(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】工程計画作成支援システムおよび工程計画作成方法
(51)【国際特許分類】
G21F 9/30 20060101AFI20240311BHJP
G06Q 50/08 20120101ALI20240311BHJP
【FI】
G21F9/30 535B
G06Q50/08
(21)【出願番号】P 2020163168
(22)【出願日】2020-09-29
【審査請求日】2023-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】関 洋
(72)【発明者】
【氏名】小林 亮介
(72)【発明者】
【氏名】上野 克宜
(72)【発明者】
【氏名】平野 克彦
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第03/100678(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/30
G21C 17/00
G06Q 10/04-10/06
G06Q 50/04-50/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータを用いて、ロボットが作業エリア内で作業を行うための工程を計画するための工程計画作成支援方法であって、
コンピュータは、ロボットによる作業進行に伴い、現場状態が変わる前記作業エリアの
環境とロボットに関する3D情報、現場線量の情報からなる仮想空間内で、かつ設定した時間範囲内で計算可能な探索範囲内で、前記作業エリアごとの工期期限、線量制限、作業安全規制を満たす、ロボットの移動経路、姿勢、手順順序を確率的最適化により作業動作要素を求めることにより、工程情報を生成可視化することを特徴とする工程計画作成支援方法。
【請求項2】
請求項1に記載の工程計画作成支援方法であって、
設定した時間範囲内で計算可能な探索範囲内で、作業エリアごとの工期期限、線量制限、作業安全規制を満たす、ロボットの移動経路、姿勢、手順順序を確率的最適化により作業動作要素を求め、あらかじめ設定した工程の工期との比較により、可能な作業工程の成立性を判定することを特徴とする工程計画作成支援方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の工程計画作成支援方法であって、
ロボットの可能なシーケンスの組み合わせで工数計算することを特徴とする工程計画作成支援方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の工程計画作成支援方法であって、
ロボットの累積照射線量に基づきロボット交換時期を判断することを特徴とする工程計画作成支援方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の工程計画作成支援方法であって、
手動操作入力装置を備えることで、動作姿勢・経路を微小調整し、工数を計算することを特徴とする工程計画作成支援方法。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれか1項に
記載の工程計画作成支援方法であって、
人、ロボット、その他工具、及び、想定廃棄物量などの制約を取り込み工数を調整し、ロボットの動作制限情報を出力することを特徴とする工程計画作成支援方法。
【請求項7】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の工程計画作成支援方法であって、
ロボットの現場動作実績に基づき、調整が必要な工程を抽出し、改めてロボット動作を再計画することを特徴とする工程計画作成支援方法。
【請求項8】
コンピュータを用いて、ロボットが作業エリア内で作業を行うための工程を計画するための工程計画作成方法であって、
コンピュータは、ロボットによる作業進行に伴い、現場状態が変わる前記作業エリアの環境とロボットに関する3D情報、現場線量の情報からなる仮想空間内で、かつ設定した時間範囲内で計算可能な探索範囲内で、前記作業エリアごとの工期期限、線量制限、作業安全規制を満たす、ロボットの移動経路、姿勢、手順順序を確率的最適化により作業動作要素を求めることにより、工程情報を生成可視化するとともに、
コンピュータは、ロボットによる作業対象の作業順序を初期設定した第1の作業順序と、前記作業対象の作業順序を任意に設定した第2の作業順序について、それぞれの作業順序の時の合計の稼働時間を求めるとともに、第1の作業順序と第2の作業順序を比較し、第2の作業順序が第1の作業順序よりも良好でないときは第1の作業順序を維持し、第2の作業順序が第1の作業順序よりも良好であるときは第2の作業順序を第1の作業順序に置き換えて新たに任意に設定した第2の作業順序と比較する処理を繰り返し実行することを特徴とする工程計画作成方法。
