(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】鋳造用石膏
(51)【国際特許分類】
B22C 1/08 20060101AFI20240311BHJP
B22C 5/04 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
B22C1/08 D
B22C5/04 D
(21)【出願番号】P 2020155852
(22)【出願日】2020-09-16
【審査請求日】2023-05-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】吉川 大士
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-220638(JP,A)
【文献】国際公開第2013/191141(WO,A1)
【文献】特開平10-140263(JP,A)
【文献】特開2014-148430(JP,A)
【文献】特開2010-159190(JP,A)
【文献】特開平06-157099(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0136350(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火物から構成される骨材を含む鋳造用石膏であって、
前記骨材は、平均体積粒径が30~50μmであり且つタップ密度が0.95~1.30g/cm
3である
ことを特徴とする鋳造用石膏。
【請求項2】
前記骨材は、酸化アルミニウム粉体であって、25~75wt%の割合で含まれる
ことを特徴とする請求項1の鋳造用石膏。
【請求項3】
鋳込み型内に流し込むために請求項1又は2の鋳造用石膏を混練するに際して、25~100%の混水量が用いられている
ことを特徴とする用いられた鋳造用石膏スラリー。
【請求項4】
請求項3の鋳造用石膏スラリーが前記鋳込み型内で硬化された、前記鋳込み型の形状を有する
ことを特徴とする鋳造用石膏型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属造形物を鋳造するための鋳造用石膏型の構成材料である鋳造用石膏に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミニウム合金、亜鉛合金、マグネシウム合金、貴金属などの低融点金属からなる金属造形物を溶湯から鋳造するために用いる鋳造用石膏型において、それを構成する材料である鋳造用石膏は、強度を高め且つ乾燥時の変形を抑制するための骨材として珪砂(シリカ)が用いられていた。特許文献1および特許文献2に記載された鋳造用石膏型がそれである。
【0003】
これら鋳造用石膏型に用いられる鋳造用石膏は、加水されると速やかに硬化して石膏(CaSO4・2H2O)となる性質を有する半水石膏(CaSO4・1/2H2O)が成分として含まれる粉体材料であり、通常、粉重量に対して20~80wt%の水を用いて混練し、成形型に流し込んだ後に乾燥・硬化させられる。タイヤなど大型の製品を成形するために用いる大型の金型を製造する場合には、鋳造用石膏型も大型となるため、工数低減の観点から、鋳造用石膏型内に気泡を設けて軽量化することもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭54-151508号公報
【文献】特開昭58-058955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、鋳造される金属製品の形状が複雑化し且つ微細化する傾向があるとともに、鋳造に用いられる金属材料が多様化する傾向がある。このため、鋳造時において金属の固形化が一層不規則となり易く、鋳造された金属製品内に鬆(ス)が発生するという問題が顕著となった。
【0006】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、鋳造された金属製品内に鬆(ス)が発生することが抑制される鋳造用石膏を提供することにある。
【0007】
本発明者等は、上記事情を背景として、鋳造された金属製品内に鬆(ス)が発生することが抑制される鋳造用石膏を得るべく、種々検討を行った結果、鋳造用石膏型の熱伝導率に着目し、鋳造用石膏に混入する骨材としてセラミック材料の粒径を工夫すると、鋳造用石膏型の熱伝導率が高められ、鋳造された金属製品内に発生する鬆(ス)が好適に抑制されるという事実を見出した。本発明は、斯かる知見に基づいて為されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、第1発明の要旨とするところは、耐火物から構成される骨材を含む鋳造用石膏であって、前記骨材は、平均体積粒径が30~50μmであり且つタップ密度が0.95~1.30g/cm3であることにある。
