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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】エンドミル及び摩擦攪拌接合用工具
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/587 20060101AFI20240311BHJP
   B23C 5/16 20060101ALI20240311BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20240311BHJP
   B23K 20/12 20060101ALI20240311BHJP
   C04B 35/599 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
C04B35/587
B23C5/16
B23B27/14 B
B23K20/12 344
C04B35/599
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020140663
(22)【出願日】2020-08-24
(65)【公開番号】P2022036451
(43)【公開日】2022-03-08
【審査請求日】2023-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】米倉 宏
(72)【発明者】
【氏名】茂木 淳
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-307208(JP,A)
【文献】国際公開第2017/203738(WO,A1)
【文献】特開2014-141359(JP,A)
【文献】特開2005-194116(JP,A)
【文献】国際公開第2016/052468(WO,A1)
【文献】特開平08-067566(JP,A)
【文献】特開2018-015793(JP,A)
【文献】特開2017-209716(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/587
B23C 5/16
B23B 27/14
B23K 20/12
C04B 35/599
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化珪素又はサイアロンを主成分とする窒化珪素質焼結体から構成されたエンドミルであって、
前記窒化珪素質焼結体は、端面と、前記端面に連なる外周面とを有し、
前記窒化珪素質焼結体は、β窒化珪素及びβサイアロンの少なくとも一方を含有しており、
前記窒化珪素質焼結体のXRDピークのうちで、前記β窒化珪素及び/又は前記βサイアロンの結晶面(200)面に帰属されるピーク強度I(200)と、前記β窒化珪素及び/又は前記βサイアロンの結晶面(002)面に帰属されるピーク強度I(002)とが、前記外周面から観察した際に下記の関係式[1]を満たし、前記端面から観察した際に下記の関係式[2]を満たす、エンドミル。

関係式[1]:0.80≦I(200)/(I(200)+I(002))≦1.00
関係式[2]:0.50≦I(200)/(I(200)+I(002))≦0.70
【請求項2】
前記窒化珪素質焼結体は、1000℃における曲げ強度が25℃における曲げ強度に対して90%以上である、請求項1に記載のエンドミル。
【請求項3】
表面に被覆層が形成されている、請求項1または請求項2に記載のエンドミル。
【請求項4】
窒化珪素又はサイアロンを主成分とする窒化珪素質焼結体から構成される摩擦攪拌接合用工具であって、
前記窒化珪素質焼結体は、端面と、前記端面に連なる外周面とを有し、
前記窒化珪素質焼結体は、β窒化珪素及びβサイアロンの少なくとも一方を含有しており、
前記窒化珪素質焼結体のXRDピークのうちで、前記β窒化珪素及び/又は前記βサイアロンの結晶面(200)面に帰属されるピーク強度I(200)と、前記β窒化珪素及び/又は前記βサイアロンの結晶面(002)面に帰属されるピーク強度I(002)とが、前記外周面から観察した際に下記の関係式[1]を満たし、前記端面から観察した際に下記の関係式[2]を満たす、摩擦攪拌接合用工具。

関係式[1]:0.80≦I(200)/(I(200)+I(002))≦1.00
関係式[2]:0.50≦I(200)/(I(200)+I(002))≦0.70
【請求項5】
前記窒化珪素質焼結体は、1000℃における曲げ強度が25℃における曲げ強度に対して90%以上である、請求項4に記載の摩擦攪拌接合用工具。
【請求項6】
表面に被覆層が形成されている、請求項4または請求項5に記載の摩擦攪拌接合用工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エンドミル及び摩擦攪拌接合用工具に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化珪素又はサイアロンからなる窒化珪素質焼結体は、他のセラミックス焼結体よりも優れる耐熱衝撃性と、金属材料よりも優れる耐熱・耐反応性を具備しており、摩擦撹拌接合用工具や切削工具として使用されている(特許文献1及び特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-198895号公報