【請求項9】
請求項8に記載の工程計画作成方法であって、
第1の作業順序は、ユーザーによる設定変更が可能であり、第2の作業順序は乱数により生成されたものであることを特徴とする工程計画作成方法。
【請求項10】
請求項8または請求項9に記載の工程計画作成方法であって、
第1の作業順序と第2の作業順序の比較は、汚染量、照射線量、移動距離、移動時間の観点から行われることを特徴とする工程計画作成方法。
【請求項11】
ロボットが作業エリア内で作業を行うための工程を計画するための工程計画作成システムであって、
少なくとも作業エリアにおける工程のデータと、作業エリアについての環境のデータと、ロボットのデータを保有するデータベースと、前記データベースを用いて工程と環境とロボットについての設定をユーザーが行うための入出力装置と、前記入出力装置で設定されたデータを用いてロボットが作業エリア内で作業を行うための工程を計画し、前記入出力装置に出力する演算部とを備え、
前記演算部は、ロボットによる作業進行に伴い、現場状態が変わる前記作業エリアの環境とロボットに関する3D情報、現場線量の情報からなる仮想空間内で、かつ設定した時間範囲内で計算可能な探索範囲内で、前記作業エリアごとの工期期限、線量制限、作業安全規制を満たす、ロボットの移動経路、姿勢、手順順序を確率的最適化により作業動作要素を求めることにより、工程情報を生成可視化するとともに、
前記演算部は、ロボットによる作業対象の作業順序を初期設定した第1の作業順序と、前記作業対象の作業順序を任意に設定した第2の作業順序について、それぞれの作業順序の時の合計の稼働時間を求めるとともに、第1の作業順序と第2の作業順序を比較し、第2の作業順序が第1の作業順序よりも良好でないときは第1の作業順序を維持し、第2の作業順序が第1の作業順序よりも良好であるときは第2の作業順序を第1の作業順序に置き換えて新たに任意に設定した第2の作業順序と比較する処理を繰り返し実行することを特徴とする工程計画作成システム。
【請求項12】
請求項11に記載の工程計画作成システムであって、
第1の作業順序と第2の作業順序の比較は、汚染量、照射線量、移動距離、移動時間の観点から行われることを特徴とする工程計画作成システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットによる解体合理化の場面において、目標とする制約の中でロボットの作業シーケンスを生成する工程計画作成支援システムおよび工程計画作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ロボットを用いて作業現場における解体作業を行わせるに際し、工程計画作成支援システムを用いて作業現場の環境条件を考慮しながら、かつ最短時間で作業を完了させるための作業工程計画を予め作成し、その後に作成した計画に基づいて作業の実行を行わせることがある。
【0003】
係る工程計画作成支援の背景技術として、特許文献1が知られている。特許文献1には、作業進行に伴い現場状態が変わる解体エリア、ロボットの移動経路、姿勢、手順順序、ならびに、工程計画生成支援システムの構成例が開示されている。
【0004】
特許文献2には、作業進行に伴い現場状態が変わる解体エリア、工程情報の生成可視化、ならびに、工程計画生成支援システムの構成例が開示されている。
【0005】
特許文献3には、作業進行に伴い現場状態が変わる解体エリアならびに、工程計画生成支援システムが開示されている。また、工程情報を生成可視化する技術と、工程計画生成支援システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】WO2003/100678号公報
【文献】特開2020-034318号公報
【文献】特開2017-096696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
然しながら、ロボットシミュレーションにおいて、上記特許文献では、「3D計測点群、現場線量の情報からなる仮想空間内で、設定した時間範囲内で計算可能な探索範囲内で、確率的最適化により解体動作要素を求めること」に関する記載はない。
【0008】
