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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】ろう付け補修方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 1/20 20060101AFI20240311BHJP
   B23K 31/00 20060101ALI20240311BHJP
   B29C 64/106 20170101ALI20240311BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240311BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20240311BHJP
   B23K 1/00 20060101ALN20240311BHJP
【FI】
B23K1/20 Z
B23K31/00 D
B29C64/106
B33Y10/00
B33Y70/00
B23K1/00 330P
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020203537
(22)【出願日】2020-12-08
(65)【公開番号】P2022090929
(43)【公開日】2022-06-20
【審査請求日】2023-03-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100150717
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 和也
(74)【代理人】
【識別番号】100164688
【弁理士】
【氏名又は名称】金川 良樹
(72)【発明者】
【氏名】大西 春樹
(72)【発明者】
【氏名】日野 武久
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-099858(JP,A)
【文献】特開2011-144733(JP,A)
【文献】特開昭62-070257(JP,A)
【文献】特開昭63-149076(JP,A)
【文献】特開2011-033028(JP,A)
【文献】特開昭64-072970(JP,A)
【文献】特開2015-205485(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 1/20
B23K 31/00
B29C 64/106
B33Y 10/00
B33Y 70/00
B23K 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス粒子と熱可塑性バインダとを含むろう付け補修補助用材料を準備する工程と、
ろう材が充填された又は充填される金属加工物の被補修箇所の周囲に、溶解した前記ろう付け補修補助用材料を塗布する工程と、
前記ろう付け補修補助用材料が塗布された前記金属加工物を加熱し、加熱温度を上昇させることで、まず前記熱可塑性バインダを熱分解し、その後、前記セラミックス粒子を焼結させることにより、前記セラミックス粒子からなる流れ止めを形成する工程と、を備える、ろう付け補修方法。
【請求項2】
溶解した前記ろう付け補修補助用材料を塗布する際、前記ろう付け補修補助用材料を、熱溶解積層法により多層状に塗布することにより、前記ろう付け補修補助用材料が多層状に積層された、前記流れ止めの中間成形体を形成する、請求項1に記載のろう付け補修方法。
【請求項3】
溶解した前記ろう付け補修補助用材料の塗布を、ノズルから溶解した前記ろう付け補修補助用材料を射出する3Dプリンタにより行う、請求項2に記載のろう付け補修方法。
【請求項4】
前記セラミックス粒子は、アルミナ粒子、ジルコニア粒子、ムライト粒子、シリカ粒子、及びこれらの2種以上の組合わせのうちのいずれかである、請求項1乃至3のいずれかに記載のろう付け補修方法。
【請求項5】
前記セラミックス粒子の平均粒径が、5μm以上15μm以下である、請求項4に記載のろう付け補修方法。
【請求項6】
前記熱可塑性バインダは、PVAである、請求項1乃至5のいずれかに記載のろう付け補修方法。
【請求項7】
前記ろう付け補修補助用材料における前記セラミックス粒子と前記熱可塑性バインダとの体積比が、55:45~65:35である、請求項1乃至6のいずれかに記載のろう付け補修方法。
【請求項8】
前記ろう付け補修補助用材料が塗布された前記金属加工物を加熱する際、前記金属加工物の斜面に設置された前記ろう付け補修用材料及び/又は前記金属加工物から垂れ下がるように設置された前記ろう付け補修用材料を加熱する、請求項1乃至7のいずれかに記載のろう付け補修方法。
【請求項9】
前記ろう付け補修補助用材料を前記被補修箇所の周囲に塗布する際、前記ろう材が前記被補修箇所に充填されており、
