(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】肥満の治療および体重管理のためのGLP-1組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 38/26 20060101AFI20240311BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20240311BHJP
C07K 14/605 20060101ALN20240311BHJP
【FI】
A61K38/26 ZNA
A61P3/04
C07K14/605
(21)【出願番号】P 2020547101
(86)(22)【出願日】2019-03-08
(86)【国際出願番号】 CN2019077541
(87)【国際公開番号】W WO2019170153
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2022-03-02
(31)【優先権主張番号】201810198521.0
(32)【優先日】2018-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】513243561
【氏名又は名称】上海仁会生物制▲やく▼股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】SHANGHAI BENEMAE PHARMACEUTICAL CORPORATION
【住所又は居所原語表記】No.916 Ziping Road,Zhoupu Town,Pudong New Area,Shanghai 200321,P.R.China
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】ユ,ジウェン
(72)【発明者】
【氏名】ズオ,ヤジュン
(72)【発明者】
【氏名】シャ,ジン
(72)【発明者】
【氏名】ワン,シチャン
(72)【発明者】
【氏名】キアン,リフェン
【審査官】池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第98/019698(WO,A1)
【文献】特表2001-504105(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0286365(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0090285(US,A1)
【文献】Diabetes Obes. Metab. (2013) vol.15, issue 3, p.204-212
【文献】Eur. J. Pharmacol. (2014) vol.741, p.254-263
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/26
A61P 3/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
肥満または過体重
の治療
において使用するための医薬組成物であって
、前記医薬組成物はベイナグルチドを含み、前記使用がベイナグルチドを0.11mg/日~0.66mg/日で肥満または過体重に罹患しているヒト対象に投与することを含み、および前記投与が
2~3回/日である、前記医薬組成物。
【請求項2】
前記対象が、男性対象である、請求項
1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記
ベイナグルチドが、0.33mg/日~0.66mg/日である、請求項1
または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記対象が、女性対象である、請求項
1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記組成物が、非経口注射により投与される、請求項1~
4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記組成物が、静脈内注射または皮下注射によって投与される、請求項1~
4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記組成物が、最大30年の期間前記対象に投与される、請求項1~
6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
体重
の管理
において使用するための医薬組成物であって、
前記医薬組成物はベイナグルチドを含み、前記使用がベイナグルチドを0.11mg/日~0.66mg/日でそれを必要とするヒト対象に投与することを含み、および前記投与が
2~3回/日である、前記医薬組成物。
【請求項9】
前記対象が、男性対象である、請求項
8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
ベイナグルチ
ドが、0.33mg/日~0.66mg/日
で投与される、請求項
8または9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記対象が、女性対象である、請求項
8に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記組成物が、非経口注射によって投与される、請求項
8~11のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記組成物が、静脈内注射または皮下注射によって投与される、請求項
8~11のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記組成物が、最大30年の期間前記対象に投与される、請求項
8~13のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、肥満、体重管理、および他の状態を治療するための、グルカゴン様ペプチド1(GLP-1)を含有する水性非経口医薬組成物の様々な用量の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
GLP-1は、全身に分布するGLP-1受容体、特に膵臓のインスリン分泌β細胞に作用するインスリン分泌性ペプチドである。この種のホルモンは、インスリン分泌を促進することができ、インスリンのシグナル伝達を独立して刺激し、グルコースの血糖降下作用をもたらす。GLP-1の不安定性には、物理的側面および化学的側面の2つの一般的側面がある。物理的不安定性には、例えば、変性、表面吸着、凝集、沈殿、ゼラチン化等が含まれ、化学的不安定性には、例えば、加水分解、脱アミノ化、酸化、ラセミ化、異性化、β脱離、ジスルフィド結合交換等が含まれる。不安定性は、貯蔵寿命を短くするだけでなく、GLP-1組成物の有効性にも影響する。不安定性の問題を解決するには、ナノ粒子を使用してGLP-1を送達するか、またはGLP-1を改質して安定性を向上させる。しかしながら、ナノ粒子の送達は生産コストおよび製剤の複雑さを増加させ、GLP-1の改質は毒性の増加と関連することが多い。Lee,Basic Clin.Pharmacol.Toxicol.118(3):173-180(2016)を参照されたい。