このため本発明においては、ロボットの作業シーケンスを生成するための解体工期の精度向上と、工程遅延からのリカバリを支援し、大きな探索空間から、可能な解体工程の成立性を判定することができる工程計画作成支援システムおよび工程計画作成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上のことから本発明においては、「コンピュータを用いて、ロボットが作業エリア内で作業を行うための工程を計画するための工程計画作成支援方法であって、コンピュータは、ロボットによる作業進行に伴い、現場状態が変わる作業エリアの3D計測点群、現場線量の情報からなる仮想空間内で、かつ設定した時間範囲内で計算可能な探索範囲内で、作業エリアごとの工期期限、線量制限、作業安全規制を満たす、ロボットの移動経路、姿勢、手順順序を確率的最適化により作業動作要素を求めることにより、工程情報を生成可視化することを特徴とする工程計画作成支援方法」としたものである。
【0010】
また本発明においては、「コンピュータを用いて、ロボットが作業エリア内で作業を行うための工程を計画するための工程計画作成方法であって、コンピュータは、ロボットによる作業対象の作業順序を初期設定した第1の作業順序と、作業対象の作業順序を任意に設定した第2の作業順序について、それぞれの作業順序の時の合計の稼働時間を求めるとともに、第1の作業順序と第2の作業順序を比較し、第2の作業順序が第1の作業順序よりも良好でないときは第1の作業順序を維持し、第2の作業順序が第1の作業順序よりも良好であるときは第2の作業順序を第1の作業順序に置き換えて新たに任意に設定した第2の作業順序と比較する処理を繰り返し実行することを特徴とする工程計画作成方法」としたものである。
【0011】
また本発明においては、「ロボットが作業エリア内で作業を行うための工程を計画するための工程計画作成システムであって、少なくとも作業エリアにおける工程のデータと、作業エリアについての環境のデータと、ロボットのデータを保有するデータベースと、データベースを用いて工程と環境とロボットについての設定をユーザーが行うための入出力装置と、入出力装置で設定されたデータを用いてロボットが作業エリア内で作業を行うための工程を計画し、入出力装置に出力する演算部とを備え、演算部は、ロボットによる作業対象の作業順序を初期設定した第1の作業順序と、作業対象の作業順序を任意に設定した第2の作業順序について、それぞれの作業順序の時の合計の稼働時間を求めるとともに、第1の作業順序と第2の作業順序を比較し、第2の作業順序が第1の作業順序よりも良好でないときは第1の作業順序を維持し、第2の作業順序が第1の作業順序よりも良好であるときは第2の作業順序を第1の作業順序に置き換えて新たに任意に設定した第2の作業順序と比較する処理を繰り返し実行することを特徴とする工程計画作成システム」としたものである。
【発明の効果】
【0012】
本願は、ロボットの作業シーケンスを生成するための解体工期の精度向上と、工程遅延からのリカバリを支援し、大きな探索空間から、可能な解体工程の成立性を判定することに寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施例に係る工程計画作成支援システムの全体構成例を示す図。
【
図2】工程計画作成支援システムが対象とする移動機構付き多軸アーム・ロボットの一例を示す図。
【
図3】工程計画作成支援システムが対象とする制約となる工程ガントチャートとロボットによる動作時間から作成される工数の一例を示す図。
【
図4】工程計画作成支援システムが対象とする制約となるロボット照射線量変化グラフの一例を示す図。
【
図5】工程計画作成支援システムで生成するロボットに関わるクローラ、関節動作時間変化の一例を示す図。
【
図6】工程計画作成支援システムで生成するロボット動作シーケンスの一例を示す図。
【
図7】確率的最適化により、解体動作要素を求め、工程情報を生成する処理のフローチャートの一例を示す図。
【
図8】シミュレーテッド・アニーリング(焼きなまし法)について説明する図。
【
図9】工程計画作成支援システムで生成する解体動作要素と、ロボットの動作アニメーション、対応する工程ガントチャートの画面表示例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施例について、図面を用いて説明する。
【実施例】
【0015】
図1は、本発明の実施例に係る工程計画作成支援システムの全体構成例を示している。本実施例の工程計画作成支援システム1は、コンピュータを用いて実現されており、入出力装置10の他に、コンピュータの演算部における処理を機能、装置として表すとアクティビティ選択装置20、作業対象指定装置30、ロボット選択装置40、ロボットシミュレーション装置50、シーケンス最適化装置60、工程評価装置70から構成されたものということができる。また、これらの装置が利用するデータベースとして、工程データベースDB1、環境3DモデルデータベースDB2、ロボット3DモデルデータベースDB3、汚染/線量データベースDB4、ロボット動作シーケンスデータベースDB5を備える。