【0009】
第2発明の要旨とするところは、第1発明において、前記骨材は、酸化アルミニウム粉体であって、25~75wt%の割合で含まれることにある。
【0010】
第3発明の要旨とするところは、鋳込み型内に流し込むために第1発明又は第2発明の鋳造用石膏を混練するに際して25~100%の混水量(石膏100g当たりの水の量(g))が用いられた鋳造用石膏スラリーであることにある。
【0011】
第4発明の要旨とするところは、第3発明の鋳造用石膏スラリーが鋳込み型内で硬化された、前記鋳込み型の形状を有する鋳造用石膏型であることにある。
【発明の効果】
【0012】
第1発明の鋳造用石膏によれば、前記骨材は、平均体積粒径が30~50μmであり且つタップ密度が0.95~1.30g/cm3であることから、鋳造用石膏型の熱伝導率が高められるので、鋳造時において金属の固形化が均一となり易く、鋳造された金属製品内の鬆(ス)の発生が抑制される。
【0013】
第2発明の鋳造用石膏によれば、前記骨材は、酸化アルミニウム粉体であって、25~75wt%の割合で鋳造用石膏に含まれる。これにより、珪砂(シリカ)よりも大幅に高い熱伝導率を有する酸化アルミニウム粉体が25~75wt%の割合で鋳造用石膏に含まれるので、熱伝導率が高められた鋳造用石膏型において、鋳造時の金属の固形化が均一となり易く、鋳造された金属製品内に鬆(ス)の発生が抑制される。酸化アルミニウム粉体の割合が25wt%よりも小さいと、石膏の熱伝導率が不足し、鋳造された金属製品内に鬆(ス)が発生する。逆に75重量%よりも大きいと、相対的に鋳造型を形成する半水石膏の割合が減少するため、鋳造型全体の強度が低下する。
【0014】
第3発明の鋳造用石膏スラリーによれば、スラリー化するための混練に際して25~100%の混水量(石膏100g当たりの水の量(g))が用いられている。これにより、鋳込みについて適度の粘度を有する鋳造用石膏スラリーが得られるので、鋳造用石膏スラリーを流し込む作業において、作業能率が高められる。混水量が20%を下回ると、鋳造用石膏スラリーの粘度が高くなるので、作業能率が低下し、形状が複雑であるときには細部に充填できず欠けが発生する。反対に、混水量が100%を上回ると、乾燥時の収縮が大きくなり、鋳造用石膏型に引けが発生する。
【0015】
第4発明の鋳造用石膏型によれば、第3発明の鋳造用石膏スラリーが鋳込み型内で硬化された、前記鋳込み型の形状を有する。これにより、鋳込み型の表面形状に対応したキャビティを有する鋳造用石膏型が得られる。
【0016】
ここで、好適には、前記骨材は、鋳造用石膏型が鋳造型として適切な耐熱性、熱膨張率を有するようにするものでもあり、前記骨材を構成する耐火物は、金属酸化物、無機窒化物、無機炭化物、リン酸塩のうちの少なくとも一種を含む。前記金属酸化物は、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、マグネシアの少なくとも1つを含む。前記無機窒化物は、窒化珪素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素の少なくとも1つを含む。前記無機炭化物は、炭化珪素、炭化ホウ素、炭化カルシウムの少なくとも1つを含む。前記リン酸塩は、リン酸カルシウム、リン酸アンモニウム、リン酸ナトリウムの少なくとも1つを含む。
【0017】
また、好適には、前記鋳造用石膏(粉体)は、半水石膏が18~75wt%、耐火物である無機粉体が25~75wt%、水溶性ポリマーが0.01~2wt%および石膏硬化促進剤が0.01~1wt%、石膏硬化遅延剤が0.01~1wt%の割合で混合されている。そのため、石膏硬化促進剤、石膏硬化遅延剤および保水性を有する水溶性ポリマーによって鋳造用石膏型の構成時において十分な硬化反応速度および成形直後の変形が抑制される十分な強度が達成されるとともに、昇温により無機粉体が熱膨張することから、構成される鋳造用石膏型として用いられるのに適正な線熱膨張率を有する鋳造用立体造形物を構成するための混合粉体を提供することができる。
【0018】
また、好適には、前記水溶性ポリマーは、立体鋳造物の保水性を高めることにより加えられる水の量が多くても成形状態を保つことを目的とし、前記混合粉体中0.01~2重量%の割合で含まれるように混合される。上記混合粉体中の割合が0.01重量%よりも小さいと十分な保水効果が発揮されず立体造形物の成形直後の強度が不足し、逆に2重量%よりも大きいと硬化速度が遅くなる場合がある。上記水溶性ポリマーとしては、アラビアゴム、ケルザン(キサンタンガムを成分とする天然高分子多糖類)などが好適に用いられる。
