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特許7451346差分抽出装置、差分抽出方法及び差分抽出プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】差分抽出装置、差分抽出方法及び差分抽出プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/10 20200101AFI20240311BHJP
【FI】
G06F30/10
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020136883
(22)【出願日】2020-08-14
(65)【公開番号】P2022032741
(43)【公開日】2022-02-25
【審査請求日】2023-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000233044
【氏名又は名称】株式会社日立パワーソリューションズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥野 東
(72)【発明者】
【氏名】菊池 正典
(72)【発明者】
【氏名】堀越 康雄
【審査官】堀井 啓明
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-052166(JP,A)
【文献】特開平08-278993(JP,A)
【文献】特開2013-140410(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00-30/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
比較対象の図面のうちの少なくとも1枚に、ユーザが指定する複数の異なる膨張度に基づく膨張処理を行うずれ吸収部と、
前記複数の異なる膨張度ごとに、前記比較対象の図面間の差分を抽出する差分抽出部と、
前記複数の異なる膨張度ごとに、前記抽出した差分を出力装置に表示する入出力処理部と、
を備え
前記ずれ吸収部は、さらに、
前記比較対象の図面を重ね合わせた図面を出力装置に表示し、
設計者が、前記表示した図面の任意の領域を指定するのを受け付け、
前記指定された領域において、前記膨張度を小さい値から大きい値に変化させ、
前記比較対象の図面を重ね合わせた図面において、“変更なし”の図形要素、“変更あり(削除)”の図形要素、及び、“変更あり(追加)”の図形要素が初めて同時に現れる膨張度、又は、初めて“変更なし”の図形要素のみが現れる膨張度を初期値とし、
前記設計者が前記膨張度の入力に使用する膨張度調整スライダを、初期値の位置に設定すること、
特徴とする差分抽出装置。
【請求項2】
前記比較対象の図面に対し前処理を行う前処理部を備え、
前記前処理は、
位置補正、サイズ補正、歪補正及び二値化のうち少なくとも1つを含むこと、
を特徴とする請求項1に記載の差分抽出装置。
【請求項3】
前記差分抽出部は、
前記比較対象の図面を重ね合わせ、同じ画素値が位置する部分以外の部分を前記差分として抽出すること、
を特徴とする請求項2に記載の差分抽出装置。
【請求項4】
前記入出力処理部は、
前記差分と前記差分以外の部分を、色、輝度又は線種で区別して表示すること、
を特徴とする請求項3に記載の差分抽出装置。
【請求項5】
前記比較対象の図面に含まれる表又は文字の差分を、前記比較対象の図面に含まれる図形の差分とは別に抽出する表文字認識部を備えること、
を特徴とする請求項4に記載の差分抽出装置。
【請求項6】
前記比較対象の図面において、図形の移動量、回転角度及び拡大率のうちの少なくとも1つを算出する移動量算出部を備えること、
を特徴とする請求項5に記載の差分抽出装置。
【請求項7】
前記差分が仕様変更指示に一致しているか否かを判断する仕様確認部を備えること、
を特徴とする請求項6に記載の差分抽出装置。
【請求項8】
差分抽出装置のずれ吸収部は、
比較対象の図面のうちの少なくとも1枚に、ユーザが指定する複数の異なる膨張度に基づく膨張処理を行い、
前記差分抽出装置の差分抽出部は、
前記複数の異なる膨張度ごとに、前記比較対象の図面間の差分を抽出し、
前記差分抽出装置の入出力処理部は、
前記複数の異なる膨張度ごとに、前記抽出した差分を出力装置に表示
前記ずれ吸収部は、さらに、
前記比較対象の図面を重ね合わせた図面を出力装置に表示し、
設計者が、前記表示した図面の任意の領域を指定するのを受け付け、
前記指定された領域において、前記膨張度を小さい値から大きい値に変化させ、
前記比較対象の図面を重ね合わせた図面において、“変更なし”の図形要素、“変更あり(削除)”の図形要素、及び、“変更あり(追加)”の図形要素が初めて同時に現れる膨張度、又は、初めて“変更なし”の図形要素のみが現れる膨張度を初期値とし、
前記設計者が前記膨張度の入力に使用する膨張度調整スライダを、初期値の位置に設定すること、
を特徴とする差分抽出装置の差分抽出方法。
【請求項9】
コンピュータを、
比較対象の図面のうちの少なくとも1枚に、ユーザが指定する複数の異なる膨張度に基づく膨張処理を行うずれ吸収部と、
前記複数の異なる膨張度ごとに、前記比較対象の図面間の差分を抽出する差分抽出部と、
前記複数の異なる膨張度ごとに、前記抽出した差分を出力装置に表示する入出力処理部と、
して機能させるための差分抽出プログラムであって、
前記ずれ吸収部に対して、さらに、
前記比較対象の図面を重ね合わせた図面を出力装置に表示し、
