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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】電解コンデンサ
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/10 20060101AFI20240311BHJP
【FI】
H01G9/10 C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020196230
(22)【出願日】2020-11-26
(65)【公開番号】P2022084384
(43)【公開日】2022-06-07
【審査請求日】2023-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000004606
【氏名又は名称】ニチコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】弁理士法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】近藤 稜大
(72)【発明者】
【氏名】米田 満
(72)【発明者】
【氏名】酒井 孝也
【審査官】小林 大介
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3002701(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/00
H01G 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のリードタブが接続された弁金属の陽極箔と、第2のリードタブが接続された陰極箔とを、セパレータを介して重ね合わせ、巻回してなるコンデンサ素子と、
前記コンデンサ素子を収納する有底円筒状の外装ケースと、
前記外装ケースの開口部を封止するとともに前記第1のリードタブを挿通する第1の貫通孔および前記第2のリードタブを挿通する第2の貫通孔が形成された封口体と、を備えた電解質に電解液を含む電解コンデンサであって、
前記封口体の前記コンデンサ素子に面した内面には、前記第1の貫通孔が形成された第1の領域と前記第2の貫通孔が形成された第2の領域とが、前記封口体の厚み方向において異なる高さに形成されており、前記第1の領域と前記第2の領域との境界は前記封口体の周側面に至ることを特徴とする電解コンデンサ。
【請求項2】
前記封口体の内面は、前記第2の領域が、前記第1の領域よりも、前記コンデンサ素子との距離が大きくなるように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電解コンデンサ。
【請求項3】
前記封口体の厚み方向において前記第1の領域と前記第2の領域の間の高さの差が、0.45~0.55mmの範囲であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電解コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解コンデンサに関し、セパレータを介して陽極箔と陰極箔を重ね合わせ、巻回したコンデンサ素子に電解液を含浸し、外装ケース内に挿入して封口体により封入した電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電解コンデンサとして、陽極箔と陰極箔とをセパレータを介して巻回したコンデンサ素子と、該コンデンサ素子を電解液とともに収納する有底筒状のコンデンサケースと、このコンデンサケースの開放端側を塞ぐ封口体とを有するものが知られている。封口体の外端面には陽極端子および陰極端子が引き出され、これらの端子の基端部には、陽極内部端子および陰極内部端子として陽極リードタブおよび陰極リードタブが、それぞれ陽極箔および陰極箔に接続されている(特許文献1参照)。
【0003】
また、従来の電解コンデンサとして、封口体の内面に、陽極端子および陰極端子を挿通するための2つの貫通孔の間に一続きの溝等による液溜まり部を形成し、当該液溜り部に電解液を溜めることにより、電解液の封入量を増加させるように構成された電解コンデンサが提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平04-352313号公報
【文献】特開2005-209902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の電解コンデンサにおいては、高温で長時間電圧を印加し続けると、電解液の蒸散によって封口体の内面に発生する凝縮液の存在により、陽極側のリードタブと陰極側のリードタブが電気的に導通することで漏れ電流が発生し、陽極側のリードタブが腐食する問題があった。
【0006】