【0003】
したがって、安定性が増し、低用量で効力が改善された、天然の未改質形態のGLP-1を含む組成物が非常に望ましい。本明細書に開示される技術および方法は、当技術分野におけるこの必要性を満たす。
【発明の概要】
【0004】
一態様において、本開示は、肥満または過体重に罹患している対象に、GLP-1ペプチド(例えば、GLP-1(7-36)、GLP-1(7-36)NH2、GLP-1(7-35)、またはGLP-1(7-37))を含む組成物の治療有効量を投与することにより、肥満または過体重を治療する方法を提供し、GLP-1ペプチドの治療有効量(therapeutically effective amount)は、約10μg/kg~約60μg/kg体重、または約0.11mg/日~約0.66mg/日(例えばヒト対象において)である。いくつかの実施形態において、GLP-1ペプチドは、組換えヒトGLP-1ペプチドである。いくつかの実施形態において、GLP-1ペプチドは、化学的に合成されたGLP-1ペプチドである。いくつかの実施形態において、GLP-1ペプチドを含む組成物(GLP-1組成物)は、非経口注射によって投与される。いくつかの実施形態において、GLP-1組成物は、静脈内注射、筋肉内注射、または皮下注射によって投与される。いくつかの実施形態において、GLP-1組成物は、継続的または定期的な投与により、最長1年、最長2年、最長3年、最長4年、最長5年、最長6年、最長7年、最長8年、最長9年、最長10年、最長11年、最長12年、最長13年、最長14年、最長15年、最長16年、最長17年、最長18年、最長19年、最長20年、最長21年、最長22年、最長23年、最長24年、最長25年、最長26年、最長27年、最長28年、最長29年、最長30年、または最長31年の長期間投与される。
【0005】
いくつかの実施形態において、女性対象の肥満または過体重を治療するためのGLP-1組成物の治療有効量は、男性対象のそれよりも少ない。いくつかの実施形態において、女性対象の肥満または過体重を治療するためのGLP-1の治療有効量は、同じまたは同様の治療効果を達成するために男性対象の肥満または過体重を治療するためのそれよりも少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、または少なくとも70%少ない。いくつかの実施形態において、女性対象の肥満または過体重を治療するためのGLP-1の治療有効量は、約10μg/kg~約60μg/kg体重、または約0.11mg/日~約0.66mg/日である(例えばヒト対象において)。いくつかの実施形態において、男性対象の肥満または過体重を治療するためのGLP-1の治療有効量は、約30μg/kg~約60μg/kg体重、約0.33mg/日~約0.66mg/日(例えばヒト対象において)。
【0006】
別の態様において、本開示は、GLP-1(7-36)またはGLP-1(7-36)NH2、好ましくは組換えヒトGLP-1(7-36)またはGLP-1(7-36)NH2を含む組成物の治療有効量を、それを必要とする対象に投与することにより体重を管理する方法に関し、GLP-1組成物の治療有効量は、約10μg/kg~約60μg/kg体重、または約0.11mg/日~約0.66mg/日(例えばヒト対象において)である。いくつかの実施形態において、GLP-1ペプチドは、化学的に合成されたGLP-1ペプチドである。いくつかの実施形態において、GLP-1組成物は、非経口注射によって投与される。いくつかの実施形態において、GLP-1組成物は、静脈内注射、筋肉内注射、または皮下注射によって投与される。いくつかの実施形態において、GLP-1組成物は、継続的または定期的な投与により、最長1年、最長2年、最長3年、最長4年、最長5年、最長6年、最長7年、最長8年、最長9年、最長10年、最長11年、最長12年、最長13年、最長14年、最長15年、最長16年、最長17年、最長18年、最長19年、最長20年、最長21年、最長22年、最長23年、最長24年、最長25年、最長26年、最長27年、最長28年、最長29年、最長30年、または最長31年の長期間投与される。いくつかの実施形態において、対象のGLP-1組成物の体重減少は、GLP-1組成物を投与された対象の体重減少の100%未満、95%未満、90%未満、85%未満、80%未満、または75%未満である。いくつかの実施形態において、女性対象における体重管理のためのGLP-1の治療有効量は、約10μg/kg~約60μg/kg体重、または約0.11mg/日~約0.66mg/日である。いくつかの実施形態において、男性対象における体重管理のためのGLP-1の治療有効量は、約30μg/kg~約60μg/kg体重、または約0.33mg/日~約0.66mg/日である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】緩衝液のみの対照およびリラグルチドと比較した、様々な用量のベイナグルチドを与えられたオスおよびメスのラットにおける炭素粉末の胃内残留率を示す図である。
【
図2】緩衝液のみの対照およびリラグルチドと比較した、様々な用量のベイナグルチドを与えられたオスおよびメスのラットの小腸における炭素粉末の推進率を示す図である。
【
図3】カニクイザルの肥満治療の実験計画を示す図である。4匹の食餌誘発性肥満カニクイザルを2つの治療群に分け、各群に1匹のオスのサルおよび1匹のメスのサルを入れた。試験期間の1週目の間に、各動物の食物摂取量、体重、BMI、および体組成が測定され、ベースラインインデックスとして記録された。治療期間中(2週目~7週目)、群1の動物に第1の3週間(2週目~4週目)にブランク対照を、第2の3週間(5週目~7週目)にベイナグルチドをそれぞれ皮下投与した。群2の動物には、第1の3週間(2週目~4週目)にベイナグルチドを、第2の3週間(5週目~7週目)にブランク対照をそれぞれ皮下投与した。ベイナグルチドまたはブランク対照の投与は、両方の群で8週目に中止された。ベイナグルチド治療の有効性および可逆性は、ベースラインレベルと比較して、4週目、7週目および8週目の食物摂取量、体重、BMI、および体組成に基づいて評価された。
【
図4】[
図4A]ベイナグルチド治療により肥満サルの食物摂取量が減少したことを示す図である。
図4Aは、群1の各カニクイザルの1日のカロリー摂取量を示す。
図4Bは、群2の各カニクイザルの1日のカロリー摂取量を示す。
図4Cは、ベイナグルチド治療の前後の各動物の平均週間食物摂取量を示す。治療前:群1、1週目~4週目、および群2、1週目;治療中:群1、5週目~7週目、群2、2週目~4週目。治療中、各動物の平均週間食物摂取量は大幅な減少を示した。 [
図4B]ベイナグルチド治療により肥満サルの食物摂取量が減少したことを示す図である。