設計者が、前記表示した図面の任意の領域を指定するのを受け付け、
前記指定された領域において、前記膨張度を小さい値から大きい値に変化させ、
前記比較対象の図面を重ね合わせた図面において、“変更なし”の図形要素、“変更あり(削除)”の図形要素、及び、“変更あり(追加)”の図形要素が初めて同時に現れる膨張度、又は、初めて“変更なし”の図形要素のみが現れる膨張度を初期値とし、
前記設計者が前記膨張度の入力に使用する膨張度調整スライダを、初期値の位置に設定する処理を実行させること、
を特徴とする差分抽出プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差分抽出装置、差分抽出方法及び差分抽出プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
プラント等の設計者は、顧客から要求された仕様に従って、図面を作成する。その際、設計者は、見積設計、基本設計、詳細設計等のフェーズごとに、図面を変更、詳細化して行く。すると、要求された仕様に変更点が一致していることを確認するために、変更点を適切に把握及び管理することが重要になる。特に、図面の作成者とは別の者が図面を確認する場合、確認する者は、図面の変更点を把握するのに多くの時間及び手間を課される。
【0003】
更に実務では、CAD(Computer Aided Design)データから変換された画像データ同士を比較する場合、又は、紙に印刷された図面同士を比較する場合が多い。このような場合、光学的又は機械的な操作に起因して、微小な位置ずれ又は歪が図面上に発生することが多い。このような位置ずれ等を本来の変更点から区別することが重要である。
【0004】
特許文献1の図面変更箇所特定装置は、原図面を構成する図形要素のそれぞれに一意の管理番号を付す。当該装置は、修正図面において削除された図形要素の管理番号を欠番とし、新たに加えられた図形要素には新たに採番された管理番号を付す。そのうえで、当該装置は、変更箇所を抽出し、例えば色を付けて表示する。
【0005】
特許文献2の図面照合装置は、ラスタデータ型式で電子化された改訂前図面及び改訂後図面の差分を取得する。この際、当該装置は、改訂前図面又は改訂後図面のうち少なくとも一方を所定の幅で膨張させて、位置ずれ又は歪による意図しない差分を吸収(無視)する。
【0006】
特許文献3の画像処理装置は、修正前の画像及び修正後の画像の差分を抽出する。この際、当該装置は、修正前の画像又は修正後の画像の一方に膨張処理(特許文献3の段落0046参照)を施し、差分として抽出するべきではない位置ずれを吸収する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2001-306637号公報
【文献】特開2001-52166号公報
【文献】特開2013-140410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
位置ずれ又は歪による偶発的な差分を吸収し、顧客の要求等に基づく本来の差分のみを抽出する場合、差分の吸収の度合い、すなわち、膨張処理の度合い(膨張度)を適切に決定することが最も重要である。そして、膨張度の適切な値は、比較対象となる図面の具体的な位置ずれ又は歪の状態に大きく左右される。
【0009】
特許文献1は、図面上の位置ずれ又は歪について言及していない。特許文献2及び3は、図面上の位置ずれ又は歪を膨張処理によって吸収することに言及している。しかしながら、特許文献2及び3は、具体的な位置ずれ等の状態に応じた膨張度の調整という視点が欠落している。
そこで、本発明は、差分の抽出状態を視認しながら位置ずれ等の吸収を自在に調整することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の差分抽出装置は、比較対象の図面のうちの少なくとも1枚に、ユーザが指定する複数の異なる膨張度に基づく膨張処理を行うずれ吸収部と、前記複数の異なる膨張度ごとに、前記比較対象の図面間の差分を抽出する差分抽出部と、前記複数の異なる膨張度ごとに、前記抽出した差分を出力装置に表示する入出力処理部と、を備え、前記ずれ吸収部は、さらに、前記比較対象の図面を重ね合わせた図面を出力装置に表示し、設計者が、前記表示した図面の任意の領域を指定するのを受け付け、前記指定された領域において、前記膨張度を小さい値から大きい値に変化させ、前記比較対象の図面を重ね合わせた図面において、“変更なし”の図形要素、“変更あり(削除)”の図形要素、及び、“変更あり(追加)”の図形要素が初めて同時に現れる膨張度、又は、初めて“変更なし”の図形要素のみが現れる膨張度を初期値とし、前記設計者が前記膨張度の入力に使用する膨張度調整スライダを、初期値の位置に設定すること、を特徴とする。
その他の手段については、発明を実施するための形態のなかで説明する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、差分の抽出状態を視認しながら位置ずれ等の吸収を自在に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】差分の抽出を説明する図である。
図2】膨張処理及び差分の吸収を説明する図である。
図3】差分抽出装置の構成等を示す図である。
図4】仕様変更指示書の一例である。
図5】位置ずれ等がない場合の差分の抽出例である。
図6】位置ずれ等がある場合の差分の抽出例である。
図7】差分表示画面の一例である。
図8】表及び文字の差分の抽出を説明する図である。
図9】差分の妥当性の確認を説明する図である。
