(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】転炉吹錬方法
(51)【国際特許分類】
C21C 5/35 20060101AFI20240311BHJP
C21C 1/02 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
C21C5/35
C21C1/02 110
(21)【出願番号】P 2020130649
(22)【出願日】2020-07-31
【審査請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110003041
【氏名又は名称】安田岡本弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中須賀 貴光
(72)【発明者】
【氏名】田附 篤
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 喜雄
(72)【発明者】
【氏名】宮本 悠
(72)【発明者】
【氏名】中村 有沙
(72)【発明者】
【氏名】大塚 貴弘
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-275520(JP,A)
【文献】特開2003-239009(JP,A)
【文献】国際公開第2017/122536(WO,A1)
【文献】特開2013-028832(JP,A)
【文献】特開2014-037599(JP,A)
【文献】特開2006-342370(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 5/00
C21C 5/28-5/50
C21C 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上方に上吹きランスを備えた上底吹き方式の転炉に装入された溶銑に対して、前記上吹きランスから酸素ガスを吹き込むと共に、前記溶銑に対して投入するCaO源として、塊CaOと粉状CaOを投入するものとし、前記上吹きランスから搬送用ガスを用いて、吹錬開始時より前記粉状CaOを前記溶銑に対して吹き込んで、脱炭精錬処理を行う転炉での吹錬方法において、
前記粉状CaOの吹き込み速度F
Pを、650kg/min以上とし、
前記CaO投入量全体に対する前記粉状CaO投入量の使用比率R
Pを、40%以上とし、
前記粉状CaOの吹き込む時間を、吹錬開始時より
4.5min以内とする
ことを特徴とする転炉吹錬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転炉での精錬効率を向上させるために、炉内へ粉状CaOの吹き込みを行う吹錬方法に関する技術である。
【背景技術】
【0002】
従来より、高炉等で製造され、転炉に装入された溶銑に対しては、CaO等を吹き込んで、溶銑中に含まれる不純物(りんなど)を除去する処理が行われている。例えば、りんは、強度(硬さ)を低下させたり、靱性(粘り強さ)を劣化させたり、耐腐食性を弱める等の鋼の性能に影響を与えてしまう不純物である。それ故、溶銑段階で脱りん処理を実施している。
【0003】
ところで、近年では、鋼材の高級化、高付加価値化に伴い、ユーザーからの品質要求がますます厳しくなってきている。
このような、鋼材の品質に対する要求が厳しくなっている状況の中で、製造される鋼材の品質を高く且つ安定化を図りつつ、鋼材生産の低コスト化で且つ、環境に対して低負荷の下で、鋼中のりんを除去することは、製鋼工程の大きな課題である。すなわち、脱りん処理方法の適正化が、高品質で且つ安定した品質の鋼材を製造する製鋼工程に取って重要となる。
【0004】
転炉を操業する技術としては、例えば、特許文献1~3に開示されているものがある。
特許文献1は、転炉において溶銑の脱炭精錬と脱りん精錬とを同時に行って溶鋼を製造するにあたり、効率的に脱りん精錬することのできる、従来提案されているよりも有利な転炉製鋼方法を提供することを目的としている。
