IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社東芝の特許一覧 ▶ 東芝エネルギーシステムズ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-無線システム、無線端末 図1A
  • 特許-無線システム、無線端末 図1B
  • 特許-無線システム、無線端末 図2
  • 特許-無線システム、無線端末 図3
  • 特許-無線システム、無線端末 図4
  • 特許-無線システム、無線端末 図5
  • 特許-無線システム、無線端末 図6
  • 特許-無線システム、無線端末 図7A
  • 特許-無線システム、無線端末 図7B
  • 特許-無線システム、無線端末 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】無線システム、無線端末
(51)【国際特許分類】
   H04W 8/22 20090101AFI20240311BHJP
   H04W 12/12 20210101ALI20240311BHJP
   H04W 4/33 20180101ALI20240311BHJP
   H04W 48/08 20090101ALI20240311BHJP
   H04M 1/00 20060101ALI20240311BHJP
   H04B 11/00 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
H04W8/22
H04W12/12
H04W4/33
H04W48/08
H04M1/00 R
H04B11/00 A
H04B11/00 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020167075
(22)【出願日】2020-10-01
(65)【公開番号】P2022059375
(43)【公開日】2022-04-13
【審査請求日】2023-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】代田 孝広
(72)【発明者】
【氏名】黒田 英彦
(72)【発明者】
【氏名】小田 直敬
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 健
(72)【発明者】
【氏名】池田 芳朗
【審査官】石田 信行
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-134426(JP,A)
【文献】特開2010-004480(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04W 4/00 - 99/00
H04B 7/24 - 7/26
H04B 11/00
H04M 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建屋内において該建屋内に配置された無線アクセスポイントを介して無線端末に情報を提供する無線システムであって、
前記無線端末の制御内容を示す指令信号を生成する制御部と、
前記建屋内に配設され、駆動信号に基づき前記無線端末に向けて音波を送出する第1の振動子と、
前記無線端末の制御内容と、前記振動子が前記制御内容を実現する音波を送出するための前記駆動信号のパルス幅を含むパラメータと、を対応付けて記憶する記憶部と、
前記指令信号に基づき前記無線端末の制御内容に対応する前記駆動信号のパラメータを前記記憶部から取得し、前記パラメータに基づいて前記駆動信号を生成して前記振動子に供給する発振部と
前記建屋内の背景雑音を検出する背景雑音検出部と
を備え
前記発振部は、前記背景雑音のレベルに基づき前記駆動信号の信号レベルを調整すること
を特徴とする無線システム。
【請求項2】
前記パラメータは、前記振動子の駆動電圧及びパルスの周期のうちいずれか1以上を含むことを特徴とする請求項1記載の無線システム。
【請求項3】
前記建屋内に配設され前記第1の振動子と異なる第2の振動子をさらに備え、
前記第1の振動子及び前記第2の振動子は、それぞれ異なる位置から前記無線端末に向けて前記音波を送出すること
を特徴とする請求項1記載の無線システム。
【請求項4】
請求項1記載の無線システムにおける前記情報を受ける無線端末であって、
周囲の音波を検出して検出信号を取得する音響検出部と、
前記検出信号のうち、所定の周波数帯域の信号成分を増幅する増幅部と、
前記検出信号を解析して該検出信号の周波数スペクトルおよび信号周期のうち一以上を含む音響情報を取得する信号処理部と、
前記無線端末を制御する制御内容および該制御内容に対応する音響信号のパルス幅を含むパラメータを記憶する第1の指令定義部と、
