(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】オイル分離装置及びオイル分離装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
F01M 13/04 20060101AFI20240311BHJP
B01D 39/20 20060101ALI20240311BHJP
B01D 46/10 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
F01M13/04 B
F01M13/04 E
B01D39/20 B
B01D46/10 E
(21)【出願番号】P 2020186945
(22)【出願日】2020-11-10
【審査請求日】2023-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000252252
【氏名又は名称】和興フィルタテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092897
【氏名又は名称】大西 正悟
(74)【代理人】
【識別番号】100157417
【氏名又は名称】並木 敏章
(74)【代理人】
【識別番号】100218095
【氏名又は名称】山崎 一夫
(72)【発明者】
【氏名】日吉 望
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-260936(JP,A)
【文献】国際公開第2020/121744(WO,A1)
【文献】特開2018-084143(JP,A)
【文献】米国特許第04878929(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M 13/04
B01D 39/20
B01D 46/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのクランクケース内のブローバイガスを吸気系に流すときに、ブローバイガスに含まれるミスト状のオイルを分離するオイル分離装置であって、
少なくとも一部のブローバイガスが通るガス流路と、前記ガス流路内に設けられて前記ガス流路を流れるブローバイガスを通過させてオイルを分離する濾材とを備え、
前記濾材は、所定の厚さの板状で、所定外側面形状を有し、ブローバイガスを厚み方向の一方の面から反対側の面に通過させてミスト状のオイルを分離するように用いられるものであり、
前記ガス流路の少なくとも一部が前記濾材の前記所定外側面形状に対応する受容空間を形成する周壁面を有し、前記受容空間が前記ガス流路の少なくとも一部を形成し、前記周壁面に囲まれた前記受容空間内に前記濾材を収容して、前記ガス流路を流れるブローバイガスを前記厚み方向の一方の面から反対側の面へ向かって流して前記濾材を通過させるようになっており、
前記受容空間内に収容された前記濾材の外側面と前記周壁面との隙間に充填した充填材料により前記濾材の外側面を塞ぐとともに前記隙間を塞ぎ、前記ガス流路を流れるブローバイガスを、前記濾材の内部を前記厚み方向の一方の面から反対側の面に通過させるように構成
し、
前記隙間においては、前記隙間における前記外側面の厚み方向の長さの途中位置まで前記充填材料が充填され、前記濾材を厚み方向に圧縮して変形させて前記外側面の全域を前記充填材料と接触させた後、前記濾材の圧縮を解除して前記外側面の全域が前記充填材料により塞がれた構成であることを特徴とするオイル分離装置。
【請求項2】
前記充填材料が樹脂材料であることを特徴とする請求項1に記載のオイル分離装置。
【請求項3】
前記濾材がグラスウールにより形成されることを特徴とする請求項1もしくは2に記載のオイル分離装置。
【請求項4】
エンジンのクランクケース内のブローバイガスを吸気系に流すときに、ブローバイガスに含まれるミスト状のオイルを分離するオイル分離装置の製造方法であって、
前記オイル分離装置は、少なくとも一部のブローバイガスが通るガス流路と、前記ガス流路内に設けられて前記ガス流路を流れるブローバイガスを通過させてオイルを分離する濾材とを備え、
前記濾材を、所定の厚さの板状で、所定外側面形状を有し、ブローバイガスを厚み方向の一方の面から反対側の面に通過させてミスト状のオイルを分離するように用いられるように形成するステップと、
前記ガス流路の少なくとも一部が前記濾材の前記所定外側面形状に対応する受容空間を形成する周壁面を有するように形成するとともに、前記受容空間により前記ガス流路の少なくとも一部を形成するステップと、