具体的には、転炉内に気体酸素を供給して溶鉄の脱炭精錬を行いつつ、CaOを含有する粉体の脱りん精錬剤を添加し、滓化させてスラグとなし、溶鉄を脱炭すると同時に脱りんして、溶銑から溶鋼を製造する転炉製鋼方法において、脱りん精錬剤を上吹きランスからの少なくとも1つ以上の気体噴流に随伴して溶鉄浴面に供給し、かつ、上吹きランスからの気体噴流が溶鉄浴面に衝突する際の動圧を、随伴される脱りん精錬剤の運動エネルギーによる動圧上昇を定量的に評価した上で適正値以下に制御することとされている。
【0005】
特許文献2は、上吹き転炉操業において、スラグの溶融滓化が不十分な場合とか、過剰溶融滓化により、スロッピングが発生する場合とかがない、安定して中高炭素鋼の脱炭、脱りん精錬を効率的に実施することを目的としている。
具体的には、酸素上吹き転炉において、生石灰、石灰石、及び、水酸化カルシウムの各粉体の少なくとも1種を、上吹き酸素ジェットとして供給される精錬用酸素ガスと共に溶湯面上に吹き付けると共に、溶湯面下に設けたノズルからガスを吹き込んで攪拌を行う鋼の精錬方法において、上吹き酸素ジェットによる溶湯のへこみ深さ(L)と溶湯深さ(L0)の比、L/L0と底吹き攪拌動力εで表されるパラメータ((L/L0)-0.6-6.4ε0.25+6.6)を3.0以上8.5以下とする条件で精錬を行うこととされている。
【0006】
特許文献3は、転炉や電気炉等で溶鋼を溶製する際に、[C]を所定値まで低減すると同時に、[P]の少ない溶鋼を安価に、かつ、効率良く溶製することを目的としている。
具体的には、温度が1550℃以上、[C]が0.5mass%以下である、反応容器内の溶鉄の表面に、酸素ガスを主体としたガスを、上吹きランスからの噴流として吹き付けると同時に、石灰石または消石灰を主成分とする石灰源を、噴流の溶鉄表面への衝突面に投射し、溶鉄の脱炭並びに脱りんを行うこととされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】再表2013/094634号公報
【文献】特開2006-063368号公報
【文献】特開2005-089839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
さて、転炉における吹錬では、脱炭、脱りん等の反応を安定して進行させるため、焼石灰(CaO)や、軽ドロ(CaO・MgO)等の精錬剤を添加する。ところが、CaOやMgOは、単体では融点が2000℃以上であるため、スラグ中においては低融点酸化物を形成し、溶融滓化を促進させてスラグを速やかに生成させる必要がある。
しかしながら、塊状CaOの場合は滓化し難いことから、従来より、投入するCaO源の一部あるいは全部を粉状CaOとして、搬送用ガスを用いて上吹きランスから、転炉内の溶銑に吹き込む技術が提案されている。
【0009】
このような、従来技術においては、転炉における粉状CaOの吹き込み方法に関して、最適な吹き込み条件を記載したものは少なく、スラグ中T.Fe低減と脱りん効率向上を同時に達成することができるものとは言い難い。
特許文献1においては、粉状CaOの吹き込み方法(気体噴流が溶鉄浴面に衝突する際の動圧)を規定しており、脱炭処理後[P]fやCaO歩留についての記載はあるが、スラグ中T.Fe等の鉄分損失についての記載は全くない。この技術に関しては、精錬特性として、高効率で脱りん処理が行われているとは言い難い。
【0010】
また、特許文献1においては、粉状CaOの吹き込み速度が小さいため、スラグ中T.Feの低減効果は非常に小さく、スラグ中T.Feの低減と脱りん効率の向上が共に可能な転炉吹錬方法とは言い難い。
特許文献2においては、スラグの酸化度に関連する(L/L0)とεから成るパラメータの適正範囲を導入して、良好な脱りんとスラグフォーミング等が生じない、安定した吹錬ができるとされている。
【0011】
しかしながら、上吹きランスや炉体耐火物は損傷が進行するため、ch(チャージ)ごとに、上吹きランスのノズル形状やランス高さ、溶湯深さを正確に把握することは困難である。
また、1chの中でも、条件の変化が大きく変わる転炉操業では、パラメータの制御が困難である。すなわち、特許文献2の技術は、転炉操業に適用することができないと考えられ、精錬特性として、高効率で脱りん処理が行われているとは言い難い。