前記ろう付け補修補助用材料が塗布された前記金属加工物を加熱する際、前記セラミックス粒子を焼結させて前記流れ止めを形成した後、さらに加熱温度を上昇させて前記ろう材を溶解させる、請求項1乃至8のいずれかに記載のろう付け補修方法。
【請求項10】
前記ろう付け補修補助用材料が塗布された前記金属加工物を加熱する際、前記ろう付け補修補助用材料から、前記流れ止めと、前記ろう材をガイドする流路及び/又は流動した前記ろう材の溜まり部と、を形成する、請求項1乃至9のいずれかに記載のろう付け補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施の形態は、ろう付け補修方法関する。
【背景技術】
【0002】
動翼等のタービン構成部品は、高温高圧下に晒されるため、亀裂や剥離等の損傷が生じる場合がある。このような損傷は、一般に、ろう付けによって補修される。
【0003】
ろう付けによる補修では、例えば亀裂に溶解したろう材を充填し、その後、凝固させる。この際、ろう材が亀裂等の損傷から流れ出すことがあるが、このような流れ出しが生じた場合には、補修対象箇所以外で凝固したろう材の除去作業に手間がかかり、また除去不能な箇所にろう材が入ることもあるため、望ましくない。なお、このような流れ出しは、重力に逆らう状態でのろう材の充填の際に特に生じ易くなる。
【0004】
そこで、ろう付け補修では、ろう材の流れ出しを抑制するために、ろう材の充填箇所の周囲に流れ止めを設けることがある。このような流れ止めは、例えば耐熱アルミナ粒子を水溶性バインダに熔かすことで形成されたペースト状材料からなり、このようなペースト状材料をろう付け箇所の周囲に例えば堰をなすように塗布することで形成される。
【0005】
しかしながら、上述のようなペースト状材料からなる流れ止めは、強度が低く、崩れ易い傾向がある。また、傾斜した箇所に塗布された場合に、すなわち重力に逆らう状態で塗布された場合に流動し易くなることで、形状自由度及び設置自由度に制約があった。そのため、一般的な流れ止めは、ろう材の流れ出しを十分に抑制できるとは必ずしも言えないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-55949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、ろう付け箇所によらず、ろう材の流れ出しを安定的に抑制できる、ろう付け補修方法提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施の形態において、ろう付け補修方法は、セラミックス粒子と熱可塑性バインダとを含むろう付け補修補助用材料を準備する工程と、溶解した前記ろう付け補修補助用材料を金属加工物の被補修箇所の周囲に塗布する工程と、前記ろう付け補修補助用材料が塗布された前記金属加工物を加熱し、加熱温度を上昇させることで、まず前記熱可塑性バインダを熱分解し、その後、前記セラミックス粒子を焼結させることにより、前記セラミックス粒子からなる流れ止めを形成する工程と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ろう付け箇所によらず、ろう材の流れ出しを安定的に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施の形態にかかるろう付け補修方法により補修するタービン動翼を示す図である。
図2】一実施の形態にかかるろう付け補修方法で使用する3Dプリンタを示す図である。
図3】一実施の形態にかかるろう付け補修方法の手順を説明する図である。
図4】一実施の形態において形成された流れ止め、流路及び溜まり部の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付の図面を参照して一実施の形態を詳細に説明する。
【0013】
図1(A)は、一実施の形態にかかるろう付け補修方法により補修する金属加工物の一例であるタービン動翼1の全体を示す図である。図1(B)は、図1(A)のa-a線に沿う断面図である。
【0014】
タービン動翼1は高温高圧下に晒されるため、図1に示す亀裂Aや剥離Bのような損傷が生じ易い。本実施の形態では、このような亀裂Aや剥離Bをろう材10を用いてろう付けすることにより補修し、この際、ろう材10の流れ止め11をタービン動翼1上に形成する。
【0015】
図1(B)では、亀裂A及び剥離Bに充填されるろう材10と、各ろう材10の周囲に形成される流れ止め11とが、説明の便宜上、二点鎖線で示されている。流れ止め11は、ろう材10の流動による拡散を抑制する。ろう材10としては、例えばニッケルろう(BNi5)等が用いられるが、特に限定されるものではない。なお、流れ止め11は、本実施の形態では被補修箇所に充填されたろう材10を囲む構造を有するものを意味する。流れ止め11はループ状でもよいし、一部が開放するものでもよい。