【0019】
また、好適には、前記石膏硬化促進剤は石膏の硬化速度を促進することを目的として、前記混合粉体中、0.01~1重量%の割合で含まれるように混合される。上記混合粉体中の割合が0.01重量%より小さいと十分に硬化速度が向上されず、逆に1重量%を超えて大きくされても硬化速度が飽和し、実際上それ以上の硬化速度の向上は望めないからである。また、上記石膏硬化促進剤としては、二水石膏、アルカリ金属硫酸塩、アルカリ土類金属硫酸塩、アルカリ金属塩化物塩、アルカリ土類金属塩化物塩、無機酸のアンモニウム塩、ミョウバン類から選ばれた1種または2種以上から構成されるものである。このため、実用的且つ安価な材料によって硬化が促進されることから、コストが安価な鋳造用石膏型を構成するための鋳造用石膏(混合粉体)を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の鋳造用石膏型の一例を説明する図である。
【
図2】本発明の鋳造用石膏型を製造する工程について説明する工程図である。
【
図3】
図2の注型工程に用いられる型枠の一例を示す図である。
【
図4】混入された骨材(耐火物)の粒径(μm)、重量(g)、体積(cm
3)、タップ密度(g/cm
3)がそれぞれ異なるように作成された12種類の試料No.1~12にいての、混水量、および硬化後の熱伝導率をそれぞれ示す図である。
【
図5】試料No.1~11の耐火物(骨材)の平均体積粒径(μm)の大きさを対比して示す棒グラフである。
【
図6】試料No.1~11のタップ密度(g/cm
3)の大きさを対比して示す棒グラフである。
【
図7】試料No.1~11の熱伝導率(W/mK)の大きさを対比して示す棒グラフである。
【
図8】試料No.6と同様に作成されて耐火物の割合(wt%)を変化させた試料No.13~試料No.19及び試料No.6のぬれ圧縮強度(MPa)及び熱伝導率(W/mK)の測定値を示す図である。
【
図9】
図1の鋳造用石膏型を構成するための混合粉体の線熱膨張曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は発明に関連する要部を説明するものであり、寸法及び形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例】
【0022】
図1は、比較的低融点の金属製品を鋳造するための鋳造用石膏型の一例であって、たとえばタイヤを製造する分割金型を鋳造するための鋳造用石膏型10を示している。鋳造用石膏型10は、タイヤトレッド部の合成樹脂製マスタモデルから成形された後述のゴム型20を用いて鋳込み成形される。鋳造用石膏型10は、たとえば低圧鋳造に用いるものであり、製品キャビティ10aと、その製品キャビティ10aを下面に連通させる湯道10bとが形成されている。
【0023】
図2は、鋳造用石膏型10の製造工程を示している。鋳造用石膏(粉体)12を調整する石膏調整工程P1では、たとえば、半水石膏が18~75wt%、骨材が25~75wt%、水溶性ポリマーが0.01~2wt%および石膏硬化促進剤が0.01~1wt%、石膏硬化遅延剤が0.01~1wt%の割合で調合され、よく知られた粉体攪拌機を用いて混合される。上記骨材は、耐火物である無機材料、好適には酸化アルミニウム(Al
2O
3)の粉体であって、平均体積粒径が30~50μmであり且つタップ密度が0.95~1.30g/cm
3である。この平均体積粒径は、体積で重みづけされた平均粒子径である。
【0024】
次に、石膏スラリー調整工程P2では、混水量(鋳造用石膏(粉体)100g当たりの水の量(g))が25~100%の範囲内となるように、石膏調整工程P1で調整された鋳造用石膏(粉体)12に水が添加され、且つよく知られた混合機により混合されることにより、スラリー状の石膏スラリー14とされる。上記混水量の範囲は、石膏スラリー14の注型性が得られる範囲で、乾燥により硬化した鋳造用石膏型10の強度特性が得られるように、上下限値が実験的に設定されている。
【0025】
次いで、注型工程P3では、石膏スラリー調整工程P2で調整された石膏スラリー14が、たとえば
図3に示す鋳込み型16内に流し込まれる。鋳込み型16は、容器状の型枠18と、その型枠18内に固定されたゴム型20と、湯道10bを形成するためにゴム型20に立設された棒部材22とを備えている。ゴム型20と型枠18とで囲まれた空間に、上記石膏スラリー14が流し込まれる。
【0026】