図10】処理手順のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(ラスタデータ及びベクタデータ)
以降、本発明を実施するための形態(“本実施形態”という)を、図等を参照しながら詳細に説明する。本実施形態は、2枚の図面の差分を抽出する例である。周知のように、図面は、ラスタデータとして存在する場合もあれば、ベクタデータとして存在する場合もある。ラスタデータとは、画素の座標値及び画素値の組合せの集合(スキャンした画像等)である。ベクタデータとは、特徴点の座標値及び図形要素の種類の組合せ(例えばCADで作成される線分の場合、2つの端点の座標値及びそれが線分である旨の情報)の集合である。
【0014】
本実施形態は、ラスタデータである図面同士の差分を抽出する例である。しかしながら、本発明は、ベクタデータである図面にも適用可能である。なぜならば、ベクタデータを膨張処理することも可能であるからである。
【0015】
(位置ずれ等)
設計者が紙面に描画した図形をスキャナでスキャン(走査)してコンピュータに取り込んでラスタデータを作成する場合、スキャナへの紙面の置き方の不具合に起因する位置ずれ、及び、レンズの光軸の向き等に起因する歪が発生することがある。電子データとしてのラスタデータを紙面に印刷する場合も同様である。以降では、これらは総称的に“位置ずれ等”とも呼ばれる。一方、本来の設計変更のように、設計者等によって意図された変更も存在する。位置ずれ等は、偶然によるものであり、当然のことながら意図された変更とは区別されるべきである。
【0016】
(差分の抽出)
図1は、差分の抽出を説明する図である。いま、図面a(符号41)及び図面b(符号42)が存在する。図面a及び図面bは、縦横に整列した複数の画素(破線で区切られた正方形のマス目)からなる。実際の1画素の大きさは、肉眼で視認できない程度に微小である。説明の便宜上、例えば実際の100個×100個の画素が、図1においては、まとめて1マスとして表現されている。以降の説明で、例えば“1画素分”という場合、それは、図面上の“1マスに相当する画素分”という意味である。
【0017】
図面a内に、図形43が存在する。図形43が有するすべての画素値は、一律的に“1”(例えば、黒)である。図面b内に、図形44が存在する。図形44が有するすべての画素値もまた、一律的に“1”である。図形44の形状及び大きさは、図形43の形状及び大きさに等しい。しかしながら、図形44の位置は、図形43を基準として、右に1画素分、上に1画素分ずれている。
【0018】
図面ab(符号45)は、図面aと図面bとを重ね合わせた図面である。図形43と図形44とが重なった部分の画素値は、“2”になっている。“2”は、その位置における図形43の画素値及び図形44の画素値が、ともに“1”であることを便宜的に示している(画素値が加算されるわけではない)。したがって、当該部分は、“変更なし”が付されている。
【0019】
図形43又は図形44のうち、相互に重ならない部分の画素値は、“1”になっている。そのうち、図形43の左下のL字部分が、差分として抽出される。当該部分には、図面aに存在するが図面bには存在しないという意味で、“変更あり(削除)”が付されている。図形44の右上の逆L字部分も、差分として抽出される。当該部分には、図面bに存在するが図面aには存在しないという意味で、“変更あり(追加)”が付されている。なお、図形43及び図形44の外側(背景)の画素値は、一律的に“0”(例えば、白)であるが、ここでは省略されている。
【0020】
(差分が発生する原因)
図面abにおいて、差分として“変更あり(削除)”及び“変更あり(追加)”が表示されている原因は、位置ずれ等であるかもしれないし、意図された変更であるかも知れないし、両者であるかも知れない。いずれにしても、設計者は、差分を視認しただけでは、それらの区別がつかない。
【0021】
(膨張処理及び差分の吸収)
図2は、膨張処理及び差分の吸収を説明する図である。いま、原図面、及び、原図面に対して“なんらかの変更”が加えられた変更後図面が存在するとする。ここでの“なんらかの変更”は、位置ずれ等に起因するものであってもよいし、意図された変更であってもよい。そして、原図面内のある図形要素(例えば直線)と、当該図形要素に対応する変更後図面内の図形要素(同様に直線)との組合せが既知であるとする。
【0022】
まず、第0段階(膨張処理をしない段階)に注目する。本実施形態の差分抽出装置1(図3にて詳細を後記する)は、縦横に整列した画素を有する膨張処理図面に、原図面と変更後図面を重ね合わせる。膨張処理図面は、例えば図1の図面ab(重ね合わせた図面)に相当する。図形要素51は、原図面内のある図形要素であり、図形要素56は、変更後図面内の対応する図形要素である。図形要素51と図形要素56とは、重なる部分を有することなく、上下方向に2画素分の間隔を空けている。
【0023】
そこで、差分抽出装置1は、図形要素51の全体及び図形要素56の全体を差分として抽出し、図形要素51には“変更あり(削除)”を付し、図形要素56には“変更あり(追加)”を付して表示する。因みに、事情を知らない設計者は、ここで表示された図面を見た結果、“4画素分だけ移動する旨の、意図された変更があった”と解釈するかもしれないし、単に位置ずれ等が発生しただけであると解釈するかもしれない。
【0024】