【0012】
また、粉状CaOの吹き込み速度が小さいため、スラグ中T.Feの低減効果は低く、スラグ中T.Feの低減と脱りん効率の向上が共に可能な転炉吹錬方法とは言い難い。
特許文献3においては、脱炭精錬末期での脱炭・脱りん精錬条件で且つ、蛍石を使用することに関する技術であり、高[C]域から低[C]域までの脱炭を通しての技術とは異なり、適用することができない。
【0013】
また、粉状CaOの吹き込み速度が小さいため、スラグ中T.Fe低減効果は低く、スラグ中T.Feの低減と脱りん効率の向上が共に可能な転炉吹錬方法とは言い難い。
すなわち、転炉において脱りん処理を行う際、スラグ中T.Feを過剰に高くすることなく、脱りん能の高いスラグを形成させることが重要である。
転炉では、精錬剤として、焼石灰(CaO)を用いていることに加えて、転炉内に敷設された炉体耐火物の損傷を抑制する観点から、軽ドロ(軽焼ドロマイト)が用いられている。しかし、それらの中には高融点のCaOやMgO(MgO・FeO(マグネシオウスタイト))を含むため、塊状で炉内の溶銑に投入した場合、吹錬前半での所定の溶銑温度で且つ、蛍石の添加無しでは溶解し難い。また、CaOの溶解過程においては、2CaO・SiO2(ダイカルシウムシリケート)が生成され、CaOの溶解が阻害されるため、スラグ中に未溶解の状態で残存する可能性がある。そのため、精錬剤の適切な使用方法が求められている。
【0014】
例えば、滓化反応と脱りん反応の促進を目的に、転炉の上方に配備された上吹きランスを用いて粉状CaOを転炉内の溶銑に投入する方法がある。
しかしながら、投入条件が適正でない条件では、粉状のCaOが脱りん反応に有効に使われないため、脱りん能の向上効果が得られないという課題が挙げられていた。また、スラグ中T.Feが高くなり易く、その結果として、出鋼歩留が悪化するばかりでなく、炉体耐火物の損傷速度が大きくなるという課題も生じていた。
【0015】
つまり、粉状CaOの投入条件を適正にしないと、転炉の寿命(修繕までの期間)が低下し、炉修頻度が高くなり、実操業で効率が低下し且つ、製造コストが上昇するようになる
ため、好ましくない。
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、転炉の操業において、炉内へ粉状CaOの吹き込みをするに際して、吹き込み条件を適正に設定することで、スラグ中T.Feの低減と脱りん効率の向上が共に可能な転炉吹錬方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
本発明にかかる転炉吹錬方法は、上方に上吹きランスを備えた上底吹き方式の転炉に装入された溶銑に対して、前記上吹きランスから酸素ガスを吹き込むと共に、前記溶銑に対して投入するCaO源として、塊CaOと粉状CaOを投入するものとし、前記上吹きランスから搬送用ガスを用いて、吹錬開始時より前記粉状CaOを前記溶銑に対して吹き込んで、脱炭精錬処理を行う転炉での吹錬方法において、前記粉状CaOの吹き込み速度FPを、650kg/min以上とし、前記CaO投入量全体に対する前記粉状CaO投入量の使用比率RPを、40%以上とし、前記粉状CaOの吹き込む時間を、吹錬開始時より4.5min以内とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、転炉の操業において、炉内へ粉状CaOの吹き込みをするに際して、吹き込み条件を適正に設定することで、スラグ中T.Feの低減と脱りん効率の向上が共に可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】転炉型反応容器における処理の概略を模式的に示した図である。
【
図2】上吹きランスの粉体搬送用流路と吹き込み孔と、吹錬酸素用流路と吹き込み孔の位置関係の一例を示した図である(概略平面図、及び、概略断面図)。
【
図3】使用した焼石灰(粉状CaO)の粒度試験結果を示した図である。
【
図4】スラグ中T.Feに及ぼす、粉状CaOの吹き込み速度F