【文献】特開2002-307208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年は上記の工具を用いた加工の高能率化が求められており、工具の更なる耐久性の向上が望まれている。
エンドミルでは、高能率化の為に切削加工の高送り化が求められる。しかし、切削加工の高送り化は、送り方向について工具負荷を高める要因となり、工具に欠損が発生しやすくなる。
摩擦撹拌接合用工具では、高能率化の為に接合の高速化が求められる。しかし、接合の高速化は、入熱不足によって工具負荷を高める要因となり、工具に欠損が発生しやすくなる。
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、耐欠損性を改善したエンドミル及び摩擦撹拌接合用工具を提供することを目的とする。本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
〔1〕窒化珪素又はサイアロンを主成分とする窒化珪素質焼結体から構成されたエンドミルであって、
前記窒化珪素質焼結体は、端面と、前記端面に連なる外周面とを有し、
前記窒化珪素質焼結体は、β窒化珪素及びβサイアロンの少なくとも一方を含有しており、
前記窒化珪素質焼結体のXRDピークのうちで、前記β窒化珪素及び/又は前記βサイアロンの結晶面(200)面に帰属されるピーク強度I(200)と、前記β窒化珪素及び/又は前記βサイアロンの結晶面(002)面に帰属されるピーク強度I(002)とが、前記外周面から観察した際に下記の関係式[1]を満たし、前記端面から観察した際に下記の関係式[2]を満たす、エンドミル。

関係式[1]:0.80≦I(200)/(I(200)+I(002))≦1.00
関係式[2]:0.50≦I(200)/(I(200)+I(002))≦0.70
【0006】
〔2〕前記窒化珪素質焼結体は、1000℃における曲げ強度が25℃における曲げ強度に対して90%以上である、〔1〕に記載のエンドミル。
【0007】
〔3〕表面に被覆層が形成されている、〔1〕また〔2〕に記載のエンドミル。
【0008】
〔4〕窒化珪素又はサイアロンを主成分とする窒化珪素質焼結体から構成される摩擦攪拌接合用工具であって、
前記窒化珪素質焼結体は、端面と、前記端面に連なる外周面とを有し、
前記窒化珪素質焼結体は、β窒化珪素及びβサイアロンの少なくとも一方を含有しており、
前記窒化珪素質焼結体のXRDピークのうちで、前記β窒化珪素及び/又は前記βサイアロンの結晶面(200)面に帰属されるピーク強度I(200)と、前記β窒化珪素及び/又は前記βサイアロンの結晶面(002)面に帰属されるピーク強度I(002)とが、前記外周面から観察した際に下記の関係式[1]を満たし、前記端面から観察した際に下記の関係式[2]を満たす、摩擦攪拌接合用工具。

関係式[1]:0.80≦I(200)/(I(200)+I(002))≦1.00
関係式[2]:0.50≦I(200)/(I(200)+I(002))≦0.70
【0009】
〔5〕前記窒化珪素質焼結体は、1000℃における曲げ強度が25℃における曲げ強度に対して90%以上である、〔4〕に記載の摩擦攪拌接合用工具。
【0010】
〔6〕表面に被覆層が形成されている、〔4〕または〔5〕に記載の摩擦攪拌接合用工具。
【発明の効果】
【0011】
上記関係式[1]及び関係式[2]を満たすことによって、エンドミルの耐欠損性が向上する。
窒化珪素質焼結体の1000℃における曲げ強度が25℃における曲げ強度に対して90%以上である場合には、エンドミルの耐熱衝撃性が向上する。
表面に被覆層が形成されている場合には、エンドミルの耐摩耗性が向上する。
上記関係式[1]及び関係式[2]を満たすことによって、摩擦撹拌接合用工具の耐欠損性が向上する。
窒化珪素質焼結体の1000℃における曲げ強度が25℃における曲げ強度に対して90%以上であるの場合には、摩擦撹拌接合用工具の耐熱衝撃性が向上する。
表面に被覆層が形成されている場合には、摩擦撹拌接合用工具の耐摩耗性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】エンドミルの側面図である。
図2】外周面におけるβ窒化珪素及び/又はβサイアロンの配向を模式的に示す図である。
図3】エンドミルの前面図である。
図4】端面におけるβ窒化珪素及び/又はβサイアロンの配向を模式的に示す図である。
図5】実施例の外周面におけるX線回析パターンを示す図である。
図6】摩擦攪拌接合用工具の側面図である。
図7】摩擦攪拌接合用工具の前面図である。
図8】摩擦攪拌接合用工具の使用状態を説明する斜視図である。
図9】実施例1~10の焼成工程における温度及びプレス圧力の変化を示すグラフである。