【0016】
係る工程計画作成支援システム1を利用するユーザーは、入出力装置10の表示画面を参照しながら、各種選択動作を行う。ここではアクティビティ選択装置20が工程データベースDB1を参照して提示するアクティビティ画面から施工・解体などの対象エリアに対する工程を選択し、作業対象指定装置30が環境3DモデルデータベースDB2を参照して提示する作業対象画面から環境3Dモデルを選択し、ロボット選択装置40がロボット3DモデルデータベースDB3を参照して提示するロボット選択画面から作業を遂行するロボット3Dモデルを選択する。
【0017】
上記の選択した内容に従い、ロボットシミュレーション装置50は、汚染/線量データベースDB4を参照して、ロボットの位置、並びに自動操作、または、ロボットの手動操作を行うときの、ロボットの腕やエンドエフェクタ(ハンド)の姿勢、クローラや接続ケーブルの姿勢などの位置・姿勢情報を生成する。
【0018】
シーケンス最適化装置60では、上記の選択した内容、位置・姿勢情報、ならびにロボット動作シーケンスデータベースDB5を参照して得たロボット動作シーケンス情報に従い、施工や解体で取り扱う作業のシーケンスが複数通りの組み合わせで作成され、そのうち、扱う汚染量、ロボットへの照射線量、移動距離、及び、移動時間から構成する目的関数が最小となる値を求める。シーケンス最適化装置60の処理内容について、
図3を用いて詳細に後述する。なお複数組の作業シーケンスは、作業エリアごとの工期期限、線量制限、作業安全規制を制約条件として作成されているのがよい。
【0019】
工程評価装置70では、シーケンス最適化装置60において求めた、動作時間の総和からなる時間とエリア別工程のアクティビティで示される時間を比較して、小さいほうの時間を新しいアクティビティの時間として、採用する。
【0020】
図2は、工程計画作成支援システム1が対象とする移動機構付きアーム・ロボットの一例である。ロボット301は物をつかむグリッパなどのエンドエフェクタ321、エンドエフェクタの回転軸322、関節323、324、325、326と回転軸327は移動機構(クローラ)328で構成される。さらに、ロボットは、制御用電源、制御信号、水圧・油圧などの駆動力を送信するケーブル、または、ホース329が接続されている。これらは仮想空間上で、実際のハードウェアの性能を模擬する速度パラメータに従って、数値やスライダーなどのユーザーインターフェース画面からコントロールされる。
【0021】
入出力装置10内のユーザーインターフェース画面には、工程計画作成支援システムが作成した工程計画が各種の情報とともに表示されており、ユーザーはこの工程計画をそのままロボット301に与え、あるいはユーザーが修正した工程計画をロボット301に与える。ロボット301は、与えられた工程計画に従い、作業現場に進入し、与えられた経路に沿って移動し、与えられた作業を実行し、最終的に一連の与えられた処理を完了する。
【0022】
この結果として、ロボット301に対して工程計画作成支援システム1が作成し与えた、工程計画が実行され、「3D計測点群、現場線量の情報からなる仮想空間内で、設定した時間範囲内で計算可能な探索範囲内で、確率的最適化により解体動作要素を求めること」が実行されることになる。なお確率的最適化処理としては、作業エリアごとの工期期限、線量制限、作業安全規制を満たす、ロボットの移動経路、姿勢、手順順序を求めることになる。
【0023】
図3は、工程計画作成支援システム1が対象とする制約となる工程ガントチャートとロボットによる動作時間から作成される工数の一例である。
図3の上部には、制約となる工程ガントチャートが例示されており、
図3の下部にはロボット301が設置される現場環境の例を示している。
【0024】
図3の工程ガントチャート表示例では、横軸に時間、縦軸にアクティビティ種別を示し、あらかじめ設定した施工や解体工程の中から、ユーザーが選択したエリアに対応する全体工程101を選択・表示する。この全体工程101の例において、縦軸のアクティビティ種別は、上側から順次準備アクティビティ1011、解体アクティビティ1012、搬出アクティビティ1013を示しており、この図の表記によればこのアクティビティ種別の上から下への順序に従い各工程が実行されることを表している。
【0025】