図4Aは、群1の各カニクイザルの1日のカロリー摂取量を示す。
図4Bは、群2の各カニクイザルの1日のカロリー摂取量を示す。
図4Cは、ベイナグルチド治療の前後の各動物の平均週間食物摂取量を示す。治療前:群1、1週目~4週目、および群2、1週目;治療中:群1、5週目~7週目、群2、2週目~4週目。治療中、各動物の平均週間食物摂取量は大幅な減少を示した。 [
図4C]ベイナグルチド治療により肥満サルの食物摂取量が減少したことを示す図である。
図4Aは、群1の各カニクイザルの1日のカロリー摂取量を示す。
図4Bは、群2の各カニクイザルの1日のカロリー摂取量を示す。
図4Cは、ベイナグルチド治療の前後の各動物の平均週間食物摂取量を示す。治療前:群1、1週目~4週目、および群2、1週目;治療中:群1、5週目~7週目、群2、2週目~4週目。治療中、各動物の平均週間食物摂取量は大幅な減少を示した。
【
図5】[
図5A]肥満サルの体重減少を示す図である。
図5Aは、8週間の試験期間中の各動物の体重変化のパーセンテージを示す。ベイナグルチドによる治療は実線で示され、ブランク対照は点線で示されている。
図5Bは、ベイナグルチド治療前後の各動物の体重を示す。すべての動物群は、ベイナグルチド治療後に有意な体重減少を示した(n=4)。 [
図5B]肥満サルの体重減少を示す図である。
図5Aは、8週間の試験期間中の各動物の体重変化のパーセンテージを示す。ベイナグルチドによる治療は実線で示され、ブランク対照は点線で示されている。
図5Bは、ベイナグルチド治療前後の各動物の体重を示す。すべての動物群は、ベイナグルチド治療後に有意な体重減少を示した(n=4)。
【
図6A】グリピジドまたはメトホルミンと組み合わせたベイナグルチドの、対象に対する効果を示す図である。
図6Aは、5Aテスト群の12週目のボディマスインデックスの変化を示す。
図6Bは、5B試験の2週目~12週目の間のボディマスインデックスの変化を示している(各用量のデータの4つの群は、左から右に2週、4週、8週、12週のボディマスインデックスを示している)。
図6Cは、試験5Cにおける過体重の患者および肥満患者の試験中の体重の経時変化を示すグラフである。
【
図6B】グリピジドまたはメトホルミンと組み合わせたベイナグルチドの、対象に対する効果を示す図である。
図6Aは、5Aテスト群の12週目のボディマスインデックスの変化を示す。
図6Bは、5B試験の2週目~12週目の間のボディマスインデックスの変化を示している(各用量のデータの4つの群は、左から右に2週、4週、8週、12週のボディマスインデックスを示している)。
図6Cは、試験5Cにおける過体重の患者および肥満患者の試験中の体重の経時変化を示すグラフである。
【
図6C】グリピジドまたはメトホルミンと組み合わせたベイナグルチドの、対象に対する効果を示す図である。
図6Aは、5Aテスト群の12週目のボディマスインデックスの変化を示す。
図6Bは、5B試験の2週目~12週目の間のボディマスインデックスの変化を示している(各用量のデータの4つの群は、左から右に2週、4週、8週、12週のボディマスインデックスを示している)。
図6Cは、試験5Cにおける過体重の患者および肥満患者の試験中の体重の経時変化を示すグラフである。
【
図7】緩衝液のみの対照と比較した、10μg/kg~60μg/kgの様々な用量のベイナグルチドを与えられたオスおよびメスのラットにおける炭素粉末の胃内残留率を示す図である。
【
図8】緩衝液のみの対照およびリラグルチドと比較した、10μg/kg~60μg/kgの様々な用量のベイナグルチドを与えられたオスおよびメスのラットの小腸における炭素粉末の推進率を示す図である。
【
図9】15週間にわたり高脂肪食および低脂肪食が与えられたマウスの体重変化を示す図である。
【
図10】15週間にわたり高脂肪食および低脂肪食が与えられたマウスの食物摂取量を示す図である。
【
図11】インスリン抵抗性および肥満の誘導が成功したことを確認するための、特別食終了時の腹腔内グルコース負荷テスト(IPGTT)の結果を示す図である。
【
図12A】緩衝液のみの対照と比較した、15μg/kg~100μg/kgの様々な用量のベイナグルチドを与えられたオスDIOマウスにおける炭素粉末の胃内残留率を示す図である。
【
図12B】緩衝液のみの対照と比較した、15μg/kg~100μg/kgの様々な用量のベイナグルチドを与えられたオスDIOマウスの小腸における炭素粉末の推進率を示す図である。*P<0.05、**P<0.1。
【発明を実施するための形態】
【0008】
驚くべきことに、本明細書に記載のGLP-1組成物は、有意に少ない用量で、過体重および肥満の治療においてリラグルチド組成物とは著しく異なる薬物動態を達成する。さらに、女性対象のGLP-1組成物の治療有効量は、男性対象のGLP-1組成物の治療有効量よりも有意に低く、同じまたは類似の治療効果を達成する。
【0009】
世界保健機関(WHO)は、1948年以来、肥満を疾患として挙げている。肥満の世界的な発生は、1980年以降2倍以上になっている。Ng et al.,Lancet.384:766-781(2014)。過体重または肥満は、長期的なエネルギー摂取量がエネルギー消費量を超えていることによる、体脂肪の異常または過剰な蓄積として説明される。過体重および肥満は、心血管疾患、2型糖尿病(T2DM)、骨格筋異常、およびある特定のがん等の非伝染性疾患の重要な危険因子である。Van Bloemendaal et al.,J.Endocrinol.221:T1-T16(2014)。過体重または肥満に関連するこれらの疾患および状態は、公的医療に大きな経済的負担をかける。
【0010】
天然型のGLP-1は、食事後に腸のL細胞により分泌され、インスリン分泌の強力なペプチド刺激因子である。GLP-1は、2型糖尿病の潜在的な治療法である。Holst,Physiol.Rev.87:1409-1439(2007)。GLP-1には、GLP-1(7-36)-NH2およびGLP-1(7-37)という2つの活性型がある。循環に入ると、GLP-1はジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP4)によって急速に分解され、半減期は約2分と短くなる。Kieffer et al.,Endocrinology 136:3585-3596(1995)。GLP-1およびその類似体は、血糖の制御に対する効果に加えて、体重減少の誘発、胃内容排出の遅延、および満腹感の増加に効果があることが分かっている。Monami et al.,Exp. Diabetes Res.2012:672658(2012)。FDAは、2014年12月にSaxenda(リラグルチド3mg)を承認したが、これは、GLP-1類似体の最初のNDAアプリケーションであり、少なくとも2型肥満等の過体重に関連する少なくとも1つの疾患または状態を有する肥満の成人の低カロリーの食事および身体活動の増加で補完される長期的な体重管理である。
【0011】