図10】比較例1,2の焼成工程における温度及びプレス圧力の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示を詳しく説明する。なお、本明細書において、数値範囲について「~」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10~20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10~20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。
【0014】
1.エンドミル
エンドミル10は、窒化珪素又はサイアロンを主成分とする窒化珪素質焼結体11から構成されている。窒化珪素質焼結体11は、端面20と、端面20に連なる外周面30とを有している。窒化珪素質焼結体11は、β窒化珪素及びβサイアロンの少なくとも一方を含有している。
エンドミル10は、窒化珪素質焼結体11のXRD(X-ray diffraction)ピークのうちで、β窒化珪素及び/又はβサイアロンの結晶面(200)面に帰属されるピーク強度I(200)と、β窒化珪素及び/又はβサイアロンの結晶面(002)面に帰属されるピーク強度I(002)とが、外周面30から観察した際に下記の関係式[1]を満たし、端面20から観察した際に下記の関係式[2]を満たす。

関係式[1]:0.80≦I(200)/(I(200)+I(002))≦1.00
関係式[2]:0.50≦I(200)/(I(200)+I(002))≦0.70
【0015】
(1)エンドミルの構成
エンドミル10は、図1及び図3に示すように、窒化珪素質焼結体11から構成された略円柱形状の切削工具である。窒化珪素質焼結体11の中心軸を軸線X1と称する。
窒化珪素質焼結体11は、端面20と、端面20に連なる外周面30とを有している。端面20は、窒化珪素質焼結体11の前端側に位置している。窒化珪素質焼結体11を、コーナ22を通り軸線X1を含む平面で切断した場合に、切断面において端面20と外周面30は互いに略直交する。
【0016】
端面20には、底刃21が設けられている。底刃21は、軸線X1の近傍から径方向外側に向かうように形成されている。外周面30には、外周刃31と切屑排出溝32が設けられている。外周刃31は、コーナ22を介して底刃21に連なっている。外周刃31は、窒化珪素質焼結体11の前端側(図1の下方)から後端側に向けて、軸線X1の回転方向の後方側に捩れるように複数条(例えば4条)形成されている。複数条の外周刃31は、周方向に等間隔に形成されている。切屑排出溝32は、隣り合う外周刃31の間において、前端側から後端側に向けて、軸線X1の回転方向の後方側に捩れるように形成されている。
【0017】
エンドミル10は、図示しない切削装置に取り付けられて使用される。エンドミル10は、切削装置からの加圧を受けて、回転しながら被切削部材(図示せず)に対して軸線X1の方向に押し込まれ、軸線X1の方向と垂直な方向に送り出される。すると、底刃21及び外周刃31によって、被切削部材が切削される。つまり、エンドミル10の端面20は被切削部材への押し込み方向に位置している。エンドミル10の外周面30はエンドミル10の送り出し方向(移動方向)に位置している。
【0018】
(2)窒化珪素質焼結体に含まれる成分
窒化珪素質焼結体11は、窒化珪素又はサイアロンを主成分とする。ここで、主成分とは、含有率(質量%)が50質量%以上の成分をいう。窒化珪素質焼結体11の主成分は、窒化珪素(Si)であってもよく、SiのSiあるいはNの一部がAlあるいは酸素で置換されたサイアロンであってもよい。窒化珪素質焼結体11は、窒化珪素又はサイアロンからなる主結晶相が、結合相にて結合した形態である。
【0019】
窒化珪素質焼結体11は、β窒化珪素及びβサイアロンの少なくとも一方を含有している。βサイアロンは、例えば、組成式Si6-ZAl8-Z(0<Z≦4.2)で表される。β窒化珪素又はβサイアロンは、針状の粒子形状を有するため、高靭性である。なお、窒化珪素質焼結体11において、窒化珪素又はサイアロン全体に対するβ窒化珪素又はβサイアロンの割合は特に限定されない。
窒化珪素質焼結体11は、窒化珪素としてβ窒化珪素以外にα窒化珪素を含有していてもよい。窒化珪素質焼結体11は、サイアロンとしてβサイアロン以外にαサイアロンを含有していてもよい。α窒化珪素又はαサイアロンは等軸状の粒子形状を有するため、β窒化珪素又はβサイアロンと比較して低靭性ではあるが、硬度が高い。
【0020】
窒化珪素質焼結体11は、焼結助剤として用いられる希土類元素、例えば、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ジスプロシウム(Dy)、イッテルビウム(Yb)、エルビウム(Er)、セリウム(Ce)及びルテチウム(Lu)から成る群より選択される元素の少なくとも一種を含有していてもよい。これらの元素の含有量は特に限定されない。これらの元素の含有量は、窒化珪素質焼結体11に対して、酸化物換算で1質量%以上7質量%以下であってもよい。なお、酸化物換算とは酸素と結合した酸化物に換算することをいう。