前記周壁面に囲まれた前記受容空間内に前記濾材を収容して、前記ガス流路を流れるブローバイガスが前記厚み方向の一方の面から反対側の面へ向かって流れて前記濾材を通過可能とするステップと、
前記受容空間内に収容された前記濾材の外側面と前記周壁面との隙間に充填材料を充填するステップと、
前記充填材料により前記濾材の外側面を塞ぐとともに前記隙間を塞ぎ、前記ガス流路を流れるブローバイガスが前記濾材の内部を前記厚み方向の一方の面から反対側の面に通過可能とするステップと、を有
し、
前記外側面と前記周壁面との隙間に前記充填材料を充填するステップにおいて、前記隙間における前記外側面の厚み方向の長さの途中位置まで前記充填材料を充填し、前記濾材を厚み方向に圧縮して変形させて前記外側面の全域を前記充填材料と接触させた後、前記濾材の圧縮を解除して前記外側面の全域を前記充填材料により塞ぐことを特徴とするオイル分離装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブローバイガスに含まれるミスト状のオイルを分離するオイル分離装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や産業機械のエンジンにおいて、ブローバイガス還元システムを備えたものが知られている。ブローバイガス還元システムでは、ピストンリングとシリンダ壁の間隙からクランクケース内に漏れ出したブローバイガスを、シリンダヘッドカバー(ロッカーカバー)に形成した吸気系に繋がる流路を介して、吸気系において生じる負圧により吸い込んで吸気系に戻し、混合気とともに燃焼室に供給する。クランクケース内にはエンジンオイルが充満しているため、クランクケース内から吸い込んだブローバイガスにはミスト状のオイルが含まれている。そのため、ブローバイガス還元システムには、ブローバイガスからミスト状のオイルを分離して捕集するオイル分離装置を備えたものが知られている(例えば、下記特許文献1、2を参照)。
【0003】
このようなオイル分離装置では、ミスト状のオイルの分離捕集効率を高めるために濾材が用いられることがある。濾材は、その内部をブローバイガスが通過する際に、ブローバイガスに含まれるミスト状のオイルを凝集して分離する機能を有する材料(例えば、不織布やグラスウール)で形成される。このような濾材としては、円筒状に形成されたものが広く使用されている。また、所定の厚さの板状(例えば、直方体状)に形成された濾材もあるが、あまり使用されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007‐64155号公報
【文献】特開2008‐121478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
オイル分離装置において板状の濾材は、例えば、ブローバイガスを濾材の厚み方向の一方の面から反対側の面に通過させ、その際にミスト状のオイルを分離するように用いられる。ブローバイガスが濾材の内部を濾材の厚み方向の一方の面から反対側の面に通過することにより、効率良くミスト状のオイルを分離して捕集することができる。しかし、ブローバイガスが濾材の内部を通過せず濾材の外側面の脇を通過したり、ブローバイガスが濾材の外側面から濾材内に入ったり、濾材内に入ったブローバイガスが外側面から抜け出たりしてしまうと、オイルの分離効率が低下してしまうという課題がある。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、板状の濾材によりブローバイガスに含まれるミスト状のオイルを効率的に分離して捕集することが可能なオイル分離装置及びオイル分離装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るオイル分離装置は、エンジンのクランクケース内のブローバイガスを吸気系に流すときに、ブローバイガスに含まれるミスト状のオイルを分離するオイル分離装置であって、少なくとも一部のブローバイガスが通るガス流路(例えば、実施形態におけるケース内ガス流路)と、前記ガス流路内に設けられて前記ガス流路を流れるブローバイガスを通過させてオイルを分離する濾材とを備え、前記濾材は、所定の厚さの板状で、所定外側面形状を有し、ブローバイガスを厚み方向の一方の面から反対側の面に通過させてミスト状のオイルを分離するように用いられるものであり、前記ガス流路の少なくとも一部が前記濾材の前記所定外側面形状に対応する受容空間を形成する周壁面を有し、前記受容空間が前記ガス流路の少なくとも一部を形成し、前記周壁面に囲まれた前記受容空間内に前記濾