれ含まれる前記電流の計測値のサンプル数の最大値と最小値との差が許容範囲内に収まるように、前記フィルタの時定数を増加するように構成されたフィルタ設定部(36)を備える。
【0092】
上述したように、ノイズが含まれる信号の場合、本来のゼロクロス点以外にも電流値がゼロとなる点がランダムに現れる。このため、このような見かけ上のゼロクロス点に基づいて得られる複数の分割波形には、始点から終点までの長さ(分割波形の周期)及びサンプル数に大きなばらつきがある場合がある。この点、上記(9)の構成によれば、複数の分割波形に含まれる電流の計測値のサンプル数の最大値と最小値との差が許容範囲内に収まるようにフィルタの時定数を増加するようにしたので、フィルタでの処理により得られる信号からゼロクロス点に基づいて得られる複数の分割波形に含まれる電流計測値のサンプル数のばらつきを小さくすることができる。よって、電流波形をより適切に分割して分割波形を得ることができる。
【0093】
(10)幾つかの実施形態では、上記(9)の構成において、
前記フィルタ設定部は、前記差が前記許容範囲内に入るまで、前記時定数の一定量の増加を繰り返すように構成される。
【0094】
上記(10)の構成によれば、複数の分割波形に含まれる電流の計測値のサンプル数の最大値と最小値との差が許容範囲内に入るまで、時定数の一定量の増加を繰り返すようにしたので、フィルタでの処理により得られる信号からゼロクロス点に基づいて得られる複数の分割波形に含まれる電流計測値のサンプル数のばらつきを確実に小さくすることができる。よって、電流波形をより適切に分割して分割波形を得ることができる。
【0095】
(11)本発明の一実施形態に係る回転機械の診断方法は、
モータ又は発電機を含む回転機械の回転時に計測された電流の電流波形から前記電流の実効値を取得するステップ(S8)と、
前記実効値の分布のばらつきを示す第1指標を取得するステップ(S10)と、
前記第1指標を含む異常指標と閾値との比較に基づいて前記回転機械の異常判定をするステップ(S14~S18)と、
を備える。
【0096】
上記(11)の方法によれば、計測した電流の実効値の分布のばらつきを示す第1指標を含む異常指標と閾値との比較により回転機械の異常判定をすることができる。このため、回転機械の診断にあたり、予め回転機械の正常時における電流計測をする必要がない。よって、電流の初回計測時から回転機械の診断を適切にすることができる。
【0097】
(12)本発明の一実施形態に係る回転機械の診断プログラムは、
コンピュータに、
モータ又は発電機を含む回転機械の回転時に計測された電流の電流波形から前記電流の実効値を取得する手順と、
前記実効値の分布のばらつきを示す第1指標を取得する手順と、
前記第1指標を含む異常指標と閾値との比較に基づいて前記回転機械の異常判定をする手順と、
を実行させる。
【0098】
上記(12)のプログラムによれば、計測した電流の実効値の分布のばらつきを示す第1指標を含む異常指標と閾値との比較により回転機械の異常判定をすることができる。このため、回転機械の診断にあたり、予め回転機械の正常時における電流計測をする必要がない。よって、電流の初回計測時から回転機械の診断を適切にすることができる。
【0099】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0100】
本明細書において、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
また、本明細書において、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
また、本明細書において、一の構成要素を「備える」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【符号の説明】
【0101】
1 回転機械
2 圧縮機
3 出力シャフト
4 モータ
5 波形
6 直流電源
8 インバータ
10 電流計測部
20 診断装置
22 電流波形取得部
24 実効値取得部
26 第1指標取得部
28 第2指標取得部
30 異常判定部
32 分割波形取得部
34 フィルタ
36 フィルタ設定部
40 表示部
100 正常時の実効値の確率分布
102 異常時の実効値の確率分布
104 実効値の理論値
110 電流波形
112 分割波形
P 山
T 谷
ZP ゼロクロス点