窒化珪素質焼結体11は、これらの中でも、高温特性に優れるという観点から、イットリウム(Y)を含有することが好ましい。
【0021】
窒化珪素質焼結体11は、窒化珪素又はサイアロン以外に、例えば炭化珪素(SiC)、窒化チタン(TiN)、炭窒化チタン(TiCN)、炭化チタン(TiC)、炭化タングステン(WC)等の硬質炭窒化物を含有していてもよい。硬質炭窒化物の含有量は特に限定されない。硬質炭窒化物の含有量は、例えば、窒化珪素質焼結体11に対して1質量%以上7質量%以下であってもよい。
窒化珪素質焼結体11は、これらの中でも、高温特性に優れるという観点から、炭化珪素(SiC)を含有することが好ましい。
【0022】
(3)I(200)、I(002)の関係式
ここで、I(200)、I(002)の関係式について説明する。図5は、一実施例の外周面におけるX線回析パターンを示している。
窒化珪素質焼結体11が、β窒化珪素を含有している場合には、ピーク強度I(200)は、β窒化珪素のXRDピークのうちで、結晶面(200)に帰属されるピークの強度である。例えば、2θ=27.0°付近におけるピーク高さが好適に用いられる。ピーク強度I(002)は、β窒化珪素のXRDピークのうちで、結晶面(002)に帰属されるピークの強度である。例えば、2θ=63.9°付近におけるピーク高さが好適に用いられる。
窒化珪素質焼結体11が、βサイアロンを含有している場合には、ピーク強度I(200)は、βサイアロンのXRDピークのうちで、結晶面(200)に帰属されるピークの強度である。例えば、2θ=27.3°付近におけるピーク高さが好適に用いられる。ピーク強度I(002)は、βサイアロンのXRDピークのうちで、結晶面(002)に帰属されるピークの強度である。例えば、2θ=64.1°付近におけるピーク高さが好適に用いられる。
窒化珪素質焼結体11が、β窒化珪素及びβサイアロンの双方を含有している場合には、β窒化珪素とβサイアロンの結晶面(200)に帰属されるピークと結晶面(002)に帰属されるピークは位置が近く重なる。この場合には、β窒化珪素及びβサイアロンのXRDピークのうちで、結晶面(200)に帰属されるピークの強度、例えば、2θ=27.0°付近におけるピーク高さをピーク強度I(200)として採用することができる。β窒化珪素及びβサイアロンのXRDピークのうちで、結晶面(002)に帰属されるピークの強度、例えば、2θ=64.0°付近におけるピーク高さをピーク強度I(002)として採用することができる。
なお、窒化珪素質焼結体11が、β窒化珪素及びβサイアロンの一方のみを含有しているか双方を含有しているか判断が容易ではない場合は、双方を含有しているとみなしてよい。
【0023】
ピーク強度I(200)とI(002)は、上記関係式[1][2]を満たしているが、下記関係式[1’][2’]を満たしていることが好ましい。

関係式[1’]:
0.86≦I(200)/(I(200)+I(002))≦1.00
関係式[2’]:
0.55≦I(200)/(I(200)+I(002))≦0.65
【0024】
ピーク強度比I(200)/(I(200)+I(002))が1.00の場合は、すべてのβ窒化珪素又はβサイアロンの結晶粒子の長軸(以下c軸ともいう)が測定面に対して平行であることを意味する。I(200)/(I(200)+I(002))が0.00の場合は、すべてのβ窒化珪素又はβサイアロンの結晶粒子の長軸が測定面に対して垂直であることを意味する。
【0025】
外周面30から観察した際のI(200)/(I(200)+I(002))の値をXとし、端面20から観察した際のI(200)/(I(200)+I(002))の値をYとした場合に、X-Y≧0.12を満たしていることが好ましい。
【0026】
図2は、外周面30におけるβ窒化珪素及び/又はβサイアロンの配向を模式的に示している。図2におけるZ軸方向は、図1におけるZ軸方向(エンドミル10の軸線X1方向)と一致している。図4は、端面20におけるβ窒化珪素及び/又はβサイアロンの配向を模式的に示している。図4におけるX軸方向及びY軸方向は、図1及び図2のZ軸方向と直交している。
上記関係式[1][2]を満たす構成では、図2及び図4に示されるように、β窒化珪素及び/又はβサイアロンの結晶粒子がZ軸方向に優先して配向している。
【0027】
上記関係式[1][2]を満たすようにβ窒化珪素又はβサイアロンの結晶粒子の配向を制御するためには、後述の「2.β窒化珪素又はβサイアロンの配向制御」に記載した方法が好適に採用される。この方法によれば、β窒化珪素又はβサイアロンの結晶粒子が、c軸方向に粒成長するに際して、成長方向が制御されて、窒化珪素質焼結体11内でのβ窒化珪素又はβサイアロンの結晶粒子の配向がコントロールされる。
【0028】
(4)窒化珪素質焼結体の曲げ強度
窒化珪素質焼結体11は、耐熱衝撃性を向上する観点から、1000℃における曲げ強度が25℃における曲げ強度に対して90%以上であることが好ましく、92%以上であることがより好ましく、94%以上であることがさらに好ましい。25℃における曲げ強度に対する1000℃における曲げ強度は、通常100%以下である。