Pの影響をまとめた図である。
【
図5】脱りん率η
Pに及ぼす、(粉状CaOの投入量/CaO投入量全体)R
Pの影響をまとめた図である。
【
図6】脱りん率η
Pに及ぼす、粉状CaOの吹き込み速度F
Pの影響をまとめた図である。
【
図7】脱りん率η
Pに及ぼす、スラグ中T.Feの影響をまとめた図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明にかかる転炉吹錬方法の実施形態を、図を参照して説明する。
なお、以下に説明する実施形態は、本発明を具体化した一例であって、その具体例をもって本発明の構成を限定するものではない。また、本実施形態では、転炉1もしくは転炉型反応容器1と称する。
本発明にかかる転炉吹錬方法は、上方に上吹きランス2を備えた上底吹き方式の転炉1に装入された溶銑Yに対して、その上吹きランス2から酸素ガスを吹き込むと共に、溶銑Yに対して投入するCaO源のうち一部を、粉状CaOとして、上吹きランス2から搬送用ガスを用いて、吹錬開始時より溶銑Yに対して吹き込んで、脱炭精錬処理を行う転炉1での吹錬方法において、粉状CaOの吹き込み速度FPと、CaO投入量全体に対する粉状CaO投入量の使用比率RPとを、適正に規定し、その規定条件下で吹錬を実施する。
【0020】
図1に、転炉型反応容器1における処理の概略を模式的に示す。
図1に示すように、高炉等で製造された溶銑Yには、
C(炭素)、
Si(珪素)、
P(りん)等が含まれており、一般的に、溶銑予備処理工程(脱硫、脱珪・脱りんなど)を経て、転炉1に装入されて脱炭及び脱りんの処理が実施される。なお、
Cのような下付きバーは、溶銑中の成分を意味する。
【0021】
上記した鋼(溶銑Y)中に含まれているPは、一般的に鋼の性能を悪化させる有害な不純物である。つまり、Pが鋼中に存在していると、強度(硬さ)を低下させたり、靱性(粘り強さ)を劣化させたり、耐腐食性を弱める等の影響を鋼に与えてしまう。それ故、溶銑段階で脱りん処理を実施している。
本発明は、上方に上吹きランス2を備え、底部に底吹き羽口3を備えた転炉1(転炉型反応容器1)を対象としている。
【0022】
図2に、上吹きランス2の構造を示す。なお、
図2は、上吹きランス2の先端側を主に図示している。
図2中の上図は断面図であり、下図は下方から見た図である。
図2に示すように、上吹きランス2の構造について、吹錬用の酸素を搬送する吹錬酸素用流路4と、吹錬酸素用流路4とは別に、粉体(粉状CaO)と搬送用ガス(不活性ガス)の混合体を搬送する粉体搬送用流路5と、上吹きランス2を冷却する冷却水が流通する冷却水路6と、を有し、それぞれの流路を独立して設けた四重管の構造としている。
【0023】
粉体搬送用流路5は、上吹きランス2の中心に1本設けられている。その粉体搬送用流路5の先端には、転炉1内の溶銑Yに対して混合体(粉状CaO+搬送用ガス)を吹き込む、粉体吹き込み孔8が設けられている。
また、粉体搬送用流路5の周囲には、当該粉体搬送用流路5を取り巻くように、吹錬酸素用流路4が複数設けられている。本実施形態においては、吹錬酸素用流路4は、6本設けられている。吹錬酸素用流路4の先端には、転炉1内の溶銑Yに対して酸素を吹き込む、吹錬酸素吹き込み孔7が設けられている。
【0024】
つまり、転炉1内の溶銑Yに対して、上吹きランス2から、吹錬酸素用流路4を経て吹錬酸素吹き込み孔7より、酸素ガスを吹き込むと共に、粉体搬送用流路5を経て粉体吹き込み孔8より、粉状CaO+搬送用ガス(例えば、N2,Ar等の不活性ガス)を吹き込む。
このように、上吹きランス2を4重管の構造とすることにより、吹錬用の酸素の圧力に影響されることなく、粉体を溶銑Yに吹き付けることができる。
【0025】
なお、転炉1の底部に設けられた底吹き羽口3からは、攪拌用ガス(例えば、CO,N2,Ar等)を吹き込んでいる。
ところで、精錬剤として、塊状CaO源等を炉上ホッパー(図示せず)から切り出して上方より転炉1内へ投入すると共に、上吹きランス2から粉状CaO源を搬送用ガス(吹錬用酸素ガス(O2)を含む)を用いて溶銑面に吹き込み投入する。
【0026】