次に、第1段階に注目する。差分抽出装置1は、設計者から「膨張度を“1”とする」旨の指示を受け付ける。すると、差分抽出装置1は、膨張処理図面において、図形要素51を上方向、下方向、左方向及び右方向にそれぞれ“1画素”分膨張させる。膨張させるとは、図形要素の内縁部の画素の画素値を、その画素に接する外縁部の画素にコピーすることである。具体的には、差分抽出装置1は、第0段階の膨張処理図面における図形要素51を1周り(1画素分ずつ)大きくし、図形要素52とする。それでもなお、図形要素52と図形要素56とは、重なる部分を有することなく、上下方向に1画素分の間隔を空けている。
【0025】
そこで、差分抽出装置1は、膨張させた図形要素52をもとの大きさ及びもとの位置に戻したうえで、図形要素52の全体及び図形要素56の全体を差分として抽出し、図形要素52には“変更あり(削除)”を付し、図形要素56には“変更あり(追加)”を付して表示する。
【0026】
次に、第2段階に注目する。差分抽出装置1は、設計者から「膨張度を“2”とする」旨の指示を受け付ける。すると、差分抽出装置1は、膨張処理図面において、図形要素52を上方向、下方向、左方向及び右方向にそれぞれ“1画素”分膨張させる。具体的には、差分抽出装置1は、第1段階の図形要素52を更に1周り(図形要素51に対しては2画素分ずつ)大きくし、図形要素53とする。ここで、図形要素53と図形要素56とは、初めて接することになる。
【0027】
そこで、差分抽出装置1は、膨張させた図形要素53をもとの大きさ及びもとの位置に戻したうえで、図形要素53の全体及び図形要素56の全体を差分として抽出し、図形要素53には“変更あり(削除)”を付し、図形要素56には“変更あり(追加)”を付して表示する。
【0028】
次に、第3段階に注目する。差分抽出装置1は、設計者から「膨張度を“3”とする」旨の指示を受け付ける。すると、差分抽出装置1は、膨張処理図面において、図形要素53を上方向、下方向、左方向及び右方向にそれぞれ“1画素”分膨張させる。具体的には、差分抽出装置1は、第2段階の図形要素53を更に1周り(図形要素51に対しては3画素分ずつ)大きくし、図形要素54とする。ここで、図形要素54の一部は、初めて図形要素56の一部と重なることになる。
【0029】
そこで、差分抽出装置1は、膨張させた図形要素54をもとの大きさ及びもとの位置に戻す。そのうえで、差分抽出装置1は、図形要素56のうち膨張処理図面において図形要素54と重なった部分に“変更なし”を付して表示する。差分抽出装置1は、図形要素56のうち、膨張処理図面において図形要素54と重ならなかった部分を差分として抽出し、当該部分に“変更あり(追加)”を付して表示する。
【0030】
差分抽出装置1は、図形要素54のうち膨張処理図面において図形要素56と重なった部分に“変更なし”を付して表示する。この表示は、膨張処理図面において、図形要素54の最も下の行の10画素のうち、中央の4画素だけが図形要素56と重なっていることに対応する。差分抽出装置1は、図形要素54のうち、膨張処理図面において図形要素56と重ならなかった部分を差分として抽出し、当該部分に“変更あり(削除)”を付して表示する。
【0031】
最後に、第4段階に注目する。差分抽出装置1は、設計者から「膨張度を“4”とする」旨の指示を受け付ける。すると、差分抽出装置1は、膨張処理図面において、図形要素54を上方向、下方向、左方向及び右方向にそれぞれ“1画素”分膨張させる。具体的には、差分抽出装置1は、第3段階の図形要素54を更に1周り(図形要素51に対しては4画素分ずつ)大きくし、図形要素55とする。ここで、図形要素56の全部は、初めて図形要素55内に吸収されることになる。
【0032】
そこで、差分抽出装置1は、膨張させた図形要素55をもとの大きさ及びもとの位置に戻す。そのうえで、差分抽出装置1は、図形要素56の全体に“変更なし”を付して表示する。同様に、差分抽出装置1は、図形要素55の全体に“変更なし”を付して表示する。膨張処理画面において、図形要素55が図形要素56の全体を含んでいるので、差分抽出装置1は、“変更あり(削除)”及び“変更あり(追加)”を付して表示することはない。
【0033】
図2の全体から、膨張度が小さいほど差分を抽出する精度が高くなることがわかる。多くの場合、位置ずれ等に起因する変更は、意図された変更よりも小さい(移動距離が短い)ことが経験的に判明している。よって、膨張度を調整することによって、位置ずれ等に起因する変更(差分)を吸収(無視)することが可能である。さらに、差分抽出装置1は、比較対象の図面を重ね合わせ、同じ画素値が位置する部分以外の部分を差分として抽出することもわかる。
【0034】
なお、設計者は、図2の“表示”のように、膨張処理された図形をもとに戻した状態で視認したい場合もあり、図2の“膨張処理図面”のように、膨張処理された図形をそのままの状態で視認したい場合もある。そこで、差分抽出装置1は、後者の場合、設計者に膨張処理図面を表示してもよい。更に、差分抽出装置1は、前者の場合、設計者に、比較対象の2つの図形要素のうちの一方(例えば、図形要素56)のみを表示してもよい。
【0035】
(差分抽出装置の構成)
図3は、差分抽出装置1の構成等を示す図である。差分抽出装置1は、一般的なコンピュータであり、中央制御装置11、マウス、キーボード等の入力装置12、ディスプレイ等の出力装置13、主記憶装置14、補助記憶装置15及び通信装置16を備える。これらは、バスで相互に接続されている。補助記憶装置15は、図面31(直ちに後記)及び仕様変更指示書32(図4として詳細を後記)を格納している。
【0036】
(図面)