本発明は、リードタブの腐食を抑制し得る電解コンデンサを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電解コンデンサは、第1のリードタブが接続された弁金属の陽極箔と、第2のリードタブが接続された陰極箔とを、セパレータを介して重ね合わせ、巻回してなるコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子を収納する有底円筒状の外装ケースと、前記外装ケースの開口部を封止するとともに前記第1のリードタブを挿通する第1の貫通孔および前記第2のリードタブを挿通する第2の貫通孔が形成された封口体と、を備えた電解コンデンサであって、前記封口体の前記コンデンサ素子に面した内面には、前記第1の貫通孔が形成された第1の領域と前記第2の貫通孔が形成された第2の領域とが、前記封口体の厚み方向において異なる高さに形成されていることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、電解液の蒸散により発生する凝縮液が封口体の内面に付着しても、封口体が陽極側と陰極側との間で、封口体の厚み方向において異なる高さで形成されることにより第1および第2のリードタブ間において凝縮液で電気的に導通することを抑制できる。これにより、第1および第2のリードタブ間に端子間電流が発生することを抑止し、腐食の発生を抑えることができる。
【0009】
また、本発明の電解コンデンサは、上記構成において、前記封口体の内面は、前記第2の領域が、前記第1の領域よりも、前記コンデンサ素子との距離が大きくなるように形成されていることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、物理的ストレスを受けやすいコンデンサ素子の陰極側が封口体の内面によって押圧されることを抑制することができる。
【0011】
また、本発明の電解コンデンサは、上記構成において、前記封口体の厚み方向において第1の領域と第2の領域の間の高さの差が、0.45~0.55mmの範囲であることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、電解液の蒸散による凝縮液による漏れ電流の発生を抑制することと、コンデンサ素子の陰極側へ加わる物理的ストレスの抑制とを、両立させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の電解コンデンサによると、リードタブの腐食を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る電解コンデンサの構成を示す断面図である。
図2】本発明の実施形態に係るコンデンサ素子を示す斜視図である。
図3】本発明の実施形態に係る封口体を示す斜視図である。
図4】本発明の実施形態に係る封口体の内面側を示す平面図である。
図5】本発明の実施形態に係る封口体の図4におけるA-A線を断面にとって示す断面図である。
図6】本発明の実施形態に係る封口体とコンデンサ素子との関係を示す略線図である。
図7】本発明の実施形態に係る封口体の内面側における凝縮液の付着状態を示す断面図である。
図8】他の実施形態に係る封口体を示す斜視図である。
図9】他の実施形態に係る封口体を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、添付図面に基づき詳細に説明する。
図1に示すように、本実施形態における巻回形の電解コンデンサ1は、主として、コンデンサ素子2と、外装ケース12と、封口体20とから構成される。
【0016】
図2に示すように、コンデンサ素子2は、エッチング処理および誘電体酸化皮膜形成処理が施された陽極箔(陽極アルミニウム箔)3aとエッチング処理が施された陰極箔(陰極アルミニウム箔)3bとがセパレータ4を介して巻回され、素子止めテープ9(図1)で固定される。このコンデンサ素子2は、電解質が含浸されて有底筒状の外装ケース12(図1)に収納される。
【0017】
外装ケース12は、アルミニウムを素材として作製されており、その開口部には樹脂やゴム等で形成された封口体20が装着され、該開口部は絞り加工により密閉された構造を有する。具体的には、外装ケース12の外周面12aには、その周方向に沿って環状に延在する凹部12bが形成されている。凹部12bは、封口体20を外装ケース12に挿入した後に、外装ケース12の外周面12aに絞り加工を施すことで形成される。封口体20は、例えば、イソブチレン-イソプレンラバー(IIR)やエチレンプロピレンターポリマー(EPT)のような弾性ゴムを素材として作製されている。
【0018】
コンデンサ素子2から引き出されるリードタブ5、15にはリード線6、16が溶接され、封口体20を介して外部に引き出されている。外装ケース12は、スリーブ13によって被覆される。
【0019】
リードタブ5は、陽極箔3aに対して加締めまたは溶接等の方法により接続された陽極側のリードタブであり、リードタブ15は、陰極箔3bに対して加締めまたは溶接等の方法により接続された陰極側のリードタブである。