材を収容して、前記ガス流路を流れるブローバイガスを前記厚み方向の一方の面から反対側の面へ向かって流して前記濾材を通過させるようになっており、前記受容空間内に収容された前記濾材の外側面と前記周壁面との隙間に充填した充填材料により前記濾材の外側面を塞ぐとともに前記隙間を塞ぎ、前記ガス流路を流れるブローバイガスを、前記濾材の内部を前記厚み方向の一方の面から反対側の面に通過させるように構成し、前記隙間においては、前記隙間における前記外側面の厚み方向の長さの途中位置まで前記充填材料が充填され、前記濾材を厚み方向に圧縮して変形させて前記外側面の全域を前記充填材料と接触させた後、前記濾材の圧縮を解除して前記外側面の全域が前記充填材料により塞がれた構成である。
【0008】
本発明に係るオイル分離装置において、好ましくは、前記充填材料が樹脂材料であり、また、前記濾材がグラスウールにより形成される。
【0009】
本発明に係るオイル分離装置の製造方法は、エンジンのクランクケース内のブローバイガスを吸気系に流すときに、ブローバイガスに含まれるミスト状のオイルを分離するオイル分離装置の製造方法であって、前記オイル分離装置は、少なくとも一部のブローバイガスが通るガス流路と、前記ガス流路内に設けられて前記ガス流路を流れるブローバイガスを通過させてオイルを分離する濾材とを備え、前記濾材を、所定の厚さの板状で、所定外側面形状を有し、ブローバイガスを厚み方向の一方の面から反対側の面に通過させてミスト状のオイルを分離するように用いられるように形成するステップと、前記ガス流路の少なくとも一部が前記濾材の前記所定外側面形状に対応する受容空間を形成する周壁面を有するように形成するとともに、前記受容空間により前記ガス流路の少なくとも一部を形成するステップと、前記周壁面に囲まれた前記受容空間内に前記濾材を収容して、前記ガス流路を流れるブローバイガスが前記厚み方向の一方の面から反対側の面へ向かって流れて前記濾材を通過可能とするステップと、前記受容空間内に収容された前記濾材の外側面と前記周壁面との隙間に充填材料を充填するステップと、前記充填材料により前記濾材の外側面を塞ぐとともに前記隙間を塞ぎ、前記ガス流路を流れるブローバイガスが前記濾材の内部を前記厚み方向の一方の面から反対側の面に通過可能とするステップと、を有し、前記外側面と前記周壁面との隙間に前記充填材料を充填するステップにおいて、前記隙間における前記外側面の厚み方向の長さの途中位置まで前記充填材料を充填し、前記濾材を厚み方向に圧縮して変形させて前記外側面の全域を前記充填材料と接触させた後、前記濾材の圧縮を解除して前記外側面の全域を前記充填材料により塞ぐものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るオイル分離装置及びオイル分離装置の製造方法によれば、濾材が所定の厚さの板状で所定外側面形状を有し、ガス流路の少なくとも一部が濾材の所定外側面形状に対応する受容空間を形成する周壁面を有するとともに、その受容空間によりガス流路の少なくとも一部が形成され、周壁面に囲まれた受容空間内に濾材が収容される。そして、受容空間内に収容された濾材の外側面と周壁面との隙間に充填された充填材料により濾材の外側面が塞がれるとともに隙間が塞がれ、ガス流路を流れるブローバイガスが濾材の内部を厚み方向の一方の面から反対側の面に通過可能とされる。すなわち、本発明によれば、濾材の外側面と周壁面との隙間及び濾材の外側面を充填材料により簡単に封止することができ、これにより、ブローバイガスが濾材の内部を通過せず濾材の外側面と周壁面との隙間を通過したり、ブローバイガスが濾材の外側面を通り抜けたりすることを防止できるので、ブローバイガスに含まれるミスト状のオイルを、板状の濾材により効率良く分離して捕集することが可能となる。また、ガス流路、周壁面及び受容空間を一体に有するオイル分離装置を構成できるので、装置構成を簡易化することができる。
【0012】
また、本発明に係るオイル分離装置によれば、濾材の外側面と周壁面との隙間に充填する充填材料を樹脂材料とすることで、濾材の外側面に充填材料を確実に密着させて塞ぐことができるので、ブローバイガスが濾材の外側面を通り抜けることを防止する効果を高めることが可能となる。また、本発明に係るオイル分離装置によれば、濾材をグラスウールにより形成することで、不織布により濾材を形成したものに比較して、濾材におけるミスト状オイルの分離捕集効率を高めることが可能となる。
【0013】