【0016】
本実施の形態では、亀裂A及び剥離Bそれぞれの周囲に流れ止め中間成形体11A(図3(B)参照)を形成し、この流れ止め中間成形体11Aを加熱することで、上記流れ止め11を形成する。流れ止め11の形状は、流れ止め中間成形体11Aの形状によって定められることになる。
【0017】
図2は、上述した流れ止め中間成形体11Aを形成するために本実施の形態で使用される3Dプリンタ20を示す。3Dプリンタ20は、熱溶解積層法(FDM:Fused Deposition Molding)を利用する3Dプリンタとして構成されている。
【0018】
3Dプリンタ20は、流れ止め11及び流れ止め中間成形体11Aを形成する加工対象物であるタービン動翼1を設置するステージ21と、ステージ21上でXYZ軸方向に移動可能なノズル22とを有する。
【0019】
ノズル22は、溶解した成形材料を所望の位置に射出して硬化させ、硬化した又は半硬化した成形材料上に新たな溶解した成形材料を射出して積層する動作を繰り返すことで、成形材料から所望の形状を形成可能であり、これにより、所望の形状の流れ止め中間成形体11Aを形成できる。3Dプリンタ20は、図示しないヒータを有し、ヒータにより成形材料を溶解した後、ノズル22から射出するようになっている。なお、図2には、ノズル22で多層状に積層させた成形体Mの一例が二点鎖線で示されている。
【0020】
ここで本実施の形態では、流れ止め中間成形体11Aを形成すべくノズル22から射出する成形材料として、セラミックス粒子と熱可塑性バインダとを含む成形材料が用いられる。以下、この成形材料のことを、「ろう付け補修補助用材料」と呼ぶ。ろう付け補修補助用材料は、セラミックス粒子と熱可塑性バインダとが混練されてなるものであり、セラミックス粒子が熱可塑性バインダ内に均一的に分散されている。
【0021】
ろう付け補修補助用材料におけるセラミックス粒子は、アルミナ粒子、ジルコニア粒子、ムライト粒子、シリカ粒子、及びこれらの2種以上の組合わせのうちのいずれかでもよい。セラミックス粒子の平均粒径は、5μm以上15μm以下でもよい。熱可塑性バインダは、例えばPVAなどの熱可塑性樹脂でもよい。また、ろう付け補修補助用材料におけるセラミックス粒子と熱可塑性バインダとの体積比は、55:45~65:35であることが好ましい。
【0022】
3Dプリンタ20では、タービン動翼1における亀裂A又は剥離Bの近傍にノズル22を移動させ、例えば亀裂A又は剥離Bの周囲を囲むようにろう付け補修補助用材料の層を複数積層することで、流れ止め中間成形体11Aを形成できる。
【0023】
ここで、溶解したろう付け補修補助用材料は、タービン動翼1への塗布後に熱可塑性バインダが硬化し又は半硬化でも粘性が高いことで、形状を保持でき且つ設置位置からの流動を抑制できるため、当初の塗布位置からの流れ出しが抑制される。これにより、本実施の形態では、流れ止め中間成形体11Aを高い形状自由度及び設置自由度で形成可能となるため、結果的に、流れ止め11を高い形状自由度及び設置自由度で形成することが可能となる。具体的には、このようなろう付け補修補助用材料を用いることで、例えば堰形状の流れ止めだけでなく、堰に蓋を付けたような形状の流れ止めも容易に形成できる。
【0024】
また、3Dプリンタ20ではノズル22の動作を図示しないコントローラで制御する。この際、コントローラにタービン動翼1の3DCADデータ等の図面データを入力し、図面データ上で亀裂A又は剥離Bの位置を特定することで、流れ止め中間成形体11Aを所望の位置及び所望の形状に正確に形成することが可能となる。ただし、流れ止め中間成形体11Aは3Dプリンタ20で形成しなくてもよく、例えばグルーガンを用いて手動で形成されてもよい。
【0025】
図3は、本実施の形態にかかるろう付け補修方法の手順の一例を説明する図である。以下、補修方法の一例を図3を参照しつつ説明する。
【0026】
この例では、まず、3Dプリンタ20で使用するセラミックス粒子と熱可塑性バインダとを含むろう付け補修補助用材料が準備される。そして、ろう付け補修補助用材料は、3Dプリンタ20に充填される。
【0027】
次いで、図3(A)に示すように、タービン動翼1の亀裂A及び剥離Bのそれぞれにろう材10が充填される。ここで、ろう材10は溶解された状態で亀裂A及び剥離Bに充填されてもよいし、固形の状態で亀裂A及び剥離Bに充填されてもよい。また、ろう材10を充填する前にタービン動翼1の表面をクリーニングして酸化物等を除去してもよい。
【0028】
次いで、図3(B)に示すように、3Dプリンタ20におけるステージ21上にろう材10が充填されたタービン動翼1が設置される。そして、3Dプリンタ20のノズル22から射出される溶解状態のろう付け補修補助用材料が、亀裂A及び剥離Bそれぞれの周囲に塗布される。ここで、ノズル22は、ろう付け補修補助用材料を多層状に塗布することで、ろう付け補修補助用材料が多層状に積層されてなる流れ止め中間成形体11Aを形成する。流れ止め中間成形体11Aは、タービン動翼1における斜面に設置されるが、完全に又はある程度硬化しているため、その形状を保持でき且つ設置位置からの流動を抑制できる。なお、流れ止め中間成形体11Aは、タービン動翼1から垂れ下がる状態で設置された場合も、その形状を保持でき且つ設置位置からの流動を抑制できる。