【0020】
図1に示すように、封口体20には、コンデンサ素子2に面する内面20aから外部に面する外面20bに貫通する貫通孔20c、20dが所定の間隔を隔てて形成されており、貫通孔20c、20dにはリードタブ5、15が挿通されている。
【0021】
図1図3図4および図5に示すように、封口体20の内面20aには、当該内面20aを二分し、封口体20の厚み方向において内面の高さが異なる直線状の段差部20eが設けられている。具体的には、封口体20の内面20aについて、陽極側のリードタブ5を挿通する貫通孔20cを含む第1の領域AR1と、陰極側のリードタブ15を挿通する貫通孔20dを含む第2の領域AR2とに二分するように段差部20eが設けられている。この段差部20eを設けることによって、封口体20の内面20aにおいて、第1の領域AR1と第2の領域AR2との間に高低差を設けるようになっている。
【0022】
すなわち、この段差部20eを設けることによって、第1の領域AR1における内面20aは、第2の領域AR2における内面20aよりも、封口体20の厚みが厚くなる凸側の上段面20fを構成し、第2の領域AR2における内面20aは、第1の領域AR1よりも、封口体20の厚みが薄くなる下段面20gを構成する。
【0023】
本実施形態では、封口体20の厚みTを4~5mmとし、段差部20eの高さ(第1の領域AR1と第2の領域AR2の間の高さの差)H(図5)を、0.45~0.55mmとしている。このような高さとすることにより、コンデンサ素子2への物理的ストレスの軽減を図ることができるとともに、コンデンサ素子2に含浸された電解液から蒸散した凝縮液が内面20aに付着しても、陽極側および陰極側のリードタブ間において凝縮液が繋がることを防止することができる。
【0024】
具体的には、封口体20を外装ケース12に挿入した後に、外装ケース12の外周面12aに絞り加工を施すと、封口体20の内面20a(上段面20f)がコンデンサ素子2に接触して押圧することになるため、当該押圧による物理的ストレスを軽減するために段差部20eの高さHが所定の高さ以下となるように構成されている。
【0025】
また図6に示すように、陰極側を下段面20gとしたことにより、陰極側においては、下段面20g(第2の領域AR2)とコンデンサ素子2との間の間隔G2が陽極側の間隔(コンデンサ素子2と第1の領域AR1との距離)G1よりも大きくなっていることにより、陽極箔よりも柔らかい陰極箔とリードとの接続部に対して封口体20の内面20aが押圧することによる物理的ストレスを効果的に抑制することができる。
【0026】
また、コンデンサ素子2に含浸された電解液から蒸散した凝縮液は、封口体20の内面20aに付着するが、リードタブ5、15の間には、段差部20eが形成されていることにより、図7に示すように、凝縮液110は段差部20eを境として、陽極側の上段面20fと、陰極側の下段面20gとの間で分離した状態となる。これにより、陽極側の上段面20fに付着した凝縮液110と、陰極側の下段面20gに付着した凝縮液110とが繋がることを抑制し、リードタブ5、15の間において凝縮液が繋がることによる漏れ電流の発生を抑制することができる。
【0027】
封口体20の段差部20eの製造方法としては、封口体20を形成するゴム等の弾性材料を段差20eに応じた形状の金型に入れて成形する方法、または段差部20eが形成されていない封口体を成形し、その後に封口体20の内面20a側を切削することにより段差部20eを形成する方法などがある。
【0028】
次に、電解コンデンサ1の製造工程について説明する。
所定の幅に切断された陽極箔3a(陽極アルミニウム箔)および陰極箔3b(陰極アルミニウム箔)に外部引き出し電極用のリードタブ5および15(アルミニウム製)を各々加締め接続する。陽極箔3aは弁金属としてアルミニウム箔を用い、弁金属の表面にエッチング処理および化成処理を施すことによって、誘電体酸化皮膜が形成されたものを用いる。また、陰極箔3bも陽極箔3aと同様にアルミニウム箔を用い、アルミニウム箔の表面にエッチング処理が施されるとともに自然酸化皮膜が形成されている。なお、陰極箔3bについても誘電体酸化皮膜を形成したり、表面にカーボン、チタン、窒化チタン、炭化チタン等を形成してもよい。陽極箔3aおよび陰極箔3bを、セルロースを主体としたセパレータ4を介して巻回し、コンデンサ素子2を作製する。
【0029】
そして、電解質を含浸したコンデンサ素子2をアルミニウム製ケース(外装ケース12)に収納し、外装ケース12の開口部をカーリングして封止した。電解質には、エチレングリコールやγ―ブチロラクトン等を主溶媒とし溶質を溶解した電解液、またはポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸等の導電性高分子を主成分とする固体電解質と電解液との両方を使用することができる。その後、所定温度に設定された恒温槽内で、外装ケース12にコンデンサ素子2を収納したアルミニウム電解コンデンサ(電解コンデンサ1)に定格電圧を印加し、エージング処理を施すことにより、電解コンデンサ1の製造工程を完了する。