なお、窒化珪素質焼結体11の曲げ強度は、全長40mm、幅4mm、厚さ3mmの試験片を用いて測定できる。25℃における曲げ強度は、JIS R 1601に準じたファインセラミックスの室温曲げ強さ試験方法(3点曲げ方式、スパン30mm)によって測定できる。1000℃における曲げ強度は、JIS R 1604に準じたファインセラミックスの高温曲げ強さ試験方法(3点曲げ方式、スパン30mm)によって測定できる。
【0029】
窒化珪素質焼結体11の1000℃における曲げ強度は、耐熱衝撃性を向上するという観点から、980MPa以上であることが好ましく、1000MPa以上であることがより好ましく、1030MPa以上であることがさらに好ましい。窒化珪素質焼結体11の1000℃における曲げ強度の上限は、例えば、1200MPaである。
なお、窒化珪素質焼結体11の1000℃における曲げ強度は、例えば、高温特性に優れた硬質炭窒化物を配合することによって向上できる。
【0030】
(5)被覆層
エンドミル10は、表面に被覆層が形成されていることが好ましい。被覆層は、チタン、クロム、及びアルミニウムからなる群より選択される少なくとも1種の炭化物、窒化物、酸化物、炭窒化物、炭酸化物、窒酸化物、及び炭窒酸化物からなる少なくとも1種の表面被覆層であってもよい。
被覆層が形成されると、エンドミル10の表面硬度が増加すると共に、被加工物との反応・溶着による摩耗進行が抑制される。その結果、エンドミル10の耐摩耗性が向上する。
チタン、クロム、及びアルミニウムの炭化物、窒化物、酸化物、炭窒化物、炭酸化物、窒酸化物、及び炭窒酸化物より選択される少なくとも1種の化合物としては、特に限定されないが、TiN、TiAlN、TiAlCrN、AlCrNが好適な例として挙げられる。
被覆層の厚みは、特に限定されない。被覆層の厚みは、耐摩耗性の観点から、0.02μm~30μmが好ましく、0.05μm~20μmがより好ましく、0.1μm~10μmが更に好ましい。
【0031】
2.β窒化珪素又はβサイアロンの結晶粒子の配向制御
エンドミル10は、β窒化珪素又はβサイアロンの結晶粒子の配向が制御されて、上記関係式[1][2]が満たされている。
β窒化珪素又はβサイアロンの結晶粒子の配向は、例えば、次のようにして制御できる。すなわち、ホットプレスや、放電プラズマ焼結(SPS:Spark Plasma Sintering)等の加圧焼成における加圧条件及び加熱条件をコントロールすることで、β窒化珪素又はβサイアロンの結晶粒子の配向が制御される。
例えば、次のようにして結晶粒子の配向が制御される。従来、エンドミル10を製造するに際して、所定のプレス圧力にて所定温度で焼成する焼成過程(本焼成過程)を採用していた。これに対して、結晶粒子の配向を制御するためには、この焼成過程(本焼成過程)に先だって、所定のプレス圧力よりも低いプレス圧力にて、所定温度よりも低い温度で焼成する予備焼成過程を備えることで、結晶粒子の配向を制御できる。また、従来の焼成では、焼成過程から降温するに際してプレス圧力を掛けていないが、降温の際にプレス圧力を掛けてもよい。降温の際のプレス圧力により、結晶粒子の配向がより促進される。
なお、予備焼成過程での加圧は、エンドミル10のサイズ、形状等に応じて適宜変更される。予備焼成過程は、例えば、1300℃~1500℃の温度域、エンドミル10の外周面30をプレス面とした5MPa~15MPaの加圧、1時間~4時間の加圧時間が好ましく採用される。
【0032】
3.エンドミルの耐欠損性が優れる推測理由
ここで、本開示のエンドミル10が、耐欠損性に優れることについて、推測される理由を説明する。なお、以下の説明では、「I(200)/(I(200)+I(002))」を「ピーク強度比」ともいう。
関係式[1]及び関係式[2]を満たすことで、外周面30にかかる負荷に対する耐久性が上がる。これは、外周面30の面方向(図1及び図2のZ軸方向)に窒化珪素またはサイアロンが針状に配向成長し、外周面30にブリッジング効果(くさび効果)が働くためと考えられる。
仮にこのような配向成長が無い場合、外周面30から観察した際のピーク強度比が0.8未満となり、端面20から観察した際のピーク強度比が0.7よりも大きくなり、ブリッジング効果が不足するから、外周面30が負荷に耐え切れず、エンドミル10の欠損が誘発されると考えられる。
他方、配向が進行しすぎると、端面20から観察した際のピーク強度比が0.5未満になり、端面20の耐欠損性が低くなると推測される。すなわち、この場合には、端面20のブリッジング効果がほとんど無くなってしまい、端面20が強度不足なり、エンドミル10が欠損すると考えられる。
【0033】
4.摩擦攪拌接合用工具
摩擦攪拌接合用工具110は、窒化珪素又はサイアロンを主成分とする窒化珪素質焼結体111から構成されている。窒化珪素質焼結体111は、端面120と、端面120に連なる外周面130とを有している。窒化珪素質焼結体111は、β窒化珪素又はβサイアロンの少なくとも一方を含有している。