【0029】
その後、図3(C)に示すように、タービン動翼1は熱処理炉fに移動されて加熱される。加熱時においては、加熱温度を段階的に上昇させ、まず、第1の加熱温度が維持されることで、ろう付け補修補助用材料における熱可塑性バインダが熱分解される。第1の加熱温度での加熱は、熱可塑性バインダが確実に熱分解されるように所定の時間にわたり行われる。なお、ここでの加熱において熱可塑性バインダが熱分解はほとんどが分解されるが、セラミックス粒子間には熱可塑性バインダが残存する。これにより、流れ止め中間成形体11Aは形状を保持する。
【0030】
次いで、熱処理炉fの加熱温度を、第1の加熱温度から第2の加熱温度までさらに上昇させ、図3(D)に示すように、流れ止め中間成形体11A(ろう付け補修補助用材料)におけるセラミックス粒子を焼結させる。これにより、セラミックス粒子からなる流れ止め11が形成される。第2の加熱温度での加熱も、セラミックス粒子が確実に焼結されるように所定の時間にわたり行われる。本実施の形態では、セラミックス粒子の焼結温度が、ろう材10の融点よりも低く設定されている。すなわち、第2の加熱温度は、セラミックス粒子の焼結開始温度以上ろう材10の融点未満に設定されるようになっている。
【0031】
次いで、この例では、熱処理炉fの加熱温度を、第2の加熱温度から第3の加熱温度までさらに上昇させ、ろう材10を溶解させて、亀裂A及び剥離Bの全体に充填させる。第3の加熱温度での加熱も、ろう材10が確実に溶解されるように所定の時間にわたり行われる。ここで本実施の形態では、ろう材10の融点がセラミックス粒子の融点よりも低くされ、第3の加熱温度は、ろう材10の融点以上セラミックス粒子の融点未満に設定される。これにより、ろう材10を溶解させた際においても、流れ止め11は凝固状態を維持するため、ろう材10の流れ出しを適正に制限できる。
【0032】
その後、図3(E)に示すように、タービン動翼1は熱処理炉fから取り出されて冷却され、タービン動翼1上の流れ止め11が除去される。流れ止め11は主にセラミックスからなり、衝撃を与えることで容易に破壊され得るため、容易に除去され得る。また、タービン動翼1、ろう材10及び流れ止め11は冷却される際、それぞれ収縮するが、流れ止め11それぞれの温度履歴は、タービン動翼1及びろう材10の温度履歴と異なるため、流れ止め11に応力が生じる。これにより、流れ止め11は自然と破壊するか又は破壊しやすい状態になるため、容易に除去され得る。
【0033】
以上に説明したように本実施の形態では、セラミックス粒子と熱可塑性バインダとを含むろう付け補修補助用材料を溶解し、被補修箇所であるタービン動翼1の亀裂Aや剥離Bの周囲に塗布する。そして、ろう付け補修補助用材料(流れ止め中間成形体11A)が塗布されたタービン動翼1を加熱し、加熱温度を上昇させることで、まず、熱可塑性バインダを熱分解し、その後、セラミックス粒子を焼結させることにより、セラミックス粒子からなる流れ止め11を形成する。
【0034】
上述のようにタービン動翼1の亀裂Aや剥離Bの周囲にろう付け補修補助用材料(流れ止め中間成形体11A)を塗布する際、塗布されたろう付け補修補助用材料(流れ止め中間成形体11A)は、溶解状態で塗布され、塗布後は時間の経過に伴い完全に又はある程度硬化する。そのため、例えばタービン動翼1における斜面に設置された場合であっても、その形状を保持でき且つ設置位置からの流動を抑制できる。
【0035】
そして、その後の熱処理により、熱可塑性バインダが熱分解されるとともに、セラミックス粒子が焼結された場合においても、ろう付け補修補助用材料(流れ止め中間成形体11A)は、その形状を保持でき、且つ設置位置からの流動を抑制できる。その結果、熱処理を経て形成される流れ止め11は、その設置箇所が例えばタービン動翼1における斜面であっても、ろう材10の流れ出しを適正に抑制できる所望の形状及び所望の位置に安定的に形成され得る。また、このように形成された流れ止め11はセラミックスであることから高い耐熱性が確保される。これにより、流れ止め11が形成された後、更なる加熱によりろう材10が溶解された場合においても、流れ止め11は、その設置箇所によらず、その形状を保持でき且つ崩れ及び流動を抑制できる。
【0036】
以上のようにして本実施の形態によれば、ろう付け箇所によらず、ろう材10の流れ出しを安定的に抑制できる。
【0037】