脱りん反応には、CaOが必要であり、反応により生成したP2O5をCaOで固定化させている。しかし、塊状のCaO源では、CaO-SiO2-FeO系スラグ中に溶解することが難しい。そのため、粒径が小さい粉状のCaO源を、酸素ガスが溶銑面・溶鋼面に衝突する火点領域(高温場)に直接投入することで、滓化反応と脱りん反応を促進させる。
この粉状CaO源としては、CaO濃度が高い焼石灰(生石灰、主成分:CaO)を用いることとしている。なお、生石灰以外では、消石灰(主成分:CaCO3)等を、粉状CaO源として用いてもよい(CaCO3→CaO+CO2)。
【0027】
また、粉状CaOは、スラグZ中へのCaO溶解を促進させることを目的にして、吹錬開始時(上吹きランス2から酸素ガスの吹き込みを開始した直後)から吹き込みを開始する。粉状CaOを所定量吹き込んだ後は、搬送用ガス又は、吹錬用酸素ガス(O2)を吹き込む。そして、脱炭処理、及び、脱りん処理を行う。
すなわち、吹錬開始時より、上底吹き方式の転炉1に装入された溶銑Yに対して、上方に備えられた上吹きランス2の吹錬酸素吹き込み孔7から、酸素ガスを吹き込む。ほぼ同時に、上吹きランス2の粉体吹き込み孔8から、投入するCaO源の一部を粉状CaOとして、その粉状CaOと搬送用ガスを混合した混合体を、溶銑Yに対して吹き込む脱炭精錬処理を行う。
【0028】
以上のことより、本願発明者は、脱りん反応の高効率化を実現するためには、粉状CaOの吹き込み条件が大きく影響することに着目して鋭意研究を重ね、最適な吹き込み条件を見出した。
以下に、本発明にかかる最適な粉状CaOの吹き込み条件について、説明する。
本発明においては、粉状CaOの吹き込み速度FPを、650kg/min以上としている。
【0029】
粉体CaOの投入量が一定である場合、粉状CaOの吹き込み速度FPが大きい条件では、吹錬前半で吹き込み終了となり、早期に高塩基度(高(CaO)/(SiO2))スラグを生成させることができる。
この高塩基度スラグでは、(FeO)の活量係数は大きく、(FeO)+C=Fe(l)+CO(g)の反応による(FeO)の還元反応が促進され、(T.Fe)が低位で安定化される。なお、(FeO)のようなカッコつきの表記は、スラグ中の成分を意味する。
【0030】
従って、出鋼歩留に影響する(T.Fe)を低減させるには、FPを大きくする(速く吹き込む)ことが重要となってくる。
そこで、本発明では、FP≧650kg/minと規定し、その場合、(T.Fe)の低減効果が大きくなり、(T.Fe)は急激に低減する。
一方で、FP<650kg/minの場合、FP=0の場合と同程度、あるいは、(T.Fe)の低減効果が小さくなり、(T.Fe)は高位となってしまう。
【0031】
なお、本発明では、FPの上限値を設定していないが、上限値は存在すると考えられる。本実施形態では、実験設備の制約で、FPが2000kg/min未満の実施条件となった。すなわち、本願発明者の研究と知見により、FPが2000kg/min未満までは、有効に機能すると考えられる。
本発明においては、CaO投入量全体に対する粉状CaOの投入量の使用比率RPを、40%以上としている。
【0032】
脱りん反応は、酸化反応であるため、(FeO)が高いほど有利である。つまり、(T.Fe)が高位の方が脱りん率ηPがよいが、スラグ中にFeが残留し、(T.Fe)の低減とはならない。
上記したように、本発明では、FP≧650kg/minと規定して(T.Fe)を低減させており、脱りんには不利な条件となっている。
FP≧650kg/minの条件((T.Fe)を低減させる条件)においても、脱りん反応を促進させるためには、溶解性あるいは反応性の高い、粉状CaOの投入量に関して、CaO投入量全体に対する粉状CaOの投入量の使用比率RPを、高めることが有効となってくる。
【0033】
そこで、本発明では、RP≧40%と規定し、その場合、脱りん反応を促進させる効果が大きく、[P]fは低位となる。すなわち、本発明は、スラグ中T.Feを低減させることと、脱りん効率を高めることを両立させることができる、優れた転炉1での吹錬方法である。
一方で、RP<40%の場合、FP=0の場合と同程度となり、[P]fは高位となってしまう。