これらを時間方向に見ていくと、準備アクティビティ1011の終了後に、解体アクティビティ1012について解体期間Aが抽出される。解体期間Aは、解体についての個別の作業ごとに複数の動作時間に区分されている。
【0026】
これらは例えば
図3下部に示すロボット設置の現場環境において、ロボット301が障害物2011を避けながら移動して目的の作業場所にある配管2012に到達するまでの動作時間a1、汚染された配管2012を切断するに要する動作時間a2、配管2012などを片づけて搬出するに要する動作時間a3などである。これらの動作時間が複数回繰り返される。これら一連の動作時間の合計が解体期間Aである。
【0027】
ここでは、そのうちの一つの動作時間a
1に着目し、動作時間a
1をロボット301の自動、あるいは、手動操作のシミュレーションにより計算する。また順次、次の作業での動作時間をシミュレーションにより計算し、そのうえで、計算した動作時間の総和Σaiを求める。ロボットのすべての動作時間aiの総和Σaiと、解体期間Aを比較し、Σai<Aとなるときに、設定した解体期間は成立し、さらに短縮できる可能性があることがわかる。また、Σai>Aとなったときには、解体期間が不成立のためエリア工程を見直す必要があることがわかる。なおこのシミュレーションは、
図1のロボットシミュレーション装置50において行われ、解体アクティビティ1012についてのシミュレーション終了後は、搬出アクティビティ1013についてのシミュレーションを順次実行して、最後のアクティビティまで行われる。
【0028】
図4は、工程計画作成支援システム1が対象とする制約となるロボット照射線量変化グラフの一例である。
図4のロボット照射線量変化グラフ例では、横軸に時間、縦軸に照射線量を示しており、照射線量には使用制限線量410が設定されていることを表している。ロボットを放射能汚染されている現場環境において使用するとき、使用時間の経過にともない、ロボットが被曝する累積の照射線量401は増加する。
【0029】
このため例えばロボット1の照射線量を4001としたとき、ロボットの使用制限線量410に対して余裕をもったしきい線量ΔDthを設定しておき、照射線量が(使用制限線量410-しきい線量ΔDth)に至ったときに、今まで現場の放射能汚染環境下で動作させていた既存のロボット1は管理対象外として例えば放置し、以降は新たに次のロボット2に交換して、ロボット1が達成できなかった残余の作業を実行することになる。ロボット2については、新たな管理対象として、照射線量4002で累積照射線量を管理していくことになる。
【0030】
図5は、工程計画作成支援システムで生成するロボットの動作に関わるクローラ、関節の動作時間変化の一例である。
図5のクローラ、関節の動作時間変化の例では、横軸に時間、縦軸にクローラCや関節jの動作時間変化を示している。動作時間変化は、クローラCでは移動量の変化Tcと回転角度θc、2組の関節である関節j1と間接j2では夫々回転角度θj1、θj2で管理されており、図示の例では各クローラCや関節j1、j2についてx、y、zの3方向における移動量、回転角度を制御、管理する。
【0031】
クローラC、関節j1、j2に対する動作時間変化のこれらのデータは、ロボット動作シーケンスデータベースDB5で管理される。例えばクローラCについては、動作時間a1の期間において移動量Tcx、Tcy、Tcz、回転角度θcxが、それぞれact11、act12、act13、act14のように時間変化し、このとき、回転角度θcy、θczは固定とされ変化指令信号としては与えられないことを表している。なお、動作時間a2の期間において移動量Tc、回転角度θcについての変化指令信号は固定のままとされる。これらの時間変化は、数値でも読み取れるものとする。
【0032】
さらに間接j1、間接j2について、動作時間a1の期間において固定のままであるが、動作時間a2の期間において間接j1については、θj1zがact15のように、間接j2については、θj2zがact16のように間変化すると定義することができる。このように動作時間a1、a2、...を積算していくことで、アクティビティ期間と比較できる時間が求められる。
【0033】
図6は、工程計画作成支援システムで生成するロボット動作シーケンスの一例である。この例でのロボット動作シーケンス70は、工程計画作成支援システム1の指示を受けてロボット301に動作指示を与えるコントローラ71と、コントローラ71の指示を受けるロボット301の具体的な動作内容と、ロボット動作の結果として実行される解体対象73の状態、ならびに解体された機材のコンテナ74への収納状況が、時系列的に記述されている。
【0034】