差分抽出装置1は、例えば、“○工場○階平面図”に対して図面ID“F001”を割り当てる。“○工場○階平面図”は、仕様変更が発生する都度、その一部が変更され、図面群として増殖していく。差分抽出装置1は、これらの図面群を、“F001”として同一性を維持したまま、“第1版”、“第2版”、“第3版”、・・・のように、時系列の枝番を付して管理する。差分抽出装置1は、同一図面群のうちの任意の2枚の図面間の差分を抽出する。
【0037】
主記憶装置14における入出力処理部21、前処理部22、ずれ吸収部23、差分抽出部24、表文字認識部25、移動量算出部26及び仕様確認部27は、プログラムである。中央制御装置11は、これらのプログラムを補助記憶装置15から読み出し主記憶装置14にロードすることによって、それぞれのプログラムの機能(詳細後記)を実現する。補助記憶装置15は、差分抽出装置1から独立した構成となっていてもよい。差分抽出装置1は、ネットワーク3を介して、端末装置2と通信可能である。端末装置2は、例えば携帯式の端末装置であり、設計者(差分抽出装置1のユーザ)が遠隔地から差分抽出装置1にアクセスするために使用される。
【0038】
(仕様変更指示書)
図4は、仕様変更指示書32の一例である。仕様変更指示書32は、例えば顧客が設計者に対して図面を変更する(書き換える)ことを指示する文書である。当然のことながら、仕様変更指示書32に基づく変更は、前記した“意図された変更”である。仕様変更指示書32においては、変更前図面(行33)、変更後図面(行34)、変更点1(行35)、変更点2(行36)、・・・が相互に関連付けて記憶されている。設計者は、図4の仕様変更指示書32に基づき、“F001第1版”の一部を、変更点1及び変更点2に従って変更し、変更後の図面を“F001第2版”とする。具体的には、設計者は、装置Aの位置及び装置Bの向きを変更することになる(図9参照)。
【0039】
(差分の抽出例)
図5は、位置ずれ等がない場合の差分の抽出例である。設計者は、ある仕様変更指示書32に基づき、図面61をもとにして、3つの長方形を削除し、2つの長方形を追加した結果を図面62とした。差分抽出装置1が図面61と図面62との差分を抽出した結果(重ね合わせた図面)が図面63である。図面63において、差分抽出装置1は、“変更なし”の部分を太線で、“変更あり(削除)”の部分を細線で、“変更あり(追加)”部分を破線で表示している。なお、図面63は、差分表示画面(図7)に表示される例である(後記する図面65も同様)。
【0040】
図6は、位置ずれ等がある場合の差分の抽出例である。設計者は、図5の場合と同じ仕様変更指示書32に基づき、図面61をもとにして、3つの長方形を削除し、2つの長方形を追加した結果を図面64とした。設計者がコピー操作等を行う際、位置ずれ等が発生した。差分抽出装置1が図面61と図面64との差分を抽出した結果(重ね合わせた図面)が図面65である。図面65において、差分抽出装置1は、“変更あり(削除)”の部分を細線で、“変更あり(追加)”部分を破線で表示している。しかしながら、差分抽出装置1は、“変更なし”の部分を抽出していない。
【0041】
図5及び図6において、設計者は同じ仕様変更指示書32に基づき図面の変更を行っている。それにもかかわらず、図6の図面65においては、設計者が変更を加えず維持するつもりであった部分がわかりにくく、かつ、設計者が実際に意図した変更の程度がわかりにくくなっている。一方、図5の図面63においては、これらが明確になっている。この違いの原因は、図6において発生した位置ずれ等である。
【0042】
しかしながら、仮に位置ずれ等が発生したとしても、差分抽出装置1は、図2の膨張処理を行うことによって、さらに、膨張度の調整を受け付けることによって、図5の図面63のように表示することができる。位置ずれ等が発生したことを前提に、膨張処理を行った差分の抽出を図7で説明する。
【0043】
(膨張度の調整)
図7は、差分表示画面の一例である。図7の差分表示画面71において、差分抽出装置1は、設計者が膨張度調整スライダ73を操作して、“膨張度=1”を入力するのを受け付け、図2の第1段階に相当する膨張処理を行っている。その結果、差分抽出装置1は、変更前後の重ね合わせた図面74を表示している。図面74において、差分抽出装置1は、“変更あり(削除)”の部分を細線で、“変更あり(追加)”の部分を破線で表示している。図面74は、膨張処理がなされた結果ではあるが、膨張度が小さいので、図6の図面65と比較しても、見た目の大差がない。
【0044】
図7の差分表示画面72において、差分抽出装置1は、設計者が膨張度調整スライダ73を操作して、“膨張度=4”を入力するのを受け付け、図2の第4段階に相当する膨張処理を行っている。その結果、差分抽出装置1は、変更前後の重ね合わせた図面75を表示している。図面75において、差分抽出装置1は、“変更なし”の部分を太線で、“変更あり(削除)”の部分を細線で、“変更あり(追加)”の部分を破線で表示している。そして、太線の部分は、図2における膨張処理の結果、差分抽出装置1が“変更なし”を付した部分に相当する。
【0045】
図面75は、膨張度の充分大きい膨張処理が行われた結果であり、図5の図面63と比較しても、見た目が殆ど同じになっている。位置ずれ等が発生した事実が過去に遡及してなくなる訳ではない。しかしながら、差分抽出装置1は、位置ずれ等に起因する変更を吸収(無視)し、意図された変更だけを差分として抽出している。なお、膨張度をどの程度大きくすると位置ずれ等に起因する変更を吸収できるかは、場合による。
【0046】
(表及び文字の取り扱い)