なお、塊状CaOを一定量投入することに関しては、炉内耐火物の保護(溶損防止)するためでもある。
【0034】
ここで、表1に、本実施形態で用いるパラメータの定義をまとめたものを示す。
【0035】
【0036】
本発明での精錬特性の評価について、述べる。
転炉1内での脱りん反応式は、2P+5(FeO)+n(CaO)=(nCaO・P2O5)+5Fe(l)で表した。なお、n=3,4が一般的である。脱りん処理方法(精錬特性)の優劣については、脱りん率ηP(%)、及びスラグ中(T.Fe)濃度、(T.Fe)を用いて評価する。ηPの値が高いほど、[P]の酸化反応の促進、すなわち、脱りん反応が促進されていることを意味する。また、(T.Fe)の値が低いほど、脱炭処理及び脱りん処理に伴う鉄分損失が少ないことを意味する。以上、
本発明では、(T.Fe)が低く、ηPが高いほど、精錬特性が優れていると評価した。
[実施例]
以下に、本発明の転炉吹錬方法に従って実施した実施例及び、本発明と比較するために実施した比較例について、説明する。
【0037】
本実施例における実施条件については、以下の通りである。
転炉型反応容器1については、250t規模の上底吹き方式の転炉1を用いた。
なお、転炉型反応容器1の使用状態(例えば、炉内耐火物の損耗状況や地金の付着状況等)により、精錬特性が変化する場合があるため、同時期の実験結果で精錬特性を評価した。
【0038】
溶銑(処理前)に関し、[P]i=0.015~0.058mass%とした。転炉1の前工程である脱りん処理炉にて、溶銑の脱りんを実施した溶銑Yを使用した。また、溶銑Yの一部を採取し、化学分析に供した。
処理条件については、以下の通りである。
精錬剤(副原料)については、炉上投入を実施し、焼石灰(塊状CaO、95mass%CaO)=0~6000kgとし、軽ドロ(塊状CaO、67mass%CaO)=0~3990kgとした。
【0039】
また、CaOに関し、焼石灰(生石灰)、軽ドロ(軽焼ドロマイト:生ドロマイトを焼成して作製したもの)を用いた。ただし、焼石灰は、塊状のもの(粒径:5mm以上50mm以下)を用いた。また、軽ドロは、塊状のもの(粒径:5mm以上50mm以下)を用いた。
一連の処理条件が決定されると、CaOが必要となる投入量が求まり、粉状CaO以外のCaOを転炉1内へ投入した。なお、基本条件として、上記したものはいずれも、上吹きランス2からの酸素ガス吹き込み開始前に転炉1内へ投入した。
【0040】
精錬料(副原料)については、吹き込み投入を実施し、焼石灰(粉状CaO、95mass%CaO)=0、あるいは、2232~3029kgとした。
また、粉状CaOに関し、焼石灰(生石灰)を用いた。焼石灰は、粒径:3mm以下(ただし0を除く)を用いた。なお、搬送用ガス(不活性ガス)については、窒素(N2)を用いた。
本実施例では、粉状CaOの吹き込み速度FPと、CaO投入量全体に対する粉状CaOの投入量の使用比率RPを、パラメータとした。
【0041】
ここで、使用した焼石灰(粉状CaO)の粒度試験結果について説明する。
表2に、粉状CaOに関し、質量累積頻度粒度で50%となる粒度を示す。
【0042】
【0043】
図3に、粉状CaOの粒度(mm)と、その頻度(%)をまとめたものを示す。
粒度を示すために用いられる質量中位径(質量累積頻度粒度:d
50)は、JIS Z 8901 (2006年) 「試験用粉体及び試験用粒子」に規定されているように、「粉体の粒子径分布において、ある粒子径より大きい質量が、 全粉体の質量の50%を占めるときの粒子径」となっている。なお、本実施形態では、(mm)の単位で、質量累積頻度粒度d
50を示している。
【0044】
つまり、d50について、ふるい分け法、または、沈降法によって分級した上で粒子径分布を求める、あるいは、附属書(規定)で規定されている顕微鏡を用いた方法によって粒子径分布を測定し、測定された粒子径分布に基づいて、累積質量が全質量の50%となる中位径を求めたものとなっている。なお、本実施条件では、ふるい分け法を用いてd50を求めた。
【0045】