前記音響情報が、前記第1の指令定義部に記憶された前記音響信号のパラメータの特徴点を含むか否かを判定する比較判定部と、
前記比較判定部の判定の結果、前記音響情報が前記第1の指令定義部に記憶された前記音響信号のパラメータを含む場合、前記音響情報に含まれる前記音響信号のパラメータに対応する前記制御内容を実行する制御部と、
を備えた無線端末。
【請求項5】
前記音響検出部を、前記増幅部、前記信号処理部、前記第1の指令定義部、前記比較判定部及び前記制御部を収容する筐体から分離したことを特徴とする請求項4記載の無線端末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、無線システムおよび無線端末に関する。
【背景技術】
【0002】
発電プラントの現場では、無線通信網を構築し作業員が無線端末や無線センサを活用することで現場作業を効率化する無線システムの導入が進んできている。しかし、無線システムは、電波出力の大きさやアンテナの向きなどを変えると容易に外部に電波が漏洩するため、情報セキュリティを確保するためには、取り扱う情報の管理および漏洩防止が重要となる。
【0003】
発電プラント建屋内に設置する無線システムとしては、例えば、プラント機器の点検保守に関わる書類や手順書などを無線通信で取得して点検結果や各種取得データを無線通信で伝送する無線端末と、発電プラント建屋内に設置されたアクセスポイントと、アクセスポイントに接続されデータを収集し管理するサーバとにより構成されるシステムが知られている。
【0004】
一般に、発電プラントにおいては、重要装置への電磁ノイズの影響を抑制するために電波の発射が禁止されているエリアが存在する。また、情報漏洩防止の観点から、カメラ撮影が禁止されているエリアなども存在する。そのためには、無線端末の無線通信機能や撮影機能を制御する必要があるが、発電プラントのように金属製の装置や配管が多数存在する空間においては、電波が干渉や反射を起こしやすく、電波による無線端末の管理には限界があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6155104号
【文献】特許第5661987号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、従来の無線システム、無線端末では、電波による無線端末の管理に限界があるという問題がある。本発明はかかる課題を解決するためになされたもので、より多様な電波環境においても端末の情報漏洩管理を行うことのできる無線端末、無線システムおよび無線通信方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の無線システムは、建屋内において該建屋内に配置された無線アクセスポイントを介して無線端末に情報を提供する無線システムであって、無線端末の制御内容を示す指令信号を生成する制御部と、建屋内に配設され、駆動信号に基づき無線端末に向けて音波を送出する第1の振動子と、無線端末の制御内容と、振動子が制御内容を実現する音波を送出するための駆動信号のパラメータと、を対応付けて記憶する記憶部と、指令信号に基づき無線端末の制御内容に対応する駆動信号のパラメータを記憶部から取得し、パラメータに基づいて駆動信号を生成して振動子に供給する発振部とを備えている。
【発明の効果】
【0008】
実施形態によれば、より多様な電波環境においても端末の情報漏洩管理を行うことのできる無線システム、無線端末を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1A】第1の実施形態の概要を示す図である。
図1B】第1の実施形態の概要を示す図である。
図2】第1の実施形態の無線システムの構成を示すブロック図である。
図3】第1の実施形態の無線システムにおける指令定義の例を示す図である。
図4】第1の実施形態の無線システムにおける無線端末の動作を示すフローチャートである。
図5】第1の実施形態の無線システムの変形例を示す図である。
図6】第2の実施形態の無線システムの構成を示すブロック図である。
図7A】第3の実施形態の無線システムの動作を説明する図である。
図7B】第3の実施形態の無線システムの動作を説明する図である。
図8】第4の実施形態の無線システムにおける概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1の実施形態の概要)
以下、図面を参照して、実施形態を詳細に説明する。図1A及び図1Bは、第1の実施形態に係る無線システムの概要を示している。図1A及び図1Bに示すように、この実施形態の無線システム1は、無線端末10、サーバ20、振動子30および音響信号発振器35を有している。