また、本実施の形態では、溶解したろう付け補修補助用材料の塗布をノズル22から溶解したろう付け補修補助用材料を射出する3Dプリンタ20により行う。3Dプリンタ20を用いた場合には、例えばろう付け補修補助用材料を所望の位置に所望の分量で塗布できるため、その後に形成される流れ止め11の位置及び形状を所望の状態に安定的に形成できる。
【0038】
また、本実施の形態では、ろう付け補修補助用材料を被補修箇所である亀裂Aや剥離Bの周囲に塗布する際、ろう材10が亀裂Aや剥離Bに充填されている。そして、ろう付け補修補助用材料(流れ止め中間成形体11A)が塗布されたタービン動翼1を加熱する際、セラミックス粒子を焼結させて流れ止め11を形成した後、さらに加熱温度を上昇させてろう材10を溶解させる。このように1回の熱処理で流れ止め11の形成及びろう付けの仕上げを行うことで、補修作業の作業効率を向上できる。
【0039】
また、本実施の形態で用いるろう付け補修補助用材料におけるセラミックス粒子と熱可塑性バインダとの体積比は、上述したように55:45~65:35であることが好ましい。全体に対するセラミックス粒子の体積比率が70%以上になると、流れ止め11が崩れ易くなる傾向がある。一方、全体に対する熱可塑性バインダの体積比率が50%以上になると、熱分解時にセラミックス粒子崩れ易くなる傾向がある。このような知見から上記好ましい体積比が導かれているが、本発明はこのような体積比のものに限定されるものではない。
【0040】
また、本実施の形態ではろう付け補修補助用材料により流れ止め11を形成したが、ろう付け補修補助用材料から、流れ止め11と、ろう材10をガイドする流路及び/又は流動したろう材10の溜まり部とを形成してもよい。図4は、ろう付け補修補助用材料から形成された流れ止め11と、流路12と、溜まり部13との例が示されている。図4で示す流路12は、亀裂A’の深さが小さい箇所からあふれ出たろう材10を、亀裂A’深さが大きい箇所にガイドするようになっており、溜まり部13は、亀裂A’の深さが大きい箇所にろう材10を多く充填させるべく、ろう材10を溜めるようになっている。本実施の形態にかかるろう付け補修補助用材料を用いた場合、流路12や溜まり部13も容易に形成でき、高品質なろう付けを行うことができる。
【実施例
【0041】
以下、実施例を説明する。
【0042】
本実施例では、平均粒径10μmのアルミナ粒子と熱可塑性樹脂であるPVAとの体積比が60:40となるように、アルミナ粒子とPVAとを混練機に投入し、加圧加熱しながら混練することで、ろう付け補修補助用材料を生成した。そして、混錬物からろう付け補修補助用材料を加圧押出してワイヤー状に成形し、3Dプリンタに装填した。
【0043】
次いで、ろう材を装填した金属加工物の3DCAD図面を3Dプリンタに入力した。そして、3DCAD図面を基に、ろう材の周辺を囲むように金属加工物表面に沿ってろう付け補修補助用材料を塗布するプログラムを3Dプリンタ上で作成した。そして、プログラムにしたがって、ろう付け補修補助用材料を塗布し、ろう材に対する流れ止め中間成形体を形成した。
【0044】
次いで、ろう付け補修補助用材料(流れ止め中間成形体)が十分に硬化したことが確認された後、金属加工物を熱処理炉に装填した。そして、熱処理炉を真空引きした後に、320℃まで昇温保持し、まず、ろう付け補修補助用材料におけるPVAを熱分解し、除去した。この状態ではPVAはほとんど除去されているが、アルミナ粒子間に微量に残留しており、アルミナ粒子の粒子間の結合力は残っており崩れ去ることはない。
【0045】
次いで、熱処理炉を1000℃まで昇温保持し、アルミナ粒子を焼結させて強度の高い焼結体、すなわち流れ止めを形成した。その後、熱処理炉をろう付け温度である1200℃まで昇温保持し、ろう付けを完了させた。
【0046】
そして、金属加工物を冷却後に熱処理炉から取り出して、施工結果を確認し、流れ止めを除去した。ろう材の流れ出しは流れ止めによって適正に抑制されており、施工結果は、良好であった。また、流れ止めは、木槌で叩くことで容易に除去できた。
【0047】
以上、実施の形態及び実施例を説明したが、上記実施の形態及び実施例は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施の形態及び実施例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施の形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0048】
例えば上述の実施の形態では、流れ止め11の形成前に被補修箇所にろう材10を充填するが、流れ止め11が形成された後に被補修箇所へのろう材10の充填が行われてもよい。また、ろう付け補修を行う対象は、タービン部品以外の金属加工物でもよい。
【符号の説明】
【0049】
1…タービン動翼、10…ろう材、11…流れ止め、11A…流れ止め中間成形体、12…流路、13…溜まり部、20…3Dプリンタ、21…ステージ、22…ノズル、A, A’…亀裂、B…剥離
図1
図2
図3
図4