硬化工程P4では、常温で或いは所定の乾燥温度で、所定時間乾燥されることで鋳込み型16内の石膏スラリー14が硬化され、II型無水石膏まで変態させる。そして、型出し工程P5では、鋳込み型16内の石膏スラリー14が硬化した鋳造用石膏型10が、鋳込み型16から取り出される。
【0027】
以下、本実施例の鋳造用石膏型10を評価するために、
図4に示す11種類の耐火物を用いて、半水石膏42wt%、耐火物58wt%の基本割合で混合した試料No.1、3~12、及び、骨材(耐火物)を用いない試料No.2を作成し、それら試料No.1~12を混水により硬化した石膏種について熱伝導率をそれぞれ評価した。上記12種類の試料No.1~12の石膏種は、
図4において、骨材として珪砂(特4)を用いた石膏種(従来品)、骨材を用いない石膏種、実施例品1~4、および比較例品1~6として示されている石膏種である。それら12種類の石膏種は、
図4に示されるように、混入された骨材(耐火物粉体)の粒径(μm)、重量(g)、体積(cm
3)、タップ密度(g/cm
3)がそれぞれ異なるようにされている。また、
図4には、上記12種類の石膏種について、スラリー化したときの混水量(石膏100g当たりの水の量(g):単位%)、および、硬化後の石膏の熱伝導率(W/mK)が、それぞれ示されている。なお、
図4において、耐火物重量、耐火物体積は、タップ密度を計算するためだけの耐火物単体の値である。
【0028】
ここで、
図4において、試料No.2の骨材を用いない石膏種において記載されている、P21A、平均体積粒径、重量、体積、およびタップ密度は、石膏粒子の品種および値である。また、
図4において、耐火物A11~A14、およびSA32は、日本軽金属(株)製のアルミナである。耐火物WA400Jは昭和電工(株)製のアルミナである。耐火物AM29は住友化学社製のアルミナである。耐火物AA18は住友化学(株)製のアルミナである。耐火物YFA5070はキンセイマテック(株)製の高熱伝導性板状アルミナセラフである。
【0029】
上記12種類の試料No.1~12は、各試料原料(粉体)10gに、水6.1g(混水量61%)、但し試料No.12のアルミナセラフは混水量100%で混練してスラリー化した後、10mm×10mm×1mmのシリコーン型に流し込み、室温で5分放置した後、65℃のオーブン内で1時間、250℃のオーブンで2時間の熱処理を行なって硬化させたものを、熱伝導率測定サンプルとした。そして、NETZCH社製の熱伝導率測定機LFA467を用いて、1サンプル~3サンプルずつ熱伝導率を測定した。なお、耐火物の平均体積粒径は、Malvern社製のMastersizer3000 v-3.50を用いて以下の測定条件で測定した。また、耐火物のタップ密度は、(株)セイシン企業製タップデンサーKYT-4000を用い、タップ回数50で測定した。
<平均体積粒径の測定条件>
分類 :平均体積粒径
原理 :レーザー回折式
分散媒 :水
粒子屈折率 :1.766
粒子吸収率 :0.010
分散媒屈折率 :1.330
光散乱モデル :Mie理論
【0030】
試料No.12の比較例品6については、混入された耐火物YFA5070が乾燥後において細かく破砕され、熱伝導率測定サンプルの形状を保持できないため、熱伝導率の測定ができなかった。これはアルミナセラフ自体が平均体積粒径5μmとはいうものの、かなりの微粒子を含むためであると推定される。
【0031】
図5は、試料No.1~11の耐火物(骨材)の平均体積粒径(μm)の大きさを対比して示す棒グラフである。
図6は、試料No.1~11のタップ密度(g/cm
3)の大きさを対比して示す棒グラフである。
図7は、試料No.1~11の熱伝導率(W/mK)の大きさを対比して示す棒グラフである。
【0032】
図4~
図7において、試料No.2の耐火物を含まない石膏P21Aから成る石膏種のタップ密度の値が大きいので、タップ密度がその試料No.2の値に近いものが良好な熱伝導率が得られるのではないかと思われたが、タップ密度がそれに最も近い試料No.9のアルミナAM29を含む石膏種は、試料No.2の耐火物を含まない石膏P21Aから成る石膏種とほぼ変わらない熱伝導率しか得られていない。これに対して、タップ密度が試料No.9に次いで試料No.2の値に近い値を有する試料No.5のアルミナA13を含む石膏種は、試料No.9よりも32%も高い熱伝導率を示している。試料No.3~No.6と試料No.9との間で大きく違うのは平均体積粒径であった。すなわち、試料No.3~No.6の平均体積粒径は、試料No.9の平均体積粒径に対して、倍以上の値すなわち2.3倍~3.1倍の値を示している。そして、上記試料No.3~No.6の熱伝導率は、試料No.2の従来の石膏種に比較して1.39倍~1.58倍に高くなっている。
【0033】
このため、試料No.3~No.6の平均体積粒径範囲をカバーする、平均体積粒径が30~50μmであって、試料No.3~No.6のタップ密度の範囲をカバーする、タップ密度が0.95~1.30g/cm3である骨材を、含有する石膏種を用いると、特異的に、熱伝導率が高くなることが、見出された。平均体積粒径が小さいほど、タップ密度が小さいほど、粒子間の接触が少なくなるので、熱伝導率の低下に寄与していると推定される。また、平均体積粒径が大きいほど、タップ密度が高いほど、粒子間の接触点が少なくなるので、熱伝導率の低下に寄与していると推定される。
【0034】
図8は、同じ混水量(61%)において、半水石膏及び耐火物を100としたときの耐火物の割合(wt%)を変化させた時のぬれ圧縮強度(MPa)及び熱伝導率(W/mK)の測定値を示している。
図8において、試料No.6、No.13~No.19の酸化アルミニウム(A14)の割合の範囲をカバーする、酸化アルミニウム(A14)の割合が25~75wt%である石膏種において、熱伝導率が高くなることが見出された。試料No.13に示すように、酸化アルミニウム粉体の割合が25wt%よりも小さいと、石膏の熱伝導率が不足し、鋳造された金属製品内に鬆(ス)が発生する。逆に、試料No.19に示すように、75重量%よりも大きいと、相対的に鋳造型を形成する半水石膏の割合が減少するため、鋳造型全体の強度が低下する。
【0035】
図9は、試料No.1の従来の石膏種および試料No.6のアルミナA14を含む石膏種の線熱膨張曲線と、温度変化を示す線とを示すグラフであって、時間を示す横軸と温度を示す右縦軸と線熱膨張を示す左縦軸とを備えている。
図9において、試料No.1の従来の石膏種の線熱膨張曲線は破線で、試料No.6のアルミナA14を含む石膏種の線熱膨張曲線は1点鎖線で、温度は実線で示されている。破線で示す試料No.1の従来の石膏種の線熱膨張曲線と1点鎖線で示す試料No.6のアルミナA14を含む石膏種の線熱膨張曲線とは、100℃から800℃までの温度範囲において、同等の特性を示している。このことは、試料No.6のアルミナA14を含む石膏種は、同等の使用条件で試料No.1の従来の石膏種に替えて用いられることを示している。
【0036】
上述のように、本実施例の鋳造用石膏12によれば、その鋳造用石膏12に混入されている骨材が、平均体積粒径が30~50μmであり且つタップ密度が0.95~1.30g/cm3であることから、鋳造用石膏型10の熱伝導率が高められるので、鋳造時において金属の固形化が均一となり易く、鋳造された金属製品内での鬆(ス)の発生が抑制される。
【0037】
また、本実施例の鋳造用石膏12によれば、その鋳造用石膏12に混入されている骨材は、酸化アルミニウム粉体であって、25~75wt%の割合で鋳造用石膏12に含まれる。これにより、珪砂(シリカ)よりも大幅に高い熱伝導率を有する酸化アルミニウム粉体が25~75wt%の割合で鋳造用石膏12に含まれるので、熱伝導率が高められた鋳造用石膏型10において、鋳造時の金属の固形化が均一となり易く、鋳造された金属製品内に鬆(ス)の発生が抑制される。
【0038】
また、本実施例によれば、鋳造用石膏12をスラリー化するための石膏スラリー調整工程P2において、25~100%の混水量(石膏100g当たりの水の量(g))が用いられた石膏スラリー(鋳造用石膏スラリー)14が得られる。これにより、鋳込みについて適度の粘度を有する石膏スラリー14が得られるので、石膏スラリー14を流し込む作業において、作業能率が高められる。混水量が20%を下回ると、石膏スラリー14の粘度が高くなるので、作業能率が低下し、形状が複雑であるときには細部に充填できず欠けが発生する。反対に、混水量が100%を上回ると、乾燥時の収縮が大きくなり、鋳造用石膏型に引けが発生する。
【0039】
また、本実施例の鋳造用石膏型10は、石膏スラリー調整工程P2において鋳造用石膏12からスラリー状に調整された石膏スラリー14が鋳込み型16内で硬化されたものである。これにより、鋳込み型16の表面形状に対応したキャビティを有する鋳造用石膏型10が得られる。
【0040】
以上、本発明を表及び図面を参照して詳細に説明したが、本発明は更に別の態様でも実施でき、その主旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得るものである。
【符号の説明】
【0041】
10:鋳造用石膏型
10a:製品キャビティ
10b:湯道
12:鋳造用石膏
14:石膏スラリー(鋳造用石膏スラリー)
16:鋳込み型
18:型枠
20:ゴム型
22:棒部材