【0011】
無線端末10は、プラント機器PTの点検作業のために用いる携帯端末であり、各種アプリケーションをインストールすることで、情報の取得、表示などを実現する。サーバ20は、無線端末10が取得する各種情報を予め格納しておく記憶部208と、無線端末10の要求に応じて各種情報を提供する制御部204とを有している。サーバ20には、無線端末10と直接通信するアクセスポイント200と、無線端末10に送る音響信号を生成する音響信号発振器35とが接続されている。音響信号発振器35は、無線端末10の動作を制御するための音響信号を生成し、振動子30を駆動して音波を発信する。
【0012】
アクセスポイント200は、無線端末10から識別情報および位置情報を無線通信で取得し、サーバ20へ送る。サーバ20には、現場の事前情報や予め計画された点検計画情報が格納されており、識別情報および位置情報を照合して、無線端末10が正当な通信相手であるかどうか検証する。検証の結果正当であると判定されれば、サーバ20は無線端末10を認証し、その点検エリアで必要な最小限の点検書類や手順、保守業務情報などを、アクセスポイント200を介して無線端末10に送信する。無線端末10は、点検結果や各種取得データを、アクセスポイント200を介してサーバ20に送信する。
【0013】
振動子30は、所定の電圧の駆動信号に応じて所定の周波数の音波を発生させる素子である。音響信号発振器35は、振動子30を駆動する音響信号を生成する。図1Bに示すように、振動子30は、無線端末10をもつユーザが通過可能なゲートGの頂点部に配設され、ゲートGの直下にある当該無線端末10に音波を照射する。振動子30は、発電プラント建屋B内の天井部に配設されてもよい。
【0014】
この実施形態によれば、現場において無線端末10が正当であることを確認でき、その現場に必要な最小限の点検書類や手順書、保守業務情報などを無線端末10に転送することができる。すなわち、無線端末10に予め各種情報を記憶させておく必要がないので、情報管理が可能となり、また情報漏洩の脅威を軽減できる。さらに点検作業に必要な点検書類や手順書を作業員へ伝送することで、作業の効率化や確実化も可能となる。
【0015】
(第1の実施形態の構成)
続いて、図2を参照して第1の実施形態の無線システム1の構成を説明する。図2に示すように、この実施形態の無線システム1は、無線端末10、サーバ20、振動子30および音響信号発振器35を有している。
【0016】
サーバ20は、点検保守に関わる書類や手順書などの各種情報を格納するとともに、無線端末10を管理する演算装置である。図2に示すように、サーバ20は、送受信部202、制御部204、端末管理部206、記憶部208および指令定義部210を有しており、アクセスポイント200と接続されている。
【0017】
アクセスポイント200は、無線端末10と通信する無線インタフェースであり、アンテナANTを有している。アクセスポイント200は、無線端末10と同じ無線通信方式だけ備えてもよいし、無線通信を用いた他のシステムでのアクセスを可能とすべく、無線端末10とは異なる無線通信方式も併せて備えておいてもよい。アクセスポイント200の通信エリアは、アンテナの形状や利得、通信モジュールの出力電力により変わってくるが、プラント機器PTの建屋B内での電界強度や電波強度ほかの制限に抵触しなければ、通信モジュールの出力電力はどのような値でも良く、アンテナANTも平面アンテナやパラボラアンテナや八木アンテナをはじめとする指向性アンテナでも、ペンシル型アンテナをはじめとする無指向性アンテナでも、いかなる特性のものを用いてもよい。さらに、受信感度の向上として指向性アンテナ同士や無指向性アンテナ同士、指向性アンテナと無指向性アンテナとを組み合わせたタイバーシティ方式を用いてもよい。また、無線端末10から受信したデータをサーバ20に伝送する際に、通信負荷低減として通信タイミングの調整などを行うことができるように、データを一時的に保存するデータ記憶装置を備えてもよい。
【0018】
送受信部202は、サーバ20が送信する送信信号を生成するとともに受信信号を受信データに変換する。制御部204は、サーバ20全体の演算処理を統括する演算ブロックである。端末管理部206は、サーバ20にアクセスする無線端末10を管理する演算ブロックである。記憶部208は、無線端末10に提供する各種情報を格納する記憶媒体であり、たとえばHDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)、メモリなどにより実現できる。記憶部208は、点検保守に関わる書類や手順書などの各種情報を記憶する。記憶部208が記憶するデータとしては、たとえば、無線端末10から受信したデータ、端末管理部206が処理したデータ、無線端末10に伝送する書類や手順書などがある。