上吹きランス2について、粉状CaO+搬送用ガス(混合体)を搬送する粉体搬送用流路5と、吹錬用酸素ガスを搬送する吹錬酸素用流路4と、冷却水路6(入側・出側)とを有する、4重管構造のものを使用した(
図2を参照)。
上吹きランス2に関し、粉状CaO+搬送用ガス(混合体)を吹き込む粉体吹き込み孔8を1孔とし、吹錬用酸素ガスを吹き込む吹錬酸素吹き込み孔7を6孔とした。
【0046】
本実施例においては、粉体吹き込み孔8(粉体搬送用流路5)は、上吹きランス2の中心に配置した。また、吹錬酸素吹き込み孔7(吹錬酸素用流路4)は、粉体吹き込み孔8の周りに、同心円上に等間隔で配置した(
図2を参照)。
なお、粉状CaO+搬送用ガス(混合体)と、吹錬用酸素ガスについては、上吹きランス2の先端に設けられた異なるノズル部(粉体吹き込み孔8、吹錬酸素吹き込み孔7)から噴射される。
【0047】
また、上吹きランス2には、図示はしないが、吹錬酸素用ホースと粉体搬送用ホースとが繋げられている。吹錬酸素用ホースは、吹錬酸素用流路4と連通するように繋げられている。また、粉体搬送用ホースは、粉体搬送用流路5と連通するように繋げられている。すなわち、吹錬酸素用ホースと粉体搬送用ホースも別系統となっている。
すなわち、上記した方式の上吹きランス2では、粉体吹き込み孔8と吹錬酸素吹き込み孔7は別系統となっているため、粉体は吹錬用酸素ガスとは別に不活性ガス(N2)により搬送されることとなり、工業的に生産される粉体に不可避的に含まれる金属等の不純物と、酸素との反応による発火を防止することができる。
【0048】
なお、粉状CaOの吹き込み終了後については、粉体吹き込み孔8から吹錬用酸素ガスを吹き込んだ。
上吹き酸素ガス流量=809~840Nm3/minとした。酸素ガスは、純酸素(O2)を用いた。
また、底吹きガス流量=22Nm3/minとした。なお、精錬特性の向上には、溶銑Y(溶鋼)及びスラグZの攪拌が重要であるため、底吹き羽口3からCOガスを吹き込んだ。
【0049】
また、処理時間=12.1~15.1minとした。処理時間については、過去の操業実績から求まる、吹錬用酸素ガスの必要送酸量と、上吹き酸素ガス流量から決定された。
溶鋼(処理後)について、処理後の溶鋼の一部を採取し、化学分析に供した結果、[P]f=0.005~0.017mass%となった。なお、精錬特性として、脱りん率ηP、スラグ中T.Feを評価した。
【0050】
スラグ(処理後)について、処理直後の転炉1内にあるスラグの一部を採取し、化学分析に供した結果、スラグ中T.Fe:(T.Fe)=14.4~26.7mass%となった。この処理条件が適正であれば、スラグ中T.Feは低位となった。
なお、本明細書に記載した実施形態は、本発明の例示であって、記載したものに限定されるものではない。
【0051】
表3に、本発明の転炉吹錬方法に従って、実施した実施例と比較例を示す。
【0052】
【0053】
なお、表3の実験条件の適否に関して、「H」は上限値の上限寄りを示し、「M」は中心値の中心寄りを示し、「L」は下限値の下限寄りを示し、「↑」は上限値外れを示し、「↓」は下限値外れを示し、「×」は対象外(本実験条件を実施せず)を示す。ただし、比較例:No.18については、粉状CaOの吹き込みを実施していない例であり、ベースとなるものである。
【0054】
以下に、本発明で規定したFP=650kg/min以上、RP=40%以上により発現する効果について説明する。
なお、効果の良否の判定基準については、(T.Fe)≦21.8mass%、且つ、ηP≧68.4%とした。
まず、粉状CaOの吹き込み速度FP(kg/min)=650以上としたときの効果について説明する。
【0055】
図4に、スラグ中T.Feに及ぼす、粉状CaOの吹き込み速度F
Pの影響をまとめたものを示す。なお、
図4のプロットは、本実施例:No.1~8、比較例:No.11~18である。ただし、比較例:No.9,10について、F
Pは満たすがR
Pは満たしていないので、プロット未反映である。
図4に示すように、粉状CaOの吹き込み速度F
Pが増加するにしたがって、(T.Fe)は低下することがわかる。さらに、本発明のF