例えばこの例では、コントローラ71がロボット301にクローラでの移動71aを指示し、ロボット301が移動完了301をコントローラ71に報告し、次にコントローラ71がロボット301に関節jの動作による解体対象物へのハンド接近71bを指示し、ロボット301が接近確認301bをコントローラ71に報告した。さらに続いて次の段階では、ロボット301による解体対象のハンドを用いた把持動作71cを指示して把持完了73cを確認し、また次にロボット301による解体対象73の切断動作71dを指示して切断完了73dを確認し、ロボット301による解体対象73の切断片把持71eを指示して把持完了73eを確認する。そのうえで、最後に切断片のコンテナ74への収納71fを指示し、収納完了74fを確認する。
【0035】
このように、ロボット301は仮想空間ではコントローラ71によって制御され、解体対象73に作用し、解体廃棄物をコンテナ74に収納することで一連の動作を流れ図、すなわち、シーケンス
図70として描くことができる。ここでは、移動、ハンド接近、把持、切断、切断片把持、切断片搬送などの各動作(アクティビティ)に要する時間が
図3の動作時間a1、a2、a3に対応しており、この総和がΣaiである。これらの個別動作は、工程計画作成支援システム1内では、それぞれが記号化されて数値的に管理されている。この例では、ロボットがri、ロボットが利用されるアクティビティがaj、解体対象(作業対象)がdk、コンテナがclとして記号化され、ロボットのシーケンスSriが把握されている。これら記号化された各指標は、数値化されて把握可能とされている。
【0036】
図7は、シミュレーテッド・アニーリング(焼きなまし法)と呼ばれる確率的最適化により、解体動作要素を求め、工程情報を生成する処理のフローチャートの一例である。
【0037】
図7に示した工程情報生成処理のフローチャートでは、最初に処理ステップS101において、様々な可能性のあるシーケンスSri、aj、dk、clとしての初期解を選択する。これは、
図1の入出力装置10の表示画面を参照して、各種選択動作を行うことを表している。ここではアクティビティ選択装置20が工程データベースDB1を参照して提示するアクティビティ画面から施工・解体などの対象エリアに対する工程を選択し、作業対象指定装置30が環境3DモデルデータベースDB2を参照して提示する作業対象画面から環境3Dモデルを選択し、ロボット選択装置40がロボット3DモデルデータベースDB3を参照して提示するロボット選択画面から作業を遂行するロボット3Dモデルを選択したことを意味する。
【0038】
次に処理ステップS102では、解体対象dkをどのような順序で解体していくかを解体順序(作業順序)Dとして設定する。ここで処理ステップS103では、シミュレーテッド・アニーリング法の特徴である、初期の高温側の温度Ts、終了温度Teと最大繰り返し計算回数Lを設定する。
【0039】
処理ステップS104では、解体対象dkの順序を乱数により入れ替えし、入れ替えを反映した新たな解体順序D‘とする。ここで計算回数に従って、温度が低くなるように調整し、確率的に新たな解体順序D’が変動する量を調整する。
【0040】
このあと処理ステップS105では、ロボットの稼働時間Σaiを計算し、処理ステップS106では切断・回収する廃棄物の汚染量、照射線量、ロボットの移動距離、移動時間を解体順序Dと新たな解体順序D‘で比較する。この比較は、初期設定した解体順序Dの時に得られる切断・回収する廃棄物の汚染量、照射線量、ロボットの移動距離、移動時間についての初期解と、乱数により生成した新たな解体順序D‘の時に得られる切断・回収する廃棄物の汚染量、照射線量、ロボットの移動距離、移動時間についての新たな解候補との差を用いて二乗和の平方根ΔEを求め、例えばΔEを用いて(1)式の演算を行い、評価値Aを求める。
[数1]
A=exp(-ΔE/T) (1)
処理ステップS107では、乱数により生成した新たな解体順序D‘の方が初期設定した解体順序Dよりも評価値が良好であるか否かを判断し、良好であれば処理ステップS109に移動して、解体順序D’を採用する。逆に初期設定した解体順序Dの方が評価値が良好であれば処理ステップS108に移動して、解体順序Dを維持する。
【0041】
その後処理ステップS110では計算回数を確認し、計算回数がL回になるまで(処理ステップS110、Yes)、ステップ処理ステップS104から処理ステップS110までの計算を繰り返す。
【0042】
但し計算回数がL回になった後でも、規定制約を満足していなければ(処理ステップS111、No)、処理ステップS112において解体順序Dを手動設定変更し、成立するまで、シミュレーテッド・アニーリング計算を繰り返す。