【0019】
指令定義部210は、無線端末10の制御内容と、音響信号発振器35への指令信号とを対応付けたデータテーブルである。指令定義部210は、無線端末10の制御内容と音響信号発振器35に対する指令信号とを対応付けている。
【0020】
音響信号発振器35は、予め計画された無線端末10に対する指令信号に対応する音波パルス信号を生成する。図2に示すように、音響信号発振器35は、送受信部310、信号定義部312および駆動電圧生成部314を有している。
【0021】
送受信部310は、サーバ20を接続するインタフェースである。信号定義部312は、駆動電圧生成部314が生成すべき信号を定義したデータテーブルである。信号定義部312は、サーバ20が送信する指令信号の内容と、当該指令信号に対応する無線端末10の制御内容と、当該制御内容に対応する駆動電圧生成部314が生成すべき信号のパラメータとを対応付けている。
【0022】
信号定義部312は、たとえば、無線端末10の制御指令Aについて音波のパルス幅0.001secで出力する、というように、無線端末の制御内容と音響信号のパラメータとを対応付ける。図3は、信号定義部312が保持する定義内容の例を示している。図3に示すように、たとえば、パルス幅0.001secの音響信号は「無線機能停止」、パルス幅0.002secの音響信号は「撮影禁止」のように、生成する音響信号と制御内容とが対応付けられている。すなわち、無線端末10の無線機能を停止させる場合、駆動電圧生成部314は、駆動電圧48Vでパルス幅0.001secの音響信号を生成することになる。
【0023】
駆動電圧生成部314は、サーバ20から送られる指令信号及び信号定義部312の定義内容に基づいて、振動子30を駆動する信号(音響信号)を生成する回路ブロックである。駆動電圧生成部314は、振動子30を駆動する音響信号として、所定の電圧(例えば48Vや24V)、所定のパルス幅(例えば0.001sec)、所定のパルス周期(パルス幅0.001secのパルスが0.1sec周期等)の信号を生成する。
【0024】
駆動電圧生成部314は、振動子30を設置した場所の周囲雑音環境に応じて、例えば周囲雑音が大きい場合には音波パルスがかき消されないように音圧レベルを周囲雑音に所定のバイアスをかけたレベルに設定し、周囲雑音が小さい場合にも音波パルスが周囲への騒音とならないように周囲雑音に所定のバイアスをかけたレベルに設定してもよい。具体的には、サーバ20からの指令またはあらかじめ定義されたレベルに基づいて、振動子30を駆動する電圧(例えば12Vや48V)を生成するように構成してもよい。
【0025】
駆動電圧生成部314が生成する音響信号は、発電プラント建屋内で稼働する装置から発せられる騒音を予め周波数解析し、最も干渉が発生しづらい周波数帯域から選んだ周波数とすることが好ましい。無線端末10の制御内容は、音響信号の電圧、パルス幅、パルスの周期などを組み合わせて定義される。
【0026】
振動子30は、例えば超音波振動子のように駆動信号(音響信号)の供給を受けて音波を発する素子である。
【0027】
無線端末10は、点検保守に関わる書類や手順書などを無線通信で取得して点検結果や各種取得データを無線通信で伝送する携帯端末である。無線端末10は、図2に示すように、アンテナANT、送受信部100、記憶部102、表示部104、入力部106、撮像部108を有している。無線端末10は、ノートパソコンやタブレット、スマートフォンおよびPDA(Personal Digital Assistant)などにより実現することができる。
【0028】
アンテナANTは、無線端末10が送信する電波を発射するとともに電波を取り込んで送受信部100に送る。送受信部100は、アンテナANTと接続された無線インタフェースであり、たとえばWi-FiやBluetooth(登録商標)、ZigBeeや特定小電力をはじめとして、端末に内蔵しているものや外付けするものなどさまざまな方式の規格を適用することができる。送受信部100は、アンテナANTで受信したアクセスポイント200などの電波を利用して、自己の位置情報を取得する機能をも有している。
【0029】
記憶部102は、無線端末10の内部記憶装置であり、たとえばHDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)、各種メモリなどにより実現できる。表示部104は、無線端末10の出力ユーザインタフェースであり、各種情報を表示するディスプレイ素子などにより構成される。入力部106は、無線端末10の入力ユーザインタフェースであり、タッチパネル素子やスイッチなどにより実現できる。撮像部108は、無線端末10の入力インタフェースであり、撮像機能をもつカメラである。