図面の一部に、図形として表示されている物体を説明するための表又は文字が記載される場合がある。このような表及び文字もまた、ラスタデータ又はベクタデータである限り、物体を示す図形と同様、差分抽出の対象となり得る。しかしながら、そのような表及び文字についての差分の抽出は、設計者にとって煩雑であり、差分抽出装置1にとっても過大な処理負担となる場合が多い。
【0047】
図8は、表及び文字の差分の抽出を説明する図である。図面81には、物体を示す図形84及び表85が記載されている。表85には、物体の型式が“AAA”であり、材質が“BBB”であり、板厚が“CCC”であることを説明する文字が記載されている。図面82には、物体を示す図形84及び表86が記載されている。表86には、物体の型式が“AAA”であり、材質が“BBB”であり、塗装色が“DDD”であり、板厚が“CCC”であることを説明する文字が記載されている。
【0048】
図面81と図面82とを比較すると、物体84の形状、大きさ及び位置は、同じである。しかしながら、表85と表86の間には、一目見ただけでも、以下の〈変更1〉~〈変更3〉がなされていることがわかる。
〈変更1〉表86の横幅は、表85の横幅よりも大きい。
〈変更2〉表85の3行目は“板厚 CCC”であるが、表86の3行目は“塗装色 DDD”になっている。
〈変更3〉表85の4行目は空白であるが、表86の4行目は“板厚 CCC”になっている。
【0049】
前記の〈変更1〉~〈変更3〉のうち、実質的な変更内容は、“物体の塗装色がDDDであることが追加された”ということだけである。仮に、差分抽出装置1が、表及び文字も含めて、図1で説明したように差分を抽出した場合、型式的な差分を多く表示することになる。このような弊害を避けるために、差分抽出装置1は、以下の〈処理1〉~〈処理9〉を行う。
【0050】
〈処理1〉差分抽出装置1は、比較対象の図面81及び図面82から、表の部分及び文字の部分を抽出する。具体的には、差分抽出装置1は、公知の技術(例えば、ハフ変換)を使用し、同じ傾きを有する複数の線分からなる群を複数抽出する。
〈処理2〉差分抽出装置1は、なす角度が90度である群の組合せを表として認識する。
〈処理3〉差分抽出装置1は、OCR(Optical Character Recognition)技術を使用し、図面から文字を抽出する。
【0051】
〈処理4〉差分抽出装置1は、認識した表及び抽出した文字を、図面81及び図面82から削除し、それを別途、補助記憶装置15に記憶する。
〈処理5〉差分抽出装置1は、表及び文字が削除されている図面に対して、前記したように差分の抽出を行う。
〈処理6〉差分抽出装置1は、補助記憶装置15に記憶した文字のうち図面81に由来するものから、対応する項目と値との組合せを抽出する。抽出される組合せは、“型式,AAA”、“材質,BBB”及び“板厚,CCC”である。
【0052】
〈処理7〉差分抽出装置1は、補助記憶装置15に記憶した文字のうち図面82に由来するものから、対応する項目と値との組合せを抽出する。抽出される組合せは、“型式,AAA”、“材質,BBB”、“塗装色,DDD”及び“板厚,CCC”である。
〈処理8〉差分抽出装置1は、図面81に存在し図面82に存在しない組合せを、“削除”の差分として認識し、図面82に存在し図面81に存在しない組合せを、“追加”の差分として認識する。
〈処理9〉差分抽出装置1は、“削除”又は“追加”を認識した場合、図面81と、図面82とを重ね合わせた図面83の注意欄87に、差分の有無、差分の種類及び差分の内容を表示する。
【0053】
(差分の妥当性の確認)
差分の有無を知ることに加えて、設計者が図面に対して行った変更が、仕様変更指示書32の変更点を正しく反映しているか否かを確認することも重要である。
【0054】
図9は、差分の妥当性の確認を説明する図である。図4の仕様変更指示書32における“装置A”及び“装置B”を引き続き例として用いる。図面91には、装置Aの図形94及び装置Bの図形95が記載されている。図面92にも、装置Aの図形96及び装置Bの図形97が記載されている。図面92の図形96は、図面91の図形94に比して、X軸方法に○mに相当する画素数分、Y軸方向に●mに相当する画素数分移動している。図面92の図形97は、図面91の図形95に比して、座標[#,#]を中心に、-90度(反時計回りに90度)回転している。
【0055】
図面93は、図面91と図面92とを重ね合わせた図面である。差分抽出装置1は、図面93を表示するに際し、以下の〈処理11〉~〈処理17〉を行う。
〈処理11〉差分抽出装置1は、図面91の縮尺と図面92の縮尺とが異なる場合、一方を他方に揃える。なお、当該処理以前に同様の前処理(詳細後記)が行われている場合、処理11は不要である。
〈処理12〉差分抽出装置1は、図形94と図形96の対応点同士を破線で結び、図形95と図形97の対応点同士を破線で結ぶ。このとき、差分抽出装置1は、テンプレートマッチング、特徴点抽出等の手法で、対応点を特定する。対応点に関して、説明の便宜上、図9のように上下に並べ破線で結んでいる。しかしながら、差分抽出装置1は、実際にそのように破線で結んだ画面を出力装置13に表示して、設計者に見せてもよいし、見せなくてもよい。見せた場合は、設計者の確認が容易になる。
【0056】
〈処理13〉差分抽出装置1は、図形94及び図形96について、対応点同士の図面上の距離及び縮尺に基づき、対応点同士の実移動距離を算出する。図形が形状を変えることなく拡大又は縮小している場合、差分抽出装置1は、拡大率(縮小率)を算出する。
〈処理14〉差分抽出装置1は、図形95及び図形97について、回転の中心を特定し、対応点同士の回転角度を算出する。
【0057】