【実施例
【0030】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。
【0031】
アルミニウムリードタブを陽極アルミニウム箔に加締め接続するとともに、アルミニウムリードタブを陰極アルミニウム箔に加締め接続する。そして、セパレータを介して陽極アルミニウム箔と陰極アルミニウム箔を重ね合わせ、巻回したアルミニウム電解コンデンサ素子に電解液を含浸する。そして、アルミニウム電解コンデンサ素子から引き出されている陽極側のリードタブおよび陰極側のリードタブの丸棒部をそれぞれ封口体の挿通孔から挿通させた後、アルミニウム電解コンデンサ素子を封口体とともに外装ケース内に挿入する。次に、外装ケースの開口部をカーリング加工するとともに外周面に絞り加工を施し封止する。これにより、定格450V/120μFのアルミニウム電解コンデンサ(外形寸法:直径φ18mm×長さ31.5mmのアルミニウム電解コンデンサ)を作製し、カテゴリ上限温度を超える115℃の環境下にて定格電圧(450V)を印加した場合に、漏れ電流(60秒値)と、陽極側のリードタブの近傍に腐食が発生するまでの時間を測定した。腐食の発生とは、腐食生成物の付着、またはアルミニウムの溶解が見られた状態を意味する。この測定結果を表1に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
比較例は、封口体20の内面20aに段差部20eを設けない場合の漏れ電流および腐食発生時間を測定した結果を示すものであり、実施例は、封口体20の内面20aに高さ0.5mmの段差部20eを設けた場合の漏れ電流および腐食発生時間を測定した結果を示すものである。
【0034】
(比較例)
封口体20に段差部20eを設けない場合は、漏れ電流が80~100μAであり、2000~2500時間でリードタブに腐食が発生した。
【0035】
(実施例)
封口体20に高さ0.5mmの段差部20eを設けた場合は、漏れ電流が20~30μAであり、少なくとも3500時間経過まではリードタブに腐食が発生しなかった。
【0036】
以上の測定結果から以下のことが分かる。
段差部20eを設けた場合は、段差部20eを設けない場合に比べて、漏れ電流が格段に抑制され、その結果、腐食発生時間が大幅に伸びることが分かった。
【0037】
以上の構成によれば、封口体20の内面20aにおいて、陰極側および陽極側を分断する段差部20eを設け、内面20aに付着した凝縮液を陽極および陰極間で分断することによって、陽極および陰極が凝縮液を介して電気的に繋がることを回避し、漏れ電流を抑制するとともに、当該漏れ電流に起因するリードタブの腐食の発生を抑制することができる。
【0038】
また、段差部20eを挟んで下段側の下段面20gを陰極側に形成することにより、封口体20の内面20a(下段面20g)によってコンデンサ素子2が押圧されることにより発生する物理的ストレスを、陰極側(陰極側のリードタブ15と陰極箔との接合部分)において特に低減することができる。これにより、厚い酸化皮膜が形成された陽極側に比べて柔らかい陰極側のリード接続部に対して、封口体20の内面20aによる物理的付加による箔の破れやしわの発生を効果的に抑制することができる。
【0039】
なお、上述の実施形態においては、段差部20eによって封口体20の内面20aを直線状に二分割した場合について述べたが、本発明はこれに限られず、例えば、図8に示すように陰極側の下段面20gを陰極側の貫通孔20dを含めて円形に厚み方向に窪んだ凹部を形成してもよい。また、これとは逆に、図9に示すように、陽極側の上段面20fを陽極側の貫通孔20cを含めて円形に厚み方向に突出した凸部を形成してもよい。
【0040】
また、段差部20eは、直線状(図3)、円形状(図8図9)に形成する場合に限らず、要は、陽極側と陰極側との間の高さが異なるように形成されるような形状であれば、種々の形状を適用することができる。
【0041】
また、上述の実施形態においては、定格450V/120μFのリード線形アルミニウム電解コンデンサ(外形寸法:直径φ18mm×長さ31.5mmのアルミニウム電解コンデンサ)について述べたが、本発明はこれに限られず、チップ形、基板自立形、ネジ端子形のアルミニウム電解コンデンサ、導電性高分子ハイブリッドアルミニウム電解コンデンサ等、種々のアルミニウム電解コンデンサに広く適用することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 電解コンデンサ
2 コンデンサ素子
3a 陽極箔
3b 陰極箔
4 セパレータ
5、15 リードタブ
12 外装ケース
13 スリーブ
20 封口体
20a 内面
20e 段差部
20f 上段面
20g 下段面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9