摩擦攪拌接合用工具110は、窒化珪素質焼結体111のXRDピークのうちで、β窒化珪素及び/又はβサイアロンの結晶面(200)面に帰属されるピーク強度I(200)と、β窒化珪素及び/又はβサイアロンの結晶面(002)面に帰属されるピーク強度I(002)とが、外周面130から観察した際に下記の関係式[1]を満たし、端面120から観察した際に下記の関係式[2]を満たす。

関係式[1]:0.80≦I(200)/(I(200)+I(002))≦1.00
関係式[2]:0.50≦I(200)/(I(200)+I(002))≦0.70
【0034】
(1)摩擦攪拌接合用工具の構成
摩擦攪拌接合用工具110は、図6及び図7に示すように、窒化珪素質焼結体111から構成された略円柱形状の接合用工具である。窒化珪素質焼結体111の中心軸を軸線X2と称する。窒化珪素質焼結体111は、端面120と、端面120に連なる外周面130とを有している。端面120は、窒化珪素質焼結体111の前端側に位置している。窒化珪素質焼結体111を、軸線X1を含む平面で切断した場合に、切断面において端面120と外周面130は互いに略直交する。
【0035】
窒化珪素質焼結体111は、軸部112と突起部113とを備える。軸部112は、軸線X2方向に延びる略円柱状に形成されている。突起部113は、略円柱状に形成されており、軸部112の前端部における軸線X2に略垂直な面(ショルダー部とも称する)から、前方に突出して設けられている。突起部113は、ショルダー部における中心部に形成されており、突起部113の軸線は、軸部112の軸線X2と一致する。窒化珪素質焼結体111の端面120として、突起部113の端面が例示される。窒化珪素質焼結体111の外周面130として、突起部113の外周面が例示される。
【0036】
図8は、摩擦攪拌接合用工具110の使用状態を例示した図である。摩擦攪拌接合用工具110は、図示しない接合装置に取り付けられて使用される。摩擦攪拌接合用工具110の突起部113は、接合装置からの加圧を受けて、被接合部材114,115の境界である接合線WLへ回転しながら押し込まれる。そして、突起部113が被接合部材114,115に押し込まれた状態のまま、被接合部材114,115は、図において白抜きの矢印で示す方向に摩擦攪拌接合用工具110に対して相対的に移動する。これにより、摩擦攪拌接合用工具110は、接合線WLに沿って相対的に移動する。本実施形態において、被接合部材114,115は、鋼の板材であるが、鋼に代えて他の任意の金属であってもよい。被接合部材114,115の接合線WL付近は、突起部113との間の摩擦熱によって塑性流動する。被接合部材114,115の塑性流動した部分を突起部113が攪拌することにより、接合領域WAが形成される。この接合領域WAによって、被接合部材114,115が互いに結合される。つまり、摩擦攪拌接合用工具110の端面120は被接合部材114,115への押し込み方向に位置している。摩擦攪拌接合用工具110の外周面130は摩擦攪拌接合用工具110の被接合部材114,115に対する移動方向に位置している。
【0037】
なお、摩擦攪拌接合用工具110において、窒化珪素質焼結体111に含まれる成分、I(200)、I(002)の関係式、被覆層、β窒化珪素又はβサイアロンの結晶粒子の配向制御については、上述したエンドミル10における「(2)窒化珪素質焼結体に含まれる成分」、「(3)I(200)、I(002)の関係式」、「(4)被覆層」、「2.β窒化珪素又はβサイアロンの結晶粒子の配向制御」と同様であり説明を省略する。
【0038】
5.摩擦攪拌接合用工具の耐欠損性が優れる推測理由
ここで、本開示の摩擦攪拌接合用工具110が、耐欠損性に優れることについて、推測される理由を説明する。なお、以下の説明では、「I(200)/(I(200)+I(002))」を「ピーク強度比」ともいう。
関係式[1]及び関係式[2]を満たすことで、外周面130にかかる負荷に対する耐久性が上がる。これは、外周面130の面方向(図6のZ軸方向)に窒化珪素またはサイアロンが針状に配向成長し、外周面130にブリッジング効果(くさび効果)が働くためと考えられる。
仮にこのような配向成長が無い場合、外周面130から観察した際のピーク強度比が0.8未満となり、端面120から観察した際のピーク強度比が0.7よりも大きくなり、ブリッジング効果が不足するから、例えば入熱不足に起因して被接合部材114,115の軟化の程度が低い場合に外周面130が負荷に耐え切れず、摩擦攪拌接合用工具110の欠損が誘発されると考えられる。
他方、配向が進行しすぎると、端面120から観察した際のピーク強度比が0.5未満になり、端面120の耐欠損性が低くなると推測される。すなわち、この場合には、端面120のブリッジング効果がほとんど無くなってしまい、端面120が強度不足なり、摩擦攪拌接合用工具110が欠損すると考えられる。
【実施例
【0039】
以下の実験では、実施例1~10、比較例1~4の各窒化珪素質焼結体を作製し、これらの各窒化珪素質焼結体を加工して、実施例1~10、比較例1~4のエンドミル及び摩擦攪拌接合用工具とした。
【0040】
1.窒化珪素質焼結体の作製
(1)配合