本開示に関連して、本明細書で使用されるGLP-1を含む医薬組成物の「治療有効量」または「有効量」という語句は、対象において所望の治療効果を、例えば肥満または過体重の治療、体重減少を含む体重管理をもたらす医薬組成物の量である。ある特定の実施形態において、治療有効量は、最大の治療効果をもたらす医薬組成物の量である。他の実施形態において、治療有効量は、最大治療効果よりも少ない治療効果をもたらす。例えば、治療有効量は、最大の治療効果をもたらす投薬量に関連する1つ以上の副作用を回避しながら治療効果を生み出す量であってもよい。いくつかの実施形態において、治療有効量は、治療効果をもたらす最小量である。特定の組成物の治療有効量は、治療組成物の特性(例えば、活性、薬物動態、薬力学、および生物学的利用能)、対象の生理学的状態(例えば、年齢、体重、性別、疾患の種類および病期、病歴、一般的な体調、所定の投薬量に対する反応性、ならびにその他の現在の投薬)、組成物中の任意の薬学的に許容される担体、賦形剤、および保存剤の性質、ならびに投与経路を含むがそれらに限定されない、様々な因子に基づいて変動する。臨床および薬理学分野の当業者は、日常的な実験により、すなわち、医薬組成物の投与に対する対象の反応をモニタリングし、それに応じて投薬量を調整することにより、治療有効量を決定することができる。追加のガイダンスについては、例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy,22nd Edition,Pharmaceutical Press,London,2012、およびGoodman & Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics,12th Edition,McGraw-Hill,New York,NY,2011を参照されたく、その開示全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0012】
いくつかの実施形態において、本明細書に開示されるGLP-1を含む医薬組成物の治療有効量は、約10μg/kg~約60μg/kg体重の範囲内の有効成分GLP-1、または約0.11mg/日~約0.66mg/日のGLP-1(例えばヒト対象において)である。いくつかの実施形態において、男性対象に対する本明細書に開示されるGLP-1を含む医薬組成物の治療有効量は、約30μg/kg~約60μg/kg体重の有効成分GLP-1、または約0.33mg/日~約0.66mg/日のGLP-1(例えばヒト対象において)である。いくつかの実施形態において、女性対象に対する本明細書に開示されるGLP-1を含む医薬組成物の治療有効量は、約10μg/kg~約60μg/kg体重の有効成分GLP-1、または約0.11mg/日~約0.66mg/日のGLP-1(例えばヒト対象において)である。
【0013】
「治療する(treat)」、「治療する(treating)」、および「治療(treatment)」という用語は、状態に関して本明細書において使用される場合、状態を部分的または完全に緩和する、状態を防止する、状態の発生もしくは再発の可能性を低下させる、状態の進行もしくは発達を遅延させる、または病状に関連する1つ以上の症状の発達を排除、軽減もしくは遅延させることを指す。
【0014】
「対象」という用語は、本明細書において使用される場合、哺乳動物対象、好ましくはヒトを指す。「それを必要とする対象」とは、肥満もしくは過体重と診断された対象、体重増加のリスクがある対象、または体重増加を抑制もしくは体重減少を誘発することを望む対象を指す。「対象」および「患者」という語句は、本明細書では同義的に使用され得る。
【0015】
本明細書において使用される場合、組成物または方法に関する「含む」という用語は、組成物または方法が少なくとも列挙された要素を含むことを意味する。「本質的になる」という用語は、組成物または方法が列挙された要素を含み、組成物または方法の新規および基本的な特性に実質的に影響しない1つまたは複数の追加の要素をさらに含み得ることを意味する。例えば、列挙された要素から本質的になる組成物は、それらの列挙された要素に加えて、単離および精製方法からの1つ以上の微量汚染物質、リン酸緩衝生理食塩水等の薬学的に許容される担体、保存剤等を含み得る。「からなる」という用語は、組成物または方法が、列挙された要素のみを含むことを意味する。これらの移行句の各々によって定義される実施形態は、本発明の範囲内である。
【0016】
GLP-1を含む医薬組成物
いくつかの実施形態において、本明細書に開示されるGLP-1組成物は、His-Ala-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Val-Ser-Ser-Tyr-Leu-Glu-Gly-Gln-Ala-Ala-Lys-Glu-Phe-Ile-Ala-Trp-Leu-Val-Lys-Gly-Arg(配列番号:1)の配列を有する組換えヒトGLP-1(7-36)ペプチドを含み、例えば、この開示においてベイナグルチドと呼ばれる。ベイナグルチドは、C149H225N39O46の分子式を有し、分子量は3298.7である。このペプチドは、天然型のNH2が組換えペプチドのOH基で置き換えられた内因性のアミド化を除く、循環型GLP-1の活性型と本質的に同じである。ベイナグルチドは、グリシンで伸長したGLP-1(7-37)と同様に、C末端の遊離カルボキシル基を含む。他の実施形態において、GLP-1(7-35)またはGLP-1(7-37)は、開示された技術で使用され得る。GLP-1(7-35)およびGLP-1(7-37)の配列は次の通りである:
His-Ala-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Val-Ser-Ser-Tyr-Leu-Glu-Gly-Gln-Ala-Ala-Lys-Glu-Phe-Ile-Ala-Trp-Leu-Val-Lys-Gly(配列番号2)、および
His-Ala-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Val-Ser-Ser-Tyr-Leu-Glu-Gly-Gln-Ala-Ala-Lys-Glu-Phe-Ile-Ala-Trp-Leu-Val-Lys-Gly-Arg-Gly(配列番号3)。
【0017】
サルモデルを使用した臨床薬物動態研究では、ベイナグルチドは、皮下投与された場合、約15~30分の半減期を示した。中国での糖尿病治療の第III相臨床試験で、12週間ベイナグルチド(0.2mg、TID)を与えられた346人の糖尿病患者は、113人の患者の対照群と比較して、有意な体重減少および血中の糖化ヘモグロビンレベルの低下を示した。これらの患者の最も一般的な副作用は悪心および嘔吐であったが、これらの副作用は一時的なものであり、他の同様のGLP-1類似体療法ほど悪くはなかった。
【0018】