【0043】
処理ステップS113では、全計算終了後、エリアに設定してある工程と比較し、計算により求められたロボットの動作時間とアクティビティ期間が不一致である場合は、期間変更が可能か判定するのに必要な情報を提示する。
【0044】
図8は、シミュレーテッド・アニーリング(焼きなまし法)について説明した図である。ここでは、横軸に解体順序D、縦軸に得られた解を数値化して示した解(評価値A)を表している。一般に最適解の特性は、1つのピークを示す場合と複数のピークを示す場合がある。複数ピークの場合に最適解は1つであるが、他のピークは局所最適解というべきものであり、ここでは真の最適解の探索をシミュレーテッド・アニーリング(焼きなまし法)により実現している。例えば、解体順序Dを2組設定したときに、いずれの解(評価値A)が大きいかが判明し、その変化方向からより高いピークの方向を求めていく。これにより、一定の確率で改悪方向にも遷移されることで局所最適解からの脱出を可能にする。
【0045】
データを採用する確率としては(1)式を採用し、より評価値Aが小さいものを採用する。式中で、ΔE=今の解と新しい解候補の差であり、T=温度(差の最大振れ幅を制御する変数)=最大振れ幅制御変数である。これにより、例えば、0<α<1の変数に対してT=αL/Lmaxとすると、Lが大きくなるに従い、Tは小さくなっていく。最初は大きい「最大振れ幅制御変数」を設定し、改悪方向の評価も受け入れる。計算回数が進むに従い、「最大振れ幅制御変数」を小さくしていくことで「最適解」に収束していくことになる。
【0046】
シミュレーテッド・アニーリング(疑似焼きなまし)法は金属工学における焼きなましから来ている。焼きなましは、金属材料を熱した後で徐々に冷やし、結晶を成長させてその欠陥を減らす作業であり、熱によって原子は初期の位置(内部エネルギーがローカルな極小状態)から離され、よりエネルギーの高い状態をうろつき、ゆっくり冷却することで、原子は初期状態よりも内部エネルギーがさらに極小な状態を得る可能性が多くなることを利用している。
【0047】
図9は、工程作成支援システムで生成する解体動作要素と、ロボットの動作アニメーション、対応する工程ガントチャートの画面表示例である。画面は工程計画支援システム1の入出力部10に表示され、大別すると5つの小画面により構成されている。101、104、105は、
図3や
図5の内容を可視的に表示したものであり、その詳細な説明は省略する。
【0048】
左下の小画面103はシミュレーションスタート画面である。作業現場を示すエリアXをボタン1031で選択した状態で、左上の小画面のエリア解体工程101の解体アクティビティを選択した状態から、スタートボタン1032をクリックすることで処理がスタートする。
【0049】
このときに右側の小画面上下には、解体順序d1に対応する解体シーケンス104とエリア解体アニメ105が表示される。そして小画面102には、現在選択している解体順序の時の、動作時間、汚染量、照射線量、総移動距離などが合わせて表示され、工程変更の必要性に関わる支援情報を出力することができる。
【0050】
以上から、本実施例の工程計画作成支援システムシステムによれば、大きな探索空間から、可能な解体工程の成立性を判定支援に寄与するとともに、解体工期の精度向上と、工程遅延からのリカバリ支援に寄与する。
【0051】
なお本発明の実現にあたり、以下に示す各種の対応を行うのがよい。まず、ロボットの動作姿勢や、動作経路は、
図1の工程データベースDB1、ロボット3DモデルデータベースDB3の情報からの選択により設定することとしているが、これは手動操作入力装置を備えることで、動作姿勢・経路を微小調整し、工数を計算することとしてもよい。
【0052】
次に、工程データベースDB1に関して、工程についての複数のシーケンスを設定する際の制約条件として、人、ロボット、その他工具、及び、想定廃棄物量などの制約を取り込み、そのうえで工数を調整し、ロボットの動作制限情報を外部出力することで可視化するものとするのがよい。
【0053】
さらに、現場での作業内容を取り込み、ロボットの現場動作実績に基づき、調整が必要な工程を抽出し、改めてロボット動作を再計画するのがよい。
【符号の説明】
【0054】
10:入出力装置
20:アクティビティ選択装置
30:作業対象指定装置
40:ロボット選択装置
50:ロボットシミュレーション装置
60:シーケンス最適化装置
70:工程評価装
DB1:工程データベース
DB2:環境3Dモデルデータベース
DB3:ロボット3Dモデルデータベース
DB4:汚染/線量データベース
DB5:ロボット動作シーケンスデータベース