各実施例及び比較例の窒化珪素質焼結体に用いた原料粉末の配合(質量%)を表1に示す。酸化アルミニウム(Al)及び窒化アルミニウム(AlN)は、α窒化珪素(α-Si)のサイアロン化のために用いられている。酸化イットリウム(Y)は窒化珪素質焼結体11の焼結性を向上させるための助剤である。
なお、原料粉末は、以下に示すものである。
α-Si粉末:平均粒径0.1μm
Al粉末:平均粒径0.5μm
AlN粉末:平均粒径1.0μm
粉末:平均粒径0.8μm
β-SiC粉末:平均粒径0.8μm
【0041】
【表1】
【0042】
(2)混合及び乾燥
樹脂ポットに原料粉末とエタノールを投入し、24時間混合粉砕した。混合粉砕の後、スラリーを湯煎乾燥してエタノールの抜気を行い、乾燥混合粉末を得た。
なお、ここまでの工程は、全ての実施例及び比較例の窒化珪素質焼結体で共通している。
【0043】
(3)焼成
(3-1)実施例1~10の窒化珪素質焼結体
実施例1~10の窒化珪素質焼結体では、次の方法でホットプレス焼成して窒化珪素質焼結体を得た。
混合粉末は、3atmの窒素雰囲気下において、次の条件で焼成された。ホットプレス焼成における温度とプレス圧力の様子が図9に示されている。混合粉末は、焼成温度(1600℃~1830℃)に到達する前の昇温時に1430℃にて2時間保持された。1430℃に保持されている間、外周面をプレス面として10MPaの加圧が行われた(第1プレス処理)。その後に、昇温して焼成温度にて1.5時間保持された。第1プレス処理後の昇温時と、焼成温度に保持されている間、外周面をプレス面として35MPaの加圧が行われた。焼成温度での保持が終了して、焼成温度から1430℃まで降温する間、約4時間に亘って、外周面をプレス面として35MPaの加圧が続けられた。
以上のようにして、実施例1~10の窒化珪素質焼結体が得られた。
なお、表1における「焼成方法」の「HP」とはホットプレス焼成を行ったことを意味する。表1における「第1プレス処理の有無」の「有」とは「昇降温時に、焼成温度より低い温度域で温度をおよそ一定に保持しながら加圧することを行った」を意味する。また、「無」とは「昇降温時に、焼成温度より低い温度域で温度をおよそ一定に保持しながら加圧することを行わなかった」を意味する。
【0044】
(3-2)比較例1,2の窒化珪素質焼結体
比較例1,2の窒化珪素質焼結体は、乾燥及び造粒までは実施例2,4の窒化珪素質焼結体と同じであるが、焼成温度より低い温度域(ここでは、1430℃)での加圧を行わない点で実施例2,4の窒化珪素質焼結体と相違する。また、比較例1,2の窒化珪素質焼結体は、焼成温度での保持が終了して、焼成温度から1430℃まで降温する間、加圧を行わない点で実施例1~10の窒化珪素質焼結体と相違する。すなわち、比較例1,2は従来のホットプレス焼成を採用している。
このホットプレス焼成における温度とプレス圧力の様子が図10に示されている。第1プレス処理と、降温時における加圧が行われていない様子が示されている。
以上のようにして、比較例1,2の窒化珪素質焼結体が得られた。
【0045】
(3-3)比較例3,4の窒化珪素質焼結体
比較例3,4の窒化珪素質焼結体は、乾燥及び造粒までは実施例2,4の窒化珪素質焼結体と同じであるが、その後の処理が実施例2,4の窒化珪素質焼結体と相違する。すなわち、比較例3,4の窒化珪素質焼結体では、混合粉末は、まず室温、100MPaで成形された。次にこの成形体が以下のように焼成された。成形体は、常圧の窒素雰囲気下において焼成(一次焼成)された後に、HIP焼成(熱間等方圧加圧法による焼成)された。なお、一次焼成時、成形体は、無加圧にて1750℃で2.5時間保持された。HIP焼成は、100MPaの窒素雰囲気下にて1650℃で2.5時間保持された。
以上のようにして、比較例3,4の窒化珪素質焼結体が得られた。
なお、表1における「焼成方法」の「常圧+HIP」とは、常圧下の一次焼成と、HIP焼成を行ったことを意味する。
【0046】
2.XRD分析(X線回折分析)
(1)測定方法
β窒化珪素及び/又はβサイアロンの結晶面(200)面に帰属されるピーク強度I(200)と、結晶面(002)に帰属されるピークの強度(002)を測定するために、各窒化珪素質焼結体に対してX線回折測定を行った。各ピーク強度I(200)、I(002)は、以下の2θ値におけるピーク高さとした。
ピーク強度I(200):2θ=27.0°付近におけるピーク高さ
ピーク強度I(002):2θ=64.0°付近におけるピーク高さ
各窒化珪素質焼結体の外周面及び端面について、それぞれピーク強度I(200)、I(002)を求め、I(200)/(I(200)+I(002))の値を算出した。算出した外周面における値を、表1の「ピーク強度比」、「外周面」の欄に示す。算出した端面における値を、表1の「ピーク強度比」、「端面」の欄に示す。
なお、各面のピーク強度は、以下の条件で測定した。
・X線回折装置
(株)リガク製 X線回折装置 RINT-TTR III
・X線回折条件
モノクロメータ:使用
ターゲット:Cu
管電流:300mA
管電圧:50kV
スキャンスピード2度/分
サンプリング幅0.02度
【0047】
(2)測定結果