ベイナグルチドは、大腸菌での発現後に単離され、その後注射可能な製剤に製剤化され得る。本開示の医薬組成物において、GLP-1ペプチドは、約0.1~約20mg/mL、約0.2~約10mg/mL、約0.05~約0.5mg/mL、約0.5~約5mg/mL、約1~約5mg/mL、または約2~約4mg/mLの濃度を有する。別段に明記しない限り、「約」は、記載された数値との差が±10%の範囲内であることを意味する。例えば、本開示の製剤では、GLP-1濃度は、2mg/mlまでであり、2~8℃で約2年間暗所で保存することができる。
【0019】
本開示の医薬組成物は、約3.5~約5.0、約3.5~約4.5、約3.6~約4.2、約3.6~約4.1、約3.6~約4.0、または約3.6~約3.9のpH値を有する。このpH範囲では、GLP-1組成物の安定性が改善され、組成物は2~8℃で約2年以上暗所で保存することができる。
【0020】
本明細書に開示されるGLP-1組成物は、酢酸ナトリウム、酢酸等を含む、組成物の所望のpH範囲を維持するための1つ以上の緩衝塩を含み得る。GLP-1組成物の追加の成分は、1種以上の保存剤(例えばフェノール等)、等張剤(例えばマンニトール、プロピレングリコール等)、および溶解促進剤(例えばプロピレングリコール等)を含み得る。
【0021】
いくつかの実施形態において、体重を減らすために、皮下注射によって過体重または肥満に罹患している患者にベイナグルチドを投与することができる。他の適切な注射経路も使用され得る。体重の制御または減少に対するベイナグルチドの効果は、実施例によって実証される。
【0022】
GLP-1組成物の予防的および/または治療的使用
本開示は、肥満、過食症および/または過体重を含む様々な状態を治療または予防するためのGLP-1を含む医薬組成物の使用を提供する。本開示はまた、体重管理、胃内容排出の遅延、および/または満腹感の改善のためのGLP-1を含む医薬組成物の使用に関する。
【0023】
アメリカ疾病管理予防センター(CDC)および世界保健機関(WHO)が発表した基準によると、18.5未満のBMIは体重不足を示し、18.5~24.9の間のBMIは正常または健康な体重を示し、25.0~29.9の間のBMIは過体重を示し、30.0以上のBMIは肥満を示す。
【0024】
肥満の治療
一態様において、GLP-1を含む医薬組成物の治療有効量を対象に投与することを含む、肥満を治療する方法が本明細書で提供され、治療有効量は、約10μg/kg~約60μg/kg体重の範囲内の有効成分GLP-1、または約0.11mg/日~約0.66mg/日のGLP-1(例えばヒト対象において)である。
【0025】
過食症の治療
一態様において、GLP-1を含む医薬組成物の治療有効量を対象に投与することを含む、過食症を治療する方法が本明細書で提供され、治療有効量は、約10μg/kg~約60μg/kg体重の範囲内の有効成分GLP-1、または約0.11mg/日~約0.66mg/日のGLP-1(例えばヒト対象において)である。
【0026】
体重管理
別の態様において、ボディマスインデックス(BMI)が少なくとも0.5%、少なくとも1%、少なくとも2%、または少なくとも3%低下するようにGLP-1を含む医薬組成物の治療有効量を対象に投与することを含む、対象の体重を管理する方法が本明細書で提供され、治療有効量は、約10μg/kg~約60μg/kg体重の範囲内の有効成分GLP-1、または約0.11mg/日~約0.66mg/日のGLP-1(例えばヒト対象において)である。代替として、体重が少なくとも2%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、または少なくとも50%減少するようにGLP-1を含む医薬組成物の治療有効量を対象に投与することを含む、対象の体重を管理する方法が本明細書で提供され、治療有効量は、約10μg/kg~約60μg/kg体重の範囲内の有効成分GLP-1、または約0.11mg/日~約0.66mg/日のGLP-1(例えばヒト対象において)である。
【0027】
いくつかの実施形態において、体重管理は、体重減少を誘発することを含む。いくつかの実施形態において、GLP-1組成物を与えられている対象の体重は、GLP-1組成物を与えられない対象の体重の100%未満、95%未満、90%未満、85%未満、80%未満、75%未満である。
【0028】
胃内容排出の遅延
別の態様において、GLP-1を含む医薬組成物の治療有効量を対象に投与することを含む、胃内容排出を遅延させる方法が本明細書で提供され、治療有効量は、約10μg/kg~約60μg/kg体重の範囲内の有効成分GLP-1、または約0.11mg/日~約0.66mg/日のGLP-1(例えばヒト対象において)である。
【0029】
GLP-1の投薬量
本明細書に開示される様々な状態に対して同じまたは類似の治療効果を達成するために、GLP-1組成物の投薬量は、リラグルチドを含む医薬組成物よりも大幅に少ない。さらに、女性対象で治療効果を引き出すためのGLP-1の最小投薬量は、男性対象で同じまたは類似の治療効果を引き出すためのGLP-1の最小投薬量よりも大幅に少ない。いくつかの実施形態において、女性対象に対するGLP-1の最小投薬量は、男性対象が同じまたは類似の治療効果を達成するためのGLP-1の最小投薬量の約95%、約90%、約85%、約80%、約75%、約70%、約65%、約60%、約55%、約50%、約45%、約40%、約35%、約30%、または約25%である。一般に、ヒト用量はマウス用量の約1/12、ラット用量の約1/6、またはサル用量の約1/3である。いくつかの実施形態において、GLP-1ペプチドの1日1回0.1mg~0.4mgの用量を含む製品が本明細書で提供される。
【0030】
以下の実施例は、実施形態をより良く例示するために提供されるものであり、任意の請求される実施形態の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。特定の材料が言及される場合、それは単に例示を目的としており、本発明を限定することを意図しない。当業者は、発明の能力を行使することなく、また本発明の範囲から逸脱することなく、均等の手段または反応物質を開発することができる。本発明の境界内であることを維持しながら、本明細書に記載の手順に多くの変更を行うことができることが理解される。本発明者は、そのような変更が本発明の範囲内に含まれることを意図する。
【実施例】
【0031】
実施例1
この例は、胃内容排出の遅延に対するベイナグルチド注射製剤の効果を示す。ベイナグルチド注射製剤は、2.1ml中に4.2mg(42,000U)の配列番号1のベイナグルチドを含む。
【0032】
248g~308g(オス)または184g~218g(メス)の体重を有する50匹の8週齢Sprague-Dawley(SD)ラットを、7日間適応摂食させ、それぞれの体重を量り、次いで、緩衝液のみの対照、低用量のベイナグルチド(15μg/kg)、中用量のベイナグルチド(30μg/kg)、高用量のベイナグルチド(60μg/kg)、およびリラグルチド対照(270μg/kg)の5つの群に分けた。各群には10匹のラットが含まれ、半分はオスで、半分はメスであった。ラットの尾を次のようにラベル付けした:
【表1】
【0033】