また、本発明に係るオイル分離装置の製造方法によれば、濾材の外側面と周壁面との隙間における外側面の厚み方向の長さの途中位置まで充填材料を充填し、濾材を厚み方向に圧縮して変形させて外周面の全域を充填材料と接触させた後、濾材の圧縮を解除して外側面の全域を充填材料により塞ぐようにすることで、隙間に充填される際に充填材料が濾材の厚み方向の一方の面または反対側の面に溢れ出ることを防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係るオイル分離装置が設置されるシリンダヘッドカバーの平面図である。
【
図4】上記オイル分離装置の上部ケースの一部を破断した状態の平面図である。
【
図5】上記オイル分離装置の上部ケースの一部を破断し濾材が未設置の状態の平面図である。
【
図6】上記オイル分離装置のフィルタ部の構成を説明するための概略図である。
【
図7】上記オイル分離装置を製造する製造方法の手順を例示する説明用の図であり、(A)は形成された右下部ケース部を示す断面図、(B)は右下部ケース部に濾材が設置された状態を示す断面図、(C)は濾材の外側面と右下部ケース部の周壁面との隙間に充填材料が充填された状態を示す断面図、(D)は濾材を圧縮して変形させた状態を示す断面図、(E)は濾材の圧縮を解除して濾材が形状復元した状態を示す断面図である。
【
図8】上記製造方法の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、上記図面を参照して本発明の実施形態について説明する。まず、
図1~
図6を参照して本発明の一実施形態に係るエンジン内蔵式のオイル分離装置1の構成について説明する。なお、
図2~
図5には、前後左右上下の各方向を示す十字の矢印を示している。以下の説明において方向について言及するときの方向は、これらの矢印の向きに対応する。また、
図3では、ブローバイガスの流れを1点鎖線の矢印で例示している。
【0016】
図1に示すように、オイル分離装置1は、エンジンのクランクケース(図示略)の上部にシリンダヘッド(図示略)を介して取り付けられるシリンダヘッドカバー100の内部に設置される。シリンダヘッドカバー100は、無底箱状に形成されており、その上壁部101には、インジェクタ装着用の4個の円筒状孔102と、ガス流出部103とが設けられている。ガス流出部103は、シリンダヘッドカバー100の内外を連通する開口(図示略)を有しており、この開口には、ブローバイガスを吸気系(例えば、図示しないエアクリーナの出口側)に戻すための吸気通路(図示略)が接続されるようになっている。
【0017】
図2~
図5に示すようにオイル分離装置1は、装置ケース2と、装置ケース2内に設けられるフィルタ部3とを主体に構成され、装置ケース2は、平面視T字状に形成された上部ケース10及び下部ケース20により構成される。上部ケース10と下部ケース20は、
図3に示すように上下に組み合わされて振動溶着等により互いに接合されるようになっている。
図3に示すように、上部ケース10は、上壁部11a及び側壁部11bを有して
下方に開口した平面視L字状の右上部ケース部11と、平板状に形成された左上部ケース部12とを有している。右上部ケース部11の上壁部11aの下面には、下方に突出し前後方向に延びる複数の垂れ壁11cが互いに平行に設けられている。左上部ケース部12には円形の開口部12aが形成されており、この開口部12aには円筒状のガスケット4Aが取り付けられている。このガスケット4Aの内側領域はガス出口5として構成される。
【0018】
図3に示すように、下部ケース20は、右下部ケース部21、中下部ケース部22、左下部ケース部23及び取付片24を有して構成される。右下部ケース部21の底部には、平面視矩形状のガス入口6(
図5も参照)が開設されており、ガス入口6の下方には、開口覆い板25が設けられている。この開口覆い板25は、右下部ケース部21の下面と所定距離を置いて、右下部ケース部21の下面に支持部材26を介して取り付けられる。この右下部ケース部21は、フィルタ部3の主要構成要素となるものであり、その点に関する詳細構成については後述する。
【0019】
図3に示すように、中下部ケース部22は、当該中下部ケース部22の前後左右の各側面を構成するように下方に突出して延びた中央側壁部22aと、当該中下部ケース部22の底面を構成する底壁部22bとを有し、底壁部22bには逆止弁7Aが設けられている。この逆止弁7Aは、中下部ケース部22の内側に形成されるオイル貯留室OR1に、ブローバイガスから分離したオイルが所定量以上貯留されるとオイルの自重により開くように構成されている。逆止弁7Aが開くとオイル貯留室OR1内のオイルが外部に排出され、クランクケース内のオイルタンク(図示略)に戻るように構成されている。