窒化珪素質焼結体のXRD分析を行った所、実施例1~10の窒化珪素質焼結体では、外周面のI(200)/(I(200)+I(002))は0.8以上1.0以下であり、端面のI(200)/(I(200)+I(002))0.5以上0.7以下であった。
比較例1,2の窒化珪素質焼結体は、ホットプレス焼成において第1プレス処理を行っていない窒化珪素質焼結体である。比較例1,2では、外周面において、I(200)/(I(200)+I(002))が0.8未満であった。
比較例3,4の窒化珪素質焼結体は、ホットプレス焼成ではなく、常圧下の一次焼成と、HIP焼成を行った窒化珪素質焼結体である。比較例3,4の窒化珪素質焼結体は、外周面において、I(200)/(I(200)+I(002))が0.8未満であった。
【0048】
3.窒化珪素質焼結体の曲げ強度
実施例1~10及び比較例1~4の各試験片について、実施形態に記載の方法によって、25℃における曲げ強度(MPa)と1000℃における曲げ強度(MPa)を求めた。25℃における曲げ強度(MPa)を表1中、「曲げ強度」、「25℃:A」の欄に示す。1000℃における曲げ強度(MPa)を表1中、「曲げ強度」、「1000℃:B」の欄に示す。
そして、25℃における曲げ強度に対する1000℃における曲げ強度の比率(%)を算出した。その結果を表1中、「曲げ強度」、「強度比B/A」の欄に示す。
【0049】
4.エンドミルの作製
実施例1~10及び比較例1~4の窒化珪素質焼結体について、研磨加工して、工具形状(外径10mm、コーナ半径1.25mm、4flute)のエンドミルを作製した。
なお、表1には、上述のように窒化珪素質焼結体の原料粉末の組成(配合)が示されているが、この組成は焼成後にも変化しないから、各窒化珪素質焼結体の組成と同等である。そして、焼成後の各窒化珪素質焼結体を機械加工して、エンドミルとしているのであるから、結局、原料粉末の組成はエンドミルの組成と同等である。
【0050】
5.切削試験
(1)試験方法
各エンドミルを用いて、切削試験を行った。試験条件は下記の通りである。
・被削材:FC300
・切削速度:300m/min~
・評価:切削速度を100m/minずつ上げていき、工具欠損が起きた時の速度を工具寿命とする。
【0051】
(2)試験結果
試験結果を表1の「切削試験」の欄に示す。実施例1~10のエンドミルは、工具寿命における切削速度が大きく、良好な耐欠損性を示した。他方、比較例1~4のエンドミルは、実施例1~10のエンドミルに比べて工具寿命における切削速度が小さく、耐欠損性が低かった。
以上の結果から、外周面から観察した際に関係式[1]:0.80≦I(200)/(I(200)+I(002))≦1.00を満たし、端面から観察した際に関係式[2]:0.50≦I(200)/(I(200)+I(002))≦0.70を満たすことにより、エンドミルの耐欠損性が向上することが確認された。
【0052】
6.摩擦攪拌接合用工具の作製
実施例1~10及び比較例1~4の窒化珪素質焼結体について、研磨加工して、工具形状(ショルダー径12mm、プローブ長2mm)の摩擦攪拌接合用工具を作製した。
なお、表1には、上述のように窒化珪素質焼結体の原料粉末の組成(配合)が示されているが、この組成は焼成後にも変化しないから、各窒化珪素質焼結体の組成と同等である。そして、焼成後の各窒化珪素質焼結体を機械加工して、摩擦攪拌接合用工具としているのであるから、結局、原料粉末の組成は摩擦攪拌接合用工具の組成と同等である。
【0053】
7.FSW(Friction Stir Welding)試験
(1)試験方法
各摩擦攪拌接合用工具を用いて、FSW試験を行った。試験条件は下記の通りである。
・被削材:SUS304
・ツール回転速度:1000rpm
・接合速度:100mm/min~
・評価:接合速度を50mm/minずつ上げていき、工具欠損が起きた時の速度を工具寿命とする。
【0054】
(2)試験結果
試験結果を表1の「FSW試験」の欄に示す。実施例1~10の摩擦攪拌接合用工具は、工具寿命における接合速度が大きく、良好な耐欠損性を示した。他方、比較例1~4の摩擦攪拌接合用工具は、実施例1~10の摩擦攪拌接合用工具に比べて工具寿命における接合速度が小さく、耐欠損性が低かった。
以上の結果から、外周面から観察した際に関係式[1]:0.80≦I(200)/(I(200)+I(002))≦1.00を満たし、端面から観察した際に関係式[2]:0.50≦I(200)/(I(200)+I(002))≦0.70を満たすことにより、摩擦攪拌接合用工具の耐欠損性が向上することが確認された。
【0055】
本発明は上記で詳述した実施形態に限定されず、本発明の請求項に示した範囲で様々な変形又は変更が可能である。
【符号の説明】
【0056】
10…エンドミル
11…窒化珪素質焼結体
20…端面
21…底刃
22…コーナ
30…外周面
31…外周刃
32…切屑排出溝
110…摩擦攪拌接合用工具
111…窒化珪素質焼結体
112…軸部
113…突起部
114,115…被接合部材
120…端面
130…外周面
WA…接合領域
WL…接合線
X1…軸線
X2…軸線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10