用量選択は、ヒトの用量に基づいて計算される。臨床ヒト用量は、約0.4mg/注射、1日1回注射と推定されるが、これは体表面積に基づいて計算された36μg/kgラット用量に相当する。したがって、ラットは中用量30μg/kg、中用量の50%の低用量、および中用量の200%の高用量で試験された。肥満を治療するためのリラグルチドの臨床ヒト用量は、3.0mg/注射、1日1回注射であり、これは体表面積に基づいて計算された270μg/kgラット用量に相当する。
【0034】
ベイナグルチド注射製剤は、Shanghai Benemae Pharmaceutical Corporation(Benemae)から提供されたが、これは4.2mg(42,000U)のベイナグルチドを含む2.1mLの無色透明液体であった。ベイナグルチド注射製剤は、2~8℃で暗所で保存された。緩衝液のみの対照は、Benemaeにより無色透明の液体として提供され、ベイナグルチド注射製剤の臨床プラセボであり、2~8℃で保存された。陽性対照は、リラグルチド注射製剤であり、暗所で密封状態で保存された。ラットは、上海中医薬大学の実験動物センターで飼育および管理された。
【0035】
注射製剤は、実験時に以下のように作製および希釈された。
【表2】
【0036】
ラットに水のみを与えて16時間絶食させた。群分けの前に、ラットの体重を測定し、体重を記録した(ケージの番号付けおよび尾のラベル付け)。体重に基づいて、ラットを無作為に5つの群に分け、各群に10匹、半分はオス、半分はメスとした。群分け後、表1に示すようにラットにラベル付けした。
【0037】
ラットに、体重に基づく適切な量のベイナグルチドまたはリラグルチドを皮下注射により投与した。オスのラットの後に、メスのラットに群番号の順番で、101、201、301、401、501、102、202、302、402、502等で注射した。製剤は、背中の皮膚を持ち上げ、注射器の針を皮下に置いて注射することによりラットに注射した。針を回収する際、製剤の漏出を避けるために注射部位を手で押さえた。注射量は約0.1ml/100g体重である。
【0038】
皮下注射の5分後、1.5ml/100g体重で5%炭素粉末懸濁液(2%カルボキシメチルセルロース溶液中)を使用して強制給餌させた。15分後、ラットを屠殺し、腹腔を切開し、すぐに胃の噴門と幽門を結紮した。胃を濾紙で拭いて乾かし、胃の総重量を量った。次いで、胃の内容物を取り除き、胃の正味重量を量った。幽門括約筋から炭素粉末懸濁液の前部まで、および大腸の遠位端までのそれぞれの距離を測定した。
・腸内の炭素粉末の推進距離(cm)=幽門から炭素粉末の基端までの距離。
・強制給餌された炭素粉末の質量=炭素粉末懸濁液の濃度×体積。
・炭素粉末の推進率(%)=腸内の炭素粉末の推進距離(cm)/腸の全長(cm)×100%。
・胃内残留率(%)=(胃の総重量-胃の正味重量)/強制給餌された炭素粉末の質量×100%。
【0039】
表3および4ならびに
図1および2に示されるように、高用量のベイナグルチドを投与されたオスのラットの群、ならびに低用量、中用量および高用量のベイナグルチドを投与されたメスのラットの群は、緩衝液のみの対照群より高い胃内残留率を示し、ベイナグルチド群と対照群との間の差は、統計的に有意であった。中用量および高用量のベイナグルチドを投与されたオスのラットの群、ならびに低用量、中用量および高用量のベイナグルチドを投与されたメスのラットの群は、緩衝液のみの対照群より低い炭素粉末の推進率を示し、ベイナグルチド群と対照群との間の差は、統計的に有意であった。リラグルチドは、炭素粉末の胃内容排出および炭素粉末の推進率にある特定のレベルの阻害を示したが、リラグルチド群と対照群との間の差は統計的に有意ではなかった。したがって、リラグルチドではなく、ベイナグルチドは、ラットの胃内容排出を効果的に遅らせることができる。
【表3】
【表4】
【0040】
実施例2
この例は、GLP-1受容体シグナル伝達経路に対するベイナグルチドの活性化効果を示す。
【0041】
GLP-1受容体はGタンパク質共役受容体のファミリーに属し、7つの膜貫通ドメインを有する。細胞内カルシウムレベルの蛍光検出を介して、GLP-1受容体を安定して発現するCHO-K1細胞を使用し、GLP-1受容体に対するベイナグルチドおよび陽性対照GLP-1(7-36)-NH2の効果を分析した。ベイナグルチドは、濃度依存的にCHO-K1細胞で細胞内カルシウムフローを誘導した。ベイナグルチドおよび陽性対照GLP-1(7-36)-NH2は、それぞれ118±48および141±18nMで同様のEC50を示した。ベイナグルチドおよびGLP-1(7-36)-NH2の両方が、GLP-1受容体シグナル伝達経路に対する活性化効果を十分に示した。
【0042】
実施例3
この例は、正常および糖尿病の動物モデルにおける動物の血糖値に対するベイナグルチドの効果を示す。
【0043】
ベイナグルチドは、正常なグリセミックインデックス(GI)のマウスおよびウサギでグルコース誘発性の高血糖を低下させるとともに、正常なGIのマウスおよびラットでアロキサンおよびストレプトゾトシンによって誘発された血糖の増加を抑えることができ、血糖低下に対するその効果を実証した。血糖が増加した動物は正常なGIを示し、血糖が低下すると、インスリンレベルが大幅に増加し、血糖の低下と相関していた。しかし、通常の血糖値を有する動物では、ベイナグルチドは血糖を低下させることも、血中インスリンレベルを上昇させることもせず、ベイナグルチドにより促進されるインスリン分泌がグルコース濃度に依存的であることを示した。
【0044】
実施例4
この例は、食餌誘発性肥満カニクイザルの体重減少に対するベイナグルチドの効果を示す。
【0045】
ベイナグルチド注射製剤を、食餌誘発性肥満カニクイザルに1日2回または3回、3週間皮下投与し、食欲低下および体重減少への効果、ならびに治療終了後の持続的効果および可逆性を評価した。
【0046】
この試験では、40kg/m
2超のBMIを有する14~19歳の2匹のオス(10.5~11.5kg)とおよび2匹のメス(6.0~6.5kg)の肥満カニクイザルを使用した。
図3に示されるように、この試験には、ブランク対照(緩衝液のみ)および対象自身の対照、複数回の増分投薬、ならびに交差投与が含まれた。サルは、年齢、性別、体重およびBMIに基づいて2つの群に分けられ、各群には1匹のオスおよび1匹のメスが含まれる。
【表5】
【0047】
この試験には、ベースライン期間(第1週)、治療期間(第2週~第7週)、および回復期間(第8週)の3つの期間が含まれていた。サルが少なくとも30日間食事時間に適応した後、各動物の体重、BMIおよび体組成を最初のベースライン期間の7日目に測定した。これらの指標は、ベイナグルチドの有効性を評価するためのベースラインとして使用された。
【0048】