P≧650kg/minの場合、(T.Fe)が急激に低減することとなり良好な結果が得られた。
【0056】
一方で、F
P<650kg/minの場合、(T.Fe)は高位となってしまった。
次に、CaO投入量全体に対する粉状CaOの投入量の使用比率R
P(%)=40以上としたときの説明効果についてする。
図5に、脱りん率η
Pに及ぼす、粉状CaOの投入量/CaO投入量全体の使用比率R
Pの影響をまとめたものを示す。なお、
図5のプロットは、本実施例:No.1~8、比較例:No.9,10である。
【0057】
図5に示すように、粉状CaOの投入量/CaO投入量全体の使用比率R
Pには、最適な範囲が存在することがわかる。特に、R
P≧40%の場合、η
Pが高くなる良好な結果が得られた。
一方で、R
P<40%の場合、η
Pは急激に低下してしまった。
図6に、脱りん率η
Pに及ぼす、粉状CaOの吹き込み速度F
Pの影響をまとめたものを示す。なお、
図6は、本発明の粉状CaOの吹き込み速度F
Pによる効果を説明するための参考図である。また、
図6のプロットは、本実施例:No.1~8、比較例:No.9~18である。ただし、比較例:No.9,10のプロットを反映している。
【0058】
図6に示すように、粉状CaOの吹き込み速度F
Pが増加するにしたがって、η
Pは上昇することがわかる。ところが、F
P≧650kg/minの場合、脱りん率η
Pのばらつきが大きくなり、
F
P=0(粉状CaOの吹き込み無し(比較例:No.18))と比較しても脱りん率η
Pが悪化する場合も認められた。比較例:No.9,10のように、F
Pは満たすがR
Pは満たしていないと、η
Pが低下することとなる。つまり、F
PとR
Pとの2つの条件を満たすことが、スラグ中T.Feの低減と、脱りん効率の向上において必要となる。
【0059】
図7に、脱りん率η
Pに及ぼす、スラグ中T.Feの影響をまとめたものを示す。なお、
図7は、本発明の効果を説明するための参考図である。また、
図7のプロットは、本実施例:No.1~8、比較例:No.9~18である。ただし、比較例:No.9,10のプロットを反映している。
図7に示すように、(T.Fe)の増加と共に、η
Pは上昇する傾向にあり、熱力学的な脱りん挙動を示す。しかし、本発明では、(T.Fe)を過剰に高くしなくても、η
Pを高くすることができる良好な結果が得られた。
【0060】
以上より、本発明の転炉吹錬方法は、スラグ中T.Feを低減させることが可能となる。
また、蛍石等のフッ素含有物質を、滓化促進用の媒溶剤として使用しなくても、滓化反応が促進され、スラグZの脱りん能を向上させることができる。
更に、スラグZにおいては、未溶解CaOやMgOが減少し且つ、環境に影響を及ぼすフッ素を含有しないため、炉体耐火物の損傷を抑制できると共に、スラグZの再利用も容易となる。本発明により生成されるスラグZは、CaOやMgOが少ないため、例えば路盤材として使用した場合、CaOやMgO起因の膨張が起こらない。
【0061】
すなわち、本発明によれば、転炉1の操業において、炉内へ粉状CaOの吹き込みをするに際して、吹き込み条件を適正に設定することで、スラグ中T.Feの低減と、脱りん効率の向上を両立させることができる。
従来では、転炉吹錬方法において、粉状CaOを速く吹き込むと、実操業に影響を及ぼすと思われていたが、本願発明者の研究と知見により、粉状CaOの吹き込み速度FPを650kg/min以上に規定し、CaO投入量全体に対する粉状CaO投入量の使用比率RPを40%以上に規定すると、粉状CaOを速く吹き込んでも、良好な効果を発現させることができる。
【0062】
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。
特に、今回開示された実施形態において、明示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。
【符号の説明】
【0063】
1 転炉(転炉型反応容器)
2 上吹きランス
3 底吹き羽口
4 吹錬酸素用流路
5 粉体搬送用流路
6 冷却水路
7 吹錬酸素吹き込み孔
8 粉体吹き込み孔
Y 溶銑
Z スラグ