〈処理15〉差分抽出装置1は、実移動距離、拡大率、回転の中心の座標及び回転角度が、仕様変更指示書32の変更点に一致しているか否かを判断する。差分抽出装置1は、実移動距離等が、仕様変更指示書32の変更点と一致する、又は、所定の許容誤差範囲内にある場合、“合格”を生成し、それ以外の場合、“不合格”を生成する。
〈処理16〉差分抽出装置1は、重ね合わせた図面に、実移動距離、拡大率、回転の中心点の座標及び回転角度を示す値を表示する。なお、図4及び図9の例では、拡大(縮小)は該当しない(処理17においても同様)。
〈処理17〉差分抽出装置1は、“合格”又は“不合格”を、実移動距離、拡大率、回転の中心点の座標及び回転角度を示す値に関連付けて表示する。
【0058】
(処理手順)
図10は、処理手順のフローチャートである。処理手順を開始する前提として、補助記憶装置15は、仕様変更指示書32(図4)を既に格納しており、設計者は、仕様変更指示書32に基づき、図面の変更を既に行っているとする。
ステップS101において、差分抽出装置1の入出力処理部21は、図面を受け付ける。具体的には、入出力処理部21は、設計者(ユーザ)が、補助記憶装置15に格納されている図面31のうちから、比較対象の図面2枚を読み出すのを受け付ける。入出力処理部21は、紙面の図面2枚をスキャナで読み取ってもよい。ここでは、図面“F001第1版”(変更前)及び図面“F001第2版”(変更後)が読み出されたとする。
【0059】
ステップS102において、差分抽出装置1の表文字認識部25は、表及び文字を削除する。具体的には、表文字認識部25は、“F001第1版”及び“F001第2版”が表又は文字を含んでいる場合、前記した方法で、表及び文字を“F001第1版”及び“F001第2版”から削除する。そして、表文字認識部25は、図面から削除した表及び文字を補助記憶装置15に格納する。なお、設計者が、表の部分を図形と見做して、図形としての差分を抽出することを希望する場合もある。この場合、表文字認識部25は、図形と見做す表を設計者が画面上で指定するのを受け付け、その表を削除せずに残す。
【0060】
ステップS103において、差分抽出装置1の前処理部22は、図面に対し前処理を行う。具体的には、前処理部22は、“F001第1版”及び“F001第2版”に対して、以下の前処理のうちの少なくとも1つを行う。
・位置補正:比較対象の2枚の図面の基準点(例えば、枠の左上の角)を重ね合わせる。
・サイズ補正:2枚の図面の縮尺が異なる場合、一方の縮尺を他方の縮尺に合わせる。
・歪補正:2枚の図面の少なくとも一方に明らかな歪が生じている場合、その歪を解消する。
・二値化:2枚の図面において、例えば“0~255”の連続値をとる画素値を、“0”又は“1”に二値化する。
前処理部22は、前処理を行った結果を画面表示してもよい。
【0061】
ステップS104において、差分抽出装置1のずれ吸収部23は、膨張度の入力を受け付ける。具体的には、第1に、ずれ吸収部23は、差分表示画面71(図7)を出力装置13に表示する。この段階では、差分表示画面71は、膨張度調整スライダ73のみを表示している。
第2に、ずれ吸収部23は、設計者が膨張度調整スライダ73を操作して、任意の膨張度を入力するのを受け付ける。ここでは、“膨張度=1”が入力されたとする。
【0062】
ステップS105において、ずれ吸収部23は、膨張処理を行う。具体的には、ずれ吸収部23は、前記した方法で、“F001第1版”又は“F001第2版”のうちのいずれか又は両者に対し、“膨張度=1”に対応する膨張処理を行う。ここでは、ずれ吸収部23は、“F001第1版”に対して膨張処理を行うこととする。
【0063】
ステップS106において、差分抽出装置1の差分抽出部24は、図面間の差分を抽出する。具体的には、差分抽出部24は、膨張処理が行われた“F001第1版”と、膨張処理が行われていない“F001第2版”を重ね合わせ、前記した方法で、“変更なし”の部分、“変更あり(削除)”の部分及び“変更あり(追加)”の部分を抽出する。
【0064】
ステップS107において、差分抽出装置1の入出力処理部21は、図面間の差分を表示する。具体的には、入出力処理部21は、出力装置13に差分表示画面71(図7)を表示し、その膨張度調整スライダ73の下の余白に、“F001第1版”と“F001第2版”を重ね合わせた図面を表示する。このとき、入出力処理部21は、図7のように、線の種類(太線、細線及び破線)で差分及び変更なしの部分を示してもよいし、図1のように、吹き出し内の文字で、差分及び変更なしの部分を示してもよい。より一般的には、入出力処理部21は、色別、輝度別、線種別に差分を分類する。
【0065】
ステップS108において、入出力処理部21は、膨張度の変更を受け付けたか否かを判断する。具体的には、入出力処理部21は、設計者が膨張度調整スライダ73を移動させるのを受け付けた場合(ステップS108“Yes”)、ステップS104に戻る。入出力処理部21は、設計者が“別処理に進む”ボタン(図示せず)を押下するのを受け付けた場合(ステップS108“No”)、ステップS109に進む。
【0066】
戻った先のステップS104の“第2”において、ずれ吸収部23は、設計者が膨張度調整スライダ73を操作して、“1”以外の任意の膨張度を入力するのを受け付ける。このようにすると、直後のステップS107において、入出力処理部21は、例えば、図7の差分表示画面72を表示することとなる。差分抽出装置1がステップS104~S107のループを繰り返すことによって、設計者は、動的に変化する差分を見ながら、膨張度を動的に調整することができる。
【0067】