治療期間中(第2週~第7週)、群1のサルに、2週目~4週目に1日に3回ブランク対照を、5週目~7週目に1日2回ベイナグルチド注射剤を皮下投与した。群2のサルには、2週目~4週目に1日3回ベイナグルチド注射製剤を、5週目~7週目に1日2回ブランク対照を皮下投与した。ベイナグルチドの耐性を改善し、ベイナグルチドの最大耐性用量を決定するために、試験中にベイナグルチドの用量を徐々に増やした。群2の動物に、2週目に毎回10μg/kgの用量で1日3回投与し、3週目に毎回20μg/kgの用量で1日3回投与し、4週目の最初の3日間毎回40μg/kgの用量で1日3回投与した。重度の食欲不振が観察されたため、表6に示されるように、4週目の残りの4日間は毎回用量を20μg/kgに減らした。
【表6】
【0049】
5週目~7週目の間の群1の動物の用量は、2週目~4週目の間の群2の動物に与えられた用量に基づいて決定された。群1の動物に、5週目の間毎回10μg/kgの用量で1日2回、6週目の間毎回20μg/kgの用量で1日2回、7週目の間毎回20μg/kgの用量(6週目と同じ用量)で1日2回投与した。6週間の治療期間中、各動物の体重および頭殿長を各週の終わりに測定した。体脂肪量は4週目および7週目に測定した。8週目は投与されなかった。
【0050】
この試験の8週間の間、各動物の各食事の食物摂取量を記録した。群1のベイナグルチドが食物摂取量、体重およびBMIに及ぼす影響を、4週目および7週目のベースラインレベルと比較して評価した。群2のベイナグルチドが食物摂取量、体重およびBMIに及ぼす影響を、1週目および4週目のベースラインレベルと比較して評価した。
【0051】
ベイナグルチドを、注射の30分前に0.05ml/kgの容量での注射用に2mg/mlから0.2、0.4、または0.8mg/mlに希釈した。動物に、午前(8時30分頃)および午後(16時頃)のサル用の餌、またその間(14時頃)の果物を含む、1日3回の食事を与えた。各動物に、150gのサル用の餌を与えた。30分後、すべてのサル用の餌が消費された場合、追加の50gのサル用の餌を動物に与えた。動物には各食事を終えるのに約1時間与え、残り物を計量し、食物摂取量を計算するために記録した。各動物に、表7に基づいて、同じカロリーの果物を与えた。
【表7】
【0052】
週に1回体重を測定し、1週目、4週目、および7週目の終わりに、デュアルエネルギーX線吸収測定(DEXA)スキャンを行った際に頭殿長を測定した。動物は、0.02ml/kgのシュミアンニングの筋肉内投与により麻酔された。横臥位で休んでいる間、動物の頭頂部から尾部の下部までを、頭殿長として測定した。BMIは、BMI=体重(kg)/頭殿長(m)^2という式を使用して計算された。動物が麻酔されている間DEXAスキャンを行い、DEXAスキャンに基づいて体組成を分析した。
【0053】
試験中、摂食前および摂食中に、異常行動または痛みもしくは緊張の兆候がないか、動物を少なくとも1日に3回観察した。ベイナグルチドまたはブランク対照を投与した後、食欲不振、眠気、下痢、便秘、無関心、嘔吐、炎症、または注射領域周辺のその他の状態を含む症状のいずれかについて動物を観察した。震えまたは昏睡等の低血糖の症状が観察された場合は、低血糖を確認するために動物に対し血中グルコーステストを行い、動物に保存的治療を施した。
【0054】
食物摂取
試験期間全体を通して、各動物の毎日の食物摂取量を監視した。
図4Aに示されるように、群1の動物は、ブランク対照を投与した場合、2週目~4週目は1週目の食物摂取量と同じ食物摂取量であり、ベイナグルチドを投与した場合、5週目~7週目に食物摂取量が有意に低下した。8週目の食物摂取量は、8週目に回復し、1週目に匹敵した。
図4Bに示されるように、群2の動物は、1週目の食物摂取量と比較して、ベイナグルチドを投与した場合、2週目~4週目に食物摂取量が有意に低下した。食欲は5週目に回復し始め、投与が完了した7週後にベースラインまで回復した。
【0055】
図4Cに示されるように、各動物のカロリー摂取量を食物摂取量に基づいて計算し、ベイナグルチドによる治療前、治療中および治療後の値を比較した。ベイナグルチド治療期間中の各動物の週間食物/カロリー摂取量は、治療前の摂取量と比較して有意に減少した(p<0.05)。
【0056】
したがって、1日2回または3回のベイナグルチドの皮下注射により、オスとメスの両方の肥満サルの食物摂取量が有意に減少した。実際に、群2の動物は、4週目の最初の3日間に40μg/kgの用量のベイナグルチドを投与すると、食欲不振の重篤な兆候を示したため、4週目の残りの日は用量を20μg/kgに減らす必要があった。食餌誘発性肥満カニクイザルに対するベイナグルチドの最大許容用量は、1日3回、各回20~40μg/kgであると推定された。
【0057】
体重およびBMI
全試験期間中、各サルの体重を毎週測定し、すべての体重測定情報を表8に記録した。
【表8】
【0058】
図5Aに示されるように、群1のオスおよびメスの動物は、2週目~4週目にブランク対照を投与しても体重に実質的な変化はなかったが、対照的に、群2のサルは、ベイナグルチドを投与してから継続的な体重減少を示した。さらに、群1の動物は、5週目~7週目に、ベイナグルチドが投与された際に体重減少を示した。群2のメスのサルは、5週目にブランク対照に切り替えた際に徐々に体重が増加したが、群2のオスのサルは、投与されたベイナグルチドが終了した際に、実質的な体重増加はなかった。
図5Bに示されるように、各動物の体重を、ベイナグルチド治療の前後で比較した。ベースライン期間の体重と比較した場合、動物は3週間のベイナグルチド治療後に有意な体重減少を示した(p<0.05)。
【0059】
各動物の頭臀長を、1週目、4週目、および7週目の終わりまでに測定し、体重および頭臀長に基づいてBMIを計算した。3週間のベイナグルチド治療後、2つの群の動物のBMIは減少した。
【0060】
体組成の分析
1週目、4週目、および7週目の終わりに各動物に対してDEXAスキャンを実行した。体組成に関する情報を表9に示す。
【表9】
【0061】
4週目の終わりに、ブランク対照を投与した群1の動物では、ベースラインレベルと比較して体脂肪含有量がわずかに増加したが、ベイナグルチドを投与された群2の動物では、体脂肪含有量が有意に減少した。7週目の終わりに、ベイナグルチドを投与された群1の動物も、ベースラインレベルと比較して体脂肪含有量が減少した。体脂肪率は、総体重中の体脂肪のパーセンテージに基づいて計算された。
【0062】
実施例5
試験5Aでは、ベイナグルチド(0mg、0.1mg、0.15mg、および0.2mgの4つの用量群、1日3回、各回0mg、0.1mg、0.15mgまたは0.2mg)ならびに/またはグリピジド(グリピジド制御放出錠剤(Rui Yining)、5mgを1日1回経口投与)を、スルホニル尿素(グリピジド等)の血糖制御不良の2型糖尿病患者(96人の患者)に投与した。ベイナグルチドおよびグリピジドを単独または異なる用量で組み合わせて治療した対象の体重およびBMIの変化、ならびに胃腸反応等の副作用を観察するため。
【0063】
糖尿病の治療に最適な薬剤はメトホルミンである。試験5Bでは、ベイナグルチド(4回用量群で0mg、0.1mg、0.15mg、および0.2mg、1日3回、各回0mg、0.1mg、0.15mgまたは0.2mg)ならびにメトホルミン(経口単剤療法、治療用量≧1,000mg/日、用量は少なくとも3か月間は安定している)を、メトホルミン制御不良の2型糖尿病患者(240人の患者)のみに投与した。単独または組み合わせて投与されたベイナグルチドおよびメトホルミンの効果の系統的観察をそれぞれ行った。