【0020】
図3に示すように、左下部ケース部23は、当該左下部ケース部23の前後左の各側面を構成する左外壁部23aと、当該左下部ケース部23の底面を構成する左底壁部23bと、下部ケース20内に設けられた内部隔壁部23cとを有し、内部隔壁部23cには逆止弁7Bが設けられている。この逆止弁7Bは、左下部ケース部23の内側に形成されるオイル貯留室OR2に、ブローバイガスから分離したオイルが所定量以上貯留されるとオイルの自重により開くように構成されている。逆止弁7Bが開くとオイル貯留室OR2内のオイルがオイル貯留室OR1内に流入するように構成されている。左底壁部23bには円形の開口部23dが形成されており、この開口部23dには円筒状のガスケット4Bが取り付けられている。このガスケット4Bの内側領域は、臨時ガス取入口8として構成されており、そこにはリリーフ弁9が設置されている。リリーフ弁9は、臨時ガス取入口8を開閉する円板状の弁体9aと、弁体9aを臨時ガス取入口8に向けて押圧するコイルバネ9bとを有して構成されている。
【0021】
図2に示すように、取付片24は、ボルト挿通孔24aを有し、装置ケース2(下部ケース20)の外縁部の3箇所にそれぞれ設けられている。装置ケース2(オイル分離装置1)は、取付片24のボルト挿通孔24aに挿通される取付ボルト(図示略)を介して、シリンダヘッドカバー100の上壁部101の下面に取り付けられる。オイル分離装置1が取り付けられるとき、ガスケット4Aがシリンダヘッドカバー100のガス流出部103を介して吸気通路と接続され、ガス出口5が吸気通路と連通される。ガス出口5が吸気通路と連通されることによって装置ケース2内が負圧となり、クランクケース内からのブローバイガスがガス入口6から装置ケース2内に吸引され、装置ケース2内を通過してガス出口5から排出されるようになる。すなわち、装置ケース2内には、ガス入口6からガス出口5へとブローバイガスが流れるガス流路(「ケース内ガス流路」と称する)が形成される。換言するとこのケース内ガス流路は、装置ケース2(上部ケース10及び下部ケース20)の内側の所定各面と、これら所定各面によって囲まれた装置ケース2内の空間によって形成される。
【0022】
次に、先に略述した右下部ケース部21及びフィルタ部3の詳細構成について説明する。右下部ケース部21は、
図6に示すように、外側壁部21A、隔壁部21B及び下壁部21Cを有し、これら各壁部21A,21B,21Cの内側に右下部ケース内空間60が形成されるようになっている。
図5に示すように外側壁部21Aは、右下部ケース部21の前側面を構成する前外側壁部21Aaと、右下部ケース部21の右側面を構成する右外側壁部21Abと、右下部ケース部21の後面を構成する後外側壁部21Acとを有して構成されており、隔壁部21Bは、右下部ケース内空間60とオイル貯留室OR1(
図3を参照)とを仕切るように下部ケース20内に設けられている。以下、外側壁部21Aの内側面及び隔壁部21Bの内側面(右下部ケース内空間60と対向する側面)のことを周壁面70と称する。下壁部21Cは、
図6に示すように、水平上段部21Ca、縦壁部21Cb及び水平下段部21Ccを有して構成され、水平下段部21Ccにガス入口6が形成されている。
図5に示すように、水平上段部21Ca及び水平下段部21Ccは、平面視において矩形枠状に形成されている。右下部ケース内空間60は、外側壁部21A及び隔壁部21B(周壁面70)によって囲まれた受容空間61と、縦壁部21Cbによって囲まれたガス入口側空間62とに区分される。
【0023】
フィルタ部3は、
図6に示すように、右下部ケース部21と、右下部ケース部21内の受容空間61内に収容される濾材30と、充填材料50とを有して構成される。濾材30は、例えばグラスファイバにより直方体状に形成され、上面31、下面32及び前後左右の4個の外側面33を有している。また、上面31、下面32及び4個の外側面33は、それぞれ長方形状に形成されている。この濾材30は、ブローバイガスを厚み方向の一方の面(例えば、下面32)から反対側の面(例えば、上面31)に通過させて、ブローバイガスに含まれるミスト状のオイルを分離して捕集するように構成されている。濾材30は、その下面32が、右下部ケース部21の下壁部21Cにおける水平上段部21Caの上面に載置されて、受容空間61内に収容される。
【0024】