ステップS109において、差分抽出装置1の表文字認識部25は、表及び文字の差分を抽出する。具体的には、表文字認識部25は、ステップS102において格納された表及び文字を補助記憶装置15から読み出し、前記した〈処理1〉~〈処理8〉を行う。
【0068】
ステップS110において、差分抽出装置1の入出力処理部21は、表及び文字の差分を表示する。具体的には、入出力処理部21は、図8の図面83を出力装置13に表示する(前記した〈処理9〉)。このとき、入出力処理部21は、ステップS102において指定された表の差分を、図面の図形部分の差分と同様に表示してもよい。
【0069】
ステップS111において、差分抽出装置1の移動量算出部26は、移動量等を算出する。具体的には、移動量算出部26は、変更前図面である“F001第1版”及び変更後図面である“F001第2版”に対して、前記した〈処理11〉~〈処理14〉を行う。
【0070】
ステップS112において、差分抽出装置1の仕様確認部27は、移動量等の妥当性を判断する。具体的には、移動量算出部27は、“F001第1版”及び“F001第2版”に対して、前記した〈処理15〉を行う。
【0071】
ステップS113において、差分抽出装置1の入出力処理部21は、移動量等及び移動量等の妥当性を表示する。具体的には、入出力処理部21は、“F001第1版”及び“F001第2版”に対して、前記した〈処理16〉及び〈処理17〉を行う。つまり、入出力処理部21は、図9の図面93のような重ね合わせた図面に、実移動距離等、及び、“合格”又は“不合格”を付して出力装置13に表示する。
その後、処理手順を終了する。
【0072】
(変形例)
前記は、設計者が膨張度を手動で入力する例である。しかしながら、設計者が最初に入力するべき初期値を思いつかない場合もある。そこで、ステップS103の直後、繰り返しループに入る直前において、ずれ吸収部23は、以下の〈処理21〉~〈処理24〉を行ってもよい。
【0073】
〈処理21〉ずれ吸収部23は、“F001第1版”及び“F002第2版”を重ね合わせた図面(変更前後を重ね合わせた図面)を出力装置13に表示する。
〈処理22〉ずれ吸収部23は、設計者が、任意の領域(位置ずれ等が発生していると思われる部分)を指定するのを受け付ける。
〈処理23〉ずれ吸収部23は、指定された領域において、図2で説明した処理を行う。すなわち、ずれ吸収部23は、膨張度を、0、1、2、3、4、・・・と変化させたうえで、膨張処理図面を作成する。
〈処理24〉ずれ吸収部23は、“変更なし”、“変更あり(削除)”及び“変更あり(追加)”が初めて同時に現れる膨張度(図2では“3”)、又は、初めて“変更なし”のみが現れる膨張度(図2では“4”)を初期値とする。
ステップS104の“第1”において、ずれ吸収部23は、膨張度調整スライダ73を、初期値の位置に設定する。設計者が初期値をそのまま選択するか否かは任意である。
【0074】
(本実施形態の効果)
本実施形態の差分抽出装置の効果は以下の通りである。
(1)差分抽出装置は、ユーザが動的に調整する膨張率に基づき、図面の差分を抽出することができる。
(2)差分抽出装置は、差分を抽出する前に、位置補正等の前処理を行うことができる。
(3)差分抽出装置は、図面同士を重ね合わせることによって、確実に差分を抽出することができる。
(4)差分抽出装置は、色等を使用して、差分をそれ以外の部分と見やすく区別することができる。
(5)差分抽出装置は、文字及び表の差分を、図形とは別に抽出することができる。
(6)差分抽出装置は、図面の差分を、移動距離、回転角度、拡大率として認識することができる。
(7)差分抽出装置は、図面の差分が指示に一致しているか否かを判断することができる。
【0075】
なお、本発明は前記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施例は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明したすべての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0076】
また、前記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウエアで実現してもよい。また、前記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウエアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、又は、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体、更には、クラウド上に置くことができる。
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしもすべての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆どすべての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0077】
1 差分抽出装置
2 端末装置
3 ネットワーク
11 中央制御装置
12 入力装置
13 出力装置
14 主記憶装置
15 補助記憶装置
16 通信装置
21 入出力処理部
22 前処理部
23 ずれ吸収部
24 差分抽出部
25 表文字認識部
26 移動量算出部
27 仕様確認部
31 図面
32 仕様変更指示書
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10