【0064】
試験5Aおよび5Bの結果は、注射後のベイナグルチドの効果が速く、ピーク時間が投与後20分であることを示した。その短い作用期間(約15分の半減期)にもかかわらず、グリピジドまたはメトホルミンと組み合わせると、グリピジドまたはメトホルミン単独よりも優れた治療効果を示した。ベイナグルチド臨床試験における有害事象は、主に軽度から中程度の悪心および嘔吐であったが、そのほとんどは対象が耐えることができ、投薬中に緩和され得る。
【0065】
試験5Cは、試験5Bに基づいており、2型糖尿病患者の数を増やし、ベイナグルチドおよび経口血糖降下薬(メトホルミン)の組み合わせの有効性および安全性をさらに評価するための拡張多施設臨床試験プロトコルを設計した(0.2mg用量、1日3回、毎回0.2mg)。
【0066】
表10(試験5A、グリピジドとの組み合わせ)、表11(試験5B、メトホルミンとの組み合わせ)、および表12(試験5C、メトホルミンとの組み合わせ)は、2型糖尿病患者の12週間のBMI変化を示した。
【0067】
【0068】
3つのベイナグルチド群(0.1mg、0.15mg、および0.2mg)のボディマスインデックスは、治療の8週目および12週目に統計的に有意な(P<0.05)体重減少を示した。0.2mg群では、治療の12週目のボディマスインデックス(kg/m2)は0.79±0.79(P<0.001)減少し、その減少は0mg用量群(P<0.05)と有意に差があった(
図6A)。
【0069】
【0070】
試験5Bにおける3つの群のボディマスインデックスの変化は、基本的に体重の変化と一致していた。群間の12週間の比較では、0.2mg群のボディマスインデックスが最も有意に低下し、0mg群および0.1mg群の間に有意差があることが示された(P=0.0000およびP=0.0020)。0mg群と0.1mg群との間に有意差はなかった(P=0.2317)(
図6B)。
【0071】
表10~11に示されるように、ベイナグルチドをグリピジドまたはメトホルミンと組み合わせて使用した場合、対象のBMIは用量依存的に有意に減少した。
【0072】
試験5Cからのデータを、過体重の対象(27.9≧BMI≧24.0kg/m
2)および肥満患者(BMI≧28.0kg/m
2)(12週間の治療(84日))のBMI基準に従って分析した。表12A、12Bおよび13は、それぞれ過体重および肥満対象に対するベイナグルチドの効果を示している(
図6C)。
【表12】
【0073】
表12B:試験期間中の過体重および肥満患者の体重(kg)(ITT)の経時変化(テスト5Cデータ)
【表13】
【0074】
【0075】
ベースラインからの体重の変化=治療後-ベースライン。5Cテストデータからのデータ。
【0076】
表12および13に示されるように、12週間の治療後、ベースラインからの体重減少が3%以上のベイナグルチド+メトホルミン群の対象の割合は40.32%であり、体重減少が5%以上の対象の割合は20.97%であり、対照群(メトホルミン単独群)の減少率はそれぞれ27.27%および10.39%であった。治療後のベースラインからの変化について、対応のあるT検定および群間の共分散分析を行った。すべてのp値は0.05未満であり、差は統計的に有意であった。統計分析により、ベイナグルチド+メトホルミン治療群は対照群よりも体重減少が優れていることが示された。
【0077】
実施例6
この例は、オスおよびメスのラットの胃内容排出の遅延に対する様々な投薬量のベイナグルチド注射製剤の効果を実証する。ベイナグルチド注射製剤は、2.1ml中に4.2mg(42000U)の配列番号1のベイナグルチドを含む。
【0078】
240g~287g(オス)または194g~227g(メス)の体重を有する112匹の8週齢Sprague-Dawley(SD)ラットを、群1(緩衝液のみの対照)、群2(ベイナグルチド10μg/kg)、群3(ベイナグルチド12.5μg/kg)、群4(ベイナグルチド15μg/kg)、群5(ベイナグルチド30μg/kg)、群6(ベイナグルチド45μg/kg)、および群7(ベイナグルチド60μg/kg)の7つの群に分けた。動物に注射する前に、ベイナグルチド注射製剤から様々な投薬量のベイナグルチド溶液を調製し、室温で少なくとも3時間保持した。動物を注射の29~33時間前に絶食させ、動物には注射の5~7時間前に水を与えなかった。注射は、0.1ml/100g体重で首に皮下投与することにより行った。実験は、実施例1に記載されるように行った。
【0079】
表14および15ならびに
図7および8に示されるように、30μg/kg、45μg/kg、または60μg/kgのベイナグルチドを投与されたオスとメスの両方のラットが、ブランクのみの対照より高い胃内残存率を示した。30μg/kg、45μg/kg、または60μg/kgのベイナグルチドを与えられたオスのラット、および10μg/kg、12.5μg/kg、15μg/kg、30μg/kg、45μg/kg、または60μg/kgのベイナグルチドを与えられたメスのラットは、ブランクのみの対照よりも低い炭素粉末の推進率を示した。したがって、データは、ヒトの臨床投薬量に対応する投薬量で、ベイナグルチドの注射が胃内容排出を有意に阻害することを示した。オスのラットおよびメスのラットの最小有効投薬量は、それぞれ30μg/kgおよび10μg/kgであり、それぞれ0.33mg/日および0.11mg/日のヒト用量に対応する。
【表15】
【表16】
【0080】
実施例7
この例は、オスの食餌誘発性肥満(DIO)マウスの胃内容排出の遅延に対する様々な投薬量のベイナグルチド注射製剤の効果を実証する。異なる動物モデルが使用されたことを除いて、実験は実施例6に記載されたのと同じ方法で行った。
【0081】
56匹の4~6週齢のC57BL/6Jマウスに、高脂肪食(カロリーで60%の脂肪)および低脂肪食(カロリーで10%の脂肪)をそれぞれ15週間、高脂肪食を与えられたマウスの体重が39.2~47.9gに有意に増加するまで与えた。
図9および
図10は、15週間にわたる高脂肪食および低脂肪食のマウスの体重変化および食物摂取量を示す。特別食期間の終わりに、
図11に示される腹腔内グルコース負荷テスト(IPGTT)により、インスリン抵抗性および肥満の誘導の成功が確認された。
【0082】
表16ならびに
図12Aおよび12Bに示されるように、50μg/kg以上のベイナグルチドを与えられたオスDIOマウスは、緩衝液のみの対照よりも有意に高い胃内残存率を示した。15μg/kg以上のベイナグルチドを与えられたオスDIOマウスは、ブランク対照よりも有意に低い炭素粉末の推進率を示した。したがって、データは、ヒトの臨床投薬量に対応する投薬量で、ベイナグルチドの注射がDIOマウスの胃内容排出を有意に阻害することを示した。有効量は、15μg/kgと低くなり得、これは0.12mg/日のヒト用量に相当する。
【表17】
【配列表】