受容空間61は濾材30の大きさ及び外側面33の形状に対応して、濾材30よりも一回り大きめに形成されており、受容空間61内に濾材30が収容されると、外側壁部21A及び隔壁部21Bの各周壁面70と、濾材30の各外側面32との間に隙間40が形成される。外側壁部21A及び隔壁部21Bは下部よりも上部の方が薄く形成されており、このため隙間40は、下部よりも上部の方が広くなっている。充填材料50は、例えば、エポキシ系樹脂材料の接着剤が用いられ、隙間40に充填される。この充填材料50により隙間40が塞がれる(封止される)とともに、濾材30の各外側面32が塞がれ、更に濾材30が受容空間61内に固定される。なお、周壁面70により受容空間61が形成されており、濾材30は受容空間61内に収容設置されることによりケース内ガス流路内に配置される。換言すると、ケース内ガス流路の一部が周壁面70を有しており、この周壁面70が受容空間61を形成するとともに、受容空間61がケース内ガス流路の一部を形成している。すなわち、周壁面70及び受容空間61は、ケース内ガス流路の一部と一体に形成されており、そのため、フィルタ部3を構成簡易に形成することが可能となっている。
【0025】
以上のように構成されたオイル分離装置1では、吸気系に接続された装置ケース2内が負圧となることにより、クランクケース内からのブローバイガスがガス入口6から装置ケース2内に吸引されてガス入口側空間62に流入する(
図3を参照)。ガス入口側空間62に流入したブローバイガスは、その後、濾材30の内部を濾材30の下面32から上面31にかけて通過する。通過する際に、ブローバイガスに含まれるミスト状のオイルが濾材30により分離されて捕集される。また、ブローバイガスに含まれるカーボンや金属粉等の一部も濾材30により分離されて捕集される。濾材30の外側面33と周壁面70との隙間40(
図6を参照)には充填材料が充填されており、この充填材料により隙間40が塞がれるとともに、濾材30の外側面33が塞がれている。したがって、ガス入口側空
間62に流入したブローバイガスが、濾材30内を通過せずに隙間40を通過したり、濾材30の外側面33を通り抜けたりすることが防止されるので、ブローバイガスを濾材30の下面32から上面31にかけて濾材30内を確実に通過させることができる。そのため、濾材30によるミスト状オイルの分離捕集効率を高めることが可能となっている。
【0026】
濾材30を通過したブローバイガスは、右上部ケース部11内に形成された空間内及びオイル貯留室OR2を通過する。通過する際に、例えば、ブローバイガスが垂れ壁11cに衝突し、その際にブローバイガスに含まれるミスト状のオイルが分離される場合もある。このとき分離されたオイルの一部は、オイル貯留室OR1,OR2内に貯留される。オイル貯留室OR1に貯留されたオイルが所定量以上となるとオイルの自重により逆止弁7Aが開き、オイル貯留室OR1内のオイルがクランクケース内のオイルタンクに戻される。そして、ミスト状のオイルが取り除かれたブローバイガスは、ガス出口5から出て吸気系へと送られる。
【0027】
以下、オイル分離装置1の製造方法について、
図7及び
図8を追加参照して説明する。この製造方法はオイル分離装置1の主にフィルタ部3の製造に関するものである。まず、濾材30を形成する(
図8のステップS1)。具体的には例えば、所定径の多数本のグラスファイバを所定の密度で所定の大きさの直方体状に成形して濾材30を形成する。形成された濾材30は、ブローバイガスを厚み方向の一方の面(下面32)から反対側の面(上面31)に通過させて、ブローバイガスに含まれるミスト状のオイルを分離するように用いられる(
図3を参照)。
【0028】
次に、右下部ケース部21を形成する(
図8のステップS2、
図7(A)を参照)。具体的には例えば、金型(図示略)により下部ケース20を樹脂成形することにより右下部ケース部21を形成する。右下部ケース部21を形成することにより、周壁面70が形成されるとともに、周壁面70により囲まれた受容空間61が形成される。右下部ケース部21は、ケース内ガス流路の一部が受容空間61を形成する周壁面70を有し、受容空間61がケース内ガス流路の一部を形成するように形成される。また、受容空間61は、濾材30の大きさ及び外側面33の形状に対応して、濾材30よりも一回り大きめに形成される。
【0029】
次いで、受容空間61内に、濾材30を収容設置する(
図8のステップS3、
図7(B)を参照)。具体的には、濾材30の下面32が右下部ケース部21の下壁部21Cにおける水平上段部21Caの上面に載置され下面32がガス入口6と対向するように、受容空間61内に濾材30が収容される。このように濾材30を受容空間61内に収容することにより、ガス入口6から右下部ケース部21内に流入するブローバイガスが濾材30の下面32から上面31へ向かって流れて濾材30を通過可能となる。
【0030】
次に、受容空間61内に濾材30の外側面33と周壁面70との隙間40に充填材料50を充填する(
図8のステップS4、
図7(C)を参照)。具体的には例えば、エポキシ系樹脂材料の接着剤が、充填材料50として隙間40に充填される。なお、充填材料50は、隙間40における濾材30の外側面33の厚み方向の長さの途中位置まで充填される。そのため、この段階において、外側面33の上端部は充填材料50とは接触していない。充填材料50を外側面33の上端に達するまで充填すると、充填材料50が隙間40から濾材30の上面31に溢れ出て上面31の一部を塞いでしまう虞があるが、本手法によればそのような事態が生じることを防止できる。充填材料50が隙間40に充填されると、充填された位置までの範囲で充填材料50が周壁面70および外側面33に接触し、この接触した部分に充填材料50が密着する。
【0031】
次いで、濾材30を厚み方向に圧縮して変形させて、充填材料50と接触していなかっ
た外側面33の上端部を含めて外側面33の全域を充填材料50に接触させる(
図8のステップS5、
図7(D)を参照)。具体的には例えば、濾材30の上面31と略同形状、略同じ大きさの押圧面を有する治具(図示略)を用いて、濾材30の上面31を下方に向けて均一に押圧して濾材30を圧縮変形させる。濾材30の圧縮は、充填材料50が硬化していない状態で行われる。
【0032】
次に、濾材30の圧縮を解除して濾材30を圧縮前の形状に復元させる(
図8のステップS6、
図7(E)を参照)。圧縮の解除は、具体的には例えば、濾材30の上面31を押圧していた治具を、所定の時間をかけて上方に移動させ、更に上面31から離間させることにより行われる。濾材30が形状復元すると、外側面33の上端部に充填材料50が層状に密着した状態に形成される。
【0033】
そして、充填材料50により、隙間40を塞ぐとともに濾材30の外側面33の全域を塞ぐ(
図8のステップS7)。具体的には例えば、充填材料50を硬化させて、充填材料50が周壁面70と濾材30の外側面33の全域に密着した状態を維持できるようにする。充填材料50により隙間40を塞ぐとともに濾材30の外側面33の全域を塞ぐことにより、ガス入口6から右下部ケース部21内に流入するブローバイガスが、濾材30の内部を下面32から上面31に通過可能となる。すなわち、ブローバイガスが、濾材30内を通過せずに隙間40を通過したり、濾材30の外側面33を通り抜けたりすることが防止可能となる。また、樹脂材料50が硬化することにより、濾材30が受容空間61内に固定される。以上の手順により、フィルタ部3が形成される。オイル分離装置1の全体を製造するためには他の製造工程を必要とするがその説明は省略する。
【0034】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述の態様に限定されるものではなく適宜変更可能である。例えば、上記実施形態では、濾材30が直方体状(平面視四角形の板状)に形成されているが、平面視円形や平面視三角形、平面視五角形等の板状に形成された濾材を用いてもよい。また、上記実施形態では、濾材30がグラスファイバにより形成されているが、不織布等の他の材料により濾材を形成してもよい。
【0035】
また、上記実施形態では、隙間40に充填する充填材料として、エポキシ樹脂系の樹脂材料を用いているが、ポリ酢酸ビニル系やニトリルゴム系、アクリル樹脂系など、エポキシ樹脂系以外の樹脂材料を充填材料として用いてもよい。さらに、ガラス系や石膏系などの樹脂材料以外の材料を充填材料として用いてもよい。また、上記実施形態では、シリンダヘッドカバー100内に設けられるオイル分離装置1を例示しているが、本発明は、エンジンの他の位置に配置されるオイル分離装置に対しても適用することが可能である。具体的には、シリンダヘッドカバーの外部におけるシリンダヘッドカバーのガス出口から吸気系までの流路途中に設置されるエンジン非内蔵式のタイプ、例えば、シリンダヘッドカバーの直上に設置される上置きタイプや、シリンダヘッドカバーの近傍に設置される外付けタイプのオイル分離装置であってもよい。
【符号の説明】
【0036】
1 オイル分離装置
2 装置ケース
3 フィルタ部
5 ガス出口
6 ガス入口
10 上部ケース
20 下部ケース
21 右下部ケース部
22 中下部ケース部
23 左下部ケース部
24 取付片
30 濾材
33 外側面
40 隙間
50 充填材料
61 受容空間
70 周壁面
100 シリンダヘッドカバー