【0030】
また、無線端末10は、マイクロフォンMIC、音響検出部110、信号処理部112、波形処理部114、制御部116および指令定義部118などの演算処理部を有している。
【0031】
マイクMICは、無線端末10の入力インタフェースの一つであり、無線端末10の周囲の音波を検出する。音響検出部110は、マイクMICが取り込んだ音波を音響信号として受け取る演算ブロックである。信号処理部112は、音響検出部110が受けた音響信号について各種信号処理を行う演算ブロックであり、たとえば音響信号をフーリエ変換処理(FFT処理)する。波形処理部114は、フーリエ変換された音響信号を周波数スペクトル波形として処理する演算ブロックである。制御部116は、各演算ブロックの処理を統括する演算ブロックである。指令定義部118は、実施形態の無線システムを通じて制御される無線端末10の制御内容を定義したデータテーブルを保持する機能をもつ。
【0032】
指令定義部118が保持するデータテーブルは、信号定義部312に対応し、音響検出部110が検出した音波と、当該音波に対応する無線端末10の制御内容とを対応付けている。
【0033】
(第1の実施形態の動作)
続いて、図2ないし図4を参照して、この実施形態の無線システム1の動作を説明する。この実施形態の無線システム1では、作業対象となるプラント機器PTが配置された点検エリアの特性や点検対象、点検進行状況などをもとに、無線端末10をどのように制御するか予め計画を立てておき、その計画に沿ってゲートGを設置するとともに振動子30を配置しておく。
【0034】
ユーザたる作業員が建屋Bにおいて無線端末10を起動すると、無線端末10の送受信部100は、自己の識別番号および位置情報をアクセスポイント200に向けて送信する。アクセスポイント200が無線端末10の識別番号および位置情報を受けると、端末管理部206は、識別番号および位置情報に基づいて、無線端末10が正規の端末か否か検証する(ステップ400。以下「S400」のように称する。)。検証の結果、無線端末10が正規の端末であれば、端末管理部206は、無線端末10を認証する。
【0035】
無線端末10が認証されると、制御部204は、点検保守作業で必要となる書類や手順書などの情報を、記憶部208から読み出してアクセスポイント200を介して無線端末10に送信する。サーバ20からの情報を受けると、無線端末10の送受信部100は、受信した情報を記憶部102に格納し、表示部104を介してユーザが閲覧可能な状態にする(S402)。ユーザが入力部106を介して点検結果を電子データに反映すると、送受信部100は、点検結果のデータを記憶部102から読み出してサーバ20へ送信する。点検結果データを受けると、サーバ20の送受信部202は、受け取ったデータについて端末IDやデータの紐付処理、タイムスタンプ挿入などのデータ処理を行った上で記憶部208に格納する。
【0036】
ここで、音響信号発信器35が、無線端末10を「撮影禁止」とする指令信号をサーバ20から受け取ると、駆動電圧生成部314は、信号定義部312から「撮影禁止」に対応する音響信号のパラメータを読み出す。図3に示す例では、「撮影禁止」は駆動電圧48V・パルス幅0.002secであるから、駆動電圧生成部314は、パルス幅0.002secで48Vの音響信号を生成し、振動子30に供給する。すなわち、振動子30は、信号定義部312の規定内容で変調されたパルス信号により駆動され、音波を発信する。
【0037】
無線端末10の音響検出部110は、無線端末10がサーバ20に認証されると、マイクMICを通じて周囲の音波検出を開始する(S404)。例えば、マイクMICは振動子30が発したパルス幅0.002secの音波を検出する。
【0038】
信号処理部112は、音響検出部110が検出した音波の音響信号を一定間隔で高速フーリエ変換(FFT)処理を行う(S406)。その結果、信号処理部112は、音響信号から変換された周波数スペクトルを波形処理部114に出力する。
【0039】
波形処理部114は、信号処理部112が出力した周波数スペクトルを周波数成分の波形として保持する。そして、音波の干渉を考慮して予め定めている周波数帯域での音圧レベルのピークを判定し、その周波数と音圧レベルとピークの発生周期などからなる周波数スペクトルの特徴を抽出する(S408)。
【0040】
周波数スペクトルの特徴が抽出されると、波形処理部114は、抽出された特徴と指令定義部118に格納された定義テーブルとを比較する(S410)。無線端末10の指令定義部118は、音響信号発振器35の信号定義部312と共通の内容を含んでいるから、波形処理部114の比較処理は、指令定義部118の中から抽出した特徴に対応する制御内容を抽出することになる。ここで、信号定義部312がパルス幅を用いて音響信号を定義しているので、波形処理部114は、波形から音響信号の内容を判定することが可能になる。
【0041】
波形処理部114が指令定義部118から周波数スペクトルの特徴が一致する制御指令を発見できない場合(S412のNo)、音響検出部110は音響信号の検出を続行する(S404)。
【0042】
波形処理部114が指令定義部118から周波数スペクトルの特徴が一致する制御指令を発見した場合(S412のYes)、すなわち、抽出した周波数スペクトルの特徴が指令定義部118に格納された定義テーブルの音響信号のパラメータの特徴を含む場合、制御部116は、制御指令に対応する制御信号を生成し(S414)、所定の制御を実行する(S416)。
【0043】
ここで「制御指令」は、無線端末10において管理者権限が必要なシステムの設定変更等、無線端末10の動作に関する重要機能に関わるものであり、例えばポイント付与や周囲情報の表示などのようにアプリケーションへの情報提供とは異なるものである。具体的には、「制御指令」は、(1)無線端末の無線機能制限、(2)無線端末のカメラ機能制限、(3)無線端末上のデータ消去、(4)無線端末の持ち出し警告、(5)無線端末の限定的使用許可、(6)消費電力抑制などが例示される。
【0044】
なお、無線端末10の送受信部100は、ステップ416により実行された制御指令の成否をサーバ20に送信してもよい。これにより、サーバ20の端末管理部206は、無線端末10が制御指令に従って動作しているかを判定することができる。この判断方法については、例えば無線端末10において各機能の有効または無効をフラグで表現してデータ化しておき、サーバ20ではそのデータをもとにして、たとえばカメラ機能などが無効になっているかどうかを判定できる。制御指令が無線通信の制限であれば、制限した無線端末10からのデータが届いていないことをチェックしたりすることでも判定できる。
【0045】
(第1の実施形態の変形例)
続いて、第1の実施形態の変形例に係る無線システムについて説明する。図1Bに示す第1の実施形態では、振動子30はゲートGの頂点部に配設されているが、図5に示す変形例では、複数の振動子30a・30b・30cが、ゲートGの頂点部及び側面部それぞれに配設されている。すなわち、ユーザが無線端末10をどの方向に向けて使用したとしても、複数の方向から音波を無線端末10に向けて送出することで、より確実な無線端末10の制御を実現する。
【0046】
ゲートGに配設される複数の振動子30a・30b・30cは、共通の音響信号により駆動されるが、図5に示すようにゲートGの側面部に振動子30b・30cを設ける場合、干渉により無線端末10の音響検出部110が正しい音波を検出できなくなる可能性がある。そこで、音響信号発振器35の信号定義部312は、振動子30a・30b・30cそれぞれに供給する音響信号の電圧を低く抑えることが望ましい。また、信号定義部312は、振動子30a・30b・30cそれぞれに供給する音響信号のパルスが互いに同期していることが望ましい。
【0047】
さらに、音響信号発振器30の信号定義部312は、プラントの機器の配置等に応じて、複数の振動子のうち特定の振動子への音響信号の供給を停止するよう定義がなされてもよい。これにより、無線端末10の音響検出部110が音波パルスを安定受信することが可能となる。
【0048】
(第2の実施形態の構成)
続いて、図6を参照して他の実施形態の無線システムの構成を説明する。図6に示すように、この実施形態の無線システム2は、音響信号発振器35が背景雑音検出部316を備える点が第1の実施形態と相違している。そのため、以下の説明において共通する要素については同一の符号を付して示し、重複する説明を省略する。
【0049】
図6に示すように、この実施形態の無線システム2では、音響信号発振器35に背景雑音検出部316及びマイクMICをさらに備えている。背景雑音検出部316は、マイクMICを介して無線システム2が配置された発電プラント建屋B内の背景雑音を検出する。
【0050】
ゲートGが設置された発電プラント建屋内の点検対象エリアに新たに構造物が設置されると、音の反射や吸収が発生する。これは、振動子30が発した音波を無線端末10に送る場合に周囲の騒音環境が変わることとなり、期待するレベルの音波を無線端末10に送り届けることが困難になる可能性がある。そこで、背景雑音検出部316は、ゲートG周囲の環境雑音を検出してサーバ22に送り、サーバ22は、背景雑音検出部316の検出結果から騒音状況を分析して分析結果を加味した指令信号を生成し、駆動電圧生成部314は、サーバ22の分析結果が加味された指示信号に基づき騒音状況に適した音響信号を生成する。例えば、背景雑音検出部316が環境雑音の上昇を検出すると、駆動電圧生成部314は、信号定義部312に定義された音響信号の電圧レベルよりも高い電圧レベルの信号を生成する。
【0051】
なお、図6に示す例では、音響信号発振器35が背景雑音検出部316を備えているが、これには限定されない。サーバ20が背景雑音検出部を備えて、指令信号において電圧レベルを調節してもよい。また、背景雑音検出部316による音響信号の電圧レベルの制御は、動的に行ってもよいし、一定期間ごとに調整する形でもよい。さらに、上記説明した例では、背景雑音検出部316の検出結果の分析をサーバ22が行っているが、これにも限定されない。信号定義部312が環境雑音レベルを加味した駆動電圧を記憶しておき、駆動電圧生成部314が環境雑音レベルを加味した駆動電圧値を用いて音響信号を生成してもよい。この場合、サーバ22を介さないので、環境雑音の変化に応じた音響信号の生成を可能にする。
【0052】
(第3の実施形態)
次に、図2を参照して第3の実施形態の無線システムの構成を説明する。第3の実施形態の無線システムでは、無線端末10の信号処理部112は、特定の周波数帯域の利得を制御する機能をさらに具備している。
【0053】
音響信号発振器35及び振動子30により生成される音波は、発電プラント建屋B内の点検対象エリアで使用している装置から発せられる騒音とは干渉しない周波数(帯)が選定される。そのため、直接的には当該音波と環境雑音との間で干渉は発生しない。しかし、図7Aに示すように、音響信号発振器35及び振動子30が発する音波の周波数帯域Xに隣接する周波数帯に高いレベルの環境雑音が存在する場合、音波の周波数帯域Xが環境雑音に埋もれてしまう。この状態では、無線端末10の波形処理部114による音波の比較が困難となってしまう。
【0054】
そこで、この実施形態の無線システムでは、図7Bに示すように、無線端末10の信号処理部112において、振動子30が発する音波の周波数帯域Yについてバイアスをかける動作(増幅動作)をする。これにより、波形処理部114による音波の識別を確実に行うことができる。
【0055】
このような、信号処理部112により特定の周波数帯を増幅する動作は、無線端末10にとっては演算負荷が大きくなり、バッテリの消耗を早めるだけでなく、当該特定の周波数帯内に存在するノイズによる音波の誤検知を生ずる可能性がある。そこで、無線端末10に加速度センサやジャイロセンサをはじめとする自律位置測位が可能なセンサを備えて、無線端末10がゲートG近傍に接近した場合にバイアス負荷を行ってもよい。
【0056】
(無線端末の変形例)
続いて、図8を参照して第1ないし第3の実施形態における無線端末の変形例を説明する。図8に示すように、この変形例に係る無線端末10では、マイクMICを無線端末10の筐体から分離し、有線または無線により接続している。
【0057】
第1ないし第3の実施形態に係る無線端末は、マイクMICにより振動子30が発する音波を受信することで、無線端末10における特定の制御を実現する。したがって、無線端末10のマイクMICは、振動子30からの音波を確実に検出する必要がある。しかし、ユーザによる無線端末10の使用態様、例えば点検作業中に無線端末をカバンの中に入れたり、持ち方が悪く情報端末のマイクが指で塞がってしまったりするような場合、マイクMICが音波を適切に受信することができなくなる可能性がある。
【0058】
そこで、図8に示す変形例では、無線端末10のマイクMICをユーザの腕や肩、ヘルメットなど、外部に露出した部分に配置し、マイクMICが検出した音波を有線接続または無線接続により無線端末本体の音響検出部110に伝送する。かかる構成により、ユーザの姿勢によらず無線端末の安定した制御を実現することができる。
【0059】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0060】
1…無線システム、10…無線端末、100…送受信部、102…記憶部、104…表示部、106…入力部、108…撮像部、110…音響検出部、112…信号処理部、114…波形処理部、116…制御部、118…指令定義部、20…サーバ、200…アクセスポイント(AP)、202…送受信部、204…制御部、206…端末管理部、208…記憶部、210…指令定義部、30…振動子、35…音響信号発振器35、310…送受信部、312…信号定義部、314…駆動電圧生成部、316…背景雑音検出部、ANT…アンテナ、MIC…マイク、SP…スピーカ、B…建屋